JP7368166B2 - オイルリングの形状作り込み方法、オイルリング - Google Patents

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Description

特許法第30条第2項適用 集会名:日本機械学会 第29回内燃機関シンポジウム、発表日:2018年11月27日 集会名:自動車技術会 燃料潤滑油部門委員会、発表日:2018年12月19日 集会名:日本機械学会 RC分科会、発表日:2019年6月21日
本発明は、シリンダとピストンを有する内燃機関におけるオイルリングの外周面の形状の作りこみ方法等に関する。
エンジンの燃費低減には、ピストンリングとシリンダボア間の摩擦低減が有効である。近年、ピストンリングに対して低摩擦係数材となるPVD処理による窒化クロムコーティングやDLCコーティング等を施して摩擦低減を図ったり、潤滑油の添加剤を利用して摩擦係数を低下させることが行われている。この思想は、摩擦力の大部分が、境界潤滑領域又は固体接触領域で発生していることを前提としている。
ちなみに、近年のピストンリングは、摺動面を断面V字形状(強いバレル形状)とすることで、ピストンリングの外周面におけるシリンダボアとの実当たり幅を極端に小さくし、その表面を耐摩耗性の高い材料で被覆することで、硬度を高めつつ摩擦係数を小さくしている。このような近年のピストンリングを、ここでは「V字状リング(Over strong covex shaped Piston Ring, or High Barrel shaped Piston Ring)」と定義する。このV字状リングの場合、潤滑油に対して流体潤滑機能を求めることはなく、摩擦力に限って言えば、低粘度ほど良いことになる。従って、近年のガソリンエンジン等の内燃機関では、潤滑油の低粘度化が進展している。ガスシール性とLOCの観点では、V字形状の局所的な実当たり面を、極端に高面圧状態にすることで、良好化を図っている。換言すると、実当たり幅を狭めることでガスシール性と摩擦力の低下を両立させる。一方、実当たり面の高面圧化による摩耗に耐える必要があり、既に述べた高硬度被膜が必要となる。
一方、近年のV字状リングが採用される前の昔のピストンリングは、材質に鋳鉄を採用したり、摺動面に対してCrめっきを施すことが一般的であった。これらは低硬度となるが故に、内燃機関の初期運転時に「なじみ」と呼ばれる微小摩耗が発生する。この微小摩耗によって、ピストンリングの摺動面が、きわめて緩やかな凸形状(弱いバレル形状)となり、シリンダボアとの間を流体潤滑領域にすることで、ガスシール性、耐摩耗性等を発揮する。この旧来のピストンリングを、「なじみ状リング(Running-in Piston Ring, or Proper Shaped Piston Ring by Running-in)」と定義する。
この「なじみ」について図16を参照して説明する。ピストンリングRの摺動面は、エンジン運転の初期摩耗(なじみ)によって形成される実当たり幅fの内部に、寸法eとなる微小なダレ形状が自然に形成される。この寸法eは、実当たり幅fの1/1000程度に収束すると言われている。ピストンリングRとシリンダボアB間の摺動速度の増加に伴い、ダレ形状のくさび効果によって潤滑油Oを巻き込んで圧力Pを生じさせることで、流体潤滑領域の摺動となる。ちなみに、ピストンリングRの移動方向Dを基準として、実当たり面の手前側は低圧P2、実当たり面の先側は高圧P1となる。
なじみリングでは、Crめっき処理、窒化処理、軟質樹脂被覆などによって、少なくとも外周面を軟質状態とする。潤滑中の油膜中に圧力を生じさせるためには、実当たり幅f中の凸形状におけるバレル高さ(寸法e)は、低くするほうが好ましい。一方で、実当たり幅fを大きく確保しすぎると、面圧が低下することによって、初期運転によるなじみが発現しにくくなる(摩耗し難くなる)。
なじみリングでは、当たり面とシリンダボアとの間に生じる面圧を適切に設定することが重要である。しかし、3ピースオイルリングの場合、サイドレールをスペーサエキスパンダに装着すると、スペーサエキスパンダの耳角度等によってサイドレールが内側に倒れこむ。結果、サイドレールの当たり面とシリンダボアが適切な接触角度にならない結果、面圧も適切に設定できないという問題があった。
本発明は、斯かる実情に鑑み、サイドレールの外周面の形状を適切に作りこむことで、更なる燃費向上やオイル消費量削減を実現しようとするものである。
上記目的を達成する本発明は、内燃機関のピストンに設置され、第1及び第2サイドレール並びに前記第1及び第2サイドレールを保持する保持部材を有する3ピースタイプのオイルリングの形状作り込み方法であって、前記保持部材から独立した状態の前記第1サイドレールの第1外周面及び前記第2サイドレールの第2外周面を、研磨工具によって研磨することで、前記第1外周面及び前記第2外周面に対して径方向外側に凸となる初期バレル形状を作り込む初期研磨工程と、前記初期研磨工程を経た前記第1及び第2サイドレールを前記保持部材と共に前記ピストンに組み込むことにより、前記第1外周面及び前記第2外周面を前記第1及び第2サイドレールの幅方向に傾けて、前記第1外周面及び前記第2外周面を互いに接近させる組み込み工程と、前記組み込み工程を経た前記オイルリングを前記内燃機関のシリンダと摺動させることで、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向外側領域を、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向内側領域よりも多く摩滅させて、前記第1外周面及び前記第2外周面に対して径方向外側に凸となる最終バレル形状を作り込むなじみ運転工程と、を備えることを特徴とするオイルリングの形状作り込み方法である。
上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記保持部材から独立した状態の前記第1サイドレールの前記第1外周面及び前記第2サイドレールの前記第2外周面に対して、前記なじみ運転工程で摩滅可能な軟質層を形成する軟質層形成工程を備えることを特徴とする。
上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記軟質層形成工程において、前記軟質層の厚さを3μm以上とすることを特徴とする。
上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記なじみ運転工程後において、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向外側縁の前記軟質層の残存厚さが、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向内側縁の前記軟質層の残存厚さよりも小さいことを特徴とする。
上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記なじみ運転工程において、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向外側縁の摩滅量が、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向内側縁の摩滅量に対して、1μm以上大きいことを特徴とする。
なお、上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記初期研磨工程における最大研磨代と比較して、前記なじみ運転工程の最大摩滅代のほうが大きくなるようにしてもよい。
上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記なじみ運転工程後において、前記シリンダに対して前記第1外周面及び前記第2外周面が接触し得るの軸方向の実当たり幅が0.15mm以上となることを特徴とする。
上記目的を達成する本発明は、内燃機関のピストンに設置され、第1及び第2サイドレール並びに前記第1及び第2サイドレールを保持する保持部材を有する3ピースタイプのオイルリングの形状作り込み方法であって、前記保持部材又は該保持部材と近似する治具に前記第1及び第2サイドレールを組み込むことにより、前記第1外周面及び前記第2外周面を前記第1及び第2サイドレールの幅方向に傾けて、前記第1外周面及び前記第2外周面を互いに接近させる事前組み込み工程と、研磨工具を利用することで、前記第1外周面及び前記第2外周面の前記オイルリングの軸方向外側領域を、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向内側領域よりも多く研磨して、前記第1外周面及び前記第2外周面に対して径方向外側に凸となる初期バレル形状を作り込む初期研磨工程と、前記初期研磨工程を経た前記第1及び第2サイドレールを前記保持部材と共に前記ピストンに組み込む最終組み込み工程と、前記最終組み込み工程を経た前記オイルリングを前記内燃機関のシリンダと摺動させることで前記第1外周面及び前記第2外周面を摩滅させて、前記第1外周面及び前記第2外周面に対して径方向外側に凸となる最終バレル形状を作り込むなじみ運転工程と、を備えることを特徴とするオイルリングの形状作り込み方法である。
上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記初期研磨工程において、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向外側縁の研磨量が、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向内側縁の研磨量に対して、1μm以上大きいことを特徴とする。
上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記保持部材から独立した状態の前記第1サイドレールの前記第1外周面及び前記第2サイドレールの前記第2外周面に対して、前記なじみ運転工程で摩滅可能な軟質層を形成する軟質層形成工程を備えることを特徴とする。
上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記軟質層形成工程は、前記初期研磨工程よりも前に実行され、前記初期研磨工程後且つ前記なじみ運転前において、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向外側縁の前記軟質層の残存厚さが、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向内側縁の前記軟質層の残存厚さよりも小さいことを特徴とする。
なお、上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記初期研磨工程における最大研磨代と比較して、前記なじみ運転工程の最大摩滅代のほうが小さくなるようにしてもよい。
上記オイルリングの形状作り込み方法に関連して、前記なじみ運転工程後において、前記シリンダに対して前記第1外周面及び前記第2外周面が接触し得るの軸方向の実当たり幅が0.15mm以上となることを特徴とする。
上記目的を達成する本発明は、内燃機関のピストンに設置され、第1及び第2サイドレール並びに前記第1及び第2サイドレールを保持する保持部材を有する3ピースタイプのオイルリングであって、前記保持部材から独立した状態の前記第1サイドレールの第1外周面における径方向外側に最も突出する第1頂点の位置と、前記第1外周面に形成される前記ピストンリングの当たり面の前記オイルリングの軸方向外側縁の位置の径方向差が、1.5μm~5.0μmとなることを特徴とするオイルリングである。
本発明によれば、燃費を向上させ、または、オイル消費量を削減させるという優れた効果を奏し得る。
(A)は、 本発明の実施形態に係るオイルリングの形状作り込み方法が適用されるピストン及びピストンリングを示す側面図であり、(B)は同ピストン及びピストンリングを示す部分拡大断面図であり、(C)はトップリングの部分拡大断面図であり、(D)はセカンドリングの部分拡大断面図である。 同ピストンリングのトップリングの部分拡大断面図である。 (A)は3ピースタイプのオイルリングの断面図であり、(B)は2ピースタイプのオイルリングの断面図である。 一般的な内燃機関の摺動に関するストライベック線図である。 本実施形態の実施例の摺動状態を測定する摩擦単体測定装置を示す断面図である。 比較例となるピストンリングの外周面の部分拡大断面図である。 (A)は実施例1の内燃機関の摺動構造の摩擦力の実測結果を示す線図であり、(B)は比較例1の内燃機関の摺動構造の摩擦力の実測結果を示す線図である。 (A)は実施例1のピストンリングの外周面の軸方向プロフィールを示す線図であり、(B)は比較例1のピストンリングの外周面の軸方向プロフィールを示す線図である。 (A)は実施例1のピストンリングの外周面の周方向プロフィールを示す線図であり、(B)は比較例1のピストンリングの外周面の周方向プロフィールを示す線図である。 実施例1の内燃機関の摺動構造の絶縁試験結果を示す線図である。 (A)は実施例1及び比較例1のピストンリングの摩擦力をシミュレーションした結果を示す線図であり、(B)は実施例1及び比較例1のトップリングの油膜厚さをシミュレーションした結果を示す線図であり、(C)は実施例1及び比較例1のトップリングのガス通過量をシミュレーションした結果を示す線図である。 実施例2及び比較例2のピストンリングの摩擦力の実測結果を示す線図である。 実施例2及び比較例2のオイルリング単体の摩擦力の実測結果を示す線図である。 (A)は実施例2及び比較例2のオイルリングの実当たり幅とFMEPの関係について、実測値とシミュレーション結果を示す線図であり、(B)は、粗さを考慮した実当たり幅とFMEPのシミュレーション結果について、流体潤滑と固体接触に分離した状態を示す線図である。 実施例2及び比較例2のオイルリング単体のFMEPの時間変化を測定した結果を示す線図である。 ピストンリングとシリンダボアの流体潤滑状態を説明する図である。 3ピースタイプのピストンリングの外周面の形状を作り込む第1詳細手順を説明するフローチャートである。 (A)ないし(D)は、3ピースタイプのピストンリングの外周面の形状を示す部分拡大断面図である。 3ピースタイプのピストンリングの外周面の形状を作り込む第2詳細手順を説明するフローチャートである。 (A)ないし(D)は、3ピースタイプのピストンリングの外周面の形状を示す部分拡大断面図である。 形状を作り込む途中における3ピースタイプのピストンリングの外周面の形状を示す部分拡大断面図である。 (A)及び(B)は、形状の作り込みが完了した3ピースタイプのピストンリングを分解した際の外周面の形状を示す部分拡大断面図である。
以下、本発明の実施の形態に係るオイルリングの形状作り込み方法について添付図面を参照して説明する。
まず、本実施形態のオイルリングの形状作り込み方法によって完成するオイルリングを備えた内燃機関の摺動構造について説明する。
<ピストン及びピストンリングの構造>
図1(A)及び図1(B)に、ガソリンエンジンの一部として、ピストン30及びこのピストン30のリング溝に設置されるピストンリング40(トップリング50、セカンドリング60、オイルリング70)を示す。ピストンリング40は、シリンダボア10の内壁面12に対して、外周面42が対向する状態でシリンダ軸方向に往復運動する。トップリング50は、ピストン30とシリンダボア10との間のすき間を無くし、燃焼室からクランクケース側へと圧縮ガスが抜けるガス漏洩現象(ブローバイ/BrowBy)を防ぐ。セカンドリング60は、トップリング50と同様に、ピストン30とシリンダボア10との間のすき間を無くす役割と、シリンダボア10の内壁面12に付着する余分なエンジンオイルをかき落とす役割を兼ねる。なお、トップリング50及びセカンドリング60を、コンプレッションリングと称する場合もある。
オイルリング70は、シリンダボア10の内壁面12についている余分なエンジンオイルをかき落として、適度な油膜を形成することで、ピストン30の焼きつきを防止する。
<トップリングの形状>
図1(C)に拡大して示すように、トップリング50は、単一の環状部材であり、外周面52を断面視すると、径方向外側に緩やかな凸となる、いわゆる弱バレル形状となっている。なお、図1(C)では、説明の便宜上、軸方向の寸法に対して径方向の寸法を大幅に誇張することで、外周面の凸形状が強調されるようにしている。
トップリング50の厚さ(径方向幅)aは、例えば4.0mm以下に設定され、望ましくは3.0mm以下とする。幅(軸方向幅)hは、例えば2.0mm以下に設定され、望ましくは1.5mm以下とする。
外周面52の軸方向の一部には、実当たり面53が形成される。実当たり面53は、軸方向の中央近傍において内壁面12とほぼ平行となる中央面55と、中央面55の軸方向両外側に位置する一対の傾斜面54,54を有する。傾斜面54,54は、シリンダ軸方向の外側に向かって内壁面12から離れる方向に傾斜する。
トップリング50が内壁面12に対して往復摺動する際に、外周面52が微細に傾斜したり、変形したりする。実当たり面53は、その傾斜や変形を伴いつつ、実質的に内壁面12と接触し得る領域を意味する。なお、この傾斜面54,54の傾斜は、いわゆるダレ形状と称されており、ピストン30及びピストンリング40をなじみ運転し、その接触摩耗によって生成される形状となる。
外周面52の突端を基準とした、傾斜面54,54の最大離反距離(ダレ量)eは、実当たり面53の軸方向の実当たり幅fの1/2000~1/500となるように設定され、より好ましくは1/1500~1/500とする。本実施形態では、1/1000程度としている。
実当たり幅fの寸法は、なじみ運転後のトップリング50を取り外し、微細な傷(摩耗痕)が形成される帯状の範囲を実測すれば良い。この実当たり幅fは0.15mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは、0.3mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.3mmよりも大きく設定し、一層望ましくは0.4mm以上とする。
ちなみに、実測から得られる実当たり幅fではなく、図2に示すように、トップリング50の外周面52の輪郭形状から定義される仮想実当たり幅gを用いても良い。トップリング50において、最も径方向外側に位置する縁(最外周縁)Zから、径方向内側にx=0.5μmオフセットした基準円筒Cを設定し、外周面52においてこの基準円筒Cよりも外側に位置する範囲を、ピストンリングの仮想実当たり面56として定義する。この仮想実当たり面56の軸方向の幅が、仮想実当たり幅gとなる。本実施形態では、この仮想実当たり面における軸方向の仮想実当たり幅が0.15mm以上とする。仮想実当たり面56及び仮想実当たり幅gを算出する場合、設計上における外周面53の形状から算出したり、又は、トップリング50の外周面52の輪郭形状を実測してその値から算出できる。特になじみ運転後のピストンリングの仮想実当たり幅gを算出する場合、なじみ運転後のトップリング50の外周面形状を実測する必要がある。なお、図2では、トップリング50を例示するが、以降、セカンドリング60、オイルリング70でも同様の定義を用いる。
トップリング50において仮想実当たり幅gは、0.05mm以上、望ましくは0.10mm以上、さらに望ましくは0.15mm以上に形成する。より望ましくは、0.3mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.3mmよりも大きく設定し、一層望ましくは0.4mm以上とする。
なじみ運転によって積極的にダレ形状を形成するために、外周面52の表面硬さを1500Hv以下にすることが好ましく、ここでは1200Hvとする。外周面52にCrめっき処理を施すことが好ましく、適度なダレ形状が形成される。
<セカンドリングの形状>
図1(D)に拡大して示すように、セカンドリング60は、単一の環状部材であり、外周面62を断面視すると、いわゆるテーパ形状となっている。このテーパ形状の先端側の平面は、径方向外側に緩やかな凸となるいわゆる弱バレル形状となっている。なお、図1(D)では、説明の便宜上、軸方向の寸法に対して径方向の寸法を大幅に誇張することで、外周面の凸形状が強調されるようにしている。
セカンドリング60の厚さ(径方向幅)aは、例えば4.0mm以下に設定され、望ましくは3.0mm以下とする。幅(軸方向幅)hは、例えば2.0mm以下に設定され、望ましくは1.5mm以下とする。トップリング50と同様に、外周面62の軸方向の一部には、実当たり面63が形成される。実当たり面63は、軸方向の中央近傍において内壁面12とほぼ平行となる中央面65と、中央面65の軸方向両外側に位置する一対の傾斜面64,64を有する。傾斜面64,64は、シリンダ軸方向の外側に向かって内壁面12から離れる方向に傾斜する。なお、この傾斜面64,64の傾斜は、いわゆるダレ形状と称されており、ピストン30及びピストンリング40をなじみ運転し、その接触摩耗によって形成される形状となる。
外周面62の突端を基準とした、傾斜面64,64の最大離反距離(ダレ量)eは、実当たり面63の軸方向の実当たり幅fの1/2000~1/500となるように設定され、より好ましくは1/1500~1/500とする。本実施形態では、1/1000程度としている。
実当たり幅fの寸法は、なじみ運転後のセカンドリング60を取り外して、その表面の摩耗状態を実測すれば良い。この実当たり幅fは、0.15mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは、0.3mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.3mmよりも大きく設定し、一層望ましくは0.4mm以上とする。
また、仮想実当たり幅gは、0.15mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは、0.3mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.3mmよりも大きく設定し、一層望ましくは0.4mm以上とする。
なじみ運転によって積極的にダレ形状を形成するために、外周面62の表面硬さを1500Hv以下にすることが好ましく、ここでは1200Hvとする。外周面62にCrめっき処理を施すことが好ましく、適度なダレ形状が形成される。
なお、コンプレッションリングとなるトップリング50とセカンドリング60の双方を、上記条件に設定ことは必須ではなく、いずれか一方を上記条件に設定すればよい。その際、好ましくはトップリング50側を上記条件に設定することで、セカンドリング60は、外周面が高硬度のリング(なじみ運転による摩耗が殆ど生じないリング)を採用しても良い。
<オイルリングの形状>
図3(A)に拡大して示すオイルリング70は、3ピースタイプのオイルリングである。このオイルリング70は、上下に分離している環状のサイドレール73a,73bと、このサイドレール73a,73bの間に配置されるスペーサエキスパンダ76sを有する。
スペーサエキスパンダ76sは、鋼材をシリンダ軸方向に凹凸を繰り返す波形形状に塑性加工して形成される。この波型形状を利用して、上方側支持面78aと下方側支持面78bが形成され、一対のサイドレール73a,73bがそれぞれ軸方向に支持される。スペーサエキスパンダ76sの内周側端部には、軸方向外側に向かってアーチ状に立設される耳部74mを有する。この耳部74mは、サイドレール73a,73bの内周面に当接する。なお、スペーサエキスパンダ76sは、合口が付き合わされて、周方向に収縮状態でピストン30のリング溝に組み込まれる。結果、スペーサエキスパンダ76sの復元力によって、耳部74mがサイドレール73a,73bを径方向外側に押圧付勢する。この付勢を受けると、点線に示されるように、サイドレール73a,73bが、オイルリング70の軸方向(組み合わせ呼び幅方向)の内側に傾斜する。つまり、一対の外周面82,82がその分だけ接近することになる。
オイルリング70の組み合わせ径方向厚さa11(図1(B)参照)は、例えば4.0mm以下に設定され、望ましくは3.0mm以下とする。組み合わせ軸方向幅(呼び幅)h(図1(B)参照)は、例えば4.0mm以下に設定され、望ましくは2.0mm以下とする。サイドレール73a,73bの単体の厚さ(径方向幅)a(図1(B)参照)は、例えば4.0mm以下に設定され、望ましくは3.0mm以下とする。単体の幅(軸方向幅)h12(図1(B)参照)は、例えば1.0mm以下に設定され、望ましくは0.5mm以下とし、さらに好ましくは0.4mm以下とする。
図3(A)の領域Oに更に拡大して示すように、サイドレール73a,73bの各々の外周面82は、径方向外側に緩やかな凸となるいわゆる弱バレル形状となっている。なお、領域Oでは、説明の便宜上、軸方向の寸法に対して径方向の寸法を大幅に誇張することで、外周面の凸形状が強調されるようにしている。トップリング50やセカンドリング60と同様に、外周面82の軸方向の一部に実当たり面83が形成される。実当たり面83は、軸方向の中央近傍において内壁面12とほぼ平行となる中央面85と、中央面85の軸方向両外側に位置する一対の傾斜面84,84を有する。傾斜面84,84は、シリンダ軸方向の外側に向かって内壁面12から離れる方向に傾斜する。なお、この傾斜面84,84の傾斜は、いわゆるダレ形状と称されており、ピストン30及びピストンリング40をなじみ運転し、その接触摩耗によって形成される形状となる。
外周面82の突端を基準とした、傾斜面84,84の最大離反距離(ダレ量)eは、各実当たり面83の軸方向の実当たり幅fの1/2000~1/500となるように設定され、より好ましくは1/1500~1/500とする。本実施形態では、1/1000程度としている。
実当たり幅fの寸法は、なじみ運転後のオイルリング70を取り外して、各サイドレール73a,73bの表面の摩耗状態を実測すれば良い。この実当たり幅fは0.10mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは0.15mm以上に形成し、さらに望ましくは0.2mm以上とし、一層望ましくは0.2mmよりも大きく設定し、より一層望ましくは0.3mm以上とする。即ち、一対の外周面82、82の実当たり幅fを合計した総実当たり幅Fは、0.2mm以上に形成されることが好ましく、より望ましくは0.3mm以上に形成し、さらに望ましくは0.4mm以上とし、一層望ましくは0.4mmよりも大きく設定し、より一層望ましくは0.6mm以上とする。
また、各サイドレール73a,73bの仮想実当たり幅gは、0.10mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは0.15mm以上に形成し、さらに望ましくは0.2mm以上とし、一層望ましくは0.2mmよりも大きく設定し、より一層望ましくは0.3mm以上とする。即ち、一対の外周面82、82の仮想実当たり幅gを合計した総仮想実当たり幅Gは、0.2mm以上に形成されることが好ましく、より望ましくは0.3mm以上に形成し、さらに望ましくは0.4mm以上とし、一層望ましくは0.4mmよりも大きく設定し、より一層望ましくは0.6mm以上とする。
なじみ運転によって積極的にダレ形状を形成するために、外周面82の表面硬さを1500Hv以下にすることが好ましく、ここでは1200Hvとする。外周面82にCrめっき処理を施すことが好ましく、適度なダレ形状が形成される。
なお、参考ではあるが、オイルリング70は3ピースタイプに限られず、例えば図3(B)に拡大して示す2ピースタイプのオイルリング70も存在する。このオイルリング70は、リング本体72と、コイルばね状のコイルエキスパンダ76Cを有する。リング本体72は、軸方向両端に配置される環状の上方側レール73A及び下方側レール73Bと、この上方側レール73A及び下方側レール73Bの間に配置されてこれらを連結する環状の柱部75を一体的に有する。一対の上方側レール73A及び下方側レール73B及び柱部75を合わせた断面形状は略I形状又はH形状となっており、この形状を利用して、内周面側には、コイルエキスパンダ76Cを収容するための断面半円弧形状の内周溝79が形成される。また、上方側レール73A及び下方側レール73Bには、それぞれ、柱部75を基準として径方向外側に突出する上方側環状突起74A及び下方側環状突起74Bが形成される。この上方側環状突起74A及び下方側環状突起74Bの突端に形成される上方側外周面81A及び下方側外周面81Bの一部が、シリンダボア10の内壁面12と当接する。コイルエキスパンダ76Cは、内周溝79に収容されることで、リング本体72を径方向外側に押圧付勢する。なお、リング本体72の柱部75には、油戻し孔77が、周方向に複数形成される。
図3(B)の領域Oに更に拡大して示すように、上方側外周面81A及び下方側外周面81Bは、リング本体72に一体的に形成されていることから、両外周面81A,81Bを合わせて単一外周面81と定義できる。なお、単一外周面81の中央には隙間Sが形成される。
単一外周面81は、径方向外側に緩やかな凸となるいわゆる弱バレル形状となっている。なお、領域Oでは、説明の便宜上、軸方向の寸法に対して径方向の寸法を大幅に誇張することで、外周面の凸形状が強調されるようにしている。トップリング50やセカンドリング60と同様に、単一外周面81の軸方向の一部に、上方側実当たり面83A及び下方側実当たり面83Bが形成される。上方側実当たり面83Aは、単一外周面81の軸方向の中央近傍において内壁面12とほぼ平行となる上方側中央面85Aと、上方側中央面85Aの軸方向上側に位置する上方側傾斜面84Aを有する。下方側実当たり面83Bは、単一外周面81の軸方向の中央近傍において内壁面12とほぼ平行となる下方側中央面85Bと、下方側中央面85Bの軸方向下側に位置する下方側傾斜面84Bを有する。なお、上方側中央面85A及び下方側中央面85Bの間には隙間が形成される。上方側傾斜面84A及び下方側傾斜面84Bは、シリンダ軸方向の外側に向かって内壁面12から離れる方向に傾斜する。なお、上方側傾斜面84A及び下方側傾斜面84Bの傾斜は、いわゆるダレ形状と称されており、ピストン30及びピストンリング40をなじみ運転し、その接触摩耗によって形成される形状となる。
上方側傾斜面84A及び下方側傾斜面84Bにおける内壁面12からの最大距離eは、上方側実当たり面82Aの上方側実当たり幅f1及び下方側実当たり面82Bの下方側実当たり幅f2の合計値となる総実当たり幅Fの1/2000~1/500となるように設定され、より好ましくは1/1500~1/500とする。本実施形態では、1/1000程度としている。
なお、上方側実当たり幅f1及び下方側実当たり幅f2の寸法は、なじみ運転後のオイルリング70を取り外して、上方側外周面82A及び下方側外周面82Bの表面の摩耗状態を実測すれば良い。この上方側実当たり幅f1及び下方側実当たり幅f2のそれぞれは、0.15mm以上に形成することが好ましい。より望ましくは0.2mm以上に形成し、さらに望ましくは、0.2mmよりも大きく設定し、一層望ましくは0.3mm以上とする。即ち、上方側実当たり幅f1及び下方側実当たり幅f2を合計した総実当たり幅Fは、0.3mm以上に形成されることが好ましく、より望ましくは0.4mm以上に形成し、さらに望ましくは0.4mmよりも大きく設定し、一層望ましくは0.6mm以上とする。
なじみ運転によって積極的にダレ形状を形成するために、上方側外周面82A及び下方側外周面82Bの表面硬さを1500Hv以下にすることが好ましく、ここでは1200Hvとする。上方側外周面82A及び下方側外周面82BにCr被膜が形成すると、適度なダレ形状が形成される。
なお、2ピースタイプのオイルリング70の場合、上方側レール73A及び下方側レール73Bが柱部75によって一体化されているので、3ピースタイプのような倒れ込み現象が生じない。従って、本実施形態のオイルリングの作り込み方法を適用する必要がない。
<シリンダボアとピストンリングの摩擦態様>
次に、シリンダボアとピストンリングの摩擦態様について説明する。一般的な摺動時の摩擦には、図4に示すストライベック線図として表現されるように、直接接触して摺動する固体接触領域110の摩擦態様、油性被膜を介して摺動する境界接触領域112の摩擦態様、粘性潤滑油膜を介して摺動する流体潤滑領域114における摩擦態様に分別される。なお、このストライベック線図は、横軸が、「動粘度(動粘性率)μ」×「速度U」/「接触荷重W」を対数表示したものであり、縦軸が、摩擦係数(μ)となる。従って、摩擦力が最も小さくなり得るのは流体潤滑領域114であり、この領域114を有効利用することが、低摩擦化、即ち、低燃費に有効となる。
ちなみに、近年のV字状リングは、実当たり幅fが極めて小さく設定されることから、速度Uが上昇しても、境界接触領域112の途中から流体潤滑領域114に移行できない。結果、点線に示すように、境界接触領域112がそのまま高速領域まで継続する状態(又は流体潤滑領域114との混在状態)になっていると推察される。
流体潤滑領域114の摩擦力の大部分は、オイルのせん断抵抗であり、このせん断抵抗は、(粘度)×(速度)×(面積)/(油膜厚さ)で定義される。結果、せん断面積を低減することが、摩擦力の低減に直結する。
そこで、本実施形態では、ピストンリング40の外周面42を弱バレル形状とし、そのゆるやかな傾斜面を利用して、実当たり面にオイルを積極的に流入させることで、素早く流体潤滑領域114に移行して低摩擦化を実現する。
<ピストンリングの面圧設定>
次にピストンリング40とシリンダボア10の間の面圧設定について説明する。ここで、ピストンリング40の面圧とは、ピストンリング40の外周面42において、実当たり幅fまたは仮想実当たり面gを構成する接触面に作用する面圧を意味する。具体的に面圧は、(2×張力)/(シリンダボア径×(仮想)実当たり幅)によって算出される。
本実施形態では、ピストンリング40の面圧が、2.0MPa以下となるように設定される。また、ピストンリング40の面圧が、0.1MPa以上となるように設定される。
更に詳細に、トップリング50の面圧は、好ましくは1.0MPa以下、望ましくは0.5MPa以下とする。トップリング50の面圧は、好ましくは0.1MPa以上とする。例えば0.4MPaとする。また、セカンドリング60の面圧は、好ましくは1.0MPa以下、望ましくは0.5MPa以下とする。セカンドリング60の面圧は、好ましくは0.1MPa以上とする。例えば0.4MPaとする。
オイルリング70の面圧は、好ましくは2.0MPa以下、望ましくは1.4MPa以下とする。更に望ましくは、1.1MPa以下とし、一層望ましくは、0.8Mpa以下とする。また、オイルリング70の面圧は、好ましくは0.1MPa以上とし、望ましくは0.2MPa以上とし、さらに好ましくは0.3Mpa以上とする。
また、本実施形態では、トップリング50の面圧に対して、オイルリング70の面圧が大きいことが好ましい。更に、トップリング50の面圧に対して、オイルリング70の面圧が3倍以下に設定されることが好ましい。
<近年のV字状リングの仮想面圧の留意事項>
参考として、近年のV字状リングの仮想面圧について説明する。V字状リングの実当たり幅は、0.1mm未満であり、実際には0.07mm以下となることが多い。従って、V字状リングの接触面に作用する実際の面圧は、本実施形態のピストンリング40の面圧と比較して大幅に大きいが、実当たり幅が極めて狭いので、面圧の測定自体が困難となっている。そこで、近年のV字状リングの面圧の定義は、実当たり幅ではなく、ピストンリングの幅(軸方向幅)hを基準に算出する仮想面圧を、そのまま面圧として用いることが多い。すなわち、この仮想面圧は、幅(軸方向幅)hの全体がシリンダボアと接触していると仮定して算出されるので、実面圧とかけ離れている。すなわち、V字状リングの面圧は、その定義そのものが仮想面圧であって、本実施形態における実際の面圧と異なっている点に留意を要する。
<潤滑油の選定>
次に、潤滑油の選定について説明する。本実施形態で用いる潤滑油は、米国自動車協会(Society of Automotive Engineers, Inc.)による粘度分類において、低温粘度が10W以下、高温粘度が40以下であることが好ましい。すなわち、CCS粘度[mPa・s]/-25 [℃]が7000以下、ポンピング粘度[mPa・s]/-30[℃]が60000以下であることが好ましく、100℃時の最低動粘度が12.5 [mm2/s]以下、100℃時の最高動粘度が16.3 [mm2/s]未満、150℃時の高温高せん断における粘度が2.9[mPa・s]以下であることが好ましい。
より好ましくは、低温粘度が5W以下、高温粘度が30以下であることが望ましい。すなわち、CCS粘度[mPa・s]/-30[℃]が6600以下、ポンピング粘度[mPa・s]/-35 [℃]が60000以下、100℃時の最低動粘度が9.3 [mm2/s]以下、100℃時の最高動粘度が12.5 [mm2/s]未満、150℃時の高温高せん断における粘度が2.9 [mPa・s]以下であることが望ましい。
最も望ましくは、低温粘度が0W以下、高温粘度が20以下であることが望ましい。即ち、CCS粘度[mPa・s]/ -35[℃]が6200以下、ポンピング粘度[mPa・s]/-40[℃]が60000以下、100℃時の最低動粘度が5.6 [mm2/s]以下、100℃時の最高動粘度が9.3 [mm2/s]未満、150℃時の高温高せん断における粘度が2.6 [mPa・s]以下であることが望ましい。
本実施形態では、このような低粘度傾向の潤滑油を組み合わせると同時に、ピストンリング40の実当たり幅fを大きく設定して、ピストンリングの面圧を小さくする。結果、低粘度傾向の潤滑油でありながらも、シリンダボア10とピストンリング40を、流体潤滑領域114の摩擦態様に維持することが可能となる。同時に、油膜厚さを大きくしすぎることが無いので、潤滑油のせん断抵抗を小さくすることができ、大幅に低摩擦状態にすることが可能となっている。
なお、油膜厚さについては、ストローク中にピストンリング40がシリンダボア10を最高速度で通過する通過点において、静電容量法を用いた距離センサーで測定される油膜厚さが0.5μm~4.0μmとなるようにしている。なお、静電容量法を用いた距離センサーは、ピストンリング40がシリンダボア10の距離(隙間)を測定する。この距離(隙間)が、油膜厚さを意味する。
次に、上記内燃機関の摺動構造を実現するための、本実施形態のオイルリングの形状の作り込み方法を詳細に説明する。なお、ここでは二種類の作り込み方法を紹介する。
<オイルリングの外周面の形状の第1の作り込み方法>
次に、図3(A)で説明した3ピースタイプのオイルリング70について、その外周面の弱バレル形状を作り込む第1の詳細手順について図17及び図18を参照して説明する。なお、図18では、外周面の径方向断面形状を拡大して示しているが、幅方向の拡大率に対して径方向の拡大率を大幅に大きくすることで、バレル形状を誇張表示している。
図18(A)に示すように、軟質層形成工程S310として、スペーサエキスパンダ76sから取り外された独立状態の第1サイドレール73a,第2サイドレール73bの第1外周面82a,第2外周面82bに対して、後述するなじみ運転工程で摩滅可能な低硬度の軟質層200a、200bを形成する。この軟質層200a,200bは、Crめっき処理、ニッケルめっき処理(Ni-Pめっき処理)、亜鉛めっき処理、ガス窒化処理、低硬度DLC処理、軟質樹脂被覆等によって、表面硬さを1500Hv以下に形成すれば良い。なお、この軟質層の厚さは3μm以上が好ましく、より望ましくは5μm以上とする。
次に、図18(B)に示すように、初期研磨工程S320として、スペーサエキスパンダ76sから取り外された独立状態の第1サイドレール73a,第2サイドレール73bの第1外周面82a,第2外周面82bを、研磨工具によって研磨する。結果、第1外周面82a,第2外周面82bに対して、径方向外側に凸となる初期バレル形状が作り込まれる。なお、この研磨処理は、いわゆるラッピング処理であり、第1サイドレール73a,第2サイドレール73bの外径と近似する円筒状の内周面を有する工具に対して、砥粒を介在させながら、第1外周面82a,第2外周面82bを相対移動させる。
次いで、図18(C)に示すように、組み込み工程S330として、初期研磨工程S320を経た第1及び第2サイドレール73a,73bを、スペーサエキスパンダ76sと共に、ピストン30に組み込む。この際、第1外周面82a,第2外周面82bが、第1及び第2サイドレールの幅方向73a,73bに傾く。これは第1外周面82a,第2外周面82bが傾斜することで縮径するとも言える。結果、第1及び第2サイドレール73a,73bの内周面よりも、第1外周面82a,第2外周面82bが互いに接近した状態となる。なお、この第1外周面82a,第2外周面82bの傾斜角度は、0.25度以上とすることが好ましい。
次に、図18(D)に示すように、なじみ運転工程S340として、内燃機関を通常運転することで、組み込み工程S330を経たオイルリング70を、内燃機関のシリンダボア10と摺動させる。この摺動によって、第1外周面82a,第2外周面82bに形成される実当たり面のオイルリングの軸方向外側領域82a-1,82b-1を、オイルリングの軸方向内側領域82a-2,82b-2よりも多く摩滅させる。結果、第1外周面82a,第2外周面82bに対して、径方向外側に凸となる最終バレル形状が作り込まれる。この最終バレル形状は、組み込み工程S330において第1外周面82a,第2外周面82bに生じた傾斜角が、減少またはほとんど無くなった状態となる。
なお、なじみ運転工程S340の後において、第1外周面82a,第2外周面82bに形成される実当たり面のオイルリングの軸方向外側縁88a,88bの軟質層200a,200bの残存厚さOa,Obは、第1外周面82a,第2外周面82bにおけるオイルリングの軸方向内側縁89a,89bの軟質層の残存厚さIa,Ibよりも小さくなる。この残存厚さの差異(Ia-Oa,Ib-Ob)は、1μm以上に設定されることが好ましい。なお、初期研磨工程S320における最大研磨代Sm(図18(B)参照)と比較して、なじみ運転工程S340における最大摩滅代Lm(図18(D)参照)のほうが大きくなるようにしてもよい。
以上の結果、なじみ運転工程後の状態において、シリンダボア10に対して第1外周面82a,第2外周面82bが接触し得る実当たり面の軸方向の実当たり幅が0.15mm以上となる。
なお、上記第1の作り込み方法では、軟質層形成工程S310を経てから、初期研磨工程S320を行うようにしたが、これに限定されない。初期研磨工程S320を行ってから、軟質層形成工程S310を実行することも可能である。
図18(D)によって完成したオイルリング70をピストン30から取り外し、更に、スペーサエキスパンダ76sから分離・独立させた第1サイドレール73a,第2サイドレール73bの第1外周面82a,第2外周面82bの状態を図22(A)に示す。スペーサエキスパンダ76sによる付勢から解放された第1サイドレール73a,第2サイドレール73bは、傾斜状態から復帰する。
第1外周面82a,第2外周面82bを断面視する際、径方向外側に最も突出する場所を第1頂点Za、第2頂点Zbと定義する。第1頂点Za及び第2頂点Zbの位置と、実当たり面のオイルリングの軸方向外側縁88a,88bの位置の径方向差(外縁側径方向差)Va-1、Vb-1は、1.5μm~5.0μmの範囲内に設定される。Va-1、Vb-1は好ましく2.0μm~4.0μmの範囲内となる。一方、第1頂点Za及び第2頂点Zbの位置と、実当たり面のオイルリングの軸方向内側縁89a,89bの位置の径方向差(内縁側径方向差)Va-2、Vb-2は、0.0μm~1.5μmの範囲内に設定される。Va-2、Vb-2は好ましく0.1μm~1.0μmの範囲内となる。なお、Va-2、Vb-2が0.0μmになる場合とは、第1頂点Za及び第2頂点Zbが、実当たり面のオイルリングの軸方向内側縁89a,89bに一致する場合を意味する。また、外縁側径方向差Va-1、Vb-1は、内縁側径方向差Va-2、Vb-2よりも大きく設定されており(Va-1>Va-2、Vb-1>Vb-2)、より具体的に、内縁側径方向差は、内縁側径方向差と比較して3倍以上となることが好ましく、より望ましくは4倍以上とする。
<オイルリングの外周面の形状の第2の作り込み方法>
次に、図3(A)で説明した3ピースタイプのオイルリング70について、その外周面の弱バレル形状を作り込む第2の詳細手順について図19及び図20を参照して説明する。なお、図20では、外周面の径方向断面形状を拡大して示しているが、幅方向の拡大率に対して径方向の拡大率を大幅に大きくすることで、バレル形状を誇張表示している。
図20(A)に示すように、軟質層形成工程S410として、スペーサエキスパンダ76sから取り外された独立状態の第1サイドレール73a,第2サイドレール73bの第1外周面82a,第2外周面82bに対して、後述するなじみ運転工程で摩滅可能な低硬度の軟質層200a、200bを形成する。この軟質層200a,200bは、Crめっき処理、ニッケルめっき処理(Ni-Pめっき処理)、亜鉛めっき処理、ガス窒化処理、低硬度DLC処理、軟質樹脂被覆等によって、表面硬さを1500Hv以下に形成すれば良い。なお、この軟質層の厚さは3μm以上が好ましく、より望ましくは5μm以上とする。
次に、図20(B)に示すように、事前組み込み工程S420として、スペーサエキスパンダ76s又はこれと近似する治具に、第1及び第2サイドレール73a,73bを組み込む。この際、第1外周面82a,第2外周面82bが、第1及び第2サイドレールの幅方向73a,73bに傾く。これは第1外周面82a,第2外周面82bが傾斜することで縮径するとも言える。結果、第1及び第2サイドレール73a,73bの内周面よりも、第1外周面82a,第2外周面82bが互いに接近した状態となる。なお、この第1外周面82a,第2外周面82bの傾斜角度は、0.25度以上とすることが好ましい。
次いで、図20(C)に示すように、初期研磨工程S430として、スペーサエキスパンダ76s又はこれに近似する治具に組付けられた第1及び第2サイドレール73a,73bの第1外周面82a,第2外周面82bを、研磨工具によって研磨する。結果、第1外周面82a,第2外周面82bにおけるオイルリングの軸方向外側領域82a-1,82b-1を、オイルリングの軸方向内側領域82a-2,82b-2よりも多く研磨する。これにより、第1外周面82a,第2外周面82bに対して、径方向外側に凸となる初期バレル形状が作り込まれる。この初期バレル形状は、組み込み工程S330において第1外周面82a,第2外周面82bに生じた傾斜角が、減少またはほとんど無くなった状態となる。この研磨処理は、いわゆるラッピング処理であり、第1サイドレール73a,第2サイドレール73bの外径と近似する円筒状の内周面を有する工具に対して、砥粒を介在させながら、第1外周面82a,第2外周面82bを相対移動させる。
なお、初期研磨工程S430の後において、第1外周面82a,第2外周面82bに形成される当たり面(被研磨面)におけるオイルリングの軸方向外側縁88a,88bの軟質層200a,200bの残存厚さOa,Obは、第1外周面82a,第2外周面82bにおけるオイルリングの軸方向内側縁89a,89bの軟質層の残存厚さIa,Ibよりも小さくなる。この残存厚さの差異(Ia-Oa,Ib-Ob)は、1μm以上に設定されることが好ましい。
次に、図20(D)に示すように、最終組み込み工程S440として、初期研磨工程S430を経た第1サイドレール73a,第2サイドレール73bを、スペーサエキスパンダ76sと共にピストンに組み込む。
更に図20(D)に示すように、なじみ運転工程S450として、内燃機関を通常運転することで、最終組み込み工程S440を経たオイルリング70を、内燃機関のシリンダボア10と摺動させる。この摺動によって、第1外周面82a,第2外周面82bを摩滅させて、径方向外側に凸となる最終バレル形状が作り込まれる。
以上の結果、なじみ運転工程後の状態において、シリンダボア10に対して第1外周面82a,第2外周面82bが接触し得る実当たり面の軸方向の実当たり幅が0.15mm以上となる。
なお、初期研磨工程S430と最終組み込み工程S440の間では、一旦、第1サイドレール73a,第2サイドレール73bをスペーサエキスパンダ76s又は治具から分解する必要がある。図21に示すように、初期研磨工程S430後に張力が解放された第1サイドレール73a,第2サイドレール73bの第1外周面82a,第2外周面82bは、対となる第1サイドレール73a,第2サイドレール73bの幅方向外側に傾斜する。即ち、第1外周面82a,第2外周面82bの実当たり面は、軸方向外側領域82a-1,82b-1と、軸方向内側領域82a-2,82b-2が非対称な形状となる。従って、その後の最終組み込み工程S440において、第1サイドレール73aと第2サイドレール73bを対向させる方向を誤らないようにするために、第1サイドレール73a,第2サイドレール73bに対して、対向側(軸方向内側)を判別できるような印を付すことが好ましい。
なお、初期研磨工程S320における最大研磨代Sm(図20(C)参照)と比較して、なじみ運転工程S450における最大摩滅代Lm(図20(D)参照)のほうが小さくなるようにしてもよい。
なお、上記第2の作り込み方法では、軟質層形成工程S410を経てから、初期研磨工程S430を行うようにしたが、これに限定されない。初期研磨工程S430におけるラッピング処理の場合、軟質層を形成することなく、母材の表面を直接的に切削加工することが可能である。一方で、なじみ運転工程S450において摩滅を生じさせるためには、あらかじめ、軟質層200a,200bの形成が必要となる。従って、初期研磨工程S430を行ってから、なじみ運転工程S450の前に軟質層形成工程を実行することも可能である。この場合は、軟質層200a,200bの厚さは小さくて済み、例えば、3μm以下にすることができる。
図20(D)によって完成したオイルリング70をピストン30から取り外し、更に、スペーサエキスパンダ76sから分離・独立させた第1サイドレール73a,第2サイドレール73bの第1外周面82a,第2外周面82bの状態を図22(B)に示す。スペーサエキスパンダ76sによる付勢から解放された第1サイドレール73a,第2サイドレール73bは、傾斜状態から復帰する。
第1外周面82a,第2外周面82bを断面視する際、径方向外側に最も突出する場所を第1頂点Za、第2頂点Zbと定義する。第1頂点Za及び第2頂点Zbの位置と、実当たり面のオイルリングの軸方向外側縁88a,88bの位置の径方向差(外縁側径方向差)Va-1、Vb-1は、1.5μm~5.0μmの範囲内に設定される。Va-1、Vb-1は好ましく2.0μm~4.0μmの範囲内となる。一方、第1頂点Za及び第2頂点Zbの位置と、実当たり面のオイルリングの軸方向内側縁89a,89bの位置の径方向差(内縁側径方向差)Va-2、Vb-2は、0.0μm~1.5μmの範囲内に設定される。Va-2、Vb-2は好ましく0.1μm~1.0μmの範囲内となる。なお、Va-2、Vb-2が0.0μmになる場合とは、第1頂点Za及び第2頂点Zbが、実当たり面のオイルリングの軸方向内側縁89a,89bに一致する場合を意味する。また、外縁側径方向差Va-1、Vb-1は、内縁側径方向差Va-2、Vb-2よりも大きく設定されており(Va-1>Va-2、Vb-1>Vb-2)、より具体的に、内縁側径方向差は、内縁側径方向差と比較して3倍以上となることが好ましく、より望ましくは4倍以上とする。
次に、本実施形態のオイルリングの形状作り込み方法によって得られたオイルリングの燃費改善効果等を検証する実験を行った。
本実施形態のオイルリングの形状作り込み方法を適用して、以下の条件のピストンリング40を用意した。
<トップリング>
トップリングは、弱バレル形状のトップリング50を採用し、厚さ(径方向幅)aを2.5mm、幅(軸方向幅)hを1.0mmとした。なお、トップリング50の外周面には、クロムめっきを施すとこで、表面硬さを1200Hvとした。なじみ運転後の実当たり面53の実当たり幅fを0.3mmとした。トップリング50の張力を3.7Nにすることで、実当たり面53に作用する面圧を0.3MPaとした。
<セカンドリング>
セカンドリングは、テーパ形状を採用し、厚さ(径方向幅)aを2.3mm、幅(軸方向幅)hを1.0mmとした。実当たり面の実当たり幅fは、0.23mm程度とした。セカンドリングの張力を3.0Nとした。セカンドリングの外周面には、クロムめっきを施すとこで、表面硬さを1200Hvとした。
<オイルリング>
オイルリングは、本実施形態の「第1の作り込み方法」を適用することで、弱バレル形状の3ピースタイプのオイルリング70を得た。オイルリング70の組み合わせ径方向厚さa11を2.50mm、組み合わせ軸方向幅(呼び幅)hを2.0mmとした。サイドレール73a,73bの厚さ(径方向幅)aを1.9mm、幅(軸方向幅)h12を0.4mmとした。各サイドレール73a,73bにおいて、なじみ運転後の実当たり面83の実当たり幅fを0.15mm(総実当たり幅F0.3mm)とした。オイルリング70の張力を19.0Nにすることで、実当たり面に作用する面圧を1.6MPaとした。
<シリンダボア>
シリンダボア10は、内径80.5mm、材質ねずみ鋳鉄品FC250(JIS規格)、表面をホーニング処理することで、算術平均粗さRa:0.208(μm)、二乗平均平方根粗さRq:0.219(μm)とした(JIS B 0601:2013)。
<潤滑油>
摩擦試験用の潤滑油は、米国自動車協会の粘度分類で0W-20、APIグレードでSNとなるものを採用した。
<摩擦試験>
図5に、シリンダボア(シリンダライナ)10とピストンリング40の摩擦態様を測定する摩擦単体測定装置500を示す。摩擦単体測定装置500は、ピストンリング40側を固定し、シリンダライナ10側を上下に往復移動させることで、両者間の摩擦状態を測定する。摩擦単体測定装置500は、ピストンリング40がセットされる仮想ピストン510を、ピエゾ式のロードセル512を介して固定軸514によって保持する。このロードセル512によって、ピストンリング40に作用する上下方向の外力(摩擦力)を測定する。
シリンダライナ10は、その外壁側において移動スリーブ530で保持される。移動スリーブ530の下端は駆動用ピストン540に保持されており、この駆動用ピストン540を、コンロッド550によって上下動させることで、シリンダライナ10を上下方向に往復移動させる。移動スリーブ530の外周には固定スリーブ560が配置される。固定スリーブ560は基台570に固定される。なお、固定軸514は、固定スリーブ560の上端の蓋部材562に固定されている。移動スリーブ530の外周面と固定スリーブ560の内周面は摺動自在となる。固定スリーブ560の内部には、温度調整ジャケット565が設けられており、この温度調整ジャケット565内に温水または冷水を循環させることで、固定スリーブ560の温度を制御可能となっている。
本実施形態では、摩擦単体測定装置500による摩擦態様の測定条件として、潤滑油の油温を60度に設定し、潤滑油をシリンダライナ10の上部から滴下して供給した。ならし運転(なじみ運転)の最中は、潤滑油を多めに供給した。潤滑油が過剰であると、摩擦力が不安定となるため、各摩擦力の測定時は、5分程度潤滑油の供給を止めて、摩擦力が安定したところを測定値とした。各摩擦力の測定は、最速点でのストライベック指数(=粘度×速度/面圧)が同じになるように、回転数及び温度を調整した。
本実施例1では、摩擦単体測定装置500の始動から5分後に摩擦波形(なじみ運転前の摩擦波形)を測定し、さらに、始動から20時間後(15時間のなじみ運転を経過してから、更に5時間運転した後)に摩擦波形を測定した。なお、15時間のなじみ運転中において、2時間おきに手動でピストンリング40を40°~90°回転させた。これは、通常のガソリンエンジンでは運転中にピストンリング40が周方向に回転するので、それを再現するためである。
実際のエンジンの燃費評価ポイントが、1500rpmにおいてFMEP(平均有効圧力)が800kPaとなるように設定されることから、本実施例1でも、エンジン温度85℃、エンジン回転数1500rpmを条件として摩擦試験を行った。なお、この条件を摩擦単体測定装置500に置き換えると、シリンダライナの行程中央部の温度が35℃、回転数が400rpmとなる。
<絶縁試験>
シリンダボア10とピストンリング40の流体潤滑領域を確認するために、電気絶縁試験を行った。この電気絶縁試験は、シリンダボア10とピストンリング40の間に形成される流体潤滑油膜によって、両者の電気絶縁性が高まる特性を利用する。具体的には、図5に示す摩擦単体測定装置500において、仮想ピストン510を絶縁性の高い樹脂で作成することで、ピストンリング40を周囲から電気的に隔離した。この状態で、ピストンリング40とシリンダボア10の間を、導電性の配線によって接続し、配線の途中に、定電圧発生装置590(3V)と可変抵抗592(2.4kΩ)を介在させた。更に、配線の途中に電圧(mV)を検出するための電圧検出器(オシロスコープ)594を配置して、流体潤滑油膜の抵抗値の変化を検出した。この試験では、油膜厚さの絶対値は明らかにできないが、全周に亘って形成される油膜の総合的な潤滑状態を推測できる利点がある。
なお、実施例1では、オイルリング70のみに通電させることで、オイルリング70単体の油膜状態を測定した。この理由として、オイルリング70は、他のリングと比較して最も面圧が高く、流体潤滑領域に移行しにくいピストンリングだからである。換言すると、オイルリング70に十分な油膜が形成されていれば、トップリング50とセカンドリング60は、必ず流体潤滑領域であると推測できる。また、オイルリング70の外周面82が、Crめっき処理されていることから、安定した抵抗値を示すので測定精度が高い。なお、ピストンリングとシリンダボアが直接接触する固体接触領域又は境界潤滑領域の場合、この絶縁試験において一貫性のないノイズ波形が出やすい。
<なじみ運転後のピストンリングの幅方向の輪郭形状の測定>
なじみ運転後のピストンリング40の実当たり面の幅方向の輪郭形状を実測した。トップリング50とセカンドリング60は、仮想ピストン510から取り外して、外周面52、62のプロフィールを軸方向(実当たり幅方向)に計測した。オイルリング70は、仮想ピストン510に装着してスペーサエキスパンダ76sで張力を付与した状態で、各サイドレール73a,73bの外周面82のプロフィールを軸方向(実当たり幅方向)に計測した。
<なじみ運転後のピストンリングの周方向の輪郭形状の測定>
ピストンリング40の実当たり面の周方向の輪郭形状を実測した。ここでは、オイルリング70を仮想ピストン510から取り外し、スペーサエキスパンダ76sが装着されていない状態の単独の上方側のサイドレール73aについて、実当たり面83の外周縁のプロフィールを周方向に計測した。なじみ運転の効果を把握する前に、なじみ運転前のプロフィールと、なじみ運転後のプロフィールの双方を計測した。
〔比較例1〕
実施例1の効果を検証するための比較例1として、以下の条件のピストンリング40を用意した。
<トップリング>
トップリングはV字状リング(強バレル形状のトップリング)を採用し、厚さ(径方向幅)aを2.5mm、幅(軸方向幅)hを1.0mmとし、外周面をPVDコーティングすることで表面硬さを1800Hvとした。トップリングの張力は、実施例1と同じ3.7Nとした。
比較例となるピストンリングの外周面のV字形状の突出度合いを説明する概念を図6に示す。ピストンリングMの外周面において、軸方向の幅がMfとなるような基準面Mkを選択する際、この基準面Mkの幅方向両縁Mka、Mkbが、外周面の最外周縁Zから、径方向内側にオフセットする量xを測定した。軸方向の幅Mfとオフセット量xから、外周面の湾曲度合い(V字度合い)を評価した。
比較例1のトップリングは、基準面Mkの軸方向幅Mfを0.3mmとする場合、オフセット量xが15μmとなった。実際にシリンダボアと接触し得る一般的なオフセット量は0.5μm以下であることから分かるように、比較例のトップリングの実当たり面の実当たり幅は、きわめて狭いことがわかる。
<セカンドリング>
セカンドリングは、実施例1と全く同じ条件のものを採用した。
<オイルリング>
オイルリングは、V字状(強バレル形状)の3ピースタイプのオイルリングを採用した。オイルリングの組み合わせ径方向厚さa11を2.55mm、組み合わせ軸方向幅(呼び幅)hを2.0mmとした。一対のサイドレールの厚さ(径方向幅)aを2.0mm、幅(軸方向幅)h12を0.4mmとした。オイルリングの張力は、実施例1と同じ19.0Nとした。
各サイドレールのV字形状の突出度合いを計測すると、基準面Mkの軸方向幅Mfを0.15mmとする場合、オフセット量xが5μmとなった。外周面をPVDコーティングすることで表面硬さを1800Hvとした。
その他のすべての条件を実施例1と同一として、摩擦試験、絶縁試験、輪郭形状の測定等を行った。
(摩擦試験結果)
図7に、摩擦試験の結果を示す。図7(A)は実施例1の試験結果であり、摩擦単体測定装置500の始動から5分後の摩擦波形(なじみ運転前の摩擦波形)を点線で示し、20時間のなじみ運転後の摩擦波形を実線で示す。なじみ運転前と比較して、なじみ運転後は摩擦力が大きく減少しFMEP(トップリング、セカンドリング、オイルリングを組み合わせた状態)も減少した。なお、なじみ運転後のFMEPは10.07kPaとなった。これにより、実際の内燃機関に実施例1のピストンリングを適用しても、大幅な燃費低減効果が得られることがわかる。なじみ運転の効果の発現は、ピストンリングの初期形状や材料硬度などで変動するが、実際の内燃機関の方が回転数が高いので、20時間未満でなじみ運転が完了すると推測される。
図7(B)は比較例1の試験結果であり、摩擦単体測定装置500の始動から5分後の摩擦波形(なじみ運転前の摩擦波形)を点線で示し、20時間のなじみ運転後の摩擦波形を実線で示す。しかし、なじみ運転の前後において摩擦力がほとんど変化しないことから、両者のグラフが重なっている。即ち、比較例1のピストンリングは、いわゆるなじみ運転の効果が発現しない。実際の内燃機関でもこの状態が維持されると推測される。なじみ運転後におけるFMEPは13.91kPaとなった。
従って、なじみ運転後の実施例1と比較例1を対比すると、実施例1の方が、FMEPについては約28%低いことが明らかとなった。
(軸方向の輪郭測定結果)
図8に、外周面の軸方向の輪郭測定結果を示す。図8(A)に示すように、実施例1のトップリング50は、実当たり面53の実当たり幅fが300μmとなり、そのダレ量eが0.3μmであった。実施例1のセカンドリングは、実当たり面の実当たり幅が230μm、そのダレ量eが0.3μmであった。
実施例1のオイルリング70において、一方のサイドレール73aの実当たり面83の実当たり幅fが150μmとなり、そのダレ量eが0.2μmであった。他方のサイドレール73bの実当たり面83の実当たり幅fが130μmとなり、そのダレ量eが0.2μmであった。
図8(B)に示すように、比較例1のトップリングは、外周面が極端に湾曲しているため、実当たり面の幅を実測することが困難であるが、約45μm以下になると推測された。比較例1のセカンドリングは、実施例1と同一であることから、実当たり面の実当たり幅が230μm、そのダレ量eが0.3μmであった。比較例1のオイルリングの各サイドレールについても、外周面が極端に湾曲しているため、実当たり面の幅を実測することが困難であるが、約20μm以下になると推測された。
(周方向の輪郭測定結果)
図9に、外周面の周方向の輪郭測定結果を示す。図9(A)に示すように、実施例1のオイルリング70のサイドレール73aは、実当たり面83の外周縁が、なじみ運転前において、径方向に10μmの範囲内で変位することがわかる。また、なじみ運転の後は、実当たり面83の外周縁が、径方向に3μmの範囲内で変位することがわかる。結果、なじみ運転の効果が発現することで、実当たり面83の外周縁の周方向の変位量が、大幅に減少することがわかる。この周方向の変位量の低減、すなわち、真円度の向上が、運転中の流体潤滑領域を維持する観点で、重要な役割を担っていることが明らかとなった。
図9(B)に示すように、比較例1のオイルリング70のサイドレール73aは、20時間のなじみ運転後であっても、実当たり面83の外周縁が、径方向に30μm以上に変位することがわかる。もちろん、比較例1のサイドレール73aであっても、エキスパンダによってシリンダボアに圧接させることで変形し、実当たり面83の外周縁は真円に近づくと推測される。しかし、実当たり面83を真円に変形させるためには、相応の張力が要求されるので、摩擦力が高くなるという課題が生じる。
(絶縁試験結果)
図10に、実施例1のオイルリング70の絶縁測定結果を示す。測定時の回転数は、内燃機関における1500rpm、1000rpm、600rpm、300rpm、150rpmに相当する条件を採用した。なお、参考として各回転数の絶縁試験中において、摩擦力の変動態様も同時に測定したので、これらも一緒に示す。
回転数が高くなるほど抵抗値が大きくなることがわかる。これは、回転数の増大に伴い、油膜厚さが増大して、流体潤滑領域となっていることを意味する。特に回転数が600rpm以上になると、大幅に抵抗値が増大する傾向にある。1000rpm以上に達すると、回転数が変化しても、抵抗値がほとんど変化しなくなる。これは、油膜厚さが上限に達していることを意味している。一方で、摩擦力が大きい150rpm、300rpmでは抵抗値が小さくなる。これは、油膜が極めて薄くなっているか、一部において、オイルリング70とシリンダボア10が接触していると推測できる。しかし、ガソリンエンジン等の内燃機関において、150rpmや300rpmで運転することは稀である。結果、実施例1のピストンリングの場合、アイドリング運転以上の回転数では、常に、流体潤滑領域で潤滑していると推測される。
ちなみに、比較例1の場合、ピストンリングとシリンダボアが直接接触しながら摺動する固体接触領域又は境界潤滑領域となるので、絶縁試験を行っても、一貫性のないノイズ波形が生じる結果となった。
(LOCの検証)
LOCを決定する要因には、ガスシール性能の劣化や、摺動面における潤滑油の掻き残しの影響が大きい。図9(B)の比較例1に示すように、オイルリングの真円度の劣化は、潤滑油の掻き残しに直結する。一方、図9(A)の実施例1のオイルリング70では、なじみ運転によって真円度を大幅に向上させているので、摺動面における潤滑油の掻き残しが低減し、LOC(潤滑油消費量)が低減すると推測される。
(シミュレーション試験によるブローバイ及び摩耗の追加検証)
摩擦力、油膜厚さ、ガス通過量をシミュレーション計算することで、油膜が形成された流体潤滑領域におけるガスシール性と摩耗を検証する。
ピストンリングの摺動面の油膜厚さ、摩擦力、摺動面を通過するガス量等の計算のためのシミュレーションソフトとして、AVL社のExcite-PRを用いた。油膜、摩擦計算には、修正レイノルズ方程式(Patir and Cheng)と固体接触圧力を計算する Greenwood-Tripp モデルを用いた。漏れガス量計算には縮流係数を用いた。
詳細な計算条件として、シリンダボアの表面粗さ:Rq=0.219(μm)、ピストンリング表面粗さ:Rq=0.000(μm)、シリンダボア形状:円筒形、摺動面温度:TDC(上死点)150℃、MID(中央点)85℃、BDC(下死点)85℃、潤滑油:0W-20(40℃時の動粘度37[mm2/s]、100℃時の動粘度8.7[mm2/s])とした。更に、ピストンの二次的な振動や摩擦は考量しないこととし、境界接触領域の摩擦係数は0.072に設定し、最高燃焼圧を7.2MPaに設定した。また、シリンダボアには、常に3×ボア表面粗さRq(=0.657μm)の油膜が残存すると仮定した。
実施例1と比較例1のピストンリングの外周面の形状は、図8の軸方向の輪郭測定データを用いた。なお、今回のシミュレーションでは、図9の周方向の輪郭形状データは考慮しないことにした。
図11に、シミュレーション結果を示す。図11(A)は、実施例1(実線)と比較例1(点線)のトップリング、セカンドリング、オイルリングの合計摩擦力となる。図11(B)は、実施例1(実線)と比較例1(点線)のトップリングの摺動面の油膜厚さとなる。図11(C)は、実施例1(実線)と比較例1(点線)のトップリングの摺動面を通過するガス量となる。摩擦力と油膜については、図10のシミュレーション結果と、図7及び図8の摩擦試験及び絶縁試験の結果とは、上死点直後(クランク角度0°直後)を除いて類似することがわかる。なお、上死点直後の相違は、図7及び図8の摩擦試験及び絶縁試験では、燃焼圧が考慮されていないことに起因していると推測される。
ガスシール性と摩耗を解析するためには、燃焼圧力の高い上死点付近の油膜厚さ等を把握する必要がある。図11(B)に示すように、比較例1のトップリングでは、前提条件となるシリンダボア側の最低油膜厚のみとなり、ストローク全域でトップリング側に油膜がほとんど生成されない。つまり、接触摺動している結果となる。ストローク全域で接触摺動しているので、摩耗はその全域で発生し、特に、燃焼圧が掛かる上死点近傍で大きくなると推測できる。結果、比較例1のトップリングでは、ガス漏れ量は、燃焼圧の増大と共に大きくなる。
一方、図11(B)に示すように、実施例1のトップリングの油膜厚さは、トップリングの摺動速度に依存しており、上死点直後(クランク角度0°直後)の燃焼圧力が作用する瞬間を除いた全域で、トップリング側に油膜が生成されることがわかる。摺動速度がゼロになる下死点(クランク角度180°)でも、絞り膜効果によって、油膜が維持されていることがわかる。結果、実施例1のトップリングでは、接触摺動範囲は極めて狭いので、摩耗量は低減される。更に、本実施形態でも述べたように、実施例1のピストンリングは、低い面圧設定となるので、相乗作用によって、さらに摩耗に対して有利に作用する。従って、外周面を高硬度の材料で被覆する必要性が低くなる。
また、図11(C)に示すように、トップリングにおけるガス通過量(ガス漏れ量)は、比較例1に対して実施例1が10%程度減少しているが、これも広範囲に亘って油膜が維持されていることに起因する。油膜が維持されるということは、油膜内に圧力が発生していることと同義であり、その油膜内の圧力が、燃焼圧と同等以上であればガスをシールできる。実施例1のトップリングでは、上死点(クランク角度0°)で停止すると、摺動速度に依存する油膜圧力がなくなる一方、油膜が薄くなる過程の絞り効果によって別途圧力が発生し、ガスのシール性を維持する。結果、実施例1のトップリングが、比較例1よりもガスシール性が高い結果となる。
本実施形態のオイルリングの形状作り込み方法を適用して、以下の条件のピストンリング40を用意した。
<トップリング> 実施例1と同じトップリングとした。
<セカンドリング>実施例1と同じセカンドリングとした。
<オイルリング>
オイルリングは、実当たり幅の異なる三種類(A、B、C)を用意した。全てのオイルリングは、本実施形態の弱バレル形状の3ピースタイプのオイルリング70を採用した。オイルリング70の組み合わせ径方向厚さa11を2.50mm、組み合わせ軸方向幅(呼び幅)hを2.0mmとした。また、サイドレール73a,73bの厚さ(径方向幅)aを1.9mm、幅(軸方向幅)h12を0.4mmとした。
オイルリングAは、各サイドレール73a,73bにおいて、なじみ運転後の実当たり面83の実当たり幅fを0.350mm(総実当たり幅F0.7mm)とした。オイルリングAの張力を19.0Nにすることで、実当たり面に作用する面圧を0.67MPaとした。なお、このオイルリングAの実当たり面83の形状の作り込み方法は、「第2の作り込み方法」で行った。
オイルリングBは、各サイドレール73a,73bにおいて、なじみ運転後の実当たり面83の実当たり幅fを0.250mm(総実当たり幅F0.50mm)とした。オイルリングBの張力を19.0Nにすることで、実当たり面に作用する面圧を0.94MPaとした。なお、このオイルリングBの実当たり面83の形状の作り込み方法は、「第1の作り込み方法」で行った。
オイルリングCは、各サイドレール73a,73bにおいて、なじみ運転後の実当たり面83の実当たり幅fを0.150mm(総実当たり幅F0.30mm)とした。オイルリングCの張力を19.0Nにすることで、実当たり面に作用する面圧を1.6MPaとした。なお、このオイルリングCの実当たり面83の形状の作り込み方法は、「第1の作り込み方法」で行った。
なお、その他の条件は全て実施例1と同じとした。
〔比較例2〕
実施例2の効果を検証するための比較例2として、以下の条件のピストンリング40を用意した。なお、比較例2では、2つのグループ(グループX、グループY)のピストンリング40を用意した。
<グループXのトップリング>
トップリングは、本実施形態のV字状リング(強バレル形状のトップリング)を採用し、厚さ(径方向幅)aを2.5mm、幅(軸方向幅)hを1.0mmとし、外周面をPVDコーティングすることで表面硬さを1800Hvとした。トップリングの張力は、実施例1と同じ3.7Nとした。
トップリングの外周面は、図6に示すように、基準面Mkの軸方向幅Mfを0.5mmとする場合、オフセット量xが6.5μmとなった。実際にシリンダボアと接触し得る一般的なオフセット量は0.5μm以下であることから、比較例2のトップリングの実当たり面の実当たり幅は、きわめて狭い状態であることがわかる。
<グループXのセカンドリング>
セカンドリングは、比較例1と全く同じ条件のものを採用した。
<グループXのオイルリング>
オイルリングは、V字状(強バレル形状)の3ピースタイプのオイルリングを採用した。オイルリングの組み合わせ径方向厚さa11を2.5mm、幅(軸方向幅)hを2.0mmとした。一対のサイドレールの厚さ(径方向幅)aを1.9mm、幅(軸方向幅)h12を0.4mmとした。オイルリングの張力は、実施例2と同じ19.0Nとした。
各サイドレールのV字形状の突出度合いを計測すると、基準面Mkの軸方向幅Mfを0.15mmとする場合、オフセット量xが12μmとなった。外周面をPVDコーティングすることで表面硬さを1800Hvとした。
<グループYのトップリング>
グループXのトップリングと同じ形状のままで、外周面をCrめっきで処理することで表面硬さを1200Hvとした。
<グループYのセカンドリング>
セカンドリングは、比較例1と全く同じ条件のものを採用した。
<グループYのオイルリング>
グループXのオイルリングと同じ形状のまま、外周面をCrめっきで処理することで表面硬さを1200Hvとした。
このグループYのトップリング及びオイルリングは、母材自体の外周面がV字形状となっており実当たり幅が極めて狭い(0.15mm未満)が、表面がCrめっき処理されているので、なじみ運転によって、微細に摩耗し得るようになっている。
(ピストンリングセットの摩擦試験結果)
図12に、トップリング、セカンドリング、オイルリングで構成されるピストンリングセットの摩擦試験の結果を示す。なお、ここでは20時間のなじみ運転後の摩擦波形を示す。実施例2のトップリング、セカンドリング、オイルリングA(各サイドレールの実当たり幅0.350mm)のピストンリングセットは、摩擦力が大幅に小さくなった。一方、比較例2のグループXのトップリング、セカンドリング、オイルリング(外周面PVDコーティング)のピストンリングセットは、摩擦力が大幅に大きくなった。なお、実施例2のピストンリングセットのFMEPは、比較例2のピストンリングセットを比較して約41%低くなることが明らかとなった。
(オイルリングのみの摩擦試験結果)
図13に、オイルリング単体の摩擦試験の結果を示す。なお、ここでは20時間のなじみ運転後の摩擦波形を示す。実施例2のオイルリングA(各サイドレールの実当たり幅0.350mm)は、摩擦力が大幅に小さくなった。実施例2のオイルリングC(各サイドレールの実当たり幅0.150mm)は、オイルリングAと比較して、多少、摩擦力が大きくなった。一方、比較例2のグループXのオイルリング(外周面PVDコーティング)は、オイルリングA,Cよりも摩擦力が大幅に大きくなった。なお、実施例2のオイルリングAと、比較例2のグループXとのオイルリングを比較すると、オイルリングAの方が、FMEPについては約46%低くなることが明らかとなった。
(オイルリングの実当たり幅とFMEPの関係の検証)
図14(A)に、オイルリングの実当たり幅とFMEPの関係を示す。なお、実線と黒丸で示すグラフ(Experimental Result)は、第2実施例のオイルリングA,B,Cと比較例2のグループYのオイルリングの実測値となる。一方、実線と白丸で示すグラフ(Simulation with Roughness)は、粗さを考慮することで潤滑油の流れや接触摺動を考量したシミュレーション結果であり、点線と「×」印で示すグラフ(Simulation without Roughness)は、粗さを考慮せずに完全な流体潤滑を条件としたシミュレーション結果である。なお、シミュレーションの計算は、AVL社のExcite-PRを用いた。油膜、摩擦計算には、修正レイノルズ方程式(Patir and Chengの平均流モデル)と固体接触圧力を計算する Greenwood-Tripp モデルを用いた。
図14(B)には、図14(A)における粗さを考慮することで潤滑油の流れや接触摺動を考量したシミュレーション結果について、この計算結果を、境界又は流体潤滑による摩擦(実線及び白丸)と、固体接触による摩擦(実線及び「×」印)に分けたものである。
図14(A)の実測値からわかるように、実当たり幅が大きいほど、摩擦が低減し、実当たり幅が150μm未満になると、摩擦力が急激に上昇しやすくなる。これは、図14(B)のシミュレーション結果からわかるように、実当たり幅が150μm未満になると、境界潤滑の摩擦の増大は限度に達するものの、固体接触による摩擦が急激に増大することに起因していると推察される。
ちなみに、実測値において、FMEPが最も小さいのは実当たり幅が250μm(オイルリングB)となったが、内燃機関の運転条件の変動などを考慮すると、これよりも多少広いものが最適と推察される。一般的に、実当たり幅の増大は、摩擦力の増大につながることになるが、測定値やシミュレーションによれば、実当たり幅が400μm程度までは、摩擦力が小さい状態が十分に維持されると考えられる。従って、潤滑油が0W-20の場合、実当たり幅が250μm~400μmの範囲(面圧では0.59MPa~0.94MPaの範囲)が、最適と考えられる。この最適範囲は、潤滑油の粘度によって多少変動するが、更に低粘度の潤滑油を採用する場合は、より実当たり幅を大きくしたり、面圧を小さくすることが好ましいと考えられる。
(オイルリング単体のFMEPの時間変化の実測結果)
次に、実施例2のオイルリングA、B、C、比較例2のグループX、グループYのオイルリング単体の摩擦試験において、20時間のなじみ運転中で各オイルリングのFMEPがどのように時間変化するか、実測した結果を図15に示す。
グループXのオイルリング(V字形状、PVDコーティング)は、20時間のなじみ運転中において、FMEPが微細に減少するが、その減少幅は10%未満であった。これは、なじみ運転によっても、外周面が摩耗することなく、いわゆるなじみ効果が発現していない状態であると推測される。
グループYのオイルリング(V字形状、Crめっき処理)は、運転直後(約10kPa)から比較して、20時間のなじみ運転を経て15%程度FMEPが減少して8.5kPa程度となった。実当たり幅が、50μm未満と小さいので、固体接触又は接触潤滑領域による摺動と考えられるが、表面の摩耗によって、その摩擦力が経時的に多少減少したと推測される。
オイルリングC(実当たり幅0.150mm、Crめっき処理)は、運転直後(10kPa)から比較して、20時間のなじみ運転を経て40%程度FMEPが減少し、約6.3kPaとなった。
オイルリングB(実当たり幅0.250mm、Crめっき処理)は、運転直後(8kPa)から比較して、20時間のなじみ運転を経て38%程度FMEPが減少し、約4.8kPaとなった。また、オイルリングB(実当たり幅0.250mm)では、図22(A)で示す外縁側径方向差がVa-1=2.4μm、Vb-1=2.0μmとなり、内縁側径方向差がVa-2=0.5μm、Vb-2=0.2μmとなった。
オイルリングA(実当たり幅0.350mm、Crめっき処理)は、なじみ運転の全体に亘ってFMEPの変動がほとんど生じることなく、約4.0kPaとなった。なお、このオイルリングAは、本実施形態の第2の作り込み方法によって、スペーサエキスパンダによるサイドレールの傾きを製造時に盛り込んでバレル形状を作り込んでいるため、なじみ運転開始後20分程度でFMEPが最小値(約4.0kPa)となった。また、オイルリングA(実当たり幅0.350mm)では、外縁側径方向差がVa-1=3.4μm、Vb-1=3.6μmとなり、内縁側径方向差がVa-2=0.5μm、Vb-2=0.2μmとなった。
以上の結果、実施例2のオイルリングA,B,Cは、単体での試験において、なじみ運転の効果で30%以上、FMEPが減少することがわかる。特にオイルリングAは、なじみ運転前のバレル形状の作り込みよって、初期状態でも当たり幅が大きく設定されているため、最初から最適な流体潤滑領域で摺動できると推察された。更に、オイルリングAでは、なじみ運転開始後20分程度で、更に、バレル形状が微修正させることで、FMEPが更に小さくなったと推測された。
以上の通り、本実施形態の内燃機関の摺動構造によれば、シリンダボアに対してトップリング又はオイルリングが接触し得る実当たり幅fが0.05mm以上となり、かつ、その摺動面に作用する面圧が2.0MPa以下となる結果、流体潤滑領域によって低摩擦状態で摺動できるので、内燃機関の効率を大幅に高めることが可能となる。これは、仮想実当たり幅gで定義しても同様である。
更に摺動構造では、100℃の動粘度が16.3[mm2/s]未満となる低粘度の潤滑油に適用すると、一層、摺動面の低摩擦化が達成される。
また、この摺動構造では、ストローク中にトップリング又はオイルリングが最高速度で通過する通過点において、静電容量法で測定される油膜厚さが、0.5μm~4.0μmとなるように設定される。油膜厚さを適切な範囲に制御することで、摩擦力を小さく維持することが可能となる。
更に本摺動構造において、トップリングの面圧が、0.3MPa以下となるようにする。結果、トップリングの摺動抵抗が大幅に小さくなり、内燃機関の効率が高められる。
また更に、本摺動構造において、オイルリングの面圧が、1.4MPa以下となる。結果、オイルリングの油膜厚さが大きくなって摺動抵抗が小さくなり、内燃機関の効率が高められる。なお、特に、なじみ運転の効果を発現させるためには、オイルリングが、3ピースタイプであることが好ましい。
更にまた、本摺動構造において、トップリング及びオイルリングの双方について、トップリングの面圧に対して、オイルリングの面圧が3倍以下となる。両者の面圧をできる限り接近させることで、全体の摺動抵抗が小さくなり、内燃機関の効率が高められる。
また、本摺動構造において、ピストンから取り外した状態における、トップリング及びオイルリングの実当たり面または仮想実当たり面における、周方向に沿って移動する際の径方向の変位量が、10μm以下となる。このようにすると、摺動面の低面圧化(低張力化)を図る場合に、シリンダボアとトップリング及びオイルリングの隙間の均一化が達成され、摩擦力の低減と同時に、ガス漏れを低減することが可能になる。
特に本摺動構造は、ガソリンエンジンに適用することが好ましいが、本発明はこれに限定されず、他の内燃機関に適用することも可能である。
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
10 シリンダボア
12 内壁面
30 ピストン
40 ピストンリング
50 トップリング
60 セカンドリング
70 オイルリング
73a,73b サイドレール
76s スペーサエキスパンダ
82 外周面
82A 上方側外周面
200a、200b 軟質層
200a,200b 軟質層

Claims (5)

  1. 内燃機関のピストンに設置され、第1及び第2サイドレール並びに前記第1及び第2サイドレールを保持する保持部材を有する3ピースタイプのオイルリングの形状作り込み方法であって、
    前記保持部材又は該保持部材と近似する治具に前記第1及び第2サイドレールを組み込むことにより、前記第1サイドレールの第1外周面及び前記第2サイドレールの第2外周面を前記第1及び第2サイドレールの幅方向に傾けて、前記第1外周面及び前記第2外周面を互いに接近させる事前組み込み工程と、
    前記事前組み込み工程で前記保持部材又は前記治具に組み込まれた前記第1及び第2サイドレールに対して、研磨工具を利用することで、前記第1外周面及び前記第2外周面の前記オイルリングの軸方向外側領域を、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向内側領域よりも多く研磨して、前記第1外周面及び前記第2外周面に対して径方向外側に凸となる初期バレル形状を作り込む初期研磨工程と、
    前記初期研磨工程を経た前記第1及び第2サイドレールを前記保持部材と共に前記ピストンに組み込む最終組み込み工程と、
    前記最終組み込み工程を経た前記オイルリングを前記内燃機関のシリンダと摺動させることで前記第1外周面及び前記第2外周面を摩滅させて、前記第1外周面及び前記第2外周面に対して径方向外側に凸となる最終バレル形状を作り込むなじみ運転工程と、
    を備えることを特徴とするオイルリングの形状作り込み方法。
  2. 前記初期研磨工程において、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向外側縁の研磨量が、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向内側縁の研磨量に対して、1μm以上大きいことを特徴とする、
    請求項に記載のオイルリングの形状作り込み方法。
  3. 前記保持部材から独立した状態の前記第1サイドレールの前記第1外周面及び前記第2サイドレールの前記第2外周面に対して、前記なじみ運転工程で摩滅可能な軟質層を形成する軟質層形成工程を備えることを特徴とする、
    請求項又はに記載のオイルリングの形状作り込み方法。
  4. 前記軟質層形成工程は、前記初期研磨工程よりも前に実行され、
    前記初期研磨工程後且つ前記なじみ運転前において、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向外側縁の前記軟質層の残存厚さが、前記第1外周面及び前記第2外周面における前記オイルリングの軸方向内側縁の前記軟質層の残存厚さよりも小さいことを特徴とする、
    請求項に記載のオイルリングの形状作り込み方法。
  5. 前記なじみ運転工程後において、前記シリンダに対して前記第1外周面及び前記第2外周面が接触し得るの軸方向の実当たり幅が0.15mm以上となることを特徴とする、
    請求項ないしのいずれか1項に記載のオイルリングの形状作り込み方法。
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