以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
図1は、本発明の実施の形態における透磁率測定装置の構成例を示す図である。本発明の実施の形態の透磁率測定装置は、プローブ10、ネットワークアナライザ20(信号測定器)および数値解析処理を実行する演算処理装置(例えばパソコンのようなコンピュータ装置)30を備えて構成される。
プローブ10は、試料(被測定物)の電磁材料1に接触又は近接するように配置され、信号ケーブル(例えば同軸ケーブル)3を介してネットワークアナライザ(例えば、アジレントテクノロジー社製N5227A)20に接続する。電流供給源であるネットワークアナライザ20により、電流信号を供給して、被測定物の電磁材料1の透過係数(S21)を測定し、その信号データを演算処理装置(コンピュータ装置)30に取り込み、所定の数値解析処理により被測定物である電磁材料1の透磁率(複素透磁率)及び誘電率(複素誘電率)を求める。また、電磁材料1に磁界を印加するために通電制御されるヘルムホルツコイル(電磁コイル)からなる磁石(磁界印加部)40が用いられる。
演算処理装置30は、電磁材料1の高周波透磁率を求める透磁率処理手段及び高周波誘電率を求める誘電率処理手段として機能し、透磁率及び誘電率を算出する演算処理プログラムを実行する。演算処理プログラムは、後述の透磁率及び誘電率の算出処理を実行するコンピュータプログラムである。演算処理プログラムの実行に用いるテーブルデータが演算処理装置30の記憶手段に記憶される。このテーブルデータは3次元の電磁界解析の数値データであって、具体的には、既知の電磁界解析プログラムを用いたシミュレーション計算によって、評価対象の電磁材料1のインダクタンスL-透磁率μの関係、及びキャパシタンスC-誘電率εの関係を示すデータであり、あらかじめ用意される。
図2は、プローブ10の第1の構成例を示す図であり、図2(a)は第1の構成例のプローブ10の形態を示し、図2(b)は第1の構成例のプローブ10に試料を配置した状態を示す図である。図2(a)に示すように、プローブ10は、マイクロストリップ導体11、フレキシブル基板12(例えば、信越化学工業株式会社製ポリイミド基板 RBF-5、比誘電率=3.5、厚み=0.025mm)、フッ素樹脂基板13(例えば、中輿化成工業製CGK-500、比誘電率=5、厚み=0.5mm)、地導体14、及びマイクロストリップ導体11の両端と接続された1対のコネクタ15を備えて構成されている。ここで、マイクロストリップ導体11はエッチングにより直線マイクロストリップ線路に加工した。マイクロストリップ導体11とフレキシブル基板12は化学的処理あるいは熱的処理により一体的に固着している。地導体14は例えば銅箔で形成される。マイクロストリップ導体11と地導体14により誘電体であるフレキシブル基板12及びフッ素樹脂基板13を挟んだ構成は、マイクロストリップラインを形成する。
図2(b)に示すように、測定対象の電磁材料1は、平面状の基板17に付着して用意され、マイクロストリップ導体11と近接または接触するように上部から圧力(図示せず)を加えて配置される。マイクロストリップ導体11はフレキシブルに変形可能であることから、基板17の反りに対応してマイクロストリップ導体11と電磁材料1が密着配置可能である。
図3は、プローブ10の第2の構成例を示す図であり、図3(a)は第2の構成例のプローブ10の形態を示し、図3(b)は第2の構成例のプローブ10に試料を配置した状態を示す図である。図3(a)に示すように、プローブ10は、マイクロストリップ導体11(幅=0.4mm)、フレキシブル基板(シート)12(例えばROGERSduroid5880 比誘電率=2.2,厚み=0.127mm)、地導体14、及びマイクロストリップ導体11の両端と接続された一対のコネクタ15を備えて構成されている。コネクタ15は信号ケーブル3(図1)と接続する。マイクロストリップ導体11とフレキシブル基板12は化学的処理あるいは熱的処理により一体的に固着している。第2の構成例では、図2の第1の構成例におけるフッ素樹脂基板13を省き、平面構造と曲面構造を有する地導体14にフレキシブル基板12が押しつけられた構造になっている。地導体14の内部は説明のために透明に記載したが、実際には銅などの金属材料で構成されている。マイクロストリップ導体4はエッチングにより加工した。マイクロストリップ導体11は中央の直線形状部分11aとその両側の曲線形状部分11bから構成されている。マイクロストリップ導体11の端部はコネクタ15に電気的に接続されている。マイクロストリップ導体11は直線形状部分11aおよび曲線形状部分11bともに特性インピーダンスを50Ωに整合している。図2の構成と同様に、マイクロストリップ導体11と地導体14により誘電体であるフレキシブル基板12を挟んだ構成は、マイクロストリップラインを形成する。
図3(b)に示すように、測定対象の電磁材料1は、平面状の基板17に付着して用意され、マイクロストリップ導体11と近接または接触するように上部から圧力(図示せず)を加えて配置される。
マイクロストリップ導体11は、地導体14に設けられる開口部14aを通して、地導体14内に延び、反対面側のコネクタ15に接続されており、例えば、大口径の電磁材料1および基板17が近接配置した場合、コネクタ15やそれに接続する信号ケーブル3(図1)とぶつかることなく測定可能である。
マイクロストリップ導体11と電磁材料1は直接密着させるか、その間にレジスト等の絶縁体を数ミクロン厚塗布して測定する。または、空隙を所定量とするようにプローブ10の周辺にギャップ形成用治具を設け、電磁材料1にマイクロストリップ導体11を近接配置して測定する。電磁材料1が絶縁性の薄膜である場合には、マイクロストリップ導体11と電磁材料1は直接密着させるほうが測定のSN比は向上する。
上述したプローブ10を備えた測定装置により、評価対象の電磁材料の透磁率及び誘電率を測定する手順について、以下に説明する。
図4及び図5は、本発明の実施の形態における透磁率及び誘電率の測定方法の手順を示すフローチャートであり、図4は透磁率を測定する手順を示すフローチャート、図5は誘電率を測定する手順を示すフローチャートである。図4と図5の手順を、互いに続けて同一の測定系で行うことができ、評価対象の電磁材料の透磁率と誘電率を連続的に同一タイミングでの測定作業で測定することができる。まず、被測定物の電磁材料の透磁率を測定する手順を図4に示す。
図4において、評価対象の電磁材料1にプローブ10のマイクロストリップ導体11を接触させる(S100)。そして、ヘルムホルツコイル(磁界印加部)40の中に入れ、強い直流磁界(例えば20kOe程度)を印加し、電磁材料1を磁気的に飽和させ、ネットワークアナライザ20をキャリブレーションする(S102)。そうすることで、プローブ10及び同軸ケーブル3の電気長、電磁材料の直流的なインピーダンス、非磁性信号等を除去する。このキャリブレーションにより、被測定物に所定磁界を印加した状態を基準とした測定が可能となる。
その後、直流磁界を解除して電磁材料1の寄与分の透過係数(S21)を測定する(S104)。磁気飽和させるのに十分な磁界印加によるキャリブレーション後に、磁界の印加を止めて透過係数(S21)を測定することで、電磁材料1の寄与分のみの透過係数(S21)を測定することができる。
測定された透過係数(S21)に基づいて、以下の演算処理により、透磁率を求める(S106)。透磁率を求める演算処理は、例えば、次の通りである。
(a1)評価対象の電磁材料について、コンピュータ装置30を用いて、既知の電磁界解析処理(例えば、有限要素法解析)を行い、電磁材料について、透磁率とインダクタンスとの関係をテーブルデータとして取得する。
図6は、電磁界解析処理により求められたデータ例を示す図であり、図6(a)は電磁材料の磁界解析図を表すコンピュータ装置30の画面例を示し、図6(b)は透磁率μ(比透磁率μr)とインダクタンスLとの関係を示すテーブルデータの例である。有限要素法解析処理により、透磁率μを変化させたときのインダクタンスLをマクスウェル(Maxwell)の方程式を用いて計算により求めることができる。透磁率とインダクタンスとの関係を示すテーブルデータは、コンピュータ装置30の記憶手段にあらかじめ格納される。また、図示される測定結果の例は、発明者らの測定作業によって得られたデータであり、測定対象とした電磁材料は、粉末樹脂複合シートである。
(a2)ステップS104で測定された透過係数(S21)を以下の(1)式により、インピーダンスZに変換する。
(a3)求められたインピーダンスZを以下の(2)式により、インダクタンスLに変換する。
(a4)電磁界解析により求めた透磁率-インダクタンスの関係を示すテーブルデータから、算出されたインダクタンスLに対応する透磁率μを求める。
図7は、ステップS106の処理により求められた透磁率μを示すグラフである。電磁材料1の透磁率(複素透磁率)μは、以下(3)式で表され、μ'は透磁率の実数部、μ''は透磁率の虚数部である。
続いて、評価対象の電磁材料の誘電率を測定する手順を図5に示す。
まず、ネットワークアナライザ20をキャリブレーションする(S200)。このとき、被測定物の電磁材料1はプローブ10に接触または近接させず、被測定物1のない状態でキャリブレーションする。磁界も印加されない。このキャリブレーションにより、被測定物がプローブに接触または近接配置されていない状態を基準とした測定が可能となる。
キャリブレーション後、被測定物の電磁材料1をプローブ10のマイクロストリップ導体11に接触または近接させる(S202)。そして、ヘルムホルツコイルからなる磁界印加部40により磁界を印加し、磁界を印加した状態で、ネットワークアナライザ20により透過係数(S21)を測定する(S204)。このとき、磁界印加部40による磁界を変化させて印加し、異なる強さの磁界を印加した状態それぞれにおける透過係数(S21)を測定する。印加される磁界は、磁界を印加しない(H=0)場合も含めて、複数段階(例えば10段階以上)に異なるように設定される。
ステップS204にて測定された異なる強さの磁界に対応する複数の透過係数(S21)に基づいて、電磁材料1の誘電率εをコンピュータ装置30により算出する(S206)。誘電率を算出する具体的な処理は、例えば次の通りである。
(b1)評価対象の電磁材料について、コンピュータ装置30を用いて、既知の電磁界解析処理(例えば、有限要素法解析)を行い、電磁材料について、誘電率εとキャパシタンスCとの関係をテーブルデータとして取得する。
図8は、電磁界解析処理により求められたデータ例を示す図であり、図8(a)は電磁材料の電界解析図を表すコンピュータ装置30の画面例を示し、図8(b)は誘電率ε(比誘電率εr)とキャパシタンスCとの関係を示すテーブルデータの例である。有限要素法解析処理により、誘電率εを変化させたときのキャパシタンスCをマクスウェル(Maxwell)の方程式を用いて計算により求めることができる。誘電率εとキャパシタンスとの関係を示すテーブルデータは、コンピュータ装置30の記憶手段にあらかじめ格納される。また、図示される測定結果の例は、発明者らの測定作業によって得られたデータであり、測定対象とした電磁材料は、図6の例と同様に、粉末樹脂複合シートである。
(b2)ステップS204で測定された透過係数(S21)を以下の(4)式により、アドミッタンスYに変換する。
(b3)求められたアドミッタンスYを以下の(5)式により、キャパシタンスCに変換する。
(b4)テーブルデータにより、求められたキャパシタンスCに対応する誘電率εを求める。
図9は、求められた誘電率ε(実数部)の測定結果例を示す。図9に示す測定結果では、磁界の強さ(磁束密度)6mT、1T、2Tの場合の誘電率εの値が例示されるが、発明者らによる実際の測定では、より狭い間隔(0.5T)毎に磁界を異ならせた測定における誘電率εを算出し、印加した磁界により誘電率εが異なる結果が得られた。また、磁界の強さ(磁束密度)6mTは、周囲のわずかな漏れ磁界を検出したものであり、磁界印加部40による磁界印加はされておらず、実質的に磁界のない状態での測定に相当する。
電磁気学上では、磁界と電界は直交しているため、磁界の変化に対して電界に対する応答特性を表す誘電率εが変化することはないと考えられるが、電磁材料が磁性体及び誘電体の両方の特性を有する場合、実際の測定系では、磁界の変化により誘電率εが変化することが見いだされた。測定された透過係数(S21)に磁界印加による信号成分(磁気信号)が含まれることがその理由と考えられ、その磁気信号分の影響を取り除いたより正確な誘電率εを求める次の処理を実行する。
(b5)異なる磁界ごとに求められた誘電率εに対して、磁界の影響を除去した正確な誘電率εを算出するため、磁界の強さを無限大(H=∞)にした場合の誘電率ε(H=∞)を外挿処理により求める。
図10は、誘電率εの外挿処理を説明する図である。図10において、グラフの横軸は、磁界の強さ(磁束密度B)の逆数、縦軸は誘電率εを示すことから、例えば線形外挿または曲線近似を用いた演算処理によりグラフ左端での誘電率ε(H=∞)を求める、これにより、磁界成分を除去したより正確な誘電率εが得られる。
図11は、ステップS206により求められた誘電率εを示すグラフである。電磁材料1の誘電率(複素誘電率)εは、以下(6)式で表され、ε'は誘電率の実数部、ε''は誘電率の虚数部である。
図4の手順と図5の手順は、連続して行うことができる測定処理であり、被測定物の透磁率と誘電率の測定を同一の測定系で同時に行うことができる。
図12は、本発明の実施の形態における透磁率及び誘電率を測定する方法の別の手順を示すフローチャートである。
まず、ネットワークアナライザ20をキャリブレーションする(S300)。このとき、被測定物の電磁材料1はプローブ10に密接または近接させず、被測定物1のない状態でキャリブレーションする。磁界も印加されない。
キャリブレーション後、被測定物の電磁材料1をプローブ10のマイクロストリップ導体11に接触または近接させる(S302)。そして、ヘルムホルツコイルからなる磁界印加部40により磁界を印加し、磁界を印加した状態で、ネットワークアナライザ20により透過係数(S21)を測定する(S304)。このとき、磁界印加部40による磁界を変化させて印加し、異なる強さの磁界を印加した状態それぞれにおける透過係数(S21)を測定する。印加される磁界は、磁界を印加しない(H=0)場合も含めて、複数段階(例えば10段階以上)に異なるように設定される。
図13は、異なる強さの磁界を印加したときの透過係数(S21)の測定結果の例を示す図である。図13(a)は透過係数(S21)の実数部の測定結果例、図13(b)は透過係数(S21)の虚数部の測定結果例を示す。図13の測定結果では、磁界の強さ75 Oe、4000 Oe、12000 Oe、20000 Oeの場合の透過係数(S21)の実測値が例示されるが、発明者らによる実際の測定では、より狭い間隔(2000 Oe)毎に磁界を異ならせて測定が行われた。また、磁界の強さ75 Oeは、周囲のわずかな漏れ磁界を検出したものであり、磁界印加部40による磁界印加はされておらず、実質的に磁界のない状態での測定に相当する。
ステップS304にて測定された異なる強さの磁界に対応する複数の透過係数(S21)を用いて、コンピュータ装置30により、磁界の強さが無限大(H=∞)であるときの透過係数(S21(H=∞))を算出する(S306)。磁界の強さが無限大(H=∞)であるときの透過係数(S21(H=∞))は、磁界の強さが有限値である複数の透過係数(S21)の測定値を外挿処理することにより求めることができる。外挿処理は、上述の(b5)の処理と同様であり、例えば線形外挿または曲線近似を用いた外挿演算処理により、磁界印加部による有限の磁界の強さで測定された透過係数(S21)を延長して磁界の強さが無限大(H=∞)であるときの透過係数(S21(H=∞))を求める。
図14は、磁界の強さが無限大(H=∞)であるときの透過係数(S21(H=∞))の測定結果例を示す図である。図14(a)は透過係数(S21(H=∞))の実数部の測定結果例、図14(b)は透過係数(S21(H=∞))の虚数部の測定結果例を示す。図13のグラフに重ねて、透過係数(S21(H=∞)が太い点線で示される。
磁界の強さが無限大であるときの透過係数(S21(H=∞))を求めることにより、誘電率εから磁気成分の影響を完全に除去され、より正確な誘電率εを算出することができ、さらに、有限の強さの磁界印加によりキャリブレーションして求められた透過係数(S21)から求められる透磁率(例えば図4の処理)と比較して、より精度の高い透磁率μを算出することができる。
ステップS306により求められた透過係数(S21(H=∞))を用いて、電磁材料の透磁率μ及び誘電率εを算出する(S308)。透磁率μは、上記(1)、(2)、(3)式を用いて上記処理(a1)~(a4)の演算処理を実行することで算出することができ、誘電率εは、上記(4)、(5)、(6)式を用いて上記処理(b1)~(b4)の演算処理を実行することで算出することができる。
図15は、ステップS308の処理により求められた透磁率μの測定結果例を示すグラフであり、μ'は透磁率の実数部、μ''は透磁率の虚数部である。また、図16は、ステップS308の処理により求められた誘電率εの測定結果例を示すグラフであり、ε'は誘電率の実数部、ε''は誘電率の虚数部である。
プローブ10に構成される信号伝送線路は、上述の構成例で示されたマイクロストリップ線路に限られず、例えばコプレーナ線路や同軸線路を用いた構成であってもよい。
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。