JP7482053B2 - 摺動部材及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、摺動部材及びその製造方法に関する。
摺動部材は、相手部材と摺動する摺動面側に樹脂層を備えるものがある。この樹脂層は、摩擦抵抗の低減のために、一般に摩擦係数の小さな樹脂が用いられる。一方、樹脂は、金属に比較して耐摩耗性が低いことから、種々の添加材を加えることで耐摩耗性の改善が図られている。特許文献1の場合、へき開性を有する無機物を樹脂に添加することにより、定常的な摩耗時における摩擦係数の上昇を抑えつつ耐摩耗性の向上を図っている。
このような添加材は、樹脂層を形成する基材となる樹脂に均一に分散している。添加材が樹脂に対して均一に分散することにより、樹脂層の摩擦係数及び耐摩耗の向上が図られる。しかしながら、添加材の均一な分散が必ずしも摩擦係数の低減と耐摩耗性との最適値とならず、樹脂層の性能が十分に発揮されていないという問題がある。
特開2013-194104号公報
そこで、樹脂層において添加材の分散を制御することにより、摩擦係数の低減と耐摩耗性とを高度に両立し、樹脂層の性能を向上する摺動部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するための本実施形態の摺動部材は、相手部材と摺動する摺動面側に樹脂層を備える。前記樹脂層は、ポリテトラフルオロエチレン及び添加材を有し、他の領域よりも前記ポリテトラフルオロエチレンの濃度が高いリッチ領域が前記樹脂層の厚さ方向へ複数形成されている。
樹脂層は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及び添加材を有する。これらのPTFEと添加材とを不均一に分散させることにより、樹脂層は他の領域よりもPTFEの濃度が高いリッチ領域を有する。つまり、PTFEと添加材とを不均一に分散させると、樹脂層は他の領域に比較して添加材の濃度が低くPTFEの濃度が高くなるリッチ領域が形成される。そして、本実施形態では、樹脂層は、このリッチ領域が樹脂層の厚さ方向へ複数形成されている。つまり、本実施形態では、樹脂層は、厚さ方向へPTFEの濃度が変化する領域を複数有している。これにより、PTFEの濃度が高いリッチ領域は、PTFEの本来的な性能である摩擦係数の低下に寄与する。そして、リッチ領域は、PTFEの濃度が高いことから、摩擦係数を大きく低減する。一方、リッチ領域以外の樹脂層は、PTFEに比較して添加材が豊富に含まれている。そのため、リッチ領域以外の樹脂層は、樹脂層の強度の向上に寄与する。つまり、本実施形態では、樹脂層において意図的にPTFEと添加材とが不均一に分布することにより、樹脂層はPTFEの濃淡が形成される。そして、この意図的なPTFEの濃淡によって、摩擦係数の低減と耐摩耗性とが高度に両立される。したがって、樹脂層の性能を十分に発揮することができ、摩擦係数の低減と耐摩耗性とを両立して達成することができる。
本実施形態では、前記樹脂層は、前記リッチ領域を10~50vol%含む。
また、本実施形態では、前記樹脂層は、前記リッチ領域が前記樹脂層の厚さ方向へ層状に形成されている。
さらに、本実施形態では、前記樹脂層は、前記相手部材の摺動方向と垂直な板厚方向の断面における任意の観察視野において、前記リッチ領域のアスペクト比の平均値が10~65である。
本実施形態では、前記観察視野において、前記リッチ領域は、短軸及び前記短軸に垂直な長軸を有し、前記短軸の長さが0.7~32μmである。
これらにより、安定した摩擦係数の低減と耐摩耗性とを両立して達成することができる。
本実施形態では、前記樹脂層において、リッチ領域割合R(%)は、樹脂層深さ位置Pによって異なっている。
この場合、前記リッチ領域割合R(%)は、前記樹脂深さ位置Pが0<P<100の少なくとも一部の範囲において、P=100における値よりも大きくなる。
また、前記リッチ領域割合R(%)は、前記樹脂層深さ位置Pが40≦P≦70の領域で最大値となる。
これらにより、さらなる安定した摩擦係数の低減と耐摩耗性とを両立して達成することができる。
本実施形態の摺動部材の製造方法では、形成された前記樹脂層を、端面から厚さ方向へ少なくとも一部を除去する工程を含む。
これにより、摺動部材は、形成された樹脂層の端面だけでなく、端面から厚さ方向へ一部を削除した面を摺動面として用いることができる。
一実施形態による摺動部材を示す模式的な断面図 一実施形態による摺動部材の要部を拡大した顕微鏡画像に基づく概略的な断面図 一実施形態による摺動部材を示す模式的な斜視図 一実施形態による摺動部材を示す模式的な断面図 一実施形態による摺動部材において、樹脂深さ位置PがP=nにおけるリッチ領域割合R(%)を説明するための模式図 一実施形態による摺動部材において、樹脂深さ位置Pとリッチ領域割合R(%)との関係を示す概略図 一実施形態による摺動部材の試験条件を示す概略図 一実施形態による摺動部材の実施例及び比較例の試験結果を示す概略図 一実施形態による摺動部材の実施例の試験結果を示す概略図 一実施形態による摺動部材において、樹脂深さ位置PがP=30まで樹脂層を削除することを説明するための模式図 一実施形態による摺動部材の実施例において、樹脂深さ位置Pとリッチ領域割合R(%)との関係を示す概略図 図11に基づいて作成したグラフ
以下、一実施形態による摺動部材を図面に基づいて説明する。
図1に示すように摺動部材10は、樹脂層11、中間層12及び裏金層13を備えている。樹脂層11は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及び添加材を有している。中間層12は、樹脂層11と裏金層13との間に設けられている。中間層12は、例えば銅などの金属粒子14を焼結した多孔性の層である。樹脂層11は、この多孔性の中間層12の裏金層13と反対側に形成されるとともに、中間層12に含浸される。これにより、樹脂層11は、中間層12に含浸しつつ、一部が裏金層13に達している。裏金層13は、例えば鉄や鋼などの金属又は合金で形成されている。摺動部材10は、樹脂層11の表面、つまり樹脂層11の裏金層13と反対側に端面15を有している。摺動部材10は、樹脂層11の端面15、又は樹脂層11を厚さ方向へ一部除去することで露出した面を、摺動面16として用いる。つまり、樹脂層11は、そのまま用いる場合、端面15が摺動面16となる。また、樹脂層11は、厚さ方向で一部を除去する場合、除去した後に露出した面を、摺動面16として用いることもできる。図1の場合、樹脂層11は形成時の厚さを維持しており、端面15と摺動面16とは一致している。
樹脂層11は、上述のようにPTFE及び添加材を有している。樹脂層11は、リッチ領域21を有している。リッチ領域21は、樹脂層11の他の領域と比較してPTFEの濃度が高い領域である。つまり、樹脂層11は、PTFE及び添加材の濃度に分布が形成されており、その内部においてPTFEの濃度が相対的に高い部分をリッチ領域21として含んでいる。本実施形態の場合、リッチ領域21は、他の領域よりもPTFEの濃度が3mass%以上高い、つまり3mass%以上濃化している領域と定義している。この場合、リッチ領域21におけるPTFEの濃度は、80mass%~100mass%であることが好ましい。一例として、リッチ領域21におけるPTFEの濃度は93mass%であり、他の領域におけるPTFEの濃度は90mass%である。樹脂層11は、このリッチ領域21を、10~50vol%含んでおり、20~45vol%含むことがより好ましい。リッチ領域21は、樹脂層11の厚さ方向へ複数形成されている。このように、本実施形態の摺動部材10は、樹脂層11においてPTFEと添加材とが均一ではなく、PTFEの濃度が高いリッチ領域21が存在している。図2に示すように、樹脂層11は、その厚さ方向へ層状に形成された複数のリッチ領域21を有している。つまり、樹脂層11は、厚さ方向へリッチ領域21とその他の領域とが交互に層状に重なった状態となっている。なお、図2では、簡単のため、リッチ領域21の一部にのみ符号を付しており、ハッチングを付していない部分がリッチ領域21である。
リッチ領域21は、任意の観察視野において、アスペクト比の平均値が10~65である。このリッチ領域21のアスペクト比は、20~50であることがより好ましい。アスペクト比は、リッチ領域21の長軸の長さ/短軸の長さで算出される。観察視野は、摺動部材10と相手部材とが摺動する摺動方向に対して垂直であって、樹脂層11を厚さ方向へ切断した断面に設定される。つまり、摺動部材10を図3に示すような半円筒状又は円筒状に形成する場合、摺動部材10は、内周面が摺動面16であり、周方向が摺動方向となる。したがって、観察視野は、図3のAに相当する位置に設定される。また、摺動部材10は、適用する対象によって軸方向つまり図3のX-Y方向に摺動してもよい。観察視野は、例えば200μm×200μmに設定される。
この観察視野において、リッチ領域21は、図1及び図2に示すようにアスペクト比が上記のような扁平な形状となる。そして、リッチ領域21は、この観察視野における扁平な形状から、短軸及び長軸を有している。短軸と長軸とは互いに垂直である。リッチ領域21は、短軸の長さが0.7~32μmであり、1~20μmであることがより好ましい。このように、リッチ領域21は、観察視野において扁平な形状を呈している。また、リッチ領域21のアスペクト比は、観察視野に垂直な方向の断面で観察視野より小さくなっている。つまり、リッチ領域21は、摺動面16から見たとき扁平な長片形状となる。
添加材は、樹脂層11に分散している。本実施形態の場合、樹脂層11は、相対的にPTFEの濃度の高いリッチ領域21を含んでいる。そのため、樹脂層11に含まれる添加材は、リッチ領域21において、周囲と比較して相対的な濃度が低下する。樹脂層11に含まれる添加材は、樹脂層11の耐摩耗性の向上に寄与する。添加材は、モース硬度が3~6程度であることが好ましい。特に、添加材は、相手部材に近い硬度であることが好ましい。相手部材として例えば鉄を用いる場合、添加材のモース硬度は5~6程度に設定することが好ましい。添加材は、例えばフッ化カルシウム、酸化チタン、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、二硫化モリブデン及び硫化亜鉛などの無機化合物が用いられる。添加材は、これら無機化合物を1種又は2種以上が混合して用いられる。添加材は、その粒径が0.3~5μm程度であることが好ましい。添加材の粒径が過剰に小さくなると、添加材に凝集が生じやすくなる。そのため、粒径が過剰に小さな添加材は、樹脂層11におけるリッチ領域21の形成を妨げる。また、添加材の粒径が過剰に大きくなると、添加材がリッチ領域21へ食い込みやすくなる。そのため、粒径が過剰に大きな添加材は、樹脂層11におけるリッチ領域21の形成を妨げる。
本実施形態の摺動部材10は、上述の観察視野において、樹脂深さ位置Pを定義している。樹脂深さ位置Pは、観察視野における樹脂層11の厚さ方向に定義される。樹脂層11は、層状に形成されることから、厚さ方向へ2つの端部を有している。具体的には、樹脂層11は、相手部材側の端部と、その反対側の裏金層13側の端部とを有している。本実施形態の場合、樹脂層11は、図4に示すように裏金層13と反対側に、相手部材側の端部である端面15を有している。この端面15は、図4に示す例の場合、摺動面16を形成する。
ここで、樹脂深さ位置Pは、樹脂層11の端面15をP=0と定義する。また、樹脂深さ位置Pは、樹脂層11の板厚方向において端面15と反対側の端部をP=100と定義する。本実施形態のように、中間層12を備える摺動部材10の場合、樹脂深さ位置PがP=100となる位置は、樹脂層11において中間層12との境界部である。本実施形態のように、樹脂層11が中間層12を構成する金属粒子14に含浸している場合、図4に示すように樹脂層11において金属粒子14に最も近い樹脂深さ位置Pを、P=100とする。
また、この観察視野において、仮想直線Lを設定する。この仮想直線Lは、樹脂層11の厚さ方向に垂直である。つまり、仮想直線Lは、観察視野において端面15と平行である。このように、仮想直線Lは、樹脂深さ位置Pが0≦P≦100となる範囲において、樹脂層11の厚さ方向と垂直、つまり端面15と平行に設定される。例えば、図4に示すように樹脂深さ位置PがP=50のとき、仮想直線LはこのP=50において樹脂層11の厚さ方向と垂直に設定される。
樹脂層11のリッチ領域21は、この仮想直線L上において、連続的又は断続的に位置する。つまり、図5に示すように樹脂層11は、P=n(0≦n≦100)の仮想直線L上において、リッチ領域21とそれ以外の領域とを有している。ここで、この仮想直線L上におけるリッチ領域の割合は、リッチ領域割合R(%)として算出される。リッチ領域割合R(%)は、仮想直線L上における樹脂層11の全長をD1とし、この仮想直線L上におけるリッチ領域21の長さの総和をD2としたとき、R(%)=D2/D1×100で算出される。
具体的な一例として、図5に示す例の場合、仮想直線L上には、6つのリッチ領域21が存在する。仮想直線Lの長さ方向において、これらリッチ領域21の長さをそれぞれd1、d2、d3、d4、d5、d6としたとき、その総和D2は、D2=d1+d2+d3+d4+d5+d6として算出される。そして、リッチ領域割合R(%)は、観察視野の仮想直線L上における樹脂層11の全長であるD1、及びリッチ領域21の長さの総和D2から、R=D2/D1×100として算出される。なお、図5は、説明のための例示であり、仮想直線L上におけるリッチ領域21は、当然ながら6つより多くなることもあり、6つより少なくなることもある。
このようにリッチ領域割合R(%)を定義すると、リッチ領域割合R(%)は、図6に示すように樹脂深さ位置Pによって異なっている。そして、リッチ領域割合R(%)は、樹脂深さ位置Pが0<P<100の少なくとも一部の範囲において、P=100における値Rhよりも大きくなっている。換言すると、リッチ領域割合R(%)は、樹脂深さ位置Pが0<P<100の範囲において、P=100の値Rhよりも大きな最大値Rpが存在する。例えば図6に示すように、リッチ領域割合R(%)は、樹脂深さ位置Pが0から100の間に、P=100における値Rhよりも大きな最大値Rpを含んでいる。この場合、リッチ領域割合R(%)は、樹脂深さ位置Pが40≦P≦70の領域で最大値Rpとなることが好ましい。
次に、上記の構成による樹脂層11の製造方法について説明する。
樹脂層11の形成に先立って、PTFEと添加材とが撹拌及び混合される。樹脂層11を形成するPTFEは、造粒された粉体であるファインパウダーが用いられる。このファインパウダーのPTFEは、平均粒径が300~800μmである。このように、ファインパウダーのPTFEは、その粒径が0.3~5μm程度の添加材に比較して十分に大きな寸法を有している。そのため、樹脂層11を形成するPTFEと添加材とを粉体の状態で混合すると、PTFEの粒子の表面を覆うように微細な添加材の粉末が付着する。得られた固体混合物は、石油系の溶剤に投入される。この場合、PTFE及び添加材の固体混合物100質量%に対して、溶剤は25質量%加えられる。なお、これら固体混合物と溶剤との混合重量比は、任意に変更することができる。PTFE及び添加材の固体混合物は、溶剤を投入することにより、溶剤で湿潤した状態の湿潤混合物となる
湿潤混合物は、裏金層13に中間層12が積層された基材に塗布される。このとき、湿潤混合物は、例えばローラなどで所定の圧力を加えながら基材に塗布される。これにより、基材の表面は、湿潤混合物で被覆された状態となる。このように湿潤混合物に圧力を加えながら基材に塗布することにより、固体混合物に含まれるPTFEの粒子は表面に添加材が付着した状態で押し広げられる。ローラなどによる圧力を調整することにより、PTFEの粒子が押し広げられる方向が決定される。このように、添加材が付着した状態でPTFEの粒子を押し広げることにより、PTFEの粒子と粒子との間に添加材が挟まれた状態となる。その結果、被覆された湿潤混合物の層は、PTFEの濃度の高いリッチ領域21が厚さ方向で複数の層状に重なった状態となる。湿潤混合物で被覆された基材は、加熱によって湿潤混合物に含まれる溶剤が除去される。溶剤が除去され後、焼成することにより、樹脂層11は基材に定着する。樹脂層11が形成された基材は、例えば円筒状や半円筒状に成形され、摺動部材10として用いられる。
上記の手順によって形成された摺動部材10は、樹脂層11が相手部材と対向する状態で用いられる。この場合、樹脂層11は、形成された厚さのまま用いることができる。この場合、樹脂層11の端面15は、摺動面16となる。また、樹脂層11は、形成された後に、端面15から一部を除去して用いてもよい。樹脂層11は、例えば端面15から厚さ方向へ10~50%程度が除去される。この場合、樹脂層11は、削除によって露出した面が摺動面16となる。除去は、例えば切削や研磨などの任意の手法で実施される。
次に、上記の一実施形態による摺動部材10の実施例について説明する。
実施例1~実施例16は、本実施形態による摺動部材10である。つまり、実施例1~実施例16は、樹脂層11にリッチ領域21を含んでいる。一方、比較例1及び比較例2は、樹脂層11にリッチ領域21が含まれていない摺動部材である。つまり、比較例1及び比較例2は、従来の摺動部材と同様に樹脂層11を構成するPTFEと添加材とが均一に分布している。
(試験条件)
摺動部材10は、パウデンレーベン式試験機を用いて試験を行なった。試験条件は、図7に示すように6.9Nの荷重を加えた直径8mmのステンレス製の鋼球を、滑り速度5mm/secで試験片上の5mmの距離を20回往復するものとした。そして、20回の往復のうち15~20回の往復時における動摩擦係数の平均値を測定し、測定した平均値は図8~図9に示す動摩擦係数とした。耐摩耗性は、従来例である比較例1及び比較例2と同等の摩耗量となるものを「○」とし、比較例1及び比較例2に対して30%以上摩耗量が減少しているものを「◎」としている。
図8に示す各実施例及び比較例において、平均アスペクト比は、任意の200μm×200μmの観察視野において、樹脂層11に含まれるリッチ領域21を抽出して算出した。このとき、観察視野のリッチ領域21のうち、最大値側の5つ及び最小値側の5つは算出の対象から除外した。観察視野におけるリッチ領域21が増加すると、短軸が長いリッチ領域21が多くなる傾向にある。そのため、観察視野におけるリッチ領域21が増加すると、アスペクト比の平均値は減少する傾向となる。
図8に示すように、樹脂層11にリッチ領域21が含まれる実施例1~実施例11は、比較の対象とした均一な樹脂層を備える比較例1~比較例2と対比すると、耐摩耗性を維持しつつ動摩擦係数が減少していることが分かる。特に、実施例1~実施例11から、動摩擦係数は、リッチ領域21の割合が10~50vol%であるときに低下することが分かる。そして、動摩擦係数は、リッチ領域21の割合が20~45vol%であるときより低下することが分かる。
また、リッチ領域21のアスペクト比は、10~65のときに動摩擦係数の低下に寄与することが分かる。短軸及び長軸を有するリッチ領域21は、短軸の長さが0.7~32μmのときに動摩擦係数の低下に寄与することが分かる。一方、樹脂層11に含まれる添加材は、動摩擦係数の低下への影響が小さいことが分かる。
以上のように、樹脂層11にリッチ領域21を含む本実施形態の摺動部材10は、PTFEと添加材とが均一に分散した従来例の樹脂層と比較して、耐摩耗性を維持しつつ動摩擦係数の低減を図ることができる。
図9に示す実施例12~実施例16については、形成した樹脂層11を樹脂深さ位置PがP=30となる位置まで除去して試験に用いた。つまり、実施例12~実施例16は、図10に示すように樹脂層11をP=30まで除去することにより、P=30をPx=0と再定義した。摺動部材10は、樹脂層11を形成した後、そのまま用いるだけでなく、実施例12~実施例16のように厚さ方向へ一部を除去した状態で用いられる場合がある。つまり、摺動部材10は、樹脂層11の一部を除去することにより、摺動面16へのリッチ領域21の露出が促される。このように、摺動面16にリッチ領域21を露出させることにより、早期の摩擦係数の低減が図られる。
図9に示す実施例12~実施例15は、添加材としてフッ化カルシウムを用いた図8に示す実施例1と同一の構成であり、観察視野が実施例1と異なっている。また、実施例16は、添加材として硫酸バリウムを用いた実施例4と同一の構成であり、観察視野が実施例4と異なっている。また、図10及び図11に示すように、実施例12~実施例16は、樹脂深さ位置PがP=30の位置まで樹脂層11を除去し、樹脂深さ位置PがP=30となる位置をPx=0として再定義している。図11は、樹脂深さ位置Pと樹脂深さ位置Pxとの換算値もあわせて示している。
図9~図12に示すように実施例12~実施例16におけるリッチ領域割合R(%)は、樹脂深さ位置PがP=100以外の範囲において、P=100の値Rhよりも大きくなる。そして、実施例12~実施例16におけるリッチ領域割合R(%)は、樹脂深さ位置Pが40≦P≦70のとき最大値Rpとなる。例えば実施例12の場合、リッチ領域割合R(%)の最大値Rpは、樹脂深さ位置PがP=50のとき、R(%)=70となっており、P=100のR(%)=20よりも大きい。実施例12~実施例16も同様である。また、実施例14は、樹脂深さ位置PがP=40のときR(%)=70、P=65のときR(%)=71と2つのピークを有している。このように、リッチ領域割合R(%)は、樹脂深さ位置Pとの関係において2つ以上のピークを有していてもよい。これら実施例12~実施例16は、図11及び図12に示すようにリッチ領域割合R(%)が樹脂深さ位置Pによって異なっている。つまり、実施例12~実施例16は、樹脂層11の厚さ方向にリッチ領域割合R(%)の分布が生じている。このような実施例12~実施例16は、耐摩耗性を維持しつつ動摩擦係数のさらなる低減を図ることができる。これらのリッチ領域割合R(%)の分布は、上述の各実施例のようにP=30まで切削する場合に限らず、切削量にかかわらず同様の傾向を示す。つまり、樹脂層11の切削量にかかわらず、リッチ領域割合R(%)は、P=100以外の範囲において、P=100の値Rhよりも大きな最大値Rpが存在する。
以上説明した本実施形態の摺動部材10は、樹脂層11に、他の領域よりもPTFEの濃度が高いリッチ領域21を有する。樹脂層11は、このリッチ領域21が樹脂層11の厚さ方向へ複数形成されている。つまり、本実施形態では、樹脂層11は、厚さ方向へPTFEの濃度が変化する領域を複数有している。これにより、PTFEの濃度が高いリッチ領域21は、PTFEの本来的な性能である摩擦係数の低下に寄与する。そして、リッチ領域21は、PTFEの濃度が高いことから、摩擦係数を大きく低減する。一方、リッチ領域21以外の樹脂層11は、PTFEに比較して添加材が豊富に含まれている。そのため、リッチ領域21以外の樹脂層11は、樹脂層11の強度の向上に寄与する。つまり、本実施形態では、樹脂層11において意図的にPTFEと添加材とが不均一に分布することにより、PTFEの濃淡の領域を形成される。そして、この意図的なPTFEの濃淡の領域によって、摩擦係数の低減と耐摩耗性とが適切に両立される。したがって、樹脂層11の性能を十分に発揮することができ、摩擦係数の低減と耐摩耗性とを両立して達成することができる。
また、本実施形態の摺動部材10では、樹脂層11含まれるリッチ領域21はPTFEを高い濃度で含んでいる。PTFEは、導電性が低く、帯電しやすい特性を有している。そのため、樹脂層11に含まれるリッチ領域21を制御することにより、摺動部材10の導電性をはじめとする電気的な特性が制御可能である。したがって、適用する装置にあわせて摺動部材10に要求される電気的な特性を制御することができる。さらに、本実施形態の摺動部材10では、樹脂層11においてリッチ領域21により不連続かつ複雑な境界が多数形成される。つまり、本実施形態の摺動部材10は、樹脂層11において、リッチ領域21とその他の領域との間に複雑な境界を形成する。そのため、複雑な境界によって樹脂層11に加わる力が適度に分散され、樹脂層11における応力も緩和される。その結果、樹脂層11の引っ張り方向及び剥離に対する耐性が向上する。したがって、樹脂層11の強度を向上することができる。
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
実施例12~実施例16では、リッチ領域割合R(%)の算出に用いる樹脂深さ位置Pの刻み幅は「5」に設定した。しかし、この樹脂深さ位置Pの刻み幅は、「5」に限らない。つまり、樹脂深さ位置Pの刻み幅は、樹脂層11の厚さ方向へリッチ領域割合R(%)の分布の傾向が分かる範囲で任意に変更することができる。
図面中、10は摺動部材、11は樹脂層、15は端面、16は摺動面、21はリッチ領域を示す。

Claims (4)

  1. 相手部材と摺動する樹脂層を備える摺動部材であって、
    前記樹脂層は、
    ポリテトラフルオロエチレン及び無機化合物からなる添加材を含有し、
    前記ポリテトラフルオロエチレンの濃度が相対的に高いリッチ領域、及び前記リッチ領域以外の領域であって前記リッチ領域よりも前記ポリテトラフルオロエチレンの濃度が低い他の領域を、有し、
    前記リッチ領域は、前記ポリテトラフルオロエチレンの濃度が80mass%~100mass%であり、前記他の領域よりも前記ポリテトラフルオロエチレンの濃度が3mass%以上高く設定されているとともに、前記樹脂層において、厚さ方向へ複数形成され、前記他の領域との間に不連続かつ複雑な境界を形成して不規則に分布するとともに、
    前記樹脂層において、前記相手部材の摺動方向と垂直な板厚方向の断面における任意の観察視野を設定し、
    前記観察視野の前記樹脂層の厚さ方向において、前記相手部材側の端部を0とし、反対側の端部を100とする樹脂深さ位置Pを定義し、
    前記観察視野において、前記樹脂深さ位置Pにおける前記樹脂層の厚さ方向に垂直な仮想的な仮想直線Lを設定し、前記仮想直線L上において、前記樹脂層の全長をD1とし、前記リッチ領域の長さの総和をD2とし、リッチ領域割合R(%)をR=D2/D1×100と定義したとき、
    前記リッチ領域割合R(%)は、前記樹脂深さ位置Pによって異なっており、
    前記リッチ領域割合R(%)は、前記樹脂深さ位置Pが0<P<100の少なくとも一部の範囲において、P=100における値よりも大きくなるとともに、
    前記リッチ領域割合R(%)は、前記樹脂深さ位置Pが40≦P≦70の領域で最大値となる、摺動部材。
  2. 前記樹脂層は、前記リッチ領域を12~49vol%含むとともに、
    前記観察視野において、前記リッチ領域は、短軸及び前記短軸に垂直な長軸を有し、
    前記短軸の長さが0.7~32μmであり、
    前記リッチ領域のアスペクト比の平均値は、11~49である請求項1記載の摺動部材。
  3. 前記樹脂層は、
    前記リッチ領域が前記樹脂層の厚さ方向へ層状に形成されている請求項1又は2記載の摺動部材。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項記載の摺動部材の製造方法であって、
    前記リッチ領域を含む前記樹脂層を形成する工程と、
    形成された前記樹脂層を、前記樹脂層深さ位置PがP=0となる端面から厚さ方向へ少なくとも一部を除去する工程と、
    を含む摺動部材の製造方法。
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