JP7387470B2 - 樹脂組成物、キット、成形品の製造方法および成形品 - Google Patents

樹脂組成物、キット、成形品の製造方法および成形品 Download PDF

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Description

本発明は、樹脂組成物、キット、成形品の製造方法および成形品に関する。特に、レーザー溶着用に適した樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いたキット、成形品の製造方法および成形品に関する。本発明の樹脂組成物は、レーザー溶着用の光を透過する側の樹脂組成物(光透過性樹脂組成物)として主として用いられる。
代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリアミド樹脂は、加工が容易であり、さらに、機械物性、電気特性、耐熱性、その他の物理的・化学的特性に優れている。このため、車両部品、電気・電子機器部品、その他の精密機器部品等に幅広く使用されている。最近では形状の複雑な部品もポリアミド樹脂で製造されるようになって来ており、例えば、インテークマニホールドのような中空部を有する部品などの接着には、各種溶着技術、具体的には、接着剤溶着、振動溶着、超音波溶着、熱板溶着、射出溶着、レーザー溶着技術などが使用されている。
しかしながら、接着剤による溶着は、硬化するまでの時間的ロスに加え、周囲の汚染などの環境負荷の問題がある。超音波溶着、熱板溶着などは、振動、熱による製品へのダメージや、摩耗粉やバリの発生により後処理が必要になるなどの問題が指摘されている。また、射出溶着は、特殊な金型や成形機が必要である場合が多く、さらに、材料の流動性が良くないと使用できないなどの問題がある。
一方、レーザー溶着は、レーザー光に対して透過性(非吸収性、弱吸収性とも言う)を有する樹脂部材(以下、「透過樹脂部材」ということがある)と、レーザー光に対して吸収性を有する樹脂部材(以下、「吸収樹脂部材」ということがある)とを接触し溶着して、両樹脂部材を接合させる方法である。具体的には、透過樹脂部材側からレーザー光を接合面に照射して、接合面を形成する吸収樹脂部材をレーザー光のエネルギーで溶融させ接合する方法である。レーザー溶着は、摩耗粉やバリの発生が無く、製品へのダメージも少なく、さらに、ポリアミド樹脂自体、レーザー透過率が比較的高い材料であることから、ポリアミド樹脂製品のレーザー溶着技術による加工が、最近注目されている。
上記透過樹脂部材は、通常、光透過性樹脂組成物を成形して得られる。このような光透過性樹脂組成物として、特許文献1には、(A)ポリアミド樹脂100質量部に対し、(B)23℃の屈折率が、1.560~1.600である強化充填材1~150質量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物であって、前記(A)ポリアミド樹脂の少なくとも1種を構成する、少なくとも1種のモノマーが芳香環を含有することを特徴とする、レーザー溶着用ポリアミド樹脂組成物が記載されている。特許文献1の実施例では、ポリアミドMXD6とポリアミド66とのブレンド物、または、ポリアミド6I/6Tとポリアミド6とのブレンド物に、ガラス繊維と、着色剤を配合した樹脂組成物が開示されている。
特開2008-308526号公報
ここで、レーザー溶着用光透過性色素をポリアミド樹脂に配合して透過樹脂部材を形成し、吸収樹脂部材をレーザー溶着すると、レーザー溶着用光透過性色素が透過樹脂部材から他部材(例えば、吸収樹脂部材)へ移動してしまう場合があることが分かった。特に、高温高湿下ではその傾向が顕著である場合があることが分かった。
そこで、本発明者が、レーザー溶着用光透過性色素の移動が起こりにくい色素の検討を行い、クロム錯体色素を見出した。
しかしながら、ポリアミド樹脂にクロム錯体色素を配合し、さらに、離型剤を配合すると、射出成形等の金型を用いる成形方法において、金型の表面温度によって、得られる成形品のレーザーの光線透過率に差が出る場合があることが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、レーザー溶着用光透過性色素の他部材への移動が起こりにくい樹脂組成物であって、射出成形等の金型を用いる成形方法において、金型の表面温度によって、得られる成形品の光線透過率に差が出にくい樹脂組成物を提供することを目的とする。さらに、前記樹脂組成物を用いたキット、成形品の製造方法および成形品を提供することを目的とする。
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリアミド樹脂に、クロム錯体色素と、離型剤と共に、窒化ホウ素を配合することにより、上記課題は解決されることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂と、窒化ホウ素0.1~2.0質量%と、クロム錯体色素0.01~0.5質量%と、離型剤とを含む、樹脂組成物。
<2>前記離型剤が、脂肪酸金属塩を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記離型剤が、モンタン酸金属塩を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<4>前記キシリレンジアミンがパラキシリレンジアミンを含み、前記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸がセバシン酸を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>さらに、ガラス繊維を20~60質量%含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6><1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む、光吸収性樹脂組成物とを有するキット。
<7><1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む、光吸収性樹脂組成物から形成された成形品を、レーザー溶着させることを含む、成形品の製造方法。
<8><1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物、または、<6>に記載のキットを成形してなる成形品。
<A>上記いずれかの樹脂組成物であって、核剤(好ましくは、タルク)を含む、樹脂組成物。
<B>上記いずれかの樹脂組成物であって、銅化合物(好ましくは、ハロゲン化銅)を含む、樹脂組成物。
<C>上記いずれかの樹脂組成物であって、ハロゲン化アルカリ金属を含む、樹脂組成物。
<D>上記いずれかの樹脂組成物であって、前記離型剤の含有量が0.05~3質量%である、樹脂組成物。
<E>上記いずれかの樹脂組成物であって、車載カメラモジュール用である、樹脂組成物。
<F>上記いずれかの樹脂組成物であって、前記ポリアミド樹脂と、窒化ホウ素と、クロム錯体色素と、離型剤と、選択的に含まれる、ガラス繊維と、核剤と、銅化合物と、ハロゲン化アルカリ金属の合計が樹脂組成物の99質量%以上を占める樹脂組成物。
<F>上記いずれかの樹脂組成物から形成された射出成形品。
本発明により、レーザー溶着用光透過性色素の他部材への移動が起こりにくい樹脂組成物であって、射出成形等の金型を用いる成形方法において、金型の表面温度によって得られる成形品の光線透過率に差が出にくい樹脂組成物を提供可能になった。さらに、前記樹脂組成物を用いたキット、成形品の製造方法および成形品を提供可能になった。
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定したポリスチレン換算値である。
本発明の樹脂組成物は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂と、窒化ホウ素0.1~2.0質量%と、クロム錯体色素0.01~0.5質量%と、離型剤とを含むことを特徴とする。
このような構成とすることにより、レーザー溶着用光透過性色素の移動が起こりにくい樹脂組成物であって、射出成形をする場合の金型の表面温度によって、光線透過率に差が出にくい樹脂組成物が得られる。
この理由は、以下の通りであると推定される。レーザー溶着では、透過樹脂部材と吸収樹脂部材とを、レーザー溶着することにより、両者を溶着させている。ここで、透過樹脂部材と吸収樹脂部材とをレーザー溶着した後、透過樹脂部材中の光透過性色素が吸収樹脂部材に移動してしまうことがある。そこで、本発明者は、光透過性色素を広く検討し、クロム錯体色素が、他の色素と比較して、他部材への色素の移動を抑制できることを見出した。一方、クロム錯体色素を配合する量が増えると、射出成形時の金型の表面の温度によって、得られる成形品の透過率が異なる傾向が顕著であることが分かった。特に、高温高湿処理後の成形品の透過率が異なる傾向が顕著であることが分かった。金型温度によって、透過率が異なると、レーザー溶着の際に透過率の低い成形品は、溶着不足となり、車載カメラモジュールの気密性試験などで不適合となる可能性があるという点で問題がある。本発明者がさらに検討を行ったところ、クロム錯体色素と共に、離型剤を配合していることが、金型温度による透過率の差に影響を与えていると推測された。すなわち、クロム錯体色素を配合すると、ポリアミド樹脂の硬化速度が変化し、それに伴い、成形品の表面に移動する離型剤の量も変動し、得られる成形品の透過率が異なると推測された。
かかる状況のもと、本発明では、窒化ホウ素を配合することによって、色素の他部材への移動を抑制しつつ、金型温度が違っていても、得られる成形品の透過率の差が小さい成形品を提供可能になったと推測された。
以下、本発明の樹脂組成物の詳細について説明する。
<キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂>
本発明の樹脂組成物は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂(以下、「キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」ということがある)を含む。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が有するジアミン由来の構成単位は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。
キシリレンジアミンは、メタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも1種を含むことが好ましく、少なくとも、パラキシリレンジアミンを含むことがより好ましい。
本発明におけるキシリレンジアミンの好ましい実施形態は、10~90モル%のメタキシリレンジアミンと90~10モル%のパラキシリレンジアミンを含む形態であり(ただし、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が100モル%を超えることはなく、合計が100モル%であることが好ましい、以下同じ)、20~80モル%のメタキシリレンジアミンと80~20モル%のパラキシリレンジアミンを含む形態がより好ましく、40~20モル%のパラキシリレンジアミンと60~80モル%のメタキシリレンジアミンを含む形態がさらに好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が有するジカルボン酸由来の構成単位は、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸は、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸、エイコジオン酸などが好適に使用でき、アジピン酸およびセバシン酸がより好ましく、セバシン酸がさらに好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸類の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
本発明に用いられるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本発明では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、99質量%以上を占めることがさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を樹脂組成物の20~75質量%の割合で含むことが好ましい。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、樹脂組成物の40質量%以上の割合で含むことがより好ましく、45質量%以上の割合で含むことがさらに好ましく、50質量%以上の割合で含むことが一層好ましく、55質量%以上の割合で含むことがより一層好ましく、60質量%以上の割合で含むことがさらに一層好ましい。また、75質量%以下の割合で含むことがより好ましく、73質量%以下の割合で含むことがさらに好ましく、70質量%以下の割合で含むことが一層好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
<他の樹脂成分>
本発明の樹脂組成物は、上記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外の樹脂成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
他の樹脂としては、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、さらには、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等が例示される。
ポリアミド樹脂としては、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合、ジアミンとジカルボン酸の重縮合により得られる酸アミドを構成単位の少なくとも1種を含む高分子であり、具体的には、ポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6I、6/66、6T/6I、6/6T、66/6T、66/6T/6I、9T、ポリアミドXD6、ポリアミドXD10、ポリアミドXD12、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド等が挙げられる。なお、上記「I」はイソフタル酸成分、「T」はテレフタル酸成分、「XD」はキシリレンジアミン成分を示す。
また、本発明の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂を実質的に含まない構成とすることが好ましい。実質的に含まないとは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂の含有量が、樹脂組成物の4質量%以下であることをいい、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下、さらには0質量%であってもよい。
さらに、本発明の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外の他の樹脂成分を実質的に含まないことも好ましい。実質的に含まないとは、他の樹脂成分の含有量が、樹脂組成物の4質量%以下であることをいい、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下、さらには0質量%であってもよい。
<窒化ホウ素>
本発明の樹脂組成物は、窒化ホウ素を樹脂組成物中に0.1~2.0質量%の割合で含む。
このような構成とすることにより、クロム錯体色素の移動を起こりにくくし、かつ、射出成形をする場合の金型の表面温度によって、光線透過率の値に差を出にくくすることができる。
窒化ホウ素の形態は、六方晶系であっても、立方晶系であってもよいが、六方晶系が好ましい。また、窒化ホウ素の形態は、粉状の状態であることが一般的である。
窒化ホウ素の含有量は、樹脂組成物中、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.7質量%以上であることがさらに好ましく、0.9質量%以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、透過率の金型温度依存性がより少なくなる傾向にある。また、窒化ホウ素の含有量は、樹脂組成物中、1.8質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましく、1.3質量%以下であることがさらに好ましく、1.1質量%以下であることが一層好まししい。前記上限値以下とすることにより、よりレーザー溶着性に優れる傾向にある。
窒化ホウ素は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
<クロム錯体色素>
本発明の樹脂組成物は、クロム錯体色素を樹脂組成物中に0.01~0.5質量%の割合で含む。
クロム錯体色素を用いることにより、高温高湿下に置いた場合も、透過樹脂部材に含まれるクロム錯体色素が、吸収樹脂部材へ移動してしまうのを効果的に抑制することができる。本発明におけるクロム錯体色素は、クロム錯体染料である場合に、その効果が顕著である。
クロム錯体とは、クロム原子を核とし、配位子を持つ化合物であり、3価のクロム原子を核として6個の配位子を持つ化合物であることが好ましい。
また、クロム錯体色素とは、クロム錯体であって、人の目で見たときに有色であり、かつ、レーザー溶着のためのレーザーを一定割合以上透過させる色素をいう。本発明で好ましく用いられるクロム錯体色素の一例として、後述する実施例に記載のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂(MP10)100質量部に対し、クロム錯体色素を0.07質量部配合し、押出機の設定温度280℃で溶融混練したペレットを用いて、後述する実施例に記載の方法で測定した波長1070mmにおける光線透過率が10%以上となるクロム錯体が挙げられる。このときの金型温度は110℃である。
より具体的には、特表2019-508554号に記載のクロム錯体が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
クロム錯体色素の含有量は、樹脂組成物中、0.02質量%以上であることが好ましく、0.04質量%以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、目視上、より黒色に見えやすくなる傾向にある。また、クロム錯体色素の含有量は、樹脂組成物中、0.4質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.25質量%以下であることがさらに好ましく、0.2質量%以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、高温試験、湿熱試験処理時の移染をより効果的に抑制される傾向にある。
クロム錯体色素は、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、本発明の樹脂組成物は、光吸収性色素、例えば、カーボンブラックを実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、例えば、樹脂組成物の0.0001質量%以下であることをいう。
<離型剤>
本発明の樹脂組成物は、離型剤を含む。
離型剤を含むことにより、射出成形等の金型を用いて成形する場合に、金型からの離型性を向上させることができる。
離型剤は、アミド系ワックスおよび脂肪酸金属塩から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、脂肪酸金属塩を含むことがより好ましい。
アミド系ワックスとしては、カルボン酸アミド系ワックスやビスアミド系ワックスが例示され、カルボン酸アミド系ワックスが好ましい。
カルボン酸アミド系ワックスは、例えば、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミン化合物との脱水反応によって得られる。高級脂肪族モノカルボン酸としては、炭素原子数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸が好ましく、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12-ヒドロキシステアリン酸などが挙げられる。多塩基酸としては、二塩基酸以上のカルボン酸で、例えば、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、および、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
ジアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
本発明におけるカルボン酸アミド系ワックスは、その製造に使用する高級脂肪族モノカルボン酸に対して、多塩基酸の混合割合を変えることにより、軟化点を任意に調整することができる。多塩基酸の混合割合は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対して、0.18~1モルの範囲が好適である。また、ジアミン化合物の使用量は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対して1.5~2モルの範囲が好適であり、使用する多塩基酸の量に従って変化する。
ビスアミド系ワックスとしては、例えば、N,N'-メチレンビスステアリン酸アミドおよびN,N'-エチレンビスステアリン酸アミドのようなジアミン化合物と脂肪酸の化合物、または、N,N'-ジオクタデシルテレフタル酸アミド等のジオクタデシル二塩基酸アミドを挙げることができる。
脂肪酸金属塩としては、炭素原子数16~36の長鎖脂肪酸の金属塩が好ましく、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム等のステアリン酸金属塩、および、モンタン酸カルシウム、モンタン酸ナトリウム等のモンタン酸金属塩が挙げられ、モンタン酸金属塩が好ましい。
離型剤としては、上記の他、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、ケトンワックスなども例示される。
離型剤の詳細は、特開2018-095706号公報の段落0055~0061の記載、特開2019-108526号公報の段落0022~0027の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本発明の樹脂組成物における離型剤の含有量は、樹脂組成物中、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、離型性がより向上する傾向にある。また、前記離型剤の含有量は、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.8質量%以下であることが一層好ましく、0.6質量%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、金型温度による透過率の差をより小さくできる傾向にある。
本発明の樹脂組成物は、離型剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
<ガラス繊維>
本発明の樹脂組成物は、ガラス繊維を含むことが好ましい。
ガラス繊維を含むことにより、機械的強度に優れた樹脂組成物が得られる。
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス、Rガラス、Sガラスなどのガラス組成からなり、特に、Eガラス(無アルカリガラス)が好ましい。
本発明の樹脂組成物に用いるガラス繊維は、単繊維または単繊維を複数本撚り合わせたものであってもよい。
ガラス繊維の形態は、単繊維や複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取った「ガラスロービング」、カット長(数平均繊維長)が1~10mmである「チョップドストランド」、粉砕長さ(数平均繊維長)が10~500μmである「ミルドファイバー」などのいずれであってもよい。かかるガラス繊維としては、旭ファイバーグラス社より、「グラスロンチョップドストランド」や「グラスロンミルドファイバー」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。ガラス繊維は、形態が異なるものを併用することもできる。
また、本発明ではガラス繊維として、異形断面形状を有するものも好ましい。この異形断面形状とは、繊維の長さ方向に直角な断面の長径をD2、短径をD1とするときの長径/短径比(D2/D1)で示される扁平率が、例えば、1.5~10であり、中でも2.5~10、さらには2.5~8、特に2.5~5であることが好ましい。かかる扁平ガラスについては、特開2011-195820号公報の段落0065~0072の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
本発明におけるガラス繊維は、ガラスビーズやガラスフレークであってもよい。ガラスビーズとは、外径10~100μmの球状のものであり、例えば、ポッターズ・バロティーニ社より、商品名「EGB731」として市販されており、容易に入手可能である。また、ガラスフレークとは、厚さ1~20μm、一辺の長さが0.05~1mmの燐片状のものであり、例えば、日本板硝子社より、「フレカ」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。
本発明で用いるガラス繊維は、特に、重量平均繊維径が1~20μm、カット長(数平均繊維長)が1~10mmのガラス繊維が好ましい。ここで、ガラス繊維の断面が扁平の場合、重量平均繊維径は、同じ面積の円における重量平均繊維径として算出する。
本発明で用いるガラス繊維は、集束剤で集束されていてもよい。この場合の集束剤としては、無水マレイン酸などを含む酸系や、ウレタン系集束剤、エポキシ系集束剤等が好ましい。
本発明の樹脂組成物におけるガラス繊維の含有量は、樹脂組成物中、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、28質量%以上であることがさらに好ましく、30質量%以上であることが一層好ましい。また、本発明の樹脂組成物におけるガラス繊維の含有量は、樹脂組成物中、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%未満であってもよく、45質量%以下、40質量%以下であってもよい。ガラス繊維を上記範囲で配合することにより、より光線透過率を高く維持することが可能になる。
本発明の樹脂組成物は、ガラス繊維を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
<核剤>
本発明の樹脂組成物は、核剤を含んでいてもよい。
核剤は、溶融加工時に未溶融であり、冷却過程において結晶の核となり得るものであれば、特に限定されないが、中でもタルクおよび炭酸カルシウムが好ましく、タルクがより好ましい。
核剤の数平均粒子径は、下限値が、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがより好ましい。核剤の数平均粒子径は、上限値が、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、28μm以下であることが一層好ましく、15μm以下であることがより一層好ましく、10μm以下であることがさらに一層好ましい。
本発明の樹脂組成物における核剤の割合は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、また、0.5質量%以下であることがより好ましい。
本発明の樹脂組成物は、核剤を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
<銅化合物>
本発明の樹脂組成物は、銅化合物を含んでいてもよい。銅化合物を用いることにより、顕著に優れた耐熱老化性を達成可能になる。
本発明で用いられる銅化合物としては、ハロゲン化銅(例えば、ヨウ化銅、臭化銅、塩化銅)および酢酸銅が例示され、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、酢酸第一銅および酢酸第二銅、塩化第一銅、塩化第二銅の中から好ましく選択され、ヨウ化銅、酢酸銅および塩化第一銅から選択されることがより好ましい。
また、銅化合物は、後述するハロゲン化アルカリ金属と組み合わせて用いることが好ましい。銅化合物と、ハロゲン化アルカリ金属を組み合わせた場合、銅化合物:ハロゲン化アルカリ金属の1:3~1:15(質量比)の混合物であることが好ましく、1:4~1:8の混合物であることがさらに好ましい。
銅化合物と、ハロゲン化アルカリ金属を組み合わせる場合については、特表2013-513681号公報の段落0046~0048の記載も参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本発明の樹脂組成物における銅化合物の割合は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、また、0.5質量%以下であることがより好ましい。
本発明の樹脂組成物は、銅化合物を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
<ハロゲン化アルカリ金属>
本発明で用いるハロゲン化アルカリ金属とは、アルカリ金属のハロゲン化物をいう。アルカリ金属としては、カリウムおよびナトリウムが好ましく、カリウムがより好ましい。また、ハロゲン原子としては、ヨウ素、臭素、塩素が好ましく、ヨウ素がより好ましい。本発明で用いるハロゲン化アルカリ金属の具体例としては、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムが例示され、ヨウ化カリウムが好ましい。
本発明の樹脂組成物におけるハロゲン化アルカリ金属の割合は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、また、0.5質量%以下であることがより好ましい。
本発明の樹脂組成物は、ハロゲン化アルカリ金属を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
<他の成分>
本発明の樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような添加剤としては、ガラス繊維以外のフィラー、光安定剤、上記以外の酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、難燃剤などが挙げられる。これらの成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の樹脂組成物は、各成分の合計が100質量%となるように、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂、窒化ホウ素、クロム錯体染料、離型剤、さらには、ガラス繊維や他の添加剤の含有量等が調整される。本発明では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂と、窒化ホウ素と、クロム錯体色素と、離型剤と、選択的に追加される、ガラス繊維と、核剤と、銅化合物と、ハロゲン化アルカリ金属の合計が樹脂組成物の99質量%以上を占める態様が例示される。
<樹脂組成物の特性>
本発明の樹脂組成物は、波長1070nmにおける光線透過率を25%以上とすることができる。上限値は特に定めるものではないが、例えば、70%以下でも十分に実用レベルである。光線透過率は後述する実施例に記載の方法で測定される。この時の金型温度は、任意の温度を定めることができるが、例えば、110℃である。
また、本発明の樹脂組成物は、金型温度を110℃としたときと140℃としたときで、波長1070nmにおける光線透過率の差を3%以下とすることができる。光線透過率は後述する実施例に記載の方法で測定される。
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する単軸または2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。上記ポリアミド樹脂成分、窒化ホウ素、クロム錯体色素、離型剤および必要に応じて配合される他の添加剤は、混練機に一括して供給してもよいし、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂に他の配合成分を順次供給してもよい。ガラス繊維は、混練時に破砕するのを抑制するため、押出機の途中から供給することが好ましい。また、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合、混練しておいてもよい。
本発明では、クロム錯体色素は、ポリアミド6、ポリアミド66等の熱可塑性樹脂で、マスターバッチ化したものをあらかじめ調製した後、他の成分(キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂等)と混練して、本発明における樹脂組成物を調整してもよい。
<成形品の製造方法>
本発明の樹脂組成物を用いた成形品の製造方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形方法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形などの成形方法を適用することができる。本発明の樹脂組成物は、特に、金型を用いて成形する方法に適している。さらに、金型によって冷却する成形方法に適している。本発明では、樹脂組成物を金型に適用する際の温度と金型温度の差が100~300℃であることが好ましい。
本発明のキットは、本発明の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂と、光吸収性色素とを含む、光吸収性樹脂組成物とを有する。本発明のキットは、レーザー溶着による成形品の製造に好ましく用いられる。
すなわち、キットに含まれる樹脂組成物は、光透過性樹脂組成物としての役割を果たし、光透過性樹脂組成物を成形してなる成形品は、レーザー溶着の際のレーザー光に対する透過樹脂部材となる。一方、光吸収性樹脂組成物を成形してなる成形品は、レーザー溶着の際のレーザー光に対する吸収樹脂部材となる。
<<光吸収性樹脂組成物>>
本発明で用いる光吸収性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む。
熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等が例示され、樹脂組成物との相溶性が良好な点から、特に、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂がさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
光吸収性樹脂組成物に用いるポリアミド樹脂としては、その種類等を定めるものではないが、上記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が好ましい。
光吸収性樹脂組成物は、また、無機フィラーを含んでいてもよい。無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、アルミナ、タルク、カーボンブラックおよびレーザーを吸収する材料をコートした無機粉末等のレーザー光を吸収しうるフィラーが例示され、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維は、上記本発明の樹脂組成物に配合してもよいガラス繊維と同義であり、好ましい範囲も同様である。
光吸収性色素は、クロム錯体色素よりも、レーザー溶着の際のレーザー光線を透過しにくい色素をいう。光吸収性色素としては、照射するレーザー光波長の範囲、例えば、波長800nm~1100nmの範囲に極大吸収波長を持つものが例示される。本発明における光吸収性色素の一実施形態としては、ポリアミド樹脂(MP10)100質量部に対し、色素0.07質量部配合し、押出機の設定温度280℃で溶融混練したペレットを用いて、後述する実施例に記載の方法で測定した波長1070mmにおける光線透過率が10%未満となる色素が挙げられる。このときの金型温度は110℃である。
光吸収性色素としては、具体的には、無機顔料(カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料)、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。なかでも、無機顔料は一般に隠ぺい力が強く好ましく、黒色顔料がさらに好ましい。これらの光吸収性色素は2種以上組み合わせて使用してもよい。光吸収性色素の含有量は、樹脂成分100質量部に対し0.01~30質量部であることが好ましい。
本発明のキットは、樹脂組成物中のクロム錯体色素を除く成分と、光吸収性樹脂組成物中の光吸収性色素を除く成分の80質量%以上が共通することが好ましく、90質量%以上が共通することがより好ましく、95~100質量%が共通することが一層好ましい。
<<レーザー溶着方法>>
次に、レーザー溶着方法について説明する。本発明では、本発明の樹脂組成物から形成された成形品(透過樹脂部材)と、上記光吸収性樹脂組成物から形成された成形品(吸収樹脂部材)を、レーザー溶着させて成形品を製造することができる。レーザー溶着することによって透過樹脂部材と吸収樹脂部材を、接着剤を用いずに、強固に溶着することができる。
部材の形状は特に制限されないが、部材同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面接触箇所(平面、曲面)を有する形状である。レーザー溶着では、透過樹脂部材を透過したレーザー光が、吸収樹脂部材に吸収されて、溶融し、両部材が溶着される。本発明の樹脂組成物の成形品は、レーザー光に対する透過性が高いので、透過樹脂部材として好ましく用いることができる。ここで、レーザー光が透過する部材の厚み(レーザー光が透過する部分におけるレーザー透過方向の厚み)は、用途、樹脂組成物の組成その他を勘案して、適宜定めることができるが、例えば、5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。レーザーが透過する部材の厚みの下限は、例えば、0.01mm以上である。
レーザー溶着に用いるレーザー光源としては、光吸収性色素の光の吸収波長に応じて定めることができ、波長800~1100nmの範囲のレーザーが好ましく、例えば、半導体レーザーまたはファイバーレーザーが利用できる。
より具体的には、例えば、透過樹脂部材と吸収樹脂部材を溶着する場合、まず、両者の溶着する箇所同士を相互に接触させる。この時、両者の溶着箇所は面接触が望ましく、平面同士、曲面同士、または平面と曲面の組み合わせであってもよい。次いで、透過樹脂部材側からレーザー光を照射する。この時、必要によりレンズを利用して両者の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは、透過樹脂部材中を透過し、吸収樹脂部材の表面近傍で吸収されて発熱し溶融する。次にその熱は熱伝導によって透過樹脂部材にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールを形成し、冷却後、両者が接合する。
このようにして透過樹脂部材と吸収樹脂部材を溶着された成形品は、高い溶着強度を有する。なお、本発明における成形品とは、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含む趣旨である。
本発明でレーザー溶着して得られた成形品は、機械的強度が良好で、高い溶着強度を有し、レーザー光照射による樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、カメラ筐体など)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。特に、本発明の樹脂組成物およびキットは、車載カメラ筐体などの車両用中空部品に適している。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
<MP10の合成例>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、セバシン酸(伊藤製油株式会社製TAグレード)10kg(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学株式会社製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学株式会社製)のモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6.647kg(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol)を溶融したセバシン酸に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて240℃まで昇温した。
滴下終了後、内温を上昇させ、250℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて255℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、これをペレット化することにより、ポリアミド樹脂MP10を得た。
得られたポリアミド樹脂の融点は、213℃、数平均分子量は、15400であった。
Figure 0007387470000001
尚、ポリアミド樹脂(MP10)100質量部に対し、クロム錯体染料0.07質量部を配合し、後述の実施例と同様に成形したとき(金型温度は110℃)波長1070mmにおける光線透過率が10%以上であった。
また、ポリアミド樹脂(MP10)100質量部に対し、非クロム錯体染料を、色素が0.07質量部となるように配合し、後述の実施例と同様に成形したとき(金型温度は110℃)波長1070mmにおける光線透過率が10%以上であった。
[実施例1~6、比較例1~5]
<コンパウンド>
後述する表2または表3に記載の樹脂組成物(透過樹脂部材形成用ペレット)を製造した。
具体的には、後述する表2または表3に示す各成分であって、ガラス繊維以外の成分を表2または表3に示す割合(単位は、質量%である)でドライブレンドした後、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)のスクリュー根元から2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-W-1-MP)を用いて投入した。また、ガラス繊維については振動式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-V-1B-MP)を用いて押出機のサイドから上述の二軸押出機に投入し、樹脂成分等と溶融混練し、透過樹脂部材形成用ペレットを得た。押出機の温度設定は、280℃とした。
<光線透過率>
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、日精樹脂工業社製、NEX140IIIを用いて、1mm厚さの試験片を射出成形した。成形に際し、シリンダー温度は280℃、金型の表面温度は表2または表3に示す温度とした。
上記で得られた1mm厚さの試験片について、紫外可視近赤外分光光度計を用いて、波長1070nmにおける光線透過率(単位:%)を測定した。
紫外可視近赤外分光光度計は、島津製作所社製、UV-3100PCを用いた。
<高温高湿処理後の外観>
上述の製造方法で得られたペレットを120℃で4時間乾燥させた後、日精樹脂工業社製、NEX140IIIを用いて、60×60×2mmの試験片を射出成形した。成形に際し、シリンダー温度は280℃、金型表面温度は130℃とした。
また、レニー1002H/N(三菱エンジニアリングプラスチック社製)を上記と同様にして、60×60×2mmに成形した。両者をバインダークリップ(TANOSEE ダブルクリップ小口幅19mm、型番TWB-3)を用いて4角をクリップした。クリップ止めした試験片成形品を、85℃、相対湿度(RH)85%の雰囲気下に400時間静置し、その後の外観を目視にて確認した。確認は、5人の専門家が行い、多数決を採用した。
結果を表2または表3に示す。
Figure 0007387470000002
Figure 0007387470000003
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、高湿熱試験後も色素が他部材に移動せず、かつ、金型温度の違いによる光線透過率の差が小さかった(実施例1~6)。
これに対し、窒化ホウ素を配合せず、クロム錯体色素を配合した場合(比較例2~4)、光透過性色素の移動は認められなかったが、光透過性色素を配合しない場合よりも(比較例1)、金型表面温度の違いによる、透過率の差が大きくなってしまった。
一方、非クロム錯体色素を配合した場合(比較例5)、金型温度の違いによる光線透過率の差が多少は抑制されたものの、依然としてその差は大きく、また、赤色の染料の移動が認められた。
実施例1に記載の樹脂組成物について、クロム錯体色素を配合せず、カーボンブラックマスターバッチ(日弘ビックス社製、PA-0895)を6質量部配合した他は同様に行って、吸収樹脂部材形成用ペレットを得た。実施例1で得られたペレットと、前記吸収樹脂部材形成用ペレットを用い、特開2018-168346号公報の段落0072、段落0073、および、図1の記載に従い、レーザー溶着させた。適切にレーザー溶着していることを確認した。

Claims (8)

  1. ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、
    ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、
    ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂と、
    窒化ホウ素0.1~2.0質量%と、
    クロム錯体色素0.01~0.5質量%と、
    離型剤とを含み、
    前記ポリアミド樹脂以外のポリアミド樹脂の含有量が、樹脂組成物中の4質量%以下であるポリアミド樹脂組成物。
  2. 前記離型剤が、脂肪酸金属塩を含む、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. 前記離型剤が、モンタン酸金属塩を含む、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
  4. 前記キシリレンジアミンがパラキシリレンジアミンを含み、前記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸がセバシン酸を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
  5. さらに、ガラス繊維を20~60質量%含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物と、
    熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む、光吸収性樹脂組成物と
    を有するキット。
  7. 請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物から形成された成形品と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む、光吸収性樹脂組成物から形成された成形品を、レーザー溶着させることを含む、成形品の製造方法。
  8. 請求項1~5のいずれか1項に記載のポリアミド樹脂組成物、または、請求項6に記載のキットを成形してなる成形品。
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