以下に、本願発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、船舶としてのヨット1は、船体2と、船体2の船底中央側に設けられたバラストキール3と、船体2の船底後尾側に設けられた舵4と、バラストキール3と舵4との間に配置されたプロペラ5とを備えている。船体2の上面側にある上部デッキ6にマスト7が立設されている。マスト7の下部にはブーム8が設けられている。マスト7とブーム8との間にメインセール9が張設されている。船体2の船首側とマスト7の上端側とにワイヤロープ10がつながれている。ワイヤロープ10にはジブセール11が張設されている。
マスト7の後方には操縦部12が設けられている。操縦部12内には、操舵によって船体2の進行方向を左右に変更させる操舵ハンドル13と、船体2の前進、停止、後退及びその航行速度を変更操作する変速レバー14とが設けられている。船体2の船底後尾側にはプロペラ5を回転させる推進軸15が軸支されている。推進軸15の突出端側にプロペラ5が取り付けられている。
船体2内部には、プロペラ5の駆動源であるエンジン16と、エンジン16の回転動力を推進軸15経由でプロペラ5に伝達する減速逆転機18(マリンギヤ装置)とが設けられている。エンジン16から減速逆転機18を経由して推進軸15に伝達された回転動力によって、プロペラ5は回転する。
図2~図4は、本願発明に係る減速逆転機18の第1実施形態を示している。図3に示すように、減速逆転機18のハウジング19は、前部カバー体20aと中間ケース体20bと後部カバー体20cとを備えている。中間ケース体20bは、エンジン16のある前面側を開口した略箱状の形態である。中間ケース体20bの前面開口は、前部カバー体20aによって着脱可能に塞がれている。中間ケース体20bのうちエンジン16と反対側の後面には、後部カバー体20cが着脱可能に取り付けられている。中間ケース体20b後面上部と後部カバー体20c上部との間には、中空状の空間である後室19bが形成されている。従って、ハウジング19内には、前部カバー体20aと中間ケース体20bとで囲われた前室19aと、中間ケース体20b後面上部と後部カバー体20c上部とで囲われた後室19bとが形成されている。
減速逆転機18は、エンジン16のフライホイル17に連結される入力軸21と、推進軸15に連結される出力軸22と、入力軸21から出力軸22への正転(前進)方向の動力を継断する正転クラッチ23と、入力軸21から出力軸22への逆転(後進)方向の動力を継断する逆転クラッチ24とを備えている。
入力軸21は、ハウジング19の前室19aから前部カバー体20aを介して前向きに突出している。出力軸22は、ハウジング19の前室19aから中間ケース体20b後面及び後部カバー体20cを介して後ろ向きに突出している。入力軸21は、前部カバー体20aと中間ケース体20b後面とに回転可能に軸支されている。出力軸22も、入力軸21と同様に、前部カバー体20aと中間ケース体20b後面とに回転可能に軸支されている。
正転クラッチ23及び逆転クラッチ24は、ハウジング19の前室19a内に収容されている。正転クラッチ23と逆転クラッチ24とで正逆転機構25が構成されている。正転クラッチ23及び逆転クラッチ24は、湿式多板型の油圧摩擦クラッチである。正転クラッチ23は、入力軸21上に配置されている。正転クラッチ23におけるエンジン16からの動力伝達下流側(ハブ側)に正転減速ギヤ23bが形成されている。正転クラッチ23におけるエンジン16からの動力伝達上流側(ドラム側)には正転ギヤ23aが形成されている。正転ギヤ23aは入力軸21に固定されている。正転減速ギヤ23bは入力軸21に回転可能に被嵌されている。逆転クラッチ24は、入力軸21と平行状に延びる逆転軸26上に配置されている。逆転クラッチ24におけるエンジン16からの動力伝達下流側(ハブ側)に逆転減速ギヤ24bが形成されている。逆転クラッチ24におけるエンジン16からの動力伝達上流側(ドラム側)には逆転ギヤ24aが形成されている。逆転ギヤ24aは逆転軸26に固定されている。逆転減速ギヤ24bは逆転軸26に回転可能に被嵌されている。
正転クラッチ23の正転ギヤ23aは、逆転クラッチ24の逆転ギヤ24aと常時噛み合っている。正転減速ギヤ23b及び後進減速ギヤ24bは、出力軸22に固定した減速出力ギヤ27に常時噛み合っている。正転減速ギヤ23b、逆転減速ギヤ24b及び減速出力ギヤ27によって、固定減速比の減速ギヤ機構が構成されている。出力軸22の動力は、各減速ギヤ23b,24bと減速出力ギヤ27との間で固定減速比に減速される。
なお、逆転軸26には、正転クラッチ23や逆転クラッチ24等にオイルを供給する主油圧ポンプ28が取り付けられている。主油圧ポンプ28は、エンジン16の動力に基づく逆転軸26の回転で駆動するように構成されている。なお、主油圧ポンプ28は、後部カバー体20c側に取り付けられている。
作動油圧で各クラッチ23,24の摩擦板を圧接させることによって、入力軸21と出力軸22とが動力伝達可能に連結される。すなわち、正転クラッチ23を接続し逆転クラッチ24を遮断すれば、入力軸21の動力を正転(前進)方向の動力として出力軸22に伝達する前進状態になる。逆に、正転クラッチ23を遮断し逆転クラッチ24を接続すれば、入力軸21の動力を逆転(後進)方向の動力として出力軸22に伝達する後進状態になる。正転クラッチ23及び逆転クラッチ24の双方を遮断すれば、入力軸21の動力を出力軸22に伝達しない中立状態になる。
ハウジング19における後部カバー体20cの上部外側には、発電機及び電動機として機能する発電電動機30が取り付けられている。発電電動機30は、切換機構37を介して、正逆転機構25に動力伝達可能に構成されている。発電電動機30は、インバータを介して充放電可能な電源装置に接続されている。発電電動機30は、二次電池又は大容量コンデンサ等からなる電源装置の電力によって、電動機として駆動する一方、発電電動機に伝達された動力を基に発電機として駆動して電力を発生させ、電源装置を充電するように構成されている。
この場合、発電電動機30の回転軸31は、入力軸21や逆転軸26と平行状に延びていて、ハウジング19の後室19b内に挿し込まれている。回転軸31には回転ギヤ32が固定されている。ハウジング19内には、入力軸21や逆転軸26と平行状に延びる中間軸33、切換軸35及びカウンタ軸41の3本が配置されている。
中間軸33は、後室19b内に位置していて、中間ケース体20b後面と後部カバー体20cとに回転可能に軸支されている。切換軸35は、前室19aと後室19bとに跨って延びていて、前部カバー体20a、中間ケース体20b後面及び後部カバー体20cに回転可能に軸支されている。中間軸33には中間ギヤ対34が固定されている。切換軸35における後室19b内の箇所には中継ギヤ36が固定されている。回転軸31の回転ギヤ32が中間ギヤ対34の一方に常時噛み合い、中間ギヤ対34の他方が切換軸35上の中継ギヤ36に常時噛み合っている。発電電動機30における回転軸31の回転ギヤ32、中間軸33の中間ギヤ対34、及び切換軸35の中継ギヤ35は、発電電動機30と切換機構37とを動力伝達可能に連結する伝動機構45を構成している。つまり、発電電動機30における回転軸31の回転ギヤ32、中間軸33の中間ギヤ対34、及び切換軸35の中継ギヤ35は後室19b内に収容されている。なお、図2及び図4に示すように、ハウジング19(中間ケース体20b)の上半部は、正逆転機構25や減速出力ギヤ27等が下半部に収まるため上窄まり状に形成されていて、当該上窄まりの形状によって、減速逆転機18に連結されるエンジン16の吸排気系統(吸気管や排気管等)を取り回しし易くなっている。
切換軸35における前室19a内の箇所に切換機構37が配置されている。ハウジング19の前室19a上部に切換機構37が位置している。切換機構37は、正逆転機構25におけるエンジン16からの動力伝達下流側と上流側とに(第1実施形態では逆転クラッチ24のハブ側とドラム側とに)発電電動機30を選択的に接続可能に構成されている。切換機構37は、クラッチシフタ38の切換作動によって切換軸35に対して継断される低速切換ギヤ39と高速切換ギヤ40とを備えている。クラッチシフタ38は、切換軸35に対して、相対回転不能で且つ軸方向にスライド可能に被嵌されている。低速切換ギヤ39及び高速切換ギヤ40は、切換軸35に回転可能に被嵌されている。低速切換ギヤ39と高速切換ギヤ40との減速比は異ならせてもよいし、同じにしてもよい。低速切換ギヤ39と高速切換ギヤ40との減速比を同じにする場合は、電動機として機能する際に高トルクを出力できる発電電動機30を採用するのが望ましい。
カウンタ軸41は、前室19a内に位置していて、前部カバー体20aと中間ケース体20bとに軸支されている。カウンタ軸41には、低速伝達ギヤ対42と高速伝達ギヤ対43とが回転可能に被嵌されている。低速伝達ギヤ対42の一方に、切換機構25の低速切換ギヤ39が常時噛み合い、低速伝達ギヤ対42の他方には、正逆転機構25におけるエンジン16からの動力伝達下流側(ハブ側)にある逆転減速ギヤ24bが常時噛み合っている。高速伝達ギヤ対43の一方には、切換機構25の高速切換ギヤ40が常時噛み合い、高速伝達ギヤ対43の他方には、正逆転機構25におけるエンジン16からの動力伝達上流側(ドラム側)にある逆転ギヤ24aが常時噛み合っている。
クラッチシフタ38は、アクチュエータ(図示省略)の駆動によって、低速切換ギヤ39と高速切換ギヤ40とに選択的に係合可能になっている。なお、アクチュエータは、航行速度(プロペラ5の回転速度)に応じて、クラッチシフタ38を切換作動させるように構成されている。アクチュエータは電気を駆動源とするものであればよく、例えば電動モータを用いた油圧アクチュエータでも空圧アクチュエータでも差し支えない。図2及び図4に示すように、クラッチシフタ38とアクチュエータとを連結する操作系統46(シフトアームや操作軸等)は、ハウジング19(中間ケース体20b)の上面側に設けられている。このため、比較的周辺スペースに余裕のある上窄まり状のハウジング19上部にアクチュエータを搭載することも可能であるし、またアクチュエータに対する配線又は配管等の取り回しも容易に行える。
低速切換ギヤ39とクラッチシフタ38とを係合させた低速接続状態では、切換軸35と低速切換ギヤ39とが一体回転するため、低速切換ギヤ39を介して発電電動機30と出力軸22との間で動力伝達可能になる。高速切換ギヤ40とクラッチシフタ38とを係合させた高速接続状態では、切換軸35と高速切換ギヤ40とが一体回転するため、高速切換ギヤ40を介して発電電動機30と出力軸22との間で動力伝達可能になる。クラッチシフタ38がどちらの切換ギヤ39,40にも係合しない遮断状態では、発電電動機30と出力軸22との間は動力伝達不能になる(中立になる)。
通常航行時は、変速レバー14操作に応じて正転クラッチ23と逆転クラッチ24とのいずれかが接続状態である上で、航行速度(プロペラ5の回転速度)に応じてクラッチシフタ38を切換作動させる。ヨット1が低速航行中であれば、アクチュエータの駆動によって低速切換ギヤ39とクラッチシフタ38とを係合させ、発電電動機30を発電機として駆動させる。エンジン16動力の余剰分は、逆転減速ギヤ24bから低速伝達ギヤ対42、低速切換ギヤ39及び中間ギヤ対34を介して発電電動機30に伝達され、発電電動機30が電力を発生させる。当該発生した電力は電源装置に充電される。
ヨット1が高速航行中であれば、アクチュエータの駆動によって高速切換ギヤ40とクラッチシフタ38とを係合させ、発電電動機30を発電機として駆動させる。エンジン16動力の余剰分は、逆転ギヤ24aから高速伝達ギヤ対43、高速切換ギヤ40及び中間ギヤ対34を介して発電電動機30に伝達され、発電電動機30が電力を発生させる。当該発生した電力は電源装置に充電される。
ここで、エンジン16に過負荷がかかった場合、発電電動機30は、電源装置の電力によって電動機として駆動するように切り換わる。低速航行時は、発電電動機30の動力が中間ギヤ対34、低速切換ギヤ39、低速伝達ギヤ対42及び逆転減速ギヤ24bを介して減速出力ギヤ27に伝達され、エンジン16動力の不足分が発電電動機30の動力によって補われる。高速航行時は、発電電動機30の動力が中間ギヤ対34、高速切換ギヤ40、高速伝達ギヤ対43及び逆転ギヤ24aを介して減速出力ギヤ27に伝達され、エンジン16動力の不足分が発電電動機30の動力によって補われる。エンジン16の回転全域にわたって発電電動機30を電動機として機能させ、電動機としての発電電動機30の動力をエンジン16動力のアシストのために有効利用できる。
ヨット1を停船係留状態からゼロ発進(航行開始)させる場合は、正逆転機構25を双方遮断状態(正転クラッチ23と逆転クラッチ24の双方が遮断状態)である上で、アクチュエータの駆動によって低速切換ギヤ39とクラッチシフタ38とを係合させ、発電電動機30を電動機として駆動させる。発電電動機30の動力が中間ギヤ対34、低速切換ギヤ39、低速伝達ギヤ対42及び逆転減速ギヤ24bを介して減速出力ギヤ27に伝達される。つまり、発電電動機30の動力が前進又は後進方向の動力としてプロペラ5に伝達され、ヨット1は前進又は後進を開始する。トローリング等の微速航行時も、前記ゼロ発進時の駆動形態と同様に、発電電動機30の動力だけでプロペラ5を回転させることが可能になっている。
ヨット1の帆走時には、プロペラ5の遊転力で発電電動機30を発電させることも可能である。この場合、正逆転機構25を双方遮断状態(正転クラッチ23と逆転クラッチ24の双方が遮断状態)である上で、アクチュエータの駆動によって低速切換ギヤ39とクラッチシフタ38とを係合させ、発電電動機30を発電機として駆動させる。潮流等に起因したプロペラ5の遊転力が、推進軸15、出力軸22及び減速出力ギヤ27を介して減速逆転ギヤ24bに伝わり、逆転減速ギヤ24bから低速伝達ギヤ対42、低速切換ギヤ39及び中間ギヤ対34を介して発電電動機30に伝達され、発電電動機30が電力を発生させる。当該発生した電力は電源装置に充電される。
また、ヨット1の停船係留時には、エンジン16の動力で発電電動機30を発電させることも可能である。この場合、正逆転機構25を双方遮断状態(正転クラッチ23と逆転クラッチ24の双方が遮断状態)である上で、アクチュエータの駆動によって高速切換ギヤ40とクラッチシフタ38とを係合させ、発電電動機30を発電機として駆動させる。エンジン16動力は、逆転ギヤ24aから高速伝達ギヤ対43、高速切換ギヤ40及び中間ギヤ対34を介して発電電動機30に伝達され、発電電動機30が電力を発生させる。当該発生した電力は電源装置に充電される。
上記の記載並びに図3及び図4から明らかなように、船舶1に搭載したエンジン16と発電電動機30とのうち少なくとも一方の動力を正逆転機構25経由でプロペラ5に伝達する減速逆転機18であって、前記正逆転機構25における前記エンジン16からの動力伝達上流側24aと下流側24bとに前記発電電動機30を選択的に接続可能な切換機構37を備え、前記発電電動機30と前記正逆転機構25との間に前記切換機構37を介在させているから、前記エンジン16と前記切換機構37との間に前記正逆転機構25が介在することになり、前記エンジン16からの大トルクが前記切換機構37に直接伝達されることはない。このため、前記切換機構37を大トルクに耐え得る大容量のものにしなくて済み、前記切換機構37を小型化できる。その結果、前記減速逆転機18自体の小型化を図れると共に、コスト低減も図れる。
また、前記切換機構37によって、前記正逆転機構25における前記エンジン16からの動力伝達下流側24bに前記発電電動機30を接続した状態では、前記正逆転機構25の双方遮断時に、前記発電電動機30の動力で前記プロペラ5を回転させたり前記プロペラ5の遊転力で前記発電電動機30を発電させたりすることが可能になっているから、例えばヨット1をゼロ発進(航行開始)させる際に、前記エンジン16の動力及び前記正逆転機構25を使わずとも、前記発電電動機30の動力でスムーズに航行開始できる。また、前記プロペラ5の遊転力で前記発電電動機30を発電させて、潮流等を有効利用して充電できる。
さらに、前記切換機構37によって、前記正逆転機構25における前記エンジン16からの動力伝達上流側24aに前記発電電動機30を接続した状態では、前記正逆転機構25の双方遮断時に、前記エンジン16の動力で前記発電電動機30を発電させることが可能になっているから、例えば停船係留時に前記エンジン16の動力で充電できる。
次に、図5を参照しながら、減速逆転機18における油圧回路構造の第一実施形態を説明する。減速逆転機18の油圧回路50は、正転クラッチ23や逆転クラッチ24等にオイルを供給する主油圧ポンプ28を備えている。第1実施形態の主油圧ポンプ28は、エンジン16の動力に基づく逆転軸26の回転で駆動するように構成されている。
オイルタンクとしてのハウジング19に連通させた作動油路51の中途部に、主油圧ポンプ28が設けられている。作動油路51における主油圧ポンプ28の吸入側には、ストレーナ48が設けられている。作動油路51における主油圧ポンプ28の吐出側は、正逆転電磁弁52を介して、正転クラッチ23に向かう正転油路53と逆転クラッチ24に向かう逆転油路54とに接続されている。
正逆転電磁弁52は、変速レバー14操作に連動した電磁ソレノイドの励磁又は消磁によって、正転油路53にオイルを作動油として供給する正転位置と、逆転油路54にオイルを作動油として供給する逆転位置と、作動油としてのオイル供給を停止する中立位置との三位置に切換可能に構成されている。正逆転電磁弁52の切換作動によって、正転クラッチ23又は逆転クラッチ24に作動油としてのオイルが選択的に供給される。
作動油路51において主油圧ポンプ28と正逆転電磁弁52との間からは、潤滑油路55を分岐させている。潤滑油路55は、発電電動機30、インバータ29並びにハウジング19内のギヤ群47に対して、ハウジング19内のオイルを潤滑油又は冷却油として注油するための油路である。なお、ギヤ群47とは、ハウジング19内にある正逆転機構25や切換機構37、各種ギヤその他軸を含む概念である。
潤滑油路55には、上流側から順に、作動油路51の油圧保持用リリーフ弁である第一調圧弁56と、潤滑油としてのオイルを冷却する第一オイルクーラ57及び第二オイルクーラ58と、発電電動機30及びインバータ29とが設けられている。発電電動機30とインバータ29とは、油冷のために潤滑油路55中に配置されている。潤滑油路55の最下流部は、潤滑及び冷却のために、正逆転機構25を含むハウジング19内のギヤ群47に臨ませている。
潤滑油路55における第一オイルクーラ57と第二オイルクーラ58との間からは分配油路59を分岐させている。分配油路59の中途部には、潤滑油路55の油圧保持用リリーフ弁である第二調圧弁60が設けられている。分配油路59の最下流部は、潤滑油路55のうち発電電動機30及びインバータ29よりも下流側の箇所に再び合流している。潤滑油路55のうち分配油路59との再合流部よりも下流側から分岐させたリリーフ油路62はオイルタンクであるハウジング19に連通させている。リリーフ油路62中には安全弁61が設けられている。
作動油路51から第一調圧弁56を通過したオイルは、第一オイルクーラ57を通過して第二調圧弁60にて低圧にしたのち、さらに第二オイルクーラ58を通過して、発電電動機30とインバータ29とに冷却油として供給される。発電電動機30やインバータ29を通過したオイルは、安全弁61にて低圧にした上で、正逆転機構25を含むギヤ群47に潤滑油として供給される(再利用される)。潤滑油路55から分配油路59に送られた(第二調圧弁60を通過した)オイルは、安全弁61にて低圧にした上で、正逆転機構25を含むギヤ群47に潤滑油として供給される。潤滑油路55内において所定圧以上の不要なオイルは、安全弁61を介してハウジング19内に戻される。
作動油路51の油圧保持用リリーフ弁である第一調圧弁56には、正逆転機構25接続時のショックを緩和させる緩嵌入弁63が設けられている。緩嵌入弁63は、正転油路53や逆転油路54の作動油圧をパイロット圧とする油圧切換弁64によって制御される構成になっている。作動油路51において潤滑油路55への分岐箇所と正逆転電磁弁52との間からは、パイロット油路65を分岐させて緩嵌入弁63に接続している。油圧切換弁64は、シリンダ64a、ピストン64bおよび復帰ばね64cを有していて、緩嵌入弁63にパイロット圧を供給するオン位置と、パイロット圧供給を停止するオフ位置との二位置に切換可能に構成されている。
正逆転電磁弁52が正転又は逆転位置に切換作動し、正転又は逆転油路53,54に作動油としてのオイルが供給されてシリンダ64a内の作動油圧が高まると、ピストン64bが移動して油圧切換弁64がオン位置に切り換わる。そうすると、パイロット油路65を介して緩嵌入弁63にパイロット圧が供給され、緩嵌入弁63が第一調圧弁56のリリーフばね66を徐々に圧縮して第一調圧弁56の設定リリーフ圧が漸増する。これによって、作動油路51と正転又は逆転油路53,54との作動油圧が徐々に上昇し、正転又は逆転クラッチ23,24が徐々に接続状態になる。
そして、リリーフばね66の付勢力が最大に達すると、作動油路51と正転又は逆転油路53,54との作動油圧が最大となって、正転又は逆転クラッチ23,24が完全な接続状態になる。このようにして、正転又は逆転クラッチ23,24接続時のショックが緩和される。
正逆転電磁弁52が中立位置に切換作動して正転及び逆転油路53,54へのオイル供給がなくなれば、復帰ばね64cの付勢力によって油圧切換弁64がオフ位置に切り換わり、緩嵌入弁63及び第一調圧弁56のリリーフばね66は元の状態に復帰する。この状態において、第一調圧弁56は設定リリーフ圧の小さいリリーフ弁として機能する。
第一実施形態のエンジン16は、主油圧ポンプ28と同様に、エンジン16の動力で駆動する第一冷媒ポンプ67と、油冷又は水冷用の冷却路68とを備えている。エンジン16の冷却路中68に、エンジン冷却用クーラ69が設けられている。船舶としてのヨット1は、海水等の冷媒が流通する第一冷媒配管71及び第二冷媒配管72と、冷媒用電動モータ73の動力で駆動する第二冷媒ポンプ74とを備えている。
第一冷媒配管71上には、上流側から順に、第一冷媒ポンプ67、エンジン冷却用クーラ69及び第一オイルクーラ57が配置されている。第二冷媒配管72上には、上流側から順に、第二冷媒ポンプ74及び第二オイルクーラ58が配置されている。第一冷媒ポンプ67によって第一冷媒配管71の入口側から吸い上げた海水等の冷媒は、エンジン冷却用クーラ69から第一オイルクーラ57に供給され、冷却路68中の油又は水と潤滑油路55中のオイルとを冷却する。第一オイルクーラ57を通過した海水等の冷媒は、第一冷媒配管71の出口側から外部に放出される。第二冷媒ポンプ74が第二冷媒配管74の入口側から吸い上げた海水等の冷媒は第二オイルクーラ58に供給され、潤滑油路55中のオイルを冷却した後、第二冷媒配管74の出口側から外部に放出される。
図5に示すように、第一実施形態の油圧回路50では、オイルタンクとしてのハウジング19と潤滑油路55とをつなぐ迂回油路75を備えている。迂回油路75の中途部に、エンジン16と別の駆動源である潤滑用電動モータ76の動力で駆動する副油圧ポンプ77が設けられている。迂回油路75のうち副油圧ポンプ77の吸入側には、ストレーナ78が設けられている。迂回油路75のうち副油圧ポンプ77の吐出側には、潤滑油路55にだけ開く逆止弁79が設けられている。第一実施形態では、潤滑油路55のうち第一調圧弁56と第一オイルクーラ57との間に迂回油路75の最下流部が接続されている。
上記の記載並びに図5から明らかなように、船舶1に搭載したエンジン16と発電電動機30とのうち少なくとも一方の動力を正逆転機構25経由でプロペラ5に伝達する減速逆転機18であって、オイルタンク19から前記正逆転機構25に延びる作動油路51を備え、前記エンジン16の動力で駆動する主油圧ポンプ28が前記作動油路51に設けられ、前記作動油路51のうち前記主油圧ポンプ28と前記正逆転機構25との間から前記正逆転機構25その他ギヤ群47への注油用の潤滑油路55を分岐させ、前記オイルタンク19と前記潤滑油路55とをつなぐ迂回油路75を備え、前記エンジン16と別の駆動源76の動力で駆動する副油圧ポンプ77が前記迂回油路75に設けられ、前記迂回油路75のうち前記副油圧ポンプ77の吐出側に前記潤滑油路55にだけ開く逆止弁79が設けられているから、前記エンジン16が停止中であっても、前記副油圧ポンプ77を駆動させて前記正逆転機構25その他ギヤ群47を潤滑できる。例えば前記船舶1を前記発電電動機30の動力でゼロ発進(航行開始)させる際に、前記ギヤ群47を潤滑させながらスムーズに航行開始できる。前記エンジン16の駆動状態に拘らず、前記ギヤ群47に対する潤滑油としてのオイルの供給不足を確実に防止できる。
また、前記潤滑油路55の中途部にオイルクーラ57,58が設けられ、前記潤滑油路55のうち前記オイルクーラ57,58と前記正逆転機構25との間に前記発電電動機30が配置されているから、前記オイルクーラ57,58を通過した低温のオイルで前記発電電動機30を確実に冷却できる。前記正逆転機構25その他ギヤ群47に潤滑油としてのオイルを供給する前に前記発電電動機30を優先的に冷却でき、ヒートバランスを良好に維持できる。
さらに、前記オイルクーラ57,58は前記潤滑油路55中に二個あり、前記潤滑油路55における前記第一オイルクーラ57と前記第二オイルクーラ58との間から分配油路59を分岐させ、前記分配油路59中には、前記潤滑油路55の油圧保持用である調圧弁60が設けられているから、例えば前記潤滑油路55が高圧(過負荷)のときに、前記調圧弁60を介して潤滑油としてのオイルを逃がすことができ、前記発電電動機30に過剰な負荷がかかるのを防止できる。
前記分配油路59の最下流部を、前記潤滑油路55のうち前記発電電動機30よりも下流側の箇所に再合流させ、前記潤滑油路55のうち前記分配油路59との再合流部よりも下流側からリリーフ油路62を分岐させ、前記リリーフ油路62中に安全弁61が設けられているから、前記ギヤ群47に対するオイル(潤滑油)供給の安定化を図れる。
また、前記第一オイルクーラ57には第一冷媒配管71を連通させ、前記第二オイルクーラ58には第二冷媒配管72を連通させ、前記第一冷媒配管71中には、前記エンジン16の動力で駆動する第一冷媒ポンプ67が設けられ、前記第二冷媒配管72中には、前記エンジン16と別の駆動源73の動力で駆動する第二冷媒ポンプ74が設けられているから、前記エンジン16が停止中であっても、前記駆動源73を駆動させて前記第二オイルクーラ58を通過するオイルを冷却して前記発電電動機30を確実に冷却できる。
図6には、減速逆転機18における油圧回路構造の第二実施形態を示している。ここで、第二実施形態以降において、構成及び作用が第一実施形態と同じものには、第一実施形態と共通の符号を付してその詳細な説明を省略する。第二実施形態の油圧回路50では、第一実施形態の第二オイルクーラ58、分配油路59及び第二調圧弁60をなくし、潤滑油路55中から発電電動機30及びインバータ29を外した上で、潤滑油路55の最下流部を、潤滑及び冷却のために正逆転機構25その他ギヤ群47に臨ませている。潤滑油路55のうち第一オイルクーラ57よりも下流側から分岐させたリリーフ油路62をハウジング19に連通させ、リリーフ油路62中には安全弁61が設けられている。
第二実施形態において、船舶としてのヨット1は、清水タンク81と、清水タンク81内の清水を循環させる冷却配管82とを備えている。冷却配管82には、清水ポンプ83と清水クーラ84とが設けられている。冷却配管82のうち清水クーラ84の下流側に発電電動機30が配置されている。すなわち、第二実施形態の冷却配管82上には、上流側から順に、清水ポンプ83、清水クーラ84、発電電動機30及びインバータ29が配置されている。清水ポンプ83は、エンジン16と別の駆動源である清水用電動モータ85の動力で駆動するように構成されている。
清水ポンプ83が冷却配管82の入口側から吸い上げた清水は、清水クーラ84を通過して海水等の冷媒で冷却された後、発電電動機30とインバータ29とに冷却用の水として供給される。発電電動機30とインバータ29との冷却に用いられた清水は、その後清水タンク81に戻される。
上記の記載並びに図6から明らかなように、清水タンク81と、前記清水タンク81内の清水を循環させる冷却配管82とを備え、前記冷却配管82に清水ポンプ83と清水クーラ84とが設けられ、前記冷却配管82のうち前記清水クーラ84の下流側に前記発電電動機30が配置されているから、前記正逆転機構25その他ギヤ群47に潤滑油としての作動油を供給する一方で、前記清水クーラ84を通過した低温の清水で前記発電電動機30を確実に冷却できる。前記発電電動機30冷却用の清水の温度は作動油温度に影響されないので、前記発電電動機30を冷却する能力が高く、ヒートバランスをより一層良好に維持できる。
図7には、減速逆転機18における油圧回路構造の第三実施形態を示している。第三実施形態の油圧回路50では、第一実施形態の迂回経路75をなくした上で、主油圧ポンプ28をエンジン16ではなく潤滑用電動モータ76で駆動させる構成である点で、第一実施形態と相違している。また、エンジン16の動力で駆動する第一冷媒ポンプ67をなくし、海水等の冷媒が流通する集合冷媒配管86を備えている。
この場合、集合冷媒配管86上には、上流側から順に、ストレーナ87、冷媒用電動モータ88の動力で駆動する冷媒ポンプ89、第二オイルクーラ58、エンジン冷却用クーラ69及び第一オイルクーラ57が配置されている。
冷媒ポンプ89が集合冷媒配管86の入口側から吸い上げた海水等の冷媒は、第二オイルクーラ58に供給され、潤滑油路55中の作動油を冷却した後、エンジン冷却用クーラ69から第一オイルクーラ57に供給され、冷却路68中の油又は水と潤滑油路55中の作動油とを冷却する。第一オイルクーラ57を通過した海水等の冷媒は、第一冷媒配管71の出口側から外部に放出される。
このように構成すると、ポンプとして主油圧ポンプ28と冷媒ポンプ89との2つを搭載すれば済むから、コスト抑制に貢献する。また、第一オイルクーラ57よりも先に第二オイルクーラ58に対して海水等の冷媒が供給されるので、前記発電電動機30を優先的に冷却でき、ヒートバランスを良好に維持できる。
なお、本願発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。