JP7430385B2 - レーザ光を用いた表面硬化処理方法および装置 - Google Patents

レーザ光を用いた表面硬化処理方法および装置 Download PDF

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Description

本発明は、レーザ光を用いて処理ガスの元素を固相状態のワークに固溶させる表面硬化処理方法および装置に関する。
ガス浸炭や真空浸炭(減圧浸炭とも呼ぶ)は、鋼の表面硬化処理として工業的に多く利用されている技術である。詳細には、炭化水素ガスを高温に加熱し、ガスの化学反応を利用して鋼材表面に炭素を侵入、拡散させ焼入れすることによって表面が硬化する。特に、真空浸炭は、粒界酸化がほとんどなく、品質面においても優れる。
また、一般的なガス浸炭や真空浸炭は、固相状態のワークに炭素を固溶させる点に大きな利点がある。固液共存の温度域以上にワークを加熱して浸炭すると、液相の存在により反応速度が急激に高まり、炭化物が表面に厚く形成されることがある。しかし、炭化物は非常に脆いため、割れが生じやすい。割れは破壊の起点となり、品質に著しく大きな影響を及ぼすため、液相処理から固相処理へと技術的に発展させる意義は非常に大きい。したがって、固相状態での反応を利用し、表面に厚い炭化物を形成することなく、表面から内部に向かってなだらかな炭素濃度分布が得られる浸炭処理は、ワークの靱性は確保したまま、表面の強度を著しく改善できるため、安心安全なものづくりには欠かせない技術である。
一方、浸炭とは別に、浸窒も工業的に注目される鋼の表面硬化処理法である。浸窒は、炭化水素ガスではなくアンモニアガスを使用し、そのガスの化学反応を利用して窒素を固溶させ、焼入れすることにより表面を硬化させる。
窒素においても、鋼やチタン、あるいはその合金などとの反応においては、液相の存在により脆い窒化物が多量に形成される恐れがある。そのため、固相状態で窒素を固溶させることが、実用的には非常に重要な点である。
一般的なガス浸炭処理では、例えば、ガス浸炭、焼入れ、洗浄、焼戻しなどの各種処理を連続的に実施できる大型の連続加熱炉を使用している。しかしながら、処理中の余剰ガスの生成や、数時間を要する処理時間が工業的な課題である。さらに、それらに起因した多量の温暖化ガスの発生や多量のエネルギー消費が問題になる。
上記問題を解決する対策として、ワークが溶融することのない温度域での処理温度の高温化が効果的であることが知られている。しかし、設備的な問題で工業的には900~1100℃程度での処理が限界である。また、工業的に多く普及している浸炭装置は、一度に多くのサンプルを処理することができるが、処理量に依らず同等のガスやエネルギーが必要となる。またワーク全体を加熱し浸炭することになる。したがって、多品種少量生産への対応やサンプル内の局所的な浸炭を必要とする場合は、一般的な連続加熱式の浸炭装置は適していない。
一方、浸窒は、通常、700~800℃程度で処理され、処理には数時間を要するが、浸炭と同様に、高速化には処理温度の高温化が効果的であると考えられる。したがって、例えば、900~1000℃程度で処理することができれば、処理時間が大幅に短縮されることも考えられるが、アンモニアガスは高温で保持すると、ガスがワークに到達する前に分解し、硬化に寄与する窒素を効率良くワークに固溶させることが難しい。
特開2017-226860号公報 特開2004-360057号公報 特開1998-72656号公報
本発明の目的は、ワークの一部に対する表面硬化処理を短時間で実施できる高品位な表面硬化処理方法および装置を提供することである。
本発明の第1態様に係る表面硬化処理方法は、
容器の内部空間に金属製のワークを配置するステップと、
該内部空間に処理ガスを供給するステップと、
前記容器の外部から前記ワークに向けてレーザビームを局所的に照射し、前記ワークの一部およびその近傍にある処理ガスを加熱し、処理ガスの分解により生ずる表面硬化に寄与する成分元素を固相状態の前記ワークに固溶させ、直後に焼入れして、前記ワークの表面を部分的に硬化させるステップと、
該内部空間から処理ガスを排出するステップと、
排出された処理ガスを再び該内部空間に戻すステップと、を含む。
本発明において、前記レーザビームの局所的照射スポットが正方形であることが好ましい。
本発明において、前記容器は、合成樹脂または、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛もしくはこれらの金属を含む合金で製作されることが好ましい。
本発明において、レーザビームを照射するステップにおいて、内部空間を第1雰囲気に維持した状態で前記ワークに向けてレーザビームを少なくとも1回照射し、続いて内部空間を第1雰囲気とは異なる第2雰囲気に維持した状態で前記ワークの前回照射した部分に向けてレーザビームを少なくとも1回照射することが好ましい。
本発明において、処理ガスとして炭化水素ガスを使用し、処理ガスの分解により生ずる炭素を前記ワークに固溶させることが好ましい。
本発明において、処理ガスとしてアンモニアガスを使用し、処理ガスの分解により生ずる窒素を前記ワークに固溶させることが好ましい。
本発明の第2態様に係る表面硬化処理装置は、
内部空間に金属製のワークを配置するための容器と、
該内部空間に処理ガスを供給するためのガス供給部と、
該内部空間から処理ガスを排出するためのガス排出部と、
前記ガス供給部と前記ガス排出部との間に設けられ、処理ガスを循環させるためのガス循環制御装置と、
前記容器の外部から前記ワークに向けてレーザビームを局所的に照射するためのレーザ光源と、を備え、
レーザビームの局所照射により、前記ワークの一部およびその近傍にある処理ガスを加熱し、処理ガスの分解により生ずる表面硬化に寄与する成分元素を固相状態の前記ワークに固溶させ、直後に焼入れして、前記ワークの表面を部分的に硬化させる。
本発明において、前記レーザビームの局所的照射スポットが正方形であることが好ましい。
本発明において、前記容器は、合成樹脂または、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛もしくはこれらの金属を含む合金で製作されることが好ましい。
本発明において、前記レーザビームの照射中に前記ワークと前記レーザビームを相対的に移動させるための走査機構をさらに備えることが好ましい。
本発明において、前記ワークの表面温度を計測するための放射温度計と、
計測された表面温度に基づいて、前記レーザ光源を制御して前記レーザビームの出力を調整するためのコントローラと、をさらに備えることが好ましい。
本発明において、前記内部空間の処理ガス濃度を計測するための雰囲気計測部と、
前記ワークの表面温度を計測するための放射温度計と、
計測された前記処理ガス濃度と表面温度に基づいて、前記ガス供給部と前記ガス排出部を制御して前記処理ガス濃度を調整するためのコントローラと、をさらに備えることが好ましい。
本発明によれば、ワークの一部に対する表面硬化処理を短時間で実施できる。
本発明に係る表面硬化処理装置の一例を示す構成図である。 図2(A)は、容器50の一例をほぼ上方から撮影した写真である。図2(B)は、容器50の一例をほぼ正面から撮影した写真である。 図3(A)は、ワーク位置決め部30の一例を示す斜視図である。図3(B)は、ワーク位置決め部30の他の例を示す斜視図である。 ワークWの浸炭処理後の状態を示す写真である。 図5(A)は、図4の写真にレーザビームLBの走査方向DSと放射温度計20の測定ポイントPDを追記したものである。図5(B)は、レーザビームLBを走査したときのワークWの表面温度の変化を示すグラフである。 図6(A)~(C)は、処理ガスの濃度の違いによる表面温度の変化を示すグラフである。 図7(A)~(B)は、処理回数による表面温度の変化を示すグラフである。 浸炭処理後のワークWの断面における炭素濃度分布を示すグラフである。 浸炭処理後に容器50内を排気して真空雰囲気で再度処理したワークWの断面における炭素濃度分布を示すグラフである。
図1は、本発明に係る表面硬化処理装置の一例を示す構成図である。表面硬化処理装置1は、レーザ光源10と、容器50と、ガス供給部60と、ガス排出部68と、コントローラ40などを備える。
レーザ光源10は、容器50の外部からワークWに向けてレーザビームLBを局所的に照射する。レーザ光源10は、例えば、半導体レーザ、ファイバレーザ、YAGレーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザなどで構成され、光源制御部11によって予め定めた出力のレーザビームLBが出射するように制御される。レーザ光源10には、各種光学系が装着され、予め定めた形状およびサイズの照射スポットがワークWの表面上に生成される。レーザ光源10の3次元位置(X,Y,Z座標)および3次元角度(θx,θy,θz)は、光源位置決め部12によって制御される。レーザビームLBを照射しながらレーザ光源10の3次元位置および3次元角度を変化させることによって、レーザビームLBの走査が可能になる。光源位置決め部12として、例えば、ロボットアーム、リニアステージ、回転ステージおよびこれらの組合せが使用できる。
容器50は、ワークWを配置するための内部空間を有する。容器50の天板には、レーザビームLBが通過するための窓51が設けられる。窓51は、レーザビームLBに対して損失が小さく、そして後述する放射温度計20の検出光に対しても損失が小さい材料で形成される。例えば、レーザ光源10として波長940nmの半導体レーザを使用する場合、窓51の材料として石英ガラスが使用できる。容器50は、空気、特に酸素を除去するために真空排気した後、処理ガスを予め定めた圧力に維持できるように気密性および耐圧性を有する。容器50には、ワークWの投入または取り出しのためのドア(不図示)が設けられる。
容器50の材料として、各種固体材料が使用できるが、本発明では、従来のような加熱炉を使用しないため、加熱炉の温度に耐える程度の耐熱性は不要になる。従って、容器50は、合成樹脂または、融点が比較的低い金属、例えば、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛もしくはこれらの金属を含む合金で製作でき、これにより表面硬化処理に必要な雰囲気を安価な容器50で実現できる。よって、従来のような大型加熱炉に要する設備費を大幅に削減できる。また、容器50は、窓51と同じ、もしくは同等の材質でも構わない。
容器50の合成樹脂として、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリウレタン(PUR)、ポリ乳酸、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、AS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ナイロン、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル(PEs)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート(GF-PET)、ポリテトラフロロエチレン(PTFE)、ポリサルフォン(PSF)、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)などが使用できる。
ガス供給部60は、容器50の内部空間に処理ガスを供給する。例えば、炭素を固溶する浸炭処理の場合、処理ガスとして、メタンガス、アセチレンガス、プロパンガスなどの炭化水素ガスが使用され、必要に応じて水素ガス、窒素ガス、アルゴンガスなども混合される。窒素を固溶する浸窒処理の場合は、処理ガスとして、アンモニアガスが使用され、必要に応じて水素ガス、窒素ガス、アルゴンガスなども混合される。ガス供給部60は、各種ガスを個別に保存する複数のタンクと、各種ガスの流量を調整する複数の流量調整バルブと、各種ガスを混合する混合バルブなどを備える。
ガス供給部60と容器50との間には、処理ガスを配送するチューブ61と、着脱可能なコネクタ62と、開閉バルブ63などが設置される。
ガス排出部68は、容器50の内部空間から処理ガスを排出するものであり、例えば、真空ポンプが使用される。容器50とガス供給部60との間には、開閉バルブ65と、着脱可能なコネクタ66と、処理ガスを配送するチューブ67などが設置される。また、ガス供給部60とガス排出部68との間にガス循環制御装置69を設置してもよく、これによりガス排出部68から排出されたガスをガス供給部60に戻して再利用することが可能である。
表面硬化処理が適用できる金属は、例えば鉄鋼であるが、本発明が減圧雰囲気下での処理であることを考慮すれば、酸素親和性の高いチタン、チタン合金やアルミニウム合金なども対象となり、ワークWはそれらの金属などで製作された部品、例えば、シャフト、軸受、歯車などの機械部品、あるいは、ドリル、バイト、エンドミル、リーマー、ダイスなどの切削工具が例示できる。本発明では、レーザビームによる局所加熱が可能であるため、シャフト、軸受、歯車などの表面の一部、例えば、キー溝や穴の奥だけ、あるいは切削工具の刃先の一部だけの表面硬化処理が可能である。これにより部品や工具の靱性を確保しつつ、相手部品と接触する部分だけを高強度にできる。
ワークWの3次元位置(X,Y,Z座標)および3次元角度(θx,θy,θz)は、ワーク位置決め部30によって制御される。レーザビームLBを照射しながらワークWの3次元位置および3次元角度を変化させることによって、レーザビームLBの走査が可能になる。ワーク位置決め部30として、例えば、ロボットアーム、リニアステージ、回転ステージおよびこれらの組合せが使用できるが、自動・電動に限定されず、必要に応じて手動式のジャッキなどを使用してもよく、厚みの異なる敷板を使用してもよい。また、それらの材質は、金属やセラミックス、あるいは合成樹脂など、いずれも使用可能であるが、レーザの照射位置近傍には、合成樹脂以外の材質を使用することが好ましい。
窓51の斜め上方には、ワークWの表面温度を計測するための放射温度計20が設置される。放射温度計20は、ワークWの加熱エリアから放射される赤外線の強度を測定して、加熱エリアの温度を測定する。温度測定は、レーザビームLBの走査に同期して、レーザビームLBの照射位置を測定することが好ましいが、照射位置の一部に固定して測定してもよい。放射温度計20からの信号は、信号処理部21によって処理される。
放射温度計20として、互いに異なる二つの測定波長における放射輝度の比を求めて温度に換算する2色放射温度計を使用することが好ましく、誤差が低減できる。また、放射温度計20には、窓51越しに透過する波長の赤外線を測定できる装置を使用することが好ましく、例えば、窓51が石英ガラス製である場合、波長が4μm以下の赤外線を計測できる装置が使用できる。
容器50には、内部空間の雰囲気、例えば、内部空間圧力、処理ガスの組成および濃度などを計測する雰囲気計測部55が設けられる。雰囲気計測部55は、圧力計や、ガスの吸収スペクトルのピーク波数とその強度からガス組成および濃度を計測する赤外分光ガス分析計などを含む。
コントローラ40は、コンピュータなどで構成され、光源制御部11、光源位置決め部12、信号処理部21、雰囲気計測部55、ガス供給部60、ガス排出部68およびガス循環制御装置69と有線または無線で通信可能なように電気接続される。これにより、1)レーザビームLBの出力、照射時間、3次元位置および3次元角度の制御および記録、2)ワークWの3次元位置および3次元角度の制御および記録、3)各種ガスの流量制御および記録、4)処理ガスの排出流量の制御および記録、5)内部空間の雰囲気の制御および記録などが可能になる。
次に表面硬化処理方法について説明する。最初に、容器50のドアを開いて内部空間に金属製のワークWを配置する(ステップS1)。
次にドアを閉じた後、ガス排出部68の動作により内部空間を真空排気する。予め定めた圧力に到達すると、開閉バルブ65を閉じ、ガス供給部60が動作して内部空間に処理ガスを供給する(ステップS2)。内部空間が予め定めた雰囲気に到達すると、開閉バルブ63を閉じて内部空間を密閉する。また、ガス循環制御装置69を介して容器内の密閉空間の雰囲気を制御する場合、必ずしも開閉バルブ63,65を閉じて密閉状態を維持する必要はなく、開閉バルブ63,65を開いたまま容器内の処理ガスを循環させ、表面硬化処理をしてもよい。
次にレーザ光源10が動作して、容器50の外部から窓51を経由してワークWに向けてレーザビームLBを局所的に照射する。このときワークWの一部およびその近傍に存在する処理ガス、例えば、ワークWの表面に吸着した処理ガスが約1200~約1300℃まで短時間で加熱される。そして、処理ガスの分解により生ずる表面硬化に寄与する成分元素を固相状態のワークWに固溶させ、直後に焼入れして、ワークWの表面を部分的に硬化させる(ステップS3)。レーザビームによる加熱は、局所的かつ短時間であるため、加熱後は瞬時に自己冷却により焼入れされるが、油や水などを使用して、焼入れしてもよい。
このとき放射温度計20がワークWの表面温度を計測し、計測された表面温度に基づいてコントローラ40がレーザビームLBの出力を調整することにより、処理温度の安定化が図られる。さらに、計測された表面温度と、雰囲気計測部55で容器50内の処理ガス濃度を計測し、計測されたガス濃度とに基づいて、コントローラ40が処理ガスの流量を調整することにより、なお、表面硬化処理の安定化が図られる。また、レーザビームLBを照射しながらレーザ光源10およびワークWの一方または両方を走査することにより、線状エリアまたは面状エリアの表面硬化処理が可能になる。
硬化処理が終了すると、コントローラ40は、レーザビームLBの照射を停止し、ガス供給部60およびガス排出部68の動作を停止する(ステップS4)。そして容器50のドアを開いて、ワークWを外部に取り出す。
このようにレーザビームの照射により、予備加熱することなく、ワーク表面を室温から、既存の加熱炉では実現不可能な1200℃を超える温度域にまで瞬間的に加熱できるため、工業的に数時間を要する表面硬化処理を数秒から数十分以内の極めて短時間で実施することが可能になる。また、本発明に係る手法は、多品種少量生産の処理やワーク内の局所的な処理に好適である。
図2(A)は、容器50の一例をほぼ上方から撮影した写真である。図2(B)は、容器50の一例をほぼ正面から撮影した写真である。容器50は直方体形状であり、天板、壁板および底板はアクリル樹脂製であり、接着とビス止めで固定される。容器50の前側壁には、ワークWにアクセスするためのドア52が設けられる。天板には、石英ガラス製の窓51が設けられ、リング部材のビス止めによって固定される。容器50は、例えば、外寸200mm×200mm×100mm(突起は除く)、内寸160mm×160mm×60mmである。窓51は、例えば、直径90mmの円形である。
図3(A)は、ワーク位置決め部30の一例を示す斜視図である。図3(B)は、ワーク位置決め部30の他の例を示す斜視図である。図3(A)において、ワークWは、円柱形状であり、その中心軸が鉛直方向に対して平行になるように設置される。ワーク位置決め部30は、ワークWの中心軸の周りに回転する回転ステージとして構成される。レーザビームLBは、水平方向に進行し、ワークWの外周面を局所的に照射する。
図3(B)において、ワークWは、円柱形状であり、その中心軸が鉛直方向に対して垂直、即ち、水平方向になるように設置される。ワーク位置決め部30は、ワークWの中心軸の周りに回転する回転ステージとして構成される。レーザビームLBは、鉛直方向に進行し、ワークWの外周面を局所的に照射する。
次に表面硬化処理の具体的な実施例について説明する。ワークWは、クロムモリブデン鋼(材質SCM415)製の棒材(直径50mm)をスライスし、その後小判型の形状に加工し、さらに表裏を研削して3mm厚とした。
次にワークWを容器50の内部空間に投入し、ワーク位置決め部30の上に配置した。このときワークWの表面から窓51の内面までの距離は約10mmであった。
次に容器50のドアを閉めた後、開閉バルブ63,65を開き、ガス排出部68を動作させて容器50の内部空間を排気した後、開閉バルブ65のみを閉めた。
次にガス供給部60を動作させて、プロパンガスを内部空間に供給し、所定時間経過後に開閉バルブ63を閉じて内部空間を密閉した。
次に放射温度計20を窓51の斜め上方にセットした。使用した放射温度計は、波長が1.52μmと1.64μmの赤外線を計測して温度を測定する2色タイプのもので、ガラス越しに測定することができる。測定可能温度範囲は550~2500℃である。また、測定誤差を小さくするために、信号強度が10%以上の範囲のみ温度を測定するよう設定した。
次にレーザ光源10を動作させて、容器50の外部からワークWに向けてレーザビームLBを照射しながら移動させて、ワークW上で照射スポットを走査し、浸炭処理を行った。
図4は、ワークWの浸炭処理後の状態を示す写真である。処理条件は、光源:半導体レーザ、波長:940nm、レーザ出力:640W、照射スポット:約5mm×約5mmの正方形、走査速度:0.5mm/秒、走査距離:20mm、走査方向:写真の左から右、雰囲気:C(プロパンガス)、最高到達温度:1260℃である。図4を見ると、明るいグレー部が浸炭処理部であり、その表面には研削跡が残っており、適正な処理条件を選択することにより、溶融せずに固相状態が維持されていたことが判る。
図5(A)は、図4の写真にレーザビームLBの走査方向DSと放射温度計20の測定ポイントPDを追記したものである。図5(B)は、レーザビームLBを走査したときのワークWの表面温度の変化を示すグラフである。横軸は、時間tである。曲線CAは、ワークWの表面温度(℃)である。測定ポイントPDは、ワークWに対して固定しており、レーザビームLBのみが移動した。レーザビームLBの出力は640W、その移動速度は0.5mm/秒であった。
曲線CAを見ると、既存の設備では実現困難な1200℃以上の温度になる期間TSが約7秒であった。また、ワークWのみを局所的かつ瞬間的に高温に加熱するため、容器50の材料(アクリル樹脂)は全く溶けなかった。
図6(A)~(C)は、処理ガスの濃度の違いによる表面温度の変化を示すグラフである。処理条件は、光源:半導体レーザ、波長:940nm、レーザ出力:640W、照射スポット:約5mm×約5mmの正方形、走査速度:0.5mm/秒、雰囲気:C(プロパンガス)である。図6(A)は、低いガス濃度で、最高到達温度1278℃を示した。図6(B)は、中間のガス濃度で、最高到達温度1060℃を示した。図6(C)は、高いガス濃度で、最高到達温度549℃を示し、即ち、放射温度計による測定可能温度範囲を下回った。
浸炭は、炭化水素ガスが分解することにより炭素がワークWの中に固溶する現象である。炭化水素ガスの反応は何段階かを経て進むことが多く、最後に炭素に分解される。例えば、プロパンガスの分解プロセスは、下記の式で表される。
→ CH+C →・・・→ 3〔C〕+4H(〔C〕は鋼中の炭素)
これらの反応は吸熱反応であるため、ガスの分解により熱が奪われる。したがって、外部からの入熱がこの反応にも消費されるため、入熱エネルギーがすべてワークWの昇温に寄与するわけではなく、同じ入熱量でも雰囲気中のガス量、即ち、ガスに含まれる炭素量によって加熱状態が異なる。特に、レーザビームを利用した浸炭は、ワークWを局所的にしか加熱できないため、入熱の絶対量も非常に少なくなる。
そのため、図6(A)に示すように、適正なガス濃度で浸炭をした場合(ガス濃度:低)は、最高到達温度が1278℃に達し、浸炭も高速で進行する。しかしながら、ガス濃度が少し高くなると、図6(B)に示すように、同じ照射条件であっても最高到達温度が1060℃になり、浸炭は高速で進まない。さらに濃度が高くなると、図6(C)に示すように、放射温度計で計測可能な下限値550℃よりも低くなり、浸炭が起こらない。即ち、照射条件が全く同じであっても、ガス濃度、即ち、ガスに含まれる炭素量の違いよって、550℃以下から1300℃超まで大きく変動するため、レーザビームを利用した浸炭の高速化には、各種ガス量の制御が重要であることが判る。
また、浸窒処理で使用されるアンモニアガスにおいては、ガスの分解プロセスは下記の式で表される。
NH→ 〔N〕+3/2H(〔N〕は鋼中の窒素)
このガスの分解反応も吸熱反応であるためガス量の制御が重要であるが、レーザビームを利用した浸窒は、アンモニアガスをワークWの表面近傍のみで分解することが可能なため、効率的かつ高速で窒素を固溶させることが可能となる。
図7(A)~(B)は、処理回数による表面温度の変化を示すグラフである。処理条件は、光源:半導体レーザ、波長:940nm、レーザ出力:640W、照射スポット:約5mm×約5mmの正方形、走査速度:0.5mm/秒、走査距離:15mm、雰囲気:C(プロパンガス)である。図7(A)は、1回目のレーザ照射で、最高到達温度1278℃を示した。図7(B)は、2回目のレーザ照射で、最高到達温度1284℃を示した。いずれもほぼ同じ最高到達温度が達成され、非常に安定していることが判る。
さらに、密閉状態を維持したまま、複数回のレーザ照射を実施したが、問題なく浸炭処理できた。つまり、複数回の浸炭処理によりガス中の炭素が消費されると、品質が不安定になることが懸念されるが、ワークWに対して十分大きな容積を有する容器50を使用し、ガスの流量制御を適正に行えば、安定して浸炭することが可能となる。これは密閉状態に限らず、処理ガスを循環させ浸炭する場合においても、瞬間的な炭素濃度変動に瞬時に対応するために、ワークWに対して十分大きな容積を有する容器50を使用し、ガスの流量制御を行うことが、レーザビームを利用した浸炭処理には好ましい。
このように、適切な容積を有する容器50を使用し、雰囲気計測部55からの信号に基づいて各種ガスの流量制御を行うことによって、内部空間の雰囲気をフィードバック制御することが好ましい。さらに、雰囲気濃度とワークWの表面温度とは相関性があることから、ワークWの表面温度を放射温度計20で計測し、計測された表面温度に基づいて光源制御部11によりレーザビームの出力を調整することも好ましく、これにより表面硬化処理の品質安定化が図られる。
図8は、浸炭処理後のワークWの断面における炭素濃度分布を示すグラフである。横軸は表面からの距離(mm)、縦軸は炭素濃度(%)である。ワークWは、クロムモリブデン鋼(材質SCM415)である。グラフを見ると、表面(0mm)で炭素濃度は約1.2%、深さ0.05mmで炭素濃度は約0.4%、深さ約0.10mmまで浸炭が進行していることが判る。このグラフは、ワークWと窓51の間の距離が約10mmである場合を示すが、約2mmである場合も同様な結果が得られた。
このグラフは一度だけ照射した結果を示すが、ワークWの同じ処理部分に対してレーザ照射を複数回繰り返すことによって浸炭をより深くすることが可能である。ただし、浸炭する過程で表面の炭素濃度が上昇すると、ワークWの融点が下がるため、同じ照射条件であっても表面が溶融し易くなる傾向がある。その場合、浸炭雰囲気でレーザ照射を行った後、内部空間の減圧または不活性ガスの追加によってガス濃度を低下させた状態でレーザ照射を行い、さらに続いて浸炭雰囲気に戻してレーザ照射を行うことによって、表面の炭素濃度を抑えつつより深く浸炭することが可能になる。
図9は、浸炭処理後に容器50内を排気して真空雰囲気で再度処理したワークWの断面における炭素濃度分布を示すグラフである。横軸は表面からの距離(mm)、縦軸は炭素濃度(%)である。ワークWは、クロムモリブデン鋼(材質SCM415)である。減圧下での処理条件は、レーザ出力:600W、照射スポット:約5mm×約5mmの正方形、走査速度:0.5mm/秒である。表面(0mm)での炭素濃度は約0.6%に低下するが、深さ0.1mmでの炭素濃度は約0.2%になり、浸炭深さも約0.15mmに増加している。すなわち、真空雰囲気での加熱処理により、表面の炭素濃度が下がり、内部の炭素濃度が高まる。これにより、表面が溶融することなく、さらに浸炭処理を施すことが可能となり、この手法がレーザビームを利用した浸炭に非常に効果的であることが判る。
浸炭雰囲気でのレーザ照射と、真空雰囲気を含めたガス濃度の低い態囲気でのレーザ照射は、交互に一度ずつ行ってもよく、どちらか片方あるいは両方を複数回ずつ交互に実施してもよい。一度の処理時間が非常に短いので、複数回の処理を経ても数十分以内で処理は完了する。こうした異なる雰囲気での複数回のレーザ照射により、表面での炭素濃度の増加を抑制できるようになり、より深い浸炭と品質安定化が図られる。
本発明は、ワークの一部に対する表面硬化処理を短時間で実施でき、固相状態のワークで実現できる点で産業上極めて有用である。
10 レーザ光源
11 光源制御部
12 光源位置決め部
20 放射温度計
30 ワーク位置決め部
40 コントローラ
50 容器
51 窓
55 雰囲気計測部
60 ガス供給部
68 ガス排出部
69 ガス循環制御装置
LB レーザビーム
W ワーク

Claims (12)

  1. 容器の内部空間に金属製のワークを配置するステップと、
    該内部空間に処理ガスを供給するステップと、
    前記容器の外部から前記ワークに向けてレーザビームを局所的に照射し、前記ワークの一部およびその近傍にある処理ガスを加熱し、処理ガスの分解により生ずる表面硬化に寄与する成分元素を固相状態の前記ワークに固溶させ、直後に焼入れして、前記ワークの表面を部分的に硬化させるステップと、
    該内部空間から処理ガスを排出するステップと、
    排出された処理ガスを再び該内部空間に戻すステップと、を含む表面硬化処理方法。
  2. 前記レーザビームの局所的照射スポットが正方形である、請求項1に記載の表面硬化処理方法。
  3. 前記容器は、合成樹脂または、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛もしくはこれらの金属を含む合金で製作される請求項1に記載の表面硬化処理方法。
  4. レーザビームを照射するステップにおいて、内部空間を第1雰囲気に維持した状態で前記ワークに向けてレーザビームを少なくとも1回照射し、続いて内部空間を第1雰囲気とは異なる第2雰囲気に維持した状態で前記ワークの前回照射した部分に向けてレーザビームを少なくとも1回照射する、請求項1に記載の表面硬化処理方法。
  5. 処理ガスとして炭化水素ガスを使用し、処理ガスの分解により生ずる炭素を前記ワークに固溶させる請求項1~のいずれかに記載の表面硬化処理方法。
  6. 処理ガスとしてアンモニアガスを使用し、処理ガスの分解により生ずる窒素を前記ワークに固溶させる請求項1~のいずれかに記載の表面硬化処理方法。
  7. 内部空間に金属製のワークを配置するための容器と、
    該内部空間に処理ガスを供給するためのガス供給部と、
    該内部空間から処理ガスを排出するためのガス排出部と、
    前記ガス供給部と前記ガス排出部との間に設けられ、処理ガスを循環させるためのガス循環制御装置と、
    前記容器の外部から前記ワークに向けてレーザビームを局所的に照射するためのレーザ光源と、を備え、
    レーザビームの局所照射により、前記ワークの一部およびその近傍にある処理ガスを加熱し、処理ガスの分解により生ずる表面硬化に寄与する成分元素を固相状態の前記ワークに固溶させ、直後に焼入れして、前記ワークの表面を部分的に硬化させる、表面硬化処理装置。
  8. 前記レーザビームの局所的照射スポットが正方形である、請求項7に記載の表面硬化処理方法。
  9. 前記容器は、合成樹脂または、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛もしくはこれらの金属を含む合金で製作される請求項に記載の表面硬化処理装置。
  10. 前記レーザビームの照射中に前記ワークと前記レーザビームを相対的に移動させるための走査機構をさらに備える請求項7~9のいずれかに記載の表面硬化処理装置。
  11. 前記ワークの表面温度を計測するための放射温度計と、
    計測された表面温度に基づいて、前記レーザ光源を制御して前記レーザビームの出力を調整するためのコントローラと、をさらに備える請求項7~10のいずれかに記載の表面硬化処理装置。
  12. 前記内部空間の処理ガス濃度を計測するための雰囲気計測部と、
    前記ワークの表面温度を計測するための放射温度計と、
    計測された前記処理ガス濃度と表面温度に基づいて、前記ガス供給部と前記ガス排出部を制御して前記処理ガス濃度を調整するためのコントローラと、をさらに備える請求項7~10のいずれかに記載の表面硬化処理装置。
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