JP7509317B2 - 直交加速飛行時間型質量分析装置 - Google Patents

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Description

本発明は、直交加速飛行時間型質量分析装置に関する。
飛行時間型質量分析装置の一つの方式として、直交加速飛行時間型質量分析装置(Orthogonal Acceleration Time-of-Flight Mass Spectrometer)が知られている。特許文献1、2には、直交加速飛行時間型質量分析装置を2段目の質量分析器として用いた、四重極-飛行時間(Q-TOF)型質量分析装置が開示されている。この種の質量分析装置では、比較的高い真空度の第1分析室内に1段目の質量分析器である四重極マスフィルターとコリジョンセルとが配置され、第1分析室よりもさらに真空度が高い第2分析室内に、直交加速部、フライトチューブ及び検出器を含む直交加速飛行時間型質量分析部が配置されている。第1分析室から第2分析室へとイオンを効率的に輸送するために、その両分析室に跨るようにトランスファー電極が配置されている。
特許文献1に記載の装置では、トランスファー電極(該文献1では後段側イオンレンズ)は、絶縁性のスペーサーを介して4枚の電極板を中心軸方向に連結した構造を有し、コリジョンセルに最も近い位置にある1枚の電極板(以下の説明では、コリジョンセル側を前方、直交加速部側を後方とする)は第1分析室内に、その後方に位置する3枚の電極板は第2分析室内に配置される。各電極板にはそれぞれ所定の電圧が印加され、それら電極板で囲まれる空間には所定の電場が形成される。イオンはこの電場を通過して直交加速部へと案内される。直交加速部には、トランスファー電極を経て入射して来るイオンをその入射方向に略直交する方向に加速するパルス状の電場が形成される。直交加速部で加速されたイオンはフライトチューブ内の飛行空間へと導かれ、該飛行空間内を飛行したあと検出器に到達して検出される。
この種の質量分析装置において質量精度、質量分解能等の分析性能を向上させるには、直交加速部に入射するイオン流の直交加速方向の位置広がり(ばらつき)と速度広がりをできるだけ小さくすることが重要である。即ち、直交加速部に入射するイオン流をできるだけ細く且つ直交加速部の加速電極(押出し電極及び引込み電極)に対して平行に保つことが重要である。トランスファー電極は、直交加速部に入射するイオン流が細く平行になるように整形する機能を有する。
国際公開第2019/220554号 国際公開第2019/229864号
"マシナブルセラミックス特性表"、[online]、株式会社フェローテックマテリアルテクノロジーズ、[2021年3月19日検索]、インターネット<URL:https://ft-mt.co.jp/assets/pdf/jp/machinable_ceramics/machinable_ceramics_performance.pdf>
特許文献1に記載の質量分析装置では、トランスファー電極の最も後方(直交加速部に最も近い位置)にある電極板は絶縁部材を介してベースプレートに固定され、直交加速部も同じベースプレートに固定されている。また、トランスファー電極の前方から2番目の電極板は、シール部材を介して、第1分析室と第2分析室とを隔てる隔壁部材に固定されている。
この種の質量分析装置では、フライトチューブが熱膨張することによる飛行距離の変化を防止するために、第2分析室内が一般的な部屋の室温よりも高い適宜の温度(一例としては42℃)に加熱され温調されるようになっている。このように第2分析室内の温度が通常の室温から上昇すると、トランスファー電極の後方側電極板を固定している絶縁部材が熱膨張し、該電極板がその中心軸とほぼ直交する方向に変位するおそれがある。トランスファー電極の前方から2番目の電極板はOリング等のシール部材を介して隔壁部材に固定されているが、そのシール部材の圧縮の程度によって該シール部材と電極板との間の摩擦力はかなりばらつく。この摩擦力が大きいと、後方側電極板が変位したとしても前方側電極板が追従しにくい。そうなると、トランスファー電極の中心軸が、直交加速部において互いに平行である押出し電極と引込み電極との間の中心軸に対して傾いてしまい、分析性能の低下に繋がるおそれがある。
また、分析時ではなく、装置の輸送時に同様の不具合が発生する場合もある。即ち、この種の質量分析装置を工場から海外の納品先に輸送する際には船便又は航空便が用いられるが、それらに搭載されるコンテナの内部の温度は5℃~50℃程度の広い範囲で変化し得る。輸送行程で生じるこうした温度変化によって各部材が膨張又は収縮して部材間の固定位置が不可逆に変化した場合にも、上記と同様に、トランスファー電極の中心軸の傾きが生じ、分析性能の低下をもたらす可能性がある。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、分析時の温調や温度変化に起因する、直交加速部に入射するイオン流の光軸の傾きを抑制し、高い分析性能を確保することができる直交加速飛行時間型質量分析装置を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明に係る直交加速飛行時間型質量分析装置の一態様は、
内部空間が第1真空室と第2真空室とに区画された真空チャンバーと、
前記第1真空室から前記第2真空室へとイオンを輸送するべく該両真空室に跨るように配置され、絶縁性のスペーサーを介して連結された、それぞれイオン通過開口を有する複数の電極板から成るトランスファー電極と、
前記第2真空室内に配置され、前記トランスファー電極により輸送されて来たイオンをその入射方向に直交する方向に加速する直交加速部と、
前記複数の電極板のうちの前記第2真空室内に位置する後方側電極板を、そのイオン通過開口の中心軸と直交する所定の方向に離れた位置において前記真空チャンバーに対し固定するための後方側固定部材と、
前記複数の電極板のうちの前記第1真空室内に位置する前方側電極板を該第1真空室内で位置決めするための部材であって、前記真空チャンバーの内壁面に内側に延出するように設けられた延出部と、前記前方側電極板に固定された前記スペーサーを保持し、前記延出部に対し前記所定の方向と逆の方向に所定の範囲でスライド移動可能に取り付けられている環状の隔壁部材と、を含む前方側固定部材と、
を備える。
本発明に係る直交加速飛行時間型質量分析装置では、例えば分析時に真空チャンバーの内部が室温よりも高い所定温度に加熱されると、後方側固定部材が熱膨張し、そのために後方側電極板が前記所定の方向と逆の方向に移動する場合がある。スペーサーを介して前方側電極板を保持している隔壁部材は、延出部に対して前記逆の方向に所定の範囲でスライド移動可能であるため、上述のような後方側電極板の移動に追従して前方側電極板も同方向に移動する。そのため、トランスファー電極の中心軸は上記熱膨張によって平行に移動するだけであって、直交加速部への理想的なイオン入射の軸に対する傾きは軽減される。
このように、本発明に係る直交加速飛行時間型質量分析装置によれば、分析時の温調や温度変化に起因する、直交加速部に入射するイオン流のイオン光軸の傾きを軽減することができる。それにより、直交加速部に入射するイオン流が該直交加速部に含まれる電極と平行に保たれるので、高い分析性能を達成することができる。
本発明の一実施形態であるQ-TOF型質量分析装置の全体構成図。 本実施形態のQ-TOF型質量分析装置におけるトランスファー電極の近傍の拡大図。 図2中のA部付近の拡大図。 本実施形態のQ-TOF型質量分析装置における後方側固定部材の構成の説明図。 本実施形態のQ-TOF型質量分析装置における前方側固定部材の構成の説明図。 本実施形態のQ-TOF型質量分析装置における後段トランスファー電極を構成する電極板の平面図。 本実施形態のQ-TOF型質量分析装置における後段トランスファー電極のイオン光軸と直交加速部のイオン光軸との関係の一例(理想的な状態)を示す図。 本実施形態のQ-TOF型質量分析装置における後段トランスファー電極のイオン光軸と直交加速部のイオン光軸との関係の一例(軸の傾きがある状態)を示す図。 本実施形態のQ-TOF型質量分析装置における後段トランスファー電極のイオン光軸と直交加速部のイオン光軸との関係の一例(平行な軸ずれがある状態)を示す図。
以下、本発明の一実施形態であるQ-TOF型質量分析装置について、添付図面を参照して詳述する。
図1は、本実施形態のQ-TOF型質量分析装置の全体構成図である。まず、このQ-TOF型質量分析装置の全体構成と典型的な分析動作について説明する。
[Q-TOF型質量分析装置の構成及び動作]
このQ-TOF型質量分析装置では、その内部にイオン化室100が設けられたイオン化装置10が真空チャンバー1の前方に接続されている。この真空チャンバー1内は、第1中間真空室11、第2中間真空室12、第1分析室13、及び第2分析室14、の4室に概ね区画されている。このQ-TOF型質量分析装置において、イオン化室100は略大気圧であり、イオン化室100から、第1中間真空室11、第2中間真空室12、第1分析室13、及び第2分析室14と順に、段階的に真空度が高くなる多段差動排気系の構成である。なお、図1では、各室内の真空排気を行う真空ポンプについては記載を省略しているが、一般的には、第1中間真空室11内はロータリーポンプにより真空排気され、それ以降の各室内は粗引きポンプとしてロータリーポンプを用いたターボ分子ポンプにより真空排気される。
イオン化室100には、試料液に電荷を付与しつつ噴霧することにより該試料液中の化合物をイオン化するエレクトロスプレーイオン(ESI)源101が配置されている。但し、イオン化の手法はこれに限らず、大気圧化学イオン源などの他のイオン源を用いることもできる。また、液体試料ではなく、気体試料や固体試料をイオン化するイオン源を用いてもよい。
イオン化室100と第1中間真空室11とは細径の脱溶媒管102を通して連通している。イオン化室100で生成された試料成分由来のイオン及び微細な帯電液滴は、主として、イオン化室100内の圧力(略大気圧)と第1中間真空室11内の圧力との差によって、脱溶媒管102中に引き込まれ第1中間真空室11に送られる。脱溶媒管102は適度な温度に加熱されており、脱溶媒管102の内部を帯電液滴が通ることによって該液滴中の溶媒の気化が促進され、イオンの生成が促される。
第1中間真空室11には多重極イオンガイド111が配置されており、該多重極イオンガイド111によってイオンはイオン光軸C1の近傍に収束され、スキマー112の頂部の開口を通って第2中間真空室12に入射する。第2中間真空室12にも多重極イオンガイド121が配置されており、この多重極イオンガイド121によってイオンは第2中間真空室12から第1分析室13へと送られる。
第1分析室13には、イオンを質量電荷比(m/z)に応じて分離する四重極マスフィルター131、多重極イオンガイド132を内部に備えたコリジョンセル133、コリジョンセル133から出射されたイオンを輸送する前段トランスファー電極134と後段トランスファー電極141の一部が配置されている。前段トランスファー電極134と後段トランスファー電極141とを合わせてトランスファー電極140という。
第1分析室13に入射したイオンは四重極マスフィルター131に導入され、四重極マスフィルター131に印加されている電圧に応じた特定の質量電荷比を有するイオンのみが四重極マスフィルター131を通り抜ける。コリジョンセル133の内部には、アルゴン、窒素などのコリジョンガスが連続的又は間欠的に供給される。所定のエネルギーを有してコリジョンセル133に入射したイオンは、コリジョンガスに接触して衝突誘起解離により解離され、各種のプロダクトイオンが生成される。
コリジョンセル133から出射した各種のプロダクトイオンは、トランスファー電極140により収束されつつ第2分析室14に送られる。第2分析室14には、後段トランスファー電極141の残りの部分、直交加速部142、加速電極部143、フライトチューブ144、リフレクトロン145、バックプレート146、イオン検出器147などが配置されている。後段トランスファー電極141によって細く平行性の高いイオン流として第2分析室14に導入されたイオンは、直交加速部142においてそのイオン流の入射方向(X軸方向)と略直交する方向(Z軸方向)に射出される。
直交加速部142からパルス的に、つまりひとかたまりのイオンパケットとして射出されたイオンは、加速電極部143でさらに加速されてフライトチューブ144内の飛行空間に導入される。フライトチューブ144、リフレクトロン145、及びバックプレート146によって、飛行空間内には、図1中にC2で示すような経路でイオンを折り返し飛行させる電場が形成さる。これによって、イオンは折り返されたあと再びフライトチューブ144内を飛行し、イオン検出器147に到達する。
直交加速部142から射出されたイオンは、そのイオンの質量電荷比に応じた速度で飛行する。そのため、直交加速部142において同時に加速された各種のイオンは、飛行途中で質量電荷比に応じて分離され、時間差を有してイオン検出器147に到達する。イオン検出器147は、到達したイオンの量に応じた検出信号を生成する。図示しないデータ処理部は、その検出信号に基いて、飛行時間を質量電荷比に換算したマススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)を作成する。
[トランスファー電極及び直交加速部の詳細な構成]
次に、本実施形態のQ-TOF型質量分析装置における、トランスファー電極140、直交加速部142、及び加速電極部143の構成について、図1に加え、図2~図6を参照して説明する。図2は、本実施形態のQ-TOF型質量分析装置におけるトランスファー電極140の近傍の拡大図である。図3は、図2中のA部付近の拡大図である。図4(A)は、後方側固定部材の構成を説明するために該固定部材のみを描いた図であり、図4(B)は図4(A)中の矢視線B-B’断面図である。図5は、前方側固定部材の構成を説明するための図2中の矢視線D-D’断面図である。図6は、後段トランスファー電極141を構成する各電極板の平面図である。
図2に示すように、前段トランスファー電極134は、3枚の電極板1341、1342、1343を含む。これら3枚の電極板1341、1342、1343は、間に絶縁性のスペーサー1344を挟んで相互に固定されている。前段トランスファー電極134の最前方側(コリジョンセル133に最も近い側)に位置する電極板1341はスペーサー1344を介してコリジョンセル133に固定されており、これによって前段トランスファー電極134は位置決めされている。コリジョンセル133は、図示しない固定部材を介して真空チャンバー1に固定されている。
3枚の電極板1341、1342、1343にはそれぞれ中央に、円形状のイオン通過開口が形成されている。イオン光軸C1に沿って中央に位置する電極板1342のイオン通過開口の径は、その両側の電極板1341、1343のイオン通過開口の径よりも大きくなっている。
一方、図2に示すように、後段トランスファー電極141は、4枚の電極板1411、1412、1413、1414を含む。これら4枚の電極板1411、1412、1413、1414もそれぞれ、イオン光軸C1に沿って隣接する電極板の間に絶縁性のスペーサー1415、1416を挟んで連結されている。電極板1411、1412の間に位置するスペーサー1415は円環状であり、電極板1412、1413、1414の間に位置するスペーサー1416はロッド状である。
最前方に位置する電極板1411は第1分析室13内に配置され、残りの3枚の電極板1412、1413、1414は第2分析室14内に配置されている。前方側の2枚の電極板1411、1412を連結する円環状のスペーサー1415は、第1分析室13と第2分析室14とを区画する隔壁リング165に設けられた偏平円筒状の開口の内周にちょうど嵌る外形を有しており、スペーサー1415は該開口に挿入されている。したがって、スペーサー1415は隔壁リング165に対してイオン光軸C1の方向(X軸の正負両方向)に摺動可能である。
第1分析室13内に配置される電極板1411には、さらにその前方に位置する電極板1343のイオン通過開口よりも大きな径である円形のイオン通過開口が形成されている。他方、第2分析室14内に配置される3枚の電極板1412、1413、1414にはそれぞれ、矩形状のイオン通過開口(スリット)が形成されている。図6に示すように、矩形状のイオン通過開口の大きさは、電極板1412が最も小さく、電極板1414、1413の順に大きくなっている。そのイオン通過開口の形状は、その後段に位置する直交加速部142のイオン入射面の開口の形状に対応している。
第2分析室14内の真空チャンバー1の側壁の所定位置1Bには、中央に長方形の開口が形成された、導電性である板状の基台150が略水平になるように固定されている。図2等では、この基台150を真空チャンバー1とは別の部材として描いているが、基台150は真空チャンバー1と一体に形成されていてもよい。
図4に示すように、基台150の上面には、該基台150の開口をY軸方向に挟んで両側に3個ずつ、合計6個の円柱状である絶縁性のインシュレーター151が固定されている。これら6個のインシュレーター151の上部には、二つのイオン通過開口が形成された、導電性のベースプレート152が固定されている。さらに、ベースプレート152の上面には、イオン通過開口が形成された矩形板状である導電性の位置決めプレート153が固定されている。後段トランスファー電極141のうち最後方に位置する電極板1414は、導電性のレンズホルダー161によって保持されている。このレンズホルダー161は、絶縁性のレンズインシュレーター160を介して位置決めプレート153及びベースプレート152に固定されている。この固定は、絶縁材料である樹脂製のホルダー固定ねじ155によってなされる。
位置決めプレート153上には、上記レンズホルダー161のほか、押出し電極1421及び引込み電極1422を含む直交加速部142と、加速電極部143と、が固定されている。またベースプレート152の他方の開口の上には、イオン検出器147が固定されている。
加速電極部143は、加速電極1431と絶縁性のスペーサー1432とを交互に積み重ねた構成であり、複数本の棒状部材154によって、直交加速部142と共に位置決めプレート153に固定されている。
第1分析室13と第2分析室14との間には、隔壁部164が設けられている。この隔壁部164は、真空チャンバー1の内壁面から内方に張り出し、平面略円形状の開口を有する導電性の延出部163と、該延出部163に対し第2分析室14側から取り付けられる既出の隔壁リング165と、を含む。ここでは、真空チャンバー1と延出部163とを別の部材として記載しているが、延出部163は真空チャンバー1と一体であってもよい。
図3及び図5に示すように、隔壁リング165の開口の内周側には、2枚の電極板1411、1412で挟まれたスペーサー1415がイオン光軸C1方向(X軸方向)に摺動可能に嵌め込まれている。隔壁リング165の外周部は延出部163と重なり合っており、Y-Z平面上に位置するその環状の重ね合わせ部分において、イオン光軸C1の周りに略等角度間隔の4箇所の位置で、それぞれスペーサーねじ166によって隔壁リング165は延出部163に取り付けられている。
図3に示すように、スペーサーねじ166は、その鍔部1661と隔壁リング165との間に弾性部材としてのОリング167を挟んで、延出部163に螺入される。スペーサーねじ166のねじ部が最大限、延出部163のねじ孔に螺入された状態で、鍔部1661と隔壁リング165との間には所定の隙間が形成される。その隙間でOリング167は圧潰され、その圧潰されたOリング167の弾性力で以て隔壁リング165は延出部163に押し付けられる。また、隔壁リング165に形成されているねじ貫通孔1651の径は、スペーサーねじ166のスペーサー部1662の外径よりも所定サイズだけ大きい。そのため、ねじ貫通孔1651とスペーサー部1662との間には、イオン光軸C1に略直交する方向に所定範囲で遊び(隙間)がある。
Oリング167の潰れ量は装置間で殆ど差がないので、隔壁リング165が延出部163に押し付けられる際の力の大きさに関し、装置間の差は殆どない。また、隔壁リング165は樹脂(例えばポリアセタール(POM)又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE))製であり、延出部163は金属(例えばアルミニウム)製であるので、両者の接触面における静止摩擦係数は小さい。そのため、隔壁リング165をイオン光軸C1に略直交する方向に移動(変位)させるような適度な大きさの力が加わると、隔壁リング165はその方向(図3中の矢印)に移動し得る。つまりは、電極板1411、1412は、イオン光軸C1に略直交する方向(Z軸の正負両方向)に所定の範囲でスライド移動可能である。
レンズホルダー161はその後方側上部に固定されたレンズホルダー固定部材162によって、隔壁リング165の第2分析室14側の面に固定されている。図5では、レンズホルダー固定部材162の取付位置を符号162Aで示している。このレンズホルダー固定部材162は一体の部材でもよいし、複数の部材が組み合わされたものでもよい。即ち、レンズホルダー161は、ホルダー固定ねじ155によって下方向に間接的に真空チャンバー1に対し固定されるとともに、レンズホルダー固定部材162を介してその上部が間接的に真空チャンバー1に対し固定されている。
[構成上の特徴及びその利点]
本実施形態のQ-TOF型質量分析装置は、通常、工場において室温環境(例えば25℃)下で組み立てられる。一方、分析実行時に、第2分析室14は図示しないヒーターによって、通常の室温よりも高い所定の温度(例えば42℃)に温調される。これは、フライトチューブ144等により形成されるイオンの飛行経路の距離が、周囲温度の変動の影響を受けないようにするためである。そのため、第2分析室14内に配置されている各部材は、それぞれの部材を構成する材料の熱膨張率に応じて膨張する。また、温調の目標温度を変更した場合や装置の輸送中に温度変化が生じた場合にも、各部材はそれぞれの部材を構成する材料の熱膨張率に応じて膨張又は収縮する。
工場での装置の組立て時には、トランスファー電極140(前段トランスファー電極134及び後段トランスファー電極141)の中心軸が、直交加速部142の押出し電極1421と引込み電極1422の対向面の間を該対向面に対し平行に通過するように、トランスファー電極140は高い精度で位置決めされる。このとき、後段トランスファー電極141では、隔壁部164を挟んで第1分析室13と第2分析室14とに跨るように配置されたスペーサー1415の中心軸が、隔壁リング165、延出部163、及び真空チャンバー1の一部(図2中に1Aで示す部分。以下、この部分を部分真空チャンバー1Aという)を介して真空チャンバー1の所定位置1Bに対して位置決めされている。
図5に示したように、隔壁リング165は、イオン光軸C1の周りに略対称である四つの位置で延出部163に対しスペーサーねじ166で固定されている(但し、上述したように、隔壁リング165は延出部163に対してY-Z面内の所定範囲で移動可能である)。そのため、隔壁リング165が膨張又は収縮した場合、その中央開口の大きさは変化するものの、原則として中心軸は変位しない。即ち、本実施形態の質量分析装置では、隔壁リング165、延出部163、及び部分真空チャンバー1Aが前方側固定部材に含まれるが、このうち、延出部163及び部分真空チャンバー1Aが、熱膨張率に応じた膨張又は収縮に起因して、電極板1411におけるイオン光軸C1(C1a)の位置を変位させる要素(つまりは第1変位部材)である。なお、イオン光軸C1の変位とは、所定位置1Bを基準位置としたときの、該基準位置に対するイオン光軸C1の位置の変化をいう。
一方、後段トランスファー電極141の最後方に位置する電極板1414は、真空チャンバー1の所定位置1Bに固定された基台150に対して、レンズホルダー161、レンズインシュレーター160、位置決めプレート153、ベースプレート152、及びインシュレーター151を介して固定されている。即ち、本実施形態の質量分析装置では、レンズホルダー161、レンズインシュレーター160、位置決めプレート153、ベースプレート152、インシュレーター151、及び基台150が後方側固定部材に含まれ、これらによって電極板1414の中心軸が位置決めされる。後方側固定部材に含まれるこれらの部材はいずれも、熱膨張率に応じた膨張や収縮によって電極板1414におけるイオン光軸C1(C1a)を変位させる要素(つまり第2変位部材)である。
図7は、後段トランスファー電極141のイオン光軸C1aと直交加速部142のイオン光軸C1bとが一直線上に位置している状態を示す概略図である。なお、直交加速部142のイオン光軸C1bは直交加速部142に含まれる押出し電極と引込み電極との両方の対向面に平行であればよく、それら両対向面からそれぞれ等距離の位置であることは必須ではない。装置の組立て時には、基本的に、図7に示す状態になるように各部材の位置が調整される。
分析時に加熱及び温調がなされると、後段トランスファー電極141を固定している前方側固定部材と後方側固定部材とは共に同方向に熱膨張するものの、通常、後方側固定部材の熱膨張量の方が前方側固定部材の熱膨張量よりも大きい。この場合、後段トランスファー電極141の後方側の電極板1414は前方側の電極板1411よりもZ軸の負方向に大きく移動する。そのため、後段トランスファー電極141のイオン光軸C1aと直交加速部142のイオン光軸C1bとの関係は、図8に示すようになる。
即ち、後段トランスファー電極141のイオン光軸C1aは、直交加速部142のイオン光軸C1bに対し傾いてしまう。このように、傾いたイオン光軸C1aに沿ってイオン流が直交加速部142に入射すると、X軸方向の位置によってZ軸方向におけるイオンの出発位置がばらつき、また付与される運動エネルギーもばらつく。それにより、質量精度や質量分解能が低下する。なお、図8は、理解を容易にするために極端に描いた図であり、実際には、イオン光軸C1aの傾きは目視では分からない程度にごく僅かである。もちろん、そうであっても、分析性能を十分に低下させるものである。
本実施形態の質量分析装置では、上述したようなイオン光軸C1aの傾きを軽減するために二つの対策を施している。その対策の一つは、各部材の材料を適切に選択することによって、前方側固定部材と後方側固定部材との熱膨張量の差異を小さくし、イオン光軸C1aの傾き自体を小さくすることである。他の対策の一つは、上述したように、隔壁リング165をイオン光軸C1に略直交する方向(つまりはZ軸の正負の方向)に所定範囲でスライド移動可能とすることで、後方側固定部材の膨張又は収縮による後方側電極板1414のZ軸方向の変位に前方側の電極板1411、1412を追従させ、それによってイオン光軸C1aの傾きを小さくすることである。
本実施形態の質量分析装置では、真空チャンバー1(部分真空チャンバー1A)、レンズホルダー161、位置決めプレート153、ベースプレート152、及び基台150の材料として、同一種類の導電性材料を用いている。ここでは一例として、導電性材料としてアルミニウムを用いている。但し、全ての導電性の部材を同一の導電性材料で構成することは必須の要件ではなく、異なる種類の導電性材料を用いてもよい。例えば、一部又は全ての導電性部材の材料をステンレス鋼(SUS)などとしてもよい。
一方、レンズインシュレーター160には上記の導電性材料に比べて熱膨張率が小さい第1絶縁性材料を、インシュレーター151には上記の導電性材料に比べて熱膨張率が大きい第2絶縁性材料を、それぞれ用いる。例えば、導電性材料がアルミニウムである場合には、第2絶縁性材料としてポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を用い、第1絶縁性材料として加工性が良好であるマシナブルセラミックスの一つである窒化物系マシナブルセラミックスを用いることができる。第1絶縁性材料としては、例えば窒化ホウ素を用いることもできるが、窒化物系マシナブルセラミックス、マイカ系マシナブルセラミックス等のマシナブルセラミックスを用いることが好ましい。窒化物系マシナブルセラミックスとして、具体的には例えば、非特許文献1に記載のホトベールII(株式会社フェローテックマテリアルテクノロジーズ社の登録商標)などを用いることができる。
仮に、第1絶縁性材料として第2絶縁性材料と同じ、例えばPEEK樹脂を用いたとした場合、レンズインシュレーター160及びインシュレーター151が共に、上記の導電性材料に比べて熱膨張率が大きい材料からなることとなる。そのため、アルミニウム製の部材のみで構成される前方側固定部材における、Z軸の正負方向(イオン光軸C1と直交する方向)の熱膨張量よりも、アルミニウム製の部材とPEEK樹脂製の部材とで構成される後方側固定部材の同方向の熱膨張量の方がかなり大きくなってしまう。その結果、図8に示すように、イオン光軸C1aの傾きが大きくなる可能性がある。
これに対し、本実施形態の質量分析装置では、レンズインシュレーター160にPEEK樹脂ではなく、上記の導電性材料に比べて熱膨張率が小さい、例えば窒化物系マシナブルセラミックスを用いるため、PEEK樹脂と窒化物系マシナブルセラミックスとの熱膨張率に応じて各部材の長さ(図2において所定位置1Bからイオン光軸C1までの範囲Eに位置する部材の、Z軸方向の設計上の長さ)を適宜に調整する。
具体的には、ここでは、前方側固定部材における変位要素の単位温度当たりの熱膨張量(その変位要素に含まれる各部材の、Z軸方向の長さと熱膨張率との積の和)P1と、後方側固定部材における変位要素の単位温度当たりの熱膨張量P1の差ΔPを、熱膨張量P1の30%以下に抑えるようにしている。これによって、前方側固定部材の熱膨張による前方側の電極板1411のZ軸方向の変位量と、後方側固定部材の熱膨張による後方側の電極板1414のZ軸方向の変位量とを同程度にし、例えば、本装置の製造時と質量分析時とで温度が相違した場合であってもイオン光軸C1aの傾きを軽減することができる。
また、フライトチューブ144の温調の目標温度を変更した場合であっても、イオン光軸C1aの傾きが生じるのを抑制することができる。さらに、質量分析装置の輸送行程の温度変化によって各部材に膨張・収縮が生じた場合であっても、イオン光軸C1aに不可逆的な大きな傾きが生じにくい。
上記の第1の対策によって、イオン光軸C1aの傾きをかなりの程度軽減できるものの、例えばコスト的な制約や電気絶縁距離を確保する必要性などの様々な設計上の制約のために、該対策だけでは、各部材の膨張・収縮によって生じるイオン光軸C1aの傾きを十分に小さくできない場合がある。その場合でも、本実施形態の質量分析装置では、上記第2の対策によって、イオン光軸C1aの傾きを十分に小さくすることができる。
即ち、前方側固定部材の熱膨張量に比べて後方側固定部材の熱膨張量が大きい場合、レンズホルダー161に保持されている電極板1414はZ軸の負方向に移動する。スペーサー1416を介して電極板1414に間接的に固定されている電極板1413、1412にも、Z軸の負方向に移動する力が加わる。さらに、電極板1412に固定されているスペーサー1415を介して隔壁リング165に対しても、Z軸の負方向に移動する力が加わる。また、レンズホルダー161と隔壁リング165とはレンズホルダー固定部材162を介して接続されているため、熱膨張によってレンズホルダー161がZ軸の負方向に移動したときに、レンズホルダー固定部材162を介して隔壁リング165を同方向に移動させる力も加わる。
上述したように、Oリング167の弾性力によって延出部163に押し付けられている隔壁リング165と該延出部163との間の接触面における静止摩擦係数は小さいので、上述したような力が隔壁リング165に加わると、隔壁リング165は延出部163との接触を維持したままZ軸の負方向に移動する。最大の移動可能量は、ねじ貫通孔1651とスペーサー部1662との隙間に相当する。これによって、隔壁リング165の開口内側に位置するスペーサー1415に固定されている電極板1411、1412も、Z軸の負方向に移動する。そして、後段トランスファー電極141の中心軸つまりイオン光軸C1aは、図9に示すように、直交加速部142のイオン光軸C1bとほぼ平行な状態になる。このとき、後段トランスファー電極141のイオン光軸C1aは直交加速部142のイオン光軸C1bからずれるものの、そのずれ量は後段トランスファー電極141から送り出されたイオン流が直交加速部142に入射し得る程度であるので、分析性能上、問題はない。
上述した第1の対策によって、各部材の膨張又は収縮に起因するイオン光軸C1aの傾きが或る程度軽減されていれば、上記第2の対策において隔壁リング165が移動する量はごく僅かで済み、イオン光軸C1aとイオン光軸C1bとの平行性を高めることができる。一方、第1の対策が採られていない場合、又は採られていてもその効果が十分でない場合であっても、上記第2の対策において隔壁リング165が移動可能である範囲を或る程度広げておくことで、イオン光軸C1aとイオン光軸C1bとの平行性を実用上十分に確保することができる。これによって、直交加速飛行時間型質量分離部において高い質量精度、質量分解能、分析感度を達成することができる。
また、本実施形態の質量分析装置は次のような問題も解決し得る。
真空チャンバー1内の真空排気を開始するとき及び真空を解除して大気開放するときに、第1分析室13内の圧力と第2分析室14の圧力との差が一時的に大きい状態となることがある。すると、その圧力差に対応した力が、後段トランスファー電極141においてイオン通過開口が最も小さい電極板1412に対し、イオン光軸C1に沿った方向に加わる。但し、そのときの力の向きは、第1分析室13と第2分析室14とのいずれの圧力が高いのかによって異なる。
第1分析室13内の圧力の方が高い場合、図2において右方向の力が電極板1412に加わる。仮にレンズホルダー固定部材162がないとすると、上記力によって後段トランスファー電極141には、レンズインシュレーター160とレンズホルダー161との接触部の最も後方側(図2で右側)の位置を中心として時計回りに回転するようなモーメントが作用する。レンズホルダー161は、位置決めプレート153を貫通してベースプレート152に達しているホルダー固定ねじ155で固定されているものの、該ねじ155は樹脂製であって、金属製のねじに比べると一般に軸力が小さい。そのため、大きな圧力差によってレンズホルダー161が回転しようとすると、ホルダー固定ねじ155に過剰な力が加わって伸びてしまう場合がある。その結果、ねじ155の不可逆的な緩みを引き起こしたり、後段トランスファー電極141が不可逆的に位置ずれを生じたりする可能性がある。
これに対し、本実施形態の質量分析装置では、レンズホルダー161の上部はレンズホルダー固定部材162によって隔壁リング165を介し真空チャンバー1に固定されている。この固定の方向は概ね、上記のような圧力差による力の作用方向と逆の方向であり、その圧力差による力に対し抗するのに望ましい方向である。そのため、上記圧力差に起因する力が後段トランスファー電極141に加わった場合でも、レンズホルダー161はホルダー固定ねじ155に過剰な力が加わりにくく、そのねじ155の伸びを防止することができる。それによって、本実施形態の質量分析装置では、真空排気の開始時や大気開放時の圧力差によって生じるレンズホルダー161の傾きやホルダー固定ねじ155の緩みを回避することができ、それに起因する後段トランスファー電極141のイオン光軸C1aのずれ及び傾きも低減することができる。
[変形例]
上記実施形態の質量分析装置では、真空チャンバー1に固定された又はその一部である延出部163に対して隔壁リング165を、Oリング167の弾性力によって所定の力で押さえ付けていたが、Oリング167に代えて他の弾性部材を用いることができる。例えば、Oリング167に代えて、圧縮ばね、皿ばね、ばね座金などの機械的な伸縮力を利用した部材を用いてもよい。また、Oリング167を圧潰する部材としてスペーサーねじ166に代えて、ねじとスペーサーとの組合せを用いてもよい。
また、後段トランスファー電極141を位置決めするための前方側固定部材及び後方側固定部材に含まれる各部材の数や各部材の材料の種類は、上記実施形態に記載のものに限定されず、本発明の要件を満たす限りにおいて適宜に変更可能である。
また、上記実施形態の質量分析装置では、後段トランスファー電極141は4枚の電極板を含む構成であるが、その枚数は2以上であれば適宜に選択可能である。また、その電極板は、実質的にロッド電極と言える程度に厚いものであってもよいし、イオン光軸C1に沿って複数のセグメントに分割された構造の多重極ロッド電極であってもよい。
また、上記実施形態の質量分析装置において、直交加速部142としてリニアイオントラップを用いてもよい。このリニアイオントラップはロッド状電極又はプレート状電極のいずれを用いたものでもよい。また、リフレクトロン型の飛行時間型質量分離器に代えて、リニア型、多重周回型、多重反射型などの飛行時間型質量分離器を用いてもよい。
また、本発明は、直交加速飛行時間型質量分離器を含む質量分析装置全般に適用し得る。したがって、上記実施形態であるQ-TOF型質量分析装置以外に、例えば、単体の直交加速飛行時間型質量分析装置、イオントラップと直交加速飛行時間型質量分析装置とを組み合わせたイオントラップ飛行時間型質量分析装置などにも本発明を適用可能である。
さらにまた、上記実施形態及び各種の変形例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜に修正、変更、追加などを行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態及び変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
(第1項)本発明に係る質量分析装置の一態様は、
内部空間が第1真空室と第2真空室とに区画された真空チャンバーと、
前記第1真空室から前記第2真空室へとイオンを輸送するべく該両真空室に跨るように配置され、絶縁性のスペーサーを介して連結された、それぞれイオン通過開口を有する複数の電極板から成るトランスファー電極と、
前記第2真空室内に配置され、前記トランスファー電極により輸送されて来たイオンをその入射方向に直交する方向に加速する直交加速部と、
前記複数の電極板のうちの前記第2真空室内に位置する後方側電極板を、そのイオン通過開口の中心軸と直交する所定の方向に離れた位置において前記真空チャンバーに対し固定するための後方側固定部材と、
前記複数の電極板のうちの前記第1真空室内に位置する前方側電極板を該第1真空室内で位置決めするための部材であって、前記真空チャンバーの内壁面に内側に延出するように設けられた延出部と、前記前方側電極板に固定された前記スペーサーを保持し、前記延出部に対し前記所定の方向と逆の方向に所定の範囲でスライド移動可能に取り付けられている環状の隔壁部材と、を含む前方側固定部材と、
を備える。
第1項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置によれば、分析時の温調や温度変化に起因する、直交加速部に入射するイオン流のイオン光軸の傾きを軽減することができる。それにより、直交加速部に入射するイオン流が該直交加速部に含まれる電極と平行に保たれるので、高い分析性能(質量精度、質量分解能、分析感度)を達成することができる。
(第2項)第1項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置において、前記隔壁部材は、弾性部材によって前記延出部に押し付けられ、該延出部に対し摺動自在であるものとすることができる。
(第3項)第2項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置において、前記弾性部材はOリングであるものとすることができる。
弾性部材としてはOリングなどの素材自体の弾性力を利用した部材、圧縮ばね、皿ばね、ばね座金などの機械的な伸縮力を利用した部材などのいずれでもよい。
第2項及び第3項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置によれば、延出部と隔壁部材との密着性を高めながら、両者の接触面における隔壁部材の摺動性も確保することができる。それによって、第1真空室及び第2真空室それぞれの密閉性を高めることができる。一方で、後方側固定部材が膨張・収縮したことによって後方側の電極板が上記所定の方向の逆方向に移動したときに、隔壁部材が円滑に移動してイオン光軸の傾きを軽減することができる。
(第4項)第1項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置では、前記隔壁部材と前記延出部の一方は樹脂製であり、他方は金属製であるものとすることができる。
上記樹脂としては、例えばポリアセタール樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などの静止摩擦係数の小さい(つまりは摺動性の良好である)材料が好ましい。
第4項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置によれば、後方側固定部材が膨張・収縮したことによって後方側の電極板が上記所定の方向の逆方向に移動したときに、隔壁部材が円滑に移動し易く、イオン光軸の傾きを一層確実に軽減することができる。
(第5項)第1項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置において、前記後方側固定部材は、前記複数の電極のうちの少なくとも最後方に位置する電極板を保持するホルダーを含み、該ホルダーを前記隔壁部材に対して固定するホルダー固定部材をさらに備えるものとすることができる。
真空チャンバー内の真空排気を開始するときや真空状態を解除するときに、第1真空室内の圧力と第2真空室内の圧力とに大きな差が生じ、その圧力差に起因して、トランスファー電極を第1真空室側から第2真空室側へと押す大きな力が掛かることがある。電極板を保持するホルダーが例えば上記所定の方向に延伸するねじで間接的に真空チャンバーに対し固定されているとすると、そのねじに大きな力が作用する。電気的絶縁性のために樹脂製であるねじを使用すると、該ねじが伸びてしまって緩む、或いは、ホルダーがガタつく原因となる。
これに対し、第5項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置によれば、ホルダーが隔壁部材に対しホルダー固定部材によって固定されているので、上記のような圧力差による力がトランスファー電極に作用した場合であっても、樹脂製のねじに過剰な力が掛かることを回避することができる。それによって、ねじの緩みやホルダーのガタつきを軽減し、トランスファー電極を適切に位置決めした状態を保つことができる。
(第6項)第1項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置において、前記前方側固定部材は、熱膨張によって前記トランスファー電極の入口側の中心軸を前記所定の方向と逆方向に変位させる第1変位部材を含み、前記後方側固定部材は、熱膨張によって前記トランスファー電極の出口側の中心軸を前記所定の方向と逆方向に変位させる第2変位部材を含み、
前記第1変位部材の単位温度あたりの熱膨張量と前記第2変位部材の単位温度あたりの熱膨張量との差が、該第1変位部材の熱膨張量の30%以下であるものとすることができる。
第6項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置によれば、前方側固定部材と後方側固定部材との熱による膨張量又は収縮量の差が小さいため、延出部に対する隔壁部材のスライド移動可能な範囲が小さくても、トランスファー電極におけるイオン光軸の傾きをより確実に抑えることができる。
(第7項)第6項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置において、前記第2変位部材は、第1絶縁性材料からなる第1絶縁部材及び第2絶縁性材料からなる第2絶縁部材と、導電性材料で構成された導電部材とを含み、前記第1絶縁性材料の熱膨張率が前記導電部材の熱膨張率よりも小さく、前記第2絶縁性材料の熱膨張率が前記導電部材の熱膨張率よりも大きいものとすることができる。
第7項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置によれば、後方側固定部材が、1又は複数の導電部材と、それぞれ熱膨張率が相違する絶縁材料から成る複数の絶縁部材を第2変位部材として含むので、各部材の熱膨張率及び寸法を適宜選択することで、第6項に記載の装置における熱膨張量の要件を満たすことが容易になる。
(第8項)第7項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置において、前記第1絶縁性材料はマシナブルセラミックスであるものとすることができる。
第8項に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置によれば、第1絶縁材料として加工性が良好であるマシナブルセラミックを用いるので、後方側固定部材をより簡易に且つ高精度で製造することができる。
1…真空チャンバー
1A…部分真空チャンバー
1B…所定位置
10…イオン化装置
100…イオン化室
101…エレクトロスプレーイオン源
102…脱溶媒管
11…第1中間真空室
111…該多重極イオンガイド
112…スキマー
12…第2中間真空室
121…多重極イオンガイド
13…第1分析室
131…四重極マスフィルター
132…多重極イオンガイド
133…コリジョンセル
134…前段トランスファー電極
1341、1342、1343…電極板
1344…スペーサー
14…第2分析室
140…トランスファー電極
141…後段トランスファー電極
1411、1412、1413、1414…電極板
1415、1416…スペーサー
142…直交加速部
1421…押出し電極
1422…引込み電極
143…加速電極部
1431…加速電極
1432…スペーサー
144…フライトチューブ
145…リフレクトロン
146…バックプレート
147…イオン検出器
150…基台
151…インシュレーター
152…ベースプレート
153…位置決めプレート
154…棒状部材
155…ホルダー固定ねじ
160…レンズインシュレーター
161…レンズホルダー
162…レンズホルダー固定部材
163…延出部
164…隔壁部
165…隔壁リング
1651…ねじ貫通孔
166…スペーサーねじ
1661…鍔部
1662…スペーサー部
167…Oリング

Claims (8)

  1. 内部空間が第1真空室と第2真空室とに区画された真空チャンバーと、
    前記第1真空室から前記第2真空室へとイオンを輸送するべく該両真空室に跨るように配置され、絶縁性のスペーサーを介して連結された、それぞれイオン通過開口を有する複数の電極板から成るトランスファー電極と、
    前記第2真空室内に配置され、前記トランスファー電極により輸送されて来たイオンをその入射方向に直交する方向に加速する直交加速部と、
    前記複数の電極板のうちの前記第2真空室内に位置する後方側電極板を、そのイオン通過開口の中心軸と直交する所定の方向に離れた位置において前記真空チャンバーに対し固定するための後方側固定部材と、
    前記複数の電極板のうちの前記第1真空室内に位置する前方側電極板を該第1真空室内で位置決めするための部材であって、前記真空チャンバーの内壁面に内側に延出するように設けられた延出部と、前記前方側電極板に固定された前記スペーサーを保持し、前記延出部に対し前記所定の方向と逆の方向に所定の範囲でスライド移動可能に取り付けられている環状の隔壁部材と、を含む前方側固定部材と、
    を備える直交加速飛行時間型質量分析装置。
  2. 前記隔壁部材は、弾性部材によって前記延出部に押し付けられ、該延出部に対し摺動自在である、請求項1に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置。
  3. 前記弾性部材はOリングである、請求項2に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置。
  4. 前記隔壁部材と前記延出部の一方は樹脂製であり、他方は金属製である、請求項1に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置。
  5. 前記後方側固定部材は、前記複数の電極のうちの少なくとも最後方に位置する電極板を保持するホルダーを含み、該ホルダーを前記隔壁部材に対して固定するホルダー固定部材をさらに備える、請求項1に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置。
  6. 前記前方側固定部材は、熱膨張によって前記トランスファー電極の入口側の中心軸を前記所定の方向と逆方向に変位させる第1変位部材を含み、前記後方側固定部材は、熱膨張によって前記トランスファー電極の出口側の中心軸を前記所定の方向と逆方向に変位させる第2変位部材を含み、
    前記第1変位部材の単位温度あたりの熱膨張量と前記第2変位部材の単位温度あたりの熱膨張量との差が、該第1変位部材の熱膨張量の30%以下である、請求項1に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置。
  7. 前記第2変位部材は、第1絶縁性材料からなる第1絶縁部材及び第2絶縁性材料からなる第2絶縁部材と、導電性材料で構成された導電部材とを含み、前記第1絶縁性材料の熱膨張率が前記導電部材の熱膨張率よりも小さく、前記第2絶縁性材料の熱膨張率が前記導電部材の熱膨張率よりも大きい、請求項6に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置。
  8. 前記第1絶縁性材料はマシナブルセラミックスである、請求項7に記載の直交加速飛行時間型質量分析装置。
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