以下、本開示に係る実施形態について、画像形成装置としてプリンターを例に、図面を参照しながら説明する。
〔1〕プリンターの全体構成
図1は、プリンター1の全体構成を示す概略断面図である。
同図に示すようにプリンター1は、電子写真方式によるものであり、給送部10、作像部20、定着部30、排出部40および両面搬送部50を含み、記録用のシートSの片面(表面)のみに画像をプリントする片面プリントジョブと、シートSの両面(表面と裏面)に画像をプリントする両面プリントジョブを実行可能である。
給送部10は、シートSを収容する給紙トレイ11と、給紙トレイ11に設けられ、シートSを搬送路19に向けて1枚ずつ繰り出す繰り出しローラー12Pと、繰り出されたシートSを給紙搬送する給紙ローラー12Fと、二次転写位置29にシートSを送り出すタイミングをとるためのタイミングローラー13などを備えている。
給紙トレイ11に収容可能なシートSの材質は紙または樹脂等であり、紙種は、普通紙、上質紙、カラー用紙、または塗工紙等であり、サイズは、A3、A4、A5、またはB4等である。
作像部20は、給紙トレイ11よりも上に位置し、給送部10から送られたシートS上にトナー像を形成する。具体的には、4つの作像ユニット21Y、21M、21C、21Kでは、帯電された感光体ドラム25Y、25M、25C、25Kの表面を、画像データに基づき変調駆動された露光部26からのレーザー光で露光して、その表面に静電潜像を作成し、その静電潜像をイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の各色のトナーで現像する。
現像により可視像化された4色のトナー像は、感光体ドラム25Y、25M、25C、25Kと、これに中間転写ベルト23を介して対向する1次転写ローラー22Y、22M、22C、22Kとの間の電界によって、各感光体ドラムの表面から中間転写ベルト23の表面上に一次転写される。この一次転写において、Y~Kの各色トナー像が中間転写ベルト23上の同じ位置に転写されるように、作像ユニット21Y~21Kにおいてトナー像の形成タイミングがずらされる。これにより中間転写ベルト23上にY~K色トナー像が多重転写されてなるカラートナー像が形成される。
中間転写ベルト23は、感光体ドラム25Y~25Kよりも上に位置し、駆動ローラー23R、従動ローラー23Lを含む複数のローラーに張架されており、矢印A方向に周回走行される。中間転写ベルト23上のカラートナー像は、中間転写ベルト23の周回走行により、中間転写ベルト23と2次転写ローラー24との接触位置である二次転写位置29に移動する。
中間転写ベルト23上のカラートナー像は、二次転写位置29において、中間転写ベルト23と2次転写ローラー24との間の電界により、給送部10から搬送されて来たシートSが中間転写ベルト23と2次転写ローラー24の間を通過する際に、そのシートSの表面(第1面)へ二次転写される。カラートナー像が二次転写されたシートSは、2次転写ローラー24により矢印E方向に搬送されて定着部30へ向かう。
定着部30は、作像部20よりも上に位置し、シートS上にカラートナー像を熱定着させる。具体的には、加熱部31と加圧ローラー32との間のニップNpにシートSが通紙されるとき、加熱部31はそのシートSの第1面へヒーターの熱を加え、加圧ローラー32はそのシートSの加熱部分に対して圧力を加えて加熱部31へ押し付ける。加熱部31からの熱と加圧ローラー32からの圧力とにより、トナー像がシートS上に定着する。
排出部40は、排出ローラー41と排紙口45を含み、カラートナー像が定着したシートSを排紙口45から排出する。排出ローラー41は、排紙口45の内側に配置され、矢印B方向に回転(正転)しながら、定着部30から搬送されて来たシートSを排紙口45から搬送して機外に排出する。排出された用紙Sは、排紙トレイ46へ収容される。これにより、シートSの第1面のみにプリントする片面プリントが完了する。
上記では、片面プリントジョブについて説明したが、両面プリントジョブの場合は、次のように動作する。
すなわち、両面プリントジョブの場合、表面(第1面)に対するプリント時に二次転写位置29を通過したシートSは、定着部30から排出ローラー41に搬送される。
この時点では、排出ローラー41は、正転(矢印B方向に回転)しており、シートSは、排出ローラー41により、さらに排出方向に搬送される。
正転する排出ローラー41により搬送されるシートSの搬送方向後端が光学センサーからなる排出センサーESの検出位置を通過すると、排出ローラー41が正転から逆転(矢印C方向に回転)に切り換わる。この排出ローラー41の逆転により、シートSが反転して両面搬送部50に導かれる。このシートSの反転をスイッチバックという。
スイッチバックにより両面搬送部50に導かれたシートSは、両面搬送ローラー51、52、53、54、55により両面搬送路を矢印D方向に搬送され、両面搬送ローラー55を通過後、タイミングローラー13を介して、再度、二次転写位置29まで搬送される。シートSの二次転写位置29への搬送タイミングに合わせて、作像部20においてシートSの裏面(第2面)に対する各色トナー像の形成が行われており、中間転写ベルト23上に重ね合わされてなるカラートナー像が二次転写位置29において一括してシートSの第2面に二次転写される。
二次転写位置29において第2面にカラートナー像が二次転写されたシートSは、定着部30に搬送され、定着部30においてそのカラートナー像がシートSの第2面に定着される。定着部30を通過したシートSは、排出ローラー41に導かれる。この時点では、排出ローラー41は、第1面へのプリントのときと同様に正転しており、搬送されて来たシートSをさらに搬送して機外に排出し、排紙トレイ46に収容させる。これにより、シートSの両面(第1面と第2面)にプリントする両面プリントが完了する。
給送部10と作像部20において、給紙、搬送のローラー類や駆動ローラー23R、感光体ドラム25Y~25Kなどを含む回転部材は、作像部20に配された駆動モーターM1の駆動力により回転する。排出ローラー41は、排出部40に配された駆動モーターM3の駆動力により正逆転し、両面搬送ローラー51~55は、両面搬送部50に配された駆動モーターM4の駆動力により回転する。
定着部30よりも下であり、作像部20の作像ユニット21Kの付近には、プリンター1の環境を検出するための機内温度センサー80が配置されている。このプリンター1の環境とは、プリンター1が設置されている場所の温度または湿度をいうが、以下では温度として説明する。機内温度センサー80による温度検出信号は、全体制御部60に送られる。
全体制御部60は、機内温度センサー80の検出信号に基づき、帯電工程での帯電電流、現像工程での現像バイアス、転写工程での転写電流などを制御して、プリンター1の内部温度(機内温度)の変化に伴って帯電性、現像性、転写性が低下するのを防止する。特に、帯電電流と転写電流は、環境変動の影響を受け易いので、環境変動の変化に応じて電流値を可変することで、形成画像の画質劣化を抑制できる。
また、全体制御部60は、帯電、現像、転写の各工程だけではなく、定着工程においても機内温度センサー80の検出結果を利用する。すなわち、機内温度センサー80の検出結果に基づき、定着部30の目標温度、具体的には加熱部31の目標温度を設定する。この設定内容については、後述する。
また、全体制御部60は、ネットワークインターフェース(I/F)70を通じて不図示のネットワークを介して外部の端末装置と接続され、この端末装置から送られて来るプリントジョブのデータを受信して、受信したプリントジョブのデータから印刷すべき画像データを生成し、生成した画像データをプリントに供する。
〔2〕定着部の構成
図2は、定着部30の構成を示す概略断面図である。
同図に示すように定着部30は、加熱部31と加圧ローラー32を有する。加熱部31は、無端状の定着ベルト311(以下、ベルト311と略する)と、ベルト311を張架する加熱ローラー312と定着ローラー313と、加熱ローラー312に熱を付与するヒーター314と、ベルト31の温度を検出するためのベルト温度センサー315を含む。
ベルト311は、ポリイミドやSUS(ステンレス鋼)等からなる基層の上に、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性の高い材料からなる弾性層と、PFA(パーフルオロアルコキシフッ素樹脂)などのフッ素系樹脂からなる離型性を付与した離型層とがこの順に積層されてなる。
加熱ローラー312は、円筒状のアルミ中空芯金の外周面にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなるコート層が積層されてなる。定着ローラー313は、アルミや鉄などからなる円柱状の中実芯金の外周面に、シリコーンゴムやフッ素ゴム等の弾性層が積層されてなる。加熱ローラー312と定着ローラー313のそれぞれは、その軸方向両端部が定着部30の筐体を構成する不図示のフレームに回転自在に支持されている。
ヒーター314は、2本のハロゲンヒーターからなり、円筒状の加熱ローラー312の内周側に挿通されており、不図示の電源からの電力供給により発熱する。各ハロゲンヒーターから発せられた熱が加熱ローラー312に伝わることで、加熱ローラー312が加熱される。
加圧ローラー32は、アルミや鉄などからなる円筒状の芯金の外周面に、シリコーンゴム等の弾性層と、PFAなどの離型層とがこの順に積層されてなる。加圧ローラー32の軸方向両端部が上記のフレームに回転自在に支持されるとともに、バネなどの弾性部材(不図示)からの付勢力により、加圧ローラー32の外周面がベルト311の外周面に圧接される。この圧接により、加圧ローラー32の外周面とベルト311の外周面との間にニップNpが形成される。
加圧ローラー32は、駆動モーターM2(図1)の回転駆動力により矢印F方向に所定の回転速度で回転駆動される。この加圧ローラー32の回転により、加熱ローラー312と定着ローラー313に張架されているベルト311が矢印G方向(ベルト周回方向)に従動回転(走行)する。ニップNpを通過するシートSの搬送速度が所定のシステム速度(基準速度)で安定するように駆動モーターM2の回転速度が制御される。
ベルト311の周回走行中にヒーター314が通電されると、ヒーター314から発せられた熱が加熱ローラー312からベルト311に伝わり、ベルト311の周回走行によりニップNpに至る。これにより、ベルト311の熱が加圧ローラー32に供給され、ベルト311と加圧ローラー32との接触領域であるニップNpの温度が上昇する。
ベルト温度センサー315は、例えばサーミスターであり、ベルト311における加熱ローラー312の外周面と接する部分の近傍位置に配され、ベルト311の表面温度を検出して、その検出結果を全体制御部60に送る。
全体制御部60は、ベルト温度センサー315の検出温度に基づいて、ベルト311の温度が定着に適した目標温度(例えば150℃)に維持されるように、ヒーター314への供給電力を制御する。
目標温度は、プリンター1の環境に応じて設定される。本実施の形態では、低温、常温、高温の3つの環境ごとに異なる目標温度が設定される。
ここで、低温環境とは15℃未満の温度範囲であり、高温環境とは30℃以上の温度範囲であり、常温環境とは、15℃から30℃までの温度範囲をいう。常温環境では、目標温度が基準温度、例えば150℃に設定され、低温環境では、目標温度が基準温度よりも高い、例えば155℃に設定され、高温環境では、目標温度が基準温度よりも低い、例えば145℃に設定される。
この制御により、ベルト311の温度が定着に適した温度で安定するようになる。搬送路19を搬送されるシートSがニップNpを通過する際に、シートS上の未定着画像に対して適正な加熱溶融と加圧がなされる。これにより、シートSの定着性が向上する。
〔3〕機内温度センサーを用いる環境判定について
プリンター1が例えば低温環境下において両面プリントジョブ(以下、単に「プリント」という。)を実行した場合、上記のように第1面へのトナー像の熱定着後のシートSがスイッチバック後、両面搬送部50の両面搬送路を通過して、タイミングローラー13を介して、再度、二次転写位置29まで搬送される。この熱定着後のシートSがタイミングローラー13を経て二次転写位置29に向かって搬送される際に、そのシートSの熱が作像部30の周囲に放熱されることで、機内温度センサー80の周辺温度が一時的に上昇することが生じる。
機内温度センサー80の周辺温度が一時的に上昇しても、トレイ11に収容されているシートSの温度が低温のままになっている状況が有り得る。このことは、上記の「発明が解決しようとする課題」の項で説明したようにプリンター1の実際の環境温度と機内温度センサー80が検出する周辺温度との間に乖離が生じた状況に相当する。
この状況では、機内温度センサー80がプリンター1の環境を実際の低温ではなく、これよりも高いと検出することが生じる。これを、実際の環境よりも高めの温度に誤検出する状況下にあるという。
この状況下において機内温度センサー80の検出結果を信じて定着部30の目標温度を設定すると、目標温度は、例えば常温と誤検出された場合、低温環境にあるシートSに対して定着に適した目標温度(例えば155℃)ではなく、常温環境に適した温度(例えば150℃)になる。
これでは、定着部30の温度が低温のままのシートSに適した温度よりも5℃程度低くなり、定着時に熱量が不足気味になって、低温環境に適した目標温度で定着する場合よりも、温度が5℃低い分、定着性が低下することになる。高温と検出された場合も同様に、高温環境に適した温度(例えば145℃)に設定されることで、定着性の低下を招く。この状況は、機内温度センサー80の検出結果を信用できない状況といえる。
機内温度センサー80は、自己の周辺環境(雰囲気温度)の検出結果を出力するだけなので、誤検出する状況下にあるか正しく検出可能な状況下にあるかを見分けることができず、機内温度センサー80の検出結果を監視するだけでは、いずれの状況下にあるかを判定できない。
そこで、本願発明者は、ニップNpの蓄熱量(残存余熱量)と機内検出センサー80の周辺温度が、ベルト311の停止中における放熱によりニップNpの残存余熱量が少なくなるのに伴って、一時的に上昇していた機内検出センサー80の周辺温度が下がって行くという関係を有する点に着目し、次の(a)と(b)の制御方法を見出した。
(a)前回のプリント終了後、次のプリントを開始するに際し、前回のプリント終了から次のプリント開始までの経過時間が長くなるほど、ニップNpの放熱が進み、ニップNpの残存余熱量が少ない状態になる。なお、前回のプリント終了から次のプリント開始までの間の待機状態では、ベルト311が停止しているので、ニップNpがヒーター314で直に加熱されることはない。
待機状態においてニップNpの残存余熱量がかなり少ない状態になっているということは、これに並行して、直前のプリント動作などにより一時的に上昇した、機内温度センサー80の周辺温度の下降が進み、機内温度センサー80の検出結果が実際のプリンター1の環境(上記の例ではが低温)に順応した結果になっている蓋然性が高い。この場合、機内温度センサー80がプリンター1の環境を正しく検出可能な状況にあると判定して、現在の機内温度センサー80の検出結果を信用して、これを現在の環境と判定する。
(b)一方、前回のプリント終了から次のプリント開始までの経過時間がかなり短い場合には、ニップNpの放熱がそれほど進んでおらず、ニップNpの残存余熱量が多い(未だ温まっている)状態になっている。
ニップNpの放熱が進んでいないということは、これに並行して、機内温度センサー80の周辺も前回のプリント動作で温まった状態が続いている蓋然性が高い。このとき機内温度センサー80の検出結果が低温以外の常温環境や高温環境になっていれば、プリンター1の環境を正しく検出可能な状況ではない、すなわち誤検出する状況下にあると判定して、その検出結果を信用せず、これ以前に、正しく検出可能な状況にあったときに判定された環境をバックアップから読み出して、これを現在の環境と判定する。
上記の(a)と(b)の制御方法を実現するには、ニップNpの現在の残存余熱量を知る必要があるが、これを直接、検出するには専用のセンサーなどを用意する必要があり、望ましくない。一方でニップNpの蓄熱量は、ニップNpのシート搬送方向における幅(ニップ幅:図2)Ndの大きさと関係を有する。
具体的には、ニップNpの蓄熱量が多いほど、加圧ローラー32の熱膨張が大きくなり、加圧ローラー32の熱膨張の度合いが大きいほど、ベルト311とのシート搬送方向における接触長さであるニップ幅Ndが広くなる。逆に、ニップNpの蓄熱量が少ないほど、加圧ローラー32の熱膨張が小さくなり、つまり収縮が進み、加圧ローラー32の熱膨張の度合いが小さいほど、ニップ幅Ndが狭くなる。
加圧ローラー32の熱膨張は、加熱されたベルト311から加圧ローラー32に加えられる熱量により変動し、加圧ローラー32に加えられる熱量は、ベルト311の回転中と停止中とで異なる。
なぜなら、熱源のヒーター314により加熱される加熱ローラー312と、ニップNpを形成する加圧ローラー32とが離間している。このため、プリント実行中などのようにベルト311が周回走行すれば、ヒーター314により加熱された加熱ローラー312の熱がベルト311から直にニップNpに伝えられる。
しかし、プリントジョブの待機中などでベルト311が停止状態にあれば、加熱ローラー312と離間している加圧ローラー32に伝わる熱は、加熱ローラー312から停止中のベルト311を通じて伝わる熱か輻射熱しかなく、加圧ローラー32に加えられる熱量が著しく低減するからである。
ベルト311の回転中と停止中とでニップ幅Ndは、図3と図4に示すように変動する。図3は、ベルト311の回転時間(ベルト回転時間t-rot)とニップ幅Ndの関係を示す図であり、図4は、ベルトの停止時間(ベルト停止時間t-stop)とニップ幅Ndの関係を示す図である。なお、図3も図4も、ベルト回転時間t-rotとベルト停止時間t-stopとニップ幅Ndの関係を実験で実測したときの一例を示している。
図3に示すようにベルト回転時間t-rotが増えるのに伴ってニップ幅Ndが広くなっていることが判る。具体的には、ベルト311の回転開始時には、ニップ幅Ndが4.85mmであるが、300秒後には、ニップ幅Ndが5.4mmになり、900秒後にはニップ幅Ndが5.6mmに広がっている。
この状態からベルト311の回転を停止すると、加圧ローラー32に伝わる熱の量が減少するため、図4に示すようにベルト停止時間t-stopが増えるのに伴ってニップ幅Ndが狭くなる。具体的には、ベルト311の停止時に5.6mmであったニップ幅Ndが、600秒後には5.4mmになり、1800秒後には5.2mmに狭くなっている。
ここで、図4において、ニップ幅Ndが元の大きさである4.8mmまで戻らないのは、ベルト311の回転が停止しても、加熱ローラー312からの熱が停止中のベルト311を通じて加圧ローラー32に伝わるとともに加熱ローラー312の輻射熱も加圧ローラー32に伝わるためである。上記のニップ幅Ndの大きさは一例であり、定着部30の装置構成が異なれば、ニップ幅Ndの大きさも異なる場合があることはいうまでもない。
このようにニップ幅Ndは、ヒーター314で加熱されているベルト31の回転時間に応じて大きくなり、ベルト31の停止時間に応じて小さくなる。つまり、ニップ幅Ndは、ベルト31の回転時間と停止時間と相関がある。そして、ベルト31の回転時間が長いほどニップNpに供給される熱量が増えるのでそれだけニップNpの蓄熱量が多くなり、これに続くベルト31の停止時間が長いほど放熱によりニップNpの蓄熱量が少なくなるという関係があるから、ニップNpの蓄熱量は、ベルト31の回転時間と停止時間と関係があるといえる。
そこで、プリント開始時には、ベルト回転時間t-rotとベルト停止時間t-stopをニップNpの残存余熱量の指標として用い、この指標値が少ない場合に上記の(a)の制御をとり、この指標値が多い場合に上記の(b)の制御をとるように切り替えることで、プリンター1の環境の判定精度を高め、プリンター1の環境に適した定着部30の目標温度をより正確に設定して定着性の低下を防止する。
以下、具体的に説明する。
まず、ベルト回転時間t-rotとベルト停止時間t-stopを取得する。図5に示すようにベルト回転時間t-rotは、現在を基準に、これよりも前の直近(前回)のプリントジョブでベルト311が回転した時間を示し、ベルト停止時間t-stopは、前回、ベルト311が回転した後、現在まで停止していた待機中の時間を示す。例えば、ベルト311が5分間回転し、この回転の停止から現在まで7分間、停止したままであったとすると、ベルト回転時間t-rotが5分、ベルト停止時間t-stopが7分になる。
この例のようにベルト311が5分回転後、7分間停止した場合、ニップ幅Nd(ニップNpの蓄熱量に相当)を求めるのに際し、本実施の形態では、ベルト311が停止せずに回転開始から100秒間回転し続けた状態に相当すると判断する。
この判断は、全体制御部60の記憶領域に予め格納された換算テーブル(不図示)を用いて行われる。この換算テーブルは、ベルト311の回転後にベルト311を停止させた場合の停止期間におけるニップ幅Ndが、ベルト311を停止させずに回転させるとした場合に、ベルト311の回転開始から何分後のニップ幅に相当するのかという実験によるデータを記録したテーブルである。
このデータは、次の(式1)から求めることができる。
δrot=t-rot〔1-t-stop/(t-stop+A)〕・・・・(1)
ここで、(式1)に示す「δrot」は、上記の「何分後」の分を示すベルト311の回転時間であり、「t-rot」は、上記のベルト回転時間t-rot(分)であり、「t-stop」は、上記のベルト停止時間t-stop(分)である。Aは、環境判定を適正に行うために予め決められた定数である。以下、δrotを補正回転時間という。
図6は、(式1)を示す曲線のグラフを具体的に例示した図であり、横軸がベルト停止時間t-stopを示し、縦軸が補正回転時間δrotを示している。この補正回転時間δrotは、上記のようにベルト停止時間t-stopに対応するニップ幅Npと同じ大きさのニップ幅になると想定されるベルト311の回転時間を示す。
図6において、太線のグラフは、ベルト回転時間t-rotが10分間の場合に対応し、実線のグラフは、ベルト回転時間t-rotが5分間の場合に対応し、破線のグラフは、ベルト回転時間t-rotが3分間の場合に対応し、一点鎖線のグラフは、ベルト回転時間t-rotが1分間の場合に対応している。
ここで、縦軸と各グラフとの交点は、ベルト停止時間t-stop=0の場合における補正回転時間δrotの初期値、つまりベルト回転時間t-rotに相当する。
上記の例では、ベルト回転時間t-rotが5分間であるから、実線のグラフを選択し、さらにベルト停止時間t-stopが7分であるから、実線のグラフにおいて7分に対応する縦軸の数値を読み取ると、その数値、つまり補正回転時間δrotが100になる。このようにして、補正回転時間δrotが求められる。
補正回転時間δrotは、上記のようにベルト311がベルト回転時間t-rotに亘って回転した後、ベルト停止時間t-stopに亘って停止した場合のニップ幅Npと同じ大きさのニップ幅を得ることができると想定されるベルト311の回転時間を示すものである。
補正回転時間δrotが短いということは、ベルト311がベルト回転時間t-rotの回転後、ベルト停止時間t-stopだけ停止した場合のニップ幅Npと同じ大きさのニップ幅Ndを得るのに要するニップNpへの熱の供給量が少ないことを示す。ニップNpへの熱の供給量が少ないことは、ベルト停止時間t-stopの終了時におけるニップNpの蓄熱量が少ないことを意味する。この蓄熱量がニップNdの残存余熱量に相当する。補正回転時間δrotが長い場合、短い場合の逆になる。このことから、補正回転時間δrotがニップNpの蓄熱量を指標したものといえ、補正回転時間δrotを求めることは、ニップNpの蓄熱量を推定することに等しいといえる。
図7は、補正回転時間δrotとニップ幅Ndの関係を例示するグラフであり、補正回転時間δrotが100秒のときに、ニップ幅Ndが約5.3mmになることが判る。
本実施の形態では、ニップ幅Ndを直に求めるのではなく、全体制御部60において(式1)を用いてニップNpの残存余熱量を指標する補正回転時間δrotを求め、求めた補正回転時間δrotの大小から機内温度センサー80の周辺温度の下降推移を推定して、推定した周辺温度の下降推移からプリンター1の環境判定を行い、その判定結果から定着部30の目標温度の設定を行う。
〔4〕全体制御部の構成
図8は、全体制御部60の構成を示すブロック図である。
同図に示すように全体制御部60は、CPU(Central Processing Unit)61と、ROM(Read Only Memory)62と、RAM(Random Access Memory)63を含む。これらは相互に通信することができる。また、CPU61は、給送部10と、作像部20と、定着部30と、排出部40と、両面搬送部50と、ネットワークI/F70とも相互に通信することができる。
CPU61は、外部の端末装置からネットワーク(例えばLANなど)を通じて送られて来るプリントジョブのデータをネットワークI/F70が受信すると、給送部10、作像部20、定着部30、排出部40、両面搬送部50の動作を統括的に制御して、受信したプリントジョブのデータに基づくプリントジョブを円滑に実行させる。ROM62は、予め、プリントジョブを実行させるための制御プログラムなどを記憶している。CPU61は、ROM62に記憶されている制御プログラムに従って動作する。RAM63は、CPU61によるプログラム実行時のワークエリアを提供する。
また、CPU61は、機内温度センサー80とベルト温度センサー315の検出結果に基づきプリンター1の環境判定を行い、判定した環境に応じて定着部30の温度を制御する温調制御を行う。この温調制御は、CPU61に含まれる定着制御部が実行する。
〔5〕定着制御部の構成
図9は、定着制御部610の構成を示すブロック図である。
同図に示すように定着制御部610は、環境判定部611と、目標温度設定部612と、バックアップメモリ613と、ヒーター制御部614を含む。
環境判定部611は、プリンター1の動作状態と、機内温度センサー80の検出結果と、ベルト温度センサー315の検出結果と、バックアップメモリ613に格納されている情報とから、現在のプリンター1の環境、ここでは低温、常温、高温のいずれであるかの判定を行う。
目標温度設定部612は、環境判定部611による現在の環境判定結果から定着部30の目標温度、つまりベルト311の目標温度を設定する。
ヒーター制御部614は、ベルト温度センサー315の検出結果から得られる現在のベルト311の温度と目標温度設定部612が設定した目標温度とが一致するようにヒーター314の発熱量を制御する。
バックアップメモリ613は、不揮発性の記憶部であり、過去の動作状態と機内温度センサー80の検出結果と環境判定結果とを示す情報が格納されている。
図10は、バックアップメモリ613に格納されている情報の内容例を示す図である。
同図に示すようにバックアップメモリ613は、時刻、動作状態、ベルト回転の有無、機内検出結果、環境判定結果、目標温度の各欄の記憶領域がテーブル形式で構成されてなる。
時刻欄は、一定時間間隔、同図の例では、午前9時から1分ごとに時間順に区分けされている。
動作状態は、プリンター1の動作状態であり、待機、ウォームアップ(WU)、プリントの3つが含まれる。ここで、待機は、プリントを実行可能な状態でプリントジョブの実行指示を待っている状態であり、定着部30では、プリントを実行可能なように、停止状態のベルト311をヒーター314により目標温度に維持する温調制御が行われる。
ウォームアップは、プリンター1の電源オン時に定着部30のベルト311を回転させつつ目標温度まで昇温させてプリントを実行可能な状態に遷移させる動作をいう。なお、ウォームアップは、電源オン時に限られず、例えばベルト311の目標温度をプリント時の目標温度よりも大幅に下げて(例えば100℃など)、省電力を図る省電力モードから待機状態に復帰する際に行われるとしても良い。プリントは、プリントジョブの実行動作中をいう。
ベルト回転の有無は、動作状態ごとのベルト311の回転の有無を示す。待機状態では、ベルト311が回転せず(停止)、ウォームアップとプリントでは、ベルト311が回転状態になる。
機内検出結果は、機内温度センサー80による検出結果として、低温、常温、高温の3つの環境区分のうちのいずれかを示している。上記のように低温が15℃未満、常温が15℃~30℃の範囲、高温が30℃以上の範囲である。
環境判定結果は、環境判定部611が判定したプリンター1の環境、ここでは低温、常温、高温のうちいずれかを示す。この判定は、後述の環境判定処理(図12)により行われる。
目標温度は、定着部30の目標温度であり、環境判定結果に基づき設定される。
環境判定部611は、プリンター1の電源オン時とこれ以後の1分間隔ごとに動作状態、ベルト回転の有無、機内検出結果、環境判定結果をその時刻に対応する欄に書き込む。目標温度設定部612は、環境判定部611により環境判定が行われる度に、その時刻に対応する欄にその環境判定に基づき目標温度を書き込む。
同図の例は、本日が月曜日である場合に、前日(日曜日)から本日(月曜日)の夜間にかけて常温環境下にあったプリンター1が本日の午前9時丁度に電源オンされたときに、午前9時以降、9時46分までの間の動作状態、ベルト回転の有無、機内検出結果、環境判定結果、目標温度の推移を1分間隔で示している。以下、図11(a)~図11(f)と環境判定処理(図12)も参照しながら具体的に説明する。
〔6〕環境判定と定着部の目標温度の設定の方法についての具体例1
9時にプリンター1の電源がオンされてウォームアップ(WU)が開始される。このときベルト311が回転開始するとともにヒーター314によりベルト311の加熱が開始される。
プリンター1は、前日から本日の午前9時までの間、常温環境下にあり、電源がオフ、ヒーター314もオフであったため、図11(a)に示すようにプリンター1の内部は、常温環境に順応しており、ニップNpの温度もトレイ11内のシートSの温度も常温になっている。この時点では、ベルト温度センサー315の検出結果も機内温度センサー80の検出結果も常温を示している。
プリンター1の環境は、図12に示す環境判定処理により常温と判定される。この環境判定処理は、不図示のメインフローにより所定時間間隔、ここでは、1分間隔でコールされる度に実行される。
具体的には、9時の時点で機内温度センサー80の検出結果(機内検出温度)が常温の下限を示す閾値th1(例えば15℃)未満であるか否かを判断する(ステップS1)。ここでは、常温環境下にあるため否定的な判断を行って(ステップS1で「No」)、ステップS4に進む。ステップS4では、ウォームアップ開始時か否かを判断する。
9時の時点ではウォームアップ開始時であるので、肯定的な判断を行い(ステップS4で「Yes」)、次にベルト温度センサー315によるベルト検出温度が閾値th3(例えば60℃)未満であるか否かを判断する(ステップS5)。
この閾値th3は、ウォームアップ開始時に上記のプリンター1の環境を正しく検出可能な状況になっているか否かを判定するために予め実験などで設定された所定値である。
ウォームアップ開始時にベルト検出温度がある程度高い状態にあるということは、ウォームアップ開始の直前までプリントが実行されており、そのプリント終了後にプリンター1の電源が一旦オフされたが、直ぐにオンされたことによりウォームアップが開始されるといった場面が想定される。この場面では、ウォームアップ直前のプリントの実行により、機内温度センサー80の周辺温度が上昇したままになっている蓋然性が高い。
機内温度センサー80は、低温以外の常温または高温を検出しており(ステップS1で「No」)、この検出された常温または高温が直前のプリントの実行などにより一時的に上昇したものなのか(シートSは低温のまま)、機内もシートSも常温または高温のまま落ち着いている状態なのかの区別がつかない。つまり、上記の正しく検出可能な状況になっていない可能性がある。
プリンター1の機内、例えばトレイ11内のシートSの温度は、プリントにより機内温度センサー80の周辺が一時的に温度上昇したからといって低温から高温に急激に変化することはほとんどなく、プリンター1の設置環境が低温から常温、常温から高温に変わったとしても、変化した温度に馴染むようにゆっくりと変化していく。
仮に、プリンター1の機内温度が落ち着いて安定している場合には、現在の検出結果により判定された環境も、現在よりも前(過去)において正しく検出可能な状況であったときの最近の時期に判定された環境も同じはずである。一方で、機内温度センサー80の周辺温度が一時的に上がっている場合には、その上がる前に、正しく検出可能な状況にあったときの直近(最近の時期)に判定された環境が本来の環境のはずである。
つまり、機内温度センサー80の周辺温度が一時的に上がっている場合も落ち着いている場合もいずれも、現在よりも前(過去)であり、正しく検出可能な状況にあったときの直近に判定された環境をそのまま引き継げば、環境判定に大きな誤差が生じないといえる。この環境の引継ぎを前回継続という。
本実施の形態では、ウォームアップ開始時に、上記の正しく検出可能な状況にあるか否かをウォームアップ開始時のベルト検出温度が閾値th3(例えば60℃)以下であるか否かにより判定する。この意味で、ステップS5は、機内温度センサー80がプリンター1の環境温度を正しく検出可能な状況にあるか否かを判定する判定部として機能する。また、機内温度センサー80が低温を検出したときには(ステップ1で「Yes」)、プリンター1の環境温度を正しく検出可能な状況にあることを意味することから、ステップS1も上記の判定部として機能するといえる。
午前9時の時点での上記の例では、ベルト検出温度が閾値th3未満であり(ステップS5で「Yes」)、正しく検出可能な状況にあると判定して、ステップS7に進む。
ステップS7では、機内温度センサー80の検出結果が高温環境の下限を示す閾値th2(例えば30℃)未満であるか否かを判断する。肯定的な判断の場合(ステップS7で「Yes」)、プリンター1の環境を常温と判定し(ステップS8)、否定的な判断の場合(ステップS7で「No」)、プリンター1の環境を高温と判定し(ステップS9)、ステップS3に進む。ステップS3では、環境判定結果を図10に示すバックアップメモリ613の午前9時に対応する環境判定結果の欄に書き込む(記憶)。そして、メインフローにリターンする。
上記の例では、前日の日曜日から本日の月曜日の午前9時までの長時間にわたって常温環境下にあったため、機内温度センサー80の検出結果が閾値th2未満と判断され(ステップS7で「Yes」)、プリンター1の環境が常温と判定される(ステップS8)。
この9時の時点での判定は、正しく検出可能な状況にある場合の判定になる。そして、図10に示すように9時の時点に対応する環境判定結果の欄に「常温」が書き込まれる。この判定により、定着部30の目標温度が150℃に設定される。
一方、ベルト検出温度が閾値th3以上の場合(ステップS5で「No」)、正しく検出可能な状況にはない、つまり誤検出する状況下にあると判定して、環境を前回継続と判定する(ステップS6)。具体的には、現時点の9時を今回とした場合の前回、つまり9時よりも前の時点(不図示)で正しく検出可能な状況と判定されたときの直近に判定された環境をそのまま継続、つまり判定済の環境を現在の環境として判定する。上記の例の場合、午前9時前の長時間に亘ってプリンター1の電源がオフになっていたので、ステップS5では必ず肯定的な判断になる。
ウォームアップが終了し、9時1分に待機状態になる。図11(b)に示すように待機状態では、ベルト311が停止されるが、加熱ローラー312は、ヒーター314により目標温度に温調制御されており、150℃が維持される。9時1分の時点では、ウォームアップ終了直後のためニップNpの温度が150℃近くになっているが、待機状態が続くと、徐々にニップNpの温度が低下する。ウォームアップでは、シートSが通紙されていないので、ウォームアップ終了直後の9時1分の時点では、作像部20周辺の温度もトレイ11内のシートSの温度も常温のままになっている。このことから、図10に示すように機内温度センサー80の検出結果は常温を示す。
図12に示す環境判定処理において、9時1分の時点では、プリンター1の環境が常温環境下のままなので、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上であり(ステップS1で「No」)、待機状態に遷移しているので、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時でもなく(ステップS10で「No」)、プリンター1の環境を前回継続と判定して(ステップS12)、ステップS3に進む。
この前回継続は、ステップS6で説明した前回継続と同じ処理である。具体的には、現時点の9時1分を今回とした場合の前回、ここでは正しく検出可能な状況にあるとして直近に判定された9時の時点での環境をそのまま引き継ぐ。これは、以下の理由による。
すなわち、待機状態ではプリントを行っておらず、プリント実行による機内温度の変動が少ない。しかし、機内温度センサー80は、低温以外の常温を検出しており(ステップS1で「No」)、検出された常温が直前のプリントの実行などにより一時的に機内温度センサー80の周辺でのみ上昇したものなのか、機内全体(機内温度センサー80の周辺もトレイ11内のシートSも)常温で落ち着いている状態なのかの区別がつかない。つまり、上記の誤検出する状況下になっている可能性がある。
そこで、ステップS6と同様に、誤検出する状況下にあると判定した場合に、前回継続とすることで(ステップS12)、環境判定に大きな誤差が生じることを防止する。図10では、9時1分における環境判定結果の欄に9時の時点での環境、つまり常温が書き込まれる。なお、同図では、引き継ぎのことを右方向の矢印で示している。
9時2分、3分・・・10分まで待機状態が続く。常温環境下であることは変わらないので、一分ごとに機内温度センサー80の検出結果が常温を示す。
図12に示す環境判定処理において、9時2分、3分・・・10分の各時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上であり(ステップS1で「No」)、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時でもなく(ステップS10で「No」)、プリンター1の環境を前回継続と判定して(ステップS12)、ステップS3に進む。これにより、図10に示すように9時2分、3分・・・10分の各時点に対応する環境判定結果の欄には、誤検出しない状況下で判定された9時の時点での環境が引き継がれて、ここでは常温が書き込まれる。
9時11分でプリントジョブが開始される。プリントジョブの開始によりベルト311が回転を開始する。9時11分の時点では、図11(c)に示すようにニップNpの温度はかなり低下しているが、ベルト311の回転により昇温される。常温環境下において9時1分から待機状態が10分程度と長く続いていたので、作像部20周辺の温度もトレイ11内のシートSの温度も常温のままになっている。
図12に示す環境判定処理において、9時11分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上であり(ステップS1で「No」)、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時(画像形成ジョブの開始時)と判断して(ステップS10で「Yes」)、ステップS11に進む。ステップS11では、補正回転時間δrotが閾値th4未満であるか否かを判断する。
補正回転時間δrotは、上記の(式1)から求められる。ここで、上記の(式1)におけるベルト回転時間t-rotは、現在の9時11分よりも前に実行されたウォームアップまたはプリント動作におけるベルト回転時間であり、ベルト停止時間t-stopは、そのベルト回転時間が終了してからのベルト停止時間である。
図10の例では、ベルト回転時間t-rotは、9時に実行されたウォームアップに要した1分間になり、ベルト停止時間t-stopは、9時1分から11分までの間の10分間になる。式(1)の定数Aが例えば10の場合、補正回転時間δrotは、0.5になる。
上記のように補正回転時間δrotは、ニップNpの残存余熱量を指標するものであり、補正回転時間δrotが長いほど、ニップNpの残存余熱量が多く(放熱が進んでおらず)、これに並行して、直前のプリント動作などにより上昇した、機内温度センサー80の周辺温度の下降も進んでいない状況が続いているといえる。逆に、補正回転時間δrotが短いほど、ニップNpの残存余熱量が少なく(ニップNpの放熱が進んでおり)、直前のプリント動作などにより一時的に上昇した、機内温度センサー80の周辺温度の下降が進んで、実際の環境に順応した温度まで下がった状況になっているといえる。
式(1)では、ベルト回転時間t-rotが長く、ベルト停止時間t-stopが短い場合に補正回転時間δrotが長くなり、ベルト回転時間t-rotが短く、ベルト停止時間t-stopが長い場合に補正回転時間δrotが短くなる。これは、次の理由による。
すなわち、ベルト回転時間t-rotが長いほどニップNpの蓄熱量が多くなり、ベルト停止時間t-stopが短いほどニップNpの放熱が少ないために残存余熱量が多いままになる。逆に、ベルト回転時間t-rotが短いほどニップNpの蓄熱量が少なく、ベルト停止時間t-stopが長いほどニップNpの放熱が多くなって残存余熱量が少なくなるからである。
上記の例では、1分間(ベルト回転時間t-rot)のウォームアップの後、10分間(ベルト停止時間t-stop)の待機状態が継続しており、ベルト回転時間t-rotが短く、ベルト停止時間t-stopが長いという条件に当てはまり、補正回転時間δrotがかなり短い値になっている。
ウォームアップでは通紙されないことから機内温度センサー80の周辺温度がほとんど上昇することがなく、10分間の待機状態を経て、機内温度センサー80の周辺温度が実際の環境、ここでは常温に順応した温度に安定しており、誤検出する状況下にはなっていないといえる。
これに対して、仮に、10分間(ベルト回転時間t-rot)のプリント動作の後、1分間(ベルト停止時間t-stop)の待機状態であれば、ベルト回転時間t-rotが長く、ベルト停止時間t-stopが短いという条件に当てはまり、補正回転時間δrotは、約9になる。この場合、機内温度センサー80の周辺温度が実際の常温環境よりも高い高温環境の範囲まで一時的に上昇することが生じ得る。この場合、誤検出する状況下になっているといえる。
補正回転時間δrotがニップNpの残存余熱量を指標したものであり、補正回転時間δrotが小さいほど機内温度センサー80の周辺温度の下降が進んでいるという関係を有する。このことは、ニップNpの蓄熱量の下降推移(残存余熱量の推移)と機内温度センサー80の周辺温度の下降推移とが一定の関係を有することを意味する。
つまり、補正回転時間δrotの大きさが、機内温度センサー80の周辺温度の下降がどの程度進んだかを指標したものになり、機内温度センサー80の周辺温度の下降がどの程度進んだかによって、正しく検出可能な状況か誤検出する状況かの判定が分かれることになる。
そこで、本実施の形態では、補正回転時間δrotがどの程度の大きさまでならば実際の環境区分の範囲内に収まることで正しく検出可能な状況になり、これを超えると実際の環境区分の範囲を超えてしまうことで誤検出する状況に遷移するのかを、装置構成に応じて予め実験などでその大きさ(閾値th4)を求めておく。ここでは、閾値th4を5とする例を説明するが、勿論、装置構成によって異なる場合があり得る。
そして、プリントジョブの実行の度に、そのプリント開始時点で補正回転時間δrotを求め、求めた補正回転時間δrotの長さと閾値th4との大小関係を判断する(ステップS11)。この判断結果から、環境判定を、機内温度センサー80の検出結果に基づき判定したものとするか、前回継続とするかを切り替える。この意味で、ステップS11は、機内温度センサー80がプリンター1の環境温度を正しく検出可能な状況にあるか否かを判定する判定部として機能する。
上記の9時11分の時点では、補正回転時間δrotが0.5であり、閾値th4未満であるので(ステップS11で「Yes」)、ステップS7に進み、機内温度センサー80の検出結果に基づき環境判定がなされる。上記の例では、環境が常温と判定され(ステップS8)、図10に示す9時11分に対応する環境判定結果の欄には常温が書き込まれる。この判定は、正しく検出可能な状況での判定になる。そして、常温に対応する目標温度として150℃が設定される。
9時11分に開始されたプリントジョブは、9時12分までには終了しており、9時12分では、待機状態に遷移している。プリントの実行時間が1分以内であったので、図11(d)に示すように機内温度センサー80の周辺温度は少し上昇しているが、常温の範囲内になっている。
図12に示す環境判定処理において、9時12分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上であり(ステップS1で「No」)、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時でもないので(ステップS10で「No」)、ステップS12に進む。ステップS12では、環境判定を前回継続として、ステップS3に進む。この前回継続では、現在(9時12分)よりも前であり直近に正しく検出可能な状況での判定を行った9時11分の判定、上記の例では常温が引き継がれ、目標温度が150℃に設定される。9時13分の待機状態でも9時12分の時点と同じ判定、設定が行われる。
9時14分の時点でプリントが開始される。この時点は図11(e)に示すように図11(d)と同じ温度状態になっている。図12に示す環境判定処理において、9時14分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上であり(ステップS1で「No」)、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時と判断して(ステップS10で「Yes」)、補正回転時間δrotが閾値th4未満であるか否かを判断する(ステップS11)。
上記の(式1)におけるベルト回転時間t-rotは、9時11分に実行されたプリント動作におけるベルト回転時間の1分であり、ベルト停止時間t-stopは、9時12分から14分までの間の2分になる。補正回転時間δrotは、式(1)から、約0.83になる。
補正回転時間δrotが閾値th4未満であるので(ステップS11で「Yes」)、ステップS7に進み、機内温度センサー80の検出結果に基づき環境判定がなされる。上記の例では、環境が常温と判定され(ステップS8)、図10に示す9時14分に対応する環境判定結果の欄には常温が書き込まれる。この判定は、正しく検出可能な状況での判定になる。そして、常温に対応する目標温度として150℃が設定される。
9時14分に開始されたプリントジョブは、9時15分までには終了しており、9時15分では、待機状態に遷移している。プリントの実行時間が1分以内であったので、機内温度センサー80の周辺温度はあまり上昇しておらず、常温の範囲内になっている。図12に示す環境判定処理において、9時15分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上であり(ステップS1で「No」)、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時でもないので(ステップS10で「No」)、環境判定を前回継続として(ステップS12)、ステップS3に進む。この前回継続では、現在(9時15分)よりも前であり直近に正しく検出可能な状況で判定を行った9時14分の判定、上記の例では常温が引き継がれる。
午前9時15分以降は、プリンター1の設置環境が常温環境から低温環境に変わった場合の例を示している。この環境変化により、プリンター1の機内温度の低下が始まる。9時15分以降、待機状態が継続しており、図11(f)に示すように9時45分には、機内温度検出センサー80の検出結果が低温環境を検出する。
図12に示す環境判定処理において、9時45分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1未満になるので(ステップS1で「Yes」)、機内温度センサー80の検出結果に基づき低温の環境判定がなされ(ステップS2)、ステップS3に進む。図10に示す9時45分に対応する環境判定結果の欄には低温が書き込まれる。この判定は、正しく検出可能な状況での判定になる。そして、低温に対応する目標温度として155℃が設定される。
午前9時46分では、低温のまま待機状態が継続しており、図12に示す環境判定処理では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1未満になるので(ステップS1で「Yes」)、機内温度センサー80の検出結果に基づき低温の環境判定がなされる(ステップS2)。図10に示す9時46分に対応する環境判定結果の欄には低温が書き込まれる。この判定は、正しく検出可能な状況での判定になる。そして、低温に対応する目標温度として155℃が設定される。
〔7〕環境判定と定着部の目標温度の設定の方法についての具体例2
上記では、常温環境下にプリンター1が設置されている例を説明したが、例えば、低温環境下に設置されている場合には、環境判定が次のようになる。
すなわち、本日が月曜日である場合に、前日(日曜日)から本日の夜間にかけて低温環境下にあったプリンター1が本日の午前9時丁度に電源オンされたとき以降を図13~図15を例に説明する。
図13は、プリンター1が低温環境下にあるときのバックアップメモリに格納されている情報の内容例を示す図である。図13に示すように9時にプリンター1の電源がオンされてウォームアップ(WU)が開始される。このときベルト311が回転開始するとともにヒーター314によりベルト311の加熱が開始される。
プリンター1は、前日から本日の午前9時までの間、低温環境下にあり、電源がオフ、ヒーター314もオフであったため、図14(a)に示すようにプリンター1の内部は、低温環境に順応しており、ニップNpの温度もトレイ11内のシートSの温度も低温になっている。この時点では、ベルト温度センサー315の検出結果も機内温度センサー80の検出結果も低温を示している。
図12に示す環境判定処理において、9時の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1未満になるので(ステップS1で「Yes」)、機内温度センサー80の検出結果に基づき低温の環境判定がなされ(ステップS2)、ステップS3に進む。図13に示す9時に対応する環境判定結果の欄には低温が書き込まれる。この判定は、正しく検出可能な状況での判定になる。そして、低温に対応する目標温度として155℃が設定される。
ウォームアップが9時1分までに終了し、9時1分にプリントジョブが開始される。プリントジョブの開始によりベルト311が回転を開始する。9時1分の時点では、図14(b)に示すようにニップNpの温度は155℃付近まで上昇しているが、機内温度センサー80の周辺温度もトレイ11内のシートSの温度も低温のままになっている。
図12に示す環境判定処理において、9時1分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1未満になるので(ステップS1で「Yes」)、機内温度センサー80の検出結果に基づき低温の環境判定がなされ(ステップS2)、ステップS3に進む。図13に示す9時1分に対応する環境判定結果の欄には低温が書き込まれる。この判定は、正しく検出可能な状況での判定になる。そして、低温に対応する目標温度として155℃が設定される。
機内温度センサー80の検出結果が低温の場合、これよりも低い温度域が存在しないので、誤検出する状況下ではないと判定して、この低温を環境判定とするものである。つまり、低温域よりも温度が高い常温と高温の範囲の検出結果のときにのみ、正しく検出可能な状況にあるか否かの判定によって、機内温度センサー80の検出結果をそのまま環境判定に用いるか前回継続とするかを切り替える構成になっている。
9時1分に開始されたプリントジョブは、9時11分になる直前まで継続される。この大量プリントジョブの長い時間の実行により、機内温度センサー80の周辺温度が徐々に上がり、図15に示すようにプリントジョブ実行途中に低温域から常温域内に入る。機内温度センサー80の周辺温度が常温域に入った時点を9時10分丁度とする。これにより、図13に示す9時10分に対応する機内検出結果欄に常温が書き込まれる。このことは、9時15分まで同じである。しかし、図14(c)に示すようにトレイ11内のシートSの温度は未だ低温になっている。
図12に示す環境判定処理において、9時1分から9時9分までは、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1未満になるので(ステップS1で「Yes」)、機内温度センサー80の検出結果に基づき低温の環境判定がなされる(ステップS2)。これにより、図13に示す9時1分から9分に対応する環境判定結果の各欄には低温が書き込まれる。この判定は、正しく検出可能な状況での判定になる。そして、低温に対応する目標温度として155℃が設定される。
一方、9時10分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上であり(ステップS1で「No」)、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時でもないので(ステップS10で「No」)、ステップS12で、環境判定を前回継続として(ステップS12)、ステップS3に進む。
この前回継続では、現在(9時10分)よりも前であり直近に正しく検出可能な状況で判定を行った9時9分の判定、上記の例では低温が引き継がれる。これにより、図13に示す9時10分に対応する環境判定結果の欄には低温が書き込まれる。そして、低温に対応する目標温度として155℃が設定される。
従来では、9時10分に対応する機内検出結果が常温になっているので、環境判定結果が常温になり、これに従って定着部30の目標温度が常温に適した150℃が設定されるが、本実施の形態では、正しい環境判定(低温)に基づく目標温度である155℃が設定されるので、定着性の低下を防止できることになる。
9時1分に開始されたプリントジョブは、9時11分になるまでに終了しており、9時11分に待機状態に遷移している。プリントの実行時間が10分間と長かったので、ニップNpの残存余熱量が多く、図15に示すように機内温度センサー80の周辺温度も常温域まで上昇したままになっているが、図14(d)に示すようにトレイ11内のシートSの温度は、未だ低温域に留まっている。
図12に示す環境判定処理において、9時11分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上であり(ステップS1で「No」)、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時でもないので(ステップS10で「No」)、環境判定を前回継続として(ステップS12)、ステップS3に進む。
この前回継続では、現在(9時11分)よりも前の直近に正しく検出可能な状況で判定を行った9時9分の判定、上記の例では低温が引き継がれる。これにより、図13に示す9時11分に対応する環境判定結果の欄に低温が書き込まれる。そして、低温に対応する目標温度として155℃が設定される。9時12分と9時13分の各時点でも9時11分の時点と同じ判定、設定が行われる。
9時14分の時点でプリントが開始される。この時点は図14(d)に示す状態とほとんど同じ温度状態になっている。図12に示す環境判定処理において、9時14分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上であり(ステップS1で「No」)、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時と判断して(ステップS10で「Yes」)、補正回転時間δrotが閾値th4未満であるか否かを判断する(ステップS11)。
上記の(式1)におけるベルト回転時間t-rotは、9時1分から9時11分までの間に亘って実行されたプリント動作におけるベルト回転時間の10分であり、ベルト停止時間t-stopは、9時11分から14分までの間の3分になる。補正回転時間δrotは、式(1)から、約7.7になる。
補正回転時間δrotが閾値th4以上になるので(ステップS11で「No」)、誤検出する状況にあると判定して、環境判定を前回継続とし(ステップS12)、ステップS3に進む。この前回継続では、現在(9時14分)よりも前の直近に正しく検出可能な状況にあった9時9分時点の判定、上記の例では低温が引き継がれる。これにより、図13に示す9時14分に対応する環境判定結果の欄には低温が書き込まれる。そして、低温に対応する目標温度として155℃が設定される。
9時14分に開始されたプリントジョブは、9時15分までには終了しており、9時15分では、待機状態に遷移している。プリントの実行時間が1分以内であったので、図15に示すように機内温度センサー80の周辺温度は大きく上昇しておらず、常温の範囲内になっている。
図12に示す環境判定処理において、9時15分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上であり(ステップS1で「No」)、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時でもないので(ステップS10で「No」)、環境判定を前回継続として(ステップS12)、ステップS3に進む。この前回継続では、現在(9時15分)よりも前の直近に正しく検出可能な状況であった9時9分時点の判定、上記の例では常温が引き継がれる。
9時15分以降、待機状態が続き、図15に示すように機内温度センサー80の周辺温度の低下が始まり、9時30分には機内温度センサー80の周辺温度が低温域まで下がる。この間も、図14(e)と(f)に示すようにトレイ11内のシートSの温度は低温域のままである。
図12に示す環境判定処理において、9時16分から9時29分までの各時刻では、9時15分の時点と同じ環境判定がなされる。9時30分の時点では、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1未満になるので(ステップS1で「Yes」)、機内温度センサー80の検出結果に基づき低温の環境判定がなされ(ステップS2)、ステップS3に進む。図13に示す9時30分に対応する環境判定結果の欄には低温が書き込まれる。この判定は、正しく検出可能な状況での判定になる。そして、低温に対応する目標温度として155℃が設定される。9時31分以降の各時刻も9時30分の時点と同じ環境判定がなされる。
上記では、待機状態においてプリンター1の環境が常温から低温に遷移する場合の例を説明し、低温から常温に遷移する場合について図示しなかったが、この場合には次のようなる。すなわち、待機状態において低温環境では、図12に示す環境判定処理において、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1未満になるので(ステップS1で「Yes」)、機内温度センサー80の検出結果に基づき低温の環境判定がなされ(ステップS2)、ステップS3に進む。低温環境にある間、低温の環境判定が継続する。
低温環境から常温環境に遷移すると、図12に示す環境判定処理において、機内温度センサー80の検出結果が閾値th1以上になり(ステップS1で「No」)、ウォームアップ開始時ではなく(ステップ4で「No」)、プリント動作の開始時でもないので(ステップS10で「No」)、環境判定を前回継続、ここでは低温として(ステップS12)、ステップS3に進む。
常温環境にある間にプリントジョブの開始を判断すると(ステップS10で「Yes」)、補正回転時間δrotが閾値th4未満であるか否かを判断する(ステップS11)。この例では、待機状態で低温から常温に遷移しており、上記のようにプリンター1の環境が変化するのにはある程度長い時間がかかるので、補正回転時間δrotが小さい値になっていることが多い。補正回転時間δrotが閾値th4未満の場合(ステップS11で「Yes」)、ステップS7に進み、S7で「Yes」が判断されることで、ステップS8において現在の環境が常温と判定される。この判定は、正しく検出可能な状況での判定になる。そして、常温に対応する目標温度として150℃が設定される。
また、上記では、プリント動作を両面プリントジョブとした場合の例を説明したが、片面プリントジョブでも多数枚のシートを1枚ずつ連続通紙するプリントの実行中に駆動モーターM1などの熱により機内温度センサー80の周辺が上昇する場合もあり得、この場合にも上記同様に環境判定を行い、判定された環境に適した温度に定着部30の目標温度が設定される。
以上説明したように本実施の形態では、環境判定を行うに際し、現在のニップNpの残存余熱量に応じて機内温度センサー80がプリンター1の環境を正しく検出可能な状況にあるかないかを判定し、(i)正しく検出可能な状況と判定すると、機内温度センサー80の現在の検出結果を環境判定に用いて目標温度を設定し、(ii)正しく検出できない(誤検出する)状況下にあると判定すると、機内温度センサー80の検出結果を用いずに、この判定よりも前の直近に正しく検出可能な状況にあったときに判定された環境判定に基づき既に設定されていた目標温度をそのまま用いる構成とした。
プリントジョブやウォームアップの実行により、機内温度センサー80の周辺領域の温度が一時的に上昇した程度では、これに追随してトレイ11内のシートSの温度が直ぐに大きく変動するものではなく、プリンター1の周辺環境に変化があってもかなりゆっくりと変化していくものである。このため、プリントジョブなどによる一時的な温度上昇があった場合、その温度上昇が生じる前に判定された環境をそのまま引き継いて用いても、実際の環境温度とほとんど差がなく、一時的な温度上昇があった状態で環境判定するよりも判定精度を向上できる。
誤検出の状況下にあるにも関わらず機内温度センサー80の検出結果を用い、例えば実際には低温環境であるところ常温環境と判定してしまうと、定着性が低下することになるが、実施の形態では既存の機内温度センサー80により定着部30の目標温度を環境温度により適した温度に設定することができ、もって定着性の低下を防止することができる。
上記では、定着部を有する画像形成装置の例を説明したが、これに限られず、定着部の目標温度の設定方法であるとしてもよい。さらに、その方法をコンピュータが実行するプログラムであるとしてもよい。また、本開示に係るプログラムは、例えば磁気テープ、フレキシブルディスク等の磁気ディスク、DVD-ROM、DVD-RAM、CD-ROM、CD-R、MO、PDなどの光記録媒体、フラッシュメモリ系記録媒体等、コンピュータ読み取り可能な各種記録媒体に記録することが可能であり、当該記録媒体の形態で生産、譲渡等がなされる場合もあるし、プログラムの形態でインターネットを含む有線、無線の各種ネットワーク、放送、電気通信回線、衛星通信等を介して伝送、供給される場合もある。
〔8〕変形例
以上、実施の形態に基づいて説明してきたが、本開示は、上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり、以下のような変形例が考えられる。
(8-1)上記実施の形態では、図12においてプリント開始時(ステップS10で「Yes」)に、ベルト311が停止している状態で上記の(式1)を用いて補正回転時間δrotを求める例を説明したが、これに限られない。例えば、プリント開始時点の直前にベルト311の回転が始まっている場合には、プリント開始時点からベルト311の回転を開始させる場合に比べて、ベルト311の回転開始からプリント開始時点までの間の時間の分だけニップNpの蓄熱量が増加していることになる。この場合、(式1)の右辺にその時間を加算した(式)を用いて、補正回転時間δrotを求めるとしても良い。
また、(式1)を用いる方法に代えて、例えば図6のグラフで示すベルト回転時間t-rotとベルト停止時間t-stopと補正回転時間δrotの関係をテーブル形式のデータで管理し、そのデータを参照して補正回転時間δrotを求める方法をとることもできる。
(8-2)上記実施の形態では、プリンター1の環境温度を低温、常温、高温の3つの区分に分けたが、これに限られず、例えば低温域とこれよりも高い温度域など異なる複数の温度域に分けるとしても良い。機内温度センサー80が最も低い温度域を検出した場合を正しく検出可能な状況と判定し、これ以外の温度域が検出された場合に、正しく検出可能な状況であるか誤検出する状況であるかを判定する制御をとることができる。
(8-3)上記実施の形態では、プリンター1の環境判定の結果に応じて定着部30の目標温度を常温環境の基準に対して、低温環境の場合には目標温度を5℃だけ加算し、高温環境の場合には目標温度を5℃だけ減算する補正を行うとしたが、加算値と減算値が5℃に限られず、他の大きさであっても良い。
また、定着部30の目標温度を補正することに代えて、例えばプリンター1の環境判定結果に応じて加圧ローラー32の回転速度、つまり加圧ローラー32によるシートSの搬送速度(シート搬送速度)を変更する制御をとることもできる。この制御は、駆動モーターM2の回転速度を可変制御することで行われる。環境判定が低温の場合、常温環境の基準速度に対して加圧ローラー32の回転速度を所定値だけ遅くする制御を行う。
図16は、本変形例に係る定着制御部615の構成例を示す図であり、図9に示す定着制御部610の目標温度設定部612に代えて、搬送速度設定部616と搬送制御部617とが設けられている点が異なっている。ヒーター制御部614は、ベルト温度センサー315の温度検出結果に基づきベルト311の温度が所定の目標温度に維持されるようにヒーター314を制御する。
搬送速度設定部616は、環境判定部611によるプリンター1の環境判定結果に応じて加圧ローラー32の回転速度、つまりシート搬送速度をどの速度にするかを設定する。
搬送制御部617は、設定されたシート搬送速度に対応する回転速度で加圧ローラー32が回転するように駆動モーターM2の回転を制御する。ここでは、図17に示すように常温環境のときのシート搬送速度を基準に、低温環境のときには基準よりも遅い低速に制御し、高温環境のときには基準よりも速い高速に制御する。
低温環境のときにシート搬送速度を低速にすることで、ニップNpを通過するシートSに対する単位時間当たりの熱の供給量を常温に対する基準速度よりも増加させることができ、低温のシートSに適した熱定着を行うことができる。高温環境の場合は、低温環境の場合の逆になる。図17に示す環境判定結果とシート搬送速度との対応を示す情報は、予め記憶されており、基準と低速と高速の各速度値は、実験などにより予め設定される。
加圧ローラー32は、シートSを搬送する搬送部材の機能を有し、搬送制御部617は、搬送速度設定部616で設定されたシート搬送速度でシートSが搬送されるように、搬送部材としての加圧ローラー32の回転を制御する制御部を構成する。なお、上記では、加圧ローラー32を駆動側、ベルト311を従動側とする構成例を説明したが、これとは逆に、ベルト311を駆動側、加圧ローラー32を従動側とする場合、定着部30を通過するシートの搬送部材としてベルト311の回転を制御する構成とすることができる。
また、シート搬送速度の速度調整に代えて、例えばN枚目のシートSの搬送方向後端が定着部30のニップNpを通過してから、(N+1)枚目のシートSの搬送方向先端がニップNpに到達するまでに要する時間、いわゆる紙間を調整することもできる。この紙間調整では、定着部30の目標温度が一定、シート搬送速度が一定であり、常温環境のときの紙間を基準に、低温環境と判定された場合には紙間が基準よりも長い時間になるようにシートを搬送制御し、高温環境と判定された場合には紙間が基準よりも短い時間になるようにシートを搬送制御することで実現できる。
なお、シート搬送速度の設定と紙間の設定との少なくとも一方を、定着部30の目標温度を設定する実施の形態に係る温調制御に加える構成をとることもできる。
(8-4)上記実施の形態では、過去の動作状態、機内検出結果、環境判定結果、目標温度の各情報を全体制御部60のCPU61に含まれる記憶部としてのバックアップメモリ613に記憶するとしたが、これに限られない。これらの各情報を取得できれば良く、例えば脱着可能な可搬型のメモリに記憶した情報を読み出して利用したり、ネットワークを介してその情報を外部の端末装置、例えばサーバーに送信して記憶させておき、取得時にはその外部端末からネットワークを介して受信したりする構成としても良い。
また、上記の各情報を1分ごとにバックアップメモリ613書き込むとしたが、1分に限られず、例えば30秒や2分などの一定の時間間隔や30秒と1分を交互に繰り返すなどの異なる時間間隔などを含む所定時間間隔の各時点とすることができる。
さらに、1分ごとの各情報を全て記憶しておくとしたが、これに限られず、例えば現在に対して直前の時点での情報だけを記憶しておく構成も良い。この構成では、その直前の時点での情報に、これよりも前の直近に正しく検出可能な状況で判定された環境判定結果が引き継がれるようにされる。また、ベルト回転時間t-rotとベルト停止時間t-stopについては別に管理するか、直前の時点での情報に含まれるとしても良い。
(8-5)上記実施の形態では、プリンター1の環境を示す環境パラメーター(因子)を環境温度とし、機内温度センサー80が周辺環境パラメーターとして自己の周辺温度を検出するセンサーである構成例を説明したが、これに限られず、環境湿度としても良い。
環境湿度の例では、機内温度センサー80に代えて、センサー周辺の湿度を検出する機内湿度センサーが用いられる。環境湿度も環境温度同様に帯電、現像、転写などの工程に影響を与えることがあり、環境湿度の変化に応じて帯電、現像、転写などの制御値(帯電電流、現像バイアス、転写電流など)をその環境湿度の大きさに応じた値に調整することで、形成画像の画質向上に繋がる。また、湿度変化によってシートSの含水量が変化し、シートSの含水量の変化により定着性が変化する場合もあり得るからである。
通常、低湿環境では、トレイ11内のシートSの吸湿量(含水量)も少なくなるが、両面プリントの場合、第1面への熱定着後のシートSから水蒸気が放出されることがある。第1面への熱定着後、水蒸気が放出されたシートSがスイッチバックして両面搬送部50の両面搬送路を通過して再度、二次転写位置29に至ったときに、未だ水蒸気の放出が少ないとはいえ継続しており、機内湿度センサーの検出結果が一時的に上がれば、プリンター1の実際の低湿環境と異なることが生じる。
両面プリント終了後、ニップNpの残存余熱量が少なくなるに伴って機内湿度センサーの周辺温度が低下すると、通常、温度低下に伴って湿度も下がることから、ニップNpの蓄熱量(残存余熱量)が機内湿度センサーの周辺湿度を指標しているといえる。よって、実施の形態における温度を湿度に入れ替えることで、環境湿度の判定精度を向上できる。
(8-6)上記実施の形態では、本開示に係る画像形成装置をタンデム型カラープリンターに適用した場合の例を説明したが、これに限られない。ベルト311などの加熱回転体と加圧ローラー32などの加圧部材とを有し、加熱回転体に加圧部材が圧接して加熱回転体と加圧部材間にニップNpを形成し、ニップNpにシートSを通紙させることで熱定着を行う定着部およびこれを備える画像形成装置に適用できる。
画像形成装置としては、カラー画像形成を実行可能なものやモノクロ画像形成のみが実行可能なものに適用でき、またプリンターに限られず、例えば複写機、ファクシミリ装置、MFP(Multiple Function Peripheral)等の画像形成装置に適用できる。加圧部材は、加圧ローラー32などの回転体に限られず、例えば装置のフレームに固定された加圧パッドなどの非回転体を用いることもできる。
また、加熱回転体は、ベルト状に限られず、例えばローラー状でも良い。この場合、ベルト状の構成と同様に、ヒーター314は、ローラー状の加熱回転体の1周のうち、回転方向にニップNpとは離間している領域(回転方向にニップNpとは異なる位置に存する部分)を加熱する位置に配置される。
上記の各部材の大きさ、形状、材料、個数などは一例であり、装置構成に応じて適した大きさ、形状、材料、個数等が予め決められる。また、ニップNpの蓄熱量を指標する指標値を求めることができる式であれば、上記の(式1)に限られることもなく、別の式を用いるとしても良い。
また、上記実施の形態及び上記変形例の内容をそれぞれ可能な限り組み合わせるとしてもよい。本開示の効果を得られる範囲で、定着部などの各部の機構や各部材を別の機構や別の形状の部材に代えて適用することとしても良い。