JP7313019B2 - 医薬組成物 - Google Patents
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Description
鼻茸の成因については、血管透過性の亢進による浮腫、粘膜固有層脱出、細胞外マトリックスの蓄積等さまざまな成因が考えられており、さらに、種々のサイトカインや増殖因子との関連も報告されている。増殖因子としては、血管内皮増殖因子や血小板由来増殖因子と鼻茸との関連が報告されている(非特許文献1:川崎医学会誌 35(1):39-50,2009)。
慢性副鼻腔炎のうち、鼻茸を伴う疾患には、好酸球性副鼻腔炎と非好酸球性副鼻腔炎がある。そのうち好酸球性副鼻腔炎は、指定難病であり、両側の多発性鼻茸と粘調な鼻汁により、高度の鼻閉と嗅覚障害示す、成人発症の難治性副鼻腔炎である。当該疾患の治療には、抗菌薬は無効であり、ステロイドの内服にのみ反応する。鼻腔内に鼻茸が充満しているため、鼻副鼻腔手術で鼻茸の摘出を行うが、すぐに再発するという問題があった。
一方、抗凝固作用を有するヘパリンは、ラット鼻粘膜炎症モデルにおいて粘液産生や好中球浸潤に対し有意に抑制したことが報告されているが(非特許文献4:耳鼻免疫アレルギー 29(3):221-227, 2011)、好酸球性副鼻腔炎患者から採取した鼻茸に対しては縮小効果を示さなかった(非特許文献5:Allergology International 66(2017) 594-602)。
(1) 多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、イヌリン、およびキシロオリゴ糖から選択される多糖又はその塩を有効成分とする鼻茸縮小剤。
(1a) 前記多糖またはその塩が、多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、およびイヌリンから選択される、(1)に記載の鼻茸縮小剤。
(1b) 硫酸化多糖又はその塩を有効成分とする鼻茸縮小剤。
(1c) 前記硫酸化多糖又はその塩が、多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、およびペントサンポリ硫酸から選択される、(1b)に記載の鼻茸縮小剤。
(2) 前記硫酸化多糖が、D-ガラクトサミン、D-グルクロン酸、L-イズロン酸、D-グルコース、D-ガラクトース、D-キシロース、及びL-アラビノースから選択さ
れる単糖から構成され、前記単糖は一部アセチル化されていてもよい、(1b)に記載の鼻茸縮小剤。
(3) 前記硫酸化多糖が、多硫酸化コンドロイチン硫酸、多硫酸化デルマタン硫酸、又はペントサンポリ硫酸である、(1b)又は(2)に記載の鼻茸縮小剤。
(4) 鼻腔内投与される、(1)~(3)のいずれか一項に記載の鼻茸縮小剤。
(5) 慢性副鼻腔炎患者の鼻茸の縮小に用いられる、多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、イヌリン、およびキシロオリゴ糖から選択される多糖又はその塩を含む医薬組成物。
(5a) 前記多糖が、多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、およびイヌリンから選択される、(5)に記載の医薬組成物。
(5b) 慢性副鼻腔炎患者の鼻茸の縮小に用いられる硫酸化多糖又はその塩を含む医薬組成物。
(6) 前記硫酸化多糖が、D-ガラクトサミン、D-グルクロン酸、L-イズロン酸、D-グルコース、D-ガラクトース、D-キシロース、及びL-アラビノースから選択される単糖から構成され、前記単糖は一部アセチル化されていてもよい、(5b)に記載の医薬組成物。
(7) 前記硫酸化多糖が、多硫酸化コンドロイチン硫酸、多硫酸化デルマタン硫酸、又はペントサンポリ硫酸である、(5b)又は(6)に記載の医薬組成物。
(8) 前記慢性副鼻腔炎患者が、好酸球性副鼻腔炎又は非好酸球性副鼻腔炎患者である、(5)~(7)のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(9) 前記慢性副鼻腔炎患者が、好酸球性副鼻腔炎患者である、(5)~(8)のいずれか一項に記載の医薬組成物。
(10) (5)~(9)のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む鼻腔内投与製剤。
(11) 鼻茸の治療を必要とする患者に、有効量の多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、イヌリン、およびキシロオリゴ糖から選択される多糖又はその塩を投与することによる、鼻茸を処置する方法。
(12) 前記多糖またはその塩が、多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、およびイヌリンから選択される、(11)に記載の方法。
(13) 鼻茸の治療を必要とする患者に、有効量の硫酸化多糖又はその塩を投与することを含む、鼻茸の縮小方法。
(14) 前記硫酸化多糖又はその塩が、多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、およびペントサンポリ硫酸から選択される、(13)に記載の方法。
(15) 前記硫酸化多糖が、D-ガラクトサミン、D-グルクロン酸、L-イズロン酸、D-グルコース、D-ガラクトース、D-キシロース、及びL-アラビノースから選択される単糖から構成され、前記単糖は一部アセチル化されていてもよい、(13)に記載の方法。
(16) 前記硫酸化多糖が、多硫酸化コンドロイチン硫酸、多硫酸化デルマタン硫酸、又はペントサンポリ硫酸である、(13)に記載の方法。
(17) 前記患者が、副鼻腔炎に罹患している、(11)に記載の方法。
(18) 前記患者が、好酸球性副鼻腔炎又は非好酸球性副鼻腔炎の慢性副鼻腔炎に罹患している、(11)に記載の方法。
(19) 前記患者が、好酸球性副鼻腔炎に罹患している、(11)に記載の方法。
(20) 鼻腔内投与する、(11)に記載の方法。
本発明で用いられる多糖は、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、および多硫酸化コンドロイチン硫酸などの多硫酸化ムコ多糖から選択される硫酸化ムコ多糖、硫酸化ムコ多糖に、さらにデキストラン硫酸およびペントサンポリ硫酸を含めた硫酸化多糖、ならびに、グルコマンナン、イヌリン、およびキシロオリゴ糖から選択される多糖である。好ましくは、多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、およびイヌリンから選択される多糖である。
本発明における硫酸化多糖は、D-グルコサミン、D-ガラクトサミン、D-グルクロン酸、L-イズロン酸、D-ガラクツロン酸、D-グルコース、D-ガラクトース、D-キシロース、及びL-アラビノースから選択される単糖から構成され、これらの単糖は一部アセチル化されていてもよく、該単糖の1種又は2種以上を繰り返し単位とする多糖に硫酸基を有するものである。本発明で用いられる硫酸化多糖は、硫酸基が、単糖1分子当たり平均0.55~4分子、好ましくは、平均0.6~2.9分子、より好ましくは平均0.7~2分子である。
また、本発明で用いられる硫酸化多糖の硫酸基含有量は、日本薬局方外医薬品規格2002の「ヘパリン類似物質」に規定された定量法による有機硫酸基含有量が10~70w/w%であるものが好ましく、より好ましくは10~65w/w%の有機硫酸基含有量を有する硫酸化多糖である。
好ましくは、構成する主な単糖が、D-ガラクトサミン、D-グルクロン酸、L-イズロン酸、D-グルコース、D-ガラクトース、D-キシロース及びL-アラビノースから選択され、当該単糖は一部アセチル化されていてもよい、硫酸化多糖である。より好ましくは、D-ガラクトサミン、D-グルクロン酸、D-グルコース、D-ガラクトース、D-キシロース及びL-アラビノースから選択される単糖から構成される硫酸化多糖である。
なお、一部アセチル化されている単糖としては、例えば天然に存在する単糖として、アセチルグルコース、N-アセチルグルコサミン、アセチルガラクトース、N-アセチルガラクトサミン、アセチルキシロース等が挙げられる。
本発明で用いられる硫酸化多糖もしくはその塩の重量平均分子量は、1000~10000000程度であり、好ましくは、4000~1000000程度である。
本明細書で用いられる重量平均分子量とは、Miの分子量を持つ高分子がNi個存在する場合、以下の計算式
重量平均分子量(Mw)=Σ(Ni・Mi2)/Σ(Ni・Mi)
で表される値である。
硫酸化多糖は、一部アセチル化されていてもよい単糖から構成される多糖に、硫酸化反応を行い硫酸基を導入することにより得られる。
硫酸化反応は、原料の多糖1gに対し、氷冷した溶媒を10~30mL用意し、これに硫酸化剤を原料多糖1gに対して2~6倍を加え、この溶液に、原料の多糖1gを加え、0℃~100℃で、1~10時間反応させて、硫酸化を行う。使用する溶媒としては、ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド等が使用でき、硫酸化剤としては、クロロスルホン酸、トリエチルアミン-サルファトリオキサイド錯塩等が使用できる。
本発明に用いられる一部アセチル化されていてもよい単糖から構成される硫酸化多糖は、好ましくは当該硫酸化多糖の構成糖の0%~60%(モル比)が、N-アセチル化またはO-アセチル化されている。
本願明細書において、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸およびヘパラン硫酸、および多硫酸化コンドロイチン硫酸などの多硫酸化ムコ多糖は、硫酸化ムコ多糖に分類される。
また、グルコマンナン、イヌリン、およびキシロオリゴ糖は、上記に該当しない多糖に分類される。
「硫酸化ムコ多糖」とは、硫酸基を有するムコ多糖を意味する。本発明の硫酸化ムコ多糖には、糖鎖中に硫酸基を持つ天然由来のムコ多糖、ムコ多糖や天然の硫酸化ムコ多糖をさらに化学的に修飾したものも包含される。
「多硫酸化ムコ多糖」は、硫酸化ムコ多糖のうち、糖鎖中に硫酸基をより多く有するもので、天然由来の多硫酸化ムコ多糖に加え、ムコ多糖や天然の硫酸化ムコ多糖をさらに化学的に硫酸化したものも包含される。
硫酸化ムコ多糖の例について以下に説明するが、その全体構造は、これらの硫酸化ムコ多糖が形成するプロテオグリカンの種類、これらの硫酸化ムコ多糖が存在する動物種、組織、発生段階等により、多様性を有する。すなわち、天然由来のムコ多糖または硫酸化ムコ多糖は、これらの硫酸化ムコ多糖の基本構造として以下に説明する構造にさらに修飾を受けたり、その一部に基本構造以外の構造や糖を有する場合もある。本発明に用いられるこれらの各硫酸化ムコ多糖には、そのようなバリエーションも含まれる。
「コンドロイチン硫酸」は、動物の粘質性分泌液や軟骨組織などから分離される物質である。構成糖と硫酸基の結合位置により、コンドロイチン硫酸A、およびコンドロイチン硫酸C、D、Eなどがあるが、本願明細書においては、コンドロイチン硫酸A、およびコンドロイチン硫酸Cは硫酸化ムコ多糖として、コンドロイチン硫酸DおよびEは多硫酸化ムコ多糖としても分類される硫酸化ムコ多糖である。
コンドロイチン硫酸A(コンドロイチン4硫酸)は、4位に硫酸基を持つN-アセチル-D-ガラクトサミン(GalNAc)とD-グルクロン酸(GlcA)の二糖の繰り返し構造を基本構造として有する。
コンドロイチン硫酸C(コンドロイチン6硫酸)は、6位に硫酸基を持つGalNAcとGlcAの二糖の繰り返し構造を基本構造として有する。
好ましくは、コンドロイチン硫酸AおよびCである。
また、コンドロイチン硫酸を重量平均分子量が10万以下、好ましくは1万~5万の低分子化した低分子コンドロイチン硫酸も用いることができる。低分子コンドロイチン硫酸は、コンドロイチナーゼまたはコンドロイチン硫酸リアーゼなどの酵素を用いて天然のコンドロイチン硫酸を分解することにより得られる。
「デルマタン硫酸」は、イズロン酸(IdoUA)とGalNAcの繰り返し二糖からなり、GalNAcの4位に硫酸基を有する構造を基本構造とする。コンドロイチン硫酸Bと称されることもある。
「ケラタン硫酸」は、ガラクトース(Gal)およびN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)がそれぞれβ(1→4)およびβ(1→3)結合で交互に結合した繰り返し二糖からなり、GlcNAcの6位は常に硫酸化された構造を基本構造とする。
「ヘパラン硫酸」は、D-グルコサミン、D-グルクロン酸、L-イズロン酸を構成糖とする多糖のN-アセチル、N-硫酸、O-硫酸置換体である。
「コンドロイチン」は、GalNAcとGlcAの繰り返し二糖を基本構造とし、硫酸基が特に少ない(通常、二糖単位当たり0.7分子以下)ムコ多糖である。ウシ角膜など天然由来のほかに、コンドロイチン硫酸を化学的に脱硫酸化しても得られる。
また、本発明で用いられる硫酸化ムコ多糖類には、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸などがさらに硫酸化された多硫酸化ムコ多糖も含まれる。
コンドロイチン硫酸AやCなどの硫酸化ムコ多糖にさらに硫酸基を導入し多硫酸化ムコ多糖を得る方法としては、既知の方法、例えば、硫酸化剤存在下で適当な溶媒中で加温し、反応させる方法が挙げられる。硫酸化剤としては、多硫酸化の目的を達成することができるものであれば特に限定されるものではないが、無水硫酸とピリジン若しくはトリエチルアミン等の錯体を使用するのが好ましい。硫酸化剤の使用割合は、所望の硫酸化ムコ多糖の硫酸化率(又は硫黄含有率)及び反応条件に従って任意に選択することができるが、一般に、多硫酸化する硫酸化ムコ多糖1重量部に対して2~10重量部となるような割合で使用する。溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド等の親プロトン性溶媒を挙げることができる。反応温度、反応時間としては、所望の硫酸化率が達成できる限り特に限定されないが、例えば、40~90℃で30分~20日間程度反応させる。
多硫酸化コンドロイチン硫酸としては、例えば、コンドロイチン硫酸D、コンドロイチン硫酸E、日本薬局方外医薬品規格に記載のヘパリン類似物質が挙げられる。好ましくは、日本薬局方外医薬品規格に記載のヘパリン類似物質である。
具体的には、物理化学的性質として次の値を示す多硫酸化コンドロイチン硫酸である。
a)硫酸基含量:25.8~37.3%
b)極限粘度:0.09~0.18
コンドロイチン硫酸E(コンドロイチン4,6硫酸)はスルメイカ軟骨等から単離され、コンドロイチン硫酸Cに似た構造を持ち、その基本構造は、GalNAcの4および6位に硫酸基を有する。
「多硫酸化デルマタン硫酸」とは、N-アセチルガラクトサミンとL-イズロン酸からなる繰り返し糖単位をもつ天然の硫酸化ムコ多糖であるデルマタン硫酸に、化学的に硫酸基を導入することによって合成されたものおよび天然に存在するデルマタンポリ硫酸、またはこれに化学的に硫酸基を導入することによって合成されたものを意味する。
本発明に用いられる上記以外の硫酸化多糖について、以下に説明する。
「デキストラン硫酸」は、グルコースがα(1→6)結合した直鎖と、α(1→3)結合の分枝から始まる通常1000ないし数千ダルトン(Da)から数十万Daまでの様々な長さの鎖で構成されるグルコース単位からなる多糖であるデキストランのポリアニオン誘導体であり、C2~C4位ならびに末端基のC1位およびC6位の一部が硫酸化されている。
「ペントサンポリ硫酸」はD-キシロース及び/又はL-アラビノースを構成単糖とする多価陰イオン性多糖の混合物を含む、半合成硫酸化多糖である。ペントサンポリ硫酸は、木本、例えばブナから得られる多糖(例えばキシラン)の化学的硫酸化により生成される。一般に、キシラン鎖に側鎖としてO-メチルグルクロン酸が結合したものの多硫酸化体と考えられている。
ペントサンポリ硫酸は、生理学的に許容される塩形態として用いられてもよく、生理学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、及びマグネシウム塩が挙げられる。特に好ましい塩は、ペントサンポリ硫酸ナトリウムである。
ペントサンポリ硫酸としては、特に限定されないが、重量平均分子量が、1000~30000のものを用いることが好ましく、より好ましくは2000~10000であり、4000~6500のものを用いることがさらに好ましい。
以下に、硫酸化多糖以外の多糖の具体例について説明する。
「グルコマンナン」は、主にグルコースとマンノースからなり、両者がβ(1→4)結合して主鎖を形成し、一部β(1→3)結合やβ(1→6)結合による枝分かれ構造を有する。
「イヌリン」は、末端グルコースを持つフルクトースがβ(2→1)結合し2~140分子結合した物質である。
「キシロオリゴ糖」は、キシランの加水分解物であり、キシロースが2~7個程度β(1→4)結合した構造を持つオリゴ糖である。原料であるキシランに由来して、4-O-メチルグルクロン酸側鎖、アラビノフラノシル側鎖等を有するものも含まれる。
上記多糖は、生理学的に許容される塩形態として用いられてもよく、生理学的に許容される塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、及びマグネシウム塩等が挙げられ、これらの複数塩も含まれる。
上記多糖は、動物や植物組織、ストレプトコッカス属微生物等の微生物、動物細胞もしくは植物細胞の培養物から抽出、回収することができる。また、市販品を用いることもできる。
また、本発明の医薬は、鼻茸の縮小効果を有することから、鼻茸を呈する疾患、具体的には好酸球性副鼻腔炎や非好酸球性副鼻腔炎を含む慢性副鼻腔炎や、アレルギー性鼻炎等の症状改善も期待できる。
また、本発明の別の態様は、鼻茸の治療を必要とする患者に、本発明で用いられる所定の多糖を投与することによる、鼻茸を処置する方法、鼻茸を縮小する方法、または鼻茸の予防または治療方法を提供する。
鼻茸は、鼻ポリープとも称され、粘膜固有層に就下性の浮腫が起きる部位(通常は上顎洞開口部の周囲)にできる鼻粘膜の肉質の増殖である。鼻茸の治療を必要とする患者は、鼻茸を伴う疾患、具体的には、副鼻腔炎患者、好ましくは慢性副鼻腔炎に罹患している患者である。慢性副鼻腔炎には、好酸球性副鼻腔炎と非好酸球性副鼻腔炎が含まれる。
鼻茸を処置とは、鼻茸による鼻閉等の症状を改善すること、鼻茸を縮小すること、または鼻茸の治療、すなわち、鼻茸の縮小と鼻閉等の症状の改善、が含まれる。
鼻茸による鼻閉等の症状の改善は、鼻茸の数や大きさに減少が見られなくても、鼻閉などの臨床症状が、本発明に用いられる多糖の非投与群に比べて改善することを意味する。
鼻茸の縮小は、鼻茸の数の減少や大きさ(鼻茸1つあたりの面積や重量)の縮小の少なくとも1つがみられることを意味する。
鼻腔内投与製剤は、鼻腔内投与を目的とした薬物の形態であり、具体的には、液剤、懸濁剤、粉末剤、固形剤又は半固形剤である。懸濁剤は、液体媒体中に分散された固体粒子を含有する液体製剤である。
鼻腔内投与製剤の好ましい剤形としては、点鼻剤が挙げられる。
点鼻剤は、鼻腔又は鼻粘膜に投与する製剤であり、点鼻液剤及び点鼻粉末剤に分類される。点鼻剤は、必要に応じて、スプレーポンプなどの適切な噴霧量の均一性を有する噴霧用の器具を用いて噴霧吸入することができる。噴霧量を調節することができる噴霧用の器具を用いることにより、点鼻剤の投与量を調節することができる。
点鼻液剤は、鼻腔に投与する液状、又は用時溶解若しくは用時懸濁して用いる固形の点鼻剤であり、通例、有効成分をそのまま又は溶剤若しくはそのほかの適切な添加剤を加え、溶解又は懸濁し、必要に応じて、ろ過することにより製造することができる。あるいは、適切な溶解液又は懸濁用液を用い、用時溶解又は用時懸濁して用いることができる。点鼻液剤には、必要に応じて、溶解補助剤、等張化剤、緩衝剤又は、pH調節剤などを加えることができる。また、懸濁剤の場合には、有効成分の均一な状態を得るために、必要に応じて、分散剤又は安定化剤などを加えることができる。
点鼻液剤の投与形態としては、例えば、スプレー式点鼻薬、鼻エアロゾル、または鼻ネブライザーが挙げられる。スプレー式点鼻薬は、通常、非加圧ディスペンサー中の溶液又は混合物中に溶解又は懸濁された多糖を含有する。スプレー式点鼻薬は、送達デバイスが小型であり、簡便かつ、使用方法が簡便であり、25~200μLの送達投薬量を正確に計量できる利点を有する。スプレー式点鼻薬には、多糖を含む液体又は懸濁剤を用いることができる。別の鼻腔内形態は、鼻エアロゾルである。鼻エアロゾルは、薬剤を過剰な圧に起因して分注され、バルブを通過して放出する。スプレー式点鼻薬では、薬剤はミクロポンプバケットにより強制的に分注されるが、バイアルの圧は大気圧と同様である。鼻エアロゾルは、スプレーと同様な利点を有する。
鼻ネブライザーは、薬剤を超音波によって細かい霧状にして放出する機器を用いた投与形態である。
点鼻粉末剤は、鼻腔に投与する微粉状の点鼻剤であり、通例、有効成分を適度に微細な粒子とし、必要ならば適切な添加剤と混和し、均質とすることにより製造することができる。点鼻粉末剤に用いる容器は、通例、密閉容器である。必要に応じて、防湿性を付与する。
これらの点鼻剤、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゲル剤等の剤型は、本発明に用いられる多糖及び薬学的に許容される添加剤と共に各剤型に調製される。
本発明の医薬に用いられる薬学的に許容される添加剤としては、当分野において通常用いられている添加剤、即ち、以下に示されるような薬剤用賦形剤や薬剤用担体等があげられ、これらの添加剤を適宜用いて、通常使用されている方法によってそれぞれの投与形態に適切な医薬組成物を調製することができる。
疎水性基剤としては、特に限定されないが、高級炭化水素、油脂類、ロウ類、脂肪酸、高級アルコール及び脂肪酸エステル類などを用いることができる。高級炭化水素としては、例えば、スクワラン、合成パラフィン、流動パラフィン、白色ワセリン及びマイクロクリスタリンワックスなどが挙げられる。油脂類としては、例えば、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油及びカカオ脂などが挙げられる。ロウ類としては、例えば、ミツロウ、サラシミツロウ、ラノリン、還元ラノリン及びセレシンロウなどが挙げられる。脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸及びオレイン酸などが挙げられる。高級アルコールとしては、例えば、ラノリンアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール及びコレステロールなどが挙げられる。脂肪酸エステル類としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ステアリル及び中鎖脂肪酸トリグリセリドなどが挙げられる。
親水性基剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びマクロゴールなどが挙げられる。
溶解補助剤としては、特に限定されないが、例えば、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、イソプロパノール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム及びクエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
賦形剤としては、特に限定されないが、例えば、エリスリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール及びラクチトールなどの糖アルコール、白糖、乳糖、還元麦芽糖水アメ、粉末還元麦芽糖水アメ、ブドウ糖及び麦芽糖などの糖類、コーンスターチ、結晶セルロース、リン酸一水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素並びに二酸化ケイ素などが挙げられる。
本発明の医薬が、懸濁剤である場合、所望により添加剤として分散剤が用いられる。
分散剤としては、特に限定されないが、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びカルボキシビニルポリマーなどの合成高分子化合物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリプロピレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合体などの非イオン性界面活性剤、アルキルベタイン、アルキルアミドベタイン、アルキルスルホベタイン及びイミダゾリンなどの両性界面活性剤、並びに飽和高級脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルエーテルスルホン酸塩及びポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などの陰イオン性界面活性剤などが挙げられる。
陽イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド及びジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。
pH調節剤としては、特に限定されないが、例えば、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸、酒石酸、dl-リンゴ酸及び氷酢酸などが挙げられる。
キレート剤としては、特に限定されないが、例えば、エデト酸、シュウ酸、クエン酸、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸、グルコン酸及びこれらの塩などが挙げられる。
保存剤としては、鼻内に許容され得る保存剤が好ましい。
保湿剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、プロピレングリコール及び1,3-ブチレングリコールなどが挙げられる。
架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、アセトアルデヒド、ジメチルケトン及び硫酸アルミニウムなどが挙げられる。
清涼化剤としては、特に限定されないが、例えば、l-メントール、dl-カンフル、d-ボルネオール、ウイキョウ油、ハッカ油及びハッカ水などが挙げられる。
皮膜剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの水に溶解性または膨潤性のセルロース材料、ポリビニルピロリドン(ポビドン)並びに架橋ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)が挙げられる。
鼻腔内へは、1日当たり5×10-11~1gを1回~数回適用する。
喘息治療薬としては、例えば以下の薬剤が挙げられる。
吸入ステロイド薬又は鼻噴霧用ステロイド薬:ベクロメタゾンプロピオン酸エステル、フルチカゾンプロピオン酸エステル、ブデソニド、シクレソニド、モメタゾンフランカルボン酸エステル等;
吸入ステロイド薬と長時間作用型β2 刺激薬の合剤:サルメテロールキシナホ酸塩との配合剤、ホルモテロールフマル酸塩水和物との配合剤;
テオフィリン徐放製剤:テオドール、テオロング、スロービッド、ユニフィル、ユニコン、ネオフィリン、テオドリップ等;
短時間作用性テオフィリン薬:ネオフィリン、テオコリン、モノフィリン、アストモリジンD/M、アストフィリン、アルビナ坐剤等;
長時間作用性β2刺激薬: 吸入薬(LABA)/セレベント、貼付薬/ホクナリンテープ、経口薬/メプチン、スピロペント、ホクナリン、ベラチン、アトック、ブロンコリン等;
短時間作用性β2刺激薬(SABA): 吸入薬/アイロミール、サルタノール、メプチンエアー、ベロテックエロゾル等、経口薬/ベネトリン、アロテック、イノリン、レアノール、エフェドリン、イソパール・P等;
ロイコトリエン拮抗薬(受容体拮抗薬): オノン、アコレート、シングレア、キプレス等;
Th2 サイトカイン阻害薬: アイピーディ等;
ヒスタミンH1受容体拮抗薬: ゼスラン、ニポラジン、ザジテン、セルテクト、アレジオン等
メディエーター遊離抑制薬: インタール、リザベン、ソルファ、ロメット、ケタス、アレギサール、ペミラストン、タザノール、タザレスト等;
トロンボキサンA2 阻害薬: ベガ、ドメナン等;
トロンボキサンA2 拮抗薬: ブロニカ、バイナス等;
経口ステロイド薬: プレドニン、プレドニゾロン、メドロール、リンデロン、レダコート、デカドロン、コルソン、デキサメサゾン、パラメゾン等;
免疫抑制薬:シクロスポリン等;
インターロイキン4R(IL-4R)阻害剤:デュピリマブ等;
ヨウ素製剤:ヨウレチン等。
減圧乾燥したヘパリン類似物質(有機硫酸基25.8~37.3% w/w、D-グルクロン酸19.0~24.0% w/w、マルホ株式会社)を生理食塩水に溶解し、ヘパリン類似物質溶液(0.3、30及び3000 μg/mL)を作製した。好酸球性副鼻腔炎患者から摘出した鼻茸検体を約5 mm角に細切し、水分を拭き取り重量を測定した。各検体を12 wellプレートに移し、生理食塩水又は各濃度のヘパリン類似物質溶液を1 mL添加し、37°Cで約24時間インキュベートした。プレートから検体を取り出し、水分を拭き取り重量を測定した。インキュベーション前後の検体重量の差を、鼻茸縮小作用の指標として評価した。また、図1の生理食塩水群及び各濃度のヘパリン類似物質溶液群の例数は6例とした。
実施例1と同様の方法により、0.003、0.03、0.3及び30 μg/mL ヘパリン類似物質溶液の鼻茸縮小作用を評価した。また、図2の生理食塩水群及び各濃度のヘパリン類似物質溶液群の例数は6例とした。
実施例1と同様の方法により、PPS溶液(0.003μg/mL)を調製し、鼻茸縮小作用を評価した。PPSとして、Molclone Labs社製のペントサンポリ硫酸ナトリウム(重量平均分子量4000~6500、硫黄含量13.0~20.0%w/w、グルクロン酸含量2.5~4.0%w/w)を使用した。また、図3の生理食塩水群及びPPS溶液群の例数は6例とした。
実施例1と同様の方法により、下記の11種類の多糖の溶液(グルコマンナン以外はそれぞれ300μg/mL、グルコマンナンは30μg/mL)を調製し、鼻茸縮小作用を評価した。また、表1~4の生理食塩水群及び各多糖溶液群の例数は1例とした。
・コンドロイチン(コンドロイチンナトリウム、重量平均分子量42,351、硫酸基含量2.6%、マルホ株式会社製)
・低分子コンドロイチン硫酸(低分子コンドロイチン硫酸ナトリウム、重量平均分子量11,500、硫酸基含量硫酸基含量8.9%、マルホ株式会社製)
・コンドロイチン硫酸A(コンドロイチン硫酸Aナトリウム、株式会社PGリサーチ製)
・デルマタン硫酸(デルマタン硫酸ナトリウム、東京化成工業株式会社製)
・コンドロイチン硫酸C(コンドロイチン硫酸Cナトリウム、株式会社PGリサーチ製)
・グルコマンナン(プロポールA、清水化学株式会社製)
・デキストラン硫酸(デキストラン硫酸ナトリウム500,000、富士フイルム和光純薬株式会社製)
・ケラタン硫酸(ケラタン硫酸ナトリウム、株式会社PGリサーチ製)
・イヌリン(東京化成工業株式会社製)
・ヘパラン硫酸(Toronto Research Chemicals,Inc.製)
・キシロオリゴ糖(キシロヘキサオース、Megazyme製)
実施例1と同様の方法により、ヘパリン類似物質溶液及びPPS溶液(それぞれ0.03、0.3、30及び300μg/mL)を調製し、非好酸球性副鼻腔炎患者から摘出した鼻茸検体に対する鼻茸縮小作用を評価した。なお、ヘパリン類似物質及びPPSは、実施例1及び実施例3で使用したものと同じものを使用した。また、表5の生理食塩水群、ヘパリン類似物質溶液及びPPS溶液群の例数は1例とした。
Claims (8)
- 多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、イヌリン、およびキシロオリゴ糖から選択される多糖又はその塩を有効成分とする鼻茸縮小剤。
- 前記多糖が、多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、およびイヌリンから選択される、請求項1に記載の鼻茸縮小剤。
- 鼻腔内投与される、請求項1または2に記載の鼻茸縮小剤。
- 慢性副鼻腔炎患者の鼻茸の縮小に用いられる、多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、イヌリン、およびキシロオリゴ糖から選択される多糖又はその塩を含む医薬組成物。
- 前記多糖が、多硫酸化コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デキストラン硫酸、ペントサンポリ硫酸、コンドロイチン、グルコマンナン、およびイヌリンから選択される請求項4に記載の医薬組成物。
- 前記慢性副鼻腔炎患者が、好酸球性副鼻腔炎又は非好酸球性副鼻腔炎患者である、請求項4または5に記載の医薬組成物。
- 前記慢性副鼻腔炎患者が、好酸球性副鼻腔炎患者である、請求項4~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
- 請求項4~7のいずれか一項に記載の医薬組成物を含む、鼻腔内投与製剤。
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