以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一の構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
<実施形態の用語の説明>
(中赤外領域)
中赤外領域とは、2~14μmの波長領域をいい、特定波長領域の一例である。
(プローブ光)
プローブ光とは、吸光度測定及び生体情報測定のために用いられる光をいう。実施形態では、全反射部材で全反射され、生体により減衰された後、光強度検出部で検出される光に該当する。
(ATR法)
ATR(Attenuated Total Reflection;減衰全反射又は全反射吸収)法とは、被測定物に接触して配置されたATRプリズム等の全反射部材で全反射が起きる際に、全反射面からしみ出した界(エバネッセント波)を利用して被測定物の吸収スペクトルを取得する手法をいう。
(吸光度)
吸光度とは、物体を光が通過した際に光強度がどの程度低下するかを示す無次元量をいう。実施形態では、ATR(Attenuated Total Reflection;減衰全反射又は全反射吸収)法により、全反射面からしみ出した界の生体による減衰が吸光度として測定される。
(血糖値)
血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度をいう。
(検出値)
実施形態では、光強度検出部による検出値を指すものとする。
以下、ATRプリズム(全反射部材の一例)を用いて測定した吸光度に基づき、血糖値(生体情報の一例)を測定する血糖値測定装置(生体情報測定装置の一例)を例に、実施形態を説明する。
(波数)
波長λ(μm)と波数k(cm-1)の関係は、k=10000/λである。
[第1実施形態]
まず、第1実施形態に係る血糖値測定装置100について説明する。
本実施形態では、生体に接触して設けられた全反射部材に、中赤外領域で波長の異なる複数のプローブ光を入射させ、ATR法に基づいて、複数のプローブ光のそれぞれの吸光度を測定する。
また、全反射部材から出射されるプローブ光の光強度を検出可能に設けられた光強度検出部を備え、複数のプローブ光の全部が全反射部材に入射しない非入射期間が少なくとも設けられるように、プローブ光の全反射部材への入射を制御する。そして、プローブ光が全反射部材に入射する状態での光強度検出部による検出値と、複数のプローブ光の全部が全反射部材に入射しない状態での上記検出値とに基づいて中赤外領域の光の吸光度データを取得する。これにより、装置周囲環境や生体の温度変化等の測定への影響を低減し、吸光度を正確に測定する。
<血糖値測定装置100の全体構成例>
図1は、血糖値測定装置100の全体構成の一例を示す図である。図1に示すように、血糖値測定装置100は、測定部1と、処理部2とを備える。
測定部1は、ATR法を行うための光学ヘッドであり、生体で減衰されたプローブ光の検出信号を処理部2に出力する。処理部2はこの検出信号に基づいて、吸光度データを演算で取得し、また吸光度データに基づいて血糖値を演算で取得して出力する処理装置である。
測定部1は、第1光源111と、第2光源112と、第3光源113と、第1シャッタ121と、第2シャッタ122と、第3シャッタ123とを備える。また、第1ハーフミラー131と、第2ハーフミラー132と、カップリングレンズ14と、第1中空光ファイバ151と、ATRプリズム16と、第2中空光ファイバ152と光検出器17とを備える。
処理部2は、吸光度取得部21と、血糖値取得部22とを備える。吸光度測定装置101は、破線で囲って示したように、測定部1と、吸光度取得部21とを含んで構成される。
測定部1における第1光源111、第2光源112及び第3光源113は、それぞれ処理部2に電気的に接続され、処理部2からの制御信号に応じて中赤外領域のレーザ光を射出する量子カスケードレーザである。
実施形態では、第1光源111は波数1050cm-1のレーザ光を第1プローブ光として射出し、第2光源112は波数1070cm-1のレーザ光を第2プローブ光として射出し、第3光源113は、波数1100cm-1のレーザ光を第3プローブ光として射出する。
波数1050cm-1、1070cm-1及び1100cm-1のレーザ光は、それぞれグルコースの吸光ピークの波数に対応し、これらの波数を利用して吸光度を測定することで、吸光度に基づくグルコース濃度の測定を精度よく行うことができる。
また、第1シャッタ121、第2シャッタ122及び第3シャッタ123は、それぞれ処理部2に電気的に接続され、処理部2からの制御信号に応じて開閉制御される電磁シャッタである。
第1シャッタ121が開放されると、第1光源111からの第1プローブ光は第1シャッタ121を通過して第1ハーフミラー131に到達する。一方、第1シャッタ121が閉鎖されると、第1プローブ光は第1シャッタ121に遮光されて、第1ハーフミラー131に到達しなくなる。
また、第2シャッタ122が開放されると、第2光源112からの第2プローブ光は第2シャッタ122を通過して第1ハーフミラー131に到達する。一方、第2シャッタ122が閉鎖されると、第2プローブ光は第2シャッタ122に遮光されて、第1ハーフミラー131に到達しなくなる。
同様に、第3シャッタ123が開放されると、第3光源113からの第3プローブ光は第3シャッタ123を通過して第2ハーフミラー132に到達する。一方、第3シャッタ123が閉鎖されると、第3プローブ光は第3シャッタ123に遮光されて、第2ハーフミラー132に到達しなくなる。
第1ハーフミラー131及び第2ハーフミラー132は、入射する光の一部を透過し、残りを反射させるための光学素子である。このような光学素子は入射光に対して透過性を有する基板に、入射光の一部を透過し、残りを反射させる光学薄膜を設けて構成できる。
但し、光学薄膜に限定されるものではなく、入射光に対して透過性を有する基板に、入射光の一部を透過し、残りを反射(回折)させる回折構造を形成して構成してもよい。回折構造を利用すると、光吸収を抑制できる点で好適である。
第1ハーフミラー131は、第1シャッタ121を通過した第1プローブ光を透過させ、第2シャッタ122を通過した第2プローブ光を反射させる。また、第2ハーフミラー132は、第1プローブ光と第2プローブ光のそれぞれを透過させ、第3シャッタ123を通過した第3プローブ光を反射させる。
第1ハーフミラー131及び第2ハーフミラー132のそれぞれにおける透過光と反射光の光強度比は略1対1になるように構成することが好ましいが、各光源の射出するプローブ光強度等に応じて、上記の光強度比を調整することもできる。
第1ハーフミラー131又は第2ハーフミラー132を経由した第1~第3プローブ光は、カップリングレンズ14を介して第1中空光ファイバ151内に導かれ、第1中空光ファイバ151内を伝搬してATRプリズム16の入射面161を介してATRプリズム16内に導光される。
ATRプリズム16は、入射面161から入射される第1~第3プローブ光を全反射させながら出射面164に向けて伝搬させ、出射面164から出射する光学プリズムである。図1に示すように、ATRプリズム16は、第1全反射面162を生体S(被測定物の一例)に接触させて配置される。
ATRプリズム16内に導光された第1~第3プローブ光は、第1全反射面162と、第1全反射面162に対向する第2全反射面163のそれぞれで全反射を繰り返し、出射面164を介して第2中空光ファイバ152内に導かれる。
光検出器17は第2中空光ファイバ152により導光された第1~第3プローブ光は光検出器17に到達する。光検出器17は、中赤外領域の波長の光を検出可能な検出器であり、受光した第1~第3プローブ光を光電変換して、光強度に応じた電気信号を検出信号として処理部2に出力する。光検出器17は、赤外線用のPD(Photo Diode)やMCT(Mercury Cadmium Telluride)検出素子、ボロメータ等により構成される。ここで、光検出器17は光強度検出部の一例である。なお、以下では、第1~第3プローブ光を区別しない場合に、単にプローブ光という場合がある。
処理部2は、PC(Persdonal Computer)等の情報処理装置により構築されている。処理部2における吸光度取得部21は、光検出器17の検出信号に基づき、各プローブ光の吸光度データを取得して血糖値取得部22に出力する。血糖値取得部22は各プローブ光の吸光度データに基づき、生体の血糖値データ(血糖値情報)を取得する。
なお、図1では、測定部1の構成と吸光度測定装置101に含まれる構成要素を分かりやすく示すために、測定部1を実線の枠で囲み、また吸光度測定装置101を破線の枠で囲ったが、これらは筐体を示すものではない。ATRプリズム16は筐体内に収納されたものではなく、第1全反射面162、又は第2全反射面163の少なくとも一方を生体の任意の部位に接触させることが可能である。
<ATRプリズム16等の作用、構成>
次に、図2を参照してATRプリズム16の作用を説明する。図2に示すように、測定部1のATRプリズム16は、生体Sに接触して配置される。ATRプリズム16に入射したプローブ光は、それぞれ生体Sの赤外吸光スペクトルに対応する減衰を受ける。減衰を受けたプローブ光は光検出器17で受光され、プローブ光毎に光強度が検出される。検出信号は処理部2に入力され、処理部2は検出信号に基づき、吸光度データ及び血糖値データを取得して出力する。
グルコースの吸収光強度が得られる中赤外領域で、分光による検出を行うには、赤外減衰全反射(ATR)法が有効である。赤外ATR法は、高屈折率のATRプリズム16に赤外光であるプローブ光を入射させ、ATRプリズム16と外界(例えば生体S)の境界面で全反射が起きる際に現れる界の「しみ出し」を利用したものである。ATRプリズム16に被測定物である生体Sが接触した状態で測定を行えば、しみ出した界が生体Sによって吸収される。
プローブ光として2~12μmの広い波長域の赤外光を用いれば、生体Sの分子振動エネルギーに起因する波長の光が吸収され、ATRプリズム16を透過したプローブ光の対応する波長で光吸収がディップとして現れる。この手法では、ATRプリズム16を透過した検出光のエネルギーを大きく取れるため、微弱なパワーのプローブ光を用いた赤外分光法では特に有利である。
赤外光を用いた場合、ATRプリズム16から生体Sへ光がしみ出す深さはわずか数ミクロン程度であり、深さ数百ミクロン程度に存在する毛細血管までは光が到達しない。しかし、皮膚や粘膜細胞中には血管中の血漿などの成分が組織液(間質液)としてにじみ出ていることが知られている。その組織液中に存在するグルコース成分を検出することで、血糖値の測定が可能となる。
組織液中のグルコース成分の濃度は、毛細血管に近くなるほど大きくなると考えられ、測定の際には常に一定の圧力でATRプリズムを押し付ける。このような押し付けに有利なように、実施形態では、台形の断面をもつ多重反射のATRプリズムを採用する。
ここで、図3は、実施形態に係るATRプリズムの構造を示す斜視図である。図3に示すように、ATRプリズム16は台形型のプリズムである。ATRプリズム16内での多重反射回数が増えるほど、グルコースの検出感度が増す。また、生体Sとの接触面積を大きくとれるため、ATRプリズム16を押圧する圧力の変化による検出値の変動を小さく抑えることができる。ATRプリズム16の底面の長さLは、たとえば24mmである。厚さtは、1.6mm、2.4mmなど、多反射が生じるように薄く設定される。
ATRプリズム16の材料としては、人体に対して毒性がなく、グルコースの吸収帯である波長10μm付近で高い透過特性を示すものが候補となる。一例として、これらの条件を満たす材料の中から、光のしみ出しが大きく、より深部までの検出が可能で、屈折率が2.2のZnS(硫化亜鉛)のプリズムを用いることができる。ZnSは、赤外材料として一般的に利用されているZnSe(セレン化亜鉛)と異なり、発がん性が無いことが示されており、無毒な染料(リトポン)として歯科材料にも利用されている。
一般的なATR測定装置では、ATRプリズムが比較的大型の装置に固定されているため、被測定物となる生体の部位は、指先や前腕部などの体表に制限される。しかし、これらの部位の皮膚は、厚さ20μm程度の角質層で覆われているため、検出されるグルコース濃度が小さくなる。また、角質層は汗や皮脂の分泌状態の影響を受けるため、測定の再現性が制限される。そこで、血糖値測定装置100では赤外光であるプローブ光を低損失で伝送可能な第1中空光ファイバ151及び第2中空光ファイバ152を用い、それぞれの一端をATRプリズム16に当接させて用いる。
第1中空光ファイバ151は、一端がATRプリズム16に当接されることで、ATRプリズム16の入射面161に光学的に接続され、第1中空光ファイバ151からの出射光がATRプリズム16の入射面161に入射されるようになっている。
また、第2中空光ファイバ152は、一端がATRプリズム16に当接されることで、ATRプリズム16の出射面164に光学的に接続され、ATRプリズム16の出射面164からの出射光が第2中空光ファイバ152内に導光されるようになっている。
ATRプリズム16を用いることで、皮膚表面に比較的近いところに毛細血管が存在し、汗や皮脂の影響が少ない耳たぶや、角質が存在しない口腔粘膜での測定が可能になる。
図4は、血糖値測定装置100で用いられる中空光ファイバの構造の一例を示す斜視図である。グルコース測定に用いる比較的波長の長い中赤外光は、石英ガラス光ファイバではガラスに光が吸収されてしまい伝送できない。これまで、特殊な材料を用いた各種の赤外伝送用光ファイバが開発されてきたが、材料に毒性、吸湿性・化学的耐久性などの問題があり、医療分野に利用することは難しかった。
一方、第1中空光ファイバ151及び第2中空光ファイバ152は、ガラス、プラスチック等の無害の材料で形成されたチューブ243の内面に、金属薄膜242と誘電体薄膜241がこの順で配置されている。金属薄膜242は、銀などの毒性の低い材料で形成され、誘電体薄膜241で被覆することで、化学的、機械的耐久性が付与されている。また、中赤外光を吸収しない空気をコア245としているため、広い波長域で中赤外光の低損失伝送が可能となっている。
<処理部2の構成>
次に、処理部2の構成について、図5及び図6を参照して説明する。
図5は、実施形態に係る処理部2のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図5に示すように、処理部2は、CPU(Central Processing Unit)501と、ROM(Read Only Memory)502と、RAM(Random Access Memory)503と、HD(Hard Disk)504と、HDD(Hard Disk Drive)コントローラ505と、ディスプレイ506とを備えている。また、外部機器接続I/F(Interface)508と、ネットワークI/F509と、データバス510と、キーボード511と、ポインティングデバイス512と、DVD-RW(Digital Versatile Disk Rewritable)ドライブ514と、メディアI/F516と、光源駆動回路517と、シャッタ駆動回路518と、検出I/F519とを備えている。
これらのうち、CPU501は、処理部2全体の動作を制御する。ROM502は、IPL(Initial Program Loader)等のCPU501の駆動に用いられるプログラムを記憶する。RAM503は、CPU501のワークエリアとして使用される。
HD504は、プログラム等の各種データを記憶する。HDDコントローラ505は、CPU501の制御にしたがってHD504に対する各種データの読み出し又は書き込みを制御する。ディスプレイ506は、カーソル、メニュー、ウィンドウ、文字、又は画像などの各種情報を表示する。
外部機器接続I/F508は、各種の外部機器を接続するためのインターフェースである。この場合の外部機器は、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリやプリンタ等である。ネットワークI/F509は、通信ネットワークを利用してデータ通信をするためのインターフェースである。バスライン510は、図5に示されているCPU501等の各構成要素を電気的に接続するためのアドレスバスやデータバス等である。
また、キーボード511は、文字、数値、各種指示などの入力のための複数のキーを備えた入力手段の一種である。ポインティングデバイス512は、各種指示の選択や実行、処理対象の選択、カーソルの移動などを行う入力手段の一種である。DVD-RWドライブ514は、着脱可能な記録媒体の一例としてのDVD-RW513に対する各種データの読み出し又は書き込みを制御する。なお、DVD-RWに限らず、DVD-R等であってもよい。メディアI/F516は、フラッシュメモリ等の記録メディア515に対するデータの読み出し又は書き込み(記憶)を制御する。
光源駆動回路517は、第1光源111、第2光源112及び第3光源113のそれぞれと電気的に接続され、制御信号に応じて、これらに赤外光を射出させるための駆動電圧を出力する電気回路である。シャッタ駆動回路518は、第1シャッタ121、第2シャッタ122及び第3シャッタ123のそれぞれと電気的に接続され、制御信号に応じて、これらを開閉駆動させる駆動電圧を出力する電気回路である。
検出I/F519は、光検出器17の検出信号を取得するためのインターフェースとなるA/D(Analog/Digital)変換回路等の電気回路である。なお、検出I/F519は、光検出器17だけでなく、図5では図示を省略する圧力センサや温度センサ等の各種センサによる検出信号を取得すためのインターフェースとしての機能も有する。
次に、図6は第1実施形態に係る処理部2の機能構成の一例を示すブロック図である。図6に示すように、処理部2は、吸光度取得部21と、血糖値取得部22とを備える。
また吸光度取得部21は、光源駆動部211と、光源制御部212と、シャッタ駆動部213と、シャッタ制御部214と、データ取得部215と、データ収録部216と、吸光度出力部217とを備える。
これらのうち、光源駆動部211の機能は光源駆動回路517等により、シャッタ駆動部213の機能はシャッタ駆動回路518等により、データ取得部215の機能は検出I/F519等により、データ収録部216の機能はHD504等により、それぞれ実現される。また、光源制御部212、シャッタ制御部214及び吸光度出力部217の各機能は、CPU501が所定のプログラムを実行すること等により実現される。
光源駆動部211は、光源制御部212から入力される制御信号に基づき駆動電圧を出力して、第1光源111、第2光源112及び第3光源113のそれぞれに赤外光を射出させる。光源制御部212は、制御信号により赤外光の射出タイミングや光強度を制御する。
シャッタ駆動部213は、シャッタ制御部214から入力される制御信号に基づき駆動電圧を出力して、第1シャッタ121、第2シャッタ122及び第3シャッタ123のそれぞれを開閉駆動させる。シャッタ制御部214は、制御信号によりシャッタを開放させるタイミングや期間を制御する。ここで、シャッタ制御部は入射制御部の一例である。
データ取得部215は、光検出器17が連続して出力する検出信号を所定のサンプリング周期でサンプリングして取得した光強度の検出値を、データ収録部216に出力する。データ収録部216は、データ取得部215から入力した検出値を収録する。
吸光度出力部217は、データ収録部216から読み出した検出値に基づき所定の演算処理を実行して吸光度データを取得し、取得した吸光度データを血糖値取得部22に出力する。
但し、吸光度出力部217は、取得した吸光度データを、外部機器接続I/F508を介してPC等の外部装置に出力してもよいし、ネットワークI/F509及びネットワークを通じて外部サーバ等に出力してもよい。また、ディスプレイ506(図5参照)に出力して表示させてもよい。
また、血糖値取得部22は生体情報出力部221を備える。生体情報出力部221は、吸光度取得部21から入力した吸光度データに基づき所定の演算処理を実行して血糖値データを取得し、取得した血糖値データをディスプレイ506等に出力して表示させる。
但し、生体情報出力部221は外部機器接続I/F508を介して血糖値データをPC等の外部装置に出力してもよいし、ネットワークI/F509及びネットワークを通じて血糖値データを外部サーバ等に出力してもよい。また、血糖値測定の信頼度を併せて出力するように、生体情報出力部221を構成してもよい。
吸光度データから血糖値データを取得するための処理には、特開2019-037752号公報等に開示された技術を適用できるため、ここではさらに詳細な説明を省略する。
<血糖値測定装置100の動作例>
次に、血糖値測定装置100の動作について、図7~図9を参照して説明する。
(プローブ光の切替動作例)
図7は、プローブ光の切替動作の一例を説明するための図である。(a)は第1プローブ光を使用する場合、(b)は第2プローブ光を使用する場合、(c)は第3プローブ光を使用する場合のそれぞれにおける測定部1の状態を示している。
本実施形態では、各光源によるプローブ光のATRプリズム16への入射を各シャッタの開閉で制御するため、吸光度及び血糖値の測定時には、第1光源111、第2光源112及び第3光源113は常時赤外光を射出している。
図7(a)では、第1シャッタ121は制御信号に応答して開放されている。第1光源111が射出した第1プローブ光は、第1シャッタ121を通過し、第1ハーフミラー131及び第2ハーフミラー132のそれぞれを透過して、カップリングレンズ14を介して第1中空光ファイバ151に導光される。その後、第1中空光ファイバ151を伝搬した後に、ATRプリズム16内に入射する。
一方、第2シャッタ122及び第3シャッタ123は、それぞれ閉鎖されているため、第2プローブ光及び第3プローブ光は、ATRプリズム16には入射しない。従って、この状態では、ATRプリズム16での減衰による第1プローブ光の吸光度が測定される。
図7(b)では、第2シャッタ122は制御信号に応答して開放されている。第2光源112が射出した第2プローブ光は、第2シャッタ122を通過し、第1ハーフミラー131で反射され、第2ハーフミラー132を透過して、カップリングレンズ14を介して第1中空光ファイバ151に導光される。その後、第1中空光ファイバ151を伝搬した後に、ATRプリズム16内に入射する。
一方、第1シャッタ121及び第3シャッタ123は、それぞれ閉鎖されているため、第1プローブ光及び第3プローブ光は、ATRプリズム16には入射しない。従って、この状態では、ATRプリズム16での減衰による第2プローブ光の吸光度が測定される。
図7(c)では、第3シャッタ123は制御信号に応答して開放されている。第3光源113が射出した第3プローブ光は、第3シャッタ123を通過し、第2ハーフミラー132で反射され、カップリングレンズ14を介して第1中空光ファイバ151に導光される。その後、第1中空光ファイバ151を伝搬した後に、ATRプリズム16内に入射する。
一方、第1シャッタ121及び第2シャッタ122は、それぞれ閉鎖されているため、第1プローブ光及び第2プローブ光は、ATRプリズム16には入射しない。従って、この状態では、ATRプリズム16での減衰による第3プローブ光の吸光度が測定される。
第1シャッタ121、第2シャッタ122、第3シャッタ123の全てが閉鎖された場合は、第1プローブ光、第2プローブ光及び第3プローブ光は、何れもATRプリズム16に入射せず、光検出器17に到達しなくなる。
このようにして、入射制御部としてのシャッタ制御部214(図6参照)は、各シャッタの開閉を制御して、第1~第3プローブ光が順次ATRプリズム16に入射する状態と、第1~第3プローブ光の全てがATRプリズム16に入射しない状態を切り替えることができる。
(プローブ光の切替タイミング例)
次に、図8は第1~第3プローブ光の切替タイミングの一例を説明するためのタイミングチャートである。図8の(a)は第1シャッタ121の状態、(b)は第2シャッタ122の状態、(c)は第3シャッタ123の状態、(d)は光検出器17の出力信号をそれぞれ示している。また各図において、信号レベルが0の時はシャッタが閉鎖された状態を示し、信号レベルが1の時はシャッタが開放された状態を示している。さらに、斜線ハッチングで示した信号は第1プローブ光に係るもの、格子ハッチングで示した信号は第2プローブ光に係るもの、ハッチングなしで示した信号は第3プローブ光に係るものをそれぞれ示している。
図8(a)では、シャッタ制御部214は、第1シャッタ121を開放させ、第2シャッタ122及び第3シャッタ123を閉鎖させている。図8(d)に示すように、第1シャッタ121が開放する期間81では、光検出器17は、第1プローブ光がATRプリズム16に入射した状態における検出信号を出力する。
その後、所定時間が経過したタイミングで、シャッタ制御部214は、第1シャッタ121を閉鎖させたタイミングで、第2シャッタ122を開放させる(図8(b))。図8(d)に示すように、第2シャッタ122が開放する期間82では、光検出器17は、第2プローブ光がATRプリズム16に入射した状態における検出信号を出力する。
その後、所定時間が経過したタイミングで、シャッタ制御部214は、第2シャッタ122を閉鎖させたタイミングで、第3シャッタ123を開放させる(図8(c))。図8(d)に示すように、第3シャッタ123が開放する期間83では、光検出器17は、第3プローブ光がATRプリズム16に入射した状態における検出信号を出力する。
その後、所定時間が経過したタイミングで、シャッタ制御部214が第3シャッタ123を閉鎖させると、第1シャッタ121、第2シャッタ122及び第3シャッタ123の全てが閉鎖された状態になる。光検出器17は、図8(d)に示す非入射期間84のように、第1~第3プローブ光の全てがATRプリズム16に入射していない状態での検出信号を出力する。
その後、所定期間が経過したタイミングで、シャッタ制御部214は、第1シャッタ121、第2シャッタ122、第3シャッタ123を順次所定時間だけ開放させ、その後、全てを閉鎖させる。そして、このような動作を繰り返し行う。
このように、入射制御部としてのシャッタ制御部214は、第1~第3プローブ光の全部がATRプリズム16に入射しない非入射期間84が少なくとも設けられるように、第1~第3プローブ光のATRプリズム16への入射を制御できる。
ここで、図8(d)の周期85は、シャッタ制御部214による制御動作の1周期を示している。この1周期には、図8(d)に示すように、第1~第3プローブ光が1つずつ順番にATRプリズム16に入射する期間と、第1~第3プローブ光の全部がATRプリズム16に入射しない非入射期間とが含まれている。
周期85内における各期間で、光検出器17は光強度の検出信号を、データ取得部215を介してデータ収録部216に出力する。データ収録部216は、第1プローブ光の検出信号に基づく第1検出値、第2プローブ光の検出信号に基づく第2検出値、第3プローブ光の検出信号に基づく第3検出値、非入射期間の検出信号に基づく第4検出値のそれぞれを区別して収録する。
ここで、非入射期間の検出信号に基づく第4検出値の作用について説明する。光検出器17による検出信号には、血糖値測定装置100の装置周囲の背景光の光強度がバイアス信号として含まれ、また中赤外領域では、光検出器17は熱による放射線(熱線)も光強度として検出するため、バイアス信号にこの熱線の光強度が多く含まれる。
背景光強度の変化や装置周囲の温度変化等によりバイアス信号レベルが変化すると、光検出器17の検出信号に基づき取得される吸光度データが変化して測定誤差が生じる。特に温度は、装置周囲環境、生体が発する熱、光源や光検出器等の構成が発する熱等により時々刻々と変化するため、バイアス信号レベルを変化させ、測定精度を低下させる大きな要因となる。
一方、図8における非入射期間84での光検出器17の検出信号は、第1~第3のプローブ光強度を含まないバイアス信号を表すものである。そのため、本実施形態では、第1~第3プローブ光のそれぞれに基づく第1~第3検出値から、非入射期間84の第4検出値を差し引ことで、第1~第3検出値のそれぞれに含まれるバイアス信号成分を除去する。これにより、バイアス信号成分が除去された第1~第3プローブ光の検出値を用いて、装置周囲環境や生体の温度変化等の影響を低減させた吸光度データを取得可能にする。
また、プローブ光を検出した期間と非入射期間との間で時間差が大きくなると、時間差に伴う温度等によるバイアス信号レベルの変化が大きくなって、バイアス信号の影響を適切に補正できなくなる場合がある。そのため、本実施形態では、プローブ光の検出値を取得した期間に直近の非入射期間における検出値を用いてバイアス信号の影響を補正する。
例えば、図8において、第1プローブ光を検出する期間86での第1検出値は、期間86より後の非入射期間88ではなく、直近の非入射期間84の第4検出値を用いて補正する。また、第2プローブ光を検出する期間87での第2検出値は、直近の非入射期間84、又は非入射期間88の第4検出値を用いて補正する。このようにすることで、温度等の時間変化の影響をより好適に低減させている。
ここで、上記の期間86は第1入射期間の一例であり、また期間87は第2入射期間の一例である。また、これらの期間86と期間87と非入射期間88は、1周期内に含まれる期間である。吸光度出力部217は、このようにして、バイアス信号の影響を補正した吸光度データを出力できる。
(血糖値測定装置100の動作例)
図9は、血糖値測定装置100の動作の一例を示すフローチャートである。
まず、ステップS91において、光源制御部212の制御信号に応答して、第1光源111、第2光源112及び第3光源113の全てが赤外光を射出する。但し、この初期の状態では、第1シャッタ121、第2シャッタ122及び第3シャッタ123は、何れも閉鎖している。
続いて、ステップS92において、シャッタ制御部214は、第1シャッタ121を開放させ、第2シャッタ122及び第3シャッタ123を閉鎖させる。
続いて、ステップS93において、データ収録部216は、データ取得部215が取得した光検出器17による検出値(第1検出値)を収録する。
続いて、ステップS94において、シャッタ制御部214は、第2シャッタ122を開放させ、第1シャッタ121及び第3シャッタ123を閉鎖させる。
続いて、ステップS95において、データ収録部216は、データ取得部215が取得した光検出器17による検出値(第2検出値)を収録する。
続いて、ステップS96において、シャッタ制御部214は、第3シャッタ123を開放させ、第1シャッタ121及び第2シャッタ122を閉鎖させる。
続いて、ステップS97において、データ収録部216は、データ取得部215が取得した光検出器17による検出値(第3検出値)を収録する。
続いて、ステップS98において、シャッタ制御部214は、第1シャッタ121、第2シャッタ122及び第3シャッタ123を何れも閉鎖させる。
続いて、ステップS99において、データ収録部216は、データ取得部215が取得した光検出器17による検出値(第4検出値)を収録する。
続いて、ステップS100において、吸光度出力部217は、データ収録部216から読み出した第1~第3検出値のそれぞれから、それぞれの期間に対して直近の第4検出値を減算して補正する。
続いて、ステップS101において、吸光度出力部217は、補正後の第1~第3検出値に基づき、第1~第3プローブ光の吸光度データを取得して、生体情報出力部221に出力する。
続いて、ステップS102において、生体情報出力部221は、第1~第3プローブ光の吸光度データに基づき所定の演算処理を実行して血糖値データを取得し、取得した血糖値データをディスプレイ506(図5参照)に出力して表示させる。
このようにして、血糖値測定装置100は、血糖値データを取得して出力することができる。
<第1実施形態に係る作用効果>
中赤外領域はグルコースの吸収が大きいfingerprint領域(指紋領域)であり、近赤外領域よりも測定の感度を向上させる点で有利である。しかし、中赤外領域は室温における物体の放射スペクトルと合致する波長領域であるため、測定装置の周囲環境、生体が発する熱、測定装置で用いられる光源や光検出器等の構成が発する熱等により、光検出器の検出信号が時々刻々と変化する。特に、生体をATRプリズム等の全反射部材に接触させる方法では、生体からの熱移動により全反射部材、又は生体の温度が短時間で変化するため、正確な吸光度を測定できなくなる場合がある。
また、単一波長又は単一波長近傍の狭帯域の波長の光を用いる場合は、血糖値の測定精度が低下する場合がある(例えば、Kasahara.R, Kino.S, Soyama.S, Matsuura.Y.「Noninvasive glucose monitoring using mid-infrared absorption spectroscopy based on a few wavenumbers」,Biomedical optics express, 2018, 9(1), PP.289-302参照)。
本実施形態では、生体Sに接触して設けられたATRプリズム16に、中赤外領域で波長の異なる第1~第3のプローブ光を入射させ、ATR法に基づいて、第1~第3のプローブ光のそれぞれの吸光度を測定する。
また、ATRプリズム16から出射される第1~第3プローブ光の光強度を検出可能に設けられた光検出器17を備え、第1~第3プローブ光の全部がATRプリズム16に入射しない非入射期間が少なくとも設けられるように、第1~第3プローブ光のATRプリズム16への入射を制御する。そして、第1~第3プローブ光のそれぞれがATRプリズム16に入射する状態での光検出器17による第1~第3検出値と、非入射期間における光検出器17による第4検出値とに基づいて、中赤外領域の光の吸光度データを取得する。
この第4検出値は、装置周囲環境や生体Sの熱等によるバイアス信号に基づくものであるため、第1~第3検出値から第4検出値を減算して補正することで、装置周囲環境や生体の温度変化等の測定への影響を低減できる。これにより、吸光度を正確に測定できる。
ここで、上記の補正処理は、第1~第3検出値と第4検出値とに基づけば、任意の補正処理を実行できるが、第1~第3検出値から第4検出値を減算する処理を行うことで、より簡単に補正処理を実行できる。
また本実施形態では、入射制御部としてのシャッタ制御部214は、第1~第3プローブ光が1つずつ順番にATRプリズム16に入射する期間と、第1~第3プローブ光の全部がATRプリズム16に入射しない非入射期間とを1周期内に含むように周期的に制御する。
これにより、第1~第3検出値と第4検出値とに基づいて補正した吸光度データを繰り返して取得でき、時間変化する吸光度を、時間毎に正確に測定することができる。
また、第1~第3検出値を取得した期間と第4検出値を取得した非入射期間との間で時間差が大きくなると、時間差に伴う温度等の変化が大きくなって、バイアス信号の影響を適切に補正できなくなる場合がある。
そのため、本実施形態では、入射制御部としてのシャッタ制御部214は、第1~第3プローブ光のうちの第1プローブ光がATRプリズム16に入射する期間86(第1入射期間)と、第1~第3プローブ光のうちの第2プローブ光がATRプリズム16に入射する期間87(第2入射期間)と、非入射期間88とを1周期内に含むように周期的に制御する。
そして、吸光度出力部217は、期間86における第1検出値と、期間86に直近の非入射期間84における第4検出値とに基づき第1吸光度データを取得し、また期間87における第2検出値と、期間87に直近の非入射期間84、又は非入射期間88における第4検出値とに基づき、第2吸光度データを取得する。ここで、第1吸光度データは第1吸光度の一例であり、第2吸光度データは第2吸光度の一例である。
これにより、プローブ光による検出値を取得した時期に直近のバイアス信号に基づく検出値を得ることができ、生体等の温度変化の影響を最小限に抑え、吸光度をより正確に測定できる。
なお、本実施形態では、電磁シャッタである第1シャッタ121、第2シャッタ122及び第3シャッタ123を制御して、ATRプリズム16へのプローブ光の入射を切り替える例を示したが、これに限定されるものではない。複数の光源のオン(射出)とオフ(不射出)を切り替える制御により、ATRプリズム16へのプローブ光の入射を切り替えてもよい。また、複数の波長の光を射出する1つの光源を用い、波長毎で光源のオンとオフとを切り替えてもよい。
また、本実施形態では、プローブ光の一部を透過し、残りを反射させる素子として第1ハーフミラー及び第2ハーフミラーを用いる例を示したが、これに限定されるものではなく、ビームスプリッタや偏光ビームスプリッタ等を用いてもよい。
また、プローブ光を透過する高屈折率材料、たとえばゲルマニウム等は、材料特性上表面反射率が高い。例えば基板の面方向に対し、垂直方向に偏光した光(s偏光)は、基板に対して45度の入射角で入射すると、透過と反射の比がほぼ1:1となる。このことを利用して、ゲルマニウム板を45度の入射角になるよう設置して、ハーフミラーの代わりとすることが出来る。なお裏面でも同様に50%の反射成分があるため、裏面には無反射防止膜を施しておく。
<第1実施形態に係る各種変形例>
ここで、本実施形態における各構成部は、各種の変形が可能であるため、以下において、各種変形例を説明する。
(非入射期間のタイミング)
まず、上述した実施形態では、第1~第3プローブ光が1つずつ順番にATRプリズム16に入射する期間を設け、その後のタイミングで非入射期間を設ける例を示した。
これに対し、第1プローブ光がATRプリズム16に入射する期間の後に非入射期間を設け、第2プローブ光がATRプリズム16に入射する期間の後に非入射期間を設け、第3プローブ光がATRプリズム16に入射する期間の後に非入射期間を設けるようにしてもよい。このようにすることで、プローブ光による検出値を取得した時期に直近のバイアス信号に基づく検出値をより取得しやすくなり、生体等の温度変化の影響をより精度良く補正できる。
(光検出器17の線形性誤差の影響抑制)
血糖値測定装置100で用いられる光検出器17は、線形性誤差を含む場合があり、光検出器17の線形性誤差は血糖値の測定誤差を生じさせる。そのため、プローブ光強度を予め定めた3つ以上の段階に変化させ、プローブ光強度と光検出器17による検出値とを比較することで線形性誤差の影響を低減させることもできる。
図10は、このように3つ以上の段階に変化させたプローブ光強度の一例を説明する示す図であり、(a)は比較例に係るプローブ光強度を示す図、(b)は3つ以上の段階に変化させたプローブ光強度を示す図である。図10において、斜線ハッチングで示した部分は第1プローブ光強度、格子ハッチングで示した部分は第2プローブ光強度、ハッチングなしで示した部分は第3プローブ光強度を表している。
図10(a)では各プローブ光強度が一定であるのに対し、図10(b)では各プローブ光強度が3つ以上の段階で、段階的に徐々に小さくなっている。光源の駆動電圧又は駆動電流を予め定めた3つ以上の段階(図10(b)では6段階)に変化させることで、射出されるプローブ光強度を3つ以上の段階に変化させることができる。なお、この場合のプローブ光は、シャッタ制御部214によるプローブ光の切替制御周期(例えば、図9のステップS92~S94までの周期)より短い周期で光強度が変化している。このシャッタ制御部214によるプローブ光の切替制御周期は、「入射制御部による制御周期」に対応する。
光検出器17が線形性誤差を含まない場合は、プローブ光強度の変化に対して光検出器17による検出値は線形に変化する。一方、光検出器17が線形性誤差を含む場合は、プローブ光強度の変化に対して光検出器17による検出値が非線形に変化する。
従って、3つ以上の段階に光強度を変化させながらプローブ光を射出し、各段階での光検出器17による検出値を取得して、射出したプローブ光強度データと光検出器17による検出値とを比較して、線形性が確保される光強度範囲を特定する。そして、3つ以上の段階に変化するプローブ光強度のうち、線形性が確保される部分のみを用いて、吸光度及び血糖値を測定する。これにより、光検出器17の線形性誤差の影響を低減させて吸光度及び血糖値を測定できる。
線形性が確保される光強度範囲を特定する動作は、血糖値測定に先立って行ってもよいし、血糖値測定中にリアルタイムで行ってもよい。
また、プローブ光が複数あるのに対して光検出器17は1つであるため、光検出器17の線形性誤差の影響の低減処理は、複数のプローブ光の全てを用いて行わなくてもよく、複数のプローブ光のうちの少なくとも1つを用いて実行すればよい。
(イメージセンサによるプローブ光の検出)
光検出器17は、1つの画素(受光素子)を用いるものに限定されるものではなく、画素がライン状に配列されたライン状のイメージセンサや、画素が2次元に配列されたエリア状のイメージセンサを用いることもできる。
ここで、光検出器17の検出信号は、受光したプローブ光強度の積分値であるため、ATRプリズム16に生体Sが接触した際にATRプリズム16における入射光や出射光の光路が変化すると、変化前後のプローブ光強度が積分されて検出誤差が生じ、正確な吸光度データが得られなくなる場合がある。
図11(a)、(b)は、このようなプローブ光の位置ずれを示しており、領域171は、光検出器17によるプローブ光の受光領域である。プローブ光が図11(b)の白抜き矢印方向にずれると、領域171におけるプローブ光強度分布が変化して、光検出器17による検出信号が変化する。
これに対し、光検出器17にイメージセンサを用いると、イメージセンサで撮像したプローブ光画像からプローブ光の位置ずれ量が分かるため、位置ずれ後のプローブ光の光強度分布の積分値を検出信号とすることで、プローブ光の位置ずれの影響を補正できる。図11(b)の領域172は、位置ずれ後のプローブ光で光強度分布の積分値を取得する領域を示している。
また、プローブ光にレーザ光等の可干渉性(コヒーレント)の光を用いると、プローブ光にスペックルと呼ばれる斑状の細かい光強度分布が重畳される場合がある。図11(c)はスペックルを含むプローブ光の断面光強度分布の一例を示している。174は、スペックル画像に含まれる場合がある光強度の特異点を示し、特異点174は領域173に含まれている。
図11(d)は、図11(c)のプローブ光が白抜き矢印方向に位置ずれした場合を示している。この状態では、特異点174が領域173に含まれなくなり、位置ずれ前後での検出信号の変化が顕著になる。これに対し、プローブ光画像から検出したプローブ光の位置ずれ量に応じて、領域175でのる光強度分布の積分値を検出信号とすることで、より好適にプローブ光の位置ずれの影響を補正できる。
また、イメージセンサ上でのプローブ光強度分布に基づき、生体SとATRプリズム16との接触領域を推定し、測定開始前に予め取得して記憶しておいたATRプリズム16面内の感度分布から、イメージセンサの検出信号に基づく検出値を補正することで、測定のばらつき誤差を低減することも可能になる。
(全反射部材への入射面)
上述した実施形態では、ATRプリズム16の入射面161が平坦面である例を示したが、これに限定されるものではなく、入射面161を拡散面や曲率を有する面等のさまざまな形状にしてもよい。
図12(a)に示すように、入射面161が平坦面であると、ATRプリズム16内でのプローブ光の進行方向は、入射面161への入射角度に従って一様な状態となる。そのため、生体Sが接触するATRプリズム16の全反射面において、領域毎で測定感度が異なる領域依存性が生じる場合がある。
光検出器17の検出信号は、ATRプリズム16に対する生体Sの接触面積の大きさ等、接触状態に依存する。特に、唇や指等の生体Sが被測定物である場合には、接触状態の再現性は低くなりやすいため、測定感度の領域依存性により測定ばらつきが増大する場合がある。
これに対し、 入射面161を拡散面とすることでATRプリズム16内でのプローブ光の進行方向をランダムに異ならせることで、図12(b)に示すように、測定感度の領域依存性を緩和させ、測定ばらつきを低減させることができる。
また入射面161は、図12(c)に示す拡散面のほかにも、図12(d)に示す凹面や、図12(e)に示す凸面にすることもできる。図12(d)の凹面や図12(e)の凸面は曲率を有する入射面の一例である。この場合にも、拡散面と同様にプローブ光の光路を異ならせることができ、測定感度の領域依存性を緩和させて、測定ばらつきを低減させることができる。
なお、ATRプリズム16にプローブ光が入射する前の光路上に拡散板やレンズ等を配置する構成にしても同様の効果が得られるが、この場合、装置の構成部品点数が増えることで組付け誤差による装置間での測定値の差(機差)やコスト高を招く場合がある。ATRプリズム16の入射面161を拡散面や曲面にすると、このような機差やコスト高を押させることができるため、より好適である。
(導光部と全反射部材の支持部)
ATRプリズム16に生体Sが接触する際に、第1中空光ファイバ151及び第2中空光ファイバ152とATRプリズム16との相対位置がずれると、ATRプリズム16に対するプローブ光の入射効率や出射効率が変動し、測定ばらつきが増大する場合がある。
図13は、このような第1中空光ファイバ151及び第2中空光ファイバ152と、ATRプリズム16との相対位置ずれを説明する図である。(a)はATRプリズム16が生体Sに接触していない場合、(b)はATRプリズム16の第1全反射面162に生体Sが接触した場合、(c)はATRプリズム16の第2全反射面163に生体Sが接触した場合をそれぞれ示している。
図13(b)に示すように、生体SがATRプリズム16の第1全反射面162に接触すると、白抜き矢印で示す下方に押圧力が加わり、ATRプリズム16が下方にずれる。その結果、ATRプリズム16'に示した状態になって、第1中空光ファイバ151及び第2中空光ファイバ152とATRプリズム16'との相対位置が変化する。
また、図13(c)に示すように、生体SがATRプリズム16の第2全反射面163に接触すると、白抜き矢印で示す上方に押圧力が加わり、ATRプリズム16が上方にずれる。その結果、ATRプリズム16"に示した状態になって、第1中空光ファイバ151及び第2中空光ファイバ152とATRプリズム16"との相対位置が変化する。
このような相対位置ずれにより、ATRプリズム16に対するプローブ光の入射効率や出射効率が変動する。特に、被測定物が生体である場合は、接触圧を一定に保つことは容易ではないため、相対位置ずれによる測定ばらつきが特に増大しやすくなる。
従って、相対位置ずれを抑制するために、第1中空光ファイバ151及び第2中空光ファイバ152とATRプリズム16は、同一の支持部材により支持することが好ましい。
図14は、第1中空光ファイバ151、第2中空光ファイバ152及びATRプリズム16を支持する部材の構成の一例を説明する図である。図14における導光支持部材153は、第1中空光ファイバ151とATRプリズム16とを一体に支持する部材である。また、出射支持部材154は、第2中空光ファイバ152とATRプリズム16とを一体に支持する部材である。
第1中空光ファイバ151とATRプリズム16とを一体に支持することで、生体SをATRプリズム16に接触させた場合にも、両者は一体に動くため、相対位置ずれは生じない。また、第2中空光ファイバ152とATRプリズム16とを一体に支持することで、生体SをATRプリズム16に接触させた場合にも、両者は一体に動くため、相対位置ずれは生じない。これにより、生体SのATRプリズム16への接触に伴うプローブ光の入射効率及び出射効率の変動を抑制でき、測定ばらつきを低減させることができる。
なお、上述した例では、導光支持部材153と出射支持部材154を別々の部材にするものを示したが、第1中空光ファイバ151、第2中空光ファイバ152及びATRプリズム16を、1つの支持部材で支持する構成にしてもよい。
また、導光部として第1中空光ファイバ151を用いずに、ミラーやレンズ等の光学素子で導光部を構成する場合においても、光学素子とATRプリズム16とを一体に支持することで、上述したものと同様の効果が得られる。
また、導光部だけでなく、第1光源111、第2光源112、第3光源113、光検出器17も、同一の支持部材で一体に支持することで、測定ばらつきを低減できる効果が得られる。
(接触状態の検知と表示)
血糖値を測定する被検者の視界に入らない被検者の生体部位(唇等)に対して、ATRプリズム16を接触させる場合には、生体部位とATRプリズム16との接触状態を視認できないため、測定毎に接触状態が変化して、測定ばらつきが増大する場合がある。
これに対し、図15に示すように、生体Sである被検者の唇とATRプリズム16との接触部分を撮影するカメラ40と、カメラ40により撮影した映像を表示する液晶ディスプレイ等の表示部41とを血糖値測定装置100の構成に追加することもできる。
被検者が表示部41に表示される映像を視認しながら、唇とATRプリズム16との接触状態を調整することで、接触状態の再現性を高め、測定ばらつきを低減させることができる。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る血糖値測定装置100aについて説明する。
本実施形態では、ATRプリズム16にプローブ光を導光する第1中空光ファイバ151(導光部の一例)を駆動部により駆動させる。これにより、光検出器17によるプローブ光の検出信号を時間平均することで、プローブ光のスペックルや光源の出力変動、血糖値測定装置の振動に伴う各構成部の位置変動等に起因する吸光度の測定ばらつきを低減させる。
図16は、このような血糖値測定装置100aの全体構成の一例を説明する図である。図16に示すように、血糖値測定装置100aは、測定部1aと、処理部2aとを備える。また測定部1aは、第1中空光ファイバ151を駆動させる圧電駆動部181(駆動部の一例)を備え、処理部2aは、圧電駆動部181を制御する駆動制御部23を備える。ここで、吸光度測定装置101aは、破線で囲って示したように、測定部1aと、駆動制御部23と、吸光度取得部21とを含んで構成される。
圧電駆動部181は、入力される駆動電圧に応じて所定方向に伸縮する圧電素子を含んで構成されている。この圧電駆動部181は、第1中空光ファイバ151によるプローブ光の伝搬方向と交差する方向に伸縮するように、第1中空光ファイバ151の長さ方向における中間部分に接触して配置されている。ここで、第1中空光ファイバ151は「光ファイバ」の一例であり、第1中空光ファイバ151の一端がATRプリズム16に取り付けられる箇所は「所定箇所」の一例である。
駆動制御部23は、圧電駆動部181を駆動させるための駆動信号を圧電駆動部181に出力する電気回路である。駆動制御部23は、光検出器17によるプローブ光強度の検出周期より短い所定周期で変調された駆動電圧を圧電駆動部181に出力する。
ここで、図17は、圧電駆動部181と第1中空光ファイバ151との接触部分を説明するための拡大図である。
図17に示すように、圧電駆動部181は、プローブ光の伝搬方向と交差する方向(白抜き矢印方向)に伸縮して、第1中空光ファイバ151の長さ方向における中間部分の位置を白抜き矢印方向に変化させる。より具体的には、圧電駆動部181は、駆動制御部23から入力した駆動電圧に応じて伸縮を繰り返すことで、第1中空光ファイバ151の長さ方向における中間部分を白抜き矢印方向に振動(駆動)させ、該中間部分の位置を周期的に細かく変化させる。
一方、第1中空光ファイバ151の一端はATRプリズム16に取り付けられているため、第1中空光ファイバ151の長さ方向における中間部分が振動しても動かない。そのため、圧電駆動部181は、ATRプリズム16に入射されるプローブ光の入射位置及び入射角度を維持したまま、第1中空光ファイバ151の長さ方向における中間部分の位置を周期的に細かく変化させることができる。
なお、該中間部分の位置を変化させることができれば、圧電駆動部181の先端部分と該中間部分は接着等で接続されていてもよいし、接続されずに周期的に接触することで加振可能な状態にされてもよい。
また、圧電駆動部181による振動の周波数は、一例として130Hzである。但し、これに限定されず、光検出器17によるプローブ光強度の検出周波数より十分高い周波数で振動されればよく、駆動対象の重量に応じて適正な周波数を決めると好適である。第1中空光ファイバ151のような軽量物では、100kHz以上の高周波数にすることもできる。また、光検出器17によるプローブ光強度の検出周波数は、一例として2~3Hzである。
また、圧電駆動部181による振動振幅は、プローブ光のビーム径の1/10からビーム径と同サイズ程度が好適である。第1中空光ファイバ151をこの振幅で振動させることで、プローブ光の光検出器17上でのパターンが変化し、その光強度が光検出器17で積分されることで時間平均作用を得ることができる。
図18は、このような圧電駆動部181による作用を説明するための図である。(a)は比較例に係るプローブ光画像、(b)は(a)のA-A断面光強度分布、(c)は本実施形態に係るプローブ光画像、(d)は(c)のB-B断面光強度分布をそれぞれ示している。
図18(a)、(c)におけるプローブ光画像は、第2中空光ファイバ152から出射されるプローブ光を赤外線カメラで撮像したものであり、光検出器17により検出されるプローブ光の光強度分布を説明するためのものである。
図18(a)に示すプローブ光画像では、圧電駆動部181は駆動されておらず、第1中空光ファイバ151は振動していない。この状態では、プローブ光画像にはスペックルによる斑状模様が顕著に生じている。図18(b)に示す(a)のA-A断面光強度分布にはスペックルに対応した光強度の変動が含まれ、光検出器17による検出領域に対応する検出領域176内での光強度分布のばらつき幅177は、140~240階調と比較的に大きくなっている。
これに対し、図18(c)に示す本実施形態に係るプローブ光画像では、圧電駆動部181が駆動され、第1中空光ファイバ151は振動している。この状態では、赤外線カメラの撮像周期内で、第1中空光ファイバ151の振動によってプローブ光画像が細かく変動し、赤外線カメラの撮像周期で時間平均されたプローブ光画像が撮像される。この時間平均の作用で光強度分布が平滑化され、図18(d)に示す検出領域176内での光強度分布のばらつき幅178は、180~230階調に低減されている。なお、ATRプリズム16へのプローブ光の入射位置及び入射角度を維持したまま第1中空光ファイバ151を振動させるため、光検出器17上のプローブ光の位置を変化させずに時間平均作用を得ることができる。
光強度分布のばらつき幅を低減させることで、光検出器17による検出値のばらつきも低減される。
一方、プローブ光を射出する光源の出力変動により光検出器17による検出値が変動して、測定ばらつきが増大する場合がある。また、装置の振動等で血糖値測定装置の各構成部が位置変動して、光検出器17上でのプローブ光の位置が変動することで、測定ばらつきが増大する場合がある。これらの場合にも、第1中空光ファイバ151の振動によるプローブ光の時間平均作用で検出値のばらつきを低減できる。
<第2実施形態に係る作用効果>
以上説明したように、本実施形態では、ATRプリズム16にプローブ光を導光する第1中空光ファイバ151を圧電駆動部181により駆動させる。これにより、光検出器17による検出信号が時間平均されることで、プローブ光のスペックルや光源の出力変動、血糖値測定装置の振動に伴う各構成部の位置変動等に起因する吸光度の測定ばらつきを低減させることができる。そして、吸光度を正確に測定し、血糖値を正確に測定できる。
可干渉性が低いプローブ光を用いるとスペックルによる検出値のばらつきは小さくなるが、この場合においても、光源の出力変動、血糖値測定装置の振動に伴う各構成部の位置変動等に起因する測定ばらつきを低減させる効果が得られる。
なお、本実施形態では、第1中空光ファイバ151の長さ方向における中間部分を振動させる例を示したが、これに限定されるものではなく、第1中空光ファイバ151の少なくとも一部の位置を変化させてよい。但し、該中間部分の位置を変化させると、ATRプリズム16へのプローブ光の入射位置及び入射角度を維持できるため、ATRプリズム16に対するプローブ光の入射位置及び入射角度の変動に伴うプローブ光強度変動等に起因する測定誤差を抑制できて好適である。
また、圧電駆動部181により変化させる方向は、第1中空光ファイバ151によるプローブ光の伝搬方向と直交する方向に限定されるものではなく、第1中空光ファイバ151の少なくとも一部の位置を変化できれば、任意の方向であってもよい。また、1方向に限定されるものでもなく、複数の方向に変化させてもよいし、変化させる方向を2次元的に時間変化させてもよい。
また、本実施形態では、駆動部として圧電駆動部の例を示したが、これに限定されるものではない。導光部の位置、又は角度の少なくとも1つを変化させることができれば、超音波振動子、ボイスコイルモータ等を駆動部として用いることもできる。
なお、上記以外の効果は、第1実施形態で説明したものと同様である。
<第2実施形態に係る各種変形例>
ここで、本実施形態における各構成部は、各種の変形が可能であるため、以下において各種変形例を説明する。
(第1変形例)
本変形例では、ATRプリズム16にプローブ光を導光する導光部を、ミラー(偏向部の一例)とレンズ(集光部の一例)とを含んで構成する。また導光部に含まれるレンズを駆動させて光検出器17による検出信号を時間平均する。これにより、プローブ光のスペックルや光源の出力変動、血糖値測定装置の振動に伴う各構成部の位置変動等に起因する吸光度の測定ばらつきを低減させる。
図19は、本変形例に係る血糖値測定装置100bの全体構成の一例を説明する図である。図19に示すように、血糖値測定装置100bは測定部1bと、処理部2bとを備える。また測定部1bは、第1~第3プローブ光をATRプリズム16に向けて偏向する偏向ミラー191と、偏向ミラー191による偏向光を集光する第1集光レンズ192,第2集光レンズ193と、第2集光レンズ193を駆動させる圧電駆動部181bとを備える。ここで、偏向ミラー191と、第1集光レンズ192と、第2集光レンズ193とを含む構成は、導光部の一例である。また、偏向ミラー191には、赤外光の反射率が高い金、銀材料により構成されたものを用いると好適である。第1集光レンズ192,第2集光レンズ193も中赤外領域の光の集光効率の高いものを用いることが好ましい。
また処理部2bは、圧電駆動部181bを制御する駆動制御部23bを備える。吸光度測定装置101bは、破線で囲って示したように測定部1bと、駆動制御部23bと、吸光度取得部21とを含んで構成される。
圧電駆動部181bは、入力される駆動電圧に応じて所定方向に伸縮する圧電素子を含んで構成されている。この圧電駆動部181bは、第2集光レンズ193の光軸と交差する方向に伸縮するように第2集光レンズ193の側部に接触して配置されている。
駆動制御部23bは、圧電駆動部181bを駆動させるための駆動電圧を圧電駆動部181bに出力する電気回路である。駆動制御部23bは、光検出器17によるプローブ光強度の検出周期より短い所定の周期で変調された駆動電圧を圧電駆動部181bに出力する。
ここで、図20は、第2集光レンズ193の駆動例を説明するための拡大図である。図20に示すように、圧電駆動部181bは第2集光レンズ193の光軸と交差する方向(白抜き矢印方向)に伸縮して、第2集光レンズ193の位置を白抜き矢印方向に変化させる。より具体的には、圧電駆動部181bは、駆動制御部23bから入力した駆動電圧に応じて伸縮を繰り返すことで、第2集光レンズ193の側部を白抜き矢印方向に振動(駆動)させ、第2集光レンズ193の位置を周期的に細かく変化させる。これにより、ATRプリズム16へのプローブ光の入射位置が周期的に変化することで、光検出器17上でのプローブ光の位置が周期的に細かく変化する。
なお、第2集光レンズ193の位置を変化させることができれば、圧電駆動部181bの先端部分と第2集光レンズ193の側部は接着等で接続されていてもよいし、接続されずに周期的に接触することで加振可能な状態にされてもよい。
また、圧電駆動部181bによる振動の周波数は、一例として130Hzである。但し、これに限定されず、光検出器17によるプローブ光強度の検出周波数より十分高い周波数で振動されればよく、駆動対象の重量に応じて適正な周波数を決めると好適である。
第2集光レンズ193は、第2実施形態に係る第1中空光ファイバ151(図16参照)と比較して重いため、第1中空光ファイバ151を振動させる周波数より低い方が好適である。
ここで、上述した第2実施形態では、ATRプリズム16へのプローブ光の入射位置及び入射角度を維持したまま振動させたため、第1中空光ファイバ151が振動しても光検出器17上のプローブ光の位置は変化しなかった。しかし、本変形例では、第2集光レンズ193の振動によりATRプリズム16へのプローブ光の入射位置が変化するため、この変化に伴ってプローブ光の光検出器17上での位置が変化する。
これに対し、圧電駆動部181bによる振動の振幅を、プローブ光のビーム径の1/10からビーム径と同サイズ程度にすることで、第2集光レンズ193が振動しても光検出器17上でプローブ光の一部が重なるようにしている。これにより、光検出器17上のプローブ光が重なる領域で時間平均作用を得ることができる。
本変形例に係る血糖値測定装置100bの作用効果は、第2実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
なお、本変形例では、圧電駆動部181bが第2集光レンズ193の側部に接触して第2集光レンズ193を振動させる例を示したが、圧電駆動部181bは、第2集光レンズ193を保持する保持部(図示を省略)に接触して第2集光レンズ193を振動させてもよい。
また、本変形例では、駆動部として圧電駆動部の例を示したが、これに限定されるものではない。導光部の位置、又は角度の少なくとも1つを変化させることができれば、超音波振動子、ボイスコイルモータ等を駆動部として用いることもできる。
(第2変形例)
第1変形例では、導光部に含まれる第2集光レンズ193を駆動させたが、本変形例では、導光部に含まれる偏向ミラー191を駆動させて、光検出器17によるプローブ光の検出信号を時間平均する。これにより、プローブ光のスペックルや光源の出力変動、血糖値測定装置の振動に伴う各構成部の位置変動等に起因する吸光度の測定ばらつきを低減させる。
図21は、本変形例に係る血糖値測定装置100cの全体構成の一例を説明する図である。図21に示すように、血糖値測定装置100cは、測定部1cと、処理部2cとを備える。また測定部1cは第1~第3プローブ光をATRプリズム16に向けて偏向する偏向ミラー191と、偏向ミラー191による偏向光を集光する第1集光レンズ192,第2集光レンズ193と、偏向ミラー191を駆動させる圧電駆動部1820とを備える。
また、処理部2cは、圧電駆動部181cを制御する駆動制御部23cを備えている。吸光度測定装置101cは、破線で囲って示したように、測定部1cと、駆動制御部23bと、吸光度取得部21とを含んで構成される。
圧電駆動部181cは、入力される駆動電圧に応じて所定方向に伸縮する圧電素子を含んで構成されている。この圧電駆動部181cは、偏向ミラー191のミラー面に垂直な方向に伸縮するように偏向ミラー191の背部に接触して配置されている。
駆動制御部23cは、圧電駆動部1820を駆動させるための駆動電圧を圧電駆動部1820に出力する電気回路である。駆動制御部23cは、光検出器17によるプローブ光強度の検出周期より短い所定の周期で変調された駆動電圧を圧電駆動部1820に出力する。
ここで、図22は、偏向ミラー191の駆動例を説明する図である。(a)は圧電駆動部1820を駆動源に振動させる場合、(b)はモータ1821を駆動源に振動させる場合、(c)はMEMS(Micro Mechanical Electro System)ミラー1822により搖動させる場合を示している。
図22(a)に示すように、圧電駆動部1820は偏向ミラー191のミラー面と垂直な方向(白抜き矢印方向)に伸縮して、偏向ミラー191の位置を白抜き矢印方向に変化させる。圧電駆動部1820は、駆動制御部23cから入力した駆動電圧に応じて伸縮を繰り返すことで、偏向ミラー191を白抜き矢印方向に振動(駆動)させ、偏向ミラー191の位置を周期的に細かく変化させる。これにより、ATRプリズム16へのプローブ光の入射位置が変化し、光検出器17上でのプローブ光の位置が周期的に細かく変化する。
なお、第2集光レンズ193の位置を変化させることができれば、圧電駆動部181bの先端部分と第2集光レンズ193の側部は接着等で接続されていてもよいし、接続されずに周期的に接触することで加振可能な状態にされてもよい。
また、図22(b)に示すように、モータ1821は偏向ミラー191のミラー面と垂直な方向(白抜き矢印方向)に振動して、偏向ミラー191の位置を白抜き矢印方向に変化させる。ここで、モータ1821は円環(中空)形状のボイスコイルモータ等のモータである。モータ1821は、円環の内側で偏向ミラー191を保持し、駆動制御部23cから入力した駆動電圧に応じて白抜き矢印方向に振動することで、偏向ミラー191を白抜き矢印方向に振動させ、偏向ミラー191の位置を周期的に細かく変化させる。これにより、ATRプリズム16へのプローブ光の入射位置が変化し、光検出器17上でのプローブ光の位置が周期的に細かく変化する。
また、図22(c)に示すように、MEMSミラー1822は圧電駆動部等の駆動部が半導体プロセスにより一体に形成されたミラーである。駆動制御部23cから入力した駆動電圧に応じて圧電駆動部が変形して、偏向ミラー191をミラー面と平行な軸(例えば、図22の紙面に対して垂直の軸)回りに回動させ、偏向ミラー191の角度を変化させる。これにより、偏向ミラー191によるプローブ光の偏向角度が変化し、ATRプリズム16へのプローブ光の入射位置が変化して、光検出器17上でのプローブ光の位置が周期的に細かく変化する。
これらの駆動周波数、駆動の振幅、及び作用効果は、第1変形例で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
なお、本変形例では、駆動部として圧電駆動部、ボイスコイルモータ、MEMSミラー等の例を示したが、駆動部はこれに限定されるものではない。導光部の位置、又は角度の少なくとも1つを変化させることができれば、超音波振動子、音響光学素子、ポリゴンミラー等を駆動部として用いてもよい。
(第3変形例)
第1,第2変形例では導光部を駆動させてプローブ光のスペックル等に起因する測定ばらつきを低減させる例を示した。このスペックルは、プローブ光の散乱光等が干渉して発生するものであるため、プローブ光の可干渉性を低下させることでスペックルの発生を抑制できる。そのため、本変形例では、光源を駆動する電流に高周波変調成分を重畳させることで、血糖値測定装置に含まれる光源の可干渉性を低下させ、プローブ光のスペックルに起因する吸光度の測定ばらつきを低減させる。
図23は、本変形例に係る光源駆動電流の一例を説明する図であり、(a)は比較例に係る光源駆動電流を示し、(b)は本変形例に係る高周波変調した光源駆動電流を示している。
光源制御部212(図6参照)は、第1光源111、第2光源112、及び第3光源113のそれぞれに、図23(a)に示すようなパルス状の駆動電流を周期的に出力することで、これらにパルス状のプローブ光を射出させる。
本変形例では、図23(a)のパルス状の駆動電流に高周波変調成分を重畳させて第1光源111、第2光源112、及び第3光源113に出力する。高周波変調成分の波形は、正弦波状であっても矩形状であってもよい。変調周波数には1MHz(メガヘルツ)から数GHz(ギガヘルツ)までの任意のものを選択可能である。
高周波変調成分を重畳させることで、第1光源111、第2光源112、及び第3光源113はそれぞれ擬似的にマルチモードのレーザ光をプローブ光として射出することができ、プローブ光の可干渉性を低下させることができる。これにより可干渉性の低下でプローブ光のスペックルが低減され、スペックルに起因する測定ばらつきが低減される。
以上、第2実施形態及び第1~第3変形例を説明したが、これらの一部同士を組み合わせて、吸光度測定装置、又は血糖値測定装置を実現することもできる。
また、上述した例では、本実施形態を血糖値測定装置に適用する例を示したが、これに限定されるものではない。実施形態は、プローブ光を導光する導光部と、導光部を駆動させる駆動部と、駆動部を制御する制御部とを備える導光装置にも適用可能である。このような導光装置により、上述した吸光度測定装置と同様の効果を得ることができる。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る血糖値測定装置について説明する。
本実施形態では、ATRプリズム16における測定感度領域を制限することで、ATRプリズム16と生体Sとの接触領域(接触面積)が測定毎で変動することに起因する吸光度の測定ばらつきを低減させる。
ここで、測定感度領域とは、全反射面上において、ATR法に基づく測定のための測定感度を有する領域をいう。より詳しくは、全反射面から界がしみ出すことで、生体による界の減衰作用が得られる領域をいう。
図24は、本実施形態に係る測定感度領域が規定されたATRプリズム16dの構成例を説明する図である。図24(a)~(c)の各図は測定感度領域が異なる3つの例を示している。(a)~(c)において、破線の矢印で示すプローブ光PはATRプリズム16dの入射面161から入射し、第1全反射面162で4回全反射、また第2全反射面163で3回全反射した後に、出射面164から出射している。
各図における第1全反射面162の一部には、赤外線に対して反射率の高い金、又は銀を材料に構成された反射膜162mが設けられている。第2全反射面163の一部にも同様に、赤外線に対して反射率の高い金材料、又は銀材料で構成された反射膜163mが設けられている。このような反射膜162m及び163mは、金、又は銀を全反射面に蒸着して形成できる。また、蒸着時にマスクを用いることで、マスクした領域以外の領域に金、又は銀を蒸着させることができる。
第1全反射面162及び第2全反射面163における反射膜162m及び163mが設けられた領域では、全反射が起きず界がしみ出さなくなるため、生体Sによる界の減衰作用が得られずに測定感度領域に該当しなくなる。換言すると、反射膜162m及び163mのそれぞれは、全反射面における測定感度領域を規定する機能を有する。反射膜162m及び163mは、領域規定部の一例である。第1全反射面162及び第2全反射面163で、反射膜162m及び163mが設けられた領域は、「測定感度領域以外の領域」の一例であり、反射膜162m及び163mが設けられていない領域は、「端部以外の領域」の一例である。
図24(a)は、第1全反射面162及び第2全反射面163の両方に測定感度領域が設けられた場合を示している。何れの面でも、中央部分を除いた領域に反射膜162m及び163mが設けられている。反射膜162m及び163mが設けられていない中央部分が測定感度領域に該当する。
斜線ハッチングで示した界162kは、第1全反射面162からしみ出した界を表している。2回全反射するため、2箇所で界が生じている。同様に界163kは、第2全反射面163からしみ出した界を表している。1回全反射するため、1箇所で界が生じている。
図24(b)は、第2全反射面163の中央の1箇所に測定感度領域がある場合を示している。第1全反射面162には全面に反射膜162mが設けられているため、第1全反射面162は測定感度領域を有さない。第2全反射面163には中央部分を除いて反射膜163mが設けられている。中央部分に界163kが発生しており、この部分が測定感度領域になる。
図24(c)は、第2全反射面163の複数箇所(ここでは3箇所)に測定感度領域がある場合を示している。第1全反射面162には全面に反射膜162mが設けられているため、第1全反射面162は測定感度領域を有さない。第2全反射面163には3箇所を除いて反射膜163mが設けられている。反射膜163mが設けられていない3箇所には界163kが発生しており、これらの部分が測定感度領域になる。
ここで、ATRプリズムを用いた血糖値測定では、第1全反射面162が生体Sの上唇に、第2全反射面163が生体Sの下唇にそれぞれ接触するように、被検者がATRプリズム16dを咥えて測定を行う場合がある。この場合、唇の中央部分は咥える力を付与しやすいため、ATRプリズムに唇を比較的安定して接触させることができる。一方、唇の両端部付近は、比較的に咥える力を付与しにくかったり、口の大きさに個人差があったりするため、接触領域が変動して測定ばらつきが増大する場合がある。
これに対し、図24(a)の例では、唇の両端部に接触するATRプリズム16dの両端部付近の測定感度領域を、反射膜162m及び163mにより規定して、接触領域が変動しやすい領域を測定に用いないようにすることができる。
図24(a)で反射膜162mが設けられた領域は、第1全反射面162の両方の端部に対応する。但し、何れか一方の端部に反射膜162mを設けた構成にしてもよい。また、図24(a)で反射膜163mが設けられた領域は、第2全反射面163の両方の端部に対応する。但し、何れか一方の端部に反射膜163mを設けた構成にしてもよい。
また、上唇と比較して下唇のほうがATRプリズム16dに咥える力を付与しやすいため、下唇が接触する第2全反射面163のみを用いるほうが、吸光度の測定ばらつきが低減する場合がある。
これに対し、図24(b)の例では、上唇に接触する第1全反射面162の全面と、下唇の両端部に接触する第2全反射面163の両端部付近の測定感度領域を反射膜162m及び163mにより規定して、接触領域が変動しにくい領域のみを測定に用いるようにしている。
また、全反射面での全反射の回数が多いほど、生体Sによる減衰が大きくなり、測定の感度が高くなる。これに対し、図24(c)の例では、下唇が接触する第2全反射面163で全反射が起きる領域の3箇所に、反射膜163mが形成されていない領域を設ける。これにより、図24(b)における全反射回数(1回)と比較して多い全反射回数(3回)で血糖値を測定でき、より測定感度が高い高精度の測定が可能になる。
なお、本実施形態に係る血糖値測定装置の全体構成には、ATRプリズム16をATRプリズム16dに置き換えることで、第1実施形態に係る血糖値測定装置100を適用可能である。
また、第1全反射面162及び第2全反射面163で、全反射が起きる領域は、ATRプリズム16へのプローブ光の入射角度に基づき、実験又はシミュレーションで特定できる。特定された全反射が起きる領域以外に、反射膜162m及び163mを設けることができる。
<第3実施形態に係る作用効果>
ATRプリズムへの生体の接触領域(接触面積)に応じて、ATRプリズムの全反射面からしみ出す界の発生領域が変化する。血糖値を測定する場合、接触領域は一定であることが好ましいが、実際には測定毎でATRプリズムへの生体の接触領域を厳密に一致させることは困難であるため、測定毎で接触領域は変化し、接触領域の変化により吸光度の測定ばらつきが増大する場合がある。特に、唇を被測定部位にする場合、唇の端部付近は唇の大きさの個人差や、ATRプリズムを咥える力の付与具合に応じて接触領域が変化しやすく、測定ばらつきが生じやすい。
本実施形態では、ATRプリズム16dにおける測定感度領域を、領域規定部としての反射膜162m及び163mにより規定する。これにより、ATRプリズム16dにおける接触領域が変動しやすい領域を測定に用いず、比較的変動しにくい領域のみを用いて測定を行える。その結果、ATRプリズム16dと生体Sとの接触領域の変動に起因する吸光度の測定ばらつきを低減でき、血糖値の測定ばらつきを低減させることができる。
[第4実施形態]
次に、第4実施形態に係る血糖値測定装置について説明する。
本実施形態では、ATRプリズム16に対する生体Sの接触圧(圧力)を圧力センサ(圧力検出部の一例)により検出する。プローブ光の光強度と、圧力センサで検出された接触圧とに基づき、プローブ光の吸光度データを取得することで、接触圧が測定毎で変動することに起因する吸光度の測定ばらつきを低減し、血糖値の測定ばらつきを低減する。
<圧力センサ30の配置例>
図25は、ATRプリズム16への圧力センサ30の配置例を説明する図である。図25(a)~(c)の各図は、圧力センサ30の配置位置及び個数が異なる3つの例を示している。図25(a)は圧力センサ30を1つ設けた場合、(b)は圧力センサ30をATRプリズム16の両端部に設けた場合、(c)は複数(ここでは3つ)の圧力センサ30を設けた場合を示している。
各図に示すように、全反射支持部31は、ATRプリズム16の一側面部(プローブ光の入射面及び出射面以外の面)に接触してATRプリズム16を支持し、また第1全反射面162上に圧力センサ30を載置して圧力センサ30を支持している。
圧力センサ30は、ATRプリズム16、又は圧力センサ30の少なくとも一方に接触して接着等により固定されている。圧力センサ30は、生体Sとしての被検者がATRプリズム16を咥えた時に、ATRプリズム16が唇から受ける接触圧Prを検出するセンサである。圧力センサ30には、静電容量方式センサ、歪ゲージ方式センサ、圧力によって抵抗値の変化する感圧抵抗方式センサ、MEMS技術を利用した圧力センサ等の各種方式のものを適用できる。
図25では、ATRプリズム16の第1全反射面162上のみに圧力センサ30が配置された例を示したが、圧力センサ30は、ATRプリズム16の第1全反射面162、又は第2全反射面163の少なくとも一方に配置できる。
図25(b)のように、ATRプリズム16の両端部付近にそれぞれ圧力センサ30を設けると、比較的咥える力を付与しにくかったり、口の大きさに個人差があったりして接触圧が変動しやすい唇の両端部付近の圧力を検出できる。また、図25(c)のように、3つの圧力センサ30を設けると、接触圧の分布を検出可能になる。
全反射面上に圧力センサ30を配置すると、圧力センサ30が配置された領域では全反射面から界がしみ出さず、生体Sによる界の減衰作用が得られなくなって、圧力センサ30の配置された領域は測定感度領域ではなくなる。
そのため、第3実施形態で説明した領域規定部としての機能を圧力センサ30に兼備させることができ、ATRプリズム16の両端部付近等の接触領域が変動しやすい領域に圧力センサ30を配置することで、接触領域の変動に起因する吸光度の測定ばらつきを低減させることができる。
但し、ATRプリズム16における全反射が起こる全ての領域に圧力センサ30を配置すると、ATR法に基づく測定ができなくなるため、全反射が起こる領域の少なくとも一部には圧力センサ30を配置しないようにして、測定感度領域を確保することが好ましい。
図26は、ATRプリズム16及び圧力センサ30の唇への配置例を説明する図であり、(a)は唇に接触する前、(b)は人がATRプリズム16を咥えた状態をそれぞれ示している。
図26から分かるように、生体Sとしての被検者の唇に対してATRプリズム16のサイズは小さい。そのため、被検者がATRプリズム16を咥えると、唇はATRプリズム16と全反射支持部31の両方に接触可能な状態になる。従って、図25ではATRプリズム16の全反射面と全反射支持部31の両方に跨るようにして圧力センサ30を配置した例を示したが、全反射支持部31のみに圧力センサ30を配置して固定してもよい。
<処理部2dの機能構成>
次に、本実施形態に係る血糖値測定装置の備える処理部2dの機能構成について説明する。図27は、処理部2dの機能構成の一例を説明するブロック図である。図27に示すように、処理部2dは吸光度取得部21dを備え、吸光度取得部21dはデータ取得部215dと、報知部218と、吸光度出力部217dとを備える。また、吸光度出力部217dは圧力補正部219を備える。
これらのうち、データ取得部215dの機能は、検出I/F519(図5参照)等により実現され、報知部218の機能はディスプレイ506等により実現される。また、吸光度出力部217d及び圧力補正部219の機能は、CPU501が所定のプログラムを実行すること等により実現される。
データ取得部215dは、光検出器17が連続して出力する検出信号を所定のサンプリング周期でサンプリングして取得した光強度の検出値をデータ収録部216に出力する。また、それとともに、圧力センサ30が連続して出力する検出信号を所定のサンプリング周期でサンプリングして取得した接触圧データを報知部218に出力する。但し、データ取得部215dは、接触圧データを、データ収録部216を介して報知部218に出力してもよい。
報知部218は、ATRプリズム16を咥えた被検者が視認できるように、接触圧データをディスプレイ506に表示させて報知する。ATRプリズム16を咥えた被検者は、ディスプレイ506に表示された接触圧データを視認しながら、ATRプリズム16と自身の唇との接触圧を調整することができる。
但し、報知部218による接触圧の報知は、これに限定されるものではない。接触圧データが予め定められた接触圧の閾値以上となった場合に、ビープ音を発したり、接触圧が閾値以上となった旨を通知するメッセージをディスプレイ506に表示させたりして報知してもよい。
吸光度出力部217dは、データ収録部216から読み出したプローブ光強度の検出値に基づき所定の演算処理を実行して吸光度データを取得する。また、吸光度出力部217dにおける圧力補正部219は、予め取得された接触圧と吸光度との対応関係を示すテーブルを参照して、吸光度データを補正する。吸光度出力部217dは、補正後の吸光度データを血糖値取得部22に出力する。この吸光度出力部217dは、「プローブ光の光強度と、圧力と、に基づき取得されるプローブ光の吸光度を出力する吸光度出力部」の一例である。
報知部218による報知と、圧力補正部219による吸光度データの補正は、何れか一方を実行してもよいし、両方を組み合わせて実行してもよい。
図28は、ATRプリズム16と唇の接触圧と、吸光度との対応関係の一例を示す図である。図28の横軸は接触圧を示し、縦軸は吸光度を示している。また、この対応関係は、実験により予め取得されたデータである。なお、この実験で使用した圧力センサは感圧抵抗型のものである。
図28に示すデータに対応するテーブルをHD504(図5参照)等の記憶装置に記憶しておき、圧力補正部219は、接触圧データに基づき、このテーブルを参照して、吸光度データを補正する。
また、図28に示すように、両者には線形な関係があるため、この線形関係に対応する一次式をHD504に記憶しておき、圧力補正部219は、接触圧データに基づき、この一次式を参照して、吸光度データを補正してもよい。
<全反射支持部31への圧力センサの配置例>
上述したように、ATRプリズム16は被検者の唇に対して小さいため、被検者がATRプリズム16を咥えた時に、唇はATRプリズム16と全反射支持部31の両方に接触可能になる。そのため、ATRプリズム16と全反射支持部31の両方に跨るように圧力センサを配置せず、全反射支持部31上のみに圧力センサ30を配置して、唇とATRプリズム16との接触圧を検出することもできる。
図29は、圧力センサ30を全反射支持部31のみに配置した例を説明する図である。図29(a)~(c)の各図は、圧力センサ30の配置位置及び個数が異なる3つの例を示している。図29(a)は圧力センサ30を1つ設けた場合、(b)は圧力センサ30をATRプリズム16の両端部側に設けた場合、(c)は複数(ここでは3つ)の圧力センサ30を設けた場合を示している。
図29(b)のように、ATRプリズム16の両端部側にそれぞれ圧力センサ30を設けると、比較的咥える力を付与しにくかったり、口の大きさに個人差があったりして、接触圧が変動しやすい唇の両端部付近の接触圧を検出できる。また、図29(c)のように、3つの圧力センサ30を設けると、接触圧の分布を検出可能になる。
次に、図30は、圧力センサ30、全反射支持部31、及びATRプリズム16の厚み方向における位置関係の一例を説明する図である。図30は、全反射支持部31上に圧力センサ30を載置し、ATRプリズム16の一側面部を全反射支持部31に接触させて固定した状態を、側方(ATRプリズム16の長手方向に沿う方向)から見た図を示している。
図30において、tatrはATRプリズム16の厚みを表し、tsenは圧力センサ30の厚みを表し、tsupは全反射支持部31の厚みを表している。
この場合、以下の(1)式を満足するように各部の厚みを決定すると好適である。
この関係を満たすことで、唇とATRプリズム16の全反射面との接触を全反射支持部31が阻害せず、唇とATRプリズム16の全反射面を密着させることができる。
また、厚み方向におけるATRプリズム16の中心線16cと、厚み方向における全反射支持部31の中心線21cとを一致させたとき、次の(2)式を満足するように、各部の厚みを決定すると好適である。
この関係を満たすことで、圧力センサ30のセンサ面をATRプリズム16の第1全反射面162に対して、厚み方向にわずかに突出させることができ、唇のATRプリズム16への接触圧を圧力センサ30により好適に検出可能になる。
但し、突出量が大きすぎると、ATRプリズム16に唇が適切に接触できなくなるため、次の(3)式を満足するように各部の厚みを決定するとさらに好適である。
この関係を満たすことで、圧力センサ30のセンサ面がATRプリズム16の第1全反射面162に対して厚み方向に突出しすぎることを防ぎ、唇のATRプリズム16への接触圧を圧力センサ30によりさらに好適に検出可能になる。
図31は、圧力センサ30、全反射支持部31、及びATRプリズム16の厚み方向における位置関係の他の例を説明する図である。図31は、図30と同様に、全反射支持部31上に圧力センサ30を載置し、ATRプリズム16の一側面部を全反射支持部31に接触させて固定した状態を、側方(ATRプリズム16の長手方向に沿う方向)から見た図を示している。
図31(a)は、第2全反射面163側に圧力センサ30を配置した場合を示し、図31(b)は、第1全反射面162側及び第2全反射面163側の両側に圧力センサ30を配置した場合を示している。
図31の配置においても、上述したものと同様に、(1)式~(3)式を満足するように、各部の厚みを決定すると好適である。
<第4実施形態に係る作用効果>
以上説明してきたように、本実施形態では、ATRプリズム16に対する生体Sの接触圧を圧力センサ30により検出し、光検出器17によるプローブ光強度の検出値と、この接触圧とに基づき、プローブ光の吸光度データを取得する。
より詳しくは、本実施形態では、ATRプリズム16を咥えた被検者が視認できるように、接触圧データをディスプレイ506に表示させて報知する。これによりATRプリズム16を咥えた被検者は、ディスプレイ506に表示された接触圧データを視認しながらATRプリズム16と自身の唇との接触圧を調整できる。その結果、接触圧が測定毎で変動することを抑制し、接触圧変動に起因する吸光度の測定ばらつきを低減し、血糖値の測定ばらつきを低減することができる。
また、本実施形態では、予め取得された接触圧と吸光度との対応関係を示すデータを参照して吸光度データを補正し、補正後の吸光度データを血糖値取得部22に出力する。これにより、接触圧が測定毎で変動することを抑制し、該変動に起因する吸光度の測定ばらつきを低減して、血糖値の測定ばらつきを低減することができる。
さらに、接触圧の報知と、接触圧データに基づく吸光度データの補正の両方を行うことで、接触圧が測定毎で変動することに起因する吸光度の測定ばらつきを低減し、血糖値の測定ばらつきを低減できる。両方を行うことで、被検者による接触圧の調整時間を短縮しつつ、補正すべき量を削減することで補正精度を確保することができる。
なお、圧力センサ30は、ATRプリズム16、又は全反射支持部31の少なくとも一方に設けられればよい。
[第5実施形態]
次に、第5実施形態に係る血糖値測定装置について説明する。
本実施形態では、プローブ光の光強度と、生体S、又はATRプリズム16の少なくとも一方の温度とに基づいて血糖値データを取得することで、ATRプリズム16の熱が生体Sに与える影響や生体Sの熱がATRプリズム16に与える影響等を抑制して、血糖値を正確に測定する。
<処理部2eの機能構成>
本実施形態に係る血糖値測定装置の備える処理部2eの機能構成について、図32を参照して説明する。図32は、処理部2eの機能構成の一例を説明するブロック図である。図32に示すように、処理部2eは吸光度取得部21eと、血糖値取得部22eとを備える。吸光度取得部21eはデータ取得部215eを備え、血糖値取得部22eは生体情報出力部221eを備える。また、生体情報出力部221eは温度補正部222を備える。
これらのうち、データ取得部215eの機能は、検出I/F519(図5参照)等により実現され、生体情報出力部221e及び温度補正部222の機能は、CPU501が所定のプログラムを実行すること等により実現される。
データ取得部215eは、光検出器17が連続して出力する検出信号を所定のサンプリング周期でサンプリングして取得した光強度の検出値をデータ収録部216に出力する。また、それとともに、温度センサ50が連続して出力する検出信号を所定のサンプリング周期でサンプリングして取得した温度データをデータ収録部216に出力する。ここで、温度センサ50は、生体Sに対応する被検者の舌下に配置され、舌下体温の検出信号をデータ取得部215eに出力することができる。また、温度センサ50は温度検出部の一例である。
生体情報出力部221eは、吸光度出力部217から入力した吸光度データに基づき所定の演算処理を実行して血糖値データを取得する。また、温度補正部222は、予め取得された温度と血糖値との対応関係に基づき、血糖値データを補正する。この生体情報出力部221eは、「プローブ光の光強度と、被測定物、又は全反射部材の少なくとも一方の温度とに基づき取得される生体情報を出力する生体情報出力部」の一例である。
<温度に基づく補正の作用>
ここで、温度に基づく血糖値データの補正の作用について説明する。まず、温度センサ50により検出される温度(ここでは舌下体温)と血糖値との相関関係について述べる。
この相関関係を調査するために、被検者の食事の約1時間前から食事の約5時間後まで期間で、被検者に対して吸光度を測定し、舌下体温を検出する実験を行った。
吸光度の測定結果に基づいて血糖値を取得(算出)するモデルには、ある波数で正規化を行う正規化MLR(Multiple Linear Regression)モデルを用いた。また、正規化MLRモデルにおける正規化波数として1000cm-1を用いた。正規化MLRモデルの演算式を以下の(4)式に示す。
(4)式において、yは、温度補正部222による補正を行っていない血糖値データ(補正前の血糖値データ)を表し、x(k)は波数kで測定された正規化前の吸光度データを表している。血糖値データは、吸光度データに基づいて上記の(4)式を用いて取得できる。
図33は、温度検出結果と血糖値データの取得結果の一例を説明する図である。図33の横軸は時間を示し、縦軸の第1軸(左側の軸)は血糖値を示し、また縦軸の第2軸(右側の軸)は温度センサ50により検出された温度を示している。横軸の時間が0(分)は、被検者が食事を行った時刻を表し、そのマイナス側が食事前、プラス側が食事後を表している。
また、図33における「○」マークは取得された血糖値を示し、小さい「・」マークは検出された舌下体温を示している。なお、図33における「○」マークは、補正前の血糖値データである。
血糖値は、一般に食事前の空腹時には低く、食事後に高くなると考えられるが、図33では、食事前に血糖値が比較的大きくなっている。一方で、食事前の舌下体温は低くなっている。そのため、図33は、舌下体温と血糖値との間に相関関係があることを示唆している。
図34は、図33のデータを用いて、舌下体温と血糖値との間の相関関係を調査した結果を示している。図34の横軸は舌下体温を示し、縦軸は血糖値を示している。血糖値と舌下体温は無関係であるべきであるが、図34に示すように負の相関があることが分かる。この負の相関における回帰直線の傾きは-21(mg/dl/deg)である。従って、吸光度データに基づき取得された血糖値データを、この回帰直線の傾きを利用して補正することで、より正確な血糖値データを取得可能となる。回帰直線の傾きを利用した血糖値データの補正式は、次の(5)式のようになる。
(5)式におけるy_cは補正後の血糖値データ、yは補正前の血糖値データ、Tは検出された舌下体温を表している。なお、切片の「-765」は、補正後の血糖値データが温度によらずほぼ同じ値になるように調整されている。
図35は、(5)式を用いて血糖値データを補正した場合の、温度検出結果と血糖値データの取得結果の一例を説明する図である。図35の見方は図33と同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
補正前の図33と比較して図35では、食事前の時刻における血糖値データは小さくなり、また食事後に長い時間が経過した後にも血糖値データは小さくなっている。そのため、食事前の空腹時や食事後の長い時間の経過後の空腹時には血糖値が低くなるという傾向に沿うように、血糖値データが補正されていることが分かる。
なお、本実施形態では、生体Sの舌下体温と血糖値データとの相関関係に基づく補正例を示したが、生体Sの体温の代わりにATRプリズム16の温度を検出し、ATRプリズム16の温度と血糖値データとの相関関係に基づく補正を行っても同様の作用が得られた。
<第5実施形態に係る作用効果>
ATRプリズム16を生体Sに接触させて血糖値を測定する場合、ATRプリズム16を接触させる生体Sの部位の温度やATRプリズム16の温度により、取得される血糖値データが変化する場合がある。
この要因として、接触した生体Sの部位の温度によりATRプリズム16自体が温まり、ATRプリズム16自体による中赤外光の放射量が変化して測定に影響することが考えられる。また、ATRプリズム16の接触により生体Sの部位の温度が変化し、体内の代謝や生体Sの部位からの中赤外光の放射が変化することも考えられる。
従来技術では、ATRプリズム16等の光学測定部を被測定物に接触させずに測定する構成であるため、ATRプリズム16を接触させる生体Sの部位の温度やATRプリズム16の温度の影響に起因して、血糖値を正確に測定できなくなる場合があった。
本実施形態では、プローブ光の光強度と、生体S、又はATRプリズム16の少なくとも一方の温度とに基づいて血糖値データを取得する。より詳しくは、プローブ光の光強度に基づき取得された吸光度データに基づいて血糖値データを取得し、また温度センサ50が検出した生体Sの温度に基づき、血糖値データを補正する。
この血糖値データの補正には、予め取得された、温度と血糖値との対応関係に基づく補正式が用いられる。これにより、ATRプリズム16の熱が生体Sに与える影響や生体Sの熱がATRプリズム16に与える影響を抑制して、血糖値を正確に測定することができる。
なお、本実施形態では、温度センサ50が生体Sに対応する被検者の舌下体温を検出する例を示したが、これに限定でされるものではない。温度センサ50を被検者の身体の任意の部位に配置し、該部位の温度を検出してもよいし、温度センサ50をATRプリズム16に配置し、ATRプリズム16の温度、又はATRプリズム16に接触した被検者の部位の温度を検出してもよい。但し、温度センサ50の配置位置毎で、温度と血糖値との対応関係に基づく補正式を予め取得し、温度センサ50の配置位置に対応した補正式を測定時に利用することが好ましい。
温度センサ50をATRプリズム16に配置する場合は、生体SとATRプリズム16とが接触する全反射面の端部に配置すると、温度センサ50がプローブ光を遮って吸光度測定を阻害することを防止できるため、好適である。
また、生体Sの体温データを用いる場合、ATRプリズム16に接触する生体Sの部位の温度を検出すると、血糖値データをより正確に補正できるため好適である。例えば、ATRプリズム16を唇に接触させて測定する場合には、唇の温度を検出するように温度センサ50を配置すると好適である。但し、唇以外に、耳たぶ、指等の様々な部位にATRプリズム16を接触させても血糖値を測定可能である。
また、本実施形態では、温度と血糖値との対応関係に基づく補正式を用いて補正する例を示したが、これに限定されるものではない。温度と血糖値との対応関係を示すテーブルを予め作成してHD504等の記憶装置に記憶させ、測定時に検出された温度に基づいてこのテーブルを参照して補正後の血糖値データを取得するようにしてもよい。
また、本実施形態では線形な補正式を用いる例を示したが、非線形の多項式を補正式として用いて補正を行ってもよい。非線形の多項式を用いることで、より詳細な補正が可能になる。
[第6実施形態]
次に、第6実施形態に係る血糖値測定装置について説明する。
本実施形態では、第1プローブ光と、前記第1プローブ光とは波長の異なる第2プローブ光とを含む複数のプローブ光のうち、第1プローブ光の第1吸光度と、第2プローブ光の第2吸光度との関係に基づき、第2吸光度を変換吸光度に変換する。そして、この変換吸光度を含む複数のプローブ光の吸光度に基づき、血糖値データを取得する。これにより、変換(補正)のためのデータを予め取得しておくことなく、装置周囲環境や生体の温度変化等の影響を抑制して血糖値を正確に測定する。
<処理部2fの機能構成>
まず、本実施形態に係る血糖値測定装置の備える処理部2fの機能構成について、図36を参照して説明する。図36は、処理部2fの機能構成の一例を説明するブロック図である。図36に示すように、処理部2fは血糖値取得部22fを備える。また、血糖値取得部22fは、データ保持部223と、吸光度変換部224とを備える。
これらのうち、データ保持部223の機能はHD504(図5参照)等により実現され、吸光度変換部224の機能はCPU501が所定のプログラムを実行すること等により実現される。
データ保持部223は、吸光度出力部217から入力した第1プローブ光の第1吸光度データ、第2プローブ光の第2吸光度データ、及び第3プローブ光の第3吸光度データのそれぞれを一時保持する。このデータ保持部223は、所定期間が経過すると、新たに入力した第1~第3吸光度データを上書きして保持できる。
吸光度変換部224は、データ保持部223が一時保持した第1~第3吸光度データを読み出し、第1吸光度データを基準吸光度データとして、基準吸光度データと第2吸光度データとの関係に基づき、第2吸光度データを第2変換吸光度データに変換する。また、基準吸光度データと第3吸光度データとの関係に基づき、第3吸光度データを第3変換吸光度データに変換する。ここで、第2変換吸光度データと第3変換吸光度データは、それぞれ変換吸光度の一例である。
また、本実施形態では、一例として、波数が1100cm-1のプローブ光を第1プローブ光とし、波数が1050cm-1のプローブ光を第2プローブ光とし、波数が1070cm-1のプローブ光を第3プローブ光とする。
その後、吸光度変換部224は、第1吸光度データ、第2変換吸光度データ、及び第3変換吸光度データのそれぞれを生体情報出力部221に出力する。生体情報出力部221は、これらを入力データとして、上述した(4)式の正規化MLRモデルに基づき血糖値データを取得する。この(4)式の正規化MLRモデルは、線形モデルの一例である。
<吸光度変換部224の作用>
次に、吸光度変換部224の作用について説明する。まず、基準吸光度に対する第2吸光度及び第3吸光度のそれぞれの相関関係について述べる。
この相関関係を調査するために、食事前から食事後3時間が経過するまでに、数十回にわたって、生体Sに対応する被検者の唇を被測定物として第1~第3吸光度を測定した。図37は、基準吸光度に対する第2吸光度及び第3吸光度のそれぞれの相関関係を示す図である。図37の横軸は基準吸光度を示している。また黒点のプロットは第2吸光度を示し、白点のプロットは第3吸光度を示している。
生体SとATRプリズム16との接触状態や、光検出器17の検出感度の変動等によって、測定される吸光度は変動するが、平均すると第2吸光度及び第3吸光度はそれぞれ基準吸光度に対して比例すると考えられる。しかし、図37に示すように、基準吸光度に対する第2吸光度の回帰直線371(実線の回帰直線)と基準吸光度に対する第3吸光度の回帰直線372(破線の回帰直線)は、切片の値が異なっている。具体的には、第2吸光度の回帰直線の切片は0.187であり、第3吸光度の回帰直線の切片は0.217である。
このような切片のずれは、装置周囲環境の温度や、波長の違いに伴う光検出器17の感度差、0点のドリフト等を要因として生じていると考えられる。そのため、本実施形態では、この切片のずれを補正するように第2及び第3吸光度データを変換する。
また、正規化MLRモデルでは、プローブ光の波長毎で測定感度が異なると、吸光度に基づき取得される血糖値データが変化する。この測定感度は回帰直線の傾きに対応し、図37の例では、回帰直線371の傾きは0.883であり、回帰直線372の傾きは0.872となっており、測定感度が異なっている。そのため、本実施形態では、この傾きのずれを補正するように第2及び第3吸光度データを変換する。
このような切片と傾きのずれを補正する変換処理を行うための変換式を、以下の(6)式、(7)式に示す。
但し、(6)式におけるa1050_cは変換後の第2吸光度データ(第2変換吸光度データ)、a_1050は変換前の第2吸光度データ、c1050は回帰直線371の切片、k1050は回帰直線371の傾きをそれぞれ表している。また、(7)式におけるa1070_cは変換後の第3吸光度データ(第3変換吸光度データ)、a_1070は変換前の第3吸光度データ、c1070は回帰直線372の切片、k1070は回帰直線372の傾きをそれぞれ表している。
この第2変換吸光度データ及び第3変換吸光度データが、正規化MLRモデルに入力される。なお、(4)式の正規化MLRモデルにおける各項の係数は、変換後の吸光度データに対応するように予め定められている。
ここで、図37では、基準吸光度に対する第2吸光度及び第3吸光度のそれぞれの相関関係データを得るために、食事前から食事後3時間が経過するまでに数十回にわたって吸光度を測定した例を示した。しかし、より少ない回数の吸光度の測定でも、基準吸光度に対する第2吸光度及び第3吸光度のそれぞれの相関関係データを取得可能である。
図38は、1回の吸光度測定における基準吸光度、第2吸光度及び第3吸光度を示す図である。1回の吸光度測定で複数回の吸光度データをサンプリングするが、図38の横軸は、そのサンプリング回数を示し、縦軸は吸光度を示している。図38に示す例では、1回の吸光度測定におけるサンプリング回数は120回程度である。また、図38のグラフは、基準吸光度、第2吸光度及び第3吸光度の測定結果を混在させて示している。
サンプリング回数が15回程度の時に、ATRプリズム16が唇に接触し、その後吸光度が上がっている。但し、接触後に吸光度が一定になるのではなく、徐々に上昇している。これは、ATRプリズム16と唇との接触状態の変化や、ATRプリズム16が唇に接触したことによるATRプリズム16又は唇の温度変化に起因するものである。なお、この1回の測定に要する時間は1分程度である。
図38の測定結果を用いて得られた、基準吸光度に対する第2吸光度及び第3吸光度のそれぞれの相関関係を図39に示す。図39の見方は図37と同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
図39に示すように、1回の吸光度測定でも第2吸光度の回帰直線371と、第3吸光度の回帰直線372を求めることができる。そして、回帰直線371の傾きと切片を用いて第2変換吸光度データを取得し、回帰直線372の傾きと切片を用いて第3変換吸光度データを取得できる。
本実施形態における血糖値測定では、吸光度変換部224は、データ保持部223が一時保持した複数の第1~第3吸光度データを読み出す。そして、第1吸光度データを基準吸光度データとして求めた第2吸光度データの回帰直線371の傾きと切片を用いて、第2変換吸光度データを取得する。また、第1吸光度データを基準吸光度データとして求めた第3吸光度データの回帰直線372の傾きと切片を用いて第3変換吸光度データを取得する。
このようにして、変換(補正)のためのデータを予め取得しておくことなく、装置周囲環境の温度や、波長の違いに伴う光検出器17の感度差、0点のドリフト等の影響を補正するように吸光度データを変換できる。
<第6実施形態に係る作用効果>
以上説明してきたように、本実施形態では、第1プローブ光と、前記第1プローブ光とは波長の異なる第2プローブ光と、を含む複数のプローブ光のうち、第1プローブ光の第1吸光度データと、第2プローブ光の第2吸光度データを用いて、第1吸光度と第2吸光度の一例としての回帰直線371を求める。そして、回帰直線371の傾きと切片を用いて、第2吸光度データを第2変換吸光度データに変換し、第2変換吸光度データを含む複数のプローブ光の吸光度データに基づき、血糖値を測定する。
予め取得しておいた変換(補正)のためのデータを用いないため、装置周囲環境や生体の温度変化等により測定条件が刻々と変化しても、変化に応じて装置周囲環境や生体の温度変化等を補正するように、第2吸光度データを第2変換吸光度データに変換できる。これにより、装置周囲環境や生体の温度変化等の影響を抑制し、血糖値を正確に測定することができる。
ここで、本実施形態では、回帰直線の傾きと切片を用いる変換処理の例を示したが、これに限定されるものではない。光検出器17には非線形な感度特性を有するものもあるため、このような場合には、2次式や3次式等の回帰多項式における各項の係数のうちの少なくとも1つを用いて変換処理を行うこともできる。これにより、光検出器17は非線形な感度特性を有する場合等にも、装置周囲環境や生体の温度変化等の影響をより詳細に抑制し、血糖値を正確に測定できる。
また、本実施形態では、血糖値取得部22fがデータ保持部223を備える例を示したが、これに限定されるものでなく、データ保持部223の機能をデータ収録部216や外部の記憶装置等に備えさせてもよい。
また、本実施形態では傾きと切片の両方を用いて変換処理を行う例を示したが、傾き又は切片の少なくとも一方を用いて変換処理を行っても良い。
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は、具体的に開示された上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
実施形態では、吸光度取得部21、血糖値取得部22、駆動制御部23等の機能を1つの処理部2が実現する例を示したが、これに限定されるものではない。これらの機能を別々の処理部により実現してもよいし、吸光度取得部21及び血糖値取得部22の機能を複数の処理部に分散させて実現してもよい。また、処理部の機能や、データ収録部216等の記憶装置の機能をクラウドサーバ等の外部装置が実現する構成にすることも可能である。
また、実施形態では、複数の光源としての第1光源111、第2光源112及び第3光源113を備え、それぞれが中赤外領域で異なる波長の光を射出する例を示したが、これに限定されるものではない。1つの光源が複数の波長の光を射出してもよい。
また、光源として量子カスケードレーザの例を示したが、これに限定されるものではなく、赤外線ランプや、LED(Light Emitting Diode)、SLD(Super Luminescent Ddiode)等のレーザ以外の光源を用いることもできる。この場合には、適宜、所望の波長のみを取り出す波長フィルタを介してプローブ光をATRプリズム16等の全反射部材に入射させると好適である。或いは、光検出器17が波長フィルタを介してプローブ光を受光すると好適である。
また、実施形態では、生体情報として血糖値を測定する例を示したが、これに限定されるものではなく、吸光度に基づいて測定できれば、他の生体情報の測定に実施形態を適用することもできる。
また、光源で射出された後や中空光ファイバから出射された後に、プローブ光の一部を分岐させるビームスプリッタ等の光学素子と、分岐された一部のプローブ光強度を検出する検出素子とを設け、プローブ光強度の変動を抑制するように、光源の駆動電圧又は駆動電流をフィードバック制御する構成にしてもよい。これにより、光源の出力変動を抑え、より正確な生体情報の測定が可能になる。
また、全反射部材をATRプリズム16で構成する例を示したが、これに限定されるものではない。全反射させることができ、全反射の際に界をしみ出させることができれば平行平板や光ファイバ等を用いて全反射部材を構成してもよい。
また、第1実施形態に係る血糖値測定装置100の構成に第2~第6実施形態を適用する例を説明したが、これに限定されるものではない。血糖値測定装置が1つの光源を備え、1つの光源から波長の異なる第1~第3プローブ光を射出させて測定する場合にも第2~第4実施形態のそれぞれを適用できる。その場合は、第1~第3プローブ光のATRプリズム16への入射を切り替える必要はないため、血糖値測定装置は第1シャッタ121、第2シャッタ122、第3シャッタ123、第1ハーフミラー131及び第2ハーフミラー132を備えなくてもよい。
また、血糖値測定装置が1つの光源を備え、1つの光源から1つの波長のプローブ光を射出させて測定する場合にも第2~第5実施形態のそれぞれを適用可能である。
また、非入射期間における光検出器17による検出値を用いて第1~第3プローブ光の光強度を補正しない場合の吸光度測定及び生体情報測定においても、第2~第6実施形態を適用することができる。
さらに、第1~第6実施形態における複数を組み合わせて血糖値測定装置を構成してもよい。
また、実施形態は、吸光度測定方法も含む。例えば、吸光度測定方法は、特定波長領域で波長の異なる複数のプローブ光を射出する工程と、入射される前記プローブ光を全反射部材により被測定物に接触した状態で全反射させる工程と、前記複数のプローブ光の全部が前記全反射部材に入射しない期間が少なくとも設けられるように、前記プローブ光の前記全反射部材への入射を制御する工程と、前記全反射部材から出射される前記プローブ光の光強度を検出可能に設けられた光強度検出部による工程と、前記プローブ光が前記全反射部材に入射する状態での前記光強度検出部による検出値と、前記複数のプローブ光の全部が前記全反射部材に入射しない状態での前記検出値と、に基づき取得される吸光度を出力する工程と、を行う。このような吸光度測定方法により、第1実施形態に係る吸光度装置と同様の効果を得ることができる。
また、吸光度測定方法は、特定波長領域のプローブ光を射出する工程と、入射される前記プローブ光を全反射部材により被測定物に接触した状態で全反射させる工程と、導光部により、前記各プローブ光を前記全反射部材に導光する工程と、前記導光部を駆動させる工程と、前記導光部の駆動を制御する工程と、前記全反射部材から出射される前記プローブ光の光強度を検出する検出工程と、前記光強度に基づき取得される前記プローブ光の吸光度を出力する工程と、を行う。このような吸光度測定方法により、第2実施形態に係る吸光度装置と同様の効果を得ることができる。
また、生体情報測定方法は、特定波長領域のプローブ光を射出する工程と、入射される前記プローブ光を全反射部材により被測定物に接触した状態で全反射させる工程と、前記全反射部材から出射される前記プローブ光の光強度を検出する工程と、前記光強度と、前記被測定物又は前記全反射部材の少なくとも一方の温度と、に基づき取得される生体情報を出力する工程と、を行う。このような生体情報測定方法により、第5実施形態に係る生体情報測定装置と同様の効果を得ることができる。
また、生体情報測定方法は、第1プローブ光と、前記第1プローブ光とは波長の異なる第2プローブ光と、を含む複数のプローブ光を射出する工程と、被測定物により光吸収された前記プローブ光の光強度を検出する工程と、前記光強度に基づき、前記プローブ光の吸光度を取得する工程と、前記第1プローブ光の第1吸光度と、前記第2プローブ光の第2吸光度との関係に基づき、前記第2吸光度を変換吸光度に変換する工程と、前記変換吸光度を含む前記複数のプローブ光の吸光度に基づいて取得される生体情報を出力する工程と、を行う。このような生体情報測定方法により、第6実施形態に係る生体情報測定装置と同様の効果を得ることができる。
また、上記で説明した実施形態の各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(digital signal processor)、FPGA(field programmable gate array)や従来の回路モジュール等のデバイスを含むものとする。