JP7369386B1 - 隆起構造、翼、隆起構造の設計方法及びその設計プログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】物体の前縁領域の表面における横流れ不安定性による擾乱の増幅を抑制し、乱流遷移が起こる位置を後退させて層流境界層の領域を拡大させることができる隆起構造を提供する。【解決手段】主流に対して後退角を有して前縁が設けられた翼の層流領域とされた前縁の直下流の前縁領域の上面1cに設けられ、主流の下流側に向かって並列に延在する複数の隆起体2aを備え、各隆起体2aの頂点を隆起体2aの延在方向に連ねた稜線が、x方向に対する角度を稜線角度θRとし、主流の境界層外縁における流線のx方向に対する角度を境界層外縁角度θeとし、表面の境界層内で定在的な擾乱が増幅して定在渦列として現れるモードである定在横流れ不安定性の波面のx方向に対する角度を横流れ不安定性角度θcfとしたときに、稜線角度θRは、境界層外縁角度θeと横流れ不安定性角度θcfとの間である。【選択図】図2
Description
本開示は、物体の前縁領域に設けられて好適な隆起構造、翼、隆起構造の設計方法及びその設計プログラムに関するものである。
航空機の翼に代表されるような柱状の物体に向かって流れが後退角をもって斜めに衝突する場合、物体表面における圧力勾配の方向と主流の方向が異なるため、境界層の内部において「横流れ」が生じる。このような境界層では横流れ不安定性によって擾乱が増幅し、境界層が層流状態から乱流状態へ遷移する。境界層が乱流状態になると物体表面にかかる摩擦抵抗は飛躍的に増大してしまう。
非特許文献1には、微小な孤立粗さ要素(Discrete Roughness Elements:以下「DRE」と言う。)である円盤状の突起物を後退翼の前縁に等間隔で設置し、波数βRの定在横流れ不安定性を励起する方法が提案されている。この非特許文献1において、乱流遷移を抑制する物理的なメカニズムがすでに説明されている。ただし、突起の高さを上げると突起の後流が剥離によって乱流化してしまうため、限界高さが低く、励起される定在横流れ不安定性の振幅も弱い傾向がある。実際に飛行試験も行われたが、乱流抑制効果(層流化効果)は確認されなかった。
特許文献1には、上記のDREの欠点を回避した波形粗さ要素(Sinusoidal Roughness Elements:以下「SRE」と言う。)が開示されている。スパン方向の断面形状を波形の凹凸にすること、稜線の向きを境界層外縁における流線方向θeに合わせることが提案されている。凹凸の形状は流線に沿った方向にはなだらかな形状であるため、DREよりも2~3倍に高さを上げても流れを乱さないことが示されている。このため、SRE背後で強い渦列が励起され、DREよりも高い乱流抑制効果が得られることが示された。
一方、上述したDREやSREに類似するものとしてリブレットがある(例えば特許文献2参照)。リブレットは、摩擦抵抗を低減するという目的や凹凸形状を有するという点でDREやSREに類似するところがある。しかし、リブレットは、すでに乱流遷移した後の乱流境界層において摩擦抵抗を低減するためのものであり、DREやSREのような乱流遷移を抑制するためのデバイスとは異なる。リブレットが設置されるのはすでに乱流となった物体表面領域であり、DREやSREのような前縁近傍に設けられたものではない。また、リブレットは単純に流線に沿った波状の凹凸であるが、境界層内部の横流れまで考慮したものではない。また、リブレットのような波状の凹凸に限らず、サメ肌にヒントを得た様々な凹凸形状が摩擦抵抗低減効果をもつものとして提案されているが、それらもリブレットと同様に乱流境界層の摩擦抵抗を低減するものである。
サ一リツク 外2名、「アメリ力ン・インスティテュー卜・オブ・エア口ノーティックス・アンド・アストロノーティックス・ペーパー(American Institute of Aeronautics and Astronautics Paper)No.1998-0781」(米国)、1998、pp.1-13
上記特許文献1に開示されたSREは、前縁近傍の位置に局在させて配置することを想定しており、稜線もその位置の流線方向に合わせた角度の直線とされている。SRE背後の渦列は後方にいくほど次第に弱まって減衰するため、乱流抑制効果が働く領域もSREの背後に限定されるという問題がある。
SREをさらに改良するためには、波状の凹凸をさらに流線方向に沿って後方に伸ばしていくことが考えられる。流線は曲がっているため、凸部のピークをつらねた稜線も曲げる必要がある。しかし、これでは凹凸パターンと定在横流れ不安定性の渦列パターンが同期せず、それらが干渉して渦列が壊れてしまうという問題がある。
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、物体の前縁領域の表面における横流れ不安定性による擾乱の増幅を抑制し、乱流遷移が起こる位置を後退させて層流境界層の領域を拡大させることができる隆起構造、翼、隆起構造の設計方法及びその設計プログラムを提供することを目的とする。
本開示の隆起構造、翼、隆起構造の設計方法及びその設計プログラムは、以下の通りである。
本開示の一態様に係る隆起構造は、主流に対して後退角を有して前縁が設けられた物体の層流領域とされた前縁の直下流の前縁領域の表面に設けられ、前記主流の下流側に向かって並列に延在する複数の隆起体を備え、前記複数の隆起体は、前記前縁に付着する淀み点が並ぶ前縁付着線に対して平行とされたz方向において一定の間隔λRで設けられた頂点を有し、各前記隆起体の前記頂点を該隆起体の延在方向に連ねた稜線が、前記前縁付着線に対して垂直とされたx方向に対する角度を稜線角度θRとし、主流の境界層外縁における流線の前記x方向に対する角度を境界層外縁角度θeとし、前記表面の境界層内で定在的な擾乱が増幅して定在渦列として現れるモードである定在横流れ不安定性の波面の前記x方向に対する角度を横流れ不安定性角度θcfとしたときに、前記稜線角度θRは、前記境界層外縁角度θeと前記横流れ不安定性角度θcfとの間である。
本開示の一態様に係る隆起構造の設計方法は、主流に対して後退角を有して前縁が設けられた物体の層流領域とされた前縁の直下流の前縁領域の表面に設けられ、前記主流の下流側に向かって並列に延在する複数の隆起体を備えた隆起構造の設計方法であって、前記複数の隆起体は、前記前縁に付着する淀み点が並ぶ前縁付着線に対して平行とされたz方向において一定の間隔λRで設けられた頂点を有し、各前記隆起体の前記頂点を該隆起体の延在方向に連ねた稜線が、前記前縁付着線に対して垂直とされたx方向に対する角度を稜線角度θRとし、主流の境界層外縁における流線の前記x方向に対する角度を境界層外縁角度θeとし、前記表面の境界層内で定在的な擾乱が増幅して定在渦列として現れるモードである定在横流れ不安定性の波面の前記x方向に対する角度を横流れ不安定性角度θcfとしたときに、前記稜線角度θRを、前記境界層外縁角度θeと、前記横流れ不安定性角度θcfとの間とする。
本開示の一態様に係る設計プログラムは、上記の設計方法をコンピュータに実行させる。
隆起構造によって、物体の前縁領域の表面における横流れ不安定性による擾乱の増幅を抑制し、乱流遷移が起こる位置を後退させて層流境界層の領域を拡大させることができる。これにより、物体が受ける摩擦抵抗を低減できる。
以下に、本開示に係る一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1には、隆起構造2を備えた翼1(物体)が示されている。翼1は、例えば、航空機に用いられ、主流の流れFに対して後退角θ∞を有する後退翼とされている。ただし、図1は、翼1におけるスパン方向(z方向)の一部のみを示している。したがって、隆起構造2は、翼1のスパン方向の略全長または所望の所定領域にわたって設けられている。
なお、本実施形態では物体の一例として翼型を用いて説明するが、本開示は物体の形状は翼型に限定されるものではなく、円柱などを含む柱状物体まわりの流れに広く適用できるものである。
図1には、隆起構造2を備えた翼1(物体)が示されている。翼1は、例えば、航空機に用いられ、主流の流れFに対して後退角θ∞を有する後退翼とされている。ただし、図1は、翼1におけるスパン方向(z方向)の一部のみを示している。したがって、隆起構造2は、翼1のスパン方向の略全長または所望の所定領域にわたって設けられている。
なお、本実施形態では物体の一例として翼型を用いて説明するが、本開示は物体の形状は翼型に限定されるものではなく、円柱などを含む柱状物体まわりの流れに広く適用できるものである。
翼1は、前縁1aから後縁1bに向かって、翼厚が増大し、最大になった後、漸次減少する適宜の翼型を有する。ただし、具体的な翼型については特に限定されるものではない。
図1において、流れFは、翼1が取り付けられた航空機が直進したときに翼1が受ける主流空気の流れを表す。航空機の飛行時には、翼1の前縁1aに淀み点が付着する。この淀み点が前縁1aが延在する方向に並んで線状となり、前縁付着線L1が形成される。
翼1の上面1c、より具体的には前縁付着線L1の直下流の前縁領域には、隆起構造2が形成されている。隆起構造2は、翼1上を流れる流れFの粘性による摩擦抵抗を低減する。なお、翼1の下面の前縁領域に隆起構造2を設けても良い。ただし、以下の説明では、翼1の上面1cに設けた隆起構造2について説明する。
図1に示すように、境界層が形成される翼1の前縁領域の物体表面近傍の位置を、以下の座標系で表す。
x:コード方向(前縁付着線L1に対して垂直方向で、翼1の上面1cに沿った座標)
y:壁垂直方向(y=0が翼1の上面1cとする)
z:スパン方向(前縁付着線L1に平行な方向)
前縁付着線L1の位置をx=y=0とおくことにし、x(>0)は翼1の上面1cに沿って測った前縁付着線L1からの距離を表す。
主流の流れFの方向は、コード方向に対して平行(前縁付着線L1に対して垂直)ではなく、後退角θ∞を成す。
x:コード方向(前縁付着線L1に対して垂直方向で、翼1の上面1cに沿った座標)
y:壁垂直方向(y=0が翼1の上面1cとする)
z:スパン方向(前縁付着線L1に平行な方向)
前縁付着線L1の位置をx=y=0とおくことにし、x(>0)は翼1の上面1cに沿って測った前縁付着線L1からの距離を表す。
主流の流れFの方向は、コード方向に対して平行(前縁付着線L1に対して垂直)ではなく、後退角θ∞を成す。
図2には、隆起構造2の凹凸が等高線で示されている。隆起構造2は複数の隆起体2aを備えており、以下のような特徴を備えている。
・同じ形状の隆起体2aをスパン方向に間隔λRで周期的に並べたものである。つまり、スパン方向に沿って波数βR=2π/λRの凹凸を繰り返す波形をしている。
・各々の隆起体2aはスパン方向の断面形状である横断面形状において単一の頂点をもつ。つまり、これら隆起体2aを周期的に並べた横断面形状としては、例えば正弦波や三角波などが挙げられる。
・コード方向で見ると、隆起構造2は前縁1aに近い先端位置x1から後端位置x3までの区間内の前縁領域に分布する。各隆起体2aの横断面形状のピーク高さは先端位置x1から頂点位置x2までなだらかに上昇し、頂点位置x2から後端位置x3までなだらかに下降する。つまり、隆起体2aの高さは頂点位置x2の位置で最大値hmaxをとる。ただし、頂点位置x2よりも後方にほぼ最大高さhmaxのままである区間が続き、その後ろからなだらかに後端位置x3まで下降するものでもよい。
・各コード位置x(x1<x<x3)における隆起構造2の横断面形状の頂点を連ねた稜線は、コード方向と稜線角度θRの角度を成す。ただし、稜線角度θRは翼1の上面1c上の位置(x,z)に依存して適切に変化し、稜線は曲がっている。稜線角度θRは、境界層外縁における流線の境界層外縁角度θeと定在横流れ不安定性の波面の横流れ不安定性角度θcfの間に挟まれる角度である。稜線角度θRは、中間値(=(θe +θcf)/2)のあたりであることが望ましい。ただし、稜線角度θRは、中間値に対し角度差分(θe-θcf)の30%以下程度の多少の誤差が許容される。
・同じ形状の隆起体2aをスパン方向に間隔λRで周期的に並べたものである。つまり、スパン方向に沿って波数βR=2π/λRの凹凸を繰り返す波形をしている。
・各々の隆起体2aはスパン方向の断面形状である横断面形状において単一の頂点をもつ。つまり、これら隆起体2aを周期的に並べた横断面形状としては、例えば正弦波や三角波などが挙げられる。
・コード方向で見ると、隆起構造2は前縁1aに近い先端位置x1から後端位置x3までの区間内の前縁領域に分布する。各隆起体2aの横断面形状のピーク高さは先端位置x1から頂点位置x2までなだらかに上昇し、頂点位置x2から後端位置x3までなだらかに下降する。つまり、隆起体2aの高さは頂点位置x2の位置で最大値hmaxをとる。ただし、頂点位置x2よりも後方にほぼ最大高さhmaxのままである区間が続き、その後ろからなだらかに後端位置x3まで下降するものでもよい。
・各コード位置x(x1<x<x3)における隆起構造2の横断面形状の頂点を連ねた稜線は、コード方向と稜線角度θRの角度を成す。ただし、稜線角度θRは翼1の上面1c上の位置(x,z)に依存して適切に変化し、稜線は曲がっている。稜線角度θRは、境界層外縁における流線の境界層外縁角度θeと定在横流れ不安定性の波面の横流れ不安定性角度θcfの間に挟まれる角度である。稜線角度θRは、中間値(=(θe +θcf)/2)のあたりであることが望ましい。ただし、稜線角度θRは、中間値に対し角度差分(θe-θcf)の30%以下程度の多少の誤差が許容される。
上述した波形の隆起構造2を特徴づけるパラメータは、波数βR,先端位置x1,頂点位置x2,,後端位置x3,最大高さhmax,稜線角度θRである。これらは最適な値を選べば、大きな摩擦抵抗の低減効果が得られるが、最適な値から離れるほど効果は弱くなっていき、さらには逆効果になってしまうこともある。よって、設計の際には、流れ場や気流乱れの強度にあわせて隆起構造2のパラメータを最適に選ぶ必要がある。
次に、波形の隆起構造2の設計に必要な流れ場の情報について説明する。
柱状物体まわりの流れは淀み点の位置からコード方向へ加速していくため、後退角が存在する場合の境界層外縁における流線は図1のように曲がっている。さらに境界層の内部では、この流線に対して垂直な方向に横流れが生じることで知られる。
図3は物体表面上のある位置における典型的な流速分布である。このような物体まわりに発達する境界層の具体的な流速分布は、流体シミュレーションによって求めることができる。または、熱線風速計を用いれば実験的に計測できる場合もある。
柱状物体まわりの流れは淀み点の位置からコード方向へ加速していくため、後退角が存在する場合の境界層外縁における流線は図1のように曲がっている。さらに境界層の内部では、この流線に対して垂直な方向に横流れが生じることで知られる。
図3は物体表面上のある位置における典型的な流速分布である。このような物体まわりに発達する境界層の具体的な流速分布は、流体シミュレーションによって求めることができる。または、熱線風速計を用いれば実験的に計測できる場合もある。
翼1の上面1c上のある位置(x,z)における境界層の流速分布が(U(y),W(y))であったとする。ここで、U(y)はコード方向、W(y)はスパン方向の流速成分を表す。境界層の99%境界層厚さをδ99とすると、そこでの流速(U(y),W(y))=(U(δ99),W(δ99))がおおむね境界層外縁における速度とみなせる。角度θe=arctan(We/Ue)は、この位置においてコード方向と外縁流速方向が成す角度である。
翼1の前縁領域は柱状物体のように、コード方向(x方向)に比べるとスパン方向(z方向)には物体形状や流れ場がほとんど変化しておらず、スパン方向にはほぼ一様とみなせる。定在横流れ不安定性は、スパン方向にほぼ周期的な波数βをもった定在波がコード方向に伝播しながら指数関数的に増幅し、定在渦列として現れるモードである。物体表面上の各位置における定在横流れ不安定性の空間的成長率は、境界層の流速分布(U(y),W(y))の線形安定性解析を数値的に行えば求めることができる。
空間的成長率をコード方向に積分したN値によって、おおよその乱流遷移の発生位置が予測される。図4は線形安定性解析によって得られた定在横流れ不安定性のN値の一例である。このように、波数βによってN値が異なることが知られている。例えば巡行状態の飛行機の場合、N値が8~10に到達する(擾乱振幅がe8倍からe10倍程度に増幅する)と乱流遷移すると言われている。ただし、気流乱れが大きいほどこの閾値は下がる傾向にある。
例えばN=8で遷移が起こると想定すると、遷移が起こる位置xtrと遷移を引き起こす擾乱の波数βTが、図4のように予測される。つまり、この波数をもつ横流れ不安定性を抑制することが目標となるため、ここではβTをターゲット波数と呼ぶ。
また、定在横流れ不安定性の波面がコード方向と成す横流れ不安定性角度θcfは場所ごとに決まった値をもつことが理論的に知られている。具体的には、
Uξ(y)=-U(y)sinθcf+W(y)cosθcf
という流速成分を定義したとき、Uξ(y)の変曲点とゼロ点がちょうど一致するような角度を横流れ不安定性角度θcfとして求めることができる。θcfはθeよりも若干小さい角度となる。
以上の諸量は、物体表面上の各位置(x,z)ごとに定義できるので、(x,z)の関数として与えられる。
Uξ(y)=-U(y)sinθcf+W(y)cosθcf
という流速成分を定義したとき、Uξ(y)の変曲点とゼロ点がちょうど一致するような角度を横流れ不安定性角度θcfとして求めることができる。θcfはθeよりも若干小さい角度となる。
以上の諸量は、物体表面上の各位置(x,z)ごとに定義できるので、(x,z)の関数として与えられる。
次に、最適なパラメータの決定方法について説明する。
まず、波形の隆起構造2のスパン方向の波数βRは、ターゲット波数βTの3/2倍程度の波数とする。この波数βRは横流れ不安定性に対して不安定であるが、ターゲット波数βTに比べて成長率やN値は小さい擾乱である。
まず、波形の隆起構造2のスパン方向の波数βRは、ターゲット波数βTの3/2倍程度の波数とする。この波数βRは横流れ不安定性に対して不安定であるが、ターゲット波数βTに比べて成長率やN値は小さい擾乱である。
波数βRの擾乱が成長を開始する辺りの位置を、隆起構造2の開始位置となる先端位置x1とする。
隆起体2aの最大高さhmaxは、先端位置x1における99%境界層厚さδ99と同程度を目安とする。最大高さhmaxを上げると効果も高くなるが、高さを上げすぎると隆起構造2が乱流の発生源となってしまうので、気流乱れの強度に応じて限界の高さが存在する。例えば気流乱れが強い環境では最大高さhmaxをδ99の0.6倍好ましくは0.8倍程度に控えるとよい。逆に飛行環境のように乱れが小さい気流の場合は最大高さhmaxをδ99の1.5倍好ましくは1.4倍まで上げても抑制効果を発揮することがある。
頂点位置x2は、隆起構造2の高さがゼロから最大高さhmaxまで増加する区間が急勾配にならないよう、区間の幅x2-x1を最大高さhmaxの3~4倍程度にとればよい。
隆起構造2の後端位置x3は、少なくとも波数βRが不安定である領域を超えた後方位置とするが、それより後方まで伸ばしても構わない。隆起構造2を後方に伸ばしていくほど乱流遷移位置も後方に下がり、乱流抑制効果が大きくなっていく。ただし、乱流抑制効果の上昇は次第に鈍っていくため、後方まで隆起構造2を伸ばした分の見返りは少なくなっていく。
隆起構造2の稜線がコード方向と成す角度である稜線角度θRは、境界層外縁角度θeと定在横流れ不安定性角度θcfの間とする。好ましくは、中間の値すなわち、
θR=(θe+θcf)/2
となるように加工するのが最適である。
θRがθeの方に近くなると乱流抑制効果が弱まっていき、θRがθcfの方に近くなると隆起構造2から乱流が発生しやすくなる。θeとθcfはどちらも翼1の表面上の位置によって変化し、θcfはθeよりも常に小さい値である。つまり、θRも位置によって変化し、それを積分した隆起構造2の稜線は適度に曲がった曲線となる。
θR=(θe+θcf)/2
となるように加工するのが最適である。
θRがθeの方に近くなると乱流抑制効果が弱まっていき、θRがθcfの方に近くなると隆起構造2から乱流が発生しやすくなる。θeとθcfはどちらも翼1の表面上の位置によって変化し、θcfはθeよりも常に小さい値である。つまり、θRも位置によって変化し、それを積分した隆起構造2の稜線は適度に曲がった曲線となる。
図5に示すように、上述の隆起構造を設計する設計方法を実現する設計プログラムを実行するコンピュータ100は、例えば、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)111、主記憶装置(Main Memory)112、二次記憶装置(Secondary storage:メモリ)113などを備えている。
CPU111は、例えば、バスを介して接続された二次記憶装置113に格納されたOS(Operating System)によりコンピュータ100全体の制御を行うとともに、二次記憶装置113に格納された各種プログラムを実行することにより各種処理を実行する。CPU111は、1つ又は複数設けられており、互いに協働して処理を実現してもよい。また、コンピュータ100は、入力デバイス116、出力デバイス117を備えている。入力デバイスの一例として、キーボード、タッチパッド、ポインティングデバイスなどが挙げられる。出力デバイスの一例として、ディスプレイ、プロジェクタ、プリンタなどが挙げられる。
主記憶装置112は、例えば、キャッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の書き込み可能なメモリで構成され、CPU111の実行プログラムの読み出し、実行プログラムによる処理データの書き込み等を行う作業領域として利用される。
二次記憶装置113は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体(non-transitory computer readable storage medium)である。二次記憶装置113は、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどである。二次記憶装置113の一例として、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)フラッシュメモリなどが挙げられる。二次記憶装置113は、例えば、Windows(登録商標)、iOS(登録商標)、Android(登録商標)等の情報処理装置全体の制御を行うためのOS、BIOS(Basic Input/Output System)、周辺機器類をハードウェア操作するための各種デバイスドライバ、各種アプリケーションソフトウェア、及び各種データやファイル等を格納する。また、二次記憶装置113には、各種処理を実現するためのプログラムや、各種処理を実現するために必要とされる各種データが格納されている。二次記憶装置113は、複数設けられていてもよく、各二次記憶装置113に上述したようなプログラムやデータが分割されて格納されていてもよい。
コンピュータ100が備える機能を実現するための一連の処理は、プログラムの形式で二次記憶装置113などに記憶されており、このプログラムをCPU(プロセッサ)111が主記憶装置112に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、二次記憶装置113に予めインストールされている形態や、他の非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の一例として、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどが挙げられる。
次に、上述の隆起構造2を採用した場合のメカニズムについて説明する。
物体の表面の微小な粗さや表面に付着した汚れなどが定在的な擾乱源として流れを乱し、定在横流れ不安定性が励起される。このとき、最も増幅率の大きいターゲット波数βTの波が顕在化し、渦列として現れる。この渦列がさらに二次的に不安定化することで、最終的に乱流へと遷移する。
物体の表面の微小な粗さや表面に付着した汚れなどが定在的な擾乱源として流れを乱し、定在横流れ不安定性が励起される。このとき、最も増幅率の大きいターゲット波数βTの波が顕在化し、渦列として現れる。この渦列がさらに二次的に不安定化することで、最終的に乱流へと遷移する。
ターゲット波数βTよりも高波数である波数βRの不安定性は増幅率が小さいだけでなく、乱流遷移を引き起こしにくい傾向がある。よって、この波数βRの定在横流れ不安定性を人為的に強く励起することにより、乱流遷移を引き起こさずに、波数βTの不安定性の成長を抑制することができる。
この抑制効果を大きくするためには、波数βRの定在横流れ不安定性によって生じる渦列を適度な強度で広い領域に渡って維持することが望ましい。この領域では波数βTの不安定性の成長は抑制され、それだけ乱流遷移する位置は下流側に移動する。
本実施形態の波型の隆起構造2は、このような波数βRの渦列を選択的に励起し、それを崩壊させずに定常的に維持するために最適化された構造になっている。
乱流遷移する位置を下流側に後退させると、それだけ層流境界層の領域が広がり、物体にかかる摩擦抵抗が軽減される。これが本実施形態によって得られる最終的な効果である。
横流れ不安定性が生じるのは物体表面の順圧力勾配がある領域(流れが加速する領域)のみであり、翼型物体の場合には前縁近傍に集中していることが多い。この領域で横流れ不安定性による乱流遷移を完全に抑制することができれば、乱流遷移位置を大幅に後退させることができる。
<実施例>
平板上に発達する代表的な三次元境界層であるFalkner-Skan-Cooke解の場合において、本実施形態の効果を直接数値シミュレーションによって示す。想定する流速は飛行機の後退翼まわりの環境と同様な遷音速流とし、具体的には図6に示される外縁速度分布の場合を考える。ここで、流速は前縁における音速311m/s、長さは1mmで規格化されている。図中で示すように、境界層の厚さδ99は前縁x=0からの距離に依存するが、数百μmオーダーとなる。スパン方向には完全に一様な流れである。同図においてReδは局所レイノルズ数を示し、Reδ=(Ue2 + We2)1/2×δ99/ν0として表される。ここで、ν0は前縁位置x=y=0における動粘性係数である。
平板上に発達する代表的な三次元境界層であるFalkner-Skan-Cooke解の場合において、本実施形態の効果を直接数値シミュレーションによって示す。想定する流速は飛行機の後退翼まわりの環境と同様な遷音速流とし、具体的には図6に示される外縁速度分布の場合を考える。ここで、流速は前縁における音速311m/s、長さは1mmで規格化されている。図中で示すように、境界層の厚さδ99は前縁x=0からの距離に依存するが、数百μmオーダーとなる。スパン方向には完全に一様な流れである。同図においてReδは局所レイノルズ数を示し、Reδ=(Ue2 + We2)1/2×δ99/ν0として表される。ここで、ν0は前縁位置x=y=0における動粘性係数である。
ターゲット波数βTは3.333mm-1であり、この波数のフーリエ成分の振幅が不安定増幅し、乱流遷移を引き起こす様子を図7に示す。グラフの縦軸のmaxy|v^n|(なお、「v^」はvの上に^(ハット)が位置する記号(以下同じ))は、壁垂直方向速度(v)をスパン方向に離散フーリエ変換し、壁垂直方向(y方向)に関する振幅|v^n|の最大値を取った数値である。各フーリエ成分はn=1,2,・・・のように整数でラベル付けし、それぞれがスパン方向波数β=3.333nmm-1の成分に対応する。この数値シミュレーションでは、x=20の位置に波数βTの擾乱源を与えており、その与える擾乱の強さにも依存するが、x=230のあたりから急激に乱流へ遷移している。以下では、このターゲットモードを抑制するべき対象とし、遷移位置を後方へ移動させるような制御を行う。
まず、比較例として、特許文献1に開示されたSREについて検討する。
以降では隆起構造の高さ分布を表す関数yR(x,z)によって、形状を定義する。特許文献1のSREの形状例は、
であり、パラメータとして、
βR=5mm-1(2π/βR=1.26mm)
x2=30mm
h=0.3mm
を選ぶ。z=ze(x)はx=x2の位置における流線方向を向いた直線であり、これが一つの隆起部の稜線に対応する。図8には、この形状を描画したものが示されている。
このSREを翼に設置した結果を、図9に示す。SREの位置x2=30mmにおいて波数βRの成分が強く励起され、それが後方へ行くほど減衰している。これはこの波数の渦列が励起されて減衰していることに対応する。ターゲット波数βT=3.333(n=2)および波数1.666(n=1)の増幅は抑制され、乱流遷移の位置はx=380mmのあたりまで後退していることがわかる。SREの高さh=0.3mmはほぼ限界であり、これ以上高くするとSREの突起部から乱流が発生し、逆効果になってしまう。
以降では隆起構造の高さ分布を表す関数yR(x,z)によって、形状を定義する。特許文献1のSREの形状例は、
βR=5mm-1(2π/βR=1.26mm)
x2=30mm
h=0.3mm
を選ぶ。z=ze(x)はx=x2の位置における流線方向を向いた直線であり、これが一つの隆起部の稜線に対応する。図8には、この形状を描画したものが示されている。
このSREを翼に設置した結果を、図9に示す。SREの位置x2=30mmにおいて波数βRの成分が強く励起され、それが後方へ行くほど減衰している。これはこの波数の渦列が励起されて減衰していることに対応する。ターゲット波数βT=3.333(n=2)および波数1.666(n=1)の増幅は抑制され、乱流遷移の位置はx=380mmのあたりまで後退していることがわかる。SREの高さh=0.3mmはほぼ限界であり、これ以上高くするとSREの突起部から乱流が発生し、逆効果になってしまう。
本実施例として、以下の形状を考える。
パラメータを
βR=5mm-1(2π/βR=1.26mm)
xR=30mm
とするところは上記のSREと同じである。このSREとの大きな違いは、f(x)がx=400mmの位置まで広く分布しており、隆起構造2が前縁部近傍の局所的ではなく、後方の前縁領域まで伸びていることである。さらに、z=ze(x)は流線方向を積分した流線となっている。上記の形状でパラメータsをs=1としたならば、凸部の稜線は境界層外部の流線と一致するように曲がる。一方、ここで考えている境界層では、s=0.834とした場合に稜線が定在横流れ不安定性の波面に一致する。各コード位置xでの境界層外縁角度θeと定在横流れ不安定性の波面方向を示す横流れ不安定性角度θcfは図10に示される。したがって、本実施例で提案する最適な角度はs=0.917を選ぶことに対応し、この方向を示す稜線角度θRに沿って稜線を伸ばすことで大きな乱流抑制効果が得られる。
βR=5mm-1(2π/βR=1.26mm)
xR=30mm
とするところは上記のSREと同じである。このSREとの大きな違いは、f(x)がx=400mmの位置まで広く分布しており、隆起構造2が前縁部近傍の局所的ではなく、後方の前縁領域まで伸びていることである。さらに、z=ze(x)は流線方向を積分した流線となっている。上記の形状でパラメータsをs=1としたならば、凸部の稜線は境界層外部の流線と一致するように曲がる。一方、ここで考えている境界層では、s=0.834とした場合に稜線が定在横流れ不安定性の波面に一致する。各コード位置xでの境界層外縁角度θeと定在横流れ不安定性の波面方向を示す横流れ不安定性角度θcfは図10に示される。したがって、本実施例で提案する最適な角度はs=0.917を選ぶことに対応し、この方向を示す稜線角度θRに沿って稜線を伸ばすことで大きな乱流抑制効果が得られる。
実際にs=0.834,0.917,1とした場合の数値シミュレーションの結果を図11~13に示す。ただし、高さhの限界はケース毎に異なる。
図11には、比較例として、s=0.834の場合、すなわち隆起体の稜線が定在横流れ不安定性の波面に一致する場合の数値シミュレーション結果が示されている。この場合、高さはh=0.23とされている。高さをh=0.23と低くしているにもかかわらず、n=3のデータから分かるように、隆起構造で生成された渦列が崩壊して乱流遷移が起きてしまっている。
図12には、比較例として、s=1の場合、すなわち隆起体の稜線が境界層外部の流線と一致する場合の数値シミュレーション結果が示されている。この場合、高さはh=0.27とされている。同図から分かるように、乱流遷移を引き起こしておらず、上記のSRE(図9参照)よりも大きな抑制効果が得られている。実際に、乱流遷移は計算領域の中では発生しておらず、さらに後方の位置まで下がっている。ただし、30mm<x<150mmの範囲で波数βRのフーリエ成分(n=3)が大きく振動している。これは隆起構造の凹凸と定在渦列の角度がずれているため、両者のパターンが干渉し、渦列が凹凸を乗り上げるようにうねっているためである。そのため、高さはh=0.27よりも高くすると、渦列が壊れてしまい、この高さが限界である。
図13には、本実施例として、s=0.917の場合の数値シミュレーション結果が示されている。この場合、高さはh=0.4とされている。同図から分かるように、波数βRのフーリエ成分(n=3)は振動せず、隆起構造の凹凸と同様にx=400mmまで大きな振幅を維持しながらなだらかに減衰している。隆起構造の凹凸と定在渦列はほとんど位相が揃っており、高さをh=0.4まで上げても乱流は発生していない。抑制したい擾乱の振幅は、s=1の場合よりもさらに一桁以上も下がっており、それだけ乱流遷移位置も大きく後方へ移動することを表している。
以上説明した本実施形態の作用効果は以下の通りである。
稜線角度θRを境界層外縁角度θeと横流れ不安定性角度θcfとの間に設定することによって、隆起構造2によって形成された渦列を稜線角度θRに沿って定常的に維持できる。これにより、乱流遷移を後退させ摩擦抵抗を低減することができる。
稜線角度θRを境界層外縁角度θeと横流れ不安定性角度θcfとの間に設定することによって、隆起構造2によって形成された渦列を稜線角度θRに沿って定常的に維持できる。これにより、乱流遷移を後退させ摩擦抵抗を低減することができる。
以上説明した各実施形態に記載の隆起構造、翼、隆起構造の設計方法及びその設計プログラムは、例えば以下のように把握される。
本開示の第1態様に係る隆起構造(2)は、主流に対して後退角を有して前縁(1a)が設けられた物体の層流領域とされた前縁の直下流の前縁領域の表面に設けられ、前記主流の下流側に向かって並列に延在する複数の隆起体(2a)を備え、前記複数の隆起体は、前記前縁に付着する淀み点が並ぶ前縁付着線(L1)に対して平行とされたz方向において一定の間隔λRで設けられた頂点を有し、各前記隆起体の前記頂点を該隆起体の延在方向に連ねた稜線が、前記前縁付着線に対して垂直とされたx方向に対する角度を稜線角度θRとし、主流の境界層外縁における流線の前記x方向に対する角度を境界層外縁角度θeとし、前記表面の境界層内で定在的な擾乱が増幅して定在渦列として現れるモードである定在横流れ不安定性の波面の前記x方向に対する角度を横流れ不安定性角度θcfとしたときに、前記稜線角度θRは、前記境界層外縁角度θeと前記横流れ不安定性角度θcfとの間である。
本発明者等が鋭意検討を重ねた結果、稜線角度θRを境界層外縁角度θeと横流れ不安定性角度θcfとの間に設定した場合に、隆起構造によって形成された渦列を稜線角度θRに沿って定常的に維持できることを見出した。稜線角度θRは、境界層外縁角度θeと横流れ不安定性角度θcfとの中間値(=(θe+θcf)/2)が好ましいが、中間値に対し角度差分(θe-θcf)の30%以下程度の多少の誤差は許容される。なお、θRがθeの方に近くなると乱流抑制効果が弱まっていき、θRがθcfの方に近くなると隆起構造から乱流が発生しやすくなる。
横流れ不安定性角度θcfは、
Uξ(y)=-U(y)sinθcf+W(y)cosθcf
という流速成分を定義したとき、Uξ(y)の変曲点とゼロ点が一致する角度を横流れ不安定性角度θcfとして求めることができる。横流れ不安定性角度θcfは境界層外縁角度θeよりも小さい角度となる。ここで、yは境界層内における物体表面垂直方向(y=0が物体表面)の位置、zは前縁付着線に平行な方向(スパン方向)の位置、U(y)はyにおけるx方向の流速成分、W(y)はyにおけるz方向の流速成分を示す。
横流れ不安定性角度θcfは、
Uξ(y)=-U(y)sinθcf+W(y)cosθcf
という流速成分を定義したとき、Uξ(y)の変曲点とゼロ点が一致する角度を横流れ不安定性角度θcfとして求めることができる。横流れ不安定性角度θcfは境界層外縁角度θeよりも小さい角度となる。ここで、yは境界層内における物体表面垂直方向(y=0が物体表面)の位置、zは前縁付着線に平行な方向(スパン方向)の位置、U(y)はyにおけるx方向の流速成分、W(y)はyにおけるz方向の流速成分を示す。
本開示の第2態様に係る隆起構造は、上記第1態様において、前記隆起体の前記頂点の前記間隔λRに相当する波数βRは、定在横流れ不安定性の空間成長率から得られる乱流遷移に基づいて設定される波数をターゲット波数βTとした場合、
1.3βT ≦ βR ≦ 1.7βT
とされている。
1.3βT ≦ βR ≦ 1.7βT
とされている。
隆起体の頂点の間隔λRに相当する波数βR(=2π/λR)は、定在横流れ不安定性の空間成長率から得られる乱流遷移に基づいて設定される波数βTに応じて設定される。波数βTは、空間成長率をx方向に積分したN値の分布から得ることができる。
物体表面上の各位置における定在横流れ不安定性の空間的成長率は、境界層の流速分布(U(y),W(y))の線形安定性解析を数値的に行うことによって求めることができる。N値は、x方向をx軸、波数βをy軸とするxy平面上に等高線として表すことができる。
間隔λRで周期的に現れる隆起体形状は、例えば正弦波や三角波などとされる。
物体表面上の各位置における定在横流れ不安定性の空間的成長率は、境界層の流速分布(U(y),W(y))の線形安定性解析を数値的に行うことによって求めることができる。N値は、x方向をx軸、波数βをy軸とするxy平面上に等高線として表すことができる。
間隔λRで周期的に現れる隆起体形状は、例えば正弦波や三角波などとされる。
本開示の第3態様に係る隆起構造は、上記第2態様において、前記隆起体の前記x方向における先端位置x1は、前記波数βRの擾乱が成長を開始する位置とされている。
波数βRの擾乱が成長を開始する位置に隆起体の先端位置x1を設けることによって、発生した波数βRの擾乱の成長を維持することができる。先端位置x1は、上述したN値の等高線を示した線図から得ることができる。
本開示の第4態様に係る隆起構造は、上記第2態様又は上記第3態様において、前記隆起体の前記x方向における後端位置x3は、前記波数βRの擾乱の成長が終了する位置または該位置よりも後縁側に設けられている。
波数βRの擾乱の成長が終了する位置または該位置よりも後縁側に隆起体の後端位置x3を設けることによって、波数βRの擾乱の成長を維持することができる。波数βRの擾乱の成長が終了する位置は、上述したN値の等高線を示した線図から得ることができる。
本開示の第5態様に係る隆起構造は、上記第2態様又は上記第4態様において、前記隆起体の前記前縁領域の表面からの最大高さhmaxは、前記先端位置x1における99%境界層厚さδ99の0.6倍以上1.5倍以下とされている。
最大高さhmaxがδ99の0.6倍よりも小さい場合、波数βRの擾乱の成長が期待できないおそれがある。最大高さhmaxがδ99の1.5倍よりも大きい場合、乱流の発生源となるおそれがある。
本開示の第6態様に係る隆起構造は、上記第3態様ないし上記第5態様のいずれかにおいて、前記先端位置x1から前記最大高さhmaxとなる頂点位置x2までの距離は、該最大高さhmaxの3倍以上4倍以下とされている。
先端位置x1から頂点位置x2まで急勾配とならないように、x2-x1を最大高さhmaxの3倍以上4倍以下とするのが好ましい。最大高さhmaxは、頂点位置x2の後方まで維持されていることが好ましく、この場合、x3-x2の30%以上の距離をかけて後端位置x3の手前から徐々に高さが低下する。
本開示の一態様に係る翼は、上記第1態様ないし上記第6態様のいずれかの隆起構造を備えている。
上記の隆起構造を備えているので、摩擦抵抗が低減された翼が実現される。
本開示の一態様に係る隆起構造の設計方法は、主流に対して後退角を有して前縁が設けられた物体の層流領域とされた前縁の直下流の前縁領域の表面に設けられ、前記主流の下流側に向かって並列に延在する複数の隆起体を備えた隆起構造の設計方法であって、前記複数の隆起体は、前記前縁に付着する淀み点が並ぶ前縁付着線に対して平行とされたz方向において一定の間隔λRで設けられた頂点を有し、各前記隆起体の前記頂点を該隆起体の延在方向に連ねた稜線が、前記前縁付着線に対して垂直とされたx方向に対する角度を稜線角度θRとし、主流の境界層外縁における流線の前記x方向に対する角度を境界層外縁角度θeとし、前記表面の境界層内で定在的な擾乱が増幅して定在渦列として現れるモードである定在横流れ不安定性の波面の前記x方向に対する角度を横流れ不安定性角度θcfとしたときに、前記稜線角度θRを、前記境界層外縁角度θeと、前記横流れ不安定性角度θcfとの間とする。
本開示の一態様に係る設計プログラムは、上記の設計方法をコンピュータに実行させる。
1 翼(物体)
1a 前縁
1b 後縁
1c 上面
2 隆起構造
F (主流の)流れ
L1 前縁付着線
x1 先端位置
x2 頂点位置
x3 後端位置
θR 稜線角度
θcf 横流れ不安定性角度
θe 境界層外縁角度
θ∞ 後退角
λR (隆起体の)間隔
1a 前縁
1b 後縁
1c 上面
2 隆起構造
F (主流の)流れ
L1 前縁付着線
x1 先端位置
x2 頂点位置
x3 後端位置
θR 稜線角度
θcf 横流れ不安定性角度
θe 境界層外縁角度
θ∞ 後退角
λR (隆起体の)間隔
Claims (9)
- 主流に対して後退角を有して前縁が設けられた物体の層流領域とされた前縁の直下流の前縁領域の表面に設けられ、前記主流の下流側に向かって並列に延在する複数の隆起体を備え、
前記複数の隆起体は、前記前縁に付着する淀み点が並ぶ前縁付着線に対して平行とされたz方向において一定の間隔λRで設けられた頂点を有し、
各前記隆起体の前記頂点を該隆起体の延在方向に連ねた稜線が、前記前縁付着線に対して垂直とされたx方向に対する角度を稜線角度θRとし、
主流の境界層外縁における流線の前記x方向に対する角度を境界層外縁角度θeとし、
前記表面の境界層内で定在的な擾乱が増幅して定在渦列として現れるモードである定在横流れ不安定性の波面の前記x方向に対する角度を横流れ不安定性角度θcfとしたときに、
前記稜線角度θRは、前記境界層外縁角度θeと前記横流れ不安定性角度θcfとの間である隆起構造。 - 前記隆起体の前記頂点の前記間隔λRに相当する波数βRは、定在横流れ不安定性の空間成長率から得られる乱流遷移に基づいて設定される波数をターゲット波数βTとした場合、
1.3βT ≦ βR ≦ 1.7βT
とされている請求項1に記載の隆起構造。 - 前記隆起体の前記x方向における先端位置x1は、前記波数βRの擾乱が成長を開始する位置とされている請求項2に記載の隆起構造。
- 前記隆起体の前記x方向における後端位置x3は、前記波数βRの擾乱の成長が終了する位置または該位置よりも後縁側に設けられている請求項3に記載の隆起構造。
- 前記隆起体の前記前縁領域の表面からの最大高さhmaxは、前記先端位置x1における99%境界層厚さδ99の0.6倍以上1.5倍以下とされている請求項3に記載の隆起構造。
- 前記先端位置x1から前記最大高さhmaxとなる頂点位置x2までの距離は、該最大高さhmaxの3倍以上4倍以下とされている請求項5に記載の隆起構造。
- 請求項1に記載の隆起構造を備えている翼。
- 主流に対して後退角を有して前縁が設けられた物体の層流領域とされた前縁の直下流の前縁領域の表面に設けられ、前記主流の下流側に向かって並列に延在する複数の隆起体を備えた隆起構造の設計方法であって、
前記複数の隆起体は、前記前縁に付着する淀み点が並ぶ前縁付着線に対して平行とされたz方向において一定の間隔λRで設けられた頂点を有し、
各前記隆起体の前記頂点を該隆起体の延在方向に連ねた稜線が、前記前縁付着線に対して垂直とされたx方向に対する角度を稜線角度θRとし、
主流の境界層外縁における流線の前記x方向に対する角度を境界層外縁角度θeとし、
前記表面の境界層内で定在的な擾乱が増幅して定在渦列として現れるモードである定在横流れ不安定性の波面の前記x方向に対する角度を横流れ不安定性角度θcfとしたときに、
前記稜線角度θRを、前記境界層外縁角度θeと、前記横流れ不安定性角度θcfとの間とする隆起構造の設計方法。 - 請求項8に記載の設計方法をコンピュータに実行させるための隆起構造の設計プログラム。
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WO2014026246A1 (en) | 2012-08-16 | 2014-02-20 | Adelaide Research & Innovation Pty Ltd | Improved wing configuration |
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