以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
[細胞構造体]
本実施形態に係る細胞構造体は、平滑筋細胞及び断片化細胞外マトリックスを含む平滑筋細胞層と、血管内皮細胞を含む血管内皮細胞層と、を有し、免疫細胞を含む。上記平滑筋細胞層と上記血管内皮細胞層は接している。本実施形態に係る細胞構造体は、血管疾患を有する血管壁の少なくとも一部の機能に類似した機能及び/又は血管疾患を有する血管壁の少なくとも一部の構造に類似した構造を有する生体組織モデルである、血管疾患を有する血管壁組織として用いることができる。
本明細書において「細胞構造体」とは、細胞が三次元的に配置されている細胞の集合体(塊状の細胞集団)であって、細胞培養によって人工的に作られる集合体を意味する。少なくとも一部の細胞間には細胞外マトリックス成分が配置されていてよい。細胞構造体において、細胞同士が直接接している部分があってもよい。
細胞構造体の形状は特に制限はなく、例えば、シート状、球体状、略球体状、楕円体状、略楕円体状、半球状、略半球状、半円状、略半円状、直方体状、略直方体状等が挙げられる。ここで、生体組織は、汗腺、リンパ管、脂腺等を含み、構成が細胞構造体より複雑である。そのため、細胞構造体と生体組織とは容易に区別可能である。また、細胞構造体は、支持体と接着した状態で塊状に集合したものであってもよく、支持体と接着していない状態で塊状に集合したものであってもよい。
細胞は体細胞又は生殖細胞であってもよい。さらに、細胞は、幹細胞であってもよく、また、初代培養細胞、継代培養細胞及び細胞株細胞等の培養細胞であってもよい。本明細書において「幹細胞」とは、自己複製能及び多分化能を有する細胞を意味する。幹細胞には、任意の細胞腫に分化する能力を持つ多能性幹細胞と、特定の細胞腫に分化する能力を持つ組織幹細胞(体性幹細胞とも呼ばれる)が含まれる。多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、体細胞由来ES細胞(ntES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)が挙げられる。組織幹細胞としては、例えば、間葉系幹細胞(例えば、骨髄由来幹細胞)、造血幹細胞及び神経幹細胞が挙げられる。
本実施形態に係る細胞構造体を構成する細胞の総数は、特に限定されるものではなく、構築する細胞構造体の厚み、形状、構築に使用する細胞培養容器の大きさ等を考慮して適宜決定される。
(平滑筋細胞層)
本実施形態に係る細胞構造体における、平滑筋細胞層は、平滑筋細胞及び断片化細胞外マトリックスを含む。
平滑筋細胞は、平滑筋を構成する紡錘形の細胞であり、主に消化管、膀胱、子宮、血管壁に分布している。平滑筋細胞は、例えば、大動脈平滑筋細胞(Aorta-SMC)、冠状動脈平滑筋細胞(CASMC)、臍帯動脈平滑筋細胞(UASMC)、肺動脈平滑筋細胞(PASMC)、気管平滑筋細胞(TSMC)、気管支平滑筋細胞(BSMC)、子宮平滑筋細胞(HUtSMC)であってよい。細胞構造体を構成する平滑筋細胞としては、動物(例えばヒト)の大動脈から採取された初代細胞(初代平滑筋細胞)であってもよく、初代細胞を培養した細胞であってもよく、初代細胞を株化した培養細胞株であってもよく、幹細胞から人工的に分化させた細胞であってもよい。培養細胞株としては、例えば、Lonza社のヒト臍帯動脈由来平滑筋細胞(UASMC)の細胞株が挙げられる。分化させる幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる平滑筋細胞は、非がん性であってよい。
細胞構造体における細胞の総数(X0)に対する、平滑筋細胞の数(X1)の比率(X1/X0×100)は、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、又は65%以上であってよく、95%以下、90%以下、80%以下又は75%以下であってよい。細胞構造体における細胞の総数(X0)に対する、平滑筋細胞の数(X1)の比率(X1/X0×100)は、血管壁組織としてより一層好適である観点から、60%以上80%以下、又は60%以上70%以下であってよい。
平滑筋細胞層の厚さは、20μm~500μmであることが好ましく、50μm~200μmであることがより好ましい。平滑筋細胞層の厚さの上限は、特に制限されないが、例えば、400μm以下であってもよいし、300μm以下であってもよいし、200μm以下であってもよいし、100μm以下であってもよい。血管疾患(例えば、動脈硬化)を有する血管壁モデルとして用いる観点からは、平滑筋細胞層の厚さは、50μm~150μmであることが好ましい。
ここで、「細胞層の厚さ」とは、細胞構造体がシート状、又は直方体状である場合、主面に垂直な方向における距離を意味する。
また、細胞構造体が球体状又は略球体状である場合、その直径方向における距離を意味する。さらにまた、細胞構造体が楕円体状又は略楕円体状である場合、その短径方向における距離を意味する。
(断片化細胞外マトリックス)
細胞外マトリックスは、細胞構造体において少なくとも一部の細胞間の隙間を埋める材料である。細胞外マトリックスは、複数の細胞外マトリックス分子によって形成されている、細胞外マトリックス分子の集合体であってよい。細胞外マトリックス分子は、生物において細胞の外に存在する物質であってもよい。細胞外マトリックスは、生体内に存在する分子と同一の分子である生体親和性材料であることが好ましい。細胞外マトリックス分子としては、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、任意の物質を用いることができる。細胞外マトリックス分子として、エラスチン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン、フィブリリン、及びプロテオグリカン等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックスは、これらを1種単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。細胞外マトリックスは、例えば、エラスチンを含んでいてよく、エラスチンであってもよい。細胞外マトリックスがエラスチンである場合、エラスチンが細胞接着の足場として機能し、三次元的な細胞構造体の形成がより一層促進される。本実施形態における細胞外マトリックスは、動物細胞の外に存在する物質、すなわち動物の細胞外マトリックスであることが好ましい。なお、細胞外マトリックス分子は、細胞の生育及び細胞集合体の形成に悪影響を及ぼさない限り、上述の細胞外マトリックス分子の改変体及びバリアントであってもよく、化学合成ペプチド等のポリペプチドであってもよい。
細胞外マトリックスは、エラスチンに特徴的なGly-Val-Gly-Val-Proで示される配列(以下「GVGVP配列」とも表す、配列番号1)及び/又はVal-Gly-Val-Ala-Pro-Glyで示される配列(以下、「VGVAPG配列」とも表す、配列番号2)を有してよく、これらの配列の繰り返しを有していてよい。
細胞外マトリックスが、GVGVP配列を有する場合、弾性の向上及びコアセルベーションが促進される。GVGVP配列の繰り返しを有する細胞外マトリックスにおいて、GVGVP配列の割合は、全アミノ酸配列のうち、80%以上であってよく、好ましくは95%以上である。また、細胞外マトリックス1分子にGVGVP配列が2以上含まれてよい。
VGVAPG配列については、細胞遊走・増殖等を惹起する機能が報告されている。VGVAPG配列の繰り返しを有する細胞外マトリックスにおいて、VGVAPG配列の割合は、全アミノ酸配列のうち、80%以上であってよく、好ましくは95%以上である。また、細胞外マトリックス1分子にVGVAPG配列が2以上含まれてよい。
エラスチンとしては、例えば、血管由来のエラスチン、肺由来のエラスチン及び皮膚由来のエラスチンが挙げられる。血管壁モデルとして用いる観点からは、血管由来のエラスチンを用いることが好ましい。また、血管関連疾患(例えば、動脈硬化)を有する血管壁モデルとして用いる観点からは、大動脈由来のエラスチンを用いることが好ましい。また、エラスチンは、非水溶性エラスチン及び水溶性エラスチンのいずれを用いてもよいが、非水溶性エラスチンを用いることが好ましい。
コラーゲンとしては、例えば、線維性コラーゲン及び非線維性コラーゲンが挙げられる。線維性コラーゲンとは、コラーゲン線維の主成分となるコラーゲンを意味し、具体的には、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン等が挙げられる。非線維性コラーゲンとしては、例えば、IV型コラーゲンが挙げられる。
プロテオグリカンとして、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカンが挙げられるが、これらに限定されない。
細胞外マトリックスは、エラスチン、コラーゲン、ラミニン及びフィブロネクチンからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてよく、エラスチンを含むことが好ましい。エラスチンは好ましくは血管由来のエラスチンである。血管由来のエラスチンは、市販されているエラスチンを用いてもよく、その具体例としては、Elastin Products Company製のヒト大動脈由来エラスチンが挙げられる。
細胞外マトリックスがI型及びIII型コラーゲンのように、複数の型の混合細胞外マトリックスを用いる場合には、精製することにより、単一の型の細胞外マトリックスに分離して用いてもよい。例えば、複数の型の混合細胞外マトリックスを含む溶液に塩を添加し、遠心分離することで複数の型の細胞外マトリックスを分離し、沈殿物又は上清を回収することで、目的の型の細胞外マトリックスのみを得ることができる。得られた目的の型の細胞外マトリックスは、さらに透析により塩を除去することもでき、透析の後、さらに凍結乾燥をしてもよい。
細胞外マトリックスは、動物由来の細胞外マトリックスであってよい。細胞外マトリックスの由来となる動物種として、例えば、ヒト、ブタ、ウシ等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外マトリックスは、一種類の動物に由来する成分を用いてもよいし、複数種の動物に由来する成分を併用して用いてもよい。細胞外マトリックスの由来となる動物種は、三次元組織化する細胞の由来と同じであっても異なっていてもよい。
細胞外マトリックスの形状としては、例えば、線維状が挙げられる。線維状とは、糸状の細胞外マトリックスで構成される形状、又は糸状の細胞外マトリックスが分子間で架橋して構成される形状を意味する。細胞外マトリックスの少なくとも一部は、線維状であってよい。細胞外マトリックスの形状は、顕微鏡観察した際に観察されるひとかたまりの細胞外マトリックス(細胞外マトリックスの集合体)の形状であり、細胞外マトリックスは、好適には後述する平均径及び/又は平均長の大きさを有するものである。線維状の細胞外マトリックスには、複数の糸状細胞外マトリックス分子が集合して形成された細い糸状物(細線維)、細線維が更に集合して形成される糸状物、これらの糸状物を解繊したもの等が含まれる。形状が線維状である細胞外マトリックスを含むと、線維状の細胞外マトリックスでは、例えば、GVGVP配列(配列番号1)及びVGVAPG配列(配列番号2)が破壊されることなく保存されており、細胞接着のための足場材としてより一層効果的に機能することができる。
「断片化」とは、細胞外マトリックスの集合体をより小さなサイズにすることを意味する。断片化された細胞外マトリックス(「断片化細胞外マトリックス」とも称される)は、解繊された細胞外マトリックスを含んでもよい。解繊された細胞外マトリックスは、上述の細胞外マトリックスを物理的な力の印加により解繊したものである。例えば、解繊は、細胞外マトリックス分子内の結合を切断しない条件で行われるものである。
断片化細胞外マトリックスは、解繊された細胞外マトリックスを少なくとも一部に含んでいてよい。また、断片化細胞外マトリックスは、解繊された細胞外マトリックスのみからなっていてもよい。すなわち、断片化細胞外マトリックスは、解繊された細胞外マトリックスであってよい。解繊された細胞外マトリックスは、解繊されたエラスチン(解繊エラスチン)を含むことが好ましい。解繊エラスチンは、エラスチンに由来する三重らせん構造を維持していることが好ましい。解繊エラスチンは、エラスチンに由来する三重らせん構造を部分的に維持している成分であってよい。断片化エラスチンは、水性媒体に分散させることにより、水性媒体中で細胞と接触しやすくなり、細胞構造体の形成を促進し得る。
断片化細胞外マトリックスの平均長は、100nm以上400μm以下であってよく、100nm以上200μm以下であってよい。一実施形態において、断片化細胞外マトリックスの平均長は、厚い組織が形成しやすくなる観点から、5μm以上400μm以下であってよく、10μm以上400μm以下であってよく、22μm以上400μm以下であってよく、100μm以上400μm以下であってよい。他の実施形態において、断片化細胞外マトリックスの平均長は、組織形成が安定しやすくなる観点及び再分散性がより一層優れたものとなる観点から、100μm以下であってよく、50μm以下であってよく、30μm以下であってよく、15μm以下であってよく、10μm以下であってよく、1μm以下であってよく、100nm以上であってよい。断片化細胞外マトリックス全体のうち、大部分の断片化細胞外マトリックスの平均長が上記数値範囲内であることが好ましい。具体的には、断片化細胞外マトリックス全体のうち95%の断片化細胞外マトリックスの平均長が上記数値範囲内であることが好ましい。断片化細胞外マトリックスは、平均長が上記範囲内である断片化エラスチンであることが好ましく、平均長が上記範囲内である解繊エラスチンであることがより好ましい。
断片化細胞外マトリックスの平均径は、例えば、20nm以上30μm以下であってよく、20nm以上10μm以下であってもよい。
細胞構造体中の全断片化細胞外マトリックスの含有率は、例えば、断片化細胞外マトリックス及び細胞の合計質量を基準として、0.33質量%以上、0.5質量%以上、又は5重量%以上であってよい。細胞構造体中の断片化細胞外マトリックスの含有量は、例えば、断片化された細胞外マトリックス及び細胞の合計質量を基準として、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は1質量%以下であってよい。細胞構造体中の断片化細胞外マトリックスの含有量は、例えば、断片化された細胞外マトリックス及び細胞の合計質量を基準として、0.33質量%以上90質量%以下であってよく、0.5質量%以上90質量%以下であってよく、1.0質量%以上90質量%以下であってよく、5重量%以上90重量%以下であってよく、5重量%以上40重量%以下であってよい。
上述の平均長及び平均径の範囲は、組織形成の観点から至適化されたものであるため、組織形成に用いる段階で上記の平均長又は平均径の範囲内に収まっていることが望ましい。
断片化細胞外マトリックスの平均長及び平均径は、光学顕微鏡によって個々の断片化細胞外マトリックスを測定し、画像解析することによって求めることが可能である。本明細書において、「平均長」は、測定した試料の長手方向の長さの平均値を意味し、「平均径」は、測定した試料の長手方向に直交する方向の長さの平均値を意味する。
細胞外マトリックスを断片化する方法は、特に制限はなく、物理的な力の印加によって断片化してよい。物理的な力の印加によって断片化された細胞外マトリックスは、酵素処理とは異なり、通常、分子構造は断片化する前とは変化しない(分子構造は維持されている。)。細胞外マトリックスを断片化する方法は、例えば、塊状の細胞外マトリックスを細かく砕く方法であってよい。細胞外マトリックスは、固相で断片化されてもよく、水性媒体中で断片化されてもよい。例えば、超音波式ホモジナイザー、撹拌式ホモジナイザー、及び高圧式ホモジナイザー等の物理的な力の印加によって細胞外マトリックスを断片化してもよい。撹拌式ホモジナイザーを用いる場合、細胞外マトリックスをそのままホモジナイズしてもよいし、生理食塩水等の水性媒体中でホモジナイズしてもよい。また、ホモジナイズする時間、回数等を調整することで断片化細胞外マトリックスの平均径を調整することができる。例えば、細胞外マトリックス(例えば、エラスチン)を含む水性媒体に分散させた分散液をホモジナイズすること及びその後任意で水性媒体中で10℃以下(例えば、4℃±1℃)でインキュベートすることが挙げられる。ホモジナイズすることの例としては、ホモジナイザーを用いてホモジナイズすること、攪拌すること、圧力をかけること等が挙げられ、スターラーを用いて攪拌してもよい。水性媒体は純水でもよく、リン酸を含有する水溶液(例えば、PBSバッファー)のような水溶液でもよい。また、ホモジナイズした後に10℃以下(例えば、4℃±1℃)でインキュベートする時間は、例えば、6時間以上、12時間以上、24時間以上、48時間以上、又は72時間以上であってもよい。ホモジナイズする際の水性媒体(第1の水性媒体)と、細胞を培養する水性媒体は、同じでも異なっていてもよい。また、水性媒体は塩を含んでも含まなくてもよい。
細胞外マトリックスを水性媒体中で断片化する場合、断片化された細胞外マトリックスは、例えば、細胞外マトリックスを水性媒体中で断片化する工程と、断片化された細胞外マトリックス及び水性媒体を含む液から水性媒体を除去する工程(除去工程)とを含む方法によって製造することができる。除去工程は、例えば、凍結乾燥法により実施してよい。「水性媒体を除去する」とは、断片化された細胞外マトリックス成分中に一切の水分が付着していないことを意味するものではなく、上述の一般的な乾燥手法により、常識的に達することができる程度に水分が付着していないことを意味する。
断片化細胞外マトリックスの少なくとも一部は分子間又は分子内で架橋されていてよい。断片化された細胞外マトリックスは、断片化された細胞外マトリックスを構成する分子内で架橋されていてもよく、断片化された細胞外マトリックスを構成する分子間で架橋されていてよい。
架橋する方法としては、例えば、熱、紫外線、放射線等の印加による物理架橋、架橋剤、酵素反応等による化学架橋等による方法が挙げられるが、その方法は特に限定されない。架橋(物理架橋及び化学架橋)は、共有結合を介した架橋であってよい。
断片化エラスチンにおいて、架橋は、エラスチン分子(三重らせん構造)の間で形成されていてもよく、エラスチン分子によって形成されたエラスチン細線維の間で形成されていてもよい。架橋は、熱による架橋(熱架橋)であってよい。熱架橋は、例えば、真空ポンプを使って減圧下で、加熱処理を行うことにより実施することができる。エラスチン分子の熱架橋を行う場合、解繊エラスチンは、エラスチン分子のアミノ基が同一又は他のエラスチン分子のカルボキシ基とペプチド結合(-NH-CO-)を形成することにより、架橋されていてよい。
断片化細胞外マトリックスは架橋剤を使用することによっても、架橋させることができる。架橋剤は、例えば、カルボキシル基とアミノ基を架橋可能なもの、又はアミノ基同士を架橋可能なものであってよい。架橋剤としては、例えば、アルデヒド系、カルボジイミド系、エポキシド系及びイミダゾール系架橋剤が経済性、安全性及び操作性の観点から好ましく、具体的には、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリニル-4-エチル)カルボジイミド・スルホン酸塩等の水溶性カルボジイミドを挙げることができる。
架橋度の定量は、断片化細胞外マトリックスの種類、架橋する手段等に応じて、適宜選択することができる。架橋度は、1%以上、2%以上、4%以上、8%以上、又は12%以上であってよく、30%以下、20%以下、又は15%以下であってもよい。
細胞外マトリックス分子中のアミノ基が架橋に使用される場合、架橋度は、非特許文献2等に記載されているTNBS法に基づき定量することが可能である。TNBS法による架橋度が、上述の範囲内であってもよい。TNBS法による架橋度は、細胞外マトリックスが有するアミノ基のうち架橋に使われているアミノ基の割合である。
架橋度は、カルボキシル基を定量することにより、算出してもよい。例えば、水に不溶性の細胞外マトリックスの場合、TBO(トルイジンブルーO)法により定量してもよい。TBO法による架橋度が、上述した範囲内であってもよい。
細胞構造体における細胞外マトリックスの含有量は、細胞構造体の乾燥重量を基準として、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は30質量%以上であってよく、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってよい。細胞構造体における細胞外マトリックスの含有量は、細胞構造体の乾燥重量を基準として、0.01~90質量%であってよく、10~90質量%、10~80質量%、10~70質量%、10~60質量%、1~50質量%、10~50質量%、10~30質量%、又は20~30質量%であってよい。
ここで、「細胞構造体における細胞外マトリックス」とは、細胞構造体を構成する細胞外マトリックスを意味し、内因性細胞外マトリックスに由来していてもよく、外因性細胞外マトリックスに由来していてもよい。
「内因性の細胞外マトリックス」とは、細胞外マトリックス産生細胞が産生する細胞外マトリックスを意味する。細胞外マトリックス産生細胞としては、例えば、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞等の間葉系細胞が挙げられる。内因性細胞外マトリックスは、線維性であってもよいし、非線維性であってもよい。
「外因性の細胞外マトリックス」とは、外部から供給される細胞外マトリックスを意味する。本実施形態に係る細胞構造体は、外因性の細胞外マトリックスである断片化された細胞外マトリックスを含む。外因性の細胞外マトリックスは、由来となる動物種が内因性の細胞外マトリックスと同じであっても異なっていてもよい。由来となる動物種としては、例えば、ヒト、ブタ、ウシ等が挙げられる。また、外因性の細胞外マトリックスは、人工の細胞外マトリックスであってもよい。
細胞外マトリックスがエラスチンである場合には、外因性の細胞外マトリックスは「外因性エラスチン」とも称され、外部から供給されるエラスチンを意味する「外因性エラスチン」は、複数のエラスチン分子によって形成されている、エラスチン分子の集合体である。外因性エラスチンは、血管由来のエラスチンであることが好ましく、大動脈由来のエラスチンであることがより好ましい。エラスチンは、市販されているエラスチンを用いてもよく、その具体例としては、Elastin Products Company製のヒト大動脈由来エラスチンが挙げられる。
外因性の細胞外マトリックスにおいて、由来する動物種は、細胞とは異なっていてよい。また、細胞が、細胞外マトリックス産生細胞を含む場合、外因性の細胞外マトリックスにおいて、由来する動物種は、細胞外マトリックス産生細胞とは異なっていてもよい。つまり、外因性の細胞外マトリックスは、異種細胞外マトリックスであってよい。
すなわち、細胞構造体が内因性細胞外マトリックス及び断片化された細胞外マトリックスを含む場合、上記細胞構造体を構成する細胞外マトリックス含有率は、内因性細胞外マトリックス及び断片化された細胞外マトリックスの合計量を意味する。上記細胞外マトリックス含有率は、得られた細胞構造体の体積、及び脱細胞化した細胞構造体の質量から算出することが可能である。
例えば、細胞構造体に含まれる細胞外マトリックスがコラーゲンである場合、細胞構造体におけるコラーゲン量を定量する方法としては、例えば、以下のようなヒドロキシプロリンを定量する方法が挙げられる。細胞構造体を溶解した溶解液に、塩酸(HCl)を混合し、高温で所定の時間インキュベートした後に室温に戻し、遠心分離した上澄みを所定の濃度に希釈することでサンプルを調製する。ヒドロキシプロリンスタンダード溶液をサンプルと同様に処理した後、段階的に希釈してスタンダードを調製する。サンプル及びスタンダードのそれぞれに対してヒドロキシプロリンアッセイバッファ及び検出試薬で所定の処理をし、570nmの吸光度を測定する。サンプルの吸光度をスタンダードと比較することでコラーゲン量を算出する。なお、細胞構造体を、高濃度の塩酸に直接懸濁して溶解した溶解液を遠心分離して上澄みを回収し、コラーゲン成分定量に用いてもよい。また、溶解させる細胞構造体は、培養液から回収したままの状態であってもよいし、回収後に乾燥処理を行い、液体成分を除去した状態で溶解させてもよい。但し、培養液から回収したままの状態の細胞構造体を溶解してコラーゲン成分定量を行う場合、細胞構造体が吸収している培地成分、及び実験手技の問題による培地の残りの影響で、細胞構造体重量の計測値がばらつくことが予想されるため、組織体の重量及び単位重量あたりに占めるコラーゲン量を安定して計測する観点からは、乾燥後の重量を基準とすることが好ましい。
コラーゲン量を定量する方法として、より具体的には、例えば、以下のような方法が挙げられる。
(サンプルの調製)
凍結乾燥処理を行った細胞構造体の全量を6mol/L HClと混合し、ヒートブロックで95℃、20時間以上インキュベートした後、室温に戻す。13000gで10分遠心分離した後、サンプル溶液の上澄みを回収する。後述する測定において結果が検量線の範囲内に収まるように6mol/L HClで適宜希釈した後、200μLを100μLの超純水で希釈することでサンプルを調製する。サンプルは35μL用いる。
(スタンダードの調製)
スクリューキャップチューブに125μLのスタンダード溶液(1200μg/mL in acetic acid)と、125μLの12mol/l HClを加え混合し、ヒートブロックで95℃、20時間インキュベートした後、室温に戻す。13000gで10分遠心分離した後、上澄みを超純水で希釈して300μg/mLのS1を作製し、S1を段階的に希釈してS2(200μg/mL)、S3(100μg/mL)、S4(50μg/mL)、S5(25μg/mL)、S6(12.5μg/mL)、S7(6.25μg/mL)を作製する。4mol/l HCl90μLのみのS8(0μg/mL)も準備する。
(アッセイ)
35μLのスタンダード及びサンプルをそれぞれプレート(QuickZyme Total Collagen Assayキット付属、QuickZyme Biosciences社)に加える。75μLのアッセイバッファ(上記キット付属)をそれぞれのウェルに加える。シールでプレートを閉じ、20分シェイキングしながら室温でインキュベートする。シールをはがし、75μLのdetection reagent (reagent A:B=30μL:45μL、上記キット付属)をそれぞれのウェルに加える。シールでプレートを閉じ、シェイキングで溶液を混合し、60℃で60分インキュベートする。氷上で十分に冷まし、シールをはがして570nmの吸光度を測定する。サンプルの吸光度をスタンダードと比較することでコラーゲン量を算出する。
細胞構造体中に占めるエラスチンを、その面積比又は体積比によって規定してもよい。「面積比又は体積比によって規定する」とは、例えば細胞構造体中のエラスチンを既知の染色手法(例えば、抗エラスチン抗体を用いた免疫染色)等で他の組織構成物と区別可能な状態にした上で、肉眼観察、各種顕微鏡及び画像解析ソフト等を用いて、細胞構造体全体に占めるエラスチンの存在領域の比率を算出することを意味する。面積比で規定する場合、細胞構造体中の如何なる断面もしくは表面によって面積比を規定するかは限定されないが、例えば細胞構造体が球状体等である場合には、その略中心部を通る断面図によって規定してもよい。
例えば、細胞構造体中のエラスチンを面積比によって規定する場合、その面積の割合は、上記細胞構造体の全体の面積を基準として0.01~99%であり、1~99%であることが好ましく、5~90%であることが好ましく、7~90%であることが好ましく、20~90%であることが好ましく、50~90%であることがより好ましい。「細胞構造体におけるエラスチン」については、上述したとおりである。細胞構造体を構成するエラスチンの面積の割合は、内因性エラスチン及び外因性エラスチンを合わせた面積の割合を意味する。エラスチンの面積の割合は、例えば、得られた細胞構造体を染色し、細胞構造体の略中心部を通る断面の全体の面積に対する、染色したエラスチンの面積の割合として算出することが可能である。
細胞構造体は、トリプシンの濃度0.25%、温度37℃、pH7.4、反応時間15分でトリプシン処理を行った後の残存率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更により好ましい。このような細胞構造体は、培養中又は培養後において酵素による分解が起きにくく、安定である。上記残存率は、例えば、トリプシン処理の前後における細胞構造体の質量から算出できる。
上記細胞構造体は、エラスターゼの濃度0.25%、温度37℃、pH7.4、反応時間15分でエラスターゼ処理を行った後の残存率が70%以上であってもよく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更により好ましい。このような細胞構造体は、培養中又は培養後における酵素による分解が起きにくく、安定である。
上記細胞構造体の厚さは10μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、1000μm以上であることが更により好ましい。このような細胞構造体は、生体組織により近い構造であり、実験動物の代替品、及び移植材料として好適なものとなる。細胞構造体の厚さの上限は、特に制限されないが、例えば、10mm以下であってもよいし、3mm以下であってもよいし、2mm以下であってもよいし、1.5mm以下であってもよいし、1mm以下であってもよい。
ここで、「細胞構造体の厚さ」とは、細胞構造体がシート状、又は直方体状である場合、主面に垂直な方向における両端の距離を意味する。上記主面に凹凸がある場合、厚さは上記主面の最も薄い部分における距離を意味する。
また、細胞構造体が球体状又は略球体状である場合、その直径を意味する。さらにまた、細胞構造体が楕円体状又は略楕円体状である場合、その短径を意味する。細胞構造体が略球体状又は略楕円体状であって表面に凹凸がある場合、厚さは、細胞構造体の重心を通る直線と上記表面とが交差する2点間の距離であって最短の距離を意味する。
(血管内皮細胞層)
本実施形態に係る細胞構造体における、血管内皮細胞層は、血管内皮細胞を含む。
血管内皮細胞は、血管内腔の表面を構成する扁平状の細胞を意味する。血管内皮細胞は、例えば、ヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)であってよい。細胞構造体を構成する血管内皮細胞としては、動物(例えばヒト)の臍帯静脈又は臍帯動脈から採取された初代細胞(初代血管内皮細胞)であってもよく、初代細胞を培養した細胞であってもよく、初代細胞を株化した培養細胞株であってもよく、幹細胞から人工的に分化させた細胞であってもよい。培養細胞株としては、例えば、Applied Biological Materials社製の製品型番T0056の培養細胞株が挙げられる。分化させる幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる血管内皮細胞は、非がん性細胞であってよい。
細胞構造体における細胞の総数(X0)に対する、血管内皮細胞の数(X2)の比率(X2/X0×100)は、5%以上、10%以上、12%以上、14%以上、15%以上、20%以上、又は25%以上であってよく、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、又は18%以下であってよい。細胞構造体における細胞の総数(X0)に対する、血管内皮細胞の数(X2)の比率(X2/X0×100)は、血管壁組織としてより一層好適である観点から、5%以上40%以下、5%以上35%以下、10%以上35%以下、10%以上25%以下、又は12%以上20%以下であってよい。
血管内皮細胞層がさらに断片化細胞外マトリックスを含んでもよい。
血管内皮細胞層の厚さは、5μm~30μmであることが好ましく、5μm~15μmであることがより好ましい。血管内皮細胞層の厚さの上限は、特に制限されないが、例えば、30μm以下であってもよいし、20μm以下であってもよいし、10μm以下であってもよい。血管内皮細胞層が通常より厚くなる疾患(例えば、動脈硬化)を有する血管壁モデルとして用いる観点からは、血管内皮細胞層の厚さは、5μm~15μmであることが好ましい。
ここで、「細胞層の厚さ」とは、細胞構造体がシート状、又は直方体状である場合、主面に垂直な方向における距離を意味する。
また、細胞構造体が球体状又は略球体状である場合、その直径方向における距離を意味する。さらにまた、細胞構造体が楕円体状又は略楕円体状である場合、その短径方向における距離を意味する。
平滑筋細胞と血管内皮細胞の細胞数の比(平滑筋細胞/血管内皮細胞)は、9/1~99/1であってもよく、50/50~80/20であってもよく、20/80~50/50であってもよく、10/90~50/50であってもよい。
本実施形態の細胞構造体において、上記平滑筋細胞層と上記血管内皮細胞層は、少なくとも一部において接している。
本実施形態の細胞構造体は、免疫細胞を含む。
免疫細胞は、抗原を認識し、特異的に反応する能力をもち、免疫に関与する細胞を意味する。免疫細胞は、例えば、マクロファージ、その前駆細胞である単球、樹状細胞、又は、T細胞、B細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞等のリンパ球であってよく、マクロファージ及び/又は単球であってもよい。免疫細胞は、例えば、ヒト末梢血単球細胞株(THP-1)であってよい。細胞構造体に含まれる免疫細胞としては、動物(例えばヒト)の末梢血又はリンパ液から採取された初代細胞(初代免疫細胞)であってもよく、初代細胞を培養した細胞であってもよく、初代細胞を株化した培養細胞株であってもよく、幹細胞から人工的に分化させた細胞であってもよい。培養細胞株としては、例えば、JCRB細胞バンクの細胞番号JCRB0112の培養細胞株が挙げられる。分化させる幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)等が挙げられる。本実施形態に係る細胞構造体に含まれる免疫細胞は、非がん性細胞であってよい。
細胞構造体における細胞の総数(X0)に対する、免疫細胞の数(X2)の比率(X3/X0×100)は、5%以上、10%以上、12%以上、14%以上、15%以上、20%以上、又は25%以上であってよく、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、又は18%以下であってよい。細胞構造体における細胞の総数(X0)に対する、免疫細胞の数(X3)の比率(X3/X0×100)は、血管疾患を有する血管壁モデルとしての血管壁組織としてより一層好適である観点から、5%以上40%以下、5%以上35%以下、10%以上35%以下、10%以上25%以下、又は12%以上20%以下であってよい。
免疫細胞は、細胞構造体の表面に含まれてもよく、細胞構造体の内部に含まれてもよく、表面及び内部の両方に含まれてもよい。また、免疫細胞は、平滑筋細胞層又は血管内皮細胞層に含まれてもよく、平滑筋細胞層又は血管内皮細胞層の表面及び/又は内部に含まれてもよい。
細胞構造体が免疫細胞を含むことを確認するためには、例えば、細胞接着分子の発現が、免疫細胞を含まない細胞構造体と比較して増加しているかで判断することができる。細胞接着分子としては、例えば、活性化リンパ球の血管内皮細胞への結合に関与することが知られているICAM-1(intercellular adhesion molecule-1)が挙げられる。また、例えば、免疫細胞を含まない細胞構造体と比較して、単球の接着を示唆するCD11bの発現、及び/又は単球のマクロファージへの分化を示唆するCD14の発現が増加しているかで判断することもできる。CD11b及びCD14が共局在化していることは、細胞構造体がマクロファージを含むことを意味する。例えば、細胞構造体又は各層における単位面積(例えば、1mm2)当たりのCD11bの90%以上がCD14と共局在化していることが好ましい。同様に、例えば、平滑筋細胞層又は血管内皮細胞層の各層において細胞接着分子、CD11b及びCD14等の発現を解析することで、免疫細胞が表面及び/又は内部に含まれているか判断することができる。
免疫細胞は、内部にリポタンパク質を含んでもよい。リポタンパク質としては、例えば、低比重リポタンパク質(LDL)、レムナント及びLp(a)等が挙げられる。リポタンパク質は、変性されたリポタンパク質であってもよい。変性されたリポタンパク質としては、例えば、酸化リポタンパク質、糖化リポタンパク質及びアセチル化されたリポタンパク質が挙げられる。変性されたリポタンパク質は、例えば、酸化LDL、糖化LDL及びアセチル化LDLであってもよい。また、例えば、免疫細胞がマクロファージであり、アセチル化LDLを取り込んでいてもよい。
本実施形態において、細胞は、平滑筋細胞、血管内皮細胞及び免疫細胞以外の他の細胞を含んでいてもよい。他の細胞は、例えば、成熟した体細胞であってよく、幹細胞のような未分化な細胞であってもよい。体細胞の具体例としては、例えば、神経細胞、リンパ管内皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞、心筋細胞、膵島細胞、骨細胞、肺胞上皮細胞、脾臓細胞等が挙げられる。幹細胞としては、ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞等が挙げられる。他の細胞は、正常細胞であってもよく、がん細胞のようにいずれかの細胞機能が亢進又は抑制されている細胞であってもよい。「がん細胞」とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。
細胞構造体に含まれる平滑筋細胞、血管内皮細胞、免疫細胞又は上記他の細胞の由来は、特に限定されないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウシ、マウス、ラット等の哺乳類動物に由来する細胞であってよい。
本実施形態に係る細胞構造体は、生体の血管組織に近い構造であり、免疫細胞を含むため、血管疾患を有する血管壁モデル、例えば、動脈硬化血管壁モデルとして利用することができる。
[免疫細胞を含む細胞構造体の製造方法]
本実施形態に係る免疫細胞を含む細胞構造体の製造方法は、水性媒体中で平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合し、インキュベートして平滑筋細胞層を形成すること、及び上記平滑筋細胞層に血管内皮細胞を接触させ、インキュベートして、上記平滑筋細胞層と接する血管内皮細胞層を形成することと、を含む細胞構造体の作製工程と、
上記細胞構造体に炎症促進剤を接触させる工程と、
上記細胞構造体に免疫細胞を接触させる工程とを含む。
「水性媒体」とは、水を必須構成成分とする液体を意味する。水性媒体としては、断片化細胞外マトリックス及び細胞が安定に存在できるものであれば、特に制限はない。例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の生理食塩水、Dulbecco’s Modified Eagle培地(DMEM)、平滑筋細胞用培地(SMCGM2)、血管内皮細胞用培地(EGM2)、単球用培地(RPMI)等の液体培地が挙げられる。液体培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。細胞に対する負荷を軽減する観点から、水性媒体は液体培地であることが好ましい。培地は、平滑筋細胞を増殖させる際には、平滑筋細胞用培地を含むことが好ましく、血管内皮細胞を増殖させる際には、血管内皮細胞用培地を含むことが好ましく、免疫細胞を増殖させる際には、免疫細胞用培地を含むことが好ましい。培地が平滑筋細胞用培地及び血管内皮細胞用培地を含む場合には、その割合(平滑筋細胞用培地:血管内皮細胞用培地)は、1~5:1~5であることが好ましい。また、培地が平滑筋細胞用培地、血管内皮細胞用培地及び免疫細胞用培地を含む場合には、その割合(平滑筋細胞用培地:血管内皮細胞用培地:免疫細胞用培地)は、1~5:1~5:1~5であることが好ましい。
インキュベートする際に用いられる培養器(支持体)は、特に制限されず、例えば、ウェルインサート、低接着プレート、U字やV字等の底面形状を有するプレートであってよい。細胞を支持体と接着させたまま培養してもよく、細胞を支持体と接着させずに培養してもよく、培養の途中で支持体から引き離して培養してもよい。細胞を支持体と接着させずに培養する場合や、培養の途中で支持体から引き離して培養する場合には、細胞の支持体への接着を阻害するU字やV字等の底面形状を有するプレートや、低吸着プレートを用いることが好ましい。
インキュベートの方法は、特に制限はなく、細胞の種類に応じて好適な方法で行うことができる。例えば、インキュベート温度は20℃~40℃であってもよく、30℃~37℃であってもよい。インキュベート時の培地のpHは、6~8であってもよく、7.2~7.4であってもよい。インキュベート時間は、細胞構造体の作製全体について、1日~2週間であってもよく、1週間~2週間であってもよい。
〔細胞構造体の作製〕
水性媒体中で平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合し、インキュベートして平滑筋細胞層を形成すること、及び上記平滑筋細胞層に血管内皮細胞を接触させ、インキュベートして、上記平滑筋細胞層と接する血管内皮細胞層を形成することと、を含む工程により、細胞構造体を作製する。
(平滑筋細胞層の形成)
細胞構造体の作製は、水性媒体中で平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合し、インキュベートして平滑筋細胞層を形成することを含む。
断片化細胞外マトリックスは、水性媒体に分散させることにより、水性媒体中で細胞と接触しやすくなり、細胞構造体の形成を促進し得る。水性媒体中で細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合し、細胞と断片化細胞外マトリックスが分散することで細胞懸濁液が得られる。
水性媒体中で平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合する方法としては、断片化細胞外マトリックスを含有する水性媒体と平滑筋細胞を含有する水性媒体とを混合する方法、断片化細胞外マトリックスを含有する水性媒体に平滑筋細胞を添加する方法、平滑筋細胞を含む培養液に断片化細胞外マトリックスを含有する水性媒体を加える方法、断片化細胞外マトリックスを含有する水性媒体に平滑筋細胞を加える方法、予め用意した水性媒体に、断片化細胞外マトリックス及び平滑筋細胞をそれぞれ加える方法等の方法が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、水性媒体中において、断片化細胞外マトリックスと平滑筋細胞をピペッティング等で攪拌してもよい。
水性媒体中で平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合する際の水性媒体(第2の水性媒体)は、上述した断片化細胞外マトリックスをホモジナイズする際の水性媒体(第1の水性媒体)と同じでもよく、異なっていてもよいが、平滑筋細胞用培地を含むことが好ましい。また、平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合する際の水性媒体が、平滑筋細胞用培地及び血管内皮細胞用培地を含んでいても、平滑筋細胞用培地、血管内皮細胞用培地及び免疫細胞用培地を含んでいてもよい。
平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合する水性媒体中の断片化細胞外マトリックスの濃度は、目的とする細胞構造体及び平滑筋細胞層の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、上記水性媒体中の断片化細胞外マトリックスの濃度は、0.1~90重量%であってもよいし、1~30重量%であってもよい。
平滑筋細胞と混合する断片化細胞外マトリックスの量、すなわち細胞懸濁液に含まれる量は、例えば、1.0×106cellsの平滑筋細胞に対して、0.1~100mg、0.5~50mg、0.8~25mg、1.0~10mg、1.0~5.0mg、1.0~2.0mg、又は1.0~1.8mgであってよく、0.7mg以上、1.1mg以上、1.2mg以上、1.3mg以上又は1.4mg以上であってよく、7.0mg以下、3.0mg以下、2.3mg以下、1.8mg以下、1.7mg以下、1.6mg以下又は1.5mg以下であってもよい。また、断片化細胞外マトリックスと平滑筋細胞との質量比(断片化細胞外マトリックス/平滑筋細胞)は、1/1~1000/1であることが好ましく、9/1~900/1であることがより好ましく、10/1~500/1であることがさらに好ましい。
平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合した後、インキュベートする前に、フィブリノゲン及び/又はトロンビンを添加することを含んでもよい。フィブリノゲン及びトロンビンの両方を添加する場合には、例えば、フィブリノゲン及びトロンビンは同時に添加してもよく、先にフィブリノゲンを添加した後にトロンビンを添加してもよい。フィブリノゲン及び/又はトロンビンを添加するタイミングは特に制限されず、例えば、平滑筋細胞及び断片化細胞外マトリックスを含有する水性媒体に添加してもよく、平滑筋細胞及び断片化細胞外マトリックスを含有する水性媒体にフィブリノゲンを添加した後にトロンビンを添加してもよい。フィブリノゲン及び/又はトロンビンを添加することにより、インキュベート時に生じ得るシュリンクを抑制し、細胞構造体の形状及び大きさを制御しやすくすることができる。また、平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスの混合液をゲル化することができるため、当該混合液を培養器(支持体)に滴下した後、培養器から剥離しやすくすることができる。
また、本実施形態の製造方法は、平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合した後、インキュベートする前に、外力を加えて、平滑筋細胞及び断片化細胞外マトリックスを集積する工程を含んでもよい。このような工程を行うことで、細胞構造体における断片化細胞外マトリックス及び平滑筋細胞の分布が、より均一になる。具体的な方法としては、特に制限はないが、例えば、細胞外マトリックスと平滑筋細胞とを含む水性媒体を遠心操作する方法が挙げられる。遠心分離の条件も適宜設定することができるが、例えば、200~3000rpmで1~10分遠心することが挙げられる。
水性媒体中で混合した平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスをインキュベートすることで、断片化細胞外マトリックスが接触した平滑筋細胞が培養され、平滑筋細胞層が形成される。
細胞外マトリックスと平滑筋細胞とを含む水性媒体(細胞懸濁液)をインキュベートする方法は、特に制限はないが、例えば、インキュベート温度は20℃~40℃であってもよく、30℃~37℃であってもよい。平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスを混合した水性媒体のpHは、6~8であってもよく、7.2~7.4であってもよい。インキュベート時間は、例えば、1日~2週間であってよく、2日~1週間であってよく、2日~5日であってよい。
細胞懸濁液をインキュベートする際に用いられる培養器(支持体)は、特に制限されず、例えば、ウェルインサート、低接着プレート、U字やV字等の底面形状を有するプレートであってよい。上記細胞を支持体と接着させたまま培養してもよく、上記細胞を支持体と接着させずに培養してもよく、培養の途中で支持体から引き離して培養してもよい。上記細胞を支持体と接着させずに培養する場合や、培養の途中で支持体から引き離して培養する場合には、細胞の支持体への接着を阻害するU字やV字等の底面形状を有するプレートや、低吸着プレートを用いることが好ましい。
インキュベート(培養)することにより、細胞懸濁液中の断片化された細胞外マトリックスが接触した平滑筋細胞が培養される。インキュベートは、断片化された細胞外マトリックスが接触した細胞を支持体に接着しない状態で行うことを含んでもよい。これにより、支持体に接着していない状態で塊状に集合した細胞構造体を製造することができる。断片化された細胞外マトリックスが接触した細胞が支持体に接着している場合には、支持体から断片化された細胞外マトリックスが接触した細胞を引き離すことを含んでもよい。培養において断片化された細胞外マトリックスが接触した細胞が最初から支持体に接着していない場合には、そのまま培養することで支持体に接着していない状態で塊状に集合した細胞構造体を製造することができる。
支持体から断片化された細胞外マトリックスが接触した細胞を引き離す方法は、特に制限されず、例えば、低接着性の支持体を使用し、培養液を追加することで細胞を支持体から引き離してもよく、器具等を利用して直接細胞を物理的に支持体から引き離してもよく、振動を与えることにより細胞を支持体から引き離してもよく、熱及び光等の刺激に反応することで支持体と細胞の結合が外れる機能性材料を表面に塗布した支持体を用い、刺激を与えることで細胞を支持体から引き離してもよい。培養液を追加することで細胞を支持体から引き離す場合の培養液には、本明細書に例示した培地等を使用することができる。
培養において、断片化された細胞外マトリックスが接触した細胞を最初から支持体に接着していない状態で培養する方法としては、例えば、断片化された細胞外マトリックスが接触した細胞を含む懸濁液をゲル化させ、培養液中にそっと滴下して培養する方法、及び高粘度の溶媒中において断片化された細胞外マトリックスが接触した細胞の形状をある程度固定したのち、溶媒のみを取り除いて培養容器に移す方法が挙げられる。
培養において、支持体から上記断片化された細胞外マトリックスが接触した細胞を引き離すタイミングは、特に制限されず、例えば、インキュベート開始から1日~7日に行ってもよく、1時間~24時間に行ってもよく、1分~60分に行ってもよく、5分~30分に行ってもよく、10分~20分に行ってもよい。
支持体から断片化された細胞外マトリックスが接触した細胞を引き離した後のインキュベート期間は、特に制限されず、1日以上であってよく、1日~21日であってよく、3日~14日であってよく、7日~14日であってよい。
インキュベート(培養)における培地中の細胞密度は、目的とする細胞構造体及び平滑筋細胞層の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、培養における培地中の細胞密度は、1~108cells/mLであってよく、103~107cells/mLであってよい。
細胞構造体における平滑筋細胞層の厚さは、20μm~500μmであることが好ましく、50μm~200μmであることがより好ましい。平滑筋細胞層の厚さの上限は、特に制限されないが、例えば、400μm以下であってもよいし、300μm以下であってもよいし、200μm以下であってもよいし、100μm以下であってもよい。血管疾患(例えば、動脈硬化)を有する血管壁モデルとして用いる観点からは、平滑筋細胞層の厚さは、50μm~150μmであることが好ましい。インキュベートにより、平滑筋細胞層が最終的に上記の好ましい厚さに形成されることが好ましい。
本実施形態に係る製造方法は、さらに、細胞外マトリックスを断片化する前に細胞外マトリックスを加熱して、細胞外マトリックスの少なくとも一部を架橋することを備えていてもよいし、断片化後かつ平滑筋細胞と混合する前に、細胞外マトリックスを加熱して、細胞外マトリックスの少なくとも一部を架橋することを備えていてよい。
架橋において、細胞外マトリックスを加熱する際の温度(加熱温度)及び時間(加熱時間)は適宜定めることができる。加熱温度は、例えば100℃以上であってよく、200℃以下であってよく、220℃以下であってよい。加熱温度は、具体的には、例えば、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、200℃、220℃等であってよい。加熱時間(上記加熱温度で保持する時間)は、加熱温度により適宜設定することができる。加熱時間は、例えば、100℃~200℃で加熱する場合、6時間以上72時間以下であってよく、より好ましくは24時間以上48時間以下である。架橋においては、溶媒非存在下で加熱してよく、また、減圧条件下で加熱してもよい。
本実施形態に係る製造方法は、断片化後に、断片化された細胞外マトリックスを乾燥することを備えていてよい。
乾燥においては、解繊された細胞外マトリックスを乾燥する。乾燥は、例えば、凍結乾燥法により実施してよい。解繊後に、乾燥を行うことで、断片化細胞外マトリックス成分及び水性媒体を含む液から、水性媒体が除去される。水性媒体が除去されるとは、断片化された細胞外マトリックス中に一切の水分が付着していないことを意味するものではなく、上述の一般的な乾燥手法により、常識的に達することができる程度に水分が付着していないことを意味する。
(血管内皮細胞層の形成)
細胞構造体の作製は、平滑筋細胞層に血管内皮細胞を接触させ、インキュベートして、上記平滑筋細胞層と接する血管内皮細胞層を形成することを含む。
平滑筋細胞層に血管内皮細胞を接触させる方法としては、例えば、平滑筋細胞層を形成した水性媒体に血管内皮細胞を添加する方法、平滑筋細胞層を形成した水性媒体に血管内皮細胞を含む水性媒体を添加する方法、平滑筋細胞層を形成した後に一度水性媒体を除去し、血管内皮細胞を含む水性媒体を平滑筋細胞層に添加する方法が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、血管内皮細胞を含む水性媒体は、断片化細胞外マトリックスを含有する水性媒体であってもよい。断片化細胞外マトリックスを含有する場合には、水性媒体中で血管内皮細胞と断片化細胞外マトリックスを混合した細胞懸濁液を用いることが好ましい。
血管内皮細胞を含む水性媒体が断片化細胞外マトリックスを含有する場合には、水性媒体中の断片化細胞外マトリックスの濃度は、目的とする細胞構造体及び血管内皮細胞層の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、上記水性媒体中の断片化細胞外マトリックスの濃度は、0.1~90重量%であってもよいし、1~30重量%であってもよい。
血管内皮細胞と混合する断片化細胞外マトリックスの量は、1×105cellsの血管内皮細胞に対して、0.1~100mgであってもよいし、1~50mgであってもよい。また、断片化細胞外マトリックスと血管内皮細胞との質量比(断片化細胞外マトリックス/血管内皮細胞)は、1/1~1000/1であってよく、9/1~900/1であってよく、10/1~500/1であってもよい。
血管内皮細胞をインキュベートする際の水性媒体は、血管内皮細胞用培地を含むことが好ましい。血管内皮細胞を含む水性媒体(第3の水性媒体)が別途添加される場合には、上述した断片化細胞外マトリックスをホモジナイズする際の水性媒体(第1の水性媒体)及び平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合する際の水性媒体(第2の水性媒体)のいずれかと同じでもよく、異なってもよいが、血管内皮細胞用培地を含むことが好ましい。
平滑筋細胞層の形成における、フィブリノゲン及び/又はトロンビンの添加、並びにインキュベート前に外力を加えて、細胞及び断片化細胞外マトリックスを集積する工程は、血管内皮細胞層の形成においても同様に適用することができる。
平滑筋細胞層に血管内皮細胞を接触させてインキュベートすることで、血管内皮細胞が培養され、平滑筋細胞層と接する血管内皮細胞層が形成される。
平滑筋細胞層に血管内皮細胞を接触させ、インキュベートする方法は、特に制限はないが、例えば、インキュベート温度は20℃~40℃であってもよく、30℃~37℃であってもよい。血管内皮細胞を含む水性媒体のpHは、6~8であってもよく、7.2~7.4であってもよい。インキュベート時間は、例えば、5日間~2週間であってよく、1週間~2週間であってよく、5日~8日であってよい。
インキュベート(培養)における培地中の細胞密度は、目的とする細胞構造体及び血管内皮細胞層の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、培養における培地中の細胞密度は、1~108cells/mLであってよく、103~107cells/mLであってよい。
血管内皮細胞層の厚さは、5μm~30μmであることが好ましく、5μm~15μmであることがより好ましい。血管内皮細胞層の厚さの上限は、特に制限されないが、例えば、30μm以下であってもよいし、20μm以下であってもよいし、10μm以下であってもよい。血管内皮細胞層が通常より厚くなる疾患(例えば、動脈硬化)を有する血管壁モデルとして用いる観点からは、血管内皮細胞層の厚さは、5μm~15μmであることが好ましい。インキュベートにより、血管内皮細胞層が最終的に上記の好ましい厚さに形成されることが好ましい。
上述した作製工程により、安定で、細胞が均一に分布している細胞構造体が得られる。
本実施形態に係る作製方法により製造される細胞構造体は、培養中の収縮率が20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。上記収縮率は、例えば、以下の式で算出できる。式中L1は、培養後1日目の細胞構造体のもっとも長い部分の長さを示し、L3は、培養後3日目の細胞構造体における対応する部分の長さを示す。
収縮率(%)={(L1―L3)/L1}×100
上記の例では収縮率を、培養後1日目の細胞構造体と培養3日目の細胞組織体から算出しているが、培養の終了時点を含む培養期間の任意の時点での細胞構造体から算出してもよい。例えば、培養後1日目の細胞構造体と培養2日目の細胞構造体から算出してもよく、培養後1日目の細胞構造体と培養5日目の細胞構造体から算出してもよく、培養後1日目の細胞構造体と培養8日目の細胞構造体から算出してもよい。
〔細胞構造体に炎症促進剤を接触させる工程及び免疫細胞を接触させる工程〕
本実施形態に係る免疫細胞を含む細胞構造体の製造方法は、作製した細胞構造体に炎症促進剤を接触させる工程と、上記細胞構造体に免疫細胞を接触させる工程とを含む。
炎症促進剤を接触させた細胞構造体に免疫細胞を接触させることで、細胞構造体に免疫細胞を含ませることができる。炎症促進剤を平滑筋細胞等の細胞に接触させると、細胞接着因子及び炎症性サイトカインの発現が促進され、内皮細胞における免疫細胞の接着及び細胞層浸潤(transmigration)が起こる。免疫細胞は、細胞構造体の表面に含まれてもよく、細胞構造体の内部に含まれてもよく、表面及び内部の両方に含まれてもよい。また、免疫細胞は、平滑筋細胞層又は血管内皮細胞層に含まれてもよく、平滑筋細胞層又は血管内皮細胞層の表面及び/又は内部に含まれてもよい。
(細胞構造体に炎症促進剤を接触させる工程)
炎症促進剤としては、細胞構造体に免疫細胞を含ませることができる限り特に限定されないが、例えば、動脈硬化を誘導する因子、具体的には、例えば、Angiotensin II及びリポタンパク質が挙げられる。リポタンパク質は、低比重リポタンパク質(LDL)であってよく、アセチル化されたリポタンパク質であってよく、アセチル化されたLDLであってもよい。
細胞構造体に炎症促進剤を接触させる方法としては、細胞構造体を作製する際の水性媒体(例えば、平滑筋細胞層形成の際の水性媒体)に予め添加する方法、細胞構造体を作製した水性媒体(例えば、血管内皮細胞層形成の際の水性媒体)に炎症促進剤を添加する方法、細胞構造体を作製した水性媒体に炎症促進剤を含む水性媒体を添加する方法、細胞構造体を作製した後に一度水性媒体を除去し、炎症促進剤を含む水性媒体を添加する方法が挙げられるが、これらに限られるものではない。
炎症促進剤を含む水性媒体(第4の水性媒体)が別途添加される場合には、上述した断片化細胞外マトリックスをホモジナイズする際の水性媒体(第1の水性媒体)、平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合する際の水性媒体(第2の水性媒体)及び血管内皮細胞を含む水性媒体(第3の水性媒体)のいずれかと同じでもよく、異なっていてもよい。
炎症促進剤の濃度は、細胞構造体に免疫細胞を含ませることができる限り特に限定されないが、炎症促進剤の濃度を高くすることで、血管内皮細胞層が厚くなる傾向があるため、目的の血管内皮細胞層の厚さに応じて適宜設定することができる。例えば、炎症促進剤がAngiotensin IIである場合には、細胞構造体を含む水性媒体に対して0.1μM~5μM、炎症促進剤がリポタンパク質である場合には、細胞構造体を含む水性媒体に対して200~500μg/mLの濃度とすることができる。炎症促進剤の濃度を高くすることで、血管内皮細胞層が通常より厚くなる疾患(例えば、動脈硬化)を有する血管壁モデルとして用いるのに適した細胞構造体を製造することができる。
(細胞構造体に免疫細胞を接触させる工程)
免疫細胞については、[細胞構造体]において上述したとおりである。免疫細胞は、内部に上記のリポタンパク質を含んでもよい。リポタンパク質は、低比重リポタンパク質(LDL)であってよく、アセチル化されたリポタンパク質であってよく、アセチル化されたLDLであってもよい。例えば、免疫細胞がマクロファージであり、アセチル化されたLDLを取り込んでいてもよい。
細胞構造体に免疫細胞を接触させる方法としては、細胞構造体を作製した水性媒体(例えば、血管内皮細胞層形成の際の水性媒体)に免疫細胞を添加する方法、細胞構造体を作製した水性媒体に免疫細胞を含む水性媒体を添加する方法、細胞構造体を作製した後に一度水性媒体を除去し、免疫細胞を含む水性媒体を添加する方法が挙げられるが、これらに限られるものではない。
細胞構造体に免疫細胞を接触させる際の水性媒体は、免疫細胞用培地を含むことが好ましい。免疫細胞を含む水性媒体(第5の水性媒体)が別途添加される場合には、上述した断片化細胞外マトリックスをホモジナイズする際の水性媒体(第1の水性媒体)、平滑筋細胞と断片化細胞外マトリックスとを混合する際の水性媒体(第2の水性媒体)、血管内皮細胞を含む水性媒体(第3の水性媒体)及び炎症促進剤を含む水性媒体(第4の水性媒体)のいずれかと同じでもよく、異なっていてもよいが、免疫細胞用培地を含むことが好ましい。
細胞構造体に免疫細胞を接触させた後、インキュベートをしてもよい。細胞構造体に免疫細胞を接触させ、インキュベートする方法は、特に制限はないが、例えば、インキュベート温度は20℃~40℃であってもよく、30℃~37℃であってもよい。免疫細胞を含む水性媒体のpHは、6~8であってもよく、7.2~7.4であってもよい。インキュベート時間は、例えば、2日間~2週間であってよく、2日間~1週間であってよく、2日~5日であってよい。
細胞構造体に免疫細胞を接触させる工程は、免疫細胞を血管内皮細胞層に接触させることを含むことが好ましい。
細胞構造体が免疫細胞を含むことを確認する方法については、[細胞構造体]において上述した方法と同様に行うことができる。
本実施形態に係る製造方法における具体的な態様等は、上述した細胞構造体における具体的な態様等を制限なく適用できる。
〔細胞構造体を用いた薬剤の効果の評価方法〕
上述したように、本実施形態に係る細胞構造体は、生体の血管組織により近い構造であり、免疫細胞を含むため、血管疾患を有する血管壁モデル、例えば、動脈硬化血管壁モデルとして利用することができる。したがって、本実施形態に係る細胞構造体を用いて、薬剤の効果を評価したり、薬剤をスクリーニングしたりすることができる。
本発明の一実施形態として、上述した細胞構造体を用いた薬剤の効果の評価方法が提供される。
本実施形態に係る評価方法は、薬剤を細胞構造体に投与する投与工程と、上記薬剤を投与した細胞構造体における変化により、薬剤の効果を評価する評価工程とを含むことが好ましい。
効果を評価する薬剤は、特に制限されないが、本実施形態に係る細胞構造体の特徴が生かされるという観点から、血管疾患に関連する薬剤(治療又は予防する薬剤)、特に動脈硬化に関連する薬剤であることが好ましい。動脈硬化に関連する薬剤としては、例えば、動脈硬化抑制剤及び動脈硬化促進剤が挙げられる。動脈硬化抑制剤としては、例えば、高比重リポタンパク質(HDL)、アポリポタンパクA-I、スタチン及びPCSK9阻害剤等が挙げられる。動脈硬化促進剤としては、例えば、変性LDL、レムナント、Lp(a)及びAngiotensin II等が挙げられる。
薬剤の細胞構造体への投与は、細胞構造体を培養する培地として上記薬剤を含有する培地を用いることにより実施してもよく、細胞構造体を培養する培地に上記薬剤を添加することにより実施してもよい。
薬剤を投与する細胞構造体は、1日以上培養された細胞構造体であってよく、5日以上培養された細胞構造体であってよく、6日以上培養された細胞構造体であってよく、7日以上培養された細胞構造体であってよく、それ以上の日数培養された細胞構造体であってよく、7日以上14日以下の期間培養された細胞構造体であってもよい。
評価工程では、薬剤を投与した細胞構造体における変化により薬効を評価する。評価の指標となる変化としては、例えば、血管内皮細胞層の変化及び免疫細胞の接着量等が挙げられる。血管内皮細胞層の変化は、例えば、血管内皮細胞層の厚さの変化、又は弾性の変化であってよい。薬効は、上記指標1種のみの変化に基づいて評価してもよいし、上記指標の2種以上の変化に基づいて評価してもよい。細胞構造体における変化は、定性的な比較により評価してもよいし、定量的な比較により評価してもよい。
評価工程は、例えば、薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層を、薬剤を投与しなかった細胞構造体における血管内皮細胞層と比較することにより、行うことができる。また、例えば、薬剤を投与した細胞構造体における免疫細胞の接着量を、薬剤を投与しなかった細胞構造体における免疫細胞の接着量と比較することにより、行うことができる。
評価工程においては、例えば、薬剤を投与しなかった細胞構造体における血管内皮細胞層と比較して、薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層の厚さが小さい場合には、血管疾患を治療又は予防する薬剤として効果があると評価し、薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層の厚さが大きい又は変化がない場合には、血管疾患を治療又は予防する薬剤として効果がないと評価してもよい。また、例えば、薬剤を投与しなかった細胞構造体における血管内皮細胞層と比較して、薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層の厚さが大きい場合には、動脈硬化を促進する薬剤として効果があると評価し、薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層の厚さが小さい又は変化がない場合には、動脈硬化を促進する薬剤として効果がないと評価してもよい。
また、評価工程においては、例えば、薬剤を投与しなかった細胞構造体における免疫細胞の接着量と比較して、薬剤を投与した細胞構造体における免疫細胞の接着量が小さい場合には、血管疾患を治療又は予防する薬剤として効果があると評価し、薬剤を投与した細胞構造体における免疫細胞の接着量が大きい又は変化がない場合には、血管疾患を治療又は予防する薬剤として効果がないと評価してもよい。また、例えば、薬剤を投与しなかった細胞構造体における免疫細胞の接着量と比較して、薬剤を投与した細胞構造体における免疫細胞の接着量が大きい場合には、動脈硬化を促進する薬剤として効果があると評価し、薬剤を投与した細胞構造体における免疫細胞の接着量が小さい又は変化がない場合には、動脈硬化を促進する薬剤として効果がないと評価してもよい。
本発明の他の実施形態として、平滑筋細胞及び断片化細胞外マトリックスを含む平滑筋細胞層と、血管内皮細胞を含む血管内皮細胞層とを有する細胞構造体に、
炎症促進剤を接触させる工程、
免疫細胞を接触させる工程、
薬剤を細胞構造体に投与する投与工程、及び
上記薬剤を投与した細胞構造体における変化により、薬剤の効果を評価する評価工程
を含む、薬剤の効果の評価方法も提供される。
本実施形態に係る評価方法における具体的な態様等は、上述した細胞構造体及びその製造方法における具体的な態様等を制限なく適用できる。
また、本発明の一実施形態として、細胞構造体を用いた薬剤のスクリーニング方法を提供する。本実施形態によれば、例えば、血管疾患を治療又は予防する薬剤を効果的に選抜することができる。
細胞構造体を用いた薬剤のスクリーニング方法は、上記評価方法における評価工程において、血管疾患を治療又は予防する薬剤として効果があると評価された薬剤を選択する工程を含んでもよい。
評価の指標となる変化は、上記評価方法において上述したとおりである。薬効は、上記指標1種のみの変化に基づいて評価してもよいし、上記指標の2種以上の変化に基づいて評価してもよい。細胞構造体における変化は、定性的な比較により評価してもよいし、定量的な比較により評価してもよい。
また、スクリーニング方法は、例えば、薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層の厚さを測定する工程と、
薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層の厚さを、薬剤を投与しなかった細胞構造体における血管内皮細胞層の厚さと比較し、薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層の厚さが小さい場合に、上記薬剤を血管疾患を治療又は予防する薬剤の候補物質として選択する工程と、を含むか、又は、
薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層の弾性を測定する工程と、
薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層の弾性を、薬剤を投与しなかった細胞構造体における血管内皮細胞層の弾性と比較し、薬剤を投与した細胞構造体における血管内皮細胞層の弾性が小さい場合に、上記薬剤を血管疾患を治療又は予防する薬剤の候補物質として選択する工程と、を含むか、又は、
薬剤を投与した細胞構造体における免疫細胞の接着量を測定する工程と、
薬剤を投与した細胞構造体における免疫細胞の接着量を、薬剤を投与しなかった細胞構造体における免疫細胞の接着量と比較し、薬剤を投与した細胞構造体における免疫細胞の接着量が小さい場合に、上記薬剤を血管疾患を治療又は予防する薬剤の候補物質として選択する工程と、を含むことができる。
候補物質は、特に制限されないが、本実施形態に係る細胞構造体の特徴が生かされるという観点から、血管疾患に関連する薬剤、特に動脈硬化に関連する薬剤であることが好ましい。動脈硬化に関連する薬剤としては、例えば、動脈硬化抑制剤及び動脈硬化促進剤が挙げられる。動脈硬化抑制剤としては、例えば、高比重リポタンパク質(HDL)、アポリポタンパクA-I、スタチン及びPCSK9阻害剤等が挙げられる。動脈硬化促進剤としては、例えば、変性LDL、レムナント、Lp(a)及びAngiotensin II等が挙げられる。
細胞構造体における血管内皮細胞層の厚さの比較は、複数回行ってもよい。すなわち、細胞構造体における血管内皮細胞層の厚さの比較は、薬剤の投与後、所定の間隔ごとに複数回行われてもよい。
細胞構造体における血管内皮細胞層の弾性の比較は、複数回行ってもよい。すなわち、細胞構造体における血管内皮細胞層の弾性の比較は、薬剤の投与後、所定の間隔ごとに複数回行われてもよい。
また、細胞構造体における免疫細胞の接着量の比較は、複数回行ってもよい。すなわち、細胞構造体における免疫細胞の接着量の比較は、薬剤の投与後、所定の間隔ごとに複数回行われてもよい。
薬剤の投与は、上述した評価方法と同様に行うことができる。また、使用する細胞構造体等についても、上述したものを用いることができる。
本実施形態に係るスクリーニング方法における具体的な態様等は、上述した細胞構造体、その製造方法、及び評価方法における具体的な態様等を制限なく適用できる。
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
細胞構造体を作製するため、以下の細胞及び培地を準備した。
(細胞)
ヒト臍帯静脈由来内皮細胞(HUVEC):Lonza社製
ヒト臍帯動脈由来平滑筋細胞(UASMC):Lonza社製
ヒト単球細胞:JCRB細胞バンクのTHP-1
(培地)
平滑筋細胞用培地:製品名SMCGM2、製品コードC-22062、Promocell社製
血管内皮用培地:製品名EGM2MV、製品コードCC-3202、Lonza社製
単球用培地:製品名RPMI、製品コード30264-85、ナカライテスク社製
<試験例1:断片化エラスチンの作製>
ウシ血管由来エラスチン(製品名SB87、Elastin Products Company社製)50mgをMilli-Q 5mLに懸濁し、撹拌式ホモジナイザーを用いて室温で6分間ホモジナイズすることにより、断片化エラスチン(以下、「エラスチンマイクロファイバー(EMF)」ともいう)を含有する分散液を得た。得られた断片化エラスチンの平均径は、1.3±0.4μm、平均長(長さ)は、9.2±4.8μmであった。
<試験例2:細胞構造体の作製>
試験例1で得られた断片化エラスチンを含有する分散液50μL(断片化エラスチン、0.5mg相当)と、8×105cellsのヒト臍帯動脈由来平滑筋細胞(UASMC)とを24ウェルインサート(Corning社製)に添加した。1100rpmで5分間遠心した後、37℃で2日間培養し、平滑筋細胞層を構築した。さらに、構築した平滑筋細胞層の上に、さらに、2×105個のヒト臍帯静脈由来血管内皮細胞(HUVEC)を培地に懸濁し、自然沈降で平滑筋細胞層上に堆積させた。37℃で7日間培養して平滑筋細胞層上に血管内皮細胞層を有する細胞構造体を作製した。作製した細胞構造体を10%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定後、薄切し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)による染色及び抗CD31抗体による免疫染色を行った。細胞構造体がエラスチンマイクロファイバーを高い濃度で含むこと、平滑筋細胞層と血管内皮細胞層を有していることを確認した。また、細胞構造体を上から観察した際に、細胞構造体の上部表面が血管内皮細胞により均一に覆われていることも確認した。
<試験例3:Angiotensin II処理(単球細胞の接着及び分化の解析)>
動脈硬化の誘導因子の一つであるAngiotensin IIは、平滑筋細胞に接触させることで、細胞接着因子及び炎症性サイトカインの発現が促進され、内皮細胞における免疫細胞の接着及び細胞層浸潤が起こることが分かっている。そこで、試験例2の細胞構造体にAngiotensin IIが与える影響を解析した。
具体的には、試験例2において、平滑筋細胞層上に血管内皮細胞層を有する細胞構造体を作製した後、さらに、血管内皮細胞層の上に、5×104個のヒト単球細胞(THP-1)を培地に懸濁し、自然沈降で血管内皮細胞層の上に堆積させ、37℃で7日間培養した。ヒト単球細胞を加えて培養する際の、平滑筋細胞用培地、血管内皮細胞用培地、及び単球細胞培地の質量比は1:1:1であり、さらに、Angiotensin II(Ang II)(製品コード4001-V、ペプチド研究所社製)を含まない場合と、1μM含む場合に分けて培養を行った。メタノールで固定後、薄切し、抗CD11b抗体(製品コード301305、Biolegend社製)及び抗CD14抗体(製品コード367101、Biolegend社製)による免疫染色を行った。
免疫染色した写真を図1に、蛍光面積による比較を行ったグラフを図2に示す。CD11bの発現は単球の接着を示唆し、CD14の発現は、単球の分化を示唆する。Angiotensin IIを含まない培地で培養した細胞構造体と比較して、Angiotensin IIを含む培地で培養した細胞構造体において、CD11b及びCD14が強く発現していること、また、CD11b及びCD14が共局在していることが示された(図1及び図2の「Ang II+」)。これらの結果から、Angiotensin IIにより、ヒト単球細胞(THP-1)の接着及びマクロファージへの分化が促進されていることが示唆された。
<試験例4:Angiotensin II処理(細胞接着分子の発現解析)>
ヒト単球細胞を血管内皮細胞層の上に堆積させてからの培養が5日間である以外は試験例3と同様に作製したAngiotensin IIを含む培地で培養した細胞構造体を、抗CD31抗体(製品コードM0823、DAKO社製)及び抗CD54抗体(製品コード116101、BIOlegend社製)により免疫染色した。免疫染色した写真(上から観察)を図3に、抗CD54抗体の免疫染色による蛍光面積の比較を行ったグラフを図4に示す。抗CD54抗体の発現は、細胞接着分子の一種であるICAMの発現を示唆する。図3において白で表されている部分は抗CD54抗体による蛍光、黒で表されている部分は抗CD31抗体による蛍光を示す。これらの結果から、細胞構造体において、抗CD54抗体の強い発現が確認され、ICAMの強い発現が示唆された。
また、エラスチンマイクロファイバーを除く以外は細胞構造体と同様に作製した組織(図3及び図4の「EMFなし」)においては、抗CD54抗体の強い発現が確認されたが、エラスチンマイクロファイバーの上で血管内皮細胞を培養して作製した組織(図3及び図4の「SMCなし」)及び血管内皮細胞のみで作製された組織(図3及び図4の「HUVECのみ」)では、抗CD54抗体の発現が確認されなかった。なお、いずれの組織も細胞構造体と同様に平滑筋細胞用培地:血管内皮細胞用培地:単球細胞培地の質量比が1:1:1の培地を使用して作製したものである。これらの結果から、ICAMの発現に平滑筋細胞層が必要であることも示唆された。
抗CD54抗体の免疫染色による蛍光面積を、異なる濃度のAngiotensin IIを含む培地で培養した細胞構造体と、血管内皮細胞のみで作製された組織(「HUVEC」)間で比較したグラフを図5に示す。図5の(a)は蛍光面積の比較、(b)は、Angiotensin IIを含まない場合における蛍光面積を1.0とした場合の蛍光面積の比率の比較を示す。血管内皮細胞のみで作製された組織では、Angiotensin IIの濃度を増加させても蛍光面積は増加しなかったが、細胞構造体においては、Angiotensin IIの濃度が0.1μM以上の時、蛍光面積が増加する蛍光が観察された。これらの結果から、Angiotensin IIの作用により、細胞構造体においてICAMの発現が増加する可能性が示唆された。
<試験例5:アセチル化低比重リポタンパク質(LDL)処理>
動脈硬化の誘導因子の一つであるアセチル化低比重リポタンパク質(LDL)は、細胞の増殖と免疫細胞の浸潤を促進し、マクロファージにより取り込まれることが分かっている。そこで、試験例2の細胞構造体にアセチル化低比重リポタンパク質が与える影響を解析した。
具体的には、試験例2において、平滑筋細胞層上に血管内皮細胞層を有する細胞構造体を作製した後、さらに、血管内皮細胞層の上に、5×104個のヒト単球細胞(THP-1)を培地に懸濁し、自然沈降で血管内皮細胞層の上に堆積させ、37℃で3日間培養した。その後、ヒト由来のアセチル化低比重リポタンパク質(国立研究開発法人国立循環器病研究センターより分譲)を0~400μg/mLの濃度で培地に加え、さらに37℃で5日間培養した。作製した細胞構造体を10%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定後、薄切し、ヘマトキシリン・エオジン(HE)による染色を行った結果を図6に示す。各写真の左上の濃度は、アセチル化低比重リポタンパク質の濃度を示す。アセチル化低比重リポタンパク質の濃度が高くなるほど、内皮細胞層の厚さが増加する傾向が見られた。
また、アセチル化低比重リポタンパク質の濃度に対する細胞構造体の内皮細胞層の厚さ(μm)の変化を図7のグラフに示す。血管内皮細胞のみで作製された組織(「HUVECのみ」)は、アセチル化低比重リポタンパク質の濃度(LDL濃度/μg/mL)の変化により内皮細胞層の厚さは変化しなかったが、細胞構造体においては、アセチル化低比重リポタンパク質の濃度が高くなるほど、内皮細胞層の厚さが増加する傾向が見られた。
さらに、作製した細胞構造体を抗CD31抗体(製品コードM0823、DAKO社製)及び抗α-SMA抗体(製品コード904601、Biolegend社製)により免疫染色した写真を図8に示す。「HUVECのみ」は、血管内皮細胞のみで作製された組織を用いた結果を示す。図8(a)は抗CD31抗体による免疫染色の結果、図8(b)は抗α-SMA抗体による免疫染色の結果をそれぞれ示す。各写真の左上に記載された濃度は、アセチル化低比重リポタンパク質の濃度を示す。図8(a)から、血管内皮細胞(HUVEC、黒で表されている部分)が、内皮細胞層に広く分布していることが分かった。また、図8(b)から、平滑筋細胞(SMC、黒で表されている部分)が、内皮細胞層に存在していないことも示された。当該細胞構造体の内皮細胞層は内皮細胞及びTHP-1からなる。平滑筋細胞層がTHP-1の吸収及び浸潤を促進することで、アセチル化低比重リポタンパク質に反応して内皮細胞層を厚くすることが示唆された。
<試験例6:高比重リポタンパク質(HDL)処理>
高比重リポタンパク質(HDL)は、血液中の主要なリポタンパク質であり、リン脂質とアポリポタンパク質とで構成され、体内のコレステロール輸送を仲介している。また、高比重リポタンパク質は、コレステロール引き抜き能、抗酸化作用、抗炎症作用、内皮細胞の活性抑制等多くの抗動脈硬化作用を有することが分かっている。そこで、試験例4の細胞構造体に高比重リポタンパク質が与える影響を解析した。試験例4の細胞構造体は、平滑筋細胞層上に血管内皮細胞層を有する細胞構造体に5×104個のヒト単球細胞(THP-1)を堆積させて培養したものである。
具体的には、ヒト単球細胞(THP-1)を堆積させて37℃で3日間培養した後、ヒト由来のアセチル化低比重リポタンパク質(国立研究開発法人国立循環器病研究センターより分譲)200μg/mL及びヒト由来の高比重リポタンパク質(国立研究開発法人国立循環器病研究センターより分譲)0~2000μg/mLを培地に加え、さらに37℃で5日間培養した。作製した細胞構造体を10%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定後、薄切し、抗CD31抗体(製品コードM0823、DAKO社製)により免疫染色を行った結果の写真を図9に、高比重リポタンパク質の濃度に対する内皮細胞層の厚さの変化を表すグラフを図10に示す。図9において点線で区切られている内側が内皮細胞層(白く表されている部分が内皮細胞)に該当する部分であり、各写真の上の濃度は、高比重リポタンパク質の濃度を示す。高比重リポタンパク質を添加していないサンプル(0μg/mL)が、アセチル化低比重リポタンパク質の影響により最も内皮細胞層が厚く、高比重リポタンパク質の濃度が高くなるほど、内皮細胞層の厚さが減少する傾向が見られた。