JP7393623B2 - 方向性電磁鋼板 - Google Patents

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Description

本開示は、方向性電磁鋼板に関する。
方向性電磁鋼板は、質量%で、Siを0.5~7.0%程度含有し、結晶方位を{110}<001>方位(ゴス方位)に集積させた鋼板である。方向性電磁鋼板は、軟質磁性材料として、変圧器やその他の電気機器の鉄心材料に利用されている。
方向性電磁鋼板の製造方法は次のとおりである。スラブを加熱して熱間圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。熱延鋼板を必要に応じて焼鈍する。熱延鋼板を必要に応じて酸洗する。熱延鋼板に対して、冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する。冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して、一次再結晶を発現する。脱炭焼鈍後の冷延鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施して、二次再結晶を発現する。以上の工程により、方向性電磁鋼板が製造される。
変圧器は、通電中に騒音を発する。そのため、変圧器の騒音の低減が求められている。変圧器の騒音発生源の一つは鉄心である。そして、鉄心の騒音の一因は方向性電磁鋼板の磁歪現象である。磁歪現象は、方向性電磁鋼板が交流で磁化されるときに、磁化の強さの変化に伴って電磁鋼板の外形がわずかに変化する現象である。この磁歪が鉄心に振動を発生させ、それが変圧器のタンクなどの外部構造物に伝搬して騒音となる。したがって、方向性電磁鋼板では、騒音の発生を抑制するために、磁歪の低減が求められる。
方向性電磁鋼板の磁歪の低減技術として、特開2007-277644号公報(特許文献1)、特開2015-161017号公報(特許文献2)及び特開2002-356750号公報(特許文献3)が提案されている。
特許文献1では、レーザー照射によって導入される歪量の制御を方向性電磁鋼板の圧延方向及び板幅方向の双方で実施する。これにより、鉄損を最小化し、磁歪増加を極力抑制することが可能となる、と記載されている。
特許文献2では、鉄損の最小値と磁歪の最小値とを同一の照射条件で実現できる電子ビームの照射方法として、圧延方向に交差する方向の線領域に電子ビームを照射するに際して、従来のように照射線領域が連続及び均一である照射条件とせず、滞留領域と走行領域の2種類の照射条件の組合せとする。この組合せ単位を繰返してかつ連結させて照射線領域とすることで、鉄損の最小値と磁歪の最小値とを同一の照射条件で実現できる、と記載されている。
特許文献3では、磁歪を決める因子として、{110}<001>方位集積度のほか、絶縁皮膜の張力、レーザー照射による微少歪の付与が重要であることを見出している。そして、これらの因子を適切に制御することにより、低騒音を実現できる、と記載されている。
特開2007-277644号公報 特開2015-161017号公報 特開2002-356750号公報 特開平4-5524公報
上述の特許文献1~3では、レーザー照射の照射方法を工夫することにより、方向性電磁鋼板を磁化したときの騒音の発生を抑制している。しかしながら、レーザー照射以外の方法により、磁化された方向性電磁鋼板の騒音の発生を抑制できてもよい。
本開示の目的は、磁化されたときの騒音の発生を抑制できる方向性電磁鋼板を提供することである。
本開示による方向性電磁鋼板は、
母材鋼板と、
前記母材鋼板上に形成されているグラス被膜と、
前記グラス被膜上に形成されている張力付与絶縁被膜とを備え、
前記母材鋼板の化学組成は、質量%で、
C:0.010%以下、
Si:2.50~4.00%、
Mn:0.01~1.00%、
N:0.010%以下、
sol.Al:0.010%以下、
S:0.010%以下、
P:0.030%以下、
Cr:0~0.50%、
Sn:0~0.50%、
Cu:0~0.50%、
Se:0~0.020%、
Sb:0~0.50%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
800A/mの磁場を付与したときの磁束密度B8が1.90T以上であり、
前記方向性電磁鋼板に対して第1の歪取焼鈍を実施した後、第1のレーザー照射を実施して、前記方向性電磁鋼板の板幅方向に0.0~3.0°の傾斜角Aで交差し、30~100μmの幅を有する第1の熱歪を3.0~6.0mmピッチで導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW1(W/kg)と定義し、
前記方向性電磁鋼板から前記張力付与絶縁被膜を除去し、前記張力付与絶縁被膜が除去された前記方向性電磁鋼板に対して前記第1の歪取焼鈍と同じ条件で第2の歪取焼鈍を実施した後、前記第1のレーザー照射と同じ条件で第2のレーザー照射を実施して、前記第1の熱歪と同じ傾斜角A、同じ幅、及び同じピッチで、第2の熱歪を導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW2(W/kg)と定義したとき、式(1)を満たす。
|W2-W1|≦0.030(W/kg)・・・式(1)
本開示による方向性電磁鋼板は、磁化されたときの騒音の発生を抑制できる。
図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の斜視図である。 図2は、レーザー照射を説明するための模式図である。 図3Aは、レーザー照射後の方向性電磁鋼板の斜視図である。 図3Bは、図3Aの方向性電磁鋼板の平面図である。 図4は、図1に示す方向性電磁鋼板から、張力付与絶縁被膜を除去した状態の斜視図である。 図5Aは、図4に示す方向性電磁鋼板に対してレーザー照射を行った後の斜視図である。 図5Bは、図5Aの方向性電磁鋼板の平面図である。 図6は本実施形態の方向性電磁鋼板の製造工程を示すフロー図である。 図7は、図6中の脱炭焼鈍工程のヒートパターン図である。 図8は、実施例で用いた磁歪測定装置の模式図である。
本発明者らは、磁化されたときの騒音の発生を抑制できる方向性電磁鋼板について検討を行った。本発明者らはまず、方向性電磁鋼板の母材鋼板の化学組成として、質量%で、C:0.010%以下、Si:2.50~4.00%、Mn:0.01~1.00%、N:0.010%以下、sol.Al:0.010%以下、S:0.010%以下、P:0.030%以下、Cr:0~0.50%、Sn:0~0.50%、Cu:0~0.50%、Se:0~0.020%、Sb:0~0.50%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成が適切であると考えた。そこで、上述の化学組成の方向性電磁鋼板において、騒音の発生を抑制するために磁歪を低減することを目的として、検討を行った。
通常、磁化方向に対し平行な磁区(ドメイン)を180°磁区と称する。方向性電磁鋼板を磁化した場合、180°磁区とは異なり、磁気モーメントが磁化方向以外を向いているドメインが若干存在する。これを補助磁区と称する。補助磁区の存在頻度が高い場合、磁歪を抑制しにくく、その結果、騒音が発生する。そこで、本発明者らは、補助磁区を低減することにより、磁歪を低減し、騒音の発生を抑制できると考えた。
補助磁区を低減するためには、次の(I)及び(II)を両立させることが好ましい。
(I)ゴス方位結晶粒の高集積化
(II)ゴス方位結晶粒の細粒化
(I)及び(II)はトレードオフの関係にあり、(I)及び(II)を両立させることは困難であると考えられる。しかしながら、本発明者らは、ゴス方位結晶粒の集積度を高めつつ、ゴス方位結晶粒の細粒化も実現するために、一次再結晶に注目した。通常、ゴス方位結晶粒は、二次再結晶前の一次再結晶組織において、極めて少ない頻度でしか存在していない。このため、ゴス方位結晶粒が二次再結晶により成長する場合、ゴス方位結晶粒は粗大になりやすい。しかしながら、一次再結晶後においてゴス方位結晶粒を多数存在させることができれば、二次再結晶時において多数のゴス方位結晶粒が微細に形成されるはずである。そこで、本発明者らは、製造工程中の脱炭焼鈍工程に注目して、後述の方法に基づいて脱炭焼鈍工程を実施することで、微細なゴス方位結晶粒を多数生成することに成功した。
通常の方向性電磁鋼板では、グラス被膜上に張力付与絶縁被膜が形成される。張力付与絶縁被膜は、方向性電磁鋼板の圧延方向に張力を付与することにより、補助磁区の発生を抑制している。ところで、微細なゴス方位結晶粒が多数生成していることに起因して補助磁区が低減されている場合、張力付与絶縁被膜が形成されている場合の鉄損(鉄損W1)と、張力付与絶縁被膜が形成されていない場合の鉄損(鉄損W2)との差分がそれほど大きくならないはずである。なぜなら、母材鋼板そのものの補助磁区が既に低いためである。
そこで、本発明者らが検討した結果、上記(I)及び(II)を両立させることにより、方向性電磁鋼板に対して第1の歪取焼鈍を実施した後、第1のレーザー照射を実施して、方向性電磁鋼板の板幅方向に0.0~3.0°の傾斜角Aで交差し、30~100μmの幅を有する第1の熱歪を3.0~6.0mmピッチで導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW1(W/kg)と定義し、方向性電磁鋼板から張力付与絶縁被膜を除去し、張力付与絶縁被膜が除去された方向性電磁鋼板に対して第1の歪取焼鈍と同じ条件で第2の歪取焼鈍を実施した後、第1のレーザー照射と同じ条件で第2のレーザー照射を実施して、第1の熱歪と同じ傾斜角A、同じ幅、及び、同じピッチで、第2の熱歪を導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW2(W/kg)と定義したとき、式(1)を満たす方向性電磁鋼板を完成させた。
|W2-W1|≦0.030(W/kg)・・・式(1)
以上の知見により完成した本実施形態の方向性電磁鋼板は、次の構成を有する。
[1]の形態による方向性電磁鋼板は、
母材鋼板と、
前記母材鋼板上に形成されているグラス被膜と、
前記グラス被膜上に形成されている張力付与絶縁被膜とを備え、
前記母材鋼板の化学組成は、質量%で、
C:0.010%以下、
Si:2.50~4.00%、
Mn:0.01~1.00%、
N:0.010%以下、
sol.Al:0.010%以下、
S:0.010%以下、
P:0.030%以下、
Cr:0~0.50%、
Sn:0~0.50%、
Cu:0~0.50%、
Se:0~0.020%、
Sb:0~0.50%、及び、
残部がFe及び不純物からなり、
800A/mの磁場を付与したときの磁束密度B8が1.90T以上であり、
前記方向性電磁鋼板に対して第1の歪取焼鈍を実施した後、第1のレーザー照射を実施して、前記方向性電磁鋼板の板幅方向に0.0~3.0°の傾斜角Aで交差し、30~100μmの幅を有する第1の熱歪を3.0~6.0mmピッチで導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW1(W/kg)と定義し、
前記方向性電磁鋼板から前記張力付与絶縁被膜を除去し、前記張力付与絶縁被膜が除去された前記方向性電磁鋼板に対して前記第1の歪取焼鈍と同じ条件で第2の歪取焼鈍を実施した後、前記第1のレーザー照射と同じ条件で第2のレーザー照射を実施して、前記第1の熱歪と同じ傾斜角A、同じ幅、及び同じピッチで、第2の熱歪を導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW2(W/kg)と定義したとき、式(1)を満たす。
|W2-W1|≦0.030(W/kg)・・・式(1)
[2]の方向性電磁鋼板は、
[1]に記載の方向性電磁鋼板であって、
前記第1の歪取焼鈍では、750~900℃で1~4時間保持する。
[3]の方向性電磁鋼板は、
[1]又は[2]に記載の方向性電磁鋼板であって、
前記第1のレーザー照射では、レーザー出力をP(W)と定義し、ビーム照射径をS(mm)と定義した場合、式(2)で定義されるパワー密度Ip(W/mm2)を3000~6000W/mmとし、レーザー走査速度をVs(mm/s)と定義した場合、式(3)で定義される投入エネルギーUp(J/mm)を0.005~0.050J/mmとする。
Ip=(4/π)×(P/S)・・・式(2)
Up=P/Vs・・・式(3)
[4]の方向性電磁鋼板は、
[1]~[3]のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板であって、
前記方向性電磁鋼板の前記母材鋼板の板厚は、0.17~0.22mmである。
[5]の形態による方向性電磁鋼板は、
[1]~[4]のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板であって、
前記母材鋼板の前記化学組成は、
Cr:0.01~0.50%、
Sn:0.01~0.50%、及び、
Cu:0.01~0.50%、
からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する。
[6]の形態による方向性電磁鋼板は、
[1]~[5]のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板であって、
前記母材鋼板の前記化学組成は、
Se:0.001~0.020%、及び、
Sb:0.01~0.50%、
からなる群から選択される1元素以上を含有する。
以下、本実施形態の方向性電磁鋼板について、詳細を説明する。
[方向性電磁鋼板の構成について]
図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の斜視図である。図1を参照して、本実施形態による方向性電磁鋼板1は、母材鋼板10と、グラス被膜11と、張力付与絶縁被膜12とを備える。グラス被膜11は、母材鋼板10上に形成されている。図1では、グラス被膜11は、母材鋼板10の表面に直接接触して、母材鋼板10の表面上に形成されている。張力付与絶縁被膜12は、グラス被膜11上に形成されている。図1では、グラス被膜11及び張力付与絶縁被膜12は、母材鋼板10の一方の表面のみに形成されている。しかしながら、グラス被膜11及び張力付与絶縁被膜12は、母材鋼板10の一対の表面上に形成されていてもよい。
[母材鋼板10の化学組成について]
上述の母材鋼板10の化学組成は、次の元素を含有する。なお、母材鋼板10の化学組成における各元素の含有量で使用する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
C:0.010%以下
炭素(C)は、磁束密度を改善するため、スラブにおいては必須の元素である。しかしながら、Cは方向性電磁鋼板の製造工程において鋼板から抜けていく。製品である方向性電磁鋼板にCが0.010%を超えて残存すれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Cはセメンタイト(FeC)を形成して、方向性電磁鋼板の鉄損を劣化する。したがって、C含有量は0.010%以下である。C含有量の好ましい上限は0.006%であり、さらに好ましくは0.003%である。C含有量はなるべく低い方が好ましい。したがって、C含有量は0%であってもよい。しかしながら、C含有量の過度の低減は、製造コストを引き上げる。したがって、C含有量の好ましい下限は、0%超であり、さらに好ましくは0.001%である。
Si:2.50~4.00%
シリコン(Si)は、鋼材の電気抵抗(比抵抗)を高めて方向性電磁鋼板の鉄損を低減する。Si含有量が2.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、仕上げ焼鈍工程において鋼が相変態して、二次再結晶が十分に進行しない。その結果、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が4.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼板が脆化して、製造工程における通板性が顕著に低下する。したがって、Si含有量は2.50~4.00%である。Si含有量の好ましい下限は2.80%であり、さらに好ましくは3.00%であり、さらに好ましくは3.20%である。Si含有量の好ましい上限は3.70%であり、さらに好ましくは3.60%であり、さらに好ましくは3.50%である。
Mn:0.01~1.00%
マンガン(Mn)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて方向性電磁鋼板の鉄損を低減する。Mnはさらに、熱間加工性を高めて、熱間圧延における割れの発生を抑制する。Mnはさらに、S及び/又はSeと結合して微細MnS及び/又は微細MnSeを形成する。微細MnS及び微細MnSeは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、微細MnS及び微細MnSeの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。Mn含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、十分な量の微細MnS及び微細MnSeが析出しない。一方、Mn含有量が1.00%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、方向性電磁鋼板の磁束密度が低下し、鉄損も劣化する。したがって、Mn含有量は0.01~1.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。Mn含有量の好ましい上限は0.70%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.10%である。
N:0.010%以下
窒素(N)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Alと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。したがって、Nは、方向性電磁鋼板の素材であるスラブにおいては必須の元素である。しかしながら、Nは、方向性電磁鋼板の製造工程において、鋼板から抜けていく。方向性電磁鋼板中のN含有量が0.010%を超えれば、鋼板にブリスタ(空孔)が過剰に生成する。ブリスタは、被膜欠陥の原因となり、方向性電磁鋼板の絶縁性が低下する。したがって、N含有量は0.010%以下である。N含有量の好ましい上限は0.008%であり、さらに好ましくは0.006%であり、さらに好ましくは0.004%である。N含有量は0%であってもよい。しかしながら、N含有量の過剰な低減は困難な場合がある。したがって、N含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
sol.Al:0.010%以下
アルミニウム(Al)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Nと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能するため、スラブにおいては必須の元素である。しかしながら、Alは方向性電磁鋼板の製造工程において鋼板から抜けていく。方向性電磁鋼板中におけるsol.Al含有量が0.010%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Al系介在物が鋼板中に残存する。この場合、方向性電磁鋼板の鉄損が劣化する。したがって、sol.Al含有量は0.010%以下である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.008%であり、さらに好ましくは0.006%である。sol.Al含有量は0%であってもよい。しかしながら、Al含有量の過剰な低減は困難な場合もある。したがって、Al含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。なお、本明細書において、sol.Alは酸可溶Alを意味する。したがって、sol.Al含有量は、酸可溶Alの含有量である。
S:0.010%以下
硫黄(S)は、製造工程中において、Mnと結合して、インヒビターである微細MnSを形成する。そのため、Sはスラブにおいては必須の元素である。しかしながら、Sは方向性電磁鋼板の製造工程において鋼材から抜けていく。方向性電磁鋼板中のS含有量が0.010%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材鋼板中にMnSが残存するため、鉄損が劣化する。したがって、S含有量は0.010%以下である。S含有量の好ましい上限は0.008%であり、さらに好ましくは0.006%であり、さらに好ましくは0.004%である。S含有量は0%であってもよい。しかしながら、S含有量の過剰な低減は困難な場合がある。したがって、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
P:0.030%以下
燐(P)は、圧延時における鋼板の加工性を低下する。P含有量が0.0300%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼板の加工性が顕著に低下する。したがって、P含有量は0.030%以下である。P含有量の好ましい上限は0.020%であり、さらに好ましくは0.010%である。P含有量は0%であってもよい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は困難な場合がある。したがって、P含有量の好ましい下限は0.001%である。なお、Pは集合組織を改善し、鋼板の磁気特性を改善する。この効果を有効に発揮するためのP含有量の好ましい下限は0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。
母材鋼板10の化学組成の残部はFe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、方向性電磁鋼板の素材である母材鋼板10を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるもの、又は、任意で実施される純化焼鈍工程において完全に純化されずに鋼中に残存するものであって、本実施形態の方向性電磁鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素(Optional Elements)]
母材鋼板10の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Cr、Sn、及びCuからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。Cr、Sn及びCuはいずれも任意元素であり、方向性電磁鋼板1のグラス被膜11の密着性を高める。
Cr:0~0.50%
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。含有される場合、Crは、Sn及びCuと同様に、グラス被膜11の母材鋼板10への密着性を高める。Crはさらに、二次再結晶において、ゴス方位結晶粒の集積度を高める。Cr含有量が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cr含有量が0.50%を超えれば、Cr酸化物が生成して、方向性電磁鋼板1の磁気特性が低下する。したがって、Cr含有量は0~0.50%である。Cr含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。Cr含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Sn:0~0.50%
スズ(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。含有される場合、Snは、Cr及びCuと同様に、グラス被膜11の母材鋼板10への密着性を高める。Snが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Sn含有量が0.50%を超えれば、方向性電磁鋼板1の製造工程中において、二次再結晶が不安定となり、その結果、方向性電磁鋼板1の磁気特性が低下する。したがって、Sn含有量は0~0.50%である。Sn含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Sn含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Cu:0~0.50%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、CuはCr及びSnと同様に、グラス被膜11の母材鋼板10への密着性を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が0.50%を超えれば、方向性電磁鋼板1の製造工程中における熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0~0.50%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。Cu含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.10%である。
母材鋼板10の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Se及びSbからなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。Se及びSbはいずれも任意元素であり、方向性電磁鋼板1の磁気特性を高める。
Se:0~0.020%
セレン(Se)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Se含有量は0%であってもよい。含有される場合、SeはSbと同様にインヒビターとして機能して、方向性電磁鋼板1の製造工程において、二次再結晶を安定化する。その結果、方向性電磁鋼板1の磁気特性が高まる。Seが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Se含有量が0.020%を超えれば、グラス被膜11の母材鋼板10に対する密着性が低下する。したがって、Se含有量は0~0.020%である。Se含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Se含有量の好ましい上限は0.015%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.008%である。
Sb:0~0.50%
アンチモン(Sb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sb含有量は0%であってもよい。含有される場合、SbはSeと同様にインヒビターとして機能して、方向性電磁鋼板1の製造工程において、二次再結晶を安定化する。その結果、方向性電磁鋼板1の磁気特性が高まる。Sbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Sb含有量が0.50%を超えれば、グラス被膜11が劣化する。したがって、Sb含有量は0~0.50%である。Sb含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。Sb含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.10%である。
[グラス被膜11について]
グラス被膜11は、母材鋼板10上に形成されている。グラス被膜11は、方向性電磁鋼板において周知技術として知られる構成を有する。具体的には、グラス被膜11はたとえば、フォルステライト(MgSiO)、スピネル(MgAl)及び、コーディエライト(MgAlSi16)からなる群から選択される1種以上を含有する。好ましくは、グラス被膜11は、フォルステライトを主体とする。本明細書でいう「フォルステライトを主体とする」とは、グラス被膜11中のフォルステライトの含有量が質量%で60.0%以上であることを意味する。グラス被膜11は、フォルステライトを含有し、スピネル及びコーディエライトを含有しなくてもよく、フォルステライト及びスピネルを含有し、コーディエライトを含有しなくてもよく、フォルステライト、スピネル、及び、コーディエライトを含有してもよい。
グラス被膜11の厚さは、特に限定されない。グラス被膜11の厚さの好ましい下限は1.0μmであり、さらに好ましくは2.0μmである。グラス被膜11の好ましい上限は5.0μmであり、さらに好ましくは4.0μmである。
[張力付与絶縁被膜12について]
張力付与絶縁被膜12は、グラス被膜11上に形成されている。張力付与絶縁被膜12は、複数の方向性電磁鋼板1を積層して使用する場合の、互いに積層された方向性電磁鋼板1の間の絶縁を担保するために、方向性電磁鋼板1の最上層に形成される。張力付与絶縁被膜12は、方向性電磁鋼板において周知技術として知られる構成を有する。具体的には、張力付与絶縁被膜12は、クロム酸金属塩、リン酸金属塩、コロイダルシリカ、ポリテトラフルオロエチレン、Zr化合物、Ti化合物等の無機物の少なくとも1種以上を含有する。好ましくは、張力付与絶縁被膜12は、リン酸金属塩を主体とする被膜である。ここで、「リン酸金属塩を主体とする」とは、張力付与絶縁被膜12内のリン酸金属塩の割合が質量%で80%以上であることを意味する。
張力付与絶縁被膜12はたとえば、リン酸金属塩とともに、コロイダルシリカ、ポリテトラフルオロエチレンからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。リン酸金属塩はたとえば、リン酸ナトリウム、リン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム等である。
張力付与絶縁被膜12の厚さは、特に限定されない。張力付与絶縁被膜12の厚さの好ましい下限は1.0μmであり、さらに好ましくは2.0μmである。張力付与絶縁被膜12の好ましい上限は5.0μmであり、さらに好ましくは4.0μmである。
[方向性電磁鋼板1の磁束密度B8について]
本実施形態の方向性電磁鋼板1では、800A/mの磁場を付与したときの磁束密度B8が1.90T以上である。磁束密度B8が1.90T未満であれば、十分な磁気特性が得られない。したがって、本実施形態の方向性電磁鋼板1では、800A/mの磁場を付与したときの磁束密度B8が1.90T以上である。
磁束密度B8は次の方法で測定できる。幅60mm×長さ300mmのサンプルを採取する。採取されたサンプルを用いて、JIS C2256(2011)に準拠して、単板磁気特性試験(SST試験)により、磁束密度(T)を求める。具体的には、サンプルに800A/mの磁場を付与して、磁束密度(T)を求める。
[式(1)について]
方向性電磁鋼板1において、方向性電磁鋼板1に対して第1の歪取焼鈍を実施した後、第1のレーザー照射を実施して、方向性電磁鋼板1の板幅方向に0.0~3.0°の傾斜角Aで交差し、30~100μmの幅を有する第1の熱歪を3.0~6.0mmピッチで導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW1(W/kg)と定義する。さらに、方向性電磁鋼板1から張力付与絶縁被膜12を除去し、張力付与絶縁被膜12が除去された方向性電磁鋼板2に対して第1の歪取焼鈍と同じ条件で第2の歪取焼鈍を実施した後、第1のレーザー照射と同じ条件で第2のレーザー照射を実施して、第1の熱歪と同じ傾斜角A、同じ幅、及び同じピッチで、第2の熱歪を導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW2(W/kg)と定義する。この場合、本実施形態の方向性電磁鋼板1は、式(1)を満たす。
|W2-W1|≦0.030・・・式(1)
上述のとおり、方向性電磁鋼板1の騒音特性は、磁歪に起因する。方向性電磁鋼板1を磁化させた場合に、ランセット磁区に代表される補助磁区が存在することにより、励磁方向の磁歪が発生する。そのため、磁歪の低減には、補助磁区の低減が求められる。
補助磁区を低減するためには、次の2つの対策が有効である。
(I)ゴス方位結晶粒の高集積化
(II)ゴス方位結晶粒の細粒化
補助磁区はそもそも、漏れ磁束による静磁エネルギーを低下及び緩和させるために形成される現象である。漏れ磁束は隣接する粒界で吸収される。そのため、粒径が大きい場合、粒界が少ないため、漏れ磁束が多く、補助磁区が形成され易くなる。そこで、補助磁区を低減するためには、上記(II)のゴス方位結晶粒の細粒化が重要である。ゴス方位結晶粒を細粒化するためには、ゴス方位結晶粒の核となるゴス核を一次再結晶で多数生成して、二次再結晶後のゴス方位結晶粒の個数を増やすことが重要である。ゴス方位結晶粒の数が多ければ、粗大化しにくく微細のまま維持されるからである。
しかしながら、ゴス方位結晶粒の形状は複雑であり、ゴス方位結晶粒のサイズを規定するのは極めて困難である。したがって、本実施形態の方向性電磁鋼板では、ゴス方位結晶粒のサイズの規定の代替として、上述の式(1)を規定する。
F1=|W2-W1|(W/kg)と定義する。F1は、ゴス方位結晶粒の高集積度合い及びゴス方位結晶粒の細粒化度合いを示す指標である。以下、F1を「ゴス方位結晶粒指数」という。ゴス方位結晶粒指数F1が0.030(W/kg)を超えれば、ゴス方位結晶粒が十分に高集積化できていない、又は、ゴス方位結晶粒が十分に細粒化していない。この場合、騒音特性が低くなる。具体的には、後述の交流磁歪測定法に基づく騒音特性測定試験において、騒音特性が60.0dBA以上となる。
一方、ゴス方位結晶粒指数F1が0.030(W/kg)以下であれば、ゴス方位結晶粒が十分に高集積化しており、かつ、ゴス方位結晶粒が十分に微細化している。つまり、ゴス方位結晶粒の十分な高集積化とゴス方位結晶粒の十分な微細化とが両立できている。そのため、優れた騒音特性が得られる。具体的には、後述の交流磁歪測定法に基づく騒音特性測定試験において、騒音特性が60.0dBA未満となる。ゴス方位結晶粒指数F1の好ましい上限は0.024(W/kg)であり、さらに好ましくは0.020(W/kg)であり、さらに好ましくは0.018(W/kg)であり、さらに好ましくは0.015(W/kg)であり、さらに好ましくは0.010(W/kg)である。
[ゴス方位結晶粒指数の測定方法]
方向性電磁鋼板1のゴス方位結晶粒指数F1は、次の方法で測定できる。始めに、最終製品である方向性電磁鋼板1に対して、歪取焼鈍を実施する。仮に、方向性電磁鋼板1にレーザー照射(磁区細分化処理)が施されていたとしても、この歪取焼鈍を実施することにより、レーザー照射(磁区細分化処理)の効果が除去される。歪取焼鈍では、歪が除去できればよいので、焼鈍方法は特に限定されない。
好ましくは、第1の歪取焼鈍では、方向性電磁鋼板に対して、750~900℃で1~4時間保持する。さらに好ましくは、第1の歪取焼鈍では、方向性電磁鋼板に対して、770~830℃で2~3時間保持する。
歪取焼鈍にはたとえば、熱処理炉を用いる。歪取焼鈍時の熱処理炉内の雰囲気は特に限定されない。熱処理炉内の雰囲気はたとえば、窒素雰囲気であって、露点が0℃以下である。
方向性電磁鋼板1に対して上記の条件で歪取焼鈍を実施した後、方向性電磁鋼板1の表面に対して、第1のレーザー照射を実施して第1の熱歪を導入する。
図2は、第1のレーザー照射を説明するための模式図である。図2を参照して、第1のレーザー照射では、図示しないレーザー光源からレーザー光を出射する。レーザー光源から出射したレーザー光は光ファイバ101を介してレーザー照射装置102に伝送される。レーザー照射装置102は、ポリゴンミラーとポリゴンミラーの回転駆動装置とを内部に備える。
レーザー照射装置102は、ポリゴンミラーの回転駆動によって、レーザー光を方向性電磁鋼板1の表面に向けて照射すると共に、レーザー光を方向性電磁鋼板1の板幅方向TDに走査する。その結果、図3A及び図3Bを参照して、方向性電磁鋼板1の表面に、第1の熱歪13が圧延方向RDにおいて所定のレーザー走査ピッチPLで形成される。熱歪13を導入するときのレーザー光源は、たとえば、ファイバレーザーとする。
なお、レーザー光を方向性電磁鋼板1の表面に向けて照射している間に、方向性電磁鋼板1は圧延方向RDに搬送される場合がある。そのため、図3Bに示すとおり、方向性電磁鋼板1の平面図において、第1の熱歪13は、板幅方向TDに対して傾斜角A(°)で傾斜し得る。ただし、第1の熱歪13は、板幅方向TDに対して傾斜しない場合もある。
レーザー走査ピッチPL(図2及び図3BでのPL)を3.0~6.0mmとする。傾斜角Aは0.0~3.0°とする。導入された熱歪13の幅は30~100μmとする。なお、熱歪13の幅は、磁区SEM等を用いた磁区観察や、光学顕微鏡による直接観察によって測定可能である。
第1のレーザー照射により、方向性電磁鋼板1の板幅方向に0.0~3.0°の傾斜角Aで交差し、30~100μmの幅を有する第1の熱歪13を3.0~6.0mmピッチPLで導入する。方向性電磁鋼板1の板幅方向に0.0~3.0°の傾斜角Aで交差し、30~100μmの幅を有する第1の熱歪13を3.0~6.0mmピッチPLで導入できれば、第1のレーザー照射条件は特に限定されない。
好ましくは、第1のレーザー照射では、レーザー出力をP(W)と定義し、ビーム照射径をS(mm)と定義した場合、式(2)で定義されるパワー密度Ip(W/mm)を3000~6000W/mmとし、レーザー走査速度をVs(mm/s)と定義した場合、式(3)で定義される投入エネルギーUp(J/mm)を0.005~0.050とする。
Ip=(4/π)×(P/S)・・・式(2)
Up=P/Vs・・・式(3)
好ましいパワー密度Ipは、4500~5500W/mmである。また、好ましい投入エネルギーUpは、0.005~0.012J/mmである。
以上の第1のレーザー照射により、ピッチPL3.0~6.0mm、傾斜角A=0.0~3.0°、幅が30~100μmの第1の熱歪13が導入された方向性電磁鋼板1に対して、JIS C2556(2011)に準拠して、周波数を50Hz、最大磁束密度を1.7Tとしたときの鉄損W1(W/kg)を測定する。
次に、鉄損W1を測定した方向性電磁鋼板1から、張力付与絶縁被膜12を除去する。具体的には、方向性電磁鋼板1を、NaOH:30~50質量%及びHO:50~70質量%を含有し、80~90℃の水酸化ナトリウム水溶液に、7~10分間浸漬する。浸漬後の方向性電磁鋼板1を水洗する。水洗後、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。以上の方法により、図4に示すとおり、母材鋼板10とグラス被膜11とを備え、張力付与絶縁被膜12を備えていない方向性電磁鋼板2を準備する。
準備された方向性電磁鋼板2に対して、上述の第1の歪取焼鈍と同じ条件で、第2の歪取焼鈍を実施する。第2の歪取焼鈍にはたとえば、熱処理炉を用いる。
歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板2に対して、第1のレーザー照射と同じ条件で、第2のレーザー照射を実施する。その結果、図5A及び図5Bに示すとおり、方向性電磁鋼板1の表面に、第1の熱歪13と同じ傾斜角A、同じ幅、及び同じピッチで、第2の熱歪14が導入される。
第2の熱歪14が形成された方向性電磁鋼板2に対して、JIS C2556(2011)に準拠して、周波数を50Hz、最大磁束密度を1.7Tとしたときの鉄損W2(W/kg)を測定する。得られたW1及びW2を用いて、ゴス方位結晶粒指数F1を求める。
ゴス方位結晶粒指数F1は低いほど好ましく、最も好ましいF1は0である。F1の好ましい上限は上述のとおり、0.024(W/kg)であり、さらに好ましくは0.020(W/kg)であり、さらに好ましくは0.018(W/kg)であり、さらに好ましくは0.015(W/kg)であり、さらに好ましくは0.010(W/kg)である。
[母材鋼板10の化学組成の分析方法]
本実施形態の方向性電磁鋼板1の母材鋼板10の化学組成は、次の方法により求めることができる。
始めに、方向性電磁鋼板1から、上述の方法により、張力付与絶縁被膜12を除去する。具体的には、方向性電磁鋼板1を、NaOH:30~50質量%及びHO:50~70質量%を含有し、80~90℃の水酸化ナトリウム水溶液に、7~10分間浸漬する。浸漬後の方向性電磁鋼板2(張力付与絶縁被膜12が除去された方向性電磁鋼板)を水洗する。水洗後、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。
次に、張力付与絶縁被膜12を備えていない方向性電磁鋼板2から、グラス被膜11を除去する。具体的には、方向性電磁鋼板2を、30~40質量%のHClを含有し、80~90℃の塩酸水溶液に、1~10分浸漬する。このとき、母材鋼板10からグラス被膜11が除去される。浸漬後の母材鋼板10を水洗する。水洗後、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。以上の工程により、方向性電磁鋼板1から、母材鋼板10を取り出す。
母材鋼板10の化学組成を、周知の成分分析法により求める。具体的には、ドリルを用いて、母材鋼板10から切粉を生成し、その切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施する。母材鋼板10の化学組成中のSiについては、JIS G 1212(1997)に規定の方法(けい素定量方法)により求める。具体的には、上述の切粉を酸に溶解させると、酸化ケイ素が沈殿物として析出する。この沈殿物(酸化ケイ素)をろ紙で濾し取り、質量を測定して、Si含有量を求める。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により求める。具体的には、上述の溶液を酸素気流中で高周波加熱により燃焼して、発生した二酸化炭素、二酸化硫黄を検出し、C含有量及びS含有量を求める。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求める。O含有量については、周知の不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて求める。以上の分析法により、母材鋼板10の化学組成を求めることができる。
[方向性電磁鋼板1の母材鋼板10の板厚]
本実施形態の方向性電磁鋼板1の母材鋼板10の板厚は、特に限定されない。方向性電磁鋼板1の母材鋼板10の板厚はたとえば、0.17~0.35mmであり、好ましくは、0.17~0.22mmである。補助磁区は母材鋼板10の板厚が0.22mm以下の場合に生成しやすい。しかしながら、本実施形態の方向性電磁鋼板1では、母材鋼板10の板厚が0.17~0.22mmであっても、優れた騒音特性を示す。
本実施形態による方向性電磁鋼板1は、F1が式(1)を満たす。そのため、ゴス方位結晶粒が十分に高集積化しており、かつ、ゴス方位結晶粒は十分に細粒化している。つまり、ゴス方位結晶粒の高集積化と細粒化とを両立できている。その結果、補助磁区を低減することができ、騒音特性に優れる。
[製造方法]
以下、本実施形態の方向性電磁鋼板1の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態の方向性電磁鋼板1は、上述の構成を有すれば、製造方法は特に限定されない。ただし、以下に説明する方向性電磁鋼板1の製造方法は、本実施形態の方向性電磁鋼板1の製造方法の好適な例である。
[製造工程フロー]
図6は、本実施形態による方向性電磁鋼板1の製造方法のフロー図である。図6を参照して、本製造方法は、スラブに対して熱間圧延を実施する熱間圧延工程(S1)と、熱間圧延後の鋼板(熱延鋼板)に対して焼鈍処理を実施する熱延板焼鈍工程(S2)と、熱延板焼鈍工程後の鋼板に対して1又は2回以上の冷間圧延(S30)を実施する冷間圧延工程(S3)と、冷間圧延工程後の鋼板(冷延鋼板)に対して脱炭焼鈍を実施する脱炭焼鈍工程(S4)と、脱炭焼鈍工程後の鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布する焼鈍分離剤塗布工程(S5)と、焼鈍分離剤が塗布された鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施して、グラス被膜を形成する仕上げ焼鈍工程(S6)と、仕上げ焼鈍工程後の鋼板に対して、張力付与絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程(S7)とを含む。以下、各工程S1~S7について説明する。
[熱間圧延工程(S1)]
熱間圧延工程(S1)は、準備されたスラブに対して熱間圧延を実施して熱延鋼板を製造する。スラブの化学組成は、方向性電磁鋼板1の母材鋼板10の化学組成が上述の化学組成となるように調整される。スラブは周知の方法で製造する。たとえば、溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いて、連続鋳造法により、スラブを製造する。
準備されたスラブに対して、熱間圧延機を用いて熱間圧延を実施して鋼板(熱延鋼板)を製造する。初めに、鋼材を加熱する。たとえば、スラブを周知の加熱炉又は周知の均熱炉に装入して、加熱する。スラブの好ましい加熱温度は1100~1450℃である。加熱温度の好ましい下限は1200℃である。加熱温度の好ましい上限は1400℃である。
加熱されたスラブに対して、熱間圧延機を用いた熱間圧延を実施して、鋼板(熱延鋼板)を製造する。熱間圧延機は、粗圧延機と、粗圧延機の下流に配置された仕上げ圧延機とを備える。粗圧延機は、1つ、又は一列に並んだ複数の粗圧延スタンドを備える。各粗圧延スタンドは、上下に配置された複数のロールを含む。粗圧延スタンドは、リバース式であってもよい。仕上げ圧延機は、一列に並んだ仕上げ圧延スタンドを備える。各仕上げ圧延スタンドは、上下に配置される複数のロールを含む。加熱されたスラブを粗圧延機により圧延した後、さらに、仕上げ圧延機により圧延して、熱延鋼板を製造する。
熱間圧延により製造される熱延鋼板の板厚は特に限定されず、公知の板厚とすることができる。熱延鋼板の板厚はたとえば、2.0mm~3.0mmである。
[熱延板焼鈍工程(S2)]
熱延板焼鈍工程(S2)は任意の工程であり、実施しなくてもよい。実施する場合、熱延板焼鈍工程(S2)では、熱間圧延工程(S1)にて製造された熱延鋼板に対して焼鈍処理を実施する。熱延板焼鈍工程を実施することにより、鋼板組織に再結晶が生じ、磁気特性が高まる。
熱延板焼鈍工程(S2)は、周知の方法で実施すれば足りる。熱延鋼板の加熱方法は特に限定されず、周知の加熱方式を採用すればよい。焼鈍温度はたとえば、900~1200℃であり、焼鈍温度での保持時間はたとえば、10~300秒である。なお、熱延板焼鈍工程(S2)を実施した場合、熱延板焼鈍工程(S2)後、冷間圧延工程(S3)前に、熱延鋼板に対して酸洗処理を実施してもよい。
[冷間圧延工程(S3)]
冷間圧延工程(S3)では、製造された鋼板に対して、1又は複数回の冷間圧延(S30)を実施する。冷間圧延(S30)は、冷間圧延機を用いて実施する。冷間圧延機は、たとえば、一列に配列された複数の冷間圧延スタンドを備えるタンデム式の圧延機であって、各冷間圧延スタンドは、複数の冷間圧延ロールを含む。冷間圧延機は、1台のリバース式の冷間圧延スタンドであってもよい。
図6に示すとおり、冷間圧延工程において、1回の冷間圧延(S30)のみ実施してもよいし、複数回の冷間圧延(S30)を実施してもよい。冷間圧延(S30)を複数回実施する場合、上記の冷間圧延機を用いて冷間圧延(S30)を実施した後、鋼板の軟化を目的とした中間焼鈍処理を実施してもよい。この場合、中間焼鈍処理後、次の冷間圧延(S30)を実施する。つまり、複数の冷間圧延(S30)の間に、中間焼鈍処理を実施してもよい。
冷間圧延(S30)と次の冷間圧延(S30)との間に実施する中間焼鈍処理の条件は、公知の条件で足りる。中間焼鈍処理での焼鈍温度はたとえば950~1200℃であり、焼鈍温度での保持時間は30~1800秒である。中間焼鈍処理により、前段の冷間圧延(S30)にて鋼板に導入された歪を低減した(鋼板を軟化した)後、次段の冷間圧延(S30)を実施する。
なお、中間焼鈍処理を実施することなく、複数の冷間圧延(S30)を実施する場合、製造された方向性電磁鋼板において、均一な特性が得られにくい場合がある。一方、複数回の冷間圧延(S30)を実施し、かつ、各冷間圧延(S30)の間に中間焼鈍処理を実施する場合、製造された方向性電磁鋼板1において、磁束密度が低くなる場合がある。したがって、冷間圧延(S30)の回数、及び、中間焼鈍処理の有無は、最終的に製造され
る方向性電磁鋼板1に要求される特性及び製造コストに応じて決定される。
なお、冷間圧延工程では、上述のとおり、1回の冷間圧延(S30)のみを実施してもよい。
1回又は複数回での冷間圧延(S30)における、好ましい累計の冷延率は80~95%である。ここで、累計の冷延率(%)は次のとおり定義される。
冷延率(%)=100-最後の冷間圧延後の冷延鋼板の板厚/最初の冷間圧延開始前の鋼板の板厚×100
なお、冷間圧延工程において、1回の冷間圧延(S30)のみを実施する場合、上記冷延率は、1回のみの冷間圧延(S30)での冷延率である。累計の冷延率が80%以上であれば、ゴス方位({110}<001>方位)が圧延方向であるゴス方位結晶粒の核(ゴス核)を多数得ることができる。また、累計の圧下率が95%以下であれば、後述の仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が安定化しやすい。冷間圧延工程により製造された鋼板は、コイル状に巻き取られる。
なお、冷延鋼板の板厚(冷間圧延工程(S3)後の板厚)は、通常、最終製品である方向性電磁鋼板1の板厚(グラス被膜11及び張力付与絶縁被膜12の厚みを含めた製品板厚)とは異なる。
上記の冷間圧延工程(S3)に際して、磁気特性をより一層向上させるために、エージング処理を実施してもよい。エージング処理は任意の処理である。エージング処理を実施する場合、複数の冷間圧延(S30)の間にエージング(焼鈍)処理を実施する。具体的には、冷間圧延(S30)を実施した後、エージング処理を実施する。そして、エージング処理後に、次の冷間圧延(S30)を実施する。エージング処理の条件は周知の条件で足りる。たとえば、エージング処理では、冷間圧延(S30)後の鋼板に対して、100~500℃の温度で60秒以上の熱処理を実施する。この場合、次工程の脱炭焼鈍工程(S4)において、ゴス方位が圧延方向RDに揃った良好な二次再結晶を発達させることができる。
[脱炭焼鈍工程(S4)]
脱炭焼鈍工程(S4)では、冷間圧延工程(S3)後の鋼板(冷延鋼板)に対して、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶を発現させる。なお、本実施形態において、脱炭焼鈍工程(S4)は重要な工程であり、脱炭焼鈍工程(S4)により、ゴス方位結晶粒指数F1が式(1)を満たすように、(I)ゴス方位結晶粒の高集積化と、(II)ゴス方位結晶粒の細粒化とを両立することができる。
図7は、脱炭焼鈍工程(S4)でのヒートパターンを示す模式図である。図7を参照して、脱炭焼鈍工程(S4)は、ゴス方位結晶粒増加工程(S41)と、ゴス方位結晶粒成長工程(S42)と、最終脱炭焼鈍工程(S43)とを備える。以下、脱炭焼鈍工程(S4)内の各工程S41~S43について説明する。
[ゴス方位結晶粒増加工程(S41)]
ゴス方位結晶粒増加工程(S41)では、鋼板内において、ゴス方位結晶粒の核(ゴス核)を増加させる。図7に示すとおり、ゴス方位結晶粒増加工程(S41)では、鋼板に対して急速加熱を実施する。そして、鋼板温度が600℃から昇温到達温度T1(℃)に到達するまで、昇温速度HR1(℃/秒)で加熱する。そして、鋼板温度が600℃から昇温到達温度T1(℃)に到達した後、冷却速度CR1(℃/秒)で鋼板を冷却して、鋼板温度を冷却停止温度T2(℃)とする。昇温速度HR1、昇温到達温度T1、冷却速度CR1、及び、冷却停止温度T2はそれぞれ、次の条件とする。
昇温速度HR1:100~2000℃/秒
ゴス方位結晶粒増加工程(S41)において、鋼板を昇温する場合、鋼板温度が600℃~昇温到達温度T1に至るまでの平均の昇温速度を、昇温速度HR1(℃/秒)と定義する。昇温速度HR1が100℃/秒未満である場合、ゴス核の生成が不足する。この場合、ゴス方位結晶粒の集積度が低下する。一方、昇温速度HR1が2000℃/秒を超えれば、設備への負担が大きくなり、製造コストも高くなる。したがって、昇温速度HR1は100~2000℃/秒である。昇温速度HR1の好ましい下限は200℃/秒であり、さらに好ましくは300℃/秒であり、さらに好ましくは400℃/秒である。昇温速度HR1の好ましい上限は1800℃/秒であり、さらに好ましくは1600℃/秒であり、さらに好ましくは1200℃/秒である。
昇温到達温度T1:800~1000℃
昇温到達温度T1は、昇温を停止する鋼板温度である。昇温到達温度T1が800℃未満であれば、ゴス核の生成が不足する。この場合、ゴス方位結晶粒の集積度が低下する。一方、昇温到達温度T1が1000℃を超える場合、炉材等の設備が焼損する場合がある。したがって、昇温到達温度T1は、800~1000℃である。昇温到達温度T1の好ましい下限は820℃であり、さらに好ましくは840℃であり、さらに好ましくは860℃である。昇温到達温度T1の好ましい上限は980℃であり、さらに好ましくは960℃であり、さらに好ましくは940℃である。
冷却速度CR1:5~100℃/秒
ゴス方位結晶粒増加工程(S41)では、昇温到達温度T1に到達した後、昇温到達温度T1を保持せずに冷却を開始する。鋼板温度が800~600℃の平均の冷却速度を冷却速度CR1と定義する。この場合、冷却速度CR1が5℃/秒未満であれば、鋼板の表面にSiO被膜が過剰に形成してしまい、最終脱炭焼鈍工程(S43)において、鋼板を十分に脱炭できない。一方、冷却速度CR1が100℃/秒を超えれば、設備の負担が大きくなり、製造コストも高くなる。したがって、冷却速度CR1は5~100℃/秒である。冷却速度CR1の好ましい下限は10℃/秒であり、さらに好ましくは20℃/秒であり、さらに好ましくは30℃/秒である。冷却速度CR1の好ましい上限は90℃/秒であり、さらに好ましくは80℃/秒であり、さらに好ましくは70℃/秒である。
冷却停止温度T2:T3以下
冷却停止温度T2はT3以下である。冷却停止温度T2はT3以下であれば、特に限定されない。冷却停止温度T2はたとえば、T3であってもよいし、400℃以下であってもよいし、300℃以下であってもよいし、200℃以下であってもよいし、100℃以下であってもよい。
[ゴス方位結晶粒成長工程(S42)]
ゴス方位結晶粒成長工程(S42)では、ゴス方位結晶粒増加工程(S41)により生成したゴス核をある程度成長させる。これにより、多数のゴス核をゴス方位結晶粒へと成長させることができる。なお、ゴス方位結晶粒増加工程(S41)で多数生成したゴス核を、ゴス方位結晶粒成長工程(S42)でゴス方位結晶粒に成長させた場合、結果的に、多数のゴス方位結晶粒が生成する。その結果、仕上げ焼鈍後においても、ゴス方位結晶粒が微細に維持される。
ゴス方位結晶粒成長工程(S42)では、鋼板を、保持温度T3で保持時間t3保持する。保持温度T3及び保持時間t3はそれぞれ、次の条件とする。
保持温度T3:450~550℃
保持温度T3が450℃未満である場合、ゴス方位結晶粒が十分に成長しない。この場合、ゴス方位結晶粒の集積度が低下する。一方、保持温度が550℃を超えても、ゴス方位結晶粒が十分に成長しない。この場合、ゴス方位結晶粒の集積度が低下する。したがって、保持温度T3は450~550℃である。保持温度T3の好ましい下限は460℃であり、さらに好ましくは470℃である。保持温度T3の好ましい上限は530℃であり、さらに好ましくは510℃である。
保持時間t3:10秒以上
保持温度T3での保持時間t3が10秒未満である場合、ゴス方位結晶粒が十分に成長しない。この場合、ゴス方位結晶粒の集積度が低下する。一方、保持時間t3は特に限定されない。生産性を考慮すれば、保持時間t3の好ましい上限は100秒である。したがって、保持温度T3での保持時間t3は10~100秒である。保持時間t3の好ましい下限は15秒であり、さらに好ましくは20秒である。保持時間t3の好ましい上限は90秒であり、さらに好ましくは80秒である。
なお、保持時間t3経過後の鋼板を保持温度T3未満に冷却してもよいし、保持時間t3経過直後に最終脱炭焼鈍工程(S43)を実施してもよい。
[最終脱炭焼鈍工程(S43)]
最終脱炭焼鈍工程(S43)は、従前の脱炭焼鈍工程と同じ条件で実施すればよい。たとえば、最終脱炭焼鈍工程(S43)は、ゴス方位結晶粒成長工程(S42)後の鋼板を脱炭焼鈍温度T4に加熱する。そして、脱炭焼鈍温度T4で保持時間t4保持して、脱炭焼鈍を実施する。これにより、鋼板に一次再結晶を発現させる。最終脱炭焼鈍工程中の雰囲気は、周知の雰囲気で足り、たとえば、水素及び窒素を含有する湿潤窒素水素混合雰囲気である。脱炭焼鈍を実施することにより、鋼板中の炭素が鋼板から除去され、一次再結晶が発現する。最終脱炭焼鈍工程(S43)での製造条件は周知の条件で足りる。たとえば、次のとおりである。
脱炭焼鈍温度T4:750~1000℃
脱炭焼鈍温度T4は、脱炭焼鈍を実施する熱処理炉の炉温に相当し、脱炭焼鈍中の鋼板の温度に相当する。脱炭焼鈍温度T4が750℃未満であれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が小さすぎる。この場合、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。一方、脱炭焼鈍温度T4が1000℃を超えれば、一次再結晶発現後の鋼板の結晶粒が大きすぎる。この場合も、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。脱炭焼鈍温度T4が750~1000℃であれば、一次再結晶後の鋼板の結晶粒が適切なサイズとなり、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現する。
保持時間t4:50~300秒
脱炭焼鈍温度T4での保持時間t4は特に限定されない。脱炭焼鈍温度T4での保持時間t4はたとえば、50~300秒である。なお、保持時間t4経過後の鋼板を周知の方法で常温まで冷却する。冷却方法は放冷であってもよいし、水冷であってもよい。好ましくは、最終脱炭焼鈍工程(S43)後の鋼板を放冷する。
[焼鈍分離剤塗布工程(S5)]
脱炭焼鈍工程(S4)後の鋼板に対して、焼鈍分離剤塗布工程(S5)を実施する。焼鈍分離剤塗布工程(S5)では、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布する。具体的には、鋼板表面に焼鈍分離剤を含有する水性スラリーを塗布する。水性スラリーは、焼鈍分離剤に水を加えて攪拌して作製する。焼鈍分離剤は、酸化マグネシウム(MgO)を含有する。好ましくは、MgOは焼鈍分離剤の主成分である。ここで、「主成分」とは、焼鈍分離剤中のMgO含有量が、質量%で80.0%以上であることを意味する。焼鈍分離剤は、MgO以外に、周知の添加剤を含有してもよい。
焼鈍分離剤塗布工程(S5)では、鋼板の表面上に水性スラリーの焼鈍分離剤を塗布する。表面に焼鈍分離剤が塗布された鋼板を巻取り、コイル状にする。鋼板をコイル状にした後、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施する。
なお、鋼板表面上に水性スラリーの焼鈍分離剤を塗布し、鋼板をコイル状にした後、仕上げ焼鈍工程を実施する前に、焼付け処理を実施してもよい。焼付け処理では、コイル状の鋼板を、400~1000℃に保持した炉内に装入し、保持する(焼付け処理)。これにより、鋼板上に塗布された焼鈍分離剤が乾燥する。保持時間はたとえば10~90秒である。なお、焼付け処理を実施せずに、焼鈍分離剤が塗布されたコイル状の鋼板に対して、仕上げ焼鈍工程を実施してもよい。
[仕上げ焼鈍工程(S6)]
焼鈍分離剤塗布工程(S5)後の鋼板に対して、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施して、二次再結晶を発現させる。仕上げ焼鈍工程(S6)は、熱処理炉を用いて実施する。仕上げ焼鈍工程での製造条件はたとえば、次のとおりである。なお、仕上げ焼鈍における炉内雰囲気は、周知の雰囲気である。
仕上げ焼鈍温度:1100~1300℃
仕上げ焼鈍温度での保持時間:10~60時間
仕上げ焼鈍温度が1100℃未満であれば、十分な二次再結晶が発現せず、また二次再結晶に用いた析出物を除去する純化が十分ではない。そのため、製造された方向性電磁鋼板の磁気特性が低くなる。一方、仕上げ焼鈍温度が1300℃を超えても二次再結晶、純化に対する効果が低いとともに、鋼板の変形などの問題が生じる。仕上げ温度が1100~1300℃であれば、上記保持時間が適切であることを前提として、十分な二次再結晶が発現して、磁気特性が高まる。さらに、鋼板表面上にフォルステライト主体とするグラス被膜11が形成される。
なお、仕上げ焼鈍工程(S6)により、鋼板の化学組成の各元素が鋼中成分からある程度取り除かれる。特に、インヒビターとして機能するS、Al、N等は大幅に取り除かれる。
[絶縁被膜形成工程(S7)]
本実施形態による方向性電磁鋼板1の製造方法ではさらに、仕上げ焼鈍工程(S6)後に、絶縁被膜形成工程(S7)を実施する。絶縁被膜形成工程(S7)では、仕上げ焼鈍工程(S6)の冷却後の方向性電磁鋼板1の表面(グラス被膜11上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施する。これにより、グラス被膜上に、張力付与絶縁被膜12が形成される。
以上の製造工程により製造される方向性電磁鋼板1では、(I)ゴス方位結晶粒の高集積化、及び、(II)ゴス方位結晶粒の細粒化を両立させることができる。そのため、方向性電磁鋼板1に対して第1の歪取焼鈍を実施した後、第1のレーザー照射を実施して、方向性電磁鋼板の板幅方向に0.0~3.0°の傾斜角Aで交差し、30~100μmの幅を有する第1の熱歪を3.0~6.0mmピッチで導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW1(W/kg)と定義し、方向性電磁鋼板から張力付与絶縁被膜を除去し、張力付与絶縁被膜が除去された方向性電磁鋼板に対して第1の歪取焼鈍と同じ条件で第2の歪取焼鈍を実施した後、第1のレーザー照射と同じ条件で第2のレーザー照射を実施して、第1の熱歪と同じ傾斜角A、同じ幅、及び同じピッチで、第2の熱歪を導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW2(W/kg)と定義したとき、式(1)を満たす。そのため、補助磁区の低減が可能となり、磁化した場合の磁歪を低減できる。その結果、騒音特性を低減できる。
[その他の製造工程]
なお、本実施形態の方向性電磁鋼板1は、脱炭焼鈍工程(S4)後、焼鈍分離剤塗布工程(S5)前に、窒化処理工程を実施してもよい。窒化処理工程では、脱炭焼鈍工程(S4)後の鋼板に対して、窒化処理を実施して、窒化処理鋼板を製造する。窒化処理工程は周知の条件で実施すれば足りる。好ましい窒化処理条件はたとえば、次のとおりである。
窒化処理温度:700~850℃
窒化処理炉内の雰囲気(窒化処理雰囲気):水素、窒素及びアンモニア等の窒化能を有するガスを含有する雰囲気
窒化処理温度が700℃以上、又は、窒化処理温度が850℃未満であれば、窒化処理において、窒素が鋼板中に侵入しやすい。この場合、窒化処理工程において鋼板内部での窒素量が十分に確保である。そのため、二次再結晶直前での微細AlNが十分に得られる。その結果、仕上げ焼鈍工程(S6)において二次再結晶が十分に発現する。なお、窒化処理工程における、窒化処理温度での保持時間は特に限定されないが、たとえば、10~60秒である。
[レーザー照射工程(磁区細分化処理工程)]
本実施形態による方向性電磁鋼板1はさらに、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程(S6)後、又は、絶縁被膜形成工程(S7)後に、レーザー照射工程(磁区細分化処理工程)を実施してもよい。レーザー照射工程では、方向性電磁鋼板1の表面に、磁区細分化効果のあるレーザー光を照射したり、表面に溝を形成したりする。この場合、さらに磁気特性に優れる方向性電磁鋼板1が製造できる。
以下に、本発明の態様を実施例により具体的に説明する。これらの実施例は、本発明の効果を確認するための一例であり、本発明を限定するものではない。
[各試験番号の方向性電磁鋼板1の製造]
化学組成が、質量%で、C:0.030~0.10%、Si:3.0~3.5%、Mn:0.02~0.90%、N:0.005~0.03%、sol.Al:0.200~0.3%、S:0.005~0.03%、P:0.005~0.030%を含有するスラブを製造した。スラブに対して熱間圧延工程を実施した。具体的には、スラブを1350℃に加熱した後、スラブに対して熱間圧延を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。熱間圧延工程後の熱延鋼板に対して、900~1200℃の焼鈍温度で、保持時間が10~300秒の熱延板焼鈍工程を実施した。その後、冷間圧延工程を実施して、鋼番号A1~A20の板厚を0.22mmとし、鋼番号A21~A40の板厚0.19mmとする冷延鋼板を製造した。冷延鋼板に対して、後述の条件にて、脱炭焼鈍工程を実施した。その後、酸化マグネシウム(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤を鋼板表面に塗布して、仕上げ焼鈍工程を実施した。仕上げ焼鈍工程での仕上げ焼鈍温度は1200℃であり、仕上げ焼鈍温度での保持時間は20時間であった。さらに、仕上げ焼鈍工程の冷却後の方向性電磁鋼板の表面(グラス被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施した。以上の工程により、各試験番号の方向性電磁鋼板を製造した。
各試験番号の方向性電磁鋼板の製造工程中の脱炭焼鈍工程での、昇温速度HR1(℃/秒)、昇温到達温度T1(℃)、冷却速度CR1(℃/秒)、保持温度T3(℃)、保持時間t3(秒)は表1に示すとおりであった。なお、脱炭焼鈍工程において、冷却停止温度T2はいずれの試験番号においても室温(10~20℃)であった。また、最終脱炭焼鈍工程における脱炭焼鈍温度T4はいずれの試験番号も800℃であり、保持時間t4はいずれの試験番号も150秒であった。
Figure 0007393623000001
[母材鋼板の化学組成の分析]
各試験番号の方向性電磁鋼板の母材鋼板の化学組成を、次の方法により求めた。始めに、各試験番号の方向性電磁鋼板から、張力付与絶縁被膜を除去した。具体的には、方向性電磁鋼板を、NaOH:30~50質量%及びHO:50~70質量%を含有し、80~90℃の水酸化ナトリウム水溶液に、7~10分間浸漬した。浸漬後の方向性電磁鋼板(張力付与絶縁被膜が除去された方向性電磁鋼板)を水洗した。水洗後、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させた。
次に、張力付与絶縁被膜を備えていない方向性電磁鋼板から、グラス被膜を除去した。具体的には、方向性電磁鋼板を、30~40質量%のHClを含有し、80~90℃の塩酸水溶液に、1~10分浸漬した。これにより、母材鋼板からグラス被膜が除去された。浸漬後の母材鋼板を水洗した。水洗後、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させた。以上の工程により、方向性電磁鋼板から、母材鋼板を取り出した。
母材鋼板の化学組成を、周知の成分分析法により求めた。具体的には、ドリルを用いて、母材鋼板から切粉を生成し、その切粉を採取した。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得た。溶液に対して、ICP-AESを実施して、化学組成の元素分析を実施した。なお、母材鋼板の化学組成中のSiについては、JIS G 1212(1997)に規定の方法(けい素定量方法)により求めた。具体的には、上述の切粉を酸に溶解させると、酸化ケイ素が沈殿物として析出した。この沈殿物(酸化ケイ素)をろ紙で濾し取り、質量を測定して、Si含有量を求めた。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により求めた。具体的には、上述の溶液を酸素気流中で高周波加熱により燃焼して、発生した二酸化炭素、二酸化硫黄を検出し、C含有量及びS含有量を求めた。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求めた。O含有量については、周知の不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて求めた。以上の分析法により、母材鋼板10の化学組成を求めた。各試験番号の鋼板(母材鋼板)の化学組成(鋼番号A1~A40)は表2に示すとおりであった。なお、表2中の「-」は、対応する元素含有量が検出限界未満であったことを示す。
Figure 0007393623000002
以上の製造方法で製造された方向性電磁鋼板に対して、次の評価試験を実施した。
[ゴス方位結晶粒指数測定試験]
各試験番号の方向性電磁鋼板1のゴス方位結晶粒指数を、次の方法で求めた。始めに、各試験番号の方向性電磁鋼板1から、60mm×長さ300mmのサンプルを採取した。サンプルに対して第1の歪取焼鈍を実施した。第1の歪取焼鈍では、熱処理温度を800℃とし、熱処理温度での保持時間を2時間とした。なお、歪取焼鈍を実施した熱処理炉の雰囲気は、窒素雰囲気とし、露点は-20℃とした。
歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板1の表面に対して、第1のレーザー照射を実施して、第1の熱歪を導入した。具体的には、図2に示すレーザー照射により、方向性電磁鋼板1の表面に、ピッチが4.0mm、傾斜角A=1.6°であり、幅が50~90μmの第1の熱歪を導入した。第1の熱歪を導入するときのレーザー光源は、ファイバレーザーとした。レーザー照射のパワー密度Ipを5000(W/mm)とし、投入エネルギーUpを0.006(J/m)とした。
ピッチ4.0mm、傾斜角A=1.6°、幅50~90μmの熱歪が導入された方向性電磁鋼板1に対して、JIS C2556(2011)に準拠して、周波数を50Hz、最大磁束密度を1.7Tとしたときの鉄損W1(W/kg)を測定した。
次に、鉄損W1を測定した方向性電磁鋼板1から、張力付与絶縁被膜12を除去した。具体的には、方向性電磁鋼板1を、NaOH:40質量%及びHO:60質量%を含有し、80~90℃の水酸化ナトリウム水溶液に、7分間浸漬した。浸漬後の方向性電磁鋼板1を水洗した。水洗後、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させた。以上の方法により母材鋼板10とグラス被膜11とを備え、張力付与絶縁被膜12を備えていない方向性電磁鋼板2を準備した。
準備した方向性電磁鋼板2に対して、第2の歪取焼鈍を実施した。第2の歪取焼鈍の条件は、方向性電磁鋼板1に対して実施した第1の歪取焼鈍の条件と同じとした。第2の歪取焼鈍では、熱処理温度を800℃とし、熱処理温度での保持時間を2時間とした。なお、歪取焼鈍を実施した熱処理炉の雰囲気は、窒素雰囲気とし、露点は-20℃とした。
歪取焼鈍が実施された方向性電磁鋼板2に対して、第1のレーザー照射と同じ条件で、第2のレーザー照射を実施し、方向性電磁鋼板2の表面において、第1の熱歪と同じ傾斜角A、同じ幅、及び同じピッチで、第2の熱歪を導入した。具体的には、第2の熱歪を導入するときのレーザー光源は、ファイバレーザーとした。レーザー照射のパワー密度Ipを5000(W/mm)とし、投入エネルギーUp=0.006(J/m)とした。その結果、ピッチが4.0mm、傾斜角A=1.6°であり、幅が50~90μmの第2の熱歪を導入した。第2の熱歪が形成された張力付与絶縁被膜を有さない方向性電磁鋼板2に対して、JIS C2556(2011)に準拠して、周波数を50Hz、最大磁束密度を1.7Tとしたときの鉄損W2(W/kg)を測定した。得られたW1及びW2を用いて、ゴス方位結晶粒指数F1を求めた。求めたF1を表1に示す。
[騒音特性測定試験]
各試験番号の方向性電磁鋼板1に対して、騒音特性を評価した。具体的には、方向性電磁鋼板から幅60mm×長さ300mmのサンプルを採取した。サンプルに対して、ゴス方位結晶粒指数測定試験と同じ条件で歪取焼鈍及びレーザー照射を実施した。サンプルの長さ方向は圧延方向RDに対応し、幅方向は板幅方向TDに対応した。特許文献4に記載の磁歪測定装置を用いて、交流磁歪測定法により磁歪を測定した。具体的には、図8に示す磁歪測定装置50を使用した。磁歪測定装置50は、レーザードップラ振動計51と、励磁コイル52と、励磁電源53と、磁束検出コイル54と、増幅器55と、オシロスコープ56とを備えた。
サンプルSAの長手方向の一端を固定治具57に固定した。励磁コイル52に接続された励磁電源53によりサンプルSAを励磁した。このとき、磁束検出コイル54の起電力を増幅器55で増幅して、磁束密度信号として、オシロスコープ56に入力した。また、サンプルSAを励磁中において、固定治具57に固定されたサンプルの長手方向の他端(自由端)に、レーザードップラ振動計51からレーザー510を照射して、励磁中のサンプルSAの伸縮運動(磁歪波形)を得た。得られた磁歪波形を磁歪信号として、オシロスコープ56に入力した。
圧延方向に最大磁束密度が1.7Tとなるように、サンプルSAに交流磁界を印加した。磁区の伸縮によるサンプルの長さの変化を、レーザードップラ振動計51で測定し、磁歪信号を得た。得られた磁歪信号をフーリエ解析して、磁歪信号の各周波数成分fn(nは1以上の自然数)の振幅Cnを求めた。各周波数成分fnのA補正係数αnを用いて、次式で示される磁歪速度レベルLVA(dB)を求めた。
LVA=20×Log(√(Σ(ρc×2π×fn×αn×Cn/√2))/Pe0)
ここで、ρcは固有音響抵抗であり、ρc=400とした。Pe0は最小可聴音圧であり、Pe0=2×10-5(Pa)を用いた。A補正係数αnは、JIS C 1509-1(2005)の表2に記載の値を用いた。
得られた磁歪速度レベル(LVA)に基づいて、以下の基準に則して騒音特性を評価した。
VG(Very Good):50.0dBA未満
G(Good):50.0以上~55.0dBA未満
F(Fine):55.0以上60.0dBA未満
B(Bad):60.0dBA以上
上記評価において、F以上を合格とした。
[磁束密度B8測定試験]
各試験番号の方向性電磁鋼板から、幅60mm×長さ300mmのサンプルを採取した。採取されたサンプルを用いて、JIS C2256(2011)に準拠して、単板磁気特性試験(SST試験)により、磁束密度(T)を求めた。具体的には、サンプルに800A/mの磁場を付与して、磁束密度(T)を求めた。測定の結果、磁束密度B8が1.90T未満の試験番号の方向性電磁鋼板を不合格とし、ゴス方位結晶粒指数測定試験及び騒音特性測定試験を実施しなかった。
[試験結果]
試験結果を表1及び表2に示す。表1及び表2を参照して、試験番号1~40の方向性電磁鋼板では、化学組成が適切であった。さらに、製造条件が適切であった。そのため、ゴス方位結晶粒指数F1が式(1)を満たした。その結果、騒音特性はいずれもF以上であり、優れた騒音特性が得られた。
なお、試験番号1~46のうち、F1(=|W2-W1|)が0.024以下である試験番号6~17、26~37は、F1が0.024を超えた試験番号1~5、18~25、38~40と比較して、騒音特性がさらに優れていた。さらに、試験番号6~17、26~37のうち、F1が0.018未満の試験番号16、17、32~37では、F1が0.018以上であった試験番号6~15、26~31と比較して、騒音特性がさらに優れていた。
一方、試験番号41では、脱炭焼鈍工程(S4)のゴス方位結晶粒増加工程(S41)における昇温速度HR1が遅すぎた。そのため、ゴス方位結晶粒指数F1が式(1)を満たさず、騒音特性が低かった。
試験番号42では、脱炭焼鈍工程(S4)のゴス方位結晶粒増加工程(S41)における昇温到達温度T1が低すぎた。そのため、ゴス方位結晶粒指数F1が式(1)を満たさず、騒音特性が低かった。
試験番号43では、脱炭焼鈍工程(S4)のゴス方位結晶粒増加工程(S41)における冷却速度CR1が遅すぎた。そのため、磁束密度B8が1.90T未満となった。冷却速度CR1が遅すぎて十分に脱炭されなかったため、二次再結晶不良が生じたと考えられる。
試験番号44では、脱炭焼鈍工程(S4)のゴス方位結晶粒成長工程(S42)における保持温度T3が低すぎた。そのため、ゴス方位結晶粒指数F1が式(1)を満たさず、騒音特性が低かった。
試験番号45では、脱炭焼鈍工程(S4)のゴス方位結晶粒成長工程(S42)における保持温度T3が高すぎた。そのため、ゴス方位結晶粒指数F1が式(1)を満たさず、騒音特性が低かった。
試験番号46では、脱炭焼鈍工程(S4)のゴス方位結晶粒成長工程(S42)における保持時間t3が短すぎた。そのため、ゴス方位結晶粒指数F1が式(1)を満たさず、騒音特性が低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
1,2 方向性電磁鋼板
10 母材鋼板
11 グラス被膜
12 張力付与絶縁被膜

Claims (5)

  1. 方向性電磁鋼板であって、
    母材鋼板と、
    前記母材鋼板上に形成されているグラス被膜と、
    前記グラス被膜上に形成されている張力付与絶縁被膜とを備え、
    前記母材鋼板の化学組成は、質量%で、
    C:0.010%以下、
    Si:2.50~4.00%、
    Mn:0.01~1.00%、
    N:0.010%以下、
    sol.Al:0.010%以下、
    S:0.010%以下、
    P:0.030%以下、
    Cr:0~0.50%、
    Sn:0~0.50%、
    Cu:0~0.50%、
    Se:0~0.020%、
    Sb:0~0.50%、及び、
    残部がFe及び不純物からなり、
    800A/mの磁場を付与したときの磁束密度B8が1.90T以上であり、
    前記方向性電磁鋼板に対して、800℃で2時間保持する第1の歪取焼鈍を実施した後、第1のレーザー照射を実施して、前記方向性電磁鋼板の板幅方向に0.0~3.0°の傾斜角Aで交差し、30~100μmの幅を有する第1の熱歪を3.0~6.0mmピッチで導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW1(W/kg)と定義し、
    前記方向性電磁鋼板から前記張力付与絶縁被膜を除去し、前記張力付与絶縁被膜が除去された前記方向性電磁鋼板に対して前記第1の歪取焼鈍と同じ条件で第2の歪取焼鈍を実施した後、前記第1のレーザー照射と同じ条件で第2のレーザー照射を実施して、前記第1の熱歪と同じ傾斜角A、同じ幅、及び同じピッチで、第2の熱歪を導入したときの周波数50Hz及び最大磁束密度1.7Tでの鉄損をW2(W/kg)と定義したとき、式(1)を満たす、
    方向性電磁鋼板。
    |W2-W1|≦0.030(W/kg)・・・式(1)
  2. 請求項1に記載の方向性電磁鋼板であって、
    前記第1のレーザー照射では、レーザー出力をP(W)と定義し、ビーム照射径をS(mm)と定義した場合、式(2)で定義されるパワー密度Ip(W/mm)を3000~6000W/mmとし、レーザー走査速度をVs(mm/s)と定義した場合、式(3)で定義される投入エネルギーUp(J/mm)を0.005~0.050J/mmとする、
    方向性電磁鋼板。
    Ip=(4/π)×(P/S)・・・式(2)
    Up=P/Vs・・・式(3)
  3. 請求項1又は請求項2に記載の方向性電磁鋼板であって、
    前記方向性電磁鋼板の前記母材鋼板の板厚は、0.17~0.22mmである、
    方向性電磁鋼板。
  4. 請求項1~請求項のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板であって、
    前記母材鋼板の前記化学組成は、
    Cr:0.01~0.50%、
    Sn:0.01~0.50%、及び、
    Cu:0.01~0.50%、
    からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
    方向性電磁鋼板。
  5. 請求項1~請求項のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板であって、
    前記母材鋼板の前記化学組成は、
    Se:0.001~0.020%、及び、
    Sb:0.01~0.50%、
    からなる群から選択される1元素以上を含有する、
    方向性電磁鋼板。
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