以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係るモータ駆動制御装置の適用例としての電動パワーステアリングを示す。車両1に搭載される電動パワーステアリング2は、車両1の運転者がステアリング操作を行って、ステアリングホイール3による操舵トルクで一対の操向輪4を転舵させる際に、その操舵トルクをアシストする。
ステアリングホイール3の操作によって発生する操舵トルクは、ステアリングシャフト5とこれに自在継手等を介して連結されたピニオンシャフト6とを経由して、ピニオンシャフト6の先端部に設けられたピニオンギア7に伝達される。伝達された操舵トルクによるピニオンギア7の回転運動は、ピニオンギア7と噛合するラックギア8によって車幅方向の直線運動に変換される。この直線運動によってラックギア8に接続された一対のタイロッド9が作動し、一対のタイロッド9にそれぞれ接続された操向輪4が転舵する。電動パワーステアリング2は、ステアリングホイール3からタイロッド9への操舵トルクの伝達経路に対して、操舵トルクをアシストするアシストトルクを加えるように構成される。
図示の例では、電動パワーステアリング2は、アシストトルクを発生するモータ10と、モータ10の駆動を制御するモータ駆動制御装置であるECU11と、を備える。また、電動パワーステアリング2は、モータ10の出力を減速してラックギア8に伝達する減速機12を備える。さらに、電動パワーステアリング2は、操舵トルクを計測するためのトルクセンサ13、モータ10の回転角度を計測するための回転角センサ14及び車速を計測するための車速センサ15を備える。トルクセンサ13としては、例えば、磁歪式、ひずみゲージ式、圧電式等、種々の検出方式を採用し得る。また、回転角センサ14としては、例えば、ホール素子、レゾルバ、ロータリーエンコーダ等、種々の検出方式を採用し得る。
ECU11は、車載バッテリ16から電源が供給され、トルクセンサ13の出力信号であるトルク信号STと、回転角センサ14の出力信号である回転角信号Sθと、車速センサ15の出力信号である車速信号SVと、を入力する。また、ECU11は、その内部に、モータ10に流れる電流を計測するための電流センサ17を有している。
ECU11は、トルク信号ST、車速信号SV、回転角信号Sθ、及び、電流センサ17の出力信号に基づいて、車両1の運転状態に応じたアシストトルクを発生させるようにモータ10の駆動を制御する。モータ10の発生トルクは減速機12を介してラックギア8へ伝達され、これにより、車両1の運転状態に応じて操舵トルクがアシストされる。
図2は、モータ10及びECU11における要部の一例を示す。
モータ10は、U相コイル10U、V相コイル10V及びW相コイル10Wをステータコイルとして、これらが図示省略のステータに巻き回されて中性点Nで接続されるY結線を有する3相ブラシレスモータである。また、モータ10は、永久磁石回転子として図示省略のロータを備え、このロータの回転軸は、ロータの磁力とステータコイルの発生する磁力との相互作用によってロータが回転するように、ステータ等に軸支されている。ロータの軸出力は、モータ10の発生トルクとして減速機12に伝達される。
ECU11は、電源回路101、昇圧回路102、インバータ103、インバータ駆動回路104、第1電源リレー105、第2電源リレー106、ノイズフィルタ回路107、モータリレー108~110、第1ドライバ111、第2ドライバ112、第3ドライバ113、ゲート-ソース間抵抗114、ゲート過電圧保護素子115、マイクロコンピュータ116、及び、アクティブクランプ回路117を備える。
電源回路101は、イグニッションスイッチIGNを介して車載バッテリ16に接続され、イグニッションスイッチIGNがオン状態であるときに、車載バッテリ16の出力電圧をECU11の各部で必要となる動作電圧に調整(降圧)して供給する。
昇圧回路102は、正極側電源線118を介して車載バッテリ16の正極に接続され、車載バッテリ16の出力電圧を、第1~第3ドライバ111~113、インバータ駆動回路104等で必要となる動作電圧に昇圧して供給する。
インバータ103は、正極側電源線118と車両1のボディアース(以下、単に「グランド」という)を介して車載バッテリ16の負極に接続された負極側電源線119との間に設けられる。このインバータ103は、車載バッテリ16の直流出力を交流に変換して、U相コイル10U、V相コイル10V及びW相コイル10Wへ供給する。インバータ駆動回路104は、インバータ103に備えられた後述のスイッチング素子を駆動するための駆動信号を生成する回路であり、駆動信号の生成の際に、昇圧回路102で出力された昇圧電圧を用いている。ここで、インバータ103及びインバータ駆動回路104について、これらの内部構成を示した図3を参照して詳しく説明する。
図3に示すように、インバータ103では、正極側電源線118に接続された正極側母線103Pと負極側電源線119に接続された負極側母線103Nとの間に、U相アーム、V相アーム及びW相アームが並列に接続される。U相アームは上段スイッチング素子103UHと下段スイッチング素子103ULとが直列接続されて構成される。V相アームは上段スイッチング素子103VHと下段スイッチング素子103VLとが直列接続されて構成される。W相アームは上段スイッチング素子103WHと下段スイッチング素子103WLとが直列接続されて構成される。そして、インバータ103の各相アームにおける2つのスイッチング素子間は、モータ10の対応する位相のコイルに接続されて、3相ブリッジ回路が構成されている。具体的には、U相アームの2つのスイッチング素子103UH,103UL間はU相コイル10Uの端部に接続され、V相アームの2つのスイッチング素子103VH,103VL間はV相コイル10Vの端部に接続され、W相アームの2つのスイッチング素子103WH,103WL間はW相コイル10Wの端部に接続される。
スイッチング素子103UH,103UL,103VH,103VL,103WH,103WLは(以下「103UH~103WL」と略記する)、外部から制御可能な制御端子を有する半導体素子であり、逆起電力を車載バッテリ16へ還流させるために逆並列のダイオードDを有している。スイッチング素子103UH~103WLとしては、例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Metal Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等があげられる。以下、スイッチング素子103UH~103WLはNチャネルMOSFETであるものとし、ダイオードDは、MOSFETの製造過程でドレイン-ソース間に形成される寄生ダイオードであるものとして説明する。
また、図3に示すように、インバータ駆動回路104は、スイッチング素子103UH~103WLのそれぞれについて駆動信号を生成する複数のドライバで構成される。すなわち、インバータ駆動回路104は、スイッチング素子103UHの駆動信号を生成するU相上段ドライバ104UH、スイッチング素子103ULの駆動信号を生成するU相下段ドライバ104UL、スイッチング素子103VHの駆動信号を生成するV相上段ドライバ104VH、スイッチング素子103VLの駆動信号を生成するV相下段ドライバ104VL、スイッチング素子103WHの駆動信号を生成するW相上段ドライバ104WH、及び、スイッチング素子103WLの駆動信号を生成するW相下段ドライバ104WLで構成される。各ドライバは、マイクロコンピュータ116から出力された制御信号に基づいて、スイッチング素子103UH~103WLをオン駆動またはオフ駆動させる駆動信号を生成する。この駆動信号には、スイッチング素子103UH~103WLをターンオンさせることができるように、昇圧回路102から出力された昇圧電圧が用いられる。
再び図2を参照すると、第1電源リレー105及び第2電源リレー106は正極側電源線118に配置される。第1電源リレー105及び第2電源リレー106は、外部から制御可能な制御端子を有する半導体素子であり、第1電源リレー105はダイオードD1を有し、第2電源リレー106はダイオードD2を有している。以下、第1電源リレー105及び第2電源リレー106はNチャネルMOSFETであり、ダイオードD1,D2は寄生ダイオードであるものとする。
第1電源リレー105は、モータ駆動制御の停止や電動パワーステアリングの異常時等に、車載バッテリ16からインバータ103への出力電圧の供給を遮断するものである。第1電源リレー105は、そのダイオードD1が逆起電力を車載バッテリ16へ還流させるための逆並列の還流ダイオードとして機能するように、ダイオードD1の順方向を電流がインバータ103から車載バッテリ16へ流れる方向にして配置される。
第2電源リレー106は、車載バッテリ16が逆接続されたときの短絡電流を遮断するものである。具体的には、第2電源リレー106は、逆接続時に、車載バッテリ16の正極と負極とを、グランド、スイッチング素子103UH~103WLのダイオードD、及び、第1電源リレー105のダイオードD1を介して導通する閉回路を遮断するものである。このため、第2電源リレー106は、そのダイオードD2がインバータ103から車載バッテリ16へ戻る電流を遮断するように、ダイオードD2の順方向を電流が車載バッテリ16からインバータ103へ流れる方向にして配置される。
ノイズフィルタ回路107は、第1電源リレー105及び第2電源リレー106のいずれよりもインバータ103側の正極側電源線118に配置されて、正極側電源線118における伝導性ノイズを除去するものである。ノイズフィルタ回路107は、例えば、コイルの両端に、グランドと接続されたコンデンサが接続されたπ型LC回路等として構成される。
モータリレー108~110はステータコイル10U,10V,10Wと中性点Nとの間の第1通電線L1に配置される。具体的には、U相コイル10Uと中性点Nとの間の第1通電線L1にU相モータリレー108が配置され、V相コイル10Vと中性点Nとの間の第1通電線L1にV相モータリレー109が配置され、W相コイル10Wと中性点Nとの間の第1通電線L1にW相モータリレー110が配置される。モータリレー108~110は、外部から制御可能な制御端子を有する半導体素子であり、それぞれダイオードD3を有している。モータリレー108~110は、インバータ103のスイッチング素子103UH~103WLに短絡故障が発生したときに、ステータコイル10U,10V,10Wに流れる短絡電流により発生する電気ブレーキを抑制すべく、相電流を遮断するものである。以下、モータリレー108~110は、NチャネルMOSFETであり、ダイオードD3は寄生ダイオードであるものとする。NチャネルMOSFETであるモータリレー108~110は、そのダイオードD3が同相のコイルから中性点Nを介して他の位相のコイルへ流れる電流を遮断するように、ソース端子が中性点Nに接続され、ドレイン端子が同相のコイルに接続されて、配置される。
第1ドライバ111は、第1電源リレー105の制御端子へ駆動信号を出力し、第2ドライバ112は、第2電源リレー106の制御端子へ駆動信号を出力する。第3ドライバ113は、信号線120と、これから各モータリレーに向けて分岐する、U相信号線120U、V相信号線120V、W相信号線120Wとを介して、モータリレー108~110の制御端子へ駆動信号を出力する。各ドライバはそれぞれ、マイクロコンピュータ116から出力された制御信号に基づいて、昇圧回路102から出力された昇圧電圧を用いつつ、第1電源リレー105、第2電源リレー106、モータリレー108~110の駆動信号を生成する。
ゲート-ソース間抵抗114は、3つのモータリレー108~110に共通して1つ設けられ、信号線120と中性点Nとを接続して設けられる。また、ゲート過電圧保護素子115は、カソードが信号線120に接続され、アノードが中性点Nに接続されたツェナーダイオードとして設けられる。
マイクロコンピュータ116は、CPU(Central Processing Unit)等の演算手段、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶手段、I/Oポート等の入出力インターフェースが内部バスで通信可能に接続されて構成されている。
マイクロコンピュータ116は、トルク信号STから操舵トルクを計測し、車速信号SVから車速を計測し、これらの計測値に基づいてアシストトルクの目標値(目標トルク)を算出する。また、マイクロコンピュータ116は、回転角信号Sθからモータ10の回転角度を計測するとともに電流センサ17の出力信号である電流信号Siからモータ10に流れる電流を計測して、これらの計測値からモータ10の発生トルクに寄与する電流成分(q軸電流)を算出する。そして、マイクロコンピュータ116は、モータ10の発生トルクに寄与する電流成分が目標トルクに相当する電流(目標電流)に近づくように電流フィードバック制御を行う。例えば、マイクロコンピュータ116は、PID制御等によって、目標電流とq軸電流との偏差に基づいて、三角波等のキャリア信号と比較するための指令信号の電圧値を算出する。そして、マイクロコンピュータ116は、電圧値を算出した指令信号とキャリア信号とを比較してPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成し、このPWM信号を制御信号として、インバータ駆動回路104を構成する各ドライバへ出力する。
また、マイクロコンピュータ116は、インバータ駆動回路104、第1ドライバ111、第2ドライバ112及び第3ドライバ113へ制御信号を出力する。マイクロコンピュータ116は、モータ10の駆動制御を行っているときには、第1電源リレー105、第2電源リレー106、モータリレー108~110をオン状態にする制御信号を、第1ドライバ111、第2ドライバ112、第3ドライバ113へ出力する。この状態で、マイクロコンピュータ116は、目標電流とq軸電流との偏差に応じた制御信号をインバータ駆動回路104へ出力する。一方、マイクロコンピュータ116は、モータ10の駆動制御を停止しているときには、第1電源リレー105、第2電源リレー106、モータリレー108~110をオフ状態にする制御信号を、第1ドライバ111、第2ドライバ112、第3ドライバ113へ出力する。
アクティブクランプ回路117は、モータリレー108~110のドレイン-ソース間電圧が、モータ10に発生する逆起電圧によって各リレー固有のドレイン-ソース間耐圧を超えないようにして、モータリレー108~110を保護するものである。モータ10に発生する逆起電圧としては、以下のようなものが想定される。例えば、車載バッテリ16の取り外し時や第1電源リレー105及び第2電源リレー106のオフ状態で、整備中にタイヤを手で動かしたとき等、モータ10が外力により回されたときに発生する逆起電圧が想定される。あるいは、例えば、凹凸路の走行中にECU11の回路系の異常検出に応じてモータリレー108~110をオフ操作したとき等、モータ10を高回転速度で駆動中にモータリレー108~110をオフ操作したときに発生する逆起電圧が想定される。
アクティブクランプ回路117は、信号線120とグランドとを接続するグランド線121に設けられる。具体的には、グランド線121において、信号線120からグランドへ電流が流れる方向を順方向とするツェナーダイオード122が配置されている。また、グランド線121において、グランドから信号線120へ電流が流れる方向を順方向とするダイオード123が配置されている。このダイオード123は、第3ドライバ113から信号線120を介してモータリレー108~110に駆動信号が出力されたときに、グランド線121を介して信号線120からグランドへ電流が流れないようにしている。
ところで、アクティブクランプ回路117に代えて、モータリレー108~110のゲート-ドレイン間に別のアクティブクランプ回路を形成することも回路図上では可能である。しかし、図4に示すように、モータリレー108~110を1つのリレーパッケージ124にパッケージ化して、このリレーパッケージ124をECU11のインバータ103等が形成されるPCB(Printed Circuit Board)等の回路基板125上に実装したときに、上記別のアクティブクランプ回路を形成することが困難となる場合がある。
例えば、リレーパッケージ124のうちモータコイル10U,10V,10Wと電気的に接続される外部端子126が、溶接等の接合による熱的影響の低減や基板面積増大の抑制等を考慮して、回路基板125を介さずに(回路基板125から離間して)モータコイル10U,10V,10Wに接合される場合が考えられる。この場合、リレーパッケージ124のうち回路基板125と接続される外部端子126は、内蔵するモータリレー108~110のソース端子s及びゲート端子gに内部接続されることになる。このため、モータリレー108~110のソース端子s及びゲート端子gは外部端子126を介して回路基板125上にパターン(導体)として現れる。一方、リレーパッケージ124のうちモータコイル10U,10V,10Wと接続される外部端子126は、内蔵するモータリレー108~110のドレイン端子dに内部接続されることになる。したがって、モータリレー108~110のドレイン端子dは外部端子126を介して回路基板125上にパターンとして現れないため、モータリレー108~110のゲート-ドレイン間に設けられる上記別のアクティブクランプ回路の構成素子を回路基板125上に実装することは困難となる。このように回路基板125上にモータリレー108~110のドレイン端子dがパターンとして現れない場合でもアクティブクランプ回路117の構成素子を回路基板125上に実装できるようにするため、上記のように、アクティブクランプ回路117をグランド線121に設けている。ここで、アクティブクランプ回路117による作用を理解しやすくするために、先ず図8を参照して、従来のECU、すなわち、アクティブクランプ回路117を備えていないと仮定したECU11の動作について説明する。
図8は、アクティブクランプ回路117を備えていないと仮定したECU11において、モータ10の非駆動制御時に外力によりモータ10(ロータ)が一定の回転速度で回転したときの各部電圧波形の一例を示している。なお、第1実施形態において、グランド電位(例えば零ボルト)より高い正の逆起電圧が発生しているコイルでは中性点Nへ流れる電流を発生させることができ、グランド電位より低い負の逆起電圧が発生しているコイルではインバータ103へ流れる電流を発生させることができるものとする。また、以下において、モータ10の非駆動制御時には、上記で説明したように、スイッチング素子103UH~103WL、第1電源リレー105、第2電源リレー106及びモータリレー108~110は、いずれもオフ状態となっており、ECU11の各部がグランド電位に相当する電位となっているものとする。
図8(a)は、ステータコイル10U,10V,10Wの逆起電圧Vu,Vv,Vw、及び、中性点電位VNの波形を示す。ステータコイル10U,10V,10Wでは、モータ10の回転により、互いに電気角120°の位相差を有する略正弦波状の逆起電圧Vu,Vv,Vwが発生する。正の逆起電圧が発生しているコイルはこれと同相のモータリレーのダイオードD3により中性点Nと導通しないが、負の逆起電圧が発生しているコイルはこれと同相のモータリレーのダイオードD3を介して中性点Nと導通する。このため、中性点Nの電位である中性点電位VNは、モータリレー108~110のダイオードD3によって、概ね、ステータコイル10U,10V,10Wで発生する負の逆起電圧のうち最も小さい値に相当する電位となる。換言すれば、中性点電位VNは、図8(a)に示すように、概ね、ステータコイル10U,10V,10Wに発生する逆起電圧のうち負方向のピークに沿って変動する。
図8(b)は、インバータ入力電圧Vinの波形を示す。負の逆起電圧が発生しているコイルにはダイオードD3を介して中性点Nから電流が流れる可能性があるが、中性点Nには電流の供給源がない。このため、負の逆起電圧が発生しているコイルからノイズフィルタ回路107へ、インバータ103における同相の上段スイッチング素子のダイオードDを介して流れる電流は発生しない。したがって、インバータ入力電圧Vinは、ノイズフィルタ回路107のコンデンサの充電によって上昇せず、グランド電位に相当する電位となっている。
図8(c)は、モータリレー108~110のゲート電位Vg及びゲート-ソース間電圧Vgsの波形を示す。上記のように中性点Nには電流の供給源がなく、ゲート-ソース間抵抗114における電圧降下が発生しないため、モータリレー108~110のゲート電位Vgと中性点電位VNとは略同一となる。モータリレー108~110のソース電位は中性点電位VNに相当するので、ゲート-ソース間電圧Vgsは略零となって、モータリレー108~110はオフ状態のままとなる。
図8(d)は、U相モータリレー108のドレイン-ソース間電圧Vdsu、V相モータリレー109のドレイン-ソース間電圧Vdsv、W相モータリレー110のドレイン-ソース間電圧Vdswの波形を示す。
モータリレー108~110のドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswは、ソース電位に相当する中性点電位VNとドレイン電位に相当する逆起電圧Vu,Vv,Vwとの電位差である。
Vdsu=Vu-VN
Vdsv=Vv-VN
Vdsw=Vw-VN
中性点電位VNは、上記のように、ステータコイル10U,10V,10Wで発生する負の逆起電圧のうち最も小さい値に相当する電位となる。このため、特に、逆起電圧Vu,Vv,Vwが正方向のピーク又はその近傍となっているコイルと同相のモータリレーでは、ドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswが過大となって、モータリレー108~110に固有のドレイン-ソース間耐圧Vlimを超えるおそれがある。そこで,ECU11は、アクティブクランプ回路117によって、ドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswがドレイン-ソース間耐圧Vlimを超えないようにしている。次に、図5を参照して、アクティブクランプ回路117を備えているECU11の動作について説明する。
図5は、アクティブクランプ回路117を備えたECU11において、モータ10の非駆動制御時にモータ10(ロータ)が外力により一定の回転速度で回転したときの各部電圧波形の一例を示している。
図5(a)は、ステータコイル10U,10V,10Wの逆起電圧Vu,Vv,Vw、及び、中性点電位VNの波形を示す。ステータコイル10U,10V,10Wでは、モータ10の回転により、基本的には、互いに電気角120°の位相差を有する略正弦波状の逆起電圧Vu,Vv,Vwが発生する。しかし、逆起電圧Vu,Vv,Vwの負方向のピークがクランプされている点で図8(a)と異なる。これは、以下で説明するアクティブクランプ回路117の作用によるものである。
中性点電位VNひいてはアクティブクランプ回路117におけるツェナーダイオード122のアノード電位は、図8(a)に関して説明したように、ステータコイル10U,10V,10Wに発生している負の逆起電圧のうち最も小さい値に相当する電位となる。しかし、モータ10の回転によりツェナーダイオード122のアノード電位がさらに低下してツェナーダイオード122の逆方向電圧が降伏電圧以上となった場合には、ツェナーダイオード122が降伏してアノード電位が第1電位V1に保持される。これにより、後述するように、モータリレー108~110のゲート電位Vgも第1電位V1に相当する電位に保持される(図5(c)参照)。第1電位V1は、グランド電位に対して降伏電圧に相当する電位差だけ低い負の電位である。ツェナーダイオード122が降伏すると、中性点Nは降伏後のツェナーダイオード122及びゲート-ソース間抵抗114を介してグランドと導通する。このため、負の逆起電圧が発生しているコイルには、これと同相のモータコイルのダイオードD3を介して、グランドを電流の供給源とする中性点Nから電流が流れる。すると、中性点電位VNは、図5(a)に示すように、ゲート-ソース間抵抗114における電圧降下によって、第1電位V1より低い第2電位V2まで低下し、電流が流入するコイルの逆起電圧は、第2電位V2より低い電位には低下しないようになる。このように、ステータコイル10U,10V,10Wに発生する逆起電圧Vu,Vv,Vwの負方向のピークは、ツェナーダイオード122の降伏電圧とゲート-ソース間抵抗114における電圧降下分とをグランド電位から減算した第2電位V2でクランプされる。
図5(c)は、モータリレー108~110のゲート電位Vg及びゲート-ソース間電圧Vgsの波形を示す。図5(a)に関して説明したように、降伏後のツェナーダイオード122のアノード電位はグランド電位よりも低い負の第1電位V1に保持される。このとき、中性点電位VNは、ゲート-ソース間抵抗114における電圧降下によって、第1電位V1より低い第2電位V2まで低下する。ツェナーダイオード122のアノード電位はモータリレー108~110のゲート電位Vgに相当するので、モータリレー108~110のゲート電位Vgは第1電位V1に相当する電位に保持される。また、中性点電位VNはモータリレー108~110のソース電位に相当するので、モータリレー108~110のゲート-ソース間電圧Vgsは、第1電位V1と第2電位V2との電位差(V1-V2)に相当する。このときのゲート-ソース間電圧Vgsがゲートしきい値電圧を超えるようにゲート-ソース間抵抗114の抵抗値が設定されていれば、モータリレー108~110はオン状態となる。
図5(b)は、インバータ入力電圧Vinの波形を示す。正の逆起電圧が発生しているコイルと同相のモータリレーがオン状態となることで、中性点Nには当該コイルと同相の下段スイッチング素子のダイオードDを介してグランドから電流が流入する。中性点Nから負の逆起電圧が発生しているコイルへは、当該コイルと同相のモータリレーを介して電流が流れ、この電流は、当該コイルと同相の上段スイッチング素子のダイオードDを介してノイズフィルタ回路107へ流れる。これによりノイズフィルタ回路107のコンデンサが充電されて、インバータ入力電圧Vinはグランド電位よりも大きい値となる。
図5(d)は、U相モータリレー108のドレイン-ソース間電圧Vdsu、V相モータリレー109のドレイン-ソース間電圧Vdsv、W相モータリレー110のドレイン-ソース間電圧Vdswの波形を示す。モータリレー108~110のドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswは、上記のように、ステータコイル10U,10V,10Wで発生する負の逆起電圧のうち最も小さい値に相当する電位である中性点電位VNとステータコイル10U,10V,10Wで発生する逆起電圧Vu,Vv,Vwとの電位差である。しかし、上記のように、ステータコイル10U,10V,10Wに発生する逆起電圧Vu,Vv,Vwの負方向のピークがクランプされるので(図5(a)参照)、中性点電位VNは、従来のECUの中性点電位VN(図8(a)参照)と比較して高い電位となる。このため、モータリレー108~110のドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswの最大値は、アクティブクランプ回路117がない場合(図8(d)参照)と比較すると、顕著に小さくなる。したがって、逆起電圧Vu,Vv,Vwの負方向のピークのクランプ量を一定以上にすることで、ドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswがドレイン-ソース間耐圧Vlimを超えないようにすることができる。
図5に関する説明から明らかなように、モータ10の非駆動制御時に外力によりモータ10が回転して逆起電圧Vu,Vv,Vwが発生しても、アクティブクランプ回路117によって、モータリレー108~110のドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswが低減される。これにより、モータリレー108~110のドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswが各リレー固有のドレイン-ソース間耐圧Vlimを超過しにくくなるので、モータリレー108~110の故障が抑制される。
また、アクティブクランプ回路117の作用によりモータリレー108~110がオン状態となることで、各相コイルから中性点Nを介した電流の流通が可能となる。すなわち、中性点Nには正の逆起電圧が発生しているコイルから電流が流入し、この電流は、グランドから、インバータ103の下段スイッチング素子のうち当該コイルと同相のもののダイオードDを介して供給される。また、中性点Nから負の逆起電圧が発生しているコイルへ電流が流れ、この電流は、インバータ103の上段スイッチング素子のうち当該コイルと同相のもののダイオードDを介して、ノイズフィルタ回路107へ流れてコンデンサを充電する。したがって、モータ10の非駆動制御時にモータ10が外力により回転した場合には、モータ10に電気ブレーキが発生してモータ10の回転速度ひいては逆起電圧Vu,Vv,Vwが速やかに低下する。これにより、モータリレー108~110のドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswが固有のドレイン-ソース間耐圧Vlimを超過しにくくなるので、モータリレー108~110の故障が抑制される。
このように、ECU11によれば、アクティブクランプ回路117によるモータリレー108~110の故障を抑制できることに加え、モータリレー108~110のパッケージ化等によって、回路基板125上にモータリレー108~110のドレイン端子がパターンとして現れない場合でも、アクティブクランプ回路117の構成素子を回路基板125上に実装することが容易となる。
〔第2実施形態〕
次に、図6を参照して、第2実施形態に係るモータ駆動制御装置について説明する。本実施形態に係るモータ駆動制御装置であるECU11aは、ECU11と同様に、電動パワーステアリング2に適用され、アシストトルクを発生するモータ10の駆動を制御するものである。
なお、本実施形態では、主に第1実施形態と異なる部分について説明し、その他の部分については矛盾が生じない限りにおいて第1実施形態に関する説明が適用される。したがって、第1実施形態と類似の構成には同一の符号を付して、その説明を省略ないし簡潔にする。以下の実施形態において同様である。
ECU11aでは、モータリレー108~110がステータコイル10U,10V,10Wとインバータ103との間の第2通電線L2に配置される。すなわち、U相モータリレー108はU相コイル10Uとインバータ103との間の第2通電線L2に配置され、V相モータリレー109はV相コイル10Vとインバータ103との間の第2通電線L2に配置され、W相モータリレー110はW相コイル10Wとインバータ103との間の第2通電線L2に配置される。言い換えれば、モータリレー108~110のいずれにおいても、ソース端子が同相のコイルと接続され、ドレイン端子がインバータ103と接続される。
第3ドライバ113からモータリレー108~110へ駆動信号を出力する信号線はモータリレーごとに設けられる。すなわち、U相モータリレー108にはU相信号線120Uを介して制御信号が出力され、V相モータリレー109にはV相信号線120Vを介して駆動信号が出力され、W相モータリレー110にはW相信号線120Wを介して駆動信号が出力される。
ゲート-ソース間抵抗114及びゲート過電圧保護素子115はモータリレーごとに設けられる。すなわち、ゲート-ソース間抵抗114及びゲート過電圧保護素子115は、モータリレー108~110のそれぞれのゲート端子とソース端子との間を並列に接続して設けられる。
アクティブクランプ回路117aは、ECU11aのグランドから延びるグランド線121と、これから分岐点Naで分岐して信号線120U,120V,120Wに接続される分岐グランド線121U,121V,121Wと、に設けられる。具体的には、信号線120Uに接続されるU相分岐グランド線121U、信号線120Vに接続されるV相分岐グランド線121V、信号線120Wに接続されるW相分岐グランド線121Wのそれぞれにツェナーダイオード122が配置される。これらのツェナーダイオード122は、モータリレー108~110から分岐点Naへ電流が流れる方向を順方向とする。また、グランド線121には、グランドから分岐点Naへ電流が流れる方向を順方向とするダイオード123が配置される。
次に、モータ10の非駆動制御時に外力によりモータ10(ロータ)が一定の回転速度で回転したときのECU11aの動作について説明する。なお、第2実施形態において、グランド電位より高い正の逆起電圧が発生しているコイルではインバータ103へ流れる電流を発生させることができ、グランド電位より低い負の逆起電圧が発生しているコイルでは中性点Nへ流れる電流を発生させることができるものとする。
負の逆起電圧が発生しているコイルに電流供給源がある場合には、負の逆起電圧が発生しているコイルから中性点Nを介して正の逆起電圧が発生しているコイルへ電流が流れる。この電流は、正の逆起電圧が発生しているコイルと同相のモータリレーのダイオードD3及びインバータ103において当該コイルと同相の上段スイッチング素子のダイオードDを介してノイズフィルタ回路107へ流れる。しかし、アクティブクランプ回路117aにおいて、負の逆起電圧が発生しているコイルと同相のツェナーダイオード122に降伏が発生していない場合には、負の逆起電圧が発生しているコイルはグランドを電流供給源とすることができない。このため、負の逆起電圧が発生しているコイルからノイズフィルタ回路107へ流れる電流は発生しない。
モータ10の回転によりいずれかのコイルに発生している負の逆起電圧がさらに低下して、当該コイルと同相のツェナーダイオード122の逆方向電圧が降伏電圧以上となった場合には、ツェナーダイオード122が降伏してアノード電位が第1電位V1に保持される。第1電位V1は、グランド電位に対して降伏電圧に相当する電位差だけ低い電位である。ツェナーダイオード122が降伏すると、負の逆起電圧が発生しているコイルと同相のモータリレーのソース端子は、降伏後のツェナーダイオード122及びゲート-ソース間抵抗114を介してグランドと導通し、グランドからソース端子へ電流が流れる。このとき、負の逆起電圧が発生しているコイルと同相のモータリレーのソース電位は、ゲート-ソース間抵抗114における電圧降下によって、第1電位V1から負の第2電位V2まで低下する。これにより、負の逆起電圧が発生しているコイルと同相のモータリレーのソース電位は第2電位V2でクランプされる。したがって、負の逆起電圧が発生しているコイルと同相のモータリレーのドレイン-ソース間電圧は、ツェナーダイオード122によってクランプされない場合と比較して低減される。これにより、モータリレー108~110のドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswが各リレー固有のドレイン-ソース間耐圧Vlimを超過しにくくなるので、モータリレー108~110の故障が抑制される。
また、負の逆起電圧が発生しているコイルと同相のモータリレーでは、ゲート電位が第1電位V1に相当し、ソース電位が第2電位V2に相当するので、当該モータリレーのゲート-ソース間電圧は、第1電位V1と第2電位V2との電位差(V1-V2)に相当する。このときのゲート-ソース間電圧がゲートしきい値電圧を超えるようにゲート-ソース間抵抗114の抵抗値が設定されていれば、当該モータリレーはオン状態となる。負の逆起電圧が発生しているコイルと同相のモータリレーがオン状態となることで、当該コイルには、グランドを電流供給源として、インバータ103のうち当該コイルと同相の下段スイッチング素子のダイオードD、及び、当該コイルと同相のモータリレーを介して電流が流入する。この電流は、中性点Nを経由して正の逆起電圧が発生しているコイルへ流入した後、当該コイルと同相のモータリレーのダイオードD3及びインバータ103のうち当該コイルと同相の上段スイッチング素子のダイオードDを介して、ノイズフィルタ回路107へ流れてコンデンサを充電する。したがって、モータ10の非駆動制御時にモータ10が外力により回転した場合には、モータ10に電気ブレーキが発生してモータ10の回転速度ひいては逆起電圧Vu,Vv,Vwが速やかに低下する。これにより、モータリレー108~110のドレイン-ソース間電圧Vdsu,Vdsv,Vdswが固有のドレイン-ソース間耐圧Vlimを超過しにくくなるので、モータリレー108~110の故障が抑制される。
このようなECU11aによれば、アクティブクランプ回路117によってモータリレー108~110の故障を抑制できることに加え、アクティブクランプ回路117のダイオード123を1つにすることができる。このため、モータリレー108~110のゲート-ドレイン間にアクティブクランプ回路を設ける場合と比較して、アクティブクランプ回路117の構成素子数が削減され、基板面積の低減を図ることが可能となる。
なお、信号線120U,120V,120Wは、ECU11のように、信号線120を介して第3ドライバ113と接続されてもよい。この場合、アクティブクランプ回路117aは、ECU11のように、信号線120に接続されるグランド線121にツェナーダイオード122及びダイオード123を配置して設けられる。ただし、ゲート-ソース間抵抗114及びゲート過電圧保護素子115はモータリレー108~110のそれぞれに設けられる。
〔第3実施形態〕
次に、図7を参照して、第3実施形態に係るモータ駆動制御装置について説明する。本実施形態に係るモータ駆動制御装置であるECU11bは、ECU11と同様に、電動パワーステアリング2に適用され、アシストトルクを発生するモータ10の駆動を制御するものである。
ECU11bは、アクティブクランプ回路117の故障を診断するアクティブクランプ回路診断機能を備えている点でECU11と異なる。アクティブクランプ回路診断機能は、マイクロコンピュータ116に加え、定電圧出力回路127、中性点電位モニタ線128及びカソード電位モニタ線129によって具現化される。
定電圧出力回路127は、例えば電源回路101等の定電圧電源から出力された定電圧を、マイクロコンピュータ116からの指令信号に応じてツェナーダイオード122及びダイオード123のカソードに印可する回路である。定電圧出力回路127から出力される定電圧は、ツェナーダイオード122,115の降伏電圧よりも低い電圧(>0)である。
定電圧出力回路127は、図示の例では、NPNトランジスタ130及びPNPトランジスタ131を用いて構成されている。具体的には、NPNトランジスタ130において、ベース端子はマイクロコンピュータ116の出力ポートに接続され、エミッタ端子はグランドに接続され、コレクタ端子は抵抗132を介してPNPトランジスタ131のベース端子に接続される。PNPトランジスタ131において、エミッタ端子は定電圧電源133に接続され、コレクタ端子はツェナーダイオード122及びダイオード123のカソード同士を接続するグランド線121に接続される。
中性点電位モニタ線128は中性点Nとマイクロコンピュータ116とを接続して中性点電位VNに関する信号をマイクロコンピュータ116に伝達する信号線である。また、カソード電位モニタ線129は、ツェナーダイオード122及びダイオード123のカソード同士を接続するグランド線121の電位であるカソード電位に関する信号をマイクロコンピュータ116へ伝達する信号線である。
マイクロコンピュータ116は、中性点電位モニタ線128及びカソード電位モニタ線129を介して入力ポートに入力した信号(これらのA/D変換値等)に基づいて中性点電位VN及びカソード電位を計測する。そして、マイクロコンピュータ116は、計測した電位に基づいて、アクティブクランプ回路117に故障が発生しているか否かを診断する。
ここで、アクティブクランプ回路117に発生する故障の態様について説明する。アクティブクランプ回路117に発生する故障としては、ツェナーダイオード122及びダイオード123のそれぞれにおける短絡故障及び断線故障が想定される。
アクティブクランプ回路117のツェナーダイオード122に短絡故障が発生している場合には、グランドを電流供給源として、グランド線121、中性点N、ダイオードD3を介して、モータ10の回転により負の逆起電圧が発生しているコイルへ電流が流入する。このため、ゲート-ソース間抵抗114における電圧降下によってモータリレー108~110のゲート-ソース間電圧がゲートしきい値電圧を超えると、モータリレー108~110は強制的にオン状態となってしまう。
アクティブクランプ回路117のダイオード123に短絡故障が発生している場合には第3ドライバ113から駆動信号を出力しても、グランドに吸収されてしまい、モータリレー108~110をオン状態とすることができなくなる。
アクティブクランプ回路117のツェナーダイオード122及びダイオード123の少なくとも一方に断線故障が発生している場合には、アクティブクランプ回路117が機能しなくなる。このため、モータ10の回転によりモータリレー108~110のドレイン-ソース間電圧がモータリレー固有のドレイン-ソース間耐圧Vlimを超えて、モータリレー108~110に故障が発生する可能性がある。
ECU11bは、上記のように構成されたアクティブクランプ回路診断機能を用いて、アクティブクランプ回路117のツェナーダイオード122及びダイオード123のそれぞれに想定される短絡故障及び断線故障について以下のようにして診断を行う。かかる診断は、モータ10の駆動制御を停止している際に行われる。
マイクロコンピュータ116は、ツェナーダイオード122に短絡故障が発生しているか否かを診断するために、以下の回路設定を行う。すなわち、マイクロコンピュータ116は、第1電源リレー105、第2電源リレー106、インバータ103のスイッチング素子103UH~103WL及びモータリレー108~110をオフ状態にする制御信号を、第1ドライバ111、第2ドライバ112、第3ドライバ113及びインバータ駆動回路104へ出力する。また、マイクロコンピュータ116は、定電圧出力回路127のNPNトランジスタ130へこれをオン状態とする制御信号を出力する。このような回路設定の下、定電圧出力回路127の定電圧出力によりツェナーダイオード122,115の降伏電圧よりも低い電圧(>0)がアクティブクランプ回路117におけるツェナーダイオード122及びダイオード123のカソードに印可される。マイクロコンピュータ116は、カソード電位モニタ線129を介して入力した信号から取得したカソード電位が、グランド電位にツェナーダイオード122,115の降伏電圧を加算した電位よりも低い電位(>0)であることを条件に診断を行う。
ツェナーダイオード122が正常である場合には、ツェナーダイオード122に降伏が発生しないので、定電圧出力回路127から中性点Nには電流が流入しない。このため、ツェナーダイオード122のアノード電位、及び、中性点電位VNはいずれもグランド電位に相当する電位となり、モータリレー108~110のゲート-ソース間電圧は略零となるので、モータリレー108~110はオフ状態となる。一方、ツェナーダイオード122に短絡故障が発生している場合には、定電圧出力回路127からツェナーダイオード122及びゲート-ソース間抵抗114を介して中性点Nに電流が流入する。この電流は、さらにモータリレー108~110のダイオードD3及びインバータ103の上段スイッチング素子103UH,103VH,103WHのダイオードDを介してノイズフィルタ回路107へ流れてコンデンサを充電する。このため、ツェナーダイオード122のアノード電位は第1電位V1に保持され、中性点電位VNはゲート-ソース間抵抗114における電圧降下によって第1電位V1よりも低い第2電位V2となる。これにより、第1電位V1と第2電位V2の電位差(V1-V2)であるモータリレー108~110のゲート-ソース間電圧がゲートしきい値電圧を超えると、モータリレー108~110は第3ドライバ113から出力された駆動信号にかかわらずオン状態のままとなる。したがって、ツェナーダイオード122が正常のときの中性点電位VN(グランド電位相当)とツェナーダイオード122に短絡故障が発生しているときの中性点電位VN(第2電位V2相当)とを画する所定値を設定することで、中性点電位VNが所定値以上である場合にはツェナーダイオード122に短絡故障が発生していると診断できる。
マイクロコンピュータ116は、ダイオード123に短絡故障が発生しているか否かを診断するために、以下の回路設定を行う。すなわち、マイクロコンピュータ116は、第1電源リレー105、第2電源リレー106、インバータ103の上段スイッチング素子103UH,103VH,103WH及びモータリレー108~110をオン状態とする制御信号を、第1ドライバ111、第2ドライバ112、第3ドライバ113及びインバータ駆動回路104へ出力する。このような回路設定の下、ダイオード123が正常である場合には、中性点Nから抵抗114及びツェナーダイオード122,115を介してグランドへと至る電流経路がダイオード123によって遮断される。このため、中性点電位VNは車載バッテリ16の出力電圧に相当する値となる。一方、ダイオード123に短絡故障が発生している場合には、中性点Nから抵抗114及びツェナーダイオード122,115を介してグランドへ電流が流れ、中性点電位VNは車載バッテリ16の出力電圧から有意に低下する。したがって、ダイオード123が正常のときの中性点電位VNとダイオード123に短絡故障が発生しているときの中性点電位VNとを画する所定値を設定することで、中性点電位VNが所定値未満である場合にはダイオード123に短絡故障が発生していると診断できる。
マイクロコンピュータ116は、ツェナーダイオード122及びダイオード123の少なくとも一方に断線故障が発生しているか否かを、モータリレー108~110の故障診断により間接的に診断する。具体的には、マイクロコンピュータ116は、第1電源リレー105、第2電源リレー106及びインバータ103の上段スイッチング素子103UH,103VH,103WHをオン状態にする制御信号を、第1ドライバ111、第2ドライバ112及びインバータ駆動回路104へ出力する。このような回路設定の下、マイクロコンピュータ116がモータリレー108~110をオン状態にする制御信号を第3ドライバ113へ出力したときに、中性点電位VNが車載バッテリ16の出力電圧よりも有意に低い場合には、モータリレー108~110にオフ固着が発生していると診断できる。一方、マイクロコンピュータ116がモータリレー108~110をオフ状態にする制御信号を第3ドライバ113へ出力したときに、中性点電位VNがグランド電位よりも有意に高い場合には、モータリレー108~110にオン固着が発生していると診断できる。ところで、オン固着又はオフ固着といったモータリレー108~110の故障は、アクティブクランプ回路117が機能していないことに起因して発生した可能性がある。このため、マイクロコンピュータ116は、モータリレー108~110に故障が発生していると診断した場合には、ツェナーダイオード122及びダイオード123の少なくとも一方に断線故障が発生している可能性があると診断できる。
このようなECU11bによれば、ECU11と同様の効果を奏することに加え、モータ10の駆動制御を停止しているときにアクティブクランプ回路117の故障を診断することができる。したがって、ECU11bによれば、アクティブクランプ回路117が故障していると診断した場合には、モータ10の駆動制御を停止あるいは制限して、モータ10やECU11bの2次故障を未然に回避することが可能となる。
なお、電動パワーステアリング2は冗長化して構成されてもよい。冗長化した電動パワーステアリング2では、モータ10が、U相コイル10U、V相コイル10V及びW相コイル10Wを1つの巻線組として、電気的に独立した複数の巻線組を備え、ECU11,11a,11bのいずれかを巻線組ごとに備えることができる。トルクセンサ13、回転角センサ14及び車速センサ15や車載バッテリ16も各ECUで備えることができる。要するに、冗長化した電動パワーステアリング2は、モータ10の1つの巻線組について備えられるECUやこれに付随するセンサ類等を1つの系統として、複数の系統を有している。このように冗長化した電動パワーステアリング2では、一つの系統が故障しても他の系統でモータ10の駆動制御を継続することが可能となり、電動パワーステアリング2の信頼性を向上させることができる。電動パワーステアリング2の冗長化によりECU11,11a,11bの基板面積が増大するが、特にECU11aでは、アクティブクランプ回路117の構成素子を削減することができるので、基板面積の増大を抑制できるという点で有効となる。
ECU11bでは、アクティブクランプ回路診断機能をECU11の構成に追加したが、ECU11aの構成にアクティブクランプ回路診断機能を追加することができる。この場合、定電圧出力回路127から出力された電圧は分岐点Na(図6参照)に印可される。
第1~第3実施形態では、モータ駆動制御装置として、電動パワーステアリング2においてアシストトルクを発生するモータ10を駆動制御するECU11,11a,11bを例示したが、これらに限らない。例えば、内燃機関における圧縮比を可変にする圧縮比可変機構や吸排気バルブの開閉タイミングを可変にする可変バルブタイミング機構等に用いられるモータ10を駆動制御するモータ駆動制御装置であっても、モータリレーを有するものであれば、あらゆるものが適用対象となる。
以上、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、上記で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合せて使用することができる。また、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば種々の変形態様を採り得ることは自明である。