静磁場発生装置の本体の直下に存在する空間は、作業スペースという観点から見て、あまり大きくない。その空間内には又はそれに隣接して様々な機器が配置され、それらの機器によって作業スペースが制約される。一方、NMRプローブはそれ自身ある程度の重量を有している。冷却型NMRプローブの場合、その内部の構造は複雑となる。また、その基部には複数の配管が接続されており、それらにより生じる荷重も無視し得なくなる。静磁場発生装置に対するNMRプローブの取り付け作業、及び、静磁場発生装置からNMRプローブを取り外す作業は容易ではない。そのような背景から、NMRプローブ交換作業を支援するNMRプローブ搬送装置が利用されている。
NMRプローブを垂直方向に加えて水平方向にも搬送できるNMRプローブ搬送装置を実現することが望まれている。そのようなNMRプローブの搬送装置を実現するのに当たり、完全自立型の構成を採用するならば、NMRプローブ搬送装置が複雑化及び大型化してしまう。すなわち、NMRプローブ搬送範囲としてその交換で必要となる十分な三次元空間を確保することを前提として、完全自立型の構成を採用する場合、NMRプローブ搬送装置における基礎部分としてそれなりの頑丈な構造物を設ける必要があり、しかもその構造物を床面にしっかり固定する特別な工事を行う必要がある。
本発明の目的は、NMRプローブの取り付けや取り外しを支援するNMRプローブ搬送装置を提供することにある。あるいは、本発明の目的は、NMRプローブを水平方向及び垂直方向に搬送する機能を備えたNMRプローブ搬送装置において、その構成を簡易化することにある。
本開示に係るNMRプローブ搬送装置は、静磁場発生装置の脚部に取り付けられるベース部と、NMRプローブが搭載されるステージ部と、前記ベース部と前記ステージ部との間に設けられ、前記ステージ部を水平方向及び垂直方向に移動可能に支持する支持部と、 を含むことを特徴とする。
一般に、静磁場搬送装置の本体はかなりの重量を有し、本体を安定的に支える脚部は頑丈な構造物である。上記構成は、そのような脚部にベース部を取り付けるものである。よって、NMRプローブ搬送装置を完全自立型の装置として構成した場合に比べ、その構成を簡易化できる。静磁場発生装置に対するNMRプローブ搬送装置の位置決めが容易化されるという利点も得られる。
脚部にNMRプローブ搬送装置が取り付けられた状態において、NMRプローブ搬送装置が脚部により完全に保持されてもよいし、NMRプローブ搬送装置が脚部により支配的又は補助的に保持されてもよい。後者の場合において、NMRプローブ搬送装置の垂直荷重の全部又は一部が床面によって直接的又は間接的に支持されるならば、脚部へ及ぶ負荷を軽減できる。ベース部には様々な方向へ荷重又はモーメントが生じる。それらの内で少なくとも一部がベース部を通じて脚部に伝わり、脚部で打ち消されるならば、NMRプローブ搬送装置それ自体の構成を簡易化できる。
ベース部が脚部に固定的に取り付けられてもよいが、ベース部が脚部に対して着脱可能に取り付けられてもよい。後者の場合、既存の脚部に対してNMRプローブ搬送装置を後付け設置することが容易となる。NMRプローブ交換後、ベース部の取り付け状態が維持されてもよいし、ベース部が脚部から取り外されてもよい。ステージ部の搬送範囲としてNMRプローブ交換で必要な三次元範囲を得られるように、支持部が構成される。ステージ部が静磁場発生装置の本体の直下から外れる周辺空間へ移動できるように構成されるならば、ステージ部へのNMRプローブの設置作業又はステージ部からのNMRプローブの取り外し作業が容易となる。
実施形態において、前記脚部は、複数の脚と、前記複数の脚と前記静磁場発生装置の本体との間に設けられた複数の防振部と、を含み、前記ベース部は前記複数の脚の中の特定の脚に取り付けられている。この構成によれば、NMRプローブ交換過程で、NMRプローブ搬送装置で振動が生じても、その振動が本体へ伝わり難くなる。NMR測定中において、特定の脚に取り付けられたままになっているNMRプローブ搬送装置に起因して振動が生じても、あるいは、そのNMRプローブ搬送装置に起因して外部から到来した振動に変化が生じても、それによる影響が本体に及び難くなる。なお、脚部におけるベースプレート等の他の部材に対してNMRプローブ搬送装置を固定することも考えられる。
実施形態において、前記ベース部は、前記特定の脚に巻き付けられる少なくとも1つの帯状部材と、前記少なくとも1つの帯状部材の有効長を可変する可変機構と、を含む。この構成によれば、様々な太さを有する脚に対してベース部を取り付けることが可能となる。有効長は実際に締結作用を発揮する部分であり、脚周囲長に相当する部分である。柔軟性を有する帯状部材を利用すれば様々な脚の形態に対応できる。
実施形態において、前記支持部は、前記ステージ部の垂直方向の位置を保つ保持機構を含み、前記ステージ部の垂直方向の位置が保たれた状態で前記ステージ部の水平方向への運動が許容される。この構成によれば、NMRプローブの水平方向への搬送に際してNMRプローブを下支えする必要がないので、その搬送時の負担を軽減できる。手作業によってつまり人力によってNMRプローブが水平方向に搬送されてもよい。水平方向への搬送力を生じさせる機構が設けられてもよい。
実施形態において、前記支持部は、前記ステージ部を上昇させる駆動力及び前記ステージ部の垂直方向の位置を保持する駆動力を発生するアクチュエータを含み、前記保持機構には前記アクチュエータが含まれる。この構成によれば、NMRプローブの上昇及び下降に際しての負担を軽減できる。上昇時及び下降時に人力が補助的に利用されてもよい。
実施形態において、前記ステージ部は、前記アクチュエータが発生する駆動力を大きくする際に操作される第1操作子と、前記アクチュエータが発生する駆動力を小さくする際に操作される第2操作子と、を含む。この構成によれば操作性を高められる。ステージ部の中央にハンドルが設けられる構成において、ハンドルの一方側及び他方側にそれぞれ第1操作子及び第2操作子を設ければ、ハンドルを一方の手で操作しつつ2つの操作子を他方の手で操作することが可能となるので、更に操作性を高められる。
実施形態において、前記支持部は、前記ベース部と前記ステージ部との間において連なる複数のアーム部を有する。この構成によれば、NMRプローブの運動範囲を拡大でき、あるいは、NMRプローブの位置決め及び向き調整を容易化できる。
実施形態において、前記複数のアーム部には、第1平行リンク及び第1シリンダを備えた第1アーム部と、第2平行リンク及び第2シリンダを備えた第2アーム部と、が含まれ、前記ステージ部の上昇時及び下降時には前記第1シリンダ及び第2シリンダがともに動作する。この構成によれば、昇降範囲を拡大できる。また、第1アーム部及び第2アーム部を連動させずに互いに独立して動作させる場合に比べて、構成及び制御を簡易化できる。第1平行リンク及び第2平行リンクは、それぞれ、一方端部に対して他方端部を上下に運動させるものであり、その過程において一方端部と他方端部の平行関係が維持される。
実施形態において、前記ベース部と前記第1アーム部の間に少なくとも1つの基端旋回軸が設けられ、前記第1アーム部と前記第2アーム部の間に少なくとも1つの中間旋回軸が設けられ、前記第2アーム部と前記ステージ部の間に少なくとも1つの先端旋回軸が設けられている。この構成によれば、NMRプローブの水平方向の位置決め及びNMRプローブの向きの調整が容易化される。NMRプローブ搬送装置の非使用状態において、特定の脚にNMR搬送装置が巻き付けられてもよい。
実施形態において、前記ステージ部は、前記支持部により支持されたステージベースと、前記ステージベースにより姿勢変更可能に保持され、前記NMRプローブを載せるフォーク部材と、を含む。この構成によれば、静磁場発生装置の本体に形成されたボアの中へNMRプローブの挿入部を挿入し始める時点で、ボアの中心軸線と挿入部の中心軸線が非平行でも、挿入を進めていく過程で、前者に対して後者が自然に一致し又は平行になる。挿入過程で挿入部に生じる負荷を軽減できるので、その保護を図れる。
支持部として複数のアーム部からなる連接体を採用した場合、先端側における垂れ下がりが不可避的に生じ易く、しかも、ステージ部を上昇運動させる過程で水平方向の位置が自然に変化する。仮に、ステージベースに対してフォーク部がまったくの姿勢自由度なく完全に固定されている場合、ボアへの挿入部の挿入過程でボア内面から挿入部に対して大きな力が生じ易くなる。場合によっては挿入部を上昇させることが困難な状況が生じる。上記構成によれば、そのような問題が生じることを回避できる。結果として、ボアへの挿入部の挿入作業が容易となる。
実施形態において、前記フォーク部材は、前記NMRプローブの基部の両側に差し込まれて前記基部が有する一対の突片を載せる第1片及び第2片を有する。この構成によれば、本体と床面の間の空間の高さがNMRプローブの高さに近い場合においても、すなわち垂直方向における空間的な隙間が少ない場合においても、ステージ部によりNMRプローブの保持を行える。一対の突片は、実施形態において、静磁場発生装置の本体に対してNMRプローブの基部をボルト等で固定する際に機能するものであり、それは、通常、基部の上部に設けられている。
本開示によれば、NMRプローブの取り付けや取り外しを支援するNMRプローブ搬送装置を提供できる。あるいは、本発明によれば、NMRプローブを水平方向及び垂直方向に搬送する機能を備えたNMRプローブ搬送装置において、その構成を簡易化できる。
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、実施形態に係るNMR測定システムが示されている。NMR測定システムは、図示されていないメインコンソール、静磁場発生装置10、NMRプローブ11、及び、NMRプローブ搬送装置12により構成される。メインコンソールは、分光計として機能し、それは、送信信号生成回路、受信信号処理回路、NMRスペクトル演算部等を有している。メインコンソールにおいて生成された送信信号がNMRプローブ11へ送られる。NMRプローブ11で生成された受信信号がメインコンソールへ送られる。
静磁場発生装置10は、本体24及び脚部25により構成される。本体24内には、冷却された超電導マグネットが収容されている。その冷却のために液体ヘリウムや液体窒素が利用される。本体24は、円筒状の形態を有し、それはボアを有している。ボアは、垂直方向に伸長した円柱状の空洞である。超電導コイルにより、ボア内の試料空間において均一な静磁場が生成される。
脚部25は、複数の脚26,28,30、複数の防振部32,34,36、及び、ベースプレート37を有している。複数の脚26,28,30により、本体24が一定の高さに保持されている。各脚26,28,30は、円筒状の形態を有する。それらの下端部がベースプレート37に固定されている。ベースプレート37は、施設の床面上に固定される部材である。それは上方から見て概ね三角形の形状を有している。複数の脚26,28,30は、本体24を安定的に支持するのに十分な強度及び剛性を有している。
本体24と複数の脚26,28,30との間に防振部32,34,36が設けられている。複数の防振部32,34,36は、複数の脚26,28,30の上端部に相当している。各防振部32,34,36は、各脚26,28,30を通じて本体24へ伝わる振動を吸収又は低減するものである。各防振部32,34,36は、エアサスペンション、ダンパ等の振動吸収機構を内蔵している。図示の構成例では、図示されていないコンプレッサで生成された加圧エアが各防振部32,34,36内に設けられたエアシリンダへ供給されている。
NMR測定中に超電導マグネットに振動が及ぶと、静磁場に乱れが生じてしまうが、防振部32,34,36によれば、そのような乱れを防止でき又はそれを低減できる。なお、各防振部32,34,36の内部に弾性部材等を設けてもよい。
NMRプローブ11は、挿入部16及び基部20により構成される。挿入部16は、静磁場発生装置10の本体24に形成されたボアの中に挿入される棒状の部分である。挿入部16の先端部であるプローブヘッドの内部には電気回路が設けられている。電気回路はコイルを有している。コイルにより測定対象となった原子核に対して電磁波が照射される。これにより、その原子核においてNMRが生じる。そのNMRがコイルにより検出される。電気回路は、コイルの他に、複数の可変コンデンサ等を有している。
実施形態に係るNMRプローブは、電気回路が真空室内に設けられており、その電気回路が冷却されている。NMRプローブ内に真空室を形成するために、基部20には吸引用配管が接続されている。一方、電気回路を冷却するために冷媒循環システムが構築されている。それには、基部20に接続された冷媒送り用配管及び冷媒戻し用配管が含まれる。吸引用配管、冷媒送り配管及び冷媒戻し配管により、集合管22が構成されている。NMRプローブ搬送装置12により、NMRプローブを支持しつつそれを搬送する際には、NMRプローブの荷重、及び、集合管22による荷重(あるいはモーメント)を考慮する必要がある。
NMRプローブ搬送装置12は、NMRプローブ11の取り外し時及び取り付け時に用いられるものであり、NMRプローブリフター又はNMRプローブ交換装置とも言えるものである。NMRプローブ搬送装置12は、そこに搭載されたNMRプローブ11を水平方向及び垂直方向に搬送する機能を備える。NMRプローブ搬送装置12は、図1に示されている構成例において、脚26に着脱可能に取り付けられている。NMRプローブ搬送装置12が脚28又は脚30に着脱可能に取り付けられてもよい。複数の脚に対して取り付けられるNMRプローブ搬送装置も考えられる。
取り付け状態において、NMRプローブ搬送装置12は、脚26に対して機械的に連結され、脚26により支持される。脚25によりNMRプローブ搬送装置12が完全に支持されてもよいし、脚25によりNMRプローブ搬送装置12が支配的に支持されてもよいし、脚25によりNMRプローブ搬送装置12が補助的に支持されてもよい。NMRプローブ搬送装置として完全自立型の構成を採用する場合、NMRプローブ搬送機構が大型化、複雑化してしまう。実施形態によれば、NMRプローブ搬送装置12の構成を小型化、簡易化できるという利点が得られる。
実施形態においては、後述するように、垂直方向の保持力及び搬送力はアクチュエータとして2つのエアシリンダにより生成されている。水平方向の搬送は作業者の人力により行われている。
NMRプローブ搬送装置12によるNMRプローブ運動可能範囲は大きな三次元空間である。その運動可能範囲には本体24の直下の空間及びその周囲の空間が含まれる。なお、静磁場発生装置10の直下及びその付近には様々な機器が配置される。それらの機器には、真空ポンプ、冷却装置、各種の配管、各種のケーブル、等が含まれる。なお、NMRプローブ搬送装置12の非使用状態において、それを脚26から取り外してもよく、それを脚26に巻き付けた状態としてもよい。
図2には、NMRプローブ搬送装置12の詳細が示されている。NMRプローブ搬送装置12は、図示の構成例において、多関節機構として構成されており、具体的には、ベース部38、支持部39、及び、ステージ部44を有する。支持部39は、第1アーム部40及び第2アーム部42を有し、それらの間に、連結部45が設けられている。
ベース部38は、特定の脚に取り付けられる部分であり、それは取付板46及び固定部材48を有する。取付板46は、上方から見て、L字状、V字状又はU字状の形態を有し、それは具体的には直角に折り曲げられた金属板により構成される。取付板46には、固定部材48が設けられている。固定部材48は、上下方向に並んだ複数の帯状部材50,51,52,53により構成される。それぞれの帯状部材50,51,52,53は、その有効長を可変する可変機構を有している。脚の外径つまり周囲長に応じて有効長が変更される。これにより様々な外径を有する脚に対してベース部38を取り付けることが可能となる。各帯状部材50,51,52,53は、柔軟でありほとんど伸縮性を有しない金属、樹脂その他の材料により構成され得る。
取付板46には、上下方向に並んで2つの固定金具56,58が設けられており、それらによってシャフト54が保持されている。図示の構成例では、シャフト54の下端部がベースプレートに突き当たっている。そのような構成によれば、シャフト54に及ぶ垂直荷重の全部を脚に及ぼすことなく、その垂直荷重を、ベースプレートを介して、床面へ逃がすことが可能となる。シャフト54を床面から安全に浮かすようにしてもよい。シャフト54は、基端旋回軸として機能するものである。但し、シャフト54それ自体は回転せず、シャフト54に取り付けられた第1アーム部40が旋回運動する。取付板46においてシャフト54の両側に2つのハンドルが設けられている。
シャフト54には、第1アーム部40の近位端部60が連結されている(本願明細書では、ベース部38から見て近い位置を「近位」と表現し、ベース部38から遠い位置を「遠位」と表現することにする)。近位端部60は、シャフト54を保持する軸受け部を有する。
第1アーム部40は、平行リンク機構を有し、その内部にはアクチュエータとしてのエアシリンダが設けられている。第1アーム部40は、上記のように、シャフト54を中心として旋回運動する。旋回運動範囲の両端を規定する一対のストッパを設けてもよい。第1アーム部40の遠位端部は、連結部45に連結されている。
連結部45は、フレーム66、軸部材62及び軸部材64を有する。第1アーム部40の遠位端部が軸部材62を介してフレーム66に連結されている。後述する第2アーム部42の近位端部が軸部材64を介してフレーム66に連結されている。軸部材62,64はそれぞれ中間旋回軸に相当する。軸部材62を中心として第1アーム部40及び連結部45が相対的に旋回運動する。軸部材64を中心として連結部45及び第2アーム部42が相対的に旋回運動する。連結部45を設けることにより、第1アーム部40と第2アーム部42の直接的な衝突を生じさせないで、相対的に回転運動できる角度範囲を拡大できる。フレーム66にはハンドル67が設けられている。
第2アーム部42は、第1アーム部40と同じ構造及び機能を有する。すなわち、第2アーム部42は、平行リンク機構を有し、その内部にはアクチュエータとしてのエアシリンダが設けられている。上記のように、第2アーム部42の近位端部が軸部材64を介してフレーム66に連結されている。第2アーム部42の遠位端部は軸部材70を介してステージ部44に連結されている。軸部材70を中心として第2アーム部42及びステージ部44が相対的に旋回運動する。軸部材70は先端旋回軸に相当する。
ステージ部44は、ステージベース72とそれに保持されたフォーク部材74とを有する。ステージベース72により、フォーク部材74が姿勢変更可能に弾性的に保持される。フォーク部材74により、NMRプローブの基部に設けられた一対の突片が支持される。一対の突片には、それぞれボルト孔が形成されており、NMRプローブを静磁場発生装置の本体底面に固定する際に複数のボルト孔の中に複数のボルトが刺し通される。ステージ部44には、後に説明するように、2つの操作部が設けられている。
なお、支持部39においては、近位側よりも遠位側において軽量化が図られている。具体的には、第1アーム部40の長さよりも第2アーム部42の長さの方が短い。これにより、遠位側において不可避的に生じる自然な垂れ下がりを低減できる。
図3及び図4には、第1アーム部40の構造及び動作が示されている。その構造及び動作は、第2アーム部の構造及び動作と同じである。
図3に示されているように、第1アーム部40は平行リンク機構75を有する。平行リンク機構75は、近位端部60と遠位端部76との間に設けられた上フレーム78及び下フレーム80を有する。具体的には、上フレーム78は、近位水平軸81及び遠位水平軸82の間に傾斜運動可能に設けられている。下フレーム80は近位水平軸83及び遠位水平軸84の間に傾斜運動可能に設けられている。
上フレーム78と下フレーム80とで挟まれる空間内にエアシリンダ86が設けられている。エアシリンダ86は、シリンジ92及びピストン94を有する。シリンジ92内の空間96には、外部から加圧エアが送り込まれる。既に説明したように、コンプレッサで生じた加圧エアが複数の防振部へ供給されている。実施形態においては、同一のコンプレッサで生じた加圧エアがエアシリンダ86に供給されている。空間96内のエア量の調整により、ピストン94のストローク位置が変更される。なお、エアシリンダ86の近位端部は、下側の近位水平軸83に対して連結部材を介してボルト88により連結されている。エアシリンダ86の遠位端部は、上側の遠位水平軸82に対して他の連結部材を介してボルト90により連結されている。エアシリンダ86に代えて他の駆動源を設けてもよい。
図3においては、エアシリンダ86のストローク長が最も小さくなった状態が示されている。遠位端部76は近位端部60に対して下がった位置にある。一方、図4においては、エアシリンダ86のストローク長が最も大きくなった状態が示されている。遠位端部76は近位端部60に対して上がった位置にある。平行リンク機構75によれば、近位端部60と遠位端部76の平行関係を維持したまま、一方に対して他方の高さを変更することが可能となる。図3において、上側の近位水平軸81と下側の遠位水平軸84の間にエアシリンダを設けることも可能である。平行リンク機構75に代えて又はそれと共にパンタグラフ機構等が採用されてもよい。
図5には、ステージ部44の詳細が示されている。図5は、ステージ部44を斜め上方から見た様子を示すものであり、図6は、ステージ部44を斜め下方から見た様子を示すものである。
図5において、ステージ部44は、ステージベース72及びフォーク部材74を有する。ステージベース72は、フレーム98、近位端部99、プレート100を有する。近位端部99は軸部材70に連結されている。フレーム98はフォーク部材74を姿勢変更可能に弾性的に保持している。
フレーム98には、ハンドル104、操作部106及び操作部110が設けられている。操作部106は、ハンドル104の一方側に設けられており、それは上下に並んだ2つのボタン107,108を含む。操作部110は、ハンドル104の他方側に設けられており、それは上下に並んだ2つのボタン112,114を有する。ボタン107,112は、いずれも、ステージ部を上昇運動させる場合に操作される操作子である。いずれのボタン107,112を操作してもよい。ボタン107,112の操作により、機械的に動作するエアバルブ機構が動作し、2つのシリンジ内にエアが送り込まれる。これによりステージ部が上昇運動する。一方、ボタン108,114は、いずれも、ステージ部を下降運動させる場合に操作されるものである。いずれのボタン108,114を操作してもよい。ボタン108,114の操作により、エアバルブ機構が動作し、2つのシリンジ内が減圧される。これによりステージ部が下降運動する。
いずれの操作部106,110も操作していない状態では、2つのエアシリンダの作用は維持され、つまり、第1アーム部及び第2アーム部の姿勢は維持される。ステージ部の高さが保持された状態において、ステージ部の水平運動及び向き変更は許容されており、それらの操作を手作業で容易に行える。
ステージベース72は、サポート機構102を介して、フォーク部材74を保持している。サポート機構102の詳細については後に図6を用いて説明する。フォーク部材74は、上方から見てU字形状又は二股形状を有している。具体的には、フォーク部材74は、左右方向に離れた2つの片116,118を有する。2つの片116,118にはそれぞれ切欠き120,122が設けられている。2つの片116,118の上面にはそれぞれパッド124,126が設けられている。それらのパッド124,126の上に、NMRプローブの基部に設けられた2つの突片が載せられる。そのような状態では、NMRプローブの荷重が2つの突片を介して2つの片116,118に及ぶ。
2つのパッド124,126は例えば弾性を有する材料により構成され得る。2つの切欠き120,122は必要に応じて設けられるものであり、例えば、静磁場発生装置の本体に対して複数のボルトによりNMRプローブを固定する際に、それらのボルトを挿通させる通路として2つの切欠き120,122が機能する。プレート100は、必要に応じて設けられるものであり、図示の構成例において、プレート100はフォーク部材74の基端部の上方への運動を規制する。2つの片116,118の間の空間は、基部を受け入れる空間として機能する。基部の前面(集合管が出ている後面の反対側の面)がフレーム98に対向するように、2つの片116,118の間に基部が差し込まれる。
図6には、サポート機構102が示されている。サポート機構102は、フォーク部材74を一定の運動自由度をもって支持する機構である。サポート機構102は、フレーム98とフォーク部材74との間に設けられた弾性支持体130及び132を有する。それらは硬質弾性材料で構成され、サスペンションとして機能する。また、サポート機構102は、フレーム98とフォーク部材74との間に設けられた繋ぎ部材128を有する。それは、例えば、フレーム98とフォーク部材74との間を繋いで前者からの後者の脱落を防止するワイヤを含む。繋ぎ部材128に弾性材料で構成されるスペーサを含めてもよい。
フォーク部材74には、下方に伸びる2つの支柱134,138が設けられ、それらの下端部には2つのストッパ136,140が設けられている。それらは弾性材料で構成されている。ストッパ136,140は、フォーク部材74に設けられた2つのパッドよりも下方に設けられている。フォーク部材74が有する開口内に基部を挿入した場合、基部の前面が2つのストッパ136,140に当たる。その後、ステージ部を上昇させると、フォーク部材74が基部に設けられた2つの突片に引っかかり、NMRプローブがステージ部により支持された状態が形成される。
基部の後面から集合管が引き出されており、その集合管の荷重により、NMRプローブには、その自然状態において、一対の突片の支持位置を中心として、後側への倒れ込み運動つまり後側への回転運動を生じさせるモーメントが生じる。その倒れ込み運動は、2つのストッパ136,140への基部の前面の衝突により規制される。フォーク部材74の基端部の上昇運動は上記のプレートにより規制されており、フォーク部材74がNMRプローブの倒れ込み運動に追従することはない。
一方、サポート機構102は、ステージ部によるNMRプローブの支持状態において、NMRプローブの一定の姿勢変更を許容しており、ボアに挿入部を差し込む過程において、両者の中心軸線にずれが生じても、そのずれに起因して挿入部に過大な負荷が及ぶことが防止されている。例えば、ボアの中心軸線に対して挿入部の中心軸線が非平行になっている場合、挿入を進めていく過程で、前者に対して後者が自然に一致し又は平行になる。
ステージ部の水平方向の位置の変更は許容されており、ステージ部の上昇過程で、ボアの中心軸線と挿入部の中心軸線との間に水平方向のずれが生じても、ボア内面(正しくはボア内に設けられている筒状構造体であるシムコイルユニットの内面)への挿入部の接触により、そのずれは自然に解消され、挿入部に対して過大な負担が生じることはない。
次に、図7~図11を用いてNMRプローブの取り付け例を説明する。
図7には、水平方向への搬送状態が示されている。NMRプローブ搬送装置12は脚26に取り付けられている。符号142は、本体24の直下に形成される空間(直下空間)を示している。
最初に、直下空間142から外れた位置に、具体的には、特定の2つの脚の間に形成される開口から、その外側へ出た位置に、ステージ部44が位置決められる。続いて、ステージ部44にNMRプローブ11が搭載される。その際、ステージ部44の位置は基底位置とされる。床面上にシート状又はプレート状の部材を配置した上で、そこへ基部を載置し、その後、基部をフォーク部材により引っ掛けてもよい。ステージ部44にNMRプローブ11が保持された後、ステージ部44が直下空間142内へ送られる。その過程では、ステージ部の高さが2つのエアシリンダの作用によって保持される。水平方向の運動は手作業により行われる。
図8には、NMRプローブ11の挿入部16をボアの直下に位置決めた状態が示されている。第1アーム部と第2アーム部との間の角度が略直角又は鋭角になっている。
図9には、挿入部16をボアの中に挿入している状態が示されている。その際にはNMRプローブ搬送装置12に設けられた2つの操作部のいずれかが利用される。具体的には、2つの上昇用操作子である2つのボタンの内のいずれかが押し込まれる。ステージ部の上昇に伴って、ステージ部の水平方向の位置が変化し、挿入部の外面がボアの内面に接触する。その接触により、ステージ部の水平方向の位置が自然に適正方向へ調整され、挿入部に対して過度な作用が及ぶことはない。
図10には、基部の上面、具体的には一対の突片の上面が本体の下面に当接した状態が示されている。NMRプローブ搬送装置12において、2つのアームはそれぞれ上方へ傾斜した姿勢となっている。
図11には、NMRプローブの設置状態が示されている。NMRプローブ搬送装置によってNMRプローブが保持されている。挿入部はボア内に挿入されている。基部20は本体24の下面に接しており、具体的には、基部20が有する2つの突片の上面が本体24の下面に当接している。その状態において、複数のボルトによって2つの突片が本体24に固定される。その作業を行えるように、NMRプローブの向きが事前に調整される。NMRプローブの固定後、ステージ部が下方へ引き下げられる。NMRプローブを本体24から取り外す際には上記とは逆の過程を経ることになる。
図12には、他の実施形態に係るNMRプローブ搬送装置200が示されている。静磁場発生装置10が有する脚26に対してNMRプローブ搬送装置200が取り付けられている。NMRプローブ搬送装置200は、ベース部202、第1アーム部204、第2アーム部206及びステージ部208を有する。
ベース部202は、固定機構としての複数の帯状部材210,212を有している。それらによって、NMRプローブ搬送装置200が脚26に着脱可能に取り付けられている。各帯状部材210,212はその有効長を可変する機構を備えている。ベース部202は垂直スライダ213を有している。垂直スライダ213は、昇降機構であり、それはモータ等の駆動源を有している。垂直スライダ213により、昇降台214の垂直方向の位置が変更される。垂直スライダ213の下端はベースプレートに当たっており、垂直スライダ213に及んだ荷重がベースプレートを介して床面へ及んでいる。
昇降台214には、第1アーム部204の近位端部が旋回可能に連結されている。その連結部分には基端旋回軸が存在する。第1アーム部204は水平に伸長した部材である。第1アーム部204の遠位端部には第2アーム部206の近位端部が旋回可能に連結されている。そこには中間旋回軸が存在する。第2アーム部206も水平に伸長した部材である。ステージ部208は、第2アーム部の遠位端部に旋回可能に連結されている。そこには先端旋回軸が存在する。ステージ部208はフォーク部材を有する。フォーク部材によってNMRプローブが有する一対の突片が支持される。他の方法によりNMRプローブの基部が支持又は保持されてもよい。
図12に示した構成によれば、ステージ部の上昇運動の過程で、ステージ部の水平方向の位置を自然に維持できるという利点を得られる。また、第1アーム部204及び第2アーム部206の構成を簡略化できるという利点を得られる。
以上のように、実施形態に係るNMRプローブ搬送装置によれば、NMRプローブを水平方向及び垂直方向に自在に搬送できる。NMRプローブ搬送装置が静磁場発生装置の脚部に取り付けられるので、完全自立型の構成を採用した場合に比べて、装置構成の小型化及び簡略化を図れる。
上記実施形態では、脚部における脚に対してNMRプローブ搬送装置が取り付けられていたが、脚部におけるベースプレート等の他の部材にNMRプローブ搬送装置が取り付けられてもよい。複数の防振部よりも下方にNMRプローブ搬送装置が取り付けられるのが望ましい。脚部に対して着脱可能に取り付けられる構成を採用すれば、NMRプローブ搬送装置が必要な状況においてそれを取付けて、その使用後にそれを取り外すことが可能となる。その場合、NMRプローブのチューニング等においてNMRプローブ搬送装置が邪魔になることを防止できる。上記構成においては、NMRプローブの基部に設けられた一対の突片が支持されていたが、基部の底面等、他の部分が支持されてもよい。あるいは、基部のクランプ等によって基部が保持されてもよい。水平移動機構の近位端部を脚部に連結し、水平移動機構の遠位端部に垂直移動機構の下端部を連結してもよい。上記実施形態において、各可動部材に対してそれを覆うカバーを取り付けてもよい。また、エア経路上に安全弁等を設けてもよい。