JP7335622B2 - 石積み補強工法 - Google Patents

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Description

本発明は、経年劣化して隙間が増えた石積みに充填物を充填することにより補強する石積み補強工法に関する。
切取りや盛土などにより形成される法面の勾配を「法勾配」という。法勾配は、(垂直距離):(水平距離)=1:nの法勾配を「1:n勾配」と呼び、1:2勾配を「2割勾配」、1:0.5勾配を「5分勾配」などと呼ぶ。石を利用した法面工(法面整形工)のうち、法勾配が1割未満のものを「石積み」といい、1割以上のものを「石張り」という(非特許文献1参照)。石積み工(石積みを用いた工作物)の表面に形成される法面を「石積み面」という。石積みは、地山の法面に沿って積石(つみいし)を積み上げて作られるが、石積み面に露出した其々の積石の継ぎ目を「目地」という。目地にモルタルを充填した石積みを「練積(ねりづみ)」といい、目地にモルタルを充填していない石積みを「空積(からづみ)」という(非特許文献2参照)。一般的な空積による石積み工の構造は、傾斜地山に沿って間知石(けんちいし)や雑割石(ざつわりいし)などの積石が積み上げられ、傾斜地山と積石との間には、透水性を確保するために栗石(ぐりいし)が充填されている。この栗石を「裏込石(うらごめいし)」という。また、積石と積石の間の目地の裏側にできる隙間空間(目地裏空間)には、飼石(かいいし)や胴込石(どうごめいし)が充填され、各積石がしっかりと固定されている。石積み工を施工して年月が経過すると、振動や流水などにより、裏込石や胴込石が徐々に脱落したり、石積み面が膨出したりしてゆき、積石裏側に比較的大きな空間が生じ、石積み工の強度が低下する。従って、そのような場合、経年劣化で生じた空間にセメント(モルタル)系材料、ガラス系材料、合成樹脂などのグラウト(grout)(地盤改良、構築物のすき間や目地・ひび割れなどに注入・充填するセメントペースト,モルタル,薬液などのこと。)を充填して補強する。斯かる補強工事に用いられる石積み補強工法としては、特許文献1-8に記載のものが公知である。
特許文献1には、石積擁壁の状態,胴込め部・裏込め部の空洞状況等の調査,工期等の日程の策定,崩壊・転倒等の安全性の計算などを行う前作業工程Aと、組み付けられた外面体(積石(1))とその裏の内面体(胴込め部(3))とを備えた石積擁壁の外面体の目地をシール材で塞ぐと共に外面体の表面側から内面体の間隔にグラウト材を注入するための注入口(12)を設けるシール工程Bと、注入口(12)からグラウト材を注入する注入工程Cと、グラウト材が固形化した後に表面側からグラウト材の注入されている所のコア(16)を抜くコア抜き工程Dと、コア(16)を抜いた跡に水濾過体(17)(穴あき塩ビ管)を設置する排水部形成工程Eとを有する石積擁壁補強方法が記載されている(仝文献,請求項1及び図1,図2,図5参照)。シール工程Bでは、シール材として、無機質早強性セメントにシリカ系硅砂6~7号と有機性接着剤とを適当な割合で混合し、これに水を加えて練り上げたものが使用される。このシール材で目地を完全に封鎖するとともに、積石の表面側から胴込め部や裏込め部の間隔にグラウト材を注入するための注入口を設ける(仝文献,明細書〔0016〕-〔0018〕参照)。注入口は、大/小口径が50mm/30mmで長さ100mm程度のグラウト材注入用ホース先端の口金やこれに相当する塩ビ管等の形筒を目地に挿入し、その周囲にシール材を沿わせて固めた後に抜いて形成する。注入口の設置場所は、1列の目地の上方で間隔の広い所や、目地近傍の石の端を少し削った所とし、その数は1m当たり2~3個所とされる。注入工程Cでは、胴込め部に空洞があれば先ずその部分にグラウト材をポンプ等(最高圧5~10kgf/cm(0.5~1.0MPa))で充満する。胴込め部の土砂や栗石又はこれらの混合体には15~30%程度の空隙率があるため、この空隙部分にグラウト材を侵入させて胴込め部の全体をコンクリート化する。さらに、左右及び上下の近隣の胴込め部及び裏込め部にもグラウト材は部分的に侵入する(仝文献,図6参照)。そして、1つの口から注入されたグラウト材が近隣の注入口から出てきたときに1つの口からの注入を終了する(仝文献,明細書〔0019〕-〔0024〕参照)。
また、特許文献2,3にも、特許文献1と同様の石積擁壁補強方法が記載されている。尚、特許文献2,3では、注入口(貫通孔)に、先端部周囲の壁部に吐出孔(孔径25~35mm)が開口された有孔管(長さ200~4000(400~600)mm)を先端部側から挿入し、有孔管に注入ノズルを接続し、該注入ノズルから有孔管を通して空洞部に充填材を吐出圧力0.1~0.5MPaで加圧して注入することが記載されている。この有孔管の管径は、グラウトであるモルタルを通すために十分な大きさとされ、具体的には、内径25~50(35~45)mm,外径30~65(40~55)mmとされている(特許文献2,明細書〔0037〕,〔0045〕;特許文献3,請求項1~5,図4参照)。
また、特許文献4に記載の石積壁の耐震補強方法では、(1)石積壁の表面において4個の積石材がほぼ会合する箇所である積石会合部付近の積石材をコア抜きカッターを用いて略円柱状に除去し外部から胴込石領域に到達可能な挿入開口を形成し、(2)打込注入管を挿入開口から胴込石領域の前部に挿入した後、衝打を加えて胴込石領域の内部方向へ押し込み、打込注入管の裏込部吐出孔を裏込石領域の後部の地盤手前位置付近まで到達させ、打込注入管の胴込部吐出孔と裏込部吐出孔が略鉛直上方に向くように設定し、(3)打込注入管の流入口に注入プラント側の注入ホースを連結し流動体状のグラウト材を注入プラントの注入ポンプから注入ホースを経て所定の注入量だけ注入した後に打込注入管を引き抜いてグラウト材を硬化させ、胴込石及び裏込石とこれらの空隙に充填されたグラウト材を硬化させることにより略球根状の固化領域を4個の積石材の背後と地盤との間に形成する。(4)そして、上記(1)~(3)の工程を繰り返すことにより、略球根状固化領域を、積石材の背後と地盤との間に、石積壁の表面から見た平面配置が略散点状になるように複数形成させる(仝文献,請求項1,図1~図6参照)。打込注入管は、金属からなる中空円筒(中空パイプ)の前端を閉塞して錐状の尖端部とするとともに、円筒の後端を開口させて流入口としかつ尖端部と流入口の間に複数個の吐出孔を開設したものが使用される(仝文献,図2参照)。挿入開口の孔径は32mm以上とされ(仝文献,明細書〔0030〕参照)、中空円筒(中空パイプ)は、外径30mm程度、内径22mm以上、長さ900mmとされ、吐出孔のサイズは、長さ20~50mm,幅約10mmとされている(仝文献,明細書〔0035〕参照)。グラウト材は、セメント(ポルトランドセメント等)と砂(細目砂等)と水を混合したものが使用され、混和材又は混和剤は使用されない。フロー値は15~18cmとされる。また、グラウトの注入圧は0.05~0.06MPaとされる(仝文献,明細書〔0037〕参照)。
また、特許文献5-7には、石積壁前面から、裏込め栗石層を貫通して傾斜地山に到達するように削孔を形成し、削孔内にグラウト材を注入して、グラウト材を固化させた補強部を局所的に設ける石積壁の補強方法が記載されている。また、頭部に固設された幅広プレートを具備する鉄筋等の棒状体からなる補強材を地山に所定長さが貫入するように打設し、補強材の周囲にグラウト材を充填することにより、補強材を傾斜地山に定着し、補強材の打設により、目地部の外周に隣接配置された複数の間知石を外方に押しやるようにして拘束する石積壁の補強方法が記載されている。補強材は、所定の間隔を隔てて、目地部に千鳥状に配置する(特許文献5,明細書〔0028〕,図4;特許文献6,図1;特許文献7,図1参照)。
また、特許文献8には、柔軟なシート製の袋を石積の正面側の隙間から挿入し、袋内に充填材を充填し、袋を介して充填材を空洞内に充満させ、ついで充填材を硬化させる、石積の補強方法が記載されている。
特開2000-355949号公報 特開2015-218473号公報 特開2017-40162号公報 特開2006-283309号公報 特開2005-9207号公報 特開2005-9208号公報 特開2005-9209号公報 特開平9-256393号公報
全国防災協会編,「災害復旧工事の設計要領」,全国防災協会,2005年. 国土交通省河川局河川環境課,「河川の景観形成に資する石積み構造物の整備に関する資料」,国土交通省,平成18年8月. 歴史的構造物保全技術連合小委員会,「平成19年度土木学会重点研究課題調査研究報告書 歴史的構造物の保全に関する研究」,[online],平成19年,土木学会学,[令和2年12月15日検索],インターネット,<URL:https://committees.jsce.or.jp/s_research/taxonomy/term/6?page=1>. 窪田祐,「石垣と石積壁(建築技術選書16)」,学芸出版社,1980年.
上に挙げた各文献に記載の石積み補強工法では、何れも、積石の胴脇や友(積石の石積み面側に露出する面と反対側)の側に空洞が生じた石積み工の石積み面の目地に、グラウトの注入口を穿孔し、この注入口から空洞内にグラウトを注入・充填して固化させることによって、石積み工の補強を行うことを基本としている。グラウトの注入には、石積み面から裏込め石層に届くような長さの直管状の注入ノズルが使用される。グラウトには、モルタルが使用され、注入ノズルは、このグラウトが通過可能な孔径として、内径25~50mm,外径30~65mmのものが使用される。そして、注入するグラウトが、裏込め石層の隙間を完全に塞いで水捌け性能を低下させないように、注入を調整したり、グラウトを充填する袋を用いたりしている。
ところで、従来から石積み工には、積石の積み方によって様々な種類のものがあるが、積石の加工の程度で分類すると、大きく分けて、野面積み(のづらづみ)、打込み接ぎ(うちこみはぎ)、切込み接ぎ(きりこみはぎ)に分類される(非特許文献3)。野面積みの石積み工は、積石の加工程度が低く目地幅は比較的大きいため、注入口を穿孔する必要がなかったり、必要があって石積み面の目地に注入口を穿孔したとしてもあまり目立たないが、打込み接ぎや切込み接ぎのような石積み工では、積石の加工程度が高く目地幅が非常に狭いため、外径30~65mm程度の注入ノズルが挿入可能な程度の比較的大径の注入口を穿孔すると、補強工事後に、グラウトが充填された、目地幅の数倍もある径の注入口が石積み面にいくつも形成され、注入口が目立って石積みの美的外観が大きく壊されることが問題となっている。そのため、施工主からは、補強工事後にも、石積みの美的外観はできるだけ維持してほしいという要望が多く出されていた。この場合、注入ノズルの管径をより細くすることが考えられるが、実際に管径を上記範囲よりも細くすると、従来から一般に使用されているグラウトであるモルタルは、流動性がなくなって注入ノズルの管内に詰まり、ポンプ圧を上げても流動しなくなるというジャミング転移(ある程度マクロな大きさを持った粒子が多数集合した粉粒体又は粉粒体を含む二相混合流体,コロイド分散系,泡等の粒子状の物質が多数集合した多体粒子系において、粒子の密度(体積分率)の密度変化により流体的な振る舞いと固体的な振る舞いとが切り替わる転移現象。)が生じる。そのため、従来のグラウトを使用する場合には、注入ノズルの管径を上記範囲よりも細くすることは実際上できなかった。
また、上記従来の石積み補強工法では、目地をシール材でシールした後に、積石の胴脇から友にかけての石が抜け落ちで出来た空間内に直管状のノズルを挿入してグラウトを注入するものであるが、空間内の積石の合端付近まで隙間なくグラウトを充填するには、グラウト注入用のポンプのポンプ圧を比較的高くする必要がある。しかし、目地がシールされているため、グラウト注入時のポンプ圧は、周辺の積石を石積み面側に押し出す向きに働き、これにより石積み工が不安定となったり、場合によっては石積みが崩壊するという問題があった。
そこで、本発明の目的は、グラウト注入時に石積み工の積石にグラウト注入圧が加わることなくグラウトの充填を行うことができる石積み補強工法を提供することにある。また、補強工事後にも、石積み工の美的外観を大きく壊すことにない石積み補強工法を提供することにある。
本発明に係る石積み補強工法の第1の構成は、石積み工の積石の胴脇乃至友裏にできた空洞にグラウトを充填することにより石積み工を補強する石積み補強工法であって、
石積み工の各積石の間の目地が会合する会合部に、該会合部に接する各積石の合端を貫通する深さの注入孔を穿孔する注入孔穿孔工程と、
前記注入孔に対し、
(一)該会合部において会合する目地(以下「会合目地」という。)をシールすることなく、該会合部の前記注入孔から前記会合目地に沿って、グラウト注入用の可撓性のノズルチューブを挿入し、前記ノズルチューブの先端から目地裏にグラウトを注入して、目地裏空間にグラウトを充填しつつ、ノズルチューブの先端を漸次後退させ、注入孔近傍まで目地に沿ってグラウトを充填する目地裏充填工程を、該注入孔に接続するすべての前記会合目地に対して行い、
(二)その後、該注入孔の入口周囲の空間にグラウトを注入し充填して、ノズルチューブを抜脱する入口充填工程を行う、
という作業を、前記注入孔穿孔工程において穿孔されたすべての前記注入孔に対し順次行うグラウト充填工程と、を有することを特徴とする。
この構成によれば、目地をシールしないために注入されたグラウトの圧力は積石に加わることなく開放され、施工時に石積み工が不安定とならず、石積みが崩壊することが防止される。また、ノズルチューブを可撓性としたことで、注入孔からノズルチューブを挿入した後に曲げて、会合目地に沿った目地裏空間にノズルチューブの先端を向けて、目地裏空間に直接グラウトを充填することが可能となる。会合目地の目地裏空間に、内部から直接グラウトを充填することで、周囲の積石に負荷をかけることなく、合端付近まで隙間なくグラウトを充填することができる。また、注入箇所のすぐ近傍までノズルチューブの先端を移動させてグラウトの注入を行うので、残った胴込石や飼石によって目地裏空間が複雑に入り組んだ構造となっている場合でも、隙間なくグラウトを充填することができる。
ここで、「会合する」とは、一つに合わさることをいう。「会合目地」とは、会合部において会合する目地であるが、この「会合部において会合する目地」がまっすぐに連続している限りは、その途中に他の会合部が存在していてもよい(図2(c2)参照)。「シールすることなく」とは、目地が開放された状態の儘であることを意味する。「可撓性のノズルチューブ」としては、ビニルチューブ、ゴムチューブなどの柔軟に曲がるノズルチューブをいう。
本発明に係る石積み補強工法の第2の構成は、前記第1の構成に於いて、前記目地充填工程においては、前記ノズルチューブから注入されたグラウトが、シールされていない前記会合目地の合端が充満されるまで、又はシールされていない前記会合目地の合端から覗出するまで、グラウトを注入しつつ、前記ノズルチューブの先端を漸次後退させてグラウトの充填を行うことを特徴とする。


この構成によれば、充填されたグラウトが、シールされていない会合目地の合端から覗出するのを確認できるため、会合目地の目地全体で見落としなくグラウトを充填することができ、確実な補強が可能となる。
本発明に係る石積み補強工法の第3の構成は、前記第1又は2の構成に於いて、前記グラウトには、普通ポルトランドセメント、及び粒径が1.2mm以下に分級された硅砂を混合してなるモルタル粉粒材に、アクリル系エマルジョン、メチルセルロース、及び水を含有するモルタル混和材と、調整用の水である調整水とを混合してなるモルタルを使用することを特徴とする。
この構成によれば、グラウトとして上記構成のものを使用することにより、従来よりも細いノズルチューブであっても、注入中にグラウトが管内でジャミング転移を起こしにくくなり、従来よりもよりのノズルチューブの外径を細くし、注入孔の孔径を小さくすることが可能となる。また、ノズルチューブとして、ビニルチューブのように孔径の小さい可撓性のチューブでも使用可能となる。これは、試行錯誤の実験によって確認された事実である。
注入ノズル(ノズルチューブ等)でグラウトがジャミング転移を生じる原因は、流路面積が小さくなるとグラウトの液圧が上昇して水(グラウトの液体成分)が押し出され骨材等の粒子の密度が上昇するためだと考えられる。そこで、本発明では、グラウト中の骨材として、粒径が小さく、注入ノズル管内壁との摩擦係数も小さい、粒径が1.2mm以下に分級された硅砂(5号~6号硅砂)を使用する。硅砂は、通常、硬度が大きく(モース硬度が6.5~7.5程度)、転がり摩擦係数も小さい。また、粒径1.2mm以下とすることで、細い管内で液圧が上昇してもグラウトスラリー内での分散密度は上がりにくくなる。アクリル系エマルジョンとメチルセルロースを添加することでグラウトの粘度が上がり、液圧が上昇しても液体成分がグラウト中から押し出され難くなる。そのため、注入ノズルの内径を細くしてもジャミング転移が生じにくくなると考察される。
本発明に係る石積み補強工法の第4の構成は、前記第3の構成に於いて、前記モルタル粉粒材は、硅砂1体積部に対する普通ポルトランドセメントの比が0.9~0.98体積部となるように調整されたものであり、
前記モルタル混和材は、水1体積部に対し、アクリル系エマルジョンが0.2~0.3体積部、メチルセルロースが0体積部よりも大きく0.01体積部以下の割合となるように調整されたものであり、
前記モルタルは、前記モルタル粉粒材1体積部に対し、前記モルタル混和材が0.19~0.2体積部、前記調整水が0.43~0.51体積部となるように調整されたものであることを特徴とする。
この構成によれば、グラウトとして上記構成のものを使用することで、グラウトは、所謂、ソフトクリーム状の性状ものとなる。これをノズルチューブから目地裏空間に注入すると、従来から使用されている通常のモルタルよりもグラウトが垂れ流れにくくなり、注入されたグラウトが透水層である裏込石の隙間に侵入し隙間を埋めることが最小限に抑えられる。従って、補強工事の施工後の裏込層の水捌け性能の低下を抑えることが出来る。これも、試行錯誤の実験によって確認された事実である。
本発明に係る石積み補強工法の第5の構成は、前記第4又は5の構成に於いて、前記ノズルチューブは、内径が10mm以上16mm以下で且つ外径が内径よりも大きく且つ20mm以下のものを使用することを特徴とする。
この構成によれば、前記第4又は5の構成に示したグラウトを使用することで、ノズルチューブの内径を、従来よりも細い10mm以上16mm以下の範囲とすることが可能となり、これに伴い、ノズルチューブの外径を、内径よりも大きく且つ20mm以下とすることができる。これも、試行錯誤の実験によって確認された事実である。注入孔は、この程度の外径のノズルチューブが通過可能な径とすればよいため、打込み接ぎや切込み接ぎのような目地が非常に細い石積み工を補強する場合であっても、補強工事の施工後に注入口が目立って石積みの美的外観が大きく壊されることがなくなる。
以上のように、本発明に係る石積み補強工法によれば、目地をシールせずに可撓性のノズルチューブを用いて、注入孔で会合する各会合目地の目地裏空間に直接グラウトを内部から充填することで、周囲の積石に負荷をかけることなく、合端付近まで隙間なくグラウトを充填することができる。周囲の積石に負荷が加わらないため、施工時に石積み工が不安定とならず、石積みが崩壊することが防止される。また、注入箇所のすぐ近傍までノズルチューブの先端を移動させてグラウトの注入を行うので、残った胴込石や飼石によって目地裏空間が複雑に入り組んだ構造となっている場合でも、隙間なくグラウトを充填することができる。また、充填されたグラウトがシールされていない会合目地の開口から覗出することでグラウトの充填を確認できるため、目地全体に見落としなくグラウトを充填することができ、確実な補強が可能となる。
また、グラウトに、普通ポルトランドセメント及び粒径1.2mm以下に分級された硅砂を混合してなるモルタル粉粒材に、アクリル系エマルジョン、メチルセルロース、及び水を含有するモルタル混和材と、調整用の水である調整水とを混合してなるモルタルを使用することで、従来よりも細いノズルチューブであっても、注入中にグラウトが管内でジャミング転移を起こしにくくなり、従来よりもよりのノズルチューブの外径を細くし、注入孔の孔径を小さくすることが可能となる。また、ノズルチューブとして、ビニルチューブのように孔径の小さい可撓性のチューブでも使用可能となる。特に、上記第4の構成に示した様なモルタルを使用することで、グラウトは、所謂、ソフトクリーム状の性状ものとなり、従来から使用されている通常のモルタルよりもグラウトが垂れ流れにくくなり、注入されたグラウトが透水層である裏込石の隙間に侵入し隙間を埋めることが最小限に抑えられる。従って、補強工事の施工後の裏込層の水捌け性能の低下を抑えることが出来る。
また、このようなグラウトを使用することで、上述の先行技術などで従来から使用されているグラウト注入ノズルよりも小径の内径が10mm以上16mm以下で且つ外径が内径よりも大きく且つ20mm以下のノズルチューブを用いることが出来、注入孔は、この程度の外径のノズルチューブが通過可能な径とすればよいため、打込み接ぎや切込み接ぎのような目地が非常に細い石積み工を補強する場合であっても、補強工事の施工後に注入口が目立って石積みの美的外観が大きく壊されることがなくなる。従って、補強工事後にも、石積みの美的外観はできるだけ維持してほしいという多くの施工主から寄せられる要望にも応えることが出来るようになる。
一般的な石積み工の断面及びそれに用いられる積石を示す模式図である。(a)は石積み工の断面模式図、(b)は積石として用いられる間知石の模式図、(c)は積石として用いられる雑割石の模式図である。 幾つかの石積み工の例を表す図である。(a)は打込接布積の例、(d)は打込接谷積の例、(c)は切込接布積の例、(d)は野面乱積の例である。 本発明の実施例1に係る石積み補強工法の流れを表す図である。 石積み面上の注入孔を穿孔する位置の一例を示す図である。 石積み面上の注入孔を穿孔する位置の他の一例を示す図である。 本発明の実施例1に係る石積み補強工法の各工程の作業状況を示す図である。(a)は注入孔の穿孔状況を示す図、(b)は会合部に穿孔された注入孔を示す図、(c)はグラウトの注入状況を示す図、(d)は会合目地の合端からグラウトが覗出した状態を示す図である。 本発明の実施例1において用いられるグラウト注入装置の模式図である。 比較用グラウトの充填過程を示す写真である。 比較用モルタルの充填過程を示す写真である。 本実施例のモルタルの充填過程を示す写真である。
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、一般的な石積み工の断面及びそれに用いられる積石を示す模式図である(非特許文献2,4参照)。図1(a)は石積み工の断面模式図、図1(b)は積石として用いられる間知石の模式図、図1(c)は積石として用いられる雑割石の模式図である。本明細書で使用する石積み工の各部の名称は図1(a)に示す通りである。また、積石の各部の名称は図1(b),(c)に示す通りである。石積み工は、地盤(地山,盛土等)の法面に沿って設けられる。石積み工は、地盤の法面に接して設けられた裏込石を充填して形成された裏込層と、裏込層の表側(見え掛かり側)に積石を積み上げて形成された積石層で構成されている。石積み工の表側(見え掛かり側)の面を「石積み面」といい、石積み面の最上端を「法肩」、最下端を「法尻」という。石積み工の天井部分を「天端(てんば)」という。裏込層に充填される裏込石には、一般に栗石(割栗石)(直径10~15cmくらいの石)が用いられる。裏込層は、背後の地盤の法面から湧き出る湧水や、天端から流れ落ちてくる雨水を透水させて法尻へと排水させることにより積石層に水圧が加わることを防止するとともに、背後の地盤の法面から積石層に加わるを分散するために設けられた層である。積石層の各積石には、図1(b)に示した間知石(控えが四方落としされた四角錐体状の石材)や、図1(c)に示した雑割石(面が方形で控えが二方落としされた楔形状の石材)などが使用される。積石の表側(石積み面に表出する側)の面を「面(つら)」又は「見え掛かり面」、上側面を「上端(うえば)」、上側面を「下端(したば)」、左右側面を「寄(よせ)」、裏側の面(又は端)を「友(とも)」(又は「友面(ともづら)」)という。積石の見え掛かり面と友の間の部分を「胴」といい、見え掛かり面の周の辺に接する胴の端部を「合端(あいば)」という。積石層において、隣合う積石の合端同士に挟まれた境界間隙を「目地」という。それぞれの積石は四角錐体状や楔形であるため、積石層の隣合う積石の胴脇には隙間ができるが、この胴脇の隙間に飼い込む(隙間に挟み込む)ように飼石が設けられている。この飼石が飼い込まれた積石の胴脇にできた空間を「胴脇空間」といい、目地に沿った目地の隙間空間から合端近傍の胴脇空間を「目地裏空間」という。
図2は、幾つかの石積み工の例を表す図である。図2(a)は打込接布積、(b)は打込接谷積、(c)は切込接布積、(d)は野面乱積の例である。図2(d)は野面積といい、自然石をそのまま積み上げた石積み工である。図2(a)(b)は打込接(うちこみはぎ)といい、表面に出る石の角や面をたたき、平たくし石同士の接合面に隙間を減らして積み上げた石積み工である。図2(c)は切込接(きりこみはぎ)といい、方形に整形した石材を密着させ積み上げた石積み工である。また、目地が水平又は垂直となるように積石を積んだ石積み工を布積(ぬのづみ)、目地が水平又は垂直線に対してジグザグとなるように積石を積んだ石積み工を谷積(たにづみ)、目地が規則性なく乱雑となるように積石を積んだ石積み工を乱積(らんづみ)という。野面積は、一般に目地幅が広いが、打込接は目地幅が非常に狭く、切込接は目地において積石の合端同士がほぼ密着している。本発明の石積み補強工法は、主に、打込接や切込接のように目地幅が狭い石積み工の補強に対して適用される。各積石の間の目地が会合する(一つに合わさる)部分を「会合部」と呼ぶ。会合部において会合する目地を、その会合部に対する「会合目地」と呼ぶ(図2(c2)参照)。
図3は、本発明の実施例1に係る石積み補強工法の流れを表す図である。以下、図3に沿って本実施例の石積み補強工法について説明する。
(S1)付着物除去工程
まず、補強する石積み工に対し、石積み面や目地に附着し又は入り込んでいる植物や土砂を除去する。次に、目地に入り込んでいる植物の根や茎、落ち葉等は、バーナーで焼却する。
(S2)下地処理工程
次に、石積み面や目地内を高圧水で洗滌した後、低圧水で洗滌する。その後、下地として、目地の合端周辺の積石表面に吸水調整剤をスプレー塗布する。吸水調整剤は、積石とモルタルの接着性能をよくするためのモルタル接着増強剤である。吸水調整剤としては、エチレン酢酸ビニル(EVA),アクリルなどの樹脂を水で薄めたものを用いることができる。
(S3)注入孔穿孔工程
次に、グラウトを注入するための注入孔を穿孔する位置と、排水部を設置する位置を決定する。ここで、注入孔を穿孔する位置は、目地が会合する会合部とする。注入孔は、全ての会合部に設ける必要はなく、石積み面内の全ての目地が「会合目地」となるように注入孔を設ければ十分である。排水部は、水抜きを行うための排水孔を設ける位置である。
図4は、石積み面上の注入孔を穿孔する位置の一例を示す図である。図4は、布積みの例を示している。図4において、Hij(i,jは整数)は注入孔の位置を示しており、lijは注入孔Hijに対する会合目地を示している。布積みの場合には、基本的には垂直方向の目地の上端の会合部に注入孔を穿孔してゆけばよい。垂直方向の目地は、上端側からグラウトを注入するほうが確実に充填できるからである。布積みの場合、水平方向の目地は、基本的にまっすぐに連続しているので、水平方向には適当な間隔で注入孔が存在しさえすれば、その注入孔からノズルチューブを入れてグラウトを注入することができる。
図5は、石積み面上の注入孔を穿孔する位置の他の一例を示す図である。図4は、谷積みの例を示している。図5において、Hij(i,jは整数)は注入孔の位置を示しており、lijは注入孔Hijに対する会合目地を示している。谷積みの場合には、基本的には傾斜方向の目地の上端の会合部に注入孔を穿孔してゆけばよい。傾斜方向の目地は、上端側からグラウトを注入するほうが確実に充填できるからである。図5のように、同じサイズの積石が規則正しく谷積みされている場合には、図5のように注入孔を穿孔する位置は千鳥上となるが、一般には、積石のサイズが場所によって異なる場合が多く(図2(b)参照)、実際上はこのように規則正しくはならないことが多い。
注入孔を穿孔する位置と排水部を設置する位置を決定した後、注入孔の穿孔を行う。注入孔の穿孔は、ハンドドリルなどを用いて行う。各注入孔は、会合部に接する各積石の合端を貫通する深さとし、飼石や裏込層までは達しない程度とされる。本発明では、深い注入孔は必要なく、合端を通してノズルチューブを胴脇空間に差し込むことが出来れば十分だからである。注入孔の径は、23~25mm程度とする。この程度の径であれば、打込接や切込接の石積み工であっても、施工後にも注入孔の跡が目立たず、石積み工の美的外観を大きく壊すことがないからである。図6は、本発明の実施例1に係る石積み補強工法の各工程の作業状況を示す図である。図6(a)に注入孔の穿孔状況を示す。図6(a)では、作業者がハンドドリルを用いて会合目地の合端に注入孔を穿孔している。積石の合端の奥行きは、通常1~3cm程度であり、注入孔はこの程度の深さを貫通させれば十分である。図6(b)に、会合部に穿孔された注入孔を示す。注入孔は、石積み面から積石間の胴脇空間まで貫通している。
(S4)グラウト充填工程
グラウト充填工程においては、前工程で穿孔したそれぞれの注入孔に対し、次の目地裏充填工程をその注入孔に接続するすべての会合目地に対して行い、その後、入口充填工程を行うという作業を、順次行う。目地裏充填工程及び入口充填工程は次の通りである。
(S4.1)目地裏充填工程
目地裏充填工程では、会合目地をシールすることなく開放された状態の儘、会合部の注入孔から、当該会合部に接続する会合目地に沿って、グラウト注入用の可撓性のノズルチューブを挿入し、会合目地の目地裏にグラウトを供給ポンプで注入して、目地裏の胴脇空間(目地裏空間)内にグラウトを充填する。このとき、注入時の供給ポンプのポンプ圧は0.1~0.8MPaとする。ポンプ圧が0.8MPaよりも高い場合、ホース内での周面摩擦により詰まりの原因になり、またノズルチューブ5が細いのでホースが破裂する場合もある。また、100Vなどの小型ポンプではかなりの負荷がかかっている状態となるため、焼き付く原因にもなる。
図7は、本発明の実施例1において用いられるグラウト注入装置の模式図である。実施例1において用いられるグラウト注入装置1は、グラウト供給ホッパ2、供給管2a、供給ポンプ3、グラウト送出管3a、ノズルジョイント4、ノズルチューブ5を備えている。グラウト供給ホッパ2は、注入用のグラウトを貯溜するホッパである。グラウト供給ホッパ2の下部には、グラウト供給ホッパ2内のグラウトを送出するための供給管2aが接続されている。供給ポンプ3は、グラウトを圧送するためのポンプであり、通常、セメントポンプが用いられる。供給ポンプ3は、吸引側が供給管2aに接続され、吐出側がグラウト送出管3aに接続される。グラウト送出管3aは、可撓性の長尺のホースである。グラウト送出管3aの先端には、ノズルジョイント4が取り付けられている。ノズルチューブ5は、グラウト注入用の可撓性のチューブである。本実施例では、ビニルホースが使用されており、内径(直径)が10~16mm、外径(直径)が内径よりも大きく20mm以下のものが使用される。ノズルチューブ5としては、一般に市販されている水撒き用のビニルホースのようなものを使用することが出来る。
図6(c)に、注入孔から当該会合部に接続する会合目地に沿ってノズルチューブ5を挿入し、グラウトを注入している状況を示す。会合目地はシールされておらず、石積み面側に開放された状態とされている。ノズルチューブ5は可撓性であるため、作業者が自由に曲げて会合目地に沿ってノズルチューブ5を挿入することができる。グラウトが会合目地の目地裏空間に完全に充填されると、会合目地の合端からグラウトが覗出する。図6(d)に会合目地の合端からグラウトが覗出した状態を示す。そして、目地裏空間にグラウトを充填しつつ、ノズルチューブの先端を漸次後退させ、注入孔近傍まで目地に沿ってグラウトを充填する。このように、作業者は、会合目地の合端からグラウトが覗出するのを目視することで、グラウトが会合目地の目地裏空間に完全に充填されたことを確認することが出来る。そのため、目地全体に見落としなくグラウトを充填することができ、確実な補強が可能となる。
このように、可撓性のノズルチューブ5を用いて会合目地を開放した状態でグラウトを注入することで、周囲の積石に供給ポンプ3からのポンプ圧が直接加わることがなくなるため、施工時に石積み工が不安定とならず、石積みが崩壊することが防止される。また、注入箇所のすぐ近傍までノズルチューブの先端を移動させてグラウトの注入を行うので、胴脇空間内に残っている胴込石や飼石によって目地裏空間が複雑に入り組んだ構造となっている場合でも、隙間なくグラウトを充填することができる。
そして、この目地裏充填工程の作業を、該注入孔に接続するすべての会合目地に対して行う。
(S4.2)入口充填工程
最後に、注入孔の入口周囲の空間にグラウトを注入し充填して、ノズルチューブを抜脱する入口充填工程を行う。これにより、注入孔の奥の胴脇空間にグラウトが充填される。
(S5)仕上工程
最後に、目地からはみ出たグラウトがある場合には、はみ出したグラウトを除去する。そして、目地に沿ってグラウトの表面を刷毛でならして仕上げ処理を行う。
以上が実施例1に係る石積み補強工法の流れであるが、最後に、この石積み補強工法について使用するグラウトについて説明する。一般的には、石積み補強工法では、ポルトランドセメントに、骨材として川砂又は海砂を混合したモルタル(以下「通常のモルタル」と呼ぶ。)が使用されるが、このような一般のグラウトでは、供給ポンプ3により圧力をかけると、本実施例1で使用するような内径10~16mmのような細いノズルチューブ5の内部でジャミング転移を生じ、ノズルチューブ5の内をグラウトが閉塞することが、実験によって確認された。そこで、本実施例では、グラウトとして、普通ポルトランドセメント、及び粒径が1.2mm以下に分級された硅砂を混合してなるモルタル粉粒材に、アクリル系エマルジョン、メチルセルロース、及び水を含有するモルタル混和材と、調整用の水である調整水とを混合してなるモルタルを使用する。アクリル系エマルジョンは、保水・増粘剤として添加されるものであり、メチルセルロースは、グラウトと積石との接着力を増強するための接着増強剤として添加されるものである。モルタル粉粒材は、硅砂1体積部に対する普通ポルトランドセメントの比が0.9~0.98体積部となるように調整する。モルタル混和材は、水1体積部に対し、アクリル系エマルジョンが0.2~0.3体積部、メチルセルロースが0体積部よりも大きく0.01体積部以下の割合となるように調整する。そして、モルタルは、モルタル粉粒材1体積部に対し、モルタル混和材が0.19~0.2体積部、調整水が0.43~0.51体積部となるように調整する。このような成分構成のモルタルを使用することにより、内径が10~16mmのノズルチューブ5の内部もジャミング転移を生じなくなり、グラウトの注入を行うことが可能であることが実験で確認された。また、グラウトとして上記モルタルを使用することで、グラウトは、所謂、ソフトクリーム状の性状ものとなる。これをノズルチューブから目地裏空間に注入すると、従来から使用されている通常のモルタルよりもグラウトが垂れ流れにくくなり、注入されたグラウトが透水層である裏込石の隙間に侵入し隙間を埋めることが最小限に抑えられる。
ここで、「アクリル系エマルジョン」とは、アクリル酸エステル等のモノマーを乳化剤を使用して乳化重合したポリマー微粒子である。モノマーとしては、アクリル酸2エチルヘキシル,アクリル酸ブチル,アクリル酸エチル,アクリル酸メチルなどのアクリル酸エステルを主体として、添加剤として、メタクリル酸メチル,アクリル酸,メタクリル酸,スチレン,酢酸ビニルが使用され、これらの配合比は適宜設計される。乳化剤としては、アニオン系,ノニオン系,又はカチオン系のものが使用される。
モルタル粉粒材において、普通ポルトランドセメントの比を0.9~0.98体積部としたのは、普通ポルトランドセメントが0.9体積部よりも小さいと、硅砂骨材の体積分率が大きくなってジャミング転移を生じ易くなるからであり、普通ポルトランドセメントが0.98体積部よりも大きいと、グラウト中の硅砂骨材量が少なすぎて、グラウトが水和硬化した後の強度が低下するからである。
モルタル混和剤において、アクリル系エマルジョンの量を0.2~0.3体積部としたのは、アクリル系エマルジョンが0.2体積部よりも少ないと、グラウトがさらさらの状態となってグラウト内の骨材が分離しやすくなりノズルチューブ5内でグラウト内の骨材が詰まってジャミング転移を生じ易くなるからであり、0.3体積部よりも大きいと、グラウトの粘性が大きすぎてグラウドが細いノズルチューブ5内で流れにくくなるからである。メチルセルロースの配合比を0.01体積部以下の割合としたのは、メチルセルロースは接着力を増強するための添加剤なので、微量でよいからである。
モルタル粉粒材,モルタル混和剤,及び調整水の配合において、調整水の量を0.43~0.51体積部としたのは、調整水が0.43体積部よりも小さいとグラウトが流れにくくなり、ノズルチューブ5内に詰まりやすくなるからであり、また、調整水が0.51体積部よりも大きいと、グラウトがさらさらの状態となってグラウト内の骨材が分離しやすくなりノズルチューブ5内でグラウト内の骨材が詰まってジャミング転移を生じ易くなるからである。
最後に、実際に従来からグラウトとして使用されているモルタルと、本実施例の石積み補強工法で使用するモルタル(以下「本実施例のモルタル」という。)との違いについて、模型を用いて比較実験を行った結果を説明する。
実験で使用する本実施例のモルタルは、(a)モルタル粉粒材、(b)モルタル混和材、(c)調整水(調整用の水)を混合して生成される。これらの成分は、以下の通りとした。
(1)モルタル粉粒材は、粒径が1.2mm以下に分級された硅砂(4号・5号硅砂)と普通ポルトランドセメントを混合して成り、硅砂1体積部に対して普通ポルトランドセメント0.95体積部とした。
(2)モルタル混和材は、アクリル系エマルジョン、メチルセルロース、及び水を混合して成り、水1体積部に対して、アクリル系エマルジョン0.29体積部、メチルセルロース0.007体積部とした。
(3)本実施例のモルタルは、上記(1)のモルタル粉粒材、上記(2)のモルタル混和材、及び調整水を混合して成り、モルタル粉粒材1体積部に対して、モルタル混和材0.20体積部、調整水0.47体積部とした。
本実施例のモルタルについて、スランプ値及びフロー値(JIS A1150:2014 コンクリートのスランプフロー試験方法)を測定したところ、スランプ値は21.8cm、フロー値は32cmであった。
また、比較のため、比較用グラウト及び比較用モルタルを用意した。比較用グラウトはセメントミルクであり、セメントと水を混ぜたものである。また、比較用モルタルは、市販の普通ポルトランドセメントと市販の砂とを配合してなるモルタルで、セメント1に対して砂2の質量比率で配合したモルタルとした。
実験は、内側寸法で幅22cm、高さ22cm、奥行き16cmの陶器の箱を用意し、箱の正面側の面(幅×高さの面)に薄い透明アクリル板の蓋を設け、箱内に栗石を入れ、箱の左側面の中央に設けた小孔から、セメントポンプによりグラウトの注入を行い、透明アクリル板の蓋を通して充填過程を観察した。グラウトとしては、上記比較用グラウト、通常のモルタル、及び本実施例のモルタルの3種を使用した。図8は比較用グラウトの充填過程を示す写真、図9は比較用モルタルの充填過程を示す写真、図10は本実施例のモルタルの充填過程を示す写真である。図8~図10においては、(1),(2),…,(10)の順に時間が経過している。図8~図10の実験結果から、グラウトの場合、流動性が良いため細いノズルチューブでもジャミング転移を起こすことなくノズルチューブを通過することができたが、流動性が良いために飼石や裏込め層を想定した栗石の隙間の下方を主に流れ込んでしまい、特に充填したいと考える広い空隙の部分は完全に充填されない状態となった。それは流動性を変えるべく水分量も調整してみたが期待した充填状態になることはなかった。また、比較用モルタルの場合、適度な硬さの場合ではノズルチューブのジョイント部分でジャミング転移を起こしてしまいノズルチューブを通過することすらできなかった。そのため水分量を多くして流れ易い状態にしてノズルチューブを通過させてもみたが、グラウトと同様に栗石の隙間に主に流れ込んでしまうだけでなく、頻繁にジャミング転移するため実験にすらならない状態であった。しかし、本実施例のモルタルでは飼石を想定した入口周囲の栗石部と広い空隙部分を優先的に充填した後に奥の栗石の隙間に入る理想的な順番となっただけでなく、奥の裏込め層を想定した栗石の隙間に入り込もうとする段階で箱の透明アクリル板が少し変形したため、裏込め層に充填させるには圧力をかける必要があることが分かった。つまり、裏込め層に入ろうとする時に加圧し始めるため充填剤が目地部からはみ出ることになる。よって、本実施例のモルタルが理想的な部分に理想的な状態で充填できる充填剤であることが分かった。
1 グラウト注入装置
2 グラウト供給ホッパ
2a 供給管
3 供給ポンプ
3a グラウト送出管
4 ノズルジョイント
5 ノズルチューブ

Claims (4)

  1. 石積み工の積石の胴脇乃至友裏にできた空洞にグラウトを充填することにより石積み工を補強する石積み補強工法であって、
    石積み工の各積石の間の目地が会合する会合部に、該会合部に接する各積石の合端を貫通する深さの注入孔を穿孔する注入孔穿孔工程と、
    前記注入孔に対し、
    (一)該会合部において会合する目地(以下「会合目地」という。)をシールすることなく、該会合部の前記注入孔から前記会合目地に沿って、グラウト注入用の可撓性のノズルチューブを挿入し、前記ノズルチューブの先端から目地裏にグラウトを注入して、目地裏空間にグラウトを充填しつつ、ノズルチューブの先端を漸次後退させ、注入孔近傍まで目地に沿ってグラウトを充填する目地裏充填工程を、該注入孔に接続するすべての前記会合目地に対して行い、
    (二)その後、該注入孔の入口周囲の空間にグラウトを注入し充填して、ノズルチューブを抜脱する入口充填工程を行う、
    という作業を、前記注入孔穿孔工程において穿孔されたすべての前記注入孔に対し順次行うグラウト充填工程と、を有し、
    前記グラウトには、普通ポルトランドセメント、及び粒径が1.2mm以下に分級された硅砂を混合してなるモルタル粉粒材に、アクリル系エマルジョン、メチルセルロース、及び水を含有するモルタル混和材と、調整用の水である調整水とを混合してなるモルタルを使用することを特徴とする石積み補強工法。
  2. 前記目地充填工程においては、前記ノズルチューブから注入されたグラウトが、シールされていない前記会合目地の合端が充満されるまで、又はシールされていない前記会合目地の合端から覗出するまで、グラウトを注入しつつ、前記ノズルチューブの先端を漸次後退させてグラウトの充填を行うことを特徴とする請求項1記載の石積み補強工法。
  3. 前記モルタル粉粒材は、硅砂1体積部に対する普通ポルトランドセメントの比が0.9~0.98体積部となるように調整されたものであり、
    前記モルタル混和材は、水1体積部に対し、アクリル系エマルジョンが0.2~0.3体積部、メチルセルロースが0体積部よりも大きく0.01体積部以下の割合となるように調整されたものであり、
    前記モルタルは、前記モルタル粉粒材1体積部に対し、前記モルタル混和材が0.19~0.2体積部、前記調整水が0.43~0.51体積部となるように調整されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の石積み補強工法。
  4. 前記ノズルチューブは、内径が10mm以上16mm以下で且つ外径が内径よりも大きく且つ20mm以下のものを使用することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一記載の石積み補強工法。
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