JP7482484B2 - 鉄筋コンクリート構造物被覆構造及び被覆用部材 - Google Patents

鉄筋コンクリート構造物被覆構造及び被覆用部材 Download PDF

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Description

本発明は、鉄筋コンクリート構造物被覆構造及び被覆用部材に関する。更に詳しくは、鉄筋コンクリート構造物に優れた塩害防止性を付与できる、鉄筋コンクリート構造物の被覆構造及び被覆用部材に関する。
鉄筋コンクリートは構造材として社会のインフラ設備を構築する上でなくてはならないものである。鉄筋コンクリートは耐久性が高くメンテナンスフリーと考えられてきたが、高度成長期以降に建設された構造物には建設後10数年を経て耐久性の低下が現れて、早期劣化現象として社会的にも大きな問題となった。劣化現象のうち、最も広範囲に顕在化したのが塩害であり、これは塩分の影響で鉄筋が腐食し耐久性の低下のみならず放置すると強度の低下に至る深刻な劣化現象である。また、塩害を受けた構造物は、部分的な補修を行なったとしても、塩化物イオンが存在する限り、再劣化を生じさせる場合が多く、補修には多くの手間が必要となっている。
塩分の由来は、洗浄不十分な海砂の使用などにより当初から内在する場合と、海塩粒子の飛来や凍結防止材の散布により二次的に外部から浸入する場合があるが、いずれにせよ、鉄筋コンクリート構造物の塩害劣化を抑止する技術が強く望まれている。
上記事情を背景に、鉄筋コンクリートの塩害抑止技術として、層状複水酸化物の一種ハイドロカルマイトが備える塩化物イオン捕捉機能(塩化物イオン固定化機能とも称される。)に着目した一連の下記の発明が知られている。
例えば、特開平4-154648号公報(以後、特許文献1)は、ハイドロカルマイト(特に硝酸型ハイドロカルマイト、亜硝酸型ハイドロカルマイト、水酸基型ハイドロカルマイト)が、セメント材料防錆用の塩化物イオン捕捉剤として有効なることを開示している。
また、特許文献1の知見に基づき、特開2005-67903号公報(以後、特許文献2)は、外来塩化物イオンから鉄筋コンクリート構造物を保護するべく、構造物表面を、ハイドロカルマイト含有のセメントモルタルにて被覆する方法を開示している。
さらに、特開2012-176854号公報(以後、特許文献3)は、構造物表面より内部側に向かい塩化物イオンの浸透が既に始まっている既設鉄筋コンクリート構造物に、所定濃度のハイドロカルマイトを含有するセメントモルタルにて被覆する事後的塩害予防工法を開示している。
特開平4-154648号公報
特開2005-67903号公報
特開2012-176854号公報
しかしながら、特許文献2または3の工法を施しても、ハイドロカルマイトの塩化物イオン捕捉性能は、ハイドロカルマイトに含まれる陰イオン(亜硝酸イオン、硝酸イオン、水酸化物イオンなど)と塩化物イオンとの間のイオン交換が進行するに伴い、次第に低下していく。
このため、上記特許文献2または3の工法を施しても、その効果を長期にわたり維持するためには、ハイドロカルマイトを含むセメントモルタルの被覆層を定期的にはつり、再び、ハイドロカルマイト含有のセメントモルタルにて塗工せねばならない問題があった。
そこで、本発明者らは、煩雑なはつり工事を必要としない鉄筋コンクリート構造物の被覆構造、同被覆構造を簡易な工法で形成できる被覆用部材の創出を課題として検討を重ねた。
その結果、本発明者等は、塩化物イオンが浸透したコンクリート構造物の表面に、軟質保水体の層を重ね、その上に層状複水酸化物を含有する硬化体の層を積層すると、上記軟質保水体の層を介して、コンクリート構造物表面近傍の塩化物イオンと層状複水酸化物中の陰イオンが交換されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、軟質保水体の層を備えることを特徴とする、塩害に侵されにくい鉄筋コンクリート構造物被覆構造、その被覆構造を簡易な工法で構築できる被覆用部材、並びに同部材を活用した鉄筋コンクリート構造物の塩害抑止工法である。
本発明の第一の態様になる「鉄筋コンクリート構造物の被覆構造」(以下、「本発明被覆構造」と略記することがある。)は、鉄筋コンクリート構造物の表面に積層されて形成される内層と、その内層に積層される外層にて構成される被覆構造であって、かつ、上記内層が、水性液体を浸み込ませた軟質保水体よりなっており、さらに上記外層が層状複水酸化物含有の硬化体よりなることを特徴とするものである。
また、本発明の第二の態様になる「鉄筋コンクリート構造物被覆用部材」(以下、「本発明被覆用部材」と略記することがある。)は、前記内層と、その内層に積層された外層とが一体化された部材である。当部材にて鉄筋コンクリート構造物を被覆するに際しては、外層を外気側に向け、内層を鉄筋コンクリート構造物の表面に密着させる態様にて被覆する。
さらに、本発明の第三の態様は、上記被覆用部材で鉄筋コンクリート構造物を被覆後、経年後の部材を新品の部材にて交換する「鉄筋コンクリート構造物の塩害抑止工法」である。
本発明の「鉄筋コンクリート構造物の被覆構造」「鉄筋コンクリート構造物被覆用部材」において、外層は塩化物イオンの吸着・固定化層としての役割を果たし、他方、内層は塩化物イオンやその他のイオンの通過層としての役割を果たす。
以下、「鉄筋コンクリート構造物の被覆構造」「鉄筋コンクリート構造物被覆用部材」の構成要素ごとに説明する。なお、以下の説明にて、「鉄筋コンクリート構造物」について、「構造物」の略称を用いることがある。
本発明の「鉄筋コンクリート構造物の被覆構造」は外層及び内層より構成される。
<外層>
外層は、層状複水酸化物を含有する硬化体よりなる。硬化体には、硬化成分が無機材料の硬化体(以下、無機質硬化体と略称する)や、硬化成分が樹脂材料の硬化体(以下樹脂硬化体と略称する)が挙げられる。これらの詳細は後に述べる。
以下に述べる層状複水酸化物の性質により、本外層は塩化物イオン吸着機能を備える。
本発明にいう層状複水酸化物とは、下記化学式で表される層状複水酸化物である。
[M2+ 1-xM3+ x(OH)2]x+[An- x/n・yH2O]x-
ここで、
M2+:2価金属イオン
M3+:3価金属イオン
An-:n価の陰イオン
n:自然数
x:0.2~0.33の数値
y:自然数
である。
上式の層状複水酸化物は、正電荷をもつ[M2+ 1-xM3+ x(OH)2]x+部分の二次元基本層の間に、負電荷をもつ[An- x/n・yH2O] x-部分の中間層が挟まれた層状構造をとる。そして、中間層の陰イオンが占める残りの空間は層間水(yH2O)で満たされているため、陰イオンが交換しやすい構造となっている。
上記2価金属イオンとしてはCa2+, Mg2+,Mn2+,Ni2+,Zn2+を挙げることができ、3価金属イオンとしてはAl3+,Cr3+,Fe3+,Co3+を挙げることができる。
また、上記n価の陰イオンとしては、NO2 -,OH-,NO3 -,CO3 2-,SO4 2-を挙げることができる。これらの陰イオンのうち、特にNO2 -,OH-,NO3 -は塩化物イオンと容易にイオン交換する。よって、本発明の層状複水酸化物としては、陰イオンがNO2 -,OH-,NO3 -のいずれか(またはその混合体)であるものが好ましい。
上記の層状水酸化物のうち、ハイドロカルマイト(2価金属イオンがCa2+、3価金属イオンがAl3+)や、ハイドロタルサイト(2価金属イオンがMg2+、3価金属イオンがAl3+)がよく知られている。
とりわけ、ハイドロカルマイトはセメントに対し不活性であるため、前記硬化体がセメント硬化体の場合に好適に使用することができる。
ハイドロカルマイトとしては、陰イオンが各々、NO2 -である亜硝酸型ハイドロカルマイト,OH-である水酸基型ハイドロカルマイト,NO3 -である硝酸型ハイドロカルマイトを例示することができる。これらはいずれも塩化物イオンを吸着・固定化する機能に優れる。
以上に述べたハイドロカルマイトのうち、亜硝酸型ハイドロカルマイトが以下の理由により特に好ましい。すなわち、亜硝酸型ハイドロカルマイトの場合、内層を介したイオン交換により、鉄筋コンクリート構造物由来の塩化物イオンが亜硝酸型ハイドロカルマイトに吸着・固定化され、さらに亜硝酸型ハイドロカルマイトからは亜硝酸イオンが放出され、内層を介して鉄筋コンクリート構造物に浸透していく。これにより、鉄筋コンクリート構造物内部において、腐食物質たる塩化物イオンの濃度が減少する効果と、防錆効果を有する亜硝酸イオンの濃度が高まる効果が相乗的に作用するため、本発明の塩害抑止の目的が一層効果的に達成される。
層状複水酸化物は公知の方法に従い調製することができる。
例えば、亜硝酸型ハイドロカルマイトは、CaO-Al2O3系化合物と可溶性亜硝酸塩、又はCaO-Al2O3系化合物と可溶性亜硝酸塩及び消石灰とを、水溶媒中で混合・反応させて得ることができる。また、亜硝酸型ハイドロカルマイトは市販されているものを好適に使用できる。入手可能な亜硝酸型ハイドロカルマイトとして、例えば、日本化学工業株式会社製の「ソルカット」(ソルカットは日本化学工業株式会社の登録商標)を挙げることができる。
<無機質硬化体>
本発明に適する無機質硬化体の代表例は、セメントを硬化成分とするセメント硬化体であるが、この他、石膏、軽量コンクリートも使用できる。
セメント硬化体はセメントと層状複水酸化物を含む混合物を水硬化して得られる。
セメントとしては、セメント単独のほか、セメントの一部を、フライアッシュに代表されるポゾラン活性材や高炉スラグ微粉末などの潜在水硬材にて置き換えたものも好適に使用できる。
層状複水酸化物とセメントの合計に占める層状複水酸化物の割合は一般には10~90質量%であるが、この範囲に制約されない。
前記セメント硬化体の物理特性を向上させるため、外層形成用の層状複水酸化物含有のセメント混合物には、硬化前に常用の補強材を配合できる。
例えばセメント硬化体の強度を高めるため、適量の細骨材を配合できる。
その他、セメント硬化体に柔軟性を付与する目的で、セメントの一部をポリマー系混和材にて置き換えることもできる。
また、セメント硬化体の靭性(特に引張強度、曲げ強度)を高めるため、繊維等の補強材を配合できる。靭性が増すと、後記する被覆用部材の施工に際し、多少の変形に耐え得るものとなり、結果、被覆用部材が平面状であっても、トンネルの内壁面等の曲面への施工が可能となる。
この他、セメント硬化体の軽量化のため、木材パルプ、藁パルプ、ケナフパルプ、紙パルプ等のパルプを配合できる。
<樹脂硬化体>
本発明に適する樹脂硬化体の代表例は、硬化性樹脂原料(プレポリマー)と層状複水酸化物を含む混合物を硬化した樹脂硬化体である。硬化には必要に応じ硬化剤が添加される。硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂が好適である。
この他、熱可塑性樹脂と層状複水酸化物の溶融混練物も樹脂硬化体として使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド等が挙げられるが、これらに限定されない。
すでに述べた無機質硬化体におけると同様に、樹脂硬化体においてもその機械強度(曲げ強度、靭性)を高めるため、硬化又は溶融混錬時に、層状複水酸化物に加え、細骨材、繊維を好適に配合できる。
次に、「内層」について詳説する。
<内層>
本発明被覆構造にて、内層は水性液体を長期間保持する役割を果たす。内層は、保水性柔軟材料に水性液体を含浸させた軟質保水体よりなる。ここで、保水性柔軟材料とは、毛管現象によりその材料中に水性液体を取り込むことができ、かつ柔軟性に富む材料をいう。
上記の保水性柔軟材料として、例えば繊維材料や軟質連続気泡発泡体が挙げられる。繊維材料は柔軟性に富み、繊維同士又は繊維束同士の間の微細な隙間に水性液体を取り込むことができる。同様に、軟質連続気泡発泡体も柔軟性に富み、その微細な連通空孔中に水性液体を取り込められる。
繊維材料としては、単位面積当たりの保水量を多くする観点からは不織布、フェルトが好ましく、不織布がより好ましい。
不織布としては、基体繊維別に、セルロース系(パルプ系)、レーヨン系、ポリアクリル酸ナトリウム系、ポリプロプレン系、ポリエステル系、ポリアミド系等が挙げられる。この他、ポリ乳酸、乳酸グリコール酸共重合体を基体繊維とする生分解性の不織布も使用できる。
これらのうち、セルロース系(パルプ系)、レーヨン系の不織布は親水性不織布であり、内層形成用として好適に使用できる。
またポリアクリル酸ナトリウム系の不織布(ポリアクリル酸ナトリウム繊維や、ポリアクリル酸ナトリウム粒子を含ませた不織布を含む)は高吸水性であり、これらもまた内層形成用として好適に使用できる。
ポリプロピレン系、ポリエステル系の不織布においては、共重合変性、グラフト変性、混合ウェブ等の手法により、その親水性を高めた不織布を好適に使用できる。
また、非親水性繊維のウェブと高吸水性ポリマー繊維のウェブを交絡処理するか、非親水性繊維のウェブに高吸水性ポリマー粒子を含ませた、複合不織布も高吸水性不織布として好適に使用できる。
これらの不織布の製法は、ウェブ形成方式により乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブローン法、エアレイド法の分類が有り、ウェブ結合方式により浸漬法、スプレー法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法の分類が有るが、本発明においては、それらの製法に依らず、いずれの不織布も好適に使用できる。
さらに本発明においては、内層としての機能を損なわない限り、異種不織布を多層化した積層不織布も使用できる。
前記軟質連続気泡材料としては、軟質ポリウレタンフォーム、メラミン樹脂発泡体、ポリオレフィン発泡体が挙げられる。
保水性を高める観点から、これらの軟質発泡体についても、先に述べた不織布同様に、親水性を高めたものを好適に使用できる。
内層をなす前記の保水性柔軟材料に含浸される水性液体としては、水単体の他に、水溶性ポリマーの水溶液を使用できる。
水溶性ポリマーは水と混和して粘性液状物又は水性ジェルとなる。「保水性柔軟材料」の微細構造中に粘性液状物又は水性ジェルの形で吸蔵された水分は内層中により長期間留まり、内層の保水効果が増す。その結果、イオンの通過層としての内層の機能をより長期間維持できる。
水溶性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコールなどを挙げることができる。
上記「内層」を構造物表面に重ね密着させ、該内層の上にさらに前記「外層」を積層する態様にて被覆構造が形成されると、塩化物イオン濃度の勾配により、構造物内部の塩化物イオンが、「内層」を経て、外層に移動し、外層に含まれる塩化物イオン吸着性の層状複水酸化物に捕捉される。構造物側から「外層」への塩化物イオンの移動は、上記層状複水酸化物中の陰イオンと塩化物イオンとのイオン交換が完了するまで持続される。先にも述べたが、層状複水酸化物が亜硝酸型ハイドロカルマイトの場合、構造物中の塩化物イオンは亜硝酸イオンと交換することとなる。
本内層は、構造物表面とは、固着はせずに密着するに止まるので、はつり作業無しに、外層とともに当該構造物表面より随時剥離することができる。
本発明の「鉄筋コンクリート構造物被覆構造」により、構造物は塩害による鉄筋腐食が抑えられ、長寿命となる。さらに、本被覆構造の形成に与る被覆用部材は、その内層が構造物表面に密着しているが固着していないので、構造物より容易に脱着できる。これにより、本被覆構造の更新工事は、はつり工事を要しない極めて簡便なものとなる。
本発明被覆構造の概要を断面にて示す図である。 本発明被覆用部材の概要を断面にて示す図である。 本発明被覆用部材の一態様を断面にて示す図である。 本発明被覆用部材の他の態様を断面にて示す図である。 本発明被覆用部材の構造物への施工の一態様を示す図である。 試験体の概要及びイオン濃度測定のサンプルの採取位置を示す図である。
本発明の「鉄筋コンクリート構造物の被覆構造」(図1)は、以下の被覆用部材の採用により、簡便な施工により実現できる。
すなわち、本発明被覆用部材は、
鉄筋コンクリート構造物の表面に密着させる部材内層と、
上記部材内層に積層する部材外層を備え、
当該部材内層が保水性柔軟材料よりなり、
当該部材外層が層状複水酸化物含有の硬化体よりなる、被覆用部材である(図2)。
部材外層と部材内層の接合方法は、両層の間のイオンの移動を妨げない限り特に制約はない。一例として、部材外層を構成する成分の硬化作用を利用して両層を接着する方法が挙げられる。この方法の具体的な内容は後に述べる。
本発明被覆用部材は、あらかじめ、部材外層と部材内層とが積層し、一体化されているので、現場での施工が簡便になる。
なお、本発明被覆用部材の構造物への取り付け工事に際しては、部材内層に向け散水するか、部材内層を水性液体にて十分に含浸させたのち施工する。部材内層は、保水性柔軟材料よりなるので、上記散水又は浸漬操作により、水性液体は容易に部材内層に吸水され、本発明被覆構造の形成に与る。
本被覆用部材を量産出荷する際、あらかじめ上記の吸水工程を施しておき、部材内層の外表面(鉄筋コンクリート構造物と密着する面)及びその周縁側面を非透水性フィルムにて被覆した形態で出荷すれば、現場での吸水作業が省ける。非透水性フィルムは、施工時は内層より容易に剥離できるので、上記目的に好都合である。そのような非透水性フィルムとしてはポリエチレンフィルムが安価であり、剥離性が良好である。
上記構成になる被覆用部材を鉄筋コンクリート構造物の表面に、被覆用部材内層を鉄筋コンクリート構造物表面に密着させる態様にて該構造物表面に装着することにより、鉄筋コンクリート構造物表面近傍の塩化物イオン濃度を減じる機能を発揮する。
なお、本部材内層は「軟質保水体」であるため、イオンの通過層としてのみならず不陸調整層としても機能する。したがって、構造物表面に多少の凹凸があってもこれを解消して構造物表面に隙間なく密着する。
鉄筋コンクリート構造物表面を本発明被覆用部材にて被覆する方法は、層状複水酸化物含有のセメントモルタルにて直接被覆する従来方法に対し、以下の点で優れる。
すなわち、
イ)塩化物イオンの吸着・固定化層としての外層と、塩化物イオンや亜硝酸イオンその他のイオンの通過層としての内層とが、一体化した被覆用部材であるため、鉄筋コンクリート構造表面への被覆施工が容易である。
ロ)内層は、鉄筋コンクリート構造物表面と固着しないので、経年により外層の塩化物イオンの吸着・固定化性能が衰えたときも、旧被覆用部材の取り外しと新品の部材との交換が容易である。適宜、被覆用部材を交換することにより、イオン交換反応を継続でき、鉄筋の腐食を防止できる。
本被覆用部材(及び本部材を用いる被覆工法)が特にその威力を発揮するのは、鉄筋コンクリート構造物表面より内部へ塩化物イオンの浸透が始まっている既設の鉄筋コンクリート構造物に適用する場合である。すなわち、層状複水酸化物含有のセメントモルタルにて直接に被覆する従来方法では、塩害抑止効果は構造物表面との間のイオン交換反応がその平衡状態に達するまでの一過性の期間にとどまるのに対し、本被覆用部材を用いる工法は、部材を適宜交換することで、塩害抑止効果を所望の期間に渡り維持できる優位性がある。
本被覆用部材において、部材外層の厚みに特に制限はないが、強度、耐久性、軽量性を適度に備えるため、5~30mmの範囲であることが好ましく、6~20mmの範囲であることがより好ましい。
また、部材内層の厚みに特に制限はないが、イオン(亜硝酸イオン、塩化物イオン、その他のイオン)の通過しやすさの観点からは小さくし、不陸調整(不陸吸収)の観点からは大きくするのが好ましいが、両機能をバランスよく備えるよう、0.5mm以上10mm以下の範囲であることが好ましく、2mm以上10mm以下の範囲がより好ましい。
本被覆用部材の平面視での形状は、鉄筋コンクリート躯体表面を隙間なく埋める(敷き詰める)ことができる形状であれば特に制約はない。そのような形状としては、矩形、正六角形、三角形を挙げることができるが、一般的には矩形である。
また、本被覆用部材の断面形状は一般には平面であるが、円柱状の鉄筋コンクリート構造物向けに曲面としてもよい。
なお、外気に含まれる塩化物イオンが部材外層に浸透すると当該外来塩化物イオンが外層中の層状複水酸化物と反応してしまい、鉄筋コンクリート構造物内部に含まれる塩化物イオンを吸着・固化するという部材外層の本来の機能を減じてしまう。このような事態を回避するため、本被覆用部材は、必要に応じ、外層の外気に触れる側を、防水性または撥水性の材料よりなる塗膜を備えてもよい(図3)。このような塗膜を備えることにより、内層に含まれる水分が外層を経て散逸する度合いを減じる別異の効果も期待できる。本塗膜は、外層がセメント硬化体である場合に特に有効である。
本被覆用部材は、その被覆領域の一部又は部材周縁に配した、ビス、ねじ、その他の取り外し可能な固定手段により、鉄筋コンクリート構造物に固定される。また必要に応じ、部材周縁や隣接部材同士の周縁の隙間をシール材にて封止してもよい(図4,図5)。必要に応じ、外層の上に、発泡樹脂等の緩衝層を積層しても良い(図4)。
以下、実施例により、本発明の内容をさらに具体的に示す。
[実施例]
<試験の概要>
以下に示す手順にて、試験を行った。なお、試験に用いた材料は下記のとおりである。
・セメント:ポルトランドセメント
・細骨材
・塩化ナトリウム
・亜硝酸型ハイドロカルマイト
・水酸基型ハイドロカルマイト
・不織布A:基体繊維がポリエステルの不織布(厚さ2mm)
・不織布B:基体繊維がパルプの親水性不織布(厚さ4mm)
・不織布C: 基体繊維がパルプ及びポリアクリル酸ナトリウムの高吸水性不織布(厚さ5mm)
・不織布D:基体繊維がポリアクリル酸ナトリウムの高吸水性不織布(厚さ4mm)
・ポリビニルアルコール
なお、上記不織布について、JIS L 1913:2010 (一般不織布試験方法 6.9.2保水率)に準拠して、保水率を測定したところ、以下の結果であった。
<不織布の保水率>
・不織布A: 730%
・不織布B: 860%
・不織布C:1,200%
・不織布D:1,900%
[実施例1]
<コンクリート躯体の作成>
セメント500質量部、細骨材1,500質量部、塩化ナトリウム17質量部、水250質量部の割合にて配合したセメントスラリーを型枠に流し込み、固化、養生することにより、縦100mm、横100mm、高さ100mmの立方体形状のコンクリート躯体を多数作成した。
<試験体外層の調製>
セメント100質量部、亜硝酸型ハイドロカルマイト100質量部、細骨材100質量部、及び水240質量部を配合し、配合物を型枠に流し込み、水硬化、養生することにより、縦100mm、横100mm、厚さ10mmのセメント硬化体の平板を多数作成した。
以下の、実施例、比較例では、特記する場合を除き、これらの平板を外層とした。
<試験体内層の調製>
保水性柔軟材料として、縦100mm、横100mmに裁断した不織布Aを準備した。
次いで、上記不織布に水を含浸させ、その含浸不織布の端をピンセットでつまみ、数分間後に水滴のしたたりが止まるのを確認し、これを内層とした。
<試験体の作成>
水平に載置したコンクリート躯体の上表面に互いの周縁が沿うよう内層を重ね、さらに外層を重ね、次いで、コンクリート躯体、内層、及び外層が積層している周縁をアルミテープでシールし、試験体を作成した(図6)。
<イオン交換確認試験>
上記の試験体を、温度70℃/湿度90%の湿潤状態に3日間、次いで温度10℃/湿度55%の乾燥状態に4日間保つのを1サイクルとして、計4サイクルの乾湿試験を行った。
上記の乾湿試験を経た試験体を、コンクリート躯体、内層、外層に分離した。コンクリート躯体と両層は容易に剥離できた。
次いで、コンクリート躯体の上面(内層との密着面)より、深さ方向に10mm間隔で30mm深さまでイオン濃度測定用サンプルを採取し、深さごとの塩化物イオン濃度及び亜硝酸イオン濃度をイオン分析計にて測定した。さらに外層についても、塩化物イオン濃度を電量滴定法により測定した。なお、塩化物イオンと亜硝酸イオンの定量は、後藤らが提案した、迅速測定法(後藤年芳・近藤英彦・野島昭二:硬化コンクリート中の全塩化物イオン濃度迅速測定法の開発,コンクリート工学年次論文集,Vol.32,No.1,2010)に準じて、可溶性塩化物イオン及び亜硝酸イオンを試料から溶出し、イオン分析計を用いて測定した。結果を表1に示す。
[実施例2]
実施例1において、内層に用いる不織布Aに代えて親水性不織布Bを用いた他は同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1において、内層に用いる不織布Aに代えて高吸水性不織布Cを用いた他は同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1において、内層に用いる不織布Aに代えて高吸水性不織布Dを用いた他は同様にして試験を行った。結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例1の内層の調製において、水に代えて、ポリビニルアルコールの5質量%水溶液を用いた他は同様にして試験を行った。結果を実施例1とともに表2に示す。
[実施例6]
実施例2の内層の調製において、水に代えて、ポリビニルアルコールの5質量%水溶液を用いた他は同様にして試験を行った。結果を実施例2とともに表3に示す。
[実施例7]
実施例3において、外層の調整に用いる亜硝酸型ハイドロカルマイトに代えて、水酸基型ハイドロカルマイトを使用した他は同様にして外層を調製した他は同様にして、乾湿試験を施し、コンクリート躯体の深さ方向の塩化物イオン濃度、及び外層中の塩化物イオン濃度を測定した。結果、実施例3と同程度に、コンクリート躯体中の塩化物イオン濃度の低下、及び外層への塩化物イオンの移行を確認した。
[実施例8]
実施例3において、不織布Aに代わる保水性柔軟材料として、縦100mm、横100mm、厚さ3mmのメラミン樹脂発泡体を用いるほかは同様にして内層を調製し、同様の試験を行った。結果、実施例3と同程度に、コンクリート躯体中の塩化物イオン濃度の低下及びコンクリート躯体中への亜硝酸イオンの移行、並びに外層への塩化物イオンの移行を確認した。
[実施例9]
外層の調製に際し、セメント、亜硝酸型ハイドロカルマイト、及び水の配合物を型枠に流し込み、その硬化途中の配合物水平面上に不織布Bを載置し、硬化・養生を継続することにより、不織布の断面垂直方向に部分的にセメント成分が浸透・硬化してなる、外層と内層とが一体化した被覆用部材を作成した。
かくして得られた部材の内層側を水に浸漬させたのち、コンクリート躯体に重ね合わせ、実施例2と同様の乾湿試験に供した。結果、実施例2と同程度に、塩化物イオンと亜硝酸イオンの交換が生じていることを確認した。
[実施例10]
実施例2において、外層に用いたセメント硬化体の平板の水平表面に約1mm厚のセメントペースト(セメント糊)を塗装し、その硬化前に不織布Bをあてがい、硬化させることにより、外層と内層とが一体化した被覆用部材を作成した。
かくして得られた部材の内層側を水に浸漬させたのち、コンクリート躯体に重ね合わせ、実施例2と同様の乾湿試験に供した。結果、実施例2と同程度に、塩化物イオンと亜硝酸イオンの交換が生じていることを確認した。
[実施例11]
エポキシプレポリマーとハイドロカルマイトを混合し、次いで硬化剤を加え混合する。その後、速やかにその混合物を水平に載置した縦100mm、横100mmの型枠に深さ10mmまで流し込み硬化させる。なお、その硬化途中で、不織布Bを硬化途中の配合物水平面上に不織布Bを載置し、硬化を継続させることにより、エポキシ樹脂硬化体の外層と不織布の内層とが一体化した被覆用部材を作成する。
かくして得られる部材の内層側を水に浸漬させたのち、コンクリート躯体に重ね合わせ、実施例2と同様の乾湿試験に供する。内層を介し、塩化物イオンと亜硝酸イオンの交換が生ずる。
以上の試験結果より、以下の事項が明らかである;
イ)塩化物イオンを含有するコンクリート躯体表面に、不織布に水を含浸させた内層を形成し、その内層に重ねて、層状複水酸化物含有の硬化体よりなる外層を積層すると、内層を介して、コンクリート躯体内部の塩化物イオンと層状水酸化物に含まれる陰イオン(亜硝酸イオン、水酸化物イオン)との間で、イオン交換が進む。
ロ)内層を形成する不織布を、親水性不織布又は高吸水性不織布とすると、イ)のイオン交換の度合いが増す傾向にある。そのイオン交換の度合いは不織布自身の保水率と相関している。
ハ)同一の不織布において、内層に含ませる水を、水溶性ポリマーの水溶液にすると、イ)のイオン交換の度合いが増す。
ニ)イ)~ハ)において、乾湿試験後の外層中の塩化物イオン濃度の量の増加に対応して、コンクリート躯体表面近傍の塩化物イオン濃度が減少し、同時に亜硝酸イオン濃度が増加している。
本発明の「鉄筋コンクリート構造物の被覆構造」は、新設・既設を問わず、鉄筋コンクリート構造物に適用可能な耐塩性付与手段となる。特に、本発明の「鉄筋コンクリート構造物被覆用部材」は上記被覆構造の形成のための施工期間を短縮できる。加えて、上記部材は必要に応じ随時交換できるため、同部材を駆使する工法は、鉄筋コンクリート構造物の長寿命化に資するところが大きく、産業上の利用価値が極めて高い。
1 鉄筋コンクリート構造物
2 外層
3 内層
4 鉄筋コンクリート構造物被覆用部材、被覆用部材
41 部材外層
42 部材内層
43 防水性塗膜層、撥水性塗膜層
5 固定具
51 ボルト
52 インサート
53 ナット
54 座金
55 ゴムパッキン
6 緩衝体、補強体
7 シール材
10 試験体
11 コンクリート躯体
12 試験体外層、外層
13 試験体内層、内層

Claims (6)

  1. ビス又はねじにより、鉄筋コンクリート構造物に固定される鉄筋コンクリート構造物被覆用部材であって、
    前記鉄筋コンクリート構造物被覆用部材は、
    鉄筋コンクリート構造物の表面に密着させる部材内層と、前記部材内層に積層する部材外層を備え、
    前記部材内層は、
    i)JIS L 1913:2010(一般不織布試験方法 6.9.2保水率)により測定の保水率が730%以上の不織布、
    又は、
    ii)セルロース系(パルプ系)、レーヨン系、又はポリアクリル酸系の、不織布よりなり、
    前記部材外層はハイドロカルマイトを含有するセメント硬化体よりなる、鉄筋コンクリート構造物被覆用部材。
  2. 前記部材外層の外気側に、さらに、防水性又は撥水性の塗膜層を積層させた、請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物被覆用部材。
  3. 前記ハイドロカルマイトは亜硝酸型ハイドロカルマイトである、請求項1~2のいずれか一項に記載の鉄筋コンクリート構造物被覆用部材。
  4. 前記部材内層を水又は水溶性ポリマーの水溶液にて含浸させた請求項1~3のいずれか一項に記載の鉄筋コンクリート構造物被覆用部材にて、前記部材内層が前記鉄筋コンクリート構造物表面に密着する態様にて前記鉄筋コンクリート構造物の表面を被覆し、該鉄筋コンクリート構造物被覆用部材をビス又はねじにより、該鉄筋コンクリート構造物に固定する、鉄筋コンクリート構造物の塩害抑止工法。
  5. 鉄筋コンクリート構造物の表面に被覆された請求項1~3のいずれか一項に記載の鉄筋コンクリート構造物被覆用部材を、経年後前記鉄筋コンクリート構造物より取り外し、新品の前記鉄筋コンクリート構造物被覆用部材にて交換する、鉄筋コンクリート構造物の耐塩性維持工法。
  6. 鉄筋コンクリート構造物であって、前記鉄筋コンクリート構造物は、鉄筋コンクリート構造物被覆用部材にて表面が被覆されており、かつ、前記鉄筋コンクリート構造物被覆用部材は、ビス又はねじにより、鉄筋コンクリート構造物に固定されており、
    前記鉄筋コンクリート構造物被覆用部材は、前記鉄筋コンクリート構造物の表面に積層する部材内層と、前記部材内層に積層する部材外層とを備え、
    前記部材内層は、水又は水溶性ポリマーの水溶液が含浸している、
    i)JIS L 1913:2010(一般不織布試験方法 6.9.2保水率)により測定の保水率が730%以上の不織布、
    又は、
    ii)セルロース系(パルプ系)、レーヨン系、又はポリアクリル酸系の、不織布よりなり、
    前記部材外層はハイドロカルマイトを含有するセメント硬化体よりなっている、鉄筋コンクリート構造物。
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