以下の詳細な説明および実施例は、本開示の特定の実施形態を説明するものである。本開示の範囲に包含される本開示の多数の変形物および改変物が存在することを当業者は認識するであろう。したがって、特定の実施形態の説明は、限定するものと見なされるべきではない。
「Fc単量体」という用語は、本明細書中で使用される場合、免疫グロブリンG(IgG)の重鎖CH2およびCH3ドメイン、またはそのバリアントもしくはフラグメントを含むIgG重鎖定常領域の部分と定義される。IgG CH2およびCH3ドメインは、それぞれCγ2およびCγ3ドメインとも呼ばれる。
Fc単量体は、ペプチドのN末端部分にあるシステイン残基間のジスルフィド結合によって連結される2つの同一のFcペプチドから構成することが可能である。IgGに関して記載されているジスルフィド結合の配置は、天然のヒト抗体に関連する。他の脊椎動物種由来の抗体間でいくつかの変形がある場合もあるが、そのような抗体は、本発明の状況に適している可能性もある。Fcペプチドは、組換え発現技術により作製され、天然の抗体において生じるとおりのジスルフィド結合によって結合することが可能である。あるいは、1つまたはそれ以上の新しいシステイン残基をFcペプチドの適切な位置に導入して、ジスルフィド結合が生じるのを可能にすることができる。
一実施形態において、本発明において使用されるFc単量体は、WO2017/129737に記載されているヒトIgG1 CH2およびCH3ドメインを含む2つの同一のペプチド鎖を含む。
別の実施形態において、本発明において使用されるFc単量体は、CH2およびCH3ドメイン全体を含み、WO2017/129737に開示されているとおり、それぞれCH2のN末端の端部またはCH3のC末端の端部で切断される。一般に、Fc単量体は、免疫グロブリンのFabポリペプチドがない。Fabポリペプチドは、CH1ドメインおよび重鎖可変領域ドメインから構成される。
本発明において使用されるFc単量体は、免疫グロブリンのCH2およびCH3部分を超えた部分を含むこともある。例えば、一実施形態において、単量体は、免疫グロブリンのヒンジ領域、そのフラグメントもしくはバリアント、または改変されたヒンジ領域を含む。天然のヒンジ領域は、天然の免疫グロブリンにおいてCH1ドメインとCH2ドメインの間に生じる免疫グロブリンの領域である。バリアントまたは改変されたヒンジ領域は、長さおよび/または組成が天然のヒンジ領域とは異なる任意のヒンジである。そのようなヒンジは、他の種由来のヒンジ領域を含むことが可能である。その他の改変されたヒンジ領域は、Fc部分のそれとは異なるクラスまたはサブクラスの抗体由来の完全なヒンジ領域を含む。あるいは、改変されたヒンジ領域は、天然のヒンジの一部または繰り返しのそれぞれの単位が天然のヒンジ領域由来である繰り返し単位を含む。別の代替物において、天然のヒンジ領域は、システイン残基の数を増加または減少させることによって改変される。その他の改変されたヒンジ領域は、完全に非天然のものであり、長さ、システイン組成、および柔軟性などの所望の特性を持つように設計される。
本発明において使用するための多くの改変されたヒンジ領域が、例えば、US5,677,425、WO1998/25971、WO1999/15549、WO2005/003169、WO2005/003170、およびWO2005/003171に記載されている。
本発明の一実施形態において使用されるFc多量体中のFcポリペプチドは、そのN末端にヒトIgG1ヒンジ領域を有する。一実施形態において、ヒンジ領域は、配列番号1の残基1から15の配列を有する。
本発明において使用される、WO2017/129737に開示されているとおりのシグナルペプチドを含むFcポリペプチド鎖が発現させられる。シグナルペプチドは、Fcポリペプチド鎖の分泌を支配し、その後、残りのFcポリペプチド鎖から切断される。
本発明のある実施形態において使用されるFcポリペプチドは、ヒンジ領域のN末端に融合されたシグナルペプチドを含む。シグナルペプチドは、配列番号2の残基1から19の配列を有することが可能であるが、当業者は、哺乳動物細胞からのタンパク質の分泌を支配する他のシグナル配列も使用できることがわかるであろう。
2つまたはそれ以上のFc単量体の多量体構造の形成を向上させるために、Fcペプチドは、単量体単位を多量体に集合させる尾部と融合される。Fcペプチドの尾部との融合の生成物は、本明細書中で使用される「Fc融合ペプチド」である。Fcペプチドは、二量体になり、Fc単量体を形成するため、Fc融合ペプチドは、同様に二量体になり、Fc融合単量体を形成する。
したがって、「Fc融合単量体」は、本明細書中で使用される場合、2つのFc融合ポリペプチド鎖を含み、各Fc融合ポリペプチド鎖は、IgG FcポリペプチドおよびIgM尾部を含む。
適した尾部は、IgMまたはIgA由来である。IgMおよびIgAは、天然には一般的なH2L2抗体単位の共有結合性多量体としてヒトで生じる。IgMは、J鎖を含む場合に五量体として、またはJ鎖がない場合に六量体として生じる。IgAは、単量体として生じ、二量体を形成する。IgMおよびIgAそれぞれの重鎖は、C末端定常ドメインに延びるそれぞれ18アミノ酸を有し、尾部として知られている。この尾部は、重合体の重鎖間にジスルフィド結合を形成するシステイン残基を含み、重合に重要な役割を有すると考えられている。尾部は、グリコシル化部位も含む。
本開示の尾部は、任意の適したアミノ酸配列を含む。尾部は、天然に存在する抗体に見られる尾部であるか、あるいは、天然の尾部とは長さおよび/または組成が異なる改変された尾部である。その他の改変された尾部は、完全に非天然であり、長さ、柔軟性、およびシステイン組成など、多量体化に望ましい特性を持つよう設計される。
本発明のある実施形態において使用されるFc多量体にある尾部は、配列番号1の残基233から250および配列番号11に示されるとおりのヒトIgMからの18アミノ酸の配列のすべてまたは一部を含む。あるいは、尾部は、ヒトIgM尾部のフラグメントまたはバリアントが可能である。
本発明の一実施形態において使用されるFc多量体にある尾部は、Fcペプチドの定常領域のC末端に直接融合され、Fc融合ペプチドを形成する。あるいは、尾部は、Fcペプチドの定常領域のC末端にある232アミノ酸のセグメントに融合される。あるいは、尾部は、介在アミノ酸配列によって間接的に融合される。例えば、尾部とFcペプチドの間に短いリンカー配列を設けることもできる。リンカー配列は、1から20の間のアミノ酸長が可能である。
多量体構造の形成は、Fc融合ペプチドのFc部分のロイシン309をシステインに変異させることによってさらに向上させることができる。L309C変異は、Fc融合単量体間に追加のジスルフィド結合の形成を可能にさせ、これは、Fc融合単量体の多量体化をさらに促進する。IgG Fc部分の残基は、Edelman GMら、(1969年)、Proc Natl Acad Sci 63、78~85ページに記載されている、IgGに対するEUナンバーリングシステムに従ってナンバーリングされる;Kabatら、1983年、Sequences of proteins of immunological interest, US Department of Health and Human Services、 National Institutes of Health、ワシントン、DCも参照のこと。IgGのLeu309は、配列相同性によってIgMのCμ3ドメインにあるCys414およびIgAのCα2ドメインにあるCys309と対応する。
所望の効果を実現するために、さらにまたは代わりに他の変異がFc融合ペプチドに導入される。「変異」という用語は、本明細書中で使用される場合、1つまたはそれ以上のアミノ酸の置換、付加、または欠失を含む。いくつかの実施形態において、WO2017/129737に記載されているとおり、Fc融合ペプチドは、最大20、最大10、最大5、または最大2つのアミノ酸の変異を含む。
本発明の一実施形態において使用されるFc多量体中の変異は、WO2017/129737に記載されている保存的アミノ酸変化である。「保存的アミノ酸変化」という用語は、本明細書中で使用される場合、電荷、疎水性、構造、および/またはサイズなどの類似の生化学的特性を有する、あるアミノ酸の異なるアミノ酸への変化を指す。本発明のある実施形態において使用されるFc融合ペプチドは、最大20、最大10、最大5、または最大2つの保存的アミノ酸変化を含む。例えば、Fc融合ペプチドは、最大5つの保存的アミノ酸変化を含む。
保存的アミノ酸変化は、以下の残基のグループ間の変化を含む:Val、Ile、Leu、Ala、Met;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr、Gly、Ala;Lys、Arg、His;およびPhe、Tyr、Trp。
「バリアント」は、ペプチド、タンパク質、またはそのフラグメントを示すために本明細書中で使用される場合、修飾アミノ酸を有する場合もある。適した修飾としては、アセチル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、メチル化、ヌクレオチジル化(nucleotidylation)、リン酸化、ADPリボース化、および当該技術分野において知られているその他の修飾が挙げられる。そのような修飾は、翻訳後に行うことができ、この場合、ペプチドは、組換え技術によって作製される。別の方法では、当該技術分野において既知の技術を使用して合成ペプチドに修飾を行うこともできる。修飾は、アミノ酸のペプチドへの組み込みの前に含まれる場合もある。カルボン酸基は、エステル化することができ、またはアミドに変換することができ、アミノ基は、アルキル化、例えば、メチル化することができる。バリアントはまた、例えば、糖側鎖または個々の糖部分を除去または付加するよう翻訳後に修飾することができる。
「Fc多量体」という用語は、本明細書中で使用される場合、2つまたはそれ以上の重合化Fc融合単量体を示す。Fc多量体は、2から6つのFc融合単量体を含み、Fc二量体、Fc三量体、Fc四量体、Fc五量体、およびFc六量体をもたらす。Fc融合単量体は、さまざまな数の単量体単位を有する重合体に自然に集合する。
WO2017/129737に開示されているとおり、Fc多量体の大部分は、Fc六量体である。本明細書中で使用される場合、「大部分」という用語は、50%超、60%超、70%超、80%超、または90%超を指す。一実施形態において、Fc多量体の80%超は、Fc六量体である。
特定の数の単量体を含むFc多量体が必要とされる場合、Fc多量体は、分子の大きさに従って、例えば、ゲルろ過(サイズ排除クロマトグラフィー)によって分離することができる。
一実施形態において、本発明において使用されるFc多量体は、例えば、WO2008/151088、WO2012/016073、またはWO2017/019565に記載されている複数のFcドメインを含む有望なIVIG代替タンパク質である。
別の実施形態において、WO2008/151088に記載されているとおり、多量体Fcは、IgG2ヒンジ領域などの多量体化ドメインを有するストラドマーである。
一実施形態において、本発明において使用されるFc多量体は、例えば、参照によってその全体を本明細書に組み入れるWO2008/151088、WO2012/016073、およびWO2017/019565に開示されているとおり、2つまたはそれ以上の多量体化された単位を含む化合物であり、前記単位のそれぞれは、多量体化領域およびFcγ受容体と結合することができる少なくとも1つのFcドメインを含む領域を含み、前記単位のそれぞれは、多量体化領域単量体および少なくとも1つのFcドメイン単量体を含む領域を含み、2つの単量体の二量体化は、多量体化領域およびFcγ受容体と結合することができる少なくとも1つのFcドメインを含む領域を形成し、2つまたはそれ以上の単位の多量体化領域は、多量体化して、化合物を形成し、化合物は、第1のFcドメインにより第1のFcγ受容体とおよび第2のFcドメインにより第2のFcγ受容体と結合することができ、多量体化領域は、IgG2ヒンジ、IgE CH2ドメイン、ロイシンジッパー、イソロイシンジッパーおよび亜鉛フィンガーからなる群から選択され、Fcγ受容体と結合することができる少なくとも1つのFcドメインを含む領域のそれぞれは、IgG1ヒンジ、IgG1 CH2ドメインおよびIgG1 CH3ドメインを含む。好ましくは、多量体化領域は、IgG2ヒンジ領域、例えば、IgG2 12アミノ酸ヒンジ領域ERKCCVECPPCP(配列番号5の残基253から264)である。より好ましくは、Fc多量体は、IgG2ヒンジ多量体化ドメインにより自然に多量体化する配列番号5(WO2012/016073の配列番号4)のポリペプチドの発現によって得られる。より好ましくは、WO2017/019565に示されるとおり、IgG1 Fcフラグメントには、C1q結合および/またはFcγ受容体結合を最適化するために1つまたはそれ以上の点変異が導入される。
好ましくは、Fc多量体は、(a)IgG1 Fcドメインの位置267、268、および/または324の少なくとも1つと対応する1つまたはそれ以上の点変異を有する少なくとも1つのIgG1 Fcドメイン、ならびに(b)少なくとも1つの多量体化ドメインを含むストラドマー単位を含む。好ましくは、点変異は、S267E、H268E、およびS324Tである。Fcドメインは、位置297に点変異、例えば、N297Aをさらに含むこともある。Fcドメインは、位置234および235に点変異をさらに含むこともあり、例えば、Fcドメインは、点変異L234V、L235A、S267E、H268F、およびS324Tを含むこともある。
したがって、本発明のこれらの実施形態において、本発明において使用されるFc多量体は、配列番号6の残基21から264および配列番号7の残基21から264から選択される配列を有するストラドマー単位を含み、最大10個の付加的な点変異、好ましくは、最大8つの付加的な点変異、より好ましくは、最大6つの付加的な点変異を含む場合もある。好ましくは、それらの点変異は、WO2017/019565に開示されているものから選択される。本発明のさらに別の実施形態において、本発明において使用されるFc多量体は、それぞれ(WO2017/019565の配列番号10、11、12、14、15、21および22と対応する)配列番号99から105の残基21から264から選択される配列を有するストラドマー単位を含む。
別の代替的実施形態において、本発明において使用される組換えFc化合物は、参照によってその全体を本明細書に組み入れるWO2017/172853に開示されているとおりである。好ましくは、組換えFc化合物は、2つのCH2-CH3 Fcドメイン、およびオリゴマー化ペプチドドメインを含む単鎖Fcペプチドを含む。好ましくは、組換えFc化合物は、配列番号8(WO2017172853の配列番号6)または配列番号9(WO2017172853の配列番号4)のタンパク質を含む。
ポリヌクレオチド
本開示は、Fc多量体に関するFc融合ペプチドをコードするポリヌクレオチドにさらに関する。「ポリヌクレオチド」という用語は、一般に無改変RNAもしくはDNAまたは改変RNAもしくはDNAの場合もあるあらゆるポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチドは、単鎖または二本鎖DNA、単鎖または二本鎖RNAが可能である。本明細書中で使用される場合、「ポリヌクレオチド」という用語はまた、イノシンなどの1つまたはそれ以上の修飾塩基および/またはまれな塩基を含むDNAまたはRNAも含む。当然のことながら、当業者に既知の多くの有用な用途に役立つDNAおよびRNAにさまざまな改変を行うことができる。「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書において利用される場合、そのようなポリヌクレオチドの化学的、酵素的、または代謝的に改変された形態、ならびに、例えば、単純および複雑な細胞を含む、ウイルスおよび細胞のDNAおよびRNAの特徴を示す化学形態を含む。
当業者は、遺伝子コードの縮重のため、所与のポリペプチドがさまざまなポリヌクレオチドによってコードされる可能性があることを理解するであろう。これら「バリアント」は、本明細書中で開示されているFc多量体に包含される。
Fc多量体のポリヌクレオチドは、単離ポリヌクレオチドが可能である。「単離」ポリヌクレオチドという用語は、その他の核酸配列、例えば、以下に限定されない、その他の染色体および染色体外のDNAおよびRNAを実質的に含まないポリヌクレオチドを指す。一実施形態において、単離ポリヌクレオチドは、宿主細胞から精製される。単離ポリヌクレオチドを得るために当業者に既知の従来の核酸精製方法を使用することができる。この用語はまた、組換えポリヌクレオチドおよび化学合成ポリヌクレオチドも含む。
本開示の別の態様は、本開示によるポリヌクレオチドを含むプラスミドまたはベクターである。一実施形態において、WO2017/129737に開示されているとおり、プラスミドまたはベクターは、発現ベクターを含む。一実施形態において、ベクターは、ヒトの遺伝子治療に使用するためのトランスファーベクターである。本開示の別の態様は、本開示のポリヌクレオチド、プラスミド、またはベクターを含む宿主細胞である。
本開示の宿主細胞は、Fc多量体を作製する方法に利用される。方法は、以下を含む:
(a)所望の挿入タンパク質が発現するような条件下において本開示の宿主細胞を培養すること;および
(b)場合により、宿主細胞または培養培地から所望の挿入タンパク質を回収すること。
個別の実施形態において、Fc多量体は、汚染巨大分子、例えば、他のタンパク質および核酸に関して≧80%の純度、≧90%の純度、≧95%の純度、≧99%の純度、または≧99.9%の純度にまで精製され、感染性および発熱性病原体を含まない。本開示の単離Fc多量体は、他の非関連ポリペプチドを実質的に含まない場合もある。
本発明の特定の実施形態において、Fc多量体は、WO2014/060712に記載されているものである。例としては、5、6または7つのポリペプチド単量体単位を含む高分子タンパク質が挙げられ、各ポリペプチド単量体単位は、2つの免疫グロブリンG重鎖定常領域を含むFc受容体結合部分を含み、各免疫グロブリンG重鎖定常領域は、隣接するポリペプチド単量体単位の免疫グロブリンG重鎖定常領域のシステイン残基とのジスルフィド結合により連結されるシステイン残基を含み、高分子タンパク質は、哺乳動物対象に投与されると抗原特異的免疫抑制を引き起こす免疫調節部分または抗原部分をさらに含まない。特定の態様において、2つの免疫グロブリンG重鎖定常領域は、単鎖Fcとしてポリペプチドリンカーにより連結される。他の態様において、ポリペプチド単量体単位は、Fc受容体結合部分および2つの免疫グロブリンG重鎖定常領域と融合した尾部領域からなり、これが、単量体単位が重合体に集合するのを容易にする。
別の実施形態において、免疫グロブリンG重鎖定常領域のそれぞれは、哺乳動物の重鎖定常領域、好ましくは、ヒト重鎖定常領域のアミノ酸配列;またはそのバリアントを含む。適したヒトIgGサブタイプは、IgG1である。
Fc受容体結合部分は、免疫グロブリンのFc部分を超えた部分を含む場合もある。例えば、WO2014/060712に記載されているとおり、これは、天然の免疫グロブリンにおいてCH1ドメインとCH2ドメインの間に生じる免疫グロブリンのヒンジ領域を含む場合もある。特定の免疫グロブリンに関しては、Fc受容体と結合するためにヒンジ領域が必須である。好ましくは、Fc受容体結合部分は、CH1ドメインおよび重鎖可変領域ドメイン(VH)がない。Fc受容体結合部分は、対応する免疫グロブリンのFc部分と比較してCおよび/またはN末端で切断されている場合もある。高分子タンパク質は、隣接するポリペプチド単量体単位の免疫グロブリンG重鎖定常領域のシステイン残基とのジスルフィド結合により連結されるシステイン残基を含む各免疫グロブリンG重鎖定常領域によって形成される。IgG重鎖定常領域ベースの単量体単位の重合体を形成する能力は、IgG重鎖定常領域の部分をよりIgMまたはIgAの対応する部分のように改変することによって向上させることができる。免疫グロブリン重鎖定常領域またはそのバリアントのそれぞれは、位置309にシステイン残基、好ましくは、位置310にロイシン残基を含むアミノ酸配列を含むIgG重鎖定常領域である。
尾部領域が存在する本発明の態様について、各ポリペプチド単量体単位は、2つの免疫グロブリンG重鎖定常領域のそれぞれに融合された尾部領域を含み、各ポリペプチド単量体単位の尾部領域は、単量体単位が重合体に集合するのを促進し、例えば、WO2014/060712に記載されている。例えば、尾部領域は、2つの免疫グロブリン重鎖定常領域のそれぞれのC末端に融合される。尾部領域は、IgMもしくはIgA尾部、またはそのフラグメントもしくはバリアントが可能である。
一実施形態において、介在アミノ酸配列が重鎖定常領域と尾部の間に設けられるか、または尾部が、重鎖定常領域のC末端に直接融合されることもあり、例えば、WO2014/060712に開示されている。例えば、尾部領域と免疫グロブリン重鎖定常領域の間に短いリンカー配列を設けることもできる。典型的なリンカー配列は、1から20の間のアミノ酸長、一般に2、3、4、5、6または最大8、10、12、または16アミノ酸長である。重鎖領域と尾部領域の間に含まれるのに適したリンカーは、Leu-Val-Leu-Gly(配列番号10)をコードする。好ましい尾部領域は、PTLYNVSLVMSDTAGTCY(配列番号11)であるヒトIgMの尾部領域である(Rabbitts THら、1981年、Nucleic Acids Res. 9(18)、4509~4524ページ;Smithら、(1995年) J Immunol 154:2226~2236ページ)。この尾部は、元のThrをProで置換することによってN末端で改変される場合もある。これは、単量体の重合を促進する尾部の能力に影響を及ぼさない。ヒトIgM尾部のさらに適したバリアントは、Sorensenら(1996年)J Immunol 156:2858~2865ページに記載されている。さらなるIgM尾部配列は、齧歯類のGKPTLYNVSLIMSDTGGTCY(配列番号12)である。別の好ましい尾部領域は、PTHVNVSVVMAEVDGTCY(配列番号13)であるヒトIgAの尾部領域である。その他の適した他の種のIgMまたはIgA由来の尾部または、さらには単量体単位が重合体に集合するのを促進する合成配列を使用することもできる。免疫グロブリン重鎖定常領域が由来する同じ種からの免疫グロブリン尾部を使用することは必須ではないが、そうするのが好ましい。
特定の態様において、高分子タンパク質は、補体の古典的経路を活性化しないが、C1qと結合することができる可能性がある。高分子タンパク質は、一般に約20nm、例えば、15から25nmまたは最大30nmの直径を有する。分子の大きさおよび直径の結果として、高分子タンパク質は、一般に好適な程度の組織浸透性を有する。
WO2014/060712に記載されている好ましいFc多量体は、配列番号14(WO2014/060712の配列番号8)の六量体であり、成熟生成物が配列番号14の残基21から269を含むよう、分泌の過程でそこからシグナルペプチドが切り離される。
本発明の特定の実施形態において、使用されるFc多量体は、WO2015/132364に記載されているものであり、これは、ヒトFc受容体と結合する多量体融合タンパク質に関する。融合タンパク質は、位置309にシステイン残基がない場合、尾部を含む。
一実施形態において、多量体融合タンパク質は、2つまたはそれ以上のポリペプチド単量体単位を含み、各ポリペプチド単量体単位は、2つの重鎖Fc領域を含む抗体Fcドメインを含む。各重鎖Fc領域は、位置309にシステイン以外の任意のアミノ酸残基を含み、そのC末端で単量体単位を多量体に集合させる尾部に融合される。各ポリペプチド単量体単位は、抗体可変領域を含まない。
特定の態様において、多量体融合タンパク質は、融合パートナーをさらに含み、これは、抗原、病原体関連分子パターン(PAMP)、薬物、リガンド、受容体、サイトカインまたはケモカインが可能である。融合パートナーは、各重鎖Fc領域のN末端に直接またはヒンジなどの介在アミノ酸配列によって間接的に融合される。あるいは、融合パートナーと重鎖Fc領域の間に短いリンカー配列を設けることもできる。
他の態様において、多量体融合タンパク質は、1つまたはそれ以上の抗体可変領域を含まない。一般に、分子は、VHまたはVL抗体可変領域のいずれも含まない。特定のさらなる態様において、WO2015/132364の多量体融合タンパク質は、Fabフラグメントを含まない。
別の実施形態において、多量体融合タンパク質の各ポリペプチド単量体単位は、抗体Fcドメインを含み、例えば、ヒトを含む任意の適した種由来のものが可能である。さらに、抗体Fcドメインは、IgA(サブクラスIgA1およびIgA2を含む)、IgD、IgE、IgG(サブクラスIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む)、およびIgMを含む任意の適したクラスの抗体由来のものが可能である。
抗体Fcドメインは、それぞれ重鎖Fc領域と呼ばれる2つのポリペプチド鎖を含む。2つの重鎖Fc領域は、二量体化して、抗体Fcドメインを作成する。抗体Fcドメイン内の2つの重鎖Fc領域は互いに異なることも可能であるが、一般に同じになる。
一般に、それぞれ重鎖Fc領域は、2つまたは3つの重鎖定常ドメインを含むか、またはそれらからなる。例えば、IgA、IgDおよびIgGは、2つの重鎖定常ドメイン(CH2およびCH3)から構成され、IgEおよびIgMは、3つの重鎖定常ドメイン(CH2、CH3およびCH4)から構成される。重鎖Fc領域は、1つまたはそれ以上の異なるクラスの抗体、例えば、1、2または3つの異なるクラスからの重鎖定常ドメインを含むことがある。
このように、本発明の一実施形態において使用されるFc多量体中の重鎖Fc領域は、IgG1由来のCH3ドメインを含み、例えば、WO2015/132364に開示されている。個別の実施形態において、重鎖Fc領域は、IgG4由来のCH2ドメインおよびIgG1由来のCH3ドメインを含む。特定の実施形態において、重鎖Fc領域は、位置355にアルギニン残基を含む。他の実施形態において、重鎖Fc領域は、位置355にシステイン残基を含む。
本発明の一実施形態において使用されるFc多量体中の重鎖Fc領域は、IgM由来のCH4ドメインを含む。IgM CH4ドメインは、一般にCH3ドメインと尾部の間に位置する。
他の態様において、重鎖Fc領域は、IgG由来のCH2およびCH3ドメインならびにIgM由来のCH4ドメインを含む。
多量体融合タンパク質の尾部は、任意の適したアミノ酸配列を含むことができる。これは、天然に存在する抗体に見られる尾部である場合もあり、あるいは、天然の尾部とは長さおよび/または組成が異なる改変された尾部である場合もある。その他の改変された尾部は、完全に合成である場合もあり、長さ、柔軟性およびシステイン組成など、多量体化に望ましい特性を持つよう設計することができる。尾部は、ヒトを含む、任意の適した種由来のものが可能である。
尾部は、配列番号11または配列番号13に示されるとおりのヒトIgMまたはIgA由来の18アミノ酸の尾部配列のすべてまたは一部を含む場合もある。
尾部は、重鎖Fc領域のC末端に直接、あるいは、介在アミノ酸配列によって間接的に融合される。例えば、尾部と重鎖Fc領域の間に短いリンカー配列を設けることもできる。
尾部は、上記の天然の配列のバリアントまたはフラグメントを含む場合がある。IgMまたはIgA尾部のバリアントは、一般に18アミノ酸の位置のうちの8、9、10、11、12、13、14、15、16、または17個が天然の配列と一致するアミノ酸配列を有する。フラグメントは、一般に8、9、10、11、12、13、14、15、16、または17アミノ酸を含む。尾部は、ハイブリッドIgM/IgA尾部が可能である。
本発明のある実施形態において使用されるFc多量体中の各重鎖Fc領域は、場合により、そのN末端に天然のヒンジ領域または改変されたヒンジ領域を有することがある。本発明において使用されるFc多量体に組み込むことができる改変されたヒンジ領域のタイプは、WO2015/132364に開示されている。例えば、重鎖Fc領域は、そのN末端に完全なヒンジ領域を有する。特定の態様において、WO2015/132364に開示されているとおり、重鎖Fc領域およびヒンジ領域は、IgG4由来であり、ヒンジ領域は、変異した配列CPPC(配列番号15)を含む。
適したヒンジ配列の例を配列番号15から37に示す。
例えば、多量体融合タンパク質は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12個またはそれ以上のポリペプチド単量体単位を含む場合もある。さらに、多量体融合タンパク質は、さまざまな数のポリペプチド単量体単位を有する、さまざまな大きさの多量体融合タンパク質の混合物を含む場合もある。
このように、特定の実施形態において、本発明において使用される多量体融合タンパク質は、6つのポリペプチド単量体単位からなり、各ポリペプチド単量体単位は、抗体Fcドメインおよび尾部領域からなり、各抗体Fcドメインは、位置309のアミノ酸残基がシステイン以外の任意のアミノ酸残基である2つの重鎖Fc領域からなり、場合により、各重鎖Fc領域は、N末端にヒンジ領域を有し、尾部領域は、各重鎖Fc領域のC末端に融合され、単量体単位を多量体に集合させる。
同様に、個々の多量体融合タンパク質内のポリペプチド単量体単位は、互いに同じである場合も、互いに異なる場合もある。
特定の実施形態において、ポリペプチド単量体単位のポリペプチド鎖は、配列番号38から59に示されるとおりのアミノ酸配列を含み、場合により、別のヒンジまたは尾部配列を有する。
別の例において、本発明において使用される多量体融合タンパク質は、2つまたはそれ以上、好ましくは、6つのポリペプチド単量体単位を含むか、またはそれらからなり、各ポリペプチド単量体単位は、各ポリペプチド鎖が上記配列番号38から59(WO2015/132364の配列番号26から47)のいずれか1つに示される配列を含むか、またはそれからなる、2つの同一のポリペプチド鎖を含み、各ポリペプチド単量体単位は、抗体可変領域を含まない。
特定の実施形態において、多量体融合タンパク質は、無改変の多量体融合タンパク質と比較した場合に、サイトカイン放出を低減する、および/または血小板活性化を低減する、および/またはC1q結合を低減する、および/または抗体被覆標的細胞のマクロファージ食作用の阻害の効力を増加させる、および/または1つもしくはそれ以上のFc受容体との結合を変える1つまたはそれ以上の変異を含む。
本発明の特定の実施形態において、使用されるFc多量体は、WO2015/132365に記載されているものであり、これは、ヒトFc受容体と結合する多量体融合タンパク質に関する。
本発明のある実施形態において使用される多量体融合タンパク質は、2つまたはそれ以上のポリペプチド単量体単位を含み、各ポリペプチド単量体単位は、WO2015/132365に開示されているものなど、2つの重鎖Fc領域を含む抗体Fcドメインを含む。各重鎖Fc領域は、位置309にシステイン残基、およびFcR結合および/または補体結合を変える少なくとも1つのさらなる変異を含み、単量体単位を多量体に集合させる尾部にそのC末端において融合される。各ポリペプチド単量体単位は、抗体可変領域を含まない。
特定の態様において、多量体融合タンパク質は、上記のとおり、融合パートナーをさらに含む。他の態様において、多量体融合タンパク質は、上記のとおり、1つまたはそれ以上の抗体可変領域またはFabフラグメントを含まない。一実施形態において、多量体融合タンパク質の各ポリペプチド単量体単位は、上記のとおり、重鎖Fc領域を有する抗体Fcドメインを含む。本発明の多量体融合タンパク質の尾部、改変されたヒンジ領域、およびポリペプチド単量体単位は、上記の特性を含む。
本発明の特定の実施形態において使用される多量体融合タンパク質は、6つのポリペプチド単量体単位からなり、各ポリペプチド単量体単位は、抗体Fcドメインおよび尾部領域からなり、各抗体Fcドメインは、各重鎖Fc領域の位置309のアミノ酸残基がシステイン残基である2つの重鎖Fc領域からなり、各重鎖Fc領域は、FcR結合および/または補体結合を変える少なくとも1つのさらなる変異を含み、場合により、各重鎖Fc領域は、N末端にヒンジ領域を有し、尾部領域は、各重鎖Fc領域のC末端に融合され、単量体単位を多量体に集合させる。
特定の実施形態において、ポリペプチド単量体単位のポリペプチド鎖は、上記のとおりのアミノ酸配列を含む。
別の例において、多量体融合タンパク質は、2つまたはそれ以上、好ましくは、6つのポリペプチド単量体単位を含むか、またはそれらからなり、各ポリペプチド単量体単位は、各ポリペプチド鎖が配列番号60から96(WO2015/132365の配列番号26から32および50から64と対応する)のいずれか1つに示される配列を含むか、またはそれからなる2つの同一のポリペプチド鎖を含み、各ポリペプチド単量体単位は、抗体可変領域を含まない。
特定の実施形態において、WO2015/132365において教示されるとおり、本発明において使用される多量体融合タンパク質は、上記のとおりのそのような機能を可能にする1つまたはそれ以上の変異を含む。
本開示のさまざまな生成物は、薬剤として有用である。したがって、本開示は、Fc多量体、本開示のポリヌクレオチド、または本開示のプラスミドもしくはベクターを含む医薬組成物に関する。
本発明の態様は、視神経脊髄炎を処置することを必要とする対象を処置する方法である。方法は、前記対象に治療有効量のFc多量体を投与することを含む。別の実施形態において、方法は、前記対象に治療有効量の本開示のポリヌクレオチドまたは本開示のプラスミドもしくはベクターを投与することを含む。
提示されたFc多量体の発現
適切な宿主細胞において高レベルに組換えタンパク質を産生するには、上記の改変cDNAを、当業者に既知の方法に従ってさまざまな発現系において増殖させることが可能な組換え発現ベクターの適した調節エレメントとともに有効な転写単位に構築する必要がある。有効な転写調節エレメントは、天然の宿主として動物細胞を有するウイルスまたは動物細胞の染色体DNA由来のものが可能であろう。例えば、サルウイルス40、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス、ヒトサイトメガロウイルス、もしくはラウス肉腫ウイルスの末端反復配列(long terminal repeat)由来のプロモーター・エンハンサーの組み合わせ、またはベータ-アクチンもしくはGRP78のような動物細胞において強く構成的に転写される遺伝子を含むプロモーター・エンハンサーの組み合わせを使用することができる。cDNAから転写されるmRNAの安定した高レベルを達成するために、転写単位は、3’-近位部分に転写終結ポリアデニル化配列をコードするDNA領域を含むべきである。例えば、この配列は、サルウイルス40初期転写領域、ウサギベータグロビン遺伝子、またはヒト組織プラスミノーゲン活性化遺伝子由来のものが可能である。
cDNAは、その後、Fc多量体の発現に適した宿主細胞株のゲノムに組み込まれる。いくつかの実施形態において、この細胞株は、正しいフォールディング、ジスルフィド結合形成、アスパラギン結合型グリコシル化および他の翻訳後修飾ならびに培養培地への分泌を確実にするために脊椎動物由来の動物細胞株でなければならない。他の翻訳後修飾の例は、新生のポリペプチド鎖のチロシンO-硫酸化およびタンパク質分解プロセシングである。使用可能な細胞株の例は、サルCOS細胞、マウスL-細胞、マウスC127細胞、ハムスターBHK-21細胞、ヒト胎児由来腎臓293細胞、およびハムスターCHO細胞である。
対応するcDNAをコードする組換え発現ベクターをいくつかの異なる方法で動物細胞株に導入することができる。例えば、組換え発現ベクターは、さまざまな動物ウイルスに基づくベクターから作り出すことができる。これらの例は、バキュロウイルス、ワクチニアウイルス、アデノウイルス、およびウシパピローマウイルスに基づくベクターである。
組換えDNAをそのゲノムに組み込んだ特定の細胞クローンの単離を容易にするために、対応するDNAをコードする転写単位はまた、これらの細胞中で優性選択マーカーとして機能することが可能な別の組換え遺伝子とともに動物細胞に導入することができる。このタイプの優性選択マーカー遺伝子の例は、ジェネテシン(G418)に対する耐性を付与するTN4アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ、およびピューロマイシンに対する耐性を付与するピューロマイシンアセチルトランスフェラーゼである。そのような選択マーカーをコードする組換え発現ベクターは、所望のタンパク質のcDNAをコードするものと同じベクターに存在しているか、またはそれは、同時に導入され、宿主細胞のゲノムに組み込まれる別個のベクターにコードされるかのいずれかが可能であり、結果として高い頻度で異なる転写単位間に密接な物理的連鎖が生じる。
所望のタンパク質のcDNAとともに使用可能な他の種類の選択マーカー遺伝子は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)をコードするさまざまな転写単位に基づく。このタイプの遺伝子を内因性dhfr活性のない細胞、例えば、CHO細胞(DUKX-B11、DG-44)に導入後、それが、ヌクレオシドがない培地においてこれらの細胞が増殖することを可能にする。そのような培地の例は、ヒポキサンチン、チミジン、およびグリシンを含まないHam’s F12である。これらのdhfr遺伝子は、同じベクターまたは異なるベクターのいずれかに連結された、IgG Fc融合単量体をコードするcDNAとともに上記のタイプのCHO細胞に導入することができ、それにより、組換えタンパク質を産生するdhfr陽性細胞株を作り出す。
上記細胞株は、細胞傷害性dhfr阻害メトトレキサートの存在下において増殖させられると、メトトレキサートに対して耐性のある新しい細胞株が出現する。これらの細胞株は、組換えタンパク質を増加した速度で産生する。それは、増幅された数の連鎖したdhfrおよび所望のタンパク質の転写単位のためである。漸増濃度のメトトレキサート(1~10,000nM)中でこれらの細胞株を増殖させると、非常に高速に所望のタンパク質を産生する新しい細胞株を得ることができる。
所望のタンパク質を産生する上記細胞株は、懸濁培養で、またはさまざまな固体支持体上のいずれかで大規模に増殖させることができる。これらの支持体の例は、デキストランもしくはコラーゲンマトリックスベースのマイクロキャリア、またはホローファイバーの形態の固体支持体またはさまざまなセラミック材である。細胞懸濁培養物またはマイクロキャリアにおいて増殖させられる場合、上記細胞株の培養は、浴培養として、または長時間にわたる馴化培地の連続的な産生を伴う灌流培養としてのいずれかで行うことができる。このように、本開示によると、上記細胞株は、所望の組換えタンパク質を産生するための工業プロセスの開発に十分に適している。
精製および製剤化
組換えタンパク質は、宿主細胞または細胞培養培地中の所望のタンパク質とその他の物質の間のサイズ、電荷、疎水性、溶解度、特異親和性などの差を利用した方法を含む、さまざまな生化学的方法およびクロマトグラフィー法によって濃縮および精製することができる。
そのような精製の例は、固体支持体に固定された、例えば、Fc多量体のFc部分または別のFc結合リガンド(例えば、プロテインAまたはプロテインG)に対するモノクローナル抗体への組換えタンパク質の吸着である。Fc多量体の支持体への吸着、洗浄および脱着後に、タンパク質は、上記特性に基づくさまざまなクロマトグラフィー技術によってさらに精製することができる。精製段階の順序は、例えば、その段階の能力および選択性、支持体の安定性または他の性質により選択される。精製段階は、例えば、イオン交換クロマトグラフィー段階、免疫アフィニティークロマトグラフィー段階、アフィニティークロマトグラフィー段階、色素クロマトグラフィー段階、およびサイズ排除クロマトグラフィー段階が可能であるが、これらに限定されるものではない。
ウイルス汚染の理論上のリスクを最小限にするために、ウイルスの効果的な不活化または除去を可能にする追加の段階をこのプロセスに含めることもできる。例えば、そのような段階は、液体もしくは固体状態における熱処理、溶媒および/または界面活性剤による処理、可視もしくはUVスペクトルの放射線、ガンマ放射線、精製中の分割、またはウイルスろ過(ナノろ過)を含むことが可能である。
本明細書に記載されるFc多量体は、治療用の医薬調製物に製剤化することができる。医薬調製物の成分は、従来の生理学的に適合した水性緩衝液に再懸濁または溶解させることができ、これに、場合により、医薬品賦形剤を添加して、医薬調製物を提供することができる。医薬調製物の成分は、既にすべての必要な製薬の生理学的に適合した賦形剤を含むことが可能で、注射用水に溶解させて、医薬調製物を提供することができる。
適した医薬製剤のそのような医薬担体および賦形剤ならびに調製物は、当該技術分野において周知である(例えば、「Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins」、 Frokjaerら、Taylor & Francis(2000年)または「Handbook of Pharmaceutical Excipients」、第3版、Kibbeら、Pharmaceutical Press(2000年)を参照)。特定の実施形態において、医薬組成物は、増量剤、緩衝剤、または安定剤などの少なくとも1つの添加剤を含むことが可能である。標準的な医薬製剤化技術は、当業者に周知である(例えば、2005 Physicians’ Desk Reference(登録商標)、Thomson Healthcare: Monvale、NJ、2004年;Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Gennaroら編、Lippincott Williams & Wilkins:Philadelphia、PA、2000年を参照)。適した医薬添加剤としては、例えば、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクロース、トレハロース、またはその他のような糖、ヒスチジン、アルギニン、リジン、グリシン、アラニン、ロイシン、セリン、トレオニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、プロリン、またはその他のようなアミノ酸、塩化ナトリウムまたはその他の塩のような等張条件を達成するための添加剤、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、塩化カルシウム、またはその他のような安定剤、トリス(ヒドロキシメチルアミノメタン)のような生理的pH緩衝剤などが挙げられる。特定の実施形態において、医薬組成物は、pH緩衝試薬および湿潤剤または乳化剤を含むことが可能である。さらに別の実施形態において、組成物は、保存料または安定剤を含むことが可能である。特に、本明細書に記載されるFc多量体を含む医薬調製物は、凍結乾燥形態または安定した可溶形態に製剤化することができる。Fc多量体因子は、当該技術分野において知られているさまざまな手順によって凍結乾燥することができる。凍結乾燥製剤は、注射用の滅菌水または滅菌生理的食塩水または適した緩衝液などの1つもしくはそれ以上の薬学的に許容される希釈剤の添加によって使用前に再構成される。
Fc多量体の医薬調製物の組成物は、任意の薬学的に適した手段によって個体に送達することができる。さまざまな送達システムが知られており、任意の都合のよい経路によって組成物を投与するために使用することができる。Fc多量体の医薬調製物の組成物は、従来法に従って静脈内もしくは非静脈内注射用または経腸(例えば、口腔、経膣、もしくは直腸)送達用に製剤化することができる。非静脈内投与に関して、Fc多量体の組成物は、皮下、筋肉内、関節内、腹腔内、脳内、髄腔内、肺内(例えば、噴霧される)、鼻腔内、皮内、経口または経皮投与用に製剤化することができる。一実施形態において、Fc多量体の組成物は、静脈内注射用に製剤化される。他の実施形態において、Fc多量体の組成物は、皮下、筋肉内、または経皮投与用、好ましくは、皮下投与用に製剤化される。製剤は、輸注によって、またはボーラス輸注によって連続的に投与することができる。いくつかの製剤は、徐放系を含むことができる。
Fc多量体の医薬調製物の組成物は、患者に治療有効用量で投与される。「治療有効の」という用語は、本明細書中で使用される場合、容認できない有害な副作用をもたらす用量を教示することなく、所望の効果、視神経脊髄炎の重症度もしくは広がりの予防もしくは低減をもたらすか、または検出可能な治療もしくは予防効果を示すのに十分な用量を示す。正確な用量は、例えば、製剤および投与様式などの多くの要素によって決まる。治療有効量は、最初に、細胞培養アッセイまたは動物モデル、例えば、げっ歯類、ウサギ、イヌ、ブタ、もしくは霊長類モデルにおいて推定することができる。そのような情報を、その後、有用な用量およびヒトにおける投与経路を決定するために使用することができる。
一実施形態において、1本の静脈内または1本の非静脈内注射のためのFc多量体の用量は、1,000mg/kg体重未満、800mg/kg体重未満、600mg/kg体重未満、400mg/kg体重未満、200mg/kg体重未満、または100mg/kg体重未満である。例えば、一実施形態において、Fc多量体の用量は、約1mg/kg体重から約1,000mg/kg体重、約10mg/kg体重から約800mg/kg体重、約20mg/kg体重から約700mg/kg体重、約30mg/kg体重から約600mg/kg体重、約40mg/kg体重から約500mg/kg体重、約50mg/kg体重から約400mg/kg体重、約75mg/kg体重から約300mg/kg体重、または約100mg/kg体重から約200mg/kg体重である。一実施形態において、Fc多量体の用量は、約25mg/kg体重から約1,000mg/kg体重、約25mg/kg体重から約800mg/kg体重、約25mg/kg体重から約600mg/kg体重、約25mg/kg体重から約500mg/kg体重、約25mg/kg体重から約400mg/kg体重、約25mg/kg体重から約300mg/kg体重、約25mg/kg体重から約200mg/kg体重、または約25mg/kg体重から約100mg/kg体重である。
個別の実施形態において、Fc多量体の医薬組成物は、単独でまたはその他の治療用薬剤と合わせて投与される。一実施形態において、これらの薬剤は、同じ医薬品の一部として組み込まれる。一実施形態において、Fc多量体は、免疫抑制療法、例えば、ステロイドと合わせて投与される。別の実施形態において、Fc多量体は、任意のB細胞もしくはT細胞調節剤または免疫調節薬とともに投与される。
Fc多量体の投与頻度は、製剤、投与量、および投与様式などの多くの要素によって決まる。一実施形態において、Fc多量体の用量は、1日に複数回、1日に1回、2日に1回、3日に1回、週に2回、週に1回、2週間に1回、3週間に1回、または月に1回投与される。
治療効果
「治療効果」という用語は、本明細書中で使用される場合、それを特徴づけるパラメーターを改善することによって疾患または障害を処置すること、あるいは、それらの疾患/障害パラメーターを完全に予防することを示す。例えば、治療効果は、ある用量のFc多量体を投与することによって、(1)インビトロで視神経脊髄炎の細胞培養モデルにおいて、(2)エクスビボで視神経脊髄炎の脊髄切片モデル、または(3)インビボで疾患のラットモデルにおいて判定することができる。Fc多量体の用量は、10から1000mg/kg、例えば、200mg/kgが可能である。Fc多量体は、静脈内もしくは非静脈内注射または静脈内輸注によって投与することができる。動物の臨床的評価は、Fc多量体の投与後、最後の時点まで所定の時間に行うことが可能である。臨床的評価は、特定の疾患または障害の臨床所見に基づくスコア化を含む場合がある。生物学的サンプルはまた、Fc多量体の投与後、最後の時点まで所定の時間に動物から採取することができる。「生物学的サンプル」という用語は、本明細書中で使用される場合、例えば、組織、血液、および尿を指す。生物学的サンプルは、その後、マーカーまたは視神経脊髄炎の指標の改善に関して評価することができる。
「誘導する」という用語は、本明細書中で使用される場合、引き起こす、もたらす、生じさせる、作り出す、生じる、つながる、または促進すると定義される。
好適な実施形態において、Fc多量体の治療効果は、IVIGまたはFc単量体による処理後に観察される効果に対する、AQP4-IgGまたは血清陽性の視神経脊髄炎患者由来の血清とともにプレインキュベートされたチャイニーズハムスター卵巣細胞の補体依存性細胞傷害または抗体依存性細胞傷害の減少の改善によって示すことができる。特定の実施形態において、Fc多量体は、1%または0.5%ヒト補体の存在下における細胞傷害の減少の促進と関連づけられる。他の実施形態において、Fc多量体は、50μg/mlまたは100μg/mlの濃度における細胞傷害の減少の促進と関連づけられる。
個々の好適な実施形態においては、Fc多量体の治療効果は、ラット脊髄のエクスビボ切片モデルにおいて観察される細胞傷害および病変の減少によって示すことができる。脊髄は、AQP4-IgGおよびヒト補体とともにインキュベートして、神経脊髄炎切片モデルを作製し、その後、AQP4およびGFAPなどのアストロサイト損傷に対するマーカー、MBPなどの脱髄に対するマーカー、Iba1などの炎症に対するマーカー、およびC5b-9などの補体終末膜侵襲複合体の沈着に対するマーカーで免疫染色することができる。病変は、以下のとおり評価およびスコア化することができる:0 - 正常なAQP4、GFAP、およびMBP染色を有する完全な状態の切片;1 - AQP4またはGFAP染色の減少、MBP染色の減少、Iba1染色の増加、およびC5b-9染色の増加によって実証される軽度のアストロサイト損傷、脱髄、炎症、および補体終末膜侵襲複合体の沈着;2 - AQP4またはGFAP染色の減少、MBP染色の減少、Iba1染色の増加、およびC5b-9染色の増加を有する少なくとも1つの病変;3 - 切片面積の<30%を侵す複数の病変;4 - 切片面積の80%を侵す病変。各切片に関するスコアは、全臨床スコアに合計することができる。Fc多量体の治療効果は、六量体を用いない処理と比較することができる。
好適な別の実施形態において、Fc多量体の治療効果は、AQP4-IgGの脳内注射によって誘導される視神経脊髄炎の実験ラットモデルにおいて示すことが可能である。治療効果は、3.125、6.25、12.5、25、または50mg/kgの用量を静脈内投与し、投与の2時間後に血液を採取することによって評価することができる。血清は、ラット血液から採取し、AQP4-IgGとともにプレインキュベートしたAQP4発現チャイニーズハムスター卵巣細胞とのインキュベーションによって細胞傷害性の評価をすることができる。一実施形態において、細胞傷害性は、Fc多量体の50mg/kg用量の投与およびそれに続く、投与後のさまざまな時点におけるインビトロ試験のための血液の採取後に評価することが可能である。一実施形態において、視神経脊髄炎ラットの脳を採取し、薄片を作り、さまざまなマーカーで免疫染色して、AQP4およびGFAPなどのアストロサイト損傷に対するマーカー、MBPなどの脱髄に対するマーカー、Iba1およびCD45などの炎症に対するマーカー、ならびにC5b-9などの補体終末膜侵襲複合体の沈着に対するマーカーを含む、病態を評価することが可能である。比較のために、注射していない反対側の半球も染色することができる。
古典的補体経路の活性化
古典的補体経路は、特異抗体応答を仲介し、補体成分のカスケードによってもたらされる。カスケードは、主に抗原・抗体複合体によって活性化される。経路の最初の成分は、1つのC1qおよび2つのC1r2s2のサブユニットから構成されるタンパク質複合体C1である。免疫グロブリンのC1qとの結合は、触媒的に活性なサブユニットへのC1r2s2の活性化により古典的補体経路の活性化の最初の段階をもたらす。活性化C1は、C4をC4aおよびC4bに、さらにC2をC2aおよびC2bに切断する。C2aは、その後、C4bと結合して、C3転換酵素としても知られているC4b2aを形成する。C3転換酵素は、C3のC3aおよびC3bへの切断を触媒する。C3bは、その後、活性化C4b2aと結合することができ、C5転換酵素としても知られているC4b2a3bを形成する。C5転換酵素は、C5をフラグメントC5aおよびC5bに変換する。C5bは、C6、C7、C8およびC9成分とともにC5b-9複合体として知られている複合体を形成する。この複合体は、膜侵襲複合体(MAC)または終末補体複合体(TCC)としても知られており、標的細胞に膜貫通チャネルを形成して、細胞溶解に導く。
「完全な古典的補体経路の活性化」は、本明細書中で使用される場合、上記の古典的補体経路全体のすべての段階の活性化と定義される。完全な古典的補体経路の活性化は、古典的補体経路の活性化における最初の段階であるFc多量体のC1qとの結合、および古典的補体経路における最後のエフェクターであるC4a、C5aまたは可溶性もしくは膜結合C5b-9複合体の形成を調査することによって判定できる。例えば、タンパク質がC1qと結合するが可溶性C5b-9が基本的に形成されない、すなわち、それぞれの陽性対照の50%未満、好ましくは40%未満、好ましくは30%未満、好ましくは20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満だけ形成される場合、Fc多量体は、古典的補体経路の完全な活性化を誘導しない。古典的補体経路の活性化は、C4aの形成、C2の切断、またはC3転換酵素の形成を評価することによっても判定することができる。例えば、C4aの形成を誘導するが、C2の切断を誘導しないか、またはC3転換酵素の形成を誘導しないかのいずれかの場合、Fc多量体は、完全な古典的補体経路の活性化を誘導しない。「誘導しない」は、それぞれの陽性対照の50%未満、好ましくは40%未満、好ましくは30%未満、好ましくは20%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満が形成されることを意味する。
Fc多量体のヒトIgGおよびAQP4と結合する能力は、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)などのインビトロ結合アッセイによって判定することができる。例えば、96ウェルプレートのウェルをヒトAQP4-IgGでプレコートした後、Fc多量体の添加を行うことができる。精製ペルオキシダーゼ・標識抗ヒトIgG複合体を添加することが可能で、結合した複合体は、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色ペルオキシダーゼ基質を使用することによって視覚化することができる。一実施形態において、チャイニーズハムスター卵巣細胞は、Fc多量体の存在下においてAQP4-IgGまたは対照IgGとともに1時間インキュベートすることが可能である。その後、細胞は、蛍光を定量するために、抗AQP4抗体および続いて、Alexa Fluor抗体とともにインキュベートすることが可能である。
Fc多量体のC1qと結合する能力は、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)などのインビトロ結合アッセイによって判定することができる。例えば、96ウェルプレートのウェルをヒトC1qでプレコートした後、Fc多量体の添加を行うことができる。精製ペルオキシダーゼ・標識抗ヒトIgG複合体を添加することが可能で、結合した複合体は、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色ペルオキシダーゼ基質を使用することによって視覚化することができる。一実施形態において、組換えヒトC1qは、Fc多量体とともに1時間プレインキュベートした後、AQP4-IgG被覆細胞に1時間添加することが可能である。C1qは、FITC結合抗C1q抗体で染色することができる。
Fc多量体による古典的補体経路の活性化は、インビトロアッセイによって判定し、C4aおよび可溶性C5b-9の形成によって示すことができる。例えば、さまざまな濃度のFc多量体を全血または血清中で所定の時間インキュベートすることができ、いかなる生じたC4aまたは可溶性C5b-9(sC5b-9)の形成もELISAなどの免疫検出によって判定することができる。使用されるFc多量体の濃度は、0.01mg/mlから2mg/ml、例えば、0.04mg/ml、0.2mg/ml、または1.0mg/mlが可能である。
Fc多量体によって誘導されるC4aおよびsC5b-9の形成は、古典的補体経路の強力なアクチベーターである熱凝集ガンマグロブリン(HAGG)によって誘導されるこれらの成分の形成に対して比較することができる。例えば、このアッセイは、全血中で行うことが可能である。一部の実施形態によると、WO2017/129737に記載されているとおり、Fc多量体は、HAGGによって誘導されるsC5b-9形成と比較して、50%未満のsC5b-9形成、40%未満のsC5b-9形成、30%未満のsC5b-9形成、20%未満のsC5b-9形成、または10%未満のsC5b-9形成を誘導する。一実施形態において、Fc多量体は、全血においてHAGGによって誘導されるsC5b-9形成と比較して、全血において20%未満のsC5b-9形成を誘導する。別の実施形態において、Fc多量体は、全血においてHAGGによって誘導されるsC5b-9形成と比較して、全血において10%未満のsC5b-9形成を誘導する。さらに別の実施形態において、Fc多量体は、sC5b-9形成を誘導しない。
「熱凝集IgGにより活性化される正常ヒト血清」という用語は、本明細書中で使用される場合、熱凝集IgGによりほぼすべてのC4の切断が誘導された正常ヒト血清サンプルを指す。
Fc多量体による古典的補体経路の活性化はまた、C2タンパク質を検出することによって判定することもできる。C2タンパク質がC2aおよびC2bに切断されると、C2タンパク質のレベルが低下し、これが古典的補体経路の活性化を示す。さまざまな濃度のFc多量体を全血または血清において所定の時間、例えば、2時間インキュベートすることができ、その後、C2タンパク質レベルをイムノブロッティングなどの免疫検出によって測定することができる。古典的補体経路の活性化は、C2タンパク質の切断によって示される。正常ヒト血清中のC2タンパク質のレベルを、Fc多量体とのプレインキュベーション後に生じるC2タンパク質のレベルと比較して、C2切断の量、したがって、古典的補体経路の活性化を判定することができる。HAGGなどの古典的補体経路の既知のアクチベーターは、正常ヒト血清中における大部分のC2タンパク質の切断を誘導する陽性対照として使用することができる。「大部分」という用語は、本明細書中で使用される場合、50%超、60%超、70%超、80%超、または90%超を含むものと定義される。いくつかの実施形態において、WO2017/129737に記載されているとおり、Fc多量体は、大部分のC2タンパク質の切断を誘導しない。
Fc多量体による古典的補体経路の活性化はまた、C3転換酵素の形成を評価することによって判定することができる。上記のとおり、C3転換酵素は、C2aおよびC4bサブユニット(C4b2a)からなる。C2タンパク質がC2aおよびC2bに切断されないと、C3転換酵素を形成することができない。したがって、C3転換酵素形成は、C2タンパク質切断を測定するために上記のとおり評価することができる。いくつかの実施形態において、WO2017/129737に記載されているとおり、Fc多量体は、C3転換酵素の形成を誘導しない。
古典的補体経路の阻害
Fc多量体による古典的補体経路の阻害は、C5aおよびsC5b-9形成の阻害を判定することによって、またはC2タンパク質の切断の阻害を判定することによって、判定することができる。さまざまな濃度のFc多量体は、全血または血清中において古典的補体経路の既知のアクチベーターとともにインキュベートすることが可能である。Fc多量体および古典的補体経路の既知のアクチベーターの存在下において形成されたsC5b-9のレベルは、その後、古典的補体経路の既知のアクチベーター単独により形成されたsC5b-9のレベルと比較することができる。形成されたsC5b-9のレベルは、上記のとおり測定することができる。使用されるFc多量体の濃度は、0.01mg/mlから2mg/ml、例えば、0.04mg/ml、0.2mg/ml、または1.0mg/mlが可能である。古典的補体経路の既知のアクチベーターは、HAGGが可能である。古典的補体経路のアクチベーター単独の存在下において形成されたsC5b-9のレベルと比較して、Fc多量体および古典的補体経路のアクチベーターの存在下において形成されたsC5b-9のレベルが低い程、Fc多量体によるsC5b-9形成の阻害が大きくなる。いくつかの実施形態において、Fc多量体は、HAGGによって誘導されたsC5b-9形成と比較して、50%を超えるsC5b-9形成、60%を超えるsC5b-9形成、70%を超えるsC5b-9形成、80%を超えるsC5b-9形成、または90%を超えるsC5b-9形成を阻害する。一実施形態において、WO2017/129737に記載されているとおり、Fc多量体は、HAGGによって誘導されるsC5b-9形成の80%超を阻害する。
「阻害する」という用語は、本明細書中で使用される場合、抑制する、限定する、予防する、妨げる、止める、またはブロックすることと定義される。
C2タンパク質の切断の阻害は、同様に判定することができる。さまざまな濃度のFc多量体は、全血または血清中において古典的補体経路の既知のアクチベーターとともにインキュベートすることが可能である。古典的補体経路の既知のアクチベーター単独の存在下におけるC2タンパク質のレベルと比較して、Fc多量体および古典的補体経路の既知のアクチベーターの存在下におけるC2タンパク質のレベルが高い程、Fc多量体によるC2切断の阻害が大きくなる。C2タンパク質のレベルは、上記のとおり測定することができる。使用されるFc多量体の濃度は、0.01mg/mlから2mg/ml、例えば、0.04mg/ml、0.2mg/ml、または1.0mg/mlが可能である。古典的補体経路の既知のアクチベーターは、HAGGが可能である。いくつかの実施形態において、WO2017/129737に記載されているとおり、Fc多量体は、HAGGによる大部分のC2タンパク質の切断を阻害する。
古典的補体経路の阻害はまた、抗体感作、またはオプソニン化された赤血球を使用した古典的補体経路に対する溶血アッセイを使用して判定することもできる。例えば、ヒツジ赤血球(erythrocyte、すなわちred blood cell)は、ウサギ抗ヒツジ抗体でオプソニン化することが可能である。正常ヒト血清(NHS)は、オプソニン化赤血球の溶解を誘導する。Fcタンパク質は、NHSとともにプレインキュベートした後、赤血球に添加され、37℃で1時間インキュベートすることが可能である。Fcコンストラクトの濃度は、1~1000μg/ml、例えば、2.5、25、50、125、250、または500μg/mlが可能である。あるいは、Fc単量体はまた、Fcコンストラクトに関して示したのと同じ濃度のNHSとともにプレインキュベートすることも可能である。インキュベーション後に、混合物を遠心分離することが可能で、溶解の程度は、上清の放出されたヘモグロビンの412nmにおける吸光度を測定することによって判定することが可能である。
Fc多量体による古典的補体経路の阻害は、NHSを含むが、Fc多量体を含まない混合物と比較して、Fc多量体を含む混合物中の赤血球の溶解の減少によって示すことができる。Fc多量体によるオプソニン化赤血球の溶解の抑制はまた、Fc単量体の存在下におけるオプソニン化赤血球の溶解と比較することが可能である。いくつかの実施形態において、Fc多量体は、Fc単量体と比較してオプソニン化ヒツジ赤血球の溶解を抑制する。一実施形態において、WO2017/129737に記載されているとおり、Fc多量体は、Fc単量体と比較して70%を超えてオプソニン化ヒツジ赤血球の溶解を抑制する。
本発明の好適な実施形態において、Fc多量体は、古典的補体経路の活性化を阻害するが、代替補体経路は阻害しないことによって視神経脊髄炎の発病を防ぐ。
IgG1 Fc多量体の作製
ヒトIgM尾部の18アミノ酸残基(PTLYNVSLVMSDTAGTCY 配列番号11)をヒトIgG1 Fcフラグメント(アミノ酸残基216~447、EUナンバーリング;UniProtKB - P01857)の定常領域のC末端に融合することによってFc-μTP(図1A、左図)を形成した。Fc-μTPの309番目(EUナンバーリング)のLeu残基をCysに変異させることによってFc-μTP-L309C(図1A、右図)を形成した。Fc-μTPおよびFc-μTP-L309CをコードするDNAフラグメントは、ThermoFisher Scientific(MA、米国)によって合成され、ヒト細胞発現用にコドン最適化された。DNAフラグメントは、InTag正の選択法を使用して、pRhG4哺乳動物細胞発現ベクターのApaLIおよびXbaI部位にクローン化した(Chen, CGら、(2014年). Nucleic Acids Res 42(4):e26; Jostock Tら、(2004年)、J. Immunol. Methods. 289:65~80ページ)。簡単にいえば、Fc-μTPおよびFc-μTP-L309CフラグメントをApaLIおよびAscI消化によって単離した。BGH polyA付加部位(BGHpA)およびクロラムフェニコール耐性遺伝子(CmR)から構成されるCmR InTagアダプターも、AscIおよびSpeI消化によって単離した(Chen, CGら、(2014年). Nucleic Acids Res 42(4):e26)。Fc分子およびCmR InTagアダプターを、T4 DNAリガーゼを使用してpRhG4ベクターのApaLIおよびXbaI部位に共にクローン化した。34μg/mlのクロラムフェニコールを含む寒天プレート上で陽性クローンを選択した。QIAprep Spin Miniprepキット(QIAGEN、ヒルデン(Hilden)、ドイツ)およびDNA配列解析によって確認した配列を使用してミニプレッププラスミドDNAを精製した。制限酵素およびT4 DNAリガーゼは、New England BioLabs(MA、米国)から購入した。
Expi293(商標)Expression System(Life Technologies、NY、米国)を使用した一過性トランスフェクションは、製造業者の取扱説明書に従って行った。簡単にいえば、プラスミドDNA(0.8μg)を0.4 mlのOpti-MEMにおいて希釈し、穏やかに混合した。Expifectamine 293試薬(21.6μL)を0.4mlのOpti-MEMにおいて希釈し、穏やかに混合し、室温で5分間インキュベートした。その後、希釈したExpifectamineを、希釈したDNAに添加し、穏やかに混合し、室温で20~30分インキュベートして、DNA-Expifectamine複合体を形成させた。その後、DNA・Expifectamine複合体を、6.8mlのExpi293細胞(2×107細胞)を含む50mlのバイオリアクターチューブに添加した。その細胞を、250rpmで振盪されている8% CO2、37℃のインキュベーターにおいておよそ16~18時間インキュベートした。エンハンサー1 40μl(Life Technologies、NY、米国)、エンハンサー2 400μl(Life Technologies、NY、米国)およびLucraTone(商標)Lupin 200μlからなるマスターミックスを調製し、各バイオリアクターチューブに添加した。その細胞を、250rpmで振盪されている8% CO2、37℃のインキュベーターにおいてさらに4日間インキュベートした。タンパク質を、4000rpmでの20分間の上清の遠心分離から採取し、HPLC定量および精製の前に0.22μmフィルターを使用してきれいなチューブにろ過した。
IgG1 Fc多量体を作製するために、組換えヒトIgG1 FcのN末端をIgMの18アミノ酸尾部に融合させた。IgM尾部(μTP)は、五量体および六量体の形成を促進する。野生型(WT)ヒトIgG1 Fcペプチド(Fc-μTP)または残基309にロイシンからシステインへの点変異を有するそのバリアント(Fc-μTP-L309C)のいずれかを用いてFc融合タンパク質を作製した。ロイシン309のシステインへの点変異(Fc-μTP-L309C)は、Fc分子間における共有結合の形成のため、WT(Fc-μTP)よりも安定した構造をもたらすことが予想された。
Fc-μTPおよびFc-μTP-L309C融合単量体サブユニットは、以下の領域(残基番号は、それぞれ配列番号2および4中のものを指す)を含む2つのペプチドに由来する:
シグナルペプチド 残基1~19
ヒトIgG1のヒンジ領域 残基20~34
ヒトIgG1のFc領域 残基35~251
ヒトIgMの尾部 残基252~269
Fc-μTPおよびFc-μTP-L309Cペプチドの成熟形態のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1および配列番号3として示す。核酸コード配列を、それぞれ(WO2017129737の配列番号9と対応する)配列番号97および(WO2017129737の配列番号10と対応する)配列番号98として示す。
発現の過程で、シグナルペプチドが切り離されて、成熟Fc-μTPおよびFc-μTP-L309C融合ペプチドが形成される。未成熟融合ペプチドの配列を、それぞれ配列番号2および4に示す。
多量体Fcタンパク質のSDS-PAGEは、Fcコンストラクトの単量体、二量体、三量体、四量体、五量体および六量体と対応する各調製物に関するラダーパターンを示した。Fc-μTP-L309Cは、予想された六量体の位置に顕著なバンドを有したが、Fc-μTPは有さず、これは、破壊的な電気泳動バッファー条件下におけるより安定した構造と一致した(図1B)。Fc-μTPおよびFc-μTP-L309C六量体に関して予想される構造の図解を図1Aに示す。Fc-μTP-L309Cに関して、六量体の二量体の可能性が最も高い高次構造もはっきりとわかった。
Fc多量体調製物のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(図1C)および非対称フロー式フィールド・フロー・フラクショネーション(A4F)(図1D)に続いて、280nmにおける紫外線吸光度測定(A280、薄層クロマトグラム)および多角度光散乱(MALS、太線)を用いて、Fc-μTP-L309CおよびFc-μTPの多量体化も調べた。各手順を用いたFc多量体調製物(表1)のそれぞれに対して顕著な六量体ピーク(およそ85%材料)を有する類似の分布パターンが観察された。これは、SDS-PAGEによる異なるプロフィール(図1B)とは対照的であり、このことは、Fc-μTP調製物中の非共有結合性六量体の存在を示唆する。残りの材料は、主としてFc-μTPに関する低次(単量体、二量体、三量体)およびFc-μTP-L309Cに関する高次(六量体の二量体)のものであった。
組換えヒトIgG1 Fc単量体(配列番号1の残基1から232)も作製し、対照として使用した。
Fcタンパク質(Fc、Fc-μTPおよびFc-μTP-L309C)は、THP1細胞においてNF-κB活性化を刺激できないことに基づいてエンドトキシンがないと見なされた(図2)。ヒト単核球細胞株、THP1を、10%ウシ胎仔血清(FCS)、1%(100U/ml)ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRoswell Park Memorial Institute(RPMI)1640培地中で培養した。細胞培養培地をおよそ3日に1回交換した。転写因子NF-κBによって誘導可能なプロモーターの支配下において分泌型胎盤アルカリホスファターゼ(secreted embryonic alkaline phosphatase)(SEAP)遺伝子を発現するレポータープラスミドを用いたTHP1細胞の安定したトランスフェクションによってTHP1XBlue細胞を誘導した。刺激時に、THP1XBlue細胞がNF-κB、続いて、SEAPの分泌を活性化する。SEAPが存在する場合に培地が紫/青に変化するため、SEAPは、QUANTI-blueを使用して容易に検出可能である。THP1XBlue細胞は、PCRによって確認した場合、すべてのTLRを発現するが、TLR2、TLR2/1、TLR2/6、TLR4、TLR5およびTLR8にだけ反応する。THP1XBlue細胞は、選択マーカーZeocinに耐性がある。10%FCS、0.5%(100U/ml)ペニシリン/ストレプトマイシン、100μg/ml Normocin(Invivogen、サンディエゴ、CA)および200μg/ml Zeocin(Invivogen)を含むRPMI1640培地中で細胞を培養した。細胞培養培地をおよそ3日に1回交換した。NF-κB活性化に対する陽性対照としてリポ多糖(LPS)を使用した。
Fc六量体はAQP4発現細胞培養物中において補体依存性細胞傷害および抗体依存性細胞傷害を抑制する
記載されているとおり(Craneら、2011年、J. Biol. Chem. 286、16516~16524ページ)、安定してヒトAQP4-M23を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(CHO-AQP4細胞と呼ばれる)を、10%ウシ胎仔血清、200μg/mlジェネテシン、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを加えたF-12 Ham’s Nutrient Mixture培地中において5% CO2、95%空気中37℃で培養した。記載されているとおり(Yusaら、2002年、J. Immunol. 168、5047~5057ページ)、Fcγ受容体の高親和性176Vバリアントを発現するヒトナチュラルキラー細胞(NK細胞)を、Fox Chase Cancer Center(フィラデルフィア、PA)から入手した。
CHO-AQP4細胞を、1ウェル当たり25,000細胞のコンフルエンスになるまで96ウェルプレートにおいて増殖させた。細胞を10μg/mlのAQP4-IgG(rAb-53)または視神経脊髄炎(NMO)血清(1:50)とともに23℃で1時間プレインキュベートした。CDCのアッセイのために、ヒトまたはラット補体を、規定の濃度のFc調製物とともに4℃で1時間プレインキュベートした後、AQP4-IgG被覆CHO-AQP4細胞に添加し、さらに23℃で1時間した。反応速度の分析のために、AQP4-IgG被覆CHO-AQP4細胞への付加の前に、ヒト補体をFc-μTP-L309Cとともに規定の時間プレインキュベートした。ADCCのアッセイのために、CHO-AQP4細胞を、Fc調製物を伴わず、または伴い、4:1のエフェクター:標的細胞比で5μg/mlのAQP4-IgGおよびNK細胞とともに37℃で2時間インキュベートした。CHO-AQP4細胞を、その後、PBS中で徹底的に洗浄し、37℃で45分間、20% Alamar Blue(Invitrogen、カールズバッド、CA)を添加することによって細胞生存率を測定し、記載されているとおりに細胞傷害パーセンテージを求めた(Phuanら、2013年、Acta Neuropathol. 125、829~840ページ;Rateladeら、2014年、Exp. Neurol. 225、145~153ページ)。
これらの調査のために、AQP4-IgGプレインキュベーション細胞への添加の前に、Fc調製物をヒト補体(ヒト血清)とインキュベートした。Fc-μTPおよびFc-μTP-L309Cは、濃度依存的様式で細胞傷害をブロックし、効力がIVIGよりも>500倍大きく、Fc単量体よりも>3000倍大きかった(図3Aおよび3B)。
反応速度調査は、そのIC50を超えるFc-μTP-L309C濃度でCDCの急速な抑制を示したが、低いFc-μTP-L309C濃度でははるかに遅い抑制を示し(図3C)、これは、Fc-μTP-L309CのC1qとの多価の相互作用を含む協同的結合メカニズムに一致した。
図3Dは、細胞傷害が組換えAQP4-IgGではなく血清陽性NMO患者からの血清によって引き起こされた場合のFc-μTPおよびFc-μTP-L309CによるCDCの抑制を示す。見かけのIC50値は、図3Aのものと類似しており、このことは、Fc六量体がAQP4-IgGまたはそのAQP4との結合ではなく補体に作用するという結論を裏付ける。
Fc調製物を、AQP4発現CHO細胞のAQP4-IgGおよびNK細胞とのインキュベーションによってもたらされるADCCの抑制におけるそれらの効果についても試験した(Phuanら、2013年、Acta Neuropathol. 125、829~840ページ;Rateladeら、2014年、Exp. Neurol. 225、145~153年;Tradtrantipら、2012年、Ann. Neurol. 71、314~322ページ)。ADCCは、Fc-μTPおよびFc-μTP-L309Cによって濃度依存的様式で抑制され、IC50は、それぞれ約80μg/ml、および50μg/mlであり、試験した濃度範囲においてIVIGまたはFc単量体に関してはほとんど抑制が見られなかった(図5)。
Fc六量体は視神経脊髄炎(NMO)の脊髄切片モデルにおいて病変を防ぐ
マウスに関して以前に記載されたとおり(Zhangら、2011年、Ann. Neurol. 70、943~954ページ)、脊髄を、7日齢ラットから得、ビブラトームを使用して300μmの厚さに切断した。横断切片を、1mlの培養培地を含む6ウェルプレート中の透明な膜インサート(Millipore、Millicell-CM 0.4μm孔、30mm径)に置き、培養培地の薄い層が切片を覆った。50% MEM、25% HBSS、25%ウマ血清、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、0.65%グルコースおよび25mMヘペスにおいて5%CO2、37℃で7日間切片を培養した。7日後の切片を、Fc-μTPまたはFc-μTP-L309C(50μg/ml)を伴わず、または伴い、AQP4-IgG(5μg/ml)およびヒト補体(5%)とともに24時間インキュベートした。細胞への添加の前に、Fc調製物をヒト補体とともに室温で1時間プレインキュベートした。脊髄をAQP4、GFAP、MBP、Iba1およびC5b-9に対して免疫染色し、記載されているとおり(Zhangら、2011年、Ann. Neurol. 70、943~954ページ)に撮影し、スコア化した:0、正常なGFAPおよびAQP4染色を有する完全な状態の切片;1、軽度のアストロサイト膨張およびまたはAQP4染色の減少;2、GFAPおよびAQP4染色が減少した少なくとも1つの病変;3、切片面積の>30%を侵す複数の病変;4、切片面積の>80%を侵す複数の病変(Phuanら、2013年、Acta Neuropathol. 125、829~840ページ;Rateladeら、2014年、Exp. Neurol. 225、145~153ページ;Zhangら、2011年、Ann. Neurol. 70、943~954ページ)。
データは、平均±標準誤差として提示する。2つの群を比較する場合、ノンパラメトリックマン・ホイットニー検定を使用して統計的比較を行った。
NMOのエクスビボ脊髄切片モデルにおいてCDC抑制調査も行い、ここでは、7日培養したラット脊髄切片が、AQP4-IgGおよびヒト補体との24時間のインキュベーション後にアストロサイト損傷(AQP4およびGFAPの減少)、脱髄(MPB染色の減少)、炎症(Iba-1染色の増加)および補体終末膜侵襲複合体(C5b-9)の沈着を示している(Phuanら、2013年、Acta Neuropathol. 125、829~840ページ;Zhangら、2011年、Ann. Neurol. 70、943~954ページ)。AQP4-IgG/補体処理脊髄切片の免疫蛍光は、予想された病理学的変化を示し、これは、Fc-μTPおよびFc-μTP-L309Cによって大部分が防がれた(図4A)。図4Bは、病変スコアの概要を示す。
Fc多量体は古典的補体経路による溶血を抑制する
古典的経路に対するFcタンパク質の効果を確かめるために、ヒツジ赤血球(Siemens)をウサギ抗ヒツジ抗体(Ambozeptor 6000;Siemens)で感作し、細胞4×108個/mL GVB2+(GVB、0.15mM CaCl2、0.5mM MgCl2)に希釈した。Fc-μTP-L309Cによる溶血の抑制を評価するために、組換えタンパク質を1%または5%ヒト補体中において室温で30分間プレインキュベートした後、1/1(v/v)の比で赤血球に添加し、マイクロタイタープレート振盪装置において37℃で1時間インキュベートした。試験したFc-μTP-L309Cの濃度は、0.1から5μg/mlに及んだ。氷冷GVBE(GVB、10mM EDTA)を添加し、遠心分離(1250×g、4℃で5分)した後、放出されたヘモグロビンの412nmにおける吸光度を測定することによって上清中の溶血を判定した。
代替経路に対するFcタンパク質の効果を確かめるために、ウサギ赤血球(Jackson Laboratories)を洗浄し、細胞2×108個/mL GVB/MgEGTA(GVB、5mM MgEGTA)に希釈した。Fc-μTP-L309Cによる溶血の抑制を評価するために、組換えタンパク質を、5%または10%ヒト補体中において室温で30分間プレインキュベートした後、2/1(v/v)の比で赤血球に添加し、マイクロタイタープレート振盪装置において37℃で1時間インキュベートした。試験したFc-μTP-L309Cの濃度は、0.1から5μg/mlに及んだ。氷冷GVBEを添加し、遠心分離(1250×gで10分)をした後、放出されたヘモグロビンの412nmにおける吸光度を測定することによって上清中の溶血を判定した。
Fc-μTP-L309Cは、ヒト補体の1%および5%の両方の濃度で古典的補体経路の溶血を大幅に抑制した(図6C(ii))。Fc-μTP-L309Cは、ウサギ赤血球における代替補体経路を阻害しなかった(図6C(iii))。
Fc多量体は結合したAQP4-IgGへのC1qの結合を妨げることによって視神経脊髄炎の発病を調整する
CHO-AQP4細胞を96ウェルプレートにおいて24時間増殖させた。PBS中の1% BSAでブロックした後、細胞を、100mg/mlのFc-μTP-L309Cを伴わず、または伴いAQP4-IgGまたは対照IgGとともに23℃で1時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで洗浄し、Alexa Fluor 594-ヤギ抗ヒトIgG二次抗体、F(ab’)2-フラグメント特異的(1:500;Jackson ImmunoResearch、ウエストグローヴ、PA)とともに1時間インキュベートした。その後、細胞をPBSで3回すすぎ、蛍光を591/614nmの励起/蛍光波長でプレートリーダーを使用して定量した。ヒトIgGおよびAQP4免疫染色のために、細胞を、100μg/mlのFc-μTP-L309Cの非存在下または存在下において10μg/mlのAQP4-IgGまたは対照IgGとともに23℃で1時間インキュベートした。その後、細胞を、4% PFA中で15分間固定し、0.1%トリトンX100で透過処理した。1% BSAでブロックした後、細胞を、0.4μg/mlのポリクローナル、AQP4 C末端特異的ウサギ抗AQP4抗体(Santa Cruz Biotechnology、ダラス、TX)とともに1時間インキュベートした。細胞をPBSですすぎ、Alexa Fluor 594・F(ab’)2フラグメント特異抗体(1:400)およびAlexa Fluor488ヤギ抗ウサギIgG二次抗体(1:400;Invitrogen)とともに1時間インキュベートした。C1q結合をアッセイするために、CHO-AQP4細胞を、20μg/mlのAQP4-IgGとともに23℃で1時間プレインキュベートした後、PBSで洗浄した。組換えヒトC1q(60μg/ml)を、Fc単量体またはFc-μTP-L309Cとともに1時間プレインキュベートした後、AQP4-IgG被覆細胞に1時間添加した。細胞を洗浄し、固定し、C1qをウサギFITC結合抗C1q抗体(1:50;Abcam、ケンブリッジ、MA)で染色した。
視神経脊髄炎(NMO)発病は、膜結合AQP4とのAQP4-IgG結合によって開始され、結合したAQP4-IgGのFc領域への最初の補体タンパク質C1qの結合が続く。図6Aは、一次抗体のF(ab’)2フラグメントを認識する蛍光二次抗体を使用してアッセイした場合、100μg/mlのFc-μTP-L309CがCHO細胞上でのAQP4-IgGのAQP4との結合を阻害しなかったことを示している。図6Bは、C1q免疫蛍光法によってアッセイした場合、Fc-μTP-L309Cが精製C1qのAQP4結合AQP4-IgGとの結合を妨げたことを示しており、これは、水相C1qとの強い結合であるFc-μTP-L309Cの作用の1つと一致する。
Fc-μTP-L309Cは視神経脊髄炎(NMO)の実験ラットモデルにおいて病変を防ぐ
実験は、体重が合う雌のSprague Dawleyラット(250~300g、9~12週齢)を使用して行った。ラットの静脈内にFc-μTP-L309Cを3.125、6.25、12.5、25、50mg/kgで与え、血液を2時間の時点で採取した。血液を室温で30分間凝血させ、2,000×g、4℃で10分間遠心分離し、血清を採取し、-20℃で一晩凍結した。血清を、上記のとおり、CDCアッセイに使用し、ここでは、2%ラット血清を、1.25~10μg/mlのAQP4-IgGに23℃で1時間添加した。一部の調査では、ラット血液を、50mg/kgのFc-μTP-L309Cの静脈内注射後の規定の時間に採取し、CDCアッセイに供した。
記載されているとおりに(YaoおよびVerkman、2017年、Acta Neurolpathol. Commun. 5、15ページ)、脳内注射によってAQP4-IgGを送達した。簡単にいえば、ラットを、ケタミン(100mg/kg)およびキシラジン(10mg/kg)を使用して麻酔した後、定位固定装置(stereotaxic frame)に載せた。頭皮の正中切開後、ブレグマの前方0.5mmおよび側方3.5mmに直径1mmの穿頭孔を開けた。40μm径のガラス針を、5mmの深さ挿入して、加圧注射によって10分かけて総体積の3~6μL中の30または40μgのAQP4-IgGを注入した。5日目にラットに深く麻酔をかけた後、ヘパリン化PBSを200ml、その後、PBS中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)100mlを用いて左心室を介した経心的灌流(transcardiac perfusion)を行った。脳を4% PFA中で固定し、30%スクロース中、4℃で一晩置いて、OCTに包埋した。
固定した脳を、凍結し、薄片(10μm厚さ)を作り、ブロッキング溶液(PBS、1%ウシ血清アルブミン、0.2%トリトンX100)中で1時間インキュベートした後、一次抗体:AQP4(1:200、Santa Cruz Biotechnology、サンタクルーズ、CA)、GFAP(1:100、Millipore)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)(1:200、Santa Cruz Biotechnology)、イオン化カルシウム結合アダプター分子(ionized calcium-binding adaptor molecule)1(Iba1;1:1000;Wako、リッチモンド、VA)、C5b-9(1:50、Hycult Biotech、ウーデン、オランダ)またはCD45(1:10、BD Biosciences、サンホゼ、CA)、続いて、適切な蛍光二次抗体(1:200、Invitrogen、カールズバッド、CA)との一晩のインキュベーション(4℃)を行った。Leica蛍光顕微鏡において視覚化するために、切片をVECTASHIELD(Vector Laboratories、バーリンゲーム、CA)を用いて標本にした。
インビボ効力調査を、ラットにおいて確立されたNMOの実験モデルを使用して行った。このラットでは、AQP4-IgGの脳内投与によってNMO病変が作り出される(Asavapanumasら、2014年、Acta Neuropathol. 127、539~551ページ;YaoおよびVerkman、2017年、Acta Neurolpathol. Commun. 5、15ページ)。ラットはヒト様の補体活性を有するが、マウスは一般に、不活性の古典的補体系を有するため、このモデルは、マウスではなくラットで行った(RateladeおよびVerkman、2014年、Mol. Immunol. 62、103~114ページ)。Fc-μTP-L309Cは、AQP4-IgGおよびラット補体によってもたらされたCDCを抑制する際に有効であり(図7A)、図3Aにおいてヒト補体で見出されたものより数倍効力が大きかった。
効力調査のために治療的血中濃度をもたらすFc-μTP-L309C投与計画を確立するために、ラットの静脈内にさまざまな量のFc-μTP-L309Cを投与し、2時間の時点で採取した血清の補体活性を、ラット血清およびAQP4-IgGとともにプレインキュベートしたAQP4発現CHO細胞のCDCを測定することによってインビトロでアッセイした(図7B)。12.5mg/kgまたはそれ以上の用量でFc-μTP-L309Cを投与されたラットから2時間の時点で採取された血清中では細胞傷害が妨げられた。図7Cは、50mg/kgの単回静脈内用量のFc-μTP-L309C投与後のラット血清により誘導された細胞傷害の時間経過を示す。細胞傷害は、少なくとも8時間妨げられた。
AQP4-IgGの脳内注射時および脳内注射の12時間後にFc-μTP-L309Cを50mg/kgで投与した短期間効力調査を行った(図8A)。AQP4-IgG処置ラットの免疫蛍光は、投与部位周辺領域におけるアストロサイト損傷(アストロサイトマーカーAQP4およびGFAPの減少)、ならびに脱髄(MBP免疫蛍光の減少)、炎症(Iba-1およびCD45)および活性化補体の沈着(C5b-9)を示した(図8A)。病変周辺のGFAP発現の増加は、反応性グリオーシスを表す。注射していない反対側の半球の免疫蛍光を比較のために示す。Fc-μTP-L309C処置ラットでは著しい病変の低減が認められ、これらのラットでは、AQP4、GFAP、MBP、C5b-9およびCD45免疫蛍光が未処置ラットおよびFc-μTP-L309C処置ラットの反対側の半球のものと類似していた。さらなる調査では、同側の半球のほぼ全体に大きなNMO病変をもたらすために、より大量のAQP4-IgGを注射した(図8B)。Fc-μTP-L309Cは、AQP4、GFAPおよびMBP免疫蛍光の減少を完全に妨げた。