JP7417473B2 - 被覆めっき鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛及びマグネシウムを含有するめっき層を有するめっき鋼板に保護層を形成させた被覆めっき鋼板に関する。
鋼板の長期耐食性を向上させる等の目的のため、めっきを施すことは古くからおこなわれている。このようなめっき鋼板におけるめっき層の代表的な組成としては、例えばアルミニウムが1~75質量%、残りの大半が亜鉛、更にSi、Mg、Ce-Laなど第三成分を微量含有する合金が挙げられる。
しかし、従来のめっき鋼板の耐食性が優れているといっても、それは地鉄の腐食による赤錆の発生までの時間が長いということであって、何らかの被覆処理をめっき表面に施さなければ短時間で白錆や黒変が発生し、めっき鋼板の美しい外観が損なわれてしまう。特に、めっき鋼板が建築部材に適用されると、近年では酸性雨の影響により、経時的にめっき層の表面が変色しやすくなってしまう。
そこで従来、めっき鋼板の黒変を抑制するための表面処理に関する技術が提案されている。とりわけ、表面処理薬剤については6価クロムを使用しない、クロムフリーに関する技術が多く利用され、その技術が多く開示されてきている。
例えば特許文献1では、Al:1.0~10%、Mg:0.2~1.0%、Ni:0.005~0.1%を含有する溶融Zn-Al合金めっき層を有する溶融Zn-Al系合金めっき鋼板の表面に、特定のチタン含有水溶液と、ニッケル化合物又は/及びコバルト化合物、弗素含有化合物と、水性有機樹脂を所定の割合で含有する処理組成物による保護膜を形成したクロムフリー表面処理めっき鋼板が挙げられている。ここでは、耐食性、耐黒変性、塗装密着性、めっき外観性に関して優れると記されている。
特開2009-132952号
特許文献1に開示されている技術であっても、最近の環境事情を考慮すると、耐食性、耐黒変性、耐候性等の性能や外観は、実用上満足するものでない。そのため、耐食性、耐黒変性、耐候性等の性能及び外観に優れた被覆めっき鋼板が求められている。特にアルミニウム、ケイ素、亜鉛及びマグネシウムを所定量含有するめっき層を備えるめっき鋼板において、上記諸性能及び外観に優れた被覆めっき鋼板が求められている。
本発明の課題は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛及びマグネシウムを所定量含有するめっき層を備え、かつ耐食性、耐黒変性、耐候性等の性能及び外観に優れた被覆めっき鋼板を提供することである。
本発明の一態様に係る被覆めっき鋼板は、鋼板と、めっき層と、保護層とを、この順に積層して備える。前記めっき層は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛及びマグネシウムを含有する。前記めっき層において、前記アルミニウムの割合は50.0質量%以上60.0質量%以下の範囲内、前記ケイ素の割合は1.0質量%以上3.0質量%以下の範囲内、前記マグネシウムの割合は0.5質量%以上3.0質量%以下の範囲内、かつ前記アルミニウム、前記ケイ素及び前記亜鉛の合計の割合は95質量%以上である。前記保護層は、水系表面処理剤を前記めっき層の表面に塗布した後乾燥することにより形成される。前記水系表面処理剤は、ポリエステルポリオール残基を有する水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と、ジルコニア(B)と、モリブデン酸素酸塩(C)と、ヒンダードアミン類(D)と、水とを含有する。前記水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と前記ジルコニア(B)中のジルコニウムとの質量比は50:1から200:1である。前記水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と前記モリブデン酸素酸塩(C)中のモリブデンとの質量比は500:1から1000:1である。前記水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と前記ヒンダードアミン類(D)との質量比は50:1から200:1である。
本発明の一態様によると、アルミニウム、ケイ素、亜鉛及びマグネシウムを所定量含有するめっき層を備え、かつ耐食性、耐黒変性、耐候性等の性能及び外観に優れた被覆めっき鋼板を提供できる。
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る被覆めっき鋼板は、鋼板と、めっき層と、保護層とを、この順に積層して備える。めっき層は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛及びマグネシウムを含有する。めっき層において、アルミニウムの割合は50.0質量%以上60.0質量%以下の範囲内、ケイ素の割合は1.0質量%以上3.0質量%以下の範囲内、マグネシウムの割合は0.5質量%以上3.0質量%以下の範囲内、かつアルミニウム、ケイ素及び亜鉛の合計の割合は95質量%以上である。保護層は、水系表面処理剤から作製される。水系表面処理剤は、ポリエステルポリオール残基を有する水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と、ジルコニア(B)と、モリブデン酸素酸塩(C)と、ヒンダードアミン類(D)と、水とを含有する。水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と前記ジルコニア(B)中のジルコニウムとの質量比は50:1から200:1である。水性アニオン性ウレタン樹脂(A)とモリブデン酸素酸塩(C)中のモリブデンとの質量比は500:1から1000:1である。水性アニオン性ウレタン樹脂(A)とヒンダードアミン類(D)との質量比は50:1から200:1である。
本実施形態によると、所定のめっき層を有する鋼板上に保護層を形成することによって、耐黒変性、耐食性及び耐候性等の性能及び外観に優れた被覆めっき鋼板を提供することができる。
このため、本実施形態によると、被覆めっき鋼板に塗料を用いた塗装が施されなくても、被覆めっき鋼板は耐黒変性、耐食性及び耐候性等の性能及び外観に優れている。
保護層は、めっき層の上に直接重なっていてもよく、保護層とめっき層との間に機能層が介在してもよい。なお、機能層とは、めっき層の表面改質のための層であり、例えば化成処理層である。また保護層の上に機能層が重なっていてもよく、重なっていなくてもよい。ただし、本実施形態では、保護層とめっき層との間に機能層が介在していない場合、及び保護層の上に機能層が重なっていない場合であっても、本実施形態の効果が実現される。
被覆めっき鋼板について、より詳しく説明する。
上記めっき層について説明する。上記のとおり、めっき層におけるマグネシウムの割合は0.5質量%以上3.0質量%以下の範囲内である。この割合が、0.5質量%未満であるとめっき層の耐食性が充分に確保されなくなってしまう。この割合が3質量%より多くなると耐食性の向上作用が飽和するだけでなく、マグネシウムの酸化膜の影響でめっき層の表面にシワが発生しやすくなり外観の点で好ましくなく、更にめっき層の作製時に溶融めっき浴中にドロスが発生しやすくなってしまう。
めっき層は、更にNi、Ce、Cr、Fe、Ca、Sr、及び希土類等から選ばれる一種以上の元素を含有してもよい。特に、めっき層が、NiとCrのうち、1種以上を含有することが好ましい。めっき層がNiを含有する場合、めっき層中のNiの割合は、0質量%を超えて1質量%以下の範囲内であることが好ましい。この割合が0.01質量%以上0.5質量%以下であれば、更に好ましい。めっき層がCrを含有する場合、めっき層中のCrの割合は、0質量%を超えて1質量%以下の範囲内であることが好ましい。この割合が0.01質量%以上0.5質量%以下であれば、更に好ましい。これらの場合、被覆めっき鋼板は優れた耐食性を有する。
めっき層が、Ca、Sr、Y、La及びCeのうち、1種類以上を含有することも、好ましい。めっき層がCaを含有する場合、めっき層中のCaの割合は、0%を超えて0.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。この割合が0.001質量%以上0.1質量%以下であれば、更に好ましい。めっき層がSrを含有する場合、めっき層中のSrの割合は、0%を超えて0.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。この割合が0.001質量%以上0.1質量%以下であれば、更に好ましい。めっき層がYを含有する場合、めっき層中のYの割合は、0%を超えて0.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。この割合が0.001質量%以上0.1質量%以下であれば、更に好ましい。めっき層がLaを含有する場合、めっき層中のLaの割合は、0%を超えて0.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。この割合が0.001質量%以上0.1質量%以下であれば、更に好ましい。めっき層がCeを含有する場合、めっき層中のCeの割合は、0%を超えて0.5質量%以下の範囲内であることが好ましい。この割合が0.001質量%以上0.1質量%以下であれば、更に好ましい。
めっき鋼板は、例えばJIS G3321:2019に規定される溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼板であって、めっき層中にマグネシウムを0.5質量%以上3.0質量%含有するものである。
もちろん、めっき層は、上記以外の不可避的に混入する元素を含有してもよい。
保護層は水系表面処理剤をめっき層の表面または表面上に塗布した後、塗布した水系表面処理剤を乾燥することにより形成される。水系表面処理剤は、ポリエステルポリオール残基を有する水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と、ジルコニア(B)と、モリブデン酸素酸塩(C)と、ヒンダードアミン類(D)と、水とを含有する。
水性アニオン性ウレタン樹脂(A)とは、25℃の水1000gに対して少なくとも0.1g溶解可能であり、かつアニオン性官能基を有するウレタン樹脂である。水性アニオン性ウレタン樹脂樹脂(A)は、上記のとおりポリエステルポリオール残基を有する。ここで、ポリエステルポリオール残基とは、水性アニオン性ウレタン樹脂(A)の合成時に、ポリエステルポリオールの化学構造において生成する化学結合の構造以外の部分構造を意味する。また、水性アニオン性ウレタン樹脂(A)は、例えばカルボキシル基などの酸性基を有することで、水性及びアニオン性を有する。水性アニオン性ウレタン樹脂(A)の酸価は、例えば10mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である。
ポリエステルポリオール残基を有する水性アニオン性ウレタン樹脂(A)は、例えば下記の方法で合成できる。なお、合成方法は下記のみには制限されない。
まずポリオールとポリイソシアネートとを縮重合させることにより、両端にイソシアナト基を有するウレタンプレポリマーを得る。このウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を2個以上有するカルボン酸又は加水分解可能なエステル化合物を反応させて、両端にイソシアネート基を有する誘導体を得る。この誘導体に、トリエタノールアミン等を加えて、アイオノマー(トリエタノールアミン塩)を形成させた後、そのアイオノマーを水に加えてエマルジョン又はディスパージョン溶液を得る。これに、更に必要に応じてジアミンを加えて鎖延長を行う。これにより、水性アニオン性ウレタン樹脂(A)を得ることができる。
上記ポリオールは、ポリエステルポリオールを少なくとも含む。そのため、水性アニオン性ウレタン樹脂(A)はポリエステルポリオール残基を有する。ポリエステルポリオールは、例えばポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールである。上記ポリイソシアネートは、例えば脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート等のうち少なくとも一種を含む。
上記カルボン酸は、例えばジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、及びジメチロールヘキサン酸等のジメチロールアルカン酸からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。上記加水分解可能なエステル化合物は、例えば各種カルボン酸の無水物等である。
水系表面処理剤を調製する際には、ジルコニア(B)を分散させるためにジルコニア(B)をゾル化したものを用いることが好ましい。
水性アニオン性ウレタン樹脂(A)とジルコニア(B)中のジルコニウムとの質量比は50:1から200:1である。この質量比は、75:1から175:1であればより好ましく、100:1から150:1であれば更に好ましい。
ジルコニア(B)のメジアン径は特に限定されるものではないが、例えば5nm以上150nm以下であることが好ましい。なお、このメジアン径は、動的光散乱法により測定した値によって規定される。
モリブデン酸素酸塩は、例えばモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
水性アニオン性ウレタン樹脂(A)とモリブデン酸素酸塩(C)中のモリブデンとの質量比は、500:1から1000:1である。この質量比は、550:1から900:1であればより好ましく、600:1から800:1であれば更に好ましい。
ヒンダードアミン類(D)は、ピペリジン環の窒素原子に直接又は酸素原子を介して炭素原子が結合した構造を有する化合物である。
ヒンダードアミン類(D)は、例えば2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル、(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、トリデシル-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1-オクチロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-n-ブチルマロン酸(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)、ポリ[{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチル{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシルエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物、及びポリ[N、N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1,6-ヘキサンジアミン-co-2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-1,3,5-トリアジン ]等からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
水性アニオン性ウレタン樹脂(A)とヒンダードアミン類(D)との質量比は50:1から200:1である。この質量比は、75:1から175:1であればより好ましく、100:1から150:1であれば更に好ましい。
水系表面処理剤は、酸化チタン系白色顔料(E)を含有することも好ましい。酸化チタン系白色顔料(E)は、例えば二酸化チタンなどである。
酸化チタン系白色顔料(E)の、レーザ回折散乱法により測定される粒度分布から算出されるメジアン径(D50)は、0.3μm以上1.0μm以下であることが好ましい。このメジアン径は0.4以上0.9以下であればより好ましく、0.5以上0.8以下であれば更に好ましい。
酸化チタン系白色顔料(E)の割合は、保護層に対して0.5質量%以上3.0質量%以下であることが好ましい。酸化チタン系白色顔料(E)の割合は、1.0質量%以上2.5質量%以下であればより好ましく、1.5質量%以上2.0質量%以下であれば更に好ましい。
水系表面処理剤は、上記以外の添加剤を含有してもよい。添加剤は、例えば消泡剤、顔料分散剤、タレ防止剤、レベリング剤、及び体質顔料からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
体質顔料は、例えばシリカ(G)、アルミナ、タルク、及び炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
特に水系表面処理剤はシリカ(G)を含有することが好ましい。シリカ(G)を含有する場合、シリカ(G)の割合としては、シリカ(G)中に含まれるケイ素と水性アニオンウレタン樹脂(A)の質量比が10:1から80:1であることが好ましく、15:1から70:1であればより好ましく、20:1から50:1であれば更に好ましい。
水系表面処理剤は、ビニルシラン(F)を含有してもよい。ビニルシラン(F)は、例えばビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、及びビニルトリス(2-メトキシエトキシシラン)からなる群から選択される少なくとも一種を含有する。
水系表面処理剤がビニルシラン(F)を含有する場合、モリブデン酸素酸塩(C)とビニルシラン(F)との質量比は、0.7:1から2.0:1であることが好ましい。
なお、水系表面処理剤は、ビニルシラン(F)以外のシランカップリング剤を含有してもよい。ビニルシラン(F)以外のシランカップリング剤として、例えばγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-3、4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等のエポキシ基を有するシランカップリング剤、及びγ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基を有するシランカップリング剤等が、挙げられる。
水系表面処理剤は、水に、ポリエステルポリオール残基を有する水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と、ジルコニア(B)と、モリブデン酸素酸塩(C)と、ヒンダードアミン類(D)と、を配合したり、必要に応じて酸化チタン系白色顔料(E)をさらに配合したりすることにより製造することができる。なお、水系表面処理剤は、ポリエステルポリオール残基を有する水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と、ジルコニア(B)と、モリブデン酸素酸塩(C)と、ヒンダードアミン類(D)と、水とを含む組成物(以下、「組成物A」という)、または、ポリエステルポリオール残基を有する水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と、ジルコニア(B)と、モリブデン酸素酸塩(C)と、ヒンダードアミン類(D)と、酸化チタン系白色顔料(E)と、水とを含む組成物(以下、「組成物B」という)に、さらにビニルシラン(F)等のシランカップリング剤を配合させることにより製造してもよい。また、水系表面処理剤は、組成物A、組成物B、組成物Aにシランカップリング剤を加えた組成物(以下、「組成物C」という)、又は組成物Bにシランカップリング剤を加えた組成物(以下、「組成物D」という)に、シリカ(G)等の体質顔料を配合させることにより製造してもよい。
水系表面処理剤及び保護層は、クロム及びクロム化合物のうち少なくとも一方を含有してもよいが、クロム及びクロム化合物をいずれも含有しないことが好ましい。水系表面処理剤がクロム及びクロム化合物のうち少なくとも一方を含有する場合には、不可避的不純物としてのみ含有することが好ましい。
被覆めっき鋼板の製造方法について、説明する。
被覆めっき鋼板は、JIS G3321:2019に準じて鋼板にめっき処理を施すことでめっき層を形成し、更にめっき層の上に保護層を形成することで製造される。
めっき処理は、例えば溶融めっき処理である。この場合、例えば鋼板を、無酸化炉内で予備加熱した後に還元炉内で還元焼鈍し、続いて溶融めっき浴に浸漬してから引き上げる。また、鋼板を溶融めっき処理する別の方法としては、例えば全還元炉を用いる方法も挙げられる。いずれの方法においても、鋼板に溶融めっき金属を付着させてから、ガスワイピング方式で、溶融めっき金属の付着量を調整し、次いで冷却することで、鋼板にめっき層を形成することができる。これらの工程は連続的に行うことができる。
めっき層上に保護層を形成する前に、めっき層の表面に対する下地処理として、純水や各種有機溶剤液による洗浄や、酸、アルカリや各種エッチング剤を任意に含む水溶液や各種有機溶剤液による洗浄などが施されてもよい。このようにめっき層の表面が洗浄されると、めっき層の表層にMg系酸化保護膜が少量存在したり、めっき層の表面に無機系及び有機系の汚れ等が付着していたりしても、これらのMg系酸化保護膜や汚れ等がめっき層から除去され、これによりめっき層と保護層との密着性が改善され得る。
保護層は、上述した水系表面処理剤を用い、ロールコート法、スプレー法など公知の塗布方法で作製され得る。水系表面処理剤の塗布後、必要に応じ、更に常温放置や、熱風炉や電気炉、誘導加熱炉などの加熱装置による乾燥や焼付けなどの工程が追加されてもよい。乾燥時の温度や乾燥時間は、使用した水系表面処理剤の種類や、求められる生産性などに応じて適宜決定される。このようにして形成される保護層は、めっき層上で、連続状若しくは非連続状の保護層となる。保護層の厚み及び付着量は、処理の種類、求められる性能などに応じて、適宜決定される。例えば保護層の付着量は、1.0g/m2以上3.0g/m2である。
以下、本実施形態の具体的な実施例を提示する。なお本実施形態は下記の実施例のみには制限されない。
1.めっき鋼板の準備
表1に示すNo.1~3の、JIS G3321:2019に規定される溶融55%アルミニウム-亜鉛合金めっき鋼板を用意した。また、表1に示すNo.4のめっき鋼板も用意した。表1に各めっき鋼板におけるめっき層の組成を示す。この表中の数値は、めっき層全体に対するめっき層中の元素の割合を、質量百分率(質量%)で示す。なお、実施例では、厚み0.35mm、幅220mmの長尺の各めっき鋼板を用いた。
Figure 0007417473000001
2.水系表面処理剤の調製
表2~13に示す組成の水系表面処理剤を調製した。なお、表2~13の「組成」欄に記載の各成分の製造及び詳細は、以下の通りである。また、比較例3の組成は、実施例1からウレタン樹脂を除いた組成に相当する。
なお、表2~13において、「(A)/(B)」は、「ウレタン樹脂(A)の質量/ジルコニア(B)中のジルコニウムの質量」の値を示し、「(A)/(C)」は「ウレタン樹脂(A)の質量/モリブデン酸素酸塩(C)中のモリブデンの質量」の値を示し、「(A)/(D)」は「ウレタン樹脂(A)の質量/ヒンダートアミン(D)の質量」の値を示し、「(C)/(F)」は「モリブデン酸素酸塩(C)の質量/ビニルシラン(F)の質量」の値を示し、「(A)/(G)」は「ウレタン樹脂(A)の質量/シリカ(G)に含まれるケイ素の質量」の値を示す。
<ウレタン樹脂(A)の製造>
ウレタン樹脂(A-1)~(A-5)を以下に示す合成方法で得た。
(1)ポリエステルポリオールウレタン樹脂(A-1)
反応器内に1,6-ヘキサンジオールとアジピン酸から得られた数平均分子量3000のポリエステルポリオール100質量部、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール5質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸30質量部、4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート100質量部、N-メチル-2-ピロリドン100質量部を加えて反応させて、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量5%であるウレタンプレポリマーを得た。次に、テトラメチレンジアミン16質量部及びトリエチルアミン10質量部を脱イオン水300質量部に加えてホモミキサーで4時間攪拌しながら、上記ウレタンプレポリマーを加えて乳化分散し、最後に脱イオン水を加えて不揮発分35質量%とし、酸価18mgKOH/gの水性アニオン性ウレタン樹脂を得た。
(2)ポリエステルポリオールウレタン樹脂(A-2)
反応器内に1,4-シクロヘキサンジオールとアジピン酸から得られた数平均分子量3000のポリエステルポリオール100質量部、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール5質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸30質量部、4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート100質量部、N-メチル-2-ピロリドン100質量部を加えて反応させて、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量5%であるウレタンプレポリマーを得た。次に、テトラメチレンジアミン16質量部及びトリエチルアミン10質量部を脱イオン水300質量部に加えてホモミキサーで4時間攪拌しながら、上記ウレタンプレポリマーを加えて乳化分散し、最後に脱イオン水を加えて不揮発分35質量%とし、酸価18mgKOH/gの水分散性アニオン性ウレタン樹脂を得た。
(3)ポリエステルポリオールウレタン樹脂(A-3)
反応器内に1,4-シクロヘキサンジオールとネオペンチルグリコールとアジピン酸から得られた数平均分子量3000のポリエステルポリオール100質量部、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール5質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸30質量部、4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート100質量部、N-メチル-2-ピロリドン100質量部を加えて反応させて、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量5%であるウレタンプレポリマーを得た。次に、テトラメチレンジアミン16質量部及びトリエチルアミン10質量部を脱イオン水300質量部に加えてホモミキサーで4時間攪拌しながら、上記ウレタンプレポリマーを加えて乳化分散し、最後に脱イオン水を加えて不揮発分35質量%とし、酸価18mgKOH/gの水分散性アニオン性ウレタン樹脂を得た。
(4)ポリカーボネートポリオールウレタン樹脂(A-4)
反応器内に1,6-ヘキサンジオールと炭酸ジメチルから得られた数平均分子量3000のポリカーボネートポリオール100質量部、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール5質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸30質量部、4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート100質量部、N-メチル-2-ピロリドン100質量部を加えて反応させて、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量5%であるウレタンプレポリマーを得た。次に、テトラメチレンジアミン16質量部及びトリエチルアミン10質量部を脱イオン水300質量部に加えてホモミキサーで4時間攪拌しながら、上記ウレタンプレポリマーを加えて乳化分散し、最後に脱イオン水を加えて不揮発分35質量%とし、酸価18mgKOH/gの水分散性アニオン性ウレタン樹脂を得た。
(5)ポリエーテルポリオールウレタン樹脂(A-5)
反応器内にエチレングリコールと1,4-シクロヘキサンジオールから得られた数平均分子量3000のポリエーテルポリオール100質量部、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール5質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸30質量部、4,4-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート100質量部、N-メチル-2-ピロリドン100質量部を加えて反応させて、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量5%であるウレタンプレポリマーを得た。次に、テトラメチレンジアミン16質量部及びトリエチルアミン10質量部を脱イオン水300質量部に加えてホモミキサーで4時間攪拌しながら、上記ウレタンプレポリマーを加えて乳化分散し、最後に脱イオン水を加えて不揮発分35質量%とし、酸価18mgKOH/gの水分散性アニオン性ウレタン樹脂を得た。
<ジルコニア(B)>
B-1:ジルコニアゾル メジアン径90nm
B-2:炭酸ジルコニウムアンモニウム。
<モリブデン酸素酸塩(C)>
C:モリブデン酸アンモニウム。
<ヒンダートアミン類(D)>
D-1:ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバゲート
D-2:ビス(1-オクロチロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート
D-3:ポリ[N、N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-1,6-ヘキサンジアミン-co-2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-1,3,5-トリアジン]
D-4:ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート。
<酸化チタン系白色顔料(E)>
E-1:メジアン径0.3μm
E-2:メジアン径0.7μm
E-3:メジアン径1.0μm。
<ビニルシラン(F)>
F:3-ビニルトリメトキシシラン。
<シリカ(G)>
G:コロイダルシリカ 動的光散乱法によるメジアン径50nm。
3.被覆めっき鋼板の製造
めっき鋼板におけるめっき層の上に水系表面処理剤をロールコーターにより塗布してから、最高到達温度90℃で5秒間加熱することで、保護層を作製した。保護層の付着量は、表2~13の「付着量」の欄に示す通りである。
4.評価試験
(1)耐黒変性(40℃)
被覆めっき鋼板(以下「処理板」ともいう)の保護層の表面に純水を0.1cc(100μl)滴下し、この保護層に別の処理板の保護層を重ね合わせ、重ねた処理板に均一に荷重がかかるように6kgの重りを載せた。重りを載せた状態で、重ねた処理板を40℃の恒温槽に120時間静置後、純水を滴下した部分の変色状況を目視し、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表2~13に示す。なお、4点以上を良好とし、3点以下の場合、実用的ではないと判断した。
<評価基準>
5点:変色なし
4点:極僅かに変色が認められる
3点:僅かな変色が認められる
2点:明確な変色が認められる
1点:明確な黒変または変色が認められ、かつ、ムラを生じている。
(2)耐黒変性(20℃)
恒温槽の温度を20℃に変更したこと以外は、上記の「(1)耐黒変性(40℃)」と同じ試験を実施した。純水を滴下した部分の変色状況を目視し、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表2~13に示す。なお、4点以上を良好とし、3点以下の場合、実用的ではないと判断した。
<評価基準>
5点:変色なし
4点:極僅かに変色が認められる
3点:僅かな変色が認められる
2点:明確な変色が認められる
1点:明確な黒変または変色が認められ、かつ、ムラを生じている。
(3)めっきむら隠蔽性
処理板の外観を目視し、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表2に示す。◎もしくは○ならば良好な外観である。×の場合、やや美観を損なうが実用上問題はない。
<評価基準>
◎:ムラなし
○:極僅かにムラによる変色が認められる
×:僅かにムラによる変色が認められる。
(4)耐候性
秋(9月ごろ)から春(3月ごろ)にかけて処理板の24週間屋外曝露試験を行い、試験前後の、処理板における保護層表面の色差を色差計(ColorMeterZE2000 日本電色工業株式会社製)を用いて測定した。測定結果から、試験前後でのL値の差及びb値の差を求め、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表2~13に示す。なお、表2~13の評価結果については、L値の差とb値の差のいずれか低い点数を優先して示す。また、評価結果が「3」以上の判定であれば実用レベルであると判断した。
<評価基準>
(L値の差)
4:0以上2未満。
3:2以上4未満。
2:4以上7未満。
1:7以上。
(b値の差)
4:0以上1未満。
3:1以上4未満。
2:4以上7未満。
1:7以上。
(5)耐食性(SST)
塩水噴霧試験法JIS-Z-2371に基づき処理板の保護層に対して中性塩水噴霧を240時間行った後、処理板における白錆が発生した面積の割合(%)を目視により求め、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表2~13に示す。なお、評価結果が「3」以上の判定であれば実用レベルである。
<評価基準:白錆発生面積率>
5:白錆発生面積1%未満。
4:白錆発生面積1%以上3%未満。
3:白錆発生面積3%以上10%未満。
2:白錆発生面積10%以上30%未満。
1:白錆発生面積30%以上。
(6)耐食性(端面赤錆)
塩水噴霧試験法JIS-Z-2371に基づき処理板の保護層に対して中性塩水噴霧を1500時間行った後、処理板の端面部において赤錆が発生したか否かを確認し、以下の評価基準に従って評価した。評価結果を表2に示す。〇ならば良好、×ならば劣位である。
<評価基準>
〇:赤錆発生なし
×:赤錆発生あり
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Figure 0007417473000003
Figure 0007417473000004
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Figure 0007417473000009
Figure 0007417473000010
Figure 0007417473000011
Figure 0007417473000012
Figure 0007417473000013

Claims (2)

  1. 鋼板と、めっき層と、保護層とを、この順に積層して備え、
    前記めっき層は、アルミニウム、ケイ素、亜鉛及びマグネシウムを含有し、
    前記めっき層において、前記アルミニウムの割合は50.0質量%以上60.0質量%以下の範囲内、前記ケイ素の割合は1.0質量%以上3.0質量%以下の範囲内、前記マグネシウムの割合は0.5質量%以上3.0質量%以下の範囲内、かつ前記アルミニウム、前記ケイ素及び前記亜鉛の合計の割合は95質量%以上であり、
    前記保護層は、水系表面処理剤を前記めっき層の表面に塗布した後乾燥することにより形成され、
    前記水系表面処理剤は、
    ポリエステルポリオール残基を有する水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と、
    ジルコニア(B)と、
    モリブデン酸素酸塩(C)と、
    ヒンダードアミン類(D)と、
    水とを含有し、
    前記水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と前記ジルコニア(B)中のジルコニウムとの質量比は50:1から200:1であり、
    前記水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と前記モリブデン酸素酸塩(C)中のモリブデンとの質量比は500:1から1000:1であり、
    前記水性アニオン性ウレタン樹脂(A)と前記ヒンダードアミン類(D)との質量比は50:1から200:1である、
    被覆めっき鋼板。
  2. 前記水系表面処理剤は、酸化チタン系白色顔料(E)を更に含む、
    請求項1に記載の被覆めっき鋼板。
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