JP7402727B2 - リン脂質含有物質安定化剤およびそれを含む体液検査キット - Google Patents

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本発明は、リン脂質含有物質安定化剤およびそれを含む体液検査キットに関する。
近年、バイオ医薬品、細胞治療、再生治療など、バイオマテリアルを利用した医薬品および医療機器の開発が活発に行われている。これらは、サイトカイン、免疫反応など、生体が日常的に使用しているシグナルを通じて、投与された局所、あるいは生体全体を、治療に適した環境に変化させる事が可能である。また、長期に渡って、その変化を持続可能である。そのため、従来の低分子薬や抗体医薬と比べて、低い副作用と、長期の治療効果をもつものと期待されている。
バイオマテリアルを利用した医薬品および医療機器は、不安定なものが多く、これらを保護する技術にも注目が集まっている。
例えば、抗体等のバイオ医薬品は、シリコンとの接触や輸送時の振動により変性し、薬効に影響が及ぶことが知られている。また、細胞治療の実現のためには、治療用の細胞の状態が重要であることが認識されている(非特許文献1)。
さらに、診断薬の分野では、血液を対象としたリキッドバイオプシーにおいて、上記技術の重要性が強く認識されている。血液を対象としたリキッドバイオプシーでは、少量の血液からcfDNA(cell free DNA)、エクソソームなどを抽出し、癌の診断、治療などに利用する。具体的には、コンパニオン診断への利用、適切な抗癌剤の選択、癌に対する治療効果のモニター、再発癌の早期発見への利用などが活発に検討されている。
特に、cfDNAにおいては、バイオマテリアルを保護する技術が、採血後の血液細胞の崩壊を防ぎ、検査の精度を向上させる技術として期待されている。
これらを実現する技術としては、種々のものが検討されている。例えば、非特許文献2には、ポリエチレングリコール修飾による、リポソーム製剤の安定化が検討されている。非特許文献3には、核酸医薬の安定性向上を検討した種々の報告がなされている。非特許文献4には、RNA医薬品の安定性向上の検討が報告されている。
STACEY,G. et al.,2017.Preservation and stability of cell therapy products: recommendations from an expert workshop.Regenerative Medicine,12(5),pp.553-564 International Journal of Antimicrobial Agents 19 (2002) 299-311 Nat Biotechnol.2017 March;35(3):238-248 Nucleic Acids Research,2019,Vol.47,No.1,432-449
バイオマテリアルを利用した医薬品および医療機器の多くは、リン脂質膜を構成として有するリン脂質含有物質であり、これらは一般的に不安定である。例えば、血液を対象とするリキッドバイオプシーでは、cfDNAは微量であるために、採血後の血液細胞を保護し、有核細胞からのDNAの溶出を抑える必要がある。また、エクソソームでは、それ自身が熱、凍結融解、容器吸着などにより消失することから、検査の質を向上させるためにも、エクソソーム自身を安定化することが望まれている。
非特許文献2に記載の技術のように、ポリエチレングリコールを使用することによって、リン脂質含有物質の安定性向上が図られている。しかし、リン脂質含有物質をより安定化させる技術が望まれている。
そこで、本発明は、リン脂質含有物質をより安定して保護することができるリン脂質含有物質安定化剤を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を積み重ねた。その結果、直線状分子とγ-シクロデキストリンとを組み合わせて使用することによって、上記課題を解決することを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明の一形態によれば、直線状分子とγ-シクロデキストリンとを含み、前記直線状分子に対する前記γ-シクロデキストリンの質量比が9未満である、リン脂質含有物質安定化剤が提供される。
また、本発明の他の形態によれば、直線状分子とγ-シクロデキストリンとを有する可溶性の複合体を含む、リン脂質含有物質安定化剤が提供される。
本発明によれば、リン脂質含有物質をより安定して保護することができるリン脂質含有物質安定化剤を提供することができる。
図1は、試験例1における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図2は、試験例1で調製したリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の外観を示す写真である。 図3は、試験例2における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図4は、試験例3における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図5は、試験例4における血液上清中に溶出したヘモグロビン量を測定した結果を示すグラフである。 図6は、試験例5における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図7は、試験例6における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図8は、試験例7における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図9は、試験例8における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図10は、試験例9における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図11は、試験例10における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図12は、試験例11における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図13は、試験例12における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図14は、試験例13における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図15は、試験例14(振動)における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図16は、試験例14(衝撃)における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図17は、試験例15における血液中への溶出DNA量を測定した結果を示すグラフである。 図18は、試験例16(高浸透圧負荷)におけるリポソームからの蛍光物質の溶出量を測定した結果を示すグラフである。 図19は、試験例16(熱負荷)におけるリポソームからの蛍光物質の溶出量を測定した結果を示すグラフである。 図20は、試験例17で測定したDNA量(縦軸)とDNAの塩基対数(横軸)との関係を示すグラフである。
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
本明細書において、リン脂質含有物質安定化とは、保管や外部負荷に対しても、リン脂質含有物質が有するリン脂質によって構成される構造の崩壊を抑制することができることを意味する。例えば、リン脂質含有物質がリン脂質膜を含む場合、安定化とは、リン脂質膜の構造を維持できる(崩壊を抑制できる)ことを意味する。より具体的には、リン脂質含有物質が血液中の有核細胞(例えば、白血球)である場合、安定化とは、有核細胞の崩壊を抑制し、よって有核細胞内の成分(例えば、DNA)が血液中に放出されることを抑制する。
<リン脂質含有物質安定化剤>
本発明の第1の形態は、直線状分子とγ-シクロデキストリンとを含み、前記直線状分子に対する前記γ-シクロデキストリンの質量比が9未満である、リン脂質含有物質安定化剤である。
また、本発明の第2の形態は、直線状分子とγ-シクロデキストリンとを有する可溶性の複合体を含む、リン脂質含有物質安定化剤である。
本発明のリン脂質含有物質安定化剤によって、リン脂質含有物質が保護されるメカニズムは、完全には解明されていないが、以下のように推測される。
液体中に直線状分子(例えば、ポリエチレングリコール)とγ-シクロデキストリンとが存在すると、γ-シクロデキストリンが直線状分子をとりこむ、すなわち包接が進行し、直線状分子とγ-シクロデキストリンとの複合体(包接錯体)が形成される。このような複合体は、γ-シクロデキストリンのヒドロキシ基同士が水素結合することにより3次元ネットワークを形成することによってゲルを形成し、沈殿を生じる場合がある。あるいは、2本の直線状分子が、γ-シクロデキストリンに包接し、3次元ネットワークを形成することによってゲルを形成する場合がある。しかし、直線状分子とγ-シクロデキストリンとを所定の質量比で使用することにより、複合体は可溶性を維持できる。
γ-シクロデキストリンは、リン脂質含有物質、例えばリン脂質膜を含む材料と相互作用し、リン脂質膜に吸着する作用を有する。本発明者らは、複合体を構成するγ-シクロデキストリンにおいても同様に、リン脂質膜に吸着する作用を有することを確認した。
よって、γ-シクロデキストリンを介して、複合体がリン脂質膜に吸着し、その結果、リン脂質膜に直線状分子が導入されることで、Peg-liposomeのようにリン脂質膜を含む材料を安定化すると考えられる。また、リン脂質膜に直線状分子が導入されることで、外部負荷(振動、衝撃など)に対しても、リン脂質膜を含む材料を安定化すると考えられる。
なお、上記メカニズムは推定であり、本発明は上記推定によって限定されない。
(リン脂質含有物質)
本発明の第1の形態および第2の形態に係るリン脂質含有物質は、共通しており、以下の説明も共通である。
リン脂質含有物質は、リン脂質を含むものであれば特に制限されない。リン脂質含有物質は、好ましくはリン脂質膜を含む材料であり、より好ましくは白血球、赤血球、培養細胞、リポソームおよびエクソソームからなる群から選択される少なくとも一種である。
なお、白血球をより具体的に例示すると、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球であり、リンパ球をより具体的に例示するとT細胞、B細胞、NK細胞であり、単球をより具体的に例示すると、樹状細胞、マクロファージ、ランゲルハンス細胞である。
(直線状分子)
本発明の第1の形態および第2の形態に係る直線状分子は、共通しており、以下の説明も共通である。
直線状分子は、γ-シクロデキストリンを貫通しうるものであれば、特に制限されない。直線状分子は、リン脂質含有物質をより保護できるとの観点から、好ましくはポリエチレングリコール(本明細書中、単に「Peg」とも称する)、ポリプロピレングリコール(本明細書中、単に「PPG」とも称する)、ポリビニルアルコール(本明細書中、単に「PVA」とも称する)からなる群から選択される少なくとも一つであり、より好ましくはポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールから選択される少なくとも一つである。
直線状分子の重量平均分子量は、特に制限されないが、リン脂質含有物質をより保護できるとの観点から、好ましくは1000~200000である。
直線状分子としてPegを用いる場合、Pegの重量平均分子量は、より好ましくは6000~200000であり、さらに好ましくは20000~100000であり、よりさらに好ましくは35000~60000である。
直線状分子としてPPGを用いる場合、PPGの重量平均分子量は、より好ましくは1000~4000であり、さらに好ましくは2000~3000である。
直線状分子としてPVAを用いる場合、PVAの重量平均分子量は、より好ましくは1000~4000であり、さらに好ましくは1500~3000である。
重量平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用いたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって測定した値を採用する。
直線状分子は、市販品を用いてもよく、また合成品を用いてもよい。
(γ-シクロデキストリン)
本発明の第1の形態および第2の形態に係るγ-シクロデキストリンは、共通しており、以下の説明も共通である。
シクロデキストリン(CyD)は、グルコースがα(1→4)グルコシド結合によって結合し、環状構造をとった環状オリゴ糖の一種である。γ-シクロデキストリン(本明細書中、単に「γCyD」とも称する)は、グルコースが8個結合している。
γCyDとしては、市販品を使用することができる。市販品としては、デキシパール γ-100(塩水港精糖株式会社製)などが挙げられる。
(直線状分子およびγ-シクロデキストリンの含有量)
第1の形態のリン脂質含有物質安定化剤において、直線状分子に対するγ-シクロデキストリンの質量比が9未満である。質量比の下限は、0超である。このような質量比であることにより、リン脂質含有物質を保護し、安定化することができる。前記質量比は、リン脂質含有物質の安定化をより高めるとの観点から、好ましくは0.0002~2.5であり、より好ましくは0.0002~1.2であり、さらに好ましくは0.0002~0.6である。
(直線状分子とγ-シクロデキストリンとを有する可溶性の複合体)
第2の形態のリン脂質含有物質安定化剤は、直線状分子とγ-シクロデキストリンとを有する可溶性の複合体を含む。
本明細書において、「可溶性」とは、水に可溶であることを言う。
本明細書において、「複合体」とは、γCyDの環を直線状分子が貫通した構造を有するもの、およびこれらの集合体を意味する。
上述のとおり、液体中に直線状分子(例えば、ポリエチレングリコール)とγCyDとが存在すると、γCyDが直線状分子をとりこむ、すなわち包接が進行することで、直線状分子とγCyDとの複合体(包接錯体)を形成することができる。
また、第2の形態に係る複合体は、ゲルを形成しない程度に3次元ネットワークを形成し得る。そのため、複合体は、2以上の複合体の集合体であってもよい。
第2の形態に係る複合体において、直線状分子に対するγCyDの質量比は、可溶性を維持するとの観点から、好ましくは0を超えて9未満である。前記質量比は、リン脂質含有物質の安定化をより高めるとの観点から、好ましくは0.0002~2.5であり、より好ましくは0.0002~1.2であり、さらに好ましくは0.0002~0.6である。なお、当該質量比は、直線状分子およびγCyDの仕込み量から算出することができる。
(好ましい実施形態)
第1の形態および第2の形態のリン脂質含有物質安定化剤は、好ましくは液状の形態である。
上述のとおり、液体中に直線状分子(例えば、ポリエチレングリコール)とγCyDとが存在すると、γCyDが直線状分子をとりこむ、すなわち包接が進行し、直線状分子とγCyDとの複合体(包接錯体)が形成される。したがって、第1の形態のリン脂質含有物質安定化剤は、直線状分子の少なくとも一部がγCyDと複合体を形成することができる。
本実施形態のリン脂質含有物質安定化剤に含まれる溶媒は、特に制限されず、例えば水(滅菌水)、生理食塩水、PBS、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液などが挙げられる。
本実施形態のリン脂質含有物質安定化剤中の直線状分子の濃度は、例えば20~780mg/mLであり、好ましくは180~780mg/mLであり、より好ましくは300~780mg/mLである。また、直線状分子の濃度の下限は、400mg/mL以上または500mg/mL以上であってもよい。
本実施形態のリン脂質含有物質安定化剤中のγCyDの濃度は、例えば0.1~50mg/mLであり、好ましくは0.15~25mg/mLであり、より好ましくは0.3~15mg/mLである。また、γCyDの濃度の上限は、6mg/mL以下、3mg/mL以下、1.5mg/mL以下または1mg/mL以下であってもよい。
本実施形態のリン脂質含有物質安定化剤は、溶媒に加えて、必要に応じてその他の成分を選択して含むことができる。その他の成分としては、抗凝固剤、等張化剤、抗酸化剤、防腐剤、プロテアーゼ阻害剤、カスパーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、組織固定剤などが挙げられる。これらの具体的成分としては次に示すものが例示されるがその限りではない。抗凝固剤としては、エチレンジアミン四酢酸(以降、EDTAと略称する)及びその塩、クエン酸及びその塩、ヘパリンなどが例示される。等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、亜硫酸水素ナトリウム、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ぶどう糖、グリセリン、プロピレングリコール、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、乳酸ナトリウム、タウリンなどが例示される。抗酸化剤としては、トコフェロール、アスコルビン酸、グルタチオンなどが例示される。プロテアーゼ阻害剤としては、フェニルメチルスルフォニルフロリド、アミノエチルベンジルスルフォニルフロリド、ロイペプチン、ペプステインA、アプロチニン、ベンズアミジンなどが例示される。防腐剤としては、パラベン類、塩化ベンザルコニウム、塩化ゼンゼトニウム、クロルヘキシジン及びその塩、アジ化ナトリウム、フッ化ナトリウムなどが例示される。カスパーゼ阻害剤としては、エンゾライフサイエンシス社から販売されているZ-YVAD-FMK、Z-VDVAD-FMK、Z-DEVD-FMK、Z-LEHD-FMKが例示されるが、製造会社、製品名、化学構造などこの限りでない。ヌクレアーゼ阻害剤としては、プロテイナーゼKが例示される。組織固定剤としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ジアゾリジニル尿素、イミダゾリジニル尿素などが例示される。
本実施形態のリン脂質含有物質安定化剤が抗凝固剤を含む場合、EDTAおよびその塩の濃度は、特に制限されず、例えば1~100mg/mLである。また、クエン酸およびその塩の濃度は、特に制限されず、例えば1~1000mg/mLである。
本実施形態のリン脂質含有物質安定化剤の温度は、特に制限されず、例えば、4~40℃であればよい。
本実施形態のリン脂質含有物質安定化剤のpHは、特に制限されず、例えば2~11の範囲で適宜選択できる。pHは、酸(例えば、塩酸)および塩基(例えば、水酸化ナトリウム)を用いて適宜調整することができる。
本実施形態のリン脂質含有物質安定化剤の浸透圧は、特に制限されず、例えばNaCl濃度が1~2000mMに相当する浸透圧である。
なお、本実施形態において、リン脂質含有物質安定化剤は、固体のゲルの形態を含まない。
(リン脂質含有物質安定化剤の用途)
本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、後述の体液検査キットなどに加えて、培養細胞の保護、iPS細胞の保存、生体から採取した細胞の保護、リポソーム製剤の保存、エクソソームの保存などに使用することができる。
<リン脂質含有物質安定化剤の調製方法>
本発明のリン脂質含有物質安定化剤の調製方法は、特に制限されない。リン脂質含有物質安定化剤が溶液の形態の場合、上述の直線状分子、γCyD、溶媒および必要に応じてその他の成分を混合することで、リン脂質含有物質安定化剤を調製することができる。例えば、リン脂質含有物質安定化剤の調製方法としては、直線状分子を含む溶液とγCyDを含む溶液とを混合する;γCyDを含む溶液に直線状分子を添加して混合する;直線状分子を含む溶液にγCyDを添加して混合する;直線状分子およびγCyDを一括して溶媒に添加して混合する、などが挙げられる。
混合する際の温度は、特に制限されず、例えば4~40℃程度であればよい。
<体液検査キット>
本発明の一形態は、上記リン脂質含有物質安定化剤を含む、体液検査キットである。
体液としては、例えば血液、尿、涙、唾液などが挙げられる。体液は、好ましくは血液である。
本発明の体液検査キットは、体液中のリン脂質含有物質(例えば、有核細胞)を保護するとの観点から、リン脂質含有物質安定化剤を体液1mLあたり3~130mgとなるように含むことが好ましく、6~100mgとなるように含むことがより好ましい。また、本発明の体液検査キットは、体液中のリン脂質含有物質(例えば、有核細胞)を保護するとの観点から、リン脂質含有物質安定化剤を、体液と直線状分子とγ-シクロデキストリンとの質量比(体液:直線状分子:γCyD)が1000:2:1~1000:125:5となるように含むことが好ましく、1000:4:2~1000:95:5となるように含むことがより好ましい。
本発明の体液検査キットは、診断薬の分野、特にリキッドバイオプシーの分野において、好適に使用することができる。そのため、体液検査キットは、体液を収容する容器(例えば、採血管)を含んでもよい。この場合、リン脂質含有物質安定化剤は、体液を収容する容器に充填されていてもよく、体液を収容する容器とは別の容器に収容されていてもよい。
以下に具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
[試薬等]
実施例では下記の化合物を用いた。試薬名と製品名が同一の場合は製品名を省略した。
(1)直線状分子、およびシクロデキストリン
・ポリエチレングリコールMw6,000(三洋化成工業株式会社製)
・ポリエチレングリコールMw35,000(ChemCraz社製)
・ポリエチレングリコールMw40,000(SERVA社製)
・ポリエチレングリコールMw100,000(AlfaAesar社製)
・ポリエチレングリコールMw200,000(Sigma aldrich社製)
・ポリプロピレングリコールMw2,000(Merck社製)
・ポリビニルアルコールMw1,500、けん化度78~82%(富士フイルム和光純薬社製)
・α-シクロデキストリン(αCyD)(日本食品化工株式会社製:セルデックス A-100)
・γ-シクロデキストリン(塩水港精糖株式会社製:デキシパール γ-100)。
(2)溶媒
・滅菌水(ナカライテスク株式会社製)
・生理食塩液(テルモ株式会社製)。
(3)その他試薬
・塩化ナトリウム(関東化学株式会社製)
・Triton X-100(富士フイルム和光純薬株式会社製)
・塩酸(ナカライテスク株式会社製:0.1mol/L塩酸)
・水酸化ナトリウム水溶液(ナカライテスク株式会社製:0.1mol/L水酸化ナトリウム)
・Pyranine(東京化成工業株式会社製)
・DPX(Molecular probes社製:p-xylene-bis-pyridinium bromide)。
[使用機器]
・遠心分離機(株式会社久保田製作所製:マイクロ冷却遠心機 3740)
・蛍光分光光度計(日本分光株式会社製:FP-6500)
・プレートリーダー(モレキュラーデバイスジャパン社製:SpectraMax M5)
・ローテーター(アズワン株式会社製:ATR280)
・サーモミキサーC(エッペンドルフ社製)
・pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製:HM-50G)。
[試料の調製方法]
<PBS>
PBSは、10錠のPBS Tablets(タカラバイオ株式会社製)を1000mLの蒸留水に溶解して調製した。または、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(ナカライテスク株式会社製)を使用した。
<クエン酸緩衝液>
クエン酸緩衝液は、58.8mgのクエン酸3Na(ナカライテスク株式会社製:クエン酸三ナトリウム二水和物)を10mLの滅菌水に溶した後、塩酸を用いてpHを7.4に調整して調製した。
<トリス緩衝液>
トリス緩衝液は、24.2mgのトリス(ナカライテスク株式会社製:トリス(ヒドロキシ)アミノメタン)を10mLの滅菌水に溶した後、塩酸を用いてpHを7.4に調整して調製した。
<炭酸緩衝液>
炭酸緩衝液は、20mgの炭酸ナトリウム(関東化学株式会社製)を10mLの滅菌水に溶した後、塩酸を用いてpHを7.4に調整して調製した。
<酢酸緩衝液>
酢酸緩衝液は、16.4mgの酢酸ナトリウム(関東化学株式会社製)を10mLの滅菌水に溶した後、塩酸を用いてpHを7.4に調整して調製した。
<EDTA溶液>
EDTA溶液は、EDTA濃度が1、5、10、50または100mg/mLとなるように、EDTA-2Na(ナカライテスク株式会社製:エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム)を生理食塩液に溶解して、調製した。
<クエン酸溶液>
クエン酸溶液は、クエン酸の濃度が1、10、100または1000mg/mLとなるように、クエン酸-3Na(ナカライテスク株式会社製:クエン酸三ナトリウム二水和物)を生理食塩液に溶解して、調製した。
<MES緩衝液>
MES緩衝液は、533mgのMES-Na(メルク社製)と733mgのNaClとを秤量した後、滅菌水にて溶解し、塩酸にてpHを7.4に調整して調製した。
<TE緩衝液>
TE緩衝液は、20倍TE緩衝液(Promega社製:20×TE Buffer、pH7.5)を、滅菌水にて20倍希釈して調製した。
<SYTOX溶液>
SYTOX(Thermo Fisher Science社製:SYTOX dead cell staining)をPBSにて100倍希釈して、10μMのSYTOX溶液を調製した。
<10%血清含有RPMIメディウム>
10%血清含有RPMIメディウムは、RPMI培地(ナカライテスク株式会社製:RPMI1640培地(液体))に、抗生物質としてPenicillin-Streptamycin Mixed Solution(ナカライテスク株式会社製)をペニシリン(100unit/mL)およびストレプトマイシン(100mg/mL)となるように添加した後、FBS(Gibco社製:Fetal Bovine Serum,Centified,Heat Inactivatied,US Origin)を添加して調製した。
[リン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法]
溶媒は、滅菌水、PBS、生理食塩液または上記で調製した緩衝液を使用した。
<Peg溶液の調製方法>
Pegを秤量した後、溶媒を用いて溶解して、Peg溶液を調製した。Peg溶液中のPeg濃度は、後述の試験例のリン脂質含有物質安定化剤または比較組成物の組成となるように適宜調整した。
<CyD溶液の調製方法>
γCyDを秤量した後、溶媒を用いて溶解して、γCyD溶液を調製した。γCyD溶液中のγCyD濃度は、後述の試験例のリン脂質含有物質安定化剤、比較組成物またはγCyD溶液の組成となるように適宜調整した。
また、αCyDを秤量した後、溶媒を用いて溶解して、αCyD溶液を調製した。αCyD溶液中のαCyD濃度は、後述の試験例のαCyD溶液の組成となるように適宜調整した。
<リン脂質含有物質安定化剤の調製方法>
上記で調製したPeg溶液とγCyD溶液とを混合した後、室温で一晩静置して、リン脂質含有物質安定化剤(可溶性)または比較組成物(固体)を調製した。所望の組成となるように、適宜溶媒を添加した。
[リン脂質含有物質安定化剤の調製方法2]
直線状分子と上記で調製したγCyD溶液とを混合した後、室温で一晩撹拌して、リン脂質含有物質安定化剤を調製した。
[血液]
血液として、体重40~90kgのSPF家畜ブタ(株式会社サンエスブリーディングから購入)から採血した血液を使用した。採血は、テルモ株式会社における動物実験に関する指針に従って実施した。
[測定方法]
<血液中への溶出DNA量の測定方法>
後述の試験例で得られた評価物に対して、1000rpmの遠心を10分間かけ、上清と沈殿物とに分離した。さらに、上清を30μL回収した後、30μLのSYTOX溶液を添加し、5分間静置した。その後、上清とSYTOX溶液との混合液から20μLを採取し、2980μLのTE緩衝液中に添加し、蛍光強度を評価するサンプルとした。蛍光強度を、蛍光分光光度計を用いてEx444nm、Em480nmにて測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
<血液上清中のヘモグロビン吸光度の測定方法>
後述の試験例で得られた評価物に対して、1000rpmの遠心を10分間かけ、上清と沈殿物とに分離した。上清を20μL採取し、2980μLのTE緩衝液中に添加して、サンプルとした。プレートリーダーを用いて、576nmの吸光度を測定することで、赤血球の破壊により血液上清中に溶出したヘモグロビン量を求めた。
<上清中への溶出DNA量の測定方法>
後述の試験例で得られた評価物に対して、3000rpmの遠心を10分間かけ、上清と沈殿物とに分離した。さらに、上清を30μL回収した後、30μLのSYTOX溶液を添加し、5分間静置した。その後、上清とSYTOX溶液との混合液から20μLを採取し、2980μLのTE緩衝液中に添加し、蛍光強度を評価するサンプルとした。蛍光強度を、蛍光分光光度計を用いてEx444nm、Em480nmにて測定して、上清中への溶出DNA量を測定した。
<リポソームからの溶出蛍光物質の測定方法>
後述の試験例で得られた評価物を20~40μL採取した後、2960μLのMES緩衝液に添加した。その後、蛍光強度を、蛍光分光光度計を用いてEx416、Em512nmにて測定して、リポソームからの蛍光物質の溶出量を測定した。
<電気泳動によるDNA量の測定方法>
後述の試験例で得られた評価物を遠心分離機を用いて4℃、1,900×gで10分間遠心した。遠心後、上清を3mL抜き取り、新しい15mL DNA LoBind Tube(Eppendorf社製)に回収し、遠心分離機を用いて4℃、16,000×gで10分間遠心した。遠心後、上清を2.4mL抜き取り、新しい15mL DNA LoBind Tube(Eppendorf社製)に回収した。回収した上清にQIAamp MinElute ccfDNA Kit(QIAGEN社製)に付属のMagnetic Bead Suspensionを72μL、Proteinase Kを132μL、Bead Binding Bufferを360μLを加えて混合した。混合液をローテーターを用いて20rpmで10分間転倒混和した。遠心分離機で200×g、30秒間遠心して、キャップに付いた液を落とした。その後、15mL用磁気ラックにサンプルをセットして、3分間静置した。静置後、ピペットを用いて磁気ビーズ以外を全て除去した。磁気ビーズに200μLのBead Elution bufferを加え、ピペッティングして壁をすすぎながら液200μLを回収し、QIAamp MinElute ccfDNA Kitに付属のBead Elution Tubeに移した。このBead Elution Tubeをサーモミキサーを用いて室温、300rpmで5分間撹拌した。2mL用磁気ラックに撹拌後のBead Elution Tubeをセットした後、1分間静置した。その後、上清185μLをQIAamp MinElute ccfDNA Kitに付属の新しいBead Elution Tubeに回収した。回収した上清にQIAamp MinElute ccfDNA Kitに付属のBuffer ACBを300μL添加し混合した。その混合液460μLをQIAamp MinElute ccfDNA Kitに付属のカラムチューブの中心に添加した。そのカラムチューブを遠心分離機を用いて4℃、6,000×gで1分間遠心した。その後、カラムチューブのカラム部品をQIAamp MinElute ccfDNA Kitに付属の新しい2mL Collection Tubeに付け替えた。このカラムチューブにQIAamp MinElute ccfDNA Kitに付属のBuffer ACW2を500μL添加し、遠心分離機を用いて4℃、6,000×gで1分間遠心した。その後、カラムチューブのカラム部品をQIAamp MinElute ccfDNA Kitに付属の新しい2mL Collection Tubeに付け替えた。このカラムチューブを遠心分離機を用いて4℃、20,000gで3分間遠心した。このカラムチューブのカラム部品をQIAamp MinElute ccfDNA Kitに付属の新しい1.5 mL Collection Tubeにセットし、フタを開けたままサーモミキサーにて56℃で3分間静置して、カラムを完全に乾燥させた。乾燥させたカラムの中心にQIAamp MinElute ccfDNA Kitに付属の滅菌水40μLを添加し、蓋を閉めて室温で1分間静置した。その後、遠心分離機を用いて室温下、20,000×gで1分間遠心した。遠心後に得られた液4μLをHighSensitivity D5000用試薬(アジレント・テクノロジー株式会社製)4μLと混合し、全自動ハイスループット電気泳動システム(アジレント・テクノロジー株式会社製:Ajilent 4200 TapeStation)を用いて液中に含有するDNA量を測定した。
[試験例1]血液中の有核細胞を保護する効果の評価
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表1の組成のリン脂質含有物質安定化剤1-1~1-4および比較組成物1-5~1-9を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
上記で調製した各リン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:1で混合し、20℃にて1日、4日、7日または14日間静置して評価物を得た。また、血液(未処置)を20℃にて1日、4日、7日または14日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表1および図1に示す。表1に示す蛍光強度の値は、未処置(「No treat」)の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表1および図1に示すように、比較組成物1-6~1-8(γCyD単独)では、いずれの濃度においても未処置(No treat)と同等の値を示しており、γCyD単独では有核細胞を保護する効果がないことが分かる。また、比較組成物1-5(Peg単独)も未処置と同等の値を示したことから、Peg単独では、有核細胞を保護する効果がないことが分かる。さらに、比較組成物1-9は、未処置よりも大きな値となり、有核細胞を破壊してしまうことが分かる。これは、比較組成物1-9において、Pegに対するγCyDの質量比が大きく、チキソトロピー性を有する固体のゲルが形成された(可溶性ではない)ため、ソフトマテリアルである細胞膜を物理的に破壊してしまったためと考えられる(図2)。
一方、リン脂質含有物質安定化剤1-1~1-4は、未処置および比較組成物よりも小さな値であり、PegとγCyDとを組み合わせて使用することにより、有核細胞を保護する効果を有することが分かる。
[試験例2]CyD単独による血液中の有核細胞を保護する効果の評価
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表2の組成のCyD溶液2-1~2-10を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
上記で調製した各CyD溶液と血液とを体積比にて1:1で混合し、20℃にて14日間静置して評価物を得た。また、PBSで25倍に希釈したTritonX-100またはPBSと血液とを体積比にて1:1で混合し、20℃にて14日間静置して評価物を得た。さらに、血液(未処置)を20℃にて14日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表2および図3に示す。表2に示す蛍光強度の値は、未処置(「No treat」)の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表2および図3に示すように、いずれの濃度においてもγCyDは、PBSおよび未処置(No treat)と同等の値を示し、血液中の有核細胞を保護する効果を有さないことが分かる。また、αCyDにおいては、PBSおよび未処置を、やや上回る値となる蛍光を示した。αCyDは、血液中の有核細胞を保護する効果を有していないのみならず、有核細胞を破壊する性質であることが分かる。
[試験例3]血液中の有核細胞を保護する効果に及ぼす、Peg重量平均分子量の影響、およびPeg濃度の影響の評価
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表3-1の組成のリン脂質含有物質安定化剤3-1~3-9、3-13~3-21、3-25~3-33、3-37~3-45および3-49~3-57ならびに3-10~3-12、3-22~3-24、3-34~3-36、3-46~3-48および3-58~3-60を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
上記で調製した各リン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:1で混合し、30℃にて14日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表3-1および表3-2ならびに図4に示す。表3-1に示す蛍光強度の値は、各比較組成物の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。表3-2に示す蛍光強度の値は、未処置(「No treat」)の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。図4は、リン脂質含有物質安定化剤の評価物の蛍光強度を示す。
表3-1に示すように、重量平均分子量が6000、35000、40000、10万または20万であるPegを用いた場合、リン脂質含有物質安定化剤中のγCyDの濃度が46.4mg/mL、11.6mg/mLおよび2.9mg/mLのいずれであっても、溶出DNA量は、比較組成物(Peg単独)と比べて小さな値を示した。
また、リン脂質含有物質安定化剤中のPegの濃度が40mg/mL、60mg/mLおよび80mg/mLのいずれであっても、溶出DNA量は、比較組成物と比べて小さな値を示した。
これらのことから、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、PegおよびγCyDを含むことにより、Peg単独と比べて、血液中の有核細胞を保護する効果を増強できることが分かる。
また、表3-2および図4に示すように、溶出DNA量は、Pegの濃度を高くするにつれて小さな値を示した。よって、リン脂質含有物質安定化剤の有核細胞を保護する効果は、リン脂質含有物質安定化剤中のPeg濃度を高くすることで、より高くできることが分かる。
[試験例4]赤血球を保護する効果の評価
<リン脂質含有物質安定化剤の調製>
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表4の組成のリン脂質含有物質安定化剤4-1~4-3、4-6~4-8、4-11~4-13、4-16~4-18および4-21~4-23ならびに比較組成物4-4、4-5、4-9、4-10、4-14、4-15、4-19、4-20、4-24および4-25を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
上記で調製した各リン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:1で混合し、30℃にて14日間静置して評価物を得た。また、血液(未処置)を20℃にて14日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液上清中のヘモグロビン吸光度の測定方法により、吸光度を測定して、赤血球の破壊により血液上清中に溶出したヘモグロビン量を求めた。
結果を表4および図5に示す。表4に示す吸光度の値は、未処置(「No treat」)の評価物の吸光度を100とした場合の相対値である。
表4および図5に示すように、リン脂質含有物質安定化剤および比較組成物(Pegのみを含む)は、未処置(No treat)よりも小さい値を示した。すなわち、これらは赤血球を保護する効果を有していることが分かる。
リン脂質含有物質安定化剤と比較組成物(Pegのみを含む)とを比較すると、リン脂質含有物質安定化剤は、比較組成物(Pegのみを含む)よりも、小さい値を示した。このことから、PegとγCyDとを組み合わせて使用することにより、Peg単独と比較して、赤血球を保護する効果をより高くすることが分かる。
なお、チキソトロピー性を有する固体のゲルである比較組成物4-5、4-10、4-15、4-20および4-25は、比較組成物(Pegのみを含む)よりも、大きな値を示した。このことから、Pegに対するγCyDの質量比が所定の値より大きい場合、Peg単独に比べて、赤血球を保護する効果が低いことが分かる。
[試験例5]血液中の細胞に対して、増強された保護効果を有するリン脂質含有物質安定化剤の組成の検討
試験例1、3および4において、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、Peg単独と比べて有核細胞および赤血球を保護する効果がより高いことが確認された。また、本発明のリン脂質含有物質安定化剤の保護効果は、リン脂質含有物質安定化剤中のPeg濃度を高めることで、増大することも明らかとなった。そのため、試験例5では、リン脂質含有物質安定化剤の組成について、さらなる検討を行った。
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表5の組成のリン脂質含有物質安定化剤5-1~5-46を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
上記で調製した各リン脂質含有物質安定化剤と血液とを体積比にて1:9で混合し、30℃にて7日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表5および図6に示す。表5および図6に示す蛍光強度の値は、リン脂質含有物質安定化剤5-1の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表5および図6に示すように、リン脂質含有物質安定化剤中のPegの濃度を高めるほど、溶出DNA量を示す値は小さくなり、より強力に血液中の有核細胞を保護できることが分かる。
[試験例6]リン脂質含有物質安定化剤と血液との混合比率の検討-1
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表6の組成のリン脂質含有物質安定化剤6-1および比較組成物6-2を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
上記で調製したリン脂質含有物質安定化剤または比較組成物と血液とを体積比にて1:1、1:2、1:4、1:7または1:19で混合し、30℃にて7日間静置して評価物を得た。また、PBSと血液とを体積比にて1:1、1:2、1:4、1:7または1:19で混合し、30℃にて7日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表6および図7に示す。表6に示す蛍光強度の値は、PBSの評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表6および図7に示すように、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、血液との混合比1:1~1:19(リン脂質含有物質安定化剤:血液)において、比較組成物およびPBSよりも小さい値を示し、有核細胞を保護する増強された効果を有することが分かる。
[試験例7]リン脂質含有物質安定化剤と血液との混合比率の検討-2
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表7の組成のリン脂質含有物質安定化剤7-1~7-4および比較組成物7-5~7-8を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
上記で調製した各リン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:1、1:2、1:4、1:8、1:16または1:32で混合し、30℃にて7日間静置して評価物を得た。また、PBSと血液とを体積比にて1:1、1:2、1:4、1:8、1:16または1:32で混合し、30℃にて7日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表7および図8に示す。表7に示す蛍光強度の値は、PBSの評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表7および図8に示すように、リン脂質含有物質安定化剤7-1~7-4は、血液との混合比1:1~1:19(リン脂質含有物質安定化剤:血液)において、血液中の有核細胞を保護する効果を有することが分かる。
また、リン脂質含有物質安定化剤中のPegおよびCyDの濃度を増大させることで、溶出DNA量を低く抑えることができ、血液中の有核細胞をより強力に保護可能であることが分かる。
[試験例8]リン脂質含有物質安定化剤の保護効果に及ぼす、溶媒の影響の評価
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、異なる溶媒を使用した下記表8の組成のリン脂質含有物質安定化剤8-1および比較組成物8-2~8-3を調製した。溶媒は、滅菌水、PBS、生理食塩液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、炭酸緩衝液または酢酸緩衝液を使用した。
上記で調製したリン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:9で混合し、30℃にて14日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表8および図9に示す。表8に示す蛍光強度の値は、滅菌水を使用した比較組成物8-2の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表8および図9に示すように、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、調整に用いる溶媒に影響されることなく、いずれの溶媒を用いた場合においても高い保護効果を発現することが分かる。
[試験例9]pHの影響の評価
<リン脂質含有物質安定化剤の調製>
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表9の組成のリン脂質含有物質安定化剤9-1および比較組成物9-2~9-3を調製した。その後、リン脂質含有物質安定化剤および比較組成物は、塩酸または水酸化ナトリウムを用いて、pHを2、3、4、6、9、10または11に調整した。溶媒は、生理食塩液を使用した。
上記で調製したリン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:9で混合し、30℃にて14日間静置して評価物を得た。また、pH6.0に調整した生理食塩液と血液とを体積比にて1:9で混合し、30℃にて14日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表9および図10に示す。表9に示す蛍光強度の値は、生理食塩液の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表9および図10に示すように、pH2~11のいずれにおいても、リン脂質含有物質安定化剤9-1は、比較組成物(Peg単独またはγCyD単独)よりもDNAの溶出を低く抑えたことが分かる。したがって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、調製時のpHに影響されることなく、有核細胞を保護する高い効果を発現することが分かる。
[試験例10]浸透圧の影響の評価
<リン脂質含有物質安定化剤の調製>
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、異なる濃度のNaClを含む下記表10の組成のリン脂質含有物質安定化剤10-1および比較組成物10-2~10-3を調製した。溶媒は、滅菌水または塩化ナトリウム(200、500または1000mM)を含む生理食塩液を使用した。
上記で調製したリン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:9で混合し、30℃にて14日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表10および図11に示す。表10に示す蛍光強度の値は、滅菌水を用いて調製した比較組成物10-2(NaCl濃度:0mM)の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表10および図11に示すように、200~1000mMのNaCl濃度に相当する浸透圧であっても、リン脂質含有物質安定化剤10-1は、比較組成物(Peg単独またはγCyD単独)よりもDNAの溶出を低く抑えたことが分かる。したがって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、少なくとも1000mMのNaCl濃度に相当する浸透圧において、有核細胞を保護する高い効果を発現することが分かる。
[試験例11]調製時の温度の影響の評価
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表11の組成のリン脂質含有物質安定化剤11-1および比較組成物11-2~11-3を、異なる温度で調製した。リン脂質含有物質安定化剤は、室温の代わりに4℃、20℃または40℃で一晩静置して調製した。また、比較組成物は、4℃、20℃または40℃となるように調製した。溶媒は、生理食塩液を使用した。
上記で調製した各リン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:9で混合し、30℃にて14日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表11および図12に示す。表11に示す蛍光強度の値は、20℃の比較組成物11-2の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表11および図12に示すように、調製時の温度が4~40℃であっても、リン脂質含有物質安定化剤11-1は、比較組成物(Peg単独またはγCyD単独)よりもDNAの溶出を低く抑えたことが分かる。したがって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、調製時の温度に影響されることなく、4~40℃において、有核細胞を保護する高い効果を発現することが分かる。
[試験例12]EDTA濃度の影響の評価
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表12の組成のリン脂質含有物質安定化剤12-1~12-6および比較組成物12-7~12-18を調製した。溶媒は、滅菌水またはEDTA溶液(EDTA濃度:1、5、10、50または100mg/mL)を使用した。
また、滅菌水およびEDTA溶液(EDTA濃度:1、5、10、50または100mg/mL)を比較組成物12-19~12-24とした。
上記で調製したリン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:9で混合し、30℃にて7日間静置して評価物を得た。なお、使用した血液は、採血管ではなくシリンジを用いて採取し、EDTAが含まれないよう留意した。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
各EDTA濃度での結果を表12および図13に示す。表12に示す蛍光強度の値は、比較組成物12-7~12-12の評価物の蛍光強度をそれぞれ100とした場合の相対値である。
EDTAは、血液の抗凝固剤として多用されている。
表12および図13に示すように、1~100mg/mLのEDTA濃度においても、リン脂質含有物質安定化剤は、比較組成物(γCyD単独およびPeg単独)よりも低い値を示し、DNAの溶出を低く抑えたことがわかる。したがって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、EDTAの濃度に関わらず、有核細胞を保護する高い効果を有することが分かる。
[試験例13]クエン酸濃度の影響の評価
<リン脂質含有物質安定化剤の調製>
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表13の組成のリン脂質含有物質安定化剤13-1~13-4および比較組成物13-5~13-12を調製した。溶媒は、クエン酸溶液(クエン酸濃度:1、10、100または1000mg/mL)を使用した。
また、クエン酸溶液(クエン酸濃度:1、10、100または1000mg/mL)を比較組成物13-13~13-16とした。
上記で調製した各リン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:9で混合し、30℃にて7日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
各クエン酸濃度での結果を表13および図14に示す。表13に示す蛍光強度の値は、比較組成物12-5~12-8の評価物の蛍光強度をそれぞれ100とした場合の相対値である。
クエン酸は、血液の抗凝固剤として多用されている。
表13および図14に示すように、1~1000mg/mLのクエン酸濃度においても、リン脂質含有物質安定化剤は、比較組成物(γCyD単独およびPeg単独)よりも低い値を示し、DNAの溶出を低く抑えたことが分かる。したがって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、クエン酸の濃度に関わらず、有核細胞を保護する高い効果を有することが分かる。
[試験例14]外部負荷の影響の評価
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表14の組成のリン脂質含有物質安定化剤14-1および比較組成物14-2~14-3を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
上記で調製したリン脂質含有物質安定化剤、各比較組成物または滅菌水と血液とを体積比にて1:9で混合し、(A)振動に対する評価の場合、振動試験機(アズワン株式会社製:Enviromental Vibration Tester CV-101M)を用いて、スイープモード、10~100Hz、加速度2G、の振動を3、5または24時間、30℃にて加えて、評価物を得た;および(B)衝撃に対する評価の場合、振とう機(タイテック株式会社製:BioSnaker VBR-36)を用いて、450rpm、0~3時間、30℃にて加えて、評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、血液中への溶出DNA量を測定した。
結果を表14ならびに図15(振動)および図16(衝撃)に示す。表14に示す蛍光強度の値は、滅菌水を添加した評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
(振動に対する評価)
表14および図15に示すように、リン脂質含有物質安定化剤14-1は、比較組成物14-2および14-3(Peg単独およびγCyD単独)よりも低い値を示し、DNAの溶出を低く抑えたことが分かる。したがって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、振動の外部負荷から、有核細胞を保護する高い効果を有することが分かる。
(衝撃に対する評価)
表14および図16に示すように、リン脂質含有物質安定化剤14-1は、比較組成物14-2および14-3(Peg単独およびγCyD単独)よりも低い値を示し、DNAの溶出を低く抑えたことが分かる。したがって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、衝撃の外部負荷から、有核細胞を保護する高い効果を有することが分かる。
[試験例15]培養細胞を保護する効果の評価
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表15の組成のリン脂質含有物質安定化剤15-1および比較組成物15-2~15-3を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
培養細胞は、ATCCより購入したEG7細胞を使用した。EG7細胞の培養は、10%血清含有RPMIメディウムを用いて行った。また、EG7細胞の培養は、5%CO、37℃に設定したインキュベーター(MCO20AIC、三菱電機エンジニアリング株式会社製)を用いて実施した。
培養したEG7細胞を回収した後、PBSにて2回洗浄した。その後、細胞の密度が20万cells/mLとなるように、PBSを用いて細胞を分散させ、細胞懸濁液を得た。
上記で調製したリン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と細胞懸濁液とを体積比にて1:1で混合し、30℃にて1または5時間静置して、評価物を得た。また、細胞懸濁液(未処置)を30℃にて1または5時間静置して、評価物を得た。
得られた評価物について、上述の上清中への溶出DNA量の測定方法により、蛍光強度を測定して、上清中への溶出DNA量を測定した。
結果を表15および図17に示す。表15に示す蛍光強度の値は、未処置(「Cell only」)の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表15および図17に示すように、リン脂質含有物質安定化剤15-1は、未処置および比較組成物よりも低い値を示し、培養細胞の破壊に伴うDNAの遊離が少ないことが分かる。したがって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、培養細胞を保護する高い効果を有することが分かる。また、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、細胞治療、iPS細胞の保存などへの応用が期待できる。
[試験例16]リポソームを保護する効果の評価
上述のリン脂質含有物質安定化剤および比較組成物の調製方法により、下記表16の組成のリン脂質含有物質安定化剤16-1~16-2および比較組成物16-3~16-4を調製した。溶媒は、生理食塩水を使用した。
クロロホルム(富士フイルム和光純薬株式会社製)に溶解させた3000nmolのEYPC(卵黄ホスファチジルコリン)(日油株式会社製:COATSOME NC-50)を10mLナスフラスコに測り入れ、ロータリーエバポレーターを用いて薄膜とした。500μLのPyranine溶液(Pyranine:35mM、DPX:50mM、MES:25mM、pH7.4)を加えた後、超音波照射装置(USC-J)を用いて分散させた。さらに、分散液をエクストルーダーによって孔径100nmのポリカーボネート膜に通し、粒子径を揃えた。MES緩衝液とG100カラムを用いて外水層の置換を行い、蛍光物質であるPyraineを内包したEYPCリポソーム分散液を得た。その後、リン脂質C-テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いてリン脂質の濃度を求め、リン脂質が1.0mmol/LとなるようにMES緩衝液にて濃度を調整して、リポソーム懸濁液を調製した。
上記で調製したリン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物とリポソーム懸濁液とを体積比にて1:1で混合して、混合液を得た。
高浸透圧負荷の実験では、混合液と4000mMのNaCl溶液とを体積比にて1:1で混合し、30℃にて1時間静置して、評価物を得た。また、リポソーム懸濁液(未処置)を30℃にて1時間静置して、評価物を得た。
熱負荷の実験では、混合液を30℃にて2時間、4時間、3日、7日または14日静置して、評価物を得た。また、リポソーム懸濁液(未処置)を30℃にて2時間、4時間、3日、7日または14日静置して、評価物を得た。
得られた評価物について、上述のリポソームからの溶出蛍光物質の測定方法により、蛍光強度を測定して、リポソームからの蛍光物質の溶出量を測定した。
結果を表16ならびに図18(高浸透圧負荷)および図19(熱負荷)に示す。表16に示す蛍光強度の値は、未処置(「liposome only」)の評価物の蛍光強度を100とした場合の相対値である。
表16ならびに図18および図19に示すように、リン脂質含有物質安定化剤16-1は、比較組成物16-3および16-4(Peg単独およびγCyD単独)よりも低い値を示し、リポソームからの蛍光物質の溶出を低く抑えたことが分かる。したがって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、リポソームを保護する高い効果を有し、さらに高浸透圧負荷および熱負荷からもリポソームを保護する高い効果を有することが分かる。
[試験例17]電気泳動によるDNA量の測定
上述のリン脂質含有物質安定化剤の調製方法2および比較組成物の調製方法により、下記表17の組成のリン脂質含有物質安定化剤17-1~17-7および比較組成物17-8~17-9を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
リン脂質含有物質安定化剤または比較組成物0.86mLを採血管に加えた。その採血管に血液6mLを加え、栓をした後転倒混和した。転倒混和したサンプルを25℃の恒温槽に入れ、7日間保管して、評価物とした。
また、0.9w/v%の生理食塩液(参考組成物17-10)0.86mLを採血管に加えた。その採血管に血液6mLを加え、栓をした後転倒混和した。転倒混和したサンプルを4℃の恒温槽に入れ、7日間保管して、評価物とした。
得られた評価物について、上述の電気泳動によるDNA量の測定方法により、DNA量を測定した。
結果を図20および表17に示す。図20の横軸はDNAの塩基対数、図20の縦軸はDNA量を示す。また、図20中の15bpおよび10,000bpのピークは、それぞれLowerマーカーおよびUpperマーカーを意味し、DNAのピークではない。
図20に示すように、リン脂質含有物質安定化剤17-1のピーク高さは、比較組成物17-8および17-9よりも低かった。よって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、白血球由来のDNAの放出を抑制できることが分かる。
また、表17に示すように、リン脂質含有物質安定化剤17-5~17-7を使用した場合のDNA量は、4℃で保管した参考組成物17-10を使用した場合のDNA量よりも低かった。よって、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、白血球由来のDNAの放出を抑制できることが分かる。
[試験例18]赤血球を保護する効果の評価
<リン脂質含有物質安定化剤の調製>
上述のリン脂質含有物質安定化剤の調製方法2および比較組成物の調製方法により、下記表18の組成のリン脂質含有物質安定化剤18-1および18-3ならびに比較組成物18-2および18-4を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。
上記で調製した各リン脂質含有物質安定化剤または各比較組成物と血液とを体積比にて1:1で混合し、25℃にて7日間静置して評価物を得た。また、血液(未処置)を4℃にて7日間静置して評価物を得た。
得られた評価物について、上述の血液上清中のヘモグロビン吸光度の測定方法により、吸光度を測定して、赤血球の破壊により血液上清中に溶出したヘモグロビン量を求めた。
結果を表18に示す。
表18に示すように、リン脂質含有物質安定化剤18-1および18-3は、それぞれ比較組成物18-2(PPGのみ)および18-4(PVAのみ)よりも小さい値を示した。このことから、直線状分子とγCyDとを組み合わせて使用することにより、直線状分子単独と比較して、赤血球を保護する効果をより高くすることが分かる。
[試験例19]エクソソームを保護する効果の評価
上述のリン脂質含有物質安定化剤の調製方法2および比較組成物の調製方法により、下記表19の組成のリン脂質含有物質安定化剤19-1および比較組成物19-2(滅菌水のみ)を調製した。溶媒は、滅菌水を使用した。また、30μgのLyophilized exosomes from Plasma of Healthy donors(HansaBioMed社製)を滅菌水100μLで希釈した。これをエクソソーム溶液とした。
上記で調製したリン脂質含有物質安定化剤または比較組成物とエクソソーム溶液とを体積比にて1:1で混合した。これらを2mLのポリプロピレン製チューブに80μL加えた。その後、3分間撹拌し、新しい2mLのポリプロピレン製チューブに全量移した。これを20回まで繰り返した。その後、CD9/CD63 Exosome ELISA Kit,Human(コスモ・バイオ株式会社製)を用いて残存するエクソソーム量を定量した。
結果を表19に示す。
表19に示すように、リン脂質安定化剤は、比較組成物よりも大きな値を示した。このことから、本発明のリン脂質含有物質安定化剤は、エクソソームを保護する高い効果を有することが分かる。

Claims (8)

  1. 直線状分子とγ-シクロデキストリンとを含み、前記直線状分子に対する前記γ-シクロデキストリンの質量比が9未満であり、
    前記直線状分子がポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリビニルアルコールから選択される少なくとも一つであり、
    前記直線状分子の重量平均分子量が1000~200000である、リン脂質含有物質安定化剤。
  2. 前記直線状分子に対する前記γ-シクロデキストリンの質量比が0.0002~2.5である、請求項1に記載のリン脂質含有物質安定化剤。
  3. 直線状分子とγ-シクロデキストリンとを有する可溶性の複合体を含み、
    前記直線状分子がポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリビニルアルコールから選択される少なくとも一つであり、
    前記直線状分子の重量平均分子量が1000~200000であり、
    前記直線状分子に対する前記γ-シクロデキストリンの質量比が9未満である、リン脂質含有物質安定化剤。
  4. 前記リン脂質含有物質が白血球、赤血球、培養細胞、リポソームおよびエクソソームからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1~のいずれか1項に記載のリン脂質含有物質安定化剤。
  5. 請求項1~のいずれか1項に記載のリン脂質含有物質安定化剤を含む、体液検査キット。
  6. 前記体液が血液である、請求項に記載の体液検査キット。
  7. 前記リン脂質含有物質安定化剤を前記体液1mLあたり3~130mgとなるように含む、請求項またはに記載の体液検査キット。
  8. 前記リン脂質含有物質安定化剤を、前記体液と前記直線状分子と前記γ-シクロデキストリンとの質量比が1000:2:1~1000:125:5となるように含む、請求項のいずれか1項に記載の体液検査キット。
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