JP7488850B2 - 成形用樹脂組成物及び成形体 - Google Patents

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Description

本発明は、優れた連続生産性が得られ、高い表面平滑性を有し、成形不良を抑制でき、使用時に亀裂が発生し難く、耐衝撃性にも優れた成形体を製造することが可能な成形用樹脂組成物、及び、該成形用樹脂組成物を用いた成形体に関する。
従来より、塩化ビニル系樹脂(以下、PVCという)は機械的強度、耐候性、耐薬品性に優れた材料として、多くの分野に用いられている。しかしながら、耐熱性に劣るため、PVCを塩素化することにより耐熱性を向上させた塩素化塩化ビニル系樹脂(以下、CPVCという)が開発されている。PVCは熱変形温度が低く使用可能な上限温度が60~70℃付近であるため、熱水に対して使用できないのに対し、CPVCは熱変形温度がPVCよりも20~40℃も高いため、熱水に対しても使用可能であり、例えば、耐熱パイプ、耐熱継手、耐熱バルブ、耐熱プレート等に好適に使用されている。
しかしながら、CPVCは一般のPVCと比較して粘度が高く、応力緩和時間が長いため、成形体、例えば管の表面(内面)が平滑性に劣るという欠点があった。管の内面が平滑性に劣る場合、凹凸の影響により滞留が起こりやすく、細菌の繁殖やゴミの蓄積が起こりやすくなるため、プラント用の超純水配管及びライニング管での使用が難しかった。
これに対して、特許文献1には、塩素含有量が64~68重量%の塩素化塩化ビニル系樹脂と、酸価度が15~25、重量平均分子量が2000~3500の酸化ポリエチレンワックスからなる樹脂組成物を用いた成形体が開示されている。
また、特許文献2には、後塩素化塩化ビニル系樹脂等の塩化ビニル系樹脂に対して、ガラス転移温度が0℃以下のゴム系衝撃吸収材、特定の極性基の含有率が0.1~50質量%、酸価が30~80mgKOH/g、密度が895~960kg/mである変性オレフィンワックスを含有する樹脂組成物からなる成形体が開示されている。
特開2003-112357号公報 特許第6291612号公報
しかしながら、特許文献1及び2に記載のような樹脂組成物を用いる場合、成形機のフォーミングチューブに原料が付着して、成形品の成形不良の原因となるという問題がある。また、長時間連続して生産した際に成形途中の成形体に凹凸が発生して成形不良の原因となるという問題がある。更に、このような樹脂組成物を用いて得られる成形体は、2次加工時に曲げ加工をすることで、成形品に亀裂が生じたり、得られる成形体の耐衝撃性が不充分であるという問題がある。
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み、優れた連続生産性が得られ、高い表面平滑性を有し、成形不良を抑制でき、使用時に亀裂が発生し難く、耐衝撃性に優れた成形体を製造することが可能な成形用樹脂組成物、及び、該成形用樹脂組成物を用いた成形体を提供することを目的とする。
本発明は、塩素化塩化ビニル系樹脂及び溶融添加剤を含有する成形用樹脂組成物であって、パルスNMRを用いて100℃でSolid Echo法で測定し、Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間が短い順にA100成分、B100成分及びC100成分の3成分に由来する3つの曲線に波形分離して得た、C100成分の成分比[C100成分/(A100成分+B100成分+C100成分)]が30%以下である成形用樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
本発明者らは、鋭意検討の結果、塩素化塩化ビニル系樹脂と溶融添加剤とを含有し、パルスNMRを用い所定の方法で測定したC100成分の成分比が30%以下である成形用樹脂組成物とすることで、表面平滑性が高く、使用時に亀裂が発生し難い成形体を製造することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
(成形用樹脂組成物)
本発明の成形用樹脂組成物は、パルスNMRを用いて100℃でSolid Echo法で測定し、Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間が短い順にA100成分、B100成分及びC100成分の3成分に由来する3つの曲線に波形分離して得た、C100成分の成分比[C100成分/(A100成分+B100成分+C100成分)]が30%以下である。
上記C100成分の成分比が上記範囲であることにより、成形品の加工性、ムラ防止性を向上させて、表面平滑性が高い成形品を製造することができる。また、成形品使用時の亀裂の発生を防止することができる。更に、成形機のフォーミングチューブへの付着物を防止することができる。
上記C100成分の成分比は、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましく、25%以下であることが好ましく、23%以下であることがより好ましい。
ここで、パルスNMRとは、パルスに対する応答信号を検出し、試料のH核磁気緩和時間を求める手法であり、パルスの応答として、自由誘導減衰曲線が得られる。得られる自由誘導減衰曲線は、緩和時間が異なる複数成分の自由誘導減衰曲線を重畳したものであり、これを最小二乗法を用いて波形分離することで、緩和時間が異なる各成分の緩和時間や成分を検出することができる。このようなパルスNMRを用いて3成分に分離して解析する手法は、公知であり、文献の例としては、特開2018-2983号公報等が挙げられる。
また、上記A100成分は、パルスNMR測定における緩和時間の短い成分であり、分子運動性が低く、硬い成分を意味する。一方、C100成分は、パルスNMRにおける緩和時間の長い成分であり、分子運動性が高く、柔らかい成分を意味する。B100成分は、A100成分とC100成分との間の緩和時間を有し、分子運動性もA100成分とC100成分との間となる。
なお、上記成形用樹脂組成物中のA100成分、B100成分及びC100成分の成分比は、塩素化塩化ビニル系樹脂の構成、塩素化塩化ビニル系樹脂と塩化ビニル系樹脂との割合、溶融添加剤の割合、溶融添加剤の構成、溶融添加剤の原料物質の特性等を適宜設定することで調整することができる。
本発明の成形用樹脂組成物は、上記A100成分の成分比[A100成分/(A100成分+B100成分+C100成分)]が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましい。また、上記A100成分の成分比は、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、75%以下であることが更に好ましい。
本発明の成形用樹脂組成物は、上記B100成分の成分比[B100成分/(A100成分+B100成分+C100成分)]が5%以上であることが好ましく、13%以上であることがより好ましく、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
上記A100成分の成分比に対する上記B100成分の成分比(B100成分の成分比/A100成分の成分比)は、0.1以上であることが好ましく、0.25以下であることが好ましい。
上記A100成分の成分比に対する上記C100成分の成分比(C100成分の成分比/A100成分の成分比)は、0.0001以上であることが好ましく、0.6以下であることが好ましい。
本発明の成形用樹脂組成物において、後述する塩素化塩化ビニル系樹脂中の構成単位(a)の割合と上記C100成分の成分比は以下の関係を満たすことが好ましい。
1.2≦[塩素化塩化ビニル系樹脂中の構成単位(a)の割合/成形用樹脂組成物中のC100成分の成分比]≦200
上記比率は、100以下であることがより好ましい。
(塩素化塩化ビニル系樹脂)
本発明の成形用樹脂組成物は、塩素化塩化ビニル系樹脂を含有する。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂は、下記式(a)~(c)に示す構成単位(a)~(c)を有し、下記構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対して、構成単位(a)の割合が5モル%以上、構成単位(b)の割合が40モル%以下、構成単位(c)の割合が55モル%以下であることが好ましい。このような塩素化塩化ビニル系樹脂は、溶融混練時に均一なゲル化特性を示し、表面にムラの少ない成形品を得ることができる。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂は、上記構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対して、構成単位(a)の割合は30.0モル%以上であることがより好ましく、35.0モル以上であることが更に好ましく、90.0モル%以下であることが好ましく、60.0モル%以下であることがより好ましい。
また、上記構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対して、構成単位(b)の割合は5.0モル%以上であることが好ましく、15.0モル%以上であることがより好ましく、30.0モル%以下がより好ましく、25.0モル%以下であることが更に好ましい。
更に、上記構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対して、構成単位(c)の割合は5.0モル%以上であることが好ましく、25.0モル%以上であることがより好ましく、55.0モル%以下であることがより好ましく、40.0モル%以下であることが更に好ましい。
Figure 0007488850000001
上記塩素化塩化ビニル系樹脂の構成単位(a)、(b)及び(c)のモル比は、塩化ビニル系樹脂(PVC)が塩素化される際の塩素が導入される部位を反映したものである。塩素化前のPVCは、構成単位(a)が100モル%、構成単位(b)及び(c)が0モル%の状態にあるが、塩素化に伴って構成単位(a)が減少し、構成単位(b)及び(c)が増加する。この際、不安定な構成単位(b)が増えすぎたり、塩素化塩化ビニル系樹脂の同一粒子内で塩素化されている部位とされていない部位が偏ったりすると、塩素化状態の不均一性が大きくなる。この不均一性が大きくなると、塩素化塩化ビニル系樹脂を溶融混練する際にゲル化特性にバラつきが生じ、成形品表面の平滑性が大きく損なわれる。
一方で、本発明では、構成単位(a)、(b)及び(c)のモル比を上述の範囲内とすることで、塩素化塩化ビニル系樹脂の均一性が高くなり、溶融混練時に良好なゲル化特性を発揮することができる。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂の構成単位(a)、(b)及び(c)のモル比は、NMRを用いた分子構造解析により測定することができる。NMR分析は、R.A.Komoroski,R.G.Parker,J.P.Shocker,Macromolecules,1985,18,1257-1265に記載の方法に準拠して行うことができる。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂は、パルスNMRを用いて100℃でSolid Echo法で測定し、Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間が短い順にA100成分及びB100成分の2成分に由来する2つの曲線に波形分離して得た、B100成分の成分比が15%未満であることが好ましい。なお、上記B100成分の成分比は、[B100成分/(A100成分+B100成分)]を意味する。
上記B100成分の成分比が上記範囲であることにより、成形品の加工性、ムラ防止性を向上させて、表面平滑性が高い成形品を製造することができる。また、成形品使用時の亀裂の発生を防止することができる。
上記B100成分の成分比は、5%以上であることがより好ましく、15%以下であることがより好ましい。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂は、上記A100成分の成分比[A100成分/(A100成分+B100成分)]が80%以上であることが好ましく、95%以下であることが好ましい。
上記A100成分の緩和時間は、通常0.020ミリ秒(以下msと示す)以下であり、上記B100成分の緩和時間は、通常0.020ms以上0.090ms未満である。
上記A100成分の緩和時間は、0.001ms以上であることが好ましく、0.020ms以下であることが好ましい。
上記A100成分の緩和時間に対する上記B100成分の緩和時間の比(B100成分の緩和時間/A100成分の緩和時間)は、1以上であることが好ましく、90以下であることが好ましい。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂において、上記構成単位(a)の割合と上記B100成分の成分比は以下の関係を満たすことが好ましい。
1.0≦[構成単位(a)の割合/B100成分の成分比]≦20.0
上記塩素化塩化ビニル系樹脂は、付加塩素化量が3.3質量%以上であることが好ましく、15.3質量%以下であることが好ましい。
上記付加塩素化量を3.3質量%以上とすることで、成形品としての耐熱性が充分なものとなり、15.3質量%以下とすることで、成形性が向上する。
上記付加塩素化量は、6.3質量%以上であることがより好ましく、12.3質量%以下であることがより好ましい。
なお、塩化ビニル系樹脂の塩素含有量は通常56.7質量%であるが、上記付加塩素化量は、塩化ビニル系樹脂に対する塩素の導入割合を意味するものであり、JIS K 7229に記載の方法により測定することができる。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂において、上記付加塩素化量と上記B100成分の成分比は以下の関係を満たすことが好ましい。
0.1≦(付加塩素化量/B100成分の成分比)≦5.0
上記塩素化塩化ビニル系樹脂の重合度は、特に限定されず、400~2000であることが好ましく、500~1500であることがより好ましい。
上記重合度を上述の範囲内とすることで、成形時の流動性と成形品の強度を両立することができる。
また、上記塩素化塩化ビニル系樹脂の重量平均分子量は、1000以上、100万以下であることが好ましく、1万以上、50万以下であることがより好ましい。なお、上記重量平均分子量はポリスチレン換算の重量平均分子量であり、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。上記重量平均分子量を測定する際に用いるカラムとしては、例えば、Shodex LF-804(昭和電工社製)等が挙げられる。
上記塩素化塩化ビニル系樹脂を製造する方法としては、例えば、反応容器中において、塩化ビニル系樹脂を水性媒体に懸濁して懸濁液を調製し、前記反応容器内に塩素を導入し、前記懸濁液を加熱することによって前記塩化ビニル系樹脂を塩素化する方法が挙げられる。
また、上記B100成分の成分比は、塩化ビニル系樹脂を塩素化する際の圧力、温度、塩素濃度、過酸化水素濃度、塩素消費速度、攪拌条件等の条件を変更することで調整することができる。
上記塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合体、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーと塩化ビニルモノマーとの共重合体、重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体等を用いることができる。これら重合体は単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
上記塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、α-オレフィン類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、(メタ)アクリル酸エステル類、芳香族ビニル類、ハロゲン化ビニル類、N-置換マレイミド類等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上が使用される。
上記α-オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられる。
上記ビニルエステル類としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。
上記ビニルエーテル類としては、ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸エステル類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられる。
上記芳香族ビニル類としては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
上記ハロゲン化ビニル類としては、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等が挙げられる。
上記N-置換マレイミド類としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
上記塩化ビニルをグラフト共重合する重合体としては、塩化ビニルをグラフト重合させるものであれば特に限定されない。例えば、エチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されても良い。
上記エチレン共重合体としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート-一酸化炭素共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられる。
上記反応容器としては、例えば、グラスライニングが施されたステンレス製反応容器、チタン製反応容器等の一般に使用されている容器を使用することができる。
上記塩化ビニル系樹脂を水性媒体に懸濁して懸濁液を調製する方法は、特に限定されず、重合後のPVCを脱モノマー処理したケーキ状のPVCを用いてもよいし、乾燥させたものを再度、水性媒体で懸濁化してもよい。また、重合系中より、塩素化反応に好ましくない物質を除去した懸濁液を使用してもよいが、重合後のPVCを脱モノマー処理したケーキ状の樹脂を用いることが好ましい。
上記水性媒体としては、例えば、イオン交換処理された純水を用いることができる。水性媒体の量は、特に限定されないが、一般にPVCの100質量部に対して150~400質量部が好ましい。
上記反応容器内に導入する塩素は、液体塩素及び気体塩素のいずれであってもよい。短時間に多量の塩素を仕込めるため、液体塩素を用いることが効率的である。圧力を調整するためや塩素を補給するために、反応途中に塩素を追加してもよい。このとき、液体塩素の他に気体塩素を適宜吹き込むこともできる。ボンベ塩素の5~10質量%をパージした後の塩素を用いるのが好ましい。
上記反応容器内のゲージ圧力は、特に限定されないが、塩素圧力が高いほど塩素がPVC粒子の内部に浸透し易いため、0~2MPaの範囲が好ましい。
上記懸濁した状態でPVCを塩素化する方法は、特に限定されず、例えば、熱エネルギーによりPVCの結合や塩素を励起させて塩素化を促進する方法(以下、熱塩素化という)、紫外光線等の光エネルギーを照射して光反応的に塩素化を促進する方法(以下、光塩素化という)等が挙げられる。熱エネルギーにより塩素化する際の加熱方法は、特に限定されず、例えば、反応器壁からの外部ジャケット方式による加熱が効果的である。
また、紫外光線等の光エネルギーを使用する場合、高温、高圧の条件下での紫外線、及びLED照射等の光エネルギー照射が可能な装置が必要である。光塩素化の場合の塩素化反応温度は、40~80℃が好ましい。また、光塩素化の場合の光エネルギーの照射強度(W)と原料PVC及び水の合計量(kg)との比は、0.001~6(W/kg)とすることが好ましく、照射する光の波長は280~420nmであることが好ましい。
上記光塩素化することで、得られる塩素化塩化ビニル系樹脂は、高い耐熱性、及び、機械的強度を有しながら、更に、光沢性に優れた成形品を製造することができる。
上記熱塩素化における加熱温度は、40~120℃の範囲であることが好ましい。温度が低すぎると、塩素化速度が低下する。温度が高すぎると、塩素化反応と並行して脱HCl反応が起こり、得られたCPVCが着色する。加熱温度は、50~110℃の範囲であることがより好ましい。加熱方法は、特に限定されず、例えば、外部ジャケット方式で反応容器壁から加熱することができる。
上記塩素化方法では、懸濁液を攪拌しながら塩素化することが好ましい。また、懸濁液を攪拌する際の攪拌条件としては、ボルテックス体積(単位:L)と原料PVC及び水の合計質量(kg)との比が0.009~0.143となる条件とすることが好ましい。
上記比が0.009以上であることにより、反応器内の気相部の塩素を液相部に充分に取り込むことができ、上記比が0.143以下であると液相部に取り込んだ塩素が気相部に再放出されにくくなるため、均一に塩素化することが可能となる。
なお、上記ボルテックス体積は、攪拌の際に気液界面に発生する渦の体積を意味する。
上記ボルテックス体積は、例えば、熱流体・粉体解析ソフト「R-FLOW」(アールフロー社製)を用いて算出することができる。
具体的には、攪拌翼の中心と攪拌時の気相部と液相部との界面との距離に基づいて算出することができる。なお、攪拌時には、攪拌動力である攪拌翼により液中には圧力が生じ、液相部はプラス圧、気相部はマイナス圧となる。このため、気相部と液相部との界面は、プラス圧とマイナス圧との境界部分として確認することができる。
なお、攪拌時の攪拌翼の回転数は、10~500rpmであることが好ましく、容器の容量は0.01m~100mであることが好ましい。
(溶融添加剤)
本発明の成形用樹脂組成物は、溶融添加剤を含有する。
上記溶融添加剤を含有することで、成形加工時の溶融樹脂の流動粘度を下げることができ、得られる成形品の表面平滑性を向上させることができる。
上記溶融添加剤は、溶液NMRを用いてH NMRスペクトルを測定した際に、9.5~10ppmの範囲に観察されるピークAの面積に対する0.6~1.0ppmの範囲に観察されるピークBの面積比(ピークBの面積/ピークAの面積)が1以上であることが好ましく、1000以下であることが好ましい。また、上記面積比は、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましく、15以上であることが特に好ましく、900以下であることがより好ましく、700以下であることが更に好ましく、500以下であることが特に好ましい。
上記溶液NMRは、具体的には、溶融添加剤を130℃でo-ジクロロベンゼン-d(オルトジクロロベンゼン-d)に溶解させる。特に、不溶解物が存在する場合はフィルター等で除去する必要がある。溶解物は、400MHzのH NMRを用いて130℃で測定することが出来る。
また、上記9.5~10ppmの範囲に観察されるピークAは、アルデヒド基に基づくピークであり、上記ピークAの面積とは、9.5~10ppmの積分値を意味する。
また、上記0.6~1.0ppmの範囲に観察されるピークBは、末端メチル基に基づくピークであり、上記ピークBの面積とは、0.6~1.0ppmの積分値を意味する。
上記溶融添加剤を製造する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まずは、既存公知による方法を用いて、ポリエチレン、又は/及び、ポリオレフィンを作製する。上記方法としては、低圧法(チーグラー法、メタロセン触媒法)及び中圧法(フィリップス法、スタンダード法)などが挙げられる。具体的には、チーグラー・ナッタ触媒であるトリエチルアルミニウム―四塩化チタン固体複合物を触媒、パラフィンやナフテンまたは低級脂肪族炭化水素などを溶剤とし、エチレンを常圧または数気圧程度の圧力を掛けながら溶媒中に吹き込み、60~100℃程度の溶液温度下で重合する。得られたスラリー状重合物は、その後水で洗浄して溶剤を分離回収し、乾燥させて得られる。
次に、ポリエチレン、又は/及び、ポリオレフィンを溶融状態にし、この溶融物中に酸素または酸素含有ガスを導入し酸化反応させることにより製造される。
酸化過程は撹拌タンク反応器内で実施されることが好ましい。
上記酸化過程では、酸素又は酸素含有ガスを反応器内に散布し、精製したポリエチレン又は/及びポリオレフィンを反応器に満たし加熱する。加熱温度は、130~170℃が好ましく、140~160℃がより好ましい。
その後、酸素又は酸素含有ガスをポリエチレン又は/及びポリオレフィンの合計1kg当たり毎分0.5~1.5リットルの酸素流量で反応器に投入する。反応器内の圧力は出口側の制御弁を経由して好ましくは0.5~1.0MPaに調節される。初期誘導期後、酸化が始まり熱を発生するため、反応器は内部の冷却コイルまたは外部ジャケットによって冷却することが好ましい。
反応中の温度は、130~170℃に維持することが好ましく、140~160℃に維持することが更に好ましい。
予め、試料を1時間ごとに取り出し、上記溶液NMRを用いてピークBの面積/ピークAの面積を測定し、検量線を作成する。
所望の面積比となる時間に到達したら、気体の流れを止め、反応器に通風して大気圧にする。
上記ポリエチレン又はポリオレフィンの重量平均分子量は、好ましくは800以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは3000以上、特に好ましくは5000以上であり、好ましくは100万以下、より好ましくは20万以下、更に好ましくは5万以下である。
なお、上記重量平均分子量はJIS-K-7367-1(粘度法)に準じた方法で測定することができる。
上記ポリエチレン又はポリオレフィンの融点は、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下、更に好ましくは140℃以下である。
上記融点は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
上記ポリエチレン又はポリオレフィンの密度は、好ましくは650kg/m以上、より好ましくは800kg/m以上であり、好ましくは1100kg/m以下、より好ましくは1000kg/m以下である。
上記密度は、例えば、JIS K 7112に準拠した方法により測定することができる。
上記ポリエチレン又はポリオレフィンの結晶化度は、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは61%以上、特に好ましくは70%以上、更に特に好ましくは72%以上であり、好ましくは99%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは85%以下である。
上記結晶化度は、例えば、X線回折法により測定することができる。上記範囲内とすることで、優れた連続生産性が得られ、高い表面平滑性を有し、成形不良を抑制でき、使用時に亀裂が発生し難く、耐衝撃性にも優れた成形体を製造することが可能となる。
上記ポリエチレン又はポリオレフィンの軟化点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは100℃以上であり、好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下、更により好ましくは145℃以下である。
上記軟化点は、例えば、JIS K 2207に準拠した方法により測定することができる。
上記溶融添加剤は、下記式(1)~(3)に示す構成単位を有することが好ましい。
Figure 0007488850000002
式(2)中、Xはアルキル基、ハロゲン基、カルボキシル基、水酸基、アセチル基、アクリロイル基、シアノ基、アクリルアミド基、フェニル基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種を表す。
上記溶融添加剤は、上記構成単位(1)~(3)の合計モル数に対して、構成単位(1)の割合が50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましい。また、99.998モル%以下であることが好ましく、98モル%以下であることがより好ましい。
また、構成単位(2)の割合が0.001モル%以上であることが好ましく、1モル%以下であることがより好ましい。また、49モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましい。
更に、構成単位(3)の割合が0.001モル%以上であることが好ましく、0.01モル%以上であることがより好ましい。また、1モル%以下であることが好ましく、0.7モル%以下であることがより好ましい。
なお、上記構成単位(1)~(3)の割合は、例えば、NMRを用いた分子構造解析により測定することができる。
上記溶融添加剤の重量平均分子量は、好ましくは800以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは3000以上、特に好ましくは5000以上であって、好ましくは100万以下、より好ましくは20万以下、更に好ましくは5万以下である。
なお、上記重量平均分子量はJIS-K-7367-1(粘度法)に準じた方法で測定することができる。
また、本発明の成形用樹脂組成物において、上記塩素化塩化ビニル系樹脂の重量平均分子量に対する、上記溶融添加剤の重量平均分子量の比[溶融添加剤の重量平均分子量/塩素化塩化ビニル系樹脂の重量平均分子量]は、0.01以上、0.55以下であることが好ましい。更に、上記重量平均分子量の比は、0.02以上、0.50以下であることがより好ましく、0.05以上、0.30以下であることが更に好ましい。上記範囲内とすることで、優れた連続生産性が得られ、高い表面平滑性を有し、成形不良を抑制でき、使用時に亀裂が発生し難く、耐衝撃性にも優れた成形体を製造することが可能となる。
上記溶融添加剤が上記式(1)~(3)に示す構成単位を有する場合、上記式(1)~(3)に示す構成単位は、ランダムであってもブロックであってもよく、また末端は特に限定されないが、例えば水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アルデヒド基等が挙げられる。好適な実施態様において、上記溶融添加剤は上記式(1)~(3)に示す構成単位からなり、末端は水素原子、ハロゲン原子、水酸基及びアルデヒド基からなる群から選択される少なくとも1種である。
また、上記式(2)に示す構成単位において、Xはアルキル基、ハロゲン基、カルボキシル基、水酸基、アセチル基、アクリロイル基、シアノ基、アクリルアミド基、フェニル基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種を表す。なかでも、Xは水酸基、カルボキシル基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、上記エーテル基は、アルキル基が片側に連結した構造である。
本発明の成形用樹脂組成物において、上記塩素化塩化ビニル系樹脂の構成単位(b)含有量に対する、上記溶融添加剤の構成単位(2)含有量の比[溶融添加剤の構成単位(2)含有量/塩素化塩化ビニル系樹脂の構成単位(b)含有量]は、0.01以上、1.0以下であることが好ましい。また、0.05以上、0.8以下であることがより好ましく、0.06以上、0.5以下であることがより好ましい。上記範囲内とすることで、優れた連続生産性が得られ、高い表面平滑性を有し、成形不良を抑制でき、使用時に亀裂が発生し難く、耐衝撃性にも優れた成形体を製造することが可能となる。
上記溶融添加剤の融点は、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上、特に好ましくは110℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下、更に好ましくは140℃以下である。上記範囲内とすることで、優れた連続生産性が得られ、高い表面平滑性を有し、成形不良を抑制でき、使用時に亀裂が発生し難く、耐衝撃性にも優れた成形体を製造することが可能となる。
上記融点は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
上記溶解添加剤の密度は、好ましくは650kg/m以上、より好ましくは800kg/m以上であり、好ましくは1100kg/m以下、より好ましくは1000kg/m以下である。
上記密度は、例えば、JIS K 7112に準拠した方法により測定することができる。
上記溶解添加剤の結晶化度は、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上であり、好ましくは99%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは85%以下である。上記結晶化度は、例えば、X線回折法により測定することができる。
上記溶解添加剤の軟化点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは100℃以上であり、好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下、更に好ましくは145℃以下である。上記軟化点は、例えば、JIS K 2207に準拠した方法により測定することができる。
上記溶融添加剤の170℃における溶融粘度は、10~3000mPa・sが好ましく、50~2000mPa・sがより好ましく、100~1000mPa・sが更に好ましい。なお、上記溶融粘度は、例えば、動的粘弾性測定装置を用いて測定することができる。
本発明の成形用樹脂組成物において、上記溶融添加剤の含有量は、塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることが更に好ましく、0.5質量部以上であることが特に好ましい。また、上記溶融添加剤の含有量は、塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、18質量部以下であることが好ましく、13質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましく、7.5質量部以下であることが特に好ましい。この範囲で溶融添加剤を含むことにより、成形時にヤケや発泡することなく、表面平滑性の優れた成形体とすることができる。
(その他添加剤)
本発明の成形用樹脂組成物は、必要に応じて、熱安定剤、滑剤、加工助剤、衝撃改質剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、顔料などの添加剤が添加されていてもよい。
上記熱安定剤としては、特に限定されず、例えば、有機錫系安定剤、鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤;バリウム-亜鉛系安定剤;バリウム-カドミウム系安定剤等が挙げられる。
上記有機錫系安定剤としては、例えば、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等が挙げられる。
上記鉛系安定剤としては、ステアリン酸鉛、二塩基性亜りん酸鉛、三塩基性硫酸鉛等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記熱安定剤の含有量は、塩素化塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.4質量部以上であることが好ましく、0.6質量部以上であることがより好ましく、10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることがより好ましい。この範囲で熱安定剤を含むことにより、熱安定性をより向上させることができるとともに、成形体の良好な外観を維持することができる。
上記滑剤としては、内部滑剤、外部滑剤が挙げられる。内部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂の流動粘度を下げ、摩擦発熱を防止する目的で使用される。上記内部滑剤としては特に限定されず、例えば、ブチルステアレート等の高級アルコールのエステル、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール、エポキシ大豆油、グリセリンモノステアレート等の多価アルコールのエステル、ステアリン酸等の高級脂肪酸、ビスアミド等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上記滑剤は溶融添加剤とは異なるものである。
上記外部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂と金属面との滑り効果を上げる目的で使用される。外部滑剤としては特に限定されず、例えば、脂肪酸エステル系滑剤等のエステルワックス、モンタン酸ワックスなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記加工助剤としては、特に限定されず、例えば質量平均分子量10万~200万のアルキルアクリレート-アルキルメタクリレート共重合体等のアクリル系加工助剤などが挙げられる。上記アクリル系加工助剤としては特に限定されず、例えば、n-ブチルアクリレート-メチルメタクリレート共重合体、2-エチルヘキシルアクリレート-メチルメタクリレート-ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
上記衝撃改質剤としては特に限定されず、例えばメタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)等のスチレン-共役ジエン共重合体、アクリル系共重合体、塩素化ポリエチレン、アクリルゴムなどが挙げられる。
上記耐熱向上剤としては特に限定されず、例えばα-メチルスチレン系、N-フェニルマレイミド系樹脂等が挙げられる。
上記酸化防止剤としては特に限定されず、例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。
上記光安定剤としては特に限定されず、例えば、ヒンダードアミン系等の光安定剤等が挙げられる。
上記紫外線吸収剤としては特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤等が挙げられる。
上記充填剤としては特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
上記顔料としては特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料;酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアニン化物系などの無機顔料などが挙げられる。
本発明の成形用樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、上記塩素化塩化ビニル系樹脂に、溶融添加剤、その他の添加剤等を添加して混合する方法が挙げられる。
上記混合する方法としては、特に限定されず、例えば、ホットブレンドによる方法、コールドブレンドによる方法等が挙げられる。
更に、本発明の成形用樹脂組成物から成形された成形体が提供される。このような成形体もまた本発明の1つである。
上記成形の方法としては、従来公知の任意の成形方法が採用されてよく、例えば、押出成形法、射出成形法等が挙げられる。
本発明の成形体は、優れた熱安定性を有し、且つ、外観の状態が良好であるため、建築部材、管工機材、住宅資材等の用途に好適に用いることができる。
本発明の成形体は、算術平均波長(Zλa)の好ましい下限が50μm、好ましい上限が400μmである。これにより高い表面平滑性を有する成形体とすることができる。更に好ましい範囲は、60~350μmである。
上記算術平均波長(Zλa)は、例えば、3D形状測定機(キーエンス社製、VR-3100)を用いて測定することができる。
本発明によれば、優れた連続生産性が得られ、高い表面平滑性を有し、成形不良を抑制でき、使用時に亀裂が発生し難く、耐衝撃性に優れた成形体を製造することが可能な成形用樹脂組成物、及び、該成形用樹脂組成物を用いた成形体を提供できる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
(塩素化塩化ビニル系樹脂Aの調製)
内容積300Lのグラスライニング製反応容器に、脱イオン水130kgと平均重合度1000の塩化ビニル樹脂50kgを投入し、攪拌して塩化ビニル樹脂を水中に分散させ水懸濁状態にした。次いで、反応容器中を減圧して酸素を除去(酸素量100ppm)した後、攪拌によって気液界面に発生するボルテックス体積が2.2Lとなるように攪拌しながら塩素分圧が0.04MPaになるように塩素(酸素含有量50ppm)を導入した。3時間経過後、昇温開始し、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を照射強度350Wで照射し塩素化反応を開始した。
その後、塩素化温度を70℃、塩素分圧を0.04MPaに保ち、平均塩素消費速度が0.02kg/PVC-kg・5minになるように調整し、付加塩素化量が10.6質量%に達した時点で、高圧水銀灯での紫外線の照射と塩素ガスの供給を停止し、塩素化を終了した。
次いで、窒素ガスを通気して、未反応塩素を除去し、水で洗浄し、脱水した後、乾燥して、粉末状の塩素化塩化ビニル系樹脂(付加塩素化量10.6質量%)を得た。
(塩素化塩化ビニル系樹脂Bの調製)
内容積300Lのグラスライニング製反応容器に、脱イオン水130kgと平均重合度700の塩化ビニル樹脂50kgを投入し、攪拌して塩化ビニル樹脂を水中に分散させ水懸濁状態にした。次いで、反応容器中を減圧して酸素を除去(酸素量100ppm)した後、攪拌によって気液界面に発生するボルテックス体積が2.2Lとなるように攪拌しながら塩素分圧が0.04MPaになるように塩素(酸素含有量50ppm)を導入した。3時間経過後、昇温開始し、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を照射強度350Wで照射し塩素化反応を開始した。
その後、塩素化温度を70℃、塩素分圧を0.04MPaに保ち、平均塩素消費速度が0.02kg/PVC-kg・5minになるように調整し、付加塩素化量が10.6質量%に達した時点で、高圧水銀灯での紫外線の照射と塩素ガスの供給を停止し、塩素化を終了した。
次いで、窒素ガスを通気して、未反応塩素を除去し、水で洗浄し、脱水した後、乾燥して、粉末状の塩素化塩化ビニル系樹脂(付加塩素化量10.6質量%)を得た。
(塩素化塩化ビニル系樹脂Cの調製)
内容積300Lのグラスライニング製反応容器に、脱イオン水130kgと平均重合度1000の塩化ビニル樹脂50kgを投入し、攪拌して塩化ビニル樹脂を水中に分散させ水懸濁状態にした。次いで、反応容器中を減圧して酸素を除去(酸素量100ppm)した後、攪拌によって気液界面に発生するボルテックス体積が2.2Lとなるように攪拌しながら塩素分圧が0.04MPaになるように塩素(酸素含有量50ppm)を導入した。3時間経過後、昇温開始し、高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を照射強度350Wで照射し塩素化反応を開始した。
その後、塩素化温度を70℃、塩素分圧を0.04MPaに保ち、平均塩素消費速度が0.02kg/PVC-kg・5minになるように調整し、付加塩素化量が5.3質量%に達した時点で、高圧水銀灯での紫外線の照射と塩素ガスの供給を停止し、塩素化を終了した。
次いで、窒素ガスを通気して、未反応塩素を除去し、水で洗浄し、脱水した後、乾燥して、粉末状の塩素化塩化ビニル系樹脂(付加塩素化量5.3質量%)を得た。
(塩素化塩化ビニル系樹脂の評価)
(1)付加塩素化量の測定
得られた塩素化塩化ビニル系樹脂について、JIS K 7229に準拠して付加塩素化量を測定した。
(2)分子構造解析
得られた塩素化塩化ビニル系樹脂について、R.A.Komoroski,R.G.Parker,J.P.Shocker,Macromolecules,1985,18,1257-1265に記載のNMR測定方法に準拠して分子構造解析を行い、構成単位(a)~(c)の含有量を測定した。
NMR測定条件は以下の通りである。
装置:FT-NMRJEOLJNM-AL-300
測定核:13C(プロトン完全デカップリング)
パルス幅:90°
PD:2.4sec
溶媒:o-ジクロロベンゼン:重水素化ベンゼン(C5D5)=3:1
試料濃度:約20%
温度:110℃
基準物質:ベンゼンの中央のシグナルを128ppmとした
積算回数:20000回
(3)重量平均分子量測定
サンプルをTHFに溶解し、孔径0.2μmのフィルターでろ過後、日本分光社製のGPCユニット(ポンプユニット:PU-4180、検出器ユニット:RI-4030、カラムオーブン:CO-4065)を用い、SHODEX社製カラムLF-804(2連結)を使用して、重量平均分子量を測定した。なお、上記測定は、測定流量0.7ml/min、オーブン温度40℃の条件で行い、サンプルを溶出分離させ、標準ポリスチレン換算で作成した検量線ベースを用いて重量平均分子量を求めた。
(溶融添加剤X1の調製)
23Lの温度計、圧力計、撹拌機、ガス導入管、ガス排気管を備える小型重合器に5kgの原料ポリエチレンを投入し溶融させ、内温が145℃に達した後、撹拌機を250回転/minに設定し、1.0L/minで空気を溶融物中に導入した。なお、原料ポリエチレンとしては、ハイワックス800P(三井化学社製、分子量8000、密度970kg/m、結晶化度84%、融点127℃、軟化点140℃)を用いた。
重合器内の圧力はガス排気管側の制御弁を経由して、0.69MPaに調節した。空気を導入しながら、反応温度を145℃、撹拌速度を250回転/min、圧力を0.69MPaに維持し、5時間後に反応を終了して、溶融添加剤X1を得た。なお、ポリエチレンの結晶化度は、X線回折法を用いて測定した。
(溶融添加剤Y1の調製)
ポリエチレンとして、ハイワックス800Pに代えて、ハイワックス720P(三井化学社製、分子量7200、密度920g/m、結晶化度60%、融点113℃、軟化点118℃)を用いたこと以外は、溶融添加剤X1と同様に溶融添加剤Y1を得た。
(溶融添加剤の評価)
(1)H NMRスペクトル
得られた溶融添加剤を、Bruker分光計AV400型を使用して130℃でo-ジクロロベンゼン-dに溶解させ、溶液NMRを用いて、130℃の条件で400MHzのH NMRスペクトルを測定し、9.5~10ppmの範囲に観察されるピークAの面積に対する0.6~1.0ppmの範囲に観察されるピークBの面積比を測定した。
(2)融点
得られた溶融添加剤ついて、示差走査熱量測定(DSC)装置(TA Instruments Waters社製、DSC Q20)を用い、昇温速度3℃/min、20℃~200℃の温度範囲、窒素雰囲気下で測定を実施した。
(3)分子構造解析
NMRスペクトルにより、構成単位(1)~(3)の割合を測定した。
なお、式(2)中、Xは水酸基、カルボキシル基及びエーテル基(アルキル基が連結)のうちの少なくとも1種であった。
(4)重量平均分子量測定
JIS-K-7367-1(粘度法)に準じた方法で重量平均分子量を測定した。
(溶融添加剤X2~X3の調製)
表1に記載の分子構造、重量平均分子量(Mw)、融点となるように調整することで、溶融添加剤X2~X3を得た。なお、原料となるポリエチレンとしては、以下のものを用いた。
溶融添加剤X2:ポリエチレン(分子量:900、密度:950kg/m、結晶化度:90%、融点:116℃、軟化点:121℃)
溶融添加剤X3:ポリエチレン(分子量:2000、密度:970kg/m、結晶化度:87%、融点:122℃、軟化点:130℃)
(溶融添加剤Y2~Y3の調製)
表1に記載の分子構造、重量平均分子量(Mw)、融点となるように調整することで、溶融添加剤Y2~Y3を得た。なお、原料となるポリエチレンとしては、以下のものを用いた。
溶融添加剤Y2:ポリエチレン(分子量:4000、密度:930kg/m、結晶化度:70%、融点:113℃、軟化点:118℃)
溶融添加剤Y3:ポリエチレン(分子量:3000、密度:930kg/m、結晶化度:65%、融点:109℃、軟化点:114℃)
(実施例1)
塩素化塩化ビニル系樹脂A100質量部に対して、熱安定剤としては有機錫系安定剤(日東化成社製、TVS#1380)2.0質量部、無機物としては酸化チタン(ベネター社製、R-TC30)4.0質量部、溶融添加剤X3.0質量部をスーパーミキサーで均一に混合し、成形用樹脂組成物を得た。
(実施例2~7)
塩素化塩化ビニル系樹脂の種別、溶融添加剤の種別、添加量を表1に示すものとした以外は実施例1と同様にして成形用樹脂組成物を得た。
(比較例1)
溶融添加剤Y1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして成形用樹脂組成物を得た。
(比較例2~3)
溶融添加剤の種別、添加量を表1に示すものとした以外は実施例1と同様にして成形用樹脂組成物を得た。
(評価)
実施例、比較例で得られた成形用樹脂組成物について、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
(成形用樹脂組成物の評価)
(1)パルスNMR測定
得られた粉末状の成形用樹脂組成物を、パルスNMR装置の測定範囲内に入るように直径10mmのガラス製のサンプル管(BRUKER社製、品番1824511、10mm径、長さ180mm、フラットボトム)に導入した。サンプル管をパルスNMR装置(BRUKER社製「the minispec mq20」)に設置し、100℃(20分保持後)において、以下の条件でSolid Echo法での測定を行い、Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を得た。
<Solid Echo法>
Scans:128times
Recycle Delay:1sec
Acquisition scale:1.0ms
(100℃での測定)
100℃で得られた自由誘導減衰曲線の0.5msまでを、A100成分、B100成分及びC100成分の3成分に由来する3つの曲線に波形分離した。波形分離は、ガウシアン型とエクスポーネンシャル型の両方を用いて、フィッティングさせることで行った。それぞれの測定で得られた3成分に由来する曲線から、各成分の比率を求めた。
なお、BRUKER社製の解析ソフトウェア「TD-NMRA(Version4.3 Rev0.8)」を用い製品マニュアルに従って、A100成分はガウシアン型、B100成分及びC100成分はエクスポーネンシャル型でフィッティングを行った。
また、フィッティングには以下の式を用いた。
Figure 0007488850000003
式中、AはA100成分の成分比、BはB100成分の成分比、CはC100成分の成分比、TはA100成分の緩和時間、TはB100成分の緩和時間、TはC100成分の緩和時間を示す。tは時間である。
100成分、B100成分、C100成分は、パルスNMR測定における緩和時間の短い順に定義された成分であり、個々の緩和時間の値は特に限定されるものではない。
(2)表面平滑性
(押出成形体の作製)
得られた成形用樹脂組成物を、シングル65mm押出機(池貝社製「FS-65mm」)に供給し、樹脂温度190℃~200℃、押出量20~25kg/hrで厚さ2mm、幅20mmの平板状成形体を作製した。
成形開始から15分後に得られた成形体の表面について、3D形状測定機(キーエンス社製、VR-3100)を用いて算術平均波長(Zλa)を測定した。
(3)成形時の付着物の有無
「(2)表面平滑性」において、成形開始から5時間後にフォーミングチューブへの付着物の有無を目視にて確認した。付着物が無いものを「○」、付着物が認められるものを「×」とした。
なお、フォーミングチューブとは、押出機の先端に固定された治具であり、成形体の形状を整えるものである。押出成形時に成形品表面の付着物がフォーミングチューブに付着すると、成形体の形状を整えることができず、成形不良の原因となる。
(4)連続生産性
更に、成形開始から、5時間後に得られた成形体の表面の算術平均波長(Zλa)を同様にして測定し、15分後と5時間後の変化が±10%以内のものを「○」、それ以上に変化したものを「×」として評価した。
(5)シャルピー衝撃値
得られた成形体を切削し、JIS K 7111-1:2012に準拠した試験片(幅10mm×長さ90mm×厚み3mm×ノッチ深さ1mm)を得た。この試験片について、上島製作所社製「U-F IMPACT TESTER SEPT.1972」を用いて、温度23℃で衝撃値を測定した。繰り返し4回測定を行い、得られた衝撃値を試験片の厚みで除した値の平均値を成形体のシャルピー衝撃値とし、以下の基準で評価した。
○:シャルピー衝撃値が5KJ/m以上
×:シャルピー衝撃値が5KJ/m未満
(6)亀裂試験
得られた成形体を長さ150mmに切削して試験片を得た。この試験片については、島津製作所社製「SHIMADZU AUTOGRARH AGS」を用いて温度23℃で亀裂性を測定した。試験片の中央に荷重をかける3点曲げ冶具を用いて、降下速度3mm/minで20mm降下させ荷重をかけた状態で降下10分間保持し発生した亀裂有無を目視で確認し、以下の基準で評価した。
成形体の粒子中の絡み合いが高くなることで溶融が優れて破壊至るまでの塑性変形が大きいと延性が生じる。塑性変形が小さい場合は脆性が生じ亀裂部分が確認される。なお、表には、亀裂が発生するまでの時間を記載した。
○:亀裂なし
×:亀裂あり
Figure 0007488850000004
本発明によれば、優れた連続生産性が得られ、高い表面平滑性を有し、成形不良を抑制でき、使用時に亀裂が発生し難く、耐衝撃性に優れた成形体を製造することが可能な成形用樹脂組成物、及び、該成形用樹脂組成物を用いた成形体を提供できる。

Claims (5)

  1. 塩素化塩化ビニル系樹脂及び溶融添加剤を含有する成形用樹脂組成物であって、
    パルスNMRを用いて100℃でSolid Echo法で測定し、Hのスピン-スピン緩和の自由誘導減衰曲線を、最小二乗法により緩和時間が短い順にA100成分、B100成分及びC100成分の3成分に由来する3つの曲線に波形分離して得た、C100成分の成分比[C100成分/(A100成分+B100成分+C100成分)]が30%以下であり、
    前記溶融添加剤は、下記式(1)~(3)に示す構成単位(1)~(3)を有し、構成単位(1)~(3)の合計モル数に対して、構成単位(3)の割合が0.001~1モル%であり、前記溶融添加剤の重量平均分子量は、800以上、100万以下、融点は、60℃以上、150℃以下であり、
    前記塩素化塩化ビニル系樹脂は、下記式(a)~(c)に示す構成単位(a)~(c)を有し、下記構成単位(a)、(b)及び(c)の合計モル数に対して、構成単位(b)の割合が0モル%以下であり、
    前記塩素化塩化ビニル系樹脂の構成単位(b)の割合[塩素化塩化ビニル系樹脂の構成単位(b)含有量]に対する、前記溶融添加剤の構成単位(2)割合[溶融添加剤の構成単位(2)含有量]の比[溶融添加剤の構成単位(2)含有量/塩素化塩化ビニル系樹脂の構成単位(b)含有量]は、0.01以上、1.0以下である、
    成形用樹脂組成物。
    Figure 0007488850000005
    式(2)中、Xはアルキル基、ハロゲン基、カルボキシル基、水酸基、アセチル基、アク
    リロイル基、シアノ基、アクリルアミド基、フェニル基及びエーテル基からなる群より選
    択される少なくとも1種を表す。
    Figure 0007488850000006
  2. 溶融添加剤は、溶液NMRを用いてH NMRスペクトルを測定した際に、9.5~10ppmの範囲に観察されるピークAの面積に対する0.6~1.0ppmの範囲に観察されるピークBの面積比(ピークBの面積/ピークAの面積)が1~1000である、請求項1に記載の成形用樹脂組成物。
  3. 塩素化塩化ビニル系樹脂の重量平均分子量に対する、溶融添加剤の重量平均分子量の比[溶融添加剤の重量平均分子量/塩素化塩化ビニル系樹脂の重量平均分子量]が0.01以上、0.55以下である、請求項1又は2に記載の成形用樹脂組成物。
  4. 溶融添加剤は、ポリオレフィンが酸化反応されてなるものであり、前記ポリオレフィンは、結晶化度が50%以上、99%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の成形用樹脂組成物。
  5. 請求項1~4のいずれかに記載の成形用樹脂組成物から成形されてなる、成形体。
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