本発明の好ましいある実施形態では、単純又はコンプレックススルホネート系グリース組成物は、過塩基性カルシウムスルホネートと1又は複数のグリセロール誘導体とを含む。最も好ましくは、スルホネート系グリースはまた、1又は複数の変換剤(好ましくは水と任意選択的に1又は複数の別個に添加された従来の非水性変換剤。非水性変換剤は、過塩基性マグネシウムスルホネートが成分の1つである場合には必要ないかもしれない)と、1又は複数のカルシウム含有塩基と、1又は複数のコンプレックス化酸(コンプレックスグリースの場合)とを含む。最も好ましいのは、スルホネート系グリース組成物は、過塩基性マグネシウムスルホネート、促進酸、及び/又は基油を任意選択的に含む。
好ましい一実施形態では、グリセロール誘導体は、増ちょう剤が十分に分散された滑らかなグリースを作るのに役立つので、グリースをミリングする通常の工程は必要とされない。別の好ましい実施形態では、グリセロール誘導体は、(加水分解時にコンプレックス化酸を形成することで)コンプレックス化酸の供給源として作用し、コンプレックスグリースの製造において通常使用されるコンプレックス化酸の一部又は全部と置き換えられてよい。グリセロール誘導体は、水と反応してその場で(in-situ)でコンプレックス化酸を作る。グリセロール誘導体は、変換前、変換中、変換後、又はそれらの組合せで加えられてよい。最も好ましくは、グリセロール誘導体は変換前に加えられるか、ある部分が変換前に加えられ、別の部分が変換中に加えられる。
幾つかの好ましい実施形態では、従来の非水性変換剤を用いた又は用いていないカルシウムスルホネートグリース組成物又はカルシウムマグネシウムスルホネートグリース組成物は、最終グリース製品の重量パーセントで以下の成分を含んでいる(水、酸、及びカルシウム含有塩基などの幾つかの成分は、最終グリース製品に含まれていないか、又は添加について示されている濃度になっていない可能性がある)。
その他の好ましい量は、本明細書の他の表及び実施例、並びに、参照により本明細書の一部となる他の米国特許文書に含まれている。変換剤、付加カルシウム含有塩基及びグリセロール誘導体を含む、特定の成分の幾つか又は全ては、製造中における蒸発、揮発、又は他の成分との反応のために最終的な完成品に含まれないことがある。これらの量は、グリースが開放容器内で作られた場合のものである。スルホネート系グリースが圧力容器で作製される場合、より少量の過塩基性カルシウムスルホネートが使用されてよい。
好ましいグリセロール誘導体は、モノアシルグリセリド、ジアシルグリセリド、又はトリアシルグリセリドである。最も好ましくは、グリセロール誘導体は、水添ヒマシ油、グリセロールモノステアレート、モノ牛脂脂肪酸グリセロール、及びグリセロールモノオレエートの1又は複数である。水添ヒマシ油は基本的に、グリセロール骨格上の3つの脂肪酸エステル基の全てが12-ヒドロキシステアリン酸基であるトリアシルグリセリドである。好ましい一実施形態では、グリセロール誘導体と従来の非水性変換剤の両方が変換前に加えられる。別の好ましい実施形態では、マグネシウムスルホネートとグリセロール誘導体が加えられるが、変換前に従来の非水性変換剤は加えられない。別の好ましい実施形態では、2つ以上の異なるグリセロール誘導体が、従来の非水性変換剤の有無に関係なく、変換前に加えられる。
任意選択的に加えられるグリセロール誘導体は、通常使用されるコンプレックス化酸の一部又は全部と置き換わって、1又は複数のカルシウム含有塩基(別個に加えられるか、過塩基性カルシウムスルホネートに含まれていてよい)と反応することができ、良好な増ちょう剤収率と高い滴点を維持しながら、成分コストを削減することができる。グリセロール誘導体は、水と反応してその場でコンプレックス化酸を作る。水は、グリセロール誘導体の前、後、又は実質的に同時に加えられてよい。
好ましい別の実施形態では、カルシウムマグネシウムスルホネートグリースは、100:0.1乃至60:40の範囲の比で、より好ましくは99:1乃至70/30の範囲の比で、最も好ましくは90:10乃至80:20の範囲の比で、過塩基性カルシウムスルホネート及び過塩基性マグネシウムスルホネートを成分として含んでいる。好ましい別の実施形態では、変換前のスルホネート系グリース組成物は、過塩基性カルシウムスルホネートと、過塩基性マグネシウムスルホネートと、水と、任意選択的な1又は複数のグリセロール誘導体(変換時、変換前、又はそれら両方にて加えられてよい)、任意選択的な基油とを含んでおり、水は、変換前組成物中の唯一の従来の変換剤である。言い換えれば、水、過塩基性マグネシウムスルホネート、及び任意選択的な二重役割のコンプレックス化酸変換剤だけが、組成物に加えられる変換剤成分である。好ましい別の実施形態によれば、変換前のスルホネート系グリース組成物は、100:0.1乃至60:40の範囲の比で、より好ましくは99:1乃至70/30の範囲の比で、最も好ましくは90:10乃至80:20の範囲の比で、過塩基性カルシウムスルホネート及び過塩基性マグネシウムスルホネートを成分として含んでいる。
カルシウムスルホネートグリースを製造するために本発明のこれらの実施形態において使用する高過塩基性油溶性カルシウムスルホネート(本明細書では、簡略化のために単に「カルシウムスルホネート」又は「過塩基性カルシウムスルホネート」とも呼ばれる)は、米国特許第4,560,489号、米国特許第5,126,062号、米国特許第5,308,514号及び米国特許第5,338,467号などの、従来技術に記載されている一般的なものであってよい。高過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、そのような公知の方法に従って現場で作製されてよく、市販の製品として購入されてもよい。そのような高過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、200以上、好ましくは300以上、最も好ましくは約400以上の全塩基価(TBN)値を有するであろう。市販のこの種の過塩基性カルシウムスルホネートには、Chemtura USA Corporationによって供給されるHybase C401;Kimes Technologies International Corporationによって供給されるSyncal OB 400及びSyncal OB 405-WO;Lubrizol Corporationによって供給されるLubrizol 75GR、Lubrizol 75NS,Lubrizol 75P、及びLubrizol 75WOが含まれるが、これらに限られるわけではない。過塩基性カルシウムスルホネートは、過塩基性カルシウムスルホネートの重量比で約28重量%乃至40重量%の分散非晶質炭酸カルシウムを含有しており、これは、カルシウムスルホネートグリースを作製するプロセスにおいて結晶性炭酸カルシウムに変換される。過塩基性カルシウムスルホネートはまた、過塩基性カルシウムスルホネートの重量比で約0重量%乃至8重量%の残留酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを含有する。市販の過塩基性カルシウムスルホネートの大半はまた、過塩基性カルシウムスルホネートを取扱い及び処理するのが困難なほどに濃くならないように、希釈剤として約40%の基油を含有するであろう。過塩基性カルシウムスルホネート中の基油の量は、許容されるグリースを達成するために、変換前に追加の基油を(別個の成分として)加えることを不必要にすることがある。
使用される過塩基性カルシウムスルホネートは、‘406特許と同様に、また本明細書で定義されているように高品質又は低品質であってよい。カルシウムスルホネート系グリースの製造のために市販されている幾つかの過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、従来技術のカルシウムスルホネート技術が使用される場合に、許容できないほど低い滴点を有する製品をもたらす。このような過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、本願を通して「低品質」の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートと称される。過塩基性カルシウムスルホネートの市販のバッチが使用されることを除いて全ての成分が同じである場合、より高い滴点(575°F以上)を有しており、‘265特許の炭酸カルシウム技術を用いているグリースを生成する過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、本発明の目的に関して、「高」品質のカルシウムスルホネートであり、より低い滴点を有するグリースを生成するものは、本発明の目的において、「低」品質であると考えられる。これに関する幾つかの例が、‘406特許にて提供されており、当該特許は引用により本明細書の一部となる。高品質と低品質の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの比較化学分析が行われているが、この低い滴点の問題の正確な理由は証明されていないと思われる。市販の過塩基性カルシウムスルホネートの多くは高品質であると考えられるが、高品質又は低品質のカルシウムスルホネートを使用するか否かに関わらず、増ちょう剤収率の向上とより高い滴点の両方を達成することが望ましい。グリセロール誘導体が加えられる場合、特に遅延変換剤法や遅延促進酸法と組み合わせることで、高品質カルシウムスルホネートと品質カルシウムスルホネートの何れでも、増ちょう剤収率の向上と高滴点とが得られ得ることがわかっている。
グリース製造において一般に使用されており且つ広く知られている、石油系の任意のナフテン鉱油又はパラフィン鉱油を、本発明の基油として使用してよい。市販の過塩基性カルシウムスルホネートの大半は、過塩基性スルホネートが濃くなって容易に取り扱うことができないことを避けるために、希釈剤として約40%の基油を既に含むであろうということから、基油は、必要に応じて加えられる。同様に、過塩基性マグネシウムスルホネートは、希釈剤として基油を含む可能性が高いであろう。過塩基性カルシウムスルホネート及び過塩基性マグネシウムスルホネート中の基油の量によっては、変換直後の所望のグリースのちょう度及び最終グリースの所望のちょう度次第で、追加の基油を加える必要はない。合成基油も本発明のグリースに使用することができる。また、本発明のグリースには、合成基油を使用してもよい。そのような合成基油には、ポリアルファオレフィン(PAO)、ジエステル、ポリオールエステル、ポリエーテル、アルキル化ベンゼン、アルキル化ナフタレン、及びシリコーン油が含まれる。当業者には理解できるように、合成基油は、変換処理の間に存在すると、悪影響を及ぼすことがある。そのような場合、それらの合成基油は、最初は加えず、変換後などの、悪影響が排除され又は最小化される工程にてグリース製造処理に加えられる。ナフテン鉱基油又はパラフィン鉱基油が、その低コスト及び入手容易性の点から好ましい。加える基油(最初に加えるものと、所望のちょう度を達成するためにグリース処理で後に加えるものを含む)の総量は、グリースの最終重量に基づき、前記の表1の範囲内であることが好ましい。典型的には、別個の成分として加えられる基油の量は、過塩基性カルシウムスルホネートの量が減少するにつれて増加する。当業者に理解されるように、上記のような異なる基油の組合せもまた、本発明において使用されてよい。
本発明のこれらの実施形態に従ってカルシウムマグネシウムスルホネートグリースに使用される過塩基性マグネシウムスルホネート(本明細書では、簡潔にするために単に「マグネシウムスルホネート」とも呼ばれる)は、先行技術において記載されている又は知られている典型的なものであってよい。過塩基性マグネシウムスルホネートはその場で作製されてよく、市販の過塩基性マグネシウムスルホネートが使用されてもよい。過塩基性マグネシウムスルホネートは、典型的には、中性のマグネシウムアルキルベンゼンスルホネートと、相当量の過塩基化が炭酸マグネシウムの形態であるような塩基化とを含んでよい。炭酸マグネシウムは、通常、非晶質(非結晶)形態であると考えられる。酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、又は酸化物と水酸化物の混合物の形態で、過塩基化の一部が存在してもよい。過塩基性マグネシウムスルホネートの全塩基価(TBN)は、好ましくは少なくとも400mg KOH/gであるが、より低いTBN値と、上記の過塩基性カルシウムスルホネートのTBN値について示されたものと同じ範囲の値も許容され得る。
少量の促進酸が、変換前混合物に加えられることが好ましい。促進酸は、グリセロール誘導体の添加が促進酸遅延法と組み合わされる場合に必要ですが、それ以外は任意選択的である。一般に、炭素が8乃至16個のアルキル鎖長を有する、アルキルベンゼンスルホン酸などの好適な促進酸が、効率のよいグリース構造形成を促進するのに役立つかも知れない。最も好ましくは、このアルキルベンゼンスルホン酸は、ほとんどが炭素約12個の長さである混合のアルキル鎖長を含む。このようなベンゼンスルホン酸は、一般に、ドデシルベンゼンスルホン酸(DDBSA)と呼ばれる。この種の市販のベンゼンスルホン酸には、JemPak GK Inc.によって供給されるJemPak 1298 Sulfonic Acid、Pilot Chemical Companyによって供給されるCalsoft LAS-99、及び、Stepan Chemical Companyによって供給されるBiosoft S-101が含まれる。本発明においてアルキルベンゼンスルホン酸を使用する場合、アルキルベンゼンスルホン酸は、本明細書の表と実施例に示された範囲の量で変換前に加えられる。アルキルベンゼンスルホン酸を用いてカルシウムスルホネート又はマグネシウムスルホネートを現場で作製する場合、この実施形態に基づいて加えられる促進酸は、カルシウムスルホネート又はマグネシウムスルホネートを作製するのに必要なものに加えられる。
本発明の好ましい実施形態では、水が変換剤として加えられる。また、本発明の幾つかの実施形態では、1又は複数の従来の非水性変換剤が加えられることが好ましい。従来の非水性変換剤には、水以外の従来から知られている任意の変換剤、例えば、アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、グリコールポリエーテル、カルボン酸、無機酸、有機硝酸塩、その他の多価アルコール及びそれらの誘導体、そして、(二重役割のコンプレックス化酸-変換剤ではなく)変換剤としてのみ機能し、変換前に組成物に加えられ、活性水素又は互変異性水素(tautomeric hydrogen)を含むその他の化合物が挙げられる。また、従来の非水性変換剤には、希釈剤又は不純物として水を含む変換剤が含まれる。このような成分は、必要に応じて変換後に加えられてよいが、その場合、変換が完了した後は変換剤として作用しないため、「従来の非水性変換剤」とはみなされない。
それらは従来の非水性変換剤として使用され得るが、メタノールやイソプロピルアルコール、又は低分子量(即ち、より揮発性の高い)アルコールのようなアルコールは、グリース製造工程でのガス放出や洗浄されたアルコールの有害廃棄物処理に関連する環境問題や規制があることから、使用しないことが好ましいとされている。変換剤として加えられる水の総量は、グリースの最終重量に基づいて、本明細書の表及び実施例に示された範囲内であることが好ましい。水が変換後に追加されてもよい。また、変換が、変換中に水のかなりの部分が揮発するような十分に高い温度で開放容器内で行われる場合には、失われた水を補うために水が追加されてよい。グリースの最終重量に基づいて加えられる1つ又は複数の従来の非水性変換剤の総量は、好ましくは本明細書の表及び実施例に示される範囲である。通常、従来の非水性変換剤の使用量は、過塩基性カルシウムスルホネートの量が減るにつれて減少する。使用する変換剤によっては、その一部又は全部が製造工程中に揮発して除去されてよい。特に好ましいのは、ヘキシレングリコールやプロピレングリコールなどの低分子量のグリコールである。幾つかの変換剤は、本発明の一実施形態によるコンプレックススルホネート系グリースを製造するために、コンプレックス化酸としても機能してよいことに留意のこと。このような材料は、変換とコンプレックスの両方の機能を同時に実現する。
別の好ましい実施形態では、従来の非水性変換剤は成分として使用されない。従来の非水性変換剤は、変換後に加えられた場合、変換剤として作用しないので、必要に応じて、本発明のこのような好ましい実施形態の範囲内で変換が完了した後に加えることができる。しかしながら、このような好ましい実施形態では、完全に省略されることが好ましい。
本発明によるスルホネート系グリース組成物の好ましい実施形態では、1又は複数のカルシウム含有塩基も成分として加えられる。これらのカルシウム含有塩基は、コンプレックス化酸と反応して、コンプレックスカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを形成する。カルシウム含有塩基は、カルシウムヒドロキシアパタイト、付加炭酸カルシウム、付加水酸化カルシウム、付加酸化カルシウム、或いは、これらの1又は複数の組合せを含んでよい。好ましい一実施形態では、付加炭酸カルシウムが、‘265特許に記載されているように唯一の付加カルシウム含有塩基として使用されてよい。これらの実施形態に従った炭酸カルシウムが唯一の添加カルシウム含有塩基である場合の成分の好ましい量は、従来の非水性変換剤の有る場合と無い場合とで、以下の表の通りである。以下の量は、最終グリース製品の重量パーセントである(しかしながら、これらの塩基及び他の成分は最終グリース製品には存在しないであろう)。
別の好ましい実施形態では、‘406特許に記載されているように、カルシウム含有塩基としてカルシウムヒドロキシアパタイトが加えられる。最も好ましいのは、付加カルシウムヒドロキシアパタイトと付加炭酸カルシウムと合わせて、少量の付加水酸化カルシウムと共に使用されることである。これらの実施形態に基づいて(好ましくは炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムが加えられて)カルシウムヒドロキシアパタイトがカルシウム含有塩基として加えられる場合の好ましい量の成分は、従来の非水性変換剤が有る場合と無い場合について以下の表にある。以下の量は、最終グリース製品の重量パーセントである(しかしながら、これらの塩基及び他の成分は最終グリース製品には存在しないであろう)。
好ましい実施形態では、コンプレックス化酸と反応するために使用されるカルシウム含有塩基は、変換前、変換後に加えられてよく、一部が変換前に加えられて、一部が変換後に加えられてよい。
本発明のこれらの実施形態では、カルシウム含有塩基として使用される付加炭酸カルシウムは、(‘265特許に記載されているように)単独で、或いは、他のカルシウム含有塩基(カルシウムヒドロキシアパタイトなど)と組み合わせられ、平均粒径が約1乃至20ミクロン、好ましくは約1乃至10ミクロン、最も好ましくは約1乃至5ミクロンであるように細かく分割されている。更に、付加炭酸カルシウムは、シリカやアルミナなどの研磨汚染物が、得られるグリースの耐摩耗特性に大きな影響を与えない程度に低いレベルであるように純度が十分な結晶性炭酸カルシウム(最も好ましいのはカルサイト)であることが好ましい。理想的には、最良の結果を得るためには、炭酸カルシウムは、食品グレード又は米国薬局方グレードの何れかであるべきである。付加炭酸カルシウムの量は、本明細書の表及び実施例、特に表2A及び表2Bに示された範囲が好ましい。これらの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる分散炭酸カルシウムの量に加えて、別の成分として加えられる。本発明の別の好ましい実施形態では、付加炭酸カルシウムは、コンプレックス化酸と反応させるための唯一の付加カルシウム含有塩基成分として変換前に加えられる。更なる炭酸カルシウムが、本発明の単純又はコンプレックスグリースの実施形態の何れかに、変換後に、コンプレックスグリースの場合はコンプレックス化酸との全ての反応が完了した後に加えられてよい。しかしながら、本明細書における付加炭酸カルシウムへの言及は、本発明によるコンプレックスグリースを製造する際のコンプレックス化酸との反応のための付加カルシウム含有塩基の1つ、又は唯一の炭酸カルシウムを指す。
好ましい実施形態に従って加えられるカルシウムヒドロキシアパタイトは、約1乃至20ミクロン、好ましくは約1乃至10ミクロン、最も好ましくは約1乃至5ミクロンの平均粒径で細かく分割されている。更に、カルシウムヒドロキシアパタイトは、十分な純度であって、得られるグリースの耐磨耗特性に顕著な影響を与えない程度の低いレベルでシリカやアルミナのような研磨汚染物を有するであろう。理想的には、最良の結果を得るためには、カルシウムヒドロキシアパタイトは、食品グレード又は米国薬局方グレードの何れかであるべきである。加えられるカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、グリースの総重量を基準にして、本明細書の表及び実施例、特に表3A及び表3Bに示された範囲内であるのが好ましいが、必要ならば、変換とコンプレックス化酸との全ての反応とが完了した後に、更に加えられてよい。
本発明の別の実施形態では、カルシウムヒドロキシアパタイトは、コンプレックス化酸と完全に反応するには化学量論的に不十分な量で加えられてよい。この実施形態では、油不溶性固体付加カルシウム含有塩基として、微粉炭酸カルシウムが、好ましくは変換の前に、その後に加えられる任意のコンプレックス化酸におけるカルシウムヒドロキシアパタイトによって中和されない部分と完全に反応して中和するのに十分な量で加えられてよい。或いは、この実施形態では、油不溶性固体カルシウム含有塩基として、微粉水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムが、好ましくは変換の前に、その後に加えられる任意のコンプレックス化酸における共添加(co-added)カルシウムヒドロキシアパタイトによって中和されない部分と完全に反応して中和するのに十分な量で加えられてよい。更に別の好ましい実施形態では、付加炭酸カルシウムと付加水酸化カルシウム(又は、酸化カルシウム)の組合せが、カルシウムヒドロキシアパタイトの量が化学量論的に不十分な場合に使用される。
更に好ましい別の実施形態では、コンプレックス化酸と反応してカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを作製するためのカルシウム含有塩基として、付加水酸化カルシウムと共にカルシウムヒドロキシアパタイトを組み合わせて使用する場合、‘406特許に記載されているカルシウムスルホネートグリースと比較して、必要とされるカルシウムヒドロキシアパタイトは少量である。‘406特許において、付加水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムは、付加水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムとカルシウムヒドロキシアパタイトとの総量によって与えられる水酸化物等価塩基度(hydroxide equivalent basicity)の75%以下の量で存在するのが好ましい。言い換えると、特に低品質過塩基性カルシウムスルホネートが使用される場合には、カルシウムヒドロキシアパタイトは、‘406特許に記載されたカルシウムスルホネートグリースの(カルシウムヒドロキシアパタイトと付加水酸化カルシウム及び/又は付加酸化カルシウムの両方からの)付加水酸化物当量の全量の少なくとも25%に寄与することが好ましい。その量よりも少ないカルシウムヒドロキシアパタイトが使用される場合、最終カルシウムスルホネートグリースの滴点が損なわれることがある。しかしながら、本発明の種々の実施形態に基づいて、組成物に過塩基性マグネシウムスルホネートを加えると、十分に高い滴点をなお維持しながら、より少ないカルシウムヒドロキシアパタイトを使用することができる。本発明の好ましい実施形態に基づいて使用されるカルシウムヒドロキシアパタイトの量は、低品質過塩基性カルシウムスルホネートが使用される場合でも、水酸化物等価塩基度の25%未満、更には10%未満であってよい。これは、完成グリース中の過塩基性マグネシウムスルホネートの存在が、先行技術では予期されていない予想外の変化と化学構造の改善をもたらす1つの示唆である。カルシウムヒドロキシアパタイトは、典型的には、付加水酸化カルシウムと比較して遙かに高価であるので、これにより、滴点を有意に顕著にさせることなく、最終グリースの更なるコスト削減が可能となる。
別の実施形態では、炭酸カルシウムは、カルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと共に加えられてよく、炭酸カルシウムは、コンプレックス化酸との反応前又は後に加えられてよく、或いは、コンプレックス化酸との反応前及び後の両方にて加えられてよい。カルシウムヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムの量が、加えられたコンプレックス化酸を中和するのに十分でない場合、炭酸カルシウムが、残存するコンプレックス化酸を中和するのに十分以上の量で加えられるのが好ましい。
変換前又変換後に加えられた付加水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムは、別の実施形態によれば最も好ましくは、約1乃至20ミクロン、好ましくは約1乃至10ミクロン、最も好ましくは約1乃至5ミクロンの平均粒径で細かく分割されている。更に、水酸化カルシウム及び酸化カルシウムは十分な純度であって、得られるグリースの耐磨耗特性に著しく影響を与えない程度に低いレベルでシリカ及びアルミナのような研磨汚染物を有する。理想的には、最良の結果を得るために、水酸化カルシウムと酸化カルシウムは、食品グレード又は米国薬局方グレードの何れかであるべきである。水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムの総量は、グリースの全重量に基づいて、本明細書の表及び実施例、特に表3A及び表3Bに示される範囲内であるのが好ましい。これらの量は、過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる残留水酸化カルシウム又は酸化カルシウムの量に加えて別個の成分として加えられる。最も好ましくは、使用されるコンプレックス化酸の総量に対する過剰量の水酸化カルシウムは、変換前に加えられない。更に別の実施形態によれば、コンプレックス化酸と反応させるために水酸化カルシウム又は酸化カルシウムを加える必要はなく、付加炭酸カルシウム又はカルシウムヒドロキシアパタイトの何れか(又はそれら両方)が、このような反応のために加えられた唯一のカルシウム含有塩基として使用されてよく、そのような反応のために併用されてよい。
1又は複数のアルカリ金属水酸化物もまた、本発明のスルホネート系グリースの好ましい実施形態における成分として、任意選択的に加えられる。任意選択的な付加アルカリ金属水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、又はそれらの組合せを含んでいる。最も好ましくは、水酸化ナトリウムが、本発明の一実施形態によるスルホネート系グリースと共に使用されるアルカリ水酸化物である。加えられるアルカリ金属水酸化物の量は、本明細書の表及び実施例に示された範囲内であることが好ましい。カルシウム含有塩基と同様に、アルカリ金属水酸化物は、コンプレックス化酸と反応して、最終グリース生成物に存在するコンプレックス化酸のアルカリ金属塩を生じる。本明細書の表及び実施例に示されている好ましい量は、最終グリース中にアルカリ金属水酸化物が存在しなくても、最終グリース生成物の重量に対して原料成分として加えられる量である。
過塩基性カルシウムマグネシウムスルホネートグリースの製造方法の好ましい一実施形態によれば、アルカリ金属水酸化物は、他の成分に加えられる前に水に溶解される。アルカリ金属水酸化物を溶解させるために使用される水は、変換剤として使用される水又は変換後に加えられる水であってよい。他の成分に加える前にアルカリ金属水酸化物を水に溶解させることが最も好ましいが、水に最初に溶解させることなく他の成分に直接加えてもよい。
長鎖カルボン酸、短鎖カルボン酸、ホウ酸、リン酸のような1又は複数のコンプレックス化酸も、コンプレックスカルシウムマグネシウムスルホネートグリースが所望される場合に加えられる。最も好ましくは、コンプレックス化酸は、12-ヒドロキシステアリン酸、酢酸、リン酸、ホウ酸、又はそれらの組合せを含む。最終グリース製品の重量パーセントの成分として個別に加えられたコンプレックス化酸の合計の好ましい範囲と、特定のタイプの個別に加えられたコンプレックス化酸の好ましい量(しかしながら、これらの酸は塩基と反応し、最終グリース製品には存在しない)は、本明細書の表及び実施例にある。
短鎖又は長鎖脂肪酸の添加量は、本発明の好ましい一実施形態に従って1又は複数のグリセロール誘導体を加える場合に、低減されて又は除かれてよい。本明細書では、「個別に加えられたコンプレックス化酸」又は同様の表現は、別個の成分として加えられたコンプレックス化酸、又は、付加グリセロール誘導体と水の反応以外の成分の反応によってその場で形成されたコンプレックス化酸を意味する。
本発明での使用に適する長鎖カルボン酸は、少なくとも12個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。好ましくは、長鎖カルボン酸は、少なくとも16個の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。最も好ましくは、長鎖カルボン酸は、12-ヒドロキシステアリン酸である。
本発明に従った使用に適する短鎖カルボン酸は、8個以下、好ましくは4個以下の炭素原子を有する脂肪族カルボン酸を含む。最も好ましくは、短鎖カルボン酸は酢酸である。本発明に従うグリースの製造に使用する水又は他の成分と反応して、長鎖カルボン酸又は短鎖カルボン酸を生成すると予想することができる任意の化合物も、使用に適する。例えば、無水酢酸を使用することは、混合物に存在する水との反応で、コンプレックス化酸として使用する酢酸を生成するであろう。同様に、12-ヒドロキシステアリン酸メチルを使用することは、混合物に存在する水との反応で、コンプレックス化酸として使用する12-ヒドロキシステアリン酸を生成するであろう。これに代えて、混合物に十分な水が存在しない場合には、追加の水を混合物に加えてそれら成分と反応させて、必要なコンプレックス化酸を形成してよい。更に、酢酸及び他のカルボン酸は、それが加えられる時に応じて、変換剤又はコンプレックス化酸又はその両方として使用できる。同様に、幾つかのコンプレックス化酸(‘514特許及び‘467特許の12-ヒドロキシステアリン酸など)も、変換剤として使用できる。
本実施形態によりコンプレックス化酸としてホウ酸を使用する場合、ホウ酸は、まず水に溶解又は懸濁させて、或いは水なしで、加えられてよい好ましくは、ホウ酸は、製造処理において水が残存している間に加えることになるであろう。これに代えて、公知の無機ホウ酸塩の何れかを、ホウ酸の代わりに使用してもよい。同様に、ホウ酸化アミン、ホウ酸化アミド、ホウ酸化エステル、ホウ酸化アルコール、ホウ酸化グリコール、ホウ酸化エーテル、ホウ酸化エポキシド、ホウ酸化尿素、ホウ酸化カルボン酸、ホウ酸化スルホン酸、ホウ酸化エポキシド、ホウ酸化過酸化物などの、既存のホウ酸化有機化合物を、ホウ酸の代わりに使用してもよい。
本明細書に記載の種々のコンプレックス化酸の割合は、純粋な活性化合物に関している。これらのコンプレックス化酸の何れかが希釈された形態で入手可能な場合、それらは、それでも本発明における使用に適するかも知れない。しかしながら、そのような希釈されたコンプレックス化酸の割合は、希釈率を考慮して、実際の活性成分が指定の割合になるように、調整することが必要であろう。
グリース製造分野において一般に認められている他の添加剤もまた、本発明の単純グリースの実施形態又はコンプレックスグリースの実施形態の何れかに加えることができる。このような添加剤には、錆防止剤及び腐食防止剤、金属不活性化剤、金属不動態化剤、酸化防止剤、極圧添加剤、耐摩耗性添加剤、キレート剤、ポリマー、粘着付与剤、染料、化学マーカー、香り付加剤、及び蒸発性溶媒が含まれる。後のカテゴリは、オープンギア用潤滑剤及び編組ワイヤーロープ用潤滑剤を作製する場合に特に有用であり得る。そのような任意の添加剤を含むことは、依然として本発明の範囲内であると理解されるべきである。成分の割合は、特に示されていない限り、完成したグリースの最終重量に基づくものであるが、その量の成分は、反応又は揮発により最終グリース生成物に存在しなくてもよい。
これらの好ましい実施形態によるコンプレックススルホネート系グリースは、少なくとも575°F、より好ましくは650°F以上の滴点を有するNLGI No.2グレードのグリースであることが最も好ましいが、No.000乃至No.3の他のNLGIグレードのグリースもまた、当業者に理解されるように、これらの実施形態に従って改変されてよい。本発明に基づく好ましい方法及び成分の使用は、付加グリセロール誘導体なしで作られたスルホネート系グリースと比較して、増ちょう剤収率と滴点を改善させるようである。
好ましいスルホネート系グリース組成物は、本明細書と引用により本明細書の一部となった文献とに記載された本発明の好ましい方法に従って製造される。好ましい一実施形態では、本発明の方法は以下を含む:(1)過塩基性カルシウムスルホネートと任意選択的な基油とを混ぜる工程、(2)任意選択的に過塩基性マグネシウムスルホネートを加えて混ぜる工程、(3)1又は複数のグリセロール誘導体を加えて混ぜる工程、(4)1又は複数の変換剤(水と任意選択的に1又は複数の従来の非水性変換剤)を加えて混ぜる工程、(5)これらの成分の組合せを変換が起こるまで加熱する工程、(6)水が確実に除去されるような十分に高い温度まで混ぜて加熱する工程を含む。最も好ましくは、本発明の方法は更に以下を含む:(7)任意選択的に1又は複数の促進酸を加えて混ぜる工程、(8)1又は複数のカルシウム含有塩基を加えて混ぜる工程、(9)1又は複数のコンプレックス化酸を加えて混ぜる工程、(10)任意選択的に、水に溶解させたアルカリ金属水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウムを加えて混ぜた後、他の成分に加える工程。最も好ましくは、この方法はまた、促進酸遅延法及び/又は変換剤遅延法を含む。任意選択的な追加の工程は以下を含む:(11)任意選択的に、変換後、必要に応じて追加の基油を混ぜる工程、(12)混ぜて、揮発性の反応副産物を確実に除去し、最終製品の品質を最適化するのに十分な温度まで加熱する工程、(13)必要に応じて追加の基油を加えながら、グリースを冷却する工程、(14)当該分野でよく知られている残りの所望の添加剤を加える工程。
通常、スルホネート系グリースを製造する際の最終工程の1つは、滑らかで均質な最終製品を得るためにグリースをミリングする工程である。好ましい実施形態では、グリセロール誘導体が加えられている場合、グリースのミリングは必要とされない。ミリングによって、ちょう度値(及び対応する増ちょう剤収率)又は構造の滑らかさによって決定される増ちょう性が、ほとんど又は全く改善されないからである。別の好ましい実施形態では、グリセロール誘導体を加えても、グリースはミリングされる。
上記の工程の何れも、以下の1又は複数の追加工程又は追加成分によって変更され、或いはそれらと共に使用されてよい:(a)変換前に過塩基性マグネシウムスルホネートを一度に加える工程、(b)分割添加法を用いてマグネシウムスルホネートを加える工程、(c)マグネシウムスルホネート遅延期間を使用すること、(d)分割添加とマグネシウムスルホネート遅延期間の組合せを使用すること、(e)1又は複数の促進酸遅延期間を使用すること、(f)変換前に従来の非水性変換剤を加えないこと、(g)カルシウム含有塩基として水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムを別々に加えるか、又は加えないで、コンプレックス化酸と反応させるためのカルシウム含有塩基としてカルシウムヒドロキシアパタイト及び/又は炭酸カルシウムを加える工程、(h)従来の非水性変換剤を遅延して加える工程(変換剤遅延法)。これらの追加の方法及び成分は、米国特許第9,273,265号、第9,458,406号、第9,976,101号、第9,976,102号、第10,087,387号、第10,087,388号、及び第10,087,391号)に開示されており、これらは引用によって本明細書の一部となる。
工程(5)の変換加熱の温度は、190°F~200°Fであるのが好ましい。幾つかの実施形態では、工程(5)の最中に約260°Fの温度に加熱することが好ましいかも知れない。工程(4)の変換剤は、1又は複数の従来の非水性変換剤、水、或いはそれらの組合せを含んでよい。変換前に加えられると、水は、変換剤として作用できる。工程(2)で過塩基性マグネシウムスルホネートが加えられる場合、(変換剤遅延法を使用しない限り)工程(6)で従来の非水性変換剤を加える必要はないが、(変換剤遅延法の有無に拘わらず)従来の非水性変換剤が更に加えられてよい。工程(9)のコンプレックス化酸は、別々に加えられたコンプレックス化酸であってよく、又は、付加グリセロール誘導体と水との反応によってその場で生成されたコンプレックス化酸であってよい。1又は複数のグリセロール誘導体の全部又は一部は、変換前に、変換後に、又はそれらの組合せで加えられてよい。最も好ましくは、グリセロール誘導体の少なくとも一部が変換前に加えられる。
工程(3)のグリセロール誘導体は、変換前、変換中、変換後、又はそれらの組合せで加えられてよい。最も好ましくは、少なくとも幾らかのグリセロール誘導体が変換前に加えられる。工程(8-カルシウム含有塩基)、工程(9-コンプレックス化酸)及び工程(10-アルカリ金属水酸化物)の各成分は、変換前、変換後、又は変換前に一部が加えられて、変換後に別の一部が加えられてよい。工程(7)で加えられる促進酸は、変換前に加えられるのが好ましい。促進酸及びアルカリ金属水酸化物が使用される場合、促進酸は、アルカリ金属水酸化物が加えられる前に混合物に加えられることが好ましい。最も好ましくは、本発明の方法において使用される特定の成分及び量は、本明細書に記載の組成物の好ましい実施形態に従う。幾つかの成分は他の成分の前に加えられることが好ましいが、本発明の好ましい実施形態では、(変換剤遅延法を使用する場合、水が従来の非水性変換剤よりも先に加えられることを除いては)他の成分に対する成分の添加の順序は重要ではない。
工程(6)と最終工程(11)-(14)の順序とタイミングは重要ではないが、変換後に水を素早く除去することが好ましい。通常、グリースは加熱されて、変換剤として最初に加えられた水が除去され、グリースの形成中の化学反応で生じる水も除去される。製造中においてグリースバッチ中に長時間水があると、増ちょう剤収率、滴点又はその両方が低下し、そのような悪影響は、水を迅速に除去することで回避できる。ポリマー添加剤がグリースに加えられる場合、グリース温度が300°Fに達するまで ポリマー添加剤を加えないことが好ましい。ポリマー添加剤は、十分な濃度で加えると水の効果的な揮発を妨げる。故に、ポリマー添加剤は、好ましくは、全ての水が除去された後にのみグリースに加えられるべきである。製造中に、グリースの温度が好ましい300°Fに達する前に全ての水が除去されたと判断できる場合には、その後にポリマー添加剤を加えることが好ましい。
本明細書に記載の方法の好ましい実施形態は、グリースの製造に一般的に使用されている開放ケトル又は密閉ケトルの何れかで行われてよい。変換プロセスは、通常の大気圧下で又は密閉ケトルの加圧下で達成できる。開放ケトル(加圧下でない容器)での製造は、このようなグリース製造装置が一般的に入手可能である点で好ましい。本発明の目的においては、開放容器は、上蓋又はハッチを有するか又は有しない任意の容器であって、そのような上蓋又はハッチが気密でない限りは、加熱中に大きな圧力を発生させない。変換プロセス中に閉じられる上蓋又はハッチを備えたそのような開放容器を使用することは、必要なレベルの水を変換剤として保持するのに役立つ一方で、通常、水の沸点又はそれを超える変換温度を可能にする。このようなより高い変換温度は、当業者に理解されるように、単純カルシウムマグネシウムスルホネートグリース及びコンプレックスカルシウムマグネシウムスルホネートグリースの両方の増ちょう剤収率を更に改善することができる。加圧ケトルでの製造もまた利用されてよく、増ちょう剤収率の更に大きな改善をもたらし得るが、加圧プロセスは、より複雑で制御が困難であり得る。更に、加圧ケトルでカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを作製すると、生産性の問題が生じる可能性がある。加圧反応を利用することは、特定の種類のグリース(ポリ尿素グリースなど)にとっては重要であり、グリースプラントの大半では、限られた数の加圧容器しか利用できないであろう。加圧ケトルを使用して、加圧反応がそれほど重要ではないカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを作製することは、これらの反応が重要な他のグリースを作製するプラントの能力を制限し得る。これらの問題は、開放容器では避けられる。
幾つかの好ましい実施形態で使用される変換剤遅延は、水の最初の変換前添加と、非水性変換剤の少なくとも一部の変換前添加との間の期間である。変換剤遅延期間は、変換剤温度調節遅延期間、変換剤保持遅延期間、又は、その両方であってもよい。製造プロセス中の蒸発損失を補うために変換前に追加の水が加えられる場合、それらの追加は変換剤遅延期間の再開始又は決定には使用されず、変換剤遅延期間を決定する際の開始点として最初の水の追加のみが使用される。変換剤温度調節遅延期間とは、最初に水を加えてから、混合物をある温度又は温度範囲まで加熱するのに要する時間の量である。変換剤保持遅延期間は、別の温度に加熱又は冷却される前、或いは、非水性変換剤の少なくとも一部が加えられる前に、混合物がある温度(周囲温度を含む)に保持される時間の長さである。変換剤温度調節遅延期間が複数あってよく、変換剤保持遅延期間が複数あってよく、それらが組み合わされてもよい。例えば、最初の水を含む混合物は、ある非水性変換剤を加える前に、周囲温度で30分間保持されてよく(第1の保持遅延期間)、同じ又は異なる非水性変換剤を添加する前に、更に1時間、周囲温度で保持し続けられてよい(第2の保持遅延期間)。更に、最初の水を含む混合物は、第1の温度に加熱又は冷却された後、非水性変換剤が加えられてよく(第1の温度調節期間)、そして、混合物が第2の温度に加熱又は冷却された後、同じ又は別の非水性変換剤が追加される(第2の温度調節期間、中間保持期間なし)。変換剤遅延期間は、加熱を伴わない保持遅延期間を含んでいてよいが、変換剤としての最初の水の添加と1又は複数の非水性変換剤の全ての添加との間であって、その間に加熱を行わない15分未満の短い期間は、本明細書で使用する「変換剤遅延」又は「変換剤遅延期間」ではない。遅延期間中に加熱することなく、1又は複数の非水性変換剤の何れか又は全てを加えるための遅延期間は、少なくとも約20分、より好ましくは少なくとも約30分であるべきである。
幾つかの好ましい実施形態で用いられる促進酸遅延期間は、促進酸の添加と、(1)次に続いて加えられる成分の添加との期間であり、又は、(2)続いて加えられる反応成分(過塩基性マグネシウムスルホネート)の添加との間の期間であって、添加の間に加熱がある場合、それがたとえ次に加えられる成分でなくとも(促進酸と反応成分の間に1又は複数の他の成分が加えられる)、その期間である。促進酸遅延は、前述の変換剤遅延と同様に、促進酸温度調節遅延期間、促進酸保持遅延期間、又はそれらの両方であってよい。促進酸遅延は、全ての促進酸の添加に続いてよく、促進酸遅延は、促進酸の一部の添加に続いてもよい。例えば、促進酸温度調節遅延期間とは、1又は複数の促進酸が加えられた後、次の成分(又はその一部)が加えられる前に、混合物をある温度又は温度範囲に加熱するのに必要な時間のことである。促進酸保持遅延期間とは、別の温度に加熱又は冷却する前、或いは、次の成分や促進酸の次の部分を加える前に、混合物をある温度(周囲温度であってもよい)に保持する時間のことである。次に加える成分に関わらず、促進酸の添加から次の成分までの遅延期間が30分以上、好ましくは40分以上であれば、促進酸遅延期間である。遅延期間は、促進酸の添加と次に加える成分との間に温度調節がある場合には、30分より短くてよい。更に、次に加える成分が促進酸と反応するもの(過塩基性マグネシウムスルホネートなど)であれば、加熱がなくても、促進酸遅延期間は30分未満、例えば約20分であってもよい。反応成分が促進酸の後に加えられ、促進酸の添加と反応成分の添加の間に温度調節がある場合には、反応成分が直ぐ次に加えられる成分でなくても(つまり、反応成分は促進酸の後に加えられる2番目、3番目、4番目などの成分として加えられる)、また、促進酸と次に加えられる成分(促進酸の後に最初に加えられる成分)との間に遅延期間がなくても、それが中間の温度調節なしで促進酸の後に30分未満で加えられることから、促進酸遅延期間が存在することになる。反応成分が過塩基性マグネシウムスルホネートの場合は、後述するマグネシウムスルホネート遅延期間も存在する。
全ての促進酸遅延期間は、次に加えられる成分の添加時に終了するが、促進酸と反応する成分(マグネシウムスルホネートなど)がプロセスの後の時点で(促進酸の後に加えられる2番目、3番目などの成分として)加えられる場合は、その反応する成分(過塩基性マグネシウムスルホネートなど)が加えられるまで促進酸遅延期間は継続する。その場合、促進酸遅延は、促進酸の添加とマグネシウムスルホネートの添加の間に温度調節があるか、又は、温度が保持される時間があるかによって決定される。例えば、促進酸を添加した後、温度を変えずに直ちに他の3つの成分を加えて、過塩基性マグネシウムスルホネートを更に加える場合には、マグネシウムスルホネートが4番目に加えられた成分であるにも拘わらず、促進剤の添加とマグネシウムスルホネートの添加の間の時間である一回の「促進剤保持遅延」が存在する。マグネシウムスルホネートが後から加えられた反応成分である場合、マグネシウムスルホネート遅延(後述)があり、これは促進酸遅延期間と重なる。
幾つかの好ましい実施形態で用いられるマグネシウムスルホネート遅延期間は、水又は他の反応成分(酸、塩基、又は非水性変換剤など)の添加と、その後の過塩基性マグネシウムスルホネートの少なくとも一部の添加との間の期間である。マグネシウムスルホネート遅延期間は、変換剤遅延や促進酸遅延と同様に、マグネシウムスルホネート温度調節遅延期間、マグネシウムスルホネート保持遅延期間、又はその両方であってよい。促進酸の添加とその後の過塩基性マグネシウムスルホネートの添加との間に温度調節遅延又は保持遅延がある場合、その遅延は促進酸遅延及びマグネシウムスルホネート遅延である。
別の好ましい実施形態では、グリセロール誘導体を用いたスルホネート系グリースは、先行技術のスルホネート系グリースのFTIRスペクトルとは異なっている最終(変換後)FTIRスペクトルを有する。前述のように、従来技術の過塩基性カルシウムスルホネートグリースは、変換の過程で様々なFTIRスペクトルを有する。FTIRスペクトルの862cm-1のピークは、過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる非晶質炭酸カルシウムが、分散した結晶性炭酸カルシウムに変換されることを示している。カルシウムスルホネート系グリースの変換プロセスでは、一般的に約874cm-1に中間ピークが観察される。作られているグリースにおける小さな変化に応じて、この中間ピークは、約872cm-1乃至877cm-1の範囲で観察される。結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)の望ましい分散液への完全な変換は、典型的には、862cm-1の元の非晶質炭酸カルシウムのピークと中間ピーク(変換プロセス中であるが、変換プロセスが完了する前に形成された)の両方がなくなり、約882cm-1の新しい単一のピークが確立されることによって証明される。
粉末炭酸カルシウムが‘265特許に従って使用される、又はコンプレックス化酸と反応するであろう量を超えて使用される場合、若干異なる最終(変換後)FTIRスペクトルが確認された。付加炭酸カルシウムを含むスルホネート系グリースでは、FTIRスペクトルが約882cm-1に単一のピークを、約874cm-1に小さなショルダーを示すことが、完全な変換の証拠となる。これは、未反応のミクロンサイズの分散結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)が、約882cm-1(非晶質炭酸カルシウムが変換されてできた遥かに小さな炭酸カルシウム粒子)ではなく、約874cm-1に特徴的なFTIRピークを有するからである。
本発明の好ましい実施形態に従ってグリセロール誘導体が加えられる場合、以下の1又は複数を含む新しい最終(変換後)FTIRスペクトルが観察された:(1)872cm-1と877cm-1の間のピークと約882cm-1のピークの2つの異なるピーク(本明細書ではダブレットと称する)であって、872cm-1と877cm-1の間のピークが支配的なピークである、2つの異なるピーク、(2)約882cm-1のピークが支配的なピークであるダブレット、(3)約862cm-1の除去されないショルダー、(4)約882cm-1の支配的なピークと872cm-1と877cm-1の間のショルダーであって、ショルダーの高さは882cm-1のピークの高さの約33%~95%である、ショルダー、(5)872cm-1と877cm-1の間のピークと約882cm-1のショルダー。
本発明の様々な実施形態に基づくスルホネート系グリース組成物及びその製造方法を、以下の実施例に関連して更に記載及び説明する。実施例1~6は、本発明の好ましい実施形態に基づくグリセロール誘導体の添加を含まないベースラインの実施例である。実施例1~16は、米国特許第9,273,265号に記載されているように(更には、‘101、‘102、‘387、‘388、‘391特許に記載されているように)、コンプレックス化酸と反応させるための唯一の添加カルシウム含有塩基として付加結晶性炭酸カルシウムを使用する。実施例17~23は、米国特許第9,458,406号に記載されているように(更に、‘101、‘102、‘387、‘388、‘391特許に記載されているように)、コンプレックス化酸と反応させるためのカルシウム含有塩基として、カルシウムヒドロキシアパタイト、付加炭酸カルシウム、及び付加水酸化カルシウムを使用する。本発明の好ましい実施形態に基づく実施例7及び実施例9~16では、グリセロール誘導体を加えることで得ることができる有益な結果の手始めとして、炭酸カルシウム法が選択された。
<実施例1> この実施例は、米国特許第10,087,387号の実施例27と同じであり、米国特許第9,273,265号に記載されているように、付加炭酸カルシウムを使用している。過塩基性カルシウムスルホネート対過塩基性マグネシウムスルホネートの比は、約90/10であった。遅延非水性変換剤法を用いた。促進酸遅延法は使用していない。過塩基性マグネシウムスルホネートは全て最初に入れた。
グリースを以下のようにして作製した。310.14グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する345.89グラムの溶剤ニュートラルグループ1(solvent neutral group 1)パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義されている高品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに、遊星撹拌パドル(planetary mixing paddle)を用いて混合を開始した。次に、31.60グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加え、15分間混ぜた。この過塩基性マグネシウムスルホネートAは、米国特許第10,087,387号に記載されているものである。次に、31.20グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する75.12グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、0.84グラムの氷酢酸と、8.18グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えた。混合物を10分間攪拌した。次に40.08グラムの水を加えて、混合物を混ぜ続けながら190°Fと200°Fの間の温度へと加熱した。これは温度調節遅延に相当する。この混合物をこの温度範囲で30分間攪拌した。これは保持遅延に相当する。その間、著しい増ちょうが起こって、グリース構造が形成された。フーリエ変換赤外(FTIR)分光法は、蒸発によって水が失われていることを示した。70mlの水を更に加えた。FTIR分光法はまた、ヘキシレングリコール(非水性変換剤)がまだ加えられていないにも拘わらず、変換が部分的に起こっていることを示した。190乃至200°Fでの30分間の保持遅延の後、15.76グラムのヘキシレングリコールを加えた。この直後、FTIR分光法により、非晶質炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が起こったことが示された。しかしながら、このバッチは、そのグリコールが加えられた後、幾分軟化したようであった。20mlの水を更に加えた後、2.57グラムの氷酢酸と16.36グラムの12-ヒドロキシステアリン酸とを加えた。これらの2つのコンプレックス化酸を10分間反応させた。次に、16.60グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜて反応させた。
その後、グリースを390乃至400°Fに加熱した。混合物が加熱されるにつれて、グリースはますます低粘ちょう化して流動的になり続けた。加熱マントルをミキサーから取り外して、混ぜ続けながらグリースを冷却した。混合物は非常に低粘ちょうであって、有意なグリースの質感はなかった。温度が170°Fよりも下がると、サンプルをミキサーから取り出し、3本ロールミルに通した。ミリングしたグリースの不混和ちょう度は、189であった。この結果は非常に驚くべきものであり、非常に珍しい高レオペクティック構造が形成されていることを示していた。合計116.02グラムの同じ基油を3回に分けて追加した。その後、グリースをミキサーから取り出し、3本ロールミルを3回通過させて、最終的に滑らかで均一な質感を達成した。このグリースの60往復混和ちょう度は、290であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、31.96%であった。滴点は617°Fであった。
<実施例2> この実施例は、米国特許第10,087,388号の実施例13と同じであって、本明細書の先の実施例1のグリースと同様に作られた。実施例1のグリースと同様に、過塩基性カルシウムスルホネート対過塩基性マグネシウムスルホネートの比率は約90/10であって、過塩基性マグネシウムスルホネートを全て変換前に加え、遅延非水性変換剤法を用いた。しかしながら、その他の点については、実施例1のグリースと比較して幾つかの大きな変更があった。過塩基性マグネシウムスルホネートを、一番初めではなく、主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた後に、意図的に20分遅らせて混ぜた。これは、促進酸遅延法を示している。それはまた、促進酸に対する遅延過塩基性マグネシウムスルホネート添加法を示している。それはまた、遅延過塩基性マグネシウムスルホネート添加法は、常に水の添加に関連している必要はなく、他の反応成分に関連してよいことを示している。この場合、それは促進酸の添加に関連している。粉末炭酸カルシウムの第2の部分を、変換後、コンプレックス化酸の第2の部分が加えられる前に加えた。また、このグリースでは、変換後の12-ヒドロキシステアリン酸の量が多かった。最後に、変換後のコンプレックス化酸としてリン酸を使用しなかった。その代わりに、ホウ酸を用いた。
グリースを以下のようにして作製した。310.79グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する310.47グラムの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義されている高品質カルシウムスルホネートであった。この過塩基性カルシウムスルホネートも、先の実施例1で使用したものと同じものを使用した。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。次に、31.53グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸を加えて、20分間混ぜた。次に、31.24グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加えて、混ぜた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する75.08グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、0.91グラムの氷酢酸と、8.09グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えた。混合物を10分間攪拌した。次に40.51グラムの水を加えて、混合物を混ぜ続けながら190°Fと200°Fの間の温度へと加熱した。これは温度調節遅延に相当する。この混合物をこの温度範囲で30分間攪拌した。これは保持遅延に相当する。その間、著しい増ちょうが起こって、グリース構造が形成された。フーリエ変換赤外(FTIR)分光法は、ヘキシレングリコール(非水性変換剤)がまだ加えられていないにも拘わらず、変換が部分的に起こっていることを示した。190乃至200°Fでの30分間の保持遅延の後、30mlの水と15.50グラムのヘキシレングリコールを加えた。この直後、FTIR分光法により、非晶質炭酸カルシウムの結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が起こったことが示された。このバッチを45分間撹拌した。その間、バッチは柔らかくならず、実際には幾分硬くなった。40mlの水を追加して、続いて、25.02グラムの同じ炭酸カルシウムを加えた。20分間混ぜた後、1.57グラムの氷酢酸、31.94グラムの12-ヒドロキシステアリン酸、及び10mlの水を加えた。これらの2つのコンプレックス化酸を10分間反応させた。次に、25.0グラムのホウ酸を含む50mlの温水をゆっくりと加えて、混ぜて反応させた。
その後、グリースを340°Fに加熱した。混合物を加熱しても、グリースはそれほど軟らかくならなかった。加熱マントルをミキサーから取り外して、混ぜ続けながらグリースを冷却した。バッチは、冷却してもグリースの質感を保持していた。これは、先の実施例1のグリースとの明らかな挙動の違いであった。グリースを200°Fに冷却すると、2.20グラムのアリールアミン系酸化防止剤を加えた。温度が170°Fよりも下がると、サンプルをミキサーから取り出し、3本ロールミルに通した。ミリングしたグリースの不混和ちょう度は、219であった。ここでも、この結果は、先の実施例1のグリースの挙動と比較して、非常に驚くべきものであった。先の実施例1のグリースは、手順のこの時点で非常に流動的であったにも拘わらず(グリースの質感は顕著でない)、非常に硬いちょう度にミリングされるという予想外のレオペクティック特性を示した。このことから、この実施例2のグリースの構造は、実施例1のグリースの構造に比べて、レオペクティック特性が著しく低いことがわかる。合計133.53グラムの同じ基油を4回に分けて追加した。その後、グリースをミキサーから取り出し、3本ロールミルを3回通過させて、最終的に滑らかで均一な質感を達成した。このグリースの60往復混和ちょう度は、283であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、30.27%であった。滴点は>650°Fであった。混和ちょう度と過塩基性カルシウムスルホネート濃度の割合との間の通例の逆線形関係を用いると、この例のグリースは、基油が更に加えられて、混和ちょう度を実施例1のグリースと同じ値にするために更なる基油が追加されていた場合、29.5%の濃度で過塩基性カルシウムスルホネートを有していただろう。このように、このグリースは、実施例1の従来のグリースに比べて増ちょう剤収率が向上していた。
<実施例3> この実施例は、米国特許第10,087,388号の実施例14及び米国特許第10,087,391号の実施例2と同じであって、本明細書の先の実施例1のグリースと同様に作られた。しかしながら、幾つかの違いがあった。第1に、このグリースには、米国特許10,087,387号の大半の実施例で使用されている低品質の過塩基性カルシウムスルホネートを使用した。第2に、最初の基油、過塩基性カルシウムスルホネート、及び促進酸を加えて、熱を加えずに20分間混ぜるまで、過塩基性マグネシウムスルホネートを意図的に加えなかった。これは、先の実施例2のグリースで採用したような促進酸遅延期間を示している。また、実施例2と同様に、これも、保持遅延があって温度調節遅延がない遅延過塩基性マグネシウムスルホネート添加法と考えられる。通常、このような短い保持遅延(20分)は、真の保持遅延とはみなされない。しかしながら、促進酸は、周囲温度でも過塩基性カルシウムスルホネート又はマグネシウムスルホネートの何れかと反応することから、本明細書ではそのような遅延期間はマグネシウムスルホネート遅延期間とみなす。繰り返しになるが、この同じ遅延過塩基性マグネシウムスルホネート添加法が、先の実施例2のグリースで行われたことに留意のこと。しかしながら、このグリースでは、(実施例2で使用したような)ホウ酸水溶液を加える代わりに、実施例1と同様の方法で16.52グラムの75%リン酸水溶液を加えた。実施例3のミリングされた最終グリースの60往復混和ちょう度は、293であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は、26.78%であった。しかしながら、滴点は、520°Fであった。注目すべきは、このグリースは、過塩基性マグネシウムスルホネートが含まれていることを除いて、米国特許9,458,406号の実施例6~9のグリースと基本的に同じ組成であった。この4つのグリースにも、同じように低品質の過塩基性カルシウムスルホネートが使われていた。これら4つのグリースの滴点は496、483、490及び509であって、平均値は495°Fであった。この実施例3のグリースの滴点は低かったが,米国特許9,458,406号の4つのグリースよりも幾分高かった。実施例1~3の概要を以下の表4に示す。
<実施例4> この実施例は、米国特許第10,087,391号の実施例3と同じであって、本明細書の先の実施例1のグリースと同様に作られた。実施例1と同様に、このグリースでは、過塩基性カルシウムスルホネート対過塩基性マグネシウムスルホネートの比は、約90/10であった。促進酸遅延法は使用していない。全ての過塩基性マグネシウムスルホネートを、過塩基性カルシウムスルホネートと一緒に最初に加えた後、促進酸を加えた。この実施例4のグリースは、実施例1のグリースと同様に高品質の過塩基性カルシウムスルホネートを使用した。
このグリースと実施例1のグリースとの唯一の顕著な違いは、このグリースには従来の非水性変換剤が加えられていないことであった。変換中に蒸発して失われた水を補うために、必要に応じて水を加えた。変換はFTIRスペクトルで監視されて、2時間で完了した。変換は、水と、過塩基性マグネシウムスルホネートと、加えられた変換前のコンプレックス化酸の初期量による影響とに起因して起こった。最高温度まで加熱すると、グリースは、実施例1のグリースと同じように大幅に軟らかくなった。実施例1のグリースで観察されたように、グリースの質感は、ミリング時に回復した。この極端なレオペクティック特性は、実施例1で述べたような潜在的な有用性を有している。
<実施例5> この実施例は、米国特許第10,087,391号の実施例4と同じであり、本明細書の先の実施例4のグリースと同様に作られた。唯一の大きな違いは、低品質の質過塩基性カルシウムスルホネートを使用したことであった。低品質の過塩基性カルシウムスルホネートは、先の実施例3のグリースで使用したものと同じものを使用した。変換はFTIRスペクトルで監視されて、7時間で完了した。
<実施例6> この実施例は、米国特許第10,087,391号の実施例5と同じであって、本明細書の先の実施例5のグリースと同様に作られた。唯一の大きな違いは、使用された過塩基性マグネシウムスルホネートの量が約半分であったことである。このグリースには、本明細書の先の実施例で使用されたものと同じような、低品質の過塩基性カルシウムスルホネートを使用した。変換はFTIRスペクトルで監視されて、10.5時間で完了した。実施例4~6の概要を以下の表5に示す。
過塩基性マグネシウムスルホネートが含まれていることを除けば、本明細書の実施例4~6のグリースは、米国特許9,458,406号の実施例6~9のグリースと基本的に同じ組成であった。米国特許9,458,406号の実施例6~9のグリースは、実施例5及び6のグリースと同じように低品質の過塩基性カルシウムスルホネートを使用していた。唯一の組成の違いは、本明細書の実施例4~6のグリースが過塩基性マグネシウムスルホネートを含んでいることである。(低品質の過塩基性カルシウムスルホネートを含む)本明細書の実施例5及び6のグリースの滴点はかなり低いが、(これもまた、低品質の塩基性カルシウムスルホネートを含む)米国特許9,458,406号の実施例6~9のグリースよりも遙かに改善された。このことも、過塩基性マグネシウムスルホネートを含めることで、滴点が改善されることを実証している。高品質の過塩基性カルシウムスルホネートではなく、低品質のカルシウムスルホネートを使用すると、変換プロセスにより時間を要することが明らかになった。しかしながら、変換に対する過塩基性マグネシウムスルホネートの有益な効果は、本明細書の実施例5及び6について必要な変換時間を比較することによって明らかであった。過塩基性マグネシウムスルホネートの濃度を大幅に下げると、変換時間は大幅に増加した。これは、過塩基性マグネシウムスルホネートが変換に良い影響を与えていることを示している。また、実施例5及び6の両方のグリースの滴点は、150℃でせん断した後に改善されたことが、ロール安定性試験のデータで示された。これは、高温で使用される場合に高温構造安定性を改善するという過塩基性マグネシウムスルホネートの有益な効果の可能性を再度示している。
別の重要な観察は、実施例3のグリース(520°F)の滴点を、実施例5(558°F)及び実施例6(562°F)のグリースの滴点と比較することで得られる。3つのグリースは全て、組成が類似していた。それらは全て、同じ低品質過塩基性カルシウムスルホネートと同じ過塩基性マグネシウムスルホネートとを含んでいた。それらはまた、同様な方法で加えられた同じコンプレックス化酸を含んでいた。重要な組成の違いは1つだけであった。実施例3のグリースは従来の非水性変換剤を含んでいたのに対し、実施例5及び6のグリースは含んでいなかった。しかしながら、実施例5及び6のグリースの滴点は、実施例3のグリースの滴点よりも顕著に高かった。これは、カルシウム/マグネシウムスルホネートコンプレックスグリースを、従来の変換剤を使用せずに幾つかのプロセス技術を用いて製造する場合、従来の変換剤を使用した同様のグリースと比較して、滴点をより高くすることが予期せず可能であることを実証している。
<実施例7> 別のカルシウムマグネシウムスルホネートグリースを、米国特許9,273,265号に記載されている炭酸カルシウムを使用し、過塩基性カルシウムスルホネート対過塩基性マグネシウムスルホネートの比率を約90/10とし、全ての過塩基性マグネシウムスルホネートを最初に加えて、本明細書の先の実施例5のグリースと同様に作った。しかしながら、2つの大きな違いがあった。第1に、12-ヒドロキシステアリン酸を加えなかった。その代わりに、水添ヒマシ油(HCO)を、HCOのトリアシルグリセリド構造が12-ヒドロキシステアリン酸基のみで構成されていると仮定して、総量が12-ヒドロキシステアリン酸基のモル換算量となるように加えた。変換前に加えられたHCOの量は、加えられたHCOの総量の33%であり、残りの量は、変換後、最高温度に加熱する前に加えられた。第2に、変換工程後のグリースに加える水に、少量の水酸化ナトリウムを溶解させた。最終グリース中の水酸化ナトリウムの濃度(未反応ベース)は0.05%であった。これは、米国特許第9,976,102号に記載されている手法の一形態である。先の実施例のグリースの何れにも、水酸化アルカリ添加法は使用されていなかったことに留意のこと。加えて、このグリースのバッチサイズは、これまでの実施例と比較して約50%大きかった。
このグリースは,実施例5のグリースと同様に,従来の非水性変換剤であるヘキシレングリコールを一切使用していない。このグリースも、実施例5のグリースと同様に、過塩基性カルシウムスルホネートと過塩基性マグネシウムスルホネートとを初期量の基油と共に加えたものである。その後、主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。
グリースを以下のようにして作製した。465.7グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加えた。その後、47.9グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加え、15分間混ぜた後、100°Fで約600SUSの粘度を有する521.0グラムの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。なお、過塩基性マグネシウムスルホネートと基油の添加の順序は、これまでの実施例とは逆であった。手順のこの時点では非反応性の混合のみが起こることから、この変化は最終グリースに影響を与えない。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義されている低品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。次に、46.3グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する114.6グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、12.64グラムの水添ヒマシ油(HCO)を加え、続いて1.26グラムの氷酢酸を加えた。次に、65.0グラムの水を加え、190°F乃至200°Fに加熱した。加熱が始まると直ぐに、バッチは明らかに増ちょうした。しかし、温度が150°Fに達する頃には低粘ちょう化した。バッチの温度が190°Fに達すると、その後約5.5時間中に、FTIR分光法で水が蒸発により減少していることが示されたため、合計214グラムの水を9回に分けてバッチに加えた。
この間、FTIRは、変換がゆっくりと起こっているが完全ではないことを示した。バッチが最初に190°Fに達すると、FTIRスペクトルは、約874cm-1の支配的なピークに加え、862cm-1の明確なショルダーと882cm-1のショルダーの始まりとを示した。190~200°Fで5.5時間混ぜた後、882cm-1のショルダーは支配的なピークに成長していた。874cm-1のピークは大幅に減少し、かろうじて分かった。862cm-1のショルダー(元の非晶質炭酸カルシウムを示す)は僅かであって、非晶質炭酸カルシウムのほとんどが結晶性炭酸カルシウムに変化していることがわかった。
カルシウムスルホネート系グリースの変換プロセスでは、一般的に約874cm-1に中間ピークが観察される。作られているグリースにおける小さな変化に応じて、この中間ピークは、約872cm-1乃至877cm-1の範囲で観察される。ドキュメンテーションを容易にするため、前述の変動がカルシウムスルホネート系グリースのバッチ内で正常であることを理解して、今後、この中間ピークに874cm-1の値を割り当てる。結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)の望ましい分散液への完全な変換は、典型的には、862cm-1の元の非晶質炭酸カルシウムのピークが無くなり、882cm-1の新しい単一のピークが確立されることによって証明される。変換プロセス中に発生する約874cm-1の中間ピークは、通常、最初に形成されて、変換が完了すると消滅する。しかしながら、これらの実施例で使用されているような粉末炭酸カルシウムを加えると、カルシウムスルホネート系グリースで約874cm-1のピークが形成される。このように、変換前に粉末炭酸カルシウムを加えると、FTIRスペクトルが約882cm-1の単一ピークと約874cm-1の小さなショルダーを示すことで、完全な変換が証明される。熱を除去して、バッチを160°Fまで冷却した。その後、混ぜることを中止し、バッチを約16時間静置した。
翌朝、バッチを混ぜつつ190°F乃至200°Fに再度加熱した。目的の温度範囲に達しても、FTIRのスペクトルは変化しなかった。FTRIスペクトルで示されるように変換を完了させるために、更に25.53グラムのHCOを加えて、続いて0.6グラムの水酸化ナトリウムを溶解させた60.0グラムの水を加えた。190°F乃至200°Fにて約2時間45分混ぜた後、FTIR分光法は、変換が僅かにしか進んでいないことを示した。882cm-1の支配的なピークと872cm-1の小さくてかろうじて分かるピークは依然として存在しており、前回のFTIRから変化していないように見えた。しかしながら、残っていた非晶質炭酸カルシウムの大半は無くなっていた。これは、862cm-1のショルダーがほとんど無くなった事実により証明された。ここまでの変換プロセスに要した総時間は、約9時間12分であった。
相反するFTIRの結果にも拘わらず、このグリースを作るための次の工程に進むことを決定した。故に、2.46グラムの氷酢酸を加え、30分かけてグリースに混ぜ合わせた。その後、24.61グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加え、混ぜ合わせて反応させた。その後、グリースを390乃至400°Fに加熱した。この間、バッチは低粘ちょう化せず、はっきりとグリースの質感を保っていた。この点において、この実施例7のグリースは、観察された予想外のレオペクティックな特性を有する先の実施例とは異なっていた。グリースが目標とする最高温度に達すると、加熱マントルをミキサーから取り外し、混ぜ続けながらグリースを冷却した。温度が約160°Fになったところで、バッチの一部を取り出して、そのまま冷却した。この非ミリングサンプルの不混和ちょう度は265であった。残りのバッチを、混ぜることなく翌朝まで冷却した。次に、バッチを約160°Fに加熱し、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルを1回通過させた。ミリングしたグリースが冷却されると、不混和ちょう度と60往復混和ちょう度を測定した。ミリングしたグリースの不混和ちょう度は255で、60往復混和ちょう度は279であった。非ミリンググリースとミリンググリースの滴点は夫々、581と580であった。最終グリース中の過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの割合は36.88%であった。
この実施例のグリースに関して、3つのことに注意する必要がある。最初に、増ちょう剤収率はこれまでのどの実施例にも劣っていたが、同じように低品質の過塩基性カルシウムスルホネートを使用したグリースに比べて、滴点は大幅に改善された。実施例6のグリースについて既に述べたように、低品質の過塩基性カルシウムスルホネートが使用されており、且つコンプレックス化酸がそのグリースで使用されているもの(12-ヒドロキシステアリン酸、酢酸、及びリン酸)であるグリースの滴点を、過塩基性マグネシウムスルホネートを使用することで改善することができる。本明細書の実施例7のグリースは、実施例6のグリースと同じ低品質の過塩基性カルシウムスルホネートを使用し、実施例6のグリースと同じコンプレックス化酸を使用した。しかしながら、この実施例7のグリースは、HCOが記載された方法でグリースに組み込まれる場合に、更なる滴点の改善が得られることを実証している。
注目すべき第2の点は、先に観察されたレオペクティック特性が、この実施例7のグリースでは観察されなかったことである。それどころか、非ミリンググリースとミリングしたグリースのちょう度はほぼ同じであり、ミリングの影響はほとんどないことを示した。これは、実施例1、3、4、5及び6のグリースで観察されたものとは反対の効果であると考えられる。それらの実施例では、非ミリンググリースは、グリースの質感がほとんど又は全くなかったが、ミリングすると非常に硬いグリースになった。ミリングは、これらのグリースのちょう度硬さに大きな影響を与えた。典型的な先行技術のスルホネート系グリース(予想外のレオペクティック特性が見られない)であっても、滑らかなグリースの仕上がりを実現するためには、一般的にミリングが必要であり、ちょう度値から分かるように、ある程度の増ちょう性は得られる。しかしながら、実施例7ではそのようなことはなく、ミリングの効果はなかった。故に、グリセロール誘導体(この実施例では、HCO)を使用することで、通常必要とされるミリング工程を経ることなく、最適に分散された増ちょう剤系をグリースに付与できるという潜在的な利点が得られる。
第3の点は、このグリースの製造中のFTIRスペクトルと最終グリースのFTIRスペクトルとは、HCOの大半が加水分解され、結果として生じる12-ヒドロキシステアリン酸が炭酸カルシウムと反応して対応するカルシウム塩増ちょう剤成分を形成したことを示したことである。
<実施例8> 別のカルシウム/マグネシウムスルホネートコンプレックスグリースを、本明細書の先の実施例5のグリースと同様に製造した。しかしながら、2つの大きな違いがあった。第1に、12-ヒドロキシステアリン酸を加えなかった。代わりに、グリセロールモノオレエート(GMO)を、実施例5のグリースの12-ヒドロキシステアリン酸基のモル換算値となる量のオレイン酸基を与える総量で加えた。変換前に加えられたGMOの量は、加えられたGMOの総量の33%であり、残りの量は、変換後、最高温度に加熱する前に加えられた。第2に、変換工程後のグリースに加える水に、少量の水酸化ナトリウムを溶解させた。最終グリース中の水酸化ナトリウムの濃度(未反応ベース)は0.04%であった。これは、米国特許第9,976,102号に記載されているアルカリ金属水酸化物添加法の一形態であり、実施例7のグリースにも使用されたが、本明細書の実施例1~6のグリースの製造には使用されなかった。
加えて、このグリースのバッチサイズは、従来の実施例1~6のグリースの約2倍であった。実施例5及び7のグリースと同様に、このグリースは、従来の非水性変換剤であるヘキシレングリコールを使用しなかった。実施例5及び7のグリースと同様に、このグリースでは、過塩基性カルシウムスルホネートと過塩基性マグネシウムスルホネートを、初期の量の基油と共に加えた。その後、主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。
グリースを以下のようにして作製した。618.6グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加えた。その後、61.26グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加え、15分間混ぜ合わせた後、100°Fで約600SUSの粘度を有する680.1グラムの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。なお、過塩基性マグネシウムスルホネートと基油の添加の順序は、これまでの実施例とは逆であった。手順のこの時点では非反応性の混合のみが起こることから、この変化は最終グリースに影響を与えない。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義されている低品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、62.52グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する151.51グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、17.12グラムのグリセロールモノオレエート(GMO)を加え、続いて1.81グラムの氷酢酸を加えた。次に、81.49グラムの水を加え、バッチを190°F乃至200°Fに加熱した。加熱が始まると、バッチは一気に増ちょうした。しかしながら、温度が160°Fに達すると、それは急速に低粘ちょう化した。10.0グラムの更なる水を、190乃至200°Fに加熱している間に加えた。目標温度範囲に到達するまでに、バッチは非常に低粘ちょう化しており、グリースの質感はほとんどなかった。目標温度範囲に到達するまでに、バッチは非常に低粘ちょう化しており、グリースの質感はほとんどなかった。
その後の約2時間中に、FTIR分光法が、水が蒸発して減っていることを示したので、合計44グラムの水を4回に分けてバッチに加えた。この間、FTIRは、変換がゆっくりと起こっていることを示した。しかしながら、僅かな増ちょうしか見られなかった。このバッチは、先の実施例7のグリースでは観察されなかったようにして泡立っていた。190~200°Fで2時間混ぜた後、FTIRスペクトルはもはや変換に向けて進行しなくなった。882cm-1のFTIRピークが支配的であった。しかしながら、約874cm-1に小さいながらも明瞭なピークがあった。また、(非晶質炭酸カルシウムに起因する)862cm-1の元のピークは僅かに、目立つショルダーとして存在していた。36.24グラムのGMOを更に加えた後、0.68グラムの水酸化ナトリウムを溶かした57.8グラムの水を加えた。ほぼ1時間後、FTIRは、変換プロセスが大幅に進行したが、まだ完了していないことを示した。874cm-1と862cm-1のピークはより小さくなったが、更に混ぜても除去されなかった。バッチの外観も改善されて、グリース構造が顕著に見られるようになった。変換プロセスはそれ以上進行せずに停滞したように見えたので、2.77グラムの酢酸を加えて、30分間反応させた。次に、33.96グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜて反応させた。その後、グリースを390乃至400°Fに加熱した。この間、300°Fに達するまでにバッチは低粘ちょう化していた。最高温度に達した後、バッチを約160°Fまで冷却した。バッチはまだ非常に低粘ちょうであって、グリース構造はほとんど無かった。このバッチを、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。最終的なバッチの不混和ちょう度は453で、グリース構造がほとんど存在しないことを示した。
先の実施例7のグリースと同様に、このグリースの製造中のFTIRスペクトルと最終製品のFTIRスペクトルとは、GMOの大半が加水分解され、結果として生じるオレイン酸が炭酸カルシウムと反応して、対応するカルシウム塩増ちょう剤成分を形成したことを示した。
<実施例9> 先の実施例8が許容できるグリース構造を提供できなかったので、先の実施例8のグリースと似た別のカルシウム/マグネシウムスルホネートコンプレックスグリースを作った。実施例8のグリースと同様に、12-ヒドロキシステアリン酸を加えなかった。その代わりに、グリセロールモノオレエート(GMO)を加えた。このグリースも、実施例8のグリースと同様に、過塩基性カルシウムスルホネートと過塩基性マグネシウムスルホネートとを初期量の基油と共に加えたものである。その後、主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。
しかしながら、先の実施例8のグリースとは幾つかの違いがあった。第1に、このグリースには水酸化ナトリウムを使用しなかった。第2に、変換プロセスが停滞した後、非水性変換剤としてヘキシレングリコールを加えた。第3に、変換時の加熱工程が異なることで、変換プロセス全体の一部で幾分高温になった。最後に、最初の変換前のGMOの部分だけを加えた。GMOの第2の部分を変換後に加えなかった。
グリースを以下のようにして作製した。622.7グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加えた。その後、62.27グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加え、15分間混ぜ合わせた後、100°Fで約600SUSの粘度を有する689.0グラムの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義されている低品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、62.59グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する152.86グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、18.54グラムのグリセロールモノオレエート(GMO)を加え、続いて2.04グラムの氷酢酸を加えた。次に、88.25グラムの水を加え、バッチを190°F乃至200°Fに加熱した。加熱が始まると、バッチは一気に増ちょうした。しかしながら、温度が165°Fに達すると、すぐに低粘ちょう化した。目標温度範囲に到達するまでに、バッチは非常に低粘ちょう化しており、グリースの質感はほとんどなかった。FTIRでは、874cm-1に支配的な変換関連のピークがあり、元の862cm-1のピークの大半は目立ったショルダーとして残っていた。この挙動は、先の実施例8のグリースと同様であった。その後の約5時間中に、FTIR分光法が水が蒸発して減っていることを示したので、合計267グラムの水を6回に分けてバッチに加えた。この間、FTIRは、変換がゆっくりと起こっていることを示した。190~200°Fで約45分経過した後、約882cm-1のピークが現れ始めた。目標温度範囲での5時間の混ぜたうちの約2時間後、882cm-1のFTIRピークは874cm-1の中間ピークよりも大きくなった。この5時間のミキシングの間に、バッチは徐々に増ちょうした。しかしながら、874cm-1には小さいが明確なピークがあった。5時間かけて190~200°Fで混ぜた後、バッチを260°Fに加熱した。この加熱工程中に、バッチは水の沸騰による泡立ちを示した。次に、合計107グラムの水を2回に分けて追加した。874cm-1のピークのみが僅かに減少した。バッチを撹拌し、加熱マントルを外して冷却した。混合を中止し、バッチを16時間静置した。
その後、バッチを230°Fまで加熱し、20グラムの水を加えた。バッチの温度は約200°Fまで下った。90分後、61.3グラムの水を更に加えた。FTIRスペクトルは、変換プロセスで更なる顕著な進展がなかったことを示した。29.65グラムのヘキシレングリコールをバッチに加えた。数分後、バッチは目に見えて増ちょうしていた。FTIRスペクトルは、882cm-1のピークを除くほとんど全ての変換関連のピークがなくなったことを示した。874cm-1の顕著なショルダーのみが存在していた。更に41.89グラムの水を加え、約30分間撹拌した後、FTIRスペクトルは変換が完了したことを示した。ここまでの変換プロセスに要した総時間は、約7時間50分であった。
その後、3.19グラムの酢酸を加え、続いて32.95グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えた。バッチを190°F乃至200°Fで30分間混ぜた。次に、34.09グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜて反応させた。その後、グリースを390乃至400°Fに加熱した。この間、バッチは、先の実施例8のバッチのように低粘ちょう化しなかった。最高温度に達した後、バッチを約160°Fまで冷却した。このバッチを、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。最終的なバッチの不混和ちょう度は295で、60往復混和ちょう度は315であった。滴点は550°Fであった。最終グリース中の過塩基性カルシウムスルホネートの割合は36.42%であった。
先の実施例8と同様に、このグリースの製造中のFTIRスペクトルと最終製品のFTIRスペクトルとは、GMOの大半が加水分解され、結果として生じるオレイン酸が炭酸カルシウムと反応して、対応するカルシウム塩増ちょう剤成分を形成したことを示した。このように、この実施例9のグリースは、先の実施例8に比べて増ちょう剤収率が非常に高かった。実際のところ、増ちょう剤収率は、GMOの代わりにHCOを使用した実施例7のグリースと基本的に同じであった。
<実施例10> 別のカルシウム/マグネシウムスルホネートコンプレックスグリースを、本明細書の先の実施例9のグリースと同様に製造した。しかしながら、幾つかの違いがあった。第1に、グリセロールモノオレエートの代わりにグリセロールモノステアレート(GMS)を使用した。第2に、12-ヒドロキシステアリン酸及び酢酸を、実施例1~6のグリースで行った方法と同様にして、変換前と変換後の両方で加えた。この変更で、変換前と変換後の主たるコンプレックス化酸は、12-ヒドロキシステアリン酸と酢酸となった。GMSの加水分解中に(ステアリン酸を形成するために)形成されたコンプレックス化酸は、12-ヒドロキシステアリン酸の代わりではなく、追加のコンプレックス化酸であると見なされた。先の実施例9のグリースと同様に、ヘキシレングリコールを、変換プロセスがそれ以上進展がない点まで進行した後にのみ主たる変換剤として加えた。
グリースを以下のようにして作製した。620.18グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加えた。その後、62.26グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加え、15分間混ぜ合わせた後、100°Fで約600SUSの粘度を有する689.9グラムの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義されている低品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、70.61グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する155.38グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、17.48グラムのグリセロールモノステアレート(GMS)を加えた。続いて、16.63グラムの12-ヒドロキシステアリン酸1と1.74グラムの氷酢酸を加えた。次に、80.4グラムの水を加え、バッチを190°F乃至200°Fに加熱した。加熱が始まると、バッチは一気に増ちょうした。しかしながら、温度が195°Fに達すると、低粘ちょう化した。目標温度範囲で混ぜ続けると、バッチは増ちょうし始めた。その後3.5時間かけて、100.0グラムの水を5回に分けて加えた。この期間の終わりに、FTIRスペクトルは変換がほとんど完了したことを示した。しかしながら、874cm-1に小さいながらもはっきりとしたピークがあり、これはまだ除去されていなかった。また、662cm-1に小さいながらもはっきりとしたショルダーが見られ、非晶質炭酸カルシウムの一部がまだ変換されていないことを示していた。30.0グラムの水と28.40グラムのヘキシレングリコールとをバッチに加えた。数分後、バッチは更に増ちょうした。30分以内に、FTIRスペクトルは、変換がほぼ完了したことを示した。ここまでの変換プロセスに要した時間は、約4時間34分であった。バッチを冷却し、混ぜることを止めた。
16時間後、バッチを190°F乃至200°Fに加熱し直した。次に、32.46グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と61.25グラムの水をバッチに加え、混ぜ合わせた。次に、3.22グラムの酢酸を加えた。バッチを30分間混ぜた。次に、32.66グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜて反応させた。その後、グリースを390乃至400°Fに加熱し、160°Fまで冷却した。この間、バッチは、低粘ちょう化しなかった。代わりに、バッチは冷めると、非常に重くなった。同じパラフィン系基油を2回に分けて、合計181.68グラムをバッチに加えた。このバッチの一部を、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が235であり、60往復混和ちょう度が235であった。滴点は587°Fであった。ミリングしたグリースは、不混和ちょう度が221であり、60往復混和ちょう度が247であった。滴点は587°Fであった。最終グリース中の過塩基性カルシウムスルホネートの割合は32.4%であった。ちょう度と過塩基性カルシウムスルホネート濃度の割合との間の通例の逆線形関係を用いると、この実施例10の非ミリンググリースは、ちょう度の値が実施例7のグリースと同じ値にされていた場合、28.7%の濃度で過塩基性カルシウムスルホネートを有していただろう。同様に、実施例10のミリングしたグリースは、混和ちょう度の値が実施例7のグリースと同じであれば、過塩基性カルシウムスルホネート濃度は28.7%となったであろう。
先の実施例7~9のグリースと同様に、このグリースの製造中のFTIRスペクトルと最終製品のFTIRスペクトルとは、加えられたグリセロール誘導体の大半が加水分解され、結果として生じる長鎖脂肪酸が炭酸カルシウムと反応して、対応するカルシウム塩増ちょう剤成分を形成したことを示した。
このグリースの結果に関して、3つの点に注意する必要がある。第1に、等ちょう度ベースでは、GMSは、増ちょう剤収率に関してGMOよりも遥かに効果的であるように見える。第2に、非ミリンググリースとミリングしたグリースのちょう度が同様であることから分かるように、ミリングは実際の増ちょう剤収率にはほとんど影響しない。実際、実施例7のグリースを比較の基準として用いると、実施例10の非ミリングとミリングしたグリースの増ちょう剤収率は全く同じである。これは、実施例7で観察されたものと同様である。最後に、この場合も、炭酸カルシウム系カルシウムスルホネートコンプレックスグリースを低品質の過塩基性カルシウムスルホネートを用いて、そして12-ヒドロキシステアリン酸、酢酸、及びリン酸をコンプレックス化酸として用いて作った場合に通常観察される滴点よりも、滴点が高くなる。これらの3つの観察結果は、驚きであり、予想外である。
ミリングがそれ以上有意な増ちょうをもたらさない程度まで増ちょう剤を分散させるグリセロール誘導体(GMS)の機能はまた、振動レオメトリーを使用して観察することができる。図1は、実施例10の非ミリンググリース及びミリンググリースの25℃における振動式レオメーターの振幅掃引の結果である。貯蔵弾性率(G’)曲線は、試験中におけるグリースの分散相(増ちょう剤系)の構造的効果を表している。損失弾性率(G”)曲線は、試験中におけるグリースの非分散連続相(基油系)の構造的効果を表している。見てわかるように、非ミリンググリースのG’及びG”曲線は、ミリンググリースのG’及びG”曲線と重なっている。更に、グリース構造の機械的安定性の指標であるG’曲線とG”曲線の交差点は、非ミリングとミリングの両方のグリースで同じである。この情報は、グリセロール誘導体が機械式ミルを実際に使用せずにグリースにミリング効果を与えたという観察を裏付けている。
<実施例11> 最終グリース特性に対する従来の非水性変換剤の機能を更に測定するために、別のバッチを、1つのことを除いて前の実施例10のグリースと同じにして作製した。このグリースでは、半分の量のヘキシレングリコールのみを使用した。最終点まで変換プロセスに要した総時間は、約4時間46分であった。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が255であり、60往復混和ちょう度が257であった。滴点は540°Fであった。ミリングしたグリースは、不混和ちょう度が225であり、60往復混和ちょう度が247であった。滴点は567Fであった。最終グリース中の過塩基性カルシウムスルホネートの割合は32.82%であった。このグリースのちょう度値を先の実施例10のグリースと比較すると、非水性変換剤の濃度を半分にすると、非ミリンググリースの増ちょう剤収率がやや低下するが、ミリングしたグリースの増ちょう剤収率には大きな影響がないことがわかる。
<実施例12> 別のカルシウム/マグネシウムスルホネートグリースを、本明細書の先の実施例10グリースと同様に製造した。しかしながら、幾つかの違いがあった。第1に、最初の基油及び過塩基性カルシウムスルホネートの後であって、過塩基性マグネシウムスルホネートの前に、促進酸を加えた。これは、米国特許第10,087,388号に記載されている促進酸遅延法の一形態である。この手法は、先のベースラインである実施例2及び3でも使用したが、実施例7~11では使用しなかったことに留意のこと。第2に、加えた粉末炭酸カルシウムの総量を2倍にした。変換前の量は、実施例10とほぼ同じとした。しかしながら、変換後に2回目の等量を追加した。最後に、12-ヒドロキシステアリン酸の総量をそれに応じて増やした。
グリースを以下のようにして作製した。616.66グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する506.64グラムの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義されている低品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、61.63グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。20分間混ぜた後、61.39グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートを加えて、15分間混ぜた。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する149.27グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜ合わせた。次に、17.68グラムのグリセロールモノステアレート(GMS)を加えた。続いて、54.05グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と1.66グラムの氷酢酸とを加えた。次に、81.70グラムの水を加え、バッチを190°F乃至200°Fに加熱した。加熱が始まると、バッチは一気に増ちょうした。しかしながら、目標温度範囲に到達するまでに、バッチは低粘ちょう化していた。
その後、3時間39分かけて、262.8グラムの水を7回に分けて加えた。この混合時間中に、バッチは徐々に増ちょうし、非常に増ちょうした。しかしながら、FTIRのスキャンは、変換プロセスが停滞していることを示した。3時間39分の混合時間の終わりでのFTIRスペクトルは、882cm-1にて小さなピーク(完全な変換を表す)のみを示した。874cm-1の大きなピークには、元の862cm-1のピーク(非晶質炭酸カルシウム)を中心とした大きくて広いショルダーがあった。このFTIRスペクトルは通常、目に見えるグリース構造がほとんどない僅かな変換しか示していない。しかしながら、そのバッチは非常に増ちょうしており、グリース構造がよく発達していた。この挙動は、本明細書で言及されている米国特許出願又はそれらの発行された特許で述べられているグリースの実施例の何れにおいてもこれまで観察されたことはなかった。FTIRでは変換が停滞しているように見えたので、30.1グラムの水と31.68グラムのヘキシレングリコールとをバッチに加えた。数分後、バッチは更に増ちょうした。バッチが重くなったため、67.86グラムの同じパラフィン系基油を追加した。しかしながら、30分後、FTIRスペクト更なる変化を示さなかった。これにより、変換プロセスは、可能な限り進んだと判断した。変換のこの程度に達するまでの総時間は4時間22分であった。バッチを冷却し、混ぜることを止めた。
16時間後、バッチを190°F乃至200°Fに加熱し直した。バッチが重くなったため、80.06グラムの同じパラフィン系基油を追加した。次に、154.56グラムの同じ粉末炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜ合わせた。次に、107.15グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と2.87グラムの酢酸をバッチに加え、更なる増ちょうが観察されなくなるまで混ぜ合わせた。この間、同じパラフィン系基油を2回、合計194.03グラム加えた。次に、32.95グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜ合わせて反応させた。その後、グリースを390乃至400°Fに加熱した。この間、バッチは幾分薄低粘ちょう化した、グリースのちょう度を保っていた。バッチの温度が390°Fに達すると直ぐに加熱マントルを取り除き、バッチを160°Fまで冷却した。バッチが冷えると、再び重くなった。82.41グラムの同じパラフィン系基油を加えた。バッチが160°Fに達すると、バッチの一部を、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。残りのバッチはミリングせずに保存した。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が225であり、60往復混和ちょう度が267であった。滴点は567°Fであった。ミリングしたグリースは、不混和ちょう度が235であり、60往復混和ちょう度が273であった。滴点は541°Fであった。最終グリース中の過塩基性カルシウムスルホネートの割合は27.75%であった。最終グリースの変換に関連するFTIRピークは、変換が可能な限り進んだと見なされたときに観察されたものと同じであった。
先の実施例7~11のグリースと同様に、このグリースの製造中のFTIRスペクトルと最終製品のFTIRスペクトルとは、加えられたグリセロール誘導体の大半が加水分解され、結果として生じる長鎖脂肪酸が炭酸カルシウムと反応して、対応するカルシウム塩増ちょう剤成分を形成したことを示した。
このグリースの結果に関して、4つの点に注意する必要がある。第1に、このグリースは、同じ混和ちょう度ベースで比較した場合、先の実施例のグリースの全てと比較して優れた増ちょう剤収率を有していた。第2に、非ミリンググリースとミリングしたグリースのちょう度が同様であることから分かるように、ミリングは、ここでも実際の増ちょう剤収率にはほとんど影響しなかった。これは、実施例7、10、及び11で観察されたものと同様である。第3に、当業者による変換不良の証拠として通常解釈されるであろうFTIRスペクトルにも拘わらず、良好な増ちょう剤収率が生じた。最後に、この場合も、炭酸カルシウム系カルシウムスルホネートコンプレックスグリースを低品質の過塩基性カルシウムスルホネートを用いて、そして12-ヒドロキシステアリン酸、酢酸、及びリン酸をコンプレックス化酸として用いて作った場合に通常観察される滴点よりも、滴点が高くなる。実際、非ミリンググリースはミリングしたグリースよりも滴点が高かった。これらの4つの観察結果は、驚きであり、予想外である。
グリースの増ちょう剤分散に対するグリセロール誘導体(GMS)の効果に関する更なる情報は、振動式レオメーターを用いて観察することができる。振幅掃引を25℃で行った。結果は図2の通りである。非ミリンググリースとミリンググリースのG’曲線とG”曲線は、完全に重なり合ってはいないが、互いに接近している。これは,ミリングしたグリースが非ミリンググリースよりも僅かに硬い2つのグリースのちょう度値に対応している。しかしながら、非ミリンググリースとミリンググリースのG’曲線とG”曲線の交差点は、ほぼ同じ相対せん断ひずみ値であって、両グリースの構造的安定性が類似していることを示している。
<実施例13> 別のカルシウム/マグネシウムスルホネートコンプレックスグリースを、本明細書の先の実施例12のグリースと同様に製造した。唯一の違いは、先の実施例12のグリースで使用した促進酸遅延法が採用されなかったことである。代わりに、過塩基性カルシウムスルホネート、過塩基性マグネシウムスルホネート、及び最初の基油を加えて混ぜた後に、促進酸を加えた。
変換前の実施例13のこのグリースは、1つの要因、つまり、実施例13のこのグリースは、実施例10のグリースと比較して変換前の12-HSA濃度が非常に高かったことを除いて変換前の実施例10のグリースと本質的に同じであることにも注目すべきである。
グリースを以下のようにして作製した。625.5グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する505.7グラムの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義されている低品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。次に、62.4グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートAを加え、15分間混ぜ合わせた。その後、61.2グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する150.9グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜた。次に、17.43グラムのグリセロールモノステアレート(GMS)を加えた。続いて、52.80グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と1.45グラムの氷酢酸とを加えた。次に、82.10グラムの水を加え、バッチを190°F乃至200°Fに加熱した。加熱が始まると、バッチは一気に増ちょうした。しかしながら、目標温度範囲に到達するまでに、バッチは低粘ちょう化していた。
その後、約6時間かけて、270グラムの水を9回に分けて加えた。この混合時間中に、バッチは徐々に増ちょうした。しかしながら、FTIRのスキャンは、変換プロセスが停滞していることを示した。約6時間の混合時間の終わりでのFTIRスペクトルは、882cm-1にて小さなピーク(完全な変換を表す)のみを示した。874cm-1の大きなピークには、元の862cm-1のピーク(非晶質炭酸カルシウム)を中心とした大きくて広いショルダーがあった。このFTIRスペクトルは通常、目に見えるグリース構造がほとんどない僅かな変換しか示していない。しかしながら、そのバッチは非常に増ちょうしており、グリース構造がよく発達していた。これは、先の実施例12のグリースで観察された増ちょうとFTIRスペクトルの挙動と同じである。しかしながら、既に述べたように、この挙動は、本明細書で言及されている米国特許出願又はそれらの発行された特許で述べられているグリースの実施例の何れにおいてもこれまで観察されたことはなかった。加熱マントルをミキサーから取り外し、バッチを約25分間混ぜた。その後、混ぜることを中止し、バッチを約16時間静置した。その後、バッチを混ぜつつ190°F乃至200°Fに加熱した。FTIRでは変換が停滞しているように見えたので、80グラムの水と31.3グラムのヘキシレングリコールとをバッチに加えた。数分後には、バッチは更に過剰な量で更に増ちょうしていた。バッチが非常に重くなったため、総量456.87グラムの同じパラフィン系基油を、3回に分けて追えた。1時間後、FTIRスペクトルは、変換がほぼ完了していることを示した。元の862cm-1の非晶質炭酸カルシウムのピークは無くなっていた。874cm-1の識別可能なショルダーだけが残った。この時点までの190~200°Fでの総変換時間は、8時間18分であった。
このバッチを更に約1時間混ぜた後、42.02グラムの水と149.39グラムの同じ粉末炭酸カルシウムとを加えて、20分間混ぜ合わせた。次に、107.39グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と3.93グラムの酢酸をバッチに加え、更なる増ちょうが観察されなくなるまで混ぜ合わせた。次に、34.61グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜ合わせて反応させた。その後、グリースを390乃至400°Fに加熱して、次に冷却した。バッチが冷えると、重くなったように見えた。同じパラフィン系基油を3回に分けて、合計212.02グラム加えて、グリースに混ぜ合わせた。バッチが160°Fに達すると、バッチの一部を、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が289であり、60往復混和ちょう度が293であった。滴点は640°Fであった。ミリングしたグリースは、不混和ちょう度が161であり、60往復混和ちょう度が213であった。滴点は642°Fであった。最終グリース中の過塩基性カルシウムスルホネートの割合は25.29%であった。興味深いことに、最終的にミリングしたグリースの変換関連ピークを見ると、874cm-1のショルダーが、支配的な882cm-1のピークの約半分の高さの僅かに明確なピークに成長していた。
先の実施例7~12のグリースと同様に、このグリースの製造中のFTIRスペクトルと最終製品のFTIRスペクトルとは、加えられたグリセロール誘導体の大半が加水分解され、結果として生じる長鎖脂肪酸が炭酸カルシウムと反応して、対応するカルシウム塩増ちょう剤成分を形成したことを示した。
このグリースの結果に関して、幾つかの点に注意する必要がある。第1に、変換中の挙動は、従来の非水性変換剤(ヘキシレングリコール)を加えるまでは先の実施例12のグリースと同じであった。しかしながら、ヘキシレングリコールを加えると、実施例13のこのグリースは、少なくともFTIRスペクトルで示されたように、ほぼ完全な状態まで変換プロセスを急速に進めた。対照的に、先の実施例12のグリースのFTIRスペクトルは、非水性変換剤を加えた後に大きく変化しなかった。次に、このグリースの増ちょう剤収率は、先の実施例12のグリースより顕著に優れていた。これは、非ミリンググリースとミリングしたグリースの両方に当てはまる。実際に、混和ちょう度と過塩基性カルシウムスルホネート濃度の割合との間の通例の逆線形関係を用いると、ミリングされた実施例13のグリースは、混和ちょう度を280の値(グレード2グリースの中程度のちょう度値)にするために更なる基油が追加されていた場合、19.2%の濃度で過塩基性カルシウムスルホネートを有していただろう。この値は、前述の出願及びそれらの発行された特許に記載されている如何なる炭酸カルシウム系カルシウムスルホネートグリースの他の値よりも優れている(低い)。これは、過塩基性マグネシウムスルホネートや従来の非水性変換剤を使用しているか否かに関わらず、これらの出願の全てグリースが含まれる。第3に、ミリングされた実施例13のグリースの増ちょう剤収率は、対応する非ミリンググリースよりも遥かに優れていた。これは従来技術のスルホネート系グリースの通常の挙動であるが、付加グリセロール誘導体を用いた先の実施例7~12のグリースでは観察されていない。最後に、非ミリングの実施例13とミリングされた実施例13の両方の滴点は非常に高かった。これらは、低品質の過塩基性カルシウムスルホネートが使用された場合とコンプレックス化酸が12-ヒドロキシステアリン酸、酢酸、及びリン酸であった場合とおける、前述の出願と発行された特許で報告された炭酸カルシウム系カルシウムスルホネートグリースの最高の滴点の値である。これは、過塩基性マグネシウムスルホネートや従来の非水性変換剤を使用しているか否かに関わらず、先に報告されたような全てのグリースを含む。
この実施例13のグリースと前記実施例12のグリースとの間の唯一の製造プロセスの違いは、過塩基性マグネシウムスルホネートと促進酸の添加の相対的な順序、即ち、米国特許第10,087,388号に記載されている促進酸添加後の遅延法を採用するかどうかであった。従って、この2つのグリースの上記の違いは、そのプロセス技術が採用されたか否かに起因していなければならない。その理由はまだ特定されていない。確かに、増ちょう剤収率、FTIRスペクトルの挙動、滴点、及び(存在する場合)ミリングなしでの最適な増ちょう剤分散の改善に関するこれらの違いは、驚くべきものであり、当業者には予想できなかったであろう。
<実施例14> 前の実施例13のミリングしたグリースは非常に硬いちょう度を有していたので、その759.3グラムの部分を、洗浄した後にミキサーに戻した。ミリングしたグリースを攪拌し、約160°Fまで加熱した。次に、同じパラフィン系基油を2回に分けて、合計85.1グラム加え、45分間グリースと混ぜ合わせた。完全に混ざり合った後、グリースを取り出し、翌日まで冷却した。グリースの不混和ちょう度は、299であった。その60往復混和ちょう度はまた、299であった。滴点は638°Fであった。過塩基性カルシウムスルホネートの割合は22.8%であった。混和ちょう度と過塩基性カルシウムスルホネート濃度の割合との間の通例の逆線形関係を用いると、実施例14のグリースは、混和ちょう度を280の値(実施例13で比較値として用いたグレード2グリースの中程度のちょう度値)にするために更なる基油が追加されていた場合、24.3%の濃度で過塩基性カルシウムスルホネートを有していただろう。この値は、先の実施例13で計算された19.2%の推定値(これは、追加の基油が加えられた際の撹拌中に実施例13のミリンググリースに発生したいくらかの軟化に起因しているかも知れない)ほど良好な増ちょう剤収率ではないが、実施例14のこのグリースの最終的な増ちょう剤収率は、先に述べた出願及びその発行された特許に記載された如何なる炭酸カルシウム系カルシウムスルホネートグリースについて報告された中で最良の値の1つである。これは、過塩基性マグネシウムスルホネートや従来の非水性変換剤を使用しているか否かに関わらず、これらの出願の全てグリースが含まれる。
<実施例15> 本明細書の先の実施例12と同様にして別のグリースを作った。このグリースと先の実施例12のグリースとの間には、3つの大きな違いしかなかった。第1に、このグリースを190°F乃至200°Fに加熱すると、ヘキシレングリコール(主たる非水性変換剤)を加える前において停滞する(FTIRスペクトルで停滞しているように見える)まで、変換プロセスを継続しなかった。その代わり、温度が190°Fに達した時点で直ちにヘキシレングリコールを加えた。第2に、このグリースを作る際に、粉末炭酸カルシウムの最初の部分だけを変換前に加えた。変換後に粉末炭酸カルシウムの2回目の添加は行わなかった。第3に、このグリースに、変換後のコンプレックス化酸としてホウ酸も加えた。先の実施例12のグリースでは、ホウ酸を使用しなかった。
グリースを以下のようにして作製した。618.2グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する505.48グラムの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義されている低品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、62.90グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。20分間混ぜた後、63.20グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートを加えて、15分間混ぜ合わせた。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する150.53グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜ合わせた。次に、17.42グラムのグリセロールモノステアレート(GMS)を加えた。続いて、52.84グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と1.66グラムの氷酢酸とを加えた。次に、79.81グラムの水を加え、バッチを190°F乃至200°Fに加熱した。加熱が始まると、温度が98°Fに達するまでに、顕著なグリース構造がはっきり見えた。このグリース構造は、温度が140°Fまで上昇する際に増ちょうを続けた。温度が140°Fを超えて上昇し続けると、バッチは低粘ちょう化し始めた。温度が190°Fに達するまでには、顕著なグリース構造は見られなくなった。
バッチが190°Fに至ると直ぐに、30.1グラムのヘキシレングリコールをバッチに加えた。FTIRスペクトルは、このバッチにはまだ十分な水があることを示したので、水を追加しなかった。その結果、バッチは数分後には明らかに増ちょうを開始した。20分後、バッチは非常に重くなっていた。FTIRスペクトルでは、882cm-1の優勢なピーク(完全な変換を表す)と874cm-1の非常に小さいが明確なピークが見られ、元々あった862cm-1のピーク(非晶質炭酸カルシウム)は無くなっていた。加熱によって失われたと思われた水を補うために、更に42グラムの水を加えた。その後、グリースのとろみが極端に増したため、同じパラフィン系基油を2回に分けて、合計116.96グラムを加えた。約45分後、FTIRスペクトルは、水が見られないことを除いて、更なる変化を示さなかった。この時点までの190~200°Fでの総変換時間は62分であった。
42.1グラムの水を加え、続いて107.37グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と3.26グラムの酢酸とを加えた。これら2つのコンプレックス化酸による更なる反応又は増ちょうが見られなかった後、50グラムの熱水でスラリー状にした17.04グラムのホウ酸を加えて反応させた。バッチのとろみが増したため、70.96グラムの同じパラフィン系基油を更に加えた。次に、32.93グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜ合わせて反応させた。その後、混合物を撹拌し続けながら加熱した。グリースが300°Fに達すると、39.99グラムのスチレン-アルキレンコポリマーをクラム状固体として加えた。このグリースを更に約390°Fまで加熱すると、全てのポリマーが溶融し、グリース混合物に完全に溶解した。加熱マントルを取り出し、外気中で攪拌を続けながらグリースを冷却した。グリースが300°Fまで冷えると、平均粒子径が5ミクロン以下である100.04グラムの食品グレード無水硫酸カルシウムを加えた。グリースの温度が200°Fまで冷えると、3.84グラムのアリールアミン系酸化防止剤を加えた。次に、同じパラフィン系基油を3回に分けて合計248.41グラム加えた。その直後、19.57グラムのPAOを加えて、バッチに混入させた。このPAOは、100℃で約4cStの粘度を有していた。加熱マントルを外し、撹拌を停止した。このバッチは冷却され、16時間静置された。
翌朝、バッチを撹拌しながら約150°Fまで加熱した。その後、合計235.45グラムの同じパラフィン系基油を4回に分けて加えて、バッチに混ぜ合わせた。バッチの一部をミリングせずに取り出し、スチール缶に保存した。バッチの残りを、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。その後、ミリングしたグリースを清浄にした混合容器に入れ、150°Fの温度で約40分間攪拌した。その後、ミリング及び攪拌したグリースを取り出し、スチール缶に保存した。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が245であり、60往復混和ちょう度が259であった。滴点は650°Fを超えていた。ミリング及び撹拌したグリースは、不混和ちょう度が259であり、60往復混和ちょう度が271であった。滴点は650°Fを超えていた。両方のグリースサンプルにおける過塩基性カルシウムスルホネートの割合は24.75%であった。
先の実施例と同様に、このグリースの製造中のFTIRスペクトルと最終製品のFTIRスペクトルとは、加えられたグリセロール誘導体の大半が加水分解され、結果として生じる長鎖脂肪酸が炭酸カルシウムと反応して、対応するカルシウム塩増ちょう剤成分を形成したことを示した。
このグリースの結果に関して、4つの点に注意する必要がある。第1に、このグリースは、同じ混和ちょう度ベースで比較した場合、実施例14のグリースを除く先の実施例のグリースの全てと比較して優れた増ちょう剤収率を有していた。より具体的には、実施例15のこのグリースは、実施例12のグリースと比較して、増ちょう剤収率が著しく優れていた。この実施例の冒頭で述べたように、実施例12と15の主な違いは、実施例15では、190°Fに至った直後にヘキシレングリコールが加えられたことである。実施例12のグリースでは、3時間を超えて加熱した後、190~200°Fでの変換プロセスがFTIRスペクトルによれば停滞するまで、ヘキシレングリコールを添加しなかった。主たる変換剤であるヘキシレングリコールを直ちに加えたことが、収率向上の理由である可能性がある。第2に、実施例15のこのグリースの変換プロセス後のFTIRスペクトルは、実施例12のグリースのFTIRスペクトルと大きく異なっていた。実施例15のFTIRスペクトルは、874cm-1の小さなピークのみが残っていることを証拠として、より完全な変換が行われていることを示している。これは、実施例12と比較して実施例15の収率が向上したことと一致する。第3に、非ミリンググリースとミリングしたグリースの60往復混和ちょう度が同様であることから分かるように、ミリングは、ここでも実際の増ちょう剤収率に僅かにしか影響しなかった。これは、実施例7、10、11及び12で観察されたものと同様である。実際、実施例15の非ミリンググリースは、実施例15のミリングしたグリースよりもやや硬いちょう度の値を示した。最後に、グリースがミリングされるか否かに関わらず、高い滴点が得られた。
ここでも、グリセロール誘導体(GMS)が増ちょう剤を分散させ、ミリングしても顕著な増ちょうが見られない程度になることは、振動式レオメーターを用いても観察できる。図3は、実施例15の非ミリング及びミリング/撹拌グリースの25℃における振動式レオメーターの振幅掃引の結果である。見てわかるように、非ミリンググリースのG及びG”曲線は、ミリンググリースのG’及びG”曲線とほぼ正確に重なっている。更に、G’曲線とG”曲線の交差点は、非ミリンググリースとミリングしたグリースの両方で同じである。この情報は、グリセロール誘導体が機械式ミルを実際に使用せずにグリースにミリング効果を与えたという観察を裏付けている。
<実施例16> 別のグリースを、幾つかの顕著な例外を除いて、先の実施例15のグリースと同様に製造した。第1に、グリセロールモノステアレート(GMO)の代わりに水添ヒマシ油(HCO)を使用した。HCOには、先の実施例7のグリースで使用したものと同じ材料を使用した。それは、実施例15で加えられたGMSとほぼ同じ12-ヒドロキシステアリン酸相当量(acid equivalence)を提供するレベルで加えられた。第2に、実施例15のように炭酸カルシウムの全てを変換前に加えるのではなく、炭酸カルシウムの第1の部分を変換前に加えて、第2の部分を変換後に加えた。
グリースを以下のようにして作製した。618.4グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約600SUSの粘度を有する500.02グラムの溶剤ニュートラルグループ1パラフィン系基油を加えた。400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートは、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義されている低品質カルシウムスルホネートであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、61.73グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。20分間混ぜた後、65.53グラムの過塩基性マグネシウムスルホネートを加えて、15分間混ぜ合わせた。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する150.00グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、20分間混ぜ合わせた。次に、20.33グラムの水添ヒマシ油(HCO)を加えた。続いて、52.78グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と1.54グラムの氷酢酸とを加えた。その後、81.00グラムの水を加え、190°F乃至200°Fまでバッチを加熱した。加熱が始まると、温度が99°Fに達するまでに、顕著なゼラチン状の構造が形成されていた。バッチ温度が145°Fに達すると、このゼラチン状の構造は少なくなり始めた。温度が160°Fに達するまでに、バッチは非常に低ちょう度になり、ゲルやグリースの構造は目立たなくなった。
バッチが190°Fに達すると直ぐに、FTIRスペクトルは、元の862cm-1のピークが減少し、874cm-1のより大きなピークが既に形成されることを示した。30.3グラムのヘキシレングリコールをバッチに加えた。10分後、目に見えるグリース構造が形成された。更に36分後、FTIRスペクトルでは、882cm-1の優勢なピーク(完全な変換を表す)と874cm-1の小さいが明確なピークが見られ、元の862cm-1のピーク(非晶質炭酸カルシウム)は無くなっていた。その後、グリースのとろみが極端に増したため、合計242.12グラムの同じパラフィン系基油を4回に分けて加えた。また、蒸発によって失われた分を補うために、更に42グラムの水を加えた。バッチのとろみが顕著に増したため、27.94グラムの同じパラフィン系基油を更に加えた。更に10分後、更に合計69.13グラムの同じパラフィン系基油を2回に分けて、61グラムの水と共に加えた。このバッチを220°Fまで加熱し、80グラムの水を加えた。5分後、FTIRスペクトルは、更なる変化が起こっていないことを示した。元の862cm-1のピーク(非晶質炭酸カルシウム)は全て消えていた。支配的なピークは882cm-1(完全な変換を表す)であり、874cm-1の小さいながらも明確なピークはまだ存在していた。2回目の粉末炭酸カルシウムを加える前の190~200°Fの温度での総時間は、1時間53分だった。しかしながら、FTIRの変換関連のピークは、たった約67分後に最終状態に達した。従って、総変換時間は67分を超えていない。
149.84グラムの同じく粉末状の炭酸カルシウムを加えて、グリースに混ぜ合わせた。バッチの重さが続いたため、更に48.08グラムの同じパラフィン系基油を加えた。次に、107.27グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と3.12グラムの氷酢酸とを加えた。更なる顕著な増ちょうが起こったので、39.44グラムの同じパラフィン系鉱物油を加えた。これら2つのコンプレックス化酸による更なる反応又は増ちょうが見られなかった後、50グラムの熱水でスラリー状にした16.92グラムのホウ酸を加えて反応させた。次に、32.17グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜ合わせて反応させた。その後、混合物を撹拌し続けながら加熱した。グリースが300°Fに達すると、40.05グラムのスチレン-アルキレンコポリマーをクラム状固体として加えた。このグリースを更に約390°Fまで加熱すると、全てのポリマーが溶融し、グリース混合物に完全に溶解した。加熱マントルを取り出し、外気中で攪拌を続けながらグリースを冷却した。グリースが300°Fまで冷えると、平均粒子径が5ミクロン以下である100.59グラムの食品グレード無水硫酸カルシウムを加えた。その後、19.35グラムのPAOを加えた。このPAOは、100℃で約4cStの粘度を有していた。グリースの温度が200°Fまで冷えると、4.08グラムのアリールアミン系酸化防止剤を加えた。合計153.61グラムの同じパラフィン系基油を3回に分けて、加えて、グリースに混ぜ合わせた。加熱マントルを外し、撹拌を停止した。このバッチは冷却され、16時間静置された。
翌朝、バッチを撹拌しながら約150°Fまで加熱した。その後、合計204.17グラムの同じパラフィン系基油を4回に分けて加えて、バッチに混ぜ合わせた。バッチの一部をミリングせずに取り出し、スチール缶に保存した。バッチの残りを、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。その後、ミリングしたグリースを清浄にした混合容器に入れ、150°Fの温度で約45分間攪拌した。その後、ミリング及び攪拌したグリースを取り出し、スチール缶に保存した。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が247であり、60往復混和ちょう度が263であった。滴点は650°Fを超えていた。ミリング及び撹拌したグリースは、不混和ちょう度が255であり、60往復混和ちょう度が263であった。滴点は650°Fを超えていた。両方のグリースサンプルにおける過塩基性カルシウムスルホネートの割合は22.44%であった。
先の実施例と同様に、このグリースの製造中のFTIRスペクトルと最終製品のFTIRスペクトルとは、加えられたグリセロール誘導体(HCO)の大半が加水分解され、結果として生じる長鎖脂肪酸が炭酸カルシウムと反応して、対応するカルシウム塩増ちょう剤成分を形成したことを示した。
このグリースの結果に関して、4つの点に注意する必要がある。第1に、このグリースは、同じ混和ちょう度ベースで比較した場合、先の実施例14のミリングしたグリースを含む先の実施例のグリースの全てと比較して優れた増ちょう剤収率を有していた。この実施例16のグリースを実施例14と具体的に比較すると、実施例16のグリースは、両方のグリース中の過塩基性カルシウムスルホネートの割合が基本的に同じ値であるにも拘わらず、実施例14のミリングしたグリースよりも30ポイント以上硬い混和ちょう度を有していた。これは、実施例16の非ミリンググリースにも当てはまるので、更に注目に値する。第2に、実施例16のこのグリースの変換プロセス後のFTIRスペクトルは、実施例15のグリースと同様であった。優れた収率と特異なダブレット変換ピークの両方が、実施例15のグリース(GMSを使用)と実施例16(HCOを使用)の特徴であった。第3に、非ミリンググリースとミリングしたグリースの60往復混和ちょう度が同様であることから分かるように、ミリングは、ここでも実際の増ちょう剤収率に影響しなかった。これは、実施例7、9、10、11、12、及び15で観察されたものと同様である。最後に、グリースがミリングされるか否かに関わらず、高い滴点が得られた。
ここでも、グリセロール誘導体(GMS)が増ちょう剤を分散させ、ミリングしても顕著な増ちょうが見られない程度になることは、振動式レオメーターを用いても観察できる。図4は、実施例16の非ミリング及びミリング/撹拌グリースの25℃における振動式レオメーターの振幅掃引の結果である。見てわかるように、非ミリンググリースのG’及びG”曲線は、ミリンググリースのG’及びG”曲線と重なっている。更に、G’曲線とG”曲線の交差点は、非ミリンググリースとミリングしたグリースの両方で同じである。この情報は、グリセロール誘導体が機械式ミルを実際に使用せずにグリースにミリング効果を与えたという観察を裏付け続けている。
実施例7~16のグリースの概要を以下の表5~9に示す。表5は組成情報のまとめ、表6は使用した処理方法のまとめであり、表7はFTIR変換の挙動とデータのまとめ、表8は、各実施例のミリング前(非ミリング)とミリング後のちょう度値と滴点のまとめを、グリースを最初に作った時と貯蔵期間後の両方で示した。実施例12~16のグリースについて、追加の試験を行った。その結果を以下の表9に示す。
表5~9のデータから分かるように、本発明の様々な組成変数及びプロセス変数の特定の実施形態は、他のものよりも優れた性能及び構造安定性特性をもたらす。当業者が認識するように、実施例15及び16のグリースは、この点で注目に値する。
実施例17は、本発明の好ましい実施形態によるグリセロール誘導体の添加を含まない別のベースライン実施例である。実施例17~23では、米国特許第9,458,406号に記載されているように(更に‘101、‘102、‘387、‘388、‘391特許に記載されているように)、コンプレックス化酸と反応させるためのカルシウム含有塩基として、付加カルシウムヒドロキシアパタイトを使用している。
<実施例17> 米国特許9,458,406号のカルシウムヒドロキシアパタイト技術に基づいてグリースを作った。このグリースは比較のためのベースラインとして働く。このグリースには、付加グリセロール誘導体を使用しなかった。また、このグリースには、過塩基性マグネシウムスルホネートを使用しなかった。過塩基性カルシウムスルホネートのみを使用した。変換剤遅延添加法は用いなかった。先の実施例に対して、このグリースには異なる市販の過塩基性カルシウムスルホネートを使用した。また、基油には別の市販のものを使用した。別の非水性変換剤(プロピレングリコール)を使用した。ホウ酸は使用しなかった。スチレン-アルキレンコポリマーの使用量は遥かに少なかった。グリースを加熱した最高温度は、たった340°Fであった。最後に、アミンリン酸塩添加剤と異なる酸化防止剤とを製造手順の終わり近くに加えた。
グリースを以下のようにして作製した。544.0グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約352SUSの粘度を有する661.7グラムのUSP純度の白色パラフィン系鉱物基油を加えた。この過塩基性カルシウムスルホネートは、NSF H-1承認食品グレードグリースを作るのに適したNSF HX-1食品グレード承認過塩基性カルシウムスルホネートであって、‘406特許で定義された高品質のものであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、48.91グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する91.98グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトと、5ミクロン未満の平均粒径を有する7.44グラムの食品グレードの純度の水酸化カルシウムとを加えて、30分間混ぜ合わせた。次に、1.73グラムの氷酢酸と、21.76グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えて、10分間混ぜ合わせた。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する100.56グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、5分間混ぜ合わせた。次に、70.6グラムの水と、27.05グラムのプロピレングリコールとを加えた。混合物を、温度が190乃至200°Fになるまで加熱した。温度が約166°Fに至ると、目に見える増ちょうが始まった。その時点で取得されたFTIRスペクトルは、882cm-1(完全な変換を表す)にて支配的なピークを示し、874cm-1にて小さいが明確なピークを示し、862cm-1にて非常に目立ったショルダー(元の非晶質炭酸カルシウムを表す)を示した。
温度が195°Fに至ると、FTIRスペクトルは、882cm-1の支配的なピーク(完全な変換を表す)が増加したことを示した。874cm-1のピークはまだ明確であったが、減少していた。862cm-1のショルダー(元の非晶質炭酸カルシウムを表す)も減少していた。その後4時間、温度を190乃至200°Fに保った。この間、蒸発によって失われた水を補うために、更に7回、合計243グラムの水を加えた。FTIRスペクトルは、この間、862cm-1のショルダーが無くなるまで進行し続け、非晶質炭酸カルシウムから結晶性炭酸カルシウム(カルサイト)への変換が起こったことを示した。しかしながら、この非晶質炭酸カルシウムの最終量が無くなると、874cm-1の中間ピークが増加し、882cm-1のピークとほぼ同じ大きさになった。これら2つのピークは、かろうじて分かるダブレットとして出現した。このFTIRスペクトルが最後の20分間に変化しなかったことから、変換プロセスは終了したと考えられた。190乃至200°Fでの混合時間に基づく総変換時間は、3時間14分であった。
次に、32.2グラムの水と15.14グラムの同じ水酸化カルシウムとを加え、10分間混ぜ合わせた。その後、55.45グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えて反応させた。顕著な増ちょうのために、総量191.22グラムの同じパラフィン系基油を2回に分けて加えて混ぜ合わせた。次に、3.22グラムの酢酸を加えた。これら2つのコンプレックス化酸が反応した後、38.00グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜ合わせて反応させた。その後、混合物を撹拌し続けながら、電気加熱マントルで加熱した。グリースが300°Fに達すると、40.13グラムのスチレン-アルキレンコポリマーをクラム状固体として加えた。このグリースを更に約340°Fまで加熱すると、全てのポリマーが溶融し、グリース混合物に完全に溶解した。加熱マントルを取り出し、外気中で攪拌を続けながらグリースを冷却した。グリースが300°Fまで冷えると、平均粒子径が5ミクロン以下である59.61グラムの食品グレード無水硫酸カルシウムを加えた。グリースは冷めるにつれて、粘度を増した。112.13グラムの同じパラフィン系基油を追加した。グリースの温度が200°Fまで冷えると、アリールアミン系酸化防止剤と高分子フェノール系酸化防止剤の11.11グラムの混合物と11.67グラムのリン酸アミン系酸化防止剤/防錆添加剤とを加えた。合計63.62グラムの同じ基油を2回に分けて加えた。グリースの温度が150°Fになるまで混ぜ続けた。
バッチの一部をミリングせずに取り出し、スチール缶に保存した。この非ミリンググリースの一部を清浄な鋼板に広げて、約77°Fまで空冷した。非ミリンググリースのこの一部は、不混和ちょう度が269であり、60往復混和ちょう度が287であった。ミキサーに残っていたバッチの残りの部分を、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。ミリングしたグリースの一部を清浄な鋼板の上に広げ、約77°Fまで空冷した。ミリングしたグリースのこの一部は、不混和ちょう度が253であり、60往復混和ちょう度が267であった。その後、残りのミリングしたグリースを清浄にした混合容器に入れ、150°Fの温度で約45分間攪拌した。ミリングしたグリースの一部を清浄な鋼板の上に広げ、約77°Fまで空冷した。ミリング及び撹拌したグリースのこの一部は、不混和ちょう度が261であり、60往復混和ちょう度が281であった。ミリング及び攪拌したグリースの残りの部分を取り出し、スチール缶に保存した。約24時間後、グリースの両方の缶(非ミリング及びミリング/攪拌)のちょう度を再評価した。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が245であり、60往復混和ちょう度が285であった。滴点は650°Fを超えていた。ミリング及び撹拌したグリースは、不混和ちょう度が267であり、60往復混和ちょう度が279であった。滴点は650°Fを超えていた。両方のグリースサンプルにおける過塩基性カルシウムスルホネートの割合は25.85%であった。
このグリースの変換プロセスの最後に観察されたFTIRダブレットピークが最終グリースに保持されたことに留意すべきである。先の試験で過塩基性カルシウムスルホネートのこの特定のバッチを使用して製造された他のグリースと比較すると、これは異常な挙動である。しかしながら、それは使用した過塩基性カルシウムスルホネートの年数に起因していると考えられる。今回の試験時では、過塩基性カルシウムスルホネートのバッチは約3年前のものであった(前回のテスト時には新品であった)。
<実施例18> 別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを、先の実施例17のベースライングリースと同様に作った。大きな違いは2つだけであった。HCOを、実施例16と同様の方法で変換前に加えて、プロピレングリコール(非水性変換剤)の第2の部分を、目標変換温度範囲に達した約53分後に加えた。
グリースを以下のようにして作製した。541.6グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約352SUSの粘度を有する662.5グラムのUSP純度の白色パラフィン系鉱物基油を加えた。この過塩基性カルシウムスルホネートは、NSF H-1承認食品グレードグリースを作るのに適したNSF HX-1食品グレード承認過塩基性カルシウムスルホネートであって、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義された高品質のものであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、49.11グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する92.03グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトと、5ミクロン未満の平均粒径を有する7.32グラムの食品グレードの純度の水酸化カルシウムとを加えて、30分間混ぜ合わせた。次に、2.00グラムの氷酢酸と、21.61グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えて、10分間混ぜ合わせた。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する100.11グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、5分間混ぜ合わせた。その後、20.14グラムの水添ヒマシ油(HCO)を加えて、バッチに混ぜ合わせた。次に、72.4グラムの水と、26.22グラムのプロピレングリコールとを加えた。加熱マントルを装着して、加熱プロセスを開始した。最初のFTIRスペクトルを、開始2分以内に得た。このスペクトルは、約874cm-1の大きなピークが見られることで、変換プロセスが既に始まっていることを示した。862cm-1の元のピーク(元の非晶質炭酸カルシウムを表す)は、874cm-1のピークとほぼ同じ高さの大きくて広いショルダーとして現れた。874cm-1のピークには、約882cm-1に、ショルダーの非常に僅かな始まりがあった。
混合物を、温度が190乃至200°Fになるまで加熱した。バッチ温度が190°Fに達すると、更にFTIRスペクトルを測定した。結果は、882cm-1(完全な変換を表す)にて支配的なピークを示し、874cm-1にて小さいが明確なピークを示し、862cm-1にて非常に目立ったショルダー(元の非晶質炭酸カルシウムを表す)を示した。このFTIRスペクトルは、製造プロセスのこの時点における先のベースライングリースのFTIRスペクトルと非常によく似ていた。次の53分間の混合中に、蒸発によって失われた水分を補うために、合計64.3グラムの水を2回に分けて加えた。FTIRのスペクトルに変化はなかった。それに伴い、更に15.92グラムのプロピレングリコールを加えた。プロピレングリコールを2回目に加えてから約1時間後、更に43グラムの水を加えると、FTIRスペクトルが変化をし始めた。874cm-1の中間ピークは増大し始め、862cm-1のショルダーは減少し始めた。プロピレングリコールの2回目の添加後から更に6時間、バッチを190乃至200°Fにて混ぜて、合計約536グラムの水を更に11回に分けて加えた後、FTIRスペクトルは変換が最終状態に達したことを示した。元の非晶質炭酸カルシウムのピークは消失していた。かろうじて分かる882cm-1と874cm-1のダブレットピークが残っていた。874cm-1のピークは882cm-1のピークとほぼ同じ高さであった。この6時間の混合の間に、合計284.24グラムの同じパラフィン系基油を9回に分けて加えたが、これはバッチのとろみが徐々に増したからである。190乃至200°Fでの混合時間に基づく総変換時間は、7時間弱であった。
次に、20.26グラムの水と15.04グラムの同じ水酸化カルシウムとを加え、約10分間混ぜ合わせた。その後、55.52グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えて反応させた。顕著な増ちょうのために、総量110.59グラムの同じパラフィン系基油を3回に分けて加えて混ぜ合わせた。次に、3.00グラムの酢酸を加えた。更なる増ちょうのため、38.23グラムの同じパラフィン系基油を追加して、混ぜ合させた。これら2つのコンプレックス化酸が反応した後、37.31グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜ合わせて反応させた。その後、混合物を撹拌し続けながら、電気加熱マントルで加熱した。グリースが300°Fに達すると、4.99グラムのスチレン-アルキレンコポリマーをクラム状固体として加えた。このグリースを更に約340°Fまで加熱すると、全てのポリマーが溶融し、グリース混合物に完全に溶解した。加熱マントルを取り出し、外気中で攪拌を続けながらグリースを冷却した。グリースが300°Fまで冷えると、平均粒子径が5ミクロン以下である60.00グラムの食品グレード無水硫酸カルシウムを加えた。グリースの温度が約200°Fまで冷えると、アリールアミン系酸化防止剤と高分子フェノール系酸化防止剤の9.65グラムの混合物と10.04グラムのリン酸アミン系酸化防止剤/防錆添加剤とを加えた。合計143.83グラムの同じ基油を2回に分けて加えた。グリースの温度が150°Fになるまで混ぜ続けた。合計46.45グラムの同じパラフィン系基油を2回に分けて加えて、バッチに混ぜ合わせた。加熱マントルを外し、撹拌を停止した。このバッチは冷却され、16時間静置された。
翌朝、バッチを撹拌しながら約150°Fまで加熱した。バッチの粘度がまだ非常に高かったので、合計66.8グラムの同じ基油を2回に分けてバッチに加えて混ぜ合わせた。バッチの一部をミリングせずに取り出し、スチール缶に保存した。この非ミリンググリースの一部を清浄な鋼板に広げて、約77°Fまで空冷した。非ミリンググリースのこの一部は、不混和ちょう度が273であり、60往復混和ちょう度が281であった。ミキサーに残っていたバッチの残りの部分を、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。回収されたこのミリングしたグリースの総量は997.5グラムであった。ミリングしたグリースの一部を清浄な鋼板の上に広げ、約77°Fまで空冷した。ミリングしたグリースのこの一部は、不混和ちょう度が255であり、60往復混和ちょう度が263であった。この空冷されたサンプルを、回収したミリングしたグリースの残りと一緒にミキシングボウルに戻した。更に57.62グラムの同じパラフィン系基油を加え、150°Fの温度で45分間混ぜ合せた。ミリングしたグリースの一部を清浄な鋼板の上に広げ、約77Fまで空冷した。ミリング及び撹拌したグリースのこの一部は、不混和ちょう度が291であり、60往復混和ちょう度が299であった。ミリング及び攪拌したグリースの残りの部分を取り出し、スチール缶に保存した。
約24時間後、グリースの両方の缶(非ミリング及びミリング/攪拌)のちょう度を再評価した。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が263であり、60往復混和ちょう度が285であった。滴点は621°Fであった。ミリング及び撹拌したグリースは、不混和ちょう度が279であり、60往復混和ちょう度が291であった。滴点は621°Fであった。非ミリンググリース中の過塩基性カルシウムスルホネートの割合は22.49%であった。ミリングしたグリース中の過塩基性カルシウムスルホネートの割合は21.26%であった。
最終製品のFTIRスペクトルは、ごく少量の非加水分解グリセロール誘導体(HCO)がまだ残っていることを示した。
この実施例18のグリースについては、先の実施例17のベースライングリースと比較して、2つの点が注目される。第1に,先の実施例17のグリースと同様に,このグリースの変換プロセスの最後に観測されたFTIRダブレットピークは,最終グリースにも保持されていた。ここでもまた、これは、この特定の過塩基性カルシウムスルホネートを用いて製造されたカルシウムスルホネートコンプレックスグリースでは珍しい挙動であるが、過塩基性カルシウムスルホネートの年数に起因していると考えられる。第2に、このグリースの変換時間は、実施例17のベースライングリースに比べて遙かに長かった。
実施例17及び18のグリースに関する追加の情報は、振動レオメトリーによって得られる。図5は、実施例17及び18の非ミリンググリースの振幅掃引の結果を示す。実施例18のグリースにおけるグリセロール誘導体(HCO)の効果は、幾つかのやり方で見ることができる。第1に、実施例18のグリースは増ちょう剤が大幅に少ない(収率が良い)にも拘わらず、両方の非ミリンググリースのG’及びG”の初期値はほとんど同じである。これは、この2つのグリースの混和ちょう度の値が同じであることに対応している。また,両方の非ミリンググリースのG’曲線とG”曲線の交差点は,ほぼ同じ相対せん断ひずみで起こっている。しかしながら、せん断ひずみが増加するにつれて、実施例18のグリースの基油部分(G”)において、実施例17のグリースと比較して、より多くの構造構築が見られる。これは、このグリースにおけるHCOの影響である可能性がある。
FIG.6は、実施例17及び18のミリングしたグリースの振幅掃引の結果を示す。ここでも、実施例18のグリースにおけるグリセロール誘導体(HCO)の効果は、幾つかのやり方で見ることができる。第1に、両方のミリングしたグリースのG’とG”の初期値は、それらのちょう度の差が小さいことを反映している。また,両方のミリングしたグリースのG’曲線とG”曲線の交差点は,ほぼ同じ相対せん断ひずみで起こっている。最後に、実施例18のグリースの基油部分(G”)の構造構築は、非ミリンググリースで観察されたものよりも遙かに少ない。
<実施例19> 別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを、先の実施例18グリースと同様に作った。大きな違いは1つだけ、つまり、変換前に必要な総HCOの25%しか加えていないことであった。変換プロセスが完了したと考えられると、残りのHCOを直ちに加えた。
グリースを以下のようにして作製した。545.0グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約352SUSの粘度を有する663.1グラムのUSP純度の白色パラフィン系鉱物基油を加えた。この過塩基性カルシウムスルホネートは、NSF H-1承認食品グレードグリースを作るのに適したNSF HX-1食品グレード承認過塩基性カルシウムスルホネートであって、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義された高品質のものであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、49.34グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する92.11グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトと、5ミクロン未満の平均粒径を有する7.36グラムの食品グレードの純度の水酸化カルシウムとを加えて、約30分間混ぜ合わせた。次に、1.66グラムの氷酢酸と、21.66グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えて、10分間混ぜ合わせた。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する100.75グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、約5分間混ぜ合わせた。その後、5.00グラムの水添ヒマシ油(HCO)を加えて、バッチに混ぜ合わせた。次に、71.47グラムの水と、26.59グラムのプロピレングリコールとを加えた。加熱マントルを装着して、加熱プロセスを開始した。190°Fへの加熱の間、FTIRの挙動は先の実施例18のバッチとほとんど同じであった。
バッチ温度が190°Fに達すると、更にFTIRスペクトルを測定した。結果は、882cm-1(完全な変換を表す)にて支配的なピークを示し、874cm-1にて小さいが明確なピークを示し、862cm-1にて非常に目立ったショルダー(元の非晶質炭酸カルシウムを表す)を示した。このFTIRスペクトルは、製造プロセスのこの時点における先の実施例18のFTIRスペクトルと基本的に同じに見えた。次の2時間40分の間に、約190°Fの温度でグリースを攪拌している間に蒸発して失われた水を補うために、合計約486グラムの水を10回に分けて加えた。その間に、バッチが増ちょうを続けたので、合計188.46グラムの同じパラフィン系基油を4回に分けて加えた。約190°Fで4時間4分後、変換プロセスは完了したと見なされ、FTIRスペクトルに更なる変化は発生しなくなった。この時点でのFTIRは、この同じ時点での先の実施例18のグリースと同様で、かろうじて分かるダブレットが見られた。
必要な残りの量の15.04グラムのHCOを加えて、バッチに溶かして混ぜ合わせた。次に、30.0グラムの水と15.00グラムの同じ水酸化カルシウムとを加え、約10分間混ぜ合わせた。その後、55.84グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えて反応させた。顕著な増ちょうのために、64.25グラムの同じパラフィン系基油を加えて混ぜ合わせた。次に、3.20グラムの酢酸を加えた。これら2つのコンプレックス化酸が反応した後、37.13グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜ合わせて反応させた。その後、混合物を撹拌し続けながら、電気加熱マントルで加熱した。グリースが300°Fに達すると、5.32グラムのスチレン-アルキレンコポリマーをクラム状固体として加えた。このグリースを更に約340°Fまで加熱すると、全てのポリマーが溶融し、グリース混合物に完全に溶解した。加熱マントルを取り出し、外気中で攪拌を続けながらグリースを冷却した。グリースが300°Fまで冷えると、平均粒子径が5ミクロン以下である60.68グラムの食品グレード無水硫酸カルシウムを加えた。グリースの温度が約200°Fまで冷えると、アリールアミン系酸化防止剤と高分子フェノール系酸化防止剤の10.14グラムの混合物と9.51グラムのリン酸アミン系酸化防止剤/防錆添加剤とを加えた。
このバッチを冷却し、16時間静置した。翌朝、それを攪拌して、約130°Fまで加熱した。合計189.03グラムの同じパラフィン系基油を3回に分けて加えて、約45分間バッチに混ぜ合わせた。バッチの一部をミリングせずに取り出し、スチール缶に保存した。ミキサーに残っていたバッチの残りの部分を、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。ミリングしたグリースをミキサーに戻し、約130°Fで45分間混ぜた。その後、スチール缶に収納した。
約24時間後、グリースの両方の缶(非ミリング及びミリング/攪拌)のちょう度及び滴点を評価した。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が243であり、60往復混和ちょう度が275であった。滴点は>650°Fであった。ミリング及び撹拌したグリースは、不混和ちょう度が233であり、60往復混和ちょう度が259であった。滴点は646°Fであった。両方のグリースサンプルにおける過塩基性カルシウムスルホネートの割合は25.16%であった。
最終製品のFTIRスペクトルは、ごく少量の非加水分解グリセロール誘導体(HCO)がまだ残っていることを示した。
この実施例19のグリースに関して注目すべき点が2つある。第1に、FTIRの挙動は、先の実施例17及び18のグリースとほぼ同じであった。第2に、このグリースでは、従来の実施例18のグリースに比べて、変換時間が大幅に短縮された。実施例17~19のグリースの変換時間を比較すると、変換前のHCOの存在が変換プロセスを遅くするように見える。変換プロセスが始まる前のHCOの添加量が少なくなると(実施例19)、変換はより短時間で起こる。変換プロセスが始まる前に、より多くのHCOを加えると(実施例18)、変換により時間がかかる。しかしながら、全量のHCOを変換前に加える場合、全量の25%のみを変換前に加える場合と比較して(実施例18を実施例17と比較すると)、増ちょう剤収率が大幅に改善される。また、変換前にHCOを全量加える場合(実施例18)、非水性変換剤の2回目の添加が必要となった。これは、変換前に全HCOの25%のみを加えた場合にはなかった(実施例19)。
実施例17~19のグリースの概要を、以下の表10に示す。
<実施例20> 実施例17(及び18~19)で使用した過塩基性カルシウムスルホネートが古く、長い変換時間と、以前の試験と一致しない最終的なダブレットのFTIR変換ピークパターンとをもたらしたことから、実施例20で新しいベースラインの実施例を作った。実施例20で使用された過塩基性カルシウムスルホネートは、実施例17~19で使用されたものと同じ市販の過塩基性カルシウムスルホネートであって、同じ製造者で新たに製造されて供給されたものであった。
このグリースは、先の実施例17のグリースと比べて、挙動が大きく異なっていた。バッチの温度が190°Fに達するまでに、非常に確かなグリース構造が既に形成されていた。FTIRスペクトルは、約882cm-1に単一のピークのみを示し、このピークの下側近くに非常に小さいショルダーがあった。元の862cm-1の非晶質炭酸カルシウムのピークのほとんど全ては無くなっていた。190°Fで44分後、変換が完了した。このバッチを、先の実施例17のグリースと同じようにして完成させた。
バッチの一部をミリングせずに取り出し、スチール缶に保存した。ミキサーに残っていたバッチの残りの部分を、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。ミリングしたグリースをミキサーに戻し、約130°Fで45分間混ぜた。その後、スチール缶に収納した。
24時間後、グリースの両方の缶(非ミリング及びミリング/攪拌)のちょう度及び滴点を評価した。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が275であり、60往復混和ちょう度が298であった。滴点は>650°Fであった。ミリング及び撹拌したグリースは、不混和ちょう度が267であり、60往復混和ちょう度が289であった。滴点は>650°Fであった。両方のグリースサンプルにおける過塩基性カルシウムスルホネートの割合は28.58%であった。
この実施例20のグリースの増ちょう剤収率は、先の実施例17のグリースほどではなかったが、それは、過塩基性カルシウムスルホネートのサンプルが過去に製造された際に、同じ過塩基性カルシウムスルホネートのサンプルで数年前に作られた他の同じグリースのバッチと同様であった。同様に、この実施例20のバッチの変換中におけるFTIRの挙動は、最近製造された過塩基性カルシウムスルホネートを用いて同じグリースのバッチを製造した際に以前に観察されたものと同じであった。そこで、この実施例20のグリースを比較のための新たなベースラインとして用いた。古い過塩基性カルシウムスルホネートが何らかの形で異常な結果を引き起こしていることが明らかだったので、実施例17~19のグリースをもはやこのような比較には使用しないことにした。次の3つの実施例では、この実施例20のグリースに使用した過塩基性カルシウムスルホネートの新しいサンプルを使用した。
<実施例21> 別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを、先の実施例18グリースと同様に作った。HCOを全量加えてから変換プロセスを開始した。しかしながら、主たる非水性変換剤(プロピレングリコール)の約50%超を、最初の水と共に加えた。
グリースを以下のようにして作製した。540.07グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約352SUSの粘度を有する668.0グラムのUSP純度の白色パラフィン系鉱物基油を加えた。この過塩基性カルシウムスルホネートは、NSF H-1承認食品グレードグリースを作るのに適したNSF HX-1食品グレード承認過塩基性カルシウムスルホネートであって、米国特許第9,458,406号で定義された高品質のものであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、49.27グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸を加えた。20分間混ぜた後、5ミクロン未満の平均粒径を有する91.98グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトと、5ミクロン未満の平均粒径を有する7.38グラムの食品グレードの純度の水酸化カルシウムとを加えて、約30分間混ぜ合わせた。次に、1.94グラムの氷酢酸と、21.59グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えて、10分間混ぜ合わせた。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する100.04グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、約5分間混ぜ合わせた。その後、20.00グラムの水添ヒマシ油(HCO)を加えて、バッチに混ぜ合わせた。次に、71.35グラムの水と、39.95グラムのプロピレングリコールとを加えた。加熱マントルを装着して、加熱プロセスを開始した。
バッチ温度が190°Fに達すると、FTIRスペクトルは、882cm-1(完全な変換を表す)に支配的なピークを示し、874cm-1に支配的なピークの約半分の高さのショルダーを示した。また、862cm-1に低いショルダー(元の非晶質炭酸カルシウムを表す)があった。190°Fで30分後、862cm-1の非晶質ショルダーが無くなった。874cm-1のショルダーのピークの高さが増して、882cm-1のピークとほぼ同じ高さになっていた。両方のピークが合体して、ほとんど一つのピークのようになっていた。190°Fで1時間混ぜた後では、FTIRの変換ピークプロファイルは変化しなかった。変換時間は1時間以内であると判断した。約190°Fの温度で1時間混ぜる間に、蒸発によって失われた水分を補うために、合計127.8グラムの水を3回に分けて加えた。また、グリース構造の重さが増加しため、86.56グラムの同じパラフィン系基油を加えた。更に約1時間、温度を190°F乃至200°Fの間に保ちながらバッチを撹拌した。この間、バッチが増ちょうを続けたので、合計121.3グラムの同じパラフィン系基油を2回に分けて加えた。また、蒸発によって失われた水分を補うために、合計87.14グラムの水を2回に分けて加えた。この1時間後に、FTIRのスペクトルは変化していなかった。
次に、42.88グラムの水と15.02グラムの同じ水酸化カルシウムとを加え、約10分間混ぜ合わせた。次に、55.63グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と3.03グラムの氷酢酸とを加えて、反応させた。更なる増ちょうのため、91.23グラムの同じパラフィン系基油を追加して、混ぜ合わせた。これら2つのコンプレックス化酸が反応した後、37.04グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜ合わせて反応させた。その後、混合物を撹拌し続けながら、電気加熱マントルで加熱した。グリースが300°Fに達すると、5.01グラムのスチレン-アルキレンコポリマーをクラム状固体として加えた。このグリースを更に約340°Fまで加熱すると、全てのポリマーが溶融し、グリース混合物に完全に溶解した。加熱マントルを取り出し、外気中で攪拌を続けながらグリースを冷却した。グリースが300°Fまで冷えると、平均粒子径が5ミクロン以下である59.96グラムの食品グレード無水硫酸カルシウムを加えた。グリースの温度が約200°Fまで冷えると、アリールアミン系酸化防止剤と高分子フェノール系酸化防止剤の11.74グラムの混合物と12.15グラムのリン酸アミン系酸化防止剤/防錆添加剤とを加えた。合計93.87グラムの同じ基油を2回に分けて加えた。グリースの温度が150°Fになるまで混ぜ続けた。加熱マントルを外し、撹拌を停止した。このバッチは冷却され、16時間静置された。
翌朝、バッチを撹拌しながら約140°Fまで加熱した。バッチの一部をミリングせずに取り出し、スチール缶に保存した。ミキサーに残っていたバッチの残りの部分を、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。ミリングしたグリースをミキサーに戻し、約130°Fで45分間混ぜた。その後、スチール缶に収納した。
約24時間後、グリースの両方の缶(非ミリング及びミリング/攪拌)のちょう度及び滴点を評価した。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が239であり、60往復混和ちょう度が275であった。滴点は>650°Fであった。ミリング及び撹拌したグリースは、不混和ちょう度が245であり、60往復混和ちょう度が265であった。滴点は>650°Fであった。両方のグリースサンプルにおける過塩基性カルシウムスルホネートの割合は25.32%であった。
最終製品のFTIRスペクトルは、ごく少量の非加水分解グリセロール誘導体(HCO)がまだ残っていることを示した。
この実施例21のグリースについては、先の実施例20のベースライングリースと比較して、4つの点が注目される。まず、このグリースの増ちょう剤収率が向上した。第2に、変換時間は僅かに長くなった。第3に、最終的な変換ピークプロファイルの変化から明らかなように、HCOは変換プロセスを変化させた。最後に、非ミリンググリースとミリングしたグリースのちょう度の値はほぼ同じであった。故に、少なくとも最初のちょう度の値によって判断されるように、増ちょう剤系の最適な分散を提供するためにミリングは必要ではなかった。
<実施例22> 別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを、先の実施例21グリースと同様に作った。唯一の大きな違いは、遅延非水性変換剤添加法を用いたことである。プロピレングリコールを、最初に加えた水と共には加えなかった。代わりに、バッチの温度が190°Fに達すると直ぐに加えた。
最初の加熱及び変換の最中、FTIRは、先の実施例21のグリースとはやや異なる挙動を示した。190°Fに到達してから約30分後、変換後のピークエリアには、約882cm-1と874cm-1に明瞭なダブレットが見られ、862cm-1には際立った低いショルダーが見られた。約190°Fで合計96分間混ぜた後、862cm-1のショルダーは無くなった。最終的なFTIRの変換ピークプロファイルは、874cm-1のピークが882cm-1のピークよりも実際に幾分高くなったことを示した。(実施例21のグリースの場合のように)874cm-1のピークが882cm-1のピークのショルダーである代わりに、882cm-1のピークは、874cm-1の支配的なピークのショルダーであった。両方のピークが合体して、ほとんど一つのピークのようになっていた。このように、この実施例22のグリースのFTIR変換ピークプロファイルは、実施例21のグリースのFTIR変換ピークプロファイルの鏡像であった。蒸発によって失われた水分を補うために加えた水の量を増やして更に加熱しても、変換プロセスに更なる変化は見られなかった。よって、バッチを、先の実施例21のグリースと同じようにして完成させた。
翌朝、バッチを撹拌しながら約140°Fまで加熱した。バッチの一部をミリングせずに取り出し、スチール缶に保存した。ミキサーに残っていたバッチの残りの部分を、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。ミリングしたグリースをミキサーに戻し、約130°Fで45分間混ぜた。その後、スチール缶に収納した。
約24時間後、グリースの両方の缶(非ミリング及びミリング/攪拌)のちょう度及び滴点を評価した。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が247であり、60往復混和ちょう度が269であった。滴点は>650°Fであった。ミリング及び撹拌したグリースは、不混和ちょう度が255であり、60往復混和ちょう度が269であった。滴点は>650°Fであった。両方のグリースサンプルにおける過塩基性カルシウムスルホネートの割合は22.21%であった。
最終製品のFTIRスペクトルは、ごく少量の非加水分解グリセロール誘導体(HCO)がまだ残っていることを示した。
この実施例のグリースに関して注目すべき点が3つある。まず、このグリースの増ちょう剤収率は、先の実施例21のグリースの増ちょう剤収率よりもかなり向上した。第2に、先の実施例でよく見られたように、変換前にグリセロール誘導体(HCO)を加えると、1つを超える最終的なFTIR変換ピークが得られた。このグリースの変換ピークプロファイルは、遅延非水性変換剤添加法を使用しなかった先の実施例21のグリースの鏡像であった。最後に、ミリングはグリースの混和ちょう度に影響を与えなかった。グリースがミリングされたか否かに関わらず、改善された同じ増ちょう剤収率が得られた。
図7は、実施例22の非ミリング及びミリング/撹拌グリースの25℃における振動式レオメーターの振幅掃引の結果である。見てわかるように、両方のグリースのG’曲線は本質的に互いに重なり合っている。これは、非ミリンググリースとミリングしたグリースの混和ちょう度が同じであることを意味する。多分、図7の最も興味深い側面は、非ミリンググリースのG’曲線とG’曲線の交差点が、実際には、ミリングしたグリースよりも高い相対せん断ひずみにあることである。これは、実施例の非ミリンググリースの構造的安定性が、対応するミリングしたグリースよりも高いことを示している可能性がある。
<実施例23> 別のカルシウムスルホネートコンプレックスグリースを、先の実施例22グリースと同様に作った。実施例22と同様に、このグリースを、変換プロセスが始まる前にHCOを加えて作った。このグリースには、米国特許第9,976,101号及び第9,976,102号に記載されている変換剤遅延法も使用した。しかしながら、先の実施例22のグリースとは異なり、このグリースを米国特許第10,087,388号に記載されている促進酸遅延法をも用いて作った。
グリースを以下のようにして作製した。544.46グラムの400TBN過塩基性油溶性カルシウムスルホネートを開放混合容器に加え、続いて、100°Fで約352SUSの粘度を有する663.0グラムのUSP純度の白色パラフィン系鉱物基油を加えた。この過塩基性カルシウムスルホネートは、NSF H-1承認食品グレードグリースを作るのに適したNSF HX-1食品グレード承認過塩基性カルシウムスルホネートであって、最近発行された米国特許第9,458,406号で定義された高品質のものであった。加熱せずに、遊星撹拌パドルを用いて混合を開始した。その後、50.48グラムの主たるC12アルキルベンゼンスルホン酸(促進酸)を加えた。その後、バッチを混ぜつつ190°Fに加熱した。これは、促進剤の添加後の温度調節遅延に相当する。
190°Fに達した後、5ミクロン未満の平均粒径を有する91.98グラムのカルシウムヒドロキシアパタイトと、5ミクロン未満の平均粒径を有する7.44グラムの食品グレードの純度の水酸化カルシウムとを加えて、約30分間混ぜ合わせた。これらの2つの反応物は、促進酸の後に加えた次の反応成分である。次に、1.86グラムの氷酢酸と、21.64グラムの12-ヒドロキシステアリン酸を加えて、10分間混ぜ合わせた。次に、5ミクロン未満の平均粒径を有する100.74グラムの微粉炭酸カルシウムを加えて、約5分間混ぜ合わせた。その後、19.99グラムの水添ヒマシ油(HCO)を加えて、バッチに混ぜ合わせた。電気加熱マントルをミキサーから5分間取り外して、ミキサーの内壁をグリースと約190°Fで熱平衡にさせた。次に、71.61グラムの水を加えた。加熱マントルを付けて、バッチを30分間混ぜた。これは、非水性変換剤保持遅延期間に相当する。30分の保持遅延が終了すると、41.02グラムのプロピレングリコールをバッチに加えた。後述するように、変換時間の測定をこの時点から開始した。63分後、FTIRの変換ピークプロファイルは、882cm-1、874cm-1、及び862cm-1のピークに対応する複数の「こぶ(humps)」を持つマージされた幅広のピークを示した。3つのこぶは全て同じような高さであった。この間、蒸発によって失われた水分を補うために42.4グラムの水を加えた。更に30分後、862cm-1にあった元の非晶質のピークが消えた。FTIRの変換ピークプロファイルは、882cm-1の支配的なピークと、それとほぼ同じ高さの約874cm-1のショルダーとを含んでいた。このプロファイルは、先の実施例21のグリースのFTIR変換ピークプロファイルとほとんど同じであった。次の26分間の混合中に、蒸発によって失われた水分を補うために、合計79.07グラムの水を2回に分けて加えた。その後、グリースの重さが増したため、合計239.56グラムの同じパラフィン系基油を4回に分けて加えた。この26分間、FTIRの変換プロファイルは変化しなかった。従って、変換時間を159分(2時間39分)以下であると判断した。
次に、44.22グラムの水と14.94グラムの同じ水酸化カルシウムとを加え、約10分間混ぜ合わせた。次に、55.69グラムの12-ヒドロキシステアリン酸と3.19グラムの氷酢酸とを加えて、反応させた。更なる増ちょうのために、総量74.73グラムの同じパラフィン系基油を2回に分けて加えて混ぜ合わせた。これら2つのコンプレックス化酸が反応した後、37.94グラムの75%リン酸水溶液をゆっくりと加えて、混ぜ合わせて反応させた。その後、混合物を撹拌し続けながら、電気加熱マントルで加熱した。グリースが300°Fに達すると、5.00グラムのスチレン-アルキレンコポリマーをクラム状固体として加えた。このグリースを更に約340°Fまで加熱すると、全てのポリマーが溶融し、グリース混合物に完全に溶解した。加熱マントルを取り出し、外気中で攪拌を続けながらグリースを冷却した。グリースが300°Fまで冷えると、平均粒子径が5ミクロン以下である60.03グラムの食品グレード無水硫酸カルシウムを加えた。グリースの温度が約200°Fまで冷えると、アリールアミン系酸化防止剤と高分子フェノール系酸化防止剤の10.41グラムの混合物と11.90グラムのリン酸アミン系酸化防止剤/防錆添加剤とを加えた。合計332.52グラムの同じ基油を、5回に分けて追加した。グリースの温度が150°Fになるまで混ぜ続けた。加熱マントルを外し、撹拌を停止した。このバッチは冷却され、16時間静置された。
翌朝、バッチを撹拌しながら約140°Fまで加熱した。バッチの一部をミリングせずに取り出し、スチール缶に保存した。ミキサーに残っていたバッチの残りの部分を、ギャップを0.005インチに設定した実験室規模のコロイドミルに1回通過させた。ミリングしたグリースをミキサーに戻した。ミリングしたグリースのサンプルを鋼板の上で冷やした。不混和ちょう度は245、混和ちょう度は257であった。このグリースのサンプルをミキサーに戻した。ミキサー内のグリースの総重量は1209.0グラムであった。更なる35.21グラムの同じパラフィン系基油をミキサーに加え、グリースを45分間約130°Fにした。その後、スチール缶に収納した。
約24時間後、グリースの両方の缶(非ミリング及びミリング/攪拌)のちょう度及び滴点を評価した。最終的な非ミリンググリースは、不混和ちょう度が263であり、60往復混和ちょう度が275であった。滴点は>650°Fであった。過塩基性カルシウムスルホネートの割合は22.8%であった。ミリング及び撹拌したグリースは、不混和ちょう度が253であり、60往復混和ちょう度が265であった。滴点は>650°Fであった。過塩基性カルシウムスルホネートの割合は22.2%であった。
最終製品のFTIRスペクトルは、ごく少量の非加水分解グリセロール誘導体(HCO)がまだ残っていることを示した。
図8は、実施例23の非ミリング及びミリング/撹拌グリースの25℃における振動式レオメーターの振幅掃引の結果である。見てわかるように、両方のグリースのG’曲線はほとんど互いに重なり合っている。非ミリンググリースのG”曲線は、ミリング/攪拌したグリースよりも実際に高い。これは、実施例23の非ミリンググリースの基油成分が提供する構造が、対応するミリング/攪拌したグリースよりも実際に大きいことを示している。加えて、非ミリンググリースのG’曲線とG’曲線の交差点が、実際には、ミリングしたグリースよりも高い相対せん断ひずみにある。これは、先の実施例22の非ミリング及びミリングしたグリースで観察されたものと同じ特徴である。これは、実施例23の非ミリンググリースの構造的安定性が実施例23のミリングしたグリースよりも高いことを示している可能性がある。
実施例20~23のグリースの概要と追加の試験結果とを以下の表11~14に示す。表11は組成情報のまとめ、表12は使用した処理方法のまとめ、表13はFTIR変換の挙動とデータのまとめであり、表14は、各実施例のミリング前(非ミリング)とミリング後のちょう度値と滴点のまとめを、グリースを最初に作った時と貯蔵期間後の両方で示した。
比較の一貫性を保つために、実施例に示されている変換時間は、最初の加熱ステップ中にバッチが190°Fに達した時から測定された。場合によっては、その温度に達する前に変換が開始されたり、その温度に達した後でもFTIRデータに基づくと変換が停滞した(又は停滞したように見える)ことがあった。例えば、水と従来の非水性変換剤を室温で一緒に加えた実施例では、190°Fに達する前にある程度の変換が起こるであろうが、変換時間の記録は190°Fに達するまで開始されなかった。更に、従来の非水性変換剤が190°Fで最初に加えられず、代わりに、変換プロセス(FTIRで測定)が停滞した(又は停滞したように見えた)後、190°Fで加えられたのみである実施例では、従来の非水性変換剤が加えられるまで変換プロセスに遅延があったとしても、変換時間の記録は、最初の加熱ステップ中にバッチが190°Fに達すると直ぐに開始された。
<変換された炭酸カルシウムの結晶形態> 先の実施例のグリースのもう一つの興味深い点は、変換された炭酸カルシウムの結晶形態に関するものである。炭酸カルシウムには、カルサイト、バテライト、及びアラゴナイトの3つの形態があることが知られている。これら3つのうち、安定しているのはカルサイトのみである。他の2つはカルサイトに比べて非常に不安定である。
最近発表された幾つかの研究論文には、約872cm-1乃至877cm-1である上記の中間範囲内にあるFTIR変換ピークを有するカルシウムスルホネート系グリースが記載されている。これらの研究論文は、そのような中間ピークは、変換された炭酸カルシウム(元々は過塩基性カルシウムスルホネート中に非晶質炭酸カルシウムとして存在する)がカルサイトではなくバテライトであることを示していると主張している。FTIRスペクトルが約882cm-1にピークを示し、中間範囲に別のピーク(又はショルダー)を示す場合、これらの研究論文は、カルサイトとバテライトの両方が存在すると主張する。このような研究論文の全てでは、この結論は、FTIRピークの位置に完全且つもっぱら基づいている。しかしながら、結晶学の知識が豊富な人なら誰でも理解できるように、そのような推論は全く誤っている。
材料(炭酸カルシウムなど)が複数の結晶形態で存在する可能性がある場合には、FTIRはどの形態が存在するかを判断するための信頼できる方法を提供しないであろう。これは、特徴的なFTIRピークの位置が、分散した結晶が存在する化学的環境に応じて大幅にシフトする可能性があるためである。分散した結晶の粒径は、その特徴的なFTIRスペクトルのピークの位置にも影響を与える。これにより、異なる結晶形態の特徴的なFTIRピーク波数の可能な範囲が互いに重なり合う可能性がある。結晶形態を判断するための信頼性の高い方法として、X線回折(XRD)がある。XRDの結果は、(結晶の大きさがX線を回折するのに十分な大きさである限り)結晶の化学的環境やサイズの影響を受けない。特定の無機結晶材料のX線回折パターンは、存在する1又は複数の形態の正しい同一性を常に提供するフィンガープリントである。
これらの過去の研究論文では、カルシウムスルホネート系グリースのXRDの結果は報告されていない。それらはXRDについてさえ言及していない。それらが使用したのはFTIRのスペクトルだけである。これに対して、本明細書のグリースの実施形態は、XRDで評価されている。評価されたそれら全てのケースでは、カルサイトのみが検出された。バテライトとアラゴナイトは検出されなかった。実施例12のグリースのように、極めて異常で非典型的なFTIRスペクトルを有するグリースでも、XRDではカルサイトのみが検出された。
このようなXRDデータがなければ、FTIR変換のピーク挙動を調べて、過塩基性マグネシウムスルホネート及び/又はグリセロール誘導体の存在が変換プロセスでバテライトを生成し、最終グリースのカルサイトにはほんの僅かにしか変化しないと結論付けたくなるかもしれない。更に、カルシウムスルホネート系グリース(過塩基性マグネシウムスルホネート又はグリセロール誘導体なし)の変換中に形成される一時的な中間ピークは、バテライト又はアラゴナイトによって引き起こされると結論付けるかもしれない。しかしながら、本明細書の実施例のグリースのXRDの評価は、そのような考えを否定する。そうではなく、変換プロセス中及び(場合によっては)最終グリースに中間FTIRピークが現れるのは、カルサイトが、粒子サイズ範囲が異なるか、囲まれているか、又はそれら両方であることに起因しているはずである。この結論は、少なくとも、この用途に記載されている組成物及びプロセスの範囲内のグリースに当てはまる。
本明細書で提供される実施例は、NLGI No.1、No.2、又はNo.3グレードに分類され、No.2グレードが最も好ましいが、本発明の範囲は、No.2グレードよりも硬い又は柔らかい全てのNLGI粘ちょう性グレードを含むことが更に理解されるべきである。しかしながら、当業者に理解されるように、本発明に基づくグリースがNLGI No.2グレードでない場合についても、それらの特性は、より多い又は少ない基油を使用してNo.2グレード製品をもたらす場合に得られていたであろうものと一致しているはずである。
本発明は、開放容器で作製されるグリースを主として扱っており、実施例は全て開放容器であるが、コンプレックスカルシウムマグネシウムスルホネートグリース組成物及び方法は、加圧下で加熱できる密閉容器において使用されてもよい。そのような加圧容器の使用は、本明細書の実施例に記載されたものよりも、より良好な増ちょう剤収率をもたらし得る。本発明の目的においては、開放容器は、上蓋又はハッチを有するか又は有しない任意の容器であって、そのような上蓋又はハッチが気密でない限りは、加熱中に大きな圧力を発生させない。変換プロセス中に閉じられる上蓋又はハッチを備えたそのような開放容器を使用することは、必要なレベルの水を変換剤として保持するのに役立つ一方で、通常、水の沸点又はそれを超える変換温度を可能にする。このようなより高い変換温度は、当業者に理解されるように、単純及びコンプレックスカルシウムスルホネートグリースの増ちょう剤収率を更に改善することができる。
本明細書では、(1)過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる分散炭酸カルシウム(若しくは非晶質炭酸カルシウム)又は残留カルシウム、或いは水酸化カルシウムの量は、過塩基性カルシウムスルホネートの重量比に基づいており、(2)幾つかの成分が2つ以上の別々の部として加えられ、各部は、その成分の総量の割合として、最終グリースの重量パーセントとして記載でき、(3)割合又は部によって特定される成分の他の全ての量(全量を含む)は、特定の成分(例えば、他の成分と反応する水、カルシウム含有塩基又遙かリ金属水酸化物)が最終グリース中に存在しなくてよく、又は、成分として加えるために特定された量で最終グリース中に存在しなくてよくても、最終グリース生成物の重量比による成分としての添加量である。本明細書において、「付加炭酸カルシウム」は、過塩基性カルシウムスルホネートに含まれる分散炭酸カルシウムの量に加えて別個の成分として加えられる結晶性炭酸カルシウムを意味する。本明細書で使用されるように、「付加水酸化カルシウム」及び「付加酸化カルシウム」は夫々、過塩基性カルシウムスルホネート中に含まれ得る残りの水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムの量に加えて別個の成分として加えられる水酸化カルシウム及び酸化カルシウムを意味する。本明細書では、「付加カルシウム含有塩基」は、別個の成分として加えられカルシウム含有塩基(付加炭酸カルシウム及び付加水酸化カルシウムなど)を意味する。
(幾つかの先行技術文献でその用語がどのように使用されるかとは別として)本発明を説明するために本明細書で使用されるように、カルシウムヒドロキシアパタイトは、(1)式Ca5(PO4)3OHを有する化合物、又は(2)(a)約1100℃の融点を有する数学的に等価な化学式、若しくは(b)前記数学的に等価な化学式の中でリン酸三カルシウムと水酸化カルシウムとの混合物を具体的に除外したもの、を意味する。本明細書及び‘406特許で使用されているように、「低品質」過塩基性カルシウムスルホネートとは、市販又は製造されている過塩基性カルシウムスルホネートであって、‘265特許に記載されているようにコンプレックス化酸と反応させるための唯一の添加カルシウム含有塩基として付加炭酸カルシウムを使用して過塩基性カルシウムスルホネートグリースを製造した場合に、滴点が575°F未満となるものを意味しており、同様に「高品質」過塩基性カルシウムスルホネートとは、‘265特許に記載されているように付加炭酸カルシウムを使用して製造した場合に、滴点が575°F以上となるものを意味する。
本明細書で使用されるように、本発明に適用される「増ちょう剤収率」という用語は、通常の意味、即ち、潤滑グリース製造において一般的に使用される標準的な貫入試験ASTM D217又はD1403によって測定されるような、グリースに特定の所望の粘ちょう性を与えるために必要とされる高過塩基性油溶性カルシウムスルホネートの濃度である。本明細書では、「ちょう度の値」は、不混和ちょう度の値が特に記載されていない限り、60往復混和ちょう度の値を意味する。同様に、グリースの「滴点」は、潤滑グリース製造に一般的に使用される標準滴点試験ASTM D2265を用いて得られた値を指す。本明細書に記載の四球EP試験は、ASTM D2596を参照するものとする。本明細書に記載の四球摩耗試験は、ASTM D2266を参照するものとする。本明細書に記載のコーンオイル分離試験は、ASTM D6184を参照するものとする。本明細書に記載のロール安定性試験は、ASTM D1831を参照するものとする。本明細書では、「非水性変換剤」は、水以外の任意の従来の変換剤を意味しており、希釈剤又は不純物としていくらかの水を含み得るような従来の変換剤を含む。過塩基性マグネシウムスルホネートは、非従来の非水性変換剤と見なすことができるが、本明細書における「非水性変換剤」への言及は、過塩基性マグネシウムスルホネートを含まない「従来の」非水性変換剤を意味する。本明細書において範囲として示される成分の量又は成分の比率の全ては、それらの範囲内の個々の量又は比率と、ある好ましい範囲からより好ましい範囲に重複するサブセットとを含む範囲内の任意及び全てのサブセットの組合せとを含む。当業者であれば、本明細書を読む際に、本明細書に含まれる例を含めて、組成物を作製するための組成物及び方法の変更及び代替は、本発明の範囲内で行われてよく、本明細書に開示された本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲の最も広い解釈によってのみ制限されることを意図することを理解するであろう。