JP7429500B2 - 角膜上皮障害治療剤 - Google Patents

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本発明は、角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤に関する。
角膜上皮障害は、外傷、白内障手術等の手術後、コンタクトレンズ装用又は薬剤の点眼等による外的要因、あるいは、シェーグレン症候群、スチーブンス・ジョンソン症候群又はドライアイ等の内的要因に伴い発症する。角膜上皮障害が発生した場合、薬剤性の要因によるものは当該薬剤の休薬も選択されるが、一般には点眼薬による治療が行われる。
角膜上皮障害治療用の点眼薬の有効成分としては、現在、ヒアルロン酸ナトリウムが主流であり、ドライアイを伴う角膜上皮障害ではジクアホソルナトリウム、レバミピド等が使用されている。しかしながら、角膜上皮障害に対する治療薬の種類が少ないのが現状である。
薬剤性の角膜上皮障害は、特に緑内障患者で多く発症することが知られている。これは、緑内障の治療において、多剤併用するケースが多くなることと関係すると考えられている。また、緑内障治療の第一選択薬として汎用されているプロスタグランジン関連薬(PG関連薬)や交感神経β受容体遮断薬(β遮断薬)は、副作用として角膜上皮障害を惹起することも知られている。長期治療が必要となる疾患の特性を考慮すると、緑内障患者に対しては、眼圧下降効果のみならず、角膜上皮への影響も考慮した薬剤の使用がより好ましい。
角膜上皮障害の発症メカニズムに関連する知見として、近年、PG関連薬により角膜上皮細胞の上皮成長因子(EGF)の発現が過剰に亢進され、未分化な上皮細胞の増殖が誘導されること、及び、細胞間接着分子であるE-cadherinの局在部位がPG関連薬の投与により変化し、細胞辺縁部のみならず細胞質内へも蓄積するようになることの報告がある(非特許文献1、2)。また、β遮断薬においては、角膜のバリア機能低下が誘導されることが角膜上皮障害の原因になると考えられている(非特許文献3)。さらに、点眼薬に添加されることが多い塩化ベンザルコニウムには角膜上皮障害を誘発する作用が知られている。
角膜上皮障害治療の新たな有効成分として、Rhoキナーゼ阻害剤が研究されている。Rhoキナーゼ阻害剤として知られているY-27632は、細胞増殖によらず、細胞間接着(E-cadherin)を減弱し、創傷部位への細胞遊走を促すことにより角膜上皮の創傷治癒を促すことが報告されている(非特許文献4)。一方で、Y-27632が角膜輪部の上皮細胞増殖促進により、角膜上皮創傷治癒を示すことも報告されている(非特許文献5)。また、Y-27632が三叉神経細胞の神経突起形成促進により、角膜知覚機能低下の改善および角膜知覚機能低下に伴うドライアイ症状の改善に有用であることも報告されている(特許文献1)。他にRhoキナーゼ阻害剤の作用として、ファスジルは血管新生抑制により(非特許文献6)、AMA0076は角膜上皮の再分化促進、角膜混濁の回復能により(非特許文献7)、角膜上皮欠損に対する修復効果を奏することが動物モデルにおいてそれぞれが示されている。
Rhoキナーゼ阻害剤を含有する眼疾患治療薬としては、リパスジル塩酸塩水和物(4-フルオロ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン一塩酸塩二水和物)を有効成分とする「グラナテック(登録商標)点眼液0.4%」が、緑内障・高眼圧症治療剤として市販されている。
リパスジルは、緑内障・高眼圧症への治療効果の他、眼底疾患治療(特許文献1)、角膜厚調節(特許文献2)、白内障術後合併症の予防治療(特許文献3)や眼圧下降増強(特許文献4)に有用であることが知られている。しかし、角膜上皮障害に対するリパスジルの作用については何ら知られていない。
WO2004/091662号 特許第5557408号公報 WO2016/047647号 特開2017-61440号公報 WO2017/038856号
第119回日本眼科学会総会(2015) P-062 第120回日本眼科学会総会(2016) O2-239 Niiya A et al.,Jpn. J. Ophthalmol. 49(3), 395-397, 1995 Yin J et al., Am. J. Physiol. Cell Physiol., 295, C378-C387, 2008 Sun C-C et al., PLoS ONE, 10(12), e0144571, 2015 Zeng P et al., Molecular Vision, 21, 688-698, 2015 Defert O et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 56, 5610, 2015
本発明の課題は、角膜上皮障害予防及び/又は治療のための新たな手段を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物が、角膜上皮障害の予防及び/又は治療に有用であることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、以下の(1)~(27)を提供するものである。
(1)リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物を含有する角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤。
(2)角膜上皮障害が、点状表層角膜症、角膜上皮欠損又は糸状角膜炎である(1)に記載の角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤。
(3)リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物が、リパスジル一塩酸塩二水和物である(1)又は(2)に記載の角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤。
(4)点眼剤である、(1)から(3)のいずれか1に記載の角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤。
(5)対象に対してリパスジル若しくはその塩又はそれらリパスジル若しくはその塩の溶媒和物を含む医薬組成物の有効量を投与することを特徴とする、角膜上皮障害の予防及び/又は治療方法。
(6)角膜上皮障害が、点状表層角膜症、角膜上皮欠損又は糸状角膜炎である(5)に記載の方法。
(7)リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物が、リパスジル一塩酸塩二水和物である(5)又は(6)に記載の方法。
(8)医薬組成物が点眼剤である、(5)~(7)のいずれか1に記載の方法。
(9)対象が角膜上皮障害を有するヒト患者である、(5)~(8)のいずれか1に記載の方法。
(10)対象が緑内障に罹患したヒト患者である、(5)~(9)のいずれか1に記載の方法。
(11)投与が点眼によって行われる、(5)~(10)のいずれか1に記載の方法。
(12)角膜上皮障害の予防及び/又は治療における使用のための、リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物を含有する医薬組成物。
(13)角膜上皮障害が、点状表層角膜症、角膜上皮欠損又は糸状角膜炎である(12)に記載の医薬組成物。
(14)リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物が、リパスジル一塩酸塩二水和物である(12)又は(13)に記載の医薬組成物。
(15)点眼剤である、(12)~(14)のいずれか1に記載の医薬組成物。
(16)リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物を含有する医薬組成物がグラナテック(登録商標)点眼液0.4%である(15)に記載の医薬組成物。
(17)予防及び/又は治療が医薬組成物の点眼によって行われる(12)~(16)のいずれか1に記載の医薬組成物。
(18)角膜上皮障害が、外傷、手術、コンタクトレンズ装用、及び薬剤の点眼からなる群から選択される外的要因に起因するものである(12)~(17)のいずれか1に記載の医薬組成物。
(19)外的要因が薬剤の点眼である(18)に記載の医薬組成物。
(20)角膜上皮障害が緑内障に合併したものである(12)~(19)のいずれか1に記載の医薬組成物。
(21)予防及び/又は治療がPG関連薬及び/又はβ遮断薬の投与と組み合わせて行われる、(20)に記載の医薬組成物。
(22)組み合わせ投与がPG関連薬及び/又はβ遮断薬の投与と同時に行われる(21)に記載の医薬組成物。
(23)組み合わせ投与がPG関連薬及び/又はβ遮断薬の投与と異時に行われる(21)に記載の医薬組成物。
(24)角膜上皮障害の予防及び/又は治療用の医薬組成物の製造のための、リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物の使用。
(25)角膜上皮障害が点状表層角膜症、角膜上皮欠損又は糸状角膜炎である(24)に記載の使用。
(26)リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物が、リパスジル一塩酸塩二水和物である(24)又は(25)に記載の使用。
(27)医薬組成物が点眼剤である、(24)~(26)のいずれか1に記載の使用。
本発明は、角膜上皮障害の発生を抑制し、及び/又は、角膜上皮障害の修復を促進させるための角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤を提供するものである。また、本発明の角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤は、患者の負担が少ない点眼剤として提供することができる。
図1は、リパスジル、PG並びにこれらの併用による、マウス角膜上皮細胞の細胞接着及び細胞増殖関連蛋白質の発現に与える影響を示す写真である。パネルは上段から順に、上皮成長因子受容体(EGFR)、E-カドヘリン(E-cadherin)、ZO-1、P-FAK、及びP-ERKに関する免疫組織化学染色の結果を示す。 図2は、リパスジル、PG(Travoprost)並びにこれらの併用による、マウス角膜上皮欠損に対する修復効果を示す。バーは、左から順に、PBS点眼群(Control)、トラボプロスト点眼群(Travoprost)、トラボプロストおよびリパスジル併用点眼群(Travoprost+Ripasudil)およびリパスジル点眼群(Ripasudil)の結果を示す。図中、*はp<0.05、**はp<0.01の有意差が認められたことをそれぞれ示す。
本発明におけるリパスジルは、サブスタンスP拮抗作用、ロイコトリエンD4拮抗作用及びRhoキナーゼ阻害作用を有する化合物である。リパスジルを有効成分として含有する薬剤であるグラナテック(登録商標)点眼液0.4%は、緑内障、高眼圧症の治療薬として製造・販売されている。なお、リパスジルは、公知の方法、例えば、国際公開第99/20620号に記載の方法により製造することができる。
リパスジルの塩としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、臭化水素酸等の無機酸の塩、又は酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸等の有機酸の塩が挙げられ、特に塩酸塩が好ましい。
リパスジル又はその塩は、非溶媒和物のみならず水和物等の溶媒和物としても存在することができる。水和物が好ましいが、本発明においては、全ての結晶型及び水和若しくは溶媒和物を含むものである。特に好ましいリパスジル又はその塩の溶媒和物は、リパスジル一塩酸塩二水和物である。水和物をはじめとする溶媒和物は、いずれも公知の方法によって適宜調製することができる。
本発明において、角膜上皮障害としては、点状表層角膜症(superficial punctate keratopathy:SPK)、角膜上皮欠損(corneal erosion、角膜びらんともいう)、糸状角膜炎(filamentary keratitis)、薬剤性角膜上皮障害、ハリケーン角膜症、偽樹枝状角膜炎(epithelial crack line)等が例示できる。点状表層角膜症とは、表層の角膜上皮細胞が多発性に脱落した状態として知られ、その原因として、ドライアイや点眼薬による細胞毒性等が知られている。角膜上皮欠損とは、角膜上皮全層が面状に脱落した状態として知られ、外傷、コンタクトレンズの過装用やPG関連薬の継続投与などで見られることが知られている。特に、実質面の基質異常や基底膜異常で上皮の創傷治癒が遅れている状態を、遅延性上皮欠損という。糸状角膜炎とは、涙液の分布障害をベースに一部の上皮が線状(糸くず状)に異常成長した状態として知られ、ドライアイで好発することが知られている。ハリケーン角膜症とは、SPKが角膜周辺部から中央に移り、角膜上皮基底細胞の増殖によって眼表面を被覆しきれない場合に生じることが知られている。偽樹枝状角膜炎とは、毒性の強い点眼薬や多種類の点眼併用により角膜が障害された際に、角膜上皮の中央部に水平方向に直線状や分岐のあるひび割れ状のラインを認めることが知られている。
後記実施例で示されるように、リパスジルは細胞増殖に関与するERKシグナルを活性化し、正常な角膜上皮細胞の増殖を促進すると考えられる。また、リパスジルは細胞間接着因子であるZO-1、E-cadherinの発現を維持し、角膜上皮における細胞間接着にも寄与すると考えられる。角膜上皮が創傷された場合、リパスジルが有するこれらの作用により角膜上皮細胞を正常に増殖させることで創傷が修復されると考えられる。
また、後記実施例で示されるように、リパスジルはPGを使用した場合に生じる上皮成長因子受容体(EGFR)の過剰発現に伴う未分化な角膜上皮細胞の増殖、及びE-cadherinの細胞質内への局在変化を抑制する。これらの作用により、リパスジルは未熟な角膜上皮細胞層の形成を抑制し、細胞接着を維持しつつ正常な細胞を増殖させることで、PGによる角膜上皮障害を修復すると考えられる。緑内障治療の第一選択薬として汎用されるPG関連薬との併用により、PG関連薬による角膜上皮障害を予防又は治療できることから、長期治療、多剤併用となる緑内障患者(特に角膜上皮障害のある患者)への治療薬としても有用である。当該併用はPG関連薬とリパスジルを有効成分とする医薬製剤との同時投与であっても、異時投与であっても良い。また、リパスジルを有効成分とする医薬製剤との併用において、β遮断薬が用いられても良い。ここで、PG関連薬の有効成分としては、ラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト又はビマトプロスト等が例示できる。また、β遮断薬の有効成分としては、チモロール、カルテオロール、ベタキソロール又はレボブノロール、又はそれらの塩等が例示できる。
本発明の「角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤」は、当該分野で汎用されている通常の製剤化技術により、眼局所投与に適した剤型に製剤化される。剤型としては、例えば、点眼剤や眼軟膏が好ましいが、これに限定されるものではない。好ましい製剤としては、投与の容易さから点眼剤が挙げられる。
本発明の点眼薬は、本発明の有効成分であるリパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び点眼薬に許容される担体を含有するものであり、市販品である「グラナテック点眼液0.4%」をそのまま用いることもできる。
点眼剤を調製する場合、例えば、所望な上記成分を滅菌精製水、生理食塩水等の水性溶剤、又は綿実油、大豆油、ゴマ油、落花生油等の植物油等の非水性溶剤に溶解又は懸濁させ、所定の浸透圧に調整し、濾過滅菌等の滅菌処理を施すことにより行うことができる。なお、眼軟膏剤を調製する場合は、前記各種の成分の他に、軟膏基剤を含むことができる。前記軟膏基剤としては、特に限定されないが、ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレン等の油性基剤;油相と水相とを界面活性剤等により乳化させた乳剤性基剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール等からなる水溶性基剤等が好ましく挙げられる。
リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物を本発明の「角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤」に用いる場合、その投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して、リパスジルとして、1日0.025~10000μg、好ましくは0.025~2000μg、より好ましくは0.1~2000μg、さらに0.025~200μg、0.025~100μgの範囲が挙げられる。
点眼剤として使用する場合には、有効成分を約0.0001~5w/v%、好ましくは約0.01~4w/v%の濃度で使用することができる。投与期間は、症状に応じて任意に設定すれば良く、長期間の継続的な投与とすることも可能である。
また、投与回数は、特に限定されないが、1日に1回又は数回に分けて投与するのが好ましい。液体点眼剤の場合は、1回に1~数滴点眼すればよい。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
(ex vivoにおける角膜上皮組織における発現解析)
野生型マウス(C57/BL6マウス;日本SLC社より購入;8週齢、n=24)を屠殺後、眼球を摘出した。摘出眼球をDME/F12(1:1)培地(gibco社;無血清)において、リパスジル(10μM用時調製/興和株式会社提供)及び/又はプロスタグランジン(travoprost、0.0004mg/ml、SIGMA社)添加、又は非添加の条件で24時間培養した。
培養後、組織を固定し、パラフィン包埋切片を作成し、免疫組織化学染色を行った。細胞間接着分子であるE-カドヘリン(E-cadrerin)及びZO-1、並びに、角膜上皮細胞の増殖に関与する上皮成長因子受容体(EGFR)、シグナル伝達に関与するP-FAK、及びP-ERKのそれぞれについて免疫組織化学によるタンパク質の発現解析を行い、細胞動態(増殖、接着、シグナル)に対するリパスジルの影響を検討した。FAK及びERKは、それぞれタンパク質のリン酸化を通じて細胞接着及び細胞増殖に関連するシグナルをそれぞれ下流に伝達することが知られている。免疫組織化学染色において、抗EGFR抗体(abcam社)、抗E-cadherin抗体(Santa Cruz Biotechnology社)、抗ZO-1抗体(Santa Cruz Biotechnology社)、抗リン酸化FAK(P-FAK)抗体(abcam社)、及び抗リン酸化ERK(P-ERK)抗体(Thermo社)を使用した。EGFR、E-cadherin、ZO-1、P-FAK及びP-ERKの発現部位や発現量は、それぞれ、使用した二次抗体のラベルであるFITCに由来する緑色のシグナルとして観察され、図1中に示されている。また、ex vivoでの角膜組織を観察する目的でDAPIによる染色も行い、上皮組織における細胞核の位置が青紫色のシグナルとして観察され、図1中に併せて示されている。
(結果)
解析結果は、図1に図示される。
パネルは上段から順に、上皮成長因子受容体(EGFR)、E-カドヘリン(E-cadherin)、ZO-1、P-FAK、及びP-ERKに関する免疫組織化学染色の結果を示している。また、各段のパネルは、左から順に、無処理(Control)、プロスタグランジン処理(PG)、PG及びリパスジル処理(PG+Ripasudil)、及びリパスジル処理(Ripasudil)における結果を示している。
リパスジル処理において、対照と比してリン酸化FAK及びリン酸化ERKの発現増強が認められたが、EGFR、E-カドヘリン及びZO-1についての発現増強は認められなかった。
この結果、すなわち、FAK及びERKはEGFのシグナル伝達経路の一つであるが、EGFRの発現増強なくリン酸化FAKやリン酸化ERKの発現増強が認められたことから、リパスジル処理によってEGFRを介さないEGFシグナルとのクロストーク作用が生じていると考えられる。
また、プロスタグランジン処理において、EGFRの発現増強、及びE-cadherinの細胞質内への局在変化が認められたが、これらの作用はいずれもリパスジルとプロスタグランジンとの併用処理においては認められなかった。
この結果、すなわち、プロスタグランジンによって誘導されるEGFRの発現に対してリパスジルが抑制作用を有すると考えられる。
以上により、リパスジルは角膜上皮組織における細胞増殖、細胞接着及び細胞増殖や細胞接着に関与するシグナル因子の発現を制御し、角膜上皮における障害の発生抑制及び/又は障害修復に寄与することが明らかになった。また、PGにより生ずるEGFRの発現増強やE-cadherinの細胞質内への局在変化を打ち消す作用をリパスジルが有することから、緑内障治療を目的とするPG等の薬物治療で二次的に生じる角膜上皮障害に対してリパスジルが予防及び/又は治療効果を奏することも明らかとなった。
(角膜上皮欠損の修復効果)
野生型マウス(C57BL/6Jマウス;日本SLC社より購入;5週齢)に対し、臨床用量のトラボプロスト(0.004%)を1日1回、7日間点眼した後、トレパンにて約2mmの角膜上皮創を作成した。創作成後フルオレセイン染色撮影を行い、PBS点眼群(Control、n=5)、トラボプロスト(0.004%)点眼群(Travoprost、n=5)、トラボプロスト(0.004%)およびリパスジル(0.4%)併用点眼群(Travoprost+Ripasudil、n=5)およびリパスジル(0.4%)点眼群(Ripasudil、n=6)に群分け、点眼し、創作成時を0時間として、以後6時間毎にフルオレセイン染色撮影並びに各薬剤の点眼投与を行った。画像データよりImage Jにて角膜上皮欠損面積を測定し、統計解析はTukey-Kramer法により行った。
(結果)
解析結果は、図2に図示される。縦軸は角膜上皮創面積(mm)を示す。
時間経過と共に創は閉塞し、PBS点眼群では創作成後36時間で全例で閉鎖に至った。これに対し、トラボプロスト点眼群では創作成後36時間でも半数以上で閉鎖に至らず、創作成前7日間投与からのトラボプロスト継続暴露による、角膜上皮欠損修復の遷延が示唆された。
これに対し、トラボプロストおよびリパスジル併用点眼群およびリパスジル点眼群では、創作成後12時間より角膜上皮欠損修復の促進傾向が見られ、その効果は24時間後においてPBS点眼群およびトラボプロスト点眼群に対し有意であった。また、創作成36時間後においては、併用点眼群、リパスジル点眼群は全例で閉鎖に至り、角膜上皮欠損修復作用はトラボプロスト点眼群に対し有意であった。
以上により、PG点眼による角膜上皮障害の遷延がリパスジル点眼により回復並びに修復促進されることが明らかとなった。従って、緑内障治療を目的とするPG等の薬物治療で二次的に生じる角膜上皮障害に対してリパスジルが予防及び/又は治療効果を奏することが、in vivoにおいても明らかとなった。
本発明によれば、リパスジル若しくはその塩又はそれらリパスジル若しくはその塩の溶媒和物を含む組成物を調製することにより角膜上皮障害を予防及び/又は治療のための薬剤を提供することができるので、産業上の利用可能性を有している。

Claims (4)

  1. リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物を含有する角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤であって、
    緑内障患者に対してプロスタグランジン関連薬(PG関連薬)及び/又は交感神経β受容体遮断薬(β遮断薬)の投与と組み合わせて投与されるものであ
    前記PG関連薬はラタノプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト又はビマトプロストを有効成分とするものであり、
    前記β遮断薬はチモロール、カルテオロール、ベタキソロール若しくはレボブノロール又はそれらの塩を有効成分とするものである、
    角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤。
  2. 角膜上皮障害が、点状表層角膜症、角膜上皮欠損又は糸状角膜炎である請求項1に記載の角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤。
  3. リパスジル若しくはその塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物が、リパスジル一塩酸塩二水和物である請求項1又は2に記載の角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤。
  4. 点眼剤である、請求項1から3のいずれか1項に記載の角膜上皮障害の予防及び/又は治療剤。
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