JP7298920B2 - 原価計算プログラム、原価計算装置、および、原価計算方法 - Google Patents

原価計算プログラム、原価計算装置、および、原価計算方法 Download PDF

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Description

本発明は、コンピュータ等による原価計算技術に関する。
これまで、製品原価計算の方法としては、大別して個別原価計算と総合原価計算の2つが提唱されてきた。
例えば、下記特許文献1においては、事業における原価を管理するための、制御部を備えた原価管理装置であって、前記制御部は、原価計算に関連する複数の処理がその実行順序と共に設定されている実行フェーズマスタに従って、前記事業に応じて予め設定されている棚卸資産の評価方法に準じた実際原価計算を実行することを特徴とする原価管理装置が開示されている。
また、下記特許文献2においては、リードタイムを基準とした原価計算方法が提案されている。
特開2016-184407号公報 特開2016-51223号公報
個別原価計算は材料に投入した資源量を計測することで、正確な原価計算結果を与えるが、その実行には、材料をロット単位や製造指図書単位で投入から完成まで個別に把握することや、材料ごとに投入した資源量を測定することが必要であるなど、収集すべきデータの条件が厳しく、工場において、実行するためのデータを入手できないことが多い。
総合原価計算は、より簡便なデータから製品原価を計算することができるが、計算方法が実際の加工作業の流れと対応していないため、極めてシンプルな生産状況を除き、不正確な原価計算結果を与えてしまう。
原価管理の代表的な方法である標準原価計算では、目標である標準原価と、実際原価とを比較して、どこにどれだけのムダがあったのかを分析する(これを「差異分析」という)。
差異分析の具体的な処理は、例えば材料費では、材料費の標準原価と実際原価の差異を、価格差異と数量差異に分解することで、発生原因を明らかにする。
このような差異分析は、材料費をはじめ、労務費、製造間接費など、様々な原価要素に対して広く行われているが、従来の標準原価計算による差異分析は、シンプルな生産状況の下では適切な計算結果を与えるものの、材料の減損、材料の追加投入、複数種類の材料の投入などの要素が絡み合うような、複雑な生産状況には対応できず、適切な計算結果を与えない。
更に、材料の投入から完成までのリードタイム(経過時間)の要因が考慮されていない。特許文献2など、リードタイムを基準にして原価計算を行う方法が提案されているが、それらは材料の減損や追加投入など、製造加工中の物量の増減を適切に取り扱うことができず、そのような場合には不正確な計算をしてしまう。また、ロット単位や製造指図書単位で材料投入から完成までのリードタイムを計測することが必要なため、実行の手間がかかってしまう。
例えば、時間の経過と共に減損する揮発性の材料を用いて生産される製品を考えてみる。この製品は、材料の揮発を避けるあまり急ぎすぎて粗雑な加工作業を行った場合には、今度は不良品が増加してしまいやはり減損するものとする。このような揮発性の材料の減損量には、以下の3つの要因が関係している。
1)単位時間当たりの材料の揮発量、
2)材料投入から完成までのリードタイム(経過時間)、
3)加工作業の丁寧さ。
この3つの要因はそれぞれ異なっているので、必要な対策もそれぞれ異なる。例えば、2)のリードタイム(経過時間)が長すぎることが減損の主な要因であった場合、その対策は、加工作業の丁寧さを多少犠牲にしてでも、急いで加工作業を行うことである。
しかし、従来の標準原価計算では、経過時間の概念がないため、この3つの要因を区別できず、すべて3)の加工作業の丁寧さ、が減損の要因であると判断してしまう。これでは、リードタイム(経過時間)が長すぎることが減損の主要因であった場合でも、その対策として、より時間をかけて丁寧に加工作業を行う、という全く逆効果の対策しか提案できない。
本発明は、材料の減損・追加投入・複数種類の材料投入などの要素が絡み合うような複雑な生産状況においても、そしてロット単位や製造指図書単位で生産データが収集されていないような不十分な生産データであっても、更にはリードタイムを考慮すべき状況においても、正確な製品原価計算結果および標準原価計算による差異分析結果を得ることを目的とする。
本発明の目的は、物理的な加工作業の流れに厳密に対応した原価計算と標準原価計算を実行することにある。
従来の方法には大別すると2つの方法、つまり総合原価計算と個別原価計算があるが、これらの方法は物理的な意味で厳密な計算方法ではない。
一応、時間軸を考慮しない限定的な状況に限ると、個別原価計算・個別標準原価計算でも物理的に厳密な計算結果を得られるが、時間軸を考慮に入れた場合には、やはり従来の個別原価計算では対応できない。
尚、本発明において、時間軸を考慮に入れない(加工進捗度軸のみ考慮する)モデルも含めることができる。
特に、従来の方法とアロー原価計算とで大きく計算結果が異なる状況の一例を挙げるとすれば、リードタイム(加工時間)の長短により減損量・追加投入量が大きく変化してしまうような状況で標準原価計算を実行しようとする場合である。標準原価計算では、事前に設定した標準原価、すなわち、目標原価と実際原価との差の原因を分析する差異分析を行うが、その差異分析が適切に実行できるのはアロー原価計算だけになる(解説欄第8章に対応する)。
以下の解決手段において、解説欄の対応する箇所を参考として記載したが、本発明を、これらの例に限定する趣旨ではない。
尚、下記において、時間軸を考慮しないようにしても良い(時間軸を考慮しない計算例は解説欄2の例題1から例題7に対応する)。
例えば、そのような発明は、コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるためのプログラムであって、
メモリに格納されている
1)加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアロー、及び、前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量を計算するステップと、
前記アロー経路上の物量を計算するステップにおいて、解マッチングとなれば、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量と材料投入換算量を計算し、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を配分して、前記アローに配分された原価を出力するステップと、を
コンピュータに実行させるための製品製造原価計算プログラムである(この一連の手続きの計算例は解説欄2の例題1から例題3に対応する)。
また、時間軸を考慮に入れた発明は以下のものを含む(解説欄のすべての章(第1章から第9章)は時間軸を考慮に入れた発明の解説であり、また、解説欄2の例題8、9a、9b、11に対応する)。
本発明は、コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるためのプログラムであって、
メモリに格納されている
1)加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアローを、
原価計算空間内で、以下の要素をすべて含むものとして定義し、
a)前記アローの始点となるインプットノード、
b)前記アローの終点となるアウトプットノード、
c)前記アローの経路であるアロー経路、
d)前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量、
前記アロー経路上の物量を計算するステップであって、前記アロー経路上の任意の点における物量は、すべての座標で、前記インプットノードの座標における前記アロー経路上の物量と同一であるとして計算し、
与えられた生産データに基づいた具体的な製品加工状況を、前記アローによって再現することで、すべてのインプットノード及びすべてのアウトプットノードのそれぞれにおいて、各ノードの物量と、そのノードに関係するすべてのアローの、当該ノードの座標におけるアロー経路上の物量の合計が一致するとき、そのアローの組み合わせとして定義される解マッチングとなれば、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量と材料投入換算量を計算し、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を前記加工作業換算量、前記材料投入換算量の比率で按分し、前記アローに按分された原価を出力するステップと、を
コンピュータに実行させるための製品製造原価計算プログラムである。
また、本発明は、コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるためのプログラムにおいて、
メモリに格納されている
1)加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと、
2)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアローを、
原価計算空間内で、以下の要素をすべて含むものとして定義し、
a)前記アローの始点となるインプットノード、
b)前記アローの終点となるアウトプットノード、
c)前記アローの経路であるアロー経路、
d)前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量、
さらに、もし減損があれば、メモリに格納されている、
3)材料の減損条件である減損関数データ
を参照し、
さらに、もし追加投入があれば、メモリに格納されている、
4)材料の追加投入条件である追加投入関数データ
を参照し、
前記アロー経路上の物量を計算するステップであって、前記アロー経路上の任意の点における物量は、前記インプットノードの座標における前記アロー経路上の物量から、もし減損があれば、前記インプットノードからその点までの減損量を減算し、もし追加投入があれば、前記インプットノードからその点までの追加投入量を加算して計算するステップにおいて物量を計算し、
アロー図とは、
i)インプットノードを配置するための座標軸、
ii)アウトプットノードを配置するための座標軸、
iii)インプットノードを示す点、
iv)アウトプットノードを示す点、
を含み、必要があれば、
v)アローを示す線又は矢印、
も含むものであり、このアロー図を表示させるための製品製造原価計算プログラムである。
また、本発明は、製品製造原価計算を実行させるための計算装置であって、
メモリに格納されている
1)加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアローを、
前記原価計算空間内で、以下の要素をすべて含むものとして定義し、
a)前記アローの始点となるインプットノード、
b)前記アローの終点となるアウトプットノード、
c)前記アローの経路であるアロー経路、
d)前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量、
前記アロー経路上の物量を計算する第1の演算部あって、前記アロー経路上の任意の点における物量は、前記インプットノードの座標における前記アロー経路上の物量から、もし減損があれば、前記インプットノードからその点までの減損量を減算し、もし追加投入があれば、前記インプットノードからその点までの追加投入量を加算して、前記アロー経路上の物量を計算する第1の演算部と、
与えられた生産データに基づいた具体的な製品加工状況を、前記アローによって再現することで、すべてのインプットノード及びすべてのアウトプットノードのそれぞれにおいて、各ノードの物量と、そのノードに関係するすべてのアローの、当該ノードの座標におけるアロー経路上の物量の合計が一致するとき、そのアローの組み合わせとして定義される解マッチングとなれば、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量、材料投入換算量を計算する第2の演算部と、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を前記加工作業換算量、前記材料投入換算量の比率で按分する第3の演算部と、前記アローに配分された原価を出力する第4の演算部と
を有する製品製造原価計算装置である。
また、本発明は、コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるための方法であって、
メモリに格納されている
1)加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアローを、
前記原価計算空間内で、以下の要素をすべて含むものとして定義し、
a)前記アローの始点となるインプットノード、
b)前記アローの終点となるアウトプットノード、
c)前記アローの経路であるアロー経路、
d)前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量、
前記アロー経路上の物量を計算するステップであって、前記アロー経路上の任意の点における物量は、前記インプットノードの座標における前記アロー経路上の物量から、もし減損があれば、前記インプットノードからその点までの減損量を減算し、もし追加投入があれば、前記インプットノードからその点までの追加投入量を加算して計算し、
与えられた生産データに基づいた具体的な製品加工状況を、前記アローによって再現することで、すべてのインプットノード及びすべてのアウトプットノードのそれぞれにおいて、各ノードの物量と、そのノードに関係するすべてのアローの、当該ノードの座標におけるアロー経路上の物量の合計が一致するとき、そのアローの組み合わせとして定義される解マッチングとなれば、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量、材料投入換算量を計算し、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を前記加工作業換算量、前記材料投入換算量の比率で按分し、前記アローに按分された原価を出力するステップと、をコンピュータに実行させるための製品製造原価計算方法である。
また、本発明は、コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるためのプログラムであって、
メモリに格納されている
1)時間軸と加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアローを、
原価計算空間内で、以下の要素をすべて含むものとして定義し、
a)前記アローの始点となるインプットノード、
b)前記アローの終点となるアウトプットノード、
c)前記アローの経路であるアロー経路、
d)前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量、
前記アロー経路上の物量を計算するステップであって、前記アロー経路上の任意の点における物量は、すべての座標で、前記インプットノードの座標における前記アロー経路上の物量と同一であるとして計算し、
与えられた生産データに基づいた具体的な製品加工状況を、前記アローによって再現することで、すべてのインプットノード及びすべてのアウトプットノードのそれぞれにおいて、各ノードの物量と、そのノードに関係するすべてのアローの、当該ノードの座標におけるアロー経路上の物量の合計が一致するとき、そのアローの組み合わせとして定義される解マッチングとなれば、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量と材料投入換算量を計算し、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を前記加工作業換算量、前記材料投入換算量の比率で按分し、前記アローに按分された原価を出力するステップと、をコンピュータに実行させるための製品製造原価計算プログラムである。
コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるためのプログラムにおいて、
メモリに格納されている
1)時間軸と加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと、
2)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアローを、
原価計算空間内で、以下の要素をすべて含むものとして定義し、
a)前記アローの始点となるインプットノード、
b)前記アローの終点となるアウトプットノード、
c)前記アローの経路であるアロー経路、
d)前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量、
さらに、もし減損があれば、メモリに格納されている、
3)材料の減損条件である減損関数データ
を参照し、
さらに、もし追加投入があれば、メモリに格納されている、
4)材料の追加投入条件である追加投入関数データ
を参照し、
前記アロー経路上の物量を計算するステップであって、前記アロー経路上の任意の点における物量は、前記インプットノードの座標における前記アロー経路上の物量から、もし減損があれば、前記インプットノードからその点までの減損量を減算し、もし追加投入があれば、前記インプットノードからその点までの追加投入量を加算して計算するステップにおいて物量を計算し、アロー図とは、
i)時間軸、
ii)加工進捗度軸、
iii)インプットノードを示す点、
iv)アウトプットノードを示す点、
を含み、必要があれば、
v)アローを示す線又は矢印、
も含むものであり、このアロー図を表示させるための製品製造原価計算プログラム。
また、本発明は、製品製造原価計算を実行させるための計算装置であって、
メモリに格納されている
1)時間軸と加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアローを、
前記原価計算空間内で、以下の要素をすべて含むものとして定義し、
a)前記アローの始点となるインプットノード、
b)前記アローの終点となるアウトプットノード、
c)前記アローの経路であるアロー経路、
d)前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量、
前記アロー経路上の物量を計算する第1の演算部であって、前記アロー経路上の任意の点における物量は、前記インプットノードの座標における前記アロー経路上の物量から、もし減損があれば、前記インプットノードからその点までの減損量を減算し、もし追加投入があれば、前記インプットノードからその点までの追加投入量を加算して、前記アロー経路上の物量を計算する第1の演算部と、
与えられた生産データに基づいた具体的な製品加工状況を、前記アローによって再現することで、すべてのインプットノード及びすべてのアウトプットノードのそれぞれにおいて、各ノードの物量と、そのノードに関係するすべてのアローの、当該ノードの座標におけるアロー経路上の物量の合計が一致するとき、そのアローの組み合わせとして定義される解マッチングとなれば、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量、材料投入換算量を計算する第2の演算部と、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を前記加工作業換算量、前記材料投入換算量の比率で按分する第3の演算部と、前記アローに按分された原価を出力する第4の演算部と
を有する製品製造原価計算装置である。
また、本発明は、コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるための方法であって、
メモリに格納されている
1)時間軸と加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアローを、
前記原価計算空間内で、以下の要素をすべて含むものとして定義し、
a)前記アローの始点となるインプットノード、
b)前記アローの終点となるアウトプットノード、
c)前記アローの経路であるアロー経路、
d)前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量、
前記アロー経路上の物量を計算するステップであって、前記アロー経路上の任意の点における物量は、前記インプットノードの座標における前記アロー経路上の物量から、もし減損があれば、前記インプットノードからその点までの減損量を減算し、もし追加投入があれば、前記インプットノードからその点までの追加投入量を加算して計算し、
与えられた生産データに基づいた具体的な製品加工状況を、前記アローによって再現することで、すべてのインプットノード及びすべてのアウトプットノードのそれぞれにおいて、各ノードの物量と、そのノードに関係するすべてのアローの、当該ノードの座標におけるアロー経路上の物量の合計が一致するとき、そのアローの組み合わせとして定義される解マッチングとなれば、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量、材料投入換算量を計算し、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を前記加工作業換算量、前記材料投入換算量の比率で按分し、前記アローに按分された原価を出力するステップと、をコンピュータに実行させるための製品製造原価計算方法である。
本発明の一観点によれば、コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるためのプログラムであって、メモリに格納されている
1)時間軸と加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと(解説欄第1章参照)、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと(解説欄第3章参照)、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと(解説欄第1章参照)、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと(解説欄第8章参照)、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアロー経路、及び、前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量を計算するステップと(解説欄第2章参照)、
解マッチングを求めるステップと、
前記アロー経路上の物量を計算するステップにおいて、解マッチングとなれば(解説欄第2章参照)、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量と材料投入換算量を計算し(解説欄第3章参照、定義の一例は式(3.1))、材料投入換算量(解説欄第3章参照)、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を配分して(解説欄第4章参照)、前記アローに配分された原価を出力するステップと、をコンピュータに実行させるための製品製造原価計算プログラムが提供される。
さらに、メモリに格納されている、
5)材料の減損条件である減損関数データ(解説欄第2章参照)を参照し、
前記アロー経路上の物量を計算するステップは、さらに、前記減損関数データを読み出して物量を計算するようにしても良い。
さらに、メモリに格納されている
6)材料の追加投入条件である追加投入関数データを参照し(解説欄第2章参照)、
前記アロー経路上の物量を計算するステップは、さらに、前記追加投入関数データを読み出して物量を計算するようにしても良い。
尚、当期実際原価データとは、単純に、「実際材料費200,000円」、「実際変動加工費1,000,000円」などを指す。この金額をどのように求めるのかは、従来の原価計算における一つの論点になる。
しかし、本発明では、この実際原価データは、完全に与件、つまり勝手に与えられるものとする。
本発明は、この生産データや実際原価データが与えられた後で、それらのデータを使ってどうやって製品原価や期末仕掛品原価を求めればよいか、という部分に関するものである。
また、前記アロー経路上の物量を計算するステップにおいて、さらに、前記インプットノードと前記アウトプットノードとが表示されたアロー図を作成するステップを有し、前記アロー図上に前記アロー、及び、前記アローの経路上における物量の計算結果を表示させるステップを有するようにしても良い(ここの作業は解説欄第2章参照)。
また、本発明においては、上記に記載の原価計算に加えて、さらに、標準原価計算を実行するために(標準原価計算は解説欄第5章から第8章、及び、解説欄2の例題6a、6b、7、9a、9bを参照)、
前記メモリは、
7)標準パラメタ値である標準パラメタ値データ(解説欄第5章参照)と、
8)標準資源消費量条件である標準資源消費量関数データ(q(s)のこと。解説欄第6章参照)と、
9)標準原価発生条件を記録しておく標準原価関数データ(p(s)のこと。解説欄第6章参照)と、
10)差異分析の順番を記録しておく差異分析の順番データ(解説欄第6章参照、パラメタの並び順をユーザーが設定する)と、
11)原価計算対象期間内の実際資源消費量状況を記録する実際資源消費量データ(解説欄第8章参照:例として、実際直接作業時間550時間)と、を記憶しており、
前記標準パラメタ値データ、前記標準資源消費量関数データ、前記標準原価関数データ、前記差異分析の順番データ、前記実際資源消費量データを前記メモリから読み出し、
差異分析(具体的な差異分析の例は、解説欄第8章参照:例として、実際直接作業時間550時間)を実行するステップ、及び、
差異分析結果を出力するステップ、
をコンピュータに実行させるための製品製造原価計算プログラムである。
尚、上記のデータのうち、7)と10)に記載のデータのみを取り扱うようにしても良い。その他のデータ8),9),11)を、さらに考慮して計算を行うようにしても良い。以下の手段においても同様である。
解説欄第5章の各種パラメタ、つまり材料追加投入パラメタ(φ:ファイ)、減損パラメタ(θ)、アロー経路(path)などのそれぞれにおいて、標準値をユーザーが設定する。複数種類の材料を投入している場合は、その始点投入時の投入比率(ψ(ベクトル):プサイ)が追加される。
他にも、資源価格(p)、資源消費量(q)の標準もあるが、これらは前の6)と7)に対応する。
これらパラメタの「今期の実際値」と「標準値」とを比較して、今期の生産は具体的にどこにムダがあったのかを明らかにする計算のことを標準原価計算と称する。
また、本発明においては、
前記アロー図は、
時間軸と加工進捗度軸から成る座標空間において、
1)インプットノード及びアウトプットノードを示す点、
2)前記インプットノードから前記アウトプットノードに向かうアロー経路、
3)前記アロー経路上の物量、を含む製品製造原価計算プログラムであることが好ましい。
また、複数材料を投入する場合には、
前記物量をベクトル値(第1材料の物量、第2材料の物量、…第N材料の物量)とすることで、Nの複数材料を投入する場合の製品製造原価計算を行う製品製造原価計算プログラムであっても良い(複数材料は、解説欄第7章・第8章参照)。
また、本発明は、製品製造原価計算を実行させるための計算装置であって、メモリに格納されている
1)時間軸と加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間のX-Y座標軸(時間軸、加工進捗度軸)の原価計算空間データと、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアロー経路、及び、前記アロー経路上の物量を計算する第1の演算部と、
前記アロー経路上の物量を計算するステップにおいて、解マッチングとなれば、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量、材料投入換算量を計算する第2の演算部と、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を配分する第3の演算部と、
前記アローに配分された原価を出力する第4の演算部と
を有する製品製造原価計算装置である。
また、本発明は、コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるための方法であって、
メモリに格納されている
1)時間軸と加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間のX-Y座標軸(時間軸、加工進捗度軸)の原価計算空間データと、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアロー経路、及び、前記アロー経路上の物量を計算するステップと、
前記アロー経路上の物量を計算するステップにおいて、解マッチングとなれば、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量、材料投入換算量を計算し、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を配分して、前記アローに配分された原価を出力するステップと、をコンピュータに実行させるための製品製造原価計算方法である。
本発明によれば、どのような状況でも、正確な材料加工の流れに対応した原価計算結果を得られる。つまり、材料の減損・追加投入・複数種類の材料投入などの様々な要素が絡み合うような複雑な生産状況においても、そしてロット単位や製造指図書単位で生産データが収集されていないような不十分な生産データであっても、更にはリードタイムを考慮すべき状況においても、正確な製品原価計算結果および標準原価計算による差異分析結果を得ることができる。
本発明の実施の形態による原価計算技術に適用することができる、原価演算装置(計算装置)の一構成例を示す機能ブロック図である。 本実施の形態による原価計算技術における、単一材料の場合の原価計算処理の流れの一例を示すフローチャート図である。 単一材料で標準原価計算を行う処理例を示すフローチャート図であり、図2AのステップS8に続く処理を示す図である。 単一材料の場合のアロー図(arrow diagram)の一例を示す図である。 複数種類の材料を投入する場合の演算処理の流れを示す図2Aに対応するフローチャート図である。 複数材料で標準原価計算を行う処理例を示す図である。 原価計算空間と生産データを示すアロー図である。 マッチング、アロー経路、アロー経路上の物量を示すアロー図である。 マッチングで減損パラメタが変化する例(パターン1)(先入先出法)の例を示すアロー図である。 マッチングで減損パラメタが変化する例(パターン2)を示すアロー図である。 減損パラメタの識別可能性について(識別されない例1)を示すアロー図である。 減損パラメタの識別可能性について(識別されない例2)を示すアロー図である。 減損パラメタの識別可能性について(適切に識別される例)を示すアロー図である。 減損パラメタの識別可能性について(矛盾解が生じる例)示すアロー図である。 減損パラメタの識別可能性について(矛盾解の解決法1:グルーピング)示すアロー図である。 減損パラメタの識別可能性について(矛盾解の解決法2:マッチングを探す)示すアロー図である。 アロー毎の加工作業換算量ηと、材料投入換算量ζの計算を行う際のアロー図である。 標準原価計算の考え方を示すアロー図である。 差異分析の一例を示す流れ図である。 複数材料の場合のアロー図である。 アロー図を用いた解答例を示す図である。 材料Aに関する差異分析の一例を示す図である。 材料Bに関する差異分析の一例を示す図である。 変動加工費に関する差異分析の一例を示す図である。 固定加工費に関する差異分析の一例を示す図である。 材料Aに関する差異分析の一例を示す図である。 材料Bに関する差異分析の一例を示す図である。 変動加工費に関する差異分析の一例を示す図である。 変動加工費に関する差異分析の一例を示す図である。 固定加工費に関する差異分析の一例を示す図である。 アロー原価計算の考え方を示す原理図である。 総合原価計算(材料費の計算)の考え方を示す図である。 総合原価計算(加工費の計算)の考え方を示す図である。 総合原価計算の考え方の一例を示す図である。 アロー原価計算の考え方の一例を示す図である。 例題2のアロー図である。 例題3の解マッチングを示すアロー図である。 例題3の加工作業換算量ηの計算例を示す図である。 例題4の解マッチングを示すアロー図である。 例題5の解マッチングを示すアロー図である。 例題5の加工作業換算量ηの計算例を示す図である。 例題6aの解マッチングを示すアロー図である。 例題6aのη(a)とη(s)の計算例を示す図である。 例題6bの解マッチングを示すアロー図である。 例題7の解マッチングを示すアロー図である。 例題8の解マッチングを示すアロー図である。 例題8のηとηの計算例(1→1アロー)を示す図である。 例題8のηとηの計算例(1→2アロー)を示す図である。 例題9aの解マッチングを示すアロー図である。 例題9bの解マッチングを示すアロー図である。 例題10の生産データのみを入力したアロー図である。 例題10のアロー図(θ=0の場合)である。 例題10のアロー図(θ=10の場合)である。 例題10のアロー図(θ=20の場合)である。 例題10の解マッチングを示すアロー図(θ=30の場合)である。 例題10のアロー図(θ=40の場合)である。 例題11のアロー図(生産データのみ)である。 例題11のアロー図(先入先出法の解マッチング)である。 例題11のアロー図(先入先出法ではない解マッチング)である。 例題11のアロー図(先入先出法の解マッチングの別の例)である。 例題12のアロー図である。 例題13のアロー図である。
以下、本発明の第1の実施の形態による原価計算技術について、基本的な構成例を示す図面等を参照しながら詳細に説明する。尚、発明の詳細な説明の末尾に記載した解説欄に計算手法のより詳細な説明を記載し、解説欄2にその計算例を記載した。これらの解説欄も適宜参照しながら以下に説明を行う。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態による原価計算技術に適用することができる、原価演算装置(計算装置)の一構成例を示す機能ブロック図である。図2Aは、本実施の形態による原価計算技術における、単一材料の場合の原価計算処理の流れの一例を示すフローチャート図である。これらの演算装置は、ハードウェア構成でも良いし、ソフトウェア構成でも良い。
図1に示すように、本実施の形態による原価演算システム(装置)Aは、記憶装置1と、演算装置11と、出力部21(表示部等)を有する。原価演算システム(装置)Aは、さらに、入力装置(マウス、キーボード等)を含んでいても良い。
記憶装置1は、例えば、原価計算空間データを記憶する原価計算空間データ記憶部1-1と、減損関数データを記憶する減損関数データ記憶部1-2と、追加投入関数データを記憶する追加投入関数データ記憶部1-3と、加工作業投入量関数データを記憶する加工作業投入量関数データ記憶部1-4と、当期生産データを記憶する当期生産データ記憶部1-5と、当期実際原価データを記憶する当期実際原価データ記憶部1-6と、を有する。
演算装置11は、後述するアロー経路上の物量を演算するアロー経路上の物量演算部(ベクトルを含む)11-1と、解マッチング判定部11-2と、加工作業換算量/材料投入換算量演算部11-3と、アロー配分原価演算部11-4とを有する。アロー配分原価演算部11-4は、差異分析演算部11-5を含む。
本発明の実施の形態による原価計算を実行するためには、材料・仕掛品の加工進捗状況を原価計算空間上で表現することが必要である。これを可視化した図の一例が図3に示すアロー図である。図3は、単一材料の場合のアロー図(arrow diagram)の一例を示す図である。図3に示すように、アロー図は、時間軸t(図3では横軸)と加工進捗度軸x(図3では縦軸)から成る座標空間であり、例えば図3のような直交座標平面に画定した図であり、図3では、以下の要素を含む。尚、時間軸tと加工進捗度軸xとのぞれぞれは、縦軸、横軸のいずれか一方であれば良く、変数と軸とは入れ替えることができる。また、座標空間も、図3のような直交座標平面に限定されるものでもない。
1)インプットノード(P1~P3)及びアウトプットノード(P11からP13)を示す点をノードと名付ける。
2)インプットノードからアウトプットノードに向かう経路を、アロー経路と名付ける(矢印AR1~AR4で表示される)。
3)アロー経路上の物量について
ここで、Lはノードの物量、lはアロー経路において消費される物量である。
x=0が工程始点、x=1が工程終点、t=T0が当期期首、t=T1が当期期末である。
図3のアロー図を用いることにより、材料・仕掛品の加工進捗状況が視覚的に分かりやすくなる。つまり、ある時点で投入した材料が、どの程度の早さ(時間あたりの加工進捗度の進み具合)で加工が進み、また、その間の物量の変化はどうであったのか、が明確になる。
尚、本実施の形態によるアロー原価計算処理は、例えばコンピュータ処理により行われるため、アロー図の作成/表示は必須構成ではない。アロー図を作成/表示しなくとも、コンピュータ内部等で計算して計算結果のみを示すことは可能である。但し、ユーザーが計算内容を理解しようとした場合には、アロー図を作成/表示することが好ましい。
図3のアロー図に示すように、例えば、インプットノードを●印、アウトプットノードを■印などと表記を変えることで、視覚的に分かりやすくすることもできる。
また、例えば、ノードの大きさを物量の大きさに合わせて変えることもできる。このようにすることで、ノードの物量の大きさを視覚的に分かりやすくすることができる。同様に、例えば、アロー経路の矢印の太さを変えて、物量の大きさを視覚的に分かりやすくすることもできる。
製品製造原価の計算において、収集された生産データ・原価データから可能な限り、材料・仕掛品の物理的な加工作業の流れに対応した原価計算及び標準原価計算を実行する。特に、製品製造にかかった経過時間を分析対象に含めた原価計算及び標準原価計算を実行する。
図2Aに示すように、本実施の形態による単一材料の場合の原価計算処理は、例えば、コンピュータの演算装置(ソフトウェア処理、ハードウェア処理を含む)により以下の手順で行われる。
ここで、以下のデータ1)から6)までは、例えば、図1に示すように、予めメモリ等の記憶装置1に格納されているものとする。或いは、ネットワーク経由で取得可能な状態であっても良い。
1)原価計算空間データ記憶部1-1に記憶されている、時間軸tと加工進捗度軸xから成る座標空間により画定される原価計算空間のX-Y座標軸(時間軸、加工進捗度軸)の原価計算空間データ(解説欄第1章参照)と、
2)減損関数データ記憶部1-2に記憶されている、材料の減損条件である減損関数データ(解説欄第2章参照)と、
3)追加投入関数データ記憶部1-3に記憶されている、材料の追加投入条件である追加投入関数データ(解説欄第2章参照)と、
4)加工作業投入量関数データ記憶部1-4に記憶されている、加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データ(解説欄第3章参照)と、
5)当期生産データ記憶部1-5に記憶されている、原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データ(解説欄第1章参照)と、
6)当期実際原価データ記憶部1-6に記憶されている、与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データ(解説欄第8章参照)
そして、これらのデータを適宜参照して図1に示す演算装置11が、以下の処理を行う。
演算装置11が、前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、インプットノードとアウトプットノードとが表示されたアロー図(ここの作業は解説欄第1章・第2章)を作成するステップ(1)と、
アロー経路上の物量演算部11-1が、入力されたマッチング(「先入先出法」などのマッチングルールも含む)とアロー経路(解説欄第2章参照)、及び、前記減損関数データ、前記追加投入関数データを読み出し、前記アロー経路上の物量(アロー経路上の物量の計算方法は解説欄第2章参照)を計算するステップ(2)と、
解マッチング判定部11-2が、前記アロー経路上の物量を計算するステップ(2)において、解マッチング(解説欄第2章参照)であると判定すれば、
加工作業換算量/材料投入換算量演算部11-3が、前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量(解説欄第3章参照、定義の一例は式(3.1))、材料投入換算量(解説欄第3章参照)を計算し(2-1)、
アロー配分原価演算部11-4が、前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を配分(解説欄第4章参照)して、出力部21が、前記アローに配分された原価を出力するステップ(2-2)と
を有する。
より詳細には、図2Aに示すように、
(S1)
原価計算空間の座標軸を演算装置11に入力する。
(S2)
(「減損関数」)、(「追加投入関数」)、「加工作業投入量関数」を演算装置11に入力する。但し、「減損関数」や「追加投入関数」は、それぞれ減損や追加投入がある場合のみ演算装置11に入力する。尚、減損関数と追加投入関数は、それが発生するときだけ入力する選択的な項目であるので、任意に設けられる処理である。
(S3)
一原価計算期間終了時に、「当期生産データ」、「当期実際原価データ」を演算装置11に入力する。
(S4)
「当期生産データ」を読み出し、インプットノードとアウトプットノードが表示されたアロー図を作成する。必要に応じて表示等の出力を行う。アロー原価計算において、アロー図の作成は必須ではない。アロー図を表示しなくとも、コンピュータ内部で計算して計算結果のみを示すことは可能である。但し、ユーザーが計算内容を理解しようとした場合には、アロー図の表示が役に立つ。
(S5)
インプットノードとアウトプットノードの「マッチング」、「アロー経路」を演算装置に入力する。尚、マッチングとは、どのインプットノードとどのアウトプットノードが対応しているか(マッチング)を考える処理である。直接的にマッチングを指定することもあれば、マッチングルール(例えば、先入先出法、など)のみを指定することもある(これを総称して「マッチング」と呼ぶ)。
(S6)
(「減損関数」)、(「追加投入関数」)、「マッチング」、「アロー経路」を記憶装置1から読み出し、演算装置11が、(「実際減損パラメタ値」)、(「実際追加投入パラメタ値」)、「アロー経路上の物量」を計算する。
但し、「実際減損パラメタ値」や「実際追加投入パラメタ値」は、それぞれ減損や追加投入がある場合のみ計算する。
演算装置11による計算の結果、解マッチング判定部11-2により解マッチングになれば次に進み、解マッチングでなければ、例えばエラーメッセージを出力し「マッチング」、「アロー経路」の再入力を促す。
(S7)
「加工作業投入量関数」、「アロー経路上の物量」を記憶装置1から読み出し、演算装置11が、「加工作業換算量」、「材料投入換算量」を計算する。
(S8)
「当期実際原価データ」、「加工作業換算量」、「材料投入換算量」を記憶装置1から読み出し、アロー配分原価演算部11-4が各アローに原価を配分した結果を出力部21に、出力する。
以上の処理により、物理的な加工作業の流れに厳密に対応した原価計算と標準原価計算とを実行することができる。
その際、生産データや実際原価データが与えられた後で、それらのデータを使ってどうやって製品原価や期末仕掛品原価を求めればよいかを把握することができる。
尚、アロー図の作成は任意である(以下同様)。
次に、単一材料で標準原価計算を行う処理について説明する。
メモリ等の記憶装置1は、
7)標準パラメタ値である標準パラメタ値データ(解説欄第5章参照。実際パラメタ値と対になっており、具体的には標準減損パラメタ値や標準追加投入パラメタ値、標準アロー経路、などがある。)と、
8)標準資源消費量条件である標準資源消費量関数データ(q(s)のこと。解説欄第6章参照)と、
9)標準原価発生条件を記録しておく標準原価関数データ(p(s)のこと。解説欄第6章参照)と、
10)差異分析の順番を記録しておく差異分析の順番データ(解説欄第6章参照。パラメタの並び順をユーザーが設定する。)と、
11)原価計算対象期間内の実際資源消費量状況を記録する実際資源消費量データ(解説欄第6章参照)と、を記憶している。
図2Bは、単一材料で標準原価計算を行う処理例を示すフローチャート図であり、図2AのステップS8に続く処理を示す図である。
そして、図2Aに示す処理に加えて、さらに、
前記標準パラメタ値データ、前記標準資源消費量関数データ、前記標準原価関数データ、前記差異分析の順番データ、前記実際資源消費量データを前記メモリから読み出し、差異分析(具体的な差異分析の例は、解説欄第8章参照)を実行するステップ(3-1)、及び、
差異分析結果を出力するステップ(3-2)、
を有する。
たとえば、図2Bに示すように、以下の処理を行う。
(S9)
(「標準減損パラメタ値」)、(「標準追加投入パラメタ値」)、「標準アロー経路」、「標準資源消費量関数q(s)」、「標準原価関数p(s)」、「差異分析の順番」を演算装置11に入力する。
(S10)
「実際資源消費量」を演算装置11に入力する。
(S11)
(「標準減損パラメタ値」)、(「標準追加投入パラメタ値」)、「標準アロー経路」、「標準資源消費量関数q(s)」、「標準原価関数p(s)」、「差異分析の順番」、「実際資源消費量」を読み出し、演算装置11が差異分析を計算し、結果を出力部21に出力する。
以上に示したように、本実施の形態によれば、収集された生産データ・原価データから可能な限り、単一材料で、材料・仕掛品の物理的な加工作業の流れに対応した標準原価計算を実行することができる。
尚、第1の実施の形態においては、時間軸を考慮して説明を行った。ところで、本発明には、時間軸を考慮しない例が含まれるようにしても良い。各構成は、第1の実施の形態において説明した対応する構成と同様である。
例えば、時間軸を考慮しない場合の製品製造原価計算手法は、以下の構成を有する。
(基本構成例)
1. コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるためのプログラムであって、
予めメモリに格納されている
1)加工進捗度軸から成る座標空間により画定される原価計算空間データと、
2)加工作業の投入条件である加工作業投入量関数データと、
3)原価計算対象期間内の生産状況である当期生産データと、
4)与えられた原価計算対象期間内の原価発生状況である当期実際原価データと、を参照し、
前記原価計算空間データ、前記当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアロー、及び、前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量を計算するステップと、
前記アロー経路上の物量を計算するステップにおいて、解マッチングとなれば、
前記加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量と材料投入換算量を計算し、
前記当期実際原価データ、前記加工作業換算量、前記材料投入換算量を読み出し、アローに原価を配分して、前記アローに配分された原価を出力するステップと、を
コンピュータに実行させるための製品製造原価計算プログラム。
(減損がある場合)
2. さらに、予めメモリに格納されている、
5)材料の減損条件である減損関数データを
参照し、
アロー経路上の物量を計算するステップは、さらに、前記減損関数データを読み出す
上記1に記載の製品製造原価計算プログラム。
(追加投入がある場合)
3. さらに、予めメモリに格納されている、
6)材料の追加投入条件である追加投入関数データを参照し、
前記アロー経路上の物量を計算するステップは、さらに、前記追加投入関数データを読み出す
上記1に記載の製品製造原価計算プログラム。
(減損と追加投入がある場合)
4. さらに、予めメモリに格納されている、
5)材料の減損条件である減損関数データと、
6)材料の追加投入条件である追加投入関数データと、を参照し、
前記アロー経路上の物量を計算するステップは、さらに、前記減損関数データと前記追加投入関数データを読み出す
上記1に記載の製品製造原価計算プログラム。
(上記1にアロー図を加えたもの)
5. 前記アロー経路上の物量を計算するステップにおいて、
さらに、前記インプットノードと前記アウトプットノードとが表示されたアロー図を作成するステップを有し、
前記アロー図上に前記アロー、及び、前記アローの経路上の物量の計算結果を表示させるステップを有することを特徴とする上記1から4までのいずれか1項に記載の製品製造原価計算プログラム。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について、基本的な構成例を示す図面等を参照しながら詳細に説明する。
第1の実施の形態では、単一材料の場合の原価計算技術について説明したが、本実施の形態では、複数種類の材料を投入する場合の原価計算技術について説明する。以下の説明は、解説欄の第7章を参照することでより良く理解することができる。
単一材料の場合の各種パラメタには、減損パラメタ(θ)、追加投入パラメタ(φ:ファイ)、アロー経路(path)(アロー経路は時間軸を考慮する場合のみ必要になる)があったが、複数種類の材料を投入する場合は、その始点投入時の投入比率(ψ:プサイ)(ベクトル値)が追加される。
複数種類の材料を投入する場合、物量はベクトル値(第1材料の物量、第2材料の物量、…第N材料の物量)で表示される。単一材料の場合はスカラー値である。
図4は、複数種類の材料を投入する場合の演算処理の流れの一例を示すフローチャート図である。図2A,図2Bと異なる処理(ステップS6a)のみについて説明する。
ステップS6aにおいて、
(「減損関数」)、(「追加投入関数」)、「マッチング」、「アロー経路」をメモリから読み出し、「始点投入時の実際物量比率ベクトル」、(「実際減損パラメタ値」)、(「実際追加投入パラメタ値」)、「アロー経路上の物量」を計算する。但し、「実際減損パラメタ値」や「実際追加投入パラメタ値」は、それぞれ減損や追加投入がある場合のみ演算装置11により計算する。
そして、計算の結果、解マッチングになれば次に進み、解マッチングでなければエラーメッセージを出力し「マッチング」、「アロー経路」の演算装置11への再入力を促す。
次に、複数材料で標準原価計算を行う処理について、図5を参照しながら説明する。図2Bとの相違点は、ステップS9a,S11aであるため、S9aからS11aまでについて説明する。
(S9a)
「始点投入時の標準物量比率ベクトル」、(「標準減損パラメタ値」)、(「標準追加投入パラメタ値」)、「標準アロー経路」、「標準資源消費量関数q(s)」、「標準原価関数p(s)」、「差異分析の順番」を演算装置11に入力する。
(S10)
「実際資源消費量」を演算装置11に入力する。
(S11a)
「始点投入時の標準物量比率ベクトル」、(「標準減損パラメタ値」)、(「標準追加投入パラメタ値」)、「標準アロー経路」、「標準資源消費量関数q(s)」、「標準原価関数p(s)」、「差異分析の順番」、「実際資源消費量」をメモリから読み出し、演算装置11で差異分析を計算し、結果を出力部21に出力する。
このように、本実施の形態においては、複数材料の場合の原価計算に対応することができる。
以上のように、製品製造原価の計算において、収集された生産データ・原価データから可能な限り、材料・仕掛品の物理的な流れに対応した原価計算及び標準原価計算を実行する。特に、製品製造にかかった時間を分析対象に含めた原価計算及び標準原価計算を実行することで、精度の良い原価計算を行うことができる。
以下は、本実施の形態による原価計算技術に関連するより詳細な解説を行った欄である。上記の実施の形態及び下記の特許請求の範囲は、以下の解説欄の説明を参照することで、本実施の形態による原価計算技術を、より良く理解することができる。
(解説欄)
上記の実施の形態の記載は、以下の解説欄(第0章から第9章まで)を参照することでより詳細に理解ができるように構成されている。
第0章:アロー原価計算の基本的方針
アロー原価計算は、可能な限り、物理的な加工作業の流れに厳密に対応した原価計算を実行する。おおまかな手順は以下の通りである。
1)例えば、横軸を経過時間t、縦軸を加工進捗度x(逆でも良い。)とする座標空間を定義する。これを「原価計算空間」と呼ぶ。この原価計算空間上で、今期の生産状況をノード(点)とアロー(矢印)で表現し、それに基づいて今期の原価を完成品や期末仕掛品に配分する。
2)原価計算空間上で、今期の生産データを表す点をプロットする。この点を「ノード」と呼ぶ。ノードには2種類あり、期首仕掛品と当期投入などを表すインプットノードと、当期完成と期末仕掛品などを表すアウトプットノードである。
3)どのインプットノードとどのアウトプットノードが対応しているか(マッチング)を考え、それを矢印で結びつける。この矢印を「アロー」と呼ぶ。また、アローが原価計算空間内をどのように進むかを示す「経路(path)」についても考える。
4)当期において発生したコストを、そのコスト発生メカニズムに注意しながら、ノードやアローに配分する。具体的には、工程始点で投入する材料のコストは当期投入ノードに、そして、工程途中で投入する材料や、加工作業のコストはアローに配分する。
5)インプットノードやアローが向かう先のアウトプットノードにコストを集計する。この集計額が、アウトプットノードのコストを表す。もし、当期完成ノードなら完成品原価となる。期末仕掛品ノードなら期末仕掛品原価として次期の期首仕掛品原価となる。
ここで解説する本発明の目標は、原価計算を、解析学の一応用分野として位置づけることである。これは、物理的な加工作業の流れに厳密に対応した原価計算方法を考えていくと、自然と、解析学として扱わざるをえなくなるからである。
第1章:原価計算空間、生産データ及びアロー図について
(生産データ例1)(今期は、6月1日~6月30日の1ヶ月間とする)
Figure 0007298920000001
本発明においては、t軸を省略して、x軸のみのモデルにすることも可能だが、以下においては、t軸を付けたモデルにより解説する。t軸を無くすことで、容易にx軸のみのモデルに書き換えることができる。
図6のような図をアロー図と呼ぶことにする。また、表1は、生産データ例1であり、今期とは、6月1日~6月30日までの1ヶ月間とする。
まず、図6に示すように、横軸をt(経過時間)、縦軸をx(進捗度)とする直交座標系を例として考える。このうち、以下の式、
≦t≦t, 0≦x≦1
の範囲に囲まれた領域を、「今期の」原価計算空間と定義する。
,t,t,…は原価計算期間の区切りを示す。工場の稼動開始期をt≦t≦tとして、以後、t≦t≦t,t≦t≦t,と期間を更新していく。期間の区切りは、実務的には月単位が一般的であるが、期間の区切りは、任意の単位で良い。また、区切り幅が一定でなくても良い。実際上、月単位の区切りでは、月の日数が28日~31日と一定でないため、実務上も区切り幅は一定にならない。
尚、添え字を簡単にするために、図6等のアロー図において、今期はt≦t≦tとしている。この場合、前期はt_1≦t≦tとして表示する。また、以下の解説では、更に簡略化して、今期を0≦t≦1として表示することもある。
x軸は加工進捗度を示す。x=0が材料投入を、x=1が製品完成を示す。x<0の領域は定義しない。1<xの領域は、製品の追加加工などを考える際に、必要となるかもしれないが、本解説では、定義しないものとする。
この原価計算空間上に、今期の生産データをノード(点)で表示する。ノードは2種類ある。
1)インプットノード:○●型のノードで表示する。期首仕掛分(t=tのライン上のノード)と当期投入分(x=0のライン上のノード)を示す。なお、始点投入分は◎で示すこともある。
2)アウトプットノード: ■型のノードで表示する。当期完成分(x=1のライン上のノード)と期末仕掛分(t=tのライン上のノード)を示す。
他にも、外部から仕掛品を購入して、そのまま生産工程の途中に投入した場合のインプットノード(途中投入インプットノード)や、まだ加下途中だが外部に販売する場合のアウトプットノード(半製品アウトプットノード)もある。これらのノードはx=0,x=1やt=t,t=tのライン上に存在しない。
尚、ノードの点が、軸線上のどちらかに微妙にずれている場合、それを表現するために、ノードの塗りつぶし方を変えるようにしても良い。例えば、図6等に示す例では、第1アウトプットノードはx=1のライン上を少しだけ越えていることを示す。この例では、製品完成時(x=1)に完成量の一定割合が減損で消えることを想定しているが、それだと第1アウトプットノードが減損前と減損後の、どちらの物量を示しているのかが判らなくなってしまうからである。この例では塗りつぶし方を変えることで、黒領域は減損後の物量であることを示している。
今期の生産データに基づいて、すべてのノードの物量Lを入力する。図6は、上記の表1の(生産データ例1)を入力したものである。
図6には、ノードの具体的な(t,x)座標を表示していないが、各ノードの座標は以下の通りである。
1)第1インプットノード (t,x)=(0,2/3) 月初仕掛品100kgに対応
2)第2インプットノード (t,x)=(0,0) 当月投入(6月1日投入分200kg)に対応
3)第3インプットノード (t,x)=(1/2,0) 当月投入(6月16日投入分100kg)に対応
4)第1アウトプットノード(t,x)=(2/3,1)完成品160kgに対応
5)第2アウトプットノード(t,x)=(1,4/5)月末仕掛品100kg(進捗度4/5)に対応
6)第3アウトプットノード(t,x)=(1,1/3)月末仕掛品100kg(進捗度1/3)に対応
ただし、簡略化のため、t軸は、0≦t≦1を今期の範囲としている。また、月初仕掛品はt=0、月末仕掛品はt=1、当月投入はx=0、当月完成品はx=1を意味している。
表1の(生産データ例1)は、どのインプットノードとどのアウトプットノードがマッチングしているかという情報は含まれていないため、後述する解マッチングを求めるためには、別途、先入先出法などのマッチングルールを指定する必要がある。
ロット単位で加工進捗状況を把握している場合などは、以下のようになる。
表2は、生産データ2の例を示す表である。
Figure 0007298920000002
ただし、第2ロットは、その後の加工進捗状況で2つに分離している。
表2の(生産データ例2)は、どのインプットノードとどのアウトプットノードがマッチングしているかという情報も含むため、マッチングルールを指定する必要はない。ただし、(生産データ例2)では、マッチングの情報はあるがアロー経路の情報は含まれていない。そのため、アロー経路については「直線」など、何らかの指定が必要である。
他にも、各ロットの進捗状況を、1日単位で把握しているような場合には、アロー経路の情報まで含んだ生産データになる。
表3は、生産データ3の例を示す表である。
Figure 0007298920000003
Figure 0007298920000004
ただし、この表3の(生産データ例3)は、第1ロット分しか表示していない。
(生産データ例3)では、アロー経路の情報も含んでいる。この場合は、アロー経路が実測されている。
物量の測定単位としては、「(完成品換算での)個数」と「kg(質量)」が主に使われる。他にも、「l(リットル)(体積)」など、様々な単位が使われる。
単位によっては、異なる種類の材料間で保存則(1単位+1単位=2単位)が必ずしも成立しないことがある。保存則が成立しない単位の場合は、適宜調整が必要である。
例えば、「(完成品換算での)個数」単位は、保存則が成立しない典型的な単位である。例えば、自動車工場において、1台の車台に4個のタイヤを取り付けたところで、車が5台に増えるわけではなく、1台のままである。このように、「個数」単位では、始点投入材料をベースとして、材料追加投入や、複数種類の材料などを評価することになる。
「個数」単位では、非常に簡単な調整作業で済むが、単位の種類によっては複雑な調整が必要なこともある。
もし、「(完成品換算量での)個数」以外の単位で、かつ、材料が複数種類存在するような場合などでは、それぞれの種類の材料毎に物量を入力しなければならない。
この場合、物量Lはベクトルで表示される。この問題は第7章で解説する。本章では、さしあたり「kg」単位で測定し、材料は1種類のみとする。
物量Lは、ここでは、インプットノードにはアンダーバーを、アウトプットノードにはオーバーバーを付けることがある。また、インプットノード、アウトプットノードのそれぞれに番号を付ける。例えば、インプットノードは左下に番号(i=1,2,…,I)を、アウトプットノードは左上に番号(j=1,2,…,J)を付ける。
番号を付ける順番には、特に制限はないが、インプットノードであれば座標で、(t,1)→(t,0)→(t,0)の順、アウトプットノードであれば(t,1)→(t,1)→(t,0)の順で番号を付けるのが一般的である。もしくは、すべての期間で完全に1対1マッチングである場合は、投入時点で固定シリアル番号を付与し、あとはずっとそれを維持していく方法もある。
アロー図において、物量Lの大きさを簡単に示すために、●や■の大きさを変えることがある。
全てのノードには、座標も入力されていなければならないが、この例では省略してある。例えば、明らかに、第2インプットノードの座標は(t,0)である。座標は、必要に応じて明示する。
減損や材料追加投入が無ければ、インプットノードの物量Lの合計と、アウトプットノードの物量Lの合計は一致する。図6に示すアロー図では、完成時(x=1)に、完成量の一定割合が減損で消えると仮定しているため、インプットノードの物量Lの合計と、アウトプットノードの物量Lの合計は一致していない。尚、図6の例では、減損率はx=1に到達した時点の物量の2割であることが容易に計算できる。詳しくは2章の解説を参照。
第2章:マッチング、アロー経路及びアロー経路上の物量について
図7は、図6に対応するアロー図(arrow diagram)であり、図6に加えて、マッチング、アロー経路、経路上の物量を示している。
図6に示すアロー図に生産データ(インプットノード、アウトプットノードの座標と物量)を入力した後は、以下の3つを、通常は同時に決定する。
1)マッチング
2)アロー経路(arrow path)
3)アロー経路上の物量
以下において、1)から順番に説明する。
1):マッチングについて
どのインプットノードとアウトプットノードが対応しているかを、マッチングさせる。また、このマッチングを矢印で示したものをアローと呼ぶ。マッチングは、実際のデータとの対応により、3つのreality levelがある。
1-1)reality level 1(実測されたマッチング):マッチングが実測されている場合。
1-2)reality level 2(可能なマッチング):マッチングを推定し、それが現実的に可能な場合。
1-3)reality level 3(不可能なマッチング):マッチングを推定し、それが現実には不可能な場合。tやxが逆方向に進んでいる場合がreality level 3に該当する。例えば、上記の生産データだと、仮に1→3アローという経路を考えると、x(進捗度)が逆方向なので、不可能なマッチングとなる。
ただし、例えば加工作業中にミスが発覚したので加工作業をやり直すケースなどの場合に、xが逆方向に進むケースはあり得る。もし、こういうマッチングが発生した場合には、そのマッチングが妥当かどうかを、個別に検討して判断すべきである。
一つのノードに対して複数のアローが存在する場合、どのアローにどれだけの物量が出て行く(入ってくる)かも求めておく必要がある。もちろん、以下の式が成立しなければならない。
Figure 0007298920000005
Figure 0007298920000006
この式(2.0a)と式(2.0b)をマッチング条件と呼ぶことにする。つまり、マッチング条件とは、1)すべてのインプットノードにおいて式(2.0a)が成立し、かつ、2)すべてのアウトプットノードにおいて式(2.0b)が成立していることである。
マッチング条件を満たす解を「解マッチング」と呼ぶことにする。アロー経路上の物量はアロー経路や、減損パラメタの影響を受けるので、解マッチングは、
Figure 0007298920000007
の値だけでなく、アロー経路や減損パラメタ値などの情報も含む。
一般的に、あるひとつの生産データに対して、解マッチングは無数に存在する。無数に存在する解マッチングの中から一つを選ぶために、マッチングルールを定める必要がある。マッチングルールとは、例えば、「先入先出法」、「平均法」、「後入先出法」などである。具体的な手順は後述する。
なお生産データによっては、マッチングルールを定めた後でも、解マッチングが複数存在することがある。その場合は、reality levelなどを参考にして、現実的に妥当なものを選択する。
単一のインプットノードと単一のアウトプットノードのみが独立してマッチングしている時、これを1対1マッチングと呼ぶ。図7の例では3→3アローのみが該当する。
なお、それ以外のマッチングは、1対多、多対1、多対多マッチングなどと呼ぶ。
複数種類の材料を投入する場合、それぞれの材料種毎にマッチング条件(式(2.0a)と式(2.0b))をチェックする。そして、すべての材料種でマッチング条件を満たす場合を、解マッチングとする。
2):アロー経路について
それぞれのアローの経路を入力する。この経路は、それぞれの仕掛品の加工速度(スピード)を示す。もし、仕掛品が放置されていて全く加工作業が進んでいない場合(経過時間:長)には、経路は水平になり、極めて短期間に加工作業が進めば(経過時間:短)、経路は垂直に近くなる。解マッチングにおけるアロー経路は「今期の」原価計算空間の範囲外に出てはいけない。このアロー経路にも、以下の3つのreality levelがある。
2-1)reality level 1(実測された経路): 経路が実測されている。例えば、原価計算期間が1ヶ月間だとすると、1日単位で進捗状況を把握していなければならない。さらに言えば、1時間単位、究極的には1秒単位である。現実的には極めて難しい。さらに言えば、経路が実測されている以上、マッチングも実測されていることになる。
2-2)reality level 2(可能な経路): 経路を推定し、それが現実的に可能な場合である。アロー経路のどの区間でも、tやxがマイナス方向に進むことが無い場合である。上記の例では、すべてのアローがreality level 2になっている。
2-3)reality level 3(不可能な経路): 経路を推定し、それが現実には不可能な場合である。アロー経路の中に、tやxがマイナス方向に進んでいる区間がある場合である。不可能なマッチングの場合、必ず不可能なアロー経路になってしまう。また可能なマッチングでも、不可能な経路になることがある。
txモデルでは、基本的に、このアロー経路に沿った線積分で種々の必要な計算を行っていく。このため、アロー経路をどうするのかは極めて重要である。最もシンプルな方法としては、直線とすることである。要するに、「そのアローでは、時間当たりの加工スピードが一定である」、と仮定していることになる。
尚、土日祝、夜間などのように、工場が操業していない操業停止期間のアロー経路をどうすべきか、という問題がある。原価計算空間では、横軸(t軸)は時間であるため、工場の操業の有無とは無関係である。そのため、操業していない期間では、時間は進むが加工作業は進まないので、アロー経路は水平(t軸と平行)に進むことになる。原価計算期間が1ヶ月などの場合、土日祝や夜間になるたびにアロー経路を水平にしていくと、多数の水平な区間を含むアロー経路(線積分路)が出現してしまう。多数の水平区間を含むアロー経路はアロー図に表示したときに、少し見辛いかもしれない。そのような場合は、横軸(t軸)を、絶対的な時間、つまり時計・カレンダー通りの時間とするのではなく、相対的な時間、つまり工場が操業している時間としてしまう方法がある。
例えば、ある日の19:00に操業を終えた次の瞬間に、翌日の9:00になって操業が始まるように横軸を設定したり、金曜日の次の日は月曜日になるように設定したりする方法である。このように、土日祝、夜間など、そもそも工場が操業していない期間は、存在していないものとして横軸(t軸)を設定することで、アロー経路に多数の水平区間が含まれるという問題は解決できる。
ただし、この解決法は横軸(t軸)の意味を変えてしまうので、特定の状況下(経過時間によって減損が発生する状況など)では、物量の変化を適切に記述できなくなる可能性が出るなどの問題を引き起こす可能性がある。
これ以外にも、もっと単純に、工場を24時間365日操業しているものとみなして演算を行う解決法もある。
3):アロー経路上の物量について
それぞれのアローにおいて、経路上の物量を求める。マッチングを決定した段階で、既にアローの両端点の物量は求めているが、そのアロー経路に沿った物量の変化を求めなければならない。
もちろん、経路上で物量が一切変化しない(減損も無ければ、材料追加投入も無い)場合は、計算は極めて簡単である。
Figure 0007298920000008
式のようになる。
Figure 0007298920000009
なお、アロー経路上以外の座標においては、物量は定義しない。
減損がある場合(材料追加投入はないと仮定する)の、アロー経路上の物量の計算においては、減損パラメタを求める必要がある。これは、上記例においては、x=1のラインで減損が起きることは判っているが、具体的に何割の仕掛品が減損で消えるかどうかは、工場の生産管理状況に依存するため、事前に減損パラメタの具体的な値が分かるわけではないからである。尚、上記例は非常に簡単なモデルなので、減損率が2割というのは直感的に求められるが、複雑な状況下では厳密に計算する必要がある。
アロー経路上の物量をきちんと計算で求めるには、以下の式のようにすると良い。まず、
Figure 0007298920000010
する)。
Figure 0007298920000011
ただし、
Figure 0007298920000012
Figure 0007298920000013
である。
線積分路はアロー経路であり、▲g′▼は瞬間的な減損量を表す減損関数である。減損関数は
Figure 0007298920000014
ければ省略することもある。ダッシュ“´”記号には、特に意味は無い。瞬間的な変化を示す場合に、“´”を付けているだけである。
また、θは減損パラメタである。減損パラメタは複数存在することもありうる。この場合、減損パラメタベクトルθとなるが、多くの場合でパラメタは一意に識別されていなければならない。
上記例では、減損関数は以下の式となる。
Figure 0007298920000015
ただし、▲i▼はt方向への単位ベクトル、▲j▼はx方向への単位ベクトルであり、▲δ(x)▼はディラックのデルタ関数である。
式(2.2)の減損パターンは、「x=1の減損ラインを通過した瞬間に、残存量の一定割合が減損する」パターンである。
減損量に関して、この例の他にも、「一定量が減損する」パターンや、「投入量の一定割合が減損する」パターンなどもある。また、減損のタイミングも、「時間が経過する(tが進む)につれて減損する」パターン、「加工作業が進む(xが進む)につれて減損する」パターンなどがある。以下にいくつかの例を示す。
(例1)時間が経過するにつれて残存量の一定割合(θ)が減損し、かつ、加工進捗度がaを越えた瞬間に残存量の一定割合(θ)が減損する
Figure 0007298920000016
この時、式(2.1)を求めると次式となる。厳密には、この式はインプットノードを起点とする式(2.1)ではなく、始点投入ノードを起点とする式(5.1)であるが、説明を分かりやすくするため、ここに記載する。
Figure 0007298920000017
Figure 0007298920000018
くは5章を参照すること)。
また、u(x-a)は階段関数であり、次式となる。
Figure 0007298920000019
なお、式(2.2)において式(2.1)を計算すると次式となる。
Figure 0007298920000020
ここで、図7より、減損率(=1-残存率)は2割(0.2)であることが分かっているので、残存率=0.8である。ここで、減損パラメタθを求めると、残存率=e[-θ]となることより、
Figure 0007298920000021
とはなるものの、このような減損パラメタは非常に分かりづらい。
このような例では、減損率をΘとおいて、
Figure 0007298920000022
を新しい減損パラメタΘとして再設定したほうが分かりやすい。或いは、残存率(e[-θ])を新しい減損パラメタとして再設定するほうが分かりやすい。
Figure 0007298920000023
捗度がaを越えた瞬間に投入量の一定割合(θ)が減損する
Figure 0007298920000024
この時、式(2.1)を求めると次式となる。これも、厳密には式(5.1)である。
Figure 0007298920000025
(例3)時間が経過するにつれて一定量(θ)が減損し、かつ、加工進捗度がaを越えた瞬間に一定量(θ)が減損する
Figure 0007298920000026
この時、式(2.1)を求めると次式となる。これも、厳密には式(5.1)である。
Figure 0007298920000027
(例4)減損は起きない
Figure 0007298920000028
自明なことではあるが、この例についても説明する。この時、式(2.1)を求めると次式となる。これも、厳密には式(5.1)である。
Figure 0007298920000029
もちろん、より複雑な減損関数を考慮することもできるが、その分だけ計算も困難になる。
なお、アロー経路上の物量にも、reality levelがある。
1)reality level 1(実測された物量): アロー経路上の物量が実測されている。減損が無いなど、極めて簡単な生産状況ならば実測も可能だが、実際には相当困難である。もちろん、物量が実測されるためには、少なくともマッチングについても実測されている必要がある。
2)reality level 2(可能な物量): 経路上の物量を推定し、それが現実的に可能な場合である。推定のためには、式(2.1)を利用する。経路上のどの区間でも、物量が負にならない場合に対応する。
3)reality level 3(不可能な物量): 経路上の物量を推定し、それが現実的に不可能な場合。経路上のどこかの区間において、物量が負になっている場合に対応する。
もし、「kg」単位で、かつ材料を追加投入しているのでれば、式(2.1)は次式に書き換える。
Figure 0007298920000030
但し、▲h′▼は瞬間的な材料追加投入量を表す材料追加投入関数である。ここでは、材料は1種類と仮定しているので、工程始点(x=0)時に投入した材料と同一の材料を追加投入することを意味する。パラメタφは、材料追加投入パラメタである。もちろん、θとφは一意に識別されていなければならない。
一般に、▲g′▼と▲h′▼は互いに影響を与えているので、▲g′▼の式中に▲h′▼が、そして▲h′▼の式中に▲g′▼が含まれている。その場合は、事前にその方程式を解いておく必要がある。
マッチング、アロー経路、経路上の物量は、一般に、互いに影響を与えてしまうため、この3つはすべてを一括して決定しなければならない。しかし、減損関数が特定の条件を満たす時、どのような解マッチングに対しても、減損パラメタが常に同じ値に定まる。この場合、減損パラメタを、マッチングやアロー経路とは独立して求めることが可能となる。これを「減損パラメタθの解マッチングからの分離定理」、もしくは単に「θの分離定理」や「分離定理」と呼び、その条件を「分離条件」と呼ぶ。
分離条件を満たす場合、まずは、減損パラメタを求めてから、マッチングやアロー経路を考えれば良くなる。従って、このマッチング、アロー経路、アロー経路上の物量を決定するのが非常に楽になる。それに比べて、分離条件を満たさない時は、マッチングが変われば減損パラメタの値も変わってしまうため、この3つを決定するのが難しくなる。
分離条件を満たす減損関数の一例を示すと、次式となる。
Figure 0007298920000031
但し、式(2.4)では減損パラメタθが2つあるが、これは一意に識別されていなければならない。
式(2.2)は、式(2.4)の形式になっているので、分離条件を満たしている。つまり、マッチングに関わらず、減損率は2割となる。更に言うと、式(2.4)はポテンシャルを持っているので、式(2.1)の線積分は、積分路(アロー経路)に関わらず定まる。
材料追加投入がある場合は、材料追加投入パラメタφに関しても分離定理と分離条件が存在する。減損パラメタの時と同様であるため、具体的な中身は省略する。
図8Aから図14までは、減損パラメタが変化する例を示す図である。
図8Aは、マッチングで減損パラメタが変化する例(パターン1)(先入先出法)の例を示すアロー図である。図8Bは、マッチングで減損パラメタが変化する例(パターン2)を示すアロー図である。図9は、減損パラメタの識別可能性について(識別されない例1)を示すアロー図である。図10は、減損パラメタの識別可能性について(識別されない例2)を示すアロー図である。図11は、減損パラメタの識別可能性について(適切に識別される例)を示すアロー図である。図12は、減損パラメタの識別可能性について(矛盾解が生じる例)示すアロー図である。図13は、減損パラメタの識別可能性について(矛盾解の解決法1:グルーピング)示すアロー図である。図14は、減損パラメタの識別可能性について(矛盾解の解決法2:マッチングを探す)示すアロー図である。
(マッチングで減損パラメタが変化する例について)
次に、上記例において、図8A,図8Bに示すように、減損が、減損ラインを越えたら「一定量が減損するパターン」の場合、マッチングにより減損パラメタがどう変化するかについて説明する。
(減損パラメタの識別可能性についての例)
これも参考までに、減損パラメタが「図9,図10: 識別されない(一意に求まらない)」、「図11: 適切に識別される(一意に求まる)」、「図12: 矛盾解が生じる」: 例について示す。
減損関数は次式とする。
Figure 0007298920000032
つまり、加工進捗度が1/2を越えた瞬間に一定量(θ)が減損し、かつ、加工進捗度が1を越えた瞬間にも一定量(θ)が減損する。また、時間経過では減損しない。
(途中投入インプットノード、半製品アウトプットノードについて)
t軸は、0≦t≦1を今期の範囲とした時、期首仕掛品インプットノードはt=0、期末仕掛品アウトプットノードはt=1、当期投入インプットノードはx=0、当期完成品アウトプットノードはx=1のライン上にノードが存在している。基本はこの4種類であるが、これ以外の場所にノードが存在する場合もある。
例えば、t=1/2のタイミングで、進捗度x=0.2の仕掛品を外部から購入し、工程の20%点にそのまま投入して、残りの加工作業を行った場合、そのような途中投入インプットノードの座標は(t,x)=(1/2,0.2)となる。
同様に、加工作業の途中であっても外部に販売できる場合(これを「半製品」と言う)もある。例えば、t=1/3のタイミングで、進捗度x=0.8の仕掛品をそのまま外部に販売した場合、そのような半製品アウトプットノードの座標は(t,x)=(1/3,0.8)となる。
このようなノードがある場合、マッチングが難しくなってしまうので、できればこういうノードはマッチングを実測しておくことが望ましい。
(マッチングルールについて)
この章の最後に、マッチングルールについて説明する。まず始めに、もしも実測されたマッチングがあるなら、当然、その通りにマッチングさせるべきである。実測されたマッチングを行った後で、2個以上のインプットノード、及び、2個以上のアウトプットノードが残っている場合は、事前に定めたマッチングルールに基づいて、マッチングを行っていく。
会計学上の代表的なマッチングルールとしては、「先入先出法」、「平均法」、「後入先出法」がある。もちろん、これ以外のマッチングルールも、そのルールを厳密に定義できるならば、許容される。
数値例として、再び、図6の例を用い、減損は「完成時に、完成量の一定割合が減損する」ものと仮定する。これは減損関数が分離条件を満たしているので、減損率は(マッチングやアロー経路に関わらず)完成量の2割である。減損率2割という情報を使って、マッチングルールの具体的な説明を行う。
なお、インプットノード、アウトプットノードの番号は、図6のように振られているものとする。
1)先入先出法
この方法は、ベルトコンベア式生産のように、先に投入した材料から順に加工作業を行う、と考える方法である。インプットノードもアウトプットノードも、(図6の順に番号が振られているとして)小さい番号から順にマッチングを決めていく。
図7のアロー図が、先入先出法による解マッチングを示しているので、参照する。
(作業手順)
1-1)1→1アローにできるだけ多くの物量を流す(物量で、100→80)。
すると、第1インプットノードから100流した時点で第1インプットノードが空になる(この時点で、第1アウトプットノードには100×0.8=80が流入する)。第1インプットノードからはこれ以上流せないので、次の、第2インプットノードに切り替える。
1-2)2→1アローにできるだけ多くの物量を流す(物量で、100→80)。
すると、第1アウトプットノードに80流した時点で、第1アウトプットノードの物量が80+80=160となり、第1アウトプットノードが満杯になり、これ以上流せなくなる(この時点で、第2インプットノードからは100流している)。第1アウトプットノードへはこれ以上流せないので、次の、第2アウトプットノードに切り替える。
1-3)2→2アローにできるだけ多くの物量を流す(物量で、100→100)。
すると、物量で、100→100流した時点で、第2インプットノードは空に、第2アウトプットノードは満杯になる。よって、インプットノードもアウトプットノードも、次のノードに切り替える。
1-4)3→3アローにできるだけ多くの物量を流す(物量で、100→100)。
すると、物量で、100→100流した時点で、第3インプットノードは空に、第3アウトプットノードは満杯になる。インプットノードも、アウトプットノードも、次のノードはないので、これでマッチングは終了である。
1-5)マッチング条件を満たしているかチェックする。
先入先出法の場合は、最大番号同士のアロー(I→Jアロー。この例では3→3アロー)において、インプットノードが空になり、アウトプットノードが満杯になることが同時に起きると、マッチング条件を満たしている。
まとめると、以下のようになる。
(先入先出法による解マッチング)
1-a)マッチングルール:先入先出法
1-b)アロー経路:任意(ただし、この場合でも、第3章以降の計算において経路を特定しないといけなくなる可能性がある。その場合は、何らかの特定化が必要である。例えば、「直線」など。もちろん、図7の3→3アローのように曲がっていても構わないし、1本1本適当に決めても(少なくとも数理計算上は)構わない。
1-c)減損パラメタ:完成量の2割が減損
表4は、この場合の値を示す表である。
Figure 0007298920000033
2)後入先出法
この方法は、後に投入した材料から順に加工作業を行う、と考える方法である。ほとんどすべてのケースにおいて、現実の生産方法とは異なるマッチングが行われる。図6の順に番号が振られているとして、インプットノードは小さい番号から順に、それに対してアウトプットノードは、大きい番号から順にマッチングを決めていく。具体的な作業手順は、先入先出法に準ずるので、省略する。
(後入先出法による解マッチング)
2-1)マッチングルール:後入先出法
2-2)アロー経路:任意
2-3)減損パラメタ:完成量の2割が減損
表5はこの場合の例を示す表である。
Figure 0007298920000034
Figure 0007298920000035
3)平均法
この方法は、すべてのインプットノードから、同じ比率で各アウトプットノードに物量を流す方法である。今回の例では、第1アウトプットノード:第2アウトプットノード:第3アウトプットノードに対して、2:1:1の比率で物量を流す。
(平均法による解マッチング)
1)マッチングルール:平均法
2)アロー経路:任意
3)減損パラメタ:完成量の2割が減損
表6はこの場合の例を示す表である。
Figure 0007298920000036
このように、減損関数が分離条件を満たす場合は、減損パラメタがマッチングとは無関係に一意に定まるので、それぞれのマッチングルールによる解マッチングを容易に求めることができる。
しかし、もし、減損関数が分離条件を満たしていない場合は、減損パラメタがマッチングによって変化してしまうため、解マッチングを求めることは困難になる。例えば、上記の先入先出法の例において、1→1アローに100→80を流した時点で第1インプットノードが空になると計算できたのは、減損パラメタが2割と分かっていたからであって、減損パラメタの値が分かっていなければ、100→?と、第1アウトプットノードにいくら流入するのかが分からなくなってしまう。このような場合には、どのタイミングでインプットノードが空になるか、そしてどのタイミングでアウトプットノードが満杯になるかが分からなくなってしまい、ノードを切り替えるタイミングが分からなくなってしまう。
これでは、先入先出法による作業手順が、ほぼ実行不可能となってしまう。後入先出法も、同じ問題に直面する。
分離条件を満たしていない状況下で、先入先出法や後入先出法を実行する場合は、以下のような作業手順になる。
1)減損パラメタが理論上とり得る定義域の範囲内で、一番小さい値を代入する。
図6の例では、減損パラメタは完成量の一定割合(Θ)としているので、定義域は0≦Θ≦1となる。よって、Θ=0(減損率0割。つまり、全く減損しない)とする。
2)指定したマッチングルール(例えば先入先出法)に従って、マッチングを行う。
3)出来上がったマッチングがマッチング条件を満たすかどうか判定する。マッチング条件を満たしていれば解マッチングであり、マッチング条件を満たさなければ解マッチングでない。
4)減損パラメタΘの値を少しだけ大きくして(例えばΘ=0.1。減損率1割。)、再度マッチングを行い、マッチング条件を満たすかどうか判定する。以後、この処理を繰り返す。
この作業手順は、要は、すべての可能な減損パラメタΘの値について、マッチング条件を満たしているかどうかを一つずつ判定していくことになる。
もし、複数の解マッチングが存在する場合は、reality levelや減損パラメタの値などの情報を参考にして、最も現実の生産状況に適合的と思われる解マッチングを選択する。
第3章:アロー毎の加工作業換算量ηと、材料投入換算量ζの計算
図15は、アロー毎の加工作業換算量ηと、材料投入換算量ζの計算を行う際のアロー図である。
解マッチングを求めたら、次は、その解マッチングに従って、アロー毎の加工作業換算量ηと、材料投入換算量ζの計算を行っていく。
図15に示すアロー図において、始点投入を表すインプットノード(x=0のライン上のインプットノード)は、◎で表記することがあるが、更に、文字の下に“in”と表記することがある。
始点投入ノードと、当期投入ノードは異なる概念である。始点投入ノードとは、x=0のライン上のノードを指すが、当期投入ノードは、当期において始点投入したノード、つまりx=0かつt≦t≦tのノードのみを指す。つまり、前期において始点投入されたノードは、始点投入ノードであっても当期投入ノードではない。
今期に発生したコストの配分基準となる、加工作業換算量ηと材料投入換算量ζの計算を行う。これは、アロー毎の計算や、インプットノード(当期投入ノード)毎の計算となるため、図15では図を見やすくするために、i→jアローのみを表示している。
加工作業には機械作業、手作業など様々な種類があり、それによって発生するコストのパターンも様々である。ここで、i→jアローに投入された第k加工作業換算量を次式で定義する。
Figure 0007298920000037
ただし▲f′▼は第k作業の瞬間的な加工作業投入量を表す加工作業投入量関数である。▲f′▼には未知パラメタは一切含まれていない。
▲f′▼の簡単な例を示す。
Figure 0007298920000038
式(3.2)は、進捗度xが進むにつれて投入される作業であり、一般的な加工作業は大抵このパターンである。式(3.3)は特定の進捗度でのみ投入される作業であり、例えば特定の進捗度で実施される検査などが該当する。
時間tの経過と共に作業が投入されるパターンが式(3.4)であり、例えば減価償却費などの固定費などが該当する。ただし、原価管理上の目的から、固定費であっても式(3.4)ではなく式(3.2)の形式で計算したほうが良い可能性もあるので、最終的にどうするかは企業の経営判断である。
数理計算上は、tとxがより複雑に絡んだ▲f′▼であっても計算することは可能だが、その▲f′▼の意味を解釈することは難しいと思われる。
Figure 0007298920000039
さと関わりが無いようなケースでは、
Figure 0007298920000040
とした方が良い場合もあり得る。
例えば、レストランで、料理に使うフライパンを洗う作業を考える。このフライパンは大きくて、何人前の注文であっても、同一サイズのフライパンを使うものとする。また、料理を終えるたびに、毎回必ず洗うものとする。この時、フライパンを洗うという作業の手間は、何人前の料理を作ろうが、変わらない(1人前の調理後に洗う手間と、3人前の調理後に洗う手間は変わらない)。こういう場合、投入する食材の量に関係ない式(3.5)の方が適切である。
フライパン洗いに関してさらに言及すると、この手間にダイレクトに影響があるのは、投入した食材が何かである。脂の多い食材であれば、洗う手間は増大するが、脂のほとんど無い食材であれば、洗う手間はかなり軽減される。こういう場合は、投入する食材ごと
Figure 0007298920000041
ルしか考えてないので、この議論は省略する。この論点に関して、詳しくは第7章で議論する。
材料投入換算量ζの計算は以下のようにする。材料投入のパターンには2つあり、1)工程始点で投入するか、2)工程途中で追加投入するか、である。
1)工程始点で投入する材料の場合、当該原価計算期間中の投入換算量は当期投入インプットノードの物量そのものである。つまり、この当期投入インプットノードに関するζは生産データより実測されている。
Figure 0007298920000042
なお、期首仕掛品ノードの場合は、当期より昔の期間において始点投入されているのであるから、当期においては材料を始点投入していない。よって、期首仕掛品インプットノ
Figure 0007298920000043
Figure 0007298920000044
材料を追加投入している場合は、更に、この追加投入分の投入換算量を求める必要がある。これは次式で計算する。
Figure 0007298920000045
arrowの文字は、これがアローに対して跡付けることを明確に示すために付けている。
Figure 0007298920000046
Figure 0007298920000047
ζに付いているアンダーバーやin、arrow、totalなどの添え字は、それが自明の場合には省略されることもある。
詳細に説明すると、ηやζにもreality levelを考えることができる。式(3.1)や式(3.6)などの計算を行って求めたηやζをreality level 2とする。もし、ηやζを実測している場合はreailty level 1である。もちろん、ζに関しては、少なくとも当期投入分のζは実測している訳であるから、材料追加投入がなければ、ζはほぼ実測されていると言って良い。
ηも、例えば、ロットから一部を抜き出して製品検査を行うような場合を考える。この時、検査数量をηとすると、これはアロー単位で実測することも可能で、その場合はreality level 1となる。この場合は、アロー毎の検査数量のブレも認識できる。
これに対して、例えば式(3.1)により計算してηを求めると、reality level 2となる。
自動車工場など一般的な組立工場では、ベースとなる始点投入材料に、各種の部品を取り付けて製品を完成させる。この場合、ベースとなる始点投入材料の物量を「個数」単位で測定しているならば、ηとζは以下のようになる。
製造中に取り付ける部品:部品を取り付けたところで、完成品の個数が増えるわけではない(1台の車台に4個のタイヤを取り付けても車が5台に増えることはなく、1台のままである)。そのため、このような追加投入部品は、物量(台数)の変化をもたらさないので、ζではなくηとして計算、つまり、部品を取り付けるタイミングの加工進捗度で投入される加工作業とみなして計算する。
ただし、製造工程において、「製造中に取り付けた部品A」に対して何らかの加工作業Bが行われるとする。そして、B作業で発生するコストは、すべての車台で同じではなく、部品Aの質量(kg)に比例しているとする。このような場合、加工作業Bの投入量ηBの計算には部品Aの物量(kg)情報が必要となるので、第7章で解説するように、材料の物量を、車台(個数)と部品A(kg)とで別々に把握しないといけない。すると、部品Aの投入は、部品Aの物量(kg)の変化をもたらすので、ηとしては計算できず、ζAとして計算される。
ベースとなる始点投入材料:これはζとして計算する。もっとも、組立工場において、ベースとなる始点投入材料が工程途中で追加投入される事態は想定できない。つまり、式(3.6)は、以下のようになる。
Figure 0007298920000048
Figure 0007298920000049
ングを求めた時点で既に計算されてしまっているから、改めて何か計算しないといけない訳ではない。
●加工作業:これはもちろん、ηとして計算する。
このように、材料であればなんでも、ζの計算が必要になるわけではない。式(3.6)を使ってζを計算する必要があるのは、1)物量を「個数」以外の単位、例えば「kg」単位などで測定しており、かつ、2)材料を追加投入しているケースのみである。
仮に、物量を「kg」単位で評価していても、始点投入のみで追加投入のない材料である
Figure 0007298920000050
特定の条件下では、任意の解マッチングに対して、ηやζが一意に定まる。つまり、ηやζも分離定理と分離条件が存在する。
ηでは、式(3.1)の形状が関係するので、例え減損パラメタで分離定理が成立していても、そのままηの分離定理も成立するわけではない。ηの分離条件の詳細は省略する。
Figure 0007298920000051
加投入パラメタφしか関わっていない。θやφの分離条件と、ζの分離条件についても詳細は省略する。
第4章:ηとζに基づくコストの配分
当期において発生したコストを、各アローに配分する(当期投入材料の場合は当期投入ノードにも配分する)。配分の際、通常はηやζを利用する。またこれに関連して、効率性についても考える。
「η(ζ)→コスト」のモデルでの材料投入・加工作業の効率性は以下の式で定義できる。なお、「η(ζ)」は、「η及びζ」の意味である。
Figure 0007298920000052
Figure 0007298920000053
ている。
式(4.1)と式(4.2)はアローの効率性を示したものだが、アロー単位で効率性を評価する必要が無ければ、当期のアロー全体の評価でとどめることもある。その場合は、以下の式となる。
Figure 0007298920000054
表記法について説明すると、式(4.3)と式(4.4)の分母の二重シグマは、「すべてのアロー」という意味である。「ΣΣj」という書き方ではあるが、必ずしもI×J本のアローが存在している訳ではない。 場合によっては、「ΣΣすべてのアロー」と記述することもある。
(期首仕掛品ノードコストの配分方法)
Figure 0007298920000055
なお、期首仕掛品ノードのコストはすべて、今期より前の期間において発生したコストである。
(今期に投入した材料費や加工費の配分方法)
今期に発生したコストを当期投入ノードやアローに跡付けていくが、それにもreality levelがある。
1)reality level 1(実測されたコスト):当期投入ノード、もしくはアロー単位で発生したコストが実測されている。この場合、コストが直接的に実測されてしまっているため、改めて原価を計算する必然性はない。
そのため、アロー図や原価計算空間、ηやζなどの概念も一切不要ではあるが、この場合でも、ηやζを求めることで、当期投入ノード単位やアロー単位で効率性を評価することが可能となる。
注文住宅など、の1件当たりの金額が大きく、また個別受注生産するような場合でもない限り、このケースはなかなかないと思われる。更に言えば、この場合でも、一般管理費などのコストはアロー単位では発生しないため、一部のコストでは、配分の問題が残る。
2)reality level 2(平均配分されたコスト):当期発生した加工作業コストはηで、当期投入した材料はζの比率で各当期投入ノードやアローに配分する。
この場合、すべての当期投入ノード、すべてのアローで同じ効率性が仮定される。つまり、効率性は当期投入ノード単位やアロー単位ではなく、あくまでも今期の工場全体での効率性しか分からなくなる。
コストを各アロー(インプットノードのコストは適宜、各アローへ配分されている)へ配分した後は、そのアローが向かうアウトプットノードに集計する。このアウトプットノードに集計されたコストが、当該アウトプットノードのコストとなる。
アウトプットノードが完成品ノードであれば、それが完成品原価となる。期末仕掛品ノードの場合は、その集計額がそのまま来期の期首仕掛品ノードのコストとなる。
(η(ζ)→資源消費量(q)→コスト(p)のモデル)
作業効率をより厳密に評価しようとする場合は、「η(ζ)→資源消費量→コスト」のモデルを考える必要がある。資源消費量の例としては、ηが加工作業換算量であれば加工作業時間、ζであれば材料消費量、などである。ηやζに対応する資源の消費量を実測しておくことで、より適切な効率性評価ができる。
具体的には、仮に効率性が悪かった場合に、その原因が資源価格の高騰なのか、資源消費量の増大なのかを識別することが可能となる。「η(ζ)→コスト」モデルでは、この識別ができない。
具体的な計算方法は、資源消費量(q)が1)アロー単位で測定されているか、2)アロー全体でしか測定されていないかで少し変わる。
1)の場合は、アロー単位η(ζ)、アロー単位qが求まっている。コスト(p)はアロー単位qの比率に基づいて各アローに配分する。この場合、アロー単位η(ζ)の情報は、コスト配分のためには必要ない。ただし、効率性の評価の際にはη(ζ)の情報を使うので、η(ζ)を計算することは無意味にはならない。
2)の場合、アロー単位qを推定する必要がある。これは、単純に、当期全体のqを、アロー単位η(ζ)の比率に基づいて各アローに配分する。後は、アロー単位qの比率に基づいてコストpを配分する。
第5章:効率性の評価(標準原価計算)その1(ηとζ)
生産の効率性を評価するためには、製品の生産コストにおいて目標コスト(これを標準原価と言う)を定め、目標コストと実際コストを比較・分析することが有効である。この、コストを比較・分析する方法について考える。
目標コストと実際コストの比較はアロー単位で行うこともできるが、必要なければアロー全体で行うことになる。今回は、基本となるアロー単位の分析を行う。
図16は、標準原価計算のための最も基本的なアロー図である。期首仕掛品インプットノードと、当期完成品ノードが対応している。
太実線で示してあるのが、分析対象のi→jアローである。これを、「実際i→jアロー」と呼ぶことにする。実際アローなので、経路pathに(a:actual)を付けている。
太破線で示しているアローは、期首仕掛品ノードが作られるまでの(推定)実際アローを表す。これを、「(推定)実際o→iアロー」、「インプットノードへの(推定)実際アロー」などと呼ぶことにする。破線なのは、これは推定されたアローだからである。このア
Figure 0007298920000056
る。
なぜこのアローを推定しているかといえば、基本的に原価計算は、「今期に入手可能なデータ」のみから原価計算を行うことを想定している。ところが、「(推定)実際o→iアロー」は昔の期間に関するアローなので、今期のデータではない。そのため、「(推定)実際o→iアロー」は、あくまでも今期のデータから推定したアローとして認識される。
もちろん、毎期きちんとデータを整備していれば、昔の期間のデータも入手可能であるため、その場合は、「実際o→iアロー」を推定でなく、実測することも可能である。この場合は、推定アローではなく、実際アローとして「o→iアロー」を認識することもできると思われるが、恐らく、その場合は減損パラメタなど他の要素もすべて、過去の実際のデータに置き換える必要があるものと思われる。
なお、期首仕掛品ノードが、昔の期において複数のアローが合流してできたノードである場合には、そもそも「実際o→iアロー」というもの自体が存在しなくなってしまう(アローを遡ると、二つ以上の始点投入ノードにたどり着いてしまう)。こういう場合でも、「(推定)実際o→iアロー」なら求めることが可能である。
細点線で示しているアローは、そのノード(第iインプットノードや第jアウトプットノード)を標準的な作業効率で製造した場合にできる標準アローを表す。
これらを、「i→jアローの標準o→インプットiアロー」や「i→jアローの標準o→アウトプットjアロー」と呼ぶことにする。ただし、正確に識別できるように名づけようとするとかえって分かりづらくなるので、その都度、適当に名前を付けた方が良い場合もある。例えば、「インプットノードへの標準アロー」や「アウトプットノードへの標準アロー」などである。
標準アローなので、経路pathに(s:standard)を付けている。標準的な作業効率の水準は、企業の方で目標値として設定するものなので、事前に定められたものである。そのた
Figure 0007298920000057
ドである。よって、ハットは付けていない。
(η(a)、ζ(a)の定義の変更)
昔の期の始点投入ノードを導入すると、i→jアロー上の物量を表す式(2.3)は、次のようにも書き換えることができる。なお、これからの議論では、対象が実際なのか標準なのかを明確にしなければならないため、(a)と(s)を付けて区別していく。
Figure 0007298920000058
Figure 0007298920000059
トノードを起点とした式であり、式(5.1)は第iインプットノードの始点投入ノードを起点とした式である。もちろん、o(a)→iアロー上の物量は、あくまでも仮想的なものにとどまる。
また、ηの計算式(3.1)も、以下のように書き換える。
Figure 0007298920000060
ただし、
Figure 0007298920000061
であり、その具体的な数式は次のとおりである。
Figure 0007298920000062
同様にしてζの計算式も書き換えるのだが、ζは当期投入ノード分とアローへの追加投入分とに区別される。式(5.2)のように書き換える対象は、アローへの追加投入分だけである。つまり、アローへの追加投入分を表す式(3.6)を、次のように書き換える。
Figure 0007298920000063
ただし、
Figure 0007298920000064
であり、これらはそれぞれ、始点投入材料も含んでいる。また、具体的な数式は次のとおりである。
Figure 0007298920000065
Figure 0007298920000066
Figure 0007298920000067
ットノードの場合)。
Figure 0007298920000068
であることに注意して、
Figure 0007298920000069
となる。
Figure 0007298920000070
となることに注意して、
Figure 0007298920000071
となる。以上をまとめると、次式となる。
Figure 0007298920000072
(η(s)、ζ(s)の定義)
次に、式(5.1)~式(5.8)を参考にして、標準(s)の定義を考えていく。対象として
Figure 0007298920000073
に定義する。
Figure 0007298920000074
ただし、
Figure 0007298920000075
ならない総加工作業換算量
Figure 0007298920000076
ばならない総加工作業換算量
ただし、ここで言う標準的な効率とは、減損パラメタ(θ)、材料追加投入パラメタ(φ:ファイ)、アロー経路(path)が標準、という意味である(他にも、資源価格(p)、資源消費量(q)や、複数種類の材料を投入している場合は、その始点投入時の物量比率(ψ:プサイ)などが標準効率の対象となるが、ここでは省略する)。
標準アロー経路は、i→jアローのインプットノード、アウトプットノードのそれぞれに
Figure 0007298920000077
ローのそれぞれで考えることになる。
Figure 0007298920000078
Figure 0007298920000079
Figure 0007298920000080
れる。
Figure 0007298920000081
Figure 0007298920000082
より求めることができる。
Figure 0007298920000083
Figure 0007298920000084
Figure 0007298920000085
ただし、
Figure 0007298920000086
ならない総材料投入換算量
Figure 0007298920000087
ばならない総材料投入換算量
Figure 0007298920000088
Figure 0007298920000089
Figure 0007298920000090
算されている。
Figure 0007298920000091
Figure 0007298920000092
Figure 0007298920000093
算されている。
Figure 0007298920000094
このような、(a)と(s)が混在したηは、差異分析を行う時に使用する。
具体的な計算は、式(5.10)~式(5.15)を参考にして、パラメタを適宜(s)から(a)に置き換えればよい。なお、pathを置き換えるとは、積分路を変えることを意味する。path(a)の下では、基本的に、昔の期のアローo(a)→iアローが積分路として関わってく
Figure 0007298920000095
具体的な計算方法は次の通り。まず、各種パラメタの(a)と(s)の組み合わせをすべての記号の右上に書き続けるのは大変なので、何らかの記号で代用する。例えば、
Figure 0007298920000096
▲l(#)(t,x)▼を求める。path(s)の場合、アローは2本だが、path(a)の場合、アローは実質的
Figure 0007298920000097
計算する。
第6章:効率性の評価(標準原価計算)その2(資源q、コストp、差異分析)
(η(ζ)→資源(q)の(a)と(s))
効率性をきちんと評価するなら、加工作業kに対応する資源消費量qkについても測定する必要がある。材料投入のζに関しては、ζが既に資源消費量qを表していることもあり、その場合は、ζ=qとなり、qは省略される。
この時、効率性の評価は、式(4.1)と式(4.2)を参考にして、次式で定義する。
Figure 0007298920000098
ただし、
Figure 0007298920000099
である。
式(6.1)と式(6.2)では、アローの効率性を示したものだが、アロー単位で効率性を評価する必要が無ければ、当期のアロー全体の評価でとどめることもある。その場合は、式(4.3)と式(4.4)と同様にする。
Figure 0007298920000100
に配分する必要がある場合は、次のようにする。これにもreality levelがある。
1)reality level 1(実測された資源消費量):
Figure 0007298920000101
Figure 0007298920000102
この場合、実は原価を計算するためだけなら、ηやζを計算する必要はない。ただし、加工作業の効率性を評価するためにはηやζが必要である。
2)reality level 2(平均配分された資源消費量):
Figure 0007298920000103
つまり、次式となる。
Figure 0007298920000104
式(6.1)~式(6.4)より、明らかに、reality level 2の配分では、すべてのアローで同じ効率性となっている。
なお、この時のηとζは、(a)、(s)のどちらも入りうるので、式(6.3)と式(6.4)のηとζの右上には(a)や(s)などを付けていない。どちらを使うかは、分析の内容による。
次に、q(s)の定義を考える。これは、次式のとおりである。
Figure 0007298920000105
式(6.5)と式(6.6)では、各アロー単位でq(s)を求めているが、アロー単位で計算する必要が無ければ、アロー全体のq(s)を求めれば済む。その場合は、
Figure 0007298920000106
Figure 0007298920000107
とすれば良い。
Figure 0007298920000108
このように、q(s)とは、q=q(η)やq=q(ζ)といった関数を事前に決めておき、その関数に従ってqを計算したものである。式(6.5)や式(6.6)の具体的な形は、非常に簡単なケースでは次の通りである。
Figure 0007298920000109
ここで更に、固定消費量bやβがゼロの場合、qは、ηやζに完全に比例することになり、この場合、式(6.1)と式(6.2)より、すべてのアローの効率性が一定(aやα)となる。
Figure 0007298920000110
る。
(資源(q)→コスト(p)の(a)と(s))
η(ζ)→資源(q)の時と全く同様にして、次は資源(q)→コスト(p)の効率性を評価する。具体的な数式は式(6.1)~式(6.10)において、qをpに、そしてηやζを対応するqに置き換えるだけである。数式だけ並べておく。
Figure 0007298920000111
Figure 0007298920000112
Figure 0007298920000113
Figure 0007298920000114
を計算する。
(差異分析の一例)
(s)と(a)の差異が、つまりは今期の、標準と実際の差異を表す。ただし、この差異の原因には色々な要素がある。具体的には資源価格(p)、資源消費量(q)、減損量(θ)、材料追加投入量(φ)、アロー経路(path)などがあり、どの要素がどれだけ効いているかを定量的に評価できなければ、どこが非効率だったのかが分かりにくい。
もちろん、各パラメタの(s)と(a)が分かれば、そのパラメタの(s)と(a)を直接比較して、大きく違っているパラメタが、効率が悪い(もしくは、効率が良い)、と判断することもあり得る。ただし、金額ベースで評価するほうが直感的に分かりやすいので、その方法の一例を示す。
(s)と(a)の差異分析は、必要なデータさえ入手できるなら、アロー単位で行うこともできるし、アロー全体で行うこともできる。この例ではアロー全体を想定しているが、アロー単位の場合は、すべての要素にi→jアローを付けていく。
図17に示すように、差異分析では、基本的に、パラメタを一つずつ、(s)から(a)に変えていくことで行う。
pathは、積分路自体が変更される。特に、η(ζ)の他のパラメタが(s)の時に、pathだけ先に(a)に変更してしまうと、昔の期のpathがきちんと推定されていない限り、奇妙な結果になりかねないので注意する。
η(ζ)差異は、path差異とθ差異に分けることができるが、順番により2パターン(材料追加投入パラメタφや、複数種類の材料を投入している場合の始点投入時の物量比率パラメタψがあると、更にパターンは増える)ある。どのような順番でパラメタを変えていくのが望ましいかは、状況による。場合によっては、どの順番で計算しても奇妙な結果になる(パラメタ(a)が(s)より悪い値にも関わらず、有利差異が計算されてしまう、など)時があるので、その場合は、η(ζ)に関する複数のパラメタをまとめて一気に(s)から(a)に変更して済ませることもできる。
capacity差異は、いわゆる操業度差異に相当する。固定費の場合に計算することがある。
第7章:材料が複数ある場合
これまでの議論では、投入する材料は1種類のみと仮定していたが、この章では、図18に示すように、複数種類の材料を投入する場合を考える。
Figure 0007298920000115
に並べた、
Figure 0007298920000116
なるベクトルを、物量ベクトル、もしくは物量ベクトル関数と呼ぶことにする。図18では、基本的なアロー図における、各ノードでの物量ベクトルの表記を示してある。
ここで、すべての材料の物量単位が、例えばkgで揃っているならば、
Figure 0007298920000117
とすることで、式(7.1)は次のように変形できる。
Figure 0007298920000118
ここで、
Figure 0007298920000119
である。このとき、明らかに、物量比率ベクトルのすべての要素の和は1となる。物量単位はkg以外にも、複数種類の材料の物量が合計できるような単位であれば何でも構わないが、場合によっては適宜修正が必要なこともある。
式(7.1)を線積分形式で表現しなおす。物量ベクトルにも(a)と(s)があるが、まずは(a)について考える。
Figure 0007298920000120
Figure 0007298920000121
Figure 0007298920000122
クトルパラメタ)も含むが、ここでは表示していない)が(a)であることを示している。
Figure 0007298920000123
Figure 0007298920000124
に並べて書くのが面倒なので、まとめて表記するために導入しているだけである。
ダッシュ“´”記号にも、やはり特別な意味は無い。瞬間的な変化を示す場合に、“´”を付けているだけである。
複数の材料を投入する場合、ほとんどのケースで、減損パラメタθや材料追加投入パラメタφは複数出現するものと思われる。そのため、θやφはベクトル表記している。もちろん、これらのパラメタは、基本的にはすべて識別可能でなければならない。
例えば、A材料追加投入量はB材料追加投入量に比例する、もしくは、C材料の追加投入量を減らす代わりにD材料の追加投入量を増やす、E材料減損量はF材料減損量に比例する、G材料減損量と同じ量だけH材料を追加投入する…など、各材料の減損量と追加投入量との間には密接な関係があるのが普通である。
Figure 0007298920000125
で、最大で2M本の式から成る方程式ができてしまう。この方程式は、基本的には事前に解いておかないといけない。
Figure 0007298920000126
義する。
Figure 0007298920000127
Figure 0007298920000128
返す関数である。具体的な関数形は、加工作業kの内容によって異なるが、簡単な例を示すと、次の関数形となる。
Figure 0007298920000129
つまり、材料ごとに異なるウェイトを付けて物量の総和をとる。
例えば、複数の材料を容器に入れて加熱するという加工作業を考えてみる。この時、投入した熱量の換算量をηとする。材料を加熱するために投入した熱量は、材料の比熱によって異なっている。そのため、温まりやすい材料に対しては小さなウェイトを、温まりにくい材料に対しては大きなウェイトをつける必要がある。
ここで、
Figure 0007298920000130
となっている場合には、式(7.7)は式(7.2)と同じになってしまい、
Figure 0007298920000131
と、材料の合計物量を表すことになる。
Figure 0007298920000132
種類だけ縦に並べて、
Figure 0007298920000133
これを次のように書き換える。
Figure 0007298920000134
ただし、
Figure 0007298920000135
Figure 0007298920000136
料mごとに個別に行う。そのため、このベクトル表記には、計算上のメリットはあまりなく、単に見やすくするくらいの意味しかない。
(標準(s)の計算について)
次に、標準原価計算の方法について考える。複数材料を投入して製品を作る場合、ノードの物量の認識方法が2パターン存在する。
例えば、当期投入インプットノード→当期完成アウトプットノード、というアローを考える。今期はこの1本しかアローがないとする。材料は2種類あり、A材料とB材料とする。
ここで、当期完成アウトプットノード(合計100kg)の材料内訳が、(A,B)=(80kg,20kg)だったとする。このとき、1)材料内訳(A80kg,B20kg)の完成品を標準的な効率の下で製造する時に必要なη(ζ)を標準(s)と考えるのか、2)合計100kgの完成品を標準的な効率・材料投入比率の下で製造する時に必要なη(ζ)を標準(s)と考えるのか、を選ばないといけない。
パターン1)の場合、これまでの議論と同様、物量を材料1種類ずつ個別に考えてから、ηkやζmの(a)や(s)を計算していけばよい。この場合、このアローの、A材料、B材料の標準始点投入量も、それぞれ個別に計算される。パターン1)では、基本的にこれまでの議論の繰り返しなので、ここではこれ以上取り扱わない。
パターン2)の場合、A材料、B材料の標準始点投入量は個別には計算されない。この場合、始点投入時の物量比率ベクトルを、新しいパラメタ(ψ)として導入することが必要となる。ここでは、このパターン2)の方法について説明する。
まず、標準原価計算用に、η(ζ)の(a)の定義を書き換える。式(5.2)~式(5.4)を参考にして、
Figure 0007298920000137
となる。ただし、
Figure 0007298920000138
である。
また、物量ベクトルは、次のように書き換える。
Figure 0007298920000139
ここで、物量ベクトルを分解すると次のように変形できる。
Figure 0007298920000140
次いで、始点投入時の物量比率ベクトルを新しいパラメタψとして設定する。
Figure 0007298920000141
Figure 0007298920000142
以下のようになる。
Figure 0007298920000143
ただし、
Figure 0007298920000144
式(7.17)は、一見すると式(5.12)と同一だが、式(5.12)が1種類材料モデルでの物量を意味するのに対して、式(7.17)では、合計物量を意味している。式(7.16)と式(7.17)
Figure 0007298920000145
具体的には、次の手順となる。
Figure 0007298920000146
る。
Figure 0007298920000147
式(7.15)~式(7.17)と同様にして、
Figure 0007298920000148
次に、ζ(a)を書き換える。式(5.8)と同様に、次式が成立する。
Figure 0007298920000149
ただし、式(5.6)や式(5.7)と同様、
Figure 0007298920000150
である。
もちろんこれらは式(7.9)~式(7.11)の関係も満たしている(当期投入インプットノー
Figure 0007298920000151
次に、式(5.16)や式(7.21)を参考にして、ζ(s)を定義する。
Figure 0007298920000152
ただし、
Figure 0007298920000153
Figure 0007298920000154
Figure 0007298920000155
これは式(7.16)と式(7.19)を計算する過程で既に求めている。
これまでの議論では、材料の始点投入時は勿論のこと、加工から完成に至るすべての状態において、それぞれの材料が具体的にどの程度存在しているのかを常に把握していた。しかしながら、製造する製品によっては、材料投入時にはどの材料をどれだけ投入したのかを具体的に把握するけれども、その後の加工時や完成時には合計物量のみを把握するだけ、という場合もあり得る。これは、投入した複数種類の材料が加工中に混ざり合ってしまい、具体的な材料の内訳を調べることが困難、もしくは不可能になってしまう場合に起きる。
このような場合の計算方法は2つある。
1)加工中や完成時の材料の存在比率(物量比率ベクトル)を、何らかの適当な方法で推
Figure 0007298920000156
2)材料の始点投入時のみ、合計物量と物量比率ベクトルを考えるけれども、その後はすべての材料の区別をなくしてしまい、(複数種類の材料から成る)合計物量をあたかも単一種類の材料の物量であるかのようにみなして計算する。この方法だと、始点投入時のイン
Figure 0007298920000157
それ以外のノードでは合計物量のみを考え、マッチングやアロー経路上の物量などはすべて合計物量に基づいて計算される。
第8章:数値例
当工場では、工程始点で材料A(kg)と材料B(kg)を投入して、それを加工して製品を製造している。AとBは工程始点でのみ投入し、工程途中での追加投入はない。また、AとBの投入比率は、標準的な投入比率は設定されているものの、実際にはその標準投入比率以外の比率でも製品製造は可能である。
AもBも揮発性の材料のため、時間の経過に比例して一定量ずつ材料が減少していく。なお、AとBでは揮発性の程度が異なっているため、経過時間あたりの減少量はAとBで異なっている。なお、経過時間あたりの減少量にも標準減少量が設定されているが、実際には工程管理の良し悪しによって、減少量は変化する。
AとBにはそれぞれ標準価格(1kgあたり)が設定されているものの、実際には購買活動の良し悪しで実際価格は変化する。
加工作業は主に工員による直接作業で行っている。加工作業には工員賃金以外にも様々なコストが発生し、それらは大別すると、工員の直接作業時間に比例してコストが発生する変動加工費と、経過時間に比例して発生する固定加工費に分けられる。ただし当工場では、工員の直接作業時間を資源消費量の基準として、変動加工費も固定加工費も管理している。
ここで、直接作業時間と、経過時間は異なる概念であることに注意する。直接作業時間とは、工員人数×作業時間の延べ時間で計算されるものであり、実際に加工作業が行われた時間のことである。経過時間とは、材料が工程に投入されてから完成するまでの間に経過した時間のことである。つまり、例えば、加工作業を全く行わず、材料を1時間放置した場合、直接作業時間は0時間で、経過時間は1時間である。また、10人の工員で作業を1時間行った場合、直接作業時間は10時間で、経過時間は1時間となる。このように、直接作業時間とは消費した資源量を表しているのであって、経過時間とは異なる概念である。
(材料の減損や追加投入がない状況の下で)1kgの製品製造に必要な直接作業時間には標準時間が設定されているものの、実際には加工効率の良し悪しによって直接作業時間は変化する。
材料が多くなればなるほど必要な直接作業時間も増加する。具体的には、製品製造に必要な直接作業時間は、AとBの内訳に関わらず、材料の合計重量にのみ比例して増加する。
直接作業時間1時間あたりの変動加工費にも、標準が設定されているが、コスト管理の良し悪しで変化する。固定加工費については、可能資源消費量(capacity)(つまり、当該期間において可能な最大直接作業時間)が設定されているが、実際の資源消費量(実際直接作業時間)は、工場の繁忙・閑散の程度によって変化する。
(標準データ)
1)工程始点で投入される材料の標準投入比率 (A:B)=(0.5:0.5)
2)経過時間1時間あたりの標準減損量 A:2kg B:0kg(適切に管理すれば材料Bは減損しない)
3)材料投入から完成までに必要な標準経過時間 5時間(材料の量で変化しない)
なお、標準的な、経過時間当たり加工作業進捗度は一定とする。
4)材料標準単価(1kgあたり) A:2,000円/kg B:3,000円/kg
5)(材料の減損や追加投入がない状況の下で)
1kgの製品製造に必要な標準直接作業時間 3時間/kg
6)直接作業1時間あたりの標準変動加工費 2,000円/直接作業時間
7)経過1時間あたりの標準固定加工費 60,000円/経過時間
なお、経過1時間あたりの可能直接作業時間は60時間である。
(生産データ)
本日は、10:00に材料を始点投入し、20:00に完成した。この10時間(10:00~20:00)を当期として、原価計算を行う。当期において加工した材料はこれだけであり、期首仕掛品や期末仕掛品は無い。
(実際データ)
1)実際材料始点投入量200kgの内訳 (A:B)=(120kg:80kg)
2)実際製品完成量140kgの内訳 (A:B)=(70kg:70kg)
3)実際経過時間 10時間(これは生産データにも書いてある)。
なお、経過時間あたり加工作業進捗度は一定であった
4)実際材料費 A:200,000円 B:180,000円
5)実際直接作業時間 550時間
6)実際変動加工費 1,000,000円
7)実際固定加工費 700,000円
まず、図19に示すように、アロー図に必要なデータを入力していく。第1インプット
Figure 0007298920000158
1→1アローの1本しかないので、1→1表記は省略しても構わない。実際の経過時間あたり加工作業進捗度が一定だったので、このアローのpath(a)は直線となる。
標準経過時間が5時間と、実際経過時間の半分なので、o(s)→アウトアローの点o(s)の
Figure 0007298920000159
ので、このアローのpath(s)も直線となる。
Figure 0007298920000160
ないのでひとまずおいておく。
Figure 0007298920000161
Figure 0007298920000162
次に、減損パラメタ(実際)▲θ(a)▼を計算する。式(7.5)より、
Figure 0007298920000163
Figure 0007298920000164
ている。
Figure 0007298920000165
Figure 0007298920000166
Figure 0007298920000167
価計算期間における減損量を表すので、経過時間10時間あたりの減損量を意味する。
また、▲θ(a)▼が求まったので、式(8.2)も、次のように求められる。
Figure 0007298920000168
Figure 0007298920000169
Figure 0007298920000170
となる。
上記の式変形中において、この加工作業(工員による直接作業)では、必要な直接作業時
Figure 0007298920000171
た、直接作業を行うことで加工進捗度が進むことから、▲f′(t,x)=(0*i+1*j)▼と定義している。
Figure 0007298920000172
慮しつつ、式(7.21)より、
Figure 0007298920000173
となる。
次に、標準(s)について考える。通常、標準アロー(path(s))は、o(s)→インプットノードと、o(s)→アウトプットノードの2本あるのだが、今回の例では、インプットノードが当期投入ノードのため、o(s)→インプットノードの標準アローは縮退して消滅してい
Figure 0007298920000174
ノードのみ考える。
Figure 0007298920000175
を参考にして、
Figure 0007298920000176
となる。ここで、式(7.20)、つまりアウトプットノードにおいて合計物量が一致する条件より、
Figure 0007298920000177
となる。これにより、式(8.6)は、最終的に次式となる。
Figure 0007298920000178
式(8.8)により、標準アロー経路上の座標の標準物量ベクトルが計算できる。例えば、
Figure 0007298920000179
である。この、式(8.9)の結果が、図19に表示されている。
標準に関するこの結果を要約すると次のようになる。生産データのアウトプットノード140kgを、標準的な条件の下で製造するならば、材料150kg(内訳は(A:B)=(75kg:75kg))を時刻15:00に投入し、5時間経過後の時刻20:00に製品140kg(内訳は(A:B)=(65kg:75kg))を完成させることになる。
Figure 0007298920000180
である。そのため、式(5.9)、式(7.18)により、
Figure 0007298920000181
となる。
Figure 0007298920000182
Figure 0007298920000183
となる。材料追加投入がないので、式(8.12)と式(8.9)は一致する。
Figure 0007298920000184
本的には、式(8.6)~式(8.12)において、関連するパラメタの(a)と(s)の組み合わせを換えるだけである。ここでは式だけ示す。
Figure 0007298920000185
Figure 0007298920000186
Figure 0007298920000187
Figure 0007298920000188
Figure 0007298920000189
次に、q(s)とp(s)について定義する。まず、材料に関しては、ζ(kg)=q(kg)なので、直接、
Figure 0007298920000190
Figure 0007298920000191
となる。
加工費については、直接作業時間qがあるので、まずはq(s)(η)を定義する。標準データより、次式となる。
Figure 0007298920000192
次に、p(s)(q)を定義する。変動加工費をp、固定加工費をpとする。標準データより、次式となる。
Figure 0007298920000193
また式(8.17)に関連して、q(cap)は次の通りである。
Figure 0007298920000194
以上の結果を基にして、差異分析を行う(図20から図22Bまでを参照)。
1)差異分析を行うことによって、パラメタ毎に、効率の良し悪しを評価できる。なお、差異分析の順番はあくまで一例である。これ以外の順番もあり得る。
2)材料の、始点投入時の物量比率ψ差異に関しては、比率パラメタなので、材料Aを増やせば、その分、材料Bは減る。つまり、Aで不利差異が発生する場合、必ずBで有利差異が発生する。そのため、材料のψ差異は、AとBを合計して、
A34,000(不利)+B51,000(有利)=17,000(有利)
と評価するのが良い。
3)この数値例は、材料こそ2種類投入しているものの、それ以外は非常にシンプルで、アローが1本(しかも当期投入インプットノード)しかない。また、材料追加投入もない。線積分も簡単に計算できるような設定なのに、これだけの計算をしないといけない。
もし、アローが1本しかなくても、それが期首仕掛品インプットノードだった場合は、インプットノード側でもpath(s)を考えないといけないので、単純に計算量がほぼ2倍になる。
まして、複数インプットノードと複数アウトプットノードで、マッチングから考えないといけない状況だと、アローが何本も出現するので、計算量はさらに膨大になる。
4)この例では、実際減損量が標準よりも多かったが、その原因としては、1)経過時間あたりの減損量(減損パラメタθ)が標準よりも多かったからか、もしくは、2)だらだらと加工作業に時間をかけすぎたため、標準よりも経過時間(path)が長かったからなのか、の2つが考えられる。
今回は、θとpathのどちらも標準より悪化しているため、どちらも原因ではあるが、差異分析の金額を見ると、どのコストを見ても、path差異の方が大きな不利差異になっていることから、pathの影響の方がより大きいことが分かる。
ただしこの結論は、差異分析の順番によって変わる可能性がある。同じ順番で毎期継続して分析することが重要である。
(参考:従来の方法で差異分析を行うとどうなるか)
ここで、この数値例を従来の方法で計算した場合の結果を示す。従来の方法では、まず標準生産データを作るところから始まる。
今回の数値例の場合は、次のようになる。
Figure 0007298920000195
ただし、このような記述は、既に問題がある。これでは、標準減損が投入量に比例して発生してしまう(投入量:減損量=150:10)ように見えるが、実際は、投入量に関係なく一定量が減損する、というのが今回の状況である。
上記のような標準生産データは、減損量が投入量に比例し、また、進捗度xに関連して減損が発生する状況においてのみ、正しいデータを示す。
従来の方法による差異分析結果は図23から図27にまとめてある。図23が材料A、図24が材料Bに関する差異分析の例を示す図である。
価格差異は、価格p差異のことである。計算方法が同じなので、従来の方法でも同じ結果が得られている。
配合差異は、今回は材料追加投入がないため、始点投入時の物量比率ψ差異と対応している。材料Aと材料Bの合計で考えたほうが良いのでそうすると、20,000円(有利)となる。
歩留差異は、減損θ差異とアロー経路path差異に対応している。もちろん、従来の方法ではこのθ差異とpath差異を区別できない。
今回の数値例の場合、材料Aと材料Bに関しては、概ね、アロー原価計算と従来の方法とで大差は無い。
図25は変動加工費に関する差異分析の例を示す図である。
通常、この図25は直接労務費の差異分析図であるが、今回の例では、直接労務費と変動加工費が一まとめで扱われているので、図25で変動加工費の差異分析を行っている。
予算差異は価格p差異のことである。計算方法が同じなので、金額も一致している。
能率差異が有利差異、つまり、「今期の加工作業の能率が良かった」と判定されてしまっている。しかし、各パラメタの(a)と(s)を比較してみても、どこにも標準より良かったパラメタは存在しておらず、「能率が良かった」などと判断する根拠はない。むしろ、アロー原価計算による差異分析結果を見れば明らかなように、今期はすべてのパラメタで悪い結果となっているのだから、(いかなる観点から見ても)「能率が悪かった」と判断しなければならない。
なぜこのような結果になったかと言えば、従来の方法では、能率を、「作業時間/投入量」と定義しているが、これでは減損の影響が紛れ込んでしまうからである。つまり、「今期の能率が良かった」と判断されたのは、投入した材料が大量に減損したので、結果として、加工しないといけない材料が大幅に減少したからである。
減損の影響は歩留差異に反映させているので、能率差異には紛れ込まないはず、と考えられるかもしれないが、実際には、歩留差異の計算方法自体が現実の減損発生メカニズムに対応していないので、減損の影響が能率差異に紛れ込んでしまっている。
能率差異に減損の影響が紛れ込むのを避けるためには、能率を、「作業時間/投入量」で定義するのではなく、「作業時間/加工換算量η」で定義すればよい。この定義に基づいて差異分析を行ったのが図26である。この別案だと、能率差異が資源消費量q差異と一致する。
この時、η/投入差異がもともとの能率差異から分離してくるが、これは減損量が大きいほど有利差異になってしまうので、このままでは解釈するのが困難である。そこで、η/投入差異は歩留差異と合算して評価するのが良い。η/投入差異+歩留差異は150,000円(不利差異)となり、これは我々の方法の減損θ差異とアロー経路path差異の合計と一致している。もちろん、従来の方法では、この減損の原因がθなのかpathなのかを識別することはできない。
図27に示すように、固定加工費についても、変動加工費と同じく作業時間を基準として差異分析を行っているので、変動加工費の時と同様、能率差異が有利になっている。
第9章:従来の方法との比較まとめ
従来の方法(総合原価計算)は、一見すると、ノードを認識しているようにみえるが、実際にはノードを認識しているのではなく、会計の仕掛品勘定に関する項目を認識しているだけである。例えば、複数の期首仕掛品ノード、当期投入ノード、当期完成ノード、期末仕掛品ノードがある場合、一まとめに括られてしまい、ノードの情報量が減らされる。また、コスト要素毎にノードが認識されてしまっている。
更に、アローが認識されていない。アローを認識しないので、コスト配分は、あくまでもコスト要素毎に認識したノードのマッチングに従って、ノードのコストを比率配分しているだけである。しかしこの方法だと、非常にシンプルな状況を除いて、正確な原価が計算されない。
更には、総合原価計算では、減損(仕損は含めない)をあたかもアウトプットノードであるかのように取り扱っている。これは、会計上、仕掛品勘定の右側に減損費を表示する(実際には、正常減損費は完成品や期末仕掛品に上乗せされて表示される)ためである。
しかし、アロー原価計算の理論によれば、減損は、アウトプットノードとして取り扱われるべきではなく、アロー経路上を進む物量の減少量として定義されなければならない。なおアロー原価計算では、仕損に関しては、基本的には減損と同じ取り扱いをするが、状況によっては異なる取り扱いをする場合もある。例えば、全数仕損はアウトプットノードとして認識することもある。
また、細かい話だが、期首仕掛品を外部購入して材料費と加工費の内訳が分からない場合、従来の方法では平均法による原価計算が計算不能となる。アロー原価計算にはこのような不具合はない。
従来の方法(個別原価計算)では、ノードやアローという用語は使われていないけれども、実はアロー原価計算の一タイプとして考えることが可能である。まず、マッチングは実測された1対1マッチング(reality level 1)のみに限定する。そして、資源消費量qを、アロー毎に実測する(reality level 1)。qを実測しているので、ηは認識しない。ζはζ=qとして認識され、そしてqが必ず実測される。
なお、個別原価計算でも、標準原価管理を行う場合はηやζの(a)と(s)を計算するが、原価計算空間上でηやζを定義している訳ではないので、複雑な生産状況の下では、正確な差異分析は困難である。特に、経過時間tを含んだ場合、正確な差異分析はおよそ期待できない。
1対1マッチングを実測し、qをアロー毎に実測しなければならない個別原価計算は、正確な原価を計算する一方、必要なデータ量が大きすぎて、どの企業でも実行できるような方法ではない。また、だからといって集めるデータを少なくすると、総合原価計算を実行するしかなくなるが、すると不正確な原価しか計算されなくなってしまう。
つまり、従来の方法というのは、計算は正確だけれど必要なデータ量が多い個別原価計算と、必要なデータ量は少ないけれど計算が不正確な総合原価計算、と評価することができる。
それに比べてアロー原価計算は、集めてきたデータから分かる範囲で、可能な限り正確な計算を行う方法と評価できる。もし、質が良く大量のデータを集めてきたならば、計算結果はそれだけより正確なものとなるが、質が悪く少量のデータしかないなら、計算の正確性もそれなりのものとなる。しかしこの正確性の無さは、あくまでも集めてきたデータの質・量に依存しているのであって、計算方法が不正確なのではない(それに比べて、従来の総合原価計算は、そもそも、計算方法自体が不正確なものである)。
新しいポイント
1)「物理的な加工作業の流れに正確に対応した原価計算を行うために必要な、原価計算空間、ノード、アロー、アロー図概念の提案」
集めてきたデータから分かる範囲で、可能な限り、正確な原価計算を実行する(これまでは、正確だけれど必要なデータが多すぎる個別原価計算か、もしくは必要なデータは少なくて済むが計算方法が不正確な総合原価計算、のどちらかしかなかった)。
このために、原価計算空間上でノードとアローを認識し、必要な計算を行う。また、視覚的に理解できるよう、アロー図を考案した。原価計算空間、ノード、アロー、アロー図のアイデアが新しいポイントである。
2)「原価計算空間の、時間t軸への拡張」
原価計算空間として、時間tを導入するtx原価計算空間を考案した。従来の原価計算では、原価計算空間上ではないものの、加工進捗度xは原価計算のための重要な情報として認識されていた。しかし、時間tを正確に考慮して原価を計算する方法は、これまで考えられてきたことは無かった。
これまでに、時間tが考慮されたモデルがいくつか提案されたことはあるが、それは原価計算空間上でηやζを計算するようなものではないので、複雑な生産状況の下では、やはり正確な計算はできない。
原価計算空間として、x軸だけの1次元モデルでなく、t軸x軸の2次元モデルへと拡張し、これにより必要なηやζなどの各種変数の定義もそれに併せて書き換えた。
時間tを、厳密な形で原価計算に導入したことが新しいポイントである。
3)「原価計算空間上における標準原価計算方法の提案」
このモデルによる標準原価計算の方法を提案した。とくにtxモデルでは、効率性の対象としてリードタイム(経過時間)も追加されるので、より正確で、より詳細な差異分析が可能となる。また、工程始点で複数種類の材料を投入している場合でも、正確に始点投入時の物量比率差異を分析する方法も提案した。
標準と実際とを比較して差異を計算するという、標準原価計算のアイデア自体は古くから存在しているが、それを厳密な形で行う方法を提案したことが新しいポイントである。
例えば一例として、加工作業中の減損が標準よりも多く発生した、という状況を考える。アロー原価計算では、この原因として次の3つを考えることができる。1)加工作業中のミスが標準より多かったから、2)経過時間あたりの減損量が標準より多かったから、3)経過時間が標準より長すぎたから、の3つである。これはそれぞれ原因が異なるので、当然、その対策も異なるはずである。しかしながら、従来の原価計算では、時間tが認識されていないので、1)しか認識できない。そのため、原因が2)や3)だった場合、見当はずれな対策を採ってしまう可能性がある。アロー原価計算では、このような危険性は無い。
(解説欄2)
この解説欄2では、いくつかの数値例を基にして、従来の原価計算方法(個別原価計算と総合原価計算)と本発明のアロー原価計算の違いについて説明する。
(例題1)
以下の条件(データ)に基づいて、完成品原価と期末仕掛品原価を計算する。
(条件)
ある工場では、1個の材料を4時間加工して、1個の製品を製造している。材料には材料費がかかり、材料費は前期までは1個あたり@200円であったが、今期は@300円であった。加工には加工費がかかり、加工費は前期までは1時間あたり@10円であったが、今期は@20円であった。
今期の生産データは次のとおりであった。なお加工進捗度は、加工の進み具合を表し、1時間の加工につき25%ずつ増加する。
Figure 0007298920000196
(その他の条件)
生産状況は完全に安定しており、必ず材料1個あたり4時間の加工で製品が完成する。
材料はすべて工程始点で投入される(始点投入材料)。
(例題1 解答・解説)
例題1の問題を考えるには、図28に示す模式図を考えると分かりやすい。
模式図28において、大きい四角が材料(数値は材料費)を、その中の小さい四角が1時間分の加工費(数値は加工費)を表す。4時間の加工で製品が完成するので、小さい四角が4つあれば完成を表す。
図28において、左側が期首時点・材料投入時点を表し、右側が完成時点・期末時点を表す。これが、製造指図書の今期の生産状況を示す。同じ製造指図書No.を結ぶ矢印を右上がりにした場合は、その期において加工が進んだことを示している。例えば、No.200は、今期は加工がまったく進んでいないので、矢印を横ばいにしている。
図28を参照すれば、それぞれの原価は以下の表7に示すようにに計算できる。なお、期首仕掛品とは期首時点での仕掛品(製造途中の製品)のことである。
Figure 0007298920000197
表8に示すように、完成品原価は780円(No.100)、期末仕掛品原価は1,680円(No.200とNo.300)となる。
そして、このように製造指図書単位で製品原価を集計する計算方法を個別原価計算というが、この例題1では、アロー原価計算でも同じ計算を行う。これは、この例題1の状況はあまりにもシンプルすぎて、およそ考えられる合理的な計算方法がこの方法しかないからである(もちろん、より複雑な状況では、個別原価計算とアロー原価計算は異なる計算結果を示す)。
なお、以下にいくつかの留意点を述べる。
まず、No.100とNo.200の期首時点では、両者は同じ加工進捗度(50%)にあり、原価も同一(材料費や加工費が同じ)である。しかし、No.200とNo.300の期末時点では、同じ加工進捗度(50%)にも関わらず、原価は異なっている。これは、No.200が、材料費や加工費が安かった前期までの期間中に加工されていたのに対し、No.300が材料費や加工費が高い今期において加工されているからである。
(例題2)
以下の条件(データ)に基づいて、完成品原価と期末仕掛品原価を計算する。
ある工場では、1個の材料を4時間加工して、1個の製品を製造している。材料には材料費がかかり、材料費は前期までは1個あたり@200円であったが、今期は@300円であった。加工には加工費がかかり、加工費は前期までは1時間あたり@10円であったが、今期は@20円であった。
今期の生産データは次のとおりであった(表9参照)。なお加工進捗度は、加工の進み具合を表し、1時間の加工につき25%ずつ増加する。
Figure 0007298920000198
(その他の条件)
1)生産状況は完全に安定しており、必ず材料1個あたり4時間の加工で製品が完成する。
2)材料はすべて工程始点で投入される(始点投入材料)。
3)この工場では、先に投入した材料から優先的に加工を行う。このため、先に投入した材料から順に完成する(先入先出法)。
(例題2 解答・解説)
従来の原価計算方法の一つである個別原価計算の実行には、生産データが製造指図書単位で把握されていることが必要であるため、この例題2の生産データの場合には、個別原価計算は実行できない。従来の原価計算では、このような場合には、総合原価計算が用いられる。先に投入した材料から優先的に加工作業を行うことを考慮すると、期首仕掛品の中から当期完成品が生産されるので、総合原価計算の計算法は以下の図29,図30のようになる。
よって、総合原価計算による計算結果は次の表10のようになる。
Figure 0007298920000199
このように、総合原価計算においては、材料と加工作業の関連性を切断し、材料費は材料費だけで当期完成品と期末仕掛品とに配分し、同様に、加工費は加工費だけで配分を行う。しかしながら、このような計算方法は、図31のような考え方をしていることになるが、これが現実の製品加工の流れを反映していないことは明らかである。
そこで、本発明のアロー原価計算技術では、現実の製品加工の流れを厳密に反映させるため、図32のように考えるという工夫をしている。
よって、アロー原価計算による計算結果は以下の表11のようになる。
Figure 0007298920000200
Figure 0007298920000201
この表11より、完成品原価は780円(期首仕掛品→当期完成品)、期末仕掛品原価は1,680円(期首仕掛品→期末仕掛品と当期投入→期末仕掛品)となる。
アロー原価計算では、図32に示すように、生産データから材料・仕掛品の加工状況を再現して、原価を計算する。再現の結果、材料・仕掛品の流れは3本(「期首仕掛品→当期完成品」、「期首仕掛品→期末仕掛品」、「当期投入→期末仕掛品」)あることが分かったが、この方向をもつ矢印をアローと呼ぶ。
アロー原価計算では、まずこのアローを求める必要がある。上記の例題2程度の単純な生産データならアローを推定することは容易である。しかしながら、材料の減損や追加投入があるケースではかなり複雑になる。そこで、アローの導出を数理的に行うために、本発明では、加工進捗度を軸とする座標系を導入する(これを原価計算空間と呼ぶ)。
また、模式図を描くのは非常に手間がかかるので、模式図の代わりにアロー図を描くことにする。今回の例題2をアロー図で表現すると図33のようになる。
図33に示すアロー図中において、インプットノード(●)とは期首仕掛品と当期投入を意味し、アウトプットノード(■)とは当期完成品と期末仕掛品を意味する。それぞれのノードに対応する座標に点で表示される。そして、その座標点において物量をLで示す。
尚、当期投入インプットノードは二重丸で示すこともある。
どのインプットノードとどのアウトプットノードが対応するかを、矢印で示す。これをアローと呼ぶ。アロー経路上の物量はl(エル)で示す。
図33に示すそれぞれのアローで、どれだけの材料が当期に投入されたのか(これを材料投入(換算)量といい、ζで示す)を計算する。「期首仕掛品→当期完成品」と「期首仕掛品→期末仕掛品」の二つのアローでは、材料は前期以前に投入されているのであり、当期は材料を投入していない(材料はすべて始点投入材料である)のでζ=0となる。「当期投入→期末仕掛品」アローでは3個の材料が投入されているのでζ=3となる。
それぞれのアローで、どれだけの加工作業が当期に行われたのか(これを加工作業換算量といい、ηで示す)を計算する。今回の加工作業では、製品1個を完成させるために4hの加工作業が必要なので、加工時間が6hの場合、加工作業換算量は1.5個(=6h÷4h/個)となる。
ただし、通常、加工作業換算量は以下のように計算する。
例えば、期首仕掛品→当期完成品アローでは、加工進捗度が50%(=アウトプットノード100%-インプットノード50%)進んでおり、アローの物量が3個であるので、加工作業換算量η=3個×(100%-50%)=1.5個である。この場合には、加工時間のデータが必要ない。
今回のアロー図では、軸はx軸(加工進捗度軸)しかない。そのため、本来なら座標軸は1本で済ませ、その線上にすべてのノードを表示するべきであるが、それだと図が非常に分かりにくくなるので、インプットノード側とアウトプットノード側とで別々にx軸を設定している。
(例題3)
以下のデータに基づいて、完成品原価と期末仕掛品原価を計算する。
Figure 0007298920000202
(その他の条件)
1)加工進捗度80%点において、残存量の一定割合が減損する。
2)材料はすべて工程始点で投入される(始点投入材料)。
3)この工場では、先に投入した材料から優先的に加工を行う。このため、先に投入した材料から順に完成する(先入先出法)。
(例題3 解答・解説)
例題3では(その他の条件)に示したように、減損が発生するケースを考えている。例えば、加工進捗度80%点において仕掛品の全数検査を行い、不合格品は廃棄処分にして合格品にだけ加工作業を継続するような場合がこれに該当する。なお、正確には、検査によって不合格品を取り除いた結果、物量が減少することは減損ではなく仕損と言うが、基本的に計算上の違いはないので、ここでは減損で表記を統一する。
この例題3の生産データに基づいてアロー図を描くと図34のようになる。
各ノードに番号を付けると分かりやすい。そこで、図34では、インプットノードはノードの左下に、アウトプットノードはノードの左上に番号を付けた。また、アローは対応するノードの番号で1→1アロー、などと記載した。
今回の生産データでは、2→2アローの物量から順に求めると分かりやすい。2→2アローは100個の物量が、そして1→2アローは50個の物量が流れることが容易に分かるので、1→1アローは150個がインプットノードから流れ、減損点で120個になることが判明する。
1→1アローは加工進捗度80%(0.8)点を境に物量が変わるので、アローの幅で物量を表現している。なお、150個を検査して30個が不合格で減損し、120個が合格していることから、減損率は20%である。
上記の図34に示すアロー図のように、まずは解マッチングを求める。解マッチングとは、アローの組み合わせと、それらのアローの経路上の物量が生産データと整合する場合に、そう呼ぶ。つまり、解マッチングとは、与えられた生産データから再現された、具体的な加工状況のことである。
解マッチングを求めたら、次はアロー毎に材料投入換算量ζと、加工作業換算量ηを計算する。具体的には、
1)1→1アロー:ζ=0個
2)η=150個×(0.8-0.4)+120個×(1-08)=60個+24個=84個(図35参照)
3)1→2アロー:ζ=0個 η=50個×(0.6-0.4)=10個
4)2→2アロー:ζ=100個 η=100個×(0.6-0)=60個
となる。
これらの計算の後、以下のように原価を配分する。
(期首仕掛品原価の配分)
図34に示すように、期首仕掛品ノードは第1インプットノードだけである。第1インプットノードの200個は、1→1アローへ150個、1→2アローへ50個が流れている。そこで、第1インプットノードの原価125,600円を、(1→1アロー):(1→2アロー)=150:50の比率で配分する。
(当期材料費の配分)
図34に示すように、当期に投入した始点投入材料費は、材料投入量ζを基準にしてアローへ配分する。つまり、当期の材料費70,000円を、(1→1アロー):(1→2アロー):(2→2アロー)=0:0:100の比率で配分する。
(当期加工費の配分)
図34に示すように、当期加工費は、加工作業換算量ηを基準にしてアローへ配分する。つまり、当期の加工費15,400円を、(1→1アロー):(1→2アロー):(2→2アロー)=84:10:60の比率で配分する。
以上をまとめると、表13のようになる。
Figure 0007298920000203
表13に示すように、完成品原価は102,600円(第1アウトプットノードに対応している1→1アロー102,600円)、期末仕掛品原価は108,400円(第2アウトプットノードに対応している1→2アロー32,400円と2→2アロー76,000円)となる。
(例題4)
以下のデータに基づいて、完成品原価と期末仕掛品原価を計算する。
Figure 0007298920000204
Figure 0007298920000205
(その他の条件)
1)加工進捗度30%点と70%点の2箇所において、仕掛品の検査を行う。検査点において、残存量の一定割合が減損する。
2)今期の仕掛品検査の結果、合格率は30%点、70%点とも同じであった。
3)材料はすべて工程始点で投入される(始点投入材料)。
4)この工場では、先に投入した材料から優先的に加工を行う。このため、先に投入した材料から順に完成する(先入先出法)。
(例題4 解答・解説)
アロー原価計算では、より複雑な条件の下でも正確に計算を行うことが可能である。この例題4は、期首仕掛品や期末仕掛品が工程の複数個所に存在しているケースを取り上げている。
まず、減損率(=1-合格率)を求める。今回のような減損発生パターンの場合は、以下のような解法が存在する。
二つの検査点で合格率が等しいので、合格率をθ(0≦θ≦1)とおく。そして、すべてのノードの物量をx=1の地点で評価する。例えば、当期投入の400個は、完成品(x=1)の地点では二つの検査点を越えるので、物量は400θとなる。
そして、x=1の地点で評価した、インプットノードの物量合計とアウトプットノードの物量合計を等式で結んだ式を解く。
Figure 0007298920000206
を解く。この式を解けばθ=-1,1/2となるが、0≦θ≦1の条件からθ=1/2と確定する。つまり、検査点を越えるたびに、材料の50%が合格し、50%が不合格で減損となる。
あとは、先入先出法のルールに従って、各ノードのマッチングを行えば解マッチングが求まる。
図36は、解マッチングを示すアロー図である。
図36において、ζは自明である。
図36において、ηの計算は次の通りである。
1→1アロー:η=100個×(1-0.8)=20個
2→1アロー:η=200個×(0.7-0.5)+100個×(1-0.7)=40個+30個=70個
2→2アロー:η=100個×(0.5-0.5)=0個
3→2アロー:η=200個×(0.3-0)+100個×(0.5-0.3)=60個+20個=80個
3→3アロー:η=200個×(0.2-0)=40個
η合計:210個
従って、原価配分は以下の表15のようになる。期首仕掛品原価は期首仕掛品インプットノードから分岐しているアローの物量の比率で、当期材料費はζの比率で、当期加工費はηの比率で、それぞれ配分する。
Figure 0007298920000207
よって、完成品原価は442,000円+407,000円=849,000円となる。第1期末仕掛品原価は200,000円+208,000円=408,000円、第2期末仕掛品原価は204,000円、期末仕掛品原価(合計額)は408,000円+204,000円=612,000円となる。
(例題5)
以下のデータに基づいて、完成品原価と期末仕掛品原価を計算する。
Figure 0007298920000208
(その他の条件)
1)この工場では、工程始点で材料Aと材料Bを混合投入している。投入比率は、一定でなく、製造指図書ごとに異なる。
2)材料Aは、加工が進むにつれて投入量の一定割合が減損する。つまり、加工進捗度xに比例して減損する。
3)材料Bは減損しない。
4)加工作業Xは、通常の加工作業のことであり、材料Aと材料Bを区別しない。そのため、加工作業Xは合計重量(A+B)に対する加工進捗度の進み具合に比例して加工作業が投入され、コストが発生する。
5)加工作業Yは、特殊な加工作業であり、加工進捗度50%点で、そして材料Aに対して行われる作業である。そのため、加工作業Yは加工進捗度50%点における材料Aの物量に比例して加工作業が投入され、コストが発生する。
(例題5 解答・解説)
アロー原価計算では、複数種類の材料を投入するケースや、材料によって減損発生パターンが異なるようなケースでも正確に計算を行うことが可能である。表16に示すように、この例題5では、製造指図書ごとの生産データが与えられているので、どのインプットノードとどのアウトプットノードが対応するかというマッチングは既に判明している。しかし、物量が材料Aと材料Bの合計しか分かっていないので、解マッチングを求めるためには、それぞれのアローにおける材料Aと材料Bの具体的な物量を計算しなければならない。
まず、#100の始点投入材料300kgのうち、材料Aの始点投入量をaとすると、#100と#200の始点投入時の材料は表17のようになる。
Figure 0007298920000209
減損は材料Aのみに発生し、xに比例して投入量の一定割合が減損することから、完成時における減損率をθとおくと、#100の完成時では材料Aはaθだけ減損する。#200は加工作業がまだx=2/3までしか進んでいないことから、減損も完成時まで進んだときの2/3しか発生していないので、期末仕掛品時点では材料Aは(450-a)θ×(2/3)だけ減損する。
#100の材料Aの減損量は(始点投入量)-(完成品量)=300kg-240kg=60kgであり、#200の材料Aの減損量は同様にして540kg-480kg=60kgである(材料Bからは減損が発生しないことに注意)。
よって、連立方程式
Figure 0007298920000210
を解くことで、a=180,θ=1/3となる。
よって、解マッチングをアロー図で示すと図37のようになる。
当期投入ノードである第1インプットノードと第2インプットノードは、本来は同じ座標(x=0)に位置しているが、それでは非常に見辛くなってしまう。そこで、図37では、第2インプットノードを右にずらして表示している。尚、必要があれば当期完成品アウトプットノードも、左にずらして表示することができる。
この解マッチングに基づいて、材料Aと材料Bの投入量ζとζ、そして加工作業Xと加工作業Yの加工作業換算量ηとηをアロー毎に計算する。
図37を参照して以下のように計算することができる。
(ζとζ
1)1→1アロー:ζ=180kg ζ=120kg
2)2→2アロー:ζ=270kg ζ=270kg
(ηの計算)
1)1→1アロー:η=(300kg+240kg)×(1/2)×(1-0)=270kg分の作業量(図38も参照)
2)2→2アロー:η=(540kg+480kg)×(1/2)×(2/3-0)=340kg分の作業量
(ηの計算)
ηは、x=1/2の点における材料Aの物量を計算する。θ=1/3であることを考えると、x=1/2の点での材料Aの減損量は、始点投入時の割合で(1/3)×(1/2)=1/6となっている。
1)1→1アロー:材料Aの減損量が180kg×(1/6)=30kgなので、
η=180kg-30kg=150kg分の作業量である。
2)2→2アロー:材料Aの減損量が270kg×(1/6)=45kgなので、
η=270kg-45kg=225kg分の作業量である。
よって原価配分は以下の表18のようになる。
Figure 0007298920000211
よって、完成品(#100)原価は627,000円となり、期末仕掛品(#200)原価は889,000円となる。
(例題6a)
当工場では、材料(箱数単位)を製造工程に投入し、製品(kg単位)を製造している。材料投入時に、材料はすべて潰して投入するため、生産データはkg単位で計測される。
以下のデータに基づいて、標準原価計算を行う。
Figure 0007298920000212
Figure 0007298920000213
(その他の条件)
1)材料はすべて始点投入材料である。
2)仕掛品は加工が進むにつれて投入量の一定割合(θ)が減損する。つまり、加工進捗度xに比例して減損する。なお、標準はθ(s)=20%である。θ記号の右上の(s)は「標準」の値であることを示す。
3)材料(箱数単位)の重量には箱によってバラツキがあるが、材料の購入契約上、材料費は単価×箱数で計算される。そのため、重量の重い箱ばかりを購入できれば、重量(kg)あたりの材料費は安くなる。なお、材料の標準重量は材料投入1kgにつき材料2箱、つまり材料0.5kg/箱である。また、標準単価は@100円/箱である。
4)加工作業は主に工員による直接作業で行っているので、直接作業時間を基準にして計算する。(減損がない状況の下で)1kgの製品製造に必要な標準直接作業時間は3時間/kgである。また、直接作業1時間あたりの標準加工費は1,000円/時間である。
(例題6a 解答・解説)
標準原価計算とは、事前に定めた標準製造原価と、実際製造原価とを比較して、どこにどれだけのムダがあったのかを分析する計算方法である。従来の伝統的な標準原価計算の方法では、限定的な条件下でしか正確に計算できないが、本発明のアロー原価計算では、より複雑な条件下でも正確に計算することが可能である。
以下の議論では、「実際」と「標準」を比較する必要がある。これを分かりやすくするために、「実際」の場合は(a:actual)を、「標準」の場合は(s:standard)をつける。
アロー原価計算における標準原価計算は、アロー単位で行うのが基本である。そのため、この例題6aでは、1本のアローのみを考えている。複数のアローが存在している場合は、個別のアロー毎に計算した結果を合計するだけである。そこで、議論を簡単にするために1本のアローのみを考えている。
アローのインプットノードが期首仕掛品ノードか当期投入ノードかによって、標準原価計算の計算方法に違いが生じる。例題6aはインプットノードが当期投入ノードの例である。
解マッチングは自明であるが、アロー図で示すと図39のようになる。
実際の減損パラメタを求める。当期は1→1アローしか存在しておらず、320kgの材料を始点投入し、完成時には320kg-192kg=128kgが減損しているのであるから、減損率は128/320=40%である。つまり、始点投入した材料は加工の進み具合に比例して徐々に減損していき、製品完成時には投入量の40%が減損している。よって、θ(a)=40%である。
Figure 0007298920000214
Figure 0007298920000215
す。
Figure 0007298920000216
を、標準的な生産状況の下で生産したならば、何kgの材料投入で済んだはずか」を考えている訳である。この物量をαkgとおけば、標準的な減損状況の下では20%が減損で消えるので、完成時には0.8αkgになっているはずである。よって、0.8α=192より、α=240kg
Figure 0007298920000217
よって、1→1アローの材料投入量ζは、実際はζ(a)=320kgであり、標準はζ(s)=240kgである。これはどういう意味かといえば、「1→1アローのアウトプットノード(完成品192kg)を作るためには、標準的には240kgの材料投入で済んだにも関わらず、実際には320kgも投入してしまった。つまり、実際減損パラメタが40%と標準(20%)よりも悪かったため、材料のムダが320kg-240kg=80kgも発生してしまった。」ということである。よって、減損θ差異は80kg分の不利差異となる。
減損θ差異を金額で評価すると以下のようになる。
材料投入1kgにつき標準消費量は2箱で、材料1箱の標準単価は@100円/箱であるから、80kg×2箱/kg×100円/箱=16,000円の不利差異、つまり減損率の管理が悪かったために、材料費16,000円のムダが生じた、ということが分かる。
次に、材料の消費数量q差異を計算する。当期は320kgの材料投入を行ったのであるから、標準では、320kg×2箱/kg=640箱の材料消費で済んだはずである。しかし、実際には650箱の材料を消費しているため、10箱分、材料がムダになっていることか分かる。よって、材料消費数量q差異は10箱分の不利差異となる。これは、この例題の設定では、軽い重量の箱ばかりを購入してしまったことが原因と思われる。材料消費数量q差異を金額で評価すると、10箱×100円/箱=1,000円の不利差異となる。
次に、材料の価格p差異を計算する。当期は650箱の材料を消費したのであるから、標準では、650箱×100円/箱=65,000円の材料費がかかったはずである。しかし、実際には58,500円しかかかっていないので、材料費が6,500円も安くなっていることが分かる。よって、材料価格p差異は6,500円の有利差異となる。これは、材料単価を標準よりも安く済ませることができたことが原因と思われる。
尚、q差異は資源消費量q差異と、p差異は価格p差異と呼ぶことがある。これは、q差異とp差異はコスト要素毎に計算されるため、表記を統一したほうが分かりやすいからである。
これをまとめると、表20のようになる。
Figure 0007298920000218
Figure 0007298920000219
次に、図40を参照してη(a)とη(s)を計算する。
1)η(a)=(320kg+192kg)×(1/2)×(1-0)=256kg分の加工作業量
2)η(s)=(240kg+192kg)×(1/2)×(1-0)=216kg分の加工作業量
この意味は、「1→1アローのアウトプットノード(完成品192kg)を作るためには、標準的には216kg分の加工作業で済んだにも関わらず、実際には256kg分も加工作業をしてしまった。つまり、実際減損パラメタが40%と標準(20%)よりも悪かったため、加工作業のムダが256kg-216kg=40kg分も発生してしまった。」ということである。よって、減損θ差異は40kg分の不利差異となる。このように、減損θ差異の影響は、ただ材料投入量ζだけでなく、加工作業量ηにもムダを生じさせるのである。
減損θ差異を金額で評価すると次のようになる。1kgの製品製造のための標準直接作業時間は3時間で、直接作業時間1時間の標準加工費は@1,000円/時間であるから、40kg×3時間/kg×1,000円/時間=120,000円の不利差異、つまり減損率の管理が悪かったために、加工費120,000円のムダが生じた、ということが分かる。
次に、直接作業時間q差異を計算する。
当期は256kg分の加工作業を行ったのであるから、標準では、256kg×3時間/kg=768時間の直接作業時間で済んだはずである。しかし、実際には800時間の直接作業時間を消費しているため、32時間分、直接作業時間がムダになっていることが分かる。よって、直接作業時間q差異は32時間分の不利差異となる。直接作業時間q差異を金額で評価すると以下のようになる。
32時間×1,000円/時間=32,000円の不利差異。
次に、直接作業の1時間あたりの加工費p差異を計算する。当期は800時間の加工作業をしたのだから、標準では、800時間×1,000円/時間=800,000円の加工費ですんだはずである。しかし、実際には880,000円もかかっているので、加工費が80,000円も高くなっていることが分かる。よって、1時間あたりの加工費p差異は80,000円の不利差異となる。
Figure 0007298920000220
この例題6aはζ(a)とζ(s)の差、η(a)とη(s)の差を生み出す要因が減損パラメタθだけであったが、状況によっては、他にも材料追加投入パラメタや、製品加工速度を表すアロー経路pathパラメタ、始点投入時の物量比率ベクトルパラメタなど、様々な要因が複雑に影響することがある。その場合は、どの要因がどれだけの影響を与えているかを分析する必要がある。
(例題6b)
例題6aにおいて、生産データが次のようであった場合の、ζ(a)とζ(s)の差異、及びη(a)とη(s)の差異分析を行う。
Figure 0007298920000221
(例題6b 解答・解説)
この例題6bは、アローのインプットノードが期首仕掛品ノードの場合の標準原価計算の計算方法について解説する。尚、本来ならばζ(a)とζ(s)の差異、及びη(a)とη(s)の差異を求めた後は、q差異とp差異について計算を行うが、q差異とp差異については例題6aの計算方法と変わらないので、この例題6bでは省略している。
この例題も解マッチングは自明であり、図41は解マッチングを示すアロー図である(説明の都合上、このアローはi→jアローとする)。
図41を参照して実際減損パラメタθ(a)を求めると、このアローではx=1/2の地点で
Figure 0007298920000222
比例して減損していくこと考えると、x=1/2の地点では、既に始点投入時の物量のうち72kgが減損していると考えられるため、始点投入時の物量は288kg+72kg=360kgと考えられる。そうすると、投入から完成までの間で発生する減損量は72kg+72kg=144kgとなり、減損率は144/360=40%となる。よって、θ(a)=40%である。標準減損パラメタは、例題6aと同じくθ(s)=20%である。
Figure 0007298920000223
は、次のように計算する。
((1)アウトプットノードを、標準的な状況の下で生産した時のζやη)-((2)インプットノードを、標準的な状況の下で生産した時のζやη)
ここでの必要投入量とは、それぞれ「始点投入時点からアウトプットノード」、「始点投入時点からインプットノード」までの必要投入量である。
このように、期首仕掛品インプットノードの場合のζ(s)やη(s)の計算では、始点投入時のことを考える必要があるため、アロー図において、始点投入ノードを点o(s)として表示している。(s)表記をしているのは、基本的に標準(s)のζやηを計算するときに必要となる座標点だからである。
((1)アウトプットノードを、標準的な状況の下で生産した時のζやη)の計算
Figure 0007298920000224
lの下添え字“in”は、それが始点投入ノードであることを示す。これを使うと、当期投
Figure 0007298920000225
Figure 0007298920000226
省略することがある。
「アウトプットノード(完成品216kg)を、標準的な生産状況の下で生産したならば、何kgの材料投入で済んだはずか」を考えるのだが、この物量をαkgとおけば、標準的な減損状況の下では20%が減損で消えるので、完成時には0.8αkgになっているはずである。よ
Figure 0007298920000227
である。
((2)インプットノードを、標準的な状況の下で生産した時のζやη)の計算
Figure 0007298920000228
「インプットノード(加工進捗度1/2の期首仕掛品288kg)を、標準的な生産状況の下で生産したならば、何kgの材料投入で済んだはずか」を考えるのだが、この物量をβkgとおけば、標準的な減損状況の下では、加工進捗度1/2の時点では、標準減損率20%×(1/2)=10%が減損で消えるので、加工進捗度1/2の時点では0.9βkgになっているはずである。
Figure 0007298920000229
152kgである。
以上の議論により、以下の式、
Figure 0007298920000230
となる。
Figure 0007298920000231
なるので、ηの減損θ差異は35kgの不利差異となる。
(例題7)
以下のデータに基づいて、標準原価計算を行う。
Figure 0007298920000232
(その他の条件)
1)この工場では、工程始点で材料Aと材料Bを混合投入している。投入比率は、一定でなく、製造指図書ごとに異なる。なお、始点投入時の物量比率(ψ)の標準は、(A:B)=(1:1)である。
2)加工進捗度x=1/2の地点で、材料Aを追加投入する。追加投入割合(φ)の標準は、材料Aのx=1/2の地点における残存量と同量(材料A残存量の100%)である。
3)A材料費の標準単価@100円/kg
4)B材料費の標準単価@200円/kg
5)加工作業換算量ηの計算においては、材料Aと材料Bを区別しない。
6)(材料の追加投入がないならば)1kgの製品製造に必要な標準直接作業時間は2時間/kgである。
7)変動加工費は直接作業時間を基準にして計算する。また、直接作業1時間あたりの標準変動加工費は1,000円/時間である。
8)固定加工費も直接作業時間を基準にして計算する。当期における標準固定加工費は1,800,000円であり、当期可能直接作業時間(当期における最大可能な直接作業時間)は900時間である。そのため、直接作業1時間あたりの標準固定加工費は1,800,000円/900時間=2,000円/時間である。
(例題7 解答・解説)
図41のアロー原価計算では、より複雑な条件下でも正確な差異分析が可能である。ここでは、ζ(a)とζ(s)の差、及びη(a)とη(s)の差を生み出す要因として二つの要因、つまり始点投入時の材料Aと材料Bの物量比率(ψ)、そして材料Aの追加投入割合(φ)を考えている(始点投入時の物量比率はベクトル値として与えられるため、ψと太字で表記している)。
変動加工費の説明の箇所で、「(材料の追加投入がないならば)1kgの製品製造に必要な標準直接作業時間は2時間/kgである。」との書き方は少し奇妙に見えるかもしれない。それは、この例では必然的に材料Aを追加投入するのであるから、追加投入のない条件に基づいたデータは無意味と思われるからであろう。これは次のような理由による。
本来、標準的な条件下で1kgの製品を完成させるならば、工程始点で(A1/3kg B1/3kg)を投入し、x=1/2の地点でA1/3kgを追加投入することになる。この時、加工作業量ηを計算すると、η=2/3kg×(1/2-0)+1kg×(1-1/2)=5/6kgとなる。つまり、5/6kg分の加工作業を行うことになるが、「η5/6kgに対して標準直接作業時間○時間」という条件の与え方は、話を複雑にするだけである。もちろん、状況によってはこういう条件の与え方の方が、議論が簡単になることもあり得る。どのように条件を与えるかは、個々の状況に応じて判断する。
「(材料の追加投入がないならば)1kgの製品製造に必要な標準直接作業時間は2時間/kgである。」との書き方は、要は「η1kgに対して標準直接作業時間2時間」と言っている訳である。
なお、η5/6kgに対する標準直接作業時間を求めると、5/6×2時間=5/3時間になる。これが、追加投入を考慮したうえでの、完成品1kgに対する標準直接作業時間である。
この例題7では、変動加工費と固定加工費が区別されている。
変動加工費とは、直接作業時間qに従って発生するような加工費(qはηに従っているので、変動加工費はηにも従っている)であり、電気・ガス・水道代の従量料金部分、(仕事のあるときだけ契約する)アルバイト工員の賃金などが該当する。
固定加工費とは、直接作業時間qやηに関係なく、一定期間中に一定額が発生するような加工費であり、製造設備の減価償却費、電気・ガス・水道代の固定料金部分、(仕事量とは無関係に毎月決められた金額を支払う)正規雇用の工員の賃金(固定月給部分)などが該当する。
解マッチングは自明であり、アロー図は図42のようになる。
図42を参照して実際材料追加投入パラメタφ(a)を求めると、このアローではx=1/2の地点で120kgだった材料Aに対して240kgを追加投入しているので、φ(a)=240kg/120kg=200%である。なお、φ(s)は問題文にあるとおり、φ(s)=100%である。
始点投入時の実際物量比率パラメタψ(a)を求める。投入比率は(A:B)=(120:240)=(1:2)であるが、パラメタψは、ベクトル内のすべての要素の和が1でないといけないので、
Figure 0007298920000233
となる。なお、ψ(s)は、(A:B)=(1:1)という条件より、
Figure 0007298920000234
となる。
次に、ζ(a)を求めるが、この例題7のように、材料を始点投入だけでなく、追加投入も行
Figure 0007298920000235
Figure 0007298920000236
する。
Figure 0007298920000237
Figure 0007298920000238
となる。
Figure 0007298920000239
掛品600kg)を、標準的な生産状況の下で生産したならば、始点投入時には物量合計で何kgの材料投入で済んだはずか」を考える。この始点投入時の物量合計をαkgとおくと、
Figure 0007298920000240
x=1/2の地点で材料Aがα/2だけ追加投入される(φ(s)=100%である)ので、アウトプッ
Figure 0007298920000241
α/2=3α/2)が600kgになるのであるから、3α/2=600 よりα=400kgとなる。アロー
Figure 0007298920000242
ットノード点における材料Aと材料Bの内訳を示している。
よって、以下のようになる。
Figure 0007298920000243
つまり、アウトプットノードの物量合計(x=5/6の期末仕掛品600kg)を作るには、標準的には材料Aは始点投入200kg、追加投入200kgの計400kg、材料Bは始点投入で200kg、加工作業換算量は400kgが必要であったにも関わらず、実際には材料Aは始点投入120kg、追加投入240kgの計360kg、材料Bは始点投入で240kg、加工作業換算量は380kgとなった。この差異は、始点投入時の物量比率(ψ)と追加投入割合(φ)が異なっていたことが要因である。
差異の要因が2つ以上存在する場合、どの要因がどれだけの影響を与えているのかを個別に調べる必要がある。そのためには、次のような計算を行う。
Figure 0007298920000244
どちらを先に置き換えても構わないのだが、一般的には工程の後ろの方に関係するパラメタから先に置き換えていくと、解釈が分かりやすい結果になりやすい。そこで、(ψ)は始点投入時(x=0)の地点のパラメタであり、(φ)はx=1/2の地点のパラメタなので、こ
Figure 0007298920000245
Figure 0007298920000246
品600kg)を、標準的な始点投入時の物量比率(ψ)、実際的な追加投入割合(φ)という生産状況の下で生産したならば、始点投入時には物量合計で何kgの材料投入で済んだはず
Figure 0007298920000247
だけ追加投入される(φ(a)=200%である)ので、アウトプットノードに到達したときの物
Figure 0007298920000248
料Aと材料Bの内訳を示している。
よって、以下のようになる。
Figure 0007298920000249
Figure 0007298920000250
なお、材料Aと材料Bに関しては、投入量ζがそのまま資源消費量qになっている(ζ=q)ので、q差異は存在しない。
差異分析結果をまとめると次のようになる。
(材料Aに関する差異分析)
Figure 0007298920000251
(材料Bに関する差異分析)
Figure 0007298920000252
Figure 0007298920000253
(変動加工費に関する差異分析】(1時間あたりの変動加工費をpと表記する)
Figure 0007298920000254
Figure 0007298920000255
(固定加工費に関する差異分析)(1時間あたりの固定加工費をpと表記する)
Figure 0007298920000256
固定加工費の差異分析にでてくるcapacity差異の意味について説明する。固定加工費は、製造設備の減価償却費のように、直接作業時間に関係なく一定額が発生する加工費である。この場合、製造設備は遊ばせておいても稼動させても、発生する固定加工費は一定であるのだから、できる限り稼動させたほうが経営上望ましい。当期可能直接作業時間900時間というのは、この製造設備を十分に稼働させた場合に達成できる時間のことである。
この例題7では、当期の実際直接作業時間が780時間、可能直接作業時間が900時間であるため、120時間分の稼働能力が遊んでいることを意味している。これを金額で評価すると2,000円×120時間=240,000円となり、この金額だけムダが存在していることが分かる。
追加投入パラメタφ差異の影響は様々なコスト要素に波及する。この例題7では、φ(s)=100%、φ(a)=200%と、標準よりも多くの材料Aを追加投入している。その結果、始点投入分と追加投入分を合わせて考えても、標準よりも多くの材料Aを投入したため、材料Aでφ差異5,000円(不利差異)となっている。これは直感的に明らかである。
φは材料Aに関する追加投入パラメタであり、材料Bは追加投入しないにも関わらず、φ差異の影響は、材料Aの投入量増加という影響を通じて、材料Bの投入量減少ももたらす。材料Bでφ差異10,000円(有利差異)が発生しているのはこれが理由である。
始点投入された材料には、工程進捗度0≦x≦5/6の範囲において加工作業が投入されるのに較べて、x=1/2の地点で追加投入された材料には1/2≦x≦5/6の範囲しか加工作業が投入されない。そのため、追加投入量が増えるほど、必要な加工作業量は減少する。変動加工費と固定加工費においてφ差異が有利差異となっているのはこれが理由である。
すべてのコスト要素のφ差異を合計すると305,000円(有利差異)となる。
始点投入時の物量比率パラメタψ差異も同様に、様々なコスト要素に波及する。標準で(A:B)=(1:1)、実際は(A:B)=(1:2)と、材料Bを多めに始点投入している。その分、材料Aは少なくて済むので、材料Aψ差異9,000円(有利差異)となっている。また当然ながら、材料Bは標準より多く消費しているので、材料Bψ差異18,000円(不利差異)となっている。
変動加工費と固定加工費でψ差異(不利差異)が計上されている。加工作業は材料Aと材料Bとで等しく投入される(例えば、材料Bは材料Aより加工に手間がかかるので、材料B1kgに対する加工作業量は材料A1kgに対する加工作業量の2倍である、などということはない)ので、加工作業換算量ηが投入比率の影響を受けるのは少し不思議かもしれない。
これは、工程始点で材料Bを多めに、そして材料Aを少なめに投入した結果、材料Aの追加投入量も減少(追加投入量は始点投入量に比例していることに注意)したためである。加工作業において有利な追加投入材料が減少したので、加工費でも不利差異が発生したのである。
すべてのコスト要素のψ差異を合計すると189,000円(不利差異)となる。
なお、q差異とp差異は、通常、コスト要素ごとに独立していることが多いので、(φ差異やψ差異のように)様々なコスト要素に影響を与えることはあまりない。例えば、この例題7では、変動加工費と固定加工費の計算基準が共に直接作業時間をqとして使っているくらいで、この直接作業時間q差異が材料費などに影響を与えてはいない。
アロー原価計算による差異分析では、この例題のφ差異とψ差異のように、様々なコスト要素に複雑に影響を与えるような差異であっても、正確に差異分析を実行することが可能である。
従来の伝統的な標準原価計算による差異分析では、原価計算空間上のアローを分析するという数理的な発想がないため、このような複雑な状況に対して正確な差異分析を実行することは非常に困難である。
Figure 0007298920000257
Figure 0007298920000258
(例題8)
次のデータに基づいて、第1当期完成品と第2当期完成品の原価を計算する。
Figure 0007298920000259
(その他の条件)
1)時間の経過と共に物量が一定量ずつ減損する(投入量や残存量に関わらず、常に一定量が減損する)。
2)材料はすべて工程始点で投入される(始点投入材料)。
3)X加工費は、加工進捗度xを基準にして計算する。
4)T加工費は、リードタイムtを基準にして計算する。
5)原価計算期間は11月1日00:00~11月30日24:00までの1ヶ月間である。また、当工場はこの期間中は毎日24時間操業した。
6)第1当期完成品製造において、時間あたりの加工ペースは常に一定であった。
7)第2当期完成品製造において、時間あたりの加工ペース
7-1)11月1日00:00(投入日時)~11月15日24:00までの15日間は、1日あたりの加工進捗度の進むペースは2%で、時間あたりの加工ペースは常に一定であった。その結果、11月15日24:00時点での加工進捗度は30%であった。
7-2)11月16日00:00~11月30日24:00(完成日時)までの15日間は、常に一定であった。
(例題8 解答・解説)
一般的に、製品製造の現場においては、材料投入から完成までのリードタイム(経過時間)を短縮することも重要な課題となっている。しかし、伝統的な原価計算では、計算システムの中にリードタイムの要素が含まれていないため、この課題に上手く対処できない。
アロー原価計算では、原価計算空間にこれまでの加工進捗度軸だけでなく、時間軸を導入することで、このリードタイムの問題についても適切に取り扱うことが可能である。
今回の例題8は、加工費を二つに分けている。X加工費は加工進捗度を基準にして計算することが望ましい加工費であり、例えば加工作業を行うときに発生するような加工費が該当する。T加工費はリードタイムを基準にして計算することが望ましい加工費であり、例えば時間の経過によって発生するような加工費が該当する。アロー原価計算では、どちらの場合でも(更には、もっと複雑な発生様態の費用でも)適切な計算を実行することが可能である。
解マッチングをアロー図で示すと図43のようになる。
0≦t≦1の範囲を当期と設定している。当期は11月1日00:00(t=0)から11月30日24:00(t=1)までの期間なので、11月15日24:00はt=1/2となる。
1→2アローの経路途中にある▲マークは、途中地点の座標を示す。●はインプットノードを、そして■はアウトプットノードを意味してしまうため使えないので、他の記号として▲マークを使っている。
これまでの、加工進捗度軸しかないアロー図においては、アローの矢印(→)は、どのインプットノードとどのアウトプットノードが対応しているかを示しているだけであったが、図43のような、時間軸を含めたアロー図においては、この矢印は加工ペースも示すことになる。つまり、「何月何日何時の時点で、加工進捗度は○○であった」という情報を含んでいる。そのため、この矢印は折れ線や曲線のような形状を取ることもある(時間あたりの加工ペースが速ければ垂直に近くなり、遅ければ水平に近くなる)。
この例題8では、1→1アローは投入から完成までの期間中(0≦t≦1/2)で「時間あたりの加工ペースは常に一定であった」という条件が存在するので、アローは直線ということが分かる。1→2アローは(0≦t≦1/2)と(1/2≦t≦1)で加工ペースが異なるので折れ線になっている。
減損パラメタθは次のように計算する。まず、「tが1期経過するとθkgだけ減損する」と考える。すると、1→1アローではtが1/2だけ進んでいるからθ/2だけ減損し、1→2アローではtが1だけ進んでいるからθだけ減損する。合計すると3θ/2が減損している。生産データより、当期投入量300kg、完成品は合計で80kg+160kg=240kgなのだから、トータルでは300kg-240kg=60kgが減損している。よって、3θ/2=60よりθ=40kgとなる。つまり、1期間経過すると40kgの材料が減損してしまう。
あとは、1→1アローではθ/2=20kgが減損して第1アウトプットノードになっている
Figure 0007298920000260
図44は、例題8のηXとηTの計算例(1→1アロー)を示す図である。
図45は、例題8のηXとηTの計算例(1→2アロー)を示す図である。
ηは、
Figure 0007298920000261
Figure 0007298920000262
となる。
よって原価配分は次のようになる。
Figure 0007298920000263
(例題9a)
次のデータに基づいて、ζ(a)とζ(s)の差異、及びη(a)とη(s)の差異分析を行う。
Figure 0007298920000264
(その他の条件)
1)時間の経過と共に物量が一定量ずつ減損する(投入量や残存量に関わらず、常に一定量が減損する)。標準減損量は、1期間あたり32kgである。
2)材料はすべて工程始点で投入される(始点投入材料)。
3)X加工費は、加工進捗度xを基準にして計算する。
4)T加工費は、リードタイムtを基準にして計算する。
5)時間あたりの加工速度は常に一定であった。標準リードタイムは半期(1/2)であり、標準加工速度は常に一定である。
(例題9a 解答・解説)
この例題9aでは、時間軸と加工進捗度軸を考慮したモデルにおける標準原価計算の方法を説明する。なお、本来ならばζ(a)とζ(s)の差異、及びη(a)とη(s)の差異を求めた後は、q差異とp差異について計算を行うが、q差異とp差異についてはこれまでの議論と変わりないので、この例題9aでは省略している。
この例題の解マッチングは自明であり、アロー図は図46に示すようになる(説明の都合上、このアローはi→jアローとする)。
減損パラメタθ(a)は、t=0に投入した材料152kgがt=1には104kgに減少しているので、減損量は152-104=48kgである。よってθ(a)=48。なお、問題文よりθ(s)=32。
アロー経路のことをpathと言う。加工進捗度・時間軸モデルでは、このpathが標準と実際とで異なることに注意する。上記のアロー図において、path(a)とは、アウトプットノードまでの実際のpathを意味するのに対し、path(s)とは、アウトプットノードまでの標準のpathである。標準では、リードタイムは1/2であり、アウトプットノードの完成日時はt=1であるので、標準的にはt=1-1/2=1/2の時点で材料を投入することが分かる。また、標準加工速度は常に一定であるので、このアローpath(s)は直線となる。この結果、始点投入点の座標も、実際の始点投入点は(t,x)=(0,0)だが標準では点(1/2,0)となり、異なる座標になる。
Figure 0007298920000265
となる。
標準ではt=1/2の時点で材料αkgを投入し、標準リードタイム1/2が経過する間にθ(s)×1/2=32×1/2=16kgが減損し、アウトプットノード104kgになるので、α-16=104
Figure 0007298920000266
Figure 0007298920000267
となる(path(s)の経路に従って計算することに注意)。
次に、この(s)と(a)のずれの要因として、この例題では二つの要因、つまり減損パラメタθと、アロー経路pathの二つがあるが、どちらの方がより大きな影響を及ぼしてい
Figure 0007298920000268
に置き換えるべきかだが、pathはできるだけ(s)のままの方が、解釈が分かりやすい結果
Figure 0007298920000269
標準ではt=1/2の時点で材料βkgを投入し、標準リードタイム1/2が経過する間にθ(a)×1/2=48×1/2=24kgが減損し、アウトプットノード104kgになるので、β-24=104
Figure 0007298920000270
Figure 0007298920000271
となる(path(s)の経路に従って計算することに注意)。
まとめると次のようになる(q差異、p差異はこれまでの議論と同じなので省略する)。
Figure 0007298920000272
Figure 0007298920000273
Figure 0007298920000274
これによれば、θとpathの両方とも、実際パラメタは標準パラメタよりも悪化しているが、その悪影響はpathの方が大きいこと、特にT加工費に関しては非常に深刻なことが分かる。よって、製造工程を見直すならば、まずはpathの改善、つまりリードタイムの改善を図るべきである。
もし、リードタイムを改善すると減損パラメタθが悪化してしまうようなトレードオフの状況であっても、減損パラメタの悪化がそこまでひどくなければ、リードタイムを改善したほうが全体として望ましいかもしれない。
アロー原価計算では、このような製品製造工程の改善において、時にトレードオフが存在するような複雑な状況に直面しても、関連するすべての要因を統合して評価することができるため、工場全体として最適となる意思決定に必要な情報を提供可能である。
(例題9b)
次のデータに基づいて、ζ(a)とζ(s)の差異、及びη(a)とη(s)の差異分析を行う。
Figure 0007298920000275
(その他の条件)
1)時間の経過と共に物量が一定量ずつ減損する(投入量や残存量に関わらず、常に一定量が減損する)。標準減損量は、1期間あたり32kgである。
2)材料はすべて工程始点で投入される(始点投入材料)。
3)X加工費は、加工進捗度xを基準にして計算する。
4)T加工費は、リードタイムtを基準にして計算する。
5)時間あたりの加工速度は常に一定であった。標準リードタイムは半期(1/2)であり、標準加工速度は常に一定である。
(例題9b 解答・解説)
この例題9bは、時間軸と加工進捗度軸を考慮したモデルにおいて、アローのインプットノードが期首仕掛品ノードの場合の標準原価計算の計算方法について解説する。解マッチングは自明であり、アロー図は図47に示す図のようになる(説明の都合上、このアローはi→jアローとする)。
減損パラメタθ(a)は、t=0時点の物量128kgがt=1/2では104kgに減少しているので、減損量は128-104=24kgである。1/2期間で24kgの減損なので、1期間では48kgが減損する。よってθ(a)=48。なお、問題文よりθ(s)=32。
この例題では、path(s)は2本、つまりアウトプットノードへのpath(s)とインプットノードへのpath(s)の2本が存在している。
Figure 0007298920000276
となる。
Figure 0007298920000277
となる。
Figure 0007298920000278
となる。
まとめると次のようになる(q差異、p差異はこれまでの議論と同じなので省略する)。
Figure 0007298920000279
Figure 0007298920000280
Figure 0007298920000281
Figure 0007298920000282
ここからは、アロー原価計算におけるその他の論点について説明する。
(例題10)
次の生産データに基づいて、解マッチングを求めなさい。
Figure 0007298920000283
(その他の条件)
1)加工進捗度80%点において、(アローの物量に関わらず)一定量が減損する。
2)材料はすべて工程始点で投入される(始点投入材料)。
3)この工場では、先に投入した材料から優先的に加工を行う。このため、先に投入した材料から順に完成する(先入先出法)。
(例題10 解答・解説)
この例題は、減損パラメタθが解マッチングからの分離条件を満たさない場合の、解マッチングの算出方法について説明する。例題の趣旨は解マッチングを求めることであるので、原価データなどは省略している。
まず、減損量をθkgとおく。加工進捗度80%点を通過すると、θkgだけ物量が減損する。このとき、0≦θである。
生産データのノードをアロー図上で表示すると、図48に示すようになる。
解マッチングを求めるには、θに色々な値を代入し、すべてのデータが矛盾のない結果になるかどうかを逐一判定していくことで行われる。例えば、まずはθ=0kgを考える。
先入先出法のルールに基づき、1→1アローから順に考える。インプットノードは空になり次第、そしてアウトプットノードは満杯になり次第、次のノードに移行する。最後のアロー(この例題では2→2アロー)まで物量を流し終えたとき、データに矛盾がなければ解マッチングである。
図49は、アロー図(θ=0の場合)である。
同様に、θの値を色々と変えてみながら、解マッチングを探す。
図50は、アロー図(θ=10の場合)である。図51は、アロー図(θ=20の場合)である。図52は、アロー図(θ=30の場合)である。図53は、アロー図(θ=40の場合)である。
θが40を超える場合は解マッチングにならないことが直感的に明らかなので、ここで計算を打ち切る。よって、θ=30の場合のみが解マッチングとなる。
このように、減損パラメタθが分離条件を満たしていない場合は、逐次的にθの値を変えてみて、データと整合するθの値を探索することになる。
実は、今回の例題ではこれ以外の解マッチングは存在しないが、状況によっては複数のθの下で解マッチングが成立することがある。その場合は、より現実的に妥当なものを解マッチングとして選択すればよい。
例えば、もしも材料追加投入量や減損量が判明しているならば、それと整合的な解マッチングを選択すべきである。
他には、アロー経路の一部区間で物量がマイナスになっているような解マッチングは、解マッチングの条件を満たしているとはいえ、現実的な妥当性は低いだろう。論文中のreality levelとは、この現実的な妥当性を評価するための基準である。
(例題11)
次のアロー図(図54)で示される生産データに基づいて、先入先出法による解マッチングを求める。なお、材料の減損や追加投入はない。図54は、アロー図(生産データのみ)である。
(例題11 解答・解説)
加工作業がある程度進んだ仕掛品を外部から購入し、工程途中に投入することがある。これを途中投入インプットノードといい、原価計算空間の(境界線上でなく)内部にインプットノードが出現する。この例題では第1インプットノードがそれに該当する。
また、加工作業途中の仕掛品であるが、外部に販売することがある。これを半製品アウトプットノードといい、こちらも原価計算空間の(境界線上でなく)内部にアウトプットノードが出現する。この例題では第2アウトプットノードがそれに該当する。
先入先出法の定義は、アローが交差しないことであり、解マッチングのアロー図は図55に示すようになる。図55は、アロー図(先入先出法の解マッチング)である。
1→1アローと2→1アローでアウトプットノードを共有しているが、これは交差しているとはいわない。同様に、2→1アローと2→2アローでインプットノードを共有しているが、これも交差しているとはいわない。
アローが交差しているとは、例えば次のような状態を指す。
図56は、アロー図(先入先出法ではない解マッチング)である。
この図56では、1→2アローと2→1アローが交差している。先入先出法とは、このようなアローの交差がひとつも存在しないマッチングルールのことをいうため、この図56で示されるマッチングは、解マッチングではあるものの、先入先出法ではない。
なお、時間軸と加工進捗度軸を考慮したモデルにおいて、途中投入インプットノードや半製品アウトプットノードが存在する場合には、図55で示した解マッチング以外にも、先入先出法による解マッチングが存在することがある。それは、例えば次のようなものである。
図57は、アロー図(先入先出法の解マッチングの別の例)である。
この図57で示される解マッチングも、アローが交差していないので先入先出法の条件を満たしている。
このように、マッチングルール(例えば先入先出法)を定めても、なお複数の解マッチングが存在する場合には、より現実の生産状況に適合的と考えられる解マッチングを選択する必要がある。
今回の例題では、明らかに図57の解マッチングには問題が存在している。つまり、2→1アローの一部区間において、t軸(時間軸)を逆方向に進んでしまっている(アロー経路のreality level 3)が、これは現実にはあり得ない事である。よって、今回の例題では、図57の解マッチングは棄却し、図55の解マッチングを採択するのが妥当であろう。
(例題12)
ある作業Kの作業量は資源kの消費量で測定される。また、この消費量はアロー単位で測定している。
次の生産データに基づいて、作業Kの加工作業投入量関数を推定する。
Figure 0007298920000284
(その他の条件)
1)当期の範囲は0≦t≦1とする。
2)減損や追加投入はない。
3)#100も#200も、時間あたりの加工ペースは常に一定であった。
4)作業Kは、加工作業を進めるときにも必要になるが、時間の経過によっても必要になる作業である。
5)作業Kは、物量の大きさに比例して必要な作業量も増加する。
6)作業Kの作業量は、#100と#200で同じであった。
(例題12 解答・解説)
アロー原価計算では、加工作業投入量関数▲f′▼は既知であり、未知パラメタが含まれてはいけない。しかしながら、実際には、▲f′▼が具体的にどうなっているのかが良く分からない加工作業も存在している。その場合は、▲f′▼を分析者が決定することになるが、必要なデータが揃うならば、▲f′▼を生産データなどから推定することも可能である。
解マッチングは自明であり、アロー図で示すと図58のようになる。
次に、加工作業投入量関数▲f′▼の関数形を考える。問題文に示される条件、「作業Kは、加工作業を進めるときにも必要になるが、時間の経過によっても必要になる作業である」から、
Figure 0007298920000285
と考えるのが妥当である。
aとbが未知パラメタであり、これをデータから推定する。
なお、今回の例題も含め通常は、▲f′▼のパラメタaとbの相対的な差のみに興味があることが多い。そこで、一般性を失うことなく、
Figure 0007298920000286
とすることができる。
次に加工作業換算量ηの関数形を考える。問題文に示される条件、「作業Kは、物量の大きさに比例して必要な作業量も増加する」から、
Figure 0007298920000287
と考えるのが妥当である。
なお、このηはパラメタaとbの値によって変化するため、η(a,b)と書いている。
また、今回の例ではアロー単位で計算可能なので、ηの左側に添え字i→jをつけている。問題の設定によっては、複数アローの合計η値しか分からないこともありうる。その場合は適宜調整する。
#100のアローより、
Figure 0007298920000288
となる。
同様に、#200のアローより、
Figure 0007298920000289
Figure 0007298920000290
となる。
問題文に示される条件、「作業Kの作業量は、#100と#200で同じであった」から、
Figure 0007298920000291
となる。この条件と、a+b=1の条件より、
Figure 0007298920000292
となる。
よって、加工作業投入量関数▲f′▼の推定値は
Figure 0007298920000293
となる(推定値なのでハットを付ける)。
このように、生産データから加工作業投入量関数▲f′▼を推定することが可能となる。
(例題13)
ある作業Kの作業量は資源kの消費量で測定される。また、この消費量はアロー単位で測定している。
次の生産データと資源k消費量データに基づいて、作業Kの加工作業投入量関数と資源消費量関数を推定しなさい。
Figure 0007298920000294
(その他の条件)
1)当期の範囲は0≦t≦1とする。
2)減損や追加投入はない。
3)#100も#200も、時間あたりの加工ペースは常に一定であった。
4)作業Kは、加工作業を進めるときにも必要になるが、時間の経過によっても必要になる作業である。
5)作業Kは、物量の大きさに比例して必要な作業量も増加する。
6)作業Kの作業量と、資源kの消費量は比例している。
(例題13 解答・解説)
加工作業投入量関数▲f′▼を推定する際に、それ以外の関数も同時に推定することがある。例えばこの例題では、資源消費量関数qを同時に推定する。
解マッチングは自明であり、アロー図で示すと図59のようになる。
次に、加工作業投入量関数▲f′▼の関数形を考える。問題文に示される条件、「作業Kは、加工作業を進めるときにも必要になるが、時間の経過によっても必要になる作業である」から、
Figure 0007298920000295
と考えるのが妥当である。aとbが未知パラメタであり、これをデータから推定する。なお今回も、a+b=1を仮定する。
次に加工作業換算量ηの関数形を考える。問題文に示される条件、「作業Kは、物量の大きさに比例して必要な作業量も増加する」から、
Figure 0007298920000296
と考える。
次に、資源消費量関数qの関数形を考える。ここでは最も単純に、線型の関数形を考えて、
Figure 0007298920000297
とする。
Figure 0007298920000298
をつけている。
ここで、パラメタ(今回の例では、a,b,c,d)を推定するための方法を考える。一つの方
Figure 0007298920000299
この最小二乗法解の時のRが最大化するようにaとbを決定する。
つまり、
Figure 0007298920000300
である。これで、すべてのパラメタ(a,b,c,d)を推定できる。
ただし、今回の例題では、条件よりいくつかのパラメタに制約が付いていることと、データが2つしかなくて誤差項を完全にゼロにできることから、非常に簡単にパラメタを求めることができる。
まず、a+b=1と仮定されている。
次に、問題文に示される条件、「作業Kの作業量と、資源kの消費量は比例している」から、資源の定量消費部分dはゼロ(d=0)と推測できるので、
Figure 0007298920000301
となる。
#100のアローより、
Figure 0007298920000302
となる。
同様に、#200のアローより、
Figure 0007298920000303
となる。これらの条件と、a+b=1の条件より、
Figure 0007298920000304
となる。この時、誤差項は
Figure 0007298920000305
となり、誤差項の二乗和も最小の0となる。
Figure 0007298920000306
となる(推定値なのでハットを付ける)。
このように、生産データなどから加工作業投入量関数▲f′▼や資源消費量関数qを推定することが可能となる。
今回の例では加工作業投入量関数▲f′▼と資源消費量関数qを推定したが、与えられるデータによっては、加工作業投入量関数▲f′▼原価関数pを推定することもある。更には、加工作業投入量関数▲f′▼、資源消費量関数q、原価関数pをすべて同時に推定することもありうる。
処理および制御は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)によるソフトウェア処理、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)によるハードウェア処理によって実現することができる。
また、上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
また、本実施の形態で説明した機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。尚、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また前記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。機能の少なくとも一部は、集積回路などのハードウェアで実現しても良い。また、ソフトウェアの形態は、パッケージ商品として実施することの他に、クラウドのシステム(工場の原価計算担当者がweb経由で生産データや原価データを原価計算会社のシステムに送信し、原価計算会社のシステムで計算した後、計算結果を工場に送り返す形態なども含まれるものである。
本発明は、製品製造原価計算装置として利用可能である。
A 原価演算システム
1 記憶装置
1-1 原価計算空間データ記憶部
1-2 減損関数データ記憶部
1-3 追加投入関数データ記憶部
1-4 加工作業投入量関数データ記憶部
1-5 当期生産データ記憶部
1-6 当期実際原価データ記憶部
11 演算(計算)装置
11-1 アロー経路上の物量演算部(ベクトルを含む)
11-2 解マッチング判定部
11-3 加工作業換算量/材料投入換算量演算部
11-4 アロー配分原価演算部
11-5 差異分析演算部
21 出力部

Claims (1)

  1. コンピュータに、製品製造原価計算を実行させるためのプログラムであって、
    原価計算空間データ、当期生産データを読み出し、入力されたマッチングに基づいてインプットノードとアウトプットノードとを結ぶアローを、
    原価計算空間内で、以下の要素をすべて含むものとして定義し、
    a)前記アローの始点となるインプットノード、
    b)前記アローの終点となるアウトプットノード、
    c)前記アローの経路であるアロー経路、
    d)前記アローの経路上の物量であるアロー経路上の物量、
    前記アロー経路上の物量を計算するステップであって、前記アロー経路上の任意の点における物量は、すべての座標で、前記インプットノードの座標における前記アロー経路上の物量と同一であるとして計算し、
    与えられた生産データに基づいた具体的な製品加工状況を、前記アローによって再現することで、すべてのインプットノード及びすべてのアウトプットノードのそれぞれにおいて、各ノードの物量と、そのノードに関係するすべてのアローの、当該ノードの座標におけるアロー経路上の物量の合計が一致するとき、そのアローの組み合わせとして定義される解マッチングとなれば、
    加工作業投入量関数データ、前記アロー経路上の物量データを読み出し、加工作業換算量と材料投入換算量を計算し、
    当期実際原価データ、加工作業換算量、材料投入換算量を読み出し、アローに原価を前記加工作業換算量、前記材料投入換算量に基づいて按分するステップと、を
    コンピュータに実行させるための製品製造原価計算プログラム。
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