JP7385134B2 - 変異型甲虫ルシフェラーゼ、遺伝子、組換えベクター、形質転換体、及び変異型甲虫ルシフェラーゼの製造方法 - Google Patents

変異型甲虫ルシフェラーゼ、遺伝子、組換えベクター、形質転換体、及び変異型甲虫ルシフェラーゼの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、変異型甲虫ルシフェラーゼ、遺伝子、組換えベクター、形質転換体、及び変異型甲虫ルシフェラーゼの製造方法に関する。
甲虫ルシフェラーゼは、アデノシン三リン酸(ATP)、マグネシウムイオン及び酸素の存在下でホタルルシフェリンの酸化を触媒し、これを発光させる酵素である。そのため、甲虫ルシフェラーゼ及びこれを用いたルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応は、ATPを指標として検体中の微生物の検出を目的とする検査、例えば、微生物汚染ATP検査やエンドトキシン発光検査に広く利用されている。
ATPの検出における甲虫ルシフェラーゼの利用性を高めるために、これまで様々な変異型甲虫ルシフェラーゼが作製されてきた。そのような変異型甲虫ルシフェラーゼとしては、熱安定性が向上したもの(例えば、特許文献1参照)、基質親和性が向上したもの(例えば、特許文献2参照)、発光波長が変化したもの(例えば、特許文献3参照)、発光の持続性が向上したもの(例えば、特許文献4参照)、界面活性剤耐性を有するもの(例えば、特許文献5参照)、発光強度が向上したもの(例えば、特許文献6参照)等が知られている。
野生型甲虫ルシフェラーゼは、0.9質量%程度の塩化ナトリウム水溶液中では、酵素反応が阻害され、塩化ナトリウムを含まない水溶液中に比べて、発光強度が20~50%程度にまで低下してしまう。このため、透析液や輸液等の生理食塩水レベルの塩化ナトリウムを含有する検体に対し、これらの甲虫ルシフェラーゼを利用してルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応を実施する場合には、塩化ナトリウムによる発光阻害により、ATP検出の測定感度が低下してしまう。そこで、透析液や輸液等のATP検出に好適な、塩化ナトリウムによる発光阻害の影響を受けにくい変異型甲虫ルシフェラーゼ(特許文献7)も開発されている。
特許第3048466号公報 特表2001-518799号公報 特許第2666561号公報 特開2000-197484号公報 特開平11-239493号公報 特開2007-97577号公報 特開2017-225372号公報
本発明は、野生型甲虫ルシフェラーゼと比較して、塩化ナトリウムによる発光阻害の影響を受けにくい、新たな変異型甲虫ルシフェラーゼを提供することを目的とする。
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意研究したところ、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列の特定の位置のアミノ酸を特定の異なるアミノ酸に置換することにより、塩化ナトリウムによる発光阻害の影響が抑えられることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼ、遺伝子、組換えベクター、形質転換体、及び変異型甲虫ルシフェラーゼの製造方法は、下記[1]~[7]である。
[1] 野生型甲虫ルシフェラーゼに変異が導入された変異型甲虫ルシフェラーゼであり、
野生型甲虫ルシフェラーゼをコードするアミノ酸配列において、少なくとも下記(a)及び(b)からなる群より選択される1種以上の変異を有しており、
0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中におけるルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応による発光強度が、塩化ナトリウム非含有溶液中における発光強度の50%以上であることを特徴とする、変異型甲虫ルシフェラーゼ。
(a)野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における294位のフェニルアラニンに相当するアミノ酸がバリンである変異、
(b)野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における533位のアスパラギン酸に相当するアミノ酸がバリンである変異。
[2] 前記野生型甲虫ルシフェラーゼが、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼである、前記[1]の変異型甲虫ルシフェラーゼ。
[3] 0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中におけるルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応による発光強度が、野生型甲虫ルシフェラーゼの発光強度よりも大きい、前記[1]又は[2]の変異型甲虫ルシフェラーゼ。
[4] 前記[1]~[3]のいずれかの変異型甲虫ルシフェラーゼをコードする遺伝子。
[5] 前記[4]の遺伝子を含有する組換えベクター。
[6] 前記[5]の組換えベクターを保有する形質転換体。
[7] 前記[6]の形質転換体を培養して、培養物を得る培養工程と、前記培養工程により得られた培養物から変異型甲虫ルシフェラーゼを回収する回収工程と、を有する、変異型甲虫ルシフェラーゼの製造方法。
本発明によれば、野生型甲虫ルシフェラーゼと比較して、塩化ナトリウムによる発光阻害の影響を受けにくい変異型甲虫ルシフェラーゼが提供される。当該変異型甲虫ルシフェラーゼを用いたルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応を行うことにより、塩化ナトリウム濃度が生理食塩水相当である検体のATP検出を高感度に行うことができる。
また、本発明に係る遺伝子、組換えベクター、形質転換体、及び変異型甲虫ルシフェラーゼの製造方法を用いることにより、本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼを効率よく生産することができる。
本発明及び本願明細書において、甲虫ルシフェラーゼの「発光強度」とは、特に断らない限り、ルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応におけるピーク時の発光強度、すなわち、当該甲虫ルシフェラーゼを、ATP、2価金属イオン及び酸素の存在下でホタルルシフェリンと反応させた場合におけるピーク時の発光強度を意味する。なお、「発光強度」が大きいほど、当該甲虫ルシフェラーゼのルシフェラーゼ活性が強いと判断することができる。
本願明細書において、甲虫ルシフェラーゼの「残存活性(%)」とは、塩化ナトリウム非含有溶液中における発光強度を100%とした場合の、0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中における発光強度の相対値([0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中における発光強度]/[塩化ナトリウム非含有溶液中における発光強度]×100)(%)である。なお、ルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応の反応溶液が「塩化ナトリウム非含有溶液」であるとは、塩化ナトリウムを配合せずに調製された反応溶液であることを意味する。残存活性を算出するためのルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応を行う際の「塩化ナトリウム非含有溶液」と「0.9質量%の塩化ナトリウム溶液」は、塩化ナトリウム以外の組成は全て同一であり、反応温度や時間等の反応条件も揃えて行う。
[変異型甲虫ルシフェラーゼ]
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼは、野生型甲虫ルシフェラーゼに変異が導入された変異型甲虫ルシフェラーゼであって、0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中における発光強度が、塩化ナトリウム非含有溶液中における発光強度の50%以上である変異型甲虫ルシフェラーゼである。本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼのルシフェラーゼ活性は、残存活性が50%以上であればよく、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがよりさらに好ましい。
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼは、野生型甲虫ルシフェラーゼと同様に、ルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応に用いることができ、塩化ナトリウムによる発光阻害の影響を受けにくいことから、塩化ナトリウムを含有する検体に対してルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応を行う際に用いられる甲虫ルシフェラーゼとして特に好適である。例えば、ヒト等の動物から採取された検体やヒト等に投与される輸液や透析液に対して、微生物の検出を目的としたATP量の測定のためにルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応を行う場合に、本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼを用いることにより、より高感度にATPを検出することができる。
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼは、野生型甲虫ルシフェラーゼをコードするアミノ酸配列において、少なくとも下記(a)及び(b)からなる群より選択される1種以上の変異を有している。
(a)野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における294位のフェニルアラニンに相当するアミノ酸がバリンである変異
(b)野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における533位のアスパラギン酸に相当するアミノ酸がバリンである変異
本発明及び本願明細書において、「野生型甲虫ルシフェラーゼ」とは、北米ホタル(Photinus pyralis)ルシフェラーゼ(配列番号1)、ヘイケボタル(Luciola lateralis)ルシフェラーゼ(配列番号2)、ゲンジボタル(Luciola cruciata)ルシフェラーゼ(配列番号3)、東ヨーロッパホタル(Luciola mingrelica)ルシフェラーゼ、ツチホタル(Lampyris noctiluca)ルシフェラーゼ、ヒカリコメツキムシ(Pyrophorus plagiophthalamus)ルシフェラーゼ等が挙げられる。なお、各種の野生型甲虫ルシフェラーゼのアミノ酸配列は、データベース(例えば、EMBL-EBI Database(http://www.ebi.ac.uk/queries/))で検索することができる。
野生型甲虫ルシフェラーゼがヘイケボタルルシフェラーゼでない場合は、当該野生型甲虫ルシフェラーゼのアミノ酸配列における、「ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列のX位のアミノ酸に相当するアミノ酸」は、アミノ酸配列の相同性解析ソフト(例えば、Micro Genie(登録商標)(Beckman Coulter社製))等を用いて、当該野生型甲虫ルシフェラーゼ及びヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列を最もホモロジーが高くなるようにアラインメントした場合に、「ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列のX位のアミノ酸」に対応する位置にあるアミノ酸を意味する。
具体的には、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における294位のフェニルアラニンに相当するアミノ酸は、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における292位のフェニルアラニン、野生型ゲンジボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における294位のフェニルアラニンにそれぞれ相当する。
野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における533位のアスパラギン酸は、野生型北米ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における531位のアスパラギン酸、野生型ゲンジボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における533位のアスパラギン酸にそれぞれ相当する。
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼは、前記(a)及び(b)の変異のうち、1種のみ有していてもよく、2種を有していてもよい。なかでも、0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中におけるルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応による発光強度が、野生型甲虫ルシフェラーゼの発光強度よりも大きいことから、前記(a)と(b)の両方の変異を有する変異型甲虫ルシフェラーゼが好ましい。
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼとしては、例えば、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における294位のフェニルアラニンに相当するアミノ酸がバリンに置換された変異型甲虫ルシフェラーゼ、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における533位のアスパラギン酸に相当するアミノ酸がバリンに置換された変異型甲虫ルシフェラーゼ、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における294位のフェニルアラニンに相当するアミノ酸がバリンに、533位のアスパラギン酸に相当するアミノ酸がバリンに、それぞれ置換された変異型甲虫ルシフェラーゼが挙げられる。
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼは、前記(a)及び(b)の変異のうちの少なくとも1種を有することによって、耐塩性が向上されており、野生型甲虫ルシフェラーゼよりも、ルシフェラーゼ活性が塩化ナトリウムによって阻害され難い。これらの特定の変異によって耐塩性が向上した理由は明らかではないが、これらの特定の位置に、分子サイズや電荷の変更を伴うアミノ酸置換が導入されることにより、甲虫ルシフェラーゼの酵素反応における活性中心付近の立体構造が変化し、ルシフェリンの酸化反応を阻害するナトリウムイオンの反応部位への侵入が抑制されるようになったためと推察される。
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼは、前記(a)及び(b)の変異以外は、野生型甲虫ルシフェラーゼのアミノ酸配列と同一であってもよく、野生型甲虫ルシフェラーゼのアミノ酸配列に対して、前記(a)等の変異以外のその他の変異を有していてもよい。当該その他の変異としては、ルシフェラーゼ活性と前記(a)等の変異による耐塩性向上効果を損なわないものであれば特に限定されるものではなく、例えば、特許文献1~7に記載されている変異等が挙げられる。
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼとしては、例えば、下記(1)又は)のタンパク質が挙げられる。
(1)野生型甲虫ルシフェラーゼのアミノ酸配列に前記(a)及び(b)からなる群より選択される1種以上の変異が導入されたアミノ酸配列からなるタンパク質
)野生型甲虫ルシフェラーゼのアミノ酸配列との配列同一性が90%以上であり、前記(a)及び(b)からなる群より選択される1種以上の変異を有するアミノ酸配列からなり、かつルシフェラーゼ活性を有するタンパク質。
前記()のタンパク質において、野生型甲虫ルシフェラーゼのアミノ酸配列との配列同一性は、90%以上100%未満であれば特に限定されないが95%以上100%未満であることがさらに好ましく、98%以上100%未満であることが特に好ましい。
なお、アミノ酸配列同士の配列同一性(相同性)は、2つのアミノ酸配列を、対応するアミノ酸が最も多く一致するように、挿入及び欠失に当たる部分にギャップを入れながら並置し、得られたアラインメント中のギャップを除くアミノ酸配列全体に対する一致したアミノ酸の割合として求められる。アミノ酸配列同士の配列同一性は、当該技術分野で公知の各種相同性検索ソフトウェアを用いて求めることができる。
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼとしては、ルシフェラーゼ活性を有する領域のN末端やC末端に、各種タグが付加されていてもよい。前記タグとしては、例えば、ヒスチジンタグ、HA(hemagglutinin)タグ、Mycタグ、及びFlagタグ等の組換えタンパク質の発現・精製において汎用されているタグを用いることができる。
[変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子]
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼをコードする遺伝子(変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子)は、野生型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子を適宜改変することにより得ることができる。本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子は、野生型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子に変異が導入されるように相当するアミノ酸をコードするコドンを改変したものであってもよく、さらに縮重コドンを宿主のコドン使用頻度の高いものに改変したものであってもよい。
本発明及び本願明細書において、「遺伝子」は、DNA又はRNAからなり、タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。また、遺伝子改変は、部位特異的変異導入、ランダム変異導入、有機合成等、当業者に周知の方法により行うことができる。
部位特異的変異導入又はランダム変異導入は、野生型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子又はこれを含有する組換えベクターを鋳型として行う。野生型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子又はこれを含有する組換えベクターは、当業者に周知の方法(例えば、「遺伝子工学実験ノート」(羊土社)、特開平1-51086号公報、特許第3048466号公報等に記載の方法)により調製することができる。また、市販のものを用いてもよい。
部位特異的変異導入は、選択プライマー及び変異誘発プライマーを用いてT4 DNAポリメラーゼにより合成する方法等、当業者に周知の方法により行うことができる。野生型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子を含有する組換えベクターを鋳型とし、選択プライマー及び変異誘発プライマーを用いて部位特異的変異導入を行う場合は、例えば、前記組換えベクター内に存在する制限酵素認識配列と一塩基異なる配列を含有するDNA断片を選択プライマーとして用いると、変異が導入されなかった組換えベクターには前記制限酵素認識配列がそのまま存在するので、対応する制限酵素で切断処理することにより、変異が導入されなかった組換えベクターを選択除去することができる。
ランダム変異導入は、例えば、マンガン及びdGTPの添加によりfidelityを低下させて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行う方法、薬剤(ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン等)を接触させる方法、紫外線を照射する方法等、当業者に周知の方法により行うことができる。ランダム変異導入を行った場合は、変異導入を行った遺伝子の塩基配列を決定することにより、目的の変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子又はこれを含有する組換えベクターを選択することができる。
変異導入を行った遺伝子の塩基配列の決定は、ジデオキシ法等、当業者に周知の方法により行うことができる。なお、各種の野生型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子(cDNA)の塩基配列は、データベース(例えば、EMBL Nucleotide Sequence Database(http://www.ebi.ac.uk/embl/))で検索することができる。
[組換えベクター]
本発明に係る組換えベクターは、本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子を含有する。
当該組換えベクターは、当業者に周知の方法に従って、本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子をプラスミド、バクテリオファージ等、宿主細胞中で複製可能なベクターに挿入することにより得ることができる。ベクターへの当該変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子の挿入は、当該変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子に適当な制限酵素認識配列を付加したDNA断片を、対応する制限酵素で消化し、得られた遺伝子断片をベクターの対応する制限酵素認識配列、又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結することにより行うことができる。
当該組換えベクターはまた、前述したように、野生型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子を含有する組換えベクターに変異を導入することによっても得ることができる。
プラスミドとしては、大腸菌由来のプラスミド(pET-28a(+)、pGL2、pBR322、pUC18、pTrcHis、pBlueBacHis等)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(YEp13、YEp24、YCp50、pYE52等)等が挙げられ、バクテリオファージとしては、λファージ等が挙げられる。
本発明に係る組換えベクターとしては、宿主細胞に導入された場合に、当該宿主細胞の発現系を利用して変異型甲虫ルシフェラーゼを発現し得るものが好ましい。このために、本発明に係る組換えベクターとしては、本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子の上流に宿主細胞内で機能する適当なプロモーターが配置された発現カセットとして組み込まれているものが好ましい。当該発現カセットには、必要に応じて、エンハンサー、ターミネーター、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、リボソーム結合配列(SD配列)等を配置することができる。
変異型甲虫ルシフェラーゼの発現カセットにおいて、変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子の上流に配置するプロモーター配列は、変異を導入する前の野生型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子と同種の生物種に由来するプロモーターであってもよく、異種の生物種に由来するプロモーターであってもよく、人工的に合成されたプロモーターであってもよい。例えば、大腸菌を宿主細胞とする場合には、変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子の発現を制御するプロモーターとしては、trpプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等が挙げられる。
本発明に係る組換えベクターは、変異型甲虫ルシフェラーゼの発現カセットに加えて、形質転換された細胞と形質転換されていない細胞の選抜を行うための選抜マーカー遺伝子をも含有していることが好ましい。当該選抜マーカー遺伝子としては、例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子が挙げられる。
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子をレポーター遺伝子として用いると、レポーターアッセイを十分に高感度に行うことができる。そのようなレポーターアッセイは、前記変異型甲虫ルシフェラーゼ遺伝子を含有する本発明に係る組換えベクターにより可能となる。
[形質転換体]
本発明に係る形質転換体は、本発明に係る組換えベクターを保有する。
本発明に係る形質転換体は、当業者に周知の方法に従って、前記組換えベクターを、宿主細胞中に導入することにより得ることができる。前記組換えベクターの宿主細胞への導入は、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、リポフェクション法、パーティクルガン法等、当業者に周知の方法により行うことができる。
宿主細胞としては、大腸菌(Escherichia coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)等の細菌、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、アスペルギルス(Aspergillus)属菌等の糸状菌、Sf9細胞、Sf21細胞等の昆虫細胞、COS細胞、CHO細胞等の哺乳細胞等が挙げられる。本発明に係る形質転換体としては、生育が速く、また、取り扱いが容易であることから、大腸菌を宿主として得られた形質転換体が好ましい。
[変異型甲虫ルシフェラーゼの製造方法]
本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼの製造方法は、本発明に係る形質転換体を培養して、培養物を得る培養工程と、前記培養工程により得られた培養物から変異型甲虫ルシフェラーゼを回収する回収工程と、を有する。当該製造方法により、本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼを得ることができる。
培養工程は、本発明に係る形質転換体を培養して、培養物を得る工程である。ここで、「培養物」は、培養上清、培養細胞、及び細胞破砕物のいずれであってもよい。
前記形質転換体は、当業者に周知の方法により培養することができる。前記形質転換体の培養に用いる培地は、例えば、宿主細胞が大腸菌、酵母等の微生物である場合は、微生物が資化しうる炭素源(グルコース、スクロース、ラクトース等)、窒素源(ペプトン、肉エキス、酵母エキス等)、無機塩類(リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等)等を含有し、宿主細胞を効率的に培養しうる培地であれば、天然培地及び合成培地のいずれであっても、また、液体培地及び固体培地のいずれであってもよい。振盪培養、撹拌培養、静置培養等のいずれを行うか、及びその他の培養条件(培養温度、培地のpH、培養時間等)は、用いる宿主細胞、培地等に応じて適宜決定することができる。例えば、宿主細胞が大腸菌である場合、培養温度は通常、30~42℃、好ましくは37℃である。培地のpHは通常、6.4~8.0、好ましくは7.0~7.4である。培養温度が37℃である場合、培養時間は通常、前培養では8~20時間、好ましくは12~16時間であり、発現誘導前の本培養では2~8時間、好ましくは2~4時間である。但し、最適な培養時間は、培養温度及び培地のpHに応じて決定される。
培地には、必要に応じて、発現誘導物質を添加することができる。そのような発現誘導物質としては、例えば、前記組換えベクターがlacプロモーターを含有する場合はイソプロピルβ-チオガラクトシド(IPTG)等が、また、trpプロモーターを含有する場合はインドールアクリル酸(IAA)等が挙げられる。
抗生物質(カナマイシン、アンピシリン等)に耐性を有するベクターを用いて前記組換えベクターを作製した場合は、当該抗生物質を培地に添加しておくことにより、抗生物質耐性を前記形質転換体の選抜マーカーとして利用することができる。
回収工程は、培養工程で得られた培養物から本発明に係る変異型甲虫ルシフェラーゼを回収する工程である。前記変異型甲虫ルシフェラーゼは、当業者に周知の方法、例えば、遠心分離により培養物から形質転換体を回収し、これに対して凍結融解処理、超音波破砕処理、又はリゾチーム等の溶菌酵素による処理を行うことにより、形質転換体から回収することができる。なお、前記変異型甲虫ルシフェラーゼは、溶液の状態で回収してもよい。
前記製造方法では、回収工程の後に、更に、回収工程で得られた前記変異型甲虫ルシフェラーゼ(粗酵素)を精製する精製工程を実施してもよい。粗酵素は、例えば、硫安沈澱、SDS-PAGE、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を各々単独で、又は適宜組み合わせて実施することにより、精製することができる。
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における294位のフェニルアラニンがバリンに置換された変異型ヘイケボタルルシフェラーゼ(変異体(F294V))、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における533位のアスパラギン酸がバリンに置換された変異型ヘイケボタルルシフェラーゼ(変異体(D533V))、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における294位のフェニルアラニンと533位のアスパラギン酸がいずれもバリンに置換された変異型ヘイケボタルルシフェラーゼ(変異体(F294V+D533V))を製造し、そのルシフェラーゼ活性(発光強度)を測定した。
また、比較対象として、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における290位のバリンがイソロイシンに、378位のロイシンがプロリンに、490位のグルタミン酸がバリンに、それぞれ置換された変異型ヘイケボタルルシフェラーゼ(変異体(290I+378P+490V))を製造し、そのルシフェラーゼ活性(発光強度)を測定した。
<変異型ヘイケボタルルシフェラーゼ遺伝子を含有する組換えベクターの作製>
まず、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼ遺伝子(cDNA)(配列番号4)を鋳型とし、制限酵素NcoI認識配列を含有するプライマーと制限酵素XhoI認識配列を含有するプライマーとTITANIUM Taq DNAポリメラーゼ(Clontech社製)を用いてPCRを行い、両端に制限酵素認識配列が付加されている野生型ヘイケボタルルシフェラーゼ遺伝子を含有するDNA断片を得た。得られたDNA断片の塩基配列は、DTCS Quick Start Master Mix キット及び泳動解析装置CEQ8000(いずれもBeckman Coulter社製)を用いて決定した。当該DNA断片を制限酵素NcoI及びXhoIで切断し、これを、予めNcoI及びXhoIで切断したプラスミド(pET-28a(+) plasmid DNA(Novagen社製))に、DNA Ligation Kit(BioDynamics Laboratory社製)を用いて組み込み、C末端側にヒスチジンタグが付加された野生型ヘイケボタルルシフェラーゼを発現させるための組換えベクターを製造した。なお、pET-28a(+) は、T7プロモーター及びT7ターミネーターを含有し、発現する目的タンパク質のC末端側にヒスチジンタグが付加されるように、クローニング部位の近傍にヒスチジンタグをコードする遺伝子を含有するベクターである。
次に、得られた組換えベクターを鋳型として、Transformer部位特異的突然変異誘発キット(Clontech社製)を用いて部位特異的変異導入を行った。選択プライマーとしては、pET-28a(+) 中の制限酵素FspI認識配列と一塩基異なる塩基配列を含有するプライマーを用いた。なお、選択プライマーと各変異体の遺伝子を得るための変異誘発プライマーは、予めT4ポリヌクレオチドキナーゼ(TOYOBO社製)で5’末端をリン酸化しておいた。
Transformer部位特異的突然変異誘発キット添付のT4DNAポリメラーゼ及びT4DNAリガーゼを用いて、組換えプラスミドを合成した。リガーゼ反応後の反応物を制限酵素FspIで切断処理した後、FspIで切断されなかった組換えプラスミドを大腸菌のミスマッチ修復欠損株BMH71-18mutSに導入し、大腸菌を培養した。得られた組換えプラスミドを更にFspIで切断処理し、FspIで切断されなかった組換えプラスミドを、変異が導入された組換えベクターとして選択した。
変異が導入された組換えベクター中の変異型ヘイケボタルルシフェラーゼ遺伝子(DNA)の塩基配列は、DTCS Quick Start Master Mix キット及び泳動解析装置CEQ8000(いずれもBeckman Coulter社製)を用いて決定した。これにより、目的の変異体をコードする遺伝子が組み込まれた組換えベクターが製造された。変異体(F294V)をコードする塩基配列を配列番号5に、変異体(D533V)をコードする塩基配列を配列番号6に、変異体(F294V+D533V)をコードする塩基配列を配列番号7に、変異体(290I+378P+490V)をコードする塩基配列を配列番号8に、それぞれ示す。
<形質転換大腸菌の作製>
各変異型ヘイケボタルルシフェラーゼ遺伝子を含有する組換えベクターを、塩化カルシウム法により、ゲノムDNA中にT7 RNAポリメラーゼ遺伝子が組み込まれている大腸菌HMS174(DE3)株(Novagen社製)に導入し、この大腸菌を、30μg/mL カナマイシン含有選択寒天培地上で平板培養し、形質転換大腸菌を選抜した。
<変異型ヘイケボタルルシフェラーゼの回収及び精製>
カナマイシン選抜された形質転換大腸菌を、振盪培養機(高崎科学器械社製)を用いて、37℃の下、200mLの2×YT培地(30μg/mL カナマイシンを含有する。)中で2.5時間振盪培養した後、培地中のIPTG濃度が0.1mMになるように100mM IPTGを200μL加え、25℃で6時間発現誘導を行った。なお、IPTGは、lacリプレッサーによる発現抑制を解除し、T7 RNAポリメラーゼを誘導する発現誘導物質である。
培養液を8000rpmで5分間遠心分離することにより大腸菌の菌体を回収し、-20℃で凍結し、保存した。凍結菌体を結合バッファー(500mM NaCl及び20mM イミダゾールを含有する20mM NaHPO(pH7.4))5mLで融解し、懸濁させた後、超音波で破砕した。得られた菌体破砕液を9000rpmで30分間遠心分離し、変異型ヘイケボタルルシフェラーゼ(粗酵素)の溶液として上清を回収した。
発現した変異型ヘイケボタルルシフェラーゼのC末端側にヒスチジンタグが付加されていることから、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーを用いて粗酵素の精製を行った。まず、Ni Sepharose 6 Fast Flow(アマシャムバイオサイエンス社製)0.5mLをカラム(PIERCE社製 Disposable Polystyrene Column)に充填し、結合バッファーで平衡化した。次に、粗酵素の溶液5mLをカラムに加え、結合バッファーで洗浄後、溶出バッファー(500mM NaCl及び500mM イミダゾールを含有する20mM NaHPO(pH7.4))2.5mLで変異型ヘイケボタルルシフェラーゼを溶出させた。更に、PD-10 Desalting column(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて、溶出バッファーを反応バッファー(10mM MgClを含有する50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4))3.5mLに置換した。こうして、精製した変異型ヘイケボタルルシフェラーゼを得た。
<変異型ヘイケボタルルシフェラーゼの発光強度の測定>
得られた変異型ヘイケボタルルシフェラーゼのタンパク質定量は、Bradford法に基づく Bio-Rad Protein Assay(BIORAD社製)を用いて、IgGを標準として行った。変異型ヘイケボタルルシフェラーゼ(20μg/mL)を含有する反応バッファー50μLを96穴ウェルプレート(Nunc社製 ルミヌンクプレート)に加えた後、マイクロプレートリーダー(Perkin-Elmer社製 ARVO MX)付属のインジェクターを用いて、塩化ナトリウム含有基質バッファー(1.8質量% 塩化ナトリウム、2×10-6M D-ホタルルシフェリン(和光純薬工業社製)、2×10-7M ATP、及び10mM MgClを含有する50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4))50μL又は塩化ナトリウム不含基質バッファー(2×10-6M D-ホタルルシフェリン(和光純薬工業社製)、2×10-7M ATP、及び10mM MgClを含有する50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4))50μLを加えた。次いで、前記マイクロプレートリーダーで発光強度を測定した。塩化ナトリウム含有基質バッファーを添加した反応溶液の塩化ナトリウムの終濃度は0.9質量%であった。野生型ヘイケボタルルシフェラーゼについても、変異型ヘイケボタルルシフェラーゼ遺伝子を含有する組換えベクターの代わりに、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼ遺伝子(cDNA)を含有する組換えベクターを用いたこと以外は、変異型ヘイケボタルルシフェラーゼと同様にして、形質転換大腸菌を作製し、酵素の採取及び精製を行い、酵素の発光強度を測定した。
野生型及び各変異体について、発光強度の測定値から、残存活性(%)を算出した。算出結果を表1に示す。表1中、「No NaCl」の欄は塩化ナトリウムを含有させなかった反応溶液の発光強度の測定値を示し、「+0.9% NaCl」の欄は、0.9質量%の塩化ナトリウムを含有させた反応溶液の発光強度(Relative Light Unit;RLU)の測定値を示す。
Figure 0007385134000001
この結果、野生型では、残存活性が21%程度と非常に低く、塩化ナトリウムによる発光阻害が大きかった。また、既知の3個の変異を導入した変異体(290I+378P+490V)では、0.9質量%の塩化ナトリウム存在下における発光強度が野生型よりも発光強度が強く、ルシフェラーゼ活性の残存活性が46%であり、野生型よりも耐塩性が向上することが確認された。これに対して、変異体(F294V)と変異体(D533V)は、1個の変異しか導入されていないにもかかわらず、残存活性はそれぞれ66%、55%であり、変異体(290I+378P+490V)よりも耐塩性は向上していた。また、これらの2個の変異を共に導入した変異体(F294V+D533V)は、さらに残存活性が84%と高く、耐塩性に非常に優れていた。

Claims (7)

  1. 野生型甲虫ルシフェラーゼに変異が導入された変異型甲虫ルシフェラーゼであり、
    野生型甲虫ルシフェラーゼのアミノ酸配列において、少なくとも下記(a)及び(b)からなる群より選択される1種以上の変異を有しており、
    0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中におけるルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応による発光強度が、塩化ナトリウム非含有溶液中における発光強度の50%以上であることを特徴とする、変異型甲虫ルシフェラーゼ。
    (a)配列番号2で示される野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における294位のフェニルアラニンに相当するフェニルアラニンがバリンである変異、
    (b)配列番号2で示される野生型ヘイケボタルルシフェラーゼのアミノ酸配列における533位のアスパラギン酸に相当するアスパラギン酸がバリンである変異。
  2. 前記野生型甲虫ルシフェラーゼが、野生型ヘイケボタルルシフェラーゼである、請求項1に記載の変異型甲虫ルシフェラーゼ。
  3. 0.9質量%の塩化ナトリウム溶液中におけるルシフェリン-ルシフェラーゼ発光反応による発光強度が、野生型甲虫ルシフェラーゼの発光強度よりも大きい、請求項1又は2に記載の変異型甲虫ルシフェラーゼ。
  4. 請求項1~3のいずれか一項に記載の変異型甲虫ルシフェラーゼをコードする遺伝子。
  5. 請求項4に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
  6. 請求項5に記載の組換えベクターを保有する形質転換体。
  7. 請求項6に記載の形質転換体を培養して、培養物を得る培養工程と、
    前記培養工程により得られた培養物から変異型甲虫ルシフェラーゼを回収する回収工程と、
    を有する、変異型甲虫ルシフェラーゼの製造方法。
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