以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<<本発明の基本概念>>
本発明の具体的な実施の形態を説明する前に、各実施形態の基本概念について説明する。
各実施形態に係る車両用制御装置(以下、単に「制御装置」ともいう)は、車両に搭載され、入力される信号に基づいてデータ処理を行う制御装置であって、入力される信号に基づいて、信号の送信元の制御システムを判別する判別部と、判別部により判別された送信元の制御システムに応じて、入力される信号に基づいて所定のデータ処理を行う処理部と、を備える。
つまり、各実施形態において、制御装置は、入力される信号に基づいてあらかじめ設定された所定のデータ処理を実行するにあたり、信号の送信元の制御システムを判別し、判別された制御システムに応じて所定のデータ処理が適切に実行されるように処理内容を切り換え可能になっている。
判別される送信元の制御システムとしては、例えば、送信元の制御システムの形式や作動状態、世代、正常又は異常の状態が例示される。制御装置が受信する信号は、これらの送信元の制御システムに応じて異なり得る。例えば、送信元の制御システムに応じて、信号に含まれる識別情報、通信状態、信号の種類の数、データ長又はデータ内のシグナル構成、もしくは、信号の送信周期のうちの少なくとも一つが異なり得る。制御装置は、これらの情報を用いて送信元の制御システムを判別する。
また、送信元の制御システムの判別結果に応じて実行される所定のデータ処理としては、例えば、車両の故障や事故発生時において、各装置の状態を記録する処理(以下、かかる処理を「イベント記録処理」ともいう。)が例示される。実行されるデータ処理は、イベント記録処理以外の他のデータ処理であってもよい。制御装置は、送信元の制御システムの判別結果に応じた異なる手法により、所定のデータ処理を実行する。
これにより、本実施形態に係る制御装置は、送信元の制御システムがあらかじめ設定されていない場合であっても、制御装置が受信する信号に基づいて送信元の制御システムを判別して、所定のデータ処理を適切に実行することができる。
以下、エアバッグ制御装置が、ステアリング制御システムから送信される信号を受信し、イベント記録処理を実行する場合を例に採って、本発明の実施形態に係る制御装置について説明する。
<<ステアリング制御システムの構成例>>
構成の異なる二つのステアリング制御システムの基本構成例を簡単に説明する。
<電動パワーステアリングシステム>
図1は、エアバッグ制御装置100が電動パワーステアリングシステム1Aの情報を取得する際のシステム構成例を示す模式図である。電動パワーステアリングシステム1Aは、ステアリングホイール11、ステアリングシャフト13、電動制御ユニット20、ピニオンギヤ21、ラックギヤ23及びラック軸25を備える。
ステアリングシャフト13の一端にはステアリングホイール11が固定され、他端にはピニオンギヤ21が固定されている。ピニオンギヤ21は、ラック軸25に設けられたラックギヤ23に噛合し、ピニオンギヤ21の回転に伴ってラック軸25が軸方向に進退動する。電動パワーステアリングシステム1Aでは、運転者によるステアリングホイール11の操舵が、ステアリングシャフト13及びピニオンギヤ21を介してラックギヤ23に伝達されることで、ラック軸25の両端にタイロッドを介して連結された転舵輪5が転舵する。
電動制御ユニット20は、ステアリングシャフト13に操舵補助力を付与する図示しない電動モータ、運転者の操舵によるステアリングシャフト13への操舵トルクを検出する図示しないトルクセンサ及び制御装置10Aを備える。電動制御ユニット20の制御装置10Aは、運転者によるステアリングホイール11の操舵によりステアリングシャフト13へ入力される操舵トルクを図示しないトルクセンサによって検出し、運転者による操舵トルクに応じた操舵補助力を図示しない電動モータにより発生させる。制御装置10Aは、かかる操舵補助力をステアリングシャフト13に付与することで、運転者によるステアリングホイール11の操舵を補助する。電動パワーステアリングシステム1Aでは、電動制御ユニット20の制御装置10Aからエアバッグ制御装置100に対して信号S_aを送信可能になっている。具体的に、制御装置10Aは、CANバスを介して信号S_aを送信し、エアバッグ制御装置100が当該信号S_aを受信する。
<ステアリングバイワイヤシステム>
図2は、エアバッグ制御装置100がステアリングバイワイヤシステム1Bの情報を取得する際のシステム構成例を示す模式図である。ステアリングバイワイヤシステム1Bは、ステアリングホイール11、ステアリングシャフト13、第1の電動モータ15、クラッチ16、第2の電動モータ17、ピニオンシャフト19、ピニオンギヤ21、ラックギヤ23、ラック軸25及び制御装置10Bを備える。また、ステアリングバイワイヤシステム1Bは、ピニオンシャフト19の絶対角を検出することにより転舵輪の転舵角を検出する図示しない転舵角センサ、ステアリングシャフト13の絶対角を検出することにより運転者によるステアリングホイール11の操舵による操舵角を検出する図示しない操舵角センサを備える。
ステアリングシャフト13の一端にはステアリングホイール11が固定され、他端には第1の電動モータ15が接続されている。第1の電動モータ15は、制御装置10Bにより制御され、運転者がステアリングホイール11の操舵に対する反力を付与する機能を有する。ピニオンシャフト19の一端には第2の電動モータ17が接続され、他端にはピニオンギヤ21が固定されている。第2の電動モータ17は、制御装置10Bにより制御され、ピニオンシャフト19に対して転舵トルクを付与する機能を有する。
クラッチ16は、ステアリングシャフト13とピニオンシャフト19との間に介在し、制御装置10Bによって締結状態又は解放状態に切り換えられる。例えば、クラッチ6は、ステアリングバイワイヤシステム1Bのシステム起動時の初期診断状態、システム停止状態もしくは異常時において、締結状態に切り換えられる。
ステアリングバイワイヤシステム1Bでは、システム起動時の初期診断においてシステムに異常がないことが確認されるとクラッチ16が開放される。制御装置10Bは、運転者によるステアリングホイール11の操舵トルク及び操舵角に基づいて第2の電動モータ17の転舵トルクを制御する。これにより、運転者によるステアリングホイール11の操舵に応じた操舵トルクや操舵角に応じてピニオンシャフト19が回転し、ラック軸25の両端にタイロッドを介して連結された転舵輪5が転舵する。
また、ステアリングバイワイヤシステム1Bでは、車両の自動運転時等において、運転者によるステアリングホイール11の操舵が行われていない場合であっても、第2の電動モータ17の駆動を制御することによって転舵輪5を転舵させることができる。ステアリングバイワイヤシステム1Bでは、制御装置10Bからエアバッグ制御装置100に対して信号S_bを送信可能になっている。具体的に、制御装置10Bは、CANバスを介して信号S_bを送信し、エアバッグ制御装置100が当該信号S_bを受信する。
<エアバッグ制御装置>
図1及び図2に示したエアバッグ制御装置100は、入力される信号S_a,S_bに基づいて、信号S_a,S_bの送信元のステアリング制御システム(電動パワーステアリングシステム1A,ステアリングバイワイヤシステム1B)を判別する判別部101と、判別部101により判別された送信元のステアリング制御システムに応じて、エアバッグ制御装置100に入力される信号S_a,S_bに基づいてイベント記録処理を行う処理部111とを備える。
エアバッグ制御装置100の一部又は全部は、例えば、一つ又は複数のマイクロコンピュータ又はマイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよく、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよい。また、エアバッグ制御装置100の一部又は全部は、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
なお、図1及び図2に示したエアバッグ制御装置100は、ステアリング制御システムから入力される信号を受信し、当該信号に基づいてイベントを記録する処理に関連する機能構成を示している。その他、図示しないものの、エアバッグ制御装置100は、その基本的な機能として、車両の衝突時にエアバッグを作動させ、乗員保護装置を作動させる機能を有する。その際に、処理部111は、衝突前後の車両の状態や乗員の状態をイベント情報として不揮発性メモリ等に記録保持する。
ここで、処理部111により記録されるイベントの例を説明する。処理部111により記録されるイベントは、例えば、以下のイベントを含む。
-通信途絶イベント
-異常検知イベント
-異常復帰イベント
-故障確定イベント
-故障復帰イベント
-EOL未実施イベント
-衝突事象検知イベント
-エアバッグ展開イベント
-衝突処理完了イベント
-衝突記録開始イベント
-衝突記録完了イベント
通信途絶イベントは、CANあるいはLIN等の通信バスとの間の通信が途絶えた場合に検知されるイベントである。異常検知イベントは、エアバッグ制御装置100に関連する異常が見られた場合に検知されるイベントである。例えば、エアバッグ制御装置100は、故障診断において異常が見られた場合に異常検知イベントを検知する。異常復帰イベントは、エアバッグ制御装置100に関連する異常が解消した場合に検知されるイベントである。
故障確定イベントは、エアバッグ制御装置100に関連する異常が確定した場合に検知されるイベントである。例えば、エアバッグ制御装置100は、異常を検知した状態が所定時間継続した場合に故障を確定し、それを故障確定イベントとする。エアバッグ制御装置100は、異常が解消した状態が所定時間継続した場合に故障の復帰を確定し、それを故障復帰イベントとする。
EOL未実施イベントは、エアバッグ制御装置100のEOL操作が未実施の場合に検知されるイベントである。例えば、エアバッグ制御装置100は、EOL操作の未実施を診断する診断処理に基づいて、EOL操作が未実施の場合やEOL操作によって記憶部57の不揮発性メモリに書き込まれた設定情報が正常でない場合にEOL未実施イベントを検知する。
衝突事象検知イベントは、例えば、車両に備えられた加速度センサのセンサ信号等に基づいて検知される衝撃が所定の衝撃強度を超えた場合に検知されるイベントである。エアバッグ展開イベントは、例えば、エアバッグ制御装置100がエアバッグを展開させた場合に検知されるイベントである。衝突処理完了イベントは、例えば、車両の衝突発生後にエアバッグ制御装置100がエアバッグを展開させる等の所定の処理を完了させた場合に検知されるイベントである。
衝突記録開始イベントは、例えば、所定の衝撃強度を検出したことをきっかけに衝突記録を開始した場合に検知されるイベントである。衝突記録完了イベントは、例えば、上述の衝突記録が完了した場合に検知されるイベントである。
ステアリング制御システムから入力される信号に基づいて処理部111により記録される衝突記録として、例えば、衝突前後の操舵角や転舵角、車速、操舵トルクの情報が記録される。エアバッグ制御装置100は、ステアリング制御システムから入力される信号に基づいて送信元のステアリング制御システムを判別し、判別されたステアリング制御システムに応じて、エアバッグ制御装置100に入力される信号に基づいてイベント記録処理を行う。
以下の各実施形態では、エアバッグ制御装置100に送信される信号S_a,S_bが、CAN(Controller Area Network)プロトコルに準拠するメッセージとして構成された信号である例を説明するが、信号S_a,S_bの種類はかかる例に限定されない。
<<第1の実施の形態>>
本発明の第1の実施の形態に係る制御装置として、受信する信号に含まれる識別情報に基づいて送信元のステアリング制御システムの形式を判別し、所定のデータ処理を実行するエアバッグ制御装置について説明する。
<機能構成>
車両には、例えば、車両のグレードの違い等に応じて選択される電動パワーステアリングシステム1A又はステアリングバイワイヤシステム1Bのいずれかが搭載される。本実施形態に係るエアバッグ制御装置100は、車両の事故発生時に、電動パワーステアリングシステム1A又はステアリングバイワイヤシステム1Bのどちらが搭載されているかの情報、及び、ステアリング制御システムの作動状況を衝突記録として記録する。
具体的に、エアバッグ制御装置100の判別部101は、ステアリング制御システムから送信される信号S_a,S_bに基づいてステアリング制御システムの形式を判別する。また、エアバッグ制御装置100の処理部111は、判別されたステアリング制御システムの形式に応じた処理形態で、受信した信号S_a,S_bに基づいて処理を実行し、イベント記録処理を行う。このイベント記録情報として、エアバッグ制御装置100の故障発生時の故障原因の解析を助けるために車両状態やシステム状態、センサデータの記録などが記録される。また、事故時の車両状態の解析を助けるために車両の衝突時のエアバッグ展開前後の車両状態やエアバッグ制御装置の状態などを記録する。
図3は、電動パワーステアリングシステム1A及びステアリングバイワイヤシステム1Bそれぞれの送信信号(CANメッセージ)S_a,S_bについて説明するための図である。
搭載されるステアリング制御システムが電動パワーステアリングシステム1Aの場合、送信信号S_aの識別情報IDが0x123、送信周期f_tが100ミリ秒、データフレームサイズが5であるものとする。また、送信信号S_aの0バイト目(B_0)にステータス情報が書き込まれ、1~4バイト目(B_1~B_4)にデータA(ステアリング舵角情報)が書き込まれ、5~7バイト目(B_5~B_7)は未使用であるものとする。
また、搭載されるステアリング制御システムがステアリングバイワイヤシステム1Bの場合、送信信号S_bの識別情報IDが0x234、送信周期f_tが100ミリ秒、データフレームサイズが3であるものとする。また、送信信号S_bの0バイト目(B_0)にステータス情報が書き込まれ、1~2バイト目(B_1~B_2)にデータB(ステアリング舵角情報)が書き込まれ、3~7バイト目(B_3~B_7)は未使用であるものとする。
本実施形態に係るエアバッグ制御装置100は、初期状態において、ステアリング制御システムが未搭載と設定され、搭載されているステアリング制御システムが判別されるまでは、あらかじめ設定されたデフォルト処理を実行する。デフォルト処理とは、例えば、あるべき制御装置がいずれも搭載されていないことを通知するために異常を通知する処理である。あるいは、デフォルト処理とは、あるべき制御装置が、製造工程のいずれかのタイミングで装備されることを仮定して、いずれかの装備が搭載されるまで未搭載であることの異常通知を制限する処理であってもよい。異常の通知は、例えば、インストルメントパネルを制御する制御装置に対して、インストルメントパネル内に設けられるエアバッグ警告灯を点灯させ又は消灯させるよう指令信号を送信することにより行われる。
エアバッグ制御装置100の判別部101が、電動パワーステアリングシステム1Aが搭載されていると判別した場合、処理部111は、電動パワーステアリングシステム1Aによるステータス及びデータAを処理するためにプロセスAを実行する。判別部101が、ステアリングバイワイヤシステム1Bが搭載されていると判別した場合、処理部111は、ステアリングバイワイヤシステム1Bによるステータス及びデータBを処理するためにプロセスBを実行する。
また、本実施形態において、判別部101は、車両のイグニッションスイッチがオンになってから、あらかじめ設定された判定期間Acceptance_periodが経過するまでの間に、ステアリング制御システムの判別処理を実行する。つまり、イグニッションスイッチがオンになってから判定期間Acceptance_periodが経過した後に信号S_a,S_bを受信したとしても、正常な受信状態ではないことから、ステアリング制御システムの判別が行われないようになっている。判別部101は、イグニッションスイッチがオンになった後、識別情報ID_0x123又はID_0x234の信号を、あらかじめ設定された回数受信した場合に、対応するいずれかのステアリング制御システムが搭載されていると判定する。
図4~図6は、本実施形態に係るエアバッグ制御装置100による処理を示す説明図であり、図4は、エアバッグ制御装置100の初回起動時の処理を示し、図5及び図6は、エアバッグ制御装置100の2回目以降の起動時の処理を示す。図4~図6に示す例において、判別部101は、識別情報ID_0x123の信号を3回受信した場合に電動パワーステアリングシステム1Aが搭載されていると判別し、識別情報ID_0x234の信号を2回受信した場合にステアリングバイワイヤシステム1Bが搭載されていると判別する。
図4に示すように、初回起動時において、搭載されているステアリング制御システムが判別されていないため、イグニッションスイッチがオンになった後、ステアリング制御システムが判別されるまでの期間、処理部111は、デフォルト処理を実行する。また、イグニッションスイッチがオンになった後、判定期間Acceptance_Periodが経過する前に、識別情報ID_0x123の信号S_aを3回受信した場合に、判別部101は、電動パワーステアリングシステム1Aが搭載されていると判別し、処理部111は、プロセスAの実行を開始する。プロセスAの設定は、搭載されているステアリング制御システムが変更されるまで維持される。
また、図5に示すように、2回目以降の起動時において、すでに電動パワーステアリングシステム1Aが搭載されていると判別されているため、イグニッションスイッチがオンになった後に、処理部111は、プロセスAを実行する。ただし、エアバッグ装置100は、識別情報ID_0x123の信号S_aを受信していないために、実際にプロセスAが実行されることはない。イグニッションスイッチがオンになった後、判定期間Acceptance_Periodが経過する前に、識別情報ID_0x234の信号S_bを2回受信したため、判別部101は、ステアリングバイワイヤシステム1Bが搭載されていると判別し、処理部111は、処理形態を切り換え、プロセスBの実行を開始する。
この場合、電動パワーステアリングシステム1Aからの信号S_aが途絶したことから、処理部111は、プロセスAからプロセスBに切り換えた場合の判定期間Acceptance_Period経過後に、「電動パワーステアリングシステム1A未搭載故障」のステータスを確定させてもよい。つまり、初回起動時には、電動パワーステアリングシステム1Aが搭載されていると判定されてプロセスAが開始されたものの、2回目以降の起動時に、識別情報ID_0x123の信号S_aが途絶したため、電動パワーステアリングシステム1A未搭載故障のステータスを確定させてもよい。これにより、以前に電動パワーステアリングシステム1Aが搭載されていたにもかかわらず対応する信号S_aが失われたことを記録しておくことができる。
また、エアバッグ制御装置100が、識別情報ID_0x123の信号S_aと、識別情報ID_0x234の信号S_bとをともに受信した場合、判定期間Acceptance_Period経過後に、「システム過搭載故障」のステータスを確定させてもよい。これにより、対象のシステムによっては、過誤によるシステムの過搭載を検知することができる。また、本来想定されない二つの信号S_a,S_bが同時に受信されていることに基づき、車両上に、正常な通信を妨害するシステムが存在する場合等、通信セキュリティの低下を検知することもできる。
また、図6に示すように、エアバッグ制御装置100の処理部111は、イグニッションスイッチがオンになってから判定期間Acceptance_periodが経過した後にステアリング制御システムが判別された場合であっても、処理形態の切り換えを行わないように構成されている。図6に示す例では、すでにステアリングバイワイヤシステム1Bが搭載されていると判別され、プロセスBが実行されている場合に、判定期間Acceptance_periodの経過後に識別情報ID_0x123の信号S_aの3回目の受信が行われたとしても、処理形態の切り換えが行われないようになっている。
<フローチャート>
次に、第1の実施の形態に係るエアバッグ制御装置100による処理手順を説明する。図7は、第1の実施の形態に係るエアバッグ制御装置100による処理のフローチャートを示す。図7に示したフローチャートは、エアバッグ制御装置100の起動時において実行される。
上述のとおり、エアバッグ制御装置100の初期状態においては、デフォルト処理が適用されているものとする。車両のイグニッションスイッチがオンにされてエアバッグ制御装置100が起動すると、判別部101は、判定期間Acceptance_Periodが経過したか否かを判別する(ステップS11)。判定期間Acceptance_Periodが経過していない場合(S11/No)、判別部101は、識別情報ID_0x123の信号S_aを受信したか否かを判別する(ステップS13)。
識別情報ID_0x123の信号S_aを受信した場合(S13/Yes)、判別部101は、当該信号S_aを3回受信したか否かを判別する(ステップS15)。識別情報ID_0x123の信号S_aが3回受信されていない場合(S15/No)、ステップS11の処理に戻る。一方、識別情報ID_0x123の信号S_aが3回受信されている場合(S15/Yes)、判別部101は、電動パワーステアリングシステム1Aが搭載されていると判別し、処理部111は、処理形態としてプロセスAを適用し(ステップS17)、本ルーチンを終了させる。
また、ステップS13において、識別情報ID_0x123の信号S_aを受信していない場合(S13/No)、判別部101は、識別情報ID_0x234の信号S_bを受信したか否かを判別する(ステップS19)。識別情報ID_0x234の信号S_bを受信した場合(S19/Yes)、判別部101は、当該信号S_bを2回受信したか否かを判別する(ステップS21)。識別情報ID_0x234の信号S_bが2回受信されていない場合(S21/No)、ステップS11の処理に戻る。一方、識別情報ID_0x234の信号S_bが2回受信されている場合(S21/Yes)、判別部101は、ステアリングバイワイヤシステム1Bが搭載されていると判別し、処理部111は、処理形態としてプロセスBを適用し(ステップS23)、本ルーチンを終了させる。
そして、識別情報ID_0x123の信号S_aを3回受信する前、あるいは、識別情報ID_0x234の信号S_bを2回受信する前に判定期間Acceptance_Periodが経過した場合(S11/Yes)、判別部101は、ステアリング制御システムの判別を行わず、また、処理部111は、処理形態を切り換えないで本ルーチンを終了させる。
以上、本実施形態に係るエアバッグ制御装置100によれば、受信した信号の識別情報IDに基づいてステアリング制御システムの形式が判別され、ステアリング制御システムの形式に応じた処理形態で、受信した信号S_a,S_bに基づいて処理が実行されてイベント記録処理が行われる。このため、受信側のエアバッグ制御装置100に、ステアリング制御システムの形式をあらかじめ設定する必要がなくなり、車両にエアバッグ制御装置100を搭載する際、あるいは、ステアリング制御システム変更時の作業を省略することができる。
<<第2の実施の形態>>
本発明の第2の実施の形態に係る制御装置として、信号の受信状況に基づいて送信元のステアリング制御システムの作動状況を判別し、所定のデータ処理を実行するエアバッグ制御装置について説明する。
<機能構成>
車両には、例えば、ステアリングバイワイヤシステム1Bが搭載されており、ステアリングバイワイヤシステム1Bの制御装置10Bからエアバッグ制御装置100に対して送信される信号S_bとして、舵角制御に関する3つのコンポーネントの信号S_p,S_q,S_rが含まれるものとする。本実施形態に係るエアバッグ制御装置100は、車両の事故発生時に、受信した信号S_p,S_q,S_rに基づいてステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードであるか、冗長動作モードであるか、又は異常動作モードであるかを判別し、判別された動作モードに応じた処理形態で処理を実行し、イベント記録処理を行う。
図8及び図9は、ステアリングバイワイヤシステム1Bからエアバッグ制御装置100に送信される送信信号(CANメッセージ)S_p,S_q,S_rについて説明するための図である。ステアリングバイワイヤシステム1Bは冗長機能を有し、かかる冗長機能は、3つのコンポーネントP,Q,Rで構成されている。ここでは、コンポーネントPが、電子制御による第1の舵角制御コンポーネントであり、コンポーネントQが、電子制御による第2の舵角制御コンポーネントであり、コンポーネントRが、電子制御及び機械制御による、フェール時のバックアップ用舵角制御コンポーネントであるものとする。
コンポーネントPとコンポーネントQは同一のコンポーネントであり、互いが車両を制御するために負荷分散して動作するものとする。コンポーネントRは、コンポーネントP又はコンポーネントQのいずれか一方が異常であった場合に動作を行うものとする。
図8及び図9に示すように、コンポーネントPの送信信号S_pの識別情報IDが0x010、送信周期f_tが10ミリ秒、データフレームサイズが5であり、通信途絶判断が100ミリ秒で行われるものとする。また、送信信号S_pの0バイト目(B_0)にステータス情報が書き込まれ、1~4バイト目(B_1~B_4)にデータP(ステアリング舵角情報)が書き込まれ、5~7バイト目(B_5~B_7)は未使用であるものとする。
また、コンポーネントQの送信信号S_qの識別情報IDが0x020、送信周期f_tが10ミリ秒、データフレームサイズが5であり、通信途絶判断が100ミリ秒で行われるものとする。また、送信信号S_qの0バイト目(B_0)にステータス情報が書き込まれ、1~4バイト目(B_1~B_4)にデータQ(ステアリング舵角情報)が書き込まれ、5~7バイト目(B_5~B_7)は未使用であるものとする。
また、コンポーネントRの送信信号S_rの識別情報IDが0x030、送信周期f_tが30ミリ秒、データフレームサイズが5であり、通信途絶判断が300ミリ秒で行われるものとする。また、送信信号S_rの0バイト目(B_0)にステータス情報が書き込まれ、1~4バイト目(B_1~B_4)にデータR(ステアリング舵角情報)が書き込まれ、5~7バイト目(B_5~B_7)は未使用であるものとする。
図10は、各コンポーネントP,Q,Rからの送信信号S_p,S_q,S_rの受信状態に応じて判別される動作モードを示す。コンポーネントP,Qからの信号S_p,S_qがそれぞれ正常に受信され、コンポーネントRからの信号S_rが通信途絶状態にある場合、ステアリングバイワイヤシステム1Bは正常動作モードで動作していると判別される。一方、コンポーネントP,Qからの信号S_p,S_qのいずれか一方が通信途絶状態にあり、コンポーネントRからの信号S_rが正常に受信されている場合、ステアリングバイワイヤシステム1Bは冗長動作モードで動作していると判別される。
すべてのコンポーネントP,Q,Rからの信号S_p,S_q,S_rが正常に受信されている場合や、3つのコンポーネントP,Q,Rからの信号S_p,S_q,S_rのうちのいずれか1つのみが正常に受信されている場合、すべてのコンポーネントP,Q,Rからの信号S_p,S_q,S_rが通信途絶状態にある場合には、ステアリングバイワイヤシステム1Bは異常動作モードで動作していると判別される。
ステアリングバイワイヤシステム1Bが冗長機能を有する場合、受信側のエアバッグ制御装置100では、デフォルトの設定に依らずに、動的に受信した信号S_p,S_q,S_rに基づいてステアリングバイワイヤシステム1Bの作動状態を判別し、判別結果に基づいてデータ処理を行う必要がある。例えば、図10に示すように、正常動作モードでは、コンポーネントPとコンポーネントQが動作し、フェール時のバックアップ用のコンポーネントRは動作していない。このため、コンポーネントPによるデータPと、コンポーネントQによるデータQとを用いて、エアバッグ制御装置100はイベント記録を行う。
エアバッグ制御装置100の判別部101が、ステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードで動作していると判別した場合、処理部111は、ステアリングバイワイヤシステム1Bによるステータス及びデータ処理を行うためにプロセスAを適用する。例えば、処理部111は、プロセスAにおいて、信号S_pに含まれるデータPと信号S_qに含まれるデータQとの平均値を求め、当該平均値を作動状況の情報として記録する。
また、判別部101が、ステアリングバイワイヤシステム1Bが冗長動作モードで動作していると判別した場合、処理部111は、ステアリングバイワイヤシステム1Bによるステータス及びデータ処理を行うためにプロセスBを適用する。例えば、処理部111は、プロセスBにおいて、受信される信号S_p又は信号S_qに含まれるデータP又はデータQと信号S_rに含まれるデータRとの平均値を求め、当該平均値を作動状況の情報として記録する。
また、判別部101が、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードで動作していると判別した場合、処理部111は、ステアリングバイワイヤシステム1Bによるステータス及びデータ処理を行うためにプロセスCを適用する。例えば、処理部111は、プロセスCにおいて、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常状態にあるとして作動状況を記録する。
図11は、各コンポーネントP,Q,Rから送信される信号S_p,S_q,S_rの通信状態の判別方法を示す説明図であり、信号S_pを例に採って示している。図11に示した例では、送信周期f_tにしたがって信号S_pを2回受信した場合に、信号S_pが正常に受信されていると判別される一方、信号S_pの受信が100ミリ秒以上途絶えた場合に、通信途絶状態と判別される。
図12は、各コンポーネントP,Q,Rから送信される信号S_p,S_q,S_rに基づいて処理形態を切り換える処理を示す。なお、図12に示す例において、ステアリングバイワイヤシステム1Bは、初期状態では正常動作モードで動作するように設定されており、エアバッグ制御装置100の処理部111は、イグニッションスイッチがオンにされた直後にはプロセスAを適用してデータ処理を実行する。
図12に示すように、イグニッションスイッチがオンになった後、処理部111は、デフォルト処理としてプロセスAを実行する。その後、コンポーネントP,Qからの信号S_p,S_qが正常に受信され、コンポーネントRからの信号S_rが通信途絶状態にある間、ステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードで動作していると判別されるため、処理部111はプロセスAの処理を継続する。
一方、コンポーネントPからの信号S_pが通信途絶状態になり、コンポーネントQ,Rからの信号S_q,S_rが正常に受信されるようになると、ステアリングバイワイヤシステム1Bが冗長動作モードで動作していると判別されるため、処理部111は、処理形態をプロセスAからプロセスBに切り換える。さらに、コンポーネントP,Qからの信号S_p,S_qが通信途絶状態になり、コンポーネントRからの信号S_rのみが正常に受信されるようになると、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードで動作していると判別されるため、処理部111は、処理形態をプロセスBからプロセスCに切り換える。
その後、再びコンポーネントP,Qからの信号S_p,S_qが正常に受信され、コンポーネントRからの信号S_rが通信途絶状態になった場合、ステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードで動作していると判別されるため、処理部111は処理形態をプロセスCからプロセスAに切り換える。
<フローチャート>
次に、第2の実施の形態に係るエアバッグ制御装置100による処理手順を説明する。図13は、第2の実施の形態に係るエアバッグ制御装置100による処理のフローチャートを示す。図13に示したフローチャートは、エアバッグ制御装置100の起動中に繰り返し実行される。
上述のとおり、エアバッグ制御装置100の初期状態においては、デフォルト処理としてプロセスAが適用されているものとする。車両のイグニッションスイッチがオンにされてエアバッグ制御装置100が起動すると、判別部101は、図11に示す手法にしたがって、識別情報ID_0x010の信号S_pが正常受信状態にあるか否かを判別する(ステップS31)。
識別情報ID_0x010の信号S_pが正常受信状態にある場合(S31/Yes)、判別部101は、図11に示す手法にしたがって、識別情報ID_0x020の信号S_qが正常受信状態にあるか否かを判別する(ステップS33)。識別番号ID_0x020の信号S_qが正常受信状態にある場合(S33/Yes)、判別部101は、図11に示す手法にしたがって、識別情報ID_0x030の信号S_rが正常受信状態にあるか否かを判別する(ステップS35)。
識別情報ID_0x030の信号S_rが正常受信状態にある場合(S35/Yes)、すべてのコンポーネントP,Q,Rからの信号S_p,S_q,S_rが受信されており、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードで動作していると判別されることから、処理部111は、処理形態としてプロセスCを適用し(ステップS39)、本ルーチンを終了させる。
一方、識別情報ID_0x030の信号S_rが正常受信状態にない場合(S35/No)、コンポーネントP,Qからの2つの信号S_p,S_qが正常に受信された状態であり、ステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードで動作していると判別されることから、処理部111は、処理形態としてプロセスAを適用し(ステップS41)、本ルーチンを終了させる。
上述のステップS33において、識別番号ID_0x020の信号S_qが正常受信状態にない場合(S33/No)、判別部101は、図11に示す手法にしたがって、識別情報ID_0x030の信号S_rが正常受信状態にあるか否かを判別する(ステップS37)。
識別情報ID_0x030の信号S_rが正常受信状態にある場合(S37/Yes)、コンポーネントP,Rからの2つの信号S_p,S_rが正常に受信された状態であり、ステアリングバイワイヤシステム1Bが冗長動作モードで動作していると判別されることから、処理部111は、処理形態としてプロセスBを適用し(ステップS43)、本ルーチンを終了させる。
一方、識別情報ID_0x030の信号S_rが正常受信状態にない場合(S37/No)、コンポーネントPからの信号S_pのみが正常に受信された状態であり、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードで動作していると判別されることから、処理部111は、処理形態としてプロセスCを適用し(ステップS45)、本ルーチンを終了させる。
また、上述のステップS31において、識別番号ID_0x010の信号S_pが正常受信状態にない場合(S31/No)、判別部101は、図11に示す手法にしたがって、識別情報ID_0x020の信号S_qが正常受信状態にあるか否かを判別する(ステップS47)。識別番号ID_0x020の信号S_qが正常受信状態にない場合(S47/No)、コンポーネントP,Qからの信号S_p,S_qがいずれも受信されていないため、コンポーネントRからの信号S_rの受信状態にかかわらずステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードで動作していると判別されることから、処理部111は、処理形態としてプロセスCを適用し(ステップS55)、本ルーチンを終了させる。
一方、識別番号ID_0x020の信号S_qが正常受信状態にある場合(S47/Yes)、判別部101は、図11に示す手法にしたがって、識別情報ID_0x030の信号S_rが正常受信状態にあるか否かを判別する(ステップS49)。識別情報ID_0x030の信号S_rが正常受信状態にある場合(S49/Yes)、コンポーネントQ,Rからの2つの信号S_q,S_rが正常に受信された状態であり、ステアリングバイワイヤシステム1Bが冗長動作モードで動作していると判別されることから、処理部111は、処理形態としてプロセスBを適用し(ステップS51)、本ルーチンを終了させる。
一方、識別情報ID_0x030の信号S_rが正常受信状態にない場合(S49/No)、コンポーネントQからの信号S_qのみが正常に受信された状態であり、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードで動作していると判別されることから、処理部111は、処理形態としてプロセスCを適用し(ステップS53)、本ルーチンを終了させる。
以上、本実施形態に係るエアバッグ制御装置100によれば、受信した信号の通信状態に基づいてステアリング制御システムの動作モードが判別される。このため、ステアリング制御システムが冗長機能を有する場合であっても、ステアリング制御システムの動作モードに応じた処理形態でデータ処理が行われ、受信した信号S_p,S_q,S_rに基づいてイベント記録処理を実行することができる。
<<第3の実施の形態>>
本発明の第3の実施の形態に係る制御装置として、受信する信号のデータ長に基づいて送信元のステアリング制御システムの形式を判別し、所定のデータ処理を実行するエアバッグ制御装置について説明する。
<機能構成>
車両には、例えば、電動パワーステアリングシステム1Aが搭載される。ただし、車両の仕向地やグレードの違い等に応じて、世代の異なる旧型の電動パワーステアリングシステム1A又は新型の電動パワーステアリングシステム1A’のいずれかが搭載される。本実施形態に係るエアバッグ制御装置100は、ステアリング制御システムの故障を確定した場合に、故障記録と併せて信号S_a又は信号S_a'に含まれる情報を記録する。
図14は、新旧の電動パワーステアリングシステム1A,1A’それぞれの送信信号(CANメッセージ)S_a,S_a'について説明するための図である。
搭載されるステアリング制御システムが旧型の電動パワーステアリングシステム1Aの場合、送信信号S_aの識別情報IDが0x005、送信周期f_tが10ミリ秒、データフレームサイズが5であるものとする。また、送信信号S_aの0バイト目(B_0)にステータス情報が書き込まれ、1~4バイト目(B_1~B_4)にステアリング舵角情報θsが書き込まれ、5~7バイト目(B_5~B_7)は未使用であるものとする。
また、搭載されるステアリング制御システムが新型の電動パワーステアリングシステム1A’の場合、送信信号S_a'の識別情報IDが0x005、送信周期f_tが10ミリ秒、データフレームサイズが7であるものとする。また、送信信号S_a'の0バイト目(B_0)にステータス情報が書き込まれ、1~4バイト目(B_1~B_4)にステアリング舵角情報θsが書き込まれ、5~6バイト目(B_5~B_6)にステアリング舵角角速度情報ω_θsが書き込まれ、7バイト目(B_7)は未使用であるものとする。
つまり、旧型の電動パワーステアリングシステム1Aの送信信号S_aと新型の電動パワーステアリングシステム1A’の送信信号S_a'は、識別情報ID及び送信周期f_tが同一である一方、信号S_a,S_a'に含まれるデータ長が異なっている。また、データ長が異なることにより、信号S_a,S_a'内のシグナル構成が異なっている。ステアリング舵角情報θsは、新型及び旧型ともに同じ1~4バイト目(B_1~B_4)に書き込まれ、新型にはステアリング舵角情報θsに続いてステアリング舵角角速度ω_θsが書き込まれている。
エアバッグ制御装置100の判別部101が、旧型の電動パワーステアリングシステム1Aが搭載されていると判別した場合、処理部111は、データ処理としてステアリング舵角情報θsのみを用いたプロセスAを実行する。判別部101が、新型の電動パワーステアリングシステム1A’が搭載されていると判別した場合、処理部111は、データ処理としてステアリング舵角情報θs及びステアリング舵角角速度情報ω_θsを用いたプロセスA’を実行する。
例えば、プロセスAが適用される場合、処理部111は、受信したステアリング舵角情報θsに対して、ステータス情報と合わせてデータ処理を実行し、故障記録情報を生成する。図15は、故障記録情報の一例を示す。図15に例示した故障記録情報の例では、0~2バイト目(B_0~B_2)に、どの故障かを示すコード(DTC:Diagnostic Trouble Code)が書き込まれ、3バイト目(B_3)に、当該記録が故障確定であるか復帰であるかを示すステータスが書き込まれる。また、4~5バイト目(B_4~B_5)に、エアバッグ制御装置100の初回起動からの時間が秒単位で書きこまれ、6~9バイト目(B_6~B_9)に、電動パワーステアリングシステム1Aから送信される信号S_aに含まれるステアリング舵角情報θsがフリーズフレームデータF.F.D.として書き込まれる。
プロセスA’が適用される場合においても、処理部111は、プロセスAが適用される場合と同じ故障記録情報を生成する。ただし、新型の電動パワーステアリングシステム1A’から送信される信号S_a'には、データ長が6バイトのステアリング舵角情報θs及びステアリング舵角角速度情報ω_θsが含まれる。このため、プロセスA’が適用される場合、これらのデータ長を4バイトに変換する処理を行いつつ、フリーズフレームデータF.F.D.として書き込まれる。
なお、プロセスA又はプロセスA’を適用して故障記録情報を生成する処理は、例えば、エアバッグ制御装置100が、何らかの故障を検知し、当該故障を確定させる際、あるいは、当該故障から正常復帰する際に、故障記録情報を生成し記録してもよい。故障確定又は故障復帰の判別方法は、特に限定されるものではなく、例えば、所定の故障診断結果において、正常状態又は異常状態があらかじめ設定された時間以上継続的に検出されるか否かによって行うことができる。
また、本実施形態において、判別部101は、車両のイグニッションスイッチがオンになってから、外部テストツールから装備設定コマンドを受信し、ステアリング制御システムの判別処理を実行する。つまり、イグニッションスイッチがオンになってから判定期間Reception_periodが経過した後に信号S_a,S_a'を受信したとしても、正常な受信状態ではないことから、ステアリング制御システムの判別が行わなれないようになっている。判別部101は、イグニッションスイッチがオンになった後、識別情報ID_0x005の信号をあらかじめ設定された回数受信した場合に、データ長に基づいていずれかのステアリング制御システムが搭載されていると判定する。
図16~図18は、本実施形態に係るエアバッグ制御装置100による処理を示す説明図であり、図16は、旧型の電動パワーステアリングシステム1Aから信号S_aを受信した場合の処理を示し、図17は、新型の電動パワーステアリングシステム1A’から信号S_a'を受信した場合の処理を示す。図18は、旧型又は新型の電動パワーステアリングシステム1A,1A’のいずれからも信号S_a,S_a'を受信しなかった場合の処理を示す。
図16~図18に示す例において、判別部101は、外部テストツールから装備設定コマンドsystem_cmd.を要求された場合に、旧型又は新型の電動パワーステアリングシステム1A,1A’の搭載状態を判定する。その際に、判別部101は、識別情報ID_0x005の信号を2回受信した場合にいずれかの電動パワーステアリングシステム1A,1A’が搭載されていると判別するとともに、データ長に基づいて電動パワーステアリングシステムの新旧を判別して、処理形態を切り換える。なお、図16~図18に示す例において、初期状態では新型の電動パワーステアリングシステム1A’が搭載されているものと設定され、エアバッグ制御装置100の処理部111は、イグニッションスイッチがオンにされた直後にはプロセスA’を適用してデータ処理を実行する。
図16に示すように、イグニッションスイッチがオンにされてエアバッグ制御装置100が起動すると、ステアリング制御システムが判別されるまでの期間、処理部111は、初期設定にしたがってプロセスA’を適用してデータ処理を実行する。その後、外部テストツール等から装備設定コマンドsystem_cmd.が入力されてからまた、イグニッションスイッチがオンになった後、判定期間Reception_Periodが経過する前に、識別情報ID_0x005の信号S_aを2回受信した場合に、判別部101は、信号S_aのデータ長に基づいて旧型の電動パワーステアリングシステム1Aが搭載されていると判別し、処理部111は、処理形態をプロセスA’からプロセスAに切り換える。
一方、図17に示すように、判別部101が、信号S_a'のデータ長に基づいて新型の電動パワーステアリングシステム1A’が搭載されていると判別した場合、処理部111は、処理形態をプロセスA’で継続する。
また、図18に示すように、エアバッグ制御装置100の処理部111は、イグニッションスイッチがオンになってから判定期間Reception_periodが経過するまでに電動パワーステアリングシステム1A又は1A’を判別できなかった場合には、処理形態の切り換えを行わないように構成されている。
<フローチャート>
次に、第3の実施の形態に係るエアバッグ制御装置100による処理手順を説明する。図19は、第3の実施の形態に係るエアバッグ制御装置100による処理のフローチャートを示す。図19に示したフローチャートは、エアバッグ制御装置100の起動時において実行される。
上述のとおり、エアバッグ制御装置100の初期状態においては、プロセスA’が適用されているものとする。エアバッグ制御装置100の起動状態において、判別部101は、装備設定コマンドSystem_cmd.を受信したか否かを判別する(ステップS61)。装備設定コマンドSystem_cmd.を受信していない場合(S61/No)、判別部101は、そのまま本ルーチンを終了させる。
一方、装備設定コマンドSystem_cmd.を受信している場合(S61/Yes)、判別部101は、タイムスタンプを取得した後(ステップS63)、タイムスタンプの取得からあらかじめ設定された判定期間Reception_Periodが経過したか否かを判別する(ステップS65)。判定期間Reception_Periodが経過していない場合(S65/No)、判別部101は、識別情報ID_0x005の信号を受信したか否かを判別する(ステップS67)。
識別情報ID_0x005の信号を受信していない場合(S67/No)、ステップS65に戻る一方、識別情報ID_0x005の信号を受信した場合(S67/Yes)、判別部101は、当該信号を2回受信したか否かを判別する(ステップS69)。識別情報ID_0x005の信号が2回受信されていない場合(S69/No)、ステップS65に戻る一方、識別情報ID_0x005の信号が2回受信されている場合(S69/Yes)、判別部101は、信号のデータ長が7であるか否かを判別する(ステップS71)。
信号のデータ長が7である場合(S71/Yes)、判別部101は、新型の電動パワーステアリングシステム1A’が搭載されていると判別し、処理部111は、処理形態としてプロセスA’を適用し(ステップS75)、本ルーチンを終了させる。一方、信号のデータ長が7でない場合(S71/No)、判別部101は、信号のデータ長が5であるか否かを判別する(ステップS73)。
信号のデータ長が5でない場合(S73/No)、ステップS65に戻る一方、信号のデータ長が5である場合(S73/Yes)、判別部101は、旧型の電動パワーステアリングシステム1Aが搭載されていると判別し、処理部111は、処理形態としてプロセスAを適用し(ステップS77)、本ルーチンを終了させる。
搭載されているステアリング制御システムが判別されないまま判定期間Reception_Periodが経過した場合(S65/Yes)、判別部101は、そのまま本ルーチンを終了させる。
以上、本実施形態に係るエアバッグ制御装置100によれば、受信した信号のデータ長に基づいてステアリング制御システムの新旧の型式が判別され、ステアリング制御システムの型式に応じた処理形態で、受信した信号S_a,S_a'に基づいて処理が実行されてイベント記録処理が行われる。このため、受信側のエアバッグ制御装置100に、ステアリング制御システムの型式をあらかじめ設定する必要がなくなり、車両にエアバッグ制御装置100を搭載する際、あるいは、ステアリング制御システム変更時の作業を省略することができる。
<<第4の実施の形態>>
本発明の第4の実施の形態に係る制御装置として、信号の送信周期に基づいて送信元のステアリング制御システムの作動状況を判別し、所定のデータ処理を実行するエアバッグ制御装置について説明する。
<機能構成>
車両には、例えば、ステアリングバイワイヤシステム1Bが搭載されており、ステアリングバイワイヤシステム1Bの制御装置10Bからエアバッグ制御装置100に対して送信される信号S_bの送信周期が、ステアリングバイワイヤシステム1Bの作動状況に応じて異なるものとする。本実施形態に係るエアバッグ制御装置100は、車両の事故発生時に、受信した信号S_bに基づいてステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードであるか、冗長動作モードであるか、又は異常動作モードであるかを判別し、判別された動作モードに応じた処理形態で処理を実行し、イベント記録処理を行う。
図20は、ステアリングバイワイヤシステム1Bからエアバッグ制御装置100に送信される送信信号(CANメッセージ)S_b,S_b''について説明するための図である。ステアリングバイワイヤシステム1Bは冗長機能を有する。動作モードにかかわらず、ステアリングバイワイヤシステム1Bの送信信号S_b(S_b'')の識別情報IDが0x005、データフレームサイズが5であるものとする。また、送信信号S_b(S_b'')の0バイト目(B_0)にステータス情報が書き込まれ、1~4バイト目(B_1~B_4)にステアリング舵角情報θsが書き込まれ、5~7バイト目(B_5~B_7)は未使用であるものとする。
そして、ステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードで動作している場合の送信信号S_bの送信周期f_tが5ミリ秒であり、ステアリングバイワイヤシステム1Bが冗長動作モードで動作している場合の送信信号S_b''の送信周期f_tが100ミリ秒であるものとする。なお、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードで動作している場合、ステアリングバイワイヤシステム1Bからの信号の送信は行われないものとする。
ここで、ステアリングバイワイヤシステム1Bにおいて、構成部品の組み合わせの特性によって共振点が存在することが知られている。ステアリング舵角情報θs含む信号S_b(S_b'')を当該共振点付近で受信した場合、本来取得したい情報に加えて、共振によるノイズが多く含まれる場合がある。かかるノイズを低減するには、受信した信号S_b(S_b'')に対して、例えばバンドストップフィルタ処理を行うことが有効である。
このとき、本実施形態に係るエアバッグ制御装置100の例では、ステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードで動作している場合、5ミリ秒ごとに信号S_bを受信するため、バンドストップフィルタ処理等によってノイズを低減する必要がある。一方、ステアリングバイワイヤシステム1Bが冗長動作モードで動作している場合、100ミリ秒ごとに信号S_b''を受信するため、共振点に対して十分に長い送信周期f_tとなって、バンドストップフィルタ処理等が不要になる。
したがって、エアバッグ制御装置100の判別部101が、ステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードで動作していると判別した場合、処理部111は、受信した信号S_bに対してバンドパスフィルタ処理を適用して、イベント記録処理を実行する(プロセスLPF)。また、判別部101が、ステアリングバイワイヤシステム1Bが冗長動作モードで動作していると判別した場合、処理部111は、受信した信号S_b''に対してバンドパスフィルタ処理を適用しないでイベント記録処理を実行する(プロセスnotLPF)。
また、判別部101が、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードで動作していると判別した場合、処理部111は、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常状態にあるとして作動状況を記録する(プロセスfail)。判別部101は、例えば、ステアリングバイワイヤシステム1Bから300ミリ秒以上、信号S_b(S_b'')を受信しなかった場合に、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードで動作していると判定することができる。
図21~図23は、ステアリングバイワイヤシステム1Bからの信号S_b(S_b'')の送信周期に基づいて処理形態を切り換える処理を示す。図21は、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードから正常動作モードへ移行する際の処理を示し、図22は、ステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードから冗長動作モードへ移行する際の処理を示し、図23は、ステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードから異常動作モードへ移行する際の処理を示す。
図21~図23に示す例において、判別部101は、識別情報ID_0x005の信号を5ミリ秒周期で4回以上受信した場合にステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードにあると判別し、バンドストップフィルタ処理(ローパスフィルタ処理)を適用して、プロセスLPFを実行する。また、判別部101は、識別情報ID_0x005の信号を100ミリ秒周期で3回以上受信した場合にステアリングバイワイヤシステム1Bが冗長動作モードにあると判別し、バンドストップフィルタ処理(ローパスフィルタ処理)を適用せずに、プロセスnotLPFを実行する。また、判別部101は、識別情報ID_0x005の信号を300ミリ秒以上受信しなかった場合に、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードにあると判別し、プロセスfailを実行する。
<フローチャート>
次に、第4の実施の形態に係るエアバッグ制御装置100による処理手順を説明する。図24は、第4の実施の形態に係るエアバッグ制御装置100による処理のフローチャートを示す。図24に示したフローチャートは、エアバッグ制御装置100の起動中に繰り返し実行される。
エアバッグ制御装置100の初期状態においては、デフォルト処理としてプロセスLPFが適用されているものとする。車両のイグニッションスイッチがオンにされてエアバッグ制御装置100が起動すると、判別部101は、識別情報ID_0x005の信号S_bを受信したか否かを判別する(ステップS81)。
識別情報ID_0x005の信号S_bが受信された場合(S81/Yes)、判別部101は、今回のタイムスタンプを取得した後(ステップS83)、前回のタイムスタンプの取得から今回のタイムスタンプの取得までの経過時間が5ミリ秒であるか否かを判別する(ステップS85)。ステップS85の判別は、例えば、前回のタイムスタンプの取得から今回のタイムスタンプの取得までの経過時間が3~7ミリ秒の範囲内か否かを判別してもよい。
前回のタイムスタンプの取得から今回のタイムスタンプの取得までの経過時間が5ミリ秒である場合(S85/Yes)、判別部101は、識別番号ID_0x005の信号S_bを5ミリ秒周期で4回以上受信したか否かを判別する(ステップS87)。識別番号ID_0x005の信号S_bを5ミリ秒周期で4回以上受信していない場合(S87/No)、ステップS81に戻る。一方、識別番号ID_0x005の信号S_bを5ミリ秒周期で4回以上受信した場合(S87/Yes)、判別部101は、ステアリングバイワイヤシステム1Bが正常動作モードで動作していると判別し、処理部111は、バンドストップフィルタ処理を適用してプロセスLPFを実行してイベント記録処理を行い(ステップS89)、本ルーチンを終了させる。
また、ステップS85において、前回のタイムスタンプの取得から今回のタイムスタンプの取得までの経過時間が5ミリ秒でない場合(S85/No)、判別部101は、前回のタイムスタンプの取得から今回のタイムスタンプの取得までの経過時間が100ミリ秒であるか否かを判別する(ステップS91)。ステップS91の判別は、例えば、前回のタイムスタンプの取得から今回のタイムスタンプの取得までの経過時間が90~110ミリ秒の範囲内か否かを判別してもよい。
前回のタイムスタンプの取得から今回のタイムスタンプの取得までの経過時間が100ミリ秒でない場合(S91/No)、ステップS81に戻る。一方、前回のタイムスタンプの取得から今回のタイムスタンプの取得までの経過時間が100ミリ秒である場合(S91/Yes)、判別部101は、識別番号ID_0x005の信号S_bを100ミリ秒周期で3回以上受信したか否かを判別する(ステップS93)。識別番号ID_0x005の信号S_bを100ミリ秒周期で3回以上受信していない場合(S93/No)、ステップS81に戻る。
一方、識別番号ID_0x005の信号S_bを100ミリ秒周期で3回以上受信した場合(S93/Yes)、判別部101は、ステアリングバイワイヤシステム1Bが冗長動作モードで動作していると判別し、処理部111は、バンドストップフィルタ処理を適用せずにプロセスnotLPFを実行してイベント記録処理を行い(ステップS95)、本ルーチンを終了させる。
一方、ステップS81において、識別情報ID_0x005の信号S_bが受信されない場合(S81/No)、判別部101は、信号S_bの未受信の状態が300ミリ秒以上となっているか否かを判別する(ステップS97)。信号S_bの未受信の状態が300ミリ秒以上となっていない場合(S97/No)、ステップS81に戻る。一方、信号S_bの未受信の状態が300ミリ秒以上となっている場合(S97/Yes)、判別部101は、ステアリングバイワイヤシステム1Bが異常動作モードで動作していると判別し、処理部111は、処理形態としてプロセスfailを適用し(ステップS99)、本ルーチンを終了させる。
以上、本実施形態に係るエアバッグ制御装置100によれば、受信した信号の送信周期f_tに基づいてステアリング制御システムの動作モードが判別される。このため、ステアリング制御システムが冗長機能を有する場合であっても、ステアリング制御システムの動作モードに応じた処理形態でデータ処理が行われ、受信した信号S_bに基づいてイベント記録処理を実行することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、各実施形態を適宜組み合わせた態様も、本発明の技術的範囲に属するものと了解される。