JP7015582B2 - 翼及び航空機 - Google Patents

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Description

本発明は、航空機などに使われる翼及びそのような翼を有する航空機に関する。
航空機の経済性改善には低抵抗化が重用課題である。これまで圧力抵抗低減に関する多くの空力設計コンセプトが開発されてきたが、更なる抵抗低減としての摩擦抵抗低減に関しては有益なコンセプトは創出されるに至っていない。
後退翼では横流れ不安定(C-F不安定)と呼ばれる物理的機構により境界層遷移が前縁近傍で容易に誘発されるため、これまで幅広い自然層流化を実現することは困難と考えられていた。
本発明者である上田良稲等は、これまでに翼表面の境界層遷移を遅らせて摩擦抵抗を低減する自然層流化に関する技術を提唱している(特許文献1参照)。
この技術は、翼断面形状の初期形状を設定するプロセスと、翼断面形状を得てその周りの流れ場の圧力分布を求める順解析プロセスと、翼表面の境界層遷移位置を推定する遷移解析プロセスと、圧力分布に基づき翼上下面の目標圧力分布を設定するプロセスと、順解析プロセスと「該順解析プロセスによって得られる圧力分布が前記目標圧力分布に収束するように翼断面形状を修正する」形状修正プロセスとを有する逆問題設計プロセスを用いている。そして、このような逆問題設計プロセスにおいて、目標圧力分布の内、翼上面目標圧力分布については、各翼幅位置における「翼前縁から翼後縁に到る翼弦方向」を定義域とし且つその翼幅位置に依存したパラメータ類を係数に持つ関数形によって規定し、次に該パラメータ類の各パラメータ値の変動が翼上面の境界層遷移に与える感度を遷移解析プロセスによって解析し、「所望のレイノルズ数において翼上面の境界層遷移を最も後方まで遅らせる」該パラメータ値の最適な組み合わせを探索することにより決定する技術である。
特許第574343号号公報
上記の技術は翼表面の圧力分布から翼断面の形状を特定する逆問題設計プロセスを用いるものであるが、翼幅方向の各翼断面において翼表面の外部流線方向(粘性領域とポテンシャル領域の境界)とそれに垂直な横流れ方向の成分が前縁付近で小さくなるように、各翼断面の翼表面においてそれぞれ独立して圧力分布を特定しなければならない。また特定された圧力分布に対応する各翼断面の形状のうちどこかに性能が不十分な部分があると、全体に悪影響を及ぼすことになる。
このため設計自体が非常に難しい。
また適切な設計ができた場合であってもその設計結果による翼の形状が翼端に向かうに従い前縁形状がシャープになるため、実機の翼の製作が難しかった。翼端に向かうに従いシャープな前縁形状の翼の製作には、構造上の強度の劣化と加工精度の低下という問題点があるからである。
また、翼の先端の淀み点付近で空気の圧縮及び粘性摩擦によって発生する熱による高温がその構造の強度などに影響を及ぼす。既存の曲率半径の小さな翼においては、この摩擦熱による機体の剛性の低下という問題点もある。
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、摩擦抵抗を低減することができ、設計が容易で、製作も容易な翼及びそのような翼を有する航空機を提供することにある。
上記課題に対して、近年の遷移点予測手法の発展により数値解析的に境界層の不安定性を分析できるようになり、遷移点予測手法を用いて圧力分布と遷移との関係を把握することで自然層流化に適した理想的な圧力分布を創出することが可能になった。本発明者等は圧力分布形を関数表示し、その構成パラメータの探索を行うことで、最適分布形を見出すに至った。更に本発明者等はこの圧力分布を再現できる特徴的な形状を求めるに至った。
すなわち本発明の一形態に係る翼は、後退角を有する翼であって、前縁近傍の上面における流体中の表面圧力(圧力分布(Cp))が翼根から翼端に向かって増加するように構成されている。
典型的には前記前縁近傍の上面のうち、前縁から翼弦長方向に対して0%~5%の範囲における流体中の表面圧力が翼根から翼端に向かって増加するように構成されていれば良い。
典型的には前記前縁近傍の上面における流体中の表面圧力の立ち上がりの勾配が翼根から翼端に向かって系統的に緩くなるように構成されていれば良い。
典型的には前記前縁の有次元化された曲率半径が翼根から翼端に向かって減少するように構成される。
典型的には前記前縁近傍の上面における流体中の表面圧力は、
超音速機の場合にはn=5、亜音速機の場合にはn=7
Figure 0007015582000001
(式1)
の関数によって表される。
典型的には前記式(1)のB2(η)は、
Figure 0007015582000002
(式2)
で表される。
本発明の一態様に係る翼は、前縁の無次元化された曲率半径が翼根から翼端に向かって増加するように構成されている。典型的には前縁の有次元化された曲率半径は翼根から翼端に向かって減少している。超音速機に用いられる翼の場合、典型的には翼根から翼幅方向にむけて~0.2(y/s)までの範囲で特許文献1による翼では有次元化された曲率半径が翼根から翼端に向かって増加しているが、本発明の一形態に係る翼はこの範囲においても有次元化された曲率半径が翼根から翼端に向かって減少している。
本発明では、前縁近傍の上面における流体中の表面圧力が翼根から翼端に向かって増加するように構成することで、翼根側の立ち上がり圧力勾配と翼端側の立ち上がりの圧力勾配との差を利用して横流れ成分と逆方向の流れを誘起することにより、横流れ成分を減少させ、層流から乱流への遷移を抑制することができる。また遷移点予測手法を用いて圧力分布と遷移との関係を把握することで自然層流化に適した理想的な圧力分布を求め、更にその形状も求めているので、設計が容易である。またその形状が典型的には前縁の無次元化された曲率半径が翼根から翼端に向かって増加するようになっているので、翼端に向かってシャープな前縁形状とはならず製作も容易である。
本発明に係る翼は、超音速機及び亜音速機に用いることが可能である。
本発明の一形態に係る航空機は、後退角を有する翼であって、前縁近傍の上面における流体中の表面圧力が翼根から翼端に向かって増加するように構成されている。その一態様としての形状は前縁の無次元化された曲率半径が翼根から翼端に向かって増加するように構成された翼を有するものである。その一態様としての航空機は、前縁の無次元化された曲率半径が翼根から翼端に向かって増加するように構成された翼を有するものである。
本発明により、翼表面の外部流線方向とそれに垂直な横流れ成分が前縁付近で小さく、境界層遷移が前縁近傍で容易に誘発されることはなくなる。これにより横流れ不安定性に起因した摩擦抵抗を低減することができる。しかも設計が容易であり、製作も容易である。
本発明の一実施形態に係る航空機の主翼としての翼の上面図である。 図1に示した翼の任意の位置での断面図である。 本発明の一実施形態に係る翼(超音速機)の前縁近傍の上面における圧力分布(Cp)を示す図である。 特許文献1に係る翼(超音速機)の前縁近傍の上面における圧力分布(Cp)を示す図である。 本発明の一実施形態に係る圧力分布(Cp)のパラメータを説明するための図である。 本発明の一実施形態に係る無次元化された翼の翼型(超音速機)の断面形状を示す図である。 図6に示した断面形状の前縁付近の拡大図である。 本発明の一実施形態に係る翼(超音速機)の上面及び下面の両方を含む前縁付近の無次元の曲率半径を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る翼(超音速機)の前縁の有次元の曲率半径を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る翼(超音速機)の前縁の無次元化された曲率半径を示すグラフである。 翼の横流れ不安定性を説明するための図である。 翼の横流れ不安定による縦渦状の流れの発生、そして層流から乱流への遷移を説明するための図である。 本発明の一実施形態に係る翼(超音速機)の横流れ成分に係る圧力分布のプロファイルを示すグラフである。 特許文献1による翼(超音速機)の横流れ成分に係る圧力分布のプロファイルを示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る翼(超音速機)における遷移解析結果の遷移点マップを示すグラフである。 特許文献1による翼(超音速機)における遷移解析結果の遷移点マップを示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る翼(亜音速機)の前縁近傍の上面における圧力分布(Cp)を示す図である。 特許文献1に係る翼(亜音速機)の前縁近傍の上面における圧力分布(Cp)を示す図である。 本発明の一実施形態に係る無次元化された翼の翼型(亜音速機)の断面形状を示す図である。 図19に示した断面形状の前縁付近の拡大図である。 本発明の一実施形態に係る翼(亜音速機)の上面及び下面の両方を含む前縁付近の無次元の曲率半径を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る翼(亜音速機)の前縁の有次元の曲率半径を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る翼(亜音速機)の前縁の無次元化された曲率半径を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る翼(亜音速機)の横流れ成分に係る圧力分布のプロファイルを示すグラフである。 特許文献1による翼(亜音速機)の横流れ成分に係る圧力分布のプロファイルを示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る翼(亜音速機)における遷移解析結果の遷移点マップを示すグラフである。 特許文献1による翼(亜音速機)における遷移解析結果の遷移点マップを示すグラフである。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1及び図2は、本発明の一実施形態に係る翼を説明するための図である。図1は航空機の主翼としての翼の上面図、図2はその翼の断面図を示している。図1は2枚の主翼のうち一方を示している。図2は図1に示した翼の翼幅方向の任意の位置における縦断面図を示している。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る翼1は典型的には航空機100の主翼として用いられる。符号101は航空機の100の胴体である。航空機100は超音速機及び亜音速機のいずれであっても良い。またこの翼1は後退角Aを有する後退翼である。
図1及び図2において、x軸は翼弦長方向の軸であり、y軸は翼幅(スパン)方向の軸であり、z軸は翼厚方向の軸である。
x軸の原点は前縁11であり、x軸の+方向は前縁11から後縁12に向かう方向である。y軸の原点は、航空機100の機軸14である。y軸の+方向は機軸14から翼端15に向かう方向である。z軸の原点は翼弦線16である(図2)。z軸の+方向は翼1の上側に向かう方向である。
また翼1における翼弦長方向(x方向)の位置、翼幅方向(y方向)の位置、翼厚方向(z方向)の位置を無次元化するため、それぞれを翼1の局所的な翼弦長c、翼1のセミスパン長sで除し、無次元化された翼弦長方向(x方向)の位置(x/c)、翼幅方向(y方向)の位置(y/s)、翼厚方向(z方向)の位置(z/c)を定義している。
<超音速機の場合>
以下、本発明を超音速機に適用した場合の実施形態を説明する。
・圧力分布(Cp)
図3は翼1の前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)を示す図である。
図3に示すように、翼1は前縁11近傍の上面における流体中の表面圧力(圧力分布(Cp))が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されている。ここにいう前縁11近傍とは典型的には少なくとも翼弦長に対して前縁から0%~5%の範囲であり、翼1は少なくともこの範囲における流体中の表面圧力が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されていれば良い。図3において、横軸は無次元化された翼弦長方向(x方向)の位置であり、縦軸は圧力分布(Cp)である。
ここで、Cp_ys10は無次元化された翼幅方向(y方向)の位置(y/s)が10%の位置における、無次元化された翼弦長方向(x方向)の位置に沿った圧力分布(Cp)を示している。以下同様であり、Cp_ys20は無次元化された翼幅方向(y方向)の位置(y/s)が20%の位置における、無次元化された翼弦長方向(x方向)の位置に沿った圧力分布(Cp)を示している。
これらの前縁11近傍における圧力分布は、Cp_ys10からCp_ys100に向けて、つまり翼1の上面の翼根17から翼端15に向かって、立ち上がりの勾配が系統的に緩やかにされている。この結果、翼1は前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されている。
図4に特許文献1による同様の圧力分布(Cp)を参考例として示す。この圧力分布(Cp)は翼幅(スパン)方向のすべての位置においてほぼ同じ勾配を有する。従って、本発明に係る翼1はこの点において特許文献1に係る圧力分布と明確に異なる。
図3に示した翼1の前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)は典型的には以下の関数で表すことができる。
超音速機の場合にはn=5、亜音速機の場合にはn=7
Figure 0007015582000003
(式1)
この関数において、翼幅(スパン)方向の前縁11付近の立ち上がり勾配は典型的には以下の関係式によって決めることができる。
Figure 0007015582000004
(式2)
・翼型
翼1の翼型は典型的には前縁11の有次元化された曲率半径が翼根17から翼端15に向かって減少しているが、前縁11の無次元化された曲率半径が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されている。
このような形状は上記の翼1の圧力分布(Cp)から翼断面の形状を特定する逆問題設計プロセスを用いることで得られる。逆問題設計プロセスは典型的には、翼断面形状の初期形状を設定するプロセスと、翼断面形状を得てその周りの流れ場の圧力分布を求める順解析プロセスと、翼表面の境界層遷移位置を推定する遷移解析プロセスと、圧力分布に基づき翼上下面の目標圧力分布を設定するプロセスと、順解析プロセスと「該順解析プロセスによって得られる圧力分布が前記目標圧力分布に収束するように翼断面形状を修正する」形状修正プロセスとを有する。逆問題設計プロセスは特許文献1(特許第574343号号公報)に詳しく記載されており、この記載内容も本発明の開示の範囲である。より具体的な設計例を図5に基づき説明する。図5は翼1の前縁を拡大して示している。ここでは、図5に図示したA0~B2の位置においてそれぞれ以下の通りパラメータを決定することで設計を行う。
A0:前縁での圧力(初期形状のCp分布を使用)
A1:前縁部の各翼幅位置での立ち上がり圧力値
A2:各翼幅位置での最小圧力レベルの平均値に近い値を設定
A3~An:Cpの分布を調整
B1:マイナス値で絶対値を大きくとる
B2:マイナス値で絶対値を翼根から翼端まで各翼幅位置で徐々に小さくする
以上によって翼1の前縁付近の重要なパラメータを決定でき、翼型を決定でき、摩擦抵抗を低減した翼1の設計を容易に行うことができる。
これにより、翼1は表面の前縁11近傍の流体中における表面圧力が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成され、その一形態としての翼1の翼型は典型的には前縁11の有次元化された曲率半径が翼根17から翼端15に向かって減少しているが、前縁11の無次元化された曲率半径が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されている。
図6及び図7にこのような翼1の翼型の形状例を示す。図6は翼1の無次元化された断面形状を示し、図7は図6の前縁11付近の拡大図を示している。
図8、図9及び図10に図6及び図7に示す翼1の前縁の曲率半径を示す。図8は上面及び下面の両方(x/c+が上面、-が下面)を含む前縁11付近の無次元の曲率半径を示し、図9は前縁11の有次元の曲率半径(m)を示し、図10は前縁11の局所翼弦長で無次元化された曲率半径を示している。またいずれも翼幅(スパン)方向(y方向)の位置は無次元化(y/s)している。なお、図9及び図10において、○が本発明に係る翼1の前縁の曲率半径を示し、特許文献1による翼の前縁の曲率半径を参考例として●で示している。
図9に示すように、本発明に係る翼1の前縁の有次元の曲率半径と特許文献1のそれとを比較すると、翼幅(スパン)方向の位置が翼根付近(y/s=0~0.02程度の範囲)を除き、共に曲率半径が翼根から翼端に向かって減少している。しかし、図10に示すように、本発明に係る翼1の前縁の無次元の曲率半径と特許文献1のそれとを比較すると、特許文献1の前縁の無次元の曲率半径が翼根から翼端に向かって減少しているのに対して、本発明に係る翼1の前縁11の無次元の曲率半径は翼根17から翼端15に向かって増加していることがわかる。従って、本発明に係る翼1はこの点において特許文献1に係る翼型と明確に異なる。
・作用効果
上記の翼1は前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)の立ち上がりの勾配が翼根から翼端に向かって系統的に緩くなるように構成され、これにより前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されていることから、翼1の表面の外部流線の横流れ成分が前縁11付近で小さく、境界層遷移が前縁11近傍で容易に誘発されることはなくなる。
そもそも流体中を移動する物体に働く抵抗は、摩擦抵抗と、誘導抵抗と、造波抵抗に分類される(特許文献1の図8参照)。
摩擦抵抗は境界層内の流れの状態に依存し、境界層が層流の場合は境界層が乱流の場合よりも摩擦抵抗は小さい(境界層安定理論:特許文献1の図9参照)。
航空機を例に考えると、飛行機中の機体周りの流れを層流に維持させることが摩擦抵抗の低減につながる(図2の層流境界層と乱流境界層を参照)。
そのため、翼等の機体の層流化が望ましいが、飛行条件にもよるが、機体周りの流れは層流から乱流に遷移を起こす(特許文献1の図8参照)。
層流から乱流に境界層流れが遷移を起こす空気力学的な現象には大きく2つあり、一つはT-S(Tollmien-Schichting)不安定性であり、もう一つはC-F(Cross-Flow;横流れ)不安定性である(特許文献1の図10参照)。
C-F不安定性による遷移は後退角の大きい物体形状(翼)では遷移を起こす支配的な要因である。
境界層外縁流れの方向に対して横流れ速度成分が大きいと、C-F不安定性は顕著に発達し、これに起因して境界層は層流から乱流へ遷移する。
すなわち、図11に示すように、翼1が後退角Aを有する場合には主流の前縁平行成分Sは翼断面に起因する圧力勾配の影響を受けないが、前縁直行成分Sは翼断面に起因する圧力勾配の影響を受ける。このため、外部流線(境界層上端における流線)uが曲がる(符号S)。この外部流線uの曲がりにより流線に垂直な速度成分、つまり横流れ成分wが発生する。この横流れ成分wは変極点iを有する。レイリーの定理により速度成分に変極点があると流れが不安定になる。この不安定性を横流れ不安定と称する。そして、図12に示すように、この横流れ不安定による外部流線uにほぼ平行な縦渦状の流れvが生じ、層流から乱流へ遷移する。
本発明に係る翼1は、前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されていることから、翼根17側の立ち上がり圧力勾配と翼端15側の立ち上がりの圧力勾配とに差が生じる。そして、この差(翼根17から翼端15に向かって増加することによる差)を利用して横流れ成分wと逆方向の流れを誘起することにより、横流れ成分wを減少させ、C-F不安定性に起因した層流から乱流への遷移を抑制することができる。これによりC-F不安定性に起因した摩擦抵抗を低減することができる。
図13は本発明の一実施形態に係る翼1の横流れ成分に係る圧力分布のプロファイルを示すグラフである。図14に特許文献1による翼の横流れ成分に係る圧力分布のプロファイルを参考例として示す。いずれも翼幅方向(y/s)=0.3の位置の圧力分布のプロファイルである。これらの図において、縦軸のy/δにおけるδは境界層の厚さであり、図2に示した翼断面の上にある流れを上下に分けるような線で示される境界層と翼表面と間の距離である。
これらの図から、本発明に係る翼1は特許文献1による翼と比較して、外部流線uに対する横流れ成分wの比(w/u)が翼1の前縁11付近で小さくなり、横流れ成分wが抑圧されていることがわかる。
図15は本発明の一実施形態に係る翼1における遷移解析結果の遷移点マップを示すグラフである。図16に特許文献1による翼における遷移解析結果の遷移点マップを参考例として示す。これらのグラフは上面から見た有次元の翼が示されている。これらの図において、Nは境界層が層流から乱流へ遷移する過程を導く不安定波(横流れ不安定による波状変動)の増幅率であり、Nの具体的な値、例えば12、13、14は流速や試験条件、表面の粗さなどに依存する遷移位置である。
これらの図から、本発明に係る翼1は特許文献1による翼と比較して、遷移位置が翼の後ろの方に下がり、層流域が広くなっていることがわかる。
<亜音速機の場合>
本発明は音速機だけでなく亜音速機にも適用できる。
・圧力分布(Cp)
図17は亜音速機における翼1の前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)を示す図である。
図17に示すように、超音速機と同様に亜音速機の翼1は前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されている。
これらの前縁11近傍における圧力分布は、Cp_ys10からCp_ys100に向けて、つまり翼1の上面の翼根17から翼端15に向かって、立ち上がりの勾配が系統的に緩やかにされている。すなわち、翼1は前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されている。
図18に特許文献1による同様の圧力分布(Cp)を参考例として示す。この圧力分布(Cp)は翼幅(スパン)方向のすべての位置においてほぼ同じ勾配を有する。従って、本発明に係る亜音速機の翼1はこの点において特許文献1に係る圧力分布(Cp)と明確に異なる。
図17に示した翼1の前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)は典型的には上記の式1に示した関数においてn=7として表すことができる。またその関数において、翼幅(スパン)方向の前縁11付近の立ち上がり勾配は典型的には式2に示した関係式によって決めることができる。
・翼型
超音速機と同様に亜音速機の翼1の翼型も典型的には前縁11の有次元化された曲率半径が翼根17から翼端15に向かって減少しているが、前縁11の無次元化された曲率半径が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されている。
図19及び図20にこのような翼1の翼型の形状を示す。図19は翼1の無次元化された断面形状を示し、図20は図19の前縁11付近の拡大図を示している。
図21、図22及び図23に図19及び図20に示す翼1の前縁の曲率半径を示す。図21は上面及び下面の両方(x/c+が上面、-が下面)を含む前縁11付近の無次元の曲率半径を示し、図22は前縁11の有次元の曲率半径(m)を示し、図23は前縁11の無次元化された曲率半径を示している。なお、図22及び図23において、○が本発明に係る翼1の前縁の曲率半径を示し、特許文献1による翼の前縁の曲率半径を参考例として●で示している。
図22に示すように、本発明に係る翼1の前縁の有次元の曲率半径と特許文献1のそれとを比較すると、共に曲率半径が翼根から翼端に向かって減少している。しかし、図23に示すように、本発明に係る翼1の前縁の無次元の曲率半径と特許文献1のそれとを比較すると、特許文献1の前縁の無次元の曲率半径が翼根から翼端に向かって減少しているのに対して、本発明に係る翼の前縁の無次元の曲率半径は翼根17から翼端15に向かって増加している傾向であることがわかる。従って、本発明に係る亜音速機の翼1はこの点において特許文献1に係る翼型と明確に異なる。
・作用効果
亜音速機の翼1は、すでに説明した超音速機と同様の作用効果を奏する。すなわち、本発明に係る亜音速機の翼1は、超音速機と同様に前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)が翼根17から翼端15に向かって増加するように構成されているので、横流れ成分wを減少させ、C-F不安定性に起因した層流から乱流への遷移を抑制することができ、これによりC-F不安定性に起因した摩擦抵抗を低減することができる。
図24は本発明に係る亜音速機の翼1の横流れ成分に係る圧力分布のプロファイルを示すグラフである。図25に特許文献1による亜音速機の翼の横流れ成分に係る圧力分布のプロファイルを参考例として示す。いずれも翼幅方向(y/s)=0.3の位置の圧力分布のプロファイルである。
これらの図から、本発明に係る亜音速機の翼1は特許文献1による翼と比較して、外部流線uに対する横流れ成分wの比(w/u)が翼1の前縁11付近で小さくなり、横流れ成分wが抑圧されていることがわかる。
図26は本発明に係る亜音速機の翼1における遷移解析結果の遷移点マップを示すグラフである。図27に特許文献1による翼における遷移解析結果の遷移点マップを参考例として示す。
これらの図から、本発明に係る翼1は特許文献1による翼と比較して、遷移点が翼の後ろの方に下がり、層流域が広くなっていることがわかる。
<まとめ>
以上の実施形態に係る翼1では、前縁11近傍の上面における圧力分布(Cp)が翼根17から翼端15に向かって増加するようになっているので、横流れ成分を減少させ、層流から乱流への遷移を抑制することができる。これにより横流れ不安定性に起因した摩擦抵抗を低減することができる。
またこの翼1では、遷移点予測手法を用いて圧力分布と遷移との関係を把握することで自然層流化に適した理想的な圧力分布を求め、更にその形状も求めているので、設計が容易である。
更にこの翼1の形状は前縁の無次元化された曲率半径が翼根17から翼端15に向かって増加するようになっているので、翼端15に向かってシャープな前縁形状とはならず製作も容易である。
なお、本発明は上記の実施形態には限定されずその技術思想の範囲内で様々な変形や応用が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に属するものである。
例えば、本発明を船舶等などに使われているフィン・スタビライザーに適用することにより、スタビライザーの層流化により航海中の船体への大きな抵抗の低減にも役立つことができる。
1 翼
11 前縁
15 翼端
17 翼根
100 航空機
A 後退角

Claims (4)

  1. 後退角を有する翼であって、
    前縁近傍の上面における流体中の表面圧力の立ち上がりの勾配が翼根から翼端に向かって系統的に緩くなるように構成された翼。
  2. 請求項1に記載の翼であって、
    前記前縁の、翼弦長方向及び翼幅方向を無次元化した際の曲率半径が翼根から翼端に向かって増加する傾向を有するように構成された翼。
  3. 請求項2に記載の翼であって、
    前記前縁の、翼弦長方向及び翼幅方向を有次元化した際の曲率半径が翼根から翼端に向かって減少する傾向を有するように構成された翼。
  4. 請求項1~3のうちいずれか1項に記載の翼を備えた航空機。
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