JP7344509B2 - 光学活性フルオロアルコールおよび光学活性クロロフルオロアルコールの製造方法 - Google Patents
光学活性フルオロアルコールおよび光学活性クロロフルオロアルコールの製造方法 Download PDFInfo
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Description
特許文献1~6には、生物学的な方法により炭素数3のフルオロケトンを不斉還元して光学活性フルオロアルコールを得る方法が開示されている。特許文献7には、炭素数3のクロロフルオロケトンを不斉還元して光学活性クロロフルオロアルコールを得る方法が開示されている。
詳細に説明すると、特許文献1および特許文献3には、光学活性フルオロアルコールの製造方法として、1,1,1-トリフルオロアセトンに該ケトンをエナンチオ選択的に不斉還元する微生物由来の酵素を作用させて光学活性1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールを得る方法が開示されている。
特許文献4および特許文献5には、1,1,1-トリフルオロアセトンに特定の野生株酵母菌体を作用させて(S)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールまたは(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールを得る方法が開示されている。
特許文献6には、1,1-ジフルオロアセトンに特定の野生株酵母菌体または精製酵素を作用させて光学活性1,1-ジフルオロ-2-プロパノールを得る方法が開示されている。
これらの先行技術文献において、特許文献1は、特定の微生物(Rhodococcus erythropolis、Arthrobacter paraffineus、Lactobacillus kefir)から単離したアルコール脱水素酵素を1,1,1-トリフルオロアセトンに作用させることで>99%eeの(S)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノール、>90%eeの(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールが得られたことが記載されている。
特許文献2には、50℃で熱処理した市販のパン酵母(Saccharomyces cerevisiae)を1,1,1-トリフルオロアセトンに作用させることで93.0~99.6%eeの(S)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールが得られたことが記載されている。なお、本明細書において、「ee」とは、鏡像体過剰率(enantiomeric excess)の意味である。
特許文献3には、特定の微生物(Candida parapsilosis、Rhodococcus erythropolis、Streptomyces coelicolor、Zoogloea ramigera、Saccharomyces cerevisiae、Hyoscyamus niger、Datura stramonium、Geobaciilus stearothermophilus)から単離した各種酵素を1,1,1-トリフルオロアセトンに作用させることで(S)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールについては最大99.6%ee、(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールについては最大100%eeの光学純度が得られたことが記載されている。
特許文献5には、特定の微生物(Debaryomyces robertsiae、Sporidibolus johonsonii、Debaryomyces maramus、Metshnikowia gruessii、Pichia farinosa)の全菌体を1,1,1-トリフルオロアセトンに作用させることで光学活性1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールが得られることを開示しており、これまで精製酵素を用いる方法でしか得られなかった(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールを、全菌体による反応でも、Pichia farinosaを用いることで得られたことが記載されている。
本発明の課題は、上記問題を解決するとともに、anti-Prelogタイプの反応機構により得られる光学活性フルオロアルコールを高い光学純度で製造する工業生産に適した方法を提供することである。
Pichia farinosaは国内の公的な分譲菌株はteleomorph も含め20菌株(NBRC 10231、NBRC0193、NBRC0459、NBRC0462、NBRC0463、NBRC0464、NBRC0465、NBRC0534、NBRC0574、NBRC0602、NBRC0603、NBRC0604、NBRC0605、NBRC0606、NBRC0607、NBRC0991、NBRC1003、NBRC1163、NBRC10061、NBRC10896)存在し、国内で単離された菌株が多数を占める。また、麹や味噌、酒、ビールといった古くから存在する食品が主な単離源であることから安全性(非病原菌、非毒性)が担保されており、長期の工業的な使用に適した菌株である。
本発明者らは、Pichia farinosa由来の野生型カルボニル還元酵素のアミノ酸配列に各種特定の変異(アミノ酸置換変異)を加えた変異型酵素を用いることで、化合物の製造を行った。
具体的には、本発明の変異型酵素を用いる方法によって、1,1,1-トリフルオロアセトンから、>99.9%eeの(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールを得られ(野生型酵素では98.7%ee)、1,1-1,1-ジフルオロアセトンから97.8%eeの(R)-1,1-ジフルオロ-2-プロパノールが(野生型酵素では20.8%ee)得られ、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロアセトンから91.4%eeの(R)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-2-プロパノールが得られ(野生型酵素では71.7%ee)、1-クロロ-3,3-ジフルオロアセトンから91.2%eeの(R)-1-クロロ-3,3-ジフルオロ-2-プロパノールが得られた(野生型酵素では40.6%ee)。(野生型酵素については本明細書の表5参照、変異型酵素については本明細書の表6参照)。
本発明のように、酵素を用いた不斉還元反応において、既知の酵素のアミノ酸配列に変異を加えることで立体選択性が向上する知見は従来知られていなかった。
Pichia farinosa由来の野生型カルボニル還元酵素を変異させた変異型酵素を、下記式[1]で表されるフルオロケトン、またはクロロフルオロケトンに作用させ、下記式[2]で表される光学活性フルオロアルコール(R体のエナンチオマー)または光学活性クロロフルオロアルコール(R体のエナンチオマー)を得ることを含む、光学活性フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールの製造方法。
前記フルオロケトンが、1,1,1-トリフルオロアセトンまたは1,1-ジフルオロアセトンであり、前記光学活性フルオロアルコールが、(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールまたは(R)-1,1-ジフルオロ-2-プロパノールである、発明1の製造方法。
[発明3]
前記クロロフルオロケトンが、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロアセトンまたは1-クロロ-3,3-ジフルオロアセトンであり、前記光学活性クロロフルオロアルコールが、(R)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-2-プロパノールまたは(R)-1-クロロ-3,3-ジフルオロ-2-プロパノールである、発明1または2の製造方法。
前記Pichia farinosaは、受託番号がNBRC 0462である微生物である、発明1~3のいずれか1つの製造方法。
[発明5]
前記Pichia farinosa由来の野生型カルボニル還元酵素が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質からなる酵素である、発明1~4のいずれか1つの製造方法。
[発明6]
前記変異型酵素が、前記野生型カルボニル還元酵素のアミノ酸配列のN末端側から第150番目のロイシンをフェニルアラニンに置換したアミノ酸配列を含む酵素であり、当該変異型酵素を、(i)1,1,1-トリフルオロアセトンに作用させて、(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールを得ること、(ii)1,1-ジフルオロアセトンに作用させて、(R)-1,1-ジフルオロ-2-プロパノールを得ること、または(iii)1-クロロ-3,3,3-トリフルオロアセトンに作用させて、(R)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-2-プロパノールを得ることを含む、発明1~5のいずれか1つの製造方法。
前記変異型酵素が、前記野生型カルボニル還元酵素のアミノ酸配列のN末端側から第150番目のロイシンをメチオニンに置換したアミノ酸配列を含む酵素であり、当該変異型酵素を、1,1,1-トリフルオロアセトンに作用させて、(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールを得ることを含む、発明1~5のいずれか1つの製造方法。
[発明8]
前記変異型酵素が、前記野生型カルボニル還元酵素のアミノ酸配列のN末端側から第150番目のロイシンをチロシンに置換したアミノ酸配列を含む酵素であり、当該変異型酵素を、(i)1,1-ジフルオロアセトンに作用させて、(R)-1,1-ジフルオロ-2-プロパノールを得ること、または(ii)1-クロロ-3,3,3-トリフルオロアセトンに作用させて、(R)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-2-プロパノールを得ることを含む、発明1~5のいずれか1つの製造方法。
前記変異型酵素が、前記野生型カルボニル還元酵素のアミノ酸配列のN末端側から第158番目のロイシンをグルタミンに置換したアミノ酸配列を含む酵素であり、当該変異型酵素を、1-クロロ-3,3-ジフルオロアセトンに作用させて、(R)-1-クロロ-3,3-ジルオロ-2-プロパノールを得ることを含む、発明1~5のいずれか1つの製造方法。
[発明10]
前記変異型酵素が、前記野生型カルボニル還元酵素のアミノ酸配列のN末端側から第201番目のフェニルアラニンをアラニンに置換したアミノ酸配列を含む酵素であり、当該変異型酵素を、1-クロロ-3,3-ジフルオロアセトンに作用させて、(R)-1-クロロ-3,3-ジルオロ-2-プロパノールを得ることを含む、発明1~5のいずれか1つの製造方法。
補酵素として、さらにニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を添加することを含む、発明1~10のいずれか1つの製造方法。
[発明12]
作用時の温度が25℃以上、40℃以下である、発明1~11のいずれか1つの製造方法。
[発明13]
作用時のpHが5.0以上、6.5以下である、発明1~12のいずれか1つの製造方法。
[発明14]
前記変異型酵素が遺伝子組換え大腸菌で発現させたものである、発明1~13のいずれか1つの製造方法。
具体的には、本発明の製造方法により、医農薬中間体として重要な光学活性フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールを、高い光学純度で製造することができ、工業的規模の生産ができる。
本発明は、Pichia farinosa由来の変異型カルボニル還元酵素を、下記式[1]で表されるフルオロケトンまたはクロロフルオロケトンにそれぞれ作用させ、R体のエナンチオマーである下記式[2]で表される光学活性フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールを得る製造方法である。
生成した光学活性フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールを、反応終了液(反応終了後の不純物等を含む混合液)から回収するには、有機合成における一般的な単離方法が採用できる。反応終了後、蒸留や有機溶媒による抽出等の通常の後処理操作を行うことにより、粗生成物を得ることができる。特に、反応終了液または必要に応じて菌体を取り除いた濾洗液を直接蒸留に付すことで簡便にかつ収率よく目的生成物を回収することができる。得られた粗生成物は、必要に応じて、脱水、活性炭処理、分別蒸留、カラムクロマトグラフィー等の精製操作を行うことができる。
1.Pichia farinosa由来の野生型カルボニル還元酵素のアミノ酸配列の特定
下記表1に示す様に、本発明の光学活性フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールの製造方法に使用する、Pichia farinosaは、受託番号を得て、独立行政法人製品評価技術基盤機構(〒151-0066 東京都渋谷区西原2-49-10)に1946年1月1日付けで寄託されたものである。本菌株は、他の微生物保存機関にも相互に寄託されている場合があり、利用することができる。また、この菌株は一般に公開されているものであり、当業者が容易に入手することができる。
表1または表2に示す微生物の培養には、通常、微生物の培養に用いられる栄養成分を含む培地(固体培地または液体培地)が使用できるが、該菌株の生物学的特性上、液体培地が好ましい。
培地において、炭素源としては、糖類、アルコール類または有機酸を用いることができ、窒素源としては、アンモニア、アンモニウム塩、アミノ酸、ペプトン、ポリペプトン、カザミノ酸、尿素、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー等が用いることができる。さらに、その他の添加物として、無機塩、ビタミン類、金属を適宜添加してもよい。
(糖類)
グルコース、スクロース、マルトース、ラクトース、フルクトース、トレハロース、マンノース、マンニトール、またはデキストロース等の糖類を例示することができる。
(アルコール類)
メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、またはグリセロールを例示することができる。
(有機酸類)
クエン酸、グルタミン酸、またはリンゴ酸を例示することができる。
窒素源としては、アンモニア、アンモニウム塩、アミノ酸ペプトン、ポリペプトン、カザミノ酸、尿素、酵母エキス、麦芽エキス、またはコーンスティープリカーを例示することができる。
その他の化合物として、無聊の無機塩、ビタミン類、金属を加えてもよい。
(無機塩)
リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムを例示することができる。
(ビタミン類)
イノシトール、ニコチン酸を例示することができる。
(金属)
鉄、銅、マグネシウム、ホウ素、マンガンまたはモリブデンを例示することができる。
これらの炭素源、窒素源、無機塩等のうち、炭素源については微生物が十分に増殖する量且つ増殖を阻害しない量を加えることが好ましく、通常、培地1Lに対して5g以上、80g以下、好ましくは10g以上、40g以下である。窒素源についても、微生物が十分に増殖する量且つ増殖を阻害しない量を加えることが好ましく、通常、培地1Lに対して5g以上、60g以下、好ましくは10g以上、50g以下である。栄養源としての無機塩については微生物の増殖に必要な元素を加える必要があるが、高い濃度の場合には増殖が阻害されるため、通常、培地1Lに対して0.001g以上、10g以下である。なお、これらは微生物に応じて、前記したものの複数の種類を組み合わせて、培地に使用することができる。
培地におけるpHは微生物の増殖に好適な範囲で調整する必要があり、通常4.0以上、10.0以下、好ましくは6.0以上、9.0以下である。
温度範囲は微生物の増殖に好適な範囲で調整する必要があり、通常10℃以上、50℃以下、好ましくは20℃以上、40℃以下である。
培養中は培地に空気を通気する必要があり、好ましくは0.3vvm以上、4vvm以下である。より好ましくは、0.5vvm以上、2vvm以下である。なお、「vvm」は1分間当たりの培地体積に対する通気量を意味し、「volume/volume/minute」の略である。
酸素の要求量が多い微生物に対しては、酸素発生器等を用いて、酸素濃度を高めた空気を通気してもよい。また、試験管やフラスコ等の任意の通気量を設定し難い器具については、該器具の容積に対して培地量を20%以下に設定し、綿栓やシリコン栓等の通気栓を取り付ければよい。
培養した微生物から目的の酵素を単離するに当たり、微生物の細胞からタンパク質を取り出す必要がある。微生物の細胞からタンパク質を取り出す方法としては、ガラスビーズによる菌体破砕、超音波による菌体破砕、界面活性剤もしくは有機溶媒による細胞膜または細胞壁の溶解等により細胞を破壊する方法が知られている。これらの方法で得られた懸濁液からたんぱく質を不溶性分として除去する方法には、遠心分離による固液分離、またはフィルターによる濾過方法を挙げることができる。これらの操作を行うことにより、たんぱく質が除かれた細胞由来の抽出液である、無細胞抽出液を得ることができる。
無細胞抽出液から目的の酵素を単離する方法としては、一般的な、硫安分画、疎水性クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー等により活性画分を分取しながら酵素の単離を行う方法を用いることができる。
単離した酵素の単一性(純度)は、ゲル濾過カラムを用いた液体クロマトグラフィー(HPLC等)による分子量測定や、ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動法により確認することができ、通常ドデシル硫酸ナトリウムにより変性したタンパク質をポリアクリルアミドゲルにより電気泳動(SDS-PAGE)により、単一性の測定をすることができる。
単離した酵素のアミノ酸配列は、一般的なアミノ酸配列の分析方法により測定することができる。しかしながら、単離した酵素のDNAの全長のアミノ酸配列を一度に測定することは困難である。そのため、通常、単離した酵素のN末端側から分析した数~十数個のアミノ酸配列を基に、全長のアミノ酸配列が明らかとなっている近縁の酵素を既存のデータベースから入手し、近縁の酵素の塩基酸配列を基に、各種遺伝子プライマーを作製する。近縁の酵素のゲノムDNAを鋳型として、単離した酵素のアミノ酸配列を含む領域を増幅し、分析することで、単離した酵素のアミノ酸配列の全長を特定することができる。
2.変異型カルボニル還元酵素(変異型酵素)の調製
[変異型酵素の調製]
Pichia farinosa由来の野生型酵素のアミノ酸配列を変異させた酵素(変異型酵素)を調製するに当たり、変異箇所および変異させる配列(アミノ酸の種類)は特に制限されるものではない。また、調製された変異型酵素の評価は、対象となる原料化合物を用いた還元反応を実施する必要があり、得られた化合物の光学純度を以て所望の変異が成されたかを判断する。なお、変異の表記については、例えば「L150F」の場合は、N末端側から第150番目のロイシン(L、アミノ酸一文字表記)をフェニルアラニン(F)に変えることを意味する。
3.変異型カルボニル還元酵素(変異型酵素)の作用
本発明の光学活性フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールの製造方法における、変異型酵素の作用について説明する。
下記式[1]で表されるフルオロケトンまたはクロロフルオロケトンは、本発明の光学活性フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールの製造方法における原料化合物である。RfはCF3またはCF2Hであり、RはフルオロケトンにおいてCH3、クロロフルオロケトンにおいて、CH2Clである。
また、上記式[1]で表されるフルオロケトンまたはクロロフルオロケトンは、後述の実施例で示すように、当該ケトンに水もしくはアルコールが付加した水和体、及びアルコール付加体も同様に用いることができる。従って、これらの水和体及びアルコール体も本発明に包合されるものとする。
変異型酵素を、上記式[1]で表されるフルオロケトンまたはクロロフルオロケトンに作用させ、酵素反応により、光学活性フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールを得る際は、通常、生体酵素の反応場である水を主成分とする緩衝液中で行う。
本作用は還元反応であることから、酸性側の緩衝液が好ましい。このような酸性側の緩衝液として、リン酸ナトリウム緩衝液、リン酸カリウム緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液、クエン酸カリウム緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、または酢酸カリウム緩衝液を例示することができる。緩衝液のpHは低すぎると酵素が変性して失活するため弱酸性が好ましく、好ましくは4.5~6.9、より好ましくは5.0~6.5である。
<温度>
酵素の作用時の温度は、酵素反応に好適な範囲を維持する必要があり、通常10℃以上、60℃以下である。好ましくは15℃以上、50℃以下であり、より好ましくは25℃以上、40℃以下である。
<作用時の条件>
酵素液または菌体懸濁液を静置させた状態においては酵素反応の効率が低下するため、反応時は攪拌することが好ましい。また、酵素反応は無通気で行うことができるが、必要に応じて通気を行ってもよい。その際、通気量が多過ぎる場合には原料の式[1]で表されるフルオロケトンまたはクロロフルオロケトン、および目的生成物の光学活性含フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールが系外に気体として飛散するおそれがあるため、通気量は、0.3vvm以下が好ましく、より好ましくは0.1vvm以下である。反応時間は、目的物の生成具合によって決定すればよく、通常6時間以上、312時間以下である。
本発明の光学活性フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールの製造方法においては、変異型酵素以外に、反応を促進させるために補酵素を加えてもよい。
このような補酵素としては、水素供与体であるニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHと略する、)を例示することができる。NADHは、市販されているものを外部から加えてもよいし、遺伝子組換え大腸菌を作出する際に該変異型カルボニル還元酵素と併せてグルコース脱水素酵素やギ酸脱水素酵素を発現系に組み込んでもよい(補酵素再生系)。外部から補酵素NADHを加える場合は、一般に細胞内への透過性が悪いことから菌体破砕液、無細胞抽出液、酵素液に加えることが好ましい。補酵素再生系のグルコース脱水素酵素はグルコースを基質にNAD+からNADHを、ギ酸脱水素酵素はギ酸を基質にNAD+からNADHを再生する能力を有する。補酵素再生系を遺伝子組換え大腸菌内に構築することで、高価な試薬であるNADHを外部から加える必要がなくなり、経済的かつ収率よく目的物を製造することができる。
補酵素再生系を組み込んだ遺伝子組換え大腸菌を用いた方法は、煩雑な酵素精製を行う必要が無く、高価な試薬NADHを外部から加える必要の無い工業的な製造方法である。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
Pichia farinosa(以下、P. farinosa)NBRC 0462株を試験管(φ1.4 cm×18 cmに調製した5 mlのYM培地(pH 6.5)に植菌し、30℃、250 rpmで24時間培養を行い、5.2×109cfu/mlの前培養液(1)を得た。
この前培養液(1)を500 ml容の三角フラスコに調製した200 mlのYM培地(pH 6.5)に植菌し、20℃、200 rpmで24時間培養を行い、6.3×108cfu/mlの前培養液(2)を得た。この前培養液(2)を2 L坂口フラスコに調製した1 LのYM培地(pH 6.5)に植菌し、30℃、96 rpmで72時間の培養を行い、1.2×109 cfu/mlの菌体懸濁液を得た。この菌体懸濁液を500 ml容の遠沈管に移し、3,000×g、30分間の遠心分離を行い、菌体を回収した。
この無細胞抽出液に50%飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを溶解し、氷上で3時間攪拌し、タンパク質を析出させた。この抽出液を遠沈管に移し、20,000×g、30分の遠心分離を行い、上清を回収し、さらにこの上清に80%飽和濃度となるように硫酸アンモニウムを溶解し、氷上で30分間の攪拌を行った。この抽出液を遠沈管に移し20,000×g、30分の遠心分離を行い、沈殿を回収した。この沈殿に10 mM-リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)を10 ml加え、析出したタンパク質を溶解させたのち、分画分子量14,000の透析チューブを用いて、5 mM-リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)に対して2回の透析を行った(50~80%硫安画分)。50%硫酸アンモニウムで析出したタンパク質に対しても同様の操作を行った(50%硫安画分)。これらの酵素液を後述の酵素活性測定方法により酵素活性を測定した。結果を表3に示す。
酵素活性は、0.2 M-リン酸カリウムバッファー(pH 7.0)880μlに、10 mM-NADH水溶液(終濃度0.1 mM)を10μl、5%-1,1,1-トリフルオロアセトン水溶液を100μl(終濃度0.5%)、無細胞抽出液または酵素液を10μl添加して反応液とした。反応は30℃で行い、分光光度計(日本分光株式会社製、型式V-630BIO)を用いてNADHの吸光度をモニターした。酵素活性は、1分間当たり1μmolのNADHの酸化を触媒する酵素量を1 U(ユニット)として定義した。
[クロマトグラフィーによる野生型カルボニル還元酵素の精製]
10 mM-リン酸カリウムバッファー(pH 7.0)で平衡化したToyopearl Gigacap Q(東ソー株式会社製)をφ16.5 cm×2.5cm(8 ml)のカラムに充填し、上記と同様の方法で調製した50~80%硫安画分の粗酵素液をカラムクロマトグラフィーに供した。5倍量の10 mM-リン酸カリウムバッファー(pH 7.0)でタンパク質を溶出した。フラクションは2 mlずつ分取し、酵素活性を測定し、活性画分をまとめて次のクロマトグラフィーに供した。
回収した酵素液をSDS-PAGEにより分析し、27 kDaの位置のバンドにほぼ単一のタンパク質として精製されていることを確認した(P. farinosa NBRC 0462株由来の野生型カルボニル還元酵素)。結果を表4に示す。
実施例1で得られた野生型カルボニル還元酵素をアミノ酸シーケンサー(Thermo Scientific、3500 Series Genetic Analyzer)によりN末端側からのアミノ酸配列を確認したところ、「MAYNFSNKVAIITGGI」(配列番号4)であった。この配列を元に既知の酵素を検索してヒットしたMillerozyma farinosa(以下、M. farinosa)CBS 7064株の3-ketoacyl reductase(Accession No. CCE79182.1)の全長塩基配列を基にプライマー(以下、プライマー1、2)を作製し、下記の反応液組成および反応条件でPCR法を行うことにより、目的の酵素(野生型カルボニル還元酵素)の塩基配列の部分配列を明らかにした。また、P. farinosa NBRC 0462株のゲノム遺伝子に対して各種制限酵素を作用させることで得られた環状DNAを鋳型とし、目的の酵素の内部配列から設計したプライマー(以下、プライマー3,4)を作製し、下記の反応液組成および反応条件でインバースPCR法を行うことにより、目的の酵素(野生型カルボニル還元酵素)の塩基配列の全長(下記配列2;配列番号2)を明らかにした。
・プライマー1:ATGGCCTATAACTTCWCTAACAA(配列番号5)
・プライマー2:GCTGTRTATCCTCCRTCAACRAG(配列番号6)
・プライマー3:CGCCATTACTAGAGTTCTTGC(配列番号7)
・プライマー4:AGCAGCTTCTTTAAAATC(配列番号8)
ゲノムDNA: 0.5μL
Prime star Max Premix 10μL
プライマー1 (10μM): 1μL
プライマー2 (10μM): 1μL
滅菌水: 12.5μL
合計: 25μL
94℃(1 min)反応させた後、「熱変性・解離:98℃(10 sec)→アニーリング:58℃(15 sec)→合成・伸長:72℃(60 sec)」を1サイクルとして計30サイクル反応させた。
環状DNA: 0.5μL
10×LA PCR Buffer 1.25μL
25mM dNTP: 2μL
25mM MgCl2: 1.25μL
LA Taq ポリメラーゼ: 0.1μL
プライマー3 (10μM): 0.5μL
プライマー4 (10μM): 0.5μL
滅菌水: 6.4μL
合計: 12.5μL
「熱変性・解離:94℃(30 sec)→アニーリング:52℃(30 sec)→合成・伸長:72℃(4 min)」を1サイクルとして計30サイクル反応させた。
ATGGCCTATAACTTCACTAACAAAGTCGCTATCATTACAGGAGGGATTTCTGGTATTGGTTTAGCTACAGTCGAGAAATTCGCTAAGCTGGGTGCTAAAGTCGTCATAGGAGATATTCAAAAAGATGATTTTAAAGAAGCTGCTTTTGCAATTTTAAAGAATAAAGGAATTAACCTTGATCAATTGAAATATGTCCACACGGACGTCACCATAAATTCGGCAAATGAGGACCTTTTGAAGACTGCTATAAACACCTTTGGAGGCGTCGACTTTGTCGTAGCAAACTCTGGAATAGCAAAAGATCAACGTTCTGAAGAGATGACTTATGAAGATTTCAAGAAAGTAATTGATGTTAACTTAAACGGTGTATTTTCCTTGGATAAGTTAGCAATTGACTATTGGTTAAAAAATAAGAAAAAGGGCTCTATTGTCAATACGGGTTCTATTCTCTCGTTTGTTGGTACTCCTGGATTATCACATTATTGCGCATCAAAGGGTGGAGTGAAGTTATTGACACAAAGCTTGGCTCTCGAGCAGGCTAAGAATGGCATCAGAGTGAATTGCATCAATCCTGGTTATATAAAAACGCCATTACTAGAGTTCTTGCCTAAAGATAAGTATGACGCTTTAGTGAGCCTTCATCCAATGGGTAGATTAGGCGAACCTGAGGAAATTGCCAATGCCATTGCTTTCCTTGTCTCTGATGAAGCCAGCTTTATAACTGGTACAACTCTTCTTGTTGACGGAGGATATACAGCTCAATGA(配列番号2)
MAYNFTNKVAIITGGISGIGLATVEKFAKLGAKVVIGDIQKDDFKEAAFAILKNKGINLDQLKYVHTDVTINSANEDLLKTAINTFGGVDFVVANSGIAKDQRSEEMTYEDFKKVIDVNLNGVFSLDKLAIDYWLKNKKKGSIVNTGSILSFVGTPGLSHYCASKGGVKLLTQSLALEQAKNGIRVNCINPGYIKTPLLEFLPKDKYDALVSLHPMGRLGEPEEIANAIAFLVSDEASFITGTTLLVDGGYTAQ(配列番号1)
MAYNFSNKVAIITGGISGIGLATVEKFAKLGAKIVIGDIQKEEYKEAAFAILKNKGINLDQLKYVPTDVTINSANEDLLKTAISTFGGVDFVVANSGIAKDQRSEEMTYEDFKKIIDVNLNGVFSLDKLAIDYWLKNKKKGSIVNTGSILSFVGTPGLSHYCASKGGVKLLTQTLALEQAKNGIRVNCINPGYIKTPLLEFLPKEKYDALVNLHPMGRLGEPEEIANAIAFLVSDEASFITGTTLLVDGGYTAQ(配列番号3)
実施例2で得られた塩基配列(配列番号2)を発現用ベクターpET11aのマルチクローニングサイトに挿入し、Escherichia coli BL21 (DE3) に移入することで、P. farinosa NBRC 0462株由来の野生型カルボニル還元酵素を大量発現する遺伝子組換え大腸菌を作出した。該組換え大腸菌の培養はLB培地で実施し(37℃、振盪培養)、濁度(OD600、Optical density、600 nm)が0.7~1.0の範囲の時にIPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を0.5 mMの範囲で加えることにより発現誘導を行った。酵素発現の確認はSDS-PAGEにより分析し、分子量27 kDaの位置に目的のタンパク質が大量発現していることを確認した。
[大腸菌で発現したP. farinosa NBRC 0462株由来の野生型カルボニル還元酵素によるフルオロケトンの還元反応]
前述の方法で培養した遺伝子組換え大腸菌より無細胞抽出液を調製し、実施例1の酵素活性測定方法にて野生型カルボニル還元酵素の各種フルオロケトンに対する反応性を確認した。光学純度の分析は後述に示すガスクロマトグラフィー法により行った。結果を表5に示す。
<光学活性1,1,1-trifluoro-2-propanol>
酢酸ブチルで抽出した光学活性1,1,1-trifluoro-2-propanolを分析試料とした。ガスクロマトグラフィーのカラムには米国RESTEK社製のRt-βDEXsa(長さ 30 m、内径 0.25 mm、膜厚0.25μm)を用い、注入口の温度は230℃、サンプル注入量0.5μl(スプリット比50:1)、キャリアガスは窒素、圧力は100 kPa、オーブン温度は95(25 min)~200℃(17.5℃/min)~200℃(4 min)、検出器(FID)の温度は230℃の分析条件で得られるピークの面積より光学純度を算出した。光学活性1,1,1-trifluoro-2-propanolのそれぞれのエナンチオマーの保持時間は、R体が7.5 min、S体が8.1 minであった。
酢酸エチルで抽出した光学活性1,1-difluoro-2-propanolに対して、無水酢酸1.2モル当量、ピリジン1.2モル当量を反応させ、アセトキシ体に誘導し、分析試料とした。ガスクロマトグラフィーのカラムにはアジレント・テクノロジー株式会社製の商品名Cyclosil-B、長さ 30 m、内径 0.25 mm、膜厚 0.25μmを用い、注入口の温度は230℃、サンプル注入量0.5μl(スプリット比50:1)、キャリアガスは窒素、圧力は100 kPa、オーブン温度は60~90℃(1℃/min)~150℃(10℃/min)、検出器(FID)の温度は230℃の分析条件で得られるピークの面積より光学純度を算出した。光学活性1,1-difluoro-2-propanolのそれぞれのエナンチオマーの保持時間は、S体が4.6 min、R体が5.3 minであった。
酢酸エチルで抽出した光学活性1-chrolo-3,3,3-trifluoro-2-propanol を分析試料とした。ガスクロマトグラフィーのカラムにはSPELCO社製のγ-DEX 225(長さ 30 m、内径 0.25 mm、膜厚0.25μm)を用い、注入口の温度は220℃、サンプル注入量0.5μl(スプリット比100:1)、キャリアガスは窒素、圧力は100 kPa、オーブン温度は80℃(12 min)~200℃(20℃/min)~200℃(2 min)、検出器(FID)の温度は300℃の分析条件で得られるピークの面積より光学純度を算出した。光学活性1-chrolo-3,3,3-trifluoro-2-propanolのそれぞれのエナンチオマーの保持時間は、R体が9.1 min、S体が9.9 minであった。
酢酸エチルで抽出した光学活性1-chrolo-3,3,3-trifluoro-2-propanol を分析試料とした。ガスクロマトグラフィーのカラムにはSPELCO社製のγ-DEX 225(長さ 30 m、内径 0.25 mm、膜厚0.25μm)を用い、注入口の温度は220℃、サンプル注入量0.5μl(スプリット比100:1)、キャリアガスは窒素、圧力は100 kPa、オーブン温度は80℃(12 min)~200℃(20℃/min)~200℃(2 min)、検出器(FID)の温度は300℃の分析条件で得られるピークの面積より光学純度を算出した。光学活性1-chrolo-3,3,3-trifluoro-2-propanolのそれぞれのエナンチオマーの保持時間は、S体が10.6 min、R体が11.1 minであった。
配列1のアミノ酸配列(配列番号1)を基に、任意のN末端側から第150番目または第201番目のアミノ酸を置換変異させた変異型酵素を5種類デザインし(L150F、L150M、L150Y、L158Q、F201A)、これらを発現する遺伝子組換え大腸菌を実施例3と同様の方法で作出した。それぞれの変異型カルボニル還元酵素を大量発現した遺伝子組換え大腸菌から前述の方法で精製酵素をそれぞれ調製し、各種フルオロケトンおよび各種クロロフルオロアルコールに対する反応性を確認した。表6に示すようにL150Fの変異では(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールの光学純度が>99.9%ee、(R)-1,1-ジフルオロ-2-プロパノールの光学純度が97.8%ee、(R)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-2-プロパノールの光学純度が91.4%eeに向上した。L150Mの変異では(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールの光学純度が>99.9%eeに向上した。L150Yの変異では(R)-1,1-ジフルオロ-2-プロパノールの光学純度が90.8%ee、(R)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-2-プロパノールの光学純度の向上が91.2%eeに向上した。L158Qの変異では(R)-1-クロロ-3,3-ジフルオロ-2-プロパノールの光学純度が81.2%eeに向上した。L201Aの変異では(R)-1-クロロ-3,3-ジフルオロ-2-プロパノールの光学純度の向上が91.2%eeに向上した。
実施例4で得られた変異型酵素(L150F)の遺伝子およびMoraxella sp.由来のギ酸脱水素酵素遺伝子(Accession No. Y13245.1)を、発現用ベクターpET11aのマルチクローニングサイトに挿入し、E. coli BL21 (DE3) に移入することで変異型酵素(L150F)およびMoraxella sp.由来のギ酸脱水素酵素を大量発現する遺伝子組換え大腸菌を作出した。
前述の方法と同様に酵素を発現させ、SDS-PAGEによりタンパク質を分析したところ、分子量27 kDaおよび48 kDaのバンド位置に目的のタンパク質が大量発現していることを確認した。
実施例4で作出した組換え大腸菌を500 mlバッフル付き三角フラスコに調製したLB培地に植菌し、160 rpm、33℃で8時間の前培養を行った。この前培養液を5 L培養槽(丸菱バイオエンジ社製、MDN型5L(S))に調製したLB培地に無菌的に植菌し、30℃、通気0.5 vvm、攪拌300 rpmの条件で培養を行った。濁度が0.5のタイミングでIPTGを終濃度0.1 mM加え発現誘導を行った。培養時のpHは50%リン酸および25%アンモニア水を用いて7.0に調整し、29時間の培養を行った。培養終了後の菌体懸濁液に60 wt%-1,1,1-trifluoroacetone水溶液を135 g、ギ酸ナトリウムを1,1,1-trifluoroacetoneに対して3.0モル当量投入し、無通気、25℃、300 rpmで反応を行った。反応後の変換率の測定は、19F-NMRの内部標準法により行い、18時間後の変換率は100%、光学純度は99.9%ee(R)であった。
配列番号6:合成DNA
配列番号7:合成DNA
配列番号8:合成DNA
Claims (8)
- Pichia farinosa由来の野生型カルボニル還元酵素を変異させた変異型酵素を、下記式[1]で表されるフルオロケトン、またはクロロフルオロケトンに作用させ、下記式[2]で表される光学活性フルオロアルコール(但し、R体のエナンチオマー)または光学活性クロロフルオロアルコール(但し、R体のエナンチオマー)を得ることを含む、光学活性フルオロアルコールまたは光学活性クロロフルオロアルコールの製造方法であって、
前記野生型カルボニル還元酵素が、配列番号1で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質からなる酵素であり、
前記変異型酵素が、
配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端側から第150番目のロイシンをフェニルアラニンに置換したアミノ酸配列を含む酵素、
配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端側から第150番目のロイシンをメチオニンに置換したアミノ酸配列を含む酵素、
配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端側から第150番目のロイシンをチロシンに置換したアミノ酸配列を含む酵素、
配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端側から第158番目のロイシンをグルタミンに置換したアミノ酸配列を含む酵素、及び
配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端側から第201番目のフェニルアラニンをアラニンに置換したアミノ酸配列を含む酵素
からなる群から選択される少なくとも1種である、
前記製造方法。
- 前記フルオロケトンが、1,1,1-トリフルオロアセトンまたは1,1-ジフルオロアセトンであり、前記光学活性フルオロアルコールが、(R)-1,1,1-トリフルオロ-2-プロパノールまたは(R)-1,1-ジフルオロ-2-プロパノールである、請求項1に記載の製造方法。
- 前記クロロフルオロケトンが、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロアセトンまたは1-クロロ-3,3-ジフルオロアセトンであり、前記光学活性クロロフルオロアルコールが、(R)-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-2-プロパノールまたは(R)-1-クロロ-3,3-ジフルオロ-2-プロパノールである、請求項1または2に記載の製造方法。
- 前記Pichia farinosaは、受託番号がNBRC 0462である微生物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
- 補酵素として、さらにニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を添加することを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
- 作用時の温度が25℃以上、40℃以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
- 作用時のpHが5.0以上、6.5以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記変異型酵素が遺伝子組換え大腸菌で発現させたものである、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
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