放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂に吸着されているα核種を含む放射性核種の脱離によって発生した、α核種を含む放射性廃液にpH調整剤を注入し、α核種及びpH調整剤を含む放射性廃液をα核種吸着材を有するα核種除去装置に供給し、α核種除去装置内でα核種吸着材によって放射性廃液に含まれるα核種を除去する放射性廃液の処理方法が、特願2018-210315号(出願日:2018年11月8日)によって提案されている。発明者は、特願2018-210315号で提案された放射性廃液の処理方法を詳細に検討した。この結果、発明者は、その放射性廃液の処理方法において、放射性廃液に含まれるα核種を除去するために多量のα核種吸着材が必要となり、α核種除去装置が大型化するという課題が存在することを認識した。α核種吸着材としては、例えば、フェライト(Fe3O4)及び活性炭等を使用することができる。なお、フェライト及び活性炭に限らず、α核種を吸着できる吸着材であれば、α核種吸着材として使用できる。
発明者による検討の結果、放射性廃液に含まれるα核種であるウラン、プルトニウム及びネプチニウムは、放射性廃液のpHを8未満にすることによってコロイドになり、粒径が大きくなることが判明した。このため、発明者は、コロイドになって粒径が大きくなったα核種(例えば、ウラン、プルトニウム及びネプチニウム)をα核種除去装置の上流で除去すれば、α核種除去装置に供給されるα核種の量が減少し、α核種除去装置内のα核種吸着材の量を減少できるのではと考えた。フィルタをα核種除去装置の上流に配置することによってコロイドになったα核種を除去することができ、α核種除去装置に供給されるα核種の量を減少させることが可能になる。
α核種を含む放射性廃液へのアルカリ(例えば、水酸化ナリウム)の注入を行うことによって放射性廃液の水質調整を行うことにより、放射性廃液に含まれるα核種のうちU(ウラン)、Pu(プルトニウム)及びNp(ネプツニウム)のそれぞれの化学形態をコロイドにすることができる。粒径が大きいコロイドになったU、Pu及びNpのそれぞれは、フィルタで捕捉することができ、放射性廃液から除去することができる。その放射性廃液の水質調整のために、アルカリと共に、酸、水質調整用の酸化剤(以下、水質調整用酸化剤という)及び還元剤の少なくとも1つを注入してもよい。
アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び炭酸ナトリウムのいずれかを用いる。酸としては、例えば、希硝酸、希硫酸及び希塩酸等が用いられる。水質調整用酸化剤としては有機酸及び有機酸塩のいずれかを用いる。還元剤としては、例えば、ヒドラジン、ホルムヒドラジン、ヒドラジンカルボアミド及びカルボヒドラジド等のヒドラジン誘導体、ヒドロキシルアミン、アスコルビン酸及び亜硫酸塩のいずれかが用いられる。特に、アスコルビン酸及び亜硫酸塩は、還元剤ではあるが、酸化還元電位調整剤と称する。酸化還元電位調整剤は弱酸性である。上記の還元剤のうち酸化還元電位調整剤以外の還元剤は、弱アルカリ性であり、便宜的に、アルカリ性還元剤という。「還元剤」との表現は、酸化還元電位調整剤及びアルカリ性還元剤を含む。
pH調整剤のうち酸、水質調整用酸化剤及び酸化還元電位調整剤は放射性廃液を酸性にする作用を有し、アルカリ及びアルカリ性還元剤は放射性廃液をアルカリ性にする作用を有する。放射性廃液の酸化還元電位を調整するためには、酸化還元電位調整剤を用いることが望ましい。
α核種を含む放射性廃液の水質を上記のように調整して水質が調整された放射性廃液をフィルタに供給し、フィルタを通過した放射性廃液に残留しているα核種の割合を調べた。フィルタに流入する前の放射性廃液に含まれているα核種の量に対する、フィルタから流出した放射性廃液に含まれるα核種の割合を、α核種の残留率という。α核種のうちU、Pu及びNpは、放射性廃液の水質調整により、粒径の大きなコロイドになるため、フィルタによって除去することが可能になる。
U、Pu及びNpを含む放射性廃液を上記のように水質調整を行い、フィルタによって除去される割合への、放射性廃液のpHによる影響を調べた。図6に、U、Pu及びNpのうち代表としてUに及ぼすpHの影響を示した。フィルタから排出された放射性廃液におけるUの残留率は、図6に基づいて、アルカリ性(pH9)で最も大きくなり、中性(pH7)及び酸性(pH4)で小さくなることが分った。放射性廃液のpHを7以下にすれば、フィルタによるUの除去率が高くなり、フィルタから排出された放射性廃液におけるUの残留率が小さくなる。一方で、放射性廃液のpHを9以上にすればフィルタによるUの除去率が小さくなり、フィルタから排出された放射性廃液におけるUの残留率が大きくなることが確認できた。Pu及びNpにおいても、Uと同様な傾向がみられた。これは、U、Pu及びNpが放射性廃液のpHによってそれぞれの粒径を変化させていることを示している。
さらに、発明者は、pH7からpH9の間において、放射性廃液のpHの、フィルタによるU、Pu及びNpのそれぞれの除去に与える影響についても調べた。この結果、放射性廃液のpHが8未満の領域では、フィルタによるU、Pu及びNpのそれぞれの除去率が高くなった。放射性廃液のpHが8以上になると、U、Pu及びNpのそれぞれがイオンになるため、U、Pu及びNpのそれぞれをフィルタで除去することができなくなった。また、放射性廃液のpHが4未満になると、放射性廃液内に生成されたα核種のコロイドが溶解し、フィルタで除去することができなくなる。このため、放射性廃液のpHは、4以上8未満(4≦pH<8)の範囲にすることが望ましい。
放射性廃液のpHを6にした状態で、放射性廃液の酸化還元電位を、図7に示すように、「-0.5V」、「0V」及び「0.2V」に変化させた場合には、放射性廃液に含まれるα核種を、さらに、効率良く放射性廃液から除去することができ、フィルタから排出された放射性廃液におけるα核種の残留率は、酸化還元電位が低くなるほど、小さくなる。さらに、図8に示すように、放射性廃液の溶存炭酸濃度を低減すると、さらに、フィルタから排出された放射性廃液におけるα核種の残留率を低減できる。放射性廃液の溶存炭酸濃度が低くなるほど、その放射性廃液におけるα核種の残留率は低くなる。なお、溶存炭酸濃度の低減には、脱溶存炭酸剤、例えば、亜硫酸ナトリウム、N2(窒素)ガス、Arガスのいずれかを放射性廃液に注入すると良い。
放射性廃液に含まれるU、Pu及びNp以外の他のα核種(例えば、アメリシウム、キュリウム等の溶解性のα核種)については、放射性廃液の水質調整を行っても、コロイドが成長しないため、フィルタで除去することができない。このため、アメリシウム及びキュリウムは、フィルタの下流に配置されたα核種除去装置内に存在するα核種吸着材に吸着させて除去する。
水質調整工程で水質が調整された、放射性核種を含む放射性廃液をフィルタに通水した後、放射性廃液にα核種吸着材を注入することにより、α核種除去装置内で、アメリシウム及びキュリウム等の溶解性のα核種のイオン除去工程S7が実施される。α核種吸着材としては、フェライト(Fe3O4)、キレート樹脂、活性炭、オキシン添着活性炭、ゼオライト、チタン酸及びフェロシアン化物のいずれかが用いられる。
発明者は、放射性廃液に含まれるα核種の除去に関する実験を行った。この結果を、図9を用いて説明する。図9は、放射性廃液に含まれるα核種の2つの除去方法で或る方法「A」及び方法「B」のそれぞれに対する、フィルタから排出された放射性廃液におけるα核種の残留率を示している。
図9に示す方法「A」は、陽イオン交換樹脂に吸着されたα核種、例えば、ウラン及びやアメリシウムを含む有機酸塩水溶液であるシュウ酸アンモニア水溶液により溶離させ、シュウ酸アンモニア水溶液に含まれるシュウ酸アンモニアをオゾンで分解し、溶離したアメリシウム(濃度はppbオーダー)を除去しないで(未処理の状態で)、アメリシウムを含む水をそのまま排出したケースである。このため、方法「A」では、排出される水のウラン残留率(α核種の残留率)は100%である。
図9に示す方法「B」は、溶離したウラン及びアメリシウムを含むシュウ酸アンモニア水溶液のシュウ酸アンモニアをオゾンで分解し、この分解で生成されるウラン及びアメリシウムを含む水に、水の水質を調整するアルカリ性還元剤であるヒドラジンを注入してその水のpHを4以上8未満の範囲内の5に調節し、pHが5である、ウランやアメリシウムを含む水にフェライト(Fe3O4)を注入したケースである。方法「B」における、フェライトを供給する前の水のウラン及びアメリシウムの濃度は、方法「A」における水のアメリシウム濃度と同じである。方法「B」では、アメリシウム残留率(α核種の残留率)は、約6.7%となり、その残留率は方法「A」の約1/15になる。
したがって、有機酸塩分解後のα核種を含む水にpH調整剤を注入してその水のpHを4以上8未満の範囲に調節し、pHが調節された、α核種を含む水にフェライトを供給することによって、その水に含まれるα核種を著しく除去できることが分かった。なお、pH調整剤としては、酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリが用いられる。
前述のように、α核種吸着材を放射性廃液に注入するので、α核種吸収材の粒子を細かくすることができ、α核種吸収剤の比表面積を増加させることが可能になる。また、α核種吸着材を放射性廃液に注入することにより、α核種吸着材が放射性廃液に浸漬される時間を制御することが可能になる。これにより、所望のα核種吸着量となる時間までα核種吸着材を放射性廃液に浸漬させるように、制御することができる。
そして、α核種吸収材をα核種除去装置内に充填して、α核種除去装置内にα核種吸着材の層を形成した構成と比較しても、α核種吸着材を放射性廃液に注入する場合は、α核種の除去性能が向上して、α核種を含む放射性廃棄物の発生量を低減することが可能になる。
α核種吸着材、特に上記のフェライトは、α核種を吸着する性能(吸着性能)が、放射性廃液のpH及び酸化還元電位(Eh)によって変化する。このため、放射性廃液のpHを、pH調整剤の注入により、前述の4以上8未満の範囲内のpHにし、放射性廃液の酸化還元電位を、酸化還元電位調整剤の注入により、特定の酸化還元電位の範囲内にすれば、α核種吸着材の吸着性能を十分に発揮することができる。
そして、上述した放射性廃液処理システムにおいて、特に、水質調整装置がα核種を含む放射性廃液にpH及び還元酸化電位調整剤を注入する構成としたときには、放射性廃液のpH及び酸化還元電位を調整することができ、放射性廃液のpH及び酸化還元電位を、α核種吸着材の吸着性能を十分に発揮できる特定のpH及び酸化還元電位の範囲内にできる。
これにより、放射性廃液に含まれる超半減期のα核種がα核種吸着材によって除去されやすくなり、α核種を除去した後の放射性廃液に含まれるα核種が著しく低減されるため、α核種を吸着した使用済α核種吸着材の量が少なくなる。その結果、α核種を含む放射性廃棄物の発生量を低減できる。
以上に述べた、放射性廃液の水質調整を実施してα核種を粒径の大きなコロイドを生成し、このコロイドを含む放射性廃液をフィルタに通水し、フィルタによってα核種、特に、U,Pu及びNpの前述のコロイドを除去することによってフィルタから排出された放射性廃液に含まれるα核種を低減するという放射性廃液の処理方法に基づいて創成された本発明の実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の放射性廃液の処理方法を、図1ないし図4を用いて説明する。本実施例は、沸騰水型原子力プラントで発生する放射性有機廃棄物の処理を行う放射性廃液の処理方法である。
まず、図1を参照して、本実施例の放射性廃液の処理方法の概要を説明する。図1は、実施例1の放射性廃液の処理方法の手順を示すフローチャートである。
原子力プラント、例えば、運転を経験している沸騰水型原子力プラントの原子炉圧力容器内の炉心に装荷された燃料集合体、または燃料貯蔵プールに保管された使用済燃料集合体に含まれる燃料棒の被覆管が、万が一、破損した場合には、燃料棒内の核燃料物質(α核種であるウラン、プルトニウム、ネプツニウム及びキュリウム等を含む)が、原子炉圧力容器内の冷却水中、または燃料貯蔵プール内の冷却水中に漏洩する。そして、原子炉圧力容器内の冷却水中に漏洩したα核種は、原子炉冷却材浄化系の浄化装置内のイオン交換樹脂によって除去される。また、燃料貯蔵プール内の冷却水中に漏洩したα核種は、燃料プール冷却材浄化系の浄化装置内のイオン交換樹脂によって除去される。
沸騰水型原子力プラントの原子炉冷却材浄化系及び燃料プール冷却材浄化系等から発生する、セルロース系のろ過助材、イオン交換樹脂等を含むフィルタスラッジ(放射性有機廃棄物)は、高線量樹脂貯蔵タンクに長期間に亘って貯蔵される。その高線量樹脂貯蔵タンク内に貯蔵されている放射性有機廃棄物は、所定の貯蔵期間が経過した後、高線量樹脂貯蔵タンクから取り出される。
高線量樹脂貯蔵タンクから取り出された、陽イオン交換樹脂を含む放射性有機廃棄物に対して、第一洗浄工程(クラッド溶解工程)S1が実施される。この第一洗浄工程S1では、還元性のある有機酸の水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)が放射性有機廃棄物に接触され、その水溶液に含まれるその有機酸によって、放射性有機廃棄物に含まれる鉄酸化物などのクラッドが溶解される。クラッドに含まれているコバルト60等の放射性核種は、クラッドの溶解によって有機酸水溶液中に移行する。
第一洗浄工程S1において有機酸を用いる理由は、有機酸の主たる構成元素が炭素、水素、酸素及び窒素であるため、第一洗浄工程S1において発生する洗浄廃液である有機酸水溶液を、例えば、オゾンを用いて酸化処理(後述の廃液分解工程S4)をしたときに、廃液中に不揮発性の残渣を生じないからである。有機酸としては、例えば、ギ酸、シュウ酸、酢酸またはクエン酸を用いることが望ましい。
第一洗浄工程S1において発生する、クラッドの溶解成分を含む、洗浄廃液である有機酸水溶液(クラッド溶解液)に対して、廃液分解工程S4が実施される。この廃液分解工程(有機酸及び有機酸塩のいずれかの分解工程)S4では、過酸化水素またはオゾン等の分解用の酸化剤(以下、分解用酸化剤という)が有機酸水溶液中に曝気され、その分解用酸化剤の酸化作用により有機酸が分解される。
第一洗浄工程S1が施されて、クラッドが溶解された放射性有機廃棄物に対して、第二洗浄工程(放射性核種溶離工程)S2が実施される。この第二洗浄工程S2では、有機酸塩水溶液が、クラッドが溶解された放射性有機廃棄物に接触され、その水溶液に含まれる有機酸塩によって、放射性有機廃棄物に吸着されたα核種等の放射性核種が溶離される。
第二洗浄工程S2で使用される有機酸塩は、水溶液中で解離し、水素イオンよりも陽イオン交換樹脂に吸着されやすい陽イオンを生じる有機酸塩であることが望ましい。すなわち、有機酸塩は、その主たる構成元素が炭素、水素、酸素及び窒素であって、第二洗浄工程S2の終了後において洗浄廃液である有機酸塩水溶液を、例えば、オゾンを用いて酸化処理(廃液分解工程S4)をしたときに、廃液中に不揮発性の残渣を生じないものであることが望ましい。有機酸塩としては、例えば、ギ酸、シュウ酸、酢酸またはクエン酸のアンモニウム塩、バリウム塩またはセシウム塩を用いることが望ましい。なお、有機酸塩として、ギ酸ヒドラジンを用いてもよい。
アンモニウム塩は、酸化処理により、窒素ガス及び水に分解されるため、バリウム塩及びセシウム塩に比べて、放射性廃棄物の発生量を低減することができる。ギ酸、シュウ酸、酢酸またはクエン酸のアンモニウム塩、バリウム塩またはセシウム塩は、水溶液中で解離して、NH4+、Ba2+またはCs+になる。NH4+、Ba2+またはCs+は、水素イオンよりも陽イオン交換樹脂に吸着されやすい陽イオンである。
第二洗浄工程S2において発生する、溶離されたα核種等の放射性核種を含む、洗浄廃液である有機酸塩水溶液に対して、廃液分解工程S4が実施される。廃液分解工程(有機酸及び有機酸塩のいずれかの分解工程)S4では、オゾンまたは過酸化水素等の分解用酸化剤が有機酸塩水溶液中に曝気され、その分解用酸化剤により有機酸塩が分解される。
廃液分解工程S4で有機酸または有機酸塩が分解されて残った、放射性核種を含む残留水溶液(放射性廃液)に、α核種のコロイド生成工程S5が実施される。α核種のコロイド生成工程S5では、酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリうちの少なくとも1つの注入を行うことにより、その放射性廃液の水質を調整して、具体的には、放射性廃液のpHを4以上8未満の範囲に調整して、放射性廃液に含まれるα核種の一部の化学形態をコロイドにする。α核種の残りの核種は、放射性廃液の水質を調整してもイオンのままである。α核種に含まれるU,PU及びNpは、粒径の大きなコロイドになり、α核種に含まれるアメリシウム及びキュリウムは放射性廃液中でイオンのままである。
α核種のコロイド除去工程S6では、α核種吸着材を注入するよりも前に放射性廃液に注入されたpH調整剤、例えば、還元剤は、放射性廃液に含まれた状態で排出される。そして、放射性廃液の水質調整により、放射性廃液内で生成された、α核種の一部であるU,PU及びNpのそれぞれの粒径の大きなコロイドは、α核種のコロイド除去工程S6において、フィルタによって除去される。
放射性廃液内に残存する、U,PU及びNpのそれぞれの粒径の小さなコロイド、U,PU及びNpのそれぞれのイオン、及びα核種の残りのアメリシウム及びキュリウムは、フィルタを通過し、フィルタの下流に配置されたα核種除去装置内のα核種吸着材に吸着されて除去される(α核種のイオン除去工程S7)。α核種吸着材は、フィルタを通過した放射性廃液に注入されてα核種除去装置内に導かれる。
α核種のイオン除去工程S7の次の吸着材分離工程S8では、α核種除去装置から排出された放射性廃液からα核種吸着材を分離する。その後、その放射性廃液にα核種のコロイド生成工程S5において注入されたpH調整剤が分解可能であるかを判定する(pH調整剤判定工程S9)。pH調整剤が、例えば、分解可能なpH調整剤であるとき、その判定が「YES」となり、α核種除去装置から排出された、そのpH調整剤を含む放射性廃液は、触媒(例えば、貴金属)を内部に有する分解装置に供給される。そのpH調整剤は、分解装置内で、その触媒と分解装置に供給される分解用酸化剤(例えば、過酸化水素)の作用によって分解される(分解可能なpH調整剤の分解工程S10)。
なお、pH調整剤として酸(例えば、希硝酸水溶液)を放射性廃液に注入した場合、及びα核種のコロイド生成工程S5において分解可能なpH調整剤を用いない水質調整が実施された場合には、上記の判定が「No」となり、分解可能なpH調整剤の分解工程S10が実施されない。
減容工程S11では、pH調整剤を含まない放射性廃液(注入された酸を含む放射性廃液を含む)に対し、濃縮処理または乾燥粉体化処理が施される。容器充填または固化工程S12では、濃縮処理により発生した濃縮廃液、または乾燥粉体化処理によって発生した放射性廃棄物の粉体が、容器内に充填されて保管され、またはセメント等の固形剤により容器内で固化される。
次に、実施例1のステップS1~S12の各工程を含む放射性廃液の処理方法に用いられる放射性廃液処理システムの構造の一例を、図2を参照して説明する。
その放射性廃液処理システム1は、放射性有機廃棄物を処理する化学洗浄部10、及び化学洗浄部10から排出される洗浄廃液(放射性廃液)を処理する廃液処理部19を備えている。化学洗浄部10では、図1に示した各工程のうち、クラッドを溶解する第一洗浄工程S1、及び放射性核種を放射性有機廃棄物から溶離させる第二洗浄工程S2が行われる。
化学洗浄部10は、第一受入タンク3、化学反応槽(洗浄槽)4、洗浄液供給タンク6、有機酸槽7、有機酸塩槽8及び移送水槽9を有する。また、高線量樹脂貯蔵タンク2が化学洗浄部10の前段に配置され、第二受入タンク11及び焼却設備(またはセメント固化設備)12が化学洗浄部10の下流に配置される。
移送ポンプ22を設けた有機廃棄物供給管23が、高線量樹脂貯蔵タンク2と第一受入タンク3を接続する。化学反応槽4が、移送ポンプ24を設けた有機廃棄物移送管25によって第一受入タンク3に接続されている。加熱装置5が化学反応槽4の周囲に配置される。洗浄液供給タンク6が、移送ポンプ32を設けた洗浄液供給管33によって、化学反応槽4に接続されている。化学反応槽4の底部に接続されて移送ポンプ34及び弁35が設けられた戻り配管36が、洗浄液供給タンク6に接続される。
有機酸水溶液、例えば、シュウ酸水溶液が充填された有機酸槽7に接続されて弁26が設けられた配管29が、洗浄液供給タンク6に接続される。有機酸槽7に充填されたシュウ酸水溶液は飽和水溶液であり、そのシュウ酸水溶液のシュウ酸濃度は、例えば、0.8mol/Lである。有機酸塩水溶液、例えば、ギ酸ヒドラジン水溶液が充填された有機酸塩槽8に接続されて弁27が設けられた配管30が、弁26よりも下流で配管29に接続される。移送水となる水が充填された移送水槽9に接続されて弁28が設けられた配管31が、弁27よりも下流で配管30に接続される。
弁37が設けられて化学反応槽4の底部に接続された配管38が、第二受入タンク11に接続されている。第二受入タンク11に接続された配管が、焼却設備(またはセメント固化設備)12に接続される。
また、廃液処理部19は、廃液分解装置13、水質調整装置54、α核種除去装置14、α核種吸着材注入装置69、α核種吸着材分離装置72、分解装置107、酸化剤供給装置108及び処理水回収タンク18を有する。移送ポンプ34と弁35の間で戻り配管36に接続されて弁39が設けられた配管40が、廃液分解装置13に接続されている。移送ポンプ43及び弁44が設けられた配管45が、廃液分解装置13、水質調整装置54及びα核種除去装置14に接続されている。配管45は、「α核種を含む放射性廃液を導く放射性廃液供給管」である。
廃液分解装置13は、図3に示すように、廃液貯槽で構成され、その廃液貯槽内の底部にオゾン噴射管51が設置されている。このオゾン噴射管51には、多数の噴射孔が形成されている。オゾン噴射管51は、オゾン供給管52によりオゾン供給装置50に接続されている。配管40は廃液分解装置13の廃液貯槽に接続される。配管45の一端部は廃液貯槽内に挿入されている。さらに、廃液分解装置13の廃液貯槽には、ガス排気管53が接続される。
配管46が、α核種除去装置14、α核種吸着材分離装置72、分解装置107及び処理水回収タンク18に接続される。α核種吸着材注入装置69は、α核種除去装置14に連絡される。
水質調整装置54、α核種除去装置14及びα核種吸着材注入装置69のそれぞれの詳細な構造は、図4を用いて順次説明する。
まず、水質調整装置54について説明する。水質調整装置54は、α核種除去装置14に接続された配管45に設けられ、pH調整剤注入装置55及びpH計49Aを有する。pH調整剤注入装置55は、還元剤注入装置17、酸注入装置56、酸化剤注入装置75及びアルカリ注入装置79を有する。
還元剤注入装置17は、還元剤供給装置85、酸化還元電位調整剤供給装置89、混合槽17A、及び弁41が設けられた注入配管42を有する。還元剤供給装置85は、還元剤槽86、及び弁87が設けられた注入配管88を有する。注入配管88は、還元剤槽86に接続され、混合槽17Aに接続される配管88に接続される。還元剤槽86には、アルカリ性還元剤水溶液、例えば、ヒドラジン水溶液が充填される。酸化還元電位調整剤供給装置89は、酸化還元電位調整剤槽90、及び弁91が設けられた注入配管92を有する。注入配管92は、酸化還元電位調整剤槽90に接続され、さらに、配管93に接続される。酸化還元電位調整剤槽90には、酸化還元電位調整剤水溶液、例えば、アスコルビン酸水溶液が充填される。混合槽17Aに接続された注入配管42は、移送ポンプ41(図2参照)と後述のα核種除去装置15の間で配管45に接続される。
酸注入装置56は、酸槽57、及び弁58が設けられた注入配管59Aを有する。注入配管59Aは、酸槽57に接続され、さらに、弁41の下流で注入配管42に接続される。酸槽57には、酸水溶液、例えば、希硝酸水溶液が充填される。
酸化剤注入装置75は、酸化剤槽76、及び弁77が設けられた注入配管78を有する。酸化剤槽76に接続された注入配管78は、弁41の下流で注入配管42に接続される。酸化剤槽76には、水質調整用酸化剤水溶液、例えば、シュウ酸水溶液が充填される。
アルカリ注入装置79は、アルカリ槽80、及び弁81が設けられた注入配管82を有する。注入配管82は、アルカリ槽80に接続され、さらに、弁77の下流で注入配管78に接続される。アルカリ槽80には、アルカリ水溶液、例えば、水酸化ナトリウム水溶液が充填される。
また、pH計49Aが、還元剤注入装置17に接続された注入配管42及び配管45の接続点よりも下流の部分で配管45に取り付けられる。α核種濃度計65が、pH計49Aが配管45に取り付けられた部分と、配管45と配管67との接続点との間で、配管45に取り付けられる。なお、その配管67は、移送ポンプ34と弁35の間で、化学洗浄部10の戻り配管36に接続される。
還元剤注入装置17からアルカリ還元剤であるヒドラジン(還元剤槽86内に存在)、アルカリ注入装置79からアルカリである水酸化ナトリウム及び還元剤注入装置54から酸化還元電位調整剤であるアスコルビン酸(酸化還元電位調整剤槽90内に存在)のうち少なくとも1つの物質を配管45に注入することにより、配管45内を流れる放射性廃液をアルカリ性に調整することができ、その放射性廃液を還元雰囲気に調整することが可能になる。また、酸注入装置56から酸である希硝酸、酸化剤注入装置75から水質調整用酸化剤であるシュウ酸及び還元剤注入装置54から酸化還元電位調整剤であるアスコルビン酸のうち少なくとも1つの物質を配管45に注入することにより、配管45内を流れる放射性廃液を酸性に調整することができ、その放射性廃液を還元雰囲気に調整することが可能になる。
フィルタ66が、水質調整装置54とα核種除去装置14の間で、具体的には、α核種濃度計65が配管45に取り付けられた位置とα核種除去装置14の間で、配管45に設置される(図4参照)。フィルタ66は、例えば、μmオーダー以下の孔径を有する膜を有する。なお、フィルタ66は、α核種濃度計65の配管45への取り付け位置と、配管67と配管45の接続点との間で、配管に設置される。
α核種除去装置14は、図4に示すように、フィルタ66の下流に配置されて配管45に接続され、配管45を通して水質調整装置54によって水質が調整された放射性廃液を収容するケーシングを有している。スペース領域15、及びα核種吸着材であるフェライト粒子が多く存在する領域16が、そのケーシング内に形成されている。スペース領域15は領域16よりも上流に位置している。磁化率測定装置49Bが、α核種除去装置14のケーシングの、領域16に対向する外面に設置されている。
α核種吸着材注入装置69は、図4に示すように、α核種吸着材、例えば、フェライト(Fe3O4)の粒子が充填される吸着材槽70、及び弁72Aが設けられた注入配管71を有する。注入配管71の一端は吸着材槽70に接続され、注入配管71の他端はα核種除去装置14内のスペース領域15内に挿入されている。α核種吸着材注入装置69の吸着材槽70から注入配管71を通して、α核種除去装置14のケーシング内のスペース領域15に存在する放射性廃液に、α核種吸着材であるフェライト粒子を注入することができる。
α核種吸着材分離装置72は、フィルタ66と同様に、例えば、μmオーダー以下の孔径を有する膜を有する。化学洗浄部10の戻り配管36の移送ポンプ34と弁35の間に接続された配管68が、α核種吸着材分離装置72に接続される。そして、α核種吸着材分離装置72においてろ過してα核種吸着材が分離されたろ過水である放射性廃液は、配管68を通じて戻り配管36に戻る。これにより、ろ過水を循環水として循環させることができる。
なお、戻り配管36と配管67及び68との各接続部よりも各配管36,67及び68の上流側(化学反応槽4側、水質調整装置54側、α核種吸着材分離装置72側)には、図示しない弁を設ける。これにより、化学反応槽4からの水と、配管67からの水と、及び配管68からのろ過水とを切り替えることができる。
分解装置107は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。
酸化剤供給装置108は、薬液タンク109及び供給配管110を有する。薬液タンク109は、弁111を有する供給配管110によって分解装置107に接続される。この薬液タンク109内には、分解用酸化剤である過酸化水素が充填される。なお、分解用酸化剤として、過酸化水素の替りに、オゾン、または酸素を溶解した水を用いてもよい。
さらに、処理水回収タンク18の下流側に、乾燥粉体化装置20及び固化設備21が配置される。移送ポンプ47を設けた配管48が、処理水回収タンク18と乾燥粉体化装置20を接続する。乾燥粉体化装置20に接続された配管49が、固化設備21に接続される。なお、乾燥粉体化装置20の替りに、放射性廃液の濃縮装置を用いてもよい。
次に、図2に示した放射性廃液処理システム1を用いた、本実施例の放射性廃液の処理方法を、詳細に説明する。
沸騰水型原子力プラントの原子炉冷却材浄化系及び燃料プール冷却浄化系等から排出されて、高線量樹脂貯蔵タンク2に所定の長期間貯蔵された放射性有機廃棄物は、セルロース系のろ過助材、イオン交換樹脂、等を含む。高線量樹脂貯蔵タンク2に貯蔵された放射性有機廃棄物は、配管(図示せず)によって、移送水槽(図示せず)内の水を高線量樹脂貯蔵タンク2に供給することにより、移送し易いスラリーの状態になる。高線量樹脂貯蔵タンク2内の放射性有機廃棄物には、原子炉冷却材浄化系及び燃料プール冷却浄化系等で冷却水から除去されたクラッドが含まれており、クラッドにはコバルト60等の放射性核種が含まれている。また、高線量樹脂貯蔵タンク2に貯蔵されたイオン交換樹脂には、コバルト60、セシウム137、炭素14、塩素36等のα核種以外の放射性核種のイオンが吸着されている。さらに、そのイオン交換樹脂には、前述したように、α核種(ウラン、プルトニウム、アメリシウム、ネプツニウム及びキュリウム等)が吸着されている。
移送ポンプ22を駆動することにより、放射性有機廃棄物を約10wt%含むスラリーが、所定量、高線量樹脂貯蔵タンク2から有機廃棄物供給管23を通して第一受入タンク3に移送される。第一受入タンク3内の放射性有機廃棄物のスラリーは、移送ポンプ24の駆動により、有機廃棄物移送管25を通して化学反応槽4に供給される。化学反応槽4内で、放射性有機廃棄物スラリーの水位が所定レベルに達したとき、移送ポンプ24が停止され、そのスラリーの化学反応槽4への供給が停止される。
その後、移送ポンプ34が駆動され、化学反応槽4内のスラリーに含まれる水が、放射性廃液(以下、「第三放射性廃液」とする)として、戻り配管36及び配管40を通して廃液分解装置13の廃液貯槽(図示せず)に導かれる。このとき、弁35は閉じており、弁39は開いている。廃液貯槽に導かれた第三放射性廃液は、移送ポンプ43の駆動により、配管45を通してα核種除去装置14に導かれる。化学反応槽4内で、放射性有機廃棄物スラリーに含まれる水はα核種を含んでいないので、廃液貯槽内の第三放射性廃液は、α核種を含んでおらず、α核種以外の放射性核種を含んでいる。このため、α核種を含んでいない第三放射性廃液に対する、水質調整装置54を用いた水質調整は行われない。
第三放射性廃液が、α核種除去装置14内を通過し、配管46に排出されて処理水回収タンク18に導かれる。その第三放射性廃液がα核種除去装置14に供給された際、α核種吸着材注入装置69から注入された、α核種除去装置14内のフェライト粒子は、α核種、及びα核種以外の放射性核種を吸着しない。なお、第三放射性廃液に含まれるコロイド性の物質及び固形分は、第三放射性廃液がα核種除去装置14に流入する前にフィルタ66によって除去される。第三放射性廃液がα核種を含んでいないため、分解可能なpH調整剤の分解工程S10における分解可能なpH調整剤である還元剤(例えば、ヒドラジン)の分解も行われない。
もし、第三放射性廃液がα核種を含んでいる場合には、後述の第一放射性廃液及び第2放射性廃液に対して実施されるα核種のコロイド生成工程S5から分解可能なpH調整剤の分解工程S10の工程までの各工程が、第三放射性廃液に対しても実施される。pH調整剤判定工程S9が「NO」である場合には、分解可能なpH調整剤の分解工程S10は実施されない。第三放射性廃液がα核種を含んでいるか、いないかは、廃液分解装置13の廃液貯槽の外面付近に配置した放射線検出器で検出された放射線強度に基づいて判定される。検出された放射線強度が設定値以下であれば、第三放射性廃液にはα核種が含まれていないと判定し、その放射線強度が設定値を超えた場合には、第三放射性廃液にはα核種が含まれていると判定する。
廃液貯槽内の第三放射性廃液のα核種除去装置14への移送が終了したとき、移送ポンプ43が停止される。処理水回収タンク18内に回収された第三放射性廃液は、所定量、移送ポンプ47を駆動することにより、配管48を通して乾燥粉体化装置20に供給される。α核種以外の放射性核種を含む第三放射性廃液は、乾燥粉体化装置20で紛体化される(減容工程S11)。
その後、乾燥粉体化装置20で生成された紛体は、固化設備21(または充填設備)に移送される。固化設備21では、その粉体が固化容器内に充填され、その固化容器内に固化材(例えば、セメント)が注入される。固化容器内の紛体は、固化材によって固化される(容器充填または固化工程S12)。固化された粉体が内部に存在し、密封された固化容器は、保管場所において保管される。保管されるこの固化容器内には、超半減期のα核種が存在していない。また、充填設備を用いる場合には、容器内に粉体を充填し、粉体を充填した容器を密封した後、その容器が保管場所に保管される。
そして、第一洗浄工程S1が実施される。放射性有機廃棄物スラリーの水分が排出されて放射性有機廃棄物が残留している化学反応槽4には、移送ポンプ32の駆動により、72g/L程度のシュウ酸水溶液(シュウ酸濃度が0.8mol/L)が、洗浄液供給タンク6から洗浄液供給管33を通して供給される。このシュウ酸水溶液は、有機酸水溶液である。洗浄液供給タンク6への、シュウ酸濃度0.8mol/Lのシュウ酸水溶液の供給は、弁26を開いたとき、配管29を通して有機酸槽7から行われる。このとき、弁27及び弁28は全閉状態である。シュウ酸水溶液の替りにクエン酸水溶液を用いてもよい。これらの有機酸は、還元性を有する。
加熱装置5によって、化学反応槽4内のシュウ酸水溶液が加熱される。シュウ酸水溶液の加熱温度は、100℃未満とする。化学反応槽4内に供給されたシュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸は、化学反応槽4内の放射性有機廃棄物に付着したクラッドを溶解する(第一洗浄工程S1)。このクラッドの溶解によって、クラッドに含まれた放射性核種、例えば、コバルト60は、シュウ酸水溶液中に移行する。
化学反応槽4内でのシュウ酸水溶液によるクラッドの溶解によって生じた、シュウ酸水溶液に含まれるクラッド成分を、化学反応槽4で沈殿させる。クラッド溶解成分の沈殿によって生じた、化学反応槽4内の上澄み液であるシュウ酸水溶液のみを、移送ポンプ34の駆動により、戻り配管36を通して洗浄液供給タンク6に回収する。このとき、弁39は閉じており、弁35は開いている。洗浄液供給タンク6に回収されたシュウ酸水溶液は、化学反応槽4に供給され、化学反応槽4内でクラッドの溶解に再使用される。
第一洗浄工程S1では、放射性有機廃棄物の一部であるイオン交換樹脂が有機酸であるシュウ酸に浸漬されるため、イオン交換樹脂に吸着されている放射性核種の一部が、イオン交換樹脂から脱離される。具体的には、シュウ酸が解離して生じる水素イオン及びシュウ酸イオンが、それぞれ陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂に吸着されている放射性核種とイオン交換されるため、一部の放射性核種(α核種、及びα核種以外の放射性核種)がイオン交換樹脂から脱離される。
化学反応槽4内でのクラッドの溶解が終了した後、弁35が閉じられて弁39が開けられる。化学反応槽4内の、クラッドの溶解に供用され、クラッドに含まれていた放射性核種(例えば、コバルト60等)、及びシュウ酸が解離して生じる前述の水素イオン及びシュウ酸イオンとのイオン交換により、放射性有機廃棄物の一部であるそれぞれの陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂から脱離された一部の放射性核種(α核種、及びα核種以外の放射性核種のそれぞれ)を含むシュウ酸水溶液(以下、「第一放射性廃液」とする)は、移送ポンプ34の駆動により、配管36及び配管40を通して、廃液分解装置13の廃液貯槽に移送される。
なお、化学洗浄部10の化学反応槽4から廃液処理部19の廃液分解装置13への第一放射性廃液及び後述の第二放射性廃液のそれぞれの移送は、例えば、戻り配管36に取り付けられたサンプリング弁(図示せず)を介して採取された第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれを定期的に分析し、採取された第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれに含まれるα核種の濃度が所定の濃度になったときに行われる。採取された第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれのα核種濃度が所定の濃度になったことは、第一洗浄工程S1において化学反応槽4内の放射性有機廃棄物に付着したクラッドが化学反応槽4内の有機酸水溶液中に十分に溶解されたこと、及び化学反応槽4内の放射性有機廃棄物(例えば、陽イオン交換樹脂)に吸着されたα核種が化学反応槽4内の有機酸塩水溶液中に十分に溶離されたことを意味する。
廃液分解装置13の廃液貯槽へのシュウ酸を含む第一放射性廃液の移送が終了した後、廃液分解工程S4が実施される。廃液分解工程S4では、オゾンが、オゾン供給装置50からオゾン供給管52を通して、所定時間、廃液貯槽内のオゾン噴射管51に供給され、オゾン噴射管51に形成された多数の噴射孔から、廃液貯槽内の第一放射性廃液中に噴射される。第一放射性廃液に含まれる有機成分であるシュウ酸が、噴射されたオゾンにより分解される。シュウ酸は、オゾンと反応して、炭酸ガスと水に分解される。廃液貯槽内に噴射されたオゾンの残り、及び炭酸ガスが、廃液貯槽に接続されたガス排気管53を通してオフガス処理装置(図示せず)に供給され、ガス排気管53に排出されたガスに含まれる放射性ガスが、オフガス処理装置で取り除かれる。
廃液分解装置13の廃液貯槽内での、第一放射性廃液に含まれるシュウ酸の分解(廃液分解工程S4)が終了した後、廃液貯槽へのオゾンの供給が停止されて移送ポンプ43が駆動され、シュウ酸分解後において廃液貯槽内に残留する、脱離されたα核種、及びα核種以外の放射性核種のそれぞれを含む水溶液、すなわち、第一放射性廃液が、配管45を通して水質調整装置54に供給される。このとき、弁44は開いている。
上述した廃液分解工程S4の後に、α核種のコロイド生成工程S5が実施される。本実施例では、水質調整装置54において、pH調整剤注入装置55から注入配管42を通してpH調整剤が配管45内の第一放射性廃液に注入される。本実施例において、配管45内の第一放射性廃液に注入されるpH調整剤としては、酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリが用いられる。
pH調整剤として酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリを用いることにより、水質調整装置54によって、α核種のコロイド生成工程S5において、酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリのうち該当するpH調整剤を配管45内の第一放射性廃液に注入する注入することができる。酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリのうちどれを注入するかは、水質調整前の第一放射性廃液の性状及び水質調整後における第一放射性廃液の目標とする性状に応じて決められる。
本実施例では、α核種のコロイド生成工程S5において、配管45内のα核種を含む第一放射性廃液のpHを4以上8未満の範囲内のpHに調節するために、該当するpH調整剤が水質調整装置54から配管45に注入される。水質調整後の第一放射性廃液のpHを酸性、例えば、「4」にする場合には、第一放射性廃液に酸注入装置56から酸である所定量の希硝酸水溶液を注入する。第一放射性廃液のpHを中性の「7」にする場合には、酸注入装置56から所定量の希硝酸水溶液及びアルカリ注入装置79からアルカリである所定量の水酸化ナトリウムを第一放射性廃液に注入する。また、第一放射性廃液のpHを、例えば、弱アルカリ性の「7.8」にする場合には、酸注入装置56から所定量の希硝酸水溶液、及びアルカリ注入装置79からの所定量の水酸化ナトリウムを第一放射性廃液に注入し、さらに、還元剤注入装置17の還元剤供給装置85から、例えば、アルカリ性還元剤である所定量のヒドラジンを注入する。第一放射性廃液のpHを、例えば、弱酸性の「6.5」にする場合には、酸注入装置56から所定量の希硝酸水溶液、アルカリ注入装置79からの所定量の水酸化ナトリウムのそれぞれを第一放射性廃液に注入し、さらに、酸化剤注入装置75から、例えば、水質調整用酸化剤である所定量のシュウ酸(有機酸)を注入する。第一放射性廃液のpHを、例えば、酸性の「4.5」にする場合には、酸注入装置56から所定量の希硝酸水溶液、及び還元剤注入装置17の還元剤供給装置85から、例えば、アルカリ性還元剤である所定量のヒドラジンを注入する。また、第一放射性廃液のpHを「7」付近の弱アルカリ性にする場合には、所定量の希硝酸水溶液、所定量の水酸化ナトリウム、所定量のヒドラジン及び所定量のシュウ酸を注入し、ヒドラジンの注入量をシュウ酸の注入量よりも若干多くする。第一放射性廃液のpHを「7」付近の弱酸性にする場合には、所定量の希硝酸水溶液、所定量の水酸化ナトリウム、所定量のヒドラジン及び所定量のシュウ酸を注入し、シュウ酸の注入量をヒドラジンの注入量よりも若干多くする。
α核種を含む第一放射性廃液のpHを4以上8未満の範囲内のpHに調節する場合において、第一放射性廃液の酸化還元電位を調整する場合には、還元剤注入装置17における酸化還元電位調整剤供給装置89の酸化還元電位調整剤槽90内の酸化還元電位調整剤水溶液、例えば、アスコルビン酸水溶液を配管45内の第一放射性廃液に注入すればよい。アスコルビン酸水溶液の注入量は、弁91の開度制御により調節される。アスコルビン酸水溶液を注入すると、第一放射性廃液のpHは酸性側に変化する。このため、アスコルビン酸水溶液による第一放射性廃液のpHの酸性側への変化を、アルカリ性還元剤である、例えば、ヒドラジン水溶液を、還元剤注入装置54の還元剤供給装置85によって第一放射性廃液に注入することにより補い、第一放射性廃液のpHを上記の所定のpH値に調整すればよい。
酸の注入は、酸注入装置56の酸槽57内の希硝酸水溶液を、弁58を開くことにより注入配管59A及び42を通して配管45内に注入することによって行われる。希硝酸水溶液の注入量は、弁58の開度を制御することによって調節される。アルカリの注入は、アルカリ注入装置79のアルカリ槽80内の水酸化ナトリウム水溶液を、弁81を開くことにより注入配管82及び42を通して配管45内に注入することによって行われる。水酸化ナトリウム水溶液の注入量は、弁81の開度を制御することによって調節される。
アルカリ性還元剤の注入は、還元剤注入装置17における還元剤供給装置85の還元剤槽86内のヒドラジン水溶液を、弁87を開くことにより注入配管88及び配管93を通して混合槽17Aに供給し、さらに、混合槽17Aから注入配管42を通して配管45内に注入することによって行われる。このとき、弁41は開いている。ヒドラジン水溶液の注入量は、弁87の開度を制御することによって調節される。酸化還元電位調整剤水溶液の注入は、還元剤注入装置54における酸化還元電位調整剤供給装置89の酸化還元電位調整剤槽90内のアスコルビン酸水溶液を、弁91を開くことにより注入配管92及び配管93を通して混合槽17Aに供給し、さらに、混合槽17Aから注入配管42を通して配管45内に注入することによって行われる。このときも、弁56は開いている。アスコルビン酸水溶液の注入量は、弁91の開度を制御することによって調節される。水質調整用酸化剤の注入は、酸化剤注入装置75の酸化剤槽76内のシュウ酸水溶液を、弁77を開くことにより注入配管78及び42を通して配管45内に注入することによって行われる。シュウ酸水溶液の注入量は、弁77の開度を制御することによって調節される。
ヒドラジン水溶液及びアスコルビン酸水溶液の両者を第一放射性廃液に注入する場合には、還元剤供給装置85からのヒドラジン水溶液及び酸化還元電位調整剤供給装置89からのアスコルビン酸水溶液のそれぞれを、混合槽17Aに供給して混合し、混合されたヒドラジン水溶液及びアスコルビン酸水溶液を混合槽17Aから注入配管42を通して配管45内に注入すればよい。
本実施例で、前述のように、水質調整装置54による配管45へのpH調整剤の注入によって水質が調整された配管45内の第一放射性廃液のpHが、pH計49Aで測定される。pH計49AのpH測定値に基づいて、配管45への注入が必要なpH調整剤を供給するpH調整剤注入装置54の該当する注入装置(還元剤注入装置17、酸注入装置56、酸化剤注入装置75及びアルカリ注入装置79のうちの少なくとも一つの注入装置)の弁の開度を制御し、第一放射性廃液のpHが所定の値になるように、該当する注入装置から配管45へのpH調整剤の注入量を調節する。
廃液分解装置13から配管45に排出された、水質調整が行われる前の第一放射性廃液のpHは、例えば、6である。配管45内を流れるpH6の第一放射性廃液が、注入配管42と配管45の接続点に到達したとき、pH調整剤が水質調整装置54から注入配管42を通してその第一放射性廃液に注入される。pH調整剤の注入により、第一放射性廃液のpHは、4以上8未満の範囲内の、例えば、7.8に調整される。第一放射性廃液のpHを7.8にする場合には、アルカリ注入装置79のアルカリ槽80内の水酸化ナトリウム水溶液を、所定量、弁81を開くことにより注入配管82及び42を通して配管45内に注入する。さらに、酸注入装置56の酸槽57内の希硝酸水溶液を、所定量、弁58を開くことにより注入配管59A及び42を通して配管45内に注入し、還元剤供給装置85の還元剤槽86内のヒドラジン水溶液を、所定量、弁87を開くことにより注入配管42を通して配管45内に注入する。このpH調整は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液及び希硝酸水溶液を水酸化ナトリウムの注入量が若干多くなるよう注入して第一放射性廃液のpHを中性の7よりも少し大きくし、第一放射性廃液のpHが7.8になるように、ヒドラジン水溶液を注入することにより行われる。また、酸化還元電位の調整を行う場合には、酸化還元電位調整剤供給装置89の酸化還元電位調整剤槽90内のアスコルビン酸水溶液を、弁91を開くことにより注入配管42を通して配管45内に注入する。このような各pH調整剤の注入量の調節は、pH計49Aで測定された第一放射性廃液のpHの測定値に基づいて弁58,77,81,87及び92のうちの該当する弁の開度を制御することによって行われる。このとき、酸化剤注入装置75の弁77は閉じている。
以上に述べた、α核種のコロイド生成工程S5において、水質調整装置54により実施される第一放射性廃液の水質調整、例えば、第一放射性廃液のpH調整は、後述の第二放射性廃液に対しても実施される。
第一放射性廃液のpHを7.8にする場合には、水酸化ナトリウム水溶液を第一放射性廃液のpHを8以上の、例えば、8にし、その後、酸化剤注入装置75の酸化剤槽76内の、例えば、シュウ酸をpH8の第一放射性廃液に注入して、第一放射性廃液のpHを7.8にしてもよい。ただし、この場合には、シュウ酸の注入により第一放射性廃液のpHが8未満の7.8になるまで、第一放射性廃液のpHが8未満を一時的に越えるため、第一放射性廃液に含まれるU,Pu及びNpのそれぞれはコロイド及び固形分にならなくイオンの状態のままである。イオン状態のU,Pu及びNpのそれぞれは、フィルタ66で除去されず、α核種除去装置14内に流入する。このため、希硝酸及び水酸化ナトリウムのうちの少なくとも一つを注入することによって第一放射性廃液のpHが4以上8未満の範囲内のpH値になるように調整し、その後、還元剤及び水質調整用酸化剤のうちの少なくとも一つを注入することによって第一放射性廃液のpHを目標のpH値に調整するとよい。
酸である、例えば、希硝酸及びアルカリである、例えば、水酸化ナトリウムは、放射性廃液のpH及び酸化還元電位を大きく変化させることができ、還元剤である、例えば、ヒドラジン及び水質調整用還元剤である、例えば、シュウ酸によれば、希硝酸及び水酸化ナトリウムよりも放射性廃液のpH及び酸化還元電位の変化が小さくなる。
水質調整が行われて該当するpH調整剤(例えば、水酸化ナトリウム、希硝酸及びヒドラジン)を含む第一放射性廃液のpHが、4以上8未満の範囲内の値に調整されると、第一放射性廃液に含まれるα核種のうちU,Pu及びNpのそれぞれのコロイド及び固形分が第一放射性廃液内で生成されて、第一放射性廃液内に析出する。第一放射性廃液のpHが4以上8未満の範囲内の値に調整された場合でも、α核種のうちAm及びCmは、コロイド及び固形分にならなくイオンのままである。
その後、α核種のコロイド除去工程S6が実施される。このα核種のコロイド除去工程S6において、pHが上記の範囲内に調整された第一放射性廃液はフィルタ66に供給される。前述の水質調整によって生成された、第一放射性廃液に含まれている粒径の大きなコロイド及び固形分は、フィルタ66内のμmオーダー以下の孔径を有する膜を用いたクロスフローフィルタ方式によりろ過され、その膜によって除去される。すなわち、粒径の大きなコロイド及び固形分はフィルタ66によって除去される。
フィルタ66を通過した第一放射性廃液内に残っているα核種の量、特に、U,Pu及びNpのそれぞれの量が著しく低減される。フィルタ66を通過した第一放射性廃液は、U,Pu及びNpのそれぞれの、フィルタ66で除去できない粒径が小さいコロイド及び固形分、U,Pu及びNpのそれぞれのイオン、及びα核種であるAm及びCmのそれぞれのイオンを含んでいる。フィルタ66を通過したpH7.8の第一放射性廃液は、α核種除去装置14内のスペース領域15に流入する。
フィルタ66から排出されたα核種の濃度が所定濃度以下に低減された第一放射性廃液の一部は、配管67を通して戻り配管36に戻される。なお、フィルタ66から排出された第一放射性廃液のα核種の濃度は、α核種濃度計65によって測定される。配管67を通して戻り配管36に戻された、α核種の濃度が所定濃度以下に低減された第一放射性廃液を、洗浄液供給タンク6から化学反応槽4に供給して再利用することにより、放射性廃液の排出量を低減することができる。
α核種のイオン除去工程S7では、まず、フィルタ66から排出された第一放射性廃液をα核種除去装置14に供給するとき、フェライト粒子をα核種吸着材注入装置69によりα核種除去装置14内のスペース領域15に注入する。具体的には、α核種吸着材注入装置69において、弁72Aを開いて吸着材槽70内のフェライト粒子を、注入配管71を通してそのスペース領域15に注入する。
α核種除去装置14に流入する第一放射性廃液のpHが、α核種のコロイド生成工程S5において、4以上8未満の範囲内の7.8に調整されているため、第一放射性廃液に含まれる、価数が「3~5」である各α核種(U,Pu,Np,Am及びCm)の価数が、スペース領域15内で「3」に調整される。第一放射性廃液に含まれる、価数が「3」に調整された各α核種は、アルカリ性還元剤(例えば、ヒドラジン)の存在下で、領域16においてフェライト粒子に効率良く吸着されて除去される(α核種のイオン除去工程S7)。図4において、α核種除去装置14内に示される〇はα核種吸着材(フェライト粒子)であり、◇はα核種である。第一放射性廃液に含まれる、フィルタ66を通過した粒径の小さいコロイド及び固形分は、フェライト粒子によって除去される。α核種除去装置14に設けられた磁化率測定装置49Bは、α核種除去装置14内にフェライトが存在しているかを検出する。
ここで、放射性廃液内のα核種の除去率に及ぼすα核種吸着材の比表面積の影響を、図10を参照して説明する。図10は、α核種吸着材であるフェライト粒子のサイズと、フェライト粒子1g当たりのα核種の吸着量の関係を示している。図10では、フェライト粒子のサイズを粒状(粒径≧100μm)及び微粉状(粒径≦1μm)とし、粒状(粒径≧100μm)及び微粉状(粒径≦1μm)のそれぞれのα核種の吸着量を比較している。図10に示すように、フェライト粒子を微粉状とした場合には、フェライト粒子を粒状とした場合と比較して、フェライト粒子1g当りのα核種の吸着量が100倍以上に向上する。
α核種除去装置14内でα核種が吸着されたフェライト粒子は、使用済みフェライト粒子として、第一放射性廃液と共に、α核種除去装置14から排出されて、配管46を通してα核種吸着材分離装置72に供給される。α核種吸着材分離装置72において、第一放射性廃液に含まれてα核種が吸着されたフェライト粒子が、例えば、μmオーダー以下の孔径を有する膜を用いたクロスフローフィルタ方式によるろ過により、第一放射性廃液から分離される(吸着材分離工程S8)。α核種吸着材分離装置72でのフェライト粒子の分離は、クロスフローフィルタ方式の替りにデッドエンドフィルタ方式で行ってもよい。α核種が吸着されたフェライト粒子が分離された第一放射性廃液は、α核種吸着材分離装置72から配管46に排出される。α核種吸着材分離装置72において、膜によってろ過されたろ液は、配管68を通して戻り配管36に供給される。
α核種のコロイド生成工程S5において、第一放射性廃液(または後述の第二放射性廃液)に注入される酸(例えば、希硝酸)及びアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)は分解不可能なpH調整剤であり、アルカリ性還元剤(例えば、ヒドラジン)及び酸化還元電位調整剤(例えば、アスコルビン酸)は分解可能なpH調整剤である。もし、α核種のコロイド生成工程S5において、第一放射性廃液に水質調整用酸化剤(例えば、シュウ酸)を注入した場合には、この水質調整用酸化剤(例えば、シュウ酸)も分解可能なpH調整剤である。
本実施例では、α核種のコロイド生成工程S5において、第一放射性廃液のpHを7.8に調整するために、前述したように、分解不可能なpH還元剤である希硝酸及び水酸化ナトリウムが第一放射性廃液に注入されているが、及び分解可能なヒドラジン及びアスコルビン酸が第一放射性廃液に注入されているので、pH調整剤判定工程S9における「pH調整剤が分解可能なpH調整剤であるか」の判定が「YES」になり、α核種除去装置14のフェライト粒子によりα核種、コロイド性の物質及び固形分が除去された、ヒドラジン及びアスコルビン酸を含む第一放射性廃液は、α核種吸着材分離装置72から、配管46を通して分解装置107に導かれる。
第一放射性廃液に含まれるヒドラジン及びアスコルビン酸は、分解装置107内で分解される。すなわち、弁111を開いて、薬液タンク109内の過酸化水素を、供給配管110を通して分解装置107に供給する。分解装置107内で、活性炭触媒及び過酸化水素の作用により、第一放射性廃液に含まれるヒドラジンが窒素及び水に分解され、アスコルビン酸が酸素及び水に分解される(分解可能なpH調整剤の分解工程S10)。分解装置107から排出された、α核種及びヒドラジンを含んでいなく希硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでいる第一放射性廃液は、配管46を通して処理水回収タンク18に導かれる。
α核種のコロイド生成工程S5において、pHを7にするために希硝酸水溶液及び水酸化ナトリウムが第一放射性廃液に注入された場合には、第一放射性廃液には分解可能なpH調整剤(ヒドラジン及びシュウ酸)が含まれていないため、pH調整剤判定工程S9の判定が「No」になる。このため、α核種除去装置14から排出された、希硝酸及び水酸化ナトリウムを含む第一放射性廃液は、分解装置107に導かれるが、この場合には弁111が閉じられているため、薬液タンク109内の過酸化水素が分解装置107に供給されない。希硝酸及び水酸化ナトリウムを含む第一放射性廃液は、そのまま、分解装置107から排出され、処理水回収タンク18に導かれる。
第一放射性廃液のpHを、例えば、6にする場合には、α核種のコロイド生成工程S5において、希硝酸水溶液及び水酸化ナトリウム水溶液と共に水質調整用酸化剤(例えば、シュウ酸)を第一放射性廃液に注入する。pHが6である第一放射性廃液内で生成されるU,Pu及びNpのそれぞれの粒径の大きなコロイド及び固形分は、フィルタ66で除去される(α核種のコロイド除去工程S6)。フィルタ66から排出されてそのコロイド及び固形分が除去された第一放射性廃液がα核種除去装置14に供給されて、第一放射性廃液に含まれるα核種のイオンがα核種除去装置14内でフェライト粒子に吸着されて除去される(α核種のイオン除去工程S7)。
第一放射性廃液に含まれるフェライト粒子がα核種吸着材分離装置72によって分離され、フェライト粒子を含まないpHが6である第一放射性廃液を対象に、pH調整剤判定工程S9の判定が行われる。pHが6である第一放射性廃液には、分解可能なpH調整剤として水質調整用酸化剤(例えば、シュウ酸)が含まれているため、pH調整剤判定工程S9の判定が「YES」になる。その第一放射性廃液は、分解装置107に供給され、分解装置107内で活性炭触媒及び薬液タンク109内の過酸化水素の作用によって、第一放射性廃液に含まれる水質調整用酸化剤(例えば、シュウ酸)が分解される。例えば、シュウ酸は、分解装置107内で二酸化炭素及び水に分解される。第一放射性廃液に含まれる水質調整用酸化剤(例えば、シュウ酸)の分解によって、第一放射性廃液の量を低減できる。
前述した処理水回収タンク18内の第一放射性廃液(ヒドラジンまたはシュウ酸が分解されて希硝酸及び水酸化ナトリウムを含む第一放射性廃液)は、移送ポンプ47を駆動して配管48により乾燥粉体化装置20に供給されて紛体化される(減容工程S11)。乾燥粉体化装置20で生成された、α核種を含まない紛体は、配管49を通して固化設備21に移送されて固化容器内に充填され、その固化容器内に固化材が注入されて固化される(容器充填または固化工程S12)。この固化容器は、密封された後、保管場所に保管される。保管されるこの固化容器内には、超半減期のα核種が存在していない。
ここで、第一放射性廃液に希硝酸を注入した場合には、この第一放射性廃液の粉体化により生成された粉体は硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでおり、この粉体を固化容器内で溶融したガラスにより固化して生成されたガラス固化体も、硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでいる。
上述したように第一放射性廃液の処理が行われ、固化設備21で固化が実行された状態では、まだ化学反応槽4内に、クラッドが溶解された、陽イオン交換樹脂を含む放射性有機廃棄物が、残留している。引き続き、この陽イオン交換樹脂を含む放射性有機廃棄物の処理を行う。
移送ポンプ32の駆動によって、40~400g/L程度のギ酸ヒドラジン水溶液(有機酸塩水溶液)が、洗浄液供給タンク6から洗浄液供給管33を通して、放射性有機廃棄物が残留する化学反応槽4内に連続的に供給される。ギ酸ヒドラジン水溶液のギ酸ヒドラジンの濃度は、溶液1L当たりの溶質(ギ酸ヒドラジン)の質量である。化学反応槽4に供給されるギ酸ヒドラジン水溶液は、pH7程度の中性液である。洗浄液供給タンク6へのギ酸ヒドラジン水溶液の供給は、弁27を開くことによって、配管30及び配管29を通して有機酸塩槽8から行われる。弁26及び弁28は閉じている。
放射性有機廃棄物は、化学反応槽4内でギ酸ヒドラジン水溶液と接触する。化学反応槽4内では、この接触によって、放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂に吸着された、α核種であるウラン、プルトニウム、アメリシウム、ネプツニウム及びキュリウム、及びα核種以外の放射性核種であるコバルト60、セシウム137、炭素14、塩素36のそれぞれのイオンが、ギ酸ヒドラジン水溶液中に溶離する(第二洗浄工程S2)。
化学反応槽4内からギ酸ヒドラジン水溶液のみを回収し、回収されたギ酸ヒドラジン水溶液は、戻り配管36を通して洗浄液供給タンク6に移送される。このとき、弁35は開いており、弁39は閉じている。洗浄液供給タンク6に移送されたギ酸ヒドラジン水溶液は、再び、化学反応槽4に供給され、陽イオン交換樹脂に吸着された各放射性核種の溶離に使用される。ギ酸ヒドラジン水溶液の代わりに、シュウ酸、酢酸及びクエン酸のいずれかのヒドラジン塩の水溶液を用いてもよい。これらの有機酸塩は、水素イオンよりも陽イオン交換樹脂に吸着されやすい陽イオンを生じる有機酸塩である。
放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂にシュウ酸水溶液を接触させた場合では、陽イオン交換樹脂に吸着されているコバルト60に対する除染性能(除染係数)がDF4程度である。これに対して、陽イオン交換樹脂にギ酸ヒドラジン水溶液を接触させた場合では、除染性能がDF20以上となり、シュウ酸水溶液を接触させた場合よりも、除染性能が向上した。シュウ酸水溶液のみを用いてDF20以上の除染性能を得るためには、繰り返し、シュウ酸を添加する必要がある。これに対して、ギ酸ヒドラジン水溶液を用いた場合には、その繰り返しが不要となり、使用する洗浄剤の量、すなわち、シュウ酸の量を低減することができる。
ここで、除染係数DFは、(除染前の計数率)/(除染後の計数率)で算出される数値である。なお、ギ酸ヒドラジンによる除染(イオン溶離)は、シュウ酸による除染(クラッド溶解)の後に行う。よって、有機酸水溶液によるクラッドの溶解のみを実施する場合には、有機酸塩水溶液を用いたイオンの溶離は行わないため、除染係数DFは、(除染前の計数率)/(クラッド溶解のみの計数率)で計算される値となる。一方、イオンの溶離も行う場合には、除染係数DFは、(除染前の計数率)/(クラッド溶解及びイオン溶離の後の計数率)で計算される値となる。
化学反応槽4内での放射性核種の溶離(第二洗浄工程S2)が終了した後、弁35を閉じて弁39を開き、移送ポンプ34を駆動する。化学反応槽4内の、溶離されたα核種及びα核種以外の放射性核種を含むギ酸ヒドラジン水溶液(以下、「第二放射性廃液」とする)が、配管36及び配管40を通して、前述した廃液分解装置13の廃液貯槽に移送される。
その廃液分解装置13の廃液貯槽へのギ酸ヒドラジン水溶液の移送が終了した後、弁25を開いて化学反応層4内に残存する放射性有機廃棄物は、配管26によって第二受入タンク11に導かれる。第二受入タンク11から取り出された放射性有機廃棄物は、所定量、焼却設備12に移送され、焼却設備12で焼却される。焼却により生成された灰は、固化容器内でセメント等の固化剤により固化される(焼却または固化工程S3)。
その廃液分解装置13の廃液貯槽へのギ酸ヒドラジン水溶液の移送が終了した後、廃液分解工程S4が実施される。この廃液分解工程S4では、オゾン供給装置50からのオゾンが、その廃液貯槽内のギ酸ヒドラジン水溶液中に噴射される。ギ酸ヒドラジン水溶液に含まれるギ酸及びヒドラジンが、噴射されたオゾンにより分解される。ギ酸は窒素ガスと水に、また、ヒドラジンは炭酸ガスと水に分解される。廃液貯槽内に噴射されたオゾンの残り、炭酸ガス及び窒素ガスが、廃液貯槽に接続されたガス排気管53を通してオフガス処理装置(図示せず)に供給される。
第二洗浄工程S2の後に実施された、廃液分解装置13の廃液貯槽内でのギ酸及びヒドラジンの分解(廃液分解工程S4)が終了した後、その廃液貯槽へのオゾンの供給が停止されて移送ポンプ43が駆動され、ギ酸及びヒドラジンの分解後においてその廃液貯槽内に残留する、α核種及びα核種以外の放射性核種を含む第二放射性廃液が、配管45を通して水質調整装置54に供給される。このとき、弁44は開いている。
本実施例では、第二放射性廃液に対しても、前述の第一放射性廃液と同様に、廃液分解工程S4の後にα核種のコロイド生成工程S5が実施される。水質調整装置54によって、pH調整剤注入装置55から注入配管42を通して該当するpH調整剤が配管45内の第二放射性廃液に注入される。本実施例において、配管45内の第二放射性廃液に注入されるpH調整剤としては、酸、水質調整用酸化剤、還元剤及びアルカリが用いられる。pH調整剤の注入により、第二放射性廃液のpHは4以上8未満の範囲内のpHに調整される。第二放射性廃液のpHを4以上8未満の範囲内のpHにすることによって、α核種のうちU,PU及びNpのそれぞれの粒径の大きなコロイド及び固形分が第二放射性廃液内で生成される。
廃液分解装置13から配管45に排出された、水質調整が行われる前の第二放射性廃液のpHは、例えば、6である。配管45内を流れるpH6の第二放射性廃液が、注入配管42と配管45の接続点に到達したとき、第一放射性廃液と同様に、pH調整剤が水質調整装置54から注入配管42を通してその第二放射性廃液に注入される。第二放射性廃液のpHを、4以上8未満の範囲内の、例えば、7.8にする場合には、アルカリ槽80内の水酸化ナトリウム水溶液を、所定量、弁81を開くことにより配管45内に注入する。さらに、酸槽57内の希硝酸水溶液を、所定量、弁58を開くことにより配管45内に注入し、還元剤槽17A内のヒドラジン水溶液を、所定量、弁41を開くことにより配管45内に注入する。このpH調整は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液及び希硝酸水溶液を水酸化ナトリウムの注入量が若干多くなるよう注入して第二放射性廃液のpHを中性の7よりも少し大きくし、第二放射性廃液のpHが7.8になるように、ヒドラジン水溶液を注入することにより行われる。また、酸化還元電位の調整を行う場合には、酸化還元電位調整剤供給装置89の酸化還元電位調整剤槽90内のアスコルビン酸水溶液を、弁91を開くことにより注入配管42を通して配管45内の第二放射性廃液に注入する。このような各pH調整剤の注入量の調節は、pH計49Aで測定された第二放射性廃液のpHの測定値に基づいて弁41,58及び80の内の該当する弁の開度を制御することによって行われる。このとき、酸化剤注入装置75の弁77は閉じている。
第二放射性廃液のpHが7.8に調整されると、第二放射性廃液に含まれているα核種のうちU,Pu及びNpのそれぞれが、コロイド及び固形分となって第二放射性廃液内に析出する。第二放射性廃液に含まれているα核種のうちAm及びCmは、イオンのままである。Pu及びNpのそれぞれのコロイド及び固形分を含む第二放射性廃液は、フィルタ66に供給される。第二放射性廃液に含まれた粒径の大きなコロイド及び固形分は、フィルタ66内のμmオーダー以下の孔径を有する膜を用いたクロスフローフィルタ方式によりろ過され、その膜によって除去される(α核種のコロイド除去工程S6)。
フィルタ66を通過して、フィルタ66で除去できない粒径が小さい、U,Pu及びNpのそれぞれのコロイド及び固形分、U,Pu及びNpのそれぞれのイオン、及びα核種であるAm及びCmのそれぞれのイオンを含むpH7.8の第二放射性廃液は、α核種除去装置14内のスペース領域15に流入する。第一放射性廃液の場合と同様に、フェライト粒子をα核種吸着材注入装置69からそのスペース領域15に注入する。
第二放射性廃液のpHが7.8であるため、第二放射性廃液に含まれる、価数が「3~5」である各α核種(U,Pu,Np,Am及びCm)の価数が、スペース領域15内で「3」に調整される。第二放射性廃液に含まれる、価数が「3」に調整された各α核種は、還元剤(例えば、ヒドラジン)の存在下で、領域16においてフェライト粒子に効率良く吸着されて除去される(α核種のイオン除去工程S7)。
α核種除去装置14内でα核種が吸着されたフェライト粒子は、使用済みフェライト粒子として、第二放射性廃液と共に、α核種除去装置14から排出されて、配管46を通してα核種吸着材分離装置72に供給される。第二放射性廃液に含まれてα核種が吸着されたフェライト粒子は、α核種吸着材分離装置72内に存在する、例えば、μmオーダー以下の孔径を有する膜を用いたクロスフローフィルタ方式によるろ過により、第二放射性廃液から分離される(吸着材分離工程S8)。α核種が吸着されたフェライト粒子が分離された第二放射性廃液は、α核種吸着材分離装置72から配管46に排出される。
α核種のコロイド生成工程S5において、分解可能なpH調整剤である還元剤、例えば、ヒドラジンが第二放射性廃液に注入されているので、pH調整剤判定工程S9の判定が「YES」になる。このため、pH7.8の、ヒドラジンを含む、配管46内の第二放射性廃液は、α核種吸着材分離装置72から分解装置107に導かれる。
第二放射性廃液に含まれるヒドラジンは、第一放射性廃液に含まれるヒドラジンと同様に、分解装置107内で、活性炭触媒及び過酸化水素の作用により分解される(還元剤の分解工程S10)。分解装置107から排出された、α核種及びヒドラジンを含んでいなく希硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでいる第一放射性廃液は、配管46を通して処理水回収タンク18に導かれる。
α核種のコロイド生成工程S5において、分解不可能なpH調整剤(例えば、希硝酸及び水酸化ナトリウム)が水質調整装置54から第二放射性廃液に注入され、この第二放射性廃液に分解可能なpH調整剤(例えば、ヒドラジン及びシュウ酸)が注入されない場合には、pH調整剤判定工程S9の判定が「No」になり、α核種除去装置14から排出されたその第二放射性廃液は、薬液タンク109から過酸化水素が供給されず、分解装置107を、そのまま通過して、処理水回収タンク18に導かれる。
処理水回収タンク18内の第二放射性廃液(ヒドラジンまたはシュウ酸が分解されて希硝酸及び水酸化ナトリウムを含む第一放射性廃液)は、移送ポンプ47を駆動して配管48により乾燥粉体化装置20に供給されて紛体化される(減容工程S11)。乾燥粉体化装置20で生成された、α核種を含まない紛体は、配管49を通して固化設備21に移送されて固化容器内に充填され、その固化容器内に固化材が注入されて固化される(容器充填または固化工程S12)。この固化容器は、密封された後、保管場所に保管される。保管されるこの固化容器内には、超半減期のα核種が存在していない。
ここで、第二放射性廃液に希硝酸を注入した場合には、この第二放射性廃液の粉体化により生成された粉体は硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでおり、この粉体を固化容器内で溶融したガラスにより固化して生成されたガラス固化体も、硝酸及び水酸化ナトリウムを含んでいる。
本実施例によれば、α核種を含む放射性廃液(第一放射性廃液及び後述の第二放射性廃液のそれぞれ)にpH調整剤(アルカリ、酸、水質調整用酸化剤及び還元剤の少なくとも1つ)を注入することによって放射性廃液内に超半減期のα核種のうちU,Pu及びNpのコロイドを生成することができる。生成されたコロイドはα核種のコロイド除去工程S6においてフィルタ66によって除去されるため、α核種除去装置14に流入する放射性廃液に含まれる超半減期のα核種の濃度が低減される。このため、α核種除去装置14に注入するα核種吸着材(例えば、フェライト粒子)の量を減少させることができ、α核種吸着材の使用量を低減できる。これにより、α核種除去装置14は、よりコンパクトになる。
特に、α核種のコロイドは、α核種のコロイド生成工程S5において、pH調整剤をα核種を含む放射性廃液に注入し、この放射性廃液のpHを4以上8未満の範囲内のpHにすることによって、放射性廃液内で生成することができる。
フィルタ66で除去されなかった、放射性廃液に含まれるα核種のイオンは、α核種のイオン除去工程S7において、α核種除去装置14内でα核種吸着材によって除去できる。
本実施例では、α核種のコロイド除去工程S6におけるフィルタ66によるα核種のコロイドの除去、その後のα核種のイオン除去工程S7におけるα核種除去装置14でのα核種のイオンの除去の二段階で、α核種を除去することができる。
粒状のα核種吸着材がα核種吸着材注入装置69からα核種除去装置14内のα核種を含む放射性廃液中に注入されるため、α核種除去装置14内でその放射性廃液と接触するα核種吸着材の表面積が増大し、α核種吸着材によって除去されるα核種が増加する。特に、α核種吸着材の粒径を1μm以下にすることにより、α核種吸着材粒子のα核種の吸着量が著しく増加する。
また、α核種除去装置14へα核種吸着材粒子を注入することにより、特願2018-210315号の明細書に記載された、α核種吸着材粒子が充填されたα核種吸着材層が内部に形成されたα核種除去装置にα核種を含む放射性廃液を供給する場合に比べて、α核種吸着材粒子がα核種除去装置14内の放射性廃液に浸漬される時間を制御することができる。これにより、α核種吸着材粒子のα核種吸着量が所定のα核種吸着量となる時間まで、α核種吸着材粒子を放射性廃液に浸漬させるように制御することができる。
そして、所定のα核種吸着量となる所定の時間までα核種吸着材粒子を放射性廃液に浸漬させた後に、α核種除去装置14からα核種吸着材分離装置72へのα核種吸着材粒子を含む放射性廃液の供給が可能となる。このため、α核種を含む放射性廃棄物を低減できる。
本実施例によれば、第一洗浄工程S1において、有機酸水溶液(例えば、シュウ酸水溶液)を用いて、放射性有機廃棄物に混在している酸化鉄成分を溶解させることができる。さらに、本実施例によれば、第二洗浄工程S2において、放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂に吸着された、α核種のイオンを含む放射性核種イオンを、有機酸塩水溶液(例えば、ギ酸ヒドラジン水溶液)の陽イオン交換樹脂への接触によって陽イオン交換樹脂から脱離させることにより、放射性有機廃棄物に含まれる放射性核種の濃度を低減することができ、高線量の放射性廃棄物の量を低減することができる。特に、有機酸水溶液によっても陽イオン交換樹脂から脱離されずに陽イオン交換樹脂に吸着されて残っているα核種のイオンを含む放射性核種のイオンを、有機酸塩水溶液を放射性有機廃棄物に接触させることにより、効率良く、陽イオン交換樹脂から脱離させることができる。
本実施例によれば、α核種を含む放射性廃液に還元剤、例えば、ヒドラジンを注入して放射性廃液のpHを調節するため、放射性廃液に含まれる超半減期のα核種が、α核種除去装置14に注入したフェライト(α核種吸着材)によって除去されやすくなる。このため、放射性廃液に含まれるα核種がα核種除去装置14において除去され、α核種除去装置14から流出する放射性廃液に含まれる超半減期のα核種が著しく低減される。この結果、α核種除去装置14から流出する放射性廃液の放射線線量が著しく低減され、超半減期のα核種を含む放射性廃棄物(例えば、固化体)の発生量を低減できる。
化学反応槽4から戻り配管36に排出された第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれのα核種濃度が所定の濃度になったときに、化学反応槽4から廃液分解装置13にα核種を含む第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれを移送することにより、第一放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれに含まれるα核種吸着材におけるα核種の吸着性能を十分に発揮させることができる。
本実施例では、α核種除去装置14内に存在するα核種吸着材が、使用済のα核種吸着材として、α核種吸着材分離装置72で分離される。分離されたα核種吸着材は、固化容器(以下、「第1固化容器」という)内に収納される。その後、例えば、溶融したガラスが、α核種を吸着している所定量の使用済α核種吸着材が収納された第1固化容器内に充填される。溶融したガラスが固化した後、所定量の使用済α核種吸着材が収納された第1固化容器が密封される。
高線量樹脂貯蔵タンク2内に貯蔵されている放射性有機廃棄物にα核種が吸着された陽イオン交換樹脂が含まれているときに、前述した特開2015-64334号公報に記載された放射性有機廃棄物の処理方法を実施すると、放射性有機廃棄物に含まれているクラッドを溶解した有機酸水溶液、陽イオン交換樹脂からα核種を脱離させた有機酸塩水溶液のそれぞれには、α核種が含まれている。α核種を含む有機酸水溶液の有機酸を分解用酸化剤で分解して生成された第一放射性廃液、及びα核種を含む有機酸塩水溶液の有機酸塩を分解用酸化剤で分解して生成された第二放射性廃液のそれぞれは、粉体化されて別々の固化容器(以下、「第2固化容器」という)内に充填され、その後、例えば、溶融されたガラスが各第2固化容器内に充填される。第一放射性廃液の、α核種を含む粉体を固化する溶融ガラスが第2固化容器内で固化された後に、この第2固化容器が密封される。第二放射性廃液の、α核種を含む粉体を固化する溶融ガラスが第2固化容器内で固化された後に、この第2固化容器が密封される。
ここで、本実施例の処理方法と特開2015-64334号公報に記載された処理方法とを、比較する。これらの処理方法において、第一洗浄工程S1及び第二洗浄工程S2の実施の対象となる放射性有機廃棄物の量が同じであって溶解されるクラッドの量及び脱離されるα核種の量が同じであり、発生する第一放射性廃液の量及び第二放射性廃液の量が同じであるとする。このとき、本実施例で発生する、α核種を吸着したフェライトを第1固化容器内でガラス固化することにより生成されたガラス固化体の個数は、特開2015-64334号公報に記載された処理方法で発生した、第一放射性廃液の、α核種を含む粉体を第2固化容器内でガラス固化することにより生成されたガラス固化体の個数と、第二放射性廃液の、α核種を含む粉体を第2固化容器内でガラス固化することにより生成されたガラス固化体の個数の合計よりも少なくなる。すなわち、本実施例で発生する、α核種を含むガラス固化体(α核種を含む放射性廃棄物)は、特開2015-64334号公報記載された処理方法で発生する、α核種を含むガラス固化体(α核種を含む放射性廃棄物)よりも低減できる。
本実施例によれば、クラッドを溶解した有機酸水溶液に含まれる有機酸(例えば、シュウ酸)、及びα核種を溶離した有機酸塩水溶液に含まれる有機酸塩(例えば、ギ酸ヒドラジン)が、分解用酸化剤を用いた酸化処理により分解されるため、α核種を含む放射性廃液の量が低減され、α核種除去後の放射性廃液の濃縮または粉体化によって、発生する放射性廃棄物の量が低減される。
本実施例によれば、有機酸水溶液による、放射性有機廃棄物に含まれるクラッドの溶解(第一洗浄工程S1)、及び有機酸塩水溶液による、放射性有機廃棄物である陽イオン交換樹脂に吸着されたα核種の脱離(第二洗浄工程S2)を、一つの洗浄槽(例えば、化学反応槽4)内で順番に実施するので、放射性廃液処理システムをよりコンパクト化できる。
実施例1において、水質調整装置54の替りに、図5に示す水質調整装置54Aを用いることができる。水質調整装置54Aは、水質調整装置54におけるpH調整剤注入装置55及びpH計49Aと共に、脱溶存炭酸剤注入装置59、酸化還元電位測定装置63及び炭酸濃度計64を備えている。脱溶存炭酸剤注入装置59は、脱溶存炭酸剤槽60、及び弁61が設けられた注入配管62を有する。脱溶存炭酸剤槽60に接続された注入配管62は、pH計49Aの配管45への取り付け位置とフィルタ66の間で配管45に接続される。脱溶存炭酸剤槽60には、脱溶存炭酸剤として、亜硫酸ナトリウム、N2ガス及びArガス等が充填される。
酸化還元電位測定装置63は、pH計49Aの配管45への取り付け位置と、注入配管62と配管45の接続位置との間で、配管45に取り付けられる。炭酸濃度計64は、注入配管62と配管45の接続位置と、α核種濃度計65の配管45への取り付け位置との間で、配管45に取り付けられる。
水質調整装置54Aを用いた場合における第1放射性廃液及び第二放射性廃液のそれぞれに対して実施されるα核種のコロイド生成工程S5を、以下に説明する。
廃液分解工程S4において、廃液分解装置13の廃液貯槽内の第一放射性廃液に含まれるシュウ酸が分解された後、α核種、及びα核種以外の放射性核種を含む第一放射性廃液が、配管45を通して水質調整装置54Aに供給される。
α核種のコロイド生成工程S5において、水質調整装置54Aから注入配管42を通して配管45内の第一放射性廃液に注入される。pH調整剤の注入により、第一放射性廃液のpHは、4以上8未満の範囲内の、例えば、7.8に調整される。このとき、前述したように、水質調整装置54Aのアルカリ注入装置79から水酸化ナトリウム水溶液が、酸注入装置56から希硝酸水溶液が、還元剤注入装置17からヒドラジン水溶液が、それぞれ所定量、配管45内に注入される。
さらに、α核種のコロイド生成工程S5では、第一放射性廃液における溶存炭素の量を調整するために、弁61を開くことによって脱溶存炭酸剤注入装置59の脱溶存炭酸剤槽60内の脱溶存炭酸剤、例えば、亜硫酸ナトリウムが、注入配管62を通して配管45に注入される。亜硫酸ナトリウムの注入によりpHが7.8の第一放射性廃液に溶存している炭素の量が減少する。
水質調整装置54Aを用いることによって、前述したように、第一放射性廃液のpHを4以上8未満の範囲内の、例えば、7.8に調整することができ、第一放射性廃液に溶存している炭素の量を減少させることができる。このため、水質調整装置54により第一放射性廃液のpH調整だけを行う場合に比べて、水質調整装置54Aを用いて第一放射性廃液のpH調整及び第一放射性廃液の溶存炭素量の減少を実施する場合には、第一放射性廃液に含まれているα核種のうちのU,Pu及びNpのそれぞれのコロイドの生成量が増加する。このため、フィルタ66でより多くのコロイドを除去することができ、フィルタ66で除去されるα核種の量が増加する。それだけ、フィルタ66からα核種除去装置14に供給される第一放射性廃液に含まれるα核種の量が少なくなり、α核種除去装置14に注入されるα核種吸着材の量も減らすことができる。