本発明に係るリチウム同位体濃縮装置およびリチウム同位体濃縮方法を実施するための形態について、図を参照して説明する。図面においては、説明を明確にするために、特定の要素の大きさ等を誇張していることがあり、また、形状を単純化していることがある。また、各実施形態の説明において、前の実施形態と同一の要素については、同一の符号を付し、説明を適宜省略する。
〔第1実施形態〕
(リチウム同位体濃縮装置)
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10は、処理槽1、処理槽1を2つに仕切る電解質膜(リチウムイオン伝導性電解質膜)2、電解質膜2の各面に被覆した第1電極31と第2電極32(多孔質構造の電極)、第3電極(副電極)33、電源装置5、撹拌機(循環手段)6、および冷却装置7を備える。処理槽1は、電解質膜2によって、Li含有水溶液ASiを収容する供給槽(第1槽)11と、6Li回収用水溶液ASoを収容する回収槽(第2槽)12と、の2つに仕切られている。第3電極33は、供給槽11内に電解質膜2から離間して設けられる。電源装置5は、それぞれ直流電源である主電源51および副電源52、ならびにスイッチング素子5s1を備え、スイッチング素子5s1の切替えによって主電源51と副電源52が交互に電圧を印加する。主電源51は、正(+)極が、供給槽11側に設けられた第1電極31に接続され、負(-)極が、回収槽12側に設けられた第2電極32に接続される。副電源52は、正極が第1電極31に接続され、負極が第3電極33に接続される。撹拌機6は、供給槽11内のLi含有水溶液ASiを循環させる。冷却装置7は、回収槽12内の6Li回収用水溶液ASoを介して電解質膜2を冷却する。以下、本発明の第1実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置を構成する各要素について説明する。
処理槽1は、Li含有水溶液ASiおよび6Li回収用水溶液ASoに接触しても腐食等の変質のない材料からなる。そして、処理槽1は、必要な処理能力に対応した容積を有していればよく、形状等は特に限定されない。
電解質膜2は、リチウムイオン伝導性を有する電解質であり、電子e-が伝導しないことが好ましい。さらに、Li含有水溶液ASiがLi+以外の金属イオンを含有する場合には、電解質膜2は、この金属イオンが伝導しないことが好ましい。さらに好ましくは、これらの性質を有するセラミックス製の電解質である。具体的には、リチウムランタンチタン酸化物(La2/3-xLi3xTiO3、LLTOとも称される)等が挙げられる。このような電解質膜2は、一定の割合で格子欠陥を有し、この格子欠陥サイトのサイズが小さいので、Li+よりも径の大きい金属イオンが伝導しない。例えば、LLTOのようなペロブスカイト(ABO3)構造(A=Li、La、または空孔、B=Ti)を有する固体電解質においては、一部のAサイトに空孔(Aサイト欠陥)を有する。そして、後記のリチウム同位体濃縮方法で説明するように、Aサイト欠陥にLi+が潜り込み、近傍のAサイト欠陥同士の間でLi+が移動する。以下、AサイトのようなLiが存在し得るサイトをLiサイト、空孔を有するLiサイトをLiサイト欠陥と称する。
第1電極31および第2電極32は、電解質膜2の両面間に電圧を印加するための一対の電極であり、第1電極31は電解質膜2の供給槽11側の面(以下、適宜、表面と称する。)に接触して、第2電極32は電解質膜2の回収槽12側の面(以下、適宜、裏面と称する。)に接触して、それぞれ設けられる。第1電極31および第2電極32は、電解質膜2の広い範囲に電圧を印加する一方で、電解質膜2の各面の十分な面積に水溶液ASi,ASoが接触するように、網状等の多孔質構造を有する。
第1電極31は、電子伝導性を有し、Li含有水溶液ASi中で電圧印加時にも安定な電極材料で形成され、さらに、下式(1)の反応および下式(2)の反応に対する触媒活性を有する材料が好ましい。第2電極32は、電子伝導性を有し、反応が進行してLi+を含有するようになった6Li回収用水溶液ASo中でも電圧印加時に安定な電極材料で形成され、さらに、下式(3)の反応および下式(4)の反応に対する触媒活性を有する材料が好ましい。第1電極31および第2電極32はさらに、前記形状への加工が容易な材料であることが好ましい。第1電極31、第2電極32は、それぞれこのような電極材料として、例えば白金(Pt)が好ましい。なお、各式において、電解質膜2(electrolyte)に含まれているLi+をLi+(electrolyte)と表す。下式(2)は、水溶液(Li含有水溶液ASi)のLi+が電解質膜2中へ移動する反応を示す。下式(4)は、電解質膜2中のLi+が水溶液(6Li回収用水溶液ASo)へ移動する反応を示す。
第3電極33は、Li含有水溶液ASi中において電解質膜2の表面よりも低い電位を形成できるようにするための電極である。したがって、第3電極33は、供給槽11内に、電解質膜2および第1電極31に接触しないように配置され、第1電極31と平行に配置されることが好ましい。さらに、第1電極31との間に印加される電圧V2を小さく抑えるために、後記するように、第3電極33は、ショートしない程度に第1電極31に近接して配置されることが好ましい。また、第3電極33は、Li含有水溶液ASiとの接触面積を多くすると共に、供給槽11内で電解質膜2の表面(第1電極31)に接触するLi含有水溶液ASiが入れ替わり続けるように、水溶液が通り抜けるメッシュ状等の形状であることが好ましい。第3電極33は、第1電極31と同様に、Li含有水溶液ASi中で電圧印加時にも安定な電極材料で形成され、前記形状への加工が容易な材料であることが好ましい。第3電極33は、このような電極材料として、例えば白金(Pt)が好ましく、または炭素(C)を適用することもできる。
電源装置5は、2台の直流電源51,52を備え、さらにスイッチング素子5s1およびその駆動回路等を備えて、電源51,52のそれぞれから直流電圧を交互に印加する。主電源51は、正極が第1電極31に接続し、負極が第2電極32に接続して、第2電極32に対して第1電極31に正の電圧V1(電圧+V1)を印加する。副電源52は、正極が第1電極31に接続し、負極が第3電極33に接続して、第1電極31に対して第3電極33に負の電圧V2(電圧-V2)を、図2に示すように主電源51が電圧+V1を印加していない時に印加する。そのために、スイッチング素子5s1は、第1電極31を、主電源51の正極または副電源52の正極のいずれか一方に接続し、またはさらにいずれにも接続しないように構成される。言い換えると、電源装置5は、互いに同期した2台の直流パルス電源を備える。電源51,52は、理想的には図2に示すような矩形波を出力するように、コンデンサ等を内蔵して時間応答性が高いことが好ましい。なお、電圧V1,V2の大きさ、および印加のタイミングについての詳細は後記するが、電圧V2は、電圧V1よりも小さいことが好ましい。
このように、電源装置5は、第1電極31-第2電極32間と第3電極33-第1電極31間とに交互に、それぞれ所定の極性および大きさの電圧V1,V2を印加することができればよく、図1に示す回路構成は一例である。例えば図3に示すように、電圧V1,V2の2段階に切替え可能な可変電源51A、およびその負極の接続先を切り替えるスイッチング素子5s1を備える電源装置5Aとすることもできる。または、2台の直流電源をスイッチング素子を経由して直列に接続し、2台で電圧V1を、1台で電圧V2を、それぞれ印加する構成とすることもできる(図示せず)。なお、図1および図3に示すリチウム同位体濃縮装置10においては、電源装置5,5Aが、第1電極31-第2電極32間に電圧V1を印加している時には、第3電極33が開放(オープン)状態となり(図4参照)、第3電極33-第1電極31間に電圧V2を印加している時には、第2電極32が開放状態となる。あるいは、電源装置5,5Aが第1電極31-第2電極32間に電圧+V1を印加している時に、第3電極33が第1電極31と同電位に接続されるように構成されていてもよい。また、第3電極33-第1電極31間に電圧-V2を印加している時に、第2電極32が第1電極31と同電位に接続されるように構成されていてもよい。
撹拌機6は、運転中に第1電極31に接触するLi含有水溶液ASiが入れ替わり続けるように供給槽11内のLi含有水溶液ASiを循環させる装置であり、必要に応じて設けられる。撹拌機6は、公知の装置を適用することができ、例えば、スクリューを回転させてもよいし、Li含有水溶液ASiをポンプで処理槽1の外と循環させてもよい。リチウム同位体濃縮装置10は、撹拌機6を回収槽12にも備えて、6Li回収用水溶液ASoを循環させてもよい。
冷却装置7は、電解質膜2を所定温度とするために必要に応じて設けられ、Li含有水溶液ASiまたは6Li回収用水溶液ASoを介して電解質膜2を冷却する。冷却装置7は、液体を冷却する公知の装置を適用することができ、温度調整機能を有することが好ましい。本実施形態において、冷却装置7は投込式(浸漬式)であり、冷媒が流通する管(冷媒管)が回収槽12内の6Li回収用水溶液ASoに浸漬して設置されている。冷却装置7は、電解質膜2を所定の温度にすることができればよく、Li含有水溶液ASiや6Li回収用水溶液ASoを均一な液温としなくてよい。ただし、処理槽1の容積等によっては、撹拌機を備えてもよい。冷却装置7の冷媒管は、処理槽1と同様にLi含有水溶液ASiや6Li回収用水溶液ASoに接触しても腐食等の変質のない材料からなり、形状は特に規定されない。例えば電解質膜2を効率的に冷却するために、冷媒管は、板状の電解質膜2の寸法に合わせて面状に蛇行して、電解質膜2の広い面積において近傍で対面するように設置される。また、電解質膜2の厚み等によっては、冷媒管を供給槽11と回収槽12の両方に投入してもよい。また、冷却装置7は、処理槽1を二重構造(ジャケットタンク)としてその内部(ジャケット部)に冷媒を流通する構成としてもよい。あるいは、Li含有水溶液ASiまたは6Li回収用水溶液ASoをポンプで処理槽1の外へ循環させて熱交換器で冷却する構成としてもよい。
電解質膜2の温度について詳細は後記するが、30℃以下であって、水溶液ASi,ASoが凍結しないように、例えば6Li回収用水溶液ASoがリチウム同位体濃縮装置10の運転開始(電気透析開始)時において純水である場合には0℃以上とする。電解質膜2の温度は、Li含有水溶液ASiまたは6Li回収用水溶液ASoの液温を代替として測定することができる。
Li含有水溶液ASiは、Li源であり、7Liと6Liの陽イオン7Li+,6Li+を含有する水溶液で、例えば水酸化リチウム(LiOH)水溶液であり、リチウム同位体濃縮装置10の運転開始時においては、7Li+,6Li+を天然存在比で含有する。また、Li含有水溶液ASiは、Li+濃度がより高いことが好ましく、リチウム同位体濃縮装置10の運転開始時に、Li+の飽和水溶液または過飽和水溶液であることがさらに好ましい。6Li回収用水溶液ASoは、Li含有水溶液ASiから回収したリチウムイオンLi+、特に、6Li+を多く収容するための水溶液であり、リチウム同位体濃縮装置10の運転開始時においては、例えば純水である。なお、本明細書において、7Liと6Li(7Li+と6Li+)は、互いを区別しない場合には、まとめてLi(Li+)と称する。
リチウム同位体濃縮装置10はさらに、運転中のLi含有水溶液ASi、6Li回収用水溶液ASoの量の変動を感知するために、液面センサ等を備えていてもよい。また、大気中の二酸化炭素(CO2)が意図せず水溶液ASi,ASoに溶解して、炭酸リチウム(Li2CO3)が析出することを防止するために、リチウム同位体濃縮装置10は、Li含有水溶液ASi、6Li回収用水溶液ASoが大気に曝露しないように構成されていることが好ましい。また、リチウム同位体濃縮装置10は、運転により発生した(式(1)、式(3)の反応による)H2やO2を、内部に充満しないように排気する排気手段を備えていることが安全上好ましい。
(リチウム同位体濃縮方法)
本発明の実施形態に係るリチウム同位体濃縮方法は、電解質膜2の表面に設けられた第1電極31に、裏面に設けられた第2電極32に対して正の電圧V1を印加する第1ステップと、第3電極33に、第1電極31に対して負の電圧V2を印加する第2ステップと、を交互に行う。まず、図4を参照して、第1実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置によるリチウムイオンの電気透析について説明する。なお、図4に示すリチウム同位体濃縮装置10においては、撹拌機6および冷却装置7を省略する。
図4に示すように、リチウム同位体濃縮装置10において、電源装置5の主電源51が、第1電極31に、第2電極32に対して正の電圧V1(電圧+V1)を印加する。すると、第1電極31の近傍では、Li含有水溶液ASi中の水酸化物イオン(OH-)が下式(1)の反応を生じて、電子e-を第1電極31へ放出させ、水(H2O)と酸素(O2)を発生させる。Li含有水溶液ASiにおいては、OH-が減少したことに伴い、電荷のバランスを保つために、Li含有水溶液ASi中のLi+が電解質膜2中へ移動する下式(2)の反応を、電解質膜2の近傍で生じる。下式(1)の反応と下式(2)の反応を総合すると、第1電極31の近傍では下式(5)の反応を生じることになる。一方、第2電極32の近傍では、6Li回収用水溶液ASoのH2Oが電子e-を供給されることにより、下式(3)の反応を生じて、水素(H2)とOH-を発生させる。6Li回収用水溶液ASoにおいては、OH-が増加したことに伴い、電荷のバランスを保つために、電解質膜2中のLi+が移動してくる下式(4)の反応を、電解質膜2の近傍で生じる。下式(3)の反応と下式(4)の反応を総合すると、第2電極32の近傍では下式(6)の反応を生じることになる。
これらの反応が生じると、Li含有水溶液ASi、電解質膜2(electrolyte)、および6Li回収用水溶液ASoのそれぞれに含まれるLi+の電気化学ポテンシャル差により、Li含有水溶液ASi中からLi+が電解質膜2を透過して6Li回収用水溶液ASoへ移動する。これらの反応は、Li含有水溶液ASiから第1電極31、第2電極32から6Li回収用水溶液ASoへのそれぞれの電子e-の時間あたりの移動量が多いほど高速になる。したがって、電圧V1が大きいほど、電解質膜2中を第1電極31側から第2電極32側へ移動するLi+の時間あたりの量(移動度)が多くなる。ただし実際には、電圧V1がある程度以上大きくなると、電解質膜2が電子e-も伝導させるようになるため、Li+の移動度は引き続き増加するものの電圧依存性は低下する。ここで、Li+が電解質膜2を透過するときの挙動について、図5A~5Cを参照して詳細に説明する。図5A~5Cは、リチウム同位体濃縮装置10の電解質膜2の近傍の拡大断面図であり、電極31,32は電解質膜2の両面に部分的に接触している。また、水溶液ASi,ASoは、含有される7Li+,6Li+のみをそれぞれ○で囲って表す。
電圧が印加されていない時には、図5Aに示すように、7Li+,6Li+は、Li含有水溶液ASi中を浮遊して、電解質膜2の表面への吸着と離脱とを交互に繰り返す。この状態から、図5Bに示すように、第1電極31に+の、第2電極32に-の電圧V1(電圧+V1)を印加される。なお、図中、正の電荷を○の中に+で表し、負の電荷を○の中に-で表す。すると、Li含有水溶液ASi中のLi+(7Li+,6Li+)は、前記式(2)の反応として、電解質膜2に溶解しようとする。このとき、電解質膜2の表面におけるLiサイト欠陥の近傍に吸着したLi+は、このLiサイト欠陥に潜り込む。そして、電解質膜2は、電極31,32により表面よりも裏面の電位が低い電位勾配があるので、表面のLiサイト欠陥に潜り込んだLi+は、電解質膜2の深部側の近傍のLiサイト欠陥へ飛び移る(ホッピングする)。このように、Li+は、電解質膜2のLiサイト欠陥からその近傍のLiサイト欠陥への移動を繰り返して、最終的に前記式(4)の反応として、図5Cに示すように、裏面のLiサイト欠陥から6Li回収用水溶液ASo中へ移動する。
また、電解質膜2の表面においては、Liサイト欠陥の近傍に吸着していたLi+が電解質膜2の深部へ移動したことにより、空いたLiサイト欠陥に、さらにその近傍に吸着していた別のLi+が移動してきて潜り込んだり、Li含有水溶液ASi中から新たなLi+が吸着したりして、これらのLi+が同様に電解質膜2中を移動する。さらに、電解質膜2中をLi+が移動することにより、Liサイト欠陥がLi+で埋められたり再び空いたりするため、電解質膜2の表面に新たに発生したLiサイト欠陥を通じて、表面に吸着していたLi+が裏面側への移動を開始することができる。
Li+の電解質膜2におけるサイト間移動(ホッピング)について、図6を参照してさらに詳細に説明する。図6は、電解質におけるイオン伝導を説明するモデルであり、xは電解質膜2の厚さ方向の位置、Epはポテンシャルエネルギーを示す。電解質膜2において、Li+(7Li+,6Li+)は、ポテンシャルエネルギーが極小となるLiサイトで安定して存在するが、近傍のLiサイトが空孔(破線の○で表す)であって、活性化エネルギーEa以上のエネルギーを受けると、このサイト欠陥にサイト間のエネルギー障壁Emを跳び越えて(ホッピングして)移動し得る(Ea=ED/2+Em、ED:欠陥生成エネルギー)。また、イオンは、ポテンシャルエネルギー極小の位置において周波数Γ0で熱振動していると仮定することができ、この周波数(頻度因子)Γ0に対応した頻度(ホッピングレートΓ)でホッピングし得る。周波数Γ0は、イオンの質量の平方根に反比例する。6Liは、質量が7Liに対して6/7倍と小さいので、周波数Γ0が7Liの(√(7/6))倍であり、詳しくは後記するように、電解質膜2における平均移動速度が7Liの(√(7/6))倍高速になる。また、例えば、電解質膜2のあるLiサイト欠陥に対して、近傍の等距離の2箇所にそれぞれ7Li+と6Li+が存在する場合、6Li+が優先的に飛び移ってくると推測される。
また、電解質膜2のLiサイトにおける、すなわち基底状態における7Li+,6Li+は、零点振動hωIの分だけポテンシャルエネルギーが高くなる。零点振動hωIは同位体に依存し、7Li+よりも6Li+の方が大きい。同様に、励起状態においても、零点振動hωSは6Li+の方が大きい。したがって、7Li+よりも質量の小さい6Li+の方が、基底状態、励起状態共に、零点振動hωI,hωSを考慮したポテンシャルエネルギーが高い。ただし、6Li+の方が、これら励起状態と基底状態のポテンシャルエネルギー差であるエネルギー障壁Emが小さく(Em(7Li+)>Em(6Li+))、すなわち活性化エネルギーEaが小さい。その結果、6Li+は、受けるエネルギーが7Li+よりも小さくてもホッピングし得る。Li+は、受けたエネルギーにおける活性化エネルギーEaに対する余剰が多いほど、移動度μが増加する。したがって、電解質膜2の両面間への印加電圧V1を大きくするほど、Li+の時間あたりの移動量が増加する。
また、6Li+の方が7Li+よりも小さい電圧V1で活性化エネルギーEaに対する余剰エネルギーが同等となり、かつ、このとき、6Li+の方が周波数Γ0比の分、移動度μが高い。図7に、シミュレーションによる時間あたりの6Li+,7Li+移動量および移動Li+の同位体比の印加電圧依存性を示す。シミュレーションは、マクスウェル-ボルツマン分布に従う活性化エネルギーEaの分布を正規分布にて近似した。詳しくは、6Li+,7Li+それぞれについて、受けたエネルギー毎に、活性化エネルギーEa(6Li+<7Li+とした)を超えるLi+の割合を、活性化エネルギーEaを平均値とする正規分布の確率密度から算出し、その累積に周波数Γ0比を乗じて移動度μの相対値とした。同位体比は、シミュレーションの単純化のために、移動前の7Li+と6Li+の存在比を1:1として算出した。
図7に示すように、6Li+,7Li+の移動度は、印加電圧が大きくなるにしたがいそれぞれ0からS字曲線状に増加するが、7Li+に対して、活性化エネルギーEaの小さい6Li+が、電圧の小さい側にずれて変化し、また、周波数Γ0比の分高い。なお、図7のlimμは、時間あたりの6Li+移動量の極限を表す。したがって、印加電圧が電解質膜2中で6Li+を移動させる範囲において小さいほど、6Li+が7Li+に対してより多く移動する。そして、印加電圧が大きくなって6Li+,7Li+の移動度がそれぞれ収束すると互いの差が小さくなって、同位体比が(√(7/6))/(1+√(7/6))に収束する。
ただし、実際には、電圧V1を増加させると、6Li+,7Li+の移動度が図7に示すような極限に到達する前に、電圧依存性が著しく低下すると考えられる。詳しくは、前記したように、電解質膜2の両面間に印加される電圧V1がある値以上に大きくなると、電解質膜2を構成する遷移金属イオンの一部が還元して(例えば、電解質膜2がLLTOであれば、Ti4++e-→Ti3+)、電解質膜2が回収槽12側から供給槽11側へ電子e-を伝導するようになる。その結果、与えられた電気エネルギーの大半が電子e-の伝導に消費されるので、Li+の移動度の電圧依存性が低下し、Li+の移動におけるエネルギー効率が低下する。さらに、電解質膜2を構成する遷移金属イオンの一部が還元することにより、この還元したイオンのイオン半径が大きくなり(例えば、電解質膜2がLLTOであれば、Ti4+<Ti3+)、Li+の移動のためのボトルネックが広がるので、移動するLi+の6Li同位体比が急激に低下することになる。また、電解質膜2を伝導する電子e-で発生するジュール熱によって電解質膜2の温度が上昇するので、後記するように、移動するLi+の6Li同位体比が低下することになる。
また、イオン移動度μは、イオンの拡散係数Dと下式(7)の関係である(T:温度(K)、k:ボルツマン定数)。拡散係数Dは、下式(8)で表されるように、ホッピングレートΓに比例する(a:サイト間の平均距離(ジャンプ長さ)、nc:キャリア密度、f:イオンとその周囲とで決まる相関効果係数、d:拡散場のディメンジョン)。また、式(8)の頻度因子Γ0は、下式(9)で表されるように、温度Tに比例し、また、(Zs
vib/ZI
vib)が質量数mの平方根に反比例するので、頻度因子Γ0は質量数mの平方根に反比例する(h:プランク定数、Zs
vib:サドルポイントでのフォノン分配関数、ZI
vib:初期状態でのフォノン分配関数、C1:定数)。式(8)と式(9)より、拡散係数Dは、下式(10)で表される。そして、式(7)と式(10)より、イオン移動度μは、下式(11)で表される(C2:定数)。式(11)に示すように、イオン移動度μは、7Li+に対して、質量数mおよび活性化エネルギーEaの小さい6Li+の方が高い。
図5Bに示す電圧印加開始直後においては、電解質膜2の表面に吸着したLi+における7Li+,6Liは、Li含有水溶液ASiにおけるLi+と同等の同位体比である。しかし、7Li+と6Liとの移動速度の違いにより、電解質膜2のLiサイト欠陥へは、6Li+がLi含有水溶液ASiの6Li同位体比(6Li/(7Li+6Li))よりも多く移動する。そして、電解質膜2中のLiサイト欠陥間の移動、さらに6Li回収用水溶液ASo中への移動も6Li+の方が速い。その結果、電解質膜2の表面に吸着したLi+の内、6Li+がより多く減少する。そして、表面の空いた箇所には、Li含有水溶液ASi中から新たな7Li+,6Li+がその同位体比で吸着する。このような挙動が繰り返されることにより、次第にLi含有水溶液ASiに残存するLi+の6Li同位体比(6Li/(7Li+6Li))が低下するので、新たに移動するLi+の6Li同位体比が減少する。詳しくは、移動するLi+の6Li同位体比は、電圧+V1の印加開始直後が最大であり、その後は、印加時間が経過するにしたがい指数関数的に低下する(特許文献4参照)。
そこで、本実施形態に係るリチウム同位体濃縮方法は、電圧+V1の短時間の印加(第1ステップ)による6Li同位体比の高いLiの少量の回収を繰り返す。1回の電圧印加の停止直前の、電圧+V1の印加によりLiの移動がある程度進行した時点では、前記したように、電解質膜2の表面に吸着しているLi+は、6Li+が優先的に電解質膜2中へ移動したことにより、この時点でLi含有水溶液ASiに残存するLi+よりも6Li同位体比が低いと考えられる(図5C参照)。そこで、電圧+V1の次回の印加を開始する前に、電解質膜2の表面に吸着している7Li+,6Li+をいったん離脱させる。電圧+V1の印加を停止して無印加状態とすると、Li+の電解質膜2における移動が停止し、Li含有水溶液ASi中、6Li回収用水溶液ASo中のLi+は、それぞれ水溶液ASi,ASo中を浮遊して、電解質膜2の表面、裏面への吸着と離脱とを繰り返すようになる(図5A参照)。ところが、Li含有水溶液ASi中においては、電解質膜2の表面に吸着しているLi+が、直前まで、電圧+V1の印加により電解質膜2の深部側(裏面側)へ電気的に引き寄せられていたことにより、電圧+V1の印加を停止しても、すぐには電解質膜2の表面から離脱しない。
そこで、本実施形態に係るリチウム同位体濃縮方法は、電圧+V1の印加を停止すると、副電源52により、第3電極33に、第1電極31に対して負の電圧V2(電圧-V2)の印加(第2ステップ)を開始する。電圧-V2の印加により、Li含有水溶液ASiにおいて、電解質膜2の表面近傍を正、第3電極33の近傍を負とする電位勾配が生じるので、図5Dに示すように、電解質膜2の表面に吸着していたLi+が、静電斥力により速やかに離脱する。
電圧-V2の印加により短時間で電解質膜2の表面からLi+を離脱させることができるので、電圧-V2の印加を停止し、再び主電源51による電圧+V1の印加を開始すると、図5Bに示すように、電解質膜2の表面に新たにLi+が吸着する。電解質膜2の表面に吸着したこのLi+は、この時点でのLi含有水溶液ASiにおけるLi+と同等の同位体比である。したがって、前回の電圧+V1の印加の停止直前(図5C参照)に電解質膜2の表面に吸着していたLi+よりも6Li同位体比が高くなる。その結果、この回の電圧+V1の短時間の印加においても、6Li同位体比の高いLiを回収することができる。このように、電解質膜2の両面間(第1電極31-第2電極32間)への電圧+V1の印加(第1ステップ)と、第3電極33-第1電極31間への電圧-V2の印加(第2ステップ)と、をそれぞれ短時間で交互に行うことにより、連続して電圧+V1を印加するよりも、6Li同位体比の高いLiを、量も多く回収することができる。
前記したように、電圧V1が大きいほど、Li+の移動度が高くなって時間あたりのLi+の移動量が増加する。しかし、電圧V1がある値以上に大きくなると、電解質膜2が電子伝導性を発現するようになり、その結果、Li+の移動度を高くするエネルギー効率が低下し、また、移動するLi+の6Li同位体比が急激に低下する。一方、電圧V1が小さいほど、7Li+に対して6Li+の移動度が高く、同位体分離係数が大きくなる。したがって、電圧V1は、電解質膜2に電子伝導性が発現しないような電圧であることが好ましく、さらにより小さいことが好ましい。ただし、電圧V1が小さいほどLi+の移動度が低下するので、生産性が低下し過ぎない程度とすることが好ましい。具体的には、電解質膜2の電子伝導性や電極反応過電圧を決定する電極性能等にもよるが、2.0V超における電圧を印加されると、電解質膜2に電子伝導性が発現し得る。一方、Li+を電解質膜2中で移動させることができれば電圧V1の下限は特に規定されず、例えば、電解質膜2の電子伝導性や水溶液ASi,ASoの水素イオン濃度等にもよるが、0.5V以上の範囲で設定することが好ましい。電圧V1は、1回の連続印加時間(電気透析期間)tEDと組み合わせて、必要な6Li濃縮の効果に応じて設定することが好ましい。
また、電圧V2が大きいほど、電解質膜2の表面と第3電極33との間におけるLi含有水溶液ASiに印加される電界が大きくなって、Li+が高速で第3電極33に引き寄せられるので、電解質膜2の表面に吸着しているLi+がより短時間で離脱する。一方で、電圧V2すなわち第1電極31と第3電極33との電位差がある値以上になると、Li含有水溶液ASiにH2Oの電気分解反応(式(1)、式(3)の反応)が起こるようになり、エネルギー効率が低下する。したがって、電圧V2は、H2Oの電気分解反応が起きない程度の大きさに設定することが好ましく、大きくとも電圧V1よりも小さい。このような電圧V2に対して、電解質膜2の表面と第3電極33との間の電界が大きくなるように、第3電極33が第1電極31との間隔を短く配置されていることが好ましい。
電圧+V1の1回の連続印加時間(電気透析期間)tED、および電圧-V2の1回の連続印加時間(リセット期間)tRSTは、特に規定されず、6Liの回収効率が十分に高くなるようにそれぞれ設定されることが好ましい。電気透析期間tEDは、短いほど回収されるLiの6Li同位体比が高くなり、具体的には1秒間以下が好ましく、0.5秒間程度がより好ましい。リセット期間tRSTは、直前の電圧+V1の印加により電解質膜2の表面に吸着していたLi+が十分に離脱され、好ましくはすべて離脱されればよく、それ以上長くしても6Liの回収効率は向上せず、電気透析期間tEDの周期tCYCに対する比が低くなって時間的効率(生産性)が低下する。リセット期間tRSTは、電圧V2が大きいほど、また第3電極33と第1電極31との間隔が短いほど、短時間で効果が得られる。
また、電圧+V1と電圧-V2が同時に印加されないことが好ましい。電圧-V2の印加によりLi含有水溶液ASiにおいてLi+が電解質膜2の表面近傍において相対的に低濃度になるので、電圧+V1の印加時に電圧-V2が印加されていると、Li含有水溶液ASiから6Li回収用水溶液ASoへのLi+の移動が阻害され、エネルギー効率が低下する。特に、移動するLi+の6Li同位体比が最大となる電圧+V1の印加開始直後においては、電圧-V2が印加されていないことが好ましい。一方で、電圧+V1,-V2のいずれも印加されていない無印加期間tint1,tint2があってもよく、ただし、無印加期間tint1,tint2が長いと生産性が低下する。したがって、電圧+V1の印加(電気透析期間tED)停止以降に電圧-V2の印加(リセット期間tRST)を開始すること(tint1≧0)が好ましく、電圧+V1の印加停止後、電圧-V2の印加をより速やかに開始することがより好ましく、電圧+V1の印加停止と同時に電圧-V2の印加を開始すること(tint1=0)がさらに好ましい。また、電圧-V2の印加(リセット期間tRST)停止以降に電圧+V1の印加(電気透析期間tED)を開始すること(tint2≧0)が好ましく、電圧-V2の印加停止よりも後に電圧+V1の印加を開始すること(tint2>0)がより好ましい。電圧+V1、電圧-V2のそれぞれの印加開始と停止のタイミングは、電源装置5のタイミング精度等に応じて、電圧+V1と電圧-V2が同時に印加されることがないように設定されることが好ましい。
本実施形態に係るリチウム同位体濃縮方法においては、供給側であるLi含有水溶液ASiのLi+濃度が高いほど、電解質膜2におけるLi+移動度が高くなり、6Li濃縮速度を高速にすることができる。したがって、Li含有水溶液ASiは、Li+濃度がより高いことが好ましく、Li+の飽和水溶液や過飽和水溶液であることがさらに好ましい。したがって、運転時間の経過に伴うLi含有水溶液ASiのLi+濃度の低下を抑制するために、例えば、所定の運転印加時間が経過する毎に、または6Li回収用水溶液ASoのLi+濃度が低下して所定値に到達したら、供給槽11のLi含有水溶液ASiを交換することが好ましく、さらに運転中に常時、Li含有水溶液ASiを処理槽1の外と循環させることが好ましい。さらに、このようにLi含有水溶液ASiを交換することにより、Li+の移動に伴うLi含有水溶液ASiに残存するLi+の6Li同位体比(6Li/(7Li+6Li))の低下が抑制されるので、新たに移動するLi+の6Li同位体比の低下が抑制され、6Liをより効率的に濃縮することができる。また、Li含有水溶液ASiの式(1)の反応による液量の減少を補填することができる。なお、6Li回収用水溶液ASoについても、式(3)の反応により液量が減少するので、必要に応じて回収槽12に水(H2O)等を添加することが好ましい。リチウム同位体濃縮装置10においては、運転中、供給槽11と回収槽12の液面が揃っていることが好ましい。
また、前記式(11)に示すように、イオン移動度μは温度Tにも依存し、その依存性の程度は活性化エネルギーEaに影響される。7Li+,6Li+の移動度は、温度が高くなるにしたがいそれぞれ指数関数的に増加するが、活性化エネルギーEaの大きい7Li+の方が温度依存性が大きい。その結果、温度が高くなるにしたがい、移動度の低い7Li+と高い6Li+との比が小さくなる。したがって、移動するLi+の6Li同位体比は、Li+の移動度が低い低温ほど高い。本実施形態において適用可能な温度範囲は、水溶液ASi,ASoの凝固点以上沸点未満であり、6Li回収用水溶液ASoが電気透析開始時において純水である場合には0~100℃である。このことから、電解質膜2の温度は、20℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましく、10℃以下がさらに好ましく、5℃以下がいっそう好ましい。
6Li濃縮終了後の6Li回収用水溶液ASoに対しては、例えば、必要に応じて水分を蒸発させてLiを濃縮した後に、炭酸ガス(CO2)バブリング等により炭酸リチウム(Li2CO3)を生成し、析出させることにより、6Liを回収することができる。あるいは、炭酸リチウムを生成した後にさらに、冷却または水分を蒸発させる等により過飽和状態として水酸化リチウム(LiOH)を生成し、析出させることにより、6Liを回収することもできる。
(変形例)
前記実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置においては、電解質膜の両面間への電圧印加を停止している時に、供給槽内のLi含有水溶液に電解質膜の表面近傍の電位が高い電位勾配を形成することにより、電解質膜の表面に吸着していたリチウムイオンを効率的に離脱させている。しかし、電解質膜の両面間への電圧印加を再開した時点で、Li含有水溶液のリチウムイオン濃度が電解質膜の表面近傍で相対的に低くなっているので、電解質膜の表面にリチウムイオンが吸着するまでに時間がかかり、電圧の印加再開直後において電解質膜におけるリチウムイオンの移動度が高くならず、エネルギー効率が不十分である。そこで、リチウムイオンを電解質膜の表面からいったん離脱させた後、電解質膜の両面間への電圧印加を再開する前に、電解質膜の表面近傍のリチウムイオンの低濃度化が解消されているように、以下の構成とした。以下、本発明の第1実施形態の変形例に係るリチウム同位体濃縮装置およびリチウム同位体濃縮方法について、図8および図9を参照して説明する。
図8に示すように、本発明の第1実施形態の変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Bは、処理槽1、処理槽1を2つに仕切る電解質膜(リチウムイオン伝導性電解質膜)2、電解質膜2の各面に被覆した第1電極31と第2電極32(多孔質構造の電極)、第3電極(副電極)33、電源装置5B、撹拌機(循環手段)6、および冷却装置7を備える。電源装置5Bは、主電源51、および電圧を極性を入れ替えて印加する副電源52Bを備え、主電源51は第1電極31と第2電極32に接続され、副電源52Bは、第1電極31と第3電極33に接続される。したがって、本変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Bは、図1に示す前記実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10に対して、直流電源である副電源52を副電源52Bに置き換えた構成である。
電源装置5Bは、直流電源である主電源51、および電圧を極性を入れ替えて印加することができる副電源52Bを備え、さらにスイッチング素子5s1およびその駆動回路等を備えて切替えによって主電源51と副電源52Bとが交互に電圧を印加する。主電源51は、前記実施形態と同様に、正極が第1電極31に接続し、負極が第2電極32に接続して、第2電極32に対して第1電極31に正の電圧V1(電圧+V1)を間欠的に印加する。副電源52Bは、第1電極31と第3電極33に接続され、直流電圧V2を、極性を交互に反転させて印加する。詳しくは、図9に示すように、主電源51が電圧+V1を印加していない時に、副電源52Bが、この電圧+V1の1回の停止期間中にまず、第1電極31に対して第3電極33に負の電圧V2(電圧-V2)を印加し、引き続いて極性を反転させて、第1電極31に対して第3電極33に正の電圧V2(電圧+V2)を印加する。電圧V1,V2の印加のタイミングについての詳細は後記する。
また、電源装置5Bは、例えば、可変電源51A(図3参照)およびその両極の各接続先を切り替えるスイッチング素子を備える構成でもよい。なお、図8に示すリチウム同位体濃縮装置10Bにおいては、前記実施形態と同様に、電源装置5Bが、第1電極31-第2電極32間に電圧+V1を印加している時には、第3電極33が開放状態となり、第3電極33-第1電極31間に電圧-V2,+V2を印加している時には、第2電極32が開放状態となる。あるいは、電源装置5Bが第1電極31-第2電極32間に電圧+V1を印加している時に、第3電極33が第1電極31と同電位に接続されるように構成されていてもよい。また、第3電極33-第1電極31間に電圧-V2や電圧+V2を印加している時に、第2電極32が第1電極31と同電位に接続されるように構成されていてもよい。
(リチウム同位体濃縮方法)
本発明の実施形態の変形例に係るリチウム同位体濃縮方法は、電解質膜2の表面に設けられた第1電極31に、裏面に設けられた第2電極32に対して正の電圧V1を印加する第1ステップと、第3電極33に、第1電極31に対して負の電圧V2を印加する第2ステップと、第3電極33に、第1電極31に対して正の電圧V2を印加する第3ステップと、をこの順に繰り返し行う。第1ステップ(電気透析期間tED)および第2ステップ(リセット期間tRST)については、前記実施形態(図2参照)で説明した通りである。本変形例に係るリチウム同位体濃縮方法は、第2ステップの後、次の第1ステップの前に、第3ステップとして準備期間tPREPを設ける。
前記実施形態で説明した通り、電圧+V1の印加(第1ステップ)の後、電圧-V2の印加(第2ステップ)により、図5Dに示すように、電解質膜2の表面に吸着していたLi+が離脱する。詳しくは、Li+が正の電荷を帯びた電解質膜2の表面から静電斥力により離脱する。そして、Li含有水溶液ASi中のLi+は、静電引力により第3電極33の近傍に偏在し、その結果、電解質膜2の表面近傍において相対的にLi+濃度が低下する。本変形例に係るリチウム同位体濃縮方法は、第2ステップにおいて副電源52Bにより電圧-V2を印加した後、副電源52Bの極性を反転させて、第3電極33に、第1電極31に対して正の電圧V2(電圧+V2)を印加する(第3ステップ)。電圧+V2の印加により、Li含有水溶液ASiにおいて、電解質膜2の表面近傍を負、第3電極33の近傍を正とする電位勾配が生じる。すると、第2ステップで第3電極33の近傍に偏在していたLi+が静電斥力により速やかに第3電極33から離れ、また、Li+と電解質膜2の表面での静電斥力が速やかに解除されて、電解質膜2の表面近傍の相対的なLi+低濃度状態が解消される。さらに、第3電極33の近傍に偏在していたLi+やLi含有水溶液ASi中を浮遊しているLi+が、負の電荷を帯びた電解質膜2の表面に静電引力により引き寄せられてこの近傍で高濃度化し、また、一部が表面に吸着する。このときに電解質膜2の表面に吸着したLi+は、この時点でのLi含有水溶液ASiにおけるLi+と同等の同位体比である。
電圧+V2の印加を停止し、再び主電源51により電圧+V1の印加を開始すると、図5Bおよび図5Cに示すように、電解質膜2の表面に吸着していたLi+が電解質膜2中に移動する。このように、第3電極33-第1電極31間に電圧-V2を印加した後に極性を反転させて電圧+V2を印加してから、電解質膜2の両面間(第1電極31-第2電極32間)に電圧+V1を印加することにより、電圧+V1の印加開始直後に、6Li同位体比の高いLiを多量に回収することができる。
第2ステップと第3ステップとで、第3電極33-第1電極31間に印加する電圧の大きさは同じでなくてもよい。第3ステップにおいては、電圧V2が大きいほど、電解質膜2の表面と第3電極33との間におけるLi含有水溶液ASiに印加される電界が大きくなって、Li+が高速で第3電極33から離れると共に、電解質膜2の表面に引き寄せられるので、電解質膜2の表面近傍のLi+低濃度状態がより短時間で解消され、さらに電解質膜2の表面にLi+を吸着させることができる。一方で、前記実施形態で説明したように、Li含有水溶液ASiにH2Oの電気分解反応が起きない程度の大きさに設定することが好ましい。
電圧+V2の1回の連続印加時間(準備期間)tPREPは、特に規定されず、電気透析期間tEDおよびリセット期間tRSTと同様に、6Liの回収効率が十分に高くなるように設定されることが好ましい。準備期間tPREPは、直前の電圧-V2の印加で生じた電解質膜2の表面近傍のLi+低濃度状態が解消されればよく、さらにLi+が電解質膜2の表面近傍で高濃度化し、表面により多く吸着することが好ましい。ただし、電解質膜2の表面に多量のLi+が吸着していても、電圧+V1の印加開始直後におけるLi+の移動度の向上には限界があり、また、準備期間tPREPが長いとその分、電気透析期間tEDの周期tCYCに対する比が低くなって生産性が低下する。準備期間tPREPは、リセット期間tRSTと同様に、電圧V2が大きいほど、また第3電極33と第1電極31との間隔が短いほど、短時間で効果が得られる。
リセット期間tRSTと準備期間tPREPとの間の、第3電極33-第1電極31間に電圧-V2,+V2のいずれも印加されていない無印加期間が長いと、生産性が低下する。したがって、電圧-V2の印加停止後、電圧+V2の印加をより速やかに開始することが好ましく、図9に示すように、電圧-V2の印加停止と同時に電圧+V2の印加を開始することがさらに好ましい。また、電圧+V2の印加(準備期間tPREP)停止後、電圧+V1の印加(電気透析期間tED)を開始するまでの無印加期間tint3が長いと、生産性が低下し、さらに電圧+V2の印加による効果が低下する。したがって、電圧+V2の印加停止後、電圧+V1の印加をより速やかに開始することが好ましく、電圧+V2の印加停止と同時に電圧+V1の印加を開始すること(tint3=0)がさらに好ましい。また、電圧+V1の印加時(電気透析期間tED)に、電圧+V2を印加してもよい。したがって、電圧+V1の印加を開始した後に、電圧+V2の印加を停止してもよい。この場合には、準備期間tPREPは、電圧+V2の印加開始から電圧+V1の印加開始までとみなして設定する。
本実施形態およびその変形例に係るリチウム同位体濃縮方法においては、前記したように、電解質膜2の温度が低いほど6Li同位体比を高くして回収することができるが、Li含有水溶液ASiや6Li回収用水溶液ASoが凍結しないようにその凝固点以上で冷却する必要がある。そこで、水溶液ASi,ASo、特に6Li回収用水溶液ASoは、凝固点が0℃未満に降下するように、電解質膜2を透過しない溶質を含有していてもよい。このような溶質は、これを含有した水溶液ASi,ASoが電解質膜2や電極31,32等を腐食させないものとする。具体的には、塩化ナトリウム(NaCl、食塩)、塩化マグネシウム(MgCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化カリウム(KCl)等の塩、または、エチレングリコール等の有機溶剤が挙げられる。前記したように電気透析終了後の6Li回収用水溶液ASoから6Liを回収するために炭酸ガスをバブリングする場合には、炭酸リチウム以外の析出物(炭酸塩)を生成せず、かつ凝固点降下が大きい塩化ナトリウムが特に好ましい。なお、6Li回収用水溶液ASoは、炭酸ガスをバブリングする前に水分を蒸発させてLiを濃縮する場合には、水分の減少によって析出した塩をろ過等の一般的な方法によって除去してからバブリングすることが好ましい。あるいは、回収した6Li回収用水溶液ASoについて炭酸ガスのバブリングの前に、0℃以上、例えば室温以上の温度で通常の電気透析等(例えば、特許文献3参照)を行って、純水等にLiを選択的に回収してもよい。このような方法によれば、電解質膜2を0℃以下に冷却、より好ましくは0℃未満に冷却して、6Li同位体比をいっそう高くして効率的に濃縮することができる。
〔多段式リチウム同位体濃縮装置〕
(第1実施形態)
前記実施形態およびその変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10,10B(図1、図8参照)は、供給槽11内のLi含有水溶液ASiに対して6Li同位体比の高いLiを含有する水溶液(6Li回収用水溶液ASo)が回収槽12で得られる。このLi回収後の6Li回収用水溶液ASoを、空にした供給槽11に投入して運転することにより、さらに6Li同位体比の高いLiを含有する水溶液が得られる。そこで、リチウム同位体濃縮装置10の回収槽12を別のリチウム同位体濃縮装置10の供給槽11と一体化するように連結させたカスケード構造とすることにより、段階的に6Liを濃縮することができる。以下、本発明の第1実施形態に係る多段式リチウム同位体濃縮装置について、図10を参照して説明する。
本発明の第1実施形態に係る多段式リチウム同位体濃縮装置20は、処理槽1A、処理槽1Aを一方向に5つの槽11,12,13,14,15に仕切るように間隔を空けて平行に配置された4枚の電解質膜(リチウムイオン伝導性電解質膜)22,23,24,25、電解質膜22,23,24,25の両面に被覆した第1電極31および第2電極32(多孔質構造の電極)、槽11,12,13,14内で第1電極31に対面して配置された第3電極(副電極)33、4台の電源装置5、ならびに、槽11,12,13,14のそれぞれの槽内に配置された撹拌機(循環手段)6を備える。多段式リチウム同位体濃縮装置20は、4台のリチウム同位体濃縮装置10を、それぞれの処理槽1を処理槽1Aに一体化するように連結した構造であり、隣り合う2台のリチウム同位体濃縮装置10,10の一方の回収槽12が他方の供給槽11と兼用になる。電解質膜22,23,24,25は、それぞれがリチウム同位体濃縮装置10の電解質膜2と同一の構成とすることができ、互いを特に識別しない場合には、適宜、電解質膜2と称する。
リチウム同位体濃縮装置10の供給槽11の側(図10における左側。以下、供給側と称する。)の端の槽11は、リチウム同位体濃縮装置10と同様に供給槽11であり、Li含有水溶液ASiを収容する。槽12,13,14,15はそれぞれ、6Li回収用水溶液AS1,AS2,AS3,ASoを収容する。6Li回収用水溶液AS1,AS2,AS3,ASoは、リチウム同位体濃縮装置10の6Li回収用水溶液ASoと同様に、Li含有水溶液ASiから回収したリチウムイオンLi+を収容するための水溶液であり、多段式リチウム同位体濃縮装置20の運転開始時においては、例えば純水である。なお、リチウム同位体濃縮装置10の回収槽12の側(図10における右側)を、回収側と称する。多段式リチウム同位体濃縮装置20においては、回収側の端の槽15が回収槽となる。
多段式リチウム同位体濃縮装置20は、両端の槽11,15を除く槽12,13,14のそれぞれの槽内に、供給側から順に、第2電極32、第3電極33、第1電極31が配置される。同じ1槽における第2電極32と第1電極31は、互いに十分な間隔を空けて配置され、すなわち、4枚の電解質膜2は互いに十分な間隔を空けて配置される。また、同じ1槽における第2電極32と第3電極33は互いに離間して配置され、さらに十分な間隔を空けて配置されていることが好ましい。そのために、槽12,13,14は、処理槽1Aの仕切り方向(リチウム同位体濃縮装置10の連結方向、図10の左右方向)に十分な長さに設計する。一方、同じ1槽における第3電極33と第1電極31は、リチウム同位体濃縮装置10の構成で説明した通り、ショートしない程度に近接して配置されることが好ましい。
電源装置5は、リチウム同位体濃縮装置10の構成で説明した通りであり、主電源51と副電源52を備え、これらが同時に駆動しないように構成されている。また、多段式リチウム同位体濃縮装置20においては、4台の電源装置5が、それぞれ独立して駆動する、言い換えると主電源51が電極31,32に、副電源52が電極31,33に、電源装置5毎に独立して接続することができるように構成されていることが好ましい。多段式リチウム同位体濃縮装置20における4台の電源装置5を識別する場合には、図10に示すように、供給槽11の側から順にそれぞれ、電源装置5(1),5(2),5(3),5(4)と称する。なお、本実施形態においては、電源装置5は、連動する2個のスイッチング素子5s1,5s3を備える。スイッチング素子5s1は、リチウム同位体濃縮装置10の構成で説明した通り、第1電極31の接続先を切り替える。スイッチング素子5s3は、第3電極33と副電源52との接続/切断、すなわち副電源52のON/OFFを切り替える。また、多段式リチウム同位体濃縮装置20においては、電源51,52はフローティング電源であることが好ましく、または電源51,52の1台のみが接地してもよく、例えば供給槽11のLi含有水溶液ASiを基準電位に接地するように、電源装置5(1)の主電源51の正極および副電源52の負極を、それぞれの駆動時に接地するように構成してもよい。ただし、槽12,13,14のそれぞれの槽内の第2電極32、第1電極31間の抵抗が十分に高い場合には、2台以上の電源51,52のそれぞれが接地してもよい。
撹拌機6は、槽11,12,13,14内の水溶液ASi,AS1,AS2,AS3をそれぞれ循環させる。多段式リチウム同位体濃縮装置20はさらに、撹拌機6を回収槽15にも備えて、6Li回収用水溶液ASoを循環させてもよい。多段式リチウム同位体濃縮装置20はさらに、必要に応じて、電解質膜22,23,24,25を冷却する冷却装置7(図1参照)を備えていてもよい(図示せず)。撹拌機6や投込式の冷却装置7は、槽12,13,14内に設置する場合には、第2電極32(電解質膜2)と第3電極33の間に配置することが好ましい。その他各要素は、リチウム同位体濃縮装置10,10Bの構成で説明したとおりである。
(多段式リチウム同位体濃縮装置によるリチウム同位体濃縮方法)
本実施形態に係る多段式リチウム同位体濃縮装置20によるリチウム同位体濃縮方法は、リチウム同位体濃縮装置10による方法と同様であり、図中、左端の供給槽11に7Li,6Liを天然存在比で含有するLi含有水溶液ASiを投入し、その他の各槽12,13,14,15にそれぞれ純水を投入する。前記したように、電解質膜2におけるLi+移動度は、上流側(供給側)の水溶液のLi+濃度が高いほど高い。したがって、運転開始直後には、供給槽11内のLi含有水溶液ASiから槽12内の純水である水溶液AS1にLi+を移動させる、すなわち電解質膜22でのみLi+を移動させて水溶液AS1のLi+濃度を高くすることが、エネルギー効率上好ましい。そのために、電源装置5(1)のみを駆動する。そして、水溶液AS1が所定のLi+濃度に、好ましくは飽和濃度に到達したら、さらに電源装置5(2)を駆動して、水溶液AS1から槽13内の水溶液AS2へのLi+移動を開始する。
Li含有水溶液ASiから水溶液AS1、水溶液AS1から水溶液AS2へのLi+移動が並行して進行して、水溶液AS2が所定のLi+濃度に到達したら、さらに電源装置5(3)を駆動して、水溶液AS2から槽14内の水溶液AS3へのLi+移動を開始する。これを繰り返して、最終的には多段式リチウム同位体濃縮装置20のすべての電源装置5を駆動することにより、図中、左から右へLi+が移動して、槽12,13,14,15の各槽内の水溶液AS1,AS2,AS3,ASoが、運転開始時の純水から、6Li同位体比の異なるLiを異なる濃度で含有するLiOH水溶液になる。6Li同位体比はASi<AS1<AS2<AS3<ASoの順に高くなる。したがって、Li+の1枚の電解質膜2中の移動による同位体分離係数が大きくなくても、6Li同位体比の高いLiを回収槽15から回収することができるので、低温や低電圧によりLi+移動度を極度に低下させなくてよく、生産性を高くすることができる。
多段式リチウム同位体濃縮装置20は、例えば、電源装置5(2)の主電源51を駆動して電解質膜23の両面に被覆した第1電極31-第2電極32間に電圧+V1を印加している時に、他の電源装置5の主電源51や副電源52を駆動しても、槽12内において第1電極31と第3電極33や第2電極32との間に、また、槽13内において第2電極32と第3電極33や第1電極31との間に、それぞれ電界が実質的に発生しないように設計する。または電界が発生しても、電解質膜23の両面の電極31,32の各近傍での式(1)、式(3)の反応を阻害しない程度に十分に弱くなるように設計する。そのために、前記したように、電解質膜2同士の間隔や第2電極32と第3電極33の間隔を十分に広く配置する。このような構成により、隣り合う2台以上の電源装置5を同時に駆動することができる。例えば、4台の電源装置5の電源51,52をそれぞれ同期させて、図10に示すように主電源51を同時に駆動させてもよいし、異なる電源装置5の主電源51と副電源52を同時に駆動してもよい。
多段式リチウム同位体濃縮装置20は、電解質膜2の数が特に規定されず、多いほど、すなわちより多数台のリチウム同位体濃縮装置10を連結させるほど、6Li同位体比の高いLiを回収することができる。また、図10においては、リチウム同位体濃縮装置10を一方向に連結した構造で、すべての隣り合う電解質膜2,2を対面させて配置しているが、例えば、1箇所乃至2箇所以上で90°屈曲させて連結して、隣り合う電解質膜2,2を互いに垂直に配置してもよい。互いに垂直に配置された電解質膜2,2で仕切られた屈曲部の槽においては、第3電極33を回収側の電解質膜2の表面に被覆した第1電極31と平行にかつ近接して配置する。
(変形例)
多段式リチウム同位体濃縮装置20は、リチウム同位体濃縮装置10Bを複数台連結した構成としてもよく、すなわち、電源装置5に代えて電源装置5Bを備える。
前記実施形態に係る多段式リチウム同位体濃縮装置20は、隣り合う電解質膜2で同時にLi+移動を可能とするために、電解質膜2同士の間隔を広く空けて配置され、したがって、リチウム同位体濃縮装置10の連結方向に長い処理槽1Aが必要となる。ここで、リチウム同位体濃縮装置10は、断続的に電解質膜2の両面間に電圧を印加する。そこで、多段式リチウム同位体濃縮装置20は、隣り合う電解質膜2のそれぞれにおける電圧印加のタイミングをずらすことにより、電解質膜2の両面間に電圧を印加している時の電極31,32近傍での反応が影響され難くすることができる。以下、本発明の第1実施形態の変形例に係る多段式リチウム同位体濃縮装置について、図11Aおよび図11Bを参照して説明する。
本発明の第1実施形態の変形例に係る多段式リチウム同位体濃縮装置20Aは、前記実施形態に係る多段式リチウム同位体濃縮装置20と同様に、4台のリチウム同位体濃縮装置10を、それぞれの処理槽1を処理槽1Aに一体化するように連結した構造であり、ただし、4台の電源装置5(図10参照)を備える電源装置50を備える。また、多段式リチウム同位体濃縮装置20Aは、多段式リチウム同位体濃縮装置20と同様に、必要に応じて撹拌機6や冷却装置7を備える(図示省略)。本変形例においては、冷却装置7は、処理槽1Aをジャケットタンクとして冷媒を流通する構成とすることが好ましい。
電源装置50は、電解質膜2毎にその両面の第1電極31-第2電極32間に接続した主電源51、および槽11,12,13,14の同一槽内で対向して設けられた第3電極33と第1電極31との間に接続した副電源52を備え、同一の第1電極31に接続する主電源51と副電源52とが交互に電圧を印加する構成である。すなわち、電源装置50は4台の電源装置5(図10参照)を備える。なお、これらの主電源51を識別する場合には、図11Aおよび図11Bに示すように、供給槽11の側から順にそれぞれ、主電源51(1),51(2),51(3),51(4)と称する。同様に、副電源52(1),52(2),52(3),52(4)と称する。さらに電源装置50は、隣り合う電解質膜2の両面の電極31,32に接続する主電源51を同時に駆動しない(電極31,32に接続しない)ように構成される。そのために、電源装置50は、連結したリチウム同位体濃縮装置10の隣り合う2台以上の電源装置5を一組として、各組で1台ずつ交替でLi+を移動させる。その際、各組の1台を同期させることが好ましく、ここでは2台一組とし、したがって、主電源51(1)と主電源51(3)、主電源51(2)と主電源51(4)が、それぞれ同期する。そのために、すべての電源装置5は周期tCYCが同一に、かつ、電気透析期間tEDが周期tCYCの1/2未満(tED<tCYC/2)に設定され、リセット期間tRSTは周期tCYCの1/2以下(tRST≦tCYC/2)に設定されることが好ましい。また、多段式リチウム同位体濃縮装置20と同様に、電源51,52はフローティング電源であることが好ましく、または、多段式リチウム同位体濃縮装置20Aにおいて電源51,52の1台のみが接地していてもよい。
(多段式リチウム同位体濃縮装置によるリチウム同位体濃縮方法)
本変形例に係る多段式リチウム同位体濃縮装置20Aによるリチウム同位体濃縮方法について、図11Aおよび図11Bを参照して説明する。本変形例は、電源装置50による電圧+V1,-V2の印加タイミング以外は、前記実施形態と同様である。
図11Aに示すように、電源装置50は、主電源51(1),51(3)を接続している時には、主電源51(2),51(4)を切断している。これにより、電解質膜22,24のそれぞれの両面間に電圧+V1が印加される。すると、Li+は、供給槽11内のLi含有水溶液ASiから電解質膜22を透過して槽12内の水溶液AS1に、槽13内の水溶液AS2から電解質膜24を透過して槽14内の水溶液AS3に、それぞれ移動する。一方、電解質膜23(水溶液AS1-水溶液AS2間)、電解質膜25(水溶液AS3-水溶液ASo間)では、Li+が移動しない。また、この時、副電源52(2),52(4)を接続して、槽12,14内の第3電極33-第1電極31間に電圧-V2を印加することができる。これにより、図中、ドットパターンを付した矢印で示すように、Li+が移動していない電解質膜23,25の表面(第1電極31)から供給側へ向かう電界E2が発生し、電解質膜23,25の表面に吸着していたLi+が離脱する(図5D参照)。
次に、図11Bに示すように、電源装置50は、主電源51(1),51(3)および副電源52(2),52(4)を切断して、主電源51(2),51(4)を接続する。これにより、電解質膜23,25のそれぞれの両面間に電圧+V1が印加される。すると、Li+は、槽12内の水溶液AS1から電解質膜23を透過して槽13内の水溶液AS2に、槽14内の水溶液AS3から電解質膜25を透過して槽15内の水溶液ASoに、それぞれ移動する。一方、電解質膜22(水溶液ASi-水溶液AS1間)、電解質膜24(水溶液AS2-水溶液AS3間)では、Li+が移動しない。また、この時、副電源52(1),52(3)を接続して、槽11,13内の第3電極33-第1電極31間に電圧-V2を印加することができる。これにより、図中、ドットパターンを付した矢印で示すように、Li+が移動していない電解質膜22,24の表面(第1電極31)から供給側へ向かう電界E2が発生し、電解質膜22,24の表面に吸着していたLi+が離脱する(図5D参照)。
さらにその次には、再び図11Aに示すように、電源装置50は、主電源51(2),51(4)および副電源52(1),52(3)を切断して、主電源51(1),51(3)を接続し、また、副電源52(2),52(4)を接続する。このように、主電源51(1),51(3)と主電源51(2),51(4)を交替で接続することにより、Li+が電解質膜22,24と電解質膜23,25をそれぞれ断続的にかつ交互に移動する。さらにそれに合わせて副電源52(2),52(4)と副電源52(1),52(3)も交替で接続することにより、直前までLi+が移動していた電解質膜2の表面からLi+を速やかに離脱させることができる。なお、前記実施形態と同様に、運転開始直後には電源装置5(1)のみを駆動して電解質膜22でのみLi+を移動させ、その後、段階的に電源装置5(2),5(3),5(4)を1台ずつ追加して駆動することが好ましい。
本変形例においては、Li+が移動している電解質膜2の回収側の槽内の第3電極33と第1電極31の間に副電源52が接続して電圧-V2を印加される。これに伴い、この第3電極33とこれに対向する第2電極32との間に電界が実質的に発生しないように、または電界が発生しても、電圧+V1の印加による第2電極32近傍での式(3)の反応を阻害しない程度に十分に弱くなるように、第2電極32と第3電極33の間隔を空けて設計する。具体的には、第3電極33を同じ槽内の第1電極31と十分に短い間隔に配置して、必要な強さの電界E2が小さい電圧V2で得られるようにすることが好ましい。これにより、第2電極32と第3電極33の間隔を広く空けなくても、第2電極32近傍での反応が、電圧-V2の印加により阻害されない。このような構成により、本変形例に係る多段式リチウム同位体濃縮装置20Aは、電解質膜2同士の間隔を短くしてリチウム同位体濃縮装置10の連結方向に縮小して小型化することができる。
多段式リチウム同位体濃縮装置20Aは、多段式リチウム同位体濃縮装置20と同様に、リチウム同位体濃縮装置10Bを複数台連結した構成とすることもできる。そのために、電源装置50は、副電源52に代えて副電源52B(図8参照)を備える。この場合、例えば主電源51(1),51(3)を接続している時に、副電源52(2),52(4)が、途中で極性を反転して接続する。したがって、リセット期間tRSTと準備期間tPREPの和が周期tCYCの1/2以下(tRST+tPREP≦tCYC/2)に設定されることが好ましい。
(第2実施形態)
前記実施形態およびその変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10,10B(図1、図8参照)を、第1実施形態およびその変形例のようにそれぞれの処理槽1を処理槽1Aに一体化するように連結した多段式リチウム同位体濃縮装置は、前記したように、隣り合う2台のリチウム同位体濃縮装置10,10の一方の回収槽12が他方の供給槽11と兼用になる。さらに、このように一体化された供給槽11と回収槽12のそれぞれに設けられる第3電極33と第2電極32を一体化することができる。以下、本発明の第2実施形態に係る多段式リチウム同位体濃縮装置について、図12を参照して説明する。
本発明の第2実施形態に係る多段式リチウム同位体濃縮装置20Bは、処理槽1A、処理槽1Aを一方向に7つの槽11,12,13,14,15,16,17に仕切るように間隔を空けて平行に配置された6枚の電解質膜(リチウムイオン伝導性電解質膜)22,23,24,25,26,27、電解質膜22,23,24,25,26,27の両面に被覆した第1電極31および第2電極32(多孔質構造の電極)、槽11内で第1電極31に対面して配置された第3電極(副電極)33、ならびに電源装置50Cを備える。また、多段式リチウム同位体濃縮装置20Bは、多段式リチウム同位体濃縮装置20と同様に、必要に応じて撹拌機(循環手段)6や冷却装置7を備える(図示省略)。多段式リチウム同位体濃縮装置20Bは、6台のリチウム同位体濃縮装置10Bを、それぞれの処理槽1を処理槽1Aに一体化するように連結した構造であり、隣り合う2台のリチウム同位体濃縮装置10B,10Bの一方の回収槽12が他方の供給槽11と兼用になる。そして、この一方の回収槽12内の第2電極32が、他方の供給槽11内の第3電極33を兼用する。したがって、多段式リチウム同位体濃縮装置20Bは、供給側の端の供給槽11内にのみ、電解質膜22から離間した第3電極33が設けられる。電解質膜22,23,24,25,26,27は、それぞれがリチウム同位体濃縮装置10,10Bの電解質膜2と同一の構成とすることができ、互いを特に識別しない場合には、適宜、電解質膜2と称する。また、冷却装置7は、処理槽1Aをジャケットタンクとして冷媒を流通する構成とすることが好ましい。
前記したように、多段式リチウム同位体濃縮装置20Bにおいては、槽12,13,14,15,16のそれぞれに配置された第2電極32は、同じ槽の第3電極33を兼用するので、この第2電極32が第3電極33として、対向する第1電極31にショートしない程度に近接して配置されるように、電解質膜2同士の間隔が短いことが好ましい。すなわち、両端の槽11,17を除く槽12,13,14,15,16は、処理槽1Aの仕切り方向(リチウム同位体濃縮装置10Bの連結方向)に短いことが好ましい。多段式リチウム同位体濃縮装置20Bは、このような構成により、部品点数を抑えると共に、連結方向に縮小して小型化することができる。
電源装置50Cは、それぞれが主電源51および副電源52を備える6台の電源装置5C1,5C2,5C3,5C4,5C5,5C6を、供給側から順に備える。電源装置5C1,5C2,5C3,5C4,5C5,5C6は、それぞれがリチウム同位体濃縮装置10Bの電源装置5Bに相当し、互いを特に識別しない場合には、適宜、電源装置5Cと称する。電源装置5Cは、電源装置5Bと同様に、主電源51と副電源52が交互に直流電圧を印加すると共に副電源52が極性を反転させる。詳しくは、電源装置5Cは、第1ステップ:主電源51の正極、負極を第1電極31、第2電極32にそれぞれ接続して電圧+V1を印加、第2ステップ:主電源51を切断し、かつ副電源52の正極、負極を第1電極31、第3電極33または供給側の隣の第2電極32にそれぞれ接続して電圧-V2を印加、第3ステップ:副電源52の正極と負極を入れ替えて接続して電圧+V2を印加、をこの順に交替で繰り返す。そのために、電源装置5Cは、電極31,32,33のそれぞれの接続先を切り替えるスイッチング素子5s1,5s2,5s3をさらに備える。ただし、隣り合うリチウム同位体濃縮装置10Bの一方の第2電極32が他方の第3電極33を兼用するので、電源装置5C1以外では、スイッチング素子5s3は供給側の隣の電源装置5Cのスイッチング素子5s2が兼用する。また、多段式リチウム同位体濃縮装置20Bにおいては、電源51,52はフローティング電源であることが好ましく、または電源51,52の1台のみが接地していてもよい。
多段式リチウム同位体濃縮装置20Bにおいては、電圧+V1の印加によりLi+が移動している電解質膜2の供給側の槽内だけでなく、回収側の槽内の第3電極33または第2電極32と第1電極31との間に電圧-V2を印加されないことが好ましい。回収側の槽内の水溶液に、電解質膜2の表面近傍を正とする電位勾配が生じると、Li+の移動が阻害され、エネルギー効率が低下する。そのために、電源装置50Cは、連結したリチウム同位体濃縮装置10Bの隣り合う3台以上の電源装置5Cを一組として、各組で1台ずつ交替でLi+を移動させる。ここでは、3台を一組とするように、スイッチング素子5s1,5s2,5s3は、同時に接続/切断を行う3ポジションのスイッチング素子とする。
スイッチング素子5s1は、第1電極31の接続先を、主電源51の正極、副電源52の正極、副電源52の負極、の3通りに切り替える3投形のスイッチである。スイッチング素子5s2は、第2電極32を主電源51の負極に接続/切断する。スイッチング素子5s3は、第3電極33の接続先を、副電源52の正極、副電源52の負極、接続しない、の3通りに切り替える2投形のスイッチである。スイッチング素子5s3を兼用するスイッチング素子5s2は、第2電極32の接続先を、主電源51の負極かつ回収側の隣の電源装置5Cの副電源52の正極、この副電源52の負極、接続しない、の3通りに切り替える2投形のスイッチである。
また、各組の1台を同期させることが好ましく、ここでは3台一組であるから、電源装置5C1と電源装置5C4、電源装置5C2と電源装置5C5、電源装置5C3と電源装置5C6が、それぞれ同期する。そのために、すべての電源装置5Cは周期tCYCが同一に、かつ、電気透析期間tED、リセット期間tRST、および準備期間tPREPがそれぞれ周期tCYCの1/3未満(tED<tCYC/3、tRST<tCYC/3、tPREP<tCYC/3)に設定される。そして、電源装置5C1,5C4と電源装置5C2,5C5と電源装置5C3,5C6とで電気透析期間tEDが重複しないように駆動する。
(多段式リチウム同位体濃縮装置によるリチウム同位体濃縮方法)
本実施形態に係る多段式リチウム同位体濃縮装置20Bによるリチウム同位体濃縮方法について、図13A、図13B、および図13Cを参照して説明する。なお、図13A、図13B、および図13Cにおいては、電源装置5C1,5C2,5C3,5C4,5C5,5C6のそれぞれの主電源51および副電源52を、主電源51(1),51(2),51(3),51(4),51(5),51(6)、および副電源52(1),52(2),52(3),52(4),52(5),52(6)と示す。
図13Aに示すように、電源装置5C1,5C4が主電源51(1),51(4)を接続している時には、それ以外の電源装置5C2,5C3,5C5,5C6は主電源51を切断している。これにより、電解質膜22,25のそれぞれの両面間に電圧+V1が印加される。すると、電解質膜22,25の表面に被覆した第1電極31の近傍からO2が、裏面に被覆した第2電極32の近傍からH2が、それぞれ発生する(図13Aにおいては省略、図4参照)。そして、Li+が、供給槽11内のLi含有水溶液ASiから電解質膜22を透過して槽12内の水溶液AS1に、槽14内の水溶液AS3から電解質膜25を透過して槽15内の水溶液AS4に、それぞれ移動する。一方、その他の電解質膜23,24,26,27では、Li+が移動しない。また、この時、電源装置5C2,5C5が副電源52(2),52(5)を接続して、Li+が移動している電解質膜22,25の回収側の槽12,15内の第2電極32-第1電極31間に電圧+V2を印加することができる。これにより、図中、ドットパターンを付した矢印で示すように、水溶液AS1,AS4に回収側へ向かう電界E2(電界+E2)が発生する。Li+は電界に沿って移動するので、水溶液AS1,AS4中のLi+が回収側の第1電極31近傍(電解質膜23,26の表面近傍)へ引き寄せられる。また、電解質膜22,25中を移動してきたLi+が電解質膜22,25の裏面(第2電極32)から速やかに引き離されて水溶液AS1,AS4中で回収側へ移動する。その結果、電解質膜22,25の裏面近傍のLi+濃度が低下し、表面近傍との濃度勾配が大きくなって電解質膜22,25におけるLi+移動度が高くなる。
さらにこの時、電源装置5C3,5C6が副電源52(3),52(6)を接続して、槽13,16内の第2電極32-第1電極31間に電圧-V2を印加することができる。これにより、図中、ドットパターンを付した矢印で示すように、Li+が移動していない電解質膜24,27の表面(第1電極31)から供給側へ向かう電界E2(電界-E2)が発生し、電解質膜24,27の表面に吸着していたLi+が速やかに離脱する(図5D参照)。
次に、図13Bに示すように、電源装置5C1,5C4が主電源51(1),51(4)を切断して副電源52(1),52(4)を接続し、電源装置5C2,5C5が副電源52(2),52(5)を切断して主電源51(2),51(5)を接続する。さらに、電源装置5C3,5C6が副電源52(3),52(6)の極性を反転させる。これにより、電解質膜23,26のそれぞれの両面間に電圧+V1が印加される。すると、電解質膜23,26の両面に被覆した電極31,32の近傍からO2,H2がそれぞれ発生する(図13Bにおいては省略、図4参照)。そして、Li+が、槽12内の水溶液AS1から電解質膜23を透過して槽13内の水溶液AS2に、槽15内の水溶液AS4から電解質膜26を透過して槽16内の水溶液AS5に、それぞれ移動する。一方、その他の電解質膜22,24,25,27では、Li+が移動しない。また、この時、Li+が移動している電解質膜23,26の回収側の槽13,16内の第2電極32-第1電極31間に電圧+V2を印加しているので、図中、ドットパターンを付した矢印で示すように、水溶液AS2,AS5に電界+E2が発生する。電界+E2により、槽13,16で直前まで電圧-V2を印加していた(図13A参照)ことにより水溶液AS2,AS5中で供給側の第2電極32近傍に偏在していたLi+が、回収側へ移動して、電解質膜23,26の裏面近傍のLi+濃度が低下する。さらに、電解質膜23,26の供給側の槽12,15では直前まで電圧+V2を印加していたので(図13A参照)、水溶液AS1,AS4においては、電解質膜23,26の表面近傍のLi+濃度が高くなっている。その結果、電解質膜23,26においては、Li+の濃度勾配が大きくなってLi+移動度が高くなる。
さらにこの時、直前までLi+が移動していた電解質膜22,25(図13A参照)の供給側の槽11内の第3電極33-第1電極31間および槽14内の第2電極32-第1電極31間に電圧-V2を印加しているので、図中、ドットパターンを付した矢印で示すように、水溶液ASi,AS3に電界-E2が発生する。すると、電解質膜22,25の表面に吸着していたLi+が速やかに離脱する(図5D参照)。
さらにその次に、図13Cに示すように、電源装置5C2,5C5が主電源51(2),51(5)を切断して副電源52(2),52(5)を接続し、電源装置5C3,5C6が副電源52(3),52(6)を切断して主電源51(3),51(6)を接続する。さらに、電源装置5C1,5C4が副電源52(1),52(4)の極性を反転させる。これにより、電解質膜24,27のそれぞれの両面間に電圧+V1が印加される。すると、電解質膜24,27の両面に被覆した電極31,32の近傍からO2,H2がそれぞれ発生する(図13Cにおいては省略、図4参照)。そして、Li+が、槽13内の水溶液AS2から電解質膜24を透過して槽14内の水溶液AS3に、槽16内の水溶液AS5から電解質膜27を透過して槽17内の水溶液ASoに、それぞれ移動する。一方、その他の電解質膜22,23,25,26では、Li+が移動しない。また、この時、槽11内の第3電極33-第1電極31間、およびLi+が移動している電解質膜24の回収側の槽14内の第2電極32-第1電極31間に、電圧+V2を印加しているので、図中、ドットパターンを付した矢印で示すように、水溶液ASi,AS3に電界+E2が発生する。電界+E2により、槽11,14で直前まで電圧-V2を印加していた(図13B参照)ことにより水溶液ASi,AS3中で供給側の電極33,32近傍に偏在していたLi+が、回収側へ移動する。また、電解質膜24,27の供給側の槽13,16では直前まで電圧+V2を印加していたので(図13B参照)、水溶液AS2,AS5においては、電解質膜24,27の表面近傍のLi+濃度が高くなっている。その結果、電解質膜24,27においては、Li+の濃度勾配が大きくなってLi+移動度が高くなる。
さらにこの時、直前までLi+が移動していた電解質膜23,26(図13B参照)の回収側の槽12,15内の第2電極32-第1電極31間に電圧-V2を印加しているので、図中、ドットパターンを付した矢印で示すように、水溶液AS1,AS4に電界-E2が発生する。すると、電解質膜23,26の表面に吸着していたLi+が速やかに離脱する(図5D参照)。
さらにその次には、再び図13Aに示すように、電源装置5C3,5C6が主電源51(3),51(6)を切断して副電源52(3),52(6)を接続し、電源装置5C1,5C4が副電源52(1),52(4)を切断して主電源51(1),51(4)を接続する。さらに、電源装置5C2,5C5が副電源52(2),52(5)の極性を反転させる。このように、多段式リチウム同位体濃縮装置20Cは、電源装置5C1,5C4、電源装置5C2,5C5、および電源装置5C3,5C6が交替で、電源51,52の接続/切断を切り替えて運転する。これにより、それぞれの電解質膜2が交替で両面間に電圧+V1が間欠的に印加される。そして、この電解質膜2の供給側の槽内では、電圧+V1の印加停止後には電圧-V2が印加されて電解質膜2の表面に吸着していたLi+が速やかに離脱する一方、次の電圧+V1の印加前には電圧+V2が印加されて離脱していたLi+が電解質膜2の表面に引き寄せられて高濃度となる。したがって、多段式リチウム同位体濃縮装置20Cは、処理槽1Aの仕切り方向に縮小した小型の装置としつつ、6Li同位体比の高いLiを時間的に効率的に回収槽17から回収することができる
多段式リチウム同位体濃縮装置20Bは、多段式リチウム同位体濃縮装置20と同様に、リチウム同位体濃縮装置10Bを、1箇所乃至2箇所以上で90°屈曲させて連結して、隣り合う電解質膜2,2を互いに垂直に配置してもよい。互いに垂直に配置された電解質膜2,2で仕切られた屈曲部の槽においては、第2電極32が第3電極33を兼用せず、すなわち電極31,32だけでなく第3電極33を配置し、第3電極33を回収側の電解質膜2の表面に被覆した第1電極31と平行にかつ近接して配置する。
(変形例)
多段式リチウム同位体濃縮装置20Bは、リチウム同位体濃縮装置10を複数台連結した構成としてもよい。この場合、副電源52が電圧+V2を印加する(第3ステップ)代わりに、同じ槽内の第3電極33または第2電極32と第1電極31との間には電圧を印加しない(印加停止)期間を設ける。
〔第2実施形態〕
第1実施形態で説明したように、運転中において、Li含有水溶液ASiはLi+濃度が高く維持されることが好ましい。そこで、供給槽11のLi含有水溶液ASiを交換したり処理槽1の外と循環させたりする以外に、作業性よく、また装置を大きく拡張することなく、Li含有水溶液ASiのLi+濃度を維持するために、以下の構成とした。以下、本発明の第2実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置について、図14を参照して説明する。
(リチウム同位体濃縮装置)
本発明の第2実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10Cは、処理槽1B、電解質膜(リチウム補充用リチウムイオン伝導性電解質膜)21、電解質膜(リチウムイオン伝導性電解質膜)22、第1電極(多孔質構造の電極)31、第2電極(多孔質構造の電極)32、第3電極(副電極)33、第4電極(リチウム補充用第1電極)41、第5電極(リチウム補充用第2電極)42、主電源51および副電源52を内蔵した電源装置5、電源(リチウム補充用電源)53、撹拌機(循環手段)6、ならびに冷却装置7を備える。処理槽1Bは、電解質膜21,22によって、Li含有水溶液AS´を収容する補充槽(リチウム補充槽)1z、Li含有水溶液ASiを収容する供給槽(第1槽)11、6Li回収用水溶液ASoを収容する回収槽(第2槽)12、の順に3つに仕切られている。リチウム同位体濃縮装置10Cは、第1実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10(図1参照)に対して、処理槽1Bを電解質膜22の供給槽11側で仕切る電解質膜21と、電解質膜21で供給槽11と仕切られた補充槽1z、および供給槽11の各槽内に設けた電極41,42と、電極41,42の間に接続した電源53を追加した構成である。それ以外の構成は、第1実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10と同様であり、必要に応じて、液面センサ、排気手段等を備えていてもよい。
リチウム同位体濃縮装置10Cの、補充槽1z、供給槽11、およびこれらを仕切る電解質膜21、ならびに電極41,42および電源53から構成される部分は、リチウム同位体濃縮装置10と同様にリチウムイオン伝導性を有する電解質膜を使用したリチウム回収方法によるリチウム回収装置である(例えば、特許文献2,3)。このリチウム回収装置は、補充槽1zに収容したLi含有水溶液AS´からLi+を、供給槽11に収容したLi含有水溶液ASiに移動させる。すなわち、本実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10Cは、前記リチウム回収装置と第1実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10とを、それぞれの処理槽を供給槽11で一体化させて連結させたカスケード構造の装置である。
電解質膜22は、前記実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10の電解質膜2と同一の構成である。電解質膜21も、電解質膜22と同一の構成とすることができる。
第4電極41と第5電極42は、対になって電解質膜21の両面間に電圧を印加するための電極であり、第4電極41は補充槽1z内に、第5電極42は供給槽11内に、それぞれ電解質膜21に接触してまたは対面して設けられる。第4電極41および第5電極42は、一方または両方が多孔質構造を有して電解質膜21に接触していることが好ましく、一方が電解質膜21に接触していることがより好ましく、図14に示すように第4電極41の方が電解質膜21に接触していることがさらに好ましい(特許文献3参照)。電極41,42の少なくとも一方が電解質膜21に接触していることにより、電解質膜21の広い範囲に電圧を印加することができる。そして、電極41,42の一方が電解質膜21に接触し、他方が離間していることにより、電極41,42間に接続した電源53が印加する電圧V3がある程度大きくても、電解質膜21の両面間の電位差が抑制され、後記するように、電解質膜21におけるLi+移動のエネルギー効率の低下を抑制することができる。
第4電極41は、前記した通り、電解質膜21の補充槽1z側の面(表面)に接触して設けられ、電解質膜21の広い範囲に電圧を印加する一方で、電解質膜21の表面の十分な面積にLi含有水溶液AS´が接触するように、電極31,32と同様に網状等の多孔質構造を有する。第4電極41は、電子伝導性を有し、Li含有水溶液AS´中で電圧印加時にも安定な電極材料で形成され、さらに第1電極31と同様に下式(1)の反応および下式(2)の反応に対する触媒活性を有する材料が好ましく、さらに前記形状への加工が容易な材料であることが好ましい。第4電極41は、このような電極材料として、例えば白金(Pt)が好ましい。
第5電極42は、供給槽11内に、電解質膜21に接触しないように配置され、一方で電解質膜21との間隔が長くないことが好ましく、また、電解質膜21と平行に配置されることが好ましい。第5電極42は、第3電極33と同様に、Li含有水溶液ASiとの接触面積を多くすると共に、供給槽11内で電解質膜21の表面に接触するLi含有水溶液ASiが入れ替わり続けるように、水溶液が通り抜ける網目状等の形状であることが好ましい。第5電極42は、電子伝導性を有し、Li含有水溶液ASiで電圧印加時にも安定な電極材料で形成され、さらに下式(3)の反応に対する触媒活性を有する材料が好ましく、このような電極材料として例えば白金(Pt)が好ましい。あるいは第5電極42は、下式(3)の反応が生じる電位よりも低い電位で安定な炭素(C)、銅(Cu)、またはステンレス鋼を適用することもでき、これらの表面に触媒として機能するPtの微粒子を担持させたものがより好ましい。なお、第5電極42は、第4電極41と同様に多孔質構造を有して電解質膜21に接触して設けられていてもよい。
また、リチウム同位体濃縮装置10Cにおいては、1つの供給槽11内に、第5電極42、第3電極33および第1電極31が配置される。第5電極42と第3電極33や第1電極31とが互いに十分な間隔を空けて配置されるように、供給槽11が仕切り方向長(電解質膜21,22間)を十分な長さに設計される。詳しくは、第1電極31が主電源51にまたは電極33,31が副電源52に、第5電極42が電源53にそれぞれ接続していても、第5電極42と第1電極31または第3電極33との間に電界が実質的に発生しないように、または発生しても、第5電極42、第1電極31の各近傍での反応を阻害しない程度に十分に弱くなるように設計する。
電源53は、主電源51と同様に直流電源であり、正極が第4電極41に接続し、負極が第5電極42に接続して、第4電極41に、第5電極42に対して正の電圧V3(電圧+V3)を印加する。また、電解質膜21でのLi+移動度を調整することができるように、電源53は可変電源であってもよい。
撹拌機6は、第1実施形態と同様に、供給槽11内のLi含有水溶液ASiを循環させる。リチウム同位体濃縮装置10Cはさらに、撹拌機6を補充槽1zにも備えて、Li含有水溶液AS´を循環させ、またはさらに回収槽12にも備えて、6Li回収用水溶液ASoを循環させてもよい。また、リチウム同位体濃縮装置10Cにおいて、冷却装置7を設ける場合、電解質膜21でのLi+移動度を低下させないために、電解質膜21を冷却しないようにすることが好ましい。そのために、例えば、図14に示すように、冷却装置7は投込式であり、冷媒管が回収槽12内の6Li回収用水溶液ASoに浸漬して電解質膜22に対面して設置されている。
Li含有水溶液AS´は、リチウム同位体濃縮装置10Cの運転中に、Li含有水溶液ASiに、そのLi+濃度を高く維持するためにLiを供給するLi源である。Li含有水溶液AS´は、7Liと6Liの陽イオン7Li+,6Li+を天然存在比で含有する水溶液で、Li含有水溶液ASiと同様に、例えば水酸化リチウム(LiOH)水溶液である。また、Li含有水溶液AS´は、Li+濃度が低いと電解質膜21でのLi+移動度が低くなるので、リチウム同位体濃縮装置10Cの運転開始時においては、より高いことが好ましく、Li+の飽和水溶液または過飽和水溶液であることがさらに好ましい。Li含有水溶液ASiおよび6Li回収用水溶液ASoは、第1実施形態と同様、リチウム同位体濃縮装置10Cの運転開始時においては、例えば、LiOH飽和水溶液または過飽和水溶液、および純水である。
(リチウム同位体濃縮方法)
本発明の第2実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置によるリチウ同位体濃縮方法について、図15を参照して説明する。なお、図15において、撹拌機6および冷却装置7は省略する。本実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10Cにおいては、供給槽11内のLi含有水溶液ASiから回収槽12内の6Li回収用水溶液ASoへのLi+移動は、第1実施形態と同様である(図4、図5A~図5D参照)。さらに、補充槽1z内のLi含有水溶液AS´から供給槽11内のLi含有水溶液ASiへのLi+移動は、電圧+V1の印加によるLi含有水溶液ASiから6Li回収用水溶液ASoへのLi+移動と同様である。
すなわち、図15に示すように、リチウム同位体濃縮装置10Cにおいて、電源53が、第4電極41に、第5電極42に対して正の電圧V3(電圧+V3)を印加する。すると、第4電極41の近傍で、Li含有水溶液AS´中のOH-が下式(1)の反応を生じて、電子e-を第4電極41へ放出させ、H2OとO2を発生させ、OH-が減少する。Li含有水溶液AS´においては、OH-が減少したことに伴い、電荷のバランスを保つために、Li+が電解質膜21に溶解する下式(2)の反応を、電解質膜21の表面すなわち第4電極41の近傍で生じる。一方、第5電極42の近傍では、Li含有水溶液ASi中のH2Oが電子e-を供給されることにより、下式(3)の反応を生じて、H2とOH-を発生させる。すると、OH-の増加に伴い、電荷のバランスを保つために、電解質膜21中のLi+が移動してくる下式(4)の反応を、電解質膜21の裏面近傍で生じる。その結果、Li含有水溶液AS´、電解質膜21、およびLi含有水溶液ASiの電解質膜21近傍のそれぞれに含まれるLi+の電気化学ポテンシャル差により、Li含有水溶液AS´中からLi+が電解質膜21を透過してLi含有水溶液ASiへ移動する。
式(2)の反応から式(4)の反応まで、すなわち、Li含有水溶液AS´中のLi+の電解質膜21の表面から内部への浸入、電解質膜21中でのLi+の移動、および電解質膜21中のLi+のLi含有水溶液ASiへの移動は、Li含有水溶液ASi中のLi+の電解質膜22(電解質膜2)を経由しての6Li回収用水溶液ASoへの移動と同様であり、第1実施形態で説明した通りである。
電圧V3が大きいほど電解質膜21でのLi+移動度が高いので(図7参照)、電解質膜22でのLi+移動度に合わせて電圧V3を設定することが好ましい。また、電源53は連続通電することができるので、Li含有水溶液AS´からLi含有水溶液ASiへのLi+移動は、主電源51の間欠通電によるLi含有水溶液ASiから6Li回収用水溶液ASoへのLi+移動よりも、一定時間あたりの移動量を多くすることができる。また、図15に示すように、リチウム同位体濃縮装置10Cの運転中(主電源51の駆動中)、常時、電源53を駆動して継続的にLi含有水溶液ASiにLi+を補充していてもよいが、一定期間毎に短時間、電源53を駆動してもよく、大きな電圧V3を印加して、Li含有水溶液ASiにLi+を高速で移動させることができる。
ここで、電圧V3が大きく、両面の電位差が、電解質膜21を構成する遷移金属イオンの一部が還元する(例えば、電解質膜21がLLTOであれば、Ti4++e-→Ti3+)電圧以上であると、電解質膜21に電子伝導性を発現する。すると、電解質膜21を伝導する電子e-がジュール熱を発生させるので、Li+移動におけるエネルギー効率が急激に低下し、電圧V3をさらに増加させても増加分ほどにはLi+移動度が増加しない。具体的には、電解質膜21の電子伝導性や電極反応過電圧を決定する電極性能等にもよるが、両面の電位差で2.0V超における電圧を印加されると、電解質膜21に電子伝導性が発現し得る。リチウム同位体濃縮装置10Cにおいては、電解質膜21を両側から挟む電極41,42の一方を電解質膜21から離間させて配置しているので、電圧V3をある程度まで大きくしても、電解質膜21の両面間の電位差が前記電圧に到達し難いが、さらに大きくすると到達するので、このような電圧以下に設定することが好ましい。
本実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10Cによれば、Li含有水溶液ASiに常時または定期的に6Li同位体比が天然比のLi+が補充されるので、Li含有水溶液ASiのLi+を高濃度に維持し、かつ6Li同位体比の低下速度を遅くすることができるので、Li含有水溶液ASiを外部と循環させなくても長期間の連続運転が可能となる。ただし、ある程度以上長期化すると、Li含有水溶液ASiに多く残存する7Li+により6Li同位体比が天然比よりも大きく低下し、また、Li含有水溶液AS´のLi+濃度が低下して電圧V3に対する電解質膜21でのLi+移動度が低下してエネルギー効率が低下するので、補充槽1zおよび供給槽11のLi含有水溶液AS´,ASiを交換することが好ましい。
(第1の変形例)
本実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10Cは、公知のリチウム回収方法によってLi含有水溶液ASiにLi+を補充する。したがって、Li含有水溶液ASiに補充するLi+を海水等から回収することもできる。しかし、海水のようにLi+濃度が低い水溶液では、Li+移動度が電解質膜21の表面へのLi+の拡散により律速されるので、電圧V3に対して増加し難く、エネルギー効率が低い。さらに、海水に含まれる塩化物イオンが、第4電極41の触媒活性を劣化させ、また、電解質膜21の表面に吸着して、その結果、Li+移動度が低下する。そこで、Li+を低濃度で含有する水溶液からLi+を効率的に補充するために、以下の構成とした。
図16に示すように、本発明の第2実施形態の第1の変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Dは、処理槽1B、電解質膜(リチウム補充用リチウムイオン伝導性電解質膜)21、電解質膜(リチウムイオン伝導性電解質膜)22、第1電極(多孔質構造の電極)31、第2電極(多孔質構造の電極)32、第3電極(副電極)33、第4電極(リチウム補充用第1電極)41、第5電極(リチウム補充用第2電極)42、第6電極44、主電源51および副電源52を内蔵した電源装置5、電源(リチウム補充用電源)53、電源55、イオン交換膜8、ならびに撹拌機(循環手段)6を備える。処理槽1Bは、イオン交換膜8および電解質膜21,22によって、Li含有水溶液SWを収容する原料槽1y、Li含有水溶液AS´を収容する補充槽(リチウム補充槽)1z、Li含有水溶液ASiを収容する供給槽(第1槽)11、6Li回収用水溶液ASoを収容する回収槽(第2槽)12、の順に4つに仕切られている。リチウム同位体濃縮装置10Dは、第2実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10C(図14参照)に対して、処理槽1Bを電解質膜21の補充槽1z側で仕切るイオン交換膜8と、イオン交換膜8で補充槽1zと仕切られた原料槽1y内に設けた第6電極44と、電極44,41間に接続した電源55を追加した構成である。なお、リチウム同位体濃縮装置10Dにおいては、第4電極41は、電解質膜21の補充槽1z側の面に接触させて設けるものとする。それ以外の構成は、前記実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10Cと同様であり、必要に応じて、冷却装置7、液面センサ、排気手段等を備えていてもよい。
イオン交換膜8は、Li+を少なくとも含む陽イオンを伝導する。これにより、補充槽1zのLi含有水溶液AS´には、Cl-等のハロゲン化物イオンが含まれないようにする。イオン交換膜8は、陽イオンを透過させて陰イオンを遮蔽する陽イオン交換膜、Li+,K+,Na+等の1価の陽イオンのみを透過させる1価陽イオン選択透過性イオン交換膜、1価のイオンを透過させるバイポーラ型1価イオン選択透過性イオン交換膜等を適用することができる。これらのイオン交換膜は公知のものを適用することができ、例えば、陽イオン交換膜としてSELEMION(登録商標)CMV(AGCエンジニアリング株式会社製)やNEOSEPTA CSE(株式会社アストム製)、1価陽イオン選択透過性イオン交換膜としてSELEMION(登録商標)CSO(AGCエンジニアリング株式会社製)、バイポーラ型1価イオン選択透過性イオン交換膜としてNEOSEPTA CIMS(株式会社アストム製)を適用することができる。リチウム同位体濃縮装置10Dにおいては、第6電極44と第4電極41との間隔が短いことが好ましいので、イオン交換膜8は、電解質膜21(第4電極41)との間隔を短くなるように配置されることが好ましく、したがって、補充槽1zは、処理槽1Bの仕切り方向に短いことが好ましい。
第6電極44は、第4電極41と対になって、Li含有水溶液SW中のLi+を含む陽イオンをLi含有水溶液AS´に移動させ、また、Li含有水溶液AS´において電解質膜21の表面を相対的に低い電位とするための電極である。第6電極44は、原料槽1y内に、第4電極41に平行に配置されることが好ましく、また、イオン交換膜8越しに第4電極41との間隔を短くなるように配置されることが好ましい。また、第6電極44は、Li含有水溶液SWとの接触面積を多くするように、網目状等の形状であることが好ましい。第6電極44は、電子伝導性を有し、Li含有水溶液SWで電圧印加時にも安定な電極材料で形成され、さらに、下式(1)の反応に対する触媒活性を有する材料が好ましい。Li含有水溶液SWがハロゲン化物イオンを含む場合には、第6電極44はさらにその酸化反応、例えば塩化物イオン(Cl-)であれば下式(12)の反応に対する触媒活性を有する材料が好ましい。第6電極44は、このような電極材料として、例えば、炭素(C)、白金(Pt)、または白金微粒子を触媒担持した炭素が好ましい。
電源55は、電源53と同様に直流電源であり、正極が第6電極44に接続し、負極が第4電極41に接続し、すなわち電源53の正極に直列に接続する。電源55は、電圧V5を印加してLi含有水溶液SW,AS´に電界E3(図17参照)を発生させて、Li含有水溶液SW中のLi+を含む陽イオンをLi含有水溶液AS´に移動させ、さらにLi含有水溶液AS´において電解質膜21の表面を相対的に低い電位として、Li+を静電引力で偏在させる。電源53および電源55は、互いに独立してON/OFF可能な構成であることが好ましい。
Li含有水溶液SWは、リチウム同位体濃縮装置10Dの運転中に、Li含有水溶液ASiに、そのLi+濃度を高く維持するためにLi含有水溶液AS´を経由してLiを供給するLi源である。Li含有水溶液SWは、リチウムイオンLi+の他に、K+,Na+,Ca2+等の他の金属イオンMn+を含有する水溶液である。このような水溶液として、例えば、海水、海水から食塩を採取した後の廃棄かん水、温泉水等の地下水、使用済みリチウムイオン二次電池等を破砕して酸に溶解した後にpH調整した水溶液が挙げられる。Li含有水溶液AS´は、前記実施形態と同様に、7Liと6Liの陽イオン7Li+,6Li+を天然存在比で含有する水溶液で、例えば水酸化リチウム(LiOH)水溶液である。ただし、本変形例では、リチウム同位体濃縮装置10Dの運転(同位体濃縮)開始前において、純水であってもよい。Li含有水溶液ASiおよび6Li回収用水溶液ASoは、第1実施形態と同様、リチウム同位体濃縮装置10Dの運転開始時においては、例えば、LiOH飽和水溶液または過飽和水溶液、および純水である。
本発明の第2実施形態の第1の変形例に係るリチウム同位体濃縮装置によるリチウ同位体濃縮方法について、図17を参照して説明する。本変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Dにおいては、補充槽1zにはLi含有水溶液AS´として純水を収容し、まず、電源55を駆動して、原料槽1yに収容したLi含有水溶液SWからLi+を含む陽イオンを移動させて、Li含有水溶液AS´中のLi+がある程度の濃度に到達したら、さらに電源53の駆動を開始することが好ましい。以下、補充槽1z内のLi含有水溶液AS´から供給槽11内のLi含有水溶液ASiへのLi+移動について説明する。なお、図17において、撹拌機6は省略する。
リチウム同位体濃縮装置10Dにおいて、直列に接続された電源55と電源53は1つの電源(電源55-53と称する)とみなすことができる。電源55-53は、第6電極44に、第5電極42に対して正の電圧(V5+V3)を印加する。同時に、電源53が、第4電極41に、第5電極42に対して正の電圧V3を印加する。すると、原料槽1yおよび補充槽1zにおいては以下の反応が生じる。第6電極44、第4電極41の各近傍で、Li含有水溶液SW,AS´中のOH-が、下式(1)の反応を生じて、電子e-を放出させてH2OとO2を発生させる等、第6電極44および第4電極41へ電子e-を放出させる。Li含有水溶液SWがCl-を含む場合には、第6電極44の近傍でさらに下式(12)の反応を生じて、電子e-を放出させてCl2を発生させる。Li含有水溶液SW,AS´においては、OH-やその他の陰イオンが減少したことに伴い、電荷のバランスを保つために、Li含有水溶液AS´中のLi+が電解質膜21中へ移動する下式(2)の反応を、電解質膜21の表面すなわち第4電極41の近傍で生じる。
また、Li含有水溶液SW,AS´の電極44,41間においては、電源55による電圧V5の印加で電界E3が発生し、第6電極44が、第4電極41が設けられた電解質膜21の表面よりも電位が高い電位勾配が形成されている。したがって、Li含有水溶液SW中のOH-およびCl-は、静電引力で第6電極44に引き寄せられる。一方、Li含有水溶液SW中のLi+を含む陽イオンは、電界E3に沿って移動し、イオン交換膜8を透過して電解質膜21の表面に引き寄せられる。
一方、供給槽11においては、前記実施形態と同様に以下の反応が生じる。第5電極42の近傍で、Li含有水溶液ASi中のH2Oが電子e-を供給されることにより、下式(3)の反応を生じて、H2とOH-を発生させる。すると、OH-の増加に伴い、電荷のバランスを保つために、電解質膜21中のLi+が移動してくる下式(4)の反応を、電解質膜21の近傍で生じる。
本変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Dにおいては、前記したように、電源55による電圧V5の印加でLi含有水溶液AS´に電位勾配が形成されていることにより、陽イオンであるLi+が、静電引力で電解質膜21の表面(第4電極41)に引き寄せられて、この近傍で相対的に高濃度になる。したがって、Li含有水溶液AS´のLi+濃度が低くても、Li+が電解質膜21の表面へ十分に拡散することができ、電解質膜21におけるLi+移動度が低下しない。
電界E3が強いほど、Li+が電解質膜21の表面に引き寄せられて電解質膜21におけるLi+移動度を高くすることができる。しかし、電界E3を強くするべく電圧V5を大きくして、水の電気分解が発生する電圧(+1.229V vs. SHE、25℃)に達すると、Li含有水溶液AS´において、第4電極41の近傍で式(3)の反応を生じてH2を発生させることになる。この反応は電子e-を受け取るので、第4電極41の近傍での前記の式(1)の反応とは電子e-の移動が逆向きになる。第4電極41の近傍すなわち電解質膜21の補充槽1z側の面がH2の発生電位になると、電解質膜21の両面間の電位差にかかわらず、電解質膜21を構成する遷移金属イオンの一部が還元する(例えば、電解質膜21がLLTOであれば、Ti4++e-→Ti3+)電位に達し、電解質膜21に電子伝達性が発現する。その結果、前記したように電解質膜21でのLi+移動におけるエネルギー効率が急激に低下する。したがって、電圧V5は、水の電気分解が発生する電圧未満とする。
さらに、電圧V5が水の電気分解が発生する電圧未満であっても、電圧V3に対して一定の大きさを超えると、第4電極41から電源55の負極へ電流が流れ、すなわち第4電極41が電子e-を受け取り、近傍で式(3)の反応を生じてH2を発生させることになる。その結果、電解質膜21に電子伝達性が発現する。したがって、電圧V5は、電源55の負極に向けて第4電極41から電流が流れない範囲で大きいことが好ましい。そのために、例えば、第4電極41に電流計を直列に接続して(電源55と電源53との接続部と第4電極41との間に電流計を接続して)電流を計測しながら電圧V3,V5を印加すればよい。
本変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Dは、原料槽1yが、フィルタ等を介して海中等に開放されていてもよい。また、リチウム同位体濃縮装置10Dは、イオン交換膜8を備えず、すなわち前記実施形態に係るリチウム同位体濃縮装置10Cと同様に、処理槽1Bが3つに仕切られていてもよく、補充槽1zにLi含有水溶液AS´として海水等を収容することができる。電圧V5の印加により、Li含有水溶液AS´中のCl-等の陰イオンが第4電極41および電解質膜21から遠ざけられるので、イオン交換膜8がなくてもCl-が電解質膜21の表面に吸着し難く、また、第4電極41がCl-によって劣化し難いので、電解質膜21でのLi+移動度が低下しない。また、Li含有水溶液AS´中のLi+が第4電極41すなわち電解質膜21の表面に引き寄せられて、電解質膜21でのLi+移動度を高くすることができる。また、第6電極44と第4電極41の間にイオン交換膜8がないことにより、電圧V5に対して電界E3を強くすることができる。また、このようにイオン交換膜8を備えない場合に、前記実施形態と同様に、補充槽1zにLi含有水溶液AS´としてLiOH水溶液を収容してもよい。運転時間の経過によりLi含有水溶液AS´のLi+濃度が低下しても、電解質膜21におけるLi+移動度が低下し難いので、Li含有水溶液AS´の交換頻度を低減することができる。この場合、Li含有水溶液AS´のLi+濃度が一定未満に低下したら、電源55による電圧V5の印加を開始すればよい。
本変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Dによれば、Li含有水溶液ASiに、海水等のLi含有水溶液SWからLi+を補充することができる。そこで、Li含有水溶液ASiについても、リチウム同位体濃縮装置10Dの運転(同位体濃縮)開始前において純水を供給槽11に収容して、Li含有水溶液SWからLi含有水溶液AS´を経由してLi+をLi含有水溶液ASiで回収することができる。すなわち、リチウム同位体濃縮装置10Dは、リチウム回収装置とリチウム同位体濃縮装置10と処理槽を一体化したカスケード構造のリチウム回収・同位体濃縮複合装置とすることができる。この場合には、まず、電源53,55を駆動して、Li含有水溶液ASiを目標とするLi+濃度のLiOH水溶液(例えば、LiOH飽和水溶液)としてから、電源装置5を駆動して同位体濃縮を開始する。
(第2の変形例)
前記変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Dは、リチウム回収・同位体濃縮複合装置とすることができる。しかし、純水からLiOH飽和水溶液のような高濃度のLi+水溶液とするには、多量のLi+を移動させる必要があり、同位体濃縮を開始するまで時間がかかる。そこで、電解質膜21に電子伝達性が発現させずにLi+移動度を高くするために、以下の構成とした。
図18に示すように、本発明の第2実施形態の第2の変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Eは、処理槽1B、電解質膜(リチウム補充用リチウムイオン伝導性電解質膜)21、電解質膜(リチウムイオン伝導性電解質膜)22、第1電極(多孔質構造の電極)31、第2電極(多孔質構造の電極)32、第3電極(副電極)33、第4電極(リチウム補充用第1電極)41、第5電極(リチウム補充用第2電極)42A、副電極43、第6電極44、主電源51および副電源52を内蔵した電源装置5、電源(リチウム補充用電源)53、電源54、電源55、イオン交換膜8、ならびに撹拌機(循環手段)6を備える。処理槽1Bは、イオン交換膜8および電解質膜21,22によって、Li含有水溶液SWを収容する原料槽1y、Li含有水溶液AS´を収容する補充槽(リチウム補充槽)1z、Li含有水溶液ASiを収容する供給槽(第1槽)11、6Li回収用水溶液ASoを収容する回収槽(第2槽)12、の順に4つに仕切られている。リチウム同位体濃縮装置10Eは、第2実施形態の第1の変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10D(図16参照)に対して、第5電極42Aを第4電極41と同様に多孔質構造として電解質膜21に接触させ、供給槽11内に第5電極42Aと対面しかつ電解質膜21および第5電極42Aから離間して設けた副電極43と、電極42A,43間に接続した電源54を追加した構成である。それ以外の構成は、前記変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Dと同様であり、必要に応じて、冷却装置7、液面センサ、排気手段等を備えていてもよい。
第5電極42Aは、第4電極41と対になって電解質膜21の両面間に電圧を印加するための電極であり、また、Li含有水溶液ASiにおいて電解質膜21の供給槽11側の面(裏面)の電位を相対的に高くするための電極である。そのために、第5電極42Aは、多孔質構造を有して、電解質膜21の供給槽11側の面に接触して設けられる。第5電極42Aは、電子伝導性を有し、Li含有水溶液ASi中で電圧印加時にも安定な電極材料で形成され、さらに下式(1)の反応および下式(4)の反応に対する触媒活性を有する材料が好ましく、さらに前記形状への加工が容易な材料であることが好ましい。第5電極42Aは、このような電極材料として、例えば白金(Pt)が好ましい。
副電極43は、Li含有水溶液ASiにおいて電解質膜21の裏面よりも低い電位を形成するための電極であり、また、第4電極41と対になって電圧を印加するための電極である。したがって、副電極43は、供給槽11内に、電解質膜21および第5電極42Aに接触しないように、かつ第5電極42Aに対面して配置され、第5電極42Aと平行に配置されることが好ましい。さらに、後記するように、副電極43は、ショートしない程度に第5電極42Aに近接して配置されることが好ましい。また、副電極43は、Li含有水溶液ASiとの接触面積を多くするように、網目状等の形状であることが好ましい。副電極43は、電子伝導性を有し、Li含有水溶液ASi中で電圧印加時にも安定な電極材料で形成され、さらに下式(3)の反応に対する触媒活性を有する材料が好ましい。副電極43は、このような電極材料として、例えば白金(Pt)が好ましい。あるいは副電極43は、下式(3)の反応が生じる電位よりも低い電位で安定な炭素(C)、銅(Cu)、またはステンレス鋼を適用することもでき、これらの表面に触媒として機能するPtの微粒子を担持させたものがより好ましい。
電源54は、電源53と同様に直流電源であり、正極が第5電極42Aに接続し、負極が副電極43に接続し、すなわち電源53の負極に直列に接続する。電源54は、電圧V4を印加して、Li含有水溶液ASiにおいて電解質膜21の裏面よりも低い電位を形成して、電解質膜21の電子伝導性の発現を抑制する。
本発明の第2実施形態の第2の変形例に係るリチウム同位体濃縮装置によるリチウ同位体濃縮方法について、図19を参照して説明する。本変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Eにおいては、補充槽1zおよび供給槽11にはLi含有水溶液AS´,ASiとして純水を収容する。そして、第1の変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10D(図17参照)と同様に、まず、電源55を駆動して、原料槽1yに収容したLi含有水溶液SWからLi+を含む陽イオンを移動させて、Li含有水溶液AS´中のLi+がある程度の濃度に到達したら、さらに電源53,54の駆動を開始することが好ましい。以下、補充槽1z内のLi含有水溶液AS´から供給槽11内のLi含有水溶液ASiへのLi+移動について説明する。なお、図19において、撹拌機6は省略する。
リチウム同位体濃縮装置10Eにおいて、直列に接続された電源55と電源53と電源54は、1つの電源(電源55-53-54と称する)とみなすことができる。同様に、電源53と電源54は1つの電源(電源53-54と称する)とみなすことができる。電源55-53-54は、第6電極44に、副電極43に対して正の電圧(V5+V3+V4)を印加する。同時に、電源53-54が、第4電極41に、副電極43に対して正の電圧(V3+V4)を印加する。すると、原料槽1yおよび補充槽1zにおいては、前記のリチウム同位体濃縮装置10Dと同様に、第6電極44、第4電極41の各近傍で下式(1)の反応を、さらに第6電極44の近傍で下式(12)の反応を生じ、これに伴い、Li含有水溶液AS´中のLi+が電解質膜21中へ移動する下式(2)の反応を第4電極41の近傍で生じる。
一方、供給槽11においては以下の反応が生じる。副電極43の近傍では、電源53-54による電圧(V3+V4)の印加で、Li含有水溶液ASi中のH2Oが電子e-を供給されることにより、下式(3)の反応を生じて、H2とOH-を発生させる。すると、副電極43の近傍でH+が減少するので、電解質膜21の裏面すなわち第5電極42Aの近傍で、電解質膜21中のLi+がLi含有水溶液ASiに移動してくる下式(4)の反応を生じる。また、同時に、電源54が、第5電極42Aに、副電極43に対して、電圧V3,V5に基づく所定の大きさの正の電圧V4を印加する。すると、第5電極42Aの近傍では、Li含有水溶液ASi中のOH-が下式(1)の反応を生じて、電子e-を第5電極42Aへ放出させ、H2OとO2を発生させる。その結果、第5電極42Aの近傍では、下式(1)の反応と下式(4)の反応による陽イオン過剰となる電荷の不均衡が生じる。しかし、下式(3)の反応による副電極43の近傍で生じる陽イオン不足を補うように、また、電圧V4の印加により発生する電界E4に沿って、Li+が第5電極42A近傍から副電極43近傍へ速やかに移動し、結果としてLi含有水溶液ASi中の電荷の不均衡が解消される。なお、電圧V3と電圧V4の大きさの相対的関係については後記する。
本変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Eにおいて、電圧V5の印加による効果は、第1の変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10Dと同様である。本変形例においてはさらに、電圧V4の印加により、Li含有水溶液ASiに、第5電極42Aを正とした適切な電位差が生じる。すると、副電極43からLi含有水溶液ASiに供給された電子e-が、電解質膜21の裏面の第5電極42Aから電源54の正極へ移動し、第5電極42Aの電位がO2発生電位程度に高く維持される。O2発生電位は電解質膜21を構成する遷移金属イオンの還元電位よりも高いので、電解質膜21が両面の電位差にかかわらず電子e-を伝導しない。したがって、電圧V3を、電解質膜21を構成する少なくとも1種の遷移金属イオンの還元電位に電解質膜21を到達させる印加電圧以上の大きな電圧に設定することができる。言い換えると、このような大きな電圧V3を、電圧V4を印加しないで印加すると、電解質膜21においてその負極側(供給槽11側)の面から電子e-を取り込んで遷移金属イオンが還元することになる。しかし、本変形例においては前記したように、電圧V4の印加により、電解質膜21が遷移金属イオンの還元電位に到達せず、電解質膜21が電子e-を伝達しない。
電圧V4が電圧V3に対して十分な大きさでないと、第5電極42Aから電源53の負極へ電流が流れ、すなわち第5電極42Aが電子e-を受け取り、近傍で式(3)の反応を生じてH2を発生させることになる。その結果、電解質膜21に電子伝達性が発現する。したがって、電圧V4は、電源53の負極に向けて第5電極42Aから電流が流れない大きさとする。このような電圧V4は、第5電極42A-副電極43間の抵抗(Li含有水溶液ASiの抵抗)が低いほど、小さくすることができる。したがって、第5電極42A(電解質膜21)と副電極43の間隔が短いことが好ましい。ただし、電圧V4がこのような大きさにおいてより大きくなるにしたがい、電源54から第5電極42Aに流れる電流が増大して、第5電極42Aの近傍でのO2の発生(式(1)の反応)および副電極43の近傍でのH2の発生(式(3)の反応)がLi+の移動量の増加以上に増大し、エネルギー効率が低下する。そのために、例えば、第5電極42Aに電流計を直列に接続して(電源53と電源54との接続部と第5電極42Aとの間に電流計を接続して)電流を計測しながら電圧V4を印加すればよい。
Li含有水溶液ASiが目標とするLi+濃度の、例えば飽和LiOH水溶液となったら、電源装置5を駆動して同位体濃縮を開始する。また、前記実施形態で説明したように、電源53の連続通電による電解質膜21でのLi+移動の方が、主電源51の間欠通電による電解質膜22でのLi+移動よりも、一定時間あたりの移動量を多くすることができる。したがって、同位体濃縮を開始した後は、電圧V3の電圧を下げ、さらに必要に応じて電圧V5の電圧を下げ、電源54を停止することができる(図18、図17参照)。
第2実施形態およびその変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10C,10D,10Eは、第1実施形態の変形例に係るリチウム同位体濃縮装置10B(図8参照)の供給槽11に連結させた構成とすることもできる。同様に、リチウム同位体濃縮装置10C,10D,10Eは、多段式リチウム同位体濃縮装置20,20A,20B(図10、図11Aおよび図11B、図12参照)の供給槽11に連結させた構成とすることもできる。
以上、本発明に係るリチウム同位体濃縮装置およびリチウム同位体濃縮方法について、本発明を実施するための形態について説明したが、以下に、本発明の効果を確認した実施例について説明する。なお、本発明はこの実施例および前記形態に限定されるものではなく、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
図1および図8に示す、本発明の実施形態およびその変形例に係るリチウム同位体濃縮装置について、電圧印加条件を変化させて、リチウムの同位体比の変化量を測定した。
(リチウム同位体濃縮装置の作製)
リチウム同位体濃縮装置は、電解質膜として、50mm×50mm、厚さ0.5mmの板状のLa0.57Li0.29TiO3(リチウムイオン伝導性セラミックスLLTO、東邦チタニウム(株)製)を使用した。この電解質膜の両面のそれぞれの中央部に、第1電極および第2電極(多孔質構造の電極)として、厚さ10μm、幅0.5mm、間隔0.5mmの格子状の電極を19.5mm×20.5mmの大きさに形成し、さらにこの電極に接続する、電源に接続するためのリード線を形成した。第1電極、第2電極、およびリード線は、Ptペーストを電解質膜の表面にスクリーン印刷し、大気中において900℃で1h焼成して形成した。また、第3電極(副電極)として、20mm×20mmのPtメッシュ電極を使用した。電極等を形成した電解質膜を、アクリル板製の処理槽内に装着して供給槽と回収槽に仕切り、供給槽内に、第3電極を電解質膜表面の第1電極に正対するように配置した(第3電極-電解質膜間距離:50mm)。さらに処理槽を、温度調整機能を有する恒温槽に収容した。そして、第1電極と第2電極の間に、第1電極を正極として主電源を接続し、第3電極と第1電極の間に副電源を接続し、リチウム同位体濃縮装置とした。
リチウム同位体濃縮装置の供給槽にLi含有水溶液として、7Li:92.23mol%,6Li:7.77mol%でLiを含有する1mol/lの水酸化リチウム水溶液を、回収槽に6Li回収用水溶液として純水を、150mlずつ、第1電極、第2電極、および第3電極が完全に浸るように投入した。そして、処理槽内の水酸化リチウム水溶液および純水の液温を20℃に調整した。
(リチウム同位体濃縮実験)
主電源による第1電極と第2電極との間の印加電圧V1を、LLTO(電解質膜)がLi+伝導性を示し、かつ電子伝導性が発現しないまたは十分に小さい2.0Vに設定した。また、副電源による第3電極と第1電極との間の印加電圧V2を1.0V(200V/m相当)に設定した。実施例1として、電圧+V1(第1電極が主電源の正極)の1.0秒間の印加と、電圧-V2(第3電極が副電源の負極)の0.5秒間の印加と、を間に0.5秒間の無印加期間を挟んで交互に繰り返し実行した(図2、表1参照)。実施例2として、電圧+V1の1.0秒間の印加と、電圧-V2の0.5秒間の印加と、電圧+V2(第3電極が副電源の正極)の0.5秒間の印加と、を電圧+V1の印加の前後に0.5秒間の無印加期間を挟んでこの順に繰り返し実行した(図9、表1参照)。また、比較例1として、電圧+V1の1.0秒間の印加と、1.5秒間の印加停止とを交互に繰り返し実行した。実施例1、実施例2、および比較例1は、電圧+V1の累計印加時間3600秒間まで実行した。また、比較例2として、電圧+V1の1時間(3600秒間)の連続通電を行った。いずれも電圧を印加している間、供給槽および回収槽の水溶液をそれぞれ撹拌した。電圧V1,V2、電圧印加サイクル、運転時間を表1に示す。表1の電圧印加サイクルは、()内に印加時間を記載し、時間のみは無印加期間を表す。
実験後、回収槽の水溶液を回収し、水溶液における7Li,6Liの量を誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)装置(Elan drc-e、(株)パーキンエルマー製)で測定した。7Li,6Liの量から、電圧+V1の累計印加時間1時間あたりのLi+移動量(7Li,6Liの量の合計)、運転時間1時間あたりのLi+移動量、および6Li同位体分離係数を算出した。6Li同位体分離係数は、(電圧印加後の回収槽の水溶液の(6Li/7Li)モル比)/(電圧印加前の供給槽の水酸化リチウム水溶液の(6Li/7Li)モル比)とする。Li+移動量(電圧+V1の印加時間(通電時間)あたりのLi+移動量、Li+移動度)、運転時間あたりのLi+移動量、および6Li同位体分離係数を、表1および図20に示す。
表1および図20に示すように、連続通電による比較例2に対して、電解質膜の両面間に電圧+V1を間欠的に印加した実施例1、実施例2、および比較例1は、いずれも6Li同位体分離係数が高かった。さらに、電圧+V1の印加停止中に、供給槽内のLi含有水溶液の第3電極-第1電極間に電圧-V2を印加した実施例1および実施例2は、無印加の比較例1よりも6Li同位体分離係数が高かった。このことから、Li含有水溶液において、電解質膜の表面に対してこの表面から離間した第3電極に負の電圧を印加することにより、電解質膜の表面に吸着していたLi+がより離脱し易くなり、電圧+V1の間欠的な印加による6Li濃縮効果をいっそう向上させることができるといえる。また、電圧+V1の印加停止中に、電圧-V2を印加した後にさらに電圧+V2を印加した実施例2は、Li+移動度が実施例1の約3.7倍と大幅に高く、運転時間あたりのLi+移動量でも約3倍と高かった。このことから、電圧+V2の印加により、電圧+V1の印加再開直後におけるLi+移動度について、電圧-V2の印加による低下を解消し、さらには向上させて、時間的効率、エネルギー効率共に高くすることができるといえる。