特許法第30条第2項適用 令和1年5月15日に、株式会社セガトイズが、別紙に示す各会社の各メディアに対し、ゲル状石けんの幼児用調製キットが掲載されたニュースリリース書面を電子メールやFAXにて送信した。 令和1年5月15日に、株式会社セガトイズが自社ウェブサイトにて、ゲル状石けんの幼児用調製キットについて公開した。 令和1年5月15日に、株式会社セガトイズが、株式会社日本経済新聞社からの電話取材を受け、ゲル状石けんの幼児用調製キットについて説明を行った。
本発明は、ゲル状石けんの調製キットに関するものであり、特に、30~45℃程度の比較的低温、さらには約25℃程度の室温であっても、できるだけ部位に偏りなくゲル化反応を一様に開始させることができ、また、精密な成型が可能で、しかも、比較的速やかに実用ゲル強度のゲル形成が可能なゲル状石けんの幼児用調製キットを提供するものである。
これまでも、家庭等で透明石けんを手作りする手法はすでに知られており、この手法を適用した商品もいくつか販売されている。
一例としては、粉末状の石けんに熱湯を加えて溶解した後、所望する形状の型枠に入れて2時間以上放置することで、ゲル状の石けんを作るものが挙げられる。ただし、この手法ではプルプルとした柔軟性のある石けんを得ることは不可能であり、ボソボソとした触感となる。
また他の例としては、予め60℃以上の熱湯で溶解した増粘剤に熱湯で溶解した粉末石けんやボディーソープの如き液状の界面活性剤を加え、これを所望する形状の型枠に入れて、放置放冷する方法が挙げられる。
この方法によれば、プルプルとした石けんを得ることができるが、石けんとして使用可能な程度の強度、すなわち、実用ゲル強度に達するまでには型枠収容後から1~2日必要である。
このように、これまで提案されている透明石けんの手作りのための手法は、いずれも「60℃以上高温」を要したり、「長時間に及ぶ成型固化」が必須なものであり、子供達が安心して楽しみながら手作りする石けんとしては、未だ改良の余地が残されている。
これに対し、本実施形態に係るゲル状石けんの幼児用調製キットは、自然派を好む大人だけでなく、子供たちが物づくりの楽しさを経験でき、安全で安心な石けんを楽しみながら自ら手作りできるよう完成させたものである。
また本実施形態に係るゲル状石けんの幼児用調製キットは、子供特有の「皮膚温度」にも着眼して研究が行われた。
すなわち、健常者の一般的な体内温度は年齢を問わず概ね38℃であるが、皮膚表面温度は成人が36~36.5℃であるのに対し、子供は37~37.5℃である。これは、成人に比し子供の表皮が薄く、体内温度が皮膚表面に伝わり易いことに起因するものであり、本技術の発明者は、この子供特有の皮膚温度に着眼し、子供の皮膚表面温度に近い温度で手作り可能なゲル状石けんを開発した。
また、従来の透明石けんの製造手法は、所望する形状に成型するために数時間或いは、数日に及ぶ形状固化時間を必要とするが、その成型に至る化学的理由を理解できる大人であっても、楽しみながら手作りする石けんとしては、流石に我慢の限界を超える時間が必要であった。
また、大人が感じる時間感覚とは異なり、子供は体感時間が大人の6倍ともいわれ、例えば成型に2時間を必要とする場合に子供が感じる時間は、大人であれば12時間待ち続ける状況であると言える。
この時間は、所謂「手作り玩具」の域を超えるものであり、遊びながら楽しむ手作り石けんとしては、非現実的と言わざるを得ない。
付言すれば、これまでのゲル状石けんの調製キットにおける石けんの調製手法は、子供特有の体感時間に対する配慮が欠如しており、時間的に「飽き」が生じ楽しめるものでは無い。
本願発明者は、この様な子供特有の生理を考慮しつつ、「飽きない」、「安全」、「楽しむ」、「化学を学習」を主軸に本発明の鋭意研究を遂行し完成させた。
本実施形態に係るゲル状石鹸の幼児用調製キットは、第1剤と第2剤とを備え両剤を混合することで前記タマリンドガムをゲル化してゲル状の石けんを調製可能としたものである。
第1剤は、例えば水や増粘剤、界面活性剤、キレート剤、保存料、その他の成分が含まれうるが、専ら、90~95重量部の水と3~7重量部の界面活性剤と1~2重量部のタマリンドガムとを必須成分として含有する水溶液よりなる。なお、この第1剤の必須成分のみからなる水溶液を第1剤必須組成液とも称する。
第1剤において水は、概ね80~96w/w%であるのが望ましい。このような組成割合とすることで、後述の水和熱を効率的に発生させることができる。
界面活性剤は、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、りん酸エステル型からなるアニオン界面活性剤や、アルキルアミン塩型、第4級アンモニウム塩型からなるカチオン界面活性剤、カルボキシベタイン型、2-アルキルイミダゾリンの誘導型、グリシン型、アミンオキシド型からなる両性界面活性剤、エステル型、エーテル型、エステルエーテル型、アルカノールアミド型からなるノニオン界面活性剤を使用することができる。
また中でも好ましくはアニオン界面活性剤であり、カルボン酸塩及び/又はアミノ酸系カルボン塩からなる界面活性剤は更に好ましい。また、フッソ系界面活性剤や、シリコーン系界面活性剤、ポリペプチド誘導体、天然界面活性剤、高分子界面活性剤などの界面活性剤を用いることができる。このように界面活性剤の種類は、ゲル化を阻害するなど本発明の目的に反しない範囲において限定されるものでは無い。
また第1剤には、タマリンドガムも含まれる。タマリンドガム(tamarind (seed) gum)は、タマリンドの種子の胚乳部分を、熱水や熱アルカリ性水溶液で抽出処理したり、胚乳からの抽出物をβ-ガラクトシダーゼやラクターゼで酵素処理して得られた多糖類である。
また第1剤には、必要に応じて増粘剤やキレート剤、防腐剤を含ませることができる。例えば、前述の重量部割合で調製した第1剤必須組成液に対しては、0.1~0.5重量部程度の増粘剤や0.01~0.3重量部程度のキレート剤、0.01~5重量部程度の防腐剤(保存料)を加えても良い。
増粘剤としては、アルギン酸、カラギーナン、寒天、ファーセラン、クインスシードガム、コンニャクマンナン、タラガム、デキストリン、デンプン、ローカストビーンガム、アラビアガム、ガッティガム、カラヤガム、トラガカントガム、アラビノガラクタン、ペクチン、マルメロ、小麦タンパク質、大豆タンパク質、キトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、プロテオグリカン、アルブミン、カゼイン、ゼラチン、可溶性コラーゲン、カードラン、キサンタンガム、ジェランガム、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、サクシノグルカン、微結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カチオン化セルロース、可溶性デンプン、カルボキシメチルデンプン、メチルデンプン、デンプンリン酸エステル、デンプングルコール酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸塩、カチオン化グアーガム、カルボキシメチルヒドロキシプロピルグアーガム、トレハロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシドプロピレンオキシドブロック共重合体、高分子シリコーン、ベントナイト、ラポナイト、スメクタイト、微粒子酸化ケイ素、コロイダルアルミナ等を例示することができるが、必ずしもこれらに限定されるものでは無い。
キレート剤は、例えば、アミノカルボン酸系(EDTA、NTA、DTPA、HEDTA、TTHA、PDTA、DPTA-OH、HIDA、DHEG、GEDTA、CMGA、EDDS)や、ホスホン酸系(HEDP、NTMP、PBTC、EDTMP)、クエン酸、アラニン、クエン酸ナトリウム、グルコン酸、L-グルタミン酸二酢酸四ナトリウム、酒石酸、フィチン酸、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等を用いることができるが、これらに限定されるものでは無い。
またその他成分も第1剤必須組成液に対して添加することは可能であるが、第1剤必須組成液は第1剤中において概ね80~100w/w%を占めるようにすべきである。
第2剤には、アルコール分、着色剤、香料、その他の成分が含まれうるが、専ら、95~105重量部のアルコール分を必須成分として含有する。なお、この第2剤の必須成分のみからなる液を第2剤必須組成液とも称する。第2剤中のアルコール分の終濃度は37.5~100w/w%である。また、アルコール分にはグリセリンを含有させるようにしても良い。アルコール分としてグリセリンを使用した場合の第2剤中におけるグリセリン終濃度は、37.5~100w/w%である。また、アルコール分を構成するグリセリンの割合は、50~100w/w%である。また仕様等に応じて、第2剤は少なくともグリセリンを含むアルコール分を含有し、前記グリセリン濃度が37.5~100w/w%を占める第2剤とすることもできる。
グリセリン以外のアルコール分としては、例えばエタノールやプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、これらの異性体を用いることができるほか、多価アルコールも使用することが可能である。
またアルコール分のうち多価アルコールとしては、例えばエチレングリコールやジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジグリセリン、ポリグリセリン、イソプレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ソルビトール、マンニトール、グルコース、スクロース、フルクトース、キシリトール、乳糖、マルトース、マルチトール、トレハロース、茶カテキンなどのポリフェノール類を使用することができ、更にはこれらの立体異性体や光学異性体、誘導体等を用いることができる。
また着色剤としては、例えば、有機色材として法定色素(タール色素)と天然由来の色素、無機色材を用いることができる。天然色素を用いる場合、クロロフィル、β-カロチン、ビキシン、リコピン、クチナシ色素、ラッカ色素、コチニール色素、カプサンチン、シソ色素、ナスチン、カーサミン、ブドウ色素、紫トウモロコシ色素、カカオ色素、ベタシアニン、クルクミン、カラメル等を用いることができるが、これらに限定されるものでは無い。使用量は所望する着色度合いや着色料の物性等にもよるが、前述の重量部割合で調製した第2剤必須組成液に対しては、概ね0.0001~0.001重量部程度である。また同様に、着香度合いや物性等に応じて0.01~1.0重量部程度の香料を添加しても良い。勿論その他成分も第2剤必須組成液に対して添加することは可能であるが、第2剤必須組成液は第2剤中において概ね70~100w/w%を占めるようにすべきである。
そして、本実施形態に係るゲル状石けんの幼児用調製キットが備える特徴的な構成としては、前述の第2剤の水分含量を0w/w%(無水)~25w/w%とした点が挙げられる。
例えば第2剤に含ませるアルコール分をグリセリンとした場合、このグリセリンの濃度を37.5~100w/w%程度とすると第2剤の粘性が高くなる。このことは、第2剤を第1剤と均一に混合させることを難しくし、特に幼児では容器内での攪拌が困難となるおそれがある。
また、第1剤と第2剤とを1回の使用分量ずつ小分けに、例えばアルミパウチなどに充填して小袋状とした場合、分包から攪拌混合容器内に第2剤を取出す際に分包内に第2剤が残存し易く、また、分包からいつまでも垂れ続けるなど、幼児にとって作業性の難易度が飛躍的に高まってしまうという問題がある。
このような問題は、第2剤中に含まれる水分含量を増やすことで解消することができ、例えば第2剤中に37.5w/w%以上のグリセリンが含まれている場合でも、水分含量を30w/w%以上とすれば、粘度の高いグリセリンを水により希釈でき、上述した問題点を概ね解消することが可能である。
この点、本願発明の如く第2剤の水分量を0~25w/w%とする処方は、ゲル状石けんの調製キットであって幼児にも適した構成とする上では、一見不利であるようにも思われる。
しかし本願では、追って実験結果を示しつつ説明するが、第2剤の水分量を0~25w/w%としたことにより、第2剤に含まれるアルコール分、特に37.5~100w/w%のグリセリンが第1剤に含まれる水と水和する際に水和熱を発生させることができ、両剤混合時の攪拌の困難性に関する問題は温度上昇に伴う粘度低下によってことのほか解消される。
また更には、別途加温や熱湯を準備せずともゲル化反応時の温度を上昇させて、できるだけ部位に偏りなくゲル化反応を一様に開始させることができ、精密な成型を行わせることができる。
しかも、30~45℃程度の比較的低温、さらには約25℃程度の室温であっても約5~10℃程度の昇温を期待することができ、安定したゲル化反応が可能でありながら比較的速やかに実用ゲル強度のゲル形成ができるゲル状石けんの幼児用調製キットを提供することができる。
それ故、別途加熱や熱湯を準備せずとも、速やかなゲル化反応を行わせることができるため、使用者が子供であっても、安心して取り扱うことのできるキットとすることができる。
なお第2剤は、水和熱を発生させる上では水分量が0w/w%、すなわち無水であるのが望ましい。しかしながら、グリセリンは吸湿性を有しており、また、市販されているグリセリンの多くは多かれ少なかれ水分を含んでいるのが一般的である。
この点、本実施形態に係るゲル状石けんの幼児用調製キットを構成する上では、第2剤には0w/w%を越え25w/w%以下の範囲で水分の存在が許容される。このことは、水和熱を積極的に利用する技術思想上不利であるようにも思えるが、本発明者らの鋭意研究により、実際は水分量が0~25w/w%の範囲内であれば、ゲル化速度を助長できる程度の水和熱を発生させることができるため大きな問題とはならない。寧ろ前述の第2剤のグリセリンに由来する粘度の問題を解消するためには、完全なる無水ではなく、0.1~20w/w%程度の水分を含ませることで、水和熱を堅実に発生させつつも、ハンドリングの良好なゲル状石けんの幼児用調製キットとすることができる。
また、本実施形態に係るゲル状石けんの幼児用調製キットには、第1剤と第2剤とを混合するための容器を備えることとしても良く、この容器は特に、両剤の混合物を加温するための熱伝導性を向上させる手段が備えられているのが望ましい。
このような熱伝導性向上手段が備えられた容器としては、例えば、容器を把持した手の熱で両剤の混合物を加温するために、容器の形成素材に熱伝導性プラスチックを採用したり、幼児の指の太さに相応する凹みを容器の周面に沿って形成して指の熱を効率的に伝達できるよう構成することが考えられる。
また、これらの他にも、熱伝導性向上手段としては、上部開口を有するカップ状の容器について、この容器の周面構造を下方へ向けて縮径するよう構成することとしても良い。
このような構成とすることにより、カップ状の容器を把持した際に周方向へ伸延する指のカップ周面への巻き付き長さの点において、容器下方においても比較的短い薬指や小指をできるだけ全周に近い割合でカップ周面に接触させることができ、手の小さな幼児による使用においても、効率的な熱の伝達を実現し、より均一なゲル化を開始させ、良好な成形性を実現することができる。
また本願では、ゲル状石けん調製キットのゲル化時間の調整方法についても提供する。すなわち、界面活性剤とタマリンドガムとを含有する水溶液よりなる第1剤と、アルコール分を含む第2剤とを備え、両剤を混合することで前記タマリンドガムをゲル化させゲル状の石けんを調製可能としたゲル状石けん調製キットのゲル化時間の調整方法であって、前記アルコール分としてのエタノールとグリセリンとの配合割合を変化させることでゲル化時間を変化させることを特徴とする。
すなわち、前述の第2剤においてアルコール分は、エタノールとグリセリンの2種を使用し、これら両者の配合割合を調整することで、使用対象となるユーザに適したゲル化時間のゲル状石けん調製キットを製造することが可能となるのである。
このエタノールとグリセリンとの配合割合は、エタノール:グリセリン=20:80~3:97とすることで良好なゲル形成を行わせることができる。例えばエタノール:グリセリンの割合が20:80よりもエタノールが多い割合となった場合には均一な攪拌を行う作業時間を確保するのが困難な程度にゲル化の反応が始まってしまうため好ましくない。グリセリンの割合は100%であっても良いため、エタノール:グリセリンの割合が3:97よりもグリセリンが多い割合となることを妨げないが、このような割合とすることで、例えば子供などの使用者はある程度の時間をかけて攪拌することができる。なお、攪拌の作業もまた、幼児にとっては本キットで遊ぶ醍醐味の一つである。
以下、本実施形態に係るゲル状石けんの幼児用調製キットや、ゲル状石けん調製キットのゲル化時間の調整方法について、図面や試験例を参照しながら詳説する。
〔1.キットの構成〕
まず、本実施形態に係るゲル状石けんの幼児用調製キットの構成について図1を参照しながら説明する。図1はゲル状石けんの幼児用調製キットA(以下、単に調製キットAともいう。)の構成パーツを示した説明図である。
調製キットAは、特に女児を対象としたゲル状石けんの調製キットであり、製剤10と調製具11とで構成している。製剤10は、図1に示すように、第1剤袋12と第2剤袋13との2種の製剤が備えられている。
第1剤袋12は、第1剤を30gずつ充填した袋である。調製キットAには、第1剤袋12が4包備えられている。調製キットAの第1剤の処方は表1の通りである。
第2剤袋13は、第2剤を20gずつ充填した袋である。調製キットAには第2剤袋13もまた4包備えられているが、そのうち2包は着色料によってピンクに着色されたピンク色第2剤13aであり、残りの2包は青に着色された青色第2剤13bとし、調製する石けんの色のバリエーションを増やしたり、石けんにグラデーションを施すことが可能となるよう構成している。この調製キットAの第2剤の処方は表2の通りである。
また、これら第1剤袋12と第2剤袋13は、いずれも1包ずつ混合させれば、1回の調合に適した量と混合割合になるよう調整している。
調製具11は、混合容器14と、ハート皿15と、ハートカップ16と、小分け用スプーン17と、混ぜ棒18と、デザイン型枠19とで構成している。
混合容器14は、第1剤と第2剤とを混合するための注口14aを備えたカップ状(有底円筒状)の容器であり、本実施形態に係る調製キットAでは2つ備えられている。
また混合容器14は、上部開口の直径L1に比して、底部近傍の直径L2の方が小さくなるよう形成している。これは、混合容器14を把持した手からの熱(体温)を周壁を介して混合容器14内部の混合物に効率良く伝達させるためであり、特に、子供の小さな手のひらであっても、混合容器14の下部において手指が周回りにしっかりと巻き回るようにしている。
ハート皿15は、ハート型にデザインされた皿である。用途は特に限定されるものではないが、例えば、完成したゲル状石けんを載置して親や友達に見せたり、室内に飾るために使用される。
ハートカップ16は有底ハート筒型のカップである。ゲル状石けんは、後述のデザイン型枠19に形成されている各凹部に両剤の混合物を流し込み、ゲル化させて形成するのであるが、その他にも、より大型のゲル状石けんを得るために、このハートカップ16内に混合物を流し込んでゲル化させ、大きなハート型のゲル状石けんを調製可能としている。
小分け用スプーン17は、特に用途が限定されるものではないが、混合容器14内で調製した混合物をデザイン型枠19の凹部内に流し込む際に、混合容器14内の混合物をこの小分け用スプーン17で掬って流し込む等の用途に用いられる。
混ぜ棒18は、混合容器14内にて両剤を混合する際に用いる棒である。本実施形態に係る調製キットAでは、2本の混ぜ棒18が備えられている。
デザイン型枠19は、ハートカップ16と同様にゲル状石けん調製のための型枠として機能するものであり、比較的小さなゲル状石けんを作る際に使用される。
デザイン型枠19には、様々なデザインの凹部19a~19fが形成されている。この凹部19a~19fの形状や数は、調製キットAの使用者の好みであったり、調製キットAのコンセプトに併せて適宜選択することが可能である。特に本実施形態に係る調製キットAは幼児用に特化しており、凹部19a~19fは星形やハート形、ドーナツ形など女児が好むようなデザインが施されている。
〔2.キットの使用〕
次に、調製キットAを用いたゲル状石けんの調製について図2を参照しながら説明する。ゲル状石けんの調製にあたっては、まず図2(a)に示すように、第1剤袋12の中の第1剤12aと、第2剤袋13の中の第2剤13cとを混合容器14内に入れる。
第1剤袋12と第2剤袋13は、例えば夏場など気温(室温)が比較的高い状態(概ね25~30℃)であれば、室温状態のままの第1剤袋12や第2剤袋13を使用しても良いが、冬場であったり、より速やかにゲル化反応を行わせる場合には、各袋を両手のひらに挟んで温めたり、湯煎により温めるようにしても良い。湯煎はやけどのおそれのないぬるめの風呂程度の温度、35℃~40℃程度の温度で十分であり、前述した従来の製法の如く50~60℃以上にまで加温する必要はない。
なお、図2(a)では説明の便宜上、第1剤12aと第2剤13cとを同時に添加した状態を図示しているが、まずは第2剤13cを混合容器14内に投入し、次いで第1剤12aを添加するのが望ましい。
混合容器14内に第1剤12aと第2剤13cとを投入した後は、図2(b)に示すように混ぜ棒18を用いて混合容器14内の両剤を十分に攪拌混和させ、混合物20の調製を行う。
このとき、本実施形態に係る調製キットAの特徴として、混合容器14には両剤の混合物20を加温するための熱伝導性向上手段として、下部直径L2を上部直径L1よりも小径とした周壁部の構造を備えている。
従って、女児などの使用者Pの指のうち薬指や小指など混合容器14の下方に位置する指を、混合容器14の下方で周方向へできるだけ長く巻き回らせることができ、手の熱を効率的に混合物20へ伝達させて均一且つ良好なゲル化反応を行わせることができる。
混合物20の調製後は、図2(c)に示すように、デザイン型枠19に混合物20を流し込み、成形を行う。ここでは、混合容器14から注口14aを介して星形の凹部19bに混合物20を注ぎ込んでいるが、これに限定されるものではなく、先述の小分け用スプーン17を用いて好みの凹部に混合物20を入れるようにしても良い。
そして、15~20分ほど静置しておくことで混合物20を実用ゲル強度までゲル化させ、ゲル状石けん21が形成される。実用ゲル強度に達したゲル状石けん21は、図2(d)に示すようにデザイン型枠19の凹部(凹部19b)より混ぜ棒18や指を用いて抜去する。
このようにして得たゲル状石けん21は、図1にて示したハート皿15に載せて飾ったり、図2(e)に示すように手指洗浄の用に供することができる。特に、手洗いが嫌いな子どもであっても、自らが手作りしたゲル状石けんであることから、楽しんで手洗いをすることが可能となる。また、風呂場に持ち込み、見た目や手触り等を楽しみながら体を洗うこともできる。
〔3.所要時間確認試験(1)〕
次に、先に表1及び表2にて示した処方の第1剤及び第2剤について、両剤の混合前の温度と、実用ゲル強度に達するまでに要する時間との関係について確認試験を行った。
具体的には、50℃、45℃、40℃、35℃、30℃、25℃、20℃の7つの温度とした第1剤及び第2剤を用いて両剤の攪拌混合を行い、混合物の全量をハートカップ16へ投入し、この混合物がゲル化して実用ゲル強度に達しゲル状石けんとなるまでに要する時間の計測を行った。
その結果、混合前の両剤の温度を50℃とした場合には、混合物を型枠に収容して放置後89分で実用ゲル強度に達した。同様に、45℃では76分、40℃では69分、35℃では60分、30℃では42分、25℃では29分であった。
このように、50℃や45℃では勿論のこと、25℃~40℃の温度においても、比較的短時間にて実用ゲル強度に達することが確認された。また、25℃~40℃の温度においても、50℃や45℃の場合と遜色なく、できるだけ部位に偏りなくゲル化反応を一様に開始させることができ、型枠に忠実な精密な成型が可能であることが確認された。
その一方、両剤の温度が20℃の場合は、ゲル化開始時の温度が低いため均一なゲル化反応を開始させることができず、型枠内では崩れたゼリーの集まりのような、不均一なゲル化反応が観察された。従って、反応開始後いつまでたっても実用的なゲル状石けんを得ることができず、短時間で実用ゲル強度に達するとは言い難いものであった。特に飽きやすい幼児向けの調製用キットとしては不向きであると考えられた。
これらのことから、先述の本実施形態に係る調製キットAは、30~45℃程度の比較的低温、さらには約25℃程度の室温であっても、できるだけ部位に偏りなくゲル化反応を一様に開始させることができ、また、精密な成型が可能で、しかも、比較的速やかに実用ゲル強度のゲル形成が可能なゲル状石けんの幼児用調製キットであることが示された。
〔4.所要時間確認試験(2)〕
次に、第1剤を第1剤必須組成液とし、第2剤を第2剤必須組成液として、両剤の混合前の温度と、実用ゲル強度に達するまでに要する時間との関係について、前述の〔3.所要時間確認試験(1)〕と同様に確認試験を行った。第1剤及び第2剤の組成は表3及び表4に示すとおりである。
その結果、混合前の両剤の温度を50℃とした場合には、混合物を型枠に収容して放置後89分で実用ゲル強度に達した。同様に、45℃では76分、40℃では69分、35℃では60分、30℃では42分、25℃では29分であった。
このように、50℃や45℃では勿論のこと、25℃~40℃の温度においても、比較的短時間にて実用ゲル強度達することが確認された。また、25℃~40℃の温度においても、50℃や45℃の場合と遜色なく、できるだけ部位に偏りなくゲル化反応を一様に開始させることができ、型枠に忠実な精密な成型が可能であることが確認された。
その一方、両剤の温度が20℃の場合は、ゲル化開始時の温度が低いため均一なゲル化反応を開始させることができず、型枠内では崩れたゼリーの集まりのような、不均一なゲル化反応が観察された。従って、反応開始後いつまでたっても実用的なゲル状石けんを得ることができず、短時間で実用ゲル強度に達するとは言い難いものであった。特に飽きやすい幼児向けの調製用キットとしては不向きであると考えられた。
これらのことから、本発明に係るゲル状石けんの幼児用調製キット、すなわち、界面活性剤とタマリンドガムとを含有する水溶液よりなる第1剤と、37.5~100w/w%のグリセリンを少なくとも含むアルコール分を含有させた第2剤とを備え、両剤を混合することで前記タマリンドガムをゲル化してゲル状の石けんを調製可能としたゲル状石けんの調製キットにおいて、前記第2剤の水分含量を0w/w%としたゲル状石けんの幼児用調製キットは、30~45℃程度の比較的低温、さらには約25℃程度の室温であってもできるだけ部位に偏りなくゲル化反応を一様に開始させることができ、また、精密な成型が可能で、しかも、比較的速やかに実用ゲル強度のゲル形成が可能なゲル状石けんの幼児用調製キットであることが示された。
〔5.水分含量とゲル化所要時間の検討〕
上述の〔3.所要時間確認試験(1)〕や〔4.所要時間確認試験(2)〕により、第1剤や第2剤が必須組成液であるか否かに拘わらず、ゲル化所要時間については同様の傾向が確認された。そこで次に、試験系を単純化すべく第1剤及び第2剤に必須組成液を採用し、第2剤の水分含量を0~25w/w%の範囲で違えた場合の実用ゲル強度に達するまでに要する時間について確認試験を行った。
具体的には、25℃とした第1剤及び第2剤を用いて両剤の攪拌混合を行い、混合物の全量をハートカップ16へ投入し、この混合物がゲル化して実用ゲル強度に達しゲル状石けんとなるまでに要する時間の計測を行った。第2剤は、水分含量が0w/w%、2.15w/w%、10w/w%、25w/w%、30w/w%での到達時間を測定した。なお、水分含量2.15%は、日本薬局方のグリセリンの含量規格である98.0%以上や、日本薬局方のエタノールの含量規格である95%以上を勘案し、意図的に水分は添加しないが、原料由来で第2剤に含まれる可能性のある水分として検討を行うものである。その他、10w/w%、25w/w%、30w/w%のグリセリンとエタノールとの比率については、0w/w%に準じ19:1としている。
検証の結果、0w/w%では29分であり、2.15w/w%では26分、10w/w%では22分、25w/w%では15分であった。また、これら第2剤の水分含量を0w/w%~25w/w%としたものについては、第1剤との混合時において混合容器を把持する手にほのかな暖かみが感じられ、溶解熱が発生していることが確認された。また、水分含量が多い程、溶解熱の発生量は少ないように感じられ、これにより温度が低下するまでの時間短縮が図られることから、結果として実用ゲル強度に達する時間も短くなるものと考えられた。
その一方、30w/w%の場合は、水分含量が多いため均一な攪拌は可能であったものの、溶解熱の発熱量が少なく、また、混合直後からゲル形成反応が見られ崩れたゼリー状となった。それゆえ、ある程度時間が経過しても実用ゲル強度に達することはなく、特に飽きやすい幼児向けの調製用キットとしては不向きであると考えられた。
これらのことから、第2剤の水分含量を0w/w%~25w/w%とした本発明に係るゲル状石けんの幼児用調製キットは、30~45℃程度の比較的低温、さらには約25℃程度の室温であっても、できるだけ部位に偏りなくゲル化反応を一様に開始させることができ、また、精密な成型が可能で、しかも、比較的速やかに実用ゲル強度のゲル形成が可能なゲル状石けんの幼児用調製キットであることが示された。
〔6.グリセリンとエタノールとの配合割合についての検討〕
次に、第2剤のアルコール分をグリセリンとエタノールとの混合アルコールとした場合における、これらグリセリンとエタノールとの配合割合がゲル化所要時間に及ぼす影響について検討を行った。
具体的には、第1剤に必須組成液を採用し、第2剤のアルコール分に関し、グリセリン:エタノール=100w/w%:0w/w%、95w/w%:5w/w%、75w/w%:25w/w%、50w/w%:50w/w%、40w/w%:60w/w%とした場合の実用ゲル強度に達するまでに要する時間について検討を行った。なお、混合前の第1剤及び第2剤の温度は25℃とし、第2剤の水分含量は25w/w%とした。
検証の結果、グリセリン:エタノール=100w/w%:0w/w%では最も遅く21分であり、95w/w%:5w/w%では18分、75w/w%:25w/w%では12分、50w/w%:50w/w%では10分であった。このように、これら第2剤の水分含量をグリセリン:エタノール=100w/w%~50w/w%:0w/w%~50w/w%としたものについては、実用ゲル強度に至るまでに適度な時間的余裕があり、作業中に手元がおぼつかなくなるおそれのある幼児であっても、想定外にゲル化してしまうことを防止できるものと考えられた。
その一方、グリセリン:エタノール=40w/w%:60w/w%とした場合は、実用ゲル強度に達するまでに4分しか要しておらず、比較的短時間にゲル化してしまうことから、必ずしも適用が妨げられる条件ではないものの、場合によっては想定外にゲル化してしまう場合があり、幼児向けの調製用キットとしては検討の余地があるものと思われた。
しかしながら、グリセリン:エタノールの比率を変化させること、特にグリセリン:エタノール=100w/w%~50w/w%:0w/w%~50w/w%の範囲内で配合割合を変化させることでゲル化時間を変化可能であることは明白であり、混合前の両剤の温度状態や第2剤の水分量等に比較的左右されることなく、独立してゲル化時間を変化させることが可能な要素として有用であることが示唆された。
上述してきたように、本実施形態に係るゲル状石けんの幼児用調製キットによれば、界面活性剤とタマリンドガムとを含有する水溶液よりなる第1剤と、少なくともグリセリンを含むアルコール分を含有し、前記グリセリン濃度が37.5~100w/w%を占める第2剤とを備え、両剤を混合することで前記タマリンドガムをゲル化してゲル状の石けんを調製可能としたゲル状石けんの調製キットにおいて、前記第2剤の水分含量を0~25w/w%としたため、30~45℃程度の比較的低温、さらには約25℃程度の室温であっても、できるだけ部位に偏りなくゲル化反応を一様に開始させることができ、また、精密な成型が可能で、しかも、比較的速やかに実用ゲル強度のゲル形成が可能なゲル状石けんの幼児用調製キットを提供することができる。
また、本実施形態に係るゲル状石けん調製キットのゲル化時間の調整方法によれば、界面活性剤とタマリンドガムとを含有する水溶液よりなる第1剤と、アルコール分を含む第2剤とを備え、両剤を混合することで前記タマリンドガムをゲル化させゲル状の石けんを調製可能としたゲル状石けん調製キットのゲル化時間の調整方法であって、前記アルコール分としてのエタノールとグリセリンとの配合割合を変化させることでゲル化時間を変化させることとしたため、ゲル形成温度を変化させることなくゲル化時間を調節することができ、特に手早い作業が困難な幼児など、ゲル状石けん調製キットの使用対象年齢に見合ったゲル化時間とすることができる。
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
例えば、本実施形態に係る調製キットAにおいてデザイン型枠19には、月形の凹部19aや、星形の凹部19b、ドーナツ形の凹部19dなどを形成することで、それぞれ月形や星形、ドーナツ型のゲル状石けん21を成形可能としたがこれに限定されるものではない。
先述の如く、本実施形態に係る調製キットAは、幼児であっても安全に取扱いできる温度で調製可能でありながらも精密な成型が可能であることを特徴としていることから、例えば図3に示すように、より複雑な型を採用することも可能である。
具体的に説明すると、図3にて符号30で示すデザイン型はハート型の型枠であり、図1において示したハート型の凹部19cと比較すると、周囲にフリル状の縁取りが成されていたり、ハート形状の段差が入れ子状に形成されており、より複雑な形状を有している。
同様に、符号31はリボン型、符号32はバラ型の型枠であり、図1にて示したデザイン型枠19上の凹部形状と比較して深さ方向にもより複雑な型枠としている。
また、これらの型枠の大きさは、使用する製剤の量や石けんとして使い切れるサイズなどを考慮して適宜選択することが可能である。例えば図3においてはハート大型枠30aとハート小型枠30b、リボン大型枠31aとリボン小型枠31b、バラ大型枠32aとバラ小型枠32bのように、大小相似形の型枠を揃えることで、使用者に対し所望の大きさを選択できるよう構成することもできる。
また符号33~35で示す型枠は、いずれもジュエリー型の型枠である。特に、本実施形態に係る調製キットAは、不透明化するような色素等を積極的に用いなければ透明なゲル状石けんを容易に調製することができ、型枠のモチーフとしてジュエリーを選択することは、有色透明といった共通する外観を踏まえると極めて好適であると言える。例えばジュエリー型枠33はオーバルカット状の型枠であり、ジュエリー型枠34は簡易的なブリリアントカット状の型枠、ジュエリー型枠35はハート・シェイプ・カット型の型枠である。