以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。尚、異なる図面において同一の符号を付した要素は、同一又は相応する要素を示すものとする。図1は、本発明の実施の形態に係る診断装置1の構成を示すブロック図である。
蒸気配管系を備えたプラント等においては、配管系内に生じた復水(ドレン)を配管系の外部に排出するために、配管系の適所に複数の蒸気トラップが設置されている。蒸気トラップは、1年に1回等の定期診断によって、その性能が診断される。定期診断の作業者は、診断装置1を携帯してプラント内を移動することにより、診断装置1によって各蒸気トラップの性能を順に診断する。尚、蒸気トラップの性能の診断は、定期診断に限らず、不定期な診断であっても良い。以下では、定期診断において、蒸気トラップにおける蒸気の漏洩量を診断する場合を例に取り説明する。
プラント内へのノートパソコン等のデータ処理装置の持ち込みが許可されている場合には、作業者は、診断装置1とともに前記データ処理装置を携帯して、各蒸気トラップの蒸気の漏洩量を順に診断することもできる。この場合には、診断装置1は、前記データ処理装置及び公衆回線網等の任意の通信ネットワークを介して、クラウドサーバ等のサーバ装置に、各蒸気トラップの診断結果をリアルタイムで送信することができる。
一方、プラント内への前記データ処理装置の持ち込みが禁止されている場合には、作業者は、営業車又は現場事務所等の待機場所に前記データ処理装置を保管し、診断装置1のみを携帯して各蒸気トラップの蒸気の漏洩量を順に診断する。この場合、各蒸気トラップの診断結果は、診断装置1内に保存される。作業者が待機場所に戻った後、診断装置1は、前記データ処理装置及び通信ネットワークを介して前記サーバ装置に、診断装置1内に保存した複数の蒸気トラップの診断結果を送信する。
以下、診断装置1の構成について詳述する。図1に示すように、診断装置1は、探針19、振動センサ11(センサ)、増幅回路12、操作部13、表示部14(出力部)、記憶部15(出力部)、通信部16(出力部)、IF(インターフェイス)部17(出力部)及び制御部10を備えている。
探針19は、先端が蒸気トラップに押し当てられる棒状の部材であり、所定の共振周波数で振動する。振動センサ11は、探針19の先端が蒸気トラップに押し当てられた場合に、探針19に伝達された蒸気トラップの振動を示すアナログ信号を増幅回路12へ出力する。
増幅回路12は、後段のAD変換器20におけるアナログ信号からデジタル信号への変換精度を向上するために設けられている。増幅回路12は、振動センサ11の出力信号を一定のゲインで増幅する。当該ゲインは、増幅回路12を構成する抵抗素子の抵抗値によって定まる定数である。当該ゲインの詳細は後述する。
操作部13は、作業者が各種の情報を入力するための操作スイッチ等によって構成されている。表示部14は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイ等を用いて構成されている。但し、タッチパネル式ディスプレイを使用することにより、操作部13と表示部14とを一体として構成してもよい。表示部14は、制御部10による制御下で、種々の情報を表示する。例えば、表示部14は、変換部60によって変換された蒸気トラップの蒸気の漏洩量を表示(出力)する。
記憶部15は、フラッシュメモリ等の書き換え可能な半導体メモリ等を用いて構成されている。記憶部15には、制御部10によって種々の情報が記憶される。図2は、管理台帳91の一例を示す図である。例えば、図2に示すように、記憶部15には、診断対象の複数の蒸気トラップを管理するための管理台帳91が記憶される。
管理台帳91は、前記データ処理装置において作成される。具体的には、管理台帳91は、診断対象の複数の蒸気トラップの各々に関する、絶対位置情報I1、識別情報I2、属性情報I3及び特性情報I4を含む。
絶対位置情報I1は、各蒸気トラップの設置位置を示す情報である。図2の管理台帳91は、絶対位置情報I1として、プラントを複数のエリアに区画したときの各蒸気トラップが設置されたエリアを示す座標が記述された例を示している。
識別情報I2は、各蒸気トラップを識別するための情報である。図2は、識別情報I2として、各蒸気トラップを識別するためのトラップナンバーT1~T9が記述された例を示している。
属性情報I3は、各蒸気トラップの属性を示す情報である。図2は、属性情報I3として、各蒸気トラップの製造メーカ名、機種、型式及びモデルが記述された例を示している。機種には、蒸気トラップの機種を特定する情報(例えばAB111)が記述される。
プラント内に設置され得る複数の蒸気トラップは、弁の開閉方式によって複数の型式の蒸気トラップに分類される。型式には、蒸気トラップにおける弁の開閉方式を特定する情報(例えばI)が記述される。
また、各型式の蒸気トラップは、復水の最大排出量によって複数のモデルの蒸気トラップに分類される。モデルには、蒸気トラップにおける復水の最大排出量を特定する情報(例えばM11)が記述される。
尚、属性情報I3には、蒸気トラップのその他の属性を示す情報が含まれていてもよい。
特性情報I4は、各蒸気トラップの性能の診断に用いられる、各蒸気トラップの種々の特性に関する情報である。図2は、特性情報I4として、各蒸気トラップにおける蒸気の漏洩量の診断に用いられる振動特性情報、型式補正係数及びモデル補正係数が記述された例を示している。
振動特性情報は、各型式且つ基準モデルに分類される蒸気トラップの振動特性を示す情報である。基準モデルは、各型式の蒸気トラップに対して一つずつ定められている。以下の説明では、型式I、II、III、IV、V、VIの蒸気トラップの基準モデルとして、モデルM11、M21、M31、M41、M51、M61が定められているものとする。振動特性とは、蒸気トラップにおける蒸気の漏洩量と振動値との関係を示す。蒸気トラップの振動特性は、型式及びモデルに応じて異なる。
例えば、図2は、型式IVに分類される基準モデルM41の蒸気トラップに対応する振動特性情報として、当該蒸気トラップの振動特性G41を示す情報が記述された例を示している。また、図2は、型式Iに分類される基準モデルM11及びモデルM12の2個の蒸気トラップに対応する振動特性情報として、型式I且つ基準モデルM11の蒸気トラップの振動特性G11を示す情報が記述された例を示している。振動特性情報の詳細については後述する。
型式補正係数は、基準型式とは異なる型式の蒸気トラップの診断時に後述の増幅部40及び変換部60において用いられる設定値である。基準型式の蒸気トラップとは、複数の型式I~VIの蒸気トラップの中で、平均的な振動特性を示す型式の蒸気トラップを示す。本実施の形態では、基準型式は、型式IVであるものとする。
例えば、図2は、型式Iの蒸気トラップの診断時に用いる型式補正係数が「C1」に設定された例を示している。また、図2は、型式IV、V、VIの蒸気トラップの診断時に用いる型式補正係数が「1」に設定された例を示している。型式補正係数の詳細については後述する。
モデル補正係数は、基準型式IVとは異なる型式且つ基準モデルとは異なるモデルの蒸気トラップの診断時に後述の増幅部40及び変換部60において用いられる設定値である。
例えば、図2は、基準型式IVとは異なる型式I且つ基準モデルM11とは異なるモデルM12の蒸気トラップの診断時に用いるモデル補正係数が「C120」に設定された例を示している。また、図2は、基準型式IVとは異なる型式V且つ基準モデルM51とは異なるモデルM52の蒸気トラップの診断時に用いるモデル補正係数が「C520」に設定された例を示している。モデル補正係数の詳細については後述する。
以降、基準型式IV且つ基準モデルM41の蒸気トラップを第1蒸気トラップと記載する。基準型式IVとは異なる各型式且つ基準モデルの蒸気トラップを第2蒸気トラップと記載する。基準型式IVとは異なる各型式且つ基準モデルとは異なるモデルの蒸気トラップを第3蒸気トラップと記載する。
図2の例では、トラップナンバーT6の蒸気トラップが第1蒸気トラップである。トラップナンバーT1、T5、T3、T2の蒸気トラップが第2蒸気トラップである。トラップナンバーT4、T7、T9、T8の蒸気トラップが第3蒸気トラップである。
尚、図2の管理台帳91では、複数の蒸気トラップの並び順は、診断順序となっている。しかし、管理台帳91における複数の蒸気トラップの並び順は、これに限らず、トラップナンバーの降順又は昇順等であっても良い。
通信部16は、Bluetooth(登録商標)等の任意の通信方式に対応した通信回路を用いて構成されている。通信部16は、前記データ処理装置等の外部装置との間で通信を行うことにより、種々の情報を外部装置から受信する。通信部16は、受信した情報を制御部10に出力する。また、通信部16は、制御部10による制御の下、前記データ処理装置等の外部装置との間で通信を行うことにより、種々の情報を外部装置へ送信(出力)する。
例えば、プラント内への前記データ処理装置の持ち込みが許可されている場合、通信部16は、前記データ処理装置から管理台帳91を受信し、当該管理台帳91を制御部10に出力する。この場合、制御部10は、通信部16から入力された管理台帳91を記憶部15に記憶する。また、制御部10は、通信部16を制御して、各蒸気トラップの診断結果を追記した管理台帳91を前記サーバ装置に送信することを要求する指示を、前記データ処理装置に送信する。
IF部17は、SDカード又はUSBメモリ等のフラッシュメモリ7が着脱自在に接続される入出力端子等によって構成されている。IF部17は、自身にフラッシュメモリ7が接続された状態で、当該フラッシュメモリ7と制御部10との間で情報を入出力する。
例えば、プラント内への前記データ処理装置の持ち込みが禁止されている場合、IF部17は、フラッシュメモリ7に記憶されている管理台帳91を読み出し、当該読み出した管理台帳91を制御部10に出力する。この場合、制御部10は、IF部17から入力された管理台帳91を記憶部15に記憶する。また、制御部10は、IF部17を制御して、各蒸気トラップの診断結果を追記した管理台帳91を、フラッシュメモリ7に出力する(書き込む)。この場合、定期診断の作業者は、待機場所に戻った後、前記データ処理装置にフラッシュメモリ7を接続する。そして、作業者は、前記データ処理装置において、当該フラッシュメモリ7から更新後の管理台帳91を取得し、取得した更新後の管理台帳91を前記サーバ装置に送信する操作を行う。
制御部10は、所定の演算処理を実行する不図示のCPU(Central Processing Unit)と、所定の制御プログラムが記憶されたEEPROM等の不図示の不揮発性メモリと、データを一時的に記憶するための不図示のRAM(Random Access Memory)と、こららの周辺回路と、を備えたマイクロコンピュータによって構成されている。
制御部10は、前記周辺回路として、AD変換器20を備えている。AD変換器20は、増幅回路12の出力信号をデジタル信号に変換する。
また、制御部10は、前記不揮発性メモリに記憶されている制御プログラムを実行することで、増幅部40及び変換部60として機能する。
増幅部40は、記憶部15に記憶されている管理台帳91を参照し、診断対象が第1蒸気トラップ及び第2蒸気トラップである場合、管理台帳91から、診断対象の蒸気トラップに対応する型式補正係数を取得する。増幅部40は、当該型式補正係数を増幅率として設定し、AD変換器20の出力信号を当該増幅率で増幅する。
例えば、図2の管理台帳91におけるトラップナンバーT6の第1蒸気トラップを診断する場合、増幅部40は、管理台帳91から当該第1蒸気トラップに対応する型式補正係数「1」を取得する。この場合、増幅部40は、当該型式補正係数「1」を増幅率として設定する。増幅部40は、増幅率が「1」の場合、AD変換器20の出力信号を増幅せずに変換部60に出力する。
一方、図2の管理台帳91におけるトラップナンバーT1の第2蒸気トラップを診断する場合、増幅部40は、管理台帳91から当該第2蒸気トラップに対応する型式補正係数「C1」を取得する。この場合、増幅部40は、当該型式補正係数「C1」を増幅率として設定し、AD変換器20の出力信号を当該増幅率「C1」で増幅する。
増幅部40は、診断対象が第3蒸気トラップである場合、管理台帳91から、当該第3蒸気トラップに対応する型式補正係数及びモデル補正係数を取得する。増幅部40は、当該型式補正係数と当該モデル補正係数との積を増幅率として設定し、AD変換器20の出力信号を当該増幅率で増幅する。
例えば、図2の管理台帳91におけるトラップナンバーT4の第3蒸気トラップを診断する場合、増幅部40は、管理台帳91から当該第3蒸気トラップに対応する型式補正係数「C1」及びモデル補正係数「C120」を取得する。この場合、増幅部40は、当該型式補正係数「C1」と当該モデル補正係数「C120」との積「C1×C120」を増幅率として設定し、AD変換器20の出力信号を当該増幅率「C1×C120」で増幅する。
変換部60は、記憶部15に記憶されている管理台帳91を参照し、診断対象の蒸気トラップが第1蒸気トラップである場合、管理台帳91から、当該第1蒸気トラップに対応する振動特性情報を取得する。この場合、変換部60は、増幅部40が増幅せずに出力したAD変換器20の出力信号が示す当該第1蒸気トラップの振動値を、当該振動特性情報が示す振動特性(第1振動特性)に基づいて、当該第1蒸気トラップの蒸気の漏洩量に変換する。
変換部60は、診断対象の蒸気トラップが第2蒸気トラップである場合、管理台帳91から、当該第2蒸気トラップに対応する振動特性情報を取得する。変換部60は、当該振動特性情報が示す振動特性(第2振動特性)に基づいて、増幅部40の出力信号が示す当該第2蒸気トラップの振動値を、当該第2蒸気トラップの蒸気の漏洩量に変換する。
変換部60は、診断対象の蒸気トラップが第3蒸気トラップである場合、管理台帳91から、当該第3蒸気トラップに対応する振動特性情報及びモデル補正係数を取得する。変換部60は、当該振動特性情報が示す振動特性(第2振動特性)と当該モデル補正係数とに基づいて、増幅部40の出力信号が示す当該第3蒸気トラップの振動値を、当該第3蒸気トラップの蒸気の漏洩量に変換する。変換部60の詳細は後述する。
以下、管理台帳91(図2)に設定される振動特性情報、増幅回路12が用いるゲイン、管理台帳91(図2)に設定される型式補正係数及びモデル補正係数、並びに変換部60の詳細について説明する。
図3は、複数の型式且つ基準モデルの蒸気トラップの振動特性の一例を示す図である。図3において、横軸は、蒸気トラップにおける蒸気の漏洩量を示し、縦軸は、蒸気トラップの振動値(振動レベル)を示している。
振動特性G41は、基準型式IV且つ基準モデルM41(図2)に分類される第1蒸気トラップの振動特性である。振動特性G11は、型式I且つ基準モデルM11(図2)に分類される第2蒸気トラップの振動特性である。以降、型式I且つ基準モデルM11(図2)に分類される第2蒸気トラップを、型式Iの第2蒸気トラップと略記する。他の第2蒸気トラップについても同様に略記する。振動特性G21、G31、G51、G61は、型式II、III、V、VIの第2蒸気トラップの振動特性である。
また、以降、6つの振動特性G11、G21、G31、G41、G51、G61を振動特性G11~G61と略記する。振動特性G11~G61は、各型式且つ基準モデルの蒸気トラップを用いた実験値等に基づき導出される。
振動値「L40」は、第1蒸気トラップ及び型式V、VIの第2蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値である。蒸気トラップの振動が飽和するとは、蒸気トラップの構造上、蒸気トラップの振動の振幅が最大になり、これ以上大きい振幅で振動できない状態になることを示す。振動値「L10」、「L20」、「L30」は、型式I、II、IIIの蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値である。
振動特性G11~G61が示すように、第1蒸気トラップ及び第2蒸気トラップの振動特性は、蒸気の漏洩量が多い程、振動値が二次関数的に又は指数関数的に大きくなる特性を有する。
管理台帳91(図2)において、型式IVの各蒸気トラップに対応する振動特性情報には、振動特性G41を示す二次関数又は指数関数が記述される。管理台帳91(図2)において、型式II、III、V、VIの各蒸気トラップに対応する振動特性情報には、各蒸気トラップと同じ型式の第2蒸気トラップの振動特性G21、G31、G51、G61を示す二次関数又は指数関数が記述される。
増幅回路12が用いるゲインは、第1蒸気トラップの振動特性G41に基づいて設定されている。具体的には、増幅回路12が用いるゲインは、第1蒸気トラップを診断する場合に、AD変換器20(図1)の出力信号が示す第1蒸気トラップの振動値の範囲が、振動特性G41が示す振動値の範囲(「0」~「L40」)と一致するように設定されている。つまり、増幅回路12が用いるゲインは、第1蒸気トラップを診断する場合に、増幅部40においてAD変換器20(図1)の出力信号を増幅しないように設定されている。
このため、第1蒸気トラップを診断する場合に増幅部40が用いる増幅率は、AD変換器20(図1)の出力信号を増幅しないことを示す「1」に設定される。したがって、管理台帳91(図2)において、第1蒸気トラップに対応する型式補正係数には「1」が記述される。
変換部60は、第1蒸気トラップを診断する場合、記憶部15に記憶されている管理台帳91(図2)から、当該第1蒸気トラップに対応する振動特性情報を取得する。第1蒸気トラップを診断する場合、増幅部40は、AD変換器20の出力信号を、増幅せずに変換部60に出力する。このため、変換部60は、AD変換器20の出力信号が示す当該第1蒸気トラップの振動値(例えば、L1)を、当該振動特性情報が示す振動特性G41を示す二次関数又は指数関数に代入して、当該振動値に対応する蒸気の漏洩量(例えば、B1)に変換する。
一方、型式Iの第2蒸気トラップを診断する場合に、第1蒸気トラップを診断する場合と同様、増幅部40が用いる増幅率を「1」に設定するとする。この場合、増幅部40は、AD変換器20の出力信号を増幅せずに変換部60に出力する。このため、変換部60には、「0」から「L40」までの範囲の振動値を示す信号が入力可能であるにも関わらず、型式Iの第2蒸気トラップの振動特性G11が示す「0」から「L10」までの範囲の振動値を示す信号しか入力されない。
ここで、例えば、振動値「L40」が400dBであり、振動値「L10」が40dBであるとする。また、変換部60が、前記CPUの性能上、400通りの振動値を400通りの蒸気の漏洩量に変換可能であるとする。
この場合、第1蒸気トラップを診断するときは、変換部60に入力される信号が示す振動値の範囲が0dBから400dBまでの範囲であるので、変換部60は、1dB単位で、400通りの振動値を400通りの蒸気の漏洩量に変換可能である。これに対し、型式Iの第2蒸気トラップを診断するときは、変換部60に入力される信号が示す振動値の範囲が0dBから40dBまでの範囲に縮小する。このため、変換部60は、1dB単位で、40通りの振動値を40通りの蒸気の漏洩量にしか変換できないことになる。
このように、AD変換器20の出力信号を増幅せずに、変換部60において、AD変換器20の出力信号が示す型式Iの第2蒸気トラップの振動値を蒸気の漏洩量に変換すると、変換部60における変換の精度が、第1蒸気トラップを診断する場合よりも悪くなる。このため、当該第2蒸気トラップを診断する場合に増幅部40が用いる増幅率は、変換部60における変換の精度が、第1蒸気トラップを診断する場合と同じになるように設定される。
具体的には、型式Iの第2蒸気トラップを診断する場合、増幅部40が用いる増幅率は、当該第2蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L10」に対する、第1蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L40」の比率「C1(=L40/L10)」に設定される。したがって、管理台帳91(図2)において、型式Iの第2蒸気トラップに対応する型式補正係数には、当該比率「C1」が記述される。
図4は、第2蒸気トラップの振動特性の一例を示す図である。型式Iの第2蒸気トラップを診断するため、増幅部40が、管理台帳91(図2)から取得した型式補正係数「C1」を増幅率として設定したとする。この場合、図4に示すように、変換部60に入力される、増幅部40の出力信号が示す振動値の最大値は、型式Iの第2蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L10」となる。つまり、変換部60は、当該第2蒸気トラップを診断する場合に、第1蒸気トラップを診断するときの1/C1の単位で、増幅部40の出力信号が示す振動値を蒸気の漏洩量に変換可能となる。
上記の例では、変換部60は、0.1(=1/C1=L10/L40=40/400)dBの単位で、増幅部40の出力信号が示す400通りの振動値を400通りの蒸気の漏洩量に変換可能となる。これにより、型式Iの第2蒸気トラップを診断する場合の変換部60における変換の精度が、第1蒸気トラップを診断する場合と同じ精度となる。
型式Iの第2蒸気トラップを診断する場合、変換部60は、記憶部15に記憶されている管理台帳91(図2)から、当該第2蒸気トラップに対応する振動特性情報を取得する。変換部60は、増幅部40の出力信号が示す当該第2蒸気トラップの振動値(例えば、L2)を、当該振動特性情報が示す振動特性G11を示す二次関数又は指数関数に代入して、当該振動値に対応する蒸気の漏洩量(例えば、B2)に変換する。
上記と同様に、型式IIの第2蒸気トラップを診断する場合、増幅部40が用いる増幅率は、当該第2蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L20」(図3)に対する第1蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L40」(図3)の比率「C2(=L40/L20)」に設定される。したがって、管理台帳91(図2)において、型式IIの第2蒸気トラップに対応する型式補正係数には「C2」が記述される。
型式IIIの第2蒸気トラップを診断する場合、増幅部40が用いる増幅率は、当該第2蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L30」(図3)に対する第1蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L40」(図3)の比率「C3(=L40/L30)」に設定される。したがって、管理台帳91(図2)において、型式IIIの第2蒸気トラップに対応する型式補正係数には「C3」が記述される。
型式V、VIの第2蒸気トラップを診断する場合、増幅部40が用いる増幅率は、これらの第2蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L40」(図3)に対する第1蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L40」(図3)の比率「1(=L40/L40)」に設定される。したがって、管理台帳91(図2)において、型式V、VIの第2蒸気トラップに対応する型式補正係数には「1」が記述される。
型式II、III、V、VIの第2蒸気トラップを診断する場合、変換部60は、記憶部15に記憶されている管理台帳91(図2)から、診断対象の第2蒸気トラップに対応付けられている振動特性情報を取得する。そして、変換部60は、増幅部40の出力信号が示す診断対象の第2蒸気トラップの振動値を、当該振動特性情報が示す振動特性を示す二次関数又は指数関数に代入して、当該振動値に対応する蒸気の漏洩量に変換する。
第3蒸気トラップの診断を行う場合、増幅部40が用いる増幅率は、第2蒸気トラップの診断を行う場合と同様、増幅部40の出力信号が示す当該第3蒸気トラップの振動値の最大値が、当該第3蒸気トラップにおいて振動が飽和するときの振動値となるように設定される。これにより、第3蒸気トラップを診断する場合の変換部60における変換の精度が、第1蒸気トラップを診断する場合と同じ精度となる。以下、第3蒸気トラップの診断を行う場合の増幅率について具体的に説明する。
図5は、複数のモデルの蒸気トラップの振動特性の一例を示す図である。図5において、振動特性G51は、型式V且つ基準モデルM51の第2蒸気トラップの振動特性である。振動特性G52は、型式V且つモデルM52の第3蒸気トラップの振動特性である。振動特性G53は、型式V且つモデルM53の第3蒸気トラップの振動特性である。モデルM52は、復水の最大排出量が、基準モデルM51よりも多く、モデルM53よりも少ない。
図5に示すように、蒸気の漏洩量が同一の場合、振動特性G52の振動値は、振動特性G51の振動値よりも小さく、振動特性G53の振動値よりも大きい。つまり、蒸気の漏洩量が同一の場合、復水の最大排出量が多いモデル程、振動値が小さくなるという特性がある。
図5において、比率C520は、蒸気の漏洩量が「B50」であるときの、振動特性G52の振動値「L520」に対する振動特性G51の振動値「L510」の比率(=L510/L520)である。尚、蒸気の漏洩量「B50」は、型式Vの第2蒸気トラップにおいて振動が飽和するときの蒸気の漏洩量である。比率C522は、蒸気の漏洩量が「B52」であるときの、振動特性G52の振動値「L522」に対する振動特性G51の振動値「L512」の比率(=L512/L522)である。
比率C520及び比率C522は、共に値がXであり、一致した。尚、一致するとは、所定の誤差範囲内で一致することを示し、以降の説明においても同様である。このように、振動特性G52の振動値に対する振動特性G51の振動値の比率は、蒸気の漏洩量によらずに一定であった。
また、図5において、比率C530は、蒸気の漏洩量が「B50」であるときの、振動特性G53の振動値「L530」に対する振動特性G51の振動値「L510」の比率(=L510/L530)である。比率C532は、蒸気の漏洩量が「B52」であるときの、振動特性G53の振動値「L532」に対する振動特性G51の振動値「L512」の比率(=L512/L532)である。
比率C530及び比率C532は、共に値がYであり、一致した。このように、振動特性G53の振動値に対する振動特性G51の振動値の比率も、蒸気の漏洩量によらずに一定であった。
同様に、型式I~IV、VIの第2蒸気トラップ及び型式I~IV、VIの基準モデルとは異なる各モデルの第3蒸気トラップの振動特性からも、上記と同様の結果が得られた。つまり、第3蒸気トラップの振動特性の振動値に対する、当該第3蒸気トラップと同じ型式の第2蒸気トラップの振動特性の振動値の比率は、蒸気の漏洩量によらずに一定であった。
ここで、例えば、型式V且つモデルM52(図2)の第3蒸気トラップの診断を行う場合に、型式Vの第2蒸気トラップの診断を行う場合と同様、増幅部40が用いる増幅率を、管理台帳91(図2)における当該第3蒸気トラップに対応する型式補正係数に設定したとする。この場合、増幅部40の出力信号が示す蒸気トラップの振動値の最大値は、当該第2蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L510」となり、当該第3蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L520」よりも大きい振動値となる。したがって、当該第3蒸気トラップを診断する場合の変換部60における変換の精度が、当該第2蒸気トラップを診断する場合よりも悪くなる。
そこで、当該第3蒸気トラップの診断を行う場合の増幅率は、増幅部40の出力信号が示す蒸気トラップの振動の最大値が、前記振動値「L510」よりも小さい前記振動値「L520」となるように設定される。具体的には、当該増幅率は、当該第3蒸気トラップに対応する型式補正係数「1」と、当該第3蒸気トラップの振動特性の振動値に対する当該第3蒸気トラップと同じ型式の第2蒸気トラップの振動特性の振動値の比率(例えば、C520(=L510/L520))と、の積に設定される。
したがって、管理台帳91(図2)において、当該第3蒸気トラップに対応するモデル補正係数には、当該第3蒸気トラップの振動特性の振動値に対する当該第3蒸気トラップと同じ型式の第2蒸気トラップの振動特性の振動値の比率(例えば、C520(=L510/L520))が記述される。
図6は、第3蒸気トラップの振動特性の一例を示す図である。例えば、図2に示す管理台帳91に記述されている型式I且つモデルM12に分類される第3蒸気トラップを診断するとする。この場合、増幅部40は、管理台帳91(図2)から、当該第3蒸気トラップに対応する型式補正係数「C1」及びモデル補正係数「C120」を取得し、これらの積「C1×C120」を増幅率として設定する。この場合、変換部60に入力される、増幅部40の出力信号が示す振動値の最大値は、図6に示すように、当該第3蒸気トラップの振動が飽和するときの振動値「L12」となる。
この場合、変換部60は、管理台帳91(図2)から、当該第3蒸気トラップに対応する振動特性情報及びモデル補正係数を取得する。当該振動特性情報は、当該第3蒸気トラップと同じ型式Iの第2蒸気トラップの振動特性G11(図5)を示す。当該モデル補正係数は、当該第3蒸気トラップの振動特性の振動値に対する当該第2蒸気トラップの振動特性の振動値の比率(例えば、C520(=L510/L520))に設定されている。
このため、変換部60は、当該振動特性情報が示す、当該第2蒸気トラップの振動特性G11(図5)を示す二次関数又は指数関数と、当該モデル補正係数の逆数である、当該第2蒸気トラップの振動特性G11(図5)の振動値に対する当該第3蒸気トラップの振動特性の振動値の比率と、の積を、第3蒸気トラップの振動特性G12(第3振動特性)を示す関数として算出する。
そして、変換部60は、増幅部40の出力信号が示す当該第3蒸気トラップの振動値(例えば、L3)を、当該振動特性G12を示す関数に代入して、当該振動値に対応する蒸気の漏洩量(例えば、B3)に変換する。
本実施の形態の構成によれば、増幅部40によって、第2蒸気トラップにおいて振動が飽和するときの振動値に対する第1蒸気トラップにおいて振動が飽和するときの振動値の比率である型式補正係数と、第3蒸気トラップの振動特性の振動値に対する第2蒸気トラップの振動特性の振動値の比率であるモデル補正係数と、の積を増幅率として、AD変換器20の出力信号が増幅される。そして、増幅部40の出力信号が示す第3蒸気トラップの振動値が、第3蒸気トラップの蒸気の漏洩量に変換される。
このため、本構成は、振動センサ11に第1蒸気トラップの振動を示すアナログ信号を出力させて、AD変換器20の出力信号が示す第1蒸気トラップの振動値を蒸気の漏洩量に変換する場合と同じ精度で、第3蒸気トラップの振動値を蒸気の漏洩量に変換することができる。これにより、本構成は、AD変換器20の出力信号を増幅せずに、AD変換器20の出力信号が示す第3蒸気トラップの振動値を蒸気の漏洩量に変換する場合よりも、第3蒸気トラップの蒸気の漏洩量を精度良く出力することができる。
以下、診断装置1を用いた定期診断の作業手順について説明する。定期診断の作業者は、診断装置1(及び許可されている場合には前記データ処理装置)を携帯してプラント内を移動することにより、診断装置1によって各蒸気トラップの蒸気の漏洩量を順に診断する。
その際、作業者による操作部13の操作により、制御部10は、記憶部15に記憶した管理台帳91を表示部14に表示する。これにより、作業者は、プラント内に設置された複数の蒸気トラップの診断順序と、各蒸気トラップの絶対位置情報I1、識別情報I2、及び属性情報I3を認識することができる。
作業者は、表示された管理台帳91から認識できる診断順序及び絶対位置に従って、今回の診断対象である対象蒸気トラップの設置箇所に移動する。作業者は、操作部13の操作によって、管理台帳91に含まれている複数の対象蒸気トラップの中から、今回の診断対象である一の対象蒸気トラップを選択する。これにより、今回の診断対象として、当該一の対象蒸気トラップを選択したことを示す情報(以降、選択情報)が、操作部13から制御部10に入力される。
次に、作業者は、診断装置1の探針19(図1)を今回の診断対象である対象蒸気トラップに押し当てる。これにより、対象蒸気トラップの振動値が対象蒸気トラップの蒸気の漏洩量に変換される。このとき、制御部10は、対象蒸気トラップの蒸気の漏洩量の表示指示を表示部14に出力する。表示部14は、当該表示指示に従って、対象蒸気トラップの蒸気の漏洩量を示す情報を表示(出力)する。
また、制御部10は、対象蒸気トラップの蒸気の漏洩量を示す情報を、管理台帳91における、前記選択情報が示す対象蒸気トラップに対応する箇所に追記する。制御部10は、当該追記後の管理台帳91の記憶指示を記憶部15に出力する。記憶部15は、当該記憶指示に従って、対象蒸気トラップの蒸気の漏洩量を示す情報が追記された管理台帳91を記憶(出力)する。これにより、制御部10は、記憶部15に記憶されている管理台帳91を更新する。
尚、作業者は、前記データ処理装置を携帯していない場合に、対象とする全ての蒸気トラップの診断を終了すると、IF部17にフラッシュメモリ7を接続する。制御部10は、記憶部15に記憶されている管理台帳91を取得し、当該管理台帳91の記憶指示をIF部17に出力する。IF部17は、当該記憶指示に従って、当該管理台帳91をフラッシュメモリ7に記憶(出力)する。
一方、作業者が前記データ処理装置を携帯している場合に、対象とする全ての蒸気トラップの診断が終了したとする。この場合、制御部10は、記憶部15に記憶されている更新後の管理台帳91を取得し、当該管理台帳91を前記サーバ装置に送信する指示を、通信部16を介して前記データ処理装置に送信する。前記データ処理装置は、当該指示に従って、更新後の管理台帳91を前記サーバ装置に送信する。
尚、管理台帳91に記憶する振動特性情報は、各蒸気トラップの振動特性を示す二次関数又は指数関数を示す情報に限らず、各蒸気トラップの振動特性を線形近似した関数を示す情報であってもよい。
図7は、第1蒸気トラップの振動特性を線形近似した関数の一例を示す図である。上記に合わせて、第1蒸気トラップを診断するときに、変換部60が、図7に示すように、増幅部40の出力信号が示す第1蒸気トラップの振動値(例えば、L1)を、振動特性情報が示す振動特性G41を線形近似した関数G411に代入して、当該振動値に対応する蒸気の漏洩量(例えば、B411)に変換するようにしてもよい。
図8は、第2蒸気トラップの振動特性を線形近似した関数の一例を示す図である。同様に、型式Iの第2蒸気トラップを診断するときに、変換部60が、図8に示すように、増幅部40の出力信号が示す型式Iの第2蒸気トラップの振動値(例えば、L2)を、振動特性情報が示す振動特性G11を線形近似した関数G111に代入して、当該振動値に対応する蒸気の漏洩量(例えば、B111)に変換するようにしてもよい。
同様に、型式II、III、V、VIの第2蒸気トラップを診断するときに、変換部60が、増幅部40の出力信号が示す型式II、III、V、VIの第2蒸気トラップの振動値を、振動特性情報が示す振動特性G21、G31、G51、G61を線形近似した関数に代入して、当該振動値に対応する蒸気の漏洩量に変換するようにしてもよい。
図9は、第3蒸気トラップの振動特性を線形近似した関数の一例を示す図である。同様に、型式I且つモデルM12(図2)の第3蒸気トラップを診断するときに、変換部60が、図9に示すように、増幅部40の出力信号が示す当該第3蒸気トラップの振動値(例えば、L3)を、振動特性情報が示す振動特性G11とモデル補正係数の逆数との積から得た振動特性G12(図6)を線形近似した関数G121に代入して、当該振動値に対応する蒸気の漏洩量(例えば、B121)に変換するようにしてもよい。尚、変換部60は、関数G121に替えて、振動特性情報が示す振動特性G11を線形近似した関数G111(図8)とモデル補正係数の逆数との積から得られる関数を用いるようにしてもよい。
同様に、他の型式且つモデルの第3蒸気トラップを診断するときに、変換部60が、増幅部40の出力信号が示す当該第3蒸気トラップの振動値を、振動特性情報が示す振動特性とモデル補正係数の逆数との積から得られる振動特性を線形近似した関数又は振動特性情報が示す振動特性を線形近似した関数とモデル補正係数の逆数との積から得られる関数に代入して、当該振動値に対応する蒸気の漏洩量に変換するようにしてもよい。