JP7363494B2 - ターボ分子ポンプ - Google Patents

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Description

本発明は、ターボ分子ポンプに関する。
ターボ分子ポンプは、タービン翼が形成されたステータ翼に対してタービン翼が形成されたロータ翼を高速回転させることにより、ポンプの吸気口から流入した気体分子をポンプの排気口へと排気する。ポンプロータに形成された複数段のロータ翼に対して、複数段のステータ翼がロータ軸方向に交互に配置されている。タービン翼に衝突した気体分子は、タービン翼によって排気下流側に向かう運動量を与えられて排気下流側へと移動し、ポンプの排気口から排気される。
高真空の条件下では、タービン翼段の1段分を気体分子が通過する間に分子間衝突がほとんどないと考えられるため、排気側から吸気側に向かう逆流分子のほとんどはタービン翼に跳ね返され、逆流分子による性能低下はそれほど考慮する必要がなかった。しかしながら、大流量、高背圧条件では、気体分子がタービン翼段の1段分を通過する間の分子間衝突が増加して気体分子の逆流の影響が顕著になり、排気性が低下するという問題が生じる。そのため、特許文献1に記載のターボ分子ポンプでは、ロータ翼およびステータ翼の翼形状を、逆流防止効果を発揮する形状とすることで、逆流の影響の低下を図っている。
特許第3047292号公報
しかしながら、特許文献1に記載のターボ分子ポンプでは、翼の傾きが吸気側から排気側にかけて変化する複雑な翼形状であるため、翼加工が難しく加工コスト増が問題となる。
本発明の態様によるターボ分子ポンプは、複数のブレードが放射状に形成され、ロータ軸方向に設けられた複数段のロータ翼と、複数段の前記ロータ翼に対してロータ軸方向に交互に配置され、複数のブレードが放射状に設けられた複数段のステータ翼と、を備え、前記複数段のロータ翼および前記複数段のステータ翼の少なくとも1段は、ブレード枚数が「素数×2」または「素数×2」に設定されている。
本発明によれば、コスト増加を抑制しつつ、大流量、高背圧条件における排気性能の向上を図ることができる。
図1は、ターボ分子ポンプの概略構成を模式的に示した断面図である。 図2は、ロータ翼の一例を示す平面図である。 図3は、ステータ翼の一例を示す平面図である。 図4は、ターボポンプ段における排気の原理を説明する図である。 図5は、中間流・連続流条件における気体分子の逆流を説明する図である。 図6は、一対のステータ翼のブレード枚数が36枚と30枚の場合における重複領域R2ovを説明する図である。 図7は、一対のステータ翼のブレード枚数が36枚と34枚の場合における重複領域R2ovを説明する図である。 図8は、一対のステータ翼のブレード枚数が同一であって、かつ、ブレード位置の位相が一致している場合の、重複領域R2ovを説明する図である。 図9は、一対のステータ翼のブレード枚数が同一であって、かつ、ブレード位置の位相が角度ピッチPに関してP/2だけ互いにずらした場合を示す図である。 図10は、排気速度7000L/sクラスの場合の実施例の翼構成を示す図である。 図11は、排気速度5000L/sクラスの場合の実施例の翼構成を示す図である。 図12は、排気速度3000L/sクラスの場合の実施例の翼構成を示す図である。 図13は、排気速度7000L/sクラスの場合の比較例の翼構成を示す図である。 図14は、排気速度5000L/sクラスの場合の比較例の翼構成を示す図である。 図15は、排気速度3000L/sクラスの場合の比較例の翼構成を示す図である。 図16は、実施例と比較例の排気性能を示す図である。
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、ターボ分子ポンプ1の概略構成を模式的に示した断面図である。なお、本実施の形態では磁気軸受式のターボ分子ポンプを例に説明するが、本発明は磁気軸受式に限らず種々のターボ分子ポンプに適用可能である。
ターボ分子ポンプ1は、複数段のステータ翼30と複数段のロータ翼40とで構成されるターボポンプ段と、ステータ31と円筒部41とで構成されるネジ溝ポンプ段とを有している。図1に示す例では、ターボポンプ段は8段のステータ翼30と9段のロータ翼40とで構成されているが、各段数はこれに限定されない。ネジ溝ポンプ段においては、ステータ31または円筒部41にネジ溝が形成されている。ロータ翼40および円筒部41はポンプロータ4aに形成されている。ポンプロータ4aは、複数のボルト50によりロータ軸であるシャフト4bに締結されている。ポンプロータ4aとシャフト4bとをボルト50で締結して一体とすることで、回転体4が形成される。
複数段のステータ翼30は、ポンプロータ4aの軸方向に設けられた複数段のロータ翼40に対して交互に配置されている。各ステータ翼30は、スペーサリング33を介してポンプ軸方向に積層されている。シャフト4bは、ベース3に設けられた磁気軸受34,35,36によって磁気浮上支持される。詳細な図示は省略したが、各磁気軸受34~36は電磁石と変位センサとを備えている。変位センサによりシャフト4bの浮上位置が検出される。
ポンプロータ4aとシャフト4bとをボルト締結した回転体4は、モータ10により回転駆動される。磁気軸受が作動していない時には、シャフト4bは非常用のメカニカルベアリング37a,37bによって支持される。回転体4をモータ10により高速回転すると、ポンプ吸気口側の気体は、ターボポンプ段(ロータ翼40、ステータ翼30)およびネジ溝ポンプ段(円筒部41、ステータ31)により順に排気され、排気ポート38から排出される。排気ポート38には補助ポンプが接続される。
図2、3は、ロータ翼40およびステータ翼30の一例を示す平面図である。図2は、ポンプロータ4aの最上段に形成された1段目のロータ翼40A(40)を吸気側から見た図である。ロータ翼40Aには、16枚のブレード400がポンプロータ4aから放射状に形成されている。各ブレード400は角度ピッチ22.5度で形成されており、隣接するブレード400間には破線で示すような表裏に貫通する貫通領域R1が形成されている。
図3は、図2に示すロータ翼40Aの排気下流側に隣接して配置される1段目のステータ翼30A(30)を示す図である。ステータ翼30Aは、ロータ翼40間に配置可能なように2つに分割されている。ステータ翼30Aは、半リング状の内側リブ部301の外径側に複数のブレード300が放射状に形成されている。ステータ翼30Aは16枚のブレード300を有し、各ブレード300は角度ピッチ22.5度で形成されている。隣接するブレード300間には、破線で示すような表裏に貫通する貫通領域R2が形成されている。なお、ステータ翼30およびロータ翼40のブレード枚数(翼枚数)の設定方法については後述する。また、貫通領域R1,R2については、ブレード枚数や翼形状の設定によっては形成されない場合もある。
(ターボポンプ段の排気の原理)
図4は、ターボポンプ段における排気の原理を説明する図であり、ターボポンプ段を図2の一点鎖線で示す円弧に沿ったC-C断面を示す図である。なお、図4では、ターボポンプ段の吸気口側からロータ翼40の1段目(40A)、ステータ翼30の1段目(30A)およびロータ翼40の2段目(40B)を示す。図2においてポンプロータ4aは時計回りに回転し、そのときのC-C断面におけるロータ翼40の周速度をVとする。図4では、ステータ翼30Aのブレード300に対して、ロータ翼40のブレード400が図示左方向に周速度Vで移動することになる。
(1)吸気側から入射する気体分子
ここで、吸気側からロータ翼40Aに対して、気体分子M1が速度Vm1で図示下方に入射した場合を考える。なお、隣接するブレード400間の領域を隙間領域R10と呼ぶことにする。ロータ翼40Aのブレード400は図示左方向に周速度Vで移動しているので、ブレード400から見た気体分子M1の相対速度Vm1rは、速度Vm1と速度-Vとを合成した右下方向の速度となる。速度Vm1の気体分子M1に関して、隙間領域R10の一部である隙間領域R10aに入射したものは、右下方向に傾いたブレード400の間をすり抜けるようにロータ翼40Aを通過してステータ翼30Aへ入射する。一方、隙間領域R10の内の残りの一部である隙間領域R10bに速度Vm1で入射した気体分子M1は、ブレード400の裏面400bに衝突する。
ブレード400の裏面400bに相対速度Vm1rで入射した気体分子M1は、裏面400bで反射されて裏面400bから出射される。このときの出射方向は必ずしも鏡面反射方向ではなく、それ以外の方向においても出射角度(法線からの角度)に依存した確率で存在すると考えられる。ブレード400の裏面400bは排気側を向くように傾いているので、その裏面400bに入射した気体分子M1は排気側に出射される確率が高い。ここでは、気体分子M1が、裏面400bの法線方向に相対速度Vm2rで出射された場合を考える。周速度Vで移動するブレード400から相対速度Vm2rで出射された気体分子M1は、静止しているステータ翼30Aに対して速度Vm2で入射する。速度Vm2は相対速度Vm2rと速度Vとを合成した速度となり、気体分子M1は図4に示すように水平方向に対して浅い角度で左下方向に進む。
ブレード300はブレード400とは逆に左下斜め方向に傾いているので、ロータ翼40Aからステータ翼30Aに入射した気体分子M1のほとんどは、ブレード300の間をすり抜けるようにステータ翼30Aを通過するか、または、ブレード300の裏面300bに衝突することになる。ブレード300の裏面300bは排気側を向くように傾いているので、その裏面300bに入射した気体分子M1は、裏面300bで反射されて2段目のロータ翼40Bの方向に出射される確率が高い。そして、ステータ翼30Aからロータ翼40Bに入射した気体分子M1は、吸気側からロータ翼40Aに入射した気体分子M1の場合と同様の過程を経て、ロータ翼40Bから排気側へと移動することになる。
なお、ブレード300の裏面300bに入射した気体分子M1の内、裏面300bから逆行するように速度Vm3で出射されて1段目のロータ翼40Aに入射する気体分子M1は、ブレード400から見た相対速度Vm3rが出射速度Vm3と速度-Vとを合成した速度となる。そのため、ほとんどがブレード400の裏面400bに入射することになる。
一方、ロータ翼40Aのブレード400の間をすり抜けてステータ翼30Aへ入射した気体分子M1は、一部がブレード300間をすり抜け、残りの一部がブレード300の上面300aに入射する。ブレード300の上面300aは吸気側を向いているので、上面300aに入射した気体分子M1の一部、例えば、上面300aで反射されて、速度Vm6で上面300aから出射された気体分子M1は、再びロータ翼40Aに入射することになる。
周速度Vで移動するブレード400から見た気体分子M1の相対速度Vm6rは、速度Vm6と速度-Vとを合成した速度となる。そのため、気体分子M1はブレード400の裏面400bに入射することになる。その後、気体分子M1は、ブレード400の裏面400bで反射されて裏面400bから出射され、上述した相対速度Vm2rで出射した気体分子M1の場合と同様にステータ翼30Aに入射する。このように、ステータ翼30に対してロータ翼40が周速度Vで回転することで、吸気側から入射した気体分子M1のほとんどは排気側へと移送されることになる。
(2)排気側から入射する逆流分子
次に、排気側からロータ翼40Bに入射する気体分子、すなわち、逆流分子について説明する。ここでは、図4に示す気体分子M2のように、気体分子M2が速度Vm4で図示上方に入射した場合を考える。ロータ翼40Bのブレード400は図示左方向に周速度Vで移動しているので、ブレード400から見た気体分子M2の相対速度Vm4rは、速度Vm4と速度-Vとを合成した右上方向の速度となる。そのため、気体分子M2のほとんどがブレード400の裏面400bに衝突することになり、気体分子M2がブレード400の間を吸気側方向にすり抜ける確率は小さい。
前述したように、ブレード400の裏面400bに入射した気体分子M2は、鏡面反射方向だけではなく、それ以外の方向にも反射される確率を有している。例えば、ブレード400の裏面400bから相対速度Vm5rで出射されて、排気側に設けられたステータ翼30Aに入射する場合もある。その場合、ブレード400はステータ翼30Aのブレード300に対して周速度Vで左方向に移動しているので、ブレード400から相対速度Vm5rで出射された気体分子M2の、ブレード300に対する速度Vm5は、相対速度Vm5rと周速度Vとを合成した速度となる。
上述した、ロータ翼40Aのブレード400の裏面400bに入射した気体分子M1の場合と同様に、ステータ翼30Aのブレード300の裏面300bに入射した気体分子M2の場合も、ほとんどが排気側のロータ翼40Bの方向に反射され、ごくわずかがステータ翼30Aを排気側へ抜けてロータ翼40Aに入射する。このように排気側からロータ翼40Bに入射した気体分子(逆流分子)のほとんどは排気側に排気されることになり、トータルとして吸気側から排気側へと気体分子が排気されることになる。
基本的にタービン翼段全段の排気性能は、「(吸気側から排気側にかけての排気作用による排気速度)-(排気側から吸気側への逆流成分の排気速度)」で算出される全段の排気速度で表される。小流量かつ高真空の条件(以下では、分子流条件と呼ぶことにする)では、ターボポンプ段の1段分(ステータ翼30またはロータ翼40)を気体分子が通過する間に分子間衝突がほとんどないとみなせるので、上述した排気の原理がほぼ成り立つと考えることができる。そのため、気体分子の逆流による性能低下をそれほど考慮する必要が無かった。
しかしながら、大流量、高背圧条件(以下では、中間流・連続流条件と呼ぶことにする)では、気体分子がターボポンプ段の1段分を通過する間に分子間衝突が発生しやすい。中間流・連続流条件における分子間衝突は、後述するように、気体分子の逆流を招きやすい。その結果、同じ翼構成であっても、中間流・連続流条件では、シミュレーションにより得られる排気性能が分子流条件の場合よりも低くなる。
図5は、分子間衝突が逆流の起因となることを説明する図である。図5では、ロータ翼40のブレード400と、そのロータ翼40に隣接する一対のステータ翼30のブレード300を示している。一対のステータ翼30は、翼構成は互いに同一であるが、ブレード300の周方向の位相は互いにずれて配置されている。そのため、上下の一対のステータ翼30は、お互いの貫通領域R2の内の一部の領域R2ovのみが重複している。以下では、この領域R2ovを重複領域と呼ぶことにする。すなわち、ロータ翼40が無くステータ翼30だけを考えた場合、下側のステータ翼30を排気側から見たときに重複領域R2ovのみから吸気側を見通すことができる。なお、図4に記載されている一対のロータ翼40A,40Bでは、ブレード400の周方向の位相が一致しているので、貫通領域R1の全体が重複領域R1ovになっている。
中間流・連続流条件における気体分子の逆流は、図4に示した分子流条件における気体分子の逆流よりも、分子密度の高い領域から分子密度の低い領域に流れる密度流に起因する逆流がメインになる。密度流における逆流分子の流れは、排気側(高圧側)から吸気側(低圧側)に向かう傾向の速度ベクトルを持つ。その結果、逆流分子がロータ翼40のブレード400と衝突して周速度ベクトルと同じ向きの運動量を授受しても、他の気体分子との衝突により周速度ベクトルの影響が小さくなる。それにより、逆流分子の速度ベクトルは、吸気口方向のベクトル成分が支配的な速度ベクトルとなる。
例えば、図5に示すように、逆流する気体分子M3が、下側のステータ翼30の排気側から速度Vm4で図示上方に入射した場合を考える。この場合、隙間領域R20の内の貫通領域R2に入射した気体分子M3は、密度流の流れに乗ってブレード300に衝突することなくステータ翼30を吸気側へ通り抜ける。一方、隙間領域R20の貫通領域R2以外の入射した気体分子M3はブレード300と衝突し、ほとんどが排気側へ向かい、一部は貫通領域R2に入った後に密度流の流れに乗ってステータ翼30を吸気側へ通り抜けると考えられる。そのため、貫通領域R2の断面積(投影断面積)が大きいステータ翼30ほど気体分子の逆流が大きいと考えられる。
下側のステータ翼30を吸気側へ通り抜けた気体分子M3は、密度流の状態でロータ翼40の隙間領域R10に入ることになる。分子流状態の気体分子M3の場合と異なり、密度流状態の気体分子M3に対しては、周速度Vで移動するブレード400は流れを遮る遮蔽板のような作用をするものと考えられる。そのため、下側のステータ翼30の貫通領域R2がブレード400によって遮られていない状態においては、下側のステータ翼30の貫通領域R2を通り抜けた密度流状態の気体分子M3の内、重複領域R2ovを通り抜けた気体分子M3のみが、上側のステータ翼30を吸気側へ通り抜けることができる。
すなわち、図5のようにロータ翼40を挟んで同一翼構成のステータ翼30が配置されている場合、一対のステータ翼30の重複領域R2ovが大きいほど密度流状態の気体分子M3の逆流が大きくなる。説明は省略するが、図4のようにステータ翼30を挟んで同一翼構成のロータ翼40が配置されている場合においても、ロータ翼40の重複領域R1ovが大きいほど密度流状態の気体分子M3の逆流が大きくなる。本実施の形態では、一対のステータ翼30または一対のロータ翼40の重複領域がより小さくなるように、翼枚数または翼配置を工夫することで逆流の影響を低減し、中間流・連続流条件における排気性能の向上を図るようにした。
なお、前述したように、翼構成によっては、貫通領域R1,R2の無いステータ翼30およびロータ翼40が可能である。そのような場合でも、密度流状態の気体分子の流れはブレードを回り込むように逆流することになる。そのため、貫通領域R1,R2の無いステータ翼30およびロータ翼40の場合においても、翼枚数または翼配置を工夫することで逆流の影響を低減することができる。
(本実施の形態の翼構成)
上述したように、逆流の影響を低減するためには、上述した重複領域R1ov,R2ovをより小さくすることが必要である。まず、隣接する一対のロータ翼40を考えた場合、ブレード枚数が同一よりも異なっている方が良い。同様に、隣接する一対のステータ翼30の場合も、ブレード枚数が同一よりも異なっている方が良い。例えば、図4のロータ翼40の場合のように、一対のロータ翼40のブレード枚数が同一でかつ周方向の位相がそろっている場合には、一対のロータ翼40の各貫通領域R1が互いに対向することとなり、一周360degにおける複数の重複領域R1ovの大きさの合計が最も大きくなる。すなわち、排気性能への逆流の影響が大きくなる。
本実施の形態では、複数段あるステータ翼30およびロータ翼40の少なくとも1段は、ブレード枚数(翼枚数)を「素数×2」または「素数×2」に設定することで、重複領域R1ov,R2ovの低減を図るようにした。図6,7は、一対のステータ翼30における重複領域R2ovを説明する図である。図6は、上段のブレード枚数36枚のステータ翼30と、下段のブレード枚数30枚のステータ翼30との組み合わせを示す。図7は、上段のブレード枚数36枚のステータ翼30と、ブレード枚数が34=17×2=「素数×2」の下段のステータ翼30との組み合わせを示す。
なお、図6,7では、ほぼ半周分(180deg)のブレードを示しており、図6では、上段のステータ翼30は1~19枚目のブレードを示し、下段のステータ翼30は1~16枚目のブレードを示す。図7では、上段のステータ翼30は1~19枚目のブレードを示し、下段のステータ翼30は1~18枚目のブレードを示す。図6,7のいずれの場合も、1枚目の位置を一致させて図示した。
図6の場合、36と30との最大公約数は6なので、60deg毎に上下のブレード300の位置が一致する。図6に示すブレード形状の場合、ハッチングで示した重複領域R2ovが一周360degで24か所ある。一方、図7のように下段のステータ翼30のブレード枚を「素数×2」=34に設定した場合、36と34との最大公約数は2なので、180deg毎に上下のブレード300の位置が一致することになる。図7のブレード形状は図6の場合と同一であり、重複領域R2ovは一周360degで28か所の重複領域R2ovが生じている。
重複領域R2ovの周方向の寸法は、一致しているブレード300の左右にあるものが最も大きく、一致しているブレード300から遠ざかるほど小さくなる。図6に示す例では、一周360degで一致している箇所は6か所なので、一致しているブレード300の左右の重複領域R2ovの数は12である。一方、図7に示す例では、一周360degで一致している箇所は2か所なので、一致しているブレード300の左右の重複領域R2ovの数は4である。そのため、一周360degに生じている複数の重複領域R2ovの周方向の寸法の合計は図7に示す翼構成の方が小さくなる。なお、図7に示すラインAは翼枚数が図6の36枚-30枚の場合の重複領域R2ovの周方向寸法の合計を示し、ラインBは翼枚数が36枚-34枚の場合の重複領域R2ovの周方向寸法の合計を示す。
このように、ブレード枚が「素数×2」であるステータ翼30を含む図7の場合の方が、重複領域R2ovの周方向寸法の合計が小さくなる。その結果、排気性能への逆流の影響をより小さくすることができ、中間流・連続流条件における排気性能の向上を図ることができる。図6、7ではブレード枚数として「素数×2」を含む場合について説明したが、ブレード枚数として「素数×2」を含む場合も、ブレード枚数に素数が因数として含まれるので、「素数×2」の場合と同様の効果を奏することができる。また、一対のロータ翼40のブレード枚数に関しても、ステータ翼30と同様の説明が成り立ち、同様の効果を奏することができる。
図6、7では一対のステータ翼30に関して説明したが、複数段のステータ翼30およびロータ翼40で構成されるターボポンプ段に関して、次のように言うことができる。複数段のステータ翼30およびロータ翼40の少なくとも1段のブレード枚数を「素数×2」または「素数×2」に設定することで、中間流・連続流条件における逆流の影響をより小さくすることができ、排気性能の向上を図ることができる。すなわち、下記(a1)、(a2)のいずれの場合においても、重複領域の周方向寸法の合計をより小さくすることができ、排気性能への逆流の影響をより小さくすることができる。
(a1) 複数段のステータ翼30および複数段のロータ翼40の一方だけに、ブレード枚数が「素数×2」または「素数×2」である翼段を1段以上含む場合。
(a2) 複数段のステータ翼30および複数段のロータ翼40の両方に、ブレード枚数が「素数×2」または「素数×2」である翼段を1段以上含む場合。
(変形例)
ところで、ブレード枚数を「素数×2」または「素数×2」に設定した場合であっても、図8に示す一対のステータ翼30のように、ブレード枚数が同一であって、かつ、ブレード位置の位相が一致している場合には、一周360degに存在する複数の隙間領域R10の全てに、重複領域R2ov(=貫通領域R2)が生じてしまうことになる。このような翼構成の場合には、図9に示すように、上下のブレード300の位相を角度ピッチPに関してP/2だけ互いにずらすことで、重複領域R2ovを小さくすることができる。図9に示す例ではR2ov=0となっている。なお、ずらす量はP/2に限定されないが、P/2に設定した場合が重複領域R1ovの減少率が最も大きくなる。これは、ブレード枚数が「素数×2」または「素数×2」である場合に限定されず、それ以外のブレード枚数に設定されている場合も同様のことが言える。
(実施例)
図10~12は、上述した本実施の形態の翼構成を適用した場合のターボポンプ段の実施例を示したものであり、図10は排気速度7000L/sクラスの場合、図11は排気速度5000L/sクラスの場合、図12は排気速度3000L/sクラスの場合をそれぞれ示す。翼種の項において、数字はタービン翼段の段番号を表し、アルファベットのSはステータ翼を、Rはロータ翼を表している。例えば、翼種=3Rは、吸気側から3段目の翼段で、ステータ翼であることを示している。ターボポンプ段における翼段の総数は、図10の排気速度7000L/sクラスでは15段、図11の5000L/sクラスでは17段、図12の3000L/sクラスでは17段に設定されている。分類の項は、ブレード枚数が「素数×2」、「素数×2」およびその他のいずれであるかを表している。図10~12のいずれの場合も、「素数×2」の翼段と「素数×2」の翼段とを複数段備えている。
(比較例)
図13~15は、図10~12に示した実施例に対する比較例を示したものであり、「素数×2」の翼段も「素数×2」の翼段も備えていない場合を例示した。図13は排気速度7000L/sクラスの場合、図14は排気速度5000L/sクラスの場合、図15は排気速度3000L/sクラスの場合をそれぞれ示す。
図16は、図10~12に示す実施例のターボポンプ段全段の排気速度と、図13~15に示す比較例のターボポンプ段全段の排気速度とを比較したものである。なお、図16では、ターボポンプ段の排気速度を図10~12のターボポンプ段の場合を1とした場合の比率で、対応する図13~15の比較例のターボポンプ段の排気速度を表した。性能低下率は、実施例に対する比較例の性能低下率を表す。タービン枚数として「素数×2」および「素数×2」である翼段を含まない比較例では、いずれのクラスにおいても排気速度が実施例を下回っていることが分かる。そして、性能低下率は排気速度の大きなクラスのものほど顕著になっている。逆に言えば、排気速度クラスが大きいポンプほど、ブレード枚数を「素数×2」および「素数×2」とすることの効果がより顕著に現れ、図16に示すように5000L/sクラス、7000L/sクラスのターボ分子ポンプに適している。
上述した例示的な実施の形態、変形例および実施例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
[1]一態様に係るターボ分子ポンプは、複数のブレードが放射状に形成され、ロータ軸方向に設けられた複数段のロータ翼と、複数段の前記ロータ翼に対してロータ軸方向に交互に配置され、複数のブレードが放射状に設けられた複数段のステータ翼と、を備え、前記複数段のロータ翼および前記複数段のステータ翼の少なくとも1段は、ブレード枚数が「素数×2」または「素数×2」に設定されている。複数段のロータ翼および複数段のステータ翼の少なくとも1段のブレード枚数を「素数×2」または「素数×2」に設定することにより、排気側から吸気側への気体分子の逆流が抑えられ、中間流・連続流条件における排気性能の向上を図ることができる。
[2]上記[1]に記載のターボ分子ポンプにおいて、前記複数段のロータ翼には、同じブレード枚数のロータ翼がロータ軸方向に2段以上連続して隣接する構成が含まれ、ロータ軸方向に隣接する一対の前記同じブレード枚数のロータ翼は、周方向の翼配置位相が互いにずれている。ロータ軸方向に隣接する同じブレード枚数のロータ翼40の周方向の翼配置位相を互いにずらすことにより、排気側から吸気側を見通し可能な重複領域R1ovをより小さくすることができ、気体分子の逆流による排気性能の低下を抑制することができる。
[3]上記[1]または[2]に記載のターボ分子ポンプにおいて、前記複数段のステータ翼には、同じブレード枚数のステータ翼がロータ軸方向に2段以上連続して隣接する構成が含まれ、ロータ軸方向に隣接する一対の前記同じブレード枚数のステータ翼は、周方向の翼配置位相が互いにずれている。ロータ軸方向に隣接する同じブレード枚数のステータ翼30の周方向の翼配置位相を互いにずらすことにより、排気側から吸気側を見通し可能な重複領域R2ovをより小さくすることができ、気体分子の逆流による排気性能の低下を抑制することができる。
[4]上記[2]または[3]に記載のターボ分子ポンプにおいて、前記周方向の翼配置位相のずれ量は、ブレードの周方向の角度ピッチをPとしたときにP/2ピッチに設定されているのが好ましい。ずれ量をP/2ピッチとすることにより、重複領域R1ov,R2ovを可能な限り小さくすることができる。
[5]上記[1]または[4]までのいずれか一項に記載のターボ分子ポンプにおいて、排気速度が5000[L/s]以上である。
[6]上記[1]または[4]までのいずれか一項に記載のターボ分子ポンプにおいて、排気速度が7000[L/s]以上である。気体分子の逆流を抑制する効果は、図16に示すように排気速度が大きなものほど大きく、排気速度5000[L/s]以上および排気速度7000[L/s]以上のターボ分子ポンプにおいて効果が顕著である。
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、図1に示すターボ分子ポンプ1はターボポンプ段とネジ溝ポンプ段とを有する構成であったが、本発明はターボポンプ段のみの全翼タイプのターボ分子ポンプにも適用することができる。
1…ターボ分子ポンプ、4…回転体、4a…ポンプロータ、30,30A,30B…ステータ翼、40,40A,40B…ロータ翼、300,400…ブレード、M1~M3…気体分子、P…角度ピッチ、R1,R2…貫通領域、R1ov,R2ov…重複領域、R10,R10a,R10b,R20…隙間領域

Claims (7)

  1. 複数のブレードが放射状に形成され、ロータ軸方向に設けられた複数段のロータ翼と、
    複数段の前記ロータ翼に対してロータ軸方向に交互に配置され、複数のブレードが放射状に設けられた複数段のステータ翼と、を備え、
    前記複数段のロータ翼の中間段の少なくとも1段は、ブレード枚数が「素数×2」に設定され、かつ、隣接する段のロータ翼とはブレード枚数が異なっている、ターボ分子ポンプ。
  2. 請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
    前記複数段のロータ翼の中間段の複数段は、ブレード枚数が「素数×2」に設定されている、ターボ分子ポンプ。
  3. 請求項1または2に記載のターボ分子ポンプにおいて、
    前記複数段のステータ翼の中間段の複数段は、ブレード枚数が「素数×2」に設定されている、ターボ分子ポンプ。
  4. 請求項に記載のターボ分子ポンプにおいて、
    排気速度が5000[L/s]以上である、ターボ分子ポンプ。
  5. 請求項に記載のターボ分子ポンプにおいて、
    排気速度が7000[L/s]以上である、ターボ分子ポンプ。
  6. 請求項1に記載のターボ分子ポンプにおいて、
    同一の段の前記ロータ翼の隣接するブレード間において、前記ロータ翼の表裏を貫通する第1貫通領域が形成され
    前記ロータ軸方向において、隣接する2つの段の前記ロータ翼の相互の前記第1貫通領域における一部の領域が第1重複領域として重複し、前記複数段のロータ翼の中間段の少なくとも1段は、ブレード枚数が「素数×2」に設定されていることにより、前記第1重複領域の周方向寸法の合計が、ブレード枚数が「素数×2」でない場合と比して小さい、ターボ分子ポンプ。
  7. 請求項3に記載のターボ分子ポンプにおいて、
    同一の段の前記ステータ翼の隣接するブレード間において、前記ステータ翼の表裏を貫通する第2貫通領域が形成され、
    前記ロータ軸方向において、隣接する2つの段の前記ステータ翼の相互の前記第2貫通領域における一部の領域が第2重複領域として重複し、前記複数段のステータ翼の中間段の複数段は、ブレード枚数が「素数×2」に設定されていることにより、前記第2重複領域の周方向寸法の合計が、ブレード枚数が「素数×2」でない場合と比して小さい、ターボ分子ポンプ。
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