JP7488520B2 - 窒素無機化率の高い汚泥肥料 - Google Patents

窒素無機化率の高い汚泥肥料 Download PDF

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Description

特許法第30条第2項適用 1.研究集会名:令和元年度土木学会全国大会第74回年次学術講演会 開催日:令和1年9月3日 2.掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2019/top https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2019/session/1VII-224-31/tables?pXWfDeB01x https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2019/subject/VII-55/tables?cryptold= 掲載日:令和1年6月28日 3.掲載アドレス:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2019/top https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2019/session/1VII-224-31/tables?pXWfDeB01x https://confit.atlas.jp/guide/event/jsce2019/subject/VII-57/tables?cryptold= 掲載日:令和1年6月28日 4.刊行物名:令和元年度土木学会全国大会第74回年次学術講演会 DVD版講演概要集 発行日 :2019年8月1日 5.刊行物名:令和元年度土木学会西部支部研究発表会講演概要集(CD-ROM) 発行日 :2020年2月20日
本発明は、窒素無機化率の高い汚泥肥料に関する。
現在、下水処理施設から発生する下水汚泥や下水熱、リンなどの資源の活用促進が求められている。2015年の下水道法改正では、汚泥の燃料又は肥料としての再生利用努力の必要性が規定されている。また環境省の「循環型社会形成推進基本計画」では、下水汚泥の肥料利用に関して、地域内での循環利用を支援すると示されている。
下水汚泥は終末処理場で高分子凝集剤や無機凝集剤を用いて脱水処理後、その殆どは脱水汚泥(脱水ケーキ;水分率75.5~78.0%)として産業廃棄物処理業者に高額で引き取られ、埋立処分されたり、建材利用(焼却後セメント原料)されたりしている。下水汚泥の成分の8割が有機物であるという特性を活かしたエネルギー利用、緑農地利用の実績は、それぞれ22%、10%程度に過ぎない。国土交通省の「生産性革命プロジェクト」では、2020年度(令和2年度)までに下水汚泥のエネルギー・農業利用率を40%とすることを目標としている。
下水汚泥から製造される汚泥肥料は肥料取締法により、普通肥料に分類され、肥料登録にあたっては、肥料として含有すべき主成分(窒素、リン酸、カリ等)の最小量、含有が許される有害成分(重金属)の最大量等の公定規格(基準値)を満たす必要がある。汚泥肥料の肥料成分は窒素、リン酸が多く、カリウム含有量が少ないという特徴がある。
既存の汚泥肥料には水分を含むと泥状になり易く、利用しにくいという問題がある。また汚泥肥料の重金属含有量は、基準値(T-Hg:2mg/kg、As:50mg/kg、Cd:5mg/kg、Ni:300mg/kg、Cr:500mg/kg、Pb:100mg/kg)以下であるが、牛糞堆肥、馬糞堆肥、鶏糞、及び豚糞堆肥と比べると格段に高い。さらに汚泥肥料の用途はその殆どが葉菜類、果菜類の単年作物への利用や、牧草への農地還元が主であり、農畜産業が盛んな地域では他の資材(牛糞、鶏糞、豚糞)との競合となり、高い付加価値を付けることが難しく、汚泥肥料の利用は滞っている。
特許文献1は、下水汚泥溶融スラグから金属類を除去したものを肥料に用いる、肥料の製造方法を開示している。しかし金属類の除去工程は手間がかかり、肥料の生産コストの増加につながる。生産コストを抑えつつ、高い付加価値を有する汚泥肥料を製造できる方法の開発が望まれている。
特開2016-44121号公報
本発明は、窒素無機化率の高い汚泥肥料を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、下水汚泥等の汚泥と好適な肥料原料とを積層した後、外側を汚泥で覆って外部からの通気を抑制し、条件的嫌気発酵させることにより、窒素無機化率の高い汚泥肥料を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]汚泥層、有機質肥料資材層、及び木質系バイオマス層を含む積層体を形成した後、外側を汚泥層で覆うことにより、肥料原料体を作製し、それを条件的嫌気発酵させることを含む、汚泥肥料の製造方法。
[2]前記積層体が、有機質肥料資材層及び木質系バイオマス層のいずれか一方又は両方によって上下に挟み込まれた汚泥層を含む、上記[1]に記載の方法。
[3]前記積層体が最下層として汚泥層を含む、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記積層体が、汚泥層、有機質肥料資材層、及び木質系バイオマス層をそれぞれ少なくとも2層含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記積層体が、有機質肥料資材層として、油性有機質肥料資材層及び焼酎粕層の少なくとも一方を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記積層体が、下層から上層に向かって、汚泥層、油性有機質肥料資材層、木質系バイオマス層、焼酎粕層、汚泥層、焼酎粕層、木質系バイオマス層、及び油性有機質肥料資材層をこの順番で積層した構造を含む、上記[5]に記載の方法。
[7]肥料原料体が、汚泥、油性有機質肥料資材、木質系バイオマス、及び焼酎粕を、乾燥重量でそれぞれ30~50%:10~30%:20~40%:0~20%の配合比率となる量で含む、上記[5]又は[6]に記載の方法。
[8]有機質肥料資材層が、油性有機質肥料資材として米糠を含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]汚泥層が下水汚泥を含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]汚泥層が脱水汚泥を含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]木質系バイオマス層がおが屑を含む、上記[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12]焼酎粕層が甘藷焼酎粕を含む、上記[5]~[7]のいずれかに記載の方法。
[13]条件的嫌気発酵の期間中に、切り返しを行うことを含む、上記[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14]外側を汚泥層で覆う前に、前記積層体の少なくとも一部を混合することをさらに含む、上記[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]上記[1]~[14]のいずれかに記載の方法により製造される、汚泥肥料。
[16]汚泥肥料がバシラス目細菌を優占種として含む、上記[15]に記載の汚泥肥料。
[17]C/N比が7以上である、上記[15]又は[16]に記載の汚泥肥料。
[18]重金属含量が、汚泥肥料1kg当たり50mg以下である、上記[15]~[17]のいずれかに記載の汚泥肥料。
[19]上記[15]~[18]のいずれかに記載の汚泥肥料を、植物に対して施肥することを含む、植物の栽培方法。
本発明によれば、窒素無機化率の高い汚泥肥料を製造することができる
図1は、サンドウィッチ方式の、肥料原料の積層(堆積)方法の例を模式的に示す図である。なお図中の「水」は散布の順番を模式的に示しているものであり、水の層の形成を示しているわけではない。 図2は、各種肥料の窒素無機化試験の結果を示すグラフである。白抜き丸は菜種油粕、白抜き四角は牛糞堆肥、ひし形は鶏糞堆肥、黒丸は好気発酵下水汚泥肥料CSK、黒四角は本発明の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWを示す。 図3は、各種肥料の窒素無機化試験の結果を示すグラフである。黒丸は菜種油粕、白四角は好気発酵下水汚泥肥料CSK、ひし形は好気発酵下水汚泥肥料KGを示す。 図4は、各種肥料の窒素無機化試験の結果を示すグラフである。黒丸は下水汚泥混合堆肥C、黒四角は下水汚泥混合堆肥Dを示す。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、汚泥及び他の肥料原料を積層し、好ましくは汚泥を他の肥料原料で上下に挟むようにサンドウィッチ状に積み重ねて積層体を形成(作製)した後、外側を汚泥層で覆って、条件的嫌気発酵させることによる、汚泥肥料の製造方法に関するものである。外側を汚泥層で覆うことにより、外部からの通気を抑制(低減)し、条件的嫌気条件の生成を促進することができる。
より具体的には、本発明は、汚泥層、有機質肥料資材層、及び木質系バイオマス層を含む積層体を形成した後、外側を汚泥層で覆うことにより、肥料原料体を作製し、それを条件的嫌気発酵させることを含む、汚泥肥料の製造方法に関する。
本発明の方法では、汚泥、有機質肥料資材及び木質系バイオマスを、まず、積層体を形成するように層状に積み上げることにより、それらを単に混合して積み上げる場合と比較して、積層体及び肥料原料体における水分量の調整を容易にし、また全体的な均一性を確保しやすくすることができる。
積層体を形成する際、少なくとも1つの汚泥層が、有機質肥料資材層及び木質系バイオマス層のいずれか一方又は両方によって上下に挟み込まれるように、汚泥、有機質肥料資材、及び木質系バイオマスをサンドウィッチ状に積層することが好ましい。すなわち、好ましい実施形態では、本発明の方法において形成される積層体は、有機質肥料資材層及び木質系バイオマス層のいずれか一方又は両方によって上下に挟み込まれた汚泥層を少なくとも1つ含む。
ここで「有機質肥料資材層及び木質系バイオマス層のいずれか一方又は両方によって上下に挟み込まれた汚泥層」は、(i)汚泥層の下側に隣接した有機質肥料資材層と汚泥層の上側に隣接した有機質肥料資材層によって挟まれた汚泥層、(ii)汚泥層の下側に隣接した木質系バイオマス層と汚泥層の上側に隣接した木質系バイオマス層によって挟まれた汚泥層、(iii)汚泥層の下側に隣接した有機質肥料資材層と汚泥層の上側に隣接した木質系バイオマス層によって挟まれた汚泥層、(iv)汚泥層の下側に隣接した木質系バイオマス層と汚泥層の上側に隣接した有機質肥料資材層によって挟まれた汚泥層、及び(v)汚泥層の下側に隣接した、少なくとも1つの有機質肥料資材層及び少なくとも1つの木質系バイオマス層の組み合わせ(例えば、以下に限定するものではないが、汚泥層に隣接した有機質肥料資材層とその有機質肥料資材層の反対側に隣接した木質系バイオマス層を含む組み合わせ)と、汚泥層の上側に隣接した、少なくとも1つの有機質肥料資材層及び少なくとも1つの木質系バイオマス層の組み合わせ(例えば、以下に限定するものではないが、汚泥層に隣接した有機質肥料資材層とその有機質肥料資材層の反対側に隣接した木質系バイオマス層を含む組み合わせ)によって挟まれた汚泥層の、いずれの態様も含む。有機質肥料資材層及び木質系バイオマス層のいずれか一方又は両方によって汚泥層を上下に挟み込むことにより、水分量の多い汚泥層から、水分量の比較的少ない有機質肥料資材層及び木質系バイオマス層へと水分を吸収させ、全体的に水分量をより均一にすることができるだけでなく、その後の操作や発酵にとってより好適な条件を作り出すことができる。
好ましい実施形態では、積層体の形成の際、最下層として汚泥層を用いてもよい。すなわち、積層体は最下層として汚泥層を含み得る。積層体の最下層を汚泥層とすることにより、その積層体の外側をそのまま汚泥層で覆った際には、全体が完全に汚泥層で覆われた肥料原料体を作製することができる。
一実施形態では、本発明の積層体及び肥料原料体において、汚泥層、有機質肥料資材層、及び木質系バイオマス層はまた、汚泥層と汚泥層の間に有機質肥料資材層及び木質系バイオマス層が挟まれるようにサンドウィッチ状に積層されてもよい。
本発明の方法では、汚泥層、有機質肥料資材層、及び木質系バイオマス層を含む積層体を形成した後、汚泥層で外側を覆って肥料原料体とすることにより、肥料原料体において条件的嫌気条件を作り出すことができる。
本明細書において、常に嫌気性(酸素欠乏状態)が保たれる状態(例えば、肥料原料体等の全体がビニールで覆われて密閉された状態)を絶対的嫌気条件と呼ぶ。一方、本明細書において、肥料原料体等について、強制通気(例えば、空気又は酸素を肥料原料体内に直接的かつ継続的に送り込む操作)が行われず、嫌気性(酸素欠乏状態)となっているものの、空気又は酸素の限定的な流入までは排除されていない状態、例えば、肥料原料体の一部(例えば、表層)が空気又は酸素に触れており自然通気が限定的に可能になっていたり、限られた回数(例えば発酵過程を通じて1~4回)の切り返しの際に空気又は酸素に限定的に触れたりする状態を、条件的嫌気条件と呼ぶ。
より具体的には、本発明において、肥料原料体の表層部付近に水分を多く含んだ層(特に、汚泥層)を形成することにより表層を通じた外部からの通気が抑制(少なくとも一部の通気が遮断)され、一方で肥料原料体内部の酸素が好気性菌により消費されることにより、肥料原料体の内部は速やかに嫌気性となる。肥料原料体の表層部付近に設けられた汚泥層を通じたわずかな通気は、肥料原料体内部の嫌気性を失わせることはない。また、肥料原料体の後述する切り返しの際には一時的に酸素が供給されるが、表層より30cm超の深さでは、その後すぐに好気性菌により酸素が消費され再び嫌気性となる。
本発明において、汚泥は、特に限定されないが、下水汚泥、工業汚泥等であってよい。汚泥は、脱水処理したものであってよく、そのような汚泥は脱水汚泥と称される。脱水汚泥は、以下に限定するものではないが、通常は65~85%、例えば70~80%又は75~78%の含水率を有する。汚泥は、例えば、下水汚泥又は工業汚泥の脱水汚泥であってもよい。本発明に係る積層体や肥料原料体に含まれるそれぞれの汚泥層は、1種又は2種以上のそのような汚泥を含む。脱水汚泥により構成される汚泥層を脱水汚泥層とも称する。
本発明において、有機質肥料資材は、特に限定されないが、油性有機質肥料資材若しくは焼酎粕、又はその両方であってよい。本発明において「油性有機質肥料資材」は、油分に富んだ有機質肥料資材を意味する。油性有機質肥料資材としては、特に限定されないが、例えば、米糠、油分を多く含む油粕(例えば、大豆粕、菜種粕(菜種油粕)、綿実粕、茶実粕など)が挙げられる。積層体は、1種又は2種以上の有機質肥料資材を含んでもよい。積層体に含まれるそれぞれの有機質肥料資材層は、1種又は2種以上の有機質肥料資材を含み得る。積層体は、有機質肥料資材層として、油性有機質肥料資材層及び焼酎粕層の少なくとも一方を含み得る。積層体において、油性有機質肥料資材、及び焼酎粕は、それぞれが別個の有機質肥料資材層に含まれることが好ましい。一実施形態では、有機質肥料資材層は、油性有機質肥料資材として、好ましくは米糠を含む。焼酎粕は、甘藷焼酎粕、馬鈴薯焼酎粕、麦焼酎粕、米焼酎粕等の任意の焼酎粕であってよい。焼酎粕は、焼酎粕乾燥固形物、焼酎粕原液、脱水焼酎粕(例えば、焼酎粕原液を遠心分離機等で固液分離して得られる固形画分、すなわち、脱水ケーキ)などの任意の形態であってよい。
本発明において、木質系バイオマスは、リグノセルロース(リグニン、セルロース、及びヘミセルロース)に富む植物由来有機材料を指す。一般的に、木質系バイオマスは、そのまま(堆肥化なし)では肥料資材として適さないとされている。木質系バイオマスは、例えば、おが屑(竹おが屑、針葉樹おが屑、広葉樹おが屑等)、ダンチク、ヨシ、ススキ、イネなどの草本植物の刈り草、樹皮、端材、葉、木質チップ等が挙げられるが、これらに限定されない。積層体に含まれるそれぞれの木質系バイオマス層は、1種又は2種以上の木質系バイオマスを含み得る。
積層体は、少なくとも1つ又は少なくとも2つの汚泥層を含むものであってよい。積層体は、少なくとも1つ又は少なくとも2つの有機質肥料資材層を含むものであってよい。積層体は、少なくとも1つ又は少なくとも2つの木質系バイオマス層を含むものであってよい。好ましい実施形態では、積層体は、汚泥層、有機質肥料資材層、及び木質系バイオマス層をそれぞれ少なくとも2層含むものであってよい。
一実施形態では、積層体は、下層から上層に向かって、汚泥層、有機質肥料資材層、木質系バイオマス層、有機質肥料資材層、汚泥層、有機質肥料資材層、木質系バイオマス層、及び有機質肥料資材層をこの順番で積層した構造を、1つ以上(例えば、1つ、2つ、又は3つ以上)含むものであってよい。別の実施形態では、積層体は、下層から上層に向かって、汚泥層、有機質肥料資材層、木質系バイオマス層、有機質肥料資材層、汚泥層をこの順番で積層した構造を、1つ以上(例えば、1つ、2つ、又は3つ以上)含むものであってよい。例えば、積層体は、下層から上層に向かって、汚泥層、有機質肥料資材層、木質系バイオマス層、有機質肥料資材層、汚泥層、有機質肥料資材層、木質系バイオマス層、有機質肥料資材層、及び汚泥層をこの順番で積層した構造を1つ以上含むものであってよい。
一実施形態では、積層体は、下層から上層に向かって、汚泥層、油性有機質肥料資材層、木質系バイオマス層、焼酎粕層、汚泥層、焼酎粕層、木質系バイオマス層、及び油性有機質肥料資材層をこの順番で積層した構造を含むものであってよい。
本発明においては、積層体の形成後、外側を汚泥層で覆って肥料原料体を作製することが好ましい。汚泥層により外側を覆うことにより、外部からの通気(すなわち、空気や酸素の透過)を抑制して、上述のとおり条件的嫌気条件の生成を促進することができる。ここで、「外側を汚泥層で覆う」とは、少なくとも、露出する部分全体を汚泥層で覆うことを意味する。積層体や肥料原料体の接地面(底面)は、汚泥層であってもよいが、汚泥層でなくてもよい。いいかえれば、接地状態の肥料原料体において接地面を除く全体が汚泥層で覆われている場合には、その肥料原料体は、外側を汚泥層で覆うことによって得られたものであり、全体的に汚泥層で覆われていると考えることができる。
積層体の形成後、直接、積層体の外側を汚泥層で覆うことができる。あるいは、積層体の形成後、外側を汚泥層で覆う前に、積層体の少なくとも一部(例えば、積層体の一部又は全体)を切り返し等により混合してから、外側を汚泥層で覆ってもよい。積層体の少なくとも一部を混合後、場合により全体的な堆積形状を整えてから、外側を汚泥層で覆うことも好ましい。外側を汚泥層で覆う前に、積層体の少なくとも一部を混合することにより、局所的な塊ができにくくなる。積層体の少なくとも一部を混合してから外側を汚泥層で覆う場合であっても、いったん積層体の形態に積み上げることにより、最初から肥料原料を混合する場合と比較して、水分量の調整を容易にし、また全体的な均一性を確保できるという上記の利点を享受することができる。したがって本発明の方法は、積層体の形成後、外側を汚泥層で覆う前に、積層体の少なくとも一部を混合することをさらに含み得る。このような場合も、本発明における「積層体を形成した後、外側を汚泥層で覆うことにより、肥料原料体を作製する」ことに含まれるものとする。
なお本発明における条件的嫌気条件は、条件的嫌気条件の上記定義を満たす限り、汚泥層が肥料原料体を覆う構造が発酵期間を通じて維持されることを必要としない。すなわち、肥料原料体の表層部の汚泥層が切り返し等により失われた場合でも、条件的嫌気条件を保持することができる。
好ましい実施形態では、積層体は、下水汚泥層、米糠層、おが屑層(例えば、竹おが屑)、及び焼酎粕層(例えば、甘藷焼酎粕層)を含んでもよい。
一実施形態では、肥料原料体は、以下に限定するものではないが、全体として、好ましくは50cm~700cm、例えば60cm~400cm、70cm~200cm、又は70cm~100cmの高さを有するものであってよい。一実施形態では、肥料原料体は、肥料原料の全容積が5m3の場合、全体として、好ましくは50cm~200cm、例えば60cm~200cm、70cm~150cm、又は70cm~100cmの高さを有するものであってよく、10m3の場合、全体として、好ましくは100cm~400cm、例えば120cm~400cm、140cm~300cm、又は140cm~200cmの高さを有するものであってよい。
肥料原料体の底面の幅及び奥行は特に限定されないが、例えば底面の幅が1m~10m、奥行が1m~10mであってよく、一実施形態では底面の幅が1m~5mであり奥行が1m~5mであってよい。一実施形態では、肥料原料体の底面はほぼ正方形であってもよいが、それに限定されない。
肥料原料体は、以下に限定するものではないが、汚泥、油性有機質肥料資材、木質系バイオマス、及び焼酎粕を、乾燥重量で、汚泥:油性有機質肥料資材:木質系バイオマス:焼酎粕=30~50%:10~30%:20~40%:0~20%の配合比率で含んでもよい。一実施形態では、肥料原料体は、汚泥、油性有機質肥料資材、木質系バイオマス、及び焼酎粕を、乾燥重量で、汚泥:油性有機質肥料資材:木質系バイオマス:焼酎粕=35~45%:15~25%:25~35%:5~15%の配合比率、又は38~42%:20~30%:25~35%:0~10%の配合比率で、含んでもよい。特に好ましい実施形態では、肥料原料体は、汚泥、油性有機質肥料資材、木質系バイオマス、及び焼酎粕を、乾燥重量で、汚泥:油性有機質肥料資材:木質系バイオマス:焼酎粕=約40%:約20%:約30%:約10%の配合比率で含む。本発明において「約」とは、記載された数値の±5%の範囲を意味する。
汚泥、有機質肥料資材、及び木質系バイオマスを積層して積層体を形成する際、積層体の水分率を、全体として、通常は55~65%、好ましくは58~63%、より好ましくは60~63%に調整することが好ましい。また、汚泥、有機質肥料資材、及び木質系バイオマスを含むその積層体を用いて肥料原料体を作製する際、肥料原料体の水分率を、全体として、通常は55~65%、好ましくは58~63%、より好ましくは60~63%に調整することも好ましい。使用する肥料原料の水分量が低い場合には、積層の合間に、積層中に、又は積層後に、上記の水分率になるように適量の水を積層体に添加することができる。あるいは、水分量の多い肥料原料、例えば焼酎粕原液などを使用する場合には、添加する水の量を減らすことが好ましい。一実施形態では、水を適用する際には、水を層表面にまんべんなく散布することが好ましい。
一実施形態では、積層体の形成の際、木質系バイオマス層の上、及び有機質肥料資材層の上の、少なくとも一方に、上記の水分率になるように、水を適用してもよい。
一実施形態では、積層体の形成の際、及び/又は肥料原料体の作製の際、木質系バイオマス層と有機質肥料資材層の間、又は有機質肥料資材層と汚泥層の間に、上記の水分率になるように、水を適用してもよい。一実施形態では、下層から上層に向かって、汚泥層、油性有機質肥料資材層、木質系バイオマス層、焼酎粕層、汚泥層、焼酎粕層、木質系バイオマス層、及び油性有機質肥料資材層をこの順番で積層した構造を1つ以上含む積層体の形成の際、並びにその積層体を含む肥料原料体の作製の際に、汚泥層とその上に隣接した油性有機質肥料資材層の間、油性有機質肥料資材層とその上に隣接した木質系バイオマス層の間、木質系バイオマス層とその上に隣接した焼酎粕層の間、焼酎粕層とその上に隣接した汚泥層の間、汚泥層とその上に隣接した焼酎粕層の間、焼酎粕層とその上に隣接した木質系バイオマス層の間、木質系バイオマス層とその上に隣接した油性有機質肥料資材層の間、及び油性有機質肥料資材層とその上に隣接した汚泥層の間からなる群から選択される1つ、2つ、又は3つ以上の層間に水を適用してもよい。好ましい実施形態では、木質系バイオマス層とその上に隣接した焼酎粕層の間、及び油性有機質肥料資材層とその上に隣接した汚泥層の間に水を適用することができる。
本発明の肥料原料体は、上記のとおり、外側を汚泥層で覆うことで条件的嫌気条件の生成を促進することにより、条件的嫌気発酵させることができる。条件的嫌気発酵とは、条件的嫌気条件下で行われる発酵、例えば、条件的嫌気性細菌が関与する発酵を意味する。
肥料原料体の発酵期間は、以下に限定されないが、例えば、30~150日間、好ましくは50~100日間、より好ましくは30~60日間であってよい。肥料原料体の発酵は、以下に限定されないが、0~40℃、好ましくは10~40℃、例えば20~35℃の気温条件下で行うことが好ましい。
肥料原料体の発酵期間中、切り返しを行うことができる。切り返しは、例えば、1週間~6週間に1回、例えば2週間~5週間に1回、又は概ね1ヶ月(27~34日)に1回の頻度で行うことができる。切り返しは常法により行うことができる。なお本発明に関して1週間は7日とする。
好ましい実施形態では、発酵が進み、肥料原料体の温度が上昇し、ピークを超えて徐々に低下する状態に至ったとき、肥料化(堆肥化)を完了することができる。肥料化を完了した肥料原料体は、汚泥肥料として利用することができる。本発明は、このような汚泥肥料も提供する。
本発明の方法により得られる汚泥肥料は、肥料化(堆肥化)完了時において、バシラス目(Bacillales)細菌を優占種として含むことが好ましい。本発明において「優占種として含む」とは、被験試料中に含まれる微生物の細胞数に対し、目的の微生物の細胞数の割合が最も高いことを意味する。ここで「優占種」は、狭義の生物種に限定して解釈されず、例えば、バシラス目(Bacillales)に属する様々な種の細菌をまとめて「優占種」と呼ぶこともできる。一実施形態では、本発明の汚泥肥料は、バシラス目の高温性細菌を多く含み得る。そのような高温性細菌は、例えば、セラシバシラス・クイスクイリアラム(Cerasibacillus quisquiliarum)の近縁種やシニバシラス・ソリ(Sinibacillus soli)の近縁種であってよい。汚泥肥料に優占種として含まれるバシラス目細菌は、温度上昇(高温)やpH変化により芽胞を形成し、好気又は嫌気条件で生存可能な細菌である。バシラス目細菌は、本発明に係る汚泥肥料の製造過程(発酵過程)の後半時期に顕著に増加することが好ましい。汚泥肥料に含まれる細菌は、例えば、16S rRNA遺伝子配列解析に基づいて同定することができるが、それに限定されない。
本発明の方法により得られる汚泥肥料は、高い窒素無機化率(無機化率/肥効率)を示す。本発明の汚泥肥料は、以下に限定するものではないが、例えば、窒素無機化試験での140日間の培養後に、好ましくは70%以上、より好ましくは70~95%、例えば75~95%、又は80~90%の窒素無機化率を示すことができる。
本発明の汚泥肥料はまた、低い重金属含有量を示すことが好ましい。好ましい実施形態では、本発明の汚泥肥料の重金属含有量は、汚泥肥料1kg当たり50mg以下、好ましくは30mg以下である。ここで重金属含有量とは、As、Cr、Cd、Pb、Al、Hg、Cu、Zn、Niの合計含量を意味する。重金属含有量が低いことにより、本発明の汚泥肥料は、施肥による土壌汚染や地下水汚染を低減できる。
本発明の汚泥肥料は、C/N比(炭素C含有率(%)と窒素N含有率(%)の質量比)が高く肥料として有用である。本発明の汚泥肥料のC/N比は、7以上であることが好ましく、より好ましくは8以上、さらに好ましくは9以上である。
好ましい実施形態では、本発明の汚泥肥料は、リグノセルロース、典型的には、リグニン、セルロース、及びヘミセルロースからなる群から選択される少なくとも1種を含む。本発明の汚泥肥料は、例えば、汚泥肥料100g(乾燥重量)当たり、リグノセルロースを、少なくとも20g含むことが好ましく、少なくとも30g、少なくとも40g、又は少なくとも50g含むことがより好ましく、例えば40g~70g又は40g~60g含んでもよい。本発明の汚泥肥料は、リグノセルロースのような繊維成分を多く含むため、良好な保水性を有する。好ましい実施形態では、本発明の汚泥肥料は、繊維成分を多く含むことにより、良好な施工性を示す。
好ましい実施形態では、本発明の汚泥肥料は、牛糞堆肥や豚糞堆肥等と比較して低いカリウム含量を有する。
本発明は、本発明の汚泥肥料を用いた植物の栽培方法も提供する。一実施形態では、本発明の方法は、汚泥肥料を、植物に対して施肥することを含む、植物の栽培方法に関する。汚泥肥料の施肥は、常法によって行えばよく、例えば、一般的な下水汚泥肥料の施肥方法に準じて行うことができる。植物は特に限定されないが、例えば、高窒素・低カリウムでの施肥が望ましい植物であり得る。植物としては、例えば、葉菜類、果菜類、根菜類、穀物(イネ、オオムギ、コムギ、トウモロコシ等)、きのこ類、果樹、チャ(茶)等の任意の植物が挙げられるが、これらに限定されない。施肥量(窒素換算量)は、特に限定されないが、例えば、10アール当たり1~70kgN/回又は1~50kgN/回であり得る。
本発明の汚泥肥料は、植物の栽培に用いた場合、従来の多くの下水汚泥肥料と比較して収量増加をもたらすことができる。本発明の汚泥肥料は、即効性と遅効性を併せ持つ。
一実施形態では、本発明の汚泥肥料は、茶の栽培に用いた場合、収量増加をもたらすとともに、茶葉の成分比を調節することもできる。
例えば、本発明の汚泥肥料を、適切な配合割合で他の肥料原料(例えば、菜種油粕等の油粕)と共に使用することにより(例えば、本発明の汚泥肥料:菜種油粕等の油粕=10:90~60:40、15:85~55:45、又は25:75~50:50の質量比で使用することにより)、旨味成分(例えば、テアニン)の量を増加させることができる。
例えば、本発明の汚泥肥料を、適切な配合割合で他の肥料原料(例えば、菜種油粕等の油粕)と共に使用することにより(例えば、本発明の汚泥肥料:菜種油粕等の油粕=65:35~100:0、70:30~100:0、又は75:25~100:0の質量比で使用することにより)、一番茶のカテキン類の量を低下させることができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]下水汚泥肥料の調製
下水汚泥(脱水汚泥;水分率75.5%)、米糠、竹おが屑、及び焼酎粕乾燥固形物を肥料原料として用いて、本発明の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWを調製した。
具体的には、下水汚泥(1/3量)を最下層に敷き詰め、その上に、米糠(1/2量)、竹おが屑(1/2量)、水(1/2量)、焼酎粕乾燥固形物(1/2量)、下水汚泥(1/3量)、焼酎粕乾燥固形物(1/2量)、竹おが屑(1/2量)、米糠(1/2量)、及び水(1/2量)をこの順番で層状に載せて積層体を形成し、最後に下水汚泥(1/3量)を載せて全体(上部及び側面)を含水率の高い下水汚泥で覆い、条件的嫌気条件の初期状態を構築した。各層の厚みは3~30cm程度であった。
下水汚泥の水分の一部は米糠、竹おが屑、焼酎粕乾燥固形物によって吸収させ、一方で、肥料原料間に加えた水により、全体の含水率(水分率)が60%程度になるように調整した。肥料原料間に加えた水は肥料原料層の表面全体に散布した。
このようにして、全体として底面2m×2m、上面1.5m×1.5m、高さ0.8mになる肥料原料体を形成するように、肥料原料を堆積させた。図1に、ここで用いたサンドウィッチ方式の肥料原料の積層(堆積)方法を模式的に示す。肥料原料体は条件的嫌気条件で3ヶ月間超にわたり発酵させた。条件的嫌気条件では、好気条件とは異なり、強制通気を行わないため、アンモニアガスが発散されず臭気が出にくい条件的嫌気性細菌が関与する発酵が行われる。
発酵期間中、概ね1ヶ月に1回(計3回;発酵36日目、67日目、98日目)、ホイールローダーにより切り返しを行った。肥料原料体の最上部表面から30cm及び60cm下の温度を経時的に測定したところ、発酵の進行に伴い温度は上昇し、発酵65日目~70日目で60℃を超えたが、その後55℃程度まで低下した。発酵開始から98日目に3回目の切り返しを行った後、肥料調製(堆肥化)を完了させた。
得られた条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWにおける原料の配合割合を表1に示す。
Figure 0007488520000001
[実施例2]肥料調製過程の微生物群集構造解析
実施例1の肥料調製(堆肥化)中の、肥料原料体中の菌相の変化を経時的に調べた。それぞれの切り返しの際に採取した肥料原料体の試料(肥料原料体の最上部表面から深さ30~90cmにて採取)から、DNA抽出キット(FastDNA Spin Kit for Soil; MP Biomedicals)を用いてDNA抽出し、PCR増幅を行った。PCR増幅では、細菌/古細菌(Bacteria/Archaea)ユニバーサルプライマーセットUniv515F/Univ909R(Univ515F: 5'-GTGCCAGCMGCCGCGGTAA-3'(配列番号1);Univ909R: 5'-CCCCGYCAATTCMTTTRAGT-3'(配列番号2))を使用し、16S rRNA遺伝子を核酸増幅した。増幅産物を、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN)を用いて精製した後、MiSeq(Illumina)及びMiSeq reagent kit v3(Illumina)を用いたDNAシークエンス解析を行い、オープンソースソフトウェアQIIME 2(Bolyen E., et al., (2019) Nature Biotechnology 37: 852-857., https://doi.org/10.1038/s41587-019-0209-9)を用いたデータ解析を実施した。
その結果、バシラス目(Bacillales)の細菌が堆肥化過程で増加し、堆肥化完了時には優占種として存在していたことが示された(1回目切り返し時:20.8%、2回目切り返し時:62.5%、3回目切り返し時:80.3%)。すなわち、堆肥化完了時の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SW中の微生物の8割を、バシラス目(Bacillales)の細菌が占めていた。
さらに、特に、バシラス目の高温性細菌であるセラシバシラス・クイスクイリアラム(Cerasibacillus quisquiliarum)の近縁種(16S rRNA遺伝子の相同性95%、存在割合:0.5~56.0%)やシニバシラス・ソリ(Sinibacillus soli)の近縁種(16S rRNA遺伝子の相同性98%、存在割合:0.2~26.8%)などが優占していることが示された。
さらに、下水汚泥(脱水汚泥)に畑土及び土壌改良材TYK(成分分析結果を表3に示す)等の原料を用いて調製した2種類の肥料(下水汚泥混合堆肥A及びB)を調製し、同様に堆肥化過程の微生物群集構造解析を行った。表2に示す肥料原料を十分に混合し、それを堆積させて、無酸素供給で3ヶ月間超にわたり発酵させた。発酵期間中、約1ヶ月に1回、切り返しを行った。切り返しの際に採取した試料から上記と同様にDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子を核酸増幅し、配列解析を行った。
その結果、下水汚泥混合堆肥Aにおいては、クロストリジウム目(Clostridiales)に属する微生物群が優占種として存在していた(1回目切り返し時:20.2%、2回目切り返し時:12.4%、3回目切り返し時:21.6%)。下水汚泥混合堆肥Aには、クロストリジウム目に属する嫌気性細菌の他、バシラス目に属する条件的嫌気性のマシリバクテリウム・セネガレンス(Massilibacterium senegalense)の近縁種(相同性98%、存在割合:1.0~14.5%)などが存在していたことから、下水汚泥混合堆肥Aの堆肥化において嫌気発酵が起こっていたことが裏付けられた。一方、下水汚泥混合堆肥Bでは、放線菌を含むアクチノマイセス目(Actinomycetales)に属する細菌が優占種として存在し(1回目切り返し時:32.1%、2回目切り返し時:33.5%、3回目切り返し時:35.2%)、特にアクチノマデュラ属(Actinomadura)が存在していた。このように、下水汚泥の堆肥化によって製造される肥料であっても、原料や堆肥化方法により菌相は大きく異なることが示された。
Figure 0007488520000002
[実施例3]窒素無機化率の測定
各種肥料の窒素無機化率(肥効率)を測定した。肥料としては、実施例1で表1に示す配合割合に従って製造した条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SW、また比較例として、菜種油粕、牛糞堆肥、鶏糞堆肥、好気発酵下水汚泥肥料CSK(市販品)、好気発酵下水汚泥肥料KG(堆肥化装置かぐやひめにより調製)、下水汚泥混合堆肥C、下水汚泥混合堆肥Dを試験した。なお堆肥化装置かぐやひめは通気量を調節可能な小型堆肥化装置である(NFN300・農畜試式;富士平工業株式会社)。
好気発酵下水汚泥肥料KG(堆肥化装置かぐやひめにより調製)は、下水汚泥(脱水汚泥)40%、竹おが屑30%、米糠20%、甘藷焼酎粕乾燥固形物10%(いずれも乾燥重量%)を、水分率を60%程度に調整し、混合撹拌した後、洗濯ネットに充填し(6.25kg;乾燥重量で2.5kg)、通気量0.4mL/分に調整した環境下で好気発酵を行い、堆肥化することによって製造した。
下水汚泥混合堆肥Cは、下水汚泥(脱水汚泥)49.0%、畑土18.1%、土壌改良材TYK32.9%[乾燥重量%]を、水分率を60%程度に調整し、下水汚泥で外側を覆うことなく、混合撹拌した後、条件的嫌気条件で発酵させることにより調製した。
下水汚泥混合堆肥Dは、下水汚泥(脱水汚泥)11.0%、竹おが屑8.7%、米糠5.6%、甘藷焼酎粕原液2.8%、畑土40.1%、土壌改良材TYK15.6%[乾燥重量%]を、水分率を60%程度に調整し、下水汚泥で外側を覆うことなく、混合撹拌した後、条件的嫌気条件で発酵させることにより調製した。
黒ボク土(風乾土)10gと肥料200mgを混合し、100mLの培養瓶に入れ、蒸留水を加えて最大容水量の60%に水分率を調整した後、25℃で140日間にわたり培養することにより、窒素無機化試験を実施した。試験期間中、経時的に試料を採取した。10%塩化カリウム50mLを、試料が入った培養瓶に加え、30分間振とうした後、ろ紙でろ過し、ろ液10mLを蒸留法に供してアンモニア態窒素と硝酸態窒素の量を測定し、土壌由来窒素量を差し引き、無機態窒素含量を算出(定量)した。窒素無機化率(肥効率)%は、以下の式に従って算出した。
窒素無機化率(肥効率)%=[各試料中の無機態窒素含量(N mg/g肥料)]/[培養開始時の肥料中の全窒素含量(N mg/g肥料)]×100
その結果を図2~図4に示す。菜種油粕、牛糞堆肥、鶏糞堆肥、及び既存の好気発酵下水汚泥肥料CSKの培養140日後の窒素無機化率(肥効率)はそれぞれ、58.5%、35.5%、27.0%、及び67.2%であったが、本発明の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWのその窒素無機化率(肥効率)は88.3%でありそれらの比較例と比べても非常に高かった(図2)。一方、別の試験系で算出した、菜種油粕、好気発酵下水汚泥肥料CSK、及び好気発酵下水汚泥肥料KGの培養140日後の窒素無機化率(肥効率)は、それぞれ、60.3%、64.5%、62.3%であり、互いに同等の窒素無機化率を示した(図3)。さらに別の試験系で算出した、下水汚泥混合堆肥C及び下水汚泥混合堆肥Dの、25℃での培養140日後の窒素無機化率(肥効率)はそれぞれ49.8%、35.5%であり、それほど高い窒素無機化率は示さなかった(図4)。
以上の結果から、本発明の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWは、従来の肥料や他の下水汚泥肥料と比較して顕著に高い窒素無機化率(肥効率)を有することが示された。
なお条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWと同じ肥料原料を用いて同様の方法で積層体を形成した後、積層体を全体的にいったん混合してから積層体と同様の形状に整え、接地面を除く外側全体を下水汚泥(1/3量)で覆うことにより肥料原料体を作製し、同様に条件的嫌気発酵させたところ、条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWと類似の組成、窒素含量及び窒素無機化率を示す条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWMが得られた(条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWMの窒素含量4.04%、条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWの窒素含量3.91%)。この肥料SWMは全体的に塊をあまり含まなかった。
[実施例4]肥料の成分分析
実施例2及び3で試験した各種肥料について、常法により成分分析を行った。無機成分について、P2O5は、バナドモリブデン酸アンモニア法により、K2O、MgO、CaOは原子吸光法により分析した。重金属成分について、As、Cr、Cd、Pb、AlはICP質量分析法により、Hgは還元気化法により、Cu、Zn、Niは原子吸光法により分析した。C/N比は堆肥中の全炭素量と全窒素量から算出した。リグニン、セルロース、ヘミセルロースはP. J.Van Soestらの方法に従って、定量した。具体的には、繊維成分のうちADF(酸性デタージェント繊維:リグニン+セルロース)、NDF(中性デタージェント繊維:リグニン+セルロース+ヘミセルロース)はデタージェント分析法で、リグニン量はVan Soest and McQueenの方法で定量し、NDF量とADF量の差からヘミセルロース量を、ADF量とリグニン量の差からセルロース量を求めた。結果を表3に示す。
Figure 0007488520000003
表3に示されるように、本発明の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料は、他の下水汚泥肥料と比較して重金属含有量が少なく、牛糞堆肥、馬糞堆肥、馬糞堆肥と同程度まで重金属含有量が低減されていることが示された。また本発明の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料は、繊維成分を多く含み、保水性がよく、またカリウム含有量が少ないことも示された。
[実施例5]本発明の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料の茶栽培への適用
茶栽培では一般的に肥料を7回に分けて施肥する。本実施例では、そのうちの3回、すなわち、樹体に栄養成分が貯蔵される時期の3回(秋肥2回目(9月下旬~10月上旬)、春肥1回目(2月中旬)、春肥2回目(3月上旬))について、被験肥料を用いた施肥を行った(6~24kgN/10a施肥)。
被験肥料としては、(i)菜種油粕と腐葉土を混合した慣用肥料、(ii)菜種油粕とマッシュルーム廃菌床を混合した慣用肥料、(iii)菜種油粕及び好気発酵下水汚泥肥料CSK(=50%:50%)とマッシュルーム廃菌床を混合した肥料、及び(iv)菜種油粕及び本発明の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SW(=50%:50%)とマッシュルーム廃菌床を混合した肥料を用いた。
施肥後、茶葉の生育状態及び収量を調査した。一番茶(茶葉)についての結果を表4に示す。
Figure 0007488520000004
表4に示されるように、本発明の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料は、他の肥料と比較して、新葉数を増加させ、全芽数の数及び重量も増加させ、顕著な収量増加をもたらした。
なお二番茶及び三番茶(茶葉)についても同様の結果が得られた。
さらに、一番茶(茶葉)(表5)及び三番茶(茶葉)(表6)の成分分析を行った。
Figure 0007488520000005
Figure 0007488520000006
表5及び表6に示すように、下水汚泥肥料CSK又は条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWを50%量(腐葉土、廃菌床を除く)で被験肥料に用いた試験区では、慣用肥料よりも茶葉のテアニン含量が増加し、特に条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWを用いた場合にはテアニン含量がより増加することが示された。一方、カテキン類含量は、下水汚泥肥料CSK又は条件的嫌気発酵下水汚泥肥料SWを50%量(腐葉土又は廃菌床を除く肥料成分に対して)で被験肥料に用いた試験区で、より低い傾向が示された。なお下水汚泥肥料CSKを50%量(腐葉土、廃菌床を除く)で被験肥料に用いて同様の試験を行った(下水汚泥肥料CSK+菜種油粕(25%:75%)+廃菌床)ところ、同様に、慣用肥料と比較して茶葉のテアニン含量が増加し、カテキン類含量は低下する傾向が示された。
テアニンは旨味成分であり、カテキンは抗酸化作用などの機能性を有する苦味成分である。本発明の条件的嫌気発酵下水汚泥肥料を用いて、旨味成分含量が多い茶葉を生産できることが示された。

Claims (10)

  1. 汚泥層、有機質肥料資材層、及び木質系バイオマス層を含む積層体を形成した後、外側を汚泥層で覆うことにより、肥料原料体を作製し、それを条件的嫌気発酵させることを含む、汚泥肥料の製造方法。
  2. 前記積層体が、有機質肥料資材層及び木質系バイオマス層のいずれか一方又は両方によって上下に挟み込まれた汚泥層を含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記積層体が、有機質肥料資材層として、油性有機質肥料資材層及び焼酎粕層の少なくとも一方を含む、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記積層体が、下層から上層に向かって、汚泥層、油性有機質肥料資材層、木質系バイオマス層、焼酎粕層、汚泥層、焼酎粕層、木質系バイオマス層、及び油性有機質肥料資材層をこの順番で積層した構造を含む、請求項3に記載の方法。
  5. 外側を汚泥層で覆う前に、前記積層体の少なくとも一部を混合することをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載の方法により製造される、汚泥肥料。
  7. 汚泥肥料がバシラス目細菌を優占種として含む、請求項6に記載の汚泥肥料。
  8. C/N比が7以上である、請求項6又は7に記載の汚泥肥料。
  9. 重金属含量が、汚泥肥料1kg当たり50mg以下である、請求項6~8のいずれか1項に記載の汚泥肥料。
  10. 請求項6~9のいずれか1項に記載の汚泥肥料を、植物に対して施肥することを含む、植物の栽培方法。
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