JP7392224B2 - びまん性肺胞傷害型薬剤性間質性肺炎のmiRNA診断バイオマーカー - Google Patents

びまん性肺胞傷害型薬剤性間質性肺炎のmiRNA診断バイオマーカー Download PDF

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本発明は、びまん性肺胞傷害型薬剤性間質性肺炎の発症や病勢の診断を補助するための方法に関する。
薬剤性間質性肺炎は医薬品による肺の間質の炎症性有害作用の総称である。間質性肺炎は、薬剤性やじん肺、膠原病などの明確な原因に伴うものと、原因が不明な特発性とに分けられ、さらに様々な病型に分類される。それぞれ治療法や予後が異なるため、これらを鑑別することは臨床上重要である。
薬剤性間質性肺炎は、特発性や既知の肺疾患との類似性に基づいて、病型の診断が行われる(非特許文献1)。間質性肺炎の病型の中で、特に重篤な病型は、びまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage、DAD)である。DADは、急性呼吸窮迫症候群や特発性間質性肺炎の急性増悪症例に見られる典型的な病型であり(非特許文献2)、特発性においても薬剤性においても、DADは治療反応性に乏しく予後が悪い(非特許文献1、2)。そのため、DADに対しては、早期の検出と診断が特に重要とされる。また、DAD以外の病型としては、器質化肺炎(organizing pneumonia、OP)、非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia、NSIP)などが挙げられるが、どのパターンにも当てはまらない例や複数のパターンが混在する例など、画像検査や病理検査では分類が困難な例も存在し、画像パターン分類には限界がある(非特許文献3)
薬剤性間質性肺炎の診断には、自己免疫性疾患による肺炎や医薬品に起因しない間質性肺炎の可能性を排除する必要があり、確定診断に時間を要することも多く、画像診断や病理診断だけでは経済的にも体力的にも患者に大きな負担を強いるため、バイオマーカーの利用が有用とされる。
間質性肺炎のバイオマーカーとしては、現在、シアル化糖鎖抗原KL-6(KL-6)、肺サーファクタントプロテインA(SP-A)、肺サーファクタントプロテインD(SP-D)が、診断の補助に利用されており、KL-6はDADに対する陽性率が高いことが知られている(非特許文献4, 5)。これらは、薬剤性肺障害を反映する指標であるが、喫煙や間質性肺炎以外の疾患でも増加することもあり、肺障害の重症度とは相関しない。KL-6は、薬剤投与前値を基準に経過を追うことが推奨されているものの、既存の間質性肺炎の増悪や日和見感染症でも上昇する。すなわち、これらのマーカーは、DADに特異的ではなく、病型を鑑別するマーカーとしての有用性は低い。また、KL-6、SP-D、およびSP-Aは病状の改善後も長期間高値を示す(非特許文献4, 5)という問題があることから、新たなバイオマーカーが必要とされている。これまでに、UBE2T、HK1、PMSE1、USO1、IFI16、GLTPなどのタンパク質や(特許文献1)、自己抗体(特許文献2)などがマーカー候補として提案、特許申請されているものの、薬剤性微小機能性RNAの一つであるmicroRNA(miRNA)が薬剤性間質性肺炎のバイオマーカーのなりうることを示す報告はこれまでになされていない。
薬剤性肺障害の診断・治療の手引き 日本呼吸器学会 急性間質性肺炎Acute interstitial pneumonia (AIP) 日呼吸会誌 42(1), -23-27, 2004 楠本昌彦 薬剤性肺障害のCT診断 肺癌 55,807-809.2015 Ishikawa N, et al., Utility of KL-6/MUC1 in the clinical management of interstitial lung diseases, Respiratory Investig. 50, 3-13, 2012 Kawase S, et al., Change in serum KL-6 level from baseline is useful for predicting life-threatening EGFR-TKIs induced interstitial lung disease, Respiratory Research, 12:97, 2011
特開2015-90323公報 国際公開WO2014/148429パンフレット
本発明は、DAD型薬剤性間質性肺炎の診断、病勢、およびその病型を診断、予測するためのmiRNAバイオマーカーの開発を行うことを目的とする。
752種のmiRNAに対するLNA-enhanced Probe/Primersを用いたmiRCURY LNA microRNA PCR法にて、薬剤性間質性肺炎患者の血清試料を対象にmiRNAの網羅的発現解析を行った。本研究では種々の薬剤性間質性肺炎病型のうち、治療応答性かつ臨床予後が悪いびまん性肺胞傷害(DAD)に焦点を当て、miRCURY LNA microRNA PCRで算出される補正サイクル値(ΔCq値)から、健常成人や回復期群に対して当該疾患の急性期で大きく変動するmiRNAを、Fold change値と効果量(Hedge’s g値)を指標に探索した。その結果、測定した752種のmiRNAの中から、DADの急性期に有意な発現低下を示すmiRNAを3種類(has-miR-150-5p, has-miR-10a-5p, has-miR-340-5p)同定した。
DADで発現変動が認められた3種のmiRNAについて、ROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve) 解析の結果、DAD患者と健常成人を高い精度(area under the ROC curve: AUROC 0 .85以上)で鑑別した。また、これらmiRNAの病勢診断における診断能についても、既存マーカーであるKL-6 (AUROC 0.74)より高く, SP-D (0.90)と同程度であり、これら3種のmiRNAを組み合わせた診断モデルは健常成人並びにDAD回復期症例に対し、既存マーカーより高い診断能(AUROC 0.98以上)を示した。
DADで発現変動が認められた3種のmiRNAについて、Taqman Advanced miRNA Assay法を用いて、その診断能について検証したところ、いずれのmiRNAも健常成人に対して有意な診断能を示した。また、miRCURY LNA microRNA PCR法で得られた結果と同様に、3種のmiRNAを組み合わせることにより、既存マーカーであるKL-6やSP-Dと比べて高いAUROC (0.96)でDADの急性期と回復期症例を識別することができた。さらに、SP-Dと上記3種のmiRNAsを組み合わせることで、感度・特異度100%(AUROC 1.0)でDADの病勢診断を行うことができることが認められた。加えて、3種miRNAsの組み合わせによる診断モデルはDADとその他薬剤性間質性肺炎の病型であるOP(AUROC 0.93)及びNSIP(AUROC 0.88)を、既存マーカーより高い精度で識別可能であった。
has-miR-150-5p, has-miR-10a-5p, has-miR-340-5pの組み合わせ診断モデルを用いてDADと非薬剤性間質性肺炎の肺疾患との診断能を評価したところ、細菌感染症以外(AUROC 0.77)の肺疾患すべてに対して高い診断能が認められた(AUROC > 0.87)。また、本miRNAモデルにSP-Dを加えることで、細菌感染症を含むすべての対照肺疾患に対して高い診断能が認められた(AUROC > 0.89)。以上より、has-miR-150-5p, has-miR-10a-5p, has-miR-340-5p、あるいはそれらの組み合わせによるmiRNA診断モデルが、DAD型薬剤性間質性肺炎の特異的診断に有用なバイオマーカーとなりうることが示された。
本発明は、これらの知見に基づいて、完成されたものであり、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、被験者由来の試料における遺伝子発現を測定することを含む、DADの検査方法。
(2)発現を測定するmiRNAが、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAであり、測定値がDADの病勢診断を補助する(1)記載の方法。
(3)発現を測定するmiRNAが、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAであり、測定値がDADの特異的診断を補助する(1)記載の方法。
(4)発現を測定するmiRNAが、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5、hsa-miR-150-5pの組み合わせである(2)記載の方法。
(5)発現を測定するmiRNAが、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5、hsa-miR-150-5pの組み合わせである(3)記載の方法。
(6)hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5、hsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、被験者由来の試料における遺伝子発現を測定することができる試薬を含む、DADの検査のためのキット。
本発明により見いだされたmiRNAの発現量を、単独、あるいは複数項目を測定することにより、薬剤性間質性肺炎疑いの患者がびまん性肺胞傷害なのか否か、また患者の病勢や間質性肺炎の活動性について、高い精度で診断することができる。
薬剤性間質性肺炎患者と健常成人並びに回復期との間におけるバイオマーカー候補miRNAの発現量の比較。びまん性障害において特に顕著な発現変動を示す3種類のmiRNAについて、各薬剤性間質性肺炎病型の急性期と、健常成人(A)、回復期(B)におけるmiRCURY LNA microRNA PCR測定で得られるΔCq値をドットプロットにより比較した。各群の中心線はΔCq値の平均値を示す。なお、ΔCq値は標的miRNAの内標遺伝子に対する相対発現量を表しており、本値が大きいほど発現量が低いことを意味する。**, p < 0.01; ***, p < 0.001; ****, p < 0.0001; ns, not significant in One-way ANOVA and post-hoc Sidak’s test。A-DAD, DAD型薬剤性間質性肺炎急性期症例(n=9); A-OP, OP型薬剤性間質性肺炎急性期症例(n=16); A-NSIP, NSIP型薬剤性間質性肺炎急性期症例(n=18); HC, 健常成人(n=72); R-All, 回復期例(n=32)を示す。 3種miRNAの組み合わせによるDAD診断モデルの他の薬剤性間質性肺炎病型に対する診断能の評価。Taqman Advanced miRNA Assay測定で得られたhsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5及びhsa-miR-150-5pのΔCq値を組み合わせ、多重ロジスティック回帰によりDADと回復期症例を識別するための診断モデルを構築した。本モデルに各miRNAのΔCq値を代入することにより得られる値を診断スコアとして用いた。(A) 各病型の薬剤性間質性肺炎急性期症例間におけるmiRNA診断モデル並びに既存バイオマーカーの測定値を比較した。(B)ROC曲線を用いて、各病型の薬剤性間質性肺炎の急性期症例間における診断能を評価した。**, p < 0.01; ***, p < 0.001; ****, p < 0.0001; ns, not significant in One-way ANOVA and post-hoc Sidak’s test。A-DAD, DAD型薬剤性間質性肺炎急性期症例; A-OP, DAD型薬剤性間質性肺炎急性期症例; A-NSIP, NSIP型薬剤性間質性肺炎急性期症例を示す。 DAD型薬剤性間質性肺炎の急性期と対照肺疾患との間における各種バイオマーカー候補miRNAの発現量、並びにDAD診断モデルのスコア値の比較。*, p < 0.05 ; **, p < 0.01; ***, p < 0.001; ****, p < 0.0001; ns, not significant in One-way ANOVA and post-hoc Dunnett’s test。A-DAD, DAD型薬剤性間質性肺炎急性期症例(n=9); C, 同系薬剤投与間質性肺炎非発症例(n=20); D, 肺がん(n=46); E, 細菌感染症(n=14); F, 肺非結核性抗酸菌症(n=17); G, 特発性間質性肺炎(n=22); H, 膠原病肺(n=20); I, 慢性閉塞性肺疾患(n=14); J, 気管支喘息(n=12)を示す.
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明は、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、被験者由来の試料における遺伝子発現を測定することを含む、びまん性肺胞傷害の検査方法を提供する。
びまん性肺胞傷害は、急性で高度の肺胞傷害により出現する肺病変で、CTでは広範な浸潤影やスリガラス様陰影に、牽引性気管支拡張や蜂巣肺などの構造改変所見が認められるのが特徴で、びまん性肺胞傷害を呈する病態としては、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や急性間質性肺炎(AIP)、特発性肺線維症(IPF)をはじめとする慢性間質性肺炎の急性増悪などが挙げられる。本発明の方法において、びまん性肺胞傷害は特発性であっても良いが薬剤性であることがより好ましい。本発明の方法は、びまん性肺胞傷害の診断、例えば、びまん性肺胞傷害の病勢診断や特異的診断を補助することができる。
hsa-miR-10a-5p(miRBase ID: MIMAT0000253)は、精巣上体、消化管、腎臓、膵臓、肺等に発現することが報告されているmiRNAである。本遺伝子は、膵臓がん細胞において抗がん剤の治療抵抗性獲得に寄与することが報告されている(J Exp Clin Cancer Res. 2018 Apr 3;37(1):76.)。加えて、本遺伝子は胃がん細胞において、がんの転移を促進することが明らかとなっている(Oncol Lett. 2017 Mar; 13(3): 1131-1136.)。一方で、脂肪組織中のマクロファージにより産生される本遺伝子は、脂肪組織における炎症の抑制並びに脂肪組織のリモデリングにも関与する(Mol Metab. 2019, 29: 86-98.)。hsa-miR-10a-5pの塩基配列を配列番号1に示す。
hsa-miR-340-5p(miRBase ID: MIMAT0004692)は、中枢神経系、硬膜や筋肉に高く発現するmiRNAであり、肺における発現も確認されている。本miRNAの機能については、これまでに炎症性サイトカインの産生抑制をおこなうことが知られている(Genes Genomics. 2019, 41:713-721.)。また、本遺伝子については、肺がん細胞の成長や転移を抑制することも報告されている(Cell Mol Biol Lett. 2019, 24: 34. Gene. 2019, 683:47-53.)。hsa-miR-340-5pの塩基配列を配列番号2に示す。
hsa-miR-150-5p(miRBase ID: MIMAT0000451)は、肺、膵臓、リンパ節、胸膜等様々な部位に発現するmiRNAであり、がん抑制遺伝子として機能することが種々のがん細胞で報告されている(Mol Ther Nucleic Acids. 2019, 7;16:675-685. Biochem Biophys Res Commun. 2019, 12; 515:85-91. Auris Nasus Larynx. 2018, 45:854-865)。一方で、本分子は線維芽細胞において、炎症性サイトカインの産生や繊維化促進にも関与することが報告されている(Clin Rheumatol. 2019, doi: 10.1007/s10067-019-04894-7.. J Cell Physiol. 2019, doi: 10.1002/jcp.29386.)。 hsa-miR-150-5pの塩基配列を配列番号3に示す。
本発明において、被験者は、びまん性肺胞傷害の発症が疑われる哺乳動物、医薬品による間質性肺炎の発症が疑われる哺乳動物などであるが、発症の危険性が考えられるすべての哺乳動物を対象としてもよい。哺乳動物は、典型的にはヒトである。被験者由来の試料としては、被験者から得た細胞、組織、体液など、具体的には、被験者の血液(例えば、全血、血清、血漿、血漿交換外液など)や気管支肺胞洗浄液などを例示することができる。通常の血液検査(臨床検査)で得られる全血、血清あるいは血漿を血液サンプルとして使用するとよい。
本発明の方法において、被験者由来の試料における発現の測定は、試料中の上記miRNAの存在量を測定すればよい。測定する手段としては、特に限定されることなく公知の方法を用いればよく、ノーザンブロット法、RT-PCR法、リアルタイムPRC法、miRNAマイクロアレイ法、Small RNA Sequencingなどを公知の方法として挙げることができる。
上記miRNAの発現を測定するためには、上記miRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを用いるとよい(ノーザンブロット法で測定する場合)。あるいはまた、上記miRNAを鋳型として合成されるcDNAを特異的に増幅できる少なくとも1対の核酸プライマーを用いてもよい(RT-PCR法で測定する場合)。さらに、上述の核酸プローブとプライマーセットの組み合わせを用いてもよい(リアルタイムPCR法で測定する場合)。核酸プローブ及び核酸プライマーは、上記miRNAの遺伝子情報(上述)に基づいて設計することができる。核酸プローブは、通常、約15~1500塩基のものが適当である。核酸プローブは、放射性元素、蛍光色素、酵素などで標識するとよい。核酸プライマーは、通常、約15~30塩基のものが適当である。核酸プライマーを放射性元素、蛍光色素、酵素などで標識してもよい。
発現を測定するmiRNAは1種類でもよいし、複数種類であってもよい。複数のmiRNA発現データを参照することにより、より正確な評価が可能となりうる。複数のmiRNA発現を同時に検出するためには、マルチプレックスリアルタイムPCR(複数種の蛍光プローブを使用)、DNAアレイ(プローブを基板に固定)(Nat Rev Drug Discov. 2002, 1:951-960)、small RNA Sequencing等の検出法を用いてもよい。
hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、被験者由来の試料における発現を測定し、その発現レベルが低い場合(例えばΔCq値が高い)に、びまん性肺胞傷害を発症している可能性が高いと判定し、前記レベルが高い場合(例えばΔCq値が低い)に、びまん性肺胞傷害を発症している可能性が低いと判定することができる。
よって、本発明の方法は、びまん性肺胞傷害の診断(びまん性肺胞傷害の発症の有無の判定)を補助することができる。
本発明の一つの例として、びまん性肺胞傷害の診断は、以下のような基準で行うことができる。被験者から採取した血清における上記miRNAの少なくとも1種の発現を測定し、発現解析から得られるΔCq値、またはmiRNA組み合わせ診断モデルにΔCq値を代入して得られる診断スコアに対する予め設定されたカットオフ値や基準値よりも低い値(診断スコアの場合は基準値より高値)が得られた場合、被験者はびまん性肺胞傷害を発症していると評価する。この予め設定するカットオフ値は、当業者が適宜設定することができる。例えば、びまん性肺胞傷害を発症していない健常成人の定量値の95%信頼区間を基準値としたり、ROC曲線からカットオフ値を設定したりすることができる。あるいは、過去の測定値と比較して、上記miRNAの少なくとも一つが下降の傾向を辿った場合、びまん性肺胞傷害の発症の可能性を疑う。
本発明の方法は、びまん性肺胞傷害の病勢診断に利用できる。本明細書において、「病勢診断」とは、びまん性肺胞傷害と診断された被験者の、病態の程度や変化(重症度、治療効果等)の判断を意味する。hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、被験者由来の試料における発現レベルが低い場合に、びまん性肺胞傷害の急性期にある可能性が高いと判定することができる。
また、本発明の方法は、びまん性肺胞傷害の特異的診断に利用できる。本明細書において、「特異的診断」とは、被験者が、びまん性肺胞傷害パターンの間質性肺炎なのか否かを判定することを指す。びまん性肺胞傷害は、間質性肺炎の病型の中でも特に重篤な病型であるので、びまん性肺胞傷害の特異的診断に利用できることは、臨床上の意義が大きい。hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、被験者由来の試料における発現レベルが低い場合に、病型がびまん性肺胞傷害である可能性が高いと判定することができる。
本発明の方法をびまん性肺胞傷害の特異的診断に利用する場合には、発現を測定するmiRNAが、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5p、又はそれらの組み合わせであるとよい。組み合わせとしては、hsa-miR-10a-5pとhsa-miR-340-5pの組み合わせ、hsa-miR-10a-5pとhsa-miR-150-5pの組み合わせ、hsa-miR-340-5pとhsa-miR-150-5pの組み合わせ又はhsa-miR-10a-5pとhsa-miR-340-5pとhsa-miR-150-5pの組み合わせを例示することができ、hsa-miR-10a-5pとhsa-miR-340-5pとhsa-miR-150-5pの組み合わせが好ましい。さらに、既存の間質性肺炎マーカーであるKL-6またはSP-Dを組み合わせてもよい。KL-6 (Krebs von den Lungen-6)は、II型肺胞上皮細胞が産生するO-グリコシド結合型糖タンパク質MUC1に存在する糖鎖抗原である。これまでに血清KL-6の測定は、特発性間質性肺炎、過敏性間質性肺炎、薬剤性間質性肺炎を含む、間質性肺炎全般に特異性の高い臨床検査として用いられてきた。SP-D(UniProtKB ID: P35247)は、II型肺胞上皮細胞により産生および分泌される肺サーファクタントタンパク質の一種であり、生体中では肺特異的に発現し、細菌やウイルスに対する生体防御機能に寄与することが知られている。肺で産生されたSP-Dは血液中にも存在することが知られており、血清SP-Dは特発性間質性肺炎、膠原病肺、および過敏性肺炎などの肺疾患で高値を示すことが報告されている。本分子はこれまでに臨床検査において、間質性肺炎の臨床的診断や病勢診断のためのバイオマーカーとして活用されてきた。血清中におけるKL-6並びにSP-Dの発現は、酵素免疫測定法や化学発光酵素免疫測定法等の免疫血清学的検査法により、測定することができる。
さらに、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、びまん性肺胞傷害の急性期にある可能性が高いと判定された被験者由来の試料における発現を1回又は異なる時期に複数回測定し、発現レベルがカットオフ値もしくは基準値に近いレベルにまで上昇した場合に、治療によりびまん性肺胞傷害から回復したと判定し、前記レベルが低いあるいは上昇しない場合に、治療によりびまん性肺胞傷害から回復していない、あるいは、回復が不十分であると判定することができる。本発明の方法は、びまん性肺胞傷害の病勢診断の他、予後の検査、治療効果の確認にも利用できる。
被験者がびまん性肺胞傷害を発症している可能性が高いと判断された場合には、薬剤性が疑われる場合は、被疑薬はすみやかに中止するとよい。次いで、喀痰や血清の感染症検査、画像検査、気管支肺胞洗浄検査や病理検査などの各種検査を組み合わせて行い、びまん性肺胞傷害の診断を確定させるとよい。びまん性肺胞傷害の診断が下された時は、すみやかに副腎皮質ステロイドの投与を開始するとよい。日本呼吸器学会の治療指針では、メチルプレドニゾロン500~1000 mg/日を3日間投与するパルス療法を行い、プレドニゾロン換算で0.5~1.0 mg/kg/日で継続し、漸減することが推奨されている。漸減の速度に一定の基準はなく、治療反応性をみながら減らしていく。ステロイド治療に抵抗性、あるいは難治性の肺障害では、免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムスなど)や好中球エラスターゼ阻害薬(シベレスタット)の投与、ポリミキシンB固定化線維カラム(PMX)療法などを組み合わせた集学的治療を行う。これらの治療は薬剤性肺障害に対するエビデンスに乏しく保険適用もないため、実際にはIPFの急性増悪やARDSに準じて用いられる。呼吸不全に対しては、高流量酸素投与、非侵襲的陽圧換気療法、あるいは気管内挿管下での人工呼吸管理など、重症度に応じた対処を行う。
本発明は、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、被験者由来の試料における発現を測定すること、その測定値に基づき、被験者がびまん性肺胞傷害を発症している可能性が高いと評価された場合には、その被験者に治療を施すことを含む、びまん性肺胞傷害の治療方法も包含する。
本発明は、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、被験者由来の試料における発現を測定することができる試薬を含む、びまん性肺胞傷害の検査のためのキットも提供する。
一つの例として、本発明のキットは、上記miRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを試薬として含む。核酸プローブは基板に固定されていてもよい。キットには、さらに、生体試料を採取するための器具、血液凝固剤、被験者由来の試料からRNAを抽出するための試薬類、RNAを検出するための試薬類、取扱説明書などが含まれてもよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、びまん性肺胞傷害、あるいは急性呼吸窮迫症候群や特発性間質性肺炎の急性増悪症例の評価及び/又は鑑別基準なども記載しておくとよい。
さらに別の一例として、本発明のキットは上記miRNAを鋳型として合成されるcDNAを特異的に増幅できる少なくとも1対の核酸プライマーを試薬として含む。キットには、さらに、被験者由来の試料を採取するための器具、血液凝固剤、被験者由来の試料からRNAを抽出するための試薬類、抽出RNAを逆転写するための試薬、標的cDNAを検出するためのPCR反応試薬、取扱説明書などが含まれるとよい。取扱説明書には、キットの使用方法の他、びまん性肺胞傷害、急性呼吸窮迫症候群や特発性間質性肺炎の急性増悪症例の評価及び/又は鑑別基準なども記載しておくとよい。
本発明のキットには、この他に、標的miRNA発現量の補正用に使用する外部スパイクコントロールのmiRNAの標準品、陽性コントロールmiRNA、バッファー、反応停止液、洗浄液、反応容器などを含めてもよい。
本発明のキットは、さらに、KL-6やSP-Dを特異的に認識できる抗体あるいは核酸アプタマーを含んでもよい。抗体及びアプタマーはマイクロタイタープレートや磁気ビーズ、セルロース膜や基板に固定されていてもよい。あるいは、SP-DのmRNAと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブを含んでもよい。核酸プローブは基板に固定されていてもよい。
本発明のキットは、疾病を診断するための医薬品として用いることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕
(1)検体
解析に用いたヒト間質性肺炎試料については、4箇所の拠点病院(信州大学、日本医科大学、千葉大学、広島大学)、国立医薬品食品衛生研究所、木原財団、アステラス製薬、及び第一三共において、各研究倫理委員会の承認を得て収集・解析した。
医薬品による間質性肺炎の発症が疑われた患者に対して薬剤性間質性肺炎の急性期(最悪期付近)および回復期に採血を上記の拠点病院にて行った。入院時は早朝空腹時に、外来時は随時、採血した。各拠点病院において、患者の同意の下、血清採取用の7 mLの血液凝固促進剤入り採血管を用いて採血を行い、室温で30分放置後、3,000 rpm×10分(15℃~20℃)遠心分離を行った。採取した血清は-80℃にて凍結保存した。
miRCURY LNA microRNA PCRを用いたバイオマーカー候補miRNAsのスクリーニング解析には、画像診断においてびまん性肺胞傷害(DAD)パターンを呈する薬剤性間質性肺炎症例の急性期に採取された血清検体9例、並びに回復期に採取された血清検体3例を供した。一方、器質化肺炎(OP)パターンの症例については、急性期16例、回復期13例、非特異性間質性肺炎(NSIP)パターンの症例は、急性期18例、回復期16例を用いた。健常成人検体としては、ノイエス株式会社にて収集されたボランティア健常成人(72例)の血清検体を用いた。
Taqman Advanced miRNA Assay法を用いたバイオマーカー候補miRNAsの検証試験では、薬剤性間質性肺炎の急性期と診断された血清検体を42例 (DAD型8例、OP型19例、NSIP型15例) ならびにその回復期検体22例 (DAD型2例、OP型9例、NSIP型11例) を供した。また、対照肺疾患として、同系薬剤投与間質性肺炎非発症例(20例)、肺がん(46例)、細菌感染症(14例)、肺非結核性抗酸菌症(17例)、特発性間質性肺炎(22例)、膠原病肺(20例)、慢性閉塞性肺疾患(14例)及び気管支喘息(12例)、並びに健康成人(30例)を測定に供した。
(2)RNA抽出及びcDNA合成
血清検体からのtotal RNA抽出は、miRNeasy(登録商標) Mini Kit (Qiagen)を用いて行った。miRCURY LNA microRNA PCR測定用のcDNAの合成には、Universal cDNA Synthesis Kit II(Qiagen)を使用した。一方、Taqman Advanced miRNA Assay測定用のcDNAの合成には、TaqmanTM Advanced miRNA cDNA synthesis kit (Thermo Fisher Scientific)を用いた。なお、Taqman Advanced miRNA Assayの測定用試料調製では、外因性スパイクコントロールとして、cel-miR-54-3p (0.2 fmol)を各血清試料に添加した後に、total RNA抽出及びcDNA合成を行った。
(3)測定手法並びに補正手法
miRNAの網羅的発現解析には、QUIAGEN社のmiRCURY LNA microRNA PCR システムを用いた。本システムは、Locked Nucleic Acid (RNA修飾核酸)プライマーにより、752種のmiRNAを特異的に検出する測定法である。測定データの解析には、GenExソフトウェア(Multid)を用いて、[1]Interplate calibration(IPC)、[2]Cut off(Cq>37を除外)、[3]Call rate(10%未満を除外)、[4]Missing data(各プローブの最大Cq値+1で非検出検体を補完)、[5]Normfinder Normalizationという手順により、下記の式で定義されるΔCqを算出した。ΔCq値は標的miRNAの内標遺伝子(リファレンスプローブ)に対する相対発現量を表しており、本値が大きいほど発現量が相対的に低いことを意味する。
上記計算式において、kは各検体のリファレンスプローブの総数、GOIは標的miRNA、IPCはプレート間キャリブレータ、mは各プレートに含まれるIPC数、nは全プレートのIPCの全数を表す。CqRefは最もばらつきの小さいレファレンスプローブとしてNormfinderにより選定される。なお、本解析では、hsa-let-7d-3p (miRBase ID; MIMAT0004484, CUAUACGACCUGCUGCCUUUCU(配列番号4)), hsa-miR-21-5p (miRBase ID; MIMAT0000076, UAGCUUAUCAGACUGAUGUUGA(配列番号5)), hsa-miR-30d-5p (miRBase ID; MIMAT0000245, UGUAAACAUCCCCGACUGGAAG(配列番号6)), hsa-miR-30e-5p (miRBase ID; MIMAT0000692, UGUAAACAUCCUUGACUGGAAG(配列番号7)), hsa-652-3p (miRBase ID; MIMAT0022709, CAACCCUAGGAGAGGGUGCCAUUCA(配列番号8)) をリファレンスプローブとして使用した。
一方、選定したバイオマーカー候補miRNA (hsa-miR-10a-5p; MIMAT0000253, UACCCUGUAGAUCCGAAUUUGUG(配列番号1), hsa-miR-150-5p; MIMAT0000451, UCUCCCAACCCUUGUACCAGUG(配列番号3), hsa-miR-340-5p; MIMAT0004692, UUAUAAAGCAAUGAGACUGAUU(配列番号2))の検証試験では、各標的miRNAに特異的なプローブ並びにプライマーを含むTaqman Advanced miRNA Assay(Thermo Fisher Scientific社, hsa-miR-10a-5p; 479241_mir, hsa-miR-150-5p; 477918_mir, hsa-miR-340-5p; 478042_mir, cel-miR-54-3p; 478410_mir)を用いた。本測定における各miRNAの発現量(ΔCq値)は、Cq(標的miRNA)からCq(外部スパイクコントロール;cel-miR-54-3p)を差し引くことにより求めた。なお、miRCURY LNA microRNA PCR システムの解析と同様、算出されたΔCq値が大きいほど、標的miRNAの発現量が相対的に低いことを表す。
(4)DAD型薬剤性間質性肺炎バイオマーカー候補miRNAの選定
miRCURY LNA microRNA PCR測定データにおける各miRNAのΔCq値を用いて、DAD(9例)と回復期(32例)で、効果量Hedge’s gの値が1.0以上かつFold change値が2倍以上の変動を示すmiRNAのうち、最も発現変動が大きい3種のmiRNA(hsa-miR-340-5p, hsa-miR-10a-5p, has-miR-150-5p)を抽出した。抽出したmiRNAについて、各薬剤性間質性肺炎の病型と健常成人(図1A)または回復期(図1B)の間の発現量を比較したところ、いずれのmiRNAもDADの急性期において最も顕著な発現変動を示すことが明らかとなった(図1)。
(5)びまん性肺胞傷害に特異的なバイオマーカー候補miRNAの診断能
表1では、スクリーニングデータセットを用いて各病型の薬剤性間質性肺炎の急性期と正常成人並びに回復期の間における、3種類のDADマーカー候補miRNA並びに既存間質性肺炎マーカー(KL-6, SP-D)のROC曲線下面積値(AUROC)を示している。いずれのmiRNAも健常成人と比べた際に、DADの急性期においてAUROC値が0.85以上の高い診断能を示した(表1)。一方、これらmiRNAの回復期例に対する病勢診断能についてROC解析したところ、健常成人と同様に、いずれのmiRNAもDADの急性期において最も高い診断能を示した(表1)。また、本解析で算出されたDADと回復期との間における各miRNA単体の診断能は、KL6(0.74)とSP-D(0.90)と同程度(AUROC 079-0.87)であった。これらの結果は、上記3種miRNAがDADの検出及び病勢診断に有用なバイオマーカーとなることを示唆している。
複数のバイオマーカー候補miRNAを組み合わせることで、診断精度の向上が期待される。そこで次に、DADの急性期および回復期の間における各miRNAのΔCq値を用いて多重ロジスティック回帰によりDAD病勢診断のための診断モデル[診断スコア=2.13554372×ΔCq(hsa-miR-10a-5p)+2.73022292×ΔCq(hsa-miR-340-5p)+0.75374455 ΔCq(hsa-miR-150-5p)-28.655941]を作製した。作製した診断モデルにより求められる診断スコアを用いて、各病型の急性期と健常成人のAUROCを解析したところ、DADにおいてAUROC 0.98以上の極めて高い診断能が認められた(表1)。また、本モデルによるOP及びNSIP病勢診断能がAUROC0.7以下であったことは、スクリーニングにて同定されたバイオマーカー候補miRNAの組み合わせにより、DADの病勢を特異的に、かつ高い確度で診断できることを示している。
(6)びまん性肺胞傷害マーカー候補miRNAのバイオマーカー性能の検証
薬剤性間質性肺炎に対するmiCURRY LNA microRNA PCRを用いた上記の試験結果が、測定手法に依存せず普遍的であることを示すため、別群の薬剤性間質性肺炎ならびに対照肺疾患試料中におけるhsa-miR-340-5p, hsa-miR-10a-5p及び has-miR-150-5pの発現量(ΔCq値)をTaqman Advanced miRNA Assayにより測定した。まず各病型の薬剤性間質性肺炎症例と健常成人をROC曲線により解析したところ、いずれのmiRNAについてもOPやNSIPと比べ、DADの急性期において有意な診断能が認められた(表2)。次に、病勢診断能について解析したところ、DAD症例においてhsa-miR-10a-5p及びhsa-miR-150-5pは既存間質性肺炎マーカーであるSP-Dと同定度の診断能を示した(表3)。次に、Taqman assayの測定データに基づき、DADの急性期および回復期間における各miRNAのΔCq値を用いて多重ロジスティック回帰によりDAD病勢診断のための診断モデル[診断スコア=4.21381729×ΔCq(hsa-miR-10a-5p)-4.6569967×ΔCq(hsa-miR-340-5p)+1.58717808×ΔCq(hsa-miR-150-5p)-28.451547]を作製した。本モデルから得られる診断スコアをもとに、DADと健常成人ならびに回復期との比較をしたところ、それぞれAUROC値0.97(vs. 健常成人、表2)及び0.96(vs. 回復期、表3)で、互いを識別できることが示された。さらに、3種miRNAとSP-Dの組み合わせによる診断モデルでは、AUROC 1.0 (感度・特異度100%)でDADの病勢を診断することが可能であった(表3)。一方、病勢診断において、3種miRNAにKL-6を追加した診断モデルではAUROCの上昇は認められなかった。
(7)miRNA組み合わせDAD診断モデルによる薬剤性間質性肺炎の病型診断の有用性
図2Aは、3種のバイオマーカー候補miRNAを組み合わせたDAD診断モデル、並びに既存マーカーの各病型の薬剤性間質性肺炎の急性期における定量値を比較した結果である。3種miRNAを組み合わせたDAD診断モデルでは、OPおよびNSIPと比べ、DADの急性期において有意に高い診断スコアが観察された(図2A)。しかしながら、各薬剤性間質性肺炎の病型間でKL-6及びSP-Dの定量値に差異は認められなかった(図2A)。
DAD診断モデルから得られる診断スコアを用いて、DADのOP及びNSIPに対する診断能(AUROC)を解析したところ、OPで0.93、NSIPで0.88と既存マーカーより高値を示した(図2B)。このことから、本診断モデルは、薬剤性間質性肺炎患者からDADを特異的に検出することにも応用可能であることが示された。
(8)びまん性肺胞傷害マーカー候補miRNAによる対照肺疾患との鑑別
DAD及び対照肺疾患症例における、DADマーカー候補miRNA単体の血清中発現量、及びそれらを元にDAD診断モデルから算出された診断スコアをプロットし、統計的に比較した(図3)。その結果、hsa-miR-340-5pついて、DADと細菌性感染症患者との間で有意なレベル差が認められた(図3)。また、miR-10a-5pについては、同系薬剤投与間質性肺炎非発症例、肺がん、膠原病肺、及び気管支喘息との間で統計学上有意なレベル差が認められた(図3)。さらに、miR-150-5pについては、同系薬剤投与間質性肺炎非発症例、肺非結核性抗酸菌症、特発性間質性肺炎、膠原病肺、気管支喘息との間で有意なレベル差が認められた(図3)。一方、DAD症例におけるDAD診断モデルの診断スコアは細菌感染症以外のすべての対照肺疾患と比べ有意に高かった(図3)。
次に、DADとそれ以外の肺疾患との診断能の評価を行った(表4)。既存間質性肺炎マーカーであるSP-Dは、ほとんどの対照肺疾患と良好な診断能を示すものの、DADと特発性間質性肺炎(AUROC 0.55)及び膠原病肺(AUROC 0.74)の識別が不良であることが明らかとなった。既存マーカーであるKL-6についても同様の傾向が確認できたが、各種肺疾患とDADの診断能はSP-Dより劣っていた。一方で、今回同定されたmiRNAのうち、DADとのAUROC値が0.8を超えた肺疾患は、hsa-miR-340-5pが1種、hsa-miR-10a-5pが4種、hsa-miR-150-5pが4種であった(表4)。特に、hsa-miR-10a-5p及びhsa-miR-150-5pは既存マーカーが識別不良となる膠原病肺に対し、高い診断能を示した(表4)。また、hsa-miR-150-5pは特発性間質性肺炎に対しても、有意な診断能(0.78)を示した。さらに、これらmiRNAを組み合わせたDAD診断モデルは、細菌感染症以外すべての対照肺疾患で、0.85を超える高い診断能を示した(表4)。
3種miRNAと既存マーカーとの組み合わせによる対照肺疾患との鑑別度の向上にむけて、本DAD診断モデルにKL-6またはSP-Dを加えた際の診断能について解析を行った。その結果、KL-6と3種miRNAの組み合わせでは、3種miRNAによるDAD診断モデルの診断能を大きく向上させることはできなかったものの、KL-6単独では診断困難であった特発性間質性肺炎や膠原病肺との鑑別において高い診断能を示した(表4)。一方、本DAD診断モデルにSP-Dを加えた場合は、DADとすべての対照肺疾患を極めて良好に鑑別可能であることが明らかとなった(表4)。以上の結果より、本研究により同定したmiRNAsは、単体あるいは組み合わせることで、DADを特異的に検出することが可能で、かつ既存マーカー単体では識別困難である肺疾患との鑑別を補助できる新たなDADバイオマーカー分子である。
表1.スクリーニングデータセットにおけるびまん性肺胞傷害バイオマーカー候補miRNAの診断能
miRCURY LNA microRNA PCRにて同定された3種のDADマーカー候補miRNA並びに既存の間質性肺炎マーカー(KL-6, SP-D)について、正常成人や回復期例との診断を比較するためのROC曲線解析を行い、算出されたAUROC値を示した。薬剤性間質性肺炎の病型で、A-DADはびまん性肺胞傷害の急性期症例、A-OPは器質化肺炎の急性期症例、A-NSIPは非特異性間質性肺炎の急性期症例を表している。
表2.検証試験データセットにおける健常成人と薬剤性間質性肺炎患者の診断能
Taqman Advanced miRNA assay測定を行った3種のDADマーカー候補miRNAおよびその組み合わせによるDAD診断モデルについて、正常成人との診断を比較するためのROC曲線解析を行い、算出されたAUROC値を示した。薬剤性間質性肺炎の病型で、A-DADはびまん性肺胞傷害の急性期症例、A-OPは器質化肺炎の急性期症例、A-NSIPは非特異性間質性肺炎の急性期症例を表している。
表3.検証試験データセットにおけるびまん性肺胞傷害バイオマーカー候補miRNAの病勢診断能
Taqman Advanced miRNA assay測定を行った3種のDADマーカー候補miRNA、既存の間質性肺炎マーカー(KL-6, SP-D)、それら組み合わせによるDAD診断モデルの病勢診断能についてROC曲線解析を行い、算出されたAUROC値を示した。薬剤性間質性肺炎の病型で、A-DADはびまん性肺胞傷害の急性期症例、A-OPは器質化肺炎の急性期症例、A-NSIPは非特異性間質性肺炎の急性期症例を表している。
表4.対照肺疾患に対するびまん性肺胞傷害マーカー候補miRNAの診断能の評価
DADマーカー候補miRNA、SP-D、KL-6並びにそれらの組み合わせによるDAD診断モデルを用いて、DADと対照肺疾患の診断能についてROC曲線解析を行い、算出されたAUROC値を記載した。

本発明は、体外診断薬、臨床検査などに利用できる。
<配列番号1>
hsa-miR-10a-5pの塩基配列を示す。
<配列番号2>
hsa-miR-340-5pの塩基配列を示す。
<配列番号3>
hsa-miR-150-5pの塩基配列を示す。
<配列番号4>
hsa-let-7d-3pの塩基配列を示す。
<配列番号5>
hsa-miR-21-5pの塩基配列を示す。
<配列番号6>
hsa-miR-30d-5pの塩基配列を示す。
<配列番号7>
hsa-miR-30e-5pの塩基配列を示す。
<配列番号8>
hsa-652-3pの塩基配列を示す。

Claims (6)

  1. hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、被験者由来の試料における遺伝子発現を測定することを含む、びまん性肺胞障害の診断を補助する方法。
  2. 発現を測定するmiRNAが、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAであり、測定値がびまん性肺胞傷害の病勢診断を補助する請求項1記載の方法。
  3. 発現を測定するmiRNAが、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p及びhsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAであり、測定値がびまん性肺胞傷害の特異的診断を補助する請求項1記載の方法。
  4. 発現を測定するmiRNAが、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p、hsa-miR-150-5pの組み合わせである請求項2記載の方法。
  5. 発現を測定するmiRNAが、hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p、hsa-miR-150-5pの組み合わせである請求項3記載の方法。
  6. hsa-miR-10a-5p、hsa-miR-340-5p、hsa-miR-150-5pからなる群より選択される少なくとも1種のmiRNAについて、被験者由来の試料における遺伝子発現を測定することができる試薬を含む、びまん性肺胞傷害の検査のためのキットであって、前記試薬が下記の(i)及び/又は(ii)である前記キット
    (i) hsa-miR-10a-5pと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブ、hsa-miR-340-5pと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブ、hsa-miR-150-5pと特異的にハイブリダイズできる核酸プローブからなる群より選択される少なくとも1種の核酸プローブ
    (ii) hsa-miR-10a-5pを鋳型として合成されるcDNAを特異的に増幅できる少なくとも1対の核酸プライマー、hsa-miR-340-5pを鋳型として合成されるcDNAを特異的に増幅できる少なくとも1対の核酸プライマー、hsa-miR-150-5pを鋳型として合成されるcDNAを特異的に増幅できる少なくとも1対の核酸プライマーからなる群より選択される少なくとも1対の核酸プライマー
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