JP7456260B2 - 高分子材料のシミュレーション方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高分子材料のシミュレーション方法に関する。
下記特許文献1には、高分子材料のシミュレーション方法が記載されている。この方法は、高分子材料の分子構造をモデル化した分子構造モデルを設定するステップと、分子構造モデルをセルに配置して、構造緩和計算を行うステップとを含む。
特開2013-195220号公報
一般に、複数の分子構造モデルは、セルの内部にランダムに初期配置されるため、隣接する分子構造モデル間の距離が必要以上に近くなることがある。また、前記初期配置において、分子構造モデルが不自然な形状になる場合もある。このような初期配置を持った分子構造モデルの運動を進展させると、構造緩和計算が不安定になり、いわゆる計算落ちが多発するという問題があった。
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、構造緩和を安定して計算することができる高分子材料のシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
本発明は、高分子材料のシミュレーション方法であって、前記高分子材料の分子鎖に基づいて、数値計算用の分子鎖モデルをコンピュータに入力する工程と、前記高分子材料の一部に対応する仮想空間であるセルを、前記コンピュータに定義する工程とを含み、前記コンピュータが、前記セルの内部に、複数の前記分子鎖モデルを配置する工程と、複数の前記分子鎖モデルを対象に、分子動力学計算に基づく構造緩和を計算する緩和工程とを含み、前記緩和工程は、予め定められた第1の時間刻みで、前記分子鎖モデルの運動を進展させる第1計算工程と、前記第1計算工程の後に、前記第1の時間刻みよりも大きな第2の時間刻みで、前記分子鎖モデルの運動を進展させる第2計算工程とを含むことを特徴とする。
本発明に係る前記高分子材料のシミュレーション方法において、前記第1の時間刻みは、前記第2の時間刻みの0.1~0.5倍であってもよい。
本発明に係る前記高分子材料のシミュレーション方法において、前記第1の時間刻みは、0.05~0.2fsであり、前記第2の時間刻みは、0.3~1.2fsであってもよい。
本発明に係る前記高分子材料のシミュレーション方法において、前記第1計算工程での繰り返し計算数、及び、前記第2計算工程での繰り返し計算数は、100~1000000回であってもよい。
本発明に係る前記高分子材料のシミュレーション方法において、前記緩和工程は、前記第1計算工程に先立ち、複数の前記分子鎖モデルを対象に、分子力学計算を行う工程をさらに含んでもよい。
本発明に係る前記高分子材料のシミュレーション方法において、前記緩和工程は、前記第2計算工程の後に、前記第2の時間刻みよりも大きな第3の時間刻みで、前記分子鎖モデルの運動を進展させる第3計算工程をさらに含んでもよい。
本発明の高分子材料のシミュレーション方法は、上記の工程を採用することにより、構造緩和を安定して計算することができる。
高分子材料のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。 高分子材料のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。 分子鎖モデルの一例を示す概念図である。 分子鎖モデルが配置されたセルの一例を示す概念図である。 高分子材料モデルの一例を示す概念図である。 緩和工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。 本発明の他の実施形態の緩和工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。 本発明のさらに他の実施形態の緩和工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。なお、各図面は、発明の内容の理解を高めるためのものであり、誇張された表示が含まれる他、各図面間において、縮尺等は厳密に一致していない点が予め指摘される。
本実施形態の高分子材料のシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、複数の分子鎖モデルを対象に、分子動力学計算に基づく構造緩和が計算される。図1は、高分子材料のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。
コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
本実施形態の高分子材料には、少なくとも1種類の分子鎖(ポリマー)が含まれている。なお、高分子材料には、フィラーやカップリング剤がさらに含まれてもよい。本実施形態の分子鎖は、スチレンブタジエンゴムである場合が例示されるが、特に限定されるわけではない。
図2は、高分子材料のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、高分子材料の分子鎖に基づいて、数値計算用の分子鎖モデルが、コンピュータ1に入力される(工程S1)。図3は、分子鎖モデル3の一例を示す概念図である。
本実施形態の分子鎖モデル3は、分子鎖(本例では、スチレンブタジエンゴム)の実際の構造に基づいた全原子モデルである場合が例示されるが、特に限定されない。分子鎖モデル3は、例えば、ユナイテッドアトムモデル(図示省略)や、粗視化分子モデル(Kremer-GrestモデルやDPDモデルなど)であってもよい。
本実施形態の分子鎖モデル3は、分子鎖を構成する原子をモデリングした粒子モデル4と、粒子モデル4、4間を結合するボンド(結合鎖モデル)5とを含んで構成されている。
粒子モデル4は、後述の分子動力学計算に基づいたシミュレーションにおいて、運動方程式の質点として取り扱われる。粒子モデル4には、例えば、質量、直径、電荷、又は、初期座標などのパラメータが定義される。本実施形態の粒子モデル4は、分子鎖の炭素原子をモデリングした炭素粒子モデル4Cと、分子鎖の水素原子をモデリングした水素粒子モデル4Hとが含まれる。
ボンド5は、粒子モデル4、4間を拘束するものである。本実施形態のボンド5は、炭素粒子モデル4C、4Cを連結する主鎖5A、及び、炭素粒子モデル4Cと水素粒子モデル4Hとの間を連結する側鎖5Bとを含んでいる。
分子鎖モデル3には、各粒子モデル4、4間の結合長さである結合長や、ボンド5を介して連続する3つの粒子モデル4がなす角度である結合角が定義される。さらに、分子鎖モデル3には、ボンド5を介して連続する4つの粒子モデル4において、隣り合う3つの粒子モデル4が作る二面角などが定義される。これにより、分子鎖モデル3の三次元構造が定義される。このような分子鎖モデル3は、慣例に従い、外力又は内力を受けることによって、結合長、結合角及び二面角が変化する。これにより、分子鎖モデル3の三次元構造が変化する。
結合長、結合角及び二面角は、適宜定義されうる。本実施形態の結合長、結合角及び二面角を定義するためのポテンシャルの各定数は、論文1(Huai Sun等著、「COMPASS II: extended coverage for polymer and drug-like molecule databases」、J. Mol. Model. vol. 22、no. 2、article 47、2016年、pp.1-10)のCOMPASS II力場に基づいて定義される。
上記のような分子鎖モデル3は、例えば、ダッソー・システムズ社製のシミュレーションソフトウェア(Materials Studio(「Materials Studio」は登録商標))等が用いられることで、容易に作成されうる。分子鎖モデル3は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料の一部に対応する仮想空間であるセルが、コンピュータ1に定義される(工程S2)。図4は、分子鎖モデル3が配置されたセル6の一例を示す概念図である。
本実施形態のセル6は、少なくとも互いに向き合う一対の面7、7、本実施形態では、互いに向き合う三対の面7、7を有している。本実施形態のセル6は、直方体又は立方体(本実施形態では、立方体)として定義されている。各面7、7には、周期境界条件が定義されている。セル6の一辺の各長さL1は、例えば、特許文献(特開2019-032278号公報)の記載に基づいて、適宜設定されうる。セル6は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、セル6の内部に、複数の分子鎖モデル3を配置する(工程S3)。本実施形態の工程S3では、複数の分子鎖モデル3がランダムに配置される。
分子鎖モデル3をランダムに配置する手順は、特に限定されない。本実施形態の工程S3では、例えば、DBMC法(Density Biased Monte Carlo)に基づいて、分子鎖モデル3がランダムに配置される。このような分子鎖モデル3の初期配置は、例えば、上記のシミュレーションソフトウェア等が用いられることで、容易に求めることができる。
セル6の内部に配置される分子鎖モデル3の個数は、例えば、コンピュータ1の計算能力や、分子鎖モデル3の大きさ等に基づいて、適宜設定されうる。分子鎖モデル3が配置されたセル6は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、セル6内に配置された分子鎖モデル3、3間に、力場F1を定義する(工程S4)。本実施形態の工程S4では、隣接する分子鎖モデル3、3について、それらの粒子モデル4、4間に、力場F1がそれぞれ定義される。これらの力場F1については、適宜定義することができる。本実施形態の力場F1は、例えば、上述のCOMPASS II 力場に基づいて定義される。このような力場F1の定義は、例えば、上記のシミュレーションソフトウェア等が用いられうる。力場F1は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、複数の分子鎖モデル3を対象に、分子動力学計算( Molecular Dynamics : MD )に基づく構造緩和を計算する(緩和工程S5)。緩和工程S5では、例えば、セル6について所定の時間、分子鎖モデル3が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、緩和工程S5では、予め定められた時間刻み(シミュレーションの単位時間(微小時間))Δtで、分子鎖モデル3の運動が進展される。
本実施形態の構造緩和の計算は、セル6において、圧力及び温度が一定、又は、体積及び温度が一定に保たれる。これにより、緩和工程S5では、実際の高分子材料の分子運動に近似させて、分子鎖モデル3の初期配置が精度よく緩和されうる。
緩和工程S5では、分子鎖モデル3の初期配置が十分に緩和されるまで、構造緩和が計算される。これにより、緩和工程S5では、分子鎖モデル3が平衡状態(構造が緩和した状態)となった高分子材料モデル10が作成されうる。このような緩和計算は、例えば、上記のシミュレーションソフトウェアが用いられうる。図5は、高分子材料モデル10の一例を示す概念図である。
ところで、図4に示されるように、分子鎖モデル3は、セル6の内部にランダムに初期配置されるため、隣接する分子鎖モデル3、3間の距離(例えば、粒子モデル4、4の距離)D1が必要以上に近くなることがある。また、初期配置において、分子鎖モデル3が不自然な形状になる場合もある。このような初期配置を持った分子鎖モデル3の運動を進展させると、例えば、隣接する粒子モデル4、4間でエネルギーが発散して、構造緩和計算が不安定になる場合がある。このため、構造緩和の計算の異常終了(いわゆる計算落ち)が多発するという問題がある。
本実施形態の緩和工程S5では、時間刻みが段階的に大きくされて、分子鎖モデル3の運動が徐々に進展される。図6は、緩和工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の緩和工程S5は、予め定められた第1の時間刻みで、分子鎖モデル3(図4に示す)の運動を進展させる第1計算工程S51と、第1の時間刻みよりも大きな第2の時間刻みで、分子鎖モデル3の運動を進展させる第2計算工程S52とを含んでいる。第2計算工程S52は、第1計算工程S51の後に行われる。緩和工程S5では、それぞれの第1計算工程S51及び第2計算工程S52において、分子鎖モデル3の運動の進展(構造緩和)が、時間刻み(第1の時間刻み、又は、第2の時間刻み)ごとに繰り返し計算される。
第1計算工程S51では、第2の時間刻みよりも小さな第1の時間刻みで、分子鎖モデル3(図4に示す)の運動が進展される。このため、第1計算工程S51では、例えば、隣接する粒子モデル4、4間の距離D1(図4に示す)が必要以上に近い場合や、分子鎖モデル3が不自然な形状になった場合でも、分子鎖モデル3の構造を少しずつ緩和することができる。
一方、第2計算工程S52では、第1計算工程S51で構造が緩和された分子鎖モデル3を対象に、構造緩和が計算されるため、第1の時間刻みよりも大きな第2の時間刻みで、分子鎖モデル3の運動が進展されたとしても、計算落ちの発生を防ぐことができる。さらに、第2計算工程S52では、相対的に大きな第2の時間刻みで分子鎖モデル3の運動が進展されるため、例えば、第1の時間刻みのみで分子鎖モデル3の運動が進展される場合に比べて、計算コストが増大するのを防ぐことができる。
このように、本実施形態の緩和工程S5では、時間刻みを段階的に大きくしながら、分子鎖モデル3の運動を徐々に進展させることができるため、計算コストの増大を防ぎつつ、上記のようなエネルギーの発散を防ぐことができる。したがって、本実施形態の緩和工程S5では、構造緩和を安定して計算することができる。
このような作用を効果的に発揮させるために、第1の時間刻みは、第2の時間刻みの0.1~0.5倍が望ましい。第1の時間刻みが、第2の時間刻みの0.5倍以下に設定されることにより、第2計算工程S52に比べて、第1計算工程S51での分子鎖モデル3の運動を、緩やかに進展させることができる。これにより、緩和工程S5では、上記のようなエネルギーの発散を防ぎつつ、安定した構造緩和を計算することができる。一方、第1の時間刻みが、第2の時間刻みの0.1倍以上に設定されることにより、構造緩和の計算時間(計算コスト)が必要以上に大きくなるのを防ぐことができる。このような観点より、第1の時間刻みは、第2の時間刻みの0.4倍以下が望ましく、また、0.2倍以上が望ましい。
第1の時間刻みは、第2の時間刻みよりも小さければ、適宜設定されうる。上記のような作用を効果的に発揮させるためには、第1の時間刻みが0.05~0.2fsに設定されるのが望ましい。第1の時間刻みが0.2fs以下に設定されることにより、従来の構造緩和計算に用いられている一般的な時間刻み(例えば、1.0~2.0fs)よりも確実に小さく設定されうる。これにより、第1計算工程S51では、上記のようなエネルギーの発散を確実に防ぎつつ、安定した構造緩和を計算することができる。一方、第1の時間刻みが0.05fs以上に設定されることにより、構造緩和の計算時間(計算コスト)が必要以上に大きくなるのを防ぐことができる。このような観点より、第1の時間刻みは、0.15fs以下が望ましく、また、0.1fs以上が望ましい。
第2の時間刻みは、第1の時間刻みよりも大きければ、適宜設定されうる。上記のような作用を効果的に発揮させるためには、第2の時間刻みが0.3~1.2fsに設定されるのが望ましい。第2の時間刻みが1.2fs以下に設定されることにより、従来の構造緩和計算に用いられている一般的な時間刻みよりも大きくなるのを防ぐことができるため、上記のようなエネルギーの発散が発生するのを防ぐことができる。一方、第2の時間刻みが0.3fs以上に設定されることにより、第1計算工程S51に比べて、分子鎖モデル3の運動を早く進展させることができるため、構造緩和の計算時間(計算コスト)が必要以上に大きくなるのを防ぐことができる。このような観点より、第2の時間刻みは、1.0fs以下が望ましく、また、0.5fs以上が望ましい。
第1計算工程S51での繰り返し計算数、及び、第2計算工程S52での繰り返し計算数は、分子鎖モデル3の運動を進展させて、構造緩和を計算することができれば、適宜設定されうる。上記のような作用を効果的に発揮させるためには、第1計算工程S51及び第2計算工程S52での各繰り返し計算数が100~1000000回に設定されるのが望ましい。それぞれの繰り返し計算数が100回以上に設定されることにより、上記のようなエネルギーの発散を防ぎつつ、分子鎖モデル3の運動をより確実に進展させることができる。一方、それぞれの繰り返し計算数が1000000回以下に設定されることにより、構造緩和の計算時間(計算コスト)が必要以上に大きくなるのを防ぐことができる。このような観点より、繰り返し計算数は、好ましくは500回以上、さらに好ましくは1000回以上であり、また、また、好ましくは500000回以下であり、さらに好ましくは100000回以下である。
なお、初期配置での分子鎖モデル3、3間の距離や、分子鎖モデル3の不自然な形状によっては、上記の繰り返し計算数に基づいて、第1計算工程S51が実行されたとしても、次の第2計算工程S52において計算落ちが発生する可能性が僅かに存在する。このため、第1計算工程S51では、例えば、全ての分子鎖モデル3について、粒子モデル4、4間の距離D1が、予め定められた閾値(例えば、1~2Å)以上となるまで、分子鎖モデル3の運動の進展が計算されてもよい。これにより、第1計算工程S51の後に実施される第2計算工程S52では、隣接する粒子モデル4、4間において、エネルギーが発散するのを抑制することができるため、計算落ちの発生をより確実に防ぐことが可能となる。
本実施形態の第2計算工程S52では、分子鎖モデル3の初期配置が十分に緩和されるまで、分子鎖モデル3の運動の進展が、第2の時間刻みで繰り返し計算される。これにより、緩和工程S5では、構造緩和の計算の異常終了(計算落ち)を防ぎつつ、分子鎖モデル3の平衡状態(構造が緩和した状態)が計算された高分子材料モデル10(図5に示す)が、確実に作成されうる。高分子材料モデル10は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、高分子材料モデル10を変形させて、高分子材料モデル10の物理量を計算する(工程S6)。本実施形態の工程S6では、高分子材料モデル10を、予め定められた方向に引っ張る単軸引張試験が計算される。高分子材料モデル10を引っ張る方向は、適宜選択されうる。
高分子材料モデル10の変形計算は、例えば、特許文献(特開2016-081297号公報)に記載の手順に基づいて、高分子材料モデル10の一端側の面7a、及び、他端側の面7bが互いに離間するように、高分子材料モデル10の伸長が計算される。高分子材料モデル10の伸長計算は、分子動力学計算に基づいて計算される。
高分子材料モデル10の物理量は、適宜求められる。物理量には、高分子材料モデル10の応力や、セル6に形成された空孔の大きさ等が含まれてもよい。物理量は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、高分子材料モデル10の物理量が良好か否かを判断する(工程S7)。物理量が良好か否かの判断は、適宜行われうる。本実施形態の工程S7では、工程S6で計算された物理量に対して設定された閾値に基づいて、その物理量が、良好か否かが判断される。
工程S7において、物理量が良好であると判断された場合(工程S7で、「Y」)、高分子材料モデル10(図5に示す)に基づいて、高分子材料(図示省略)が製造される(工程S8)。一方、工程S7において、物理量が良好でないと判断された場合(工程S7で、「N」)、高分子材料モデル10(図3に示した分子鎖モデル3等)の諸条件が変更されて(工程S9)、工程S1~工程S7が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、良好な物性を有する高分子材料を、効率よく設計及び製造することができる。
これまでの実施形態の緩和工程S5では、図6に示されるように、第1計算工程S51と、第2計算工程S52とを含む態様が例示されたが、このような態様に限定されない。緩和工程S5では、第1計算工程S51に先立ち、複数の分子鎖モデル3(図4に示す)を対象に、分子力学計算(Molecular Mechanics : MM)を行う工程S50がさらに含まれてもよい。図7は、本発明の他の実施形態の緩和工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の工程S50では、初期配置された複数の分子鎖モデル3(図4に示す)に対する分子力学計算により、粒子モデル4、4間に定義された力場F1(相互作用のポテンシャルエネルギー)に基づいて、分子鎖モデル3の分子構造が最適化される。これにより、工程S50では、分子鎖モデル3の初期配置において、隣接する粒子モデル4、4の距離D1が必要以上に近くなったとしても、分子鎖モデル3の運動を進展させることなく、それらの粒子モデル4、4を離間させることができる。さらに、工程S50では、分子力学計算により、初期配置で不自然な形状になった分子鎖モデル3を、自然な形状に変化させることができる。このような分子力学計算は、上記のシミュレーションソフトウェアが用いられることで、容易に計算することができる。
このように、この実施形態の緩和工程S5では、第1計算工程S51の前に実施される工程S50において、分子鎖モデル3の分子構造が最適化される。これにより、緩和工程S5では、工程S50の後に実施される第1計算工程S51及び第2計算工程S52において、分子鎖モデル3の運動を、より安定して進展させることが可能となる。
これまでの実施形態の緩和工程S5では、図6及び図7に示されるように、第1計算工程S51及び第2計算工程S52が含まれることにより、時間刻みが2段階で大きくされたが、例えば、時間刻みが、3段階以上で大きくされてもよい。図8は、本発明のさらに他の実施形態の緩和工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の緩和工程S5では、第2計算工程S52の後に、第2の時間刻みよりも大きな第3の時間刻みで、分子鎖モデル3(図4に示す)の運動を進展させる第3計算工程S53がさらに含まれる。したがって、この実施形態の緩和工程S5では、第1計算工程S51~第3計算工程S53のそれぞれにおいて、分子鎖モデル3の運動の進展が、時間刻み(第1の時間刻み、第2の時間刻み、又は、第3の時間刻み)ごとに繰り返し計算される。
このように、この実施形態の緩和工程S5では、これまでの実施形態の緩和工程S5に比べて、より多くの段階(本例では、3段階)で時間刻みを大きくしながら、分子鎖モデル3の運動を徐々に進展させることができる。これにより、緩和工程S5では、これまでの実施形態の緩和工程S5に比べて、分子鎖モデル3の構造を、より少しずつ緩和することができるため、上記のエネルギーの発散を効果的に防ぐことができる。
この実施形態において、第1の時間刻みは、これまでの第1の時間刻みと同一範囲に設定されるのが望ましい。
一方、第2の時間刻みは、第1の時間刻みよりも大であり、かつ、第3の時間刻みよりも小であれば、適宜設定されうる。この実施形態の第2の時間刻みは、これまでの第2の時間刻み(0.3~1.0fs)よりも小さく設定されるのが望ましい。これにより、第2計算工程S52では、これまでの実施形態の第2計算工程S52に比べて、分子鎖モデル3の構造を少しずつ緩和することが可能となる。
上記のような作用を効果的に発揮させるために、第2の時間刻みは、好ましくは、0.25~0.70fsに設定されるのが望ましい。第2の時間刻みが0.70fs以下に設定されることにより、分子鎖モデル3の構造を少しずつ緩和することが可能となる。一方、第2の時間刻みが0.25fs以上に設定されることにより、第1計算工程S51に比べて、分子鎖モデル3の運動を早く進展させることができる。このような観点より、第2の時間刻みは、0.35fs以上が望ましく、また、0.60fs以下に設定されるのが望ましい。
第3の時間刻みは、第2の時間刻みよりも大きければ、適宜設定されうる。上記のような作用を効果的に発揮させるためには、第3の時間刻みは、0.8~1.2fsに設定されるのが望ましい。第3時間刻みが1.2fs以下に設定されることにより、従来の構造緩和に用いられている一般的な時間刻みよりも大きくなるのを防ぐことができる。一方、第3の時間刻みが0.8fs以上に設定されることにより、第1計算工程S51及び第2計算工程S52に比べて、分子鎖モデル3の運動を早く進展させることができ、構造緩和の計算時間(計算コスト)が必要以上に大きくなるのを防ぐことができる。このような観点より、第3の時間刻みは、1.1fs以下が望ましく、また、0.9fs以上が望ましい。
第1計算工程S51での繰り返し計算数、第2計算工程S52での繰り返し計算数、及び、第3計算工程S53での繰り返し計算数は、分子鎖モデル3の運動を進展させて、構造緩和を計算することができれば、適宜設定されうる。これらの繰り返し計算数は、これまでの実施形態と同一範囲に設定されるのが望ましい。
この実施形態の第2計算工程S52では、例えば、全ての分子鎖モデル3について、粒子モデル4、4間の距離D1が、予め定められた閾値(例えば、1~2Å)以上となるまで、分子鎖モデル3の運動の進展が計算されてもよい。これにより、第2計算工程S52の後に実施される第3計算工程S53では、隣接する粒子モデル4、4間において、エネルギーが発散するのを防ぐことができ、計算落ちの発生をより確実に防ぐことが可能となる。
この実施形態の緩和工程S5には、第1計算工程S51、第2計算工程S52、及び、第3計算工程が含まれたが、このような態様に限定されない。緩和工程S5には、例えば、第3計算工程S53の後に、第3の時間刻みよりも大きな第4の時間刻みで、分子鎖モデル3の運動を進展させる第4計算工程(図示省略)が含まれてもよい。さらに、第4計算工程の後に、第4の時間刻みよりも大きな第5の時間刻みで、分子鎖モデル3の運動を進展させる第5計算工程(図示省略)など、複数の計算工程が含まれてもよい。これにより、緩和工程S5では、より多くの段階で時間刻みを大きくしながら、分子鎖モデル3の運動を徐々に進展させることができるため、構造緩和をさらに安定して計算することができる。
これまでの実施形態の緩和工程S5において、分子鎖モデル3のみを対象に、構造緩和が計算されたが、このような態様に限定されない。セル6の内部に、例えば、フィラーをモデリングしたフィラーモデル(図示省略)や、カップリング剤をモデリングしたカップリングモデル(図示省略)が含まれる場合には、これらのモデルとともに、構造緩和が計算されてもよい。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図2に示した処理手順に基づいて、セルの内部に配置された複数の前記分子鎖モデルを対象に、分子動力学計算に基づく構造緩和を計算する緩和工程が実施された(実施例1~4)。
実施例1~4の緩和工程では、図6に示した処理手順に基づいて、第1の時間刻みで、分子鎖モデルの運動を進展させる第1計算工程と、第1の時間刻みよりも大きな第2の時間刻みで、分子鎖モデルの運動を進展させる第2計算工程とが実施された。緩和工程では、下記の圧力に設定することで、下記の初期密度から緩和計算後の下記の密度に近づけられた。
実施例3の緩和工程では、図7に示した処理手順に基づいて、第1計算工程に先立ち、複数の分子鎖モデルを対象に、分子力学計算を行う工程がさらに実施された。一方、実施例4の緩和工程では、図8に示した処理手順に基づいて、第2計算工程の後に、第3の時間刻みで、分子鎖モデルの運動を進展させる第3計算工程がさらに実施された。
比較のために、一つの時間刻み(1.0fs)で、分子鎖モデルの運動を進展させる緩和工程が実施された(従来例)。そして、実施例1~4及び従来例において、10回の緩和計算を実施したときの正常終了した回数がカウントされた。なお、正常終了した回数が、5回以上であれば、良好である。
さらに、正常終了したときの計算コストが、従来例を100とする指数で示されている。数値が小さいほど、計算コストが小さいことを示している。なお、計算コストの指数が105以下であれば、良好である。共通仕様等は、次のとおりである。
分子鎖:スチレンブタジエンゴム
高分子材料モデル:
分子鎖モデルの個数:10個
初期密度:0.1g/cm3
緩和計算後の密度:0.94g/cm3
各分子鎖モデル(全原子モデル):
炭素粒子モデル:100個
水素粒子モデル:202個
構造緩和計算:
温度:300K
圧力:1atm
繰り返し計算数:
従来例:1000000回
実施例1~3:
第1計算工程:1000回
第2計算工程:1000000回
実施例4:
第1計算工程:1000回
第2計算工程:1000回
第3計算工程:1000000回
テスト結果が、表1に示される。
Figure 0007456260000001
テストの結果、実施例1~4は、従来例に比べて、緩和計算を正常に終了させることができた。また、分子力学計算が実施された実施例3は、実施例1~2に比べて、緩和計算をより多く正常終了させることができた。さらに、第3計算工程が実施された実施例4は、実施例1~3に比べて、緩和計算をより多く正常終了させることができた。
S5 緩和工程
S51 第1計算工程
S52 第2計算工程

Claims (6)

  1. 高分子材料のシミュレーション方法であって、
    前記高分子材料の分子鎖に基づいて、数値計算用の分子鎖モデルをコンピュータに入力する工程と、
    前記高分子材料の一部に対応する仮想空間であるセルを、前記コンピュータに定義する工程とを含み、
    前記コンピュータが、
    前記セルの内部に、複数の前記分子鎖モデルを配置する工程と、
    複数の前記分子鎖モデルを対象に、分子動力学計算に基づく構造緩和を計算する緩和工程とを含み、
    前記緩和工程は、
    予め定められた第1の時間刻みで、前記分子鎖モデルの運動を進展させる第1計算工程と、
    前記第1計算工程の後に、前記第1の時間刻みよりも大きな第2の時間刻みで、前記分子鎖モデルの運動を進展させる第2計算工程とを含む、
    高分子材料のシミュレーション方法。
  2. 前記第1の時間刻みは、前記第2の時間刻みの0.1~0.5倍である、請求項1記載の高分子材料のシミュレーション方法。
  3. 前記第1の時間刻みは、0.05~0.2fsであり、
    前記第2の時間刻みは、0.3~1.2fsである、請求項1又は2記載の高分子材料のシミュレーション方法。
  4. 前記第1計算工程での繰り返し計算数、及び、前記第2計算工程での繰り返し計算数は、100~1000000回である、請求項1ないし3のいずれかに記載の高分子材料のシミュレーション方法。
  5. 前記緩和工程は、前記第1計算工程に先立ち、複数の前記分子鎖モデルを対象に、分子力学計算を行う工程をさらに含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の高分子材料のシミュレーション方法。
  6. 前記緩和工程は、前記第2計算工程の後に、前記第2の時間刻みよりも大きな第3の時間刻みで、前記分子鎖モデルの運動を進展させる第3計算工程をさらに含む、請求項1ないし5のいずれかに記載の高分子材料のシミュレーション方法。
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