JP7465483B2 - 隆起構造および物体 - Google Patents

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Description

本発明は、粘性摩擦抵抗を低減する隆起構造および物体に関する。
本願は、2019年3月29日に日本に出願された特願2019-069153号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
粘性流体の流れに配置された物体は粘性摩擦抵抗を受ける。例えば、航空機は飛行中に空気の粘性による摩擦抵抗を受ける。航空機が飛行中に受ける全抵抗のうち、約半分は摩擦抵抗であると言われている。摩擦抵抗を低減すれば、航空機における航続距離の伸長、燃費の低減などが可能になるので、粘性摩擦抵抗の低減手段が種々提案されている。
例えば、特許文献1、2には、翼に複数の突起物を設けることによって、粘性摩擦抵抗を低減することが提案されている。
特許文献1に記載の技術では、翼の表面に、翼弦方向に長く延び、翼弦方向と直交するスパン方向には実質的に平行なピークヴァレーが繰り返されるシームレスフィルムが設けられている。シームレスフィルムにおける凸部のスパン方向の断面形状は、翼の表面から離れるにつれて先細になっており、先端には鋭くとがった頂部が形成されている。
特許文献2に記載の技術では、翼弦方向に延びる中央部突起と、スパン方向において中央部突起を挟んで中央部突起と実質的に平行に配置された2つの外側突起と、を有する空力装置が、翼の表面に密集もしくは分散して配置されている。中央部突起と外側突起の間の凹部は、翼弦方向において先端側から後端側に向かって翼の表面から漸次離間する傾斜面からなる。この空力装置のスパン方向における断面形状は、先端に頂部を有する略三角形状である。
特許文献1、2に記載の技術は、突起物によって、翼の表面に安定した乱流境界層を形成することによって、摩擦低減を図る技術であると考えられる。しかしながら、特許文献1、2に記載の技術は、航空機に広く用いられる後退翼における横流れ不安定性に起因する乱流遷移による摩擦抵抗を低減することはできない。
非特許文献1には、風洞実験の結果から、翼における淀み点(付着線)の近傍に、微小な孤立粗度(Discrete Roughness Elements)を設けると、横流れ不安定性を抑制できることが報告されている。各孤立粗度の形状は、略円柱状である。非特許文献1に記載の技術では、孤立粗度の配列間隔を適正に設定して横流れ不安定性に起因する乱流遷移の位置を後方にずらすことによって、摩擦低減を図る。
非特許文献2では、非特許文献1における孤立粗度の作用が数値解析によって解析(評価)されている。さらに、非特許文献2では、解析結果に対する考察に基づいて孤立粗度の改良形状が提案され、数値的な検証結果が示されている。
非特許文献2における改良型の孤立粗度の形状は、スパン方向の断面においては、正弦曲線を有し、翼弦方向における断面においてはガウス分布を有するので、Sinusoidal Roughness Elements(SRE、正弦波状粗度)と称される。
国際公開第2012/082667号 国際公開第2018/165313号
サーリック 外2名、「アメリカン・インスティテュート・オブ・エアロノーティックス・アンド・アストロノーティックス・ペーパー(American Institute of Aeronautics and Astronautics Paper) No.1998-0781」(米国)、1998、pp.1-13 廣田、井手、林田、服部、「孤立粗度による横流れ不安定性抑制効果の数値的検証」、「数値流体力学シンポジウム講演論文集 CFD 2018 第32回」DVD-ROM、日本流体力学会、2018
しかしながら、上記のような従来技術には、以下のような問題がある。
特許文献1、2に記載の技術は、上述したように、後退翼に発生する横流れ不安定性に起因する乱流遷移を抑制できないので、後退翼における摩擦抵抗をあまり低減できないという問題がある。特に、特許文献1、2における構成は、凸部が翼弦方向に長く延びているので、横流れの乱流遷移を増長する結果、摩擦抵抗が増大するおそれがある。
非特許文献2の解析によれば、擾乱の波数が低いほど擾乱の振幅が増大しやすく、飽和状態に達して乱流に遷移しやすい。これに対して、擾乱の波数が高いと飽和時の振幅が低くかつ一旦飽和しても直ちに乱流に遷移することはないという特徴がある。孤立粗度の大きさ、配置ピッチ等を調整することは、横流れにおいて特定の波数成分の擾乱を選択的に励起することによって、より低波数の擾乱の成長を抑制することに相当している。
このため、非特許文献2に記載されたように、孤立粗度を設ける場合には、孤立粗度によって励起する特定波数の「killer mode(成長率(またはN値)の比較的低い横流れモード)によって乱流遷移が起きてしまわないように、細心の注意を払わねばならない。」という問題がある。
さらに、非特許文献2の解析によれば、非特許文献1の孤立粗度は複数の高波数擾乱を同時に励起してしまい、特定の単一波数の振幅の励起能力が低いため、乱流遷移の抑制効果が低いという問題もある。
非特許文献2による改良型の正弦波状粗度は、特定波数の振幅の励起能力がより高いため、乱流遷移の抑制効果が向上している。
ただし、いずれの形状にしても、孤立粗度の高さが一定値を超えるとただちに乱流遷移が起こるので、乱流遷移制御の安定性の観点ではこの一定値を超えない範囲でより大きな抑制効果が得られることが好ましい。この意味で孤立粗度の形状には依然としてさらなる改良の余地がある。
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、横流れ不安定性に起因する摩擦抵抗を低減することができる隆起構造および物体を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様の隆起構造は、物体の前縁に対して鋭角をなす方向に前記物体に沿って流れる流れの粘性による摩擦抵抗を低減する隆起構造であって、前記前縁における前記流れの淀み点よりも下流側における前記物体の表面に設けられ、前記表面における前記流れに沿った方向に延びる複数の隆起体を備える。前記複数の隆起体の各々は、先端と、後端と、中間部とを有する。前記先端、前記後端、及び前記中間部は、前記表面から隆起する凸部を形成する。前記先端は、前記表面において前記流れに沿った方向における上流側に位置しており、前記凸部と前記表面との間の境界を形成する。前記後端は、前記表面において前記流れに沿った方向における下流側に位置しており、前記凸部と前記表面との間の境界を形成する。前記表面から隆起する前記凸部の隆起方向に見て、前記中間部は、前記先端と前記後端との間に位置する。前記凸部においては、前記中間部は、前記表面からの前記隆起方向における高さが最大となる頂点に位置する。前記複数の隆起体は、前記淀み点からの距離が一定かつ前記表面に直交する第1断面において、周期的に変化する第1凹凸形状を形成する。
本発明の第2の態様の隆起構造によれば、第1の態様において、前記凸部においては、前記先端から前記中間部に向けて、前記表面からの高さが漸増するように滑らかな曲線が形成されてもよい。前記凸部においては、前記後端から前記中間部に向けて、前記表面からの高さが漸増するように滑らかな曲線が形成されてもよい。
本発明の第3の態様の隆起構造によれば、第1または第2の態様において、前記複数の隆起体は、前記淀み点を連ねる線および前記第1断面に直交する第2断面において、周期的に変化する凹部および凸部を有し、前記凸部の各頂点の高さが凸状の包絡線に沿って変化する第2凹凸形状を形成するように、配列されてもよい。
本発明の第4の態様の隆起構造によれば、第3の態様において、前記第1凹凸形状は、一定の波数を有する正弦波状であってもよい。前記包絡線は、釣り鐘型の曲線であってもよい。
本発明の第5の態様の隆起構造によれば、第1の態様において、前記複数の隆起体のそれぞれにおける最大高さは、前記流れによって形成される境界層排除高さの1.7倍以上2.3倍以下であってもよい。
上記の課題を解決するために、本発明の第6の態様の隆起構造は、物体の前縁に対して鋭角をなす方向に前記物体に沿って流れる流れの層流から乱流への遷移を抑制し、粘性による摩擦抵抗を低減する隆起構造であって、前記前縁における前記流れの淀み点よりも下流側における前記物体の表面に設けられ、前記表面における前記流れに沿った方向に延びる複数の隆起体を備える。前記複数の隆起体の各々は、先端と、後端と、中間部とを有する。前記先端、前記後端、及び前記中間部は、前記表面から隆起する凸部を形成する。前記先端は、前記表面において前記流れに沿った方向における上流側に位置しており、前記凸部と前記表面との間の境界を形成する。前記後端は、前記表面において前記流れに沿った方向における下流側に位置しており、前記凸部と前記表面との間の境界を形成する。前記表面から隆起する前記凸部の隆起方向に見て、前記中間部は、前記先端と前記後端との間に位置する。前記凸部においては、前記中間部は、前記表面からの前記隆起方向における高さが最大となる頂点に位置する。前記複数の隆起体は、前記淀み点からの距離が一定かつ前記表面に直交する第1断面において、周期的に変化する第1凹凸形状を形成する。
本発明の第7の態様の物体は、第の態様の隆起構造を表面に備え、流体に配置される。
本発明の第8の態様の物体によれば、第7の態様において、前記表面において、前記隆起構造は、前記前縁の近くに設けられてもよい。
本発明の第1~第の態様のいずれか1つの態様の隆起構造および第7又は8の態様の物体によれば、横流れ不安定性に起因する摩擦抵抗を低減することができる。
本発明の実施形態の隆起構造および翼の一例を示す模式的な斜視図である。 翼上の三次元境界層の流速分布の一例を示す模式図である。 翼弦方向の位置xと、境界層外縁速度U、W、境界層排除厚さδ、およびレイノルズ数Reδとの関係を示すグラフである。 横流れ不安定性の中立安定曲線を示すグラフである。 横流れ不安定性のN値を示すグラフである。 本発明の実施形態の隆起構造の一例を示す斜視図である。 本発明の実施形態の隆起構造の一例を示す平面図である。 本発明の実施形態の隆起構造の一例のスパン方向および翼弦方向の断面形状を示すグラフである。 本発明の実施形態の隆起構造の作用を示すグラフである。 比較例の隆起構造を示す斜視図である。 比較例の隆起構造を示す平面図である。 比較例の隆起構造のスパン方向および翼弦方向の断面形状を示すグラフである。 比較例の隆起構造の作用を示すグラフである。 隆起構造の高さとキラー振幅との関係を示すグラフである。
以下では、本発明の実施形態の隆起構造および翼について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態の隆起構造および翼の一例を示す模式的な斜視図である。
図1に示す本実施形態の翼1(物体)は、例えば、航空機の後退翼として用いられる。ただし、図1は、翼1におけるスパン方向の一部のみを図示している。
翼1は、前縁fから後縁bに向かって、翼厚が増大し、最大になった後、漸次減少する適宜の翼型を有する。具体的な翼型については特に限定されない。図1に示す例では、前縁fと後縁bとを結ぶ翼弦線に対して、上面1a(表面)の膨らみが下面1bの膨らみよりも大きな翼型を有する。
例えば、翼1は、前縁fが後縁bよりも高くなる適宜の取り付け角で、図示略の胴体に対して取り付けられている。翼の基準線は、平面視では、胴体の前後軸に対して斜め後方向に傾斜している。このため、平面視では、前縁fも、胴体の前後軸に対して斜め後方向に傾斜している。
図1において、流れFは、翼1が取り付けられた機体が直進したときに翼1が受ける空気の流れを表す。
航空機の飛行時には、翼1の先端部(物体の端部)の定位置に、流れFの淀み点St(二点鎖線参照)が形成される。淀み点Stは、翼1の先端部において前縁fに沿って線状に延びている。
翼1の先端部において淀み点Stの下流側の上面1a上には、本実施形態の隆起構造2が形成されている。
隆起構造2は、翼1に向かって流れる流れF(主流)の粘性による摩擦抵抗を低減するために設けられている。隆起構造2の配置を決定するための淀み点Stの位置は、飛行状態によって変化する。隆起構造2の設計にあたっては、特に摩擦抵抗を低減したい飛行状態に形成される淀み点Stが用いられる。例えば、航空機が水平飛行する際の淀み点Stが用いられてもよい。
隆起構造2は、複数の単位隆起2a(隆起体)を備える。
各単位隆起2aは、上面1a上の流れFの流れ方向(図1に模式的に示す流線S参照)に延びている。上面1a上の任意の位置の流線Sは、隆起構造2が除去された翼1の形状、流れFの速度、流れFの粘性等が与えられれば、数値解析によって求められる。
各単位隆起2aの高さは、長手方向および短手方向のいずれの断面においても、両端部から中間部に向かって漸増して中間部で最大となる凸状の滑らかな曲線に沿って変化している。例えば、各単位隆起2aの高さは、長手方向の断面においては、上流側の先端2f側および下流側の後端2b側から、先端2fおよび後端2bの間の中間部2mに向かって、漸増して中間部2mで最大となる凸状の滑らかな曲線に沿って変化している。ここで、中間部2mは、単位隆起2aの長手方向の中央であってもよいが、長手方向の中央からずれていてもよい。図示は省略するが、短手方向の断面も同様である。
このように、単位隆起2aにおいて隆起方向の先端面は丸みを帯びた滑らかな曲面である。単位隆起2aの延在方向は、短手方向の断面における頂部を連ねた尾根線で表される。尾根線は、流れFの流れ方向に延びることがより好ましい。しかし単位隆起2aの尾根線は短手方向の断面においては滑らかな凸部の停留点になっているので、尾根線は測定誤差、製作誤差等を考慮して略流れ方向に延びていればよい。
図1に示す例では、隆起構造2の各単位隆起2aは、淀み点Stからの距離が一定の線上に等間隔に配列されている。これにより、隆起構造2は、配列方向に沿う断面(第1断面)では、周期的に変化する第1凹凸形状を形成している。隆起構造2は、淀み点Stを連ねる線および第1断面に直交する第2断面においては、各凸部の頂点の高さが凸状の包絡線に沿って変化する第2凹凸形状を形成している。
隆起構造2の具体例については後述する。
隆起構造2の具体例について説明する前に、翼1上の三次元境界層と横流れ不安定性について説明する。
図2は、翼上の三次元境界層の流速分布の一例を示す模式図である。図3は、翼弦方向の位置xと、境界層外縁速度U、W、境界層排除厚さδ、およびレイノルズ数Reδとの関係を示すグラフである。図3において、横軸xは、淀み点Stからx方向の正方向に進む長さ[mm]を表す。縦軸は、境界層外縁速度U、W、境界層排除厚さδ、およびレイノルズ数Reδを示す。ただし、境界層排除厚さδは、1mmで無次元した数値で示されている。図4は、横流れ不安定性の中立安定曲線を示すグラフである。図5は、横流れ不安定性のN値を示すグラフである。
図1に示すように、以下の説明では、淀み点Stを連ねた直線に沿う方向をz方向と称する。z方向は翼1のスパン方向でもある。z方向の正方向は、図示略の胴体から翼1の長手方向の先端に向かう方向である。
翼1の淀み点Stを連ねた直線に直交し、上面1aに沿う方向をx方向と称する。特に誤解の生じるおそれがない場合には、x方向を単に翼弦方向と称する場合もある。x方向の正方向は、淀み点Stから上面1aに沿って後縁bに向かう方向である。
z方向およびx方向に直交する方向をy方向と称する。y方向は、単位隆起2aの隆起方向である。
なお、隆起構造2の単位隆起2aの長さおよび配列ピッチは、後述するように、翼1の翼弦方向の幅およびスパン方向の長さに比べて充分短い。このため、隆起構造2の形成範囲において、上面1aは、解析上、平面で近似できる。
図2に、翼1の先端部における上面1a上に形成される三次元境界層の流速分布の一例を示す。図2において、U軸は、翼弦方向の流速、W軸はスパン方向の流速を表す。いずれの流速も淀み点St(x=0)における音速311m/sで規格化(無次元化)されている。図2においてy/δ軸は、境界層排除厚さδで規格化されたy方向の位置である。
流れFは、翼1の後退角に応じて淀み点Stに対して斜め方向に入射するので、主流の境界層外縁速度は、翼弦方向およびスパン方向にそれぞれ、U、Wの速度成分を有する。境界層の外部では、U、W以外の速度成分を有しない。
これに対して、境界層の内部では、圧力勾配の方向である翼弦方向と主流の方向が平行でないため、主流(MF)の流れ方向に交差する方向に横流れ(CF)が発生する。横流れの速度分布は、上面1aの表面と、境界層外縁と、において0であり、その中間部で最大値を取る、山形の分布である。
このため、境界層の内部における合成流速分布は、主流の流れに沿う断面に対してねじれている。
流れFは、上面1aに沿って進むにつれて、翼1の翼型の形状に応じて、翼弦方向に増速する。図3に、横流れを有する場合のx方向における境界層外縁速度U、W、境界層排除厚さδ、およびレイノルズ数Reδの変化の解析例を示す。ここで、レイノルズ数Reδは、Reδ={√(U +W )}δ/νで定義される。ただし、νは、淀み点Stにおける空気(流体)の動粘性係数である。
図3のグラフの詳しい計算方法については、非特許文献2に記載された通りである。
翼弦方向の境界層外縁速度Uは、淀み点St(x=0)からxが増大するにつれて、急峻に増大して、次第に飽和に向かう。スパン方向の境界層外縁速度Wは、xによらず一定である。
境界層排除厚さδは、初期に急増した後、略直線的に増大する。このため、翼弦方向における後端ほど、境界層の厚さが増大することが分かる。一方、レイノルズ数Reδはxが増大するにつれて、略直線的に増大する。このため、翼1の後端側では層流境界層が乱流遷移を起こしやすいことが分かる。
乱流遷移は、上面1aにおける付着物、翼面自体の微小な凹凸などによって励起されると考えられる。擾乱を局所的に平面波で近似することによって、図4に示す曲線40で示すような横流れ不安定性の中立安定曲線が求められる。
すなわち、擾乱の定在モードを考えて、擾乱を局所的に平面波(∝exp(iαx+iβz))で近似する。ここで、iは虚数単位、αは翼弦方向波数(複素数)、βはスパン方向波数(実数)である。スパン方向波数βを与えると、翼弦方向波数αが複素固有値として求まる。
図4において、横軸は、翼弦方向の位置xであり、縦軸は、局所平面波近似した擾乱におけるスパン方向波数βである。
曲線40は、擾乱において複素数で表される翼弦方向波数α(=α+iα)の複素数成分αが0となる曲線である。このため、曲線40の外側(「Stable(α>0)」と記載の領域)は、α>0になるため、安定領域である。これに対して、曲線40の内側(「Unstable(α<0)」と記載の領域)は、α<0になるため、不安定領域である。
図4によれば、波数βが高い場合には、翼弦方向において前縁fから遠ざかれば安定領域になるのに対して、波数βが低くなるほど、不安定領域が後端に延び、不安定領域が拡大している。
図5に、スパン方向波数β(mm-1)に対するN値(N factor)をプロットしたグラフを示す。曲線51、52、53は、それぞれ、x=100、202、303(mm)におけるN値を示す。N値は、擾乱の増幅率(ゲイン)をeとすることによって求められる。N値が大きいほど乱流遷移が起こりやすい。
図5に曲線51、52、53で示されるように、xが小さいほど高波数成分によって擾乱が増幅され、xが大きいほど低波数成分によって擾乱が増幅されることが分かる。さらに、増幅率の大きさは、低波数成分ほど大きくなっている。例えば、x=202(mm)ではβ=3.333(mm-1)による増幅が支配的なモードであり、N値は8を超えている。
したがって、擾乱を形成するエネルギーが高波数成分に分配されれば、N値を増大させることなく、低波数成分の擾乱の成長を抑制できると考えられる。この場合、高波数の擾乱の振幅は増大する。しかし、高波数の擾乱は、成長しても低波数の擾乱より乱流遷移を起こしにくいので、境界層全体としては乱流遷移が起こりにくくなる。
非特許文献1、2には、特に抑制したい擾乱のスパン方向波数βの1.5倍程度のスパン方向波数βの擾乱を励起しやすい間隔で孤立粗度を配列すると、乱流遷移位置をより後方にずらすことができることが報告されている。
本発明者は、孤立粗度による擾乱の励起をより効率化できれば、抑制対象の擾乱をさらに効果的に抑制できるのではないかと考えて、鋭意研究し、本発明に到った。
次に、隆起構造2の具体例について詳細に説明する。
図6は、本発明の実施形態の隆起構造の一例を示す斜視図である。図7は、本発明の実施形態の隆起構造の一例を示す平面図である。図8における(a)、(b)は、それぞれ本発明の実施形態の隆起構造の一例のスパン方向および翼弦方向の断面形状を示すグラフである。図6~8において、x、y、zは1mmで無次元化されている。
図6、7に示す隆起構造2の形状y=y(x,z)は、下記式(1)~(5)で表される。ただし、式(1)におけるzの定義域は、翼1の翼長の範囲で適宜設定される。この場合、隆起構造2のz方向における定義域の端縁には、さらにyが漸次0に向かって滑らかに減少する端部が接続されることがより好ましい。
Figure 0007465483000001
ここで、hは隆起構造2の最大高さ、βはスパン方向波数(波長は、2π/β)、xは翼弦方向における隆起構造2の位置、wは翼弦方向における隆起構造2の片幅である。U(x)およびW(x)は、それぞれU(x)およびW(x)におけるx=xの値である。
式(1)において、翼弦方向の位置xを固定して得られる翼弦方向の断面、すなわち淀み点Stからの距離が一定かつ上面1aに直交する第1断面では、yはzのみの関数であって、波数βの正弦波(第1凹凸形状)である。
例えば、図8の(a)に曲線101で示すように、x=xでは、yは、0~hまで波数βで振動する正弦波である。x≠xでは、(x-x)に応じてyの最大値がh未満に変化する以外は、同様の正弦波である。
式(1)において、スパン方向の位置zを固定して得られるスパン方向の断面、すなわち淀み点St連ねる線および第1断面に直交する第2断面では、yはxのみの関数であって、波数{β×(W(x)/U(x))}の正弦波成分と、中心がx、翼弦方向における片幅wのガウス関数成分と、の積である。ただし、片幅wは、高さexp(-π)(=0.0432)における片幅を表す。
このため、yは、第2断面において、波数{β×(W(x)/U(x))}でそれぞれ周期的に変化する凹部および凸部(正弦波状の凹凸部)を有し、各凸部の頂点の高さが凸状の包絡線(ガウス関数)に沿って変化する第2凹凸形状を形成している。
例えば、図8の(b)に曲線102で示すように、z=0とすると、yは、x=xから幅方向の両端部に向かって、曲線103で表されるガウス関数に沿って振幅が減衰し、波数{β×(W(x)/U(x))}でそれぞれ周期的に変化する凹部および凸部を形成している。図8の(b)に示す例では、ガウス関数の片幅はw=4(mm)である。
式(1)におけるパラメータβ、x、h、wは、翼弦方向における乱流遷移位置を下流側にずらすことによって、上面1a上の層流境界層の長さを長くする目的で設定される。
以下に、各パラメータの設定方法の一例について簡単に説明する。なお、横流れ不安定性解析において当業者に周知の事項、手法については適宜説明を省略する。
擾乱をスパン方向にフーリエ分解したとし、波数をβとする。各βに応じて、定在横流れ不安定性の空間的成長率-α(x,β)が次式(2)のように評価できる。
Figure 0007465483000002
ここで、c、c、c、cは、翼面の形状に依存した無次元定数であり、例えば、c=0.45、c=1.5、c=15、c=0.83である。ただし、c、c、c、cは、翼面の形状が異なっていても、概ねこのようなオーダーの値をとる。
より具体的で正確な空間的成長率-α(x,β)は、境界層流れの線形安定性解析を数値的に行えば計算することができる。
擾乱の増幅率(ゲイン) は、上述の空間成長率をxで積分したN値(下記式(6)参照)で評価できる。N値は、x、βの関数である。
Figure 0007465483000003
一般に低波数のβほどN値が大きい傾向があり、乱流遷移を引き起こしやすい。
環境のノイズレベルによっても異なるが、例えば、Nが8以上の擾乱が乱流遷移を引き起こす環境であると見なしてもよい。例えば、航空機の場合、乱流遷移を引き起こすN値の閾値は、8~10であると言われている。したがって、航空機の場合、N=8は、安全側の見積もりである。
隆起構造2における波数βは、擾乱を励起する波数である。このため、隆起構造2による励起によって乱流遷移が起こらないように、波数βとしては、閾値に選定されたN値よりも小さいN値を与える波数が選ばれる。例えば、閾値がN=8の場合、波数βの選定用のN値は、例えば、N=6が用いられてもよい。
この場合、式(6)の左辺にN=6を代入すれば、βが求められる。
次に、β=βとした空間的成長率-α(x,β)が最大になる位置xを、隆起構造2の配置位置xとする。式(1)で表される隆起構造2の配置位置は、各単位隆起2aの中心であり、かつ単位隆起2aの高さが最大高さhに等しくなる位置で規定される。
隆起構造2の最大高さhは、高いほど隆起構造2による擾乱を励起しやすくなるので、低波数の擾乱を抑制しやすくなる。しかし、hが高くなりすぎると、隆起構造2によって励起される擾乱の振幅が大きくなりすぎる。この結果、ただちに乱流遷移が発生するおそれがある。そのため、hは、位置xにおける境界層排除厚さδ(x)の3倍以下とするべきである。安全側に見積もると、hはδ(x)の2倍程度、例えば、1.7倍以上2.3倍以下であるとより好ましい。
例えば、図8の(a)、(b)に示す例では、δ(x)=0.087(mm)とすると、h/δ(x)は、2.874である。
隆起構造2における翼弦方向の片幅wは、隆起構造2の最大高さhよりも充分に長ければ特に限定されない。例えば、wは、hの10倍以上あればよく、30倍以上だとより好ましい。
例えば、図8の(b)に示す例では、w=4(mm)であるので、wはhの16倍である。
以上、隆起構造2の具体例について説明したが、隆起構造2の形状は、これには限定されない。
例えば、隆起構造2における翼弦方向の凹凸形状は、卓越波数がβであれば、正弦関数以外の周期関数で表されてもよい。ただし、周期関数は、翼弦方向における勾配の変化が滑らかであることより好ましい。
さらに、隆起構造2における翼弦方向の凹凸形状は、卓越波数がβである周期的な凹凸形状であれば、特定の周期関数で表されない形状であってもよい。
例えば、隆起構造2におけるスパン方向の凹凸形状の包絡線は、β以外の波数の擾乱を励起しにくいように、凹凸形状の高さがなだらかに変化する凸形状であれば、ガウス関数には限定されない。例えば、凸形状は、流線型、釣り鐘型など、流れを擾乱しにくい形状であれば、具体的な関数形は特に限定されず、関数で表されない形状であってもよい。
翼1上における隆起構造2の形成方法は、隆起構造2として必要な凹凸形状を形成できれば特に限定されない。
例えば、隆起構造2は、上面1aの成形時に上面1aに形成されてもよい。
例えば、隆起構造2は、必要な凹凸形状が表面に形成されたシート部材として製造されてもよい。シート部材は、上面1a上に接着などによって、翼1に取り付けられてもよい。シート部材における隆起構造2の形成方法としては、モールド成形、プレス成形、除去加工などが挙げられる。
例えば、隆起構造2は、上面1a上に塗布された原料を必要な凹凸形状に硬化させることによって、上面1a上に形成されてもよい。原料の硬化方法としては、例えば、紫外線照射、加熱などが用いられてもよい。凹凸形状の形成方法としては、成形型が用いられてもよいし、層状部を形成した後に不要部が除去加工されてもよい。例えば、除去加工としては、機械的除去加工、化学的除去加工、レーザ加工などが挙げられる。
例えば、隆起構造2は、原料を上面1aまたは上面1aに貼り付けるシート部材上に付加または堆積することによって形成されてもよい。付加・堆積方法としては、特に限定されないが、例えば、3Dプリンタ、インクジェット印刷などが挙げられる。
隆起構造2の材料としては、翼1の使用条件において耐久性を有する材料であれば、特に限定されない。例えば、隆起構造2の材料としては、金属、非金属無機材料、および有機材料からなる群から選ばれた1種類以上の材料が用いられてもよい。
次に、隆起構造2の作用について説明する。
隆起構造2を構成する各単位隆起2aは、境界層外縁における流線(図1のS)の方向に沿って延びている。各単位隆起2aの長手方向および短手方向の端部は、上面1aからなだらかに高さが増大する滑らかな曲面である。さらに、各単位隆起2aの中間部2mは、長手方向および短手方向において、頂部まで漸次高さが増大する滑らかな凸曲面である。
このような形状を有するため、単位隆起2aは、図2の主流(MF)方向の流れを阻害しにくい流線型であり、主流を円滑に通過させることができる隆起である。
隆起構造2を全体として見ても、単位隆起2aがスパン方向に周期的に整列しているため、同じく主流方向に通過する流れを阻害しにくい。
隆起構造2は、包絡線をスパン方向に平行移動したドーム状の範囲で全体としてスパン方向に長く延びており、スパン方向の断面形状は、波数βの周期的な凹凸形状からなる。このため、主流(MF)方向に垂直な方向成分を有する横流れ(CF)が波数βの周期的な凹凸形状を通過することによって、波数βの擾乱が励起される。
このように、隆起構造2は、淀み点Stからの距離xの位置において、境界層内部の専ら横流れ成分に波数βの擾乱を選択的に励起する粗度構造を形成している。
次に、波数βの擾乱の成長が乱流遷移を抑制する作用について、数値解析結果に基づいて説明する。
図9は、本発明の実施形態の隆起構造の作用を示すグラフである。図9において、横軸は翼弦方向の位置x、縦軸は擾乱の振幅に対応するmax|v|(ただし、vにおけるハット記号(サーカムフレックスアクセント)は省略。以下も同じ。)を示す。なお、図9は縦軸が対数目盛とされた片対数グラフである。
図9に示すグラフは、x=20(mm)の位置において湧き出し/吸い込みによる擾乱源を配置し、適当な初期振幅で、擾乱の波数のモードを励起した結果を示す。縦軸のmax|v|は、壁垂直方向速度vをスパン方向に離散フーリエ変換し、壁垂直方向(y方向)に関する振幅の最大値を取った数値である。以下では、max|v|を擾乱の振幅と称する。
スパン方向波数βは、β=1.666n(mm-1)(ただし、n=1,2,…)のように整数nでラベル付けして表している。また、グラフの見やすさを考慮して、図9には、n=1,2,3のみの結果を示している。
計算に用いた隆起構造2の形状は、上記式(1)において、β=5.000(mm-1)(n=3)、W(x)/U(x)=0.57、h=0.25(mm)、w=4(mm)、x=30(mm)とされた形状である。
ここで、β=5.000(mm-1)としているのは、N値が大きいβ=3.333(mm-1)の擾乱を抑制するためである。本例では、スパン方向波数βは、擾乱の抑制対象のモード(ターゲットモードと称する)の波数β=3.333(mm-1)の1.5倍である。
ターゲットモードを抑制するために、隆起構造2によって人為的に擾乱を励起する波数が支配的な擾乱のモードをキラーモードと称する。
図9において曲線110は、隆起構造2を設けない場合の上面1aにおける擾乱の振幅を表す。
曲線110に示すように、隆起構造2を設けない場合、擾乱の振幅は、x=20(mm)から、横流れ不安定性によって指数関数的に増大し、x=180(mm)の付近で飽和している。さらにxが増加すると、x=200(mm)の付近から二次不安定性が発生し始め、x=250(mm)の付近ではほぼ乱流に遷移していることが分かる。ただし、ここでは二次不安定性の引き金として、x=180(mm)の位置にて微小な振動擾乱を数値的に与えている。
図9において、曲線111、112、113は、それぞれn=1、2、3のスパン方向波数βに対応する擾乱の振幅のフーリエ成分の変化を表す。
曲線113に示すように、n=3の場合、x=30(mm)を中心として配置された隆起構造2の形成領域で、振幅が急峻に増大して最大値を取り、この後、xが増加するにつれて、振幅が減少している。特に、x=250(mm)の付近では、振幅は略0である。さらにxが増加すると振幅は増大するが、x=400(mm)でも乱流遷移は発生していない。
曲線113の最大値は、曲線110における乱流遷移時の振幅を上回っているにもかかわらず乱流遷移が発生していない。この理由は、曲線110における乱流遷移はβ=5.000(mm-1)よりも低い波数の擾乱の成長によって形成されているためであると考えられる。
曲線112に示すターゲットモード(n=2)の場合、x=240(mm)の付近までは、擾乱の振幅が略0に抑制されている。さらにxが増加すると、振幅は指数関数的に増大するが、x=400(mm)でも乱流遷移は発生していない。
曲線111に示すターゲットモードよりも低波数(n=1)の場合、xが増加するにつれて指数関数的に増大している。ターゲットモードに比べると振幅の抑制効果は少ないが、x=400(mm)でも乱流遷移は発生していない。
図9における図示は省略するが、nが4以上のモードの場合、3の倍数のモードではn=3と同様に擾乱が励起され、その他のモードでは振幅が抑制される。いずれのモードでもより低波数の振幅よりは振幅が低減される。このため、図9に示すように、キラーモード、ターゲットモード、ターゲットモードよりも低波数のモードの振幅成長を検討するだけでも充分に隆起構造2の効果を予測できる。
次に本実施形態の隆起構造2の作用について比較例と対比して説明する。
図10は、比較例の隆起構造を示す斜視図である。図11は、比較例の隆起構造を示す平面図である。図12における(a)、(b)は、それぞれ比較例の隆起構造のスパン方向および翼弦方向の断面形状を示すグラフである。
図10~12において、x、y、zは1mmで無次元化されている。
図10、11に示すように、比較例の隆起構造20は、実施形態の隆起構造2における単位隆起2aに代えて、略円柱状の単位隆起20aを備える。以下、上述の隆起構造2と異なる点を中心に説明する。
隆起構造20は、非特許文献1に開示の孤立粗度と略同様の構成を有する。ただし、具体的な寸法は、隆起構造2と対比しやすいように適宜変更している。
隆起構造20によるターゲットモードは、実施形態と同様、β=3.333(mm-1)である。
図12の(a)に曲線201で示すように、単位隆起20aは、平均直径dが1mm、高さHが0.12mmの略円柱状である。ただし、単位隆起20aの側面は突出方向に先細の傾斜を有しており、先端部の外縁には丸みが付けられている。
図12の(b)に示すように、単位隆起20aは、x=xにおいて、スパン方向に等ピッチの1列をなして配列されている。単位隆起20aのスパン方向の配列ピッチp(図12の(a)参照)は、β=5.000(mm-1)の擾乱を励起するため、2π/5.000mmである。
実施形態と同様にして、隆起構造20を有する翼における擾乱の振幅を数値計算した結果を図13に示す。
図13は、比較例の隆起構造の作用を示すグラフである。図13の縦軸および横軸は、図9の縦軸および横軸と同様である。
図13には、比較のために、図9におけると同様の曲線110がプロットされている。
曲線211、212、213は、それぞれn=1、2、3のスパン方向波数βに対応する擾乱の振幅のフーリエ成分の変化を表す。
曲線213に示すように、n=3のキラーモードの場合、x=30(mm)を中心として配置された隆起構造20の形成領域で、振幅が急峻に増大して最大値を取り、この後、急峻に振幅が低下した後、振幅は増加に転じた。n=3のキラーモードの場合、振幅は、x=100(mm)の近辺で極大、x=200(mm)の近辺で極小、x=260(mm)の近辺で極大となる2峰性の変化を示した。この後、振幅は、x=300(mm)の近辺で不安定になった後、急峻に増大した。x=330(mm)の近辺では、乱流に遷移したことが分かる。
曲線212に示すターゲットモード(n=2)の場合、x=160(mm)付近までは、擾乱の振幅が指数関数的に増大し、極大となった後、x=200(mm)の付近で極小となった。xがさらに増加すると、振幅が指数関数的に増大して、x=250(mm)付近で飽和した。この後、キラーモードと同様、振幅は、x=300(mm)の近辺で不安定になった後、急峻に増大した。x=330(mm)の近辺では、乱流に遷移したことが分かる。
曲線211に示す、ターゲットモードよりも低波数(n=1)の場合、ターゲットモードと同様に、xが増加するにつれて指数関数的に増大した。ただし、曲線211に示すように、振幅は、x=160(mm)を超えても増大し、x=300(mm)の付近で飽和した後、乱流に遷移したことが分かる。
比較例では、n=1、2、3のいずれもモードでも、x=330(mm)の付近では乱流遷移していた。このため、隆起構造20の効果は、乱流遷移位置をx=250(mm)からx=330(mm)まで、80mm後退させることができる程度である。
これに対して、本実施形態の隆起構造2を有する計算結果によれば、少なくとも計算範囲のx=400(mm)まで乱流遷移が発生しておらず、発生する兆候もなかった。したがって、隆起構造2は、乱流遷移位置は150mm以上後退させることができている。
次に、隆起構造2の最大高さhの検討結果について説明する。
図14は、隆起構造の高さとキラー振幅との関係を示すグラフである。
隆起構造2、20において、最大高さhを変えて、上述と同様の計算を行い、最大高さhと、キラーモードにおける擾乱の振幅(キラー振幅)との関係を求めた結果を図14に示す。
図14における横軸は隆起構造の最大高さh、縦軸はx=40(mm)におけるキラーモードにおける擾乱の振幅である。なお、本解析において、x=30(mm)における境界層排除厚さδは0.087mmであった。
折れ線120、220は、それぞれ隆起構造2、20の結果を示す。
折れ線120に示すように、隆起構造2では、最大高さhが増大するにつれてキラー振幅は、増大し、h=0.16(mm)の近辺で略一定になった。しかし、h=0.25(mm)の近辺からキラー振幅はさらに増大した。ただし、hが0.30(mm)以上では、x=30(mm)より後方からただちに乱流領域Tに入っていた。
折れ線220に示すように、隆起構造20では、h=0.07(mm)までは、最大高さhの増加とともにキラー振幅が単調に増加した。しかし、変化率は、隆起構造2に比べると格段に小さかった。さらに、キラー振幅は、h=0.07(mm)で略飽和し、h=0.10(mm)を超えると急峻に減少した。
隆起構造20を有する場合、hが0.10(mm)を超えると、キラーモードはほとんど励起されなかった。さらに、h=0.15(mm)以上になると、やはりx=30(mm)より後方からただちに乱流領域Tに入っていた。
実施形態の隆起構造2の場合、最大高さhが0mm以上0.16mmの範囲では、hの大きさに応じてキラー振幅を制御できる。さらにhが0.16mm以上0.25mm以下の範囲では、キラー振幅を一定に保ち、かつ乱流遷移を抑制できる。
hが0.25mmを超えると、乱流遷移が抑制できない理由としては、hが境界層排除厚さδの3倍を超えたため、隆起構造2の凸部が境界層外部の高速流領域にまで突出し、高速流領域における凸部において流れの剥離による乱流遷移をただちに引き起こしたことなどが考えられる。流れの剥離が起きると乱流遷移を逆に促進してしまうので、安全側に見積もるならば、hは、δの1.7倍以上2.3倍以下であることがより好ましい。
比較例の隆起構造20の場合、隆起構造2に比べるとキラー振幅の励起能力が低く、乱流遷移の抑制効果も低かった。例えば、hが0.10mmを超えると励起能力を有していなかった。略円柱形状が流線型とはかけ離れているために、h/δが2に満たない程度でも剥離による乱流遷移を引き起こすようになると考えられる。
以上説明したように、隆起構造2および翼1によれば、横流れが発生する境界層において、乱流遷移位置を下流側にずらすことができる。これにより、隆起構造2を有しない場合に比べて、摩擦抵抗が格段大きくなる乱流境界層を縮小し、より摩擦抵抗が小さい層流境界層の領域を拡大できる。
隆起構造2および翼1によれば、横流れ不安定性に起因する摩擦抵抗を低減することができる。
なお、上記実施形態では、隆起構造が航空機の後退翼に設けられる場合の例で説明した。しかし、隆起構造が設けられる物体は、横流れ不安定性が発生しうる物体であれば、航空機の後退翼には限定されない。
隆起構造を設けることができる物体の例としては、航空機以外に用いられる翼、流れ中の後退円柱、流れ方向の上流側から下流側に向かって拡径する円錐状の回転体などが挙げられる。
さらに、隆起構造が設けられる物体が配置される流体は、粘性流体であれば、粘性流体の種類は限定されない。粘性流体は圧縮性流体であってもよいし、非圧縮性流体でもよい。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこの実施形態に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
また、本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
上記実施形態によれば、横流れ不安定性に起因する摩擦抵抗を低減することができる隆起構造および翼を提供できる。
1 翼(物体)
1a 上面(表面)
1b 下面
2 隆起構造
2a 単位隆起(隆起体)
f 前縁
F 流れ
St 淀み点

Claims (8)

  1. 物体の前縁に対して鋭角をなす方向に前記物体に沿って流れる流れの粘性による摩擦抵抗を低減する隆起構造であって、
    前記前縁における前記流れの淀み点よりも下流側における前記物体の表面に設けられ、前記表面における前記流れに沿った方向に延びる複数の隆起体を備え、
    前記複数の隆起体の各々は、先端と、後端と、中間部とを有し、
    前記先端、前記後端、及び前記中間部は、前記表面から隆起する凸部を形成し、
    前記先端は、前記表面において前記流れに沿った方向における上流側に位置しており、前記凸部と前記表面との間の境界を形成し、
    前記後端は、前記表面において前記流れに沿った方向における下流側に位置しており、前記凸部と前記表面との間の境界を形成し、
    前記表面から隆起する前記凸部の隆起方向に見て、前記中間部は、前記先端と前記後端との間に位置し、
    前記凸部においては、前記中間部は、前記表面からの前記隆起方向における高さが最大となる頂点に位置し、
    前記複数の隆起体は、
    前記淀み点からの距離が一定かつ前記表面に直交する第1断面において、周期的に変化する第1凹凸形状を形成する
    隆起構造。
  2. 前記凸部においては、前記先端から前記中間部に向けて、前記表面からの高さが漸増するように滑らかな曲線が形成されており、
    前記凸部においては、前記後端から前記中間部に向けて、前記表面からの高さが漸増するように滑らかな曲線が形成されている、
    請求項1に記載の隆起構造。
  3. 前記複数の隆起体は、前記淀み点を連ねる線および前記第1断面に直交する第2断面において、周期的に変化する凹部および凸部を有し、前記凸部の各頂点の高さが凸状の包絡線に沿って変化する第2凹凸形状を形成するように、配列されている、
    請求項1または2に記載の隆起構造。
  4. 前記第1凹凸形状は、
    一定の波数を有する正弦波状であり、
    前記包絡線は、
    釣り鐘型の曲線である、
    請求項3に記載の隆起構造。
  5. 前記複数の隆起体のそれぞれにおける最大高さは、
    前記流れによって形成される境界層排除高さの1.7倍以上2.3倍以下である、
    請求項1に記載の隆起構造。
  6. 物体の前縁に対して鋭角をなす方向に前記物体に沿って流れる流れの層流から乱流への遷移を抑制し、粘性による摩擦抵抗を低減する隆起構造であって、
    前記前縁における前記流れの淀み点よりも下流側における前記物体の表面に設けられ、前記表面における前記流れに沿った方向に延びる複数の隆起体を備え、
    前記複数の隆起体の各々は、先端と、後端と、中間部とを有し、
    前記先端、前記後端、及び前記中間部は、前記表面から隆起する凸部を形成し、
    前記先端は、前記表面において前記流れに沿った方向における上流側に位置しており、前記凸部と前記表面との間の境界を形成し、
    前記後端は、前記表面において前記流れに沿った方向における下流側に位置しており、前記凸部と前記表面との間の境界を形成し、
    前記表面から隆起する前記凸部の隆起方向に見て、前記中間部は、前記先端と前記後端との間に位置し、
    前記凸部においては、前記中間部は、前記表面からの前記隆起方向における高さが最大となる頂点に位置し、
    前記複数の隆起体は、
    前記淀み点からの距離が一定かつ前記表面に直交する第1断面において、周期的に変化する第1凹凸形状を形成する、
    隆起構造。
  7. 請求項に記載の隆起構造を表面に備え、流体に配置される物体
  8. 前記表面において、前記隆起構造は、前記前縁の近くに設けられている、
    請求項7に記載の物体。
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