JP7387047B1 - 立方晶窒化硼素多結晶体及びその製造方法 - Google Patents

立方晶窒化硼素多結晶体及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高いヌープ硬度及び高いヤング率を有する立方晶窒化硼素(cBN)多結晶体及びその製造方法を提供する。【解決手段】cBN多結晶体(10)は、cBNから成り粒径が10~60nmの範囲内である微粒結晶(11)と、cBNから成り粒径が100~250nmの範囲内である粗粒結晶(12)と、cBNから成る複数の板状結晶が積層したものであって、積層方向に垂直な方向の最大長が1000nm以下であり、該最大長を前記積層方向の最大長で除したアスペクト比が3未満であるラメラ状結晶(13)とが混在し、該微粒結晶と該粗粒結晶と該ラメラ状結晶とを合わせた平均粒径が80nm以下である。このcBN多結晶体(10)は、六方晶系の窒化硼素から成る原料を10GPa以上の圧力下で、1300~1600℃の範囲内である第1の温度に加熱して第1の所定時間維持した後、1700~2100℃の範囲内である第2の温度に加熱して第2の所定時間維持し、その後冷却することにより得られる。【選択図】図4

Description

本発明は、高い硬度と高いヤング率が要求される切削工具や研削工具等に用いられる立方晶窒化硼素多結晶体及びその製造方法に関する。
窒化硼素(boron nitride: BN)には、主に六方晶窒化硼素(hexagonal BN: hBN)、ウルツ鉱型窒化硼素(wurtzitic BN: wBN)、及び立方晶窒化硼素(cubic BN: cBN)という、結晶構造が異なる3種のものがある。これらのBNのうち cBNは、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有し、且つ、熱的安定性及び化学的安定性がダイヤモンドよりも優れている、という特長を有する。特に、ダイヤモンドが鉄、ニッケル、チタンなどの元素と反応し易いのに対して、cBNはこれらの元素と反応し難いため、これらの元素を含む鉄鋼材料、ニッケル合金、チタン合金などの多くの材料を加工する工具の材料として適している。
特許文献1には、粉末粒子の平均粒径が1μm以上であるhBNの粗粒粉末と、粉末粒子の平均粒径が100nm未満であるhBNの微粒粉末又は非晶質のBN等のhBN以外のBNの粉末から成る原料粉末を、温度が2200℃以下及び圧力が25GPa以下であって温度と圧力が所定の不等式を満たす条件で焼結させることにより、cBNから成る多結晶体を作製することが記載されている。このcBN多結晶体は、最大粒径が100nm以下且つ平均粒径が70nm以下である微粒結晶のcBNと、平均長径が50nm以上10000nm以下である板状結晶のcBNと、最小粒径が100nmを超えかつ平均粒径が1000nm以下である粗粒結晶のcBNとを含有する。
一方、非特許文献1には、hBNと同様の六方晶の結晶構造を有しCVD法で作製された高純度のBNである熱分解窒化硼素(pBN)を圧力25GPa、温度1950℃の条件下でcBNに変化させることにより、平均粒径が約85nmである微細な多結晶組織中に相対的に粗い結晶粒が混在したcBN多結晶体を作製することが記載されている。
特開2016-141609号公報
市田良夫 他5名、「ナノ多結晶cBNの微細組織と機械的性質」、第60回高圧討論会講演要旨集、日本高圧力学会発行、第157頁、2019年10月10日
切削工具や研削工具が加工中に弾性変形してしまうと加工精度が低下してしまうため、それらの工具に使用する材料には高い硬度のみならず、弾性変形が生じ難いという特性が求められる。そのためには、弾性変形が生じ難いことを示す指標であるヤング率を高くする必要がある。特許文献1には、得られたcBN多結晶体のヤング率は記載されていない。非特許文献1には得られたcBN多結晶体のヌープ硬度が55.2GPaであってヤング率が1081.5GPaであると記載されているが、それと同等又はそれ以上のヌープ硬度を有しつつ、より高いヤング率を有するcBN多結晶体が求められる。
本発明が解決しようとする課題は、高いヌープ硬度及び高いヤング率を有するcBN多結晶体及びその製造方法を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明に係る立方晶窒化硼素多結晶体(cBN多結晶体)は、
立方晶窒化硼素から成り粒径が10~60nmの範囲内である微粒結晶と、
立方晶窒化硼素から成り粒径が100~250nmの範囲内である粗粒結晶と、
立方晶窒化硼素から成る複数の板状結晶が積層したものであって、積層方向に垂直な方向の最大長が1000nm以下であり、該最大長を前記積層方向の最大長(厚さ)で除したアスペクト比が3未満であるラメラ状結晶と
が混在し、
前記微粒結晶、前記粗粒結晶及び前記ラメラ状結晶の存在比が面積比で(13~20):(60~75):(10~30)の範囲内であり、
該微粒結晶と該粗粒結晶と該ラメラ状結晶とを合わせた平均粒径が80nm以下である
ことを特徴とする。
ここで、微粒結晶と粗粒結晶とラメラ状結晶とを合わせた平均粒径は、JIS G 0551:2013(鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法)に基づき、透過型電子顕微鏡(TEM)画像を用いた切断法により求められる値をいう。切断法では、TEM画像に円を描き、その円の中心を通る直線(直径)を30°間隔で6本(半径では12本)描き、各直線を横切る結晶粒の数(本発明では微粒結晶と粗粒結晶とラメラ状結晶の合計数)を数え(但し、直線の端が結晶粒内にある場合はその結晶粒の数を0.5と数える)、その数の全ての直線での和(この和の値を「結晶粒数」とする)を求める。そして、直径の6倍を結晶粒数で除した値を平均粒径とする。なお、TEM画像に描く円の直径は特定の値に限定されないが、1本の直径における結晶粒数が10~40程度になるように定めることが望ましい。また、1つのcBN多結晶体に対して、複数箇所のTEM画像を取得し、それら複数箇所の平均値で平均粒径を求めることが望ましい。
個々の微粒結晶及び粗粒結晶の粒径dは、TEM画像中の個々の結晶の形状を楕円で近似し、TEM画像上でその楕円の長径a及び短径bを測定したうえで、d=(a+b)/2で近似することによって求めることができる。その代わりに、同様の方法で前記楕円の長径a及び短径bを測定したうえで、該楕円の面積SをS=π×a×bで求め、等価円直径を粒径dとして、d=2×(S/π)1/2で求めてもよい。また、市販の画像処理ソフトには画像に含まれる結晶粒の外周を特定したうえで等価円直径を求める処理を自動で実行するものがあることから、そのような画像処理ソフトを用いてTEM画像から求めた等価円直径を粒径dとして特定してもよい。
本発明に係るcBN多結晶体は、cBNの微粒結晶とラメラ状結晶と粗粒結晶が混在することにより、ヌープ硬度を60GPa以上、且つ、ヤング率を1082GPa以上とすることができる。
前記微粒結晶と前記粗粒結晶と前記ラメラ状結晶とを合わせた平均粒径は60nm以下であることが好ましい。これにより、ヌープ硬度及びヤング率をより高くすることができる。
本発明に係るcBN多結晶体は以下の方法により製造することができる。すなわち、本発明に係る立方晶窒化硼素多結晶体(cBN多結晶体)の製造方法は、
六方晶系の窒化硼素から成る原料を10GPa以上の圧力下で、1300~1600℃の範囲内である第1の温度に加熱して第1の所定時間維持した後、1700~2100℃の範囲内である第2の温度に加熱して第2の所定時間維持し、その後冷却することを特徴とする。
ここで、原料の「六方晶系の窒化硼素」には、上述のhBN及びpBNが含まれる。
本発明に係るcBN多結晶体の製造方法では上記原料を10GPa以上の圧力下において第1の温度で加熱することにより、原料の多くはhBNからの拡散型変態によりcBNの粒状結晶に変換すると共に、残りが主に無拡散型変態(マルテンサイト変態)によりwBNのラメラ状結晶に変換することにより、これらcBNの粒状結晶とwBNのラメラ状結晶が混在する結晶組織に変化する。さらに第1の所定時間中に、wBNのラメラ状結晶は一部がcBNのラメラ状結晶に変化するが、残りの大部分はwBNのラメラ状結晶の形態を維持する。ただし、wBNのラメラ状結晶は、この第1の所定時間中にそれよりも硬いcBNの粒状結晶及びcBNのラメラ結晶と超高圧の状態で混在するため破砕され、微細化される。
このようなcBNの粒状結晶、cBNのラメラ状結晶、及び微細化されたwBNのラメラ状結晶が混在した結晶組織を第2の温度まで昇温すると、微細化されたwBNのラメラ状結晶の大部分はマルテンサイト変態によりcBNのラメラ状結晶に変化する。第2の温度への昇温の直後はわずかにwBNのラメラ状結晶が残るが、第2の所定時間中にすべてcBNのラメラ状結晶に変換する。その結果、全体が単相のcBN多結晶体となる。これらのcBNのラメラ状結晶の表面や内部には双晶や積層欠陥などの格子欠陥が非常に多く存在しており、多結晶体の硬度やヤング率を高める要因となる。
また、第2の温度での加熱時間の経過に伴い、このような格子欠陥の近傍のダングリングボンド等を中心にcBNの新しい核が形成され、新たな結晶粒へと成長させる再結晶化が超高圧の下で生じることにより、cBNの微粒結晶が形成される。これは動的再結晶であり、cBNの微粒結晶中にも多くのひずみや欠陥が導入され、多結晶体の硬度やヤング率を高める要因となる。cBNのラメラ状結晶の一部は、このような動的再結晶を起こさず、その形態及び多結晶体の硬度やヤング率を高める役割を維持したまま残留する。一方、第1の温度での加熱により生成された粒状のcBN結晶は、その後の第2の温度での加熱への昇温とその保持時間の経過とともに次第に粒成長して、cBNの粗粒結晶へと変化する。ここでも超高圧下での粒成長であることから、cBNの粗粒結晶中にも多くの結晶格子のひずみや欠陥が存在しており、多結晶体の硬度やヤング率を高める要因となる。以上のプロセスにより、cBNの微粒結晶、cBNのラメラ状結晶、並びにcBNの粗粒結晶の3形態の結晶が混在した、本発明に係るcBN多結晶体が得られる。
但し、前記第2の温度での加熱時間が短すぎるとwBNのラメラ状結晶の一部がcBNのラメラ状結晶に変化することなく残ってしまう。一方、前記第2の温度での加熱時間が長すぎると、ラメラ状結晶が全て再結晶化して消滅し、生成された微粒結晶が粗粒化する。それまでに粗粒化していた結晶もさらに粗大化し、cBN多結晶体の組織全体が粗くなる。そのため、前記第2の所定時間は、予備実験を行うことで、wBNのラメラ状結晶が残ることなく、且つ、cBNの微粒結晶、粗粒結晶及びラメラ状結晶がいずれも残るように定める。微粒結晶、粗粒結晶及びラメラ状結晶の存在比は、面積比で、(13~20):(60~75):(10~30)の範囲内とすることが好ましい。本願発明者の実験によれば、例えば圧力が10~25GPaの範囲内であって第2の温度が1700~1950℃の範囲内において第2の所定時間が4~7分の範囲内であれば、wBNのラメラ状結晶が残ることなく、且つ、微粒結晶、粗粒結晶及びラメラ状結晶をいずれも残すことができ、ヌープ硬度を60GPa以上、ヤング率を1082GPa以上とすることができる。
また、第1の所定時間が長過ぎると、第1の温度での加熱中にwBNのラメラ状結晶からcBNのラメラ状結晶への変態の割合が多くなり、wBNのラメラ状結晶が残り難くなるため、wBNのラメラ状結晶の破砕による微細化が生じ難くなる。その結果、その後の第2の温度での加熱後に、アスペクト比が3以上であって粗大なcBNのラメラ状結晶が生じてしまう。そうすると、cBN多結晶体の組織全体が粗くなるため十分に高いヌープ硬度を得ることができない。そのため、第1の所定時間も予備実験により、ヌープ硬度が60GPaを上回るように定める。
本発明によれば、60GPaという高いヌープ硬度を有すると共に、1082GPa以上という高いヤング率を有する立方晶窒化硼素多結晶体(cBN多結晶体)を得ることができる。
本発明に係るcBN多結晶体の製造方法の一実施形態を示すフローチャート。 本実施形態のcBN多結晶体の製造方法における加熱温度と時間の関係を示すグラフ。 本実施形態のcBN多結晶体を模式的に示す図。 本実施形態のcBN多結晶体の一例について撮影した透過電子顕微鏡(TEM)写真。 第1温度で第1時間熱処理した後(第2温度での熱処理を行わず)に急冷した試料のX線回折測定の結果を示すチャート。 図4に示したcBN多結晶体に対するX線回折測定の結果を示すチャート。 本実施形態のcBN多結晶体の一例についてラメラ状結晶を拡大して撮影した高分解透過電子顕微鏡(HR-TEM)写真。 本実施形態のcBN多結晶体の一例についてラメラ状結晶をさらに拡大して撮影したHR-TEM写真。 本実施形態のcBN多結晶体が得られる過程を示す模式図。 作製時の第2時間t2と、作製されたcBN多結晶体のヌープ硬度の測定値との関係を示すグラフ。 作製時の第2時間t2と、作製されたcBN多結晶体のヤング率の測定値との関係を示すグラフ。
図1~図9を用いて、本発明に係るcBN多結晶体及びその製造方法の実施形態を説明する。
まず、図1のフローチャート、及び図2のグラフを参照しつつ、本実施形態のcBN多結晶体の製造方法を説明する。
まず、原料として、六方晶系の窒化硼素(BN)を準備する(ステップ1)。六方晶系のBNには、hBNを用いてもよいし、pBNを用いてもよい。後述の実施例及び比較例では、pBNは市販の板状pBN(板厚3mm)をレーザー加工装置により直径3mm×高さ3mmの円盤状に切り出したものを用い、hBNは粉末状のものを内径3mmの粉末成形用超硬ダイスに充填して粉末成形機で圧力200MPaで押し固めることで得られた直径3mm×高さ3mmのペレット状原料を用いた。
このような原料に対して、10GPa以上の圧力Pを印加する(ステップ2)。圧力Pの上限は特に問わない。この圧力Pを維持した状態で、室温から、1300~1600℃の範囲内、好ましくは1350~1500℃の範囲内である第1の温度(第1温度)T1に昇温する(ステップ3)。昇温速度は50~120℃/minの範囲内とすることが好ましい。そして、圧力Pを維持するとともに第1温度T1を第1の所定時間(第1時間)t1維持する(ステップ4)。第1時間t1は、後述する第2の所定時間(第2時間)t2と合わせて、予備実験により適宜定める。
第1時間t1の経過後、圧力Pを維持した状態で、第1温度T1から、1700~2100℃の範囲内、好ましくは1700~1950℃の範囲内である第2の温度(第2温度)T2に昇温する(ステップ5)。この際にも昇温速度は50~120℃/minの範囲内とすることが好ましい。そして、圧力Pを維持するとともに第2温度T2を第2の所定時間(第2時間)t2維持する(ステップ6)。第2時間t2が経過後、室温まで降温し、その後、圧力Pを常圧に降圧する(ステップ7)ことにより、本実施形態のcBN多結晶体が得られる。
図3に、本実施形態のcBN多結晶体10を模式的に示す。cBN多結晶体10には、いずれもcBNから成る微粒結晶11と粗粒結晶12とラメラ状結晶13とが混在している。微粒結晶11の粒径は10~60nmの範囲内であり、粗粒結晶12の粒径は100~250nmの範囲内である。ラメラ状結晶13は複数の板状結晶が積層したものである。ラメラ状結晶13の大きさは、板状結晶の積層方向に垂直な方向の最大長が1000nm以下であり、この方向の最大長を積層方向の最大長である厚さで除した値(アスペクト比)が3未満である。個々の板状結晶は厚さが数nm~10nm程度であるため、アスペクト比が3未満という小さい値を有することは、1個のラメラ状結晶13が多数の板状結晶が積層して形成されていることを意味する。
図4に、上記方法により作製された、本実施形態のcBN多結晶体10の一例(実施例1)について撮影した、透過電子顕微鏡(TEM)写真を示す。実施例1では、原料として上述のpBNを用い、圧力P=25GPa、第1温度T1=1450℃、第1時間t1=10分間、第2温度T2=1950℃、第2時間t2=5分間という条件でcBN多結晶体10を作製した。図4に示すように、得られたcBN多結晶体10には、微粒結晶11と、粗粒結晶12と、ラメラ状結晶13が混在している。この試料につき、微粒結晶11と粗粒結晶12とラメラ状結晶13の存在比は、面積比で64:15:21であった。また、微粒結晶11と粗粒結晶12とラメラ状結晶13を合わせた平均粒径を求めたところ、46.3nmであった。
実施例1のcBN多結晶体10につき、CuKα線(波長15.4nm)のX線を用いてX線回折測定を行った結果を図5Bに示す。それとともに、比較のために、実施例1のcBN多結晶体の製造時における中間段階に相当する、第1温度T1で第1時間t1熱処理した後に(第2温度での熱処理を行わず)急冷した試料に対するX線回折測定の結果を図5Aに示す。図5AにはcBNに由来するピークの他にwBNに由来するピークが見られるのに対して、図5BにはwBNに由来するピークが見られず、実施例1のcBN多結晶体10では単相のcBN多結晶体であることが確認できる。
さらにラメラ状結晶13の構造を詳しく調べるために、図4に示したcBN多結晶体10につき、ラメラ状結晶13の一部を拡大して撮影したHR-TEM(高分解能透過電子顕微鏡)写真を図6Aに、それをさらに拡大したHR-TEM写真を図6Bに、それぞれ示す。これらの写真より、複数の板状結晶が積層している様子がわかる。特に、図6Bは、ラメラ状結晶13内で板状結晶が結晶面{111}で積層し、さらにこれらの結晶面を双晶境界TBとして多数の双晶Tが形成されていることを示している。双晶境界TB間の距離TTは10nm以下である。また、ラメラ状結晶13内には積層欠陥SFが複数形成されている。ラメラ状結晶13内にこれら双晶Tや積層欠陥SFが存在することが、cBN多結晶体10のヌープ硬度やヤング率が高くなる要因の1つであると考えられる。また、これら双晶Tや積層欠陥SFは、cBN多結晶体10の亀裂の進展を妨げる役割も有する。
実施例1のcBN多結晶体10のヌープ硬度及びヤング率を測定したところ、ヌープ硬度は65.6GPa、ヤング率は1085.7GPaであった。このように、実施例1のcBN多結晶体10は、60GPaという高いヌープ硬度を有すると共に、1082GPa以上という、従来のcBN多結晶体よりも高いヤング率を有する。
このようなcBN多結晶体10が形成される過程を、図7を用いて説明する。まず、六方晶系のBNから成る原料を10GPa以上の圧力下で第1温度T1に加熱すると、cBNの粒状結晶92とwBNのラメラ状結晶93が形成される(図7の左上図)。この第1温度T1を第1時間t1維持すると、wBNのラメラ状結晶93の一部がマルテンサイト変態によりcBNのラメラ状結晶13に変化する(同右上図)が、大部分はwBNのラメラ状結晶93として残存する。そしてこの間、残存したwBNのラメラ状結晶93は高圧下で、硬質であるcBNのラメラ状結晶13や粒状結晶92により粉砕され、微細化される。さらに、温度を第1温度T1から第2温度T2に昇温すると、微細化されたwBNのラメラ状結晶93からcBNのラメラ状結晶13への相変態が進行し(同左下図)、第2温度T2で第2時間t2維持する間にwBNのラメラ状結晶93の全てがcBNのラメラ状結晶13に変化する(同左中図)。第2温度T2で第2時間t2維持する間にはさらに、cBNのラメラ状結晶13の一部において、その格子欠陥付近のダングリングボンド等を起点として新たなcBNの核が形成され、それが新しい微細なcBN結晶へと成長する動的再結晶が発現する。その結果、cBNのラメラ状結晶13の一部がcBNの微粒結晶11に変化する(同中下図)。こうして、cBNの微粒結晶11とcBNの粗粒結晶12とcBNのラメラ状結晶13が混在したcBN多結晶体10が得られる。ここで、第2時間t2が短すぎると、wBNのラメラ状結晶93の一部が残ってしまうため、第2時間t2はwBNのラメラ状結晶93が全てcBNのラメラ状結晶13に変化するように設定する。
第2時間t2経過後にさらに第2温度T2での加熱を継続すると、cBNのラメラ状結晶13が全て動的再結晶によりcBNの微粒結晶13に変化して消滅するうえに、第2時間t2経過の前後を通して形成されたcBNの微粒結晶13が粒成長して粗大化してしまう(図7の右下図)。そうすると、本実施形態のcBN多結晶体10のような高いヌープ硬度及びびヤング率を有するcBN多結晶体を得ることができない。そのため、第2時間t2はcBNの微粒結晶11及びcBNのラメラ状結晶13が残るように設定する必要がある。
ここで述べた第2時間t2の条件を定める際の予備実験では、異なる第2時間t2で作製した複数の試料につき、形成されている結晶をTEM写真で確認したり、X線回折測定によってwBNが残存していないかを確認することによって行えばよい。その代わりに、同様に作製した複数の試料につき、ヌープ硬度及びヤング率を測定し、それらが60GPa以上及び1082GPa以上であれば各結晶の要件を満たしていると推定するようにしてもよい。
次に、第1温度及び第1時間、第2温度及び第2時間、並びに圧力が異なる複数の条件下でcBN多結晶体10を作製し、平均粒径、微粒結晶11と粗粒結晶12とラメラ状結晶13の存在比(面積比)、ヌープ硬度及びヤング率を測定した(実施例2~8)。併せて、第2時間が実施例1~7よりも長い比較例1及び2についても同様の測定を行った。さらに、第1温度と第2温度の2段階の加熱を行うことなく室温から所定の温度まで加熱して該温度を所定の時間維持することで作製した比較例3~7についても、同様の測定を行った。前述の実施例1を含めて、実施例1~8及び比較例1~7の試料の作製条件及び測定結果を表1に示す。なお、比較例3~7では、便宜上、加熱温度及び該温度に維持した時間を第1温度及び第1時間の欄に記載したが、これらは本発明における第1温度及び第1時間に相当するものではない。
Figure 0007387047000002
実施例1~8の試料はいずれも、平均粒径が80nm以下であって、微粒結晶11と粗粒結晶12とラメラ状結晶13を全て有し、中粒結晶を有しない。これら実施例1~8の試料はいずれも、ヌープ硬度が60GPa以上という高い値を有し、且つ、ヤング率が1082GPa以上という高い値を有する。それに対して比較例1~7では、ラメラ状結晶13が存在しないか、又は面積比で5%以下という無視できるほど低い割合でしか存在しない。特に、比較例1、2では、実施例1~8と同様に第1温度と第2温度での2段階の加熱を行っているものの、第2時間が実施例1~8よりも長い(実施例1~8では4~6分間、比較例1、2では10~15分間)ことにより、ラメラ状結晶13が存在しないか無視できる程に減少しているため、ヌープ硬度及びヤング率の双方が実施例1~8よりも低くなっている。
次に、作製時の圧力が25PGa、第1温度が1450℃、第1時間が10分間、第2温度が1950℃の場合において、第2時間が異なる複数の例(上記の実施例1~4、比較例1、2を含み、それら以外の第2時間で作製した例も含む)につき、ヌープ硬度(図8)及びヤング率(図9)の測定結果をグラフで示す。図8及び図9には併せて、第1温度(1450℃)で所定維持した後に昇温することなく室温に冷却した試料、第2温度に到達してから直ちに冷却した(第2時間が0である)試料、及び、第1温度と第2温度の2段階の加熱を行うことなく室温から1950℃まで加熱し、この温度を所定時間維持した比較例についても併せて示す。図8及び図9より、第2時間が4~7分の間であるとき、ヌープ硬度を60GPa以上、且つヤング率を1082GPa以上とすることができる。
本実施形態で得られたcBN多結晶体10は、高いヌープ硬度及びヤング率を有するという特徴を有するため、切削工具の切れ刃や研削工具の砥粒の材料として好適に用いることができる。また、cBN多結晶体10は、硬度測定用の圧子としても好適に用いることができる。
10…立方晶窒化硼素(cBN)多結晶体
11…(cBNの)微粒結晶
12…(cBNの)粗粒結晶
13…(cBNの)ラメラ状結晶
92…cBNの粒状結晶
93…wBNのラメラ状結晶
SF…積層欠陥
T…双晶
TB…双晶境界
TT…距離

Claims (6)

  1. 立方晶窒化硼素から成り粒径が10~60nmの範囲内である微粒結晶と、
    立方晶窒化硼素から成り粒径が100~250nmの範囲内である粗粒結晶と、
    立方晶窒化硼素から成る複数の板状結晶が積層したものであって、積層方向に垂直な方向の最大長が1000nm以下であり、該最大長を前記積層方向の最大長で除したアスペクト比が3未満であるラメラ状結晶と
    が混在し、
    前記微粒結晶、前記粗粒結晶及び前記ラメラ状結晶の存在比が面積比で(13~20):(60~75):(10~30)の範囲内であり、
    該微粒結晶と該粗粒結晶と該ラメラ状結晶とを合わせた平均粒径が80nm以下である
    ことを特徴とする立方晶窒化硼素多結晶体。
  2. 前記微粒結晶と前記粗粒結晶と前記ラメラ状結晶とを合わせた平均粒径が60nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の立方晶窒化硼素多結晶体。
  3. 請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素多結晶体を製造する方法であって、
    六方晶系の窒化硼素から成る原料を10GPa以上の圧力下で、1300~1600℃の範囲内である第1の温度に加熱して第1の所定時間維持した後、1700~2100℃の範囲内である第2の温度に加熱して第2の所定時間維持し、その後冷却することを特徴とする、立方晶窒化硼素多結晶体の製造方法。
  4. 請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素多結晶体から成る切れ刃を備えることを特徴とする切削工具。
  5. 請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素多結晶体から成る砥粒を備えることを特徴とする研削工具。
  6. 請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素多結晶体から成ることを特徴とする硬度測定用圧子。
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