様々な実施形態が、添付の図面を参照して以下に詳細に記載され、添付の図面において、同様の参照番号は同様の要素を表す。
電場強度は、電場が細胞内の対象物(たとえば細胞小器官)に適用する電力を定量化する。しかし、TT場などといった物理療法の線量を考慮するとき、作用する電力を考慮するだけでなく、療法から組織に伝達されるエネルギーの量(すなわち、療法が実施する仕事)も考慮することが重要である。これは、エネルギーおよび仕事を定量化することによって、物理療法が作用する対象物の状態を物理療法が変える程度をより良好に記述するのを可能にすることができるためである。
本出願は、電場の電力損失密度が、任意の所与の組の電極位置についての標的体積中のTT場の線量を定量化するのに有利に使用できることを説明する。さらに、電力損失密度の分布は、複数の異なる電極位置について分析することができ、その結果、最良の電力損失密度の分布をもたらす電極位置を選択することができる。次いで、選択した組の電極位置を使用してTT場が患者に適用される。この新しい手法は、電極をどこに位置決めするかの決定が電場の強度のシミュレーションに基づいていた伝統的な手法と著しい対照をなす。
電場の電力損失密度Lは次式のように規定される。
上式で、σは組織の導電率であり、|E|は電場の強度である。この関係式は、本明細書では式(1)と呼ばれる。電力損失密度は、ミリワット毎立方センチメートル(mW/cm3)の単位で測定される。
脳にTT場を送出するときのTT場電力損失密度の分布を検査するため、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、発明の名称を「Treating Patients with TTFields with the Electrode Positions Optimized Using Deformable Templates」とする米国特許出願第2018/0160933号に記載された手法を使用して、グリア芽腫の患者のMRIに基づいて、現実的な患者の頭部モデルが作成された。現実的な頭部モデルは、(脳、頭蓋骨、および頭皮を含む)頭部内の3D空間中の各ボクセルにおける導電率を指定し、(たとえば、ステップS22に関連して下で議論されるように)関連する身体の一部分の3D導電率マップを作成するための様々な代替手法のいずれかを使用することもできる。現実的な頭部モデルが取得された後、それらの現実的な頭部モデルにTT場の送出をシミュレーションするために、数値シミュレーションが実行され、それらの現実的な頭部モデル上にOptune(商標)電極を位置決めするシミュレーションを行い、Optune(商標)システムを使用してそれらの電極にAC電圧を印加するシミュレーションを行った。もちろん、代替実施形態では、シミュレーションが調整されて電極の違いを考慮する限り、異なるタイプの電極(すなわち、Optune(商標)電極以外)を使用することができる。
モデル内の場の強度分布および電力損失密度の分布が計算され比較されて、図1A~図1Cに、代表的な組の電極の場所についてそれらの比較の結果が描かれる。より詳細には、図1Aは、関係する身体の一部分内の各ボクセルにおける導電率を指定する計算モデルを通した軸方向スライスを描く。電極のモデルが計算モデル上に(代表的な組の電極の場所に)位置決めされて、シミュレーションしたAC電圧がそれらのモデル電極間に印加された後、各ボクセルにおける電場の強度が(V/cmで)計算され、図1Bに示される場の強度の分布がもたらされる。各ボクセルにおける図1Bの場の強度は、次いで、上で言及した式(1)を使用して、対応する電力損失密度にマッピングされ、結果として得られた電力損失密度の分布が図1Cに示される。場の強度分布および電力損失密度の分布は、何らかの程度の相関を示すが、2つの分布間には明確な違いがある。より詳細には、電場強度(図1B)は、低導電率の領域(たとえば、白質)では増加する傾向があり、高導電率の領域(たとえば、脳室および切除空洞)では最低となる傾向がある。他方で、電力損失密度(図1C)は、より高い導電率の領域で増加する傾向がある。また、脳室および切除空洞内で、電力損失密度は、他の組織のタイプで観察されるものに匹敵する値を取ることができる。
図2は、電力損失密度に依拠する、被験者の身体の一部分においてTT場を使用する治療を計画するための1つの例のフローチャートである。この例は、ステップS21で開始し、ステップS21では、被験者の身体の一部分の関連する画像が取得される。これらの画像は、限定しないが、MRI、CTなどを含む任意の撮像手段を使用して得られた身体の一部分の1つまたは複数の画像であってよい。いくつかの好ましい実施形態では、少なくとも1つのMRI画像が使用される。
次に、ステップS22において、身体の一部分の導電率マップが、ステップS21で得られた画像に基づいて生成される。TT場は交流電場であり、導電率は周波数に依存するために、導電率マップは、TT場が最終的に適用されることになる周波数を考慮に入れるべきであることに留意されたい。導電率マップは、好ましくは、身体の一部分内の関連する周波数での導電率の3Dモデルである。たとえば、グリア芽腫は200kHzのTT場を使用して治療されるために、グリア芽腫のTT場治療を計画するための導電率マップは、200kHzACにおける各ボクセルの導電率を指定するべきである。
導電率マップは、様々な手法を使用して生成することができる。たとえば、導電率マップは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,188,851号に記載の手法を使用して、MRI画像から生成することができる。あるいは、導電率マップは、MRI画像の手動のセグメント化を実施すること(すなわち、MRI画像中で、白質、灰白質、壊死性コアなどといった様々な組織のタイプを手動で識別すること)、および関連する組織のタイプの各々に好適な導電率値を割り当てることによって生成することができる。導電率マップを生成するための様々な代替手法は、当業者には明らかであろう。よい計算モデルを作成するために、(たとえば、少なくとも1mm×1mm×1mmの解像度を有する)高解像度画像の使用が好ましい。より低い解像度の画像を使用することもできるが、正確さが低い結果がもたらされることになる。本明細書に記載される実施形態では、導電率をマッピングすることを議論するが、抵抗率などといった異なる電気特性をマッピングすることによって代替実施形態が同様の結果を提供できることに留意されたい。
ステップS23では、標的体積が3Dモデル内で識別される。標的体積は多数のボクセルを含む。グリア芽腫の意味合いでは、標的体積は、典型的には、グリア芽腫を含有する脳内の領域となる。いくつかの実施形態では、標的体積は、肉眼的腫瘍体積(GTV, gross tumor volume)または臨床的標的体積(CTV, clinical target volume)のいずれかであってよい。GTVは、腫瘍の確認できる範囲および場所のすべてである一方、CTVは、存在する場合には確認された腫瘍、および腫瘍の存在が推定される任意の他の組織を含む。多くの場合、CTVは、GTVを包含する体積を規定すること、およびGTVの周りに予め規定された幅を有するマージンを加えることによって見いだされる。
GTVまたはCTVを識別するために、MRI画像内の腫瘍の体積を識別する必要がある。これは、ユーザによって手動で、自動的に、またはユーザ支援型アルゴリズムが使用される半自動手法を使用する、のうちのいずれかで実施することができる。このタスクを手動で実施するとき、MRIデータをユーザに提示することができ、データ上にCTVの体積の輪郭を描くようにユーザに求めることができる。ユーザに提示されるデータは、構造的MRIデータ(たとえば、T1、T2データ)であってよい。異なるMRI撮像手段を互いに登録することができ、ユーザには、データセットのいずれかを見る、およびCTVの輪郭を描くためのオプションを提示することができる。ユーザは、MRIの3D体積表示上にCTVの輪郭を描くように求められる場合があるか、または、ユーザは、データの個々の2Dスライスを見て、各スライス上にCTV境界をマーキングするオプションが与えられる場合がある。一度各スライス上に境界をマーキングしたら、解剖学的体積内(したがって、現実的なモデル内)のCTVを見いだすことができる。この場合、ユーザによってマーキングされた体積がGTVに対応することになる。いくつかの実施形態では、次いで、GTVに対する予め規定された幅のマージンを加えることによってCTVを見いだすことができる。同様に、他の実施形態では、ユーザは、同様の手順を使用してCTVをマーキングするように求められる場合がある。
任意選択で、MRIデータの半自動セグメント化手法を実施することができる。これらの手法の例では、ユーザがアルゴリズムに入力を繰り返して提供し、(たとえば、画像上の腫瘍の場所は、腫瘍の境界を大雑把にマーキングし、腫瘍がある注目する領域の境界を定める)次いでこれがセグメント化アルゴリズムによって使用される。次いで、身体の一部分内のCTVの場所および体積の推定を改善するために、セグメント化を改良するオプションをユーザに与えることができる。
自動手法または半自動手法のいずれを使用しても、識別した腫瘍体積がGTVに対応することになり、次いでCTVは、予め規定された量だけGTV体積を拡大することによって(たとえば、腫瘍の周りに20mmの幅のマージンを含む体積としてCTVを規定することによって)自動的に見いだすことができる。
他の実施形態では、GTVは、拡大する腫瘍組織の体積として規定され、腫瘍周囲境界領域(PBZ, peritumoral boundary zone)は、以下の組織、すなわち拡大する腫瘍、壊死性コア、および切除空洞の周りの、3mm厚の体積中の白質および灰白質のボクセルとして規定される。これらの実施形態では、標的体積は、GTVとPBZを結合した体積であってよい。
他の実施形態では、標的体積として電力損失密度を最適化したい注目する領域をユーザが規定することで十分な場合がある。この注目する領域は、たとえば、腫瘍を含む解剖学的体積中の箱形体積、球形体積、または任意の形状の体積であってよい。この手法が使用されるとき、腫瘍を正確に識別するための複雑なアルゴリズムは必要ない場合がある。
ステップS24では、3Dモデルに対する第1の組の場所においてモデル電極の組が3Dモデルに付加され、その結果、結果として得られた電場分布および電力損失密度分布のシミュレーションが、その特定の組の場所について計算することができる。グリア芽腫の意味合いでは、額に1つの電極アレイ(すなわち、前部電極アレイ)、頭部の後ろに1つの電極アレイ(すなわち、後部電極アレイ)、頭部の右側に1つの電極アレイ、および頭部の左側に1つの電極アレイを配置するのが普通である。しかし、それらの電極アレイの各々についての正確な位置についてかなりの許容差がある。
ステップS26では、標的体積中のボクセルの各々について、予想される電力損失密度(すなわち、第1の組の場所に位置決めされる第1の組のモデル電極が使用されて標的体積中に交流電場を与えるときに存在することになる電力損失密度)が決定される。
図3は、所与の組の電極位置について図2のステップS26を実施するための1つの手法を描く。この手法では、電力損失密度の分布は、2ステッププロセスを使用して決定される。第1のステップ(S32)では、第1の組の場所に位置決めされる第1の組のモデル電極が使用されて標的体積中に交流電場を与えるときに存在することになる電場強度が、身体の一部分中のボクセルの各々について決定される。
これは、たとえば、ステップS24からのシミュレーションした電極の位置を使用すること、現実的な身体の一部分モデル上に境界条件を設定すること、次いで、選択された位置および適用された境界条件で電極が現実的な身体の一部分モデル上に配置されるときに(たとえば、シミュレーションした電極にシミュレーションしたAC電圧を印加することによって)、現実的な身体の一部分モデル内に発現する電場を(たとえば、数値シミュレーションを使用して)計算することによって達成することができる。
たとえば、TT場を適用するために使用されることになる電極アレイのモデルが現実的な身体の一部分モデル(たとえば、頭部モデル)上に配置される。次いで、有限要素(FE, finite element)法分析に好適な体積メッシュを作成することができる。次に、境界条件をモデルに適用することができる。使用することができる境界条件の例としては、電極アレイ上のDirichlet境界(一定電圧)条件、電極アレイ上のNeumann境界条件(一定電流)、または、電流密度のノーマル成分の積分が指定された振幅に等しいように境界における電位を設定する浮遊電位境界条件が挙げられる。モデルは、次いで、好適な有限要素解法(たとえば、低周波準静的電磁解法)、または代わりに、有限差分(FD, finite difference)アルゴリズムで解くことができる。メッシュ化すること、境界条件を与えること、およびモデルを解くことは、Sim4Life、Comsol Multiphysics、Ansys、またはMatlabなどといった既存のソフトウェアパッケージで実施することができる。モデルの最終解は、所与の組の電極位置についての計算モデル内の電場分布または電位などといった関連する量を記述するデータセットとなる。
次いで、第2のステップ(S33)では、標的体積中の各ボクセルについての電力損失密度が、(a)ボクセルにおける3Dモデルの導電率、および(b)ボクセルにおける電場強度に基づいて計算される。この計算は、好ましくは、上で言及した式(1)を使用して実施する。いくつかの好ましい実施形態では、電場強度は、好ましくは、数値シミュレーションの実行を容易にするため身体の一部分のすべてのボクセルの各々について決定されることに留意されたい。しかし、より小さい標的体積内の電力損失密度を計算することが必要なだけである。もちろん、電力損失密度は、所望の場合には、任意選択で、身体の一部分のすべてで計算することができる。
図3に関連して上で記載した手法は、シミュレーションした電極に連続したAC電圧が印加されている状況での電力損失密度を提供する。しかし、多くのタイプの腫瘍では、TT場の向きが周期的に切り換えられる。たとえば、グリア芽腫は、典型的には、(a)1秒間、左右の電極間にAC電圧を印加するステップ、(b)1秒間、前後の電極間にAC電圧を印加するステップ、ならびに治療期間にステップ(a)および(b)を繰り返すステップによって、TT場を使用して治療される。これらの状況では、ステップ(a)の期間の電場分布は、ステップ(b)の期間の電場分布と異なることになる。また、電力損失密度が電場から導出されるために、このことは、ステップ(a)期間の電力損失密度もステップ(b)期間の電力損失密度と異なることを意味する。この状況では、(電極をどこに配置するかを決定するために最終的に使用されることになる)数値シミュレーションのために使用される電力損失密度は、適切なルールを使用して選択できる。
図4は、各ボクセルにおいて各場の方向について別個に電力損失密度を計算すること、および各ボクセルにおいて電力損失密度が最低であるものを使用することによって、各ボクセルにおける電力損失密度を決定する好適なルールの一例を描く。より詳細には、ステップS42において、左右の電極間にAC電圧が印加されるときに存在することになる電場強度が、身体の一部分の中の各ボクセルについて計算される。次いで、ステップS43で、たとえば式(1)を使用して、標的体積中の各ボクセルについて、対応する電力損失密度が計算される。同様に、ステップS45で、前後の電極間にAC電圧が印加されるときに存在することになる電場強度が、身体の一部分の中の各ボクセルについて計算される。次いで、ステップS46で、たとえば式(1)を使用して、標的体積中の各ボクセルについて、対応する電力損失密度が計算される。最後に、ステップS48で、各ボクセルについて(すなわち、ステップS43およびS46で)計算された2つの電力損失密度のうちの最も低いものが選択される。ステップS48で選択された電力損失密度の値は、次いで、プロセスの後続のステップで使用される。
各ボクセルで最低の電力損失密度を選択するこの手法は、時間的に異なる瞬間に3つ以上の異なる方向に電場が適用される実施形態に拡張することもできる。これらの実施形態では、電力損失密度の分布は、電場が3つ以上の方向の各々に適用されるとき別個に計算され、各ボクセルにおけるそれらの電力損失密度の値のうちの最低のものが、そのボクセルについての後続の計算での値として使用されることになる。代替実施形態では、異なる時間に任意の所与のボクセルに異なる電力損失密度が存在するとき、(たとえば、最小の代わりに平均を使用する)異なるルールを使用することができる。
図2に戻って、ステップS24~S26は、所与の組の電極位置についての標的体積中の各ボクセルに存在することになる電力損失密度(PLD, power loss density)を計算するための手法を提供する。また、ステップS28では、それらの2つのステップ(すなわち、ステップS24およびS26)が、1つまたは複数の他の組の電極位置について繰り返される。これらの2つのステップを繰り返すことによって、各組の電極位置について、別個のPLD分布が生成される。これらの別個のPLD分布のすべてが生成された後、処理はステップS29に進み、ステップS29では、電極のための組の場所が、すべての生成されたPLD分布に基づいて選択される。この選択は、たとえば、最良のPLDを(たとえば、下で説明するように)選択すること、その後、その特定のPLDをもたらした電極位置の記述を出力することによって達成することができる。
種々多様な手法を使用して、PLD分布のどれが特定の患者にとって最良かを決定することができる。一例では、(標的体積中のすべてのボクセルにわたって平均化された)平均PLDを最大化させるPLD分布を、最良であるとみなすことができる。あるいは、(標的体積中のすべてのボクセルにわたって測定された)最低PLDを最大化させるPLD分布を、最良であるとみなしてもよい。他の実施形態では、標的体積中のすべてのボクセルにわたって平均化されたPLDが所与の閾値(たとえば、2mW/cm3)より上である場合、PLD分布を好適であるとみなすことができる。
最良のPLDをもたらした電極位置の記述が出力された後、医療関係者がこの記述を使用して、患者の頭部(または、他の身体の一部分)に電極を配置することができる。TT場を使用する治療は、次いで、(たとえば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,565,205号に記載されるように)電極にAC電圧を印加することによって進めることができる。
任意選択で、ステップS24~S28は、標的体積内の最適なPLD分布をもたらすレイアウトを見いだすために最適化アルゴリズムを走らせることによって自動化することができる。この最適化は、(ステップS23に関連して上で記載したように)身体の一部分モデル内で治療のための標的となる体積を識別するステップと、(ステップS24に関連して上で記載したように)電極アレイを自動的に配置して、現実的な身体の一部分モデル上に境界条件を設定するステップと、一度電極が現実的な身体の一部分モデル上に配置され境界条件が適用された場合に、現実的な身体の一部分モデル内に発現するPLD分布を計算するステップと、標的体積内の望ましいPLD分布をもたらすレイアウトを見いだすために最適化アルゴリズムを走らせるステップとによって実施することができる。
最適化の意味合いで、ステップS24およびS26が繰り返して実施される。各繰り返しで、ステップS24は、現実的な身体の一部分モデル上に電極アレイを自動的に配置するステップを含むことになる。
任意の所与の患者のための最適なアレイレイアウトを見いだすために、様々な手法を使用することができる。最適化手法の一例は全数探索である。この手法では、最適化処理部は、試験されるべき有限数のアレイレイアウトを有するバンクを含むことになる。最適化処理部は、(たとえば、各レイアウトについてステップS24およびS26を繰り返すことによって)バンク中のすべてのアレイレイアウトのシミュレーションを実施し、標的体積中に最適なPLD分布をもたらすアレイレイアウトを取り上げる。
別の最適化手法は反復探索である。この手法は、最低降下最適化法およびシンプレックス探索最適化などといったアルゴリズムを使用する。この手法を使用して、アルゴリズムが身体の一部分(たとえば、頭部)上の異なるアレイレイアウトを反復して試験し、各レイアウトについて標的体積中のPLD分布を計算する。したがって、この手法は、各レイアウトについてステップS24およびS26を繰り返すことも含む。各反復において、アルゴリズムは、以前の反復の結果に基づいて試験する構成を自動的に取り上げる。アルゴリズムは、標的体積中のPLDについて規定された標的関数を最大化(または最小化)するように収束するように設計される。
TT場を使用して癌治療を計画するために電力損失密度を使用する利点は、臨床試験の結果の遡及的分析によって実証される。この遡及的分析によって、全生存率は、標的体積に送出されるTT場電力(mW/cm3)が増加すると増加することを示す。この分析は、腫瘍への電力送出を最大化するために、電力損失密度に着眼することによって、TT場治療のために患者の体上の電極アレイの位置を最適化する望ましさを確立する。
この研究で、経時的な累積線量の測定を可能にする線量測定法が規定された。これらの患者における、場のモデル化線量と、全生存率および無進行生存率との間の関係が調査された。患者のプールは466人の患者で始まる。2ヶ月の治療期間後に、379人の患者が残った。MRIの品質は、317人の患者だけにモデルを作成するのに十分であった。このことによって、研究では、317人の全患者が得られた。以下の患者データがモデル化のために使用された。(1)ベースラインにおける患者のMRI、(2)切除の範囲(腫瘍および切除空洞の輪郭を描くために使用される)、(3)患者の記録に記録されたような推奨されるトランスデューサアレイレイアウト、および(4)患者によって使用されたデバイスのログファイルから導出される平均的な服用遵守および電流。
TT場は、Novocure社製Optune(商標)システムを使用して、治療期間に2つの方向で送出される。そのため、完全な分析は、両方の方向における電場の効果を考慮する必要がある(すなわち、場を与えるために左右の電極が使用されるときと、場を与えるために前後の電極が使用されるときの両方)。各ボクセルにおける電力損失密度は、左右の場からもたらされる電力損失密度を決定すること、前後の場からもたらされる電力損失密度を決定すること、および各ボクセルにおけるそれら2つの電力損失密度のより低いものを選択することによって決定された。(この選択は、各点において、より低い線量を送出するチャンネル(すなわち、LRまたはAP)が有効性を決定するという仮定に基づいていた。)このパラメータは、本明細書では局所最小電力密度(LMiPD, local minimum power density)と呼ばれ、各点に送出される2つの電力損失密度の最も低いものを表す。
次いで、カプランマイヤー曲線が使用されて、それぞれ図5Aと図5Bに見られるように、全生存率および無進行生存率において、最も統計的に著しい違いを有する2つのグループに患者を分ける閾値のLMiPDを見いだした。これらの図の各々で、下側のトレースは、<2.4mW/cm3の標的体積中の平均LMiPDを表し、上側のトレースは、≧2.4mW/cm3の標的体積中の平均LMiPDを表す。このデータは、標的体積中の平均LMiPDが少なくとも2.4mW/cm3であるようにTT場を使用する治療を計画するのが有利な場合があることを示唆する。代替実施形態では、TT場を使用した治療は、標的体積中の平均LMiPDが少なくとも1.15mW/cm3であるように計画することができる。他の代替実施形態では、TT場を使用した治療は、標的体積中の平均LMiPDが少なくとも1.0mW/cm3であるように計画することができる。
特に、TT場は、研究中に100%の時間、患者に適用されたわけではない(たとえば、入浴または任意の他の理由でTT場がオフにされた場合)。この要因を考慮するため、別のパラメータが開発された。このパラメータは、本明細書では局所最小線量密度(LMiDD, local minimum dose density)と呼ばれ、LMiPDにTT場が適用される時間の百分率を乗じたものを表す。
もう一度カプランマイヤー曲線が使用されて、それぞれ図6Aと図6Bに見られるように、全生存率および無進行生存率において、最も統計的に著しい違いを有する2つのグループに患者を分ける閾値のLMiDDを見いだした。これらの図の各々で、下側のトレースは、<1.6mW/cm3の標的体積中の平均LMiDDを表し、上側のトレースは、≧1.6mW/cm3の標的体積中の平均LMiDDを表す。このデータは、標的体積中の平均LMiDDが少なくとも1.6mW/cm3であるようにTT場を使用する治療を計画するのが有利な場合があることを示唆する。代替実施形態では、TT場を使用した治療は、標的体積中の平均LMiDDが少なくとも0.77mW/cm3であるように計画することができる。他の代替実施形態では、TT場を使用した治療は、標的体積中の平均LMiDDが少なくとも0.7mW/cm3であるように計画することができる。
この分析は、電力損失密度が、治療計画においてTT場の線量を正確に定量化するために使用できる実用的な物理的測定値であることを示す。
さらなるパラメータも分析された。より詳細には、標的体積中の各点に送出される2つの場の強度のうちの低いほう(すなわち、LR場とAP場のうちの低いほう)である、局所最小場強度(LMiFI, local minimum field intensity)である。もう一度カプランマイヤー曲線が使用されて、それぞれ図7Aと図7Bに見られるように、全生存率および無進行生存率において、最も統計的に著しい違いを有する2つのグループに患者を分ける閾値のLMiFIを見いだした。これらの図の各々で、下側のトレースは、<1.05V/cmの標的体積中の平均LMiFIを表し、上側のトレースは、≧1.05V/cmの標的体積中の平均LMiFIを表す。このデータは、標的体積中の平均LMiFIが少なくとも1.05V/cmであるようにTT場を使用する治療を計画するのが有利な場合があることを示唆する。代替実施形態では、TT場を使用した治療は、標的体積中の平均LMiFIが少なくとも1.0V/cmであるように計画することができる。他の代替実施形態では、TT場を使用した治療は、標的体積中の平均LMiFIが少なくとも0.7V/cmであるように計画することができる。
加えて、全電力損失(TT場によってモデルに送出される電力)が計算される。シミュレーションで頭部にわたって電力損失密度を積分することによって、治療期間の頭部でのTT場の全電力損失が、20~40ワットの間であり、これは1日当たり412~825Kcalに等価であることが明らかとなった。したがって、TT場によって送出される電力は、安静脳代謝率(すなわち、典型的には、1,400と1,800Kcalの間である体の安静代謝率の約20%)と同等である、またはより大きい。
最後に、本出願は、頭部上のアレイレイアウトを最適化するための例に依拠するが、本明細書に記載される方法は、限定しないが、胸部および腹部を含む他の体の領域の治療のためのアレイレイアウトを最適化するために使用することもできる。
本発明は、一定の実施形態を参照して開示されてきたが、添付した特許請求の範囲において定義されるような、本発明の領域および範囲から逸脱することなく、記載された実施形態に対する多くの修正形態、代替形態、および変更形態が可能である。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されないが、以下の特許請求の範囲の文言によって適宜される完全な範囲およびその均等物を有することが意図されている。