JP7415834B2 - セメント組成物及びセメント組成物の製造方法 - Google Patents

セメント組成物及びセメント組成物の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、セメント組成物及びセメント組成物の製造方法に関する。
従来から、環境負荷を低減し、また製造に係るコストを削減することを目的として、セメント原料には、廃棄物由来のものが一定量利用されている。これらの廃棄物の種類は多岐に渡り、環境負荷の低減という観点からは、セメント産業の貢献は極めて大きいと言える。
しかし、セメント原料において、上記のような廃棄物を利用するにあたっては、上記廃棄物等を高温で焼成して得られるセメントクリンカとして利用することが大部分であり、このようなセメントクリンカの製造では、二酸化炭素の排出を伴う。
そのため、セメント産業から排出される二酸化炭素を低減する観点では、セメントクリンカの使用量を低減すること(省クリンカ)が、有効な対策の一つとして着目されている。
例えば、非特許文献1では、高炉セメント等の混合セメント系において、混合材の使用量を増加させる取り組みがなされている。
混合セメントにおいて、セメントクリンカの使用量を低減する方策として、混合材の使用量を増加させることは極めて有効であるが、日本国内ではポルトランドセメントの需要が高く、とりわけ普通ポルトランドセメントの出荷量が国内セメント出荷量の7割近くを占めるため、混合セメントの製造による二酸化炭素排出量の低減効果は、セメント業界全体への寄与としては、やや限定的なものとなっている。
そのため、今後、セメント業界全体での二酸化炭素の排出量の低減が求められた場合には、特に汎用品として利用される普通ポルトランドセメントに対しての取り組みが必要となると考えられる。
現在のJIS R5210:2009「ポルトランドセメント」の規格上では、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び超早強ポルトランドセメントでは、セメントクリンカ及び石膏以外に、少量混合成分として石灰石、高炉スラグ、フライアッシュ(I種またはII種)及びシリカ質混合材を、これらの合計量で5質量%を上限として添加することが許されている。
仮に、今後、省クリンカを目的として、上記JIS規格の少量混合成分の含有量の上限が緩和され、現状の5質量%から10質量%に含有量が拡大された場合には、更にセメントクリンカ使用量を最大で3.5質量%程度削減することが可能となることが予想される。
そして、上記のように少量混合成分の含有量の上限が緩和された場合、増量して使用される少量混合成分としては、現在主に用いられている石灰石ではなく、他の産業から排出される廃棄物である高炉スラグや、フライアッシュ等を、焼成を経ずに、積極的に利用することが、更なる環境負荷の低減の観点では望まれる。
坂井悦郎、他、「初期水和性状を考慮した高炉スラグ高含有セメントの材料設計」、Cement Science and Concrete Technology, No.65, 2011
しかし、普通ポルトランドセメントは、その使用用途も多岐に渡るため、少量混合成分の含有量の上限が大きくなる場合、少量混合成分無添加の製品との物性差が拡大する恐れがある。その際懸念される物性として、圧縮強さ及び低水セメント比配合での自己収縮が挙げられる。
本発明は、少量混合成分の含有量が増えても、圧縮強さに優れるとともに、自己収縮を抑制し得るセメント組成物及び該セメント組成物の製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、以下の<1>~<5>を提供する。
<1>ポルトランドセメント、フライアッシュ、石灰石及び沈降性シリカを含み、前記フライアッシュの含有量、前記石灰石の含有量及び前記沈降性シリカの含有量の合計が、5質量%超10質量%以下である、セメント組成物。
<2>前記石灰石の含有量が、5質量%以下である、<1>に記載のセメント組成物。
<3>前記沈降性シリカのブレーン比表面積が、4,000cm/g以上20,000cm/g未満である、<1>又は<2>に記載のセメント組成物。
<4>前記石灰石の含有量(LSP)に対する前記沈降性シリカの含有量(SI)の比(SI/LSP)が、0.25以上8.0以下である、<1>~<3>のいずれかに記載のセメント組成物。
<5>フライアッシュの含有量、石灰石の含有量及び沈降性シリカの含有量の合計が、5質量%超10質量%以下となるように、ポルトランドセメント、前記フライアッシュ、前記石灰石及び前記沈降性シリカを混合する工程を含むセメント組成物の製造方法。
本発明に依れば、今後、省クリンカを目的として、JIS規格の少量混合成分の含有量の上限が緩和され、現状の5質量%から10質量%に含有量が拡大された場合でも、圧縮強さに優れ、自己収縮を抑制し得るセメント組成物を提供することができる。
以下、本発明のセメント組成物及びセメント組成物の製造方法について、詳細に説明する。なお、本明細書中の「AA~BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
[セメント組成物]
本発明のセメント組成物は、ポルトランドセメント、フライアッシュ、石灰石及び沈降性シリカを含み、前記フライアッシュの含有量、前記石灰石の含有量及び前記沈降性シリカの含有量の合計が、5質量%超10質量%以下である。
従来、ポルトランドセメントにおいて、省クリンカを実現する上では、次のような問題があった。
少量混合成分として石灰石を単味で添加する場合、その含有量を増加させると、圧縮強さは優れるものの、自己収縮が大幅に増大する問題があった。また、少量混合成分としてフライアッシュを単味で添加する場合、自己収縮は抑制されるが、含有量の増加に伴い、圧縮強さが低下する問題があった。
本発明者らは、セメント組成物の配合組成を鋭意研究した結果、フライアッシュ、石灰石及び沈降性シリカの中から2種類を選択して少量混合成分としてセメントに添加しても、圧縮強さ(特に7日材齢などの短期強度)の発現と自己収縮の抑制とを両立させることが難しいことが判明した。そして、フライアッシュ、石灰石及び沈降性シリカの3種類を配合することで、少量混合成分の含有量をJIS規格で規定されている範囲を超えて増大させても、短期材齢から圧縮強さを向上でき、さらに、自己収縮を効果的に抑制し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
以下、構成成分ごとに詳しく説明する。
<ポルトランドセメント>
本発明において、構成成分としての「ポルトランドセメント」とは、JIS R5210:2009「ポルトランドセメント」の規格を満足する、ポルトランドセメントクリンカと石膏とからなるものを示す。したがって、単に「ポルトランドセメント」と表記した場合は、少量混合成分を含まないものを指す。なお、本発明において、更に少量混合成分を含む場合は、「セメント組成物」と表記して区別するものとする。
このようなポルトランドセメントとしては、特に限定されるものではなく、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等が挙げられる。
また、ポルトランドセメントに使用されるポルトランドセメントクリンカは、JIS R5210:2009「ポルトランドセメント」に規定される早強、普通、中庸熱、低熱ポルトランドセメントクリンカが挙げられる。なお、現状のJIS規格上の少量混合成分添加の可否の観点及びクリンカ製造量に対する本発明の省クリンカ効果の観点からは、普通ポルトランドセメントクリンカが望ましい。
また、ポルトランドセメントに使用される石膏は、JIS R5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されるものが挙げられる。
セメント組成物中のポルトランドセメントの含有量は、95質量%未満であり、好ましくは90質量%以上95質量%未満であり、より好ましくは90質量%以上94質量%未満であり、更に好ましくは90質量%以上92質量%未満である。上記範囲であると、少量混合成分の含有量を大きくすることができ、省クリンカの効果を発揮することができる。
<少量混合成分>
本発明のセメント組成物は、少量混合成分として石灰石、フライアッシュ及び沈降性シリカを含むことを要件とする。セメント組成物中のフライアッシュの含有量、石灰石の含有量及び沈降性シリカの含有量の合計(以下、単に「合計含有量」と称する場合がある)は、5質量%超10質量%以下であり、好ましくは6~10質量%である。合計含有量が上記範囲であると、省クリンカを実現しつつ、圧縮強さを向上させることができ、自己収縮も良好に抑制できる。なお、合計含有量が、5質量%未満であると本発明の目指す省クリンカが達成されず、10質量%超であると本発明の定義上の少量混合成分の含有量範囲の上限を超えてしまう。
<<フライアッシュ>>
本発明のセメント組成物では、少量混合成分の一つとしてフライアッシュを用いることにより、廃棄物利用の観点から環境負荷を低減でき、更に自己収縮の抑制効果も期待できる。
フライアッシュとしては、JIS A 6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」に規定されるもののフライアッシュI種およびフライアッシュII種が挙げられる。特に、フライアッシュII種に相当するものがより好ましい。
フライアッシュのブレーン比表面積は、好ましくは2500cm/g以上であり、より好ましくは2500~4200cm/gであり、更に好ましくは2500~3800cm/gである。上記範囲であると、セメント組成物とした場合の自己収縮を充分に抑制できると同時に、混練時の流動性を良好な範囲にすることができる。
なお、フライアッシュのブレーン比表面積はJIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法、8 粉末度試験、8.1 比表面積試験」に記載の方法に従って測定した比表面積の数値をいう。
フライアッシュの未燃炭素含有量は、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは4.0質量%以下である。
なお、フライアッシュの未燃炭素含有量は、JIS A 6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」8.3強熱減量に従って測定した数値をいう。
セメント組成物中のフライアッシュの含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であることが好ましい。上記範囲であると、自己収縮の抑制効果を十分に発揮しつつ、圧縮強さを向上させることができる。廃棄物の利用促進との観点からは、フライアッシュの含有量は3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。なお、フライアッシュの含有量の上限は、石灰石、フライアッシュ及び沈降性シリカの合計含有量が10質量%以下を満たす範囲で設定する。
<<石灰石>>
本発明のセメント組成物では、少量混合成分の一つとして石灰石を含む。上述したように、石灰石は自己収縮を増大させる効果があることが知られているが、フライアッシュ及び沈降性シリカとともに少量成分として含まれると、自己収縮が抑制されるという技術常識に相反する効果が得られる。更には、短期材齢からの圧縮強さが向上するという効果も得られる。
本発明に用いられる石灰石は、炭酸カルシウムの含有率が90質量%以上であるものがより好ましい。石灰石のブレーン比表面積は、好ましくは3000cm/g以上であり、より好ましくは3000~20000cm/gであり、更に好ましくは3200~15000cm/gである。上記範囲であると、セメント組成物とした場合に圧縮強さを向上させ、自己収縮を充分に抑制できる。更に、混練時の流動性を良好な範囲にすることができる。
なお、石灰石のブレーン比表面積はJIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法、8 粉末度試験、8.1 比表面積試験」に記載の方法に従って測定した比表面積の数値をいう。
本発明において、セメント組成物中の石灰石の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。石灰石の含有量が上記範囲であると、自己収縮の抑制効果を十分に発揮することができる。更に、相対的にフライアッシュの含有量を増加させることができるので、廃棄物の有効利用にも繋がる。なお、特に圧縮強さ発現の観点から、石灰石の含有量は0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが更に好ましい。
<<沈降性シリカ>>
本発明のセメント組成物では、少量混合成分の一つとして沈降性シリカを用いることにより、自己収縮を抑制しつつ圧縮強さを向上させることができる。
沈降性シリカは、特に限定されるものではないが、比表面積及び平均粒径の観点からはシリカフュームとは明確に区別されるものである。
また、沈降性シリカとしては、SiO含有量が60質量%以上のものが好ましい。
沈降性シリカのブレーン比表面積は、好ましくは4,000cm/g以上20,000cm/g未満であり、より好ましくは6000~20000cm/gであり、更に好ましくは8000~20000cm/gである。上記範囲であると、過剰な微粉の添加による流動性低下を抑えることができる。
なお、沈降性シリカのブレーン比表面積はJIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法、8 粉末度試験、8.1 比表面積試験」に記載の方法に従って測定した比表面積の数値をいう。
沈降性シリカの平均粒径(MV)は、好ましくは5~100μmであり、より好ましくは10~90μmであり、更に好ましくは15~80μmである。上記範囲であると、過剰な微粉の添加による流動性低下を抑えることができる。
なお、平均粒径(MV)は、実施例に記載の粒度分布の測定に従って測定した平均粒径の数値をいう。
セメント組成物中の沈降性シリカの含有量は、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上であり、更に好ましくは2質量%以上である。上記範囲であると、圧縮強さの向上効果を十分に発揮しつつ、自己収縮も良好に抑制できる。なお、相対的にフライアッシュの含有量を増加させて廃棄物の有効利用を図る観点から、沈降性シリカの含有量は5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
本発明のセメント組成物において、石灰石の含有量(LSP)に対する沈降性シリカの含有量(SI)の比(SI/LSP)は、0.25以上8.0以上であることが好ましい。上記範囲であると、自己収縮を効果的に抑制することができる。SI/LSPは、0.5~5.0であることがより好ましく、0.7~3.0であることが更に好ましい。
<<その他の成分>>
セメント組成物は、JIS R5210:2009「ポルトランドセメント」の規格を満足し、本発明の効果を妨げない範囲で、上記以外のその他の成分を含むことができる。
その他の成分としては、例えば、高炉スラグ、シリカフューム及び沈降性シリカ以外のシリカ質混合材(以下、単に「シリカ質混合材」と称する)、粉砕助剤が挙げられる。
なお、上記その他の成分のうち、高炉スラグ及びシリカ質混合材は、石灰石、フライアッシュ及び沈降性シリカと同様に少量混合成分に該当する。そのため、これらの成分を含む場合、フライアッシュ、石灰石、沈降性シリカを含めた含有量の合計として10質量%以下となるように、高炉スラグ及びシリカ質混合材の含有量を調整する。また、石灰石、フライアッシュ及び沈降性シリカの添加効果を高める観点からは、高炉スラグ及びシリカ質混合材の含有量は、5質量%未満であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。
[セメント組成物の製造方法]
本発明のセメント組成物の製造方法は、フライアッシュの含有量、石灰石の含有量及び沈降性シリカの含有量の合計が、5質量%超10質量%以下となるように、ポルトランドセメント、前記フライアッシュ、前記石灰石及び前記沈降性シリカを混合する工程を含む。
セメント組成物の製造方法では、公知の方法により上記成分を配合及び混合することができる。
混合手段としては、ボールミル、容器回転型混合機(水平円筒型混合機,V型混合機,二重円錐型混合機等)、容器固定型混合機(機械的攪拌型混合機,気流攪拌型混合機等)などが挙げられる。
本発明のセメント組成物は、細骨材及び粗骨材等の骨材、及び各種化学混和剤等と混合して、モルタルやコンクリートを作製する際に好適に用いることができる。
本発明のセメント組成物を用いたモルタルやコンクリートは、環境負荷を低減しつつ、高強度で、自己収縮を抑制できる。
[セメント組成物の原料]
以下の実施例及び比較例では、以下の材料を使用した。
(1)クリンカ
普通ポルトランドセメントクリンカ:実機プラントで製造され、粉砕されたもの2種類。各クリンカのブレーン比表面積は、3260cm/g(クリンカ1)、3350cm/g(クリンカ2)。化学組成を表1に示す。
(2)石膏
(A)クリンカ1と混合用:半水石膏。火力発電所で得られる排脱石膏を120℃で保持した後、粉砕されたもの(ブレーン比表面積12900cm/g)。
(B)クリンカ2と混合用:関東化学株式会社 試薬 半水石膏。
(3)フライアッシュ
火力発電所由来の石炭灰(JIS A 6201:2015 フライアッシュII種相当、密度2.2g/cm、ブレーン比表面積3620cm/g)。
(4)石灰石
関東化学株式会社製 鹿1級試薬 炭酸カルシウム(密度2.9g/cm、ブレーン比表面積9760cm/g)。
(5)沈降性シリカ
関東化学株式会社 試薬 特級沈降性シリカ(密度2.2g/cm、ブレーン比表面積17600cm/g、平均粒径(MV)73.0μm、メジアン径(D50)51.4μm)
[セメント組成物の評価]
クリンカの化学組成、セメント組成物中の各材料の密度、ブレーン比表面積は、下記の条件で測定した。
<化学組成>
クリンカの化学組成は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準じて蛍光X線測定装置(PRIMUS IV、株式会社リガク製)を用いて、ガラスビード法にて成分分析を行った。
<密度>
密度の測定は、ガス置換型真密度測定装置(ULTRAPYCNOMETER1000、QUANTACHROME INSTRUMENTS製)を用いて、窒素ガス置換により行った。
<ブレーン比表面積>
ブレーン比表面積の測定は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準じて行った。
<粒度分布>
粒度分布の測定は、レーザー回折・散乱式 粒子径分布測定装置(MT-3000、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、エタノール中への分散による湿式法で行った。
[ポルトランドセメントの調製]
クリンカ1~2に、それぞれSO配合量が1.9~2.0質量%となるように上記石膏を添加し、更に粉砕助剤(ジエチレングリコール、200ppm)を添加し、ボールミルで粉砕を行い、ブレーン比表面積が3300±50cm/gとなるようにポルトランドセメントを作製した。
表2に示す配合で、各ポルトランドセメントに対して、石灰石(LSP)、フライアッシュ(FA)及び沈降性シリカ(SI)を添加し、混合して、実施例1~7のセメント組成物を調製した。表2に、実施例1~7のセメント組成物について、石灰石含有量に対する沈降性シリカの含有量の比(SI/LSP)を示す。
クリンカ2を用いて調製したポルトランドセメントに対して、表2に示す配合で石灰石(LSP)、フライアッシュ(FA)または沈降性シリカ(SI)を添加し、混合して、比較例1~6のセメント組成物を調製した。また、クリンカ2を用いて調整したポルトランドセメントに対して、表2に示す配合でフライアッシュ(FA)及び沈降性シリカ(SI)を添加し、混合して、比較例7~11のセメント組成物を調製した。
[圧縮強さ評価]
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠し、実施例1~7及び比較例1~11のセメント組成物を用いてモルタル供試体を作製した。同様にして、各ポルトランドセメントに石灰石、フライアッシュ、沈降性シリカのいずれも添加しないで調製したセメント組成物からを用いて、モルタル供試体(以下、「基準供試体」と称する)を作製した。なお、圧縮強さ評価用のモルタル供試体の配合は、細骨材/セメント比が質量比で3、水/セメント比は50質量%とした。細骨材として、一般社団法人セメント協会製のセメント強さ試験用標準砂を使用した。
作製したモルタル供試体について、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠し、耐圧試験機を用いて、材齢7日及び28日の圧縮強さを測定した。実施例1~5については、クリンカ1のクリンカを用いて作製した基準供試体1の材齢7日及び28日での圧縮強さをそれぞれ100として、規格化した圧縮強さを算出した。実施例6~7及び比較例1~11については、クリンカ2のクリンカを用いて作製した基準供試体2の材齢7日及び28日での圧縮強さをそれぞれ100として、規格化した圧縮強さを算出した。結果を表2に示す。
[自己収縮評価]
以下の工程により、実施例1~7、比較例1~11のセメント組成物を用いて、自己収縮評価用のモルタル供試体を作製した。同様にして、各ポルトランドセメントに石灰石、フライアッシュ、沈降性シリカのいずれも添加しないで調製したセメント組成物を用いて、モルタル供試体(基準供試体)を作製した。
モルタル供試体の配合は、細骨材/セメント比が質量比で1、減水剤/セメント比は1.2質量%、(水+減水剤)/セメント比は35質量%とした。細骨材として、一般社団法人セメント協会製のセメント強さ試験用標準砂を使用した。減水剤として、BASFジャパン株式会社製のポリカルボン酸エーテル系高性能AE減水剤 マスターグレニウム SP8SBSを使用した。
モルタルの混錬手順は、JIS R 5201:2015に準拠した。
まず、継ぎ目箇所にビニールテープを用いて漏水対策処置を行った蓋部付きのテフロンシート製の内部型枠(40mm×40mm×160mm)を、木製の外部型枠内に設置し、糸を用いて、歪みゲージが供試体中心に水平配置されるよう固定した。その際、固定に用いた糸の端部は、テフロンシート製内部型枠、木製外部型枠に設けた穴を通じて、型枠外まで通され、養生テープにて固定した。
上記テフロンシート製内部型枠内に、混練直後のフレッシュモルタルを投入し、内部型枠の上面を、テフロンシート蓋部と養生テープによって封止処理を行い、材齢24時間までの水分の逸散を防止した。歪みゲージの固定に用いた糸は、モルタルの凝結の始発開始後に切断して開放し、歪みゲージの伸縮の妨げとならないようにした。
材齢24時間で、木製型枠から脱型し、継ぎ目箇所をブチルゴム系のテープにて封止し、供試体全体をアルミニウム箔粘着テープで封止し、更にビニール袋内に供試体を封止した。なお、歪みゲージの測定用ケーブルのみ、ビニール袋外に配した。
上記構成として、打ち込み後3日目、7日目、14日目、21日目、及び、28日目での自己収縮ひずみ(μ)の計測を行った。
実施例1~5については、クリンカ1のクリンカを用いて作製した基準供試体1の自己収縮ひずみを基準値として、各材齢での該基準値からの差([実施例及び比較例の各自己収縮ひずみ]-[基準供試体1の自己収縮ひずみ])を算出した。実施例6~7及び比較例1~11については、クリンカ2のクリンカを用いて作製した基準供試体2の自己収縮ひずみを基準値として、各材齢での該基準値からの差([実施例及び比較例の各自己収縮ひずみ]-[基準供試体2の自己収縮ひずみ])を算出した。結果を表2に示す。
フライアッシュを単味で添加した比較例1.4は、材齢7日での圧縮強さが低く、材齢28日での圧縮強さも十分ではなかった。石灰石を単味で添加した比較例2,5は、自己収縮が大きくなる傾向があった。また、沈降性シリカを単味で添加した比較例3,6は、特に材齢7日での圧縮強さが低く、自己収縮が大きくなる傾向があった。
これに対し、実施例はいずれも、材齢7日及び28日の圧縮強さが高く、自己収縮が小さい傾向が見られた。具体的に、LSP、FA及びSI(少量混合成分)の合計含有量が10質量%の実施例1~5は、自己収縮が効果的に抑制されている結果となった。少量混合成分の合計含有量が6質量%の実施例6~7は、材齢7日及び28日の圧縮強さがいずれも特に高い結果となった。
実施例1,4は、比較例10に対して、少量混合成分の合計含有量を同一としてフライアッシュの一部を石灰石に置換した例に相当する。また、実施例2,5は、比較例11に対して、少量混合成分の合計含有量を同一としてフライアッシュの一部を石灰石に置換した例に相当する。実施例1,4と比較例10、及び、実施例2,5と比較例11をそれぞれ対比すると、実施例はいずれも、フライアッシュ含有量が低減し石灰石が含まれているにも関わらず、圧縮強さが向上し、更に自己収縮が抑制されていることが判る。特に、材齢7日の圧縮強さが大幅に向上した。また、上述したように、石灰石を単味で含む場合には自己収縮が大きくなることが知られているところ、実施例1,4及び実施例2,5の結果はこのような知見とは反対の傾向であり、意外な結果であった。
実施例1は、比較例7のフライアッシュ及び沈降性シリカの各含有量と同じとして、更に石灰石を添加した例に相当する。実施例2は、比較例8のフライアッシュ及び沈降性シリカの各含有量と同じとして、更に石灰石を添加した例に相当する。実施例4は、比較例9のフライアッシュ及び沈降性シリカの各含有量と同じとして、更に石灰石を添加した例に相当する。実施例1と比較例7、実施例2と比較例8、及び、実施例4と比較例9をそれぞれ対比すると、実施例はいずれも、圧縮強さが向上し、更に自己収縮が抑制されていることが判る。特に、材齢7日の圧縮強さが大幅に向上した。また、石灰石を添加することにより逆に自己収縮が小さくなっていることは、上述の知見とは反対の傾向であり、意外な結果であったと言える。

Claims (5)

  1. ポルトランドセメント、フライアッシュ、石灰石及び沈降性シリカを含み、
    前記フライアッシュの含有量、前記石灰石の含有量及び前記沈降性シリカの含有量の合計が、5質量%超10質量%以下である、セメント組成物。
  2. 前記石灰石の含有量が、5質量%以下である、請求項1に記載のセメント組成物。
  3. 前記沈降性シリカのブレーン比表面積が、4,000cm/g以上20,000cm/g未満である、請求項1又は請求項2に記載のセメント組成物。
  4. 前記石灰石の含有量(LSP)に対する前記沈降性シリカの含有量(SI)の比(SI/LSP)が、0.25以上8.0以下である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のセメント組成物。
  5. フライアッシュの含有量、石灰石の含有量及び沈降性シリカの含有量の合計が、5質量%超10質量%以下となるように、ポルトランドセメント、前記フライアッシュ、前記石灰石及び前記沈降性シリカを混合する工程を含むセメント組成物の製造方法。
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