JP7424555B1 - 負極活物質および二次電池 - Google Patents

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Abstract

二次電池の重要な性質の一つである初期クーロン効率が高い二次電池を与える負極活物質、および前記負極活物質を含み、初期効率が高い二次電池を提供すること。Siナノ粒子または酸化ケイ素粒子の少なくともいずれか一方と、炭素質相とを含有し、前記炭素質相は前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子の少なくともいずれか一方を包埋し、前記炭素質相におけるXRD測定より求められる炭素002面の面間隔が0.340nmから0.38nmである負極活物質。

Description

本発明は負極活物質および前記負極活物質を含む二次電池に関する。
非水電解質二次電池は、携帯機器を始め、ハイブリット自動車や電気自動車、家庭用蓄電池などに用いられており、電気容量、安全性、作動安定性など複数の特性をバランスよく有することが要求されている。
このような二次電池としては、主に、リチウムイオンを層間から放出するリチウムインターカレーション化合物を負極物質に用いたリチウムイオン電池が知られている。例えば充放電時にリチウムイオンを結晶面間の層間に吸蔵放出できる黒鉛等の炭素質材料を負極活物質に用いた、各種リチウムイオン電池の開発が進み、実用化もされている。
さらに、近年、各種電子機器・通信機器の小型化およびハイブリッド自動車等の急速な普及に伴い、これら機器等の駆動電源として、より高容量であり、かつサイクル特性や放電レート特性等の各種電池特性が更に向上した二次電池の開発が強く求められている。
二次電池の性能向上の試みの一つとして、一般式SiOxで表されるケイ素化合物を有する非水電解質二次電池用負極活物質が記載されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の負極活物質粒子は前記ケイ素化合物の表面の少なくとも一部が炭素被膜で被覆されていることで、優れた導電性を有するとされている。さらに、炭素被膜の比表面積を特定の範囲とすることで、電池の電解液の含浸性が良好となり、また、炭素被膜の圧縮抵抗率を特定の範囲とすることで、負極活物質粒子の表面の導電性が充分となり、かつ、表面の電力集中によるLiの微小析出が起こり難いと考えられている。
一方、ケイ素粒子を含有する負極活物質を用いることで二次電池の性能向上も試みられている(例えば、特許文献2から特許文献4)。
特許文献2にはケイ素材料領域と、前記ケイ素材料領域の周囲に少なくとも一部において空隙を隔てて形成される、炭素材料による炭素材料領域とを含み、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折法により求められる前記炭素材料領域の(002)平均層面間隔d002が0.365nm以上0.390nm以下である電池用負極材料が記載されている。特許文献2の構成により充放電時のケイ素の膨張収縮が効率的に抑えられ、比容量とサイクル耐久性との両方が改良された二次電池が得られることが記載されている。
特許文献3にはシート状シリコンナノ粒子とそれを内包し、SiCの結合構造単位に帰属する29Si-NMRピークを有し、当量構成比が特定の範囲にある珪素系無機化合物を有するリチウムイオン二次電池負極活物質が開示されている。得られる二次電池は充放電特性が改良されることが記載されている。
特許文献4にはコアとして特定の直径を有する細孔内にケイ素粒子が封入された炭素をマトリクス、シェルとして非晶質炭素をベースとする非多孔質シェルであるコア-シェル複合粒子が開示されている。得られる二次電池は高いクーロン効率および後続のサイクルにおけるより安定した電気化学的挙動を示すことが記載されている。
特開2016-164870号公報 特開2019-125435号公報 特開2021-114483号公報 特許第6523484号公報
前記のとおり、ケイ素またはケイ素化合物を含有する負極活物質を種々改良することにより二次電池の性能向上が試みられている。
しかしながら得られる二次電池の性能は未だ十分とは言えず、負極活物質のさらなる改良が求められている。
本発明者らはSiナノ粒子または酸化ケイ素粒子とそれを包埋する炭素質相に着目し、充放電に伴うSiの体積の膨張収縮を効率的に抑制しつつ、負極活物質の電子伝導性の改良を目的に種々検討し、本発明を完成させるに至った。
即ち本発明は、二次電池の重要な性質の一つである重量当たりの容量が大きく、初期クーロン効率に優れた二次電池を与える負極活物質を提供することを目的とする。
本発明は、下記の態様を有する。
[1]
Siナノ粒子または酸化ケイ素粒子の少なくともいずれか一方と、炭素質相とを含有し、前記炭素質相は前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子の少なくともいずれか一方を包埋し、前記炭素質相におけるXRD測定より求められる炭素002面の面間隔が0.34nmから0.38nmである負極活物質。
[2]
乾燥空気流通下でのTG分析による100から800℃での質量減少率が10から70%である前記[1]に記載の負極活物質。
[3]
乾燥空気流通下でのTG分析による、重量増加開始温度が550℃以上である前記[1]または[2]に記載の負極活物質。
[4]
ケイ素系材料を0.1重量%から19重量%含む前記[1]から[3]に記載の負極活物質。
[5]
比表面積(BET)が0.01m/gから20m/gである前記[1]から[4]のいずれかに記載の負極活物質。
[6]
平均粒子径(D50)が0.5μmから10μmである前記[1]から[5]のいずれかに記載の負極活物質。
[7]
炭素被膜を有し、下記式(1)により定義される空隙率が7%以上20%以下、真密度が1.6g/cm以上2.0g/cm以下である前記[1]から[6]のいずれかに記載の負極活物質。
Figure 0007424555000001
(式(1)中、Vは空隙率(%)、ρは負極活物質内部の密度(g/cm)、ρ’は負極活物質全体の密度(g/cm)、ρ’’は炭素被膜の密度(g/cm)、Aは炭素被膜の量(質量%)をそれぞれ表す)
さらに本発明は、下記の態様を有する。
[8]
前記[1]から[7]のいずれかに記載の負極活物質を含む二次電池。
本発明によれば、二次電池の重要な性質の一つである初期クーロン効率が高く、電池特性のバランスに優れた二次電池を与える負極活物質および前記負極活物質を有する二次電池が提供される。
なお以下の記載においては、Siは「シリコン」と同一物質を表している。
本発明の負極活物質(以下、「本負極活物質」とも記す。)はSiナノ粒子または酸化ケイ素粒子の少なくともいずれか一方と、炭素質相とを含有し、前記炭素質相は前記Siナノ粒子を包埋し、前記炭素質相におけるXRD測定より求められる炭素002面の面間隔が0.34nmから0.38nmである。
二次電池の充放電による電気化学反応は2種類に大別される。一つは充放電時に起こる反応で、リチウムイオンの挿入および脱離反応である。もう一つは電解液中の溶媒や電解質および活物質表面で起こる副反応である。この副反応によりSEI(Solid Electrolyte Interface)が生成するため二次電池の初期効率が低下する。本負極活物質を二次電池に用いると、活物質表面の電気化学的な副反応が抑制され二次電池の初期クーロン効率が大きくなったと考えられる。
前記Siナノ粒子は0価のSiのナノ粒子である。ナノ粒子とは平均粒子径がナノオーダーの粒径を有する粒子であり、10nmから300nmが好ましく、20nmから250nmがより好ましく、30nmから200nmがさらに好ましい。また、負極活物質とした時の充放電性能と容量維持の観点から、Siナノ粒子の平均粒子径は100nm以下が好ましく、70nm以下がより好ましい。
ここで平均粒径とは体積平均粒子径のことであり、レーザー回折式粒度分析計などを用いて測定することができるD50の値である。D50は、レーザー粒度分析計などを用い動的光散乱法により測定することができる。Siナノ粒子の粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積50%となるときの粒子径である。
300nmを超える大サイズのSiナノ粒子は、大きな塊となり、負極活物質とした時、充放電時に微粉化現象が起きやすいため、負極活物質の容量維持率が低下する傾向が想定される。一方、10nm未満の小サイズのSiナノ粒子は細かすぎるため、Siナノ粒子同士が凝集しやすくなる。そのため、負極活物質中へのSiナノ粒子の分散性が低下する可能性がある。また、Siナノ粒子が細かすぎると、その表面活性エネルギーが高くなり、負極活物質の高温焼成でSiナノ粒子の表面上に副生成物などが多くなる傾向もある。これらが充放電性能の低下に繋がるおそれがある。
前記の観点から、Siナノ粒子は前記平均粒子径の範囲内であって、かつ300nmを超える大サイズと10nm未満の小サイズのSiナノ粒子ができるだけ少ない方が好ましい。
前記Siナノ粒子は、Si塊を粉砕などでナノ化することで製造することができる。このSiナノ粒子の存在によって、本負極活物質を二次電池としたときの充放電容量と初期クーロン効率を向上させることができる。
前記Siナノ粒子は、例えば平均粒径が前記範囲となるように0価のシリコン塊を粉砕などで粒子化し得ることができる。
Si塊をナノ粒子とするための粉砕に用いる粉砕機としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどの粉砕機が例示できる。また、粉砕は有機溶剤を用いた湿式粉砕であってもよく、有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類などを好適に用いることができるが、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素系溶剤も用いることができる。
得られたシリコン粒子を、ビーズ粒径、配合率、回転数または粉砕時間などのビーズミルの条件を制御し、分級等することでSiナノ粒子とすることができる。
Siナノ粒子の形状は、特に限定されるものではないが、負極活物質とした時の充放電性能の観点から、長軸方向の長さが70から300nmが好ましく、厚みは15から70nmが好ましい。負極活物質とした時の充放電性能の観点から、長さに対する厚みの比である、いわゆるアスペクト比が0.5以下であることが好ましい。
Siナノ粒子の形態は、動的光散乱法で平均粒径の測定が可能であるが、透過型電子顕微鏡(TEM)や電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)の解析手段を用いることで、前記アスペクト比のサンプルをより容易かつ精密に同定することができる。本負極活物質が前記Siナノ粒子を含む場合は、サンプルを集束イオンビーム(FIB)で切断して断面をFE-SEM観察すること、またはサンプルをスライス加工してTEM観察することによりSiナノ粒子の状態を同定することができる。
なお前記Siナノ粒子のアスペクト比は、TEM画像に映る視野内の主要部分に存在するサンプルの50粒子をベースにした計算結果である。
前記Siナノ粒子の比表面積は、電気容量と初期のクーロン効率の観点から、100m/gから400m/gが好ましい。
Siナノ粒子の比表面積は、電気容量と初期のクーロン効率の観点から、100m/gから300m/gがより好ましく、100m/gから230m/gがさらに好ましい。
なお前記比表面積はBET法により求めた値であり、窒素ガス吸着測定により求めることができ、例えば比表面積測定装置を用いて測定することができる。
Siナノ粒子の比表面積は次のように測定することが出来る。すなわち、液体窒素温度の相対圧0.5以下における窒素吸着量を複数点求め、BETプロットより、吸着熱C値が正でかつ、直線性の高い範囲で比表面積を計算する。
Siナノ粒子の形状は、粒状、針状、フレーク状のいずれでもよいが、結晶質が好ましい。Siナノ粒子が結晶質の場合、X線回折においてSi(111)に帰属される回折ピークから得られる結晶子径が5nmから14nmの範囲が、初期クーロン効率および容量維持率の観点から好ましい。結晶子径は12nm以下がより好ましく、さらに好ましくは10nm以下である。
前記酸化ケイ素粒子は、通常、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し析出して得られた非晶質の珪素酸化物の粒子の総称であり、下記一般式(1)で表される。
SiOn (1)
ただし、前記式(1)において、nは0.4以上1.8以下であり、0.5以上1.6以下が好ましい。
本負極活物質が酸化ケイ素粒子を含む場合、酸化ケイ素粒子の平均粒径が5μmを超えると酸化ケイ素粒子は大きな塊となり、本負極活物質を負極に用いた時、充放電時に酸化ケイ素粒子による負極活物質の大きな膨張収縮が起こる。その結果、炭素質相内の一部に応力が集中するため負極活物質の構造崩壊が起きやすく、負極活物質の容量維持率が低下する傾向がある。
一方、300nm未満の小サイズの酸化ケイ素粒子は細かすぎるため、酸化ケイ素粒子同士が凝集しやすくなる。そのため、負極活物質中への酸化ケイ素粒子の分散性が低下する可能性がある。また、酸化ケイ素粒子が細かすぎると、その比表面積が高くなり、負極活物質の高温焼成で酸化ケイ素粒子の表面上に副生成物などが多くなる傾向もある。これらが充放電性能の低下に繋がるおそれがある。
したがって、前記酸化ケイ素粒子の平均粒径は前記の観点から、3μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましい。また前記酸化ケイ素粒子の平均粒径は粒子分散性と比表面積の観点から、300nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましい。
ここで平均粒径は前記と同様D50の値である。D50は、前記のとおりである。
酸化ケイ素粒子は、例えば平均粒径が前記範囲となるように酸化ケイ素を粉砕などで粒子化し得ることができる。
粉砕に用いる粉砕機としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどの粉砕機が例示できる。また、粉砕は有機溶剤を用いた湿式粉砕であってもよく、有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類などを好適に用いることができるが、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素系溶剤も用いることができる。
得られた酸化ケイ素の粒子を、ビーズ粒径、配合率、回転数または粉砕時間などのビーズミルの条件を制御し、分級等することで酸化ケイ素粒子の平均粒径を前記範囲することができる。
酸化ケイ素粒子の形状は、粒状、針状、フレーク状のいずれでもよい。
酸化ケイ素粒子の形態は、動的光散乱法で平均粒径の測定が可能であるが、透過型電子顕微鏡(TEM)や電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)の解析手段を用いることで、前記アスペクト比のサンプルをより容易かつ精密に同定することができる。本負極活物質が前記酸化ケイ素粒子を含む場合は、サンプルを集束イオンビーム(FIB)で切断して断面をFE-SEM観察すること、またはサンプルをスライス加工してTEM観察することによりSiナノ粒子の状態を同定することができる。
なお前記酸化ケイ素粒子のアスペクト比は、TEM画像に映る視野内のサンプルの主要部分50粒子をベースにした計算結果である。
本負極活物質は前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子の少なくともいずれか一方を含有していればよく、前記Siナノ粒子および前記酸化ケイ素粒子の両方を含んでもよい。本負極活物質は前記Siナノ粒子および前記酸化ケイ素粒子の両方を含んでいるのが好ましい。
本負極活物質が前記Siナノ粒子および前記酸化ケイ素粒子の両方を含む場合、Siナノ粒子の表面に酸化ケイ素を有しているのが、初期容量ロスの抑制により初期クーロン効率に優れる観点から好ましい。
Siナノ粒子の表面に酸化ケイ素を有している場合、Siナノ粒子の表面がシリコンの酸化膜である二酸化ケイ素膜で被覆されているのが好ましい。
本負極活物質が有する炭素質相としては、例えば、結晶性炭素および非晶質炭素が挙げられる。結晶性炭素としては天然黒鉛または人造黒鉛等が挙げられ、非晶質炭素としては易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素等が挙げられる。
これら炭素質相は用途により所望の性能から適宜選択される。例えば、得られる二次電池のエネルギー密度の観点から、結晶性炭素を選択するのが好ましい。一方、充放電に伴う活物質の膨張収縮による電池耐久性の観点から、非晶質炭素を選択するのが好ましい。
二次電池の初期効率の観点から炭素質相は非晶質炭素が好ましい。
本負極活物質は炭素質相が前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子の少なくともいずれか一方を包埋している。すなわち、本負極活物質が前記Siナノ粒子を含有する場合は、炭素質相が前記Siナノ粒子の少なくとも一部を包埋し、本負極活物質が前記酸化ケイ素粒子を含有する場合は、炭素質相が前記酸化ケイ素粒子の少なくとも一部を包埋し、本負極活物質が前記Siナノ粒子および前記酸化ケイ素粒子を含有する場合は、炭素質相が前記Siナノ粒子と前記酸化ケイ素粒子の少なくとも一部を包埋する。炭素質相が包埋しているとは、Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子が炭素質相に分散した状態をいい、本負極活物質において前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子と炭素質相とができるだけ密接しているのが、得られる二次電池のエネルギー密度の観点から、好ましい。炭素質相が前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子の少なくともいずれか一方を包埋している状態は、SEM(走査型電子顕微鏡)のEDS(エネルギー分散型X線分光法)を用いて粒子断面を観察すること、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)により確認することができる。
Siナノ粒子と炭素質相とは後述する空隙率の範囲を満たすのが好ましい。
本負極活物質中の前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子の量は、前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子と炭素質相との合計量を100質量%として、5質量%から70質量%が好ましく、10質量%から60質量%がより好ましい。本負極活物質中が前記Siナノ粒子と前記酸化ケイ素粒子の両方を含有する場合、前記Siナノ粒子、前記酸化ケイ素粒子および炭素質相との合計量を100質量%、前記Siナノ粒子と前記酸化ケイ素粒子の合計量が前記範囲内であるのが好ましい。これら前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子の多くが前記炭素質相に包埋されているのが好ましく、前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子の全体の体積比60%以上が包埋されているのがより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
前記炭素質相におけるXRD測定により求められる炭素002面の面間隔は次のように測定することが出来る。すなわち、炭素質相を含む負極活物質を試料フォルダーに充填し、CuKα線を線源とし、X線回折図形を得る。X線回折図形のピーク位置は2θ値でピーク位置を求め、CuKα線の波長を0.15418nmとして、以下に記すBraggの公式により炭素相002面間隔を計算する。
d002=λ/2・sinθ
前記炭素質相は黒鉛の状態に近づくほど結晶性が高く、炭素質相の炭素002面間隔は理想的な黒鉛の0.3354nmに近づく。
本負極活物質の炭素質相は非晶質構造を有しており、XRD測定より求められる炭素002面の面間隔が0.34nmから0.38nmである。
炭素質相の炭素002面の面間隔が0.34nmから0.38nmであることで、負極活物質の電子伝導性が良好となり、充電時の体積膨張に伴うSiナノ粒子の孤立を抑制し、その結果、Siナノ粒子の電気容量ロスを低減することが可能となる。
また炭素質相は負極活物質粒子の被覆材にもなり得ることから、負極活物質粒子間の電子伝導性を向上し、充電時の膨潤による負極活物質粒子の孤立を抑制することで、二次電池とした時の容量維持率の向上が可能となる。
XRD測定より求められる炭素002面の面間隔は、クーロン効率の観点から0.345nmから0.375nmが好ましく、0.350nmから0.370nmがさらに好ましい。
前記炭素質相の存在状態は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)で同定することが可能である。炭素質相は、大気中で熱分解されやすく、空気存在下で測定した熱重量減少量により炭素の存在量を求めることができる。即ち、炭素質相の炭素量は、TG-DTAを用いることで定量できる。また、前記測定からの熱重量減少挙動により、分解反応開始温度、分解反応終了温度、熱分解反応種の数、各熱分解反応種における最大重量減少量の温度などの熱分解温度挙動の変化も容易に把握できる。これら挙動の温度の値を用いて炭素の状態を判断することができる。
炭素質相中の炭素が非晶質炭素の場合、炭素質相が非晶質炭素と類似する特性を有しているため、大気中において約550℃から900℃の温度範囲に熱分解する。その結果、急激な重量減少が発生する。TG-DTAの測定条件の最高温度は特に限定されないが、炭素の熱分解反応を完全に終了させるために、大気中、約25℃から約1000℃以上までの条件下でTG-DTA測定を行うのが好ましい。
本負極活物質は乾燥空気流通下でのTG分析による100から800℃での質量分析減少率が10%から70%であるのが、負極活物質の構造形成の観点から好ましい。
前記質量分析減少率は前記のとおり、乾燥空気流通の条件で、100℃から800℃の条件下でTG-DTA測定を行うことで求めることができる。
本負極活物質は乾燥空気流通下でのTG分析による100から800℃での質量分析減少率が15%から65%であるのがより好ましく、20%から60%であるのがさらに好ましい。
本負極活物質は乾燥空気流通下でのTG分析による重量増加開始温度が550℃以上であるのが、低温で酸化する炭素質層が多く存在することを意味し、その結果、Siナノ粒子と酸素の反応を遅らせることで活物質表面の電気化学的な副反応を抑制し、二次電池の初期段階での電気容量のロスの低下を抑制する観点から好ましい。
初期容量ロスの抑制および初期クーロン効率の観点から重量増加開始温度は575℃以上がより好ましく、600℃以上がさらに好ましい。
本負極活物質は、重量当たりの電気容量の観点から、本負極活物質の質量を100質量部に対して、ケイ素系材料を0.1質量部から80質量部含むのが好ましい。ケイ素系材料はケイ素、炭化酸化ケイ素(シリコンオキシカーバイド)等が挙げられる。本負極活物質がSiナノ粒子を含む場合はケイ素材料としてはナノ粒子とは異なるケイ素が好ましい。後述するように本負極活物質が炭素被膜を有する場合は、本負極活物質の質量は炭素被膜を含んだ量である。
本負極活物質の比表面積は0.01m/gから20m/gが好ましい。電極作製時における溶媒の吸収量と結着性を維持するための結着剤の使用量の観点から、本負極活物質の比表面積は1m/g以上が好ましく、3m/g以上がより好ましい。また、本負極活物質の比表面積は18m/g以下が好ましく、10m/g以下がより好ましい。
なお前記比表面積は前記と同様BET法により求めた値である。
本負極活物質の比表面積も前記Siナノ粒子と同様、液体窒素温度の相対圧0.5以下における窒素吸着量を複数点求め、BETプロットより、吸着熱C値が正でかつ、直線性の高い範囲から比表面積を計算することができる。
本負極活物質の平均粒子径は、0.5μmから10μmが好ましく、2μmから8μmがより好ましい。平均粒径が小さすぎると、比表面積の大幅な上昇につれ、二次電池とした時、充放電時にSEIの生成量が増えることで単位体積当たりの可逆充放電容量が低下することがある。平均粒径が大きすぎると、電極膜作製時に集電体から剥離するおそれがある。なお平均粒径とは前記と同様、体積平均粒径であり、D50の値である。D50の測定方法については前記と同じである。
また本極活物質の分級前の粒径範囲は0.1μmから30μmが好ましく、微粉粒子を排除後の粒径範囲は0.5μmから30μmが好ましい。
本負極活物質の形状は、粒状、針状、フレーク状のいずれでもよい。
本負極活物質は、炭素被膜を有し、下記式(1)により定義される空隙率、V、が7%以上20%以下であるのが好ましい。
Figure 0007424555000002
ただし前記式(1)中、Vは空隙率(%)、ρは負極活物質内部の密度(g/cm)、ρ’は負極活物質全体の密度(g/cm)、ρ’’は炭素被膜の密度(g/cm)、Aは炭素被膜の量(質量%)をそれぞれ表す。
炭素被膜は本負極活物質の表面の少なくとも一部を被覆しているのが好ましい。炭素被膜は低結晶性炭素からなる被膜が好ましい。
炭素被膜の量は、本負極活物質の化学安定性や熱安定性の改善の観点から、炭素被膜を含めた本負極活物質の質量を100質量%として、0.1質量%以上30質量%以下が好ましく、1質量%以上25質量%以下がより好ましく、5質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。また本活物質の化学安定性や熱安定性の改善の観点から、炭素被膜の平均厚みは10nm以上300nm以下が好ましい。
本負極活物質の化学安定性や熱安定性の改善の観点から、本負極活物質の表面の1%以上が炭素被膜を有しているのが好ましく、10%以上が炭素被膜を有しているのがより好ましい。本負極活物質は炭素被膜をその表面に連続的に有しても断続的に有してもよい。
炭素被膜は化学気相成長法により本負極活物質の表面に作製するのが好ましい。
前記のとおり、Siナノ粒子は、高容量であるがリチウムイオンを大量に吸蔵および放出することによって大きな体積変化が起こり、その結果、サイクル性に劣ると考えられている。この体積変化は炭素被膜だけでは十分に抑制することができないと考えられる。そこでSiナノ粒子の周囲に空隙を設け、体積膨張を空隙が緩衝し炭素被膜の破壊を抑制する方法が提案されている。しかしながら空隙が適切でなければ前記緩衝効果が十分に機能せず、活物質の割れによる表面積増加のため、SEIの生成量が増え、初期のクーロン効率が低下すると考えられる。
また空隙率と同時に負極活物質の組成を適切に制御する必要があると考えられる。
従来の空隙率の定義ではSiナノ粒子の周囲の空隙の状況を適切に反映しているとは限らないと考えられる。
本発明者らは前記式(1)で定義される空隙率がSiナノ粒子の周囲の空隙の状況を適切に反映することを見出した。さらに前記式(1)で定義される空隙率が特定の範囲にある負極活物質を二次電池に用いることで、活物質の割れによる表面積増加およびSEIの生成が抑制され、初期のクーロン効率が改良された二次電池が得られることを見出した。
前記各密度、ρ、ρ’およびρ’’はいずれも定容積膨張法による乾式密度測定により求めることができる。本負極活物質のρは通常、2.0から2.4程度である。
炭素被膜の密度は本負極活物質から炭素被膜を剥離し、直接、真密度を測定してもよいが、計算等により求めてもよい。例えば、炭素被膜の含有率(質量%)と本負極活物質の密度とのプロットを数点作成し、線形近似で炭素被膜の含有率が100質量%となる点の外挿を行い、炭素被膜のみの密度を算出してもよい。
また本負極活物質からシリコン成分を溶解し、不溶部の真密度を直接測定してもよい。
前記式(1)中、Aは炭素被膜の量であり、前記と同様、炭素被膜を含めた本負極活物質の質量を100質量%とした時の質量%である。炭素被膜の量はTG-DTA、元素分析等から求めることができる。
従来、空隙率は粒子全体の空隙の割合であり、粒子内の細孔および内部空隙が含まれていた。空隙率(%)の定義は、通常、下記式で定義されている。
空隙率(%)=(1-見かけ密度/真密度)×100
前記式中、見かけ密度は内部空隙を含めた密度であり、前記式で定義される空隙率は粒子の内部空隙を除いた空隙となっている。前記のとおり、炭素被膜を有する活物質粒子の破壊を抑制するためには、炭素被膜とその内部との間隙が重要であり、その部分の空隙率を評価する必要がある。空隙率の定義は前記特許文献2で定義されるような空隙率も含めて様々な定義が提案されているが、従来から定義されている空隙率では密度との相関性が十分でない可能性がある。
また電子顕微鏡等により粒子断面を観察し、空隙部分を視認して空隙率を算出する方法もあるが、この方法では粒子断面積への依存性が大きく、炭素被膜とその内部との間隙を正確に求めることは困難である。
一方、前記式(1)による空隙率の定義は、前記従来の方法とは異なり、炭素被膜を有する負極活物質において、式(1)中に炭素被膜の量および密度を導入することで、炭素被膜とその内部との間隙の空隙率がより正確に評価できる。
前記空隙率、V、は、リチウムイオンの挿入による膨張の影響を抑制する観点から、9%以上が好ましく、11%以上がより好ましい。また前記空隙率、V、は、得られる二次電池のエネルギー密度を向上させる観点から、18%以下が好ましく、17%以下がより好ましい。
炭素被膜は化学気相成長法により負極活物質の表面に存在させるのが好ましい。負極活物質を前記真密度および空隙率、V、の範囲とするためには、例えば、炭素被膜処理を行う際のガス流量の制御、処理時間や処理温度の制御を行う。
本負極活物質の前記式(1)で定義される空隙率、V、が7%以上20%以下の場合、本負極活物質の真密度は1.6g/cm以上2.0g/cm以下が好ましい。真密度は得られる二次電池のエネルギー密度を向上させる観点から、1.65g/cm以上がさらに好ましく、1.70g/cm以上が特に好ましい。
また、本負極活物質の真密度は空隙率、V、との関係から、1.95g/cm以下がさらに好ましく、1.90g/cm以下が特に好ましい。
前記真密度は真密度測定装置を用いて測定された値であり、ヘリウムガスによって、サンプルの入った試料室を加圧した後、バルブを開けて膨張室にガスを拡散させたときに生じる圧力変化からサンプルの体積を求め、そのサンプルの体積をサンプル質量で割ることによって求めることができる。
本負極活物質は前記炭素被膜以外にシリケート化合物を有してもよい。
シリケート化合物としては、Li、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のシリケート化合物が好ましい。
シリケート化合物は一般に1個または数個のケイ素原子を中心とし、電気陰性な配位子がこれを取り囲んだ構造を持つアニオンを含む化合物であるが、Li、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と前記アニオンを含む化合物との塩であるシリケート化合物が好ましい。
前記アニオンを含む化合物としてはオルトケイ酸イオン(SiO 4-)、メタケイ酸イオン(SiO 2-)、ピロケイ酸イオン(Si 6-)、環状ケイ酸イオン(Si 6-またはSi18 12-)等のケイ酸イオンが知られている。本シリケート化合物はメタケイ酸イオンとLi、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属との塩であるシリケート化合物が好ましい。前記金属の中ではLiまたはMgがより好ましい。
シリケート化合物はLi、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を有している場合、これら金属の2種以上を有していてもよい。2種以上の金属を有する場合、一つのケイ酸イオンが複数種の金属を有していてもよいし、異なる金属を有するシリケート化合物の混合物であってもよい。またシリケート化合物はLi、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を有する限り、他の金属を有してもよい。
シリケート化合物はリチウムシリケート化合物またはマグネシウムシリケート化合物が好ましく、メタケイ酸リチウム(LiSiO)またはメタケイ酸マグネシウム(MgSiO)がより好ましく、メタケイ酸マグネシウム(MgSiO)が特に好ましい。
シリケート化合物は、結晶状態の場合、粉末X線回折測定(XRD)で検出することができ、非晶質の場合は、固体29Si-NMR測定で確認することができる。
本負極活物質が前記炭素質相を有することから、炭素質相のラマンスペクトルにおいて、炭素構造がグラファイト長周期炭素格子構造のGバンドに帰属される1590cm-1付近の散乱ピークと、乱れや欠陥のあるグラファイト短周期炭素格子構造のDバンドに帰属される1330cm-1付近の散乱ピークを有し、それらの散乱ピーク強度比I(Gバンド/Dバンド)が、0.7から2の範囲にあることが好ましい。前記散乱ピーク強度比Iは、より好ましくは0.7から1.8である。
また本負極活物質が前記低結晶性炭素の被覆層を有する場合、本負極活物質の前記ラマンスペクトルの散乱ピーク強度比I(Gバンド/Dバンド)は、0.9から1.1の範囲であるのが好ましい。
本負極活物質は前記ケイ素系材料、炭素被膜、シリケート化合物以外に必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
前記本負極活物質は、例えば、下記工程1から3を含む方法で製造できる。なお下記工程は、Siナノ粒子を含む場合の方法を例示しているが、この方法に限定されるものではない。本負極活物質が酸ケイ素を含む場合は、下記工程1においてSiナノ粒子を酸化ケイ素粒子に変えればよく、本負極活物質がSiナノ粒子と酸化ケイ素粒子を含む場合は、下記工程1においてSiナノ粒子と酸化ケイ素粒子を用いればよい。酸化ケイ素粒子は、前記のとおり、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却し析出により製造することができる。また市販の酸化ケイ素を用いてもよい。工程1: 湿式法粉砕したSiナノ粒子のスラリーを、炭素質相源と混合させ、撹拌・乾燥して前駆体を得る。工程2: 前記工程1で得られた前駆体を不活性雰囲気中、最高到達温度1000℃から1180℃の温度範囲内で焼成して焼成物を得る。工程3: 前記工程2で得られた焼成物を粉砕して本負極活物質を得る。
以下、各工程について説明する。
<工程1>
(Si(0価)スラリー)
工程1で用いる湿式法粉砕したSi(0価)スラリーの調製は、有機溶媒を用いシリコン粒子を湿式粉末粉砕装置にて粉砕しながら行うことができる。有機溶媒においてシリコン粒子の粉砕を促進させるために分散剤を使っても良い。湿式粉砕装置としては、特に限定されるものでなく、ローラーミル、高速回転粉砕機、容器駆動型ミル、ビーズミルなどが挙げられる。
湿式粉砕ではシリコン粒子がSiナノ粒子となるまで粉砕するのが好ましい。
湿式法で用いる有機溶媒は、シリコンと化学反応しない有機溶媒である。例えば、ケトン類のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン;アルコール類のエタノール、メタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール;芳香族のベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
上記分散剤の種類は、水系や非水系の分散剤を用いることができる。シリコン粒子の表面に対する過剰酸化を抑制するため、非水系分散剤の使用が好ましい。非水系分散剤の種類は、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系などの高分子型、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系などの低分子型、ポリリン酸塩系などの無機型が例示される。Si(0価)スラリーにおける珪素の濃度は特に限定されないが、前記溶媒および、必要に応じて分散剤を含む場合は分散剤とSi粒子の合計量を100質量%として、Si粒子の量は5質量%から40質量%の範囲が好ましく、10質量%から30質量%がより好ましい。
(炭素質相源)
前記工程1で用いる炭素質相源は、不活性雰囲気中、高温焼成により炭化され、芳香族官能基を有する合成樹脂類や天然化学原料を用いることが好ましい。
合成樹脂類としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。天然化学原料としては、コークスや重質油、特にはタールピッチ類としては、コールタール、タール軽油、タール中油、タール重油、ナフタリン油、アントラセン油、コールタールピッチ、ピッチ油、メソフェーズピッチ、酸素架橋石油ピッチ、ヘビーオイルなどが挙げられる。
(前駆体)
前記炭素質相源と前記Siスラリーとを均一に混合させ、攪拌した後、脱溶媒と乾燥を経て本負極活物質の前駆体(以下、「前駆体」とも記す。)が得られる。前記混合は分散・混合の機能を有する装置を用いて行われる。例えば、攪拌機、超音波ミキサー、プリミックス分散機などが挙げられる。有機溶媒を溜去することを目的とする脱溶剤と乾燥の作業では、乾燥機、減圧乾燥機、噴霧乾燥機などを用いることができる。
前駆体は、Si(0価)であるSiナノ粒子を3質量%から97質量%、炭素質相源の固形分を3質量%から97質量%含有するのが好ましく、シリコン粒子の固形分含有量を20質量%から80質量%、炭素源樹脂の固形分を20質量%から80質量%含有するのがより好ましい。負極活物質の前駆体を後述する熱処理することで、質量が減少し、負極活物質中のナノシリコンの比率が変化する可能性があるので、前駆体中のSiナノ粒子の含有量は、目的とする本負極活物質中のSiナノ粒子の含有量に基づき、適宜、設定すればよい。
<工程2>
工程2は、上記工程1で得られた前駆体を不活性雰囲気中、最高到達温度1000℃から1180℃の温度範囲内で焼成することで、熱分解可能な有機成分を完全分解させ、その他の主成分を焼成条件の精密制御により本負極活物質に適した焼成物とする工程である。具体的にいうと、原料の炭素質相源が高温処理のエネルギーによってフリー炭素に転化される。すなわち、焼成により炭素質相源の焼成物を含有するマトリクスが得られる。ここでいう焼成物とは、炭素質相源などの有機化合物が高温で分解や転化されることにより、その組成や構造の一部または全部が変化したものである。
炭素質相源の焼成物は前記炭素質相源の全てが炭素に転化されていてもよいし、一部が炭素に転化され残りは前記炭素質相源の構造を維持していてもよい。
工程2では、上記工程1で得られた前駆体を不活性雰囲気下、昇温速度、一定温度での保持時間等により規定される焼成のプログラムに沿って焼成する。最高到達温度は、設定する最高温度であり、焼成物である本負極活物質の構造や性能に強く影響を与えるものである。本発明では最高到達温度が1000℃から1180℃であることにより、本負極活物質の微細構造が精密に制御でき、過高温焼成でのシリコン粒子の酸化も回避できることでより優れた充放電特性が得られる。
焼成方法は、特に限定されないが、不活性雰囲気中にて加熱機能を有する反応装置を用いればよく、連続法、回分法での処理が可能である。焼成用装置については、流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。
<工程3>
工程3は、上記工程2で得られた焼成物を粉砕し、必要に応じて分級することで本負極活物質を得る工程である。また、工程3では必要に応じて化学気相成長法により負極活物質の表面に炭素被膜を存在させる工程である。粉砕は、目的とする粒径まで一段で行っても良いし、数段に分けて行っても良い。例えば焼成物が10mm以上の塊または凝集粒子となっていて、10μmの活物質を作製する場合はジョークラッシャー、ロールクラッシャー等で粗粉砕を行い1mm程度の粒子にした後、グローミル、ボールミル等で100μmとし、ビーズミル、ジェットミル等で10μmまで粉砕する。粉砕で作製した粒子には粗大粒子が含まれる場合がありそれを取り除くため、また、微粉を取り除いて粒度分布を調整する場合は分級を行う。使用する分級機は風力分級機、湿式分級機等目的に応じて使い分けるが、粗大粒子を取り除く場合、篩を通す分級方式が確実に目的を達成できるために好ましい。尚、焼成前に前駆体混合物を噴霧乾燥等により目標粒子径付近の形状に制御し、その形状で本焼成を行った場合は、もちろん粉砕工程を省くことも可能である。
前記製造工程において、炭素被膜処理を行う際のガス流量の制御、処理時間や処理温度の条件の最適化を行うことで、本負極活物質の真密度、および前記式(1)で定義される空隙率を前記範囲とすることができる。例えば、ガス流量および処理時間を大きくすることで、被覆する炭素量を増やすことができ、前記式(1)で定義される空隙率を調整することができる。また処理温度を高くすることで、真密度を高くすることができる。
また前記製造工程において、焼成温度を制御することで、本負極活物質の炭素質相がXRD測定により求められる炭素002面の面間隔および比表面積を前記範囲とすることができる。例えば、焼成温度を高くすると炭素化反応が進み、炭素002面の面間隔が狭くなる。
本負極活物質がLi、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属のシリケート化合物を有する場合、Siナノ粒子のスラリーを炭素質相源と混合して得られた懸濁液に、Li、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩を添加し、その後は前記と同じ操作で、前記シリケート化合物を有する本活物質が得られる。
Li、K、Na、Ca、MgおよびAlからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の塩としては、これら金属のフッ化物、塩化物、臭化物等のハロゲン化物、水酸化物、炭酸塩等が挙げられる。
前記金属の塩は2種以上の金属の塩でもよく、一つの塩が複数種の金属を有していてもよいし、異なる金属を有する塩の混合物であってもよい。
前記金属の塩を懸濁液に添加する際の金属の塩の添加量は、Siナノ粒子のモル数に対してモル比で0.01から0.4までが好ましい。
前記金属の塩が有機溶媒に可溶の場合、前記金属の塩を有機溶媒に溶かして炭素質相源の懸濁液または、Siナノ粒子を本活物質粒子が含む場合はSiナノ粒子の懸濁液に加えて混合すればよい。前記金属の塩が有機溶媒に不溶の場合、金属の塩の粒子を有機溶媒に分散してから炭素質相源の懸濁液または、Siナノ粒子を本活物質粒子が含む場合はSiナノ粒子の懸濁液に加えて混合すればよい。前記金属の塩は、分散効果向上の観点から平均粒径が100nm以下のナノ粒子が好ましい。前記有機溶媒は、アルコール類、ケトン類などを好適に用いることができるが、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素系溶剤も用いることができる。
本負極活物質が前記炭素被膜を有する場合、前記方法にて得られた焼成物の少なくとも一部の表面を炭素被膜で被覆することで炭素被膜を有する本負極活物質が得られる。炭素被膜は化学気相蒸着装置内で、熱分解性炭素源ガスとキャリア不活性ガスフローの中、700℃から1000℃の温度範囲にて得られる非晶質炭素被膜が好ましい。
熱分解性炭素源ガスはアセチレン、エチレン、アセトン、アルコール、プロパン、メタン、エタンなどが挙げられる。
不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられ、通常、窒素が用いられる。
本負極活物質が前記ケイ素系材料を含む場合、前記工程1において、炭素質相源と共に焼成により目的とするケイ素系材料となるケイ素材料源を添加すればよい。
ケイ素材料源としてはポリアルコキシシラン、ポリシルセスキオキサン、ポリシロキサン含有アクリル樹脂等が挙げられる。
前記本負極活物質は、初期クーロン効率に優れていることから、本負極活物質を含む電池負極として用いた二次電池は、良好な充放電特性を発揮する。
具体的には、本負極活物質と有機結着剤と、必要に応じてその他の導電助剤などの成分を含んで構成されるスラリーを集電体銅箔上へ薄膜のようにして負極として用いることができる。また、前記のスラリーに炭素材料を加えて負極を作製することもできる。
炭素材料としては、天然黒鉛、人工黒鉛、ハードカーボンまたはソフトカーボンのような非晶質炭素などが挙げられる。
本負極活物質と、有機結着材であるバインダーとを、溶媒とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置により混練して、負極材スラリーを調製し、これを集電体に塗布して負極層を形成することで得ることができる。また、ペースト状の負極材スラリーをシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することでも得ることができる。前記により得られる負極は、本負極活物質を含むことから、優れた初期クーロン効率を有する二次電池用負極となる。前記負極は、例えば、例えば、本負極活物質と、有機結着材であるバインダーとを、溶媒とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置により混練して、負極材スラリーを調製し、これを集電体に塗布して負極層を形成することで得ることができる。また、ペースト状の負極材スラリーをシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することでも得ることができる。
前記有機結着剤としては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム共重合体(SBR);メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、およびヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル、および、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸からなる(メタ)アクリル共重合体等の不飽和カルボン酸共重合体;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの高分子化合物が挙げられる。
これらの有機結着剤は、それぞれの物性によって、水に分散、あるいは溶解したもの、また、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤に溶解したものがある。リチウムイオン二次電池負極の負極層中の有機結着剤の含有比率は、1質量%から30質量%であることが好ましく、2質量%から20質量%であることがより好ましく、3質量%から15質量%であることがさらに好ましい。
有機結着剤の含有比率が1質量%以上であることで密着性がより良好で、充放電時の膨張・収縮によって負極構造の破壊がより抑制される。一方、30質量%以下であることで、電極抵抗の上昇がより抑えられる。
かかる範囲において、本発明の負極活物質は、化学安定性が高く、水性バインダーも採用することができる点で、実用化面においても取り扱い容易である。
また、前記負極材スラリーには、必要に応じて、導電助材を混合してもよい。導電助材としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、あるいは導電性を示す酸化物や窒化物等が挙げられる。導電助剤の使用量は、本発明の負極活物質に対して1質量%から15質量%程度とすればよい。
また前記集電体の材質および形状については、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いればよい。また、多孔性材料、たとえばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用できる。
前記負極材スラリーを集電体に塗布する方法としては、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などが挙げられる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うことが好ましい。
また、負極材スラリーをシート状またはペレット状等として、これと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等により行うことができる。
前記集電体上に形成された負極層および集電体と一体化した負極層は、用いた有機結着剤に応じて熱処理することが好ましい。例えば、水系のスチレン-ブタジエンゴム共重合体(SBR)などを用いた場合には100から130℃で熱処理すればよく、ポリイミド、ポリアミドイミドを主骨格とした有機結着剤を用いた場合には150から450℃で熱処理することが好ましい。
この熱処理により溶媒の除去、バインダーの硬化による高強度化が進み、粒子間および粒子と集電体間の密着性が向上できる。尚、これらの熱処理は、処理中の集電体の酸化を防ぐため、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気、真空雰囲気で行うことが好ましい。
また、熱処理した後に、負極はプレス(加圧処理)しておくことが好ましい。本発明の負極活物質を用いた負極では、電極密度が1g/cmから1.8g/cmであることが好ましく、1.1g/cmから1.7g/cmであることがより好ましく、1.2g/cmから1.6g/cmであることがさらに好ましい。電極密度については、高いほど密着性および電極の体積容量密度が向上する傾向があるが、密度が高すぎると、電極中の空隙が減少することで珪素など体積膨張の抑制効果が弱くなり、容量維持率が低下するため、最適な範囲を選択する。
本負極活物質を含む負極は、初期クーロン効率に優れるため、二次電池に好適に用いられる。かかる負極を有する二次電池としては、非水電解質二次電池と固体型電解質二次電池が好ましく、特に非水電解質二次電池の負極として用いた際に優れた性能を発揮するものである。
本負極活物質を含む二次電池は、例えば、湿式電解質二次電池に用いる場合、正極と、本発明の負極活物質を含む負極とを、セパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより構成することができる。
正極は、負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属や合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
正極層に用いる正極材料としては、特に制限されない。非水電解質二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池を作製する場合には、例えば、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、または導電性高分子材料を用いればよい。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、およびこれらの複合酸化物(LiCoxNiyMnzO、x+y+z=1)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等などを単独或いは混合して使用することができる。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムまたはそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製する非水電解質二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
電解液としては、例えば、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等のリチウム塩を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル等の単体もしくは2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。
本負極活物質を含む二次電池の構造は、特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、これらを平板状として積層して積層式極板群としたりし、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。尚、本発明の実施例で用いるハーフセルは、負極に本負極活物質を主体とする構成とし、対極に金属リチウムを用いた簡易評価を行っているが、これはより活物質自体のサイクル特性を明確に比較するためである。黒鉛系活物質(容量約340mAh/g前後)を主体とした合剤に本負極活物質を少量添加し、負極容量を既存の負極容量を大きく上回る400から700mAh/g程度にし、サイクル特性を向上させることが可能である。
本負極活物質を含む二次電池は、特に限定されないが、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池などとして使用される。前記の本負極活物質は、リチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする電気化学装置全般、例えば、ハイブリッドキャパシタ、固体リチウム二次電池などにも適用することが可能である。
前記のとおり、本発明の負極活物質は二次電池の重要な性質の一つである初期効率が高く、電池特性のバランスに優れた二次電池を与える。したがって。本負極活物質は二次電池に好適に用いることができる。
以上、本負極活物質および本負極活物質を有する二次電池に関して説明したが、本発明は前記の実施形態の構成に限定されない。
本負極活物質および本負極活物質を有する二次電池は前記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
尚、本発明の実施例で用いるハーフセルは、負極に本負極活物質を用い、対極に金属リチウムを用いた簡易評価を行っているが、これはより活物質自体のサイクル特性を明確に比較するためである。かかる構成とすることで、容量約340mAh/g前後の黒鉛系活物質を主体とした合剤に本負極活物質を少量添加することで、既存の負極容量を大きく上回る400から700mAh/g程度の負極容量に抑えながら、サイクル特性を向上させることが可能である。
(実施例1)
本負極活物質を以下の様にして調製した。
シリコン(0価)の塊を分散剤中でビーズミルによる湿式粉砕法で粉砕し、シリコンナノ粒子のスラリーを得た。
このSiナノ粒子のスラリーをフェノール樹脂と焼成後の組成が質量比でSi/C=0.5/0.5となるように混合し、減圧乾燥して得られた前駆体を窒素雰囲気中、1100℃ で6時間、焼成することで、SiとCを含む黒色固形物を得た。
得られた黒色固形物を遊星型ボールミルで粉砕し、得られた黒色粉体に熱CVD(化学蒸着法)を行うことで炭素被膜を付与した負極活物質を得た。このとき、熱CVDにはロータリーキルンタイプの反応炉を用い、窒素雰囲気中、また炭素源としてLPG(液体プロパンガス)を用い、炉内の温度を900℃、圧力を1atm、CVD時間を360分とした。得られた負極活物質は4.7μmの平均粒径(D50)と13.2m/gの比表面積(BET)を有した。得られた負極活物質の炭素被膜の量はTG-DTAから25.7%、真密度は1.91g/cm、そこから計算される空隙率は7.3%であった。
次に、前記で得られた負極活物質を用いてハーフ電池を作製し充放電特性の評価を行った。充放電の測定結果から、初期クーロン効率が83.2%であった。評価結果を表1に示した。
(実施例2)
熱CVD時間を120分とした以外は実施例1と同様にして負極活物質を得た。評価結果を表1に示した。
(実施例3)
生コークスを、D50が7.9μmとなるよう粉砕および分級し、炭素質相源として生コークス粒子と二酸化ケイ素粒子とを混合して乾式造粒を行った。この際、二酸化ケイ素粒子と生コークス粒子の体積の和を100%とした場合の二酸化ケイ素粒子の添加量を53体積%とした。二酸化ケイ素粒子と生コークス粒子の質量の和を100%とした場合の二酸化ケイ素粒子の添加量は61質量%である。次に、造粒された粒子を素雰囲気中、1000℃ で5時間、焼成することで炭化処理した。
得られた黒色粉体に熱CVD(化学蒸着法)を行うことで炭素被膜を付与した負極活物質を得た。このとき、熱CVDにはロータリーキルンタイプの反応炉を用い、炭素源としてLPG(液体プロパンガス)を炉内の温度を900℃、圧力を1atm、CVD時間を260分とした。得られた負極活物質の炭素被膜の量はTG-DTAから12.4%、真密度は1.78g/cm、そこから計算される空隙率は10.9%であった。
次に、前記で得られた負極活物質を用いてハーフ電池を作製し充放電特性の評価を行った。充放電の測定結果から、初期クーロン効率が71.0%であった。評価結果を表1に示した。
(実施例4から実施例6)
実施例3の熱CVDの時間を実施例4では200分、実施例5では300分、実施例6では360分にそれぞれ変えた以外は実施例3と同様にして負極活物質を得た。得られた負極活物質を用いたハーフ電池の評価結果を表1に示した。
(実施例7)
実施例3の焼成温度を1200℃に変え、熱CVDの時間を180分にした以外は実施例3と同様にして負極活物質を得た。得られた負極活物質を用いたハーフ電池の評価結果を表1に示した。
(実施例8から実施例10)
実施例7の熱CVDの時間を実施例8では240分、実施例9では320分、実施例10では400分にそれぞれ変えた以外は実施例7と同様にして負極活物質を得た。得られた負極活物質を用いたハーフ電池の評価結果を表1に示した。
(実施例11)
実施例1の熱CVDを実施しなかった以外、実施例1と同様にして負極活物質を得た。評価結果を表1に示した。
(実施例12)
実施例3の熱CVDを実施しなかった以外、実施例3と同様にして負極活物質を得た。評価結果を表1に示した。
(実施例13)
実施例7の熱CVDを実施しなかったこと以外、実施例7と同様にして負極活物質を得た。得られた負極活物質を用いたハーフ電池の評価結果を表1に示した。
(実施例14)
実施例3の熱CVDの反応時間を80分に変えた以外、実施例3と同様にして負極活物質を得た。得られた負極活物質を用いたハーフ電池の評価結果を表1に示した。
(実施例15)
実施例7の熱CVDの反応時間を90分に変えた以外、実施例7の同様にして負極活物質を得た。得られた負極活物質を用いたハーフ電池の評価結果を表1に示した。
(比較例1)
平均粒径5μmのSiO粒子に熱CVD(化学蒸着法)を行うことで炭素被膜を付与した負極活物質を得た。このとき、熱CVDにはロータリーキルンタイプの反応炉を用い、炭素源としてLPG(液体プロパンガス)を炉内の温度を900℃、圧力を1atm、CVD時間を180分とした。得られた負極活物質はSiO粒子が炭素質相に包埋されていないため、XRDの測定ではd002面に帰属される回折ピークは得られなかった。得られた負極活物質の炭素被膜の量はTG-DTAから6.1%、真密度は2.23g/cm、そこから計算される空隙率は1.3%であった。得られた負極活物質を用いたハーフ電池の評価結果を表1に示した。
(比較例2)
比較例1の熱CVD時間を150分に変えた以外、比較例1と同様にして負極活物質を得た。得られた負極活物質はSiO粒子が炭素質相に包埋されていないため、XRDの測定ではd002面に帰属される回折ピークは得られなかった。炭素被膜の量はTG-DTAから5.0%、真密度は2.24g/cm、そこから計算される空隙率は1.2%であった。得られた負極活物質を用いたハーフ電池の評価結果を表1に示した。
(比較例3)
比較例1のSiO粒子を評価したところ、真密度2.32g/cmであった。得られた負極活物質はSiO粒子が炭素質相に包埋されていないため、XRDの測定ではd002面に帰属される回折ピークは得られなかった。得られた負極活物質を用いたハーフ電池の評価結果を表1に示した。
Figure 0007424555000003
BET(比表面積):比表面積測定装置(BELJAPAN社製、BELSORP-mini)を用いて窒素吸着測定より測定した。液体窒素温度の相対圧0.5以下における窒素吸着量を複数点求め、BETプロットより、吸着熱C値が正でかつ、直線性の高い範囲で比表面積を計算した。
d002面の面間隔測定:Rigaku社製のUltimaIV、 X線源にCuKαを用い、反射法としてゴニオメーター、2θを1から70°の範囲で測定した。本発明の負極活物質の炭素002面の面間隔は次のように評価することが出来る。すなわち、炭素質相を含む負極活物質を試料フォルダーに充填し、CuKα線を線源とし、X線回折図形を得る。X線回折図形のピーク位置は2θ値でピーク位置を求め、CuKα線の波長を0.15418nmとして、以下に記すBraggの公式により炭素相002面間隔を計算した。
d002=λ/2・sinθ
熱重量増加温度:Rigaku社製の示差熱重量分析装置(ThermoPLUSEVO2)を用い、アルミナパンに負極活物質を10mg乗せ、乾燥空気気流下200ml/minで、昇温速度10℃/minで1000℃まで昇温した。昇温時の熱重量変化を測定し、重量減少をマイナス、重量増加をプラスとなるように計算した。そして重量減少から重量増加に転じた温度を重量増加開始温度とした。
熱重量減少率:Rigaku社製の示差熱重量分析装置(ThermoPLUSEVO2)を用い、アルミナパンに負極活物質を10mg乗せ、乾燥空気気流下200ml/minで、昇温速度10℃/minで1000℃まで昇温し、昇温時の熱重量変化を測定した。付着した水分の蒸発と考えられる温度(100℃以上)で重量減少が開始した温度の重量%を基準として、重量減少率が最小となった重量%を差し引いて計算した。
真密度:真密度測定装置(アントンパール社製、Ultrapyc 5000 micro)を用いて、使用ガスはヘリウムで、温度25℃、測定圧力115kPaにて測定した。
空隙率:前記式(1)に基づき算出した。なおρ’’は1.6(g/cm)として算出した。
電池特性評価:二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて電池特性を測定し、室温25℃、カットオフ電圧範囲が0.005から1.5Vで初期クーロン効率を以下のようにして求めた。
負極活物質の初期クーロン効率:電気化学評価は下の様に行い、計算した。
極活物質を用いた評価用ハーフ電池を下記のように組立て、充放電特性を測定した。
まず、負極活物質(8部)と導電助剤のアセチレンブラックを1部と有機結着剤を1部を混合して、自転公転式の泡取り錬太郎で10分間攪拌することで、負極材スラリーを調製した。なお有機結着材はスチレンーブタジェン共重合体ゴム(市販SBR)が0.75部、カルボシキシメチルセルロース(CMC)が0.25部および蒸留水が10部の混合物であった。
これを、アプリケーターを用いて厚み20μmの銅箔へ塗膜後、110℃の減圧条件下で乾燥し、厚みが約40μmの電極薄膜を得た。直径14mmの円状電極に打ち抜き、20MPaの圧力下でプレスした。酸素濃度が10ppm未満、水分含量が露点として-40℃以下であるグローボックス中においてLi箔を対極に、25μmのポリプロピレン製セパレータを介して本発明の電極を対向させ、電解液(キシダ化学製、1mol/LのLiPF、炭酸ジエチル:炭酸エチレン=1:1(容積比))を吸着させて評価用ハーフ電池(CR2032型)を作製した。
二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて電池特性を測定し、室温25℃、カットオフ電圧範囲が0.005から1.5V、充放電レートが1から3サイクルまでは0.1C、4サイクル以後は0.2Cにし、定電流・定電圧式充電/定電流式放電の設定条件下で充放電特性の評価試験を行った。各充放電時の切り替え時には、30分間、開回路で放置した。初回クーロン効率は以下のようにして求めた。
初回クーロン効率(%) = 初回放電容量(mAh/g) / 初回充電容量(mAh/g)
前記結果から明らかなように、本負極活物質を用いた二次電池は初期クーロン効率に優れている。

Claims (7)

  1. Siナノ粒子または酸化ケイ素粒子の少なくともいずれか一方と、炭素質相とを含有し、前記炭素質相は前記Siナノ粒子または前記酸化ケイ素粒子の少なくともいずれか一方を包埋し、前記炭素質相におけるXRD測定より求められる炭素002面の面間隔が0.34nmから0.38nmであり、乾燥空気流通下でのTG分析による100℃から800℃での熱重量減少率が10から70重量%である負極活物質。
  2. 乾燥空気流通下でのTG分析による、重量増加開始温度が550℃以上である請求項に記載の負極活物質。
  3. ケイ素系材料を0.1重量%から80重量%含む請求項に記載の負極活物質。
  4. 比表面積が0.01m/gから20m/gである請求項に記載の負極活物質。
  5. 平均粒子径が0.5μmから10μmである請求項に記載の負極活物質。
  6. 炭素被膜を有し、下記式(1)により定義される空隙率が7%以上20%以下、真密度が1.6g/cm以上2.0g/cm以下である請求項に記載の負極活物質。
    Figure 0007424555000004
    (式(1)中、Vは空隙率(%)、ρは負極活物質内部の密度(g/cm)、ρ’は負極活物質全体の密度(g/cm)、ρ’’は炭素被膜の密度(g/cm)、Aは炭素被膜の量(質量%)をそれぞれ表す)
  7. 請求項に記載の負極活物質を含む二次電池。
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