[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容をそれぞれ個別に列挙して説明する。
(1)本実施形態に係る波長変換光デバイスの製造方法は、その一態様として、前工程と、第1照射工程と、第2照射工程と、走査工程と、を少なくとも備える。前工程は、当該波長変換光デバイスとなるべき非晶質材料からなる本体を用意する。第1照射工程は、本体内に励起電子高密度領域を発生させるための第1レーザ光を、該第1レーザ光を集光した状態で本体に照射する。また、第2照射工程は、第1照射工程と同期して実施される工程であって、励起電子高密度領域を加熱するための第2レーザ光を、該第2レーザ光を集光した状態で本体に照射する。なお、第1レーザ光は、その集光領域が本体の表面または内部に位置するよう本体に照射される。具体的に、第1レーザ光は、該本体の吸収波長帯域から外れた波長または該本体への光吸収量が低く抑えられる波長を有するfsレーザ光を含む。一方、第2レーザ光は、該第2レーザ光の集光領域が第1レーザ光の集光領域とオーバーラップするよう本体に照射される。具体的に、第2レーザ光は、第1レーザ光の集光領域以外における本体の吸収波長帯域から外れた波長または本体への光吸収量が低く抑えられる波長を有するとともにパルス幅1ps以上のパルスレーザ光、または、第1レーザ光の集光領域以外における該本体の吸収波長帯域から外れた波長または本体への光吸収量が低く抑えられる波長を有するCWレーザ光を含む。走査工程は、第1および第2照射工程が互いに同期した状態で間欠的に実施される期間中、連続的に実施される行程であって、本体と第1および第2レーザ光のオーバーラップされた集光領域との相対的位置を変えることにより、該本体に対してオーバーラップされた集光領域の位置を移動させる。なお、本明細書において「吸収波長帯域から外れた波長」、「光吸収量が低く抑えられる波長」とは、吸収係数が0.01/cm以下である波長領域を意味する。
(2)なお、第1レーザ光の集光領域は、該第1レーザ光の集光点を中心とした励起された電子が高密度に発生する領域(励起電子高密度領域)を意味し、励起された電子の数密度が1019/cm3以上の領域として規定される。また、第1レーザ光の集光領域と第2レーザ光の集光領域とがオーバーラップした状態(以下、オーバーラップ状態という)は、第1レーザ光の集光点と第2レーザ光の集光点とが一致している状態の他、集光点が一致していない状態も含む。具体的には、第2レーザ光の集光点が励起電子高密度領域(第1レーザ光の集光領域)内に存在していない場合であっても、このオーバーラップ状態には、励起電子高密度領域全体または少なくともその一部が第2レーザ光の照射領域内に存在するよう、該第2レーザ光のスポット径が絞り込まれた状態が含まれる。第1レーザ光(fsレーザ光)が非晶質の本体、例えば前駆体ガラスの内部に集光されると、該fsレーザ光が集光された領域には、一時的に励起電子高密度領域が発生する。この励起電子高密度領域(第1レーザ光の集光領域)が発生している間に該励起電子高密度領域にその集光領域がオーバーラップするように第2レーザ光(パルスレーザ光またはCWレーザ光)が照射されると、該励起電子高密度領域の局所領域のみにおいて優先的かつ選択的に光吸収を誘発させられることが可能になる。このとき、光吸収領域(第1および第2レーザ光のオーバーラップされた集光領域)では熱が発生し、結晶領域が形成される。本体の表面または内部において、第1および第2レーザ光のオーバーラップされた集光領域を三次元的に走査することで、バルク形状やファイバ形状等、様々な形態の高効率な波長変換光デバイスが実現され得る。
(3)本実施形態の一態様として、本体は、BaO-TiO2-GeO2-SiO2系ガラス、および、SrO-TiO2-SiO2系ガラスを主成分とする材料からなるのが好ましい。この場合、フレスノイト型結晶(Sr2TiSi2O8、Ba2TiGe2O8)からなる結晶領域内に放射状の分極秩序構造(polarization-orderedstructure)がレーザ照射によって容易に得られる。また、本実施形態の一態様として、本体は、ランタノイド系、アクチノイド系、4族~12族のうち何れかの族の金属を添加物として含むのが好ましい。この場合、本体におけるレーザ光エネルギーの吸収量を増加させることが可能となり、分極秩序構造が更に効率よく形成される。
(4)本実施形態の一態様として、第1レーザ光は、Ti:Sレーザ(チタンサファイアレーザ)から出力されるレーザ光、該Ti:Sレーザから出力されるレーザ光の波長変換光、Ybドープドファイバレーザ(Yb-dopedfiber laser)から出力されるレーザ光、および、該Ybドープドファイバレーザから出力されるレーザ光の波長変換光の何れかを含むのが好ましい。なお、第1レーザ光の波長は、本体の吸収波長帯域に含まれない、若しくは低い吸収量の波長であればよい。一方、第2レーザ光は、CO2レーザ、Ybドープドファイバレーザ、および、半導体レーザの何れかから出力されるレーザ光を含むのが好ましい。
(5)本実施形態の一態様として、本実施形態に係る波長変換光デバイスの製造方法は、第1および第2照射工程の前または走査工程の後に実施される工程であって、該第1および第2レーザ光のオーバーラップされた集光領域の移動方向に沿って伸びる光軸を有するチャネル導波路構造を、本体に形成する加工工程を更に備えてもよい。
(6)本実施形態に係る波長変換光デバイスは、一例として、上述のように構成された製造方法により得られる。具体的に、本実施形態に係る波長変換光デバイスは、その一態様として、内部に光を伝搬させる本体と、該光の伝搬方向に沿って本体内に配置された複数の結晶領域と、を備える。特に、複数の結晶領域それぞれは、伝搬方向に沿って配向した自発分極(伝搬方向に一致した分極方向(polarization orientation)を有する自発分極)を有する。上述の製造方法では、それぞれの集光領域がオーバーラップされた第1レーザ光と第2レーザ光が本体(例えば非晶質材料)に集光光学系を介して照射される。このとき、第1レーザ光は、本体内に励起電子高密度領域の発生に寄与する。一方、第2レーザ光の光エネルギーは、第1レーザ光の照射により一時的に発生した励起電子高密度領域において効率よく吸収され、該励起電子高密度領域が発熱源となる。この励起電子高密度領域における発熱により、該励起電子高密度領域を中心とした周辺領域が結晶化する。したがって、上述の製造方法により得られた波長変換光デバイスの構造は、光の伝搬方向に沿って配置された複数の結晶領域それぞれにおいて該伝搬方向に沿って配向した自発分極が存在する構造となる。
(7)本実施形態の一態様として、複数の結晶領域のうち隣接する結晶領域は、伝搬方向に沿って配向した自発分極を有する部分同士が接触した状態で配置されてもよい。また、本実施形態の一態様として、複数の結晶領域のうち隣接する結晶領域は、非晶質領域を介して離間した状態で配置されてもよい。本実施形態の一態様として、本体は、伝搬方向に沿って伸びる光軸を有するチャネル導波路構造を有する基板を含んでもよい。本実施形態の一態様として、本体は、伝搬方向に沿って伸びる中心軸を有する光ファイバを含んでもよい。なお、本体としての光ファイバは、中心軸を含んだ状態で該中心軸に沿って伸びるコアと、該コアを取り囲むとともにコアの屈折率よりも低い屈折率を有する光学クラッドと、該光学クラッドを取り囲むとともにコアの屈折率よりも低い屈折率を有する物理クラッド(ジャケット)と、を備える。また、このような構造を有する光ファイバにおいて、複数の結晶領域それぞれは、コアおよび光学クラッドにより構成される光導波領域の少なくとも一部を構成するのが好ましい。具体的に、複数の結晶領域は、コア内(コア全体またはコアの一部)、光学クラッド内(光学クラッド全体または光学クラッドの一部)、コアの一部および光学クラッドの一部で構成される領域、および、コア全体および光学クラッド全体で構成される領域の何れかの領域に形成される。
(8)本実施形態の一態様として、本体は、BaO-TiO2-GeO2-SiO2系ガラス、および、SrO-TiO2-SiO2系ガラスを主成分とする材料からなるのが好ましい。この場合、複数の結晶領域それぞれは、フレスノイト型結晶である。また、本実施形態の一態様として、本体は、ランタノイド系、アクチノイド系、4族~12族のうち何れかの族の金属を添加物として含むのが好ましい。
(9)本実施形態の一態様として、複数の結晶領域それぞれは、伝搬方向に対して垂直な方向に放射状に配向した自発分極を有する第1部分結晶領域と、伝搬方向に沿って第1部分結晶領域の両端に位置する第2部分結晶領域であってそれぞれが該伝搬方向に沿って配向した自発分極を有するとともに第1部分結晶領域の分極方向とは異なる方向に配向した自発分極を有する第2部分結晶領域と、を備える。また、第2部分結晶領域の一方から該第2部分結晶領域の他方に向かって光が伝搬するように複数の結晶領域が配置された状態で、第1部分結晶領域と一方の第2部分結晶領域との第1界面と、第1部分結晶領域と他方の第2部分結晶領域との第2界面は、伝搬方向に沿って交互に配置される。このような構成において、伝搬方向に沿って隣接する2つの結晶領域間における第1界面の間隔または該2つの結晶領域間における第2界面の間隔を一周期として規定される繰り返し構造は、単一周期、チャープ型周期、互いに異なる複数の単一周期が組み合わされた周期、あるいは、フィボナッチ数列やBarker sequence法に基づいた周期を有するのが好ましい。
以上、この[本願発明の実施形態の説明]の欄に列挙された各態様は、残りの全ての態様のそれぞれに対して、または、これら残りの態様の全ての組み合わせに対して適用可能である。
[本願発明の実施形態の詳細]
本願発明に係る波長変換光デバイスおよびその製造方法の具体例を、以下に添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、これら例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図されている。また、図面の説明において同一の要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
図1は、本実施形態に係る波長変換光デバイスの主要構造と結晶領域形成の原理を説明するための図である。また、図2は、結晶領域およびその周辺領域における温度変化を説明するための図である。
本実施形態に係る波長変換光デバイスの製造方法では、波長変換光デバイスとなるべき本体に、非晶質材料として、SiO2を含むガラスが適用され得る。この非晶質の本体に対し、該本体の吸収波長帯域から外れた波長または該本体への光吸収量が低い波長を有するfsレーザ(第1レーザ光)と、該本体の吸収波長帯域に含まれない、若しくは低い吸収量の波長を有するレーザ光(第2レーザ光)であってパルス幅1ps以上のパルスレーザ光またはCWレーザ光が、同一集光領域にオーバーラップするように照射される。このとき、fsレーザ光の集光領域に一時的に発生した励起電子高密度領域で、パルス幅1ps以上のパルスレーザ光またはCWレーザ光が優先的に吸収されることで、該励起電子高密度領域から熱が発生する。本実施形態に係る製造方法は、このように発熱した励起電子高密度領域(発熱領域)を中心にしてその周辺領域を結晶化させることで、本体の表面または内部に1またはそれ以上の結晶領域を自在に形成することを可能にする。
図1において、本体10は、非晶質材料からなり、矢印AXは本体内を伝搬する光の光軸を示し、該光の伝搬方向に沿って伸びた軸である。例えば、本体10がチャネル導波路構造を有する基板である場合、該基板は、チャネル導波路の光軸が光軸AXに一致する。また、本体10が光ファイバである場合、該光ファイバの中心軸が光軸AXに一致している(伝搬方向に沿って伸びている)。本体10の材料としては、BaO-TiO2-GeO2-SiO2系ガラス、および、SrO-TiO2-SiO2系ガラスのうち少なくとも何れか一方が適用可能である。これらの材料からなる本体10において、フレスノイト型結晶(Sr2TiSi2O8、Ba2TiGe2O8)からなる放射状の分極秩序構造(polarization-orderedstructure)が、レーザ光の照射によって容易に得られる。また、上記何れかの材料からなる本体には、ランタノイド系、アクチノイド系、4族~12族のうち何れかの族に含まれる金属が添加されてもよい。この場合本体10におけるレーザ光の吸収量が高められ、上記分極秩序構造が更に効率的に形成される。
本実施形態では、本体10に対して、該本体10に対する作用が異なる2種類のレーザ光L1、L2が照射される。レーザ光L1(第1レーザ光)は、その集光領域が本体10の表面または内部に位置するよう該本体10に照射される。具体的に、レーザ光L1は、本体10内に励起電子高密度領域110を発生させるためのレーザ光であって、本体10の吸収波長帯域から外れた波長または該本体10への光吸収量が低く抑えられる波長を有するfsレーザ光を含む。レーザ光L1を出力するためのfsレーザ光源としては、例えば、Ti:Sレーザ(チタンサファイヤレーザ)、ファイバレーザ(例えば、Ybドープドファイバレーザ)、これらレーザ光源を用いた波長変換レーザ(波長:400~550nm)などが挙げられる。これら列挙された光源から出力されるレーザ光または該出力されるレーザ光の波長変換光がレーザ光L1に適用され、何れのレーザ光も900fs以下のパルス幅を有するパルスレーザ光である。
一方、レーザ光L2(第2レーザ光)は、その集光領域がレーザ光L1の集光領域とオーバーラップするように本体10に照射される。また、レーザ光L2は、本体10のうち励起電子高密度領域110を加熱する役割を持ったレーザ光であって、具体的に、レーザ光L2は、レーザ光L1の集光領域以外における本体10の吸収波長帯域から外れた波長または本体10への光吸収量が低く抑えられる波長を有するとともにパルス幅1ps以上のパルスレーザ光、または、該本体10の吸収波長帯域から外れた波長または本体10への光吸収量が低く抑えられる波長を有するCWレーザ光を含む。レーザ光L2を出力するための光源としては、ガスレーザ(例えば、CO2レーザ)、ファイバレーザ例えば、Ybドープドファイバレーザ)、半導体レーザ等が挙げられる。これら列挙された光源から出力されるレーザ光L2は、何れもパルス幅1ps以上、好ましくはパルス幅1ns以上のパルスレーザ光、または、CWレーザ光を含む。
なお、図1中に示された励起電子高密度領域110は、厳密には、レーザ光L1の照射により一時的に励起電子高密度領域が発生した領域を示す。一時的に発生した励起電子高密度領域に向けてレーザ光L2が集光されると、該励起電子高密度領域においてレーザ光L2の光エネルギーが優先的かつ選択的に吸収される。このような光エネルギーの吸収領域は、発熱するため、結晶領域100を形成するための発熱領域(熱源)として機能する。本実施形態では、レーザ光L1、L2、および、本体10の少なくとも一方を図1中に示された矢印S1で示された方向に移動させることにより、本体10における励起電子高密度領域の発生位置が、光軸AXに沿って移動する。そのため、図1中において参照番号「110」で指示された部分は、レーザ光L1の照射により過去に励起電子高密度領域が発生した部分であって、レーザ光L2の光エネルギーを吸収することで結晶領域100の形成過程において発熱領域として機能した部分である。なお、本明細書では、レーザ光の走査領域を明示すること、および、本発明の技術的意義を明示することを目的として、図1および図5~図7に示された領域110を「励起電子高密度領域」と記す。すなわち、本体10内で形成された結晶領域100は、レーザ光L1、L2が矢印S1で示された方向に沿って相対的に移動しながら照射される期間中、図1中に示された励起電子高密度領域110の各部が発熱することにより結晶化した、該励起電子高密度領域110の周辺領域である。
上述のように形成された結晶領域100は、光軸AXに対して垂直な方向に放射状に配向した自発分極Aを有する第1部分結晶領域100Aと、光軸AXに沿って第1部分結晶領域100Aの両端に位置する第2部分結晶領域100B1,100B2で構成される。第2部分結晶領域100B1、100B2それぞれは、光軸AXに沿って配向した自発分極B1、B2(レーザ光L1の走査方向に沿って配向した自発分極)を有するとともに、該前記第1部分結晶領域100Aの分極方向とは異なる方向に配向した自発分極を有する。
第1部分結晶領域100Aと第2部分結晶領域100B1との界面120Aの位置は、第1部分結晶領域100Aの一方の端部、すなわち、レーザ光L1の照射開始位置により特定可能である。同様に、第1部分結晶領域100Aと第2部分結晶領域100B2との界面120Bの位置は、第1部分結晶領域100Aの他方の端部、すなわち、レーザ光L1の照射終了位置により特定可能である。
特に、本実施形態に係る波長変換光デバイスでは、本体10内に、一例として図1に示された構造をそれぞれ有する複数の結晶領域100が光軸AXに沿って配置される。このとき、光軸AXに沿って本体10内に設けられた複数の結晶領域それぞれにおいて、第1部分結晶領域100Aの両端の位置を規定する界面120A、120Bも、光軸AXに沿って交互に配置される。なお、本体10内に複数の結晶領域100が設けられる場合、光軸AXに沿って隣接する2つの結晶領域100間における界面120Aの間隔または該2つの結晶領域100間における界面120Bの間隔を一周期として規定される繰り返し構造は、単一周期、チャープ型周期、互いに異なる複数の単一周期が組み合わされた周期、あるいは、フィボナッチ数列やBarker sequence法に基づいた周期を有するのが好ましい。
なお、レーザ光L1に適用可能なfsレーザ光の集光領域には、照射条件によって、瞬間的に励起電子高密度領域が発生することが知られている(非特許文献1)。また、レーザ光L2に適用可能なパルス幅1ns以上のレーザ光(例えば、波長1070nm)を励起電子高密度領域(レーザ光L1の集光領域)にオーバーラップするように照射することで、照射されたレーザ光の光エネルギーがこの領域のみで優先的かつ選択的に吸収される。その結果、光エネルギーを吸収した領域(励起電子高密度領域はレーザ光L1の照射により一時的に発生した領域)が効果的に発熱することが、上記非特許文献2に開示されている。レーザ光L2の光エネルギーを吸収した領域(吸収領域)における発熱量は、該レーザ光L2の照射時間に依存する。すなわち、発熱量が増加すると該吸収領域を中心とした周辺領域の温度も上昇することになる(図2で示された結晶核生成閾値T1から結晶成長閾値T2へと昇温)。このとき、該周辺領域の温度が損傷(溶融)閾値T3以下となるように吸収領域における発熱量を制御することで、該周辺領域の結晶化が可能になる。
図2は、一般的なレーザ照射の例として、直接非晶質材料にレーザ光を照射したときの領域結晶化と温度変化の関係を説明するための図である。図2に示された結晶領域100は、図1の光軸AXに直交する本体10の断面に一致しており、結晶領域100は、放射状の自発分極Aを有する。より具体的には、レーザ光を対象物である非晶質材料に照射するとき、図2のグラフG1~G3に示されたように、照射領域における温度分布は、レーザ光の光軸上において最も高く、該レーザ光の光軸から径方向に離れるに従って次第に低い分布となる。ただし、グラフG1の段階では、照射領域の中心温度のみが結晶核生成閾値T1に達しており、中心以外の温度は結晶核生成閾値T1に達していないので、結晶核は照射領域の中心のみに生じる。このとき、自発分極の配向はランダムである。その後、レーザ光の照射を連続して、または断続的に繰り返すと、温度分布が全体的に上昇し、グラフG2のように照射領域の中心温度が結晶成長閾値T2に達する。これにより、結晶核を起点として結晶が成長し始める。このとき、ランダムであった自発分極の配向を基に結晶成長することになるが、照射領域の中心へ向けて成長する結晶核は互いに衝突し、それ以上成長することはなく、その結果、成長可能な領域である外周へ向かう配向が支配的となる。したがって、最終的な自発分極Aの配向は、主に照射領域の中心(すなわちレーザ光の光軸)から径方向に沿って離れる向きとなる。なお、その後もレーザ光の照射を連続して、または断続的に繰り返し、グラフG3のように照射領域の中心付近の温度が損傷閾値T3を超えると、該中心付近の対象物が溶融する。すなわち、結晶領域の中央に穿孔(加工痕)101が生じる。その結果、自発分極Aが放射状に配向した円環状の結晶領域100が形成される。
図3は、本実施形態に係る波長変換光デバイスの製造方法の一例を説明するための図である。また、図4は、本実施形態に係る波長変換光デバイスの製造方法の他の例を説明するための図である。
図3の例では、本体10として、光軸AXに沿って伸びたチャネル導波路11を有する導波路基板10A(チャネル導波路構造を有する基板)が用意される(前工程)。第1光源20Aからは、導波路基板10Aの表面または内部に励起電子高密度領域を発生させるためのレーザ光L1(fsレーザ光)が導波路基板10Aに照射される(第1照射工程)。一方、第2光源20Bからは、導波路基板10Aの一部を加熱するためのレーザ光L2(パルス幅1ps以上のパルスレーザ光またはCWレーザ光)が導波路基板10Aに照射される(第2照射工程)。図3の例では、レーザ光L1およびレーザ光L2は、同軸照射される。すなわち、第1光源20Aから導波路基板10Aまでのレーザ光L1の光路と、第2光源20Bから導波路基板10Aまでのレーザ光L2の光路のそれぞれには、共通の集光光学系30とハーフミラー40が配置されている。このような同軸照射系は、簡便に構成できるという利点がある。
第1照射工程と第2照射工程は、互いに同期して、レーザ光L1とレーザ光L2を間欠的に照射する。レーザ照射期間中、第1光源20Aから出力されたレーザ光L1は、ハーフミラー40で反射され、集光光学系30へ向かう。更に、集光光学系30を通過したレーザ光L1は、導波路基板10Aの表面近傍に集光する。このレーザ光L1の集光領域に励起電子高密度領域110が発生する。同時に、第2光源20Bから出力されたレーザ光L2は、ハーフミラー40を通過して集光光学系30に向かう。更に、集光光学系30を通過したレーザ光L2は、励起電子高密度領域110にオーバーラップするよう集光する。レーザ光L2の光エネルギーは効率的に励起電子高密度領域110に吸収されるが、このとき、励起電子高密度領域110が発熱領域として機能することで、チャネル導波路11内に結晶領域100が形成される。
上述の第1および第2照射工程が互いに同期した状態で間欠的に実施される期間中、導波路基板10Aおよびレーザ光L1、L2の同軸照射系の少なくとも一方が、矢印S2で示された方向に沿って移動する。これにより、導波路基板10Aに設けられたチャネル導波路11の光軸AXに沿って複数の結晶領域100が形成される(走査工程)。
なお、上記では、一回の走査で結晶領域100を形成したが、レーザ光を複数回走査し、そのうち初回は比較的弱いパワーのレーザ光L2(図2のG1)を使って核を形成し、第二回目以降の走査においてより強いパワーのレーザ光L2(図2のG2またはG3)を使って核を成長させ、結晶領域100を形成してもよい。また、チャネル導波路11(チャネル導波路構造)は、第1および第2照射工程の前または走査工程の後に、導波路基板10Aに設けられてもよい(加工工程)。また、図3に示された導波路基板10Aは、リッジ構造を有するが、このリッジ構造は、ドライエッチングや、ダイシングソーによる切出しにより形成可能である。
一方、図4の例では、本体10として、中心軸が光軸AXに沿って伸びた光ファイバ10Bが用意される(前工程)。光ファイバ10Bは、中心軸(光軸AXに一致)を含み、該中心軸に沿って伸びるコア12と、コア12を取り囲む光学クラッド13Aと、光学クラッド13Aを取り囲む物理クラッド13B(ジャケット)と、を備える。このような構造を有する光ファイバ10Bにおいて、結晶領域100は、コア12および光学クラッド13Aにより構成される光導波領域130の少なくとも一部を構成する。
第1光源20Aからは、光ファイバ10Bの内部に励起電子高密度領域110を発生させるためのレーザ光L1(fsレーザ光)が光ファイバ10Bに照射される(第1照射工程)。一方、第2光源20Bからは、光ファイバ10Bのうち励起電子高密度領域110を加熱するためのレーザ光L2(パルス幅1ps以上のパルスレーザ光またはCWレーザ光)が光ファイバ10Bに照射される(第2照射工程)。図4の例では、レーザ光L1およびレーザ光L2は、異なる光路を伝播し、光ファイバ10B内に到達する。すなわち、第1光源20Aから光ファイバ10Bまでのレーザ光L1の光路上には、集光光学系30Aが配置され、第2光源20Bから光ファイバ10Bまでのレーザ光L2の光路上には、集光光学系30Bがそれぞれ配置されている。
図3の例と同様に、第1照射工程と第2照射工程は、互いに同期して、レーザ光L1とレーザ光L2を間欠的に照射する。レーザ照射期間中、第1光源20Aから出力されたレーザ光L1は、集光光学系30Aを通過した後、光ファイバ10Bの内部に集光する。このレーザ光L1の集光領域に励起電子高密度領域110が発生する。同時に、第2光源20Bから出力されたレーザ光L2は、集光光学系30Bを通過した後、励起電子高密度領域110にオーバーラップするよう集光する。レーザ光L2の光エネルギーは効率的に励起電子高密度領域110に吸収されるが、このとき、励起電子高密度領域110が発熱領域として機能することで、光ファイバ10B内に結晶領域100が形成されるが、結晶領域100を制御する方法は段落「0039」または段落「0041」に記載された内容(図3の例で説明された走査工程における制御方法)と同様に行われる。
上述の第1および第2照射工程が矢印S3で示された方向に沿って互いに同期した状態で間欠的に実施させることにより、光ファイバ10Bの中心軸(光軸AX)に沿って複数の結晶領域100が形成される(走査工程)。なお、中心軸から外れた位置にレーザ光L1を集光させて、図4中の矢印S4で示された方向に光ファイバ10Bを回転させることにより、光導波領域130内に、円環状の断面を有する結晶領域100が得られる。
なお、第1光源20Aと集光光学系30Aで構成される照射系と、第2光源20Bと集光光学系30Bで構成される照射系を、光ファイバ10Bに対して移動させる場合、それぞれの照射系を保持するXYZ軸ステージを、互いに同期させて移動させる。特に、図4の例で示された2つの照射系では、第1および第2光源20A、20Bそれぞれの集光条件を変更出来るため、レーザ照射の自由度が増す。すなわち、レーザ光L1の集光点の深さに応じて、レーザ光L2の集光条件を変えることが可能になる。また、図3および図4の何れの例においても、レーザ光L1およびレーザ光L2の集光点へのパルス照射タイミング(ただし、レーザ光L2がCWレーザ光の場合は不要)をシンクロさせる機構を備えてもよい。加えて、図3および図4の何れの例においても、照射領域に応じて、レーザ光L1とレーザ光L2の光強度を調整することも可能である。
図5は、本実施形態に係る波長変換光デバイスの一例として、本体内に非晶質領域を介して複数の結晶領域が配置される繰り返し構造を示す概略図である。この図5に示された例では、光軸AXに沿って配置された複数の結晶領域100のうち隣接する結晶領域100が、非晶質領域を介して離間した状態で配置されている。なお、図5に示された結晶領域100それぞれは、適切なパルス幅、光強度、繰り返し周波数、集光条件、波長によるfsレーザと発熱用レーザを基板に重ねて照射した後の概念図を示す。
すなわち、結晶領域100内に位置する中央の円柱部分は、レーザ光L1の照射により発生した励起電子高密度領域110であり、該励起電子高密度領域110にオーバーラップするようにレーザ光L2が照射されることで、周辺領域の温度がT1からT2に達する(図2参照)。その結果、励起電子高密度領域110を中心とした周辺に、該励起電子高密度領域110の形状を反映した結晶領域が形成される。なお、図5の例では、結晶領域100の形状は円柱であるが、正確には集光条件を反映した励起電子高密度領域110の形状に依存するため、例えば、細長い卵形に結晶化される。結晶領域100を示す円柱の中央部分(第1部分結晶領域100Aに相当)は、光軸AXを中心に放射状に配向した自発分極Aが発生する。結晶領域100の両端(第2部分結晶領域100B1、100B2に相当)は、光軸AXに沿って互いに逆方向に配向した自発分極B1、B2を有する。なお、正確には、自発分極の分極方向は、励起電子高密度領域110の形状を反映し、該励起電子高密度領域110とその周辺領域との境界の接線に垂直な方向に配向する)。
また、図5の例において、複数の結晶領域100は、励起電子高密度領域110の長さ(1つの結晶領域100内の界面120Aと界面120B間の間隔で規定)Lと互いに隣り合う励起電子高密度領域110間の距離(隣接する結晶領域100のうち一方の結晶領域100内の界面120Bと他方の結晶領域100内の界面120Aとの間の距離)L’との和を一周期として配置されている。すなわち、光軸AXに沿って配置された複数の結晶領域100の界面120A、120Bにより、周期L+L’(界面120Bを介して隣接する界面120Aの間隔、または、界面120Aを介して隣接する界面120Bの間隔)の繰り返し構造が構成されている。このように複数の結晶領域100を光軸AXに沿って配置することにより、擬似位相整合による高効率な波長変換が実現可能になる。
なお、位相整合帯域を拡大する場合は、上述の繰り返し構造として、非周期な周期分極反転構造(非特許文献3に記載のチャープ型周期)、周期Λ1領域と周期Λ2領域と周期Λ3領域…のように複数種類の周期領域を1セグメントとして扱い、そのセグメントをある間隔で配置した構造(非特許文献4参照)、フィボナッチ数列を基準とした周期構造(非特許文献5参照)、Barkersequenceを基にした周期構造(非特許文献6参照))が採用され得る。
また、図5の例で示された構造に対して、光軸AXに沿って光が入射される。例えば、入射光はラジアル偏光のベクトルビームが好適である。自発分極B1と自発分極B2は、光軸AXに沿った光の伝搬方向と一致する、そのため、非線形光学定数(d)は、例えば、d16、d22などに該当するが、本体10は正方晶系であるので、何れも零であることから、不要な波長変換は生成されない。よって、高効率な波長変換が可能になる。
図6は、本実施形態に係る波長変換光デバイスの他の例として、本体内に連続して複数の結晶領域が配置される繰り返し構造を示す概略図であり、図7は、図6に示された構造における分極秩序構造を説明するための図である。これら図6および図7に示された例では、光軸AXに沿って配置された複数の結晶領域100のうち隣接する結晶領域100が、光軸AXに沿って配向した自発分極B1、B2を有する部分同士が接触した状態で配置されている。なお、図6には、本体10の側面構造と正面構造を対応させた図であり、図7は、本体10の斜視図であって、特に、本体10の内部に形成される自発分極の配向状態を示す図である。
図6および図7の例では、各結晶領域100の概略構造は図5の例と同様であり、界面120A、120Bの間隔はL(一定)で、繰り返し構造の周期は2Lで一定である。この間隔Lは、擬似位相整合のコヒーレント長である。ただし、結晶領域100が接触していても、あるいは、図5の例のように隣接する結晶領域100の間に非晶質領域が残留していても、結晶領域100と非晶質領域の屈折率には変化が無いため、波長変換には影響が無い(隣接する結晶領域100が接触していても離れていても構わない)。また、図6および図7の例では、本体10の内部に結晶領域100が形成されているが、図3の例のように、励起電子高密度領域110が本体10の表面に到達していてもよい。更に、表面にレーザ光L1、L2を集光させると、半円形の断面を有した結晶領域が形成される。この場合、その断面における自発分極の配向は、放射状となっている。この場合においても、複数の結晶領域100を、隣接する界面の間隔がLになるように直線状に配置し、かつ、擬似位相整合が成立する方向(光軸AXに沿った方向)と平行になるように本体10の形状をリッジ構造に加工することで、高効率な波長変換が可能となる。本体10に対するリッジ構造の形成は、ドライエッチングやダイシングソーによる切出しにより可能である。
上述の本体10の形状は、バルク、板状の他、ファイバ形状であっても選択的に結晶領域100の形成は可能である。また、図4の例で示された光ファイバ10Bにおいて、コア12、光学クラッド13A、物理クラッド13Bの何れも、図1に示された本体10の構成材料(BaO-TiO2-GeO2-SiO2系ガラス、および、SrO-TiO2-SiO2系ガラスのうち少なくとも何れか)が適用可能である。なお、コア12及び光学クラッド13Aにより構成される光導波領域130の全体または一部に、ランタノイド系、アクチノイド系、4族~12族のうち何れかの族に含まれる金属が添加されてもよい。いずれの場合も、それぞれの集光領域がオーバーラップするようにレーザ光L1(fsレーザ光)とレーザ光L2(パルスレーザ光またはCWレーザ光)を照射することにより、優先的に発熱領域を形成することができ、該発熱領域からの熱を利用して結晶領域が形成される。また、レーザを間欠的に本体に照射することで、間欠的な結晶領域の形成(光軸方向に沿って配置された複数の結晶領域の形成)が可能になる。