以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
図1は、実施の形態に係るクライオポンプ10を概略的に示す側断面図である。図2は、図1に示すクライオポンプ10を概略的に示す上面図である。図1は、一点鎖線で示すクライオポンプ中心軸Cを含む断面を示す。ただし、理解の容易のため、図1においてクライオポンプ10の低温クライオパネル部は断面ではなく側面を示す。図2は、B-B線の矢視図である。また、図3及び図4は、実施の形態に係るクライオポンプ10の低温クライオパネル部の一部を概略的に示す斜視図である。
クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置、スパッタリング装置、蒸着装置、またはその他の真空プロセス装置の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望の真空プロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。クライオポンプ10は、排気されるべき気体を真空チャンバから受け入れるための吸気口12を有する。吸気口12を通じて気体がクライオポンプ10の内部空間14に進入する。
クライオポンプ10は、図示の向き、すなわち吸気口12を上方に向けた姿勢で真空チャンバに設置され使用されることが意図されていてもよい。ただし、クライオポンプ10の姿勢はそれに限定されず、クライオポンプ10は他の向きで真空チャンバに設置されてもよい。
なお以下では、クライオポンプ10の構成要素の位置関係をわかりやすく表すために、「軸方向」、「径方向」との用語を使用することがある。軸方向は吸気口12を通る方向(図1において、吸気口12の中心を通るクライオポンプ中心軸Cに沿う方向)を表し、径方向は吸気口12に沿う方向(中心軸Cに垂直な方向)を表す。便宜上、軸方向に関して吸気口12に相対的に近いことを「上」、相対的に遠いことを「下」と呼ぶことがある。つまり、クライオポンプ10の底部から相対的に遠いことを「上」、相対的に近いことを「下」と呼ぶことがある。径方向に関しては、吸気口12の中心(図1において中心軸C)に近いことを「内」、吸気口12の周縁に近いことを「外」と呼ぶことがある。なお、こうした表現はクライオポンプ10が真空チャンバに取り付けられたときの配置とは関係しない。例えば、クライオポンプ10は鉛直方向に吸気口12を下向きにして真空チャンバに取り付けられてもよい。
また、軸方向を囲む方向を「周方向」と呼ぶことがある。周方向は、吸気口12に沿う第2の方向であり、径方向に直交する接線方向である。
クライオポンプ10は、冷凍機16、第1段クライオパネル18、第2段クライオパネルアセンブリ20、及び、クライオポンプハウジング70を備える。第1段クライオパネル18は、高温クライオパネル部または100K部とも称されうる。第2段クライオパネルアセンブリ20は、低温クライオパネル部または10K部とも称されうる。
冷凍機16は、例えばギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)などの極低温冷凍機である。冷凍機16は、二段式の冷凍機である。そのため、冷凍機16は、第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24を備える。冷凍機16は、第1冷却ステージ22を第1冷却温度に冷却し、第2冷却ステージ24を第2冷却温度に冷却するよう構成されている。第2冷却温度は第1冷却温度よりも低温である。例えば、第1冷却ステージ22は65K~120K程度、好ましくは80K~100Kに冷却され、第2冷却ステージ24は10K~20K程度に冷却される。
また、冷凍機16は、第2冷却ステージ24を第1冷却ステージ22に構造的に支持するとともに第1冷却ステージ22を冷凍機16の室温部26に構造的に支持する冷凍機構造部21を備える。そのため冷凍機構造部21は、径方向に沿って同軸に延在する第1シリンダ23及び第2シリンダ25を備える。第1シリンダ23は、冷凍機16の室温部26を第1冷却ステージ22に接続する。第2シリンダ25は、第1冷却ステージ22を第2冷却ステージ24に接続する。室温部26、第1シリンダ23、第1冷却ステージ22、第2シリンダ25、及び第2冷却ステージ24は、この順に直線状に一列に並ぶ。
第1シリンダ23及び第2シリンダ25それぞれの内部には第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサ(図示せず)が往復動可能に配設されている。第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサにはそれぞれ第1蓄冷器及び第2蓄冷器(図示せず)が組み込まれている。また、室温部26は、第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサを往復動させるための駆動機構(図示せず)を有する。駆動機構は、冷凍機16の内部への作動気体(例えばヘリウム)の供給と排出を周期的に繰り返すよう作動気体の流路を切り替える流路切替機構を含む。
第1冷却ステージ22は、冷凍機16の第1段低温端に設置されている。第1冷却ステージ22は、室温部26と反対側で第1シリンダ23の端部を外包し、作動気体の第1膨張空間を取り囲む部材である。第1膨張空間は、第1シリンダ23の内部において第1シリンダ23と第1ディスプレーサとの間に形成され、第1ディスプレーサの往復動に伴って容積が変化する可変容積である。第1冷却ステージ22は、第1シリンダ23よりも高い熱伝導率をもつ金属材料で形成されている。例えば、第1冷却ステージ22は銅で形成され、第1シリンダ23はステンレス鋼で形成される。
第2冷却ステージ24は、冷凍機16の第2段低温端に設置されている。第2冷却ステージ24は、室温部26と反対側で第2シリンダ25の端部を外包し、作動気体の第2膨張空間を取り囲む部材である。第2膨張空間は、第2シリンダ25の内部において第2シリンダ25と第2ディスプレーサとの間に形成され、第2ディスプレーサの往復動に伴って容積が変化する可変容積である。第2冷却ステージ24は、第2シリンダ25よりも高い熱伝導率をもつ金属材料で形成されている。第2冷却ステージ24は銅で形成され、第2シリンダ25はステンレス鋼で形成される。図1には、第2冷却ステージ24と第2シリンダ25の境界24bが示されている。
冷凍機16は、作動気体の圧縮機(図示せず)に接続されている。冷凍機16は、圧縮機により加圧された作動気体を内部で膨張させて第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24を冷却する。膨張した作動気体は圧縮機に回収され再び加圧される。冷凍機16は、作動気体の給排とこれに同期した第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサの往復動とを含む熱サイクルを繰り返すことによって寒冷を発生させる。
図示されるクライオポンプ10は、いわゆる横型のクライオポンプである。横型のクライオポンプとは一般に、冷凍機16がクライオポンプ10の中心軸Cに交差する(通常は直交する)よう配設されているクライオポンプである。冷凍機16の第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24は、クライオポンプ中心軸Cに垂直な方向(図1において水平方向であり、冷凍機16の中心軸Dの方向)に配列されている。
第1段クライオパネル18は、放射シールド30と入口クライオパネル32とを備え、第2段クライオパネルアセンブリ20を包囲する。第1段クライオパネル18は、クライオポンプ10の外部またはクライオポンプハウジング70からの輻射熱から第2段クライオパネルアセンブリ20を保護するために設けられているクライオパネルである。第1段クライオパネル18は第1冷却ステージ22に熱的に結合されている。よって第1段クライオパネル18は第1冷却温度に冷却される。第1段クライオパネル18は第2段クライオパネルアセンブリ20との間に隙間を有しており、第1段クライオパネル18は第2段クライオパネルアセンブリ20と接触していない。
放射シールド30は、クライオポンプハウジング70の輻射熱から第2段クライオパネルアセンブリ20を保護するために設けられている。放射シールド30は、クライオポンプハウジング70と第2段クライオパネルアセンブリ20との間にあり、第2段クライオパネルアセンブリ20を囲む。放射シールド30は、クライオポンプ10の外部から内部空間14に気体を受け入れるためのシールド主開口34を有する。シールド主開口34は、吸気口12に位置する。
放射シールド30は、シールド主開口34を定めるシールド前端36と、シールド主開口34と反対側に位置するシールド底部38と、シールド前端36をシールド底部38に接続するシールド側部40と、を備える。シールド前端36は、シールド側部40の一部をなす。シールド側部40は、軸方向にシールド前端36からシールド主開口34と反対側へと延在し、周方向に第2冷却ステージ24を包囲するよう延在する。放射シールド30は、シールド底部38が閉塞された筒形(例えば円筒)の形状を有し、カップ状に形成されている。シールド側部40と第2段クライオパネルアセンブリ20との間には、環状隙間42が形成されている。
なお、シールド底部38は、シールド側部40とは別個の部材であってもよい。例えば、シールド底部38は、シールド側部40とほぼ同じ径をもつ平坦な円盤であってもよく、シールド主開口34と反対側でシールド側部40に取り付けられていてもよい。また、シールド底部38は、その少なくとも一部が開放されていてもよい。例えば、放射シールド30は、シールド底部38によって閉塞されていなくてもよい。すなわち、シールド側部40は、両端が開放されていてもよい。
シールド側部40は、冷凍機構造部21が挿入されるシールド側部開口44を有する。シールド側部開口44を通じて放射シールド30の外から第2冷却ステージ24及び第2シリンダ25が放射シールド30の中に挿入される。シールド側部開口44は、シールド側部40に形成された取付穴であり、例えば円形である。第1冷却ステージ22は放射シールド30の外に配置されている。
シールド側部40は、冷凍機16の取付座46を備える。取付座46は、第1冷却ステージ22を放射シールド30に取り付けるための平坦部分であり、放射シールド30の外から見てわずかに窪んでいる。取付座46は、シールド側部開口44の外周を形成する。取付座46は、軸方向においてはシールド前端36よりもシールド底部38に近い。第1冷却ステージ22が取付座46に取り付けられることによって、放射シールド30が第1冷却ステージ22に熱的に結合されている。
このように放射シールド30を第1冷却ステージ22に直接取り付けることに代えて、ある実施形態においては、放射シールド30は、追加の伝熱部材を介して第1冷却ステージ22に熱的に結合されていてもよい。伝熱部材は、例えば、両端にフランジを有する中空の短筒であってもよい。伝熱部材は、その一端のフランジにより取付座46に固定され、他端のフランジにより第1冷却ステージ22に固定されてもよい。伝熱部材は、冷凍機構造部21を囲んで第1冷却ステージ22から放射シールド30に延在してもよい。シールド側部40は、こうした伝熱部材を含んでもよい。
図示される実施形態においては、放射シールド30は一体の筒状に構成されている。これに代えて、放射シールド30は、複数のパーツにより全体として筒状の形状をなすように構成されていてもよい。これら複数のパーツは互いに間隙を有して配設されていてもよい。例えば、放射シールド30は軸方向に2つの部分に分割されていてもよい。この場合、放射シールド30の上部は、両端が開放された筒であり、シールド前端36とシールド側部40の第1部分とを備える。放射シールド30の下部は、上端が開放され下端が閉じられており、シールド側部40の第2部分とシールド底部38とを備える。上述のように、放射シールド30の下部がシールド底部38を有さずに、両端が開放された筒であってもよい。シールド側部40の第1部分と第2部分との間には周方向に延びるスリットが形成されている。このスリットが、シールド側部40の少なくとも一部であってもよい。あるいは、シールド側部開口44は、その上半分がシールド側部40の第1部分に形成され、下半分がシールド側部40の第2部分に形成されてもよい。
入口クライオパネル32は、クライオポンプ10の外部の熱源からの輻射熱から第2段クライオパネルアセンブリ20を保護するためにシールド主開口34に設けられている。クライオポンプ10の外部の熱源は、例えば、クライオポンプ10が取り付けられる真空チャンバ内の熱源である。入口クライオパネル32は、輻射熱だけではなく気体分子の進入も制限することができる。入口クライオパネル32は、シールド主開口34を通じた内部空間14への気体流入を所望量に制限するようにシールド主開口34の開口面積の一部を占有する。入口クライオパネル32とシールド前端36との間には、環状の開放領域48が形成されている。
入口クライオパネル32は、ルーバー部50と、ルーバー部50をシールド前端36に取り付けるためのルーバー取付部材52と、を備える。ルーバー取付部材52は、シールド主開口34の直径に沿ってシールド前端36に架け渡された棒状の部材である。入口クライオパネル32は、ルーバー取付部材52及び放射シールド30を介して第1冷却ステージ22に熱的に結合されている。
ルーバー部50は、各々がシールド主開口34において第1方向に直線状に延在する複数の羽板を有する。複数の羽板は、シールド主開口34において第1方向に垂直な第2方向に配列されている。複数の羽板は互いに平行に配列され、各羽板は開口面に対し傾斜して配置されている。図示されるように、中心軸Cに対して一方側の羽板と他方側の羽板とは逆向きに傾斜している。複数の羽板は、その直下に位置する第2段クライオパネルアセンブリ20を覆うように(つまり、第2段クライオパネルアセンブリ20がクライオポンプ10の外から見えないように)、第2方向に密に配列されている。複数の羽板は、その配列によって全体として円形を形成するように互いに異なる第1方向長さを有する。ルーバー取付部材52は、第2方向に延在する。
よって、クライオポンプ10によって排気されるべき気体は、クライオポンプ10の外部からルーバー部50の羽板間の隙間または開放領域48を通じて内部空間14に進入する。
入口クライオパネル32は、他の形状を有してもよい。例えば、ルーバー部50は、同心に配置された複数の環状羽板を有してもよい。あるいは、入口クライオパネル32は、一枚の板状部材であってもよい。
第2段クライオパネルアセンブリ20は、第2冷却ステージ24を囲むようにして第2冷却ステージ24に取り付けられている。よって、第2段クライオパネルアセンブリ20は、第2冷却ステージ24に熱的に結合されており、第2段クライオパネルアセンブリ20は第2冷却温度に冷却される。第2段クライオパネルアセンブリ20は、第2冷却ステージ24とともにシールド側部40に包囲されている。
第2段クライオパネルアセンブリ20は、シールド主開口34に対面するトップクライオパネル60と、複数(本例では2つ)のクライオパネル部材62と、クライオパネル取付部材64と、を備える。
また、図1に示されるように、クライオポンプ10は、クライオパネル位置決め部材67を備える。第2段クライオパネルアセンブリ20を第2冷却ステージ24に熱的に結合する伝熱部は、クライオパネル取付部材64とクライオパネル位置決め部材67を含む。
トップクライオパネル60及びクライオパネル部材62とシールド側部40との間には環状隙間42が形成されているので、トップクライオパネル60及びクライオパネル部材62は両方とも放射シールド30に接触していない。クライオパネル部材62は、トップクライオパネル60によって覆われている。
トップクライオパネル60は、第2段クライオパネルアセンブリ20のうち入口クライオパネル32に最も近接する部分である。トップクライオパネル60は、軸方向においてシールド主開口34または入口クライオパネル32と冷凍機16との間に配置されている。トップクライオパネル60は、軸方向においてクライオポンプ10の内部空間14の中心部に位置する。そのため、トップクライオパネル60の前面と入口クライオパネル32との間に凝縮層の主収容空間65が広く形成されている。凝縮層の主収容空間65は、内部空間14の上半分を占めている。
トップクライオパネル60は、軸方向に垂直に配置された概ね平板のクライオパネルである。つまりトップクライオパネル60は、径方向及び周方向に延在する。図2に示されるように、トップクライオパネル60は、ルーバー部50より大きい寸法(例えば投影面積)を有する円板状パネルである。ただし、トップクライオパネル60とルーバー部50の寸法の関係はこれに限定されず、トップクライオパネル60のほうが小さくてもよいし、両者がほぼ同じ寸法を有してもよい。
トップクライオパネル60は、冷凍機構造部21との間に隙間領域66を形成するよう配置されている。隙間領域66は、トップクライオパネル60の裏面と第2シリンダ25との間で軸方向に形成された空所である。
クライオパネル部材62には活性炭等の吸着材74が設けられている。吸着材74は例えばクライオパネル部材62の裏面に接着されている。クライオパネル部材62の前面は凝縮面、裏面は吸着面として機能することが意図されている。クライオパネル部材62の前面に吸着材74が設けられていてもよい。同様に、トップクライオパネル60は、その前面及び/または裏面に吸着材74を有してもよい。あるいは、トップクライオパネル60は、吸着材74を備えなくてもよい。
2つのクライオパネル部材62は、クライオポンプ中心軸Cを挟んで第2冷却ステージ24の両側に配置されている。クライオパネル部材62は、クライオポンプ中心軸Cに垂直な平面に沿って配置されている。理解の容易のために、図2においてクライオパネル部材62及びクライオパネル取付部材64を破線で示す。
2つのクライオパネル部材62は、クライオポンプ中心軸Cの方向における第2冷却ステージ24の上端と下端との間の高さ位置に配置されている。第2冷却ステージ24は、クライオポンプ中心軸Cに垂直な方向(冷凍機16の中心軸Dの方向)における末端にフランジ部24aを備える。クライオポンプ中心軸Cの方向における第2冷却ステージ24の上端及び下端はフランジ部24aによって定められる。すなわち、2つのクライオパネル部材62は、クライオポンプ中心軸Cの方向における第2冷却ステージ24のフランジ部24aの上端と下端との間の高さ位置に配置されている。2つのクライオパネル部材62は、同じ高さに配置されている。図1に示す第2冷却ステージ24と第2シリンダ25の境界24bが、冷凍機16の中心軸Dの方向における第2冷却ステージ24のもう1つの端部(すなわち、フランジ部24aと反対側の端部)を定める。
図3には、2つのクライオパネル部材62とクライオパネル取付部材64とを示し、図4には、1つのクライオパネル部材62を示す。
2つのクライオパネル部材62は、同一の部品として設計されている。2つのクライオパネル部材62は、同一の形状を有し、同一の材料で形成されている。クライオパネル部材62は、弓形状、半月状、または半円状の形状を有する。クライオパネル部材62は、例えば銅などの高熱伝導率の金属材料で形成され、例えばニッケルなどのめっき層で被覆されていてもよい。
クライオパネル取付部材64は、2つのクライオパネル部材62にそれぞれ対応する2つの取付面68を備える。クライオパネル取付部材64は、角形の逆U字状の形状をもつブラケットであり、第2冷却ステージ24からトップクライオパネル60及びクライオパネル部材62への伝熱のための伝熱プレートでもある。2つの取付面68は、クライオパネル取付部材64の2つの側面にあたる。クライオパネル部材62は、締結部材87(例えばリベット)を用いて、対応する取付面68に取り付けられる。
これら取付面68をつなぐクライオパネル取付部材64の上面69には、トップクライオパネル60が取り付けられる。取付面68は、上面69の両側から下方に向けて上面69に垂直に延びている。
クライオパネル取付部材64の内側に第2冷却ステージ24及びクライオパネル位置決め部材67が冷凍機16の中心軸Dの方向に挿入され、第2冷却ステージ24がクライオパネル位置決め部材67を介してクライオパネル取付部材64に取り付けられる。クライオパネル位置決め部材67は、クライオパネル取付部材64の上面69(ただし、トップクライオパネル60とは反対側)に取り付けられる。トップクライオパネル60、クライオパネル取付部材64、及びクライオパネル位置決め部材67は、締結部材(例えばボルト)を用いて第2冷却ステージ24に一体的に固定される。
各クライオパネル部材62は、弓形状平坦部75、第1折曲部76、及び第2折曲部77を備える。各クライオパネル部材62は、単一の金属プレートから形成されている。一枚の平坦な金属プレートに例えばプレス加工をすることによって、第1折曲部76及び第2折曲部77が弓形状平坦部75と一体形成され、1つのクライオパネル部材62が作られる。吸着材74は、弓形状平坦部75に設けられている。第1折曲部76及び第2折曲部77には吸着材74は設けられてない。
弓形状平坦部75は、円弧部78及び弦79を有する。弦79は、円弧部78の両端を結ぶ1本の直線である。円弧部78及び弦79は、クライオポンプ中心軸Cに垂直な平面にあり、クライオポンプ中心軸Cの方向に見たときクライオパネル部材62の輪郭を定める。円弧部78がクライオパネル部材62の外縁を定め、弦79がクライオパネル部材62の内縁を定める。クライオパネル部材62は、円弧部78が放射シールド30のシールド側部40に近接し、弦79が冷凍機16の第2冷却ステージ24及び第2シリンダ25に近接するように、配置されている。弦79は、冷凍機16の軸方向Dに平行であり、弦79の半分が冷凍機16の第2冷却ステージ24及び第2シリンダ25に沿って延び、残りの半分が第2冷却ステージ24を越えてシールド側部40に向けて延びている。
弓形状平坦部75は、その全域が平坦であり、とくに、円弧部78を含む外縁部が平坦である。この点で、クライオパネル部材62は、外周部に円錐台状傾斜面をもつ典型的なクライオパネルとは形状が異なる。
第1折曲部76は、弦79の一部、具体的には弦79の中央部で、弓形状平坦部75と接続されている。第1折曲部76は、クライオパネル部材62をクライオパネル取付部材64に締結するための締結部として設けられている。第1折曲部76が、クライオパネル取付部材64の対応する取付面68に取り付けられる。弓形状平坦部75は、第1折曲部76を介して第2冷却ステージ24に熱的に結合される。第1折曲部76は、弓形状平坦部75に対し角度(例えば直角)をなす矩形状の部分である。第1折曲部76は、弓形状平坦部75に対し直立している。第1折曲部76は、弦79の方向に細長く、弦79の方向における第1折曲部76の幅がクライオパネル取付部材64の取付面68の幅とほぼ等しい。
第1折曲部76は、弓形状平坦部75に対し上方に折り曲げられており、締結部材87を通す締結穴88を有する。締結穴88は、弦79と第1折曲部76の上辺76aとの間で上辺に近接して配置されている。締結穴88は、弦79と第1折曲部76の上辺76aとの中間線89よりも上方に形成されている。
このようにすれば、締結穴88と弓形状平坦部75との距離を大きくなるので、締結に使用する工具(例えばリベットガン)を作業者が取り扱い易くなり、製造工程における作業性が向上される。また、この構成によれば、クライオパネル部材62がクライオパネル取付部材64に取り付けられたとき、クライオパネル部材62の弓形状平坦部75に働く重力は、第1折曲部76を取付面68に押し付けるモーメントとして作用する。そのため、他の取付構成(例えば、取付用の折曲部がクライオパネル部材に対し下方に折り曲げられ、折曲部の下辺近傍で取付面に締結される場合)に比べて、取付面68に対し弓形状平坦部75の傾斜することが抑制される。
第2折曲部77は、弦79の残部(すなわち第1折曲部76が設けられていない部分)の少なくとも一部、具体的には弦79の両端部で、弓形状平坦部75と接続されている。第2折曲部77は、弦79の方向にクライオパネル取付部材64の取付面68から外れて配置されている。第2折曲部77は、取付面68に対し外側にある。第2折曲部77は、弓形状平坦部75に対し角度(例えば直角)をなす縁部であり、弦79の方向に細長く延びている。第2折曲部77は、弓形状平坦部75に対し直立している。
第2折曲部77は、クライオパネル部材62の剛性補強部として設けられている。第2折曲部77は、弓形状平坦部75の変形を抑制することができる。とくに、クライオパネル部材62が比較的大型である場合には取付面68の幅(すなわち弦79の中央部の長さ)に比べて、取付面68の外側となる弦79の端部の長さが長くなり、その結果、弓形状平坦部75の両端部は重力の作用で曲げや傾斜など変形しやすくなる。第2折曲部77が設けられていることにより、クライオパネル部材62が比較的大型であっても変形を抑制することができる。
第2折曲部77は、弦79の残部の全長にわたり弓形状平坦部75と接続されている。よって、第2折曲部77は、弦79の方向に第1折曲部76と連続している。第2折曲部77が弦79の残部の全長にわたるので、より効果的にクライオパネル部材62の変形を抑制することができる。
第2折曲部77は、第1折曲部76と同様に、弓形状平坦部75に対し上方に折り曲げられている。弓形状平坦部75からの第2折曲部77の高さが、弓形状平坦部75からの第1折曲部76の高さよりも低い。このようにすれば、第2折曲部77が周囲の構成要素(例えば、クライオポンプ中心軸Cの方向に隣接配置された別のクライオパネル)と干渉しにくくなる。また、複数のクライオパネル部材62を軸方向に密に配置しやすくなる。例えば、第2折曲部77の高さは、弦79と第1折曲部76の上辺76aとの中間線89よりも低くてもよい。
なお、第2折曲部77は、第1折曲部76と異なる方向または角度に折り曲げられてもよい。例えば、第1折曲部76が上方に折り曲げられ、第2折曲部77が下方に折り曲げられてもよい。第1折曲部76が弓形状平坦部75に垂直に折り曲げられ、第2折曲部77が弓形状平坦部75に対し斜めの角度に折り曲げられてもよい。
第2折曲部77は、弦79の残部(すなわち第1折曲部76が設けられていない部分)の一部のみに設けられていてもよい。
図2に示されるように、クライオポンプ中心軸Cの方向に見たとき、2つのクライオパネル部材62は、両者の中間線(冷凍機16の中心軸D)を対称軸として互いに対称に配置されている。2つのクライオパネル部材62の円弧部78は、クライオポンプ中心軸Cを中心とする同一の円周上にある。また、各クライオパネル部材62は、弦79の中点(またはクライオポンプ中心軸C)を通り弦79に垂直な線Eを対称軸として線対称の形状を有する。
各クライオパネル部材62の弓形状平坦部75の弦79の残部(すなわち第1折曲部76が設けられていない部分)の形状が、冷凍機16(例えば第2冷却ステージ24及び第2シリンダ25)と干渉することなく2つのクライオパネル部材62を互いに交換可能とするように定められている。
1つの例示的な構成として、2つのクライオパネル部材62の間隔90は、弦79の方向においてどの位置でも、2つのクライオパネル部材62の間に第2冷却ステージ24を挿入可能とする大きさに定められている。2つのクライオパネル部材62の間隔90は、弦の方向において弦の全長にわたり一定である。
このようにして、2つのクライオパネル部材62は、互換性をもつ。あるクライオパネル部材62は、クライオパネル取付部材64の2つの取付面68のどちらにも取り付けることができる。あるクライオパネル部材62を一方の取付面68に取り付けたときと他方の取付面68に取り付けたときとで、クライオパネル部材62の円弧部78は、同一の円周上にある。また、あるクライオパネル部材62を一方の取付面68に取り付けたときと他方の取付面68に取り付けたときとで、クライオパネル部材62の弦79は、冷凍機16の中心軸Dに対し等距離に位置する。クライオパネル部材62は、2つの取付面68のどちらにも、冷凍機16の第2冷却ステージ24及び第2シリンダ25と干渉せずに取り付けることができる。
図1に示されるように、クライオパネル位置決め部材67は、第2冷却ステージ24のフランジ部24aに固定され、第2冷却ステージ24に支持されている。クライオパネル位置決め部材67は、上下反転した逆L字状に形成されている。クライオパネル位置決め部材67の縦辺部がフランジ部24aに例えばボルト等適宜の締結部材で取り付けられている。クライオパネル位置決め部材67の上辺部67aが第2冷却ステージ24のフランジ部24aから冷凍機16の中心軸Dの方向に延在する。この上辺部67aは、クライオパネル取付部材64の中で、第2冷却ステージ24または第2シリンダ25に沿って第1冷却ステージ22に向けて延びている。
第2冷却ステージ24は、冷凍機16の中心軸Dの方向においてクライオポンプ中心軸Cから外れている。冷凍機16の中心軸Dの方向における放射シールド30の取付座46から第2冷却ステージ24のフランジ部24aまでの距離が、冷凍機16の中心軸Dの方向における放射シールド30の取付座46からクライオポンプ中心軸Cまでの距離よりも短い(逆に、長くてもよい)。そのため、仮に第2段クライオパネルアセンブリ20が第2冷却ステージ24の直上に配置されたとすると、第2段クライオパネルアセンブリ20が冷凍機16の中心軸Dの方向にクライオポンプ中心軸Cから外れてしまう。
ところが、クライオパネル位置決め部材67は、各クライオパネル部材62の円弧部78の中心をクライオポンプ中心軸C上に位置決めするように2つのクライオパネル部材62を支持する。クライオポンプ中心軸Cに対しクライオパネル部材62を位置合わせするための適切な位置にクライオパネル取付部材64を配置することができるように、クライオパネル位置決め部材67が形成されている。こうして、第2段クライオパネルアセンブリ20がクライオポンプ中心軸C上に位置決めされる。
クライオパネル位置決め部材67を用いることにより、中心軸Dの方向における冷凍機16の長さについての制約が緩和される。その結果、クライオポンプ10に専用に設計された冷凍機に代えて、既存の冷凍機を採用しうる。これは、クライオポンプ10の製造コストの低減に役立ちうる。
なお、クライオポンプ中心軸Cに対する第2段クライオパネルアセンブリ20の位置合わせのために、クライオパネル位置決め部材67の上辺部67aは、図1に示されるのとは逆に、第2冷却ステージ24のフランジ部24aから冷凍機16の中心軸Dの方向に第2シリンダ25から離れるように延びていてもよい。大口径の吸気口12をもつクライオポンプ10については、そのような形状をもつクライオパネル位置決め部材67が好適でありうる。
クライオポンプハウジング70は、第1段クライオパネル18、第2段クライオパネルアセンブリ20、及び冷凍機16を収容するクライオポンプ10の筐体であり、内部空間14の真空気密を保持するよう構成されている真空容器である。クライオポンプハウジング70は、第1段クライオパネル18及び冷凍機構造部21を非接触に包含する。クライオポンプハウジング70は、冷凍機16の室温部26に取り付けられている。
クライオポンプハウジング70の前端によって、吸気口12が画定されている。クライオポンプハウジング70は、その前端から径方向外側に向けて延びている吸気口フランジ72を備える。吸気口フランジ72は、クライオポンプハウジング70の全周にわたって設けられている。クライオポンプ10は、吸気口フランジ72を用いて真空排気対象の真空チャンバに取り付けられる。
クライオポンプ10は、シールド主開口34から流入する気体の流れを冷凍機構造部21から偏向させるよう構成されている気体流れ調整部材80を備える。気体流れ調整部材80は、ルーバー部50または開放領域48を通じて主収容空間65に流入する気体流れを第2シリンダ25から偏向させるよう構成されている。気体流れ調整部材80は、冷凍機構造部21または第2シリンダ25の上方でそれに隣接して配置された気体流れ偏向部材または気体流れ反射部材であってもよい。気体流れ調整部材80は、例えば一枚の平坦プレートであるが、湾曲していてもよい。
気体流れ調整部材80は、第2冷却ステージ24及び第2段クライオパネルアセンブリ20の両方と非接触であるように冷凍機構造部21に隣接して配置されている。気体流れ調整部材80は、第2冷却ステージ24、第2段クライオパネルアセンブリ20、及び第2シリンダ25のいずれとも非接触であるように第2シリンダ25に沿って配置されている。気体流れ調整部材80と第2シリンダ25との間にはクリアランス86が形成されている。こうして、気体流れ調整部材80は、第2冷却温度に冷却される部分、及び、この部分を支持する構造部から、熱的かつ構造的に分離されている。
気体流れ調整部材80は、隙間領域66に向けてシールド側部40から延出し、第1冷却ステージ22に熱的に結合されている。気体流れ調整部材80は、シールド側部40に支持されている。したがって、気体流れ調整部材80は、第1冷却温度に冷却される。
気体流れ調整部材80は、環状隙間42を少なくとも部分的に塞ぐようにシールド側部40に沿って周方向に延在する。気体流れ調整部材80は、周方向においてシールド側部開口44と同じ位置に局所的に設けられている。気体流れ調整部材80は、上から見て矩形状である。なお、気体流れ調整部材80は、周方向により長く、例えば全周にわたって、シールド側部40に沿って設けられていてもよい。
気体流れ調整部材80の基端部82(すなわちシールド側部40に取り付けられた部分)は、径方向にルーバー部50の外側に位置するので、図2に示されるように、吸気口12に露出されている。気体流れ調整部材80の基端部82は、開放領域48及び環状隙間42を通じてクライオポンプ10の外部から視認可能である。基端部82は、軸方向に見てトップクライオパネル60と重ならない。
気体流れ調整部材80の先端部84は、隙間領域66に進入し、トップクライオパネル60に覆われている。この先端部84は、クライオポンプ径方向において、トップクライオパネル60の外周端と中心軸Cとの間に配置されている。先端部84は、第2冷却ステージ24までは到達しないので、上述のように気体流れ調整部材80は第2冷却ステージ24と接触していない。
このようにして、トップクライオパネル60と第2シリンダ25との隙間領域66に気体流れ調整部材80が挿入されることによって、隙間領域66の入口が狭くなる。よって、主収容空間65から隙間領域66への気体流入を低減することができる。
上記の構成のクライオポンプ10の動作を以下に説明する。クライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前に他の適当な粗引きポンプで真空チャンバ内部を1Pa程度にまで粗引きする。その後、クライオポンプ10を作動させる。冷凍機16の駆動により第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24がそれぞれ第1冷却温度及び第2冷却温度に冷却される。よって、これらに熱的に結合されている第1段クライオパネル18、第2段クライオパネルアセンブリ20もそれぞれ第1冷却温度及び第2冷却温度に冷却される。気体流れ調整部材80は、第1冷却ステージ22に熱的に結合されているので、第1冷却温度に冷却される。
入口クライオパネル32は、真空チャンバからクライオポンプ10に向かって飛来する気体を冷却する。入口クライオパネル32の表面には、第1冷却温度で蒸気圧が充分に低い(例えば10-8Pa以下の)気体が凝縮する。この気体は、第1種気体と称されてもよい。第1種気体は例えば水蒸気である。こうして、入口クライオパネル32は、第1種気体を排気することができる。第1冷却温度で蒸気圧が充分に低くない気体の一部は、ルーバー部50または開放領域48を通過して、主収容空間65へと進入する。あるいは、気体の他の一部は、入口クライオパネル32で反射され、主収容空間65に進入しない。
主収容空間65に進入した気体は、第2段クライオパネルアセンブリ20によって冷却される。第2段クライオパネルアセンブリ20の表面には、第2冷却温度で蒸気圧が充分に低い(例えば10-8Pa以下の)気体が凝縮する。この気体は、第2種気体と称されてもよい。第2種気体は例えばアルゴンである。こうして、第2段クライオパネルアセンブリ20は、第2種気体を排気することができる。主収容空間65に直接面しているので、トップクライオパネル60の前面には、第2種気体の凝縮層が大きく成長しうる。なお第2種気体は、第1冷却温度では凝縮せず気体である。
第2冷却温度で蒸気圧が充分に低くない気体は、第2段クライオパネルアセンブリ20の吸着材に吸着される。この気体は、第3種気体と称されてもよい。第3種気体は例えば水素である。こうして、第2段クライオパネルアセンブリ20は、第3種気体を排気することができる。したがって、クライオポンプ10は、種々の気体を凝縮または吸着により排気し、真空チャンバの真空度を所望のレベルに到達させることができる。
上述のように、2つのクライオパネル部材62は互換性をもつ。2つのクライオパネル部材62は少なくとも部分的に形状が同一である。これにより、第2段クライオパネルアセンブリ20の製造工程の少なくとも一部を共通化することができ、クライオポンプ10の製造コストの低減につながる。とくに、この実施の形態では、2つのクライオパネル部材62は、同一の部品として設計されている。2つのクライオパネル部材は同じ製造工程で製造される。クライオポンプの部品種類が削減される。製造コストがさらに低減される。
この着想を、径の異なるクライオパネル部材62に展開し、それらの製造工程の一部を共通化することもできる。径の異なるクライオパネル部材で第1折曲部76(締結部)を共通形状とし、弓形状平坦部75の円弧部78を平坦とすることにより、プレス加工用の金型を共通化することができる。大きい径をもつクライオパネル部材62のプレス加工(例えば、折り曲げ加工、穴抜き加工)のために設計された金型を用いて、それより小さい径のクライオパネル部材62のプレス加工を行うことができる。金型は一般に比較的高価であるから、金型の共通化は製造コストの低減に効果的である。吸気口12の口径が異なる複数種類のクライオポンプ10を提供する製造業者にとって有利である。
上述のように、クライオポンプ10には気体流れ調整部材80が設けられている。気体流れ調整部材80が第2シリンダ25を覆うため、第2シリンダ25がシールド主開口34に露出されない。気体流れ調整部材80は、主収容空間65から第2シリンダ25に向かう第2種気体の流れを他の方向に偏向させることができる。そのため、第2シリンダ25はその表面に第1冷却温度から第2冷却温度への温度分布を有するが、第2冷却温度またはそれに近い温度の表面部分に凝縮される第2種気体は、ほとんどないか、まったくない。また、気体流れ調整部材80は第1冷却温度を有するので、気体流れ調整部材80の表面に第2種気体は凝縮されない。
主収容空間65に進入した気体の一部は、気体流れ調整部材80で反射されうる。反射された気体の少なくとも一部は、第2段クライオパネルアセンブリ20に向けられる。あるいは、反射された気体の一部は、放射シールド30または入口クライオパネル32に向けられ、ここで再び反射されて、第2段クライオパネルアセンブリ20に向けられうる。こうして、第2段クライオパネルアセンブリ20は、第2種気体を凝縮により排気し、第3種気体を吸着により排気することができる。
クライオポンプは一般に、温度の異なる二種類のクライオパネルを備える。低温のクライオパネルには気体が凝縮する。クライオポンプの使用につれて低温クライオパネル上に凝縮層が成長する。同様に、低温クライオパネルを支持する構造部にも凝縮層が成長しうる。成長した凝縮層は、いずれは高温のクライオパネルに接触しうる。そうすると、高温クライオパネルと凝縮層の接触部位で気体は再び気化され周囲に放出されてしまう。凝縮層からの気体放出は、クライオポンプがその役割を充分に果たすことを妨げうる。したがって、接触時点での気体の吸蔵量がクライオポンプの最大吸蔵量を与えうる。
ところが、実施の形態に係るクライオポンプ10によると、気体流れ調整部材80が、第1冷却温度の部位と第2冷却温度の部位とが接近する場所での凝縮層の成長を緩和又は防止することができる。それにより、クライオポンプ10は、凝縮層と第1冷却温度の部位との接触、ひいては凝縮層の再気化を緩和又は防止することができる。その結果、主収容空間65においてトップクライオパネル60の前面に大量の第2種気体を凝縮することができる。よって、クライオポンプ10の気体吸蔵量を向上することができる。
以上、本発明を実施形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
例えば、図5に示されるように、クライオパネル取付部材64の各取付面68に複数のクライオパネル部材62が取り付けられてもよい。各取付面68において複数(本例では2つ)のクライオパネル部材62がクライオポンプ中心軸の方向に配列されている。このようにすれば、冷凍機16の第2冷却ステージ24の両側それぞれに複数のクライオパネル部材62を配置することができる。
上記においては、横型のクライオポンプ10を例として説明した。しかし、本発明は、いわゆる縦型のクライオポンプにも適用可能である。縦型のクライオポンプとは一般に、冷凍機16がクライオポンプ中心軸Cに沿って配設されているクライオポンプをいう。
クライオパネル部材62の形状は、上述のものに限定されず、他の形状を有してもよい。弓形状平坦部75、第1折曲部76、及び/または第2折曲部77は、その全体が完全に平坦ではなくてもよい。例えば、弓形状平坦部75はいずれかの部位(例えば、円弧部78を除く部位)に傾斜面、凹部、または凸部を有してもよい。また、クライオパネル部材62の円弧部78が厳密な円弧であることは必須でない。同様に、クライオパネル部材62の弦79が厳密な直線であることは必須ではない。弓形状平坦部75、第1折曲部76、及び/または第2折曲部77は、穴またはスリットなどの開口部を有してもよい。
上述の実施形態においては、放射シールド30の取付座46が放射シールド30の下半分に形成されている。そのため、第2冷却ステージ24がクライオポンプ中心軸Cの方向においてシールド底部38に比較的近い。しかし、こうした第2冷却ステージ24の配置は必須ではない。放射シールド30の取付座46が放射シールド30の上半分に形成され、第2冷却ステージ24は、クライオポンプ中心軸Cの方向においてシールド前端36に近接配置されてもよい。また、放射シールド30の取付座46がクライオポンプ中心軸Cの方向においてシールド側部40の中央部に形成され、第2冷却ステージ24は、クライオポンプ中心軸Cの方向において放射シールド30の中心に配置されてもよい。
本発明の実施の形態は以下のように表現することもできる。
1.高温冷却ステージ及び低温冷却ステージを備える冷凍機と、
前記高温冷却ステージに熱的に結合され、クライオポンプ吸気口の中心を通るクライオポンプ中心軸の方向に延在し前記低温冷却ステージを囲む放射シールドと、
前記低温冷却ステージに熱的に結合され、前記低温冷却ステージとともに前記放射シールドに囲まれた低温クライオパネル部であって、前記クライオポンプ中心軸の方向における前記低温冷却ステージの上端と下端との間の高さ位置で、前記クライオポンプ中心軸を挟んで前記低温冷却ステージの両側に配置された2つのクライオパネル部材を備える低温クライオパネル部と、を備え、
各クライオパネル部材は、円弧部及び弦を有する弓形状平坦部と、前記弓形状平坦部と一体形成され前記弦の一部で前記弓形状平坦部と接続された第1折曲部と、を備え、前記弓形状平坦部は、前記第1折曲部を介して前記低温冷却ステージに熱的に結合され、前記弓形状平坦部の円弧部が、前記クライオポンプ中心軸の方向に見たとき当該クライオパネル部材の外縁を定め、
各クライオパネル部材の前記弓形状平坦部の前記弦の残部の形状が、前記冷凍機と干渉することなく前記2つのクライオパネル部材を互いに交換可能とするように定められていることを特徴とするクライオポンプ。
2.前記2つのクライオパネル部材にそれぞれ対応する2つの取付面をさらに備え、前記第1折曲部が、対応する取付面に取り付けられ、
各クライオパネル部材は、前記弓形状平坦部と一体形成され前記弦の残部の少なくとも一部で前記弓形状平坦部と接続された第2折曲部を備え、前記第2折曲部は、前記弦の方向に前記取付面から外れて配置されていることを特徴とする実施形態1に記載のクライオポンプ。
3.前記第2折曲部は、前記弦の残部の全長にわたり前記弓形状平坦部と接続され、前記弦の方向に前記第1折曲部と連続していることを特徴とする実施形態2に記載のクライオポンプ。
4.前記2つのクライオパネル部材は、同一の部品として設計されていることを特徴とする実施形態1から3のいずれかに記載のクライオポンプ。
5.前記2つのクライオパネル部材の間隔は、前記弦の方向においてどの位置でも、前記2つのクライオパネル部材の間に前記低温冷却ステージを挿入可能とする大きさに定められていることを特徴とする実施形態1から4のいずれかに記載のクライオポンプ。
6.前記2つのクライオパネル部材の間隔は、前記弦の方向において弦の全長にわたり一定であることを特徴とする実施形態5に記載のクライオポンプ。
7.前記第1折曲部は、前記弓形状平坦部に対し上方に折り曲げられており、締結部材を通す穴を有し、
前記穴は、前記弦と前記第1折曲部の上辺との間で前記上辺に近接して配置されていることを特徴とする実施形態1から6のいずれかに記載のクライオポンプ。
8.前記冷凍機の前記高温冷却ステージ及び低温冷却ステージは、前記クライオポンプ中心軸に垂直な方向に配列され、
前記クライオポンプは、前記低温冷却ステージに支持され前記低温冷却ステージから前記クライオポンプ中心軸に垂直な方向に延在するクライオパネル位置決め部材をさらに備え、
前記クライオパネル位置決め部材は、各クライオパネル部材の弓形状平坦部の円弧部の中心を前記クライオポンプ中心軸上に位置決めするように前記2つのクライオパネル部材を支持することを特徴とする実施形態1から7のいずれかに記載のクライオポンプ。
9.高温冷却ステージ及び低温冷却ステージを備える冷凍機と、
前記高温冷却ステージに熱的に結合され、クライオポンプ吸気口の中心を通るクライオポンプ中心軸の方向に延在し前記低温冷却ステージを囲む放射シールドと、
前記低温冷却ステージに熱的に結合され、前記低温冷却ステージとともに前記放射シールドに囲まれた低温クライオパネル部であって、前記クライオポンプ中心軸を挟んで前記低温冷却ステージの両側に配置された2つのクライオパネル部材を備える低温クライオパネル部と、
前記2つのクライオパネル部材にそれぞれ対応する2つの取付面と、を備え、
各クライオパネル部材は、円弧部及び弦を有する弓形状平坦部と、前記弓形状平坦部と一体形成され前記弦の一部で前記弓形状平坦部と接続された第1折曲部と、を備え、前記第1折曲部が、対応する取付面に取り付けられ、前記弓形状平坦部は、前記第1折曲部を介して前記低温冷却ステージに熱的に結合され、
各クライオパネル部材の前記弓形状平坦部の前記弦の残部の形状が、前記冷凍機と干渉することなく前記2つのクライオパネル部材を互いに交換可能とするように定められ、
各クライオパネル部材は、前記弓形状平坦部と一体形成され前記弦の残部の少なくとも一部で前記弓形状平坦部と接続された第2折曲部を備え、前記第2折曲部は、前記弦の方向に前記取付面から外れて配置されていることを特徴とするクライオポンプ。
10.前記クライオポンプ中心軸の方向における前記低温冷却ステージの上端と下端との間の高さ位置で、前記クライオポンプ中心軸を挟んで前記低温冷却ステージの両側に配置されていることを特徴とする実施形態9に記載のクライオポンプ。
11.前記弓形状平坦部の円弧部が、前記クライオポンプ中心軸の方向に見たとき当該クライオパネル部材の外縁を定めることを特徴とする実施形態9または10に記載のクライオポンプ。
12.前記第2折曲部は、前記弦の残部の全長にわたり前記弓形状平坦部と接続され、前記弦の方向に前記第1折曲部と連続していることを特徴とする実施形態9から11のいずれかに記載のクライオポンプ。
13.前記2つのクライオパネル部材は、同一の部品として設計されていることを特徴とする実施形態9から12のいずれかに記載のクライオポンプ。
14.前記2つのクライオパネル部材の間隔は、前記弦の方向においてどの位置でも、前記2つのクライオパネル部材の間に前記低温冷却ステージを挿入可能とする大きさに定められていることを特徴とする実施形態9から13のいずれかに記載のクライオポンプ。
15.前記2つのクライオパネル部材の間隔は、前記弦の方向において弦の全長にわたり一定であることを特徴とする実施形態14に記載のクライオポンプ。
16.前記第1折曲部は、前記弓形状平坦部に対し上方に折り曲げられており、締結部材を通す穴を有し、
前記穴は、前記弦と前記第1折曲部の上辺との間で前記上辺に近接して配置されていることを特徴とする実施形態9から15のいずれかに記載のクライオポンプ。
17.前記冷凍機の前記高温冷却ステージ及び低温冷却ステージは、前記クライオポンプ中心軸に垂直な方向に配列され、
前記クライオポンプは、前記低温冷却ステージに支持され前記低温冷却ステージから前記クライオポンプ中心軸に垂直な方向に延在するクライオパネル位置決め部材をさらに備え、
前記クライオパネル位置決め部材は、各クライオパネル部材の弓形状平坦部の円弧部の中心を前記クライオポンプ中心軸上に位置決めするように前記2つのクライオパネル部材を支持することを特徴とする実施形態9から16のいずれかに記載のクライオポンプ。