JP7295635B2 - 積層体、電子部品およびインバータ - Google Patents
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Description
そこで、本発明は、シート性を良好にしつつ、絶縁性及び放熱性に優れた積層体を提供することを課題とする。
[1]熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体と、前記熱伝導体の表面上に設けられ、かつ熱伝導性フィラーを含有する絶縁樹脂層とを備える積層体であって、
前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面側の比誘電率が、前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の比誘電率よりも低く、
前記絶縁樹脂層の溶剤含有量が50ppm以上2000ppm以下である、積層体。
[2]前記絶縁樹脂層は、前記熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域が少なくとも未硬化物又は半硬化物である上記[1]に記載の積層体。
[3]前記絶縁樹脂層は、前記熱伝導体が設けられる面側の領域が少なくとも半硬化物又は硬化物である上記[2]に記載の積層体。
[4]前記熱伝導体が設けられる面側の領域の硬化率が50%以上であり、
前記熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域の硬化率が80%未満であり、
前記熱伝導体が設けられる面側の領域の硬化率が、前記熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域の硬化率よりも大きい上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の積層体。
[5]前記熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素を含み、
前記窒化ホウ素は、少なくとも前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面側の領域に含有される上記[1]~[4]のいずれか1項に記載の積層体。
[6]前記熱伝導性フィラーが、アルミナを含み、
前記アルミナが、前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域に含有される上記[1]~[5]のいずれか1項に記載の積層体。
[7]前記アルミナのアスペクト比が、2以下である上記[6]に記載の積層体。
[8]前記熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素を含み、
前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域には、さらに窒化ホウ素が含有される上記[6]又は[7]に記載の積層体。
[9]前記熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素を含み、
前記熱伝導体が設けられる面側の領域、及び前記熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域がいずれも窒化ホウ素を含み、
前記絶縁樹脂層において、熱伝導体が設けられる面側の領域における窒化ホウ素の含有率が、前記熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域における窒化ホウ素の含有率よりも高い上記[1]~[8]のいずれか1項に記載の積層体。
[10]前記熱伝導体の厚さが0.03mm以上3mm以下である上記[1]~[9]のいずれか1項に記載の積層体。
[11]上記[1]~[10]のいずれか1項に記載の積層体を備える電子部品。
[12] 上記[11]に記載の電子部品を備えるインバータ。
<積層体>
本発明の積層体10は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体11と、熱伝導体11の表面上に設けられ、かつ熱伝導性フィラーを含有する絶縁樹脂層12とを備える。絶縁樹脂層12においては、熱伝導体11が設けられる面(一方の面12X)側の比誘電率が、熱伝導体11が設けられる面とは反対の面(他方の面12Y)側の比誘電率よりも低くなる。さらに、絶縁樹脂層12は、溶剤含有量が50ppm以上2000ppm以下となるものである。
(溶剤含有量)
絶縁樹脂層12における溶剤含有量は、上記のとおり50ppm以上2000ppm以下となる。溶剤含有量が50ppm未満となると、絶縁樹脂層12の湿潤性が失われて、絶縁樹脂層12が脆くなり、積層体10のシート性が低下する。さらには、熱伝導体11との密着性も低下する。一方で、2000ppmより大きくなると、残存する絶縁樹脂層12中の溶剤により、熱伝導体11との密着性や絶縁樹脂層12の絶縁性が低下したりする。
シート性の観点から、絶縁樹脂層12の溶剤含有量は、100ppm以上が好ましく、150ppm以上がより好ましい。また、熱伝導体11との密着性や絶縁樹脂層12の絶縁性を向上させる観点から、絶縁樹脂層12の溶剤含有量は、1200ppm以下が好ましく、800ppm以下がより好ましい。
なお、絶縁樹脂層12の溶剤含有量は、後述する実施例に記載する方法により測定できる。
絶縁樹脂層12は、一方の面12X側の比誘電率が、他方の面12Y側の比誘電率より低ければよいが、これらの比誘電率の差は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。比誘電率の差をこれら下限値以上とすることで、電界集中を緩和させて積層体10の絶縁性を確保しやすくなる。
比誘電率の差は、特に限定されないが、実用性の観点から、例えば10以下、好ましくは7以下である。
他方の面12Y側の比誘電率は、絶縁性を高める観点から、例えば、4以上11以下、好ましくは5以上10以下、さらに好ましくは6以上9以下である。絶縁樹脂層12は、絶縁樹脂層12の全厚みに対して、他方の面12Y側から一定の厚さの領域の比誘電率が上記範囲内であればよいが、具体的には少なくとも10%の厚さの領域の比誘電率が上記範囲内であればよく、少なくとも20%の厚さの領域の比誘電率が上記範囲内であることが好ましい。
なお、本明細書において比誘電率は、周波数1MHzにおける比誘電率をいう。比誘電率は、後述の実施例に記載の方法にて測定することができる。
絶縁樹脂層12は、他方の面12Y側の領域が少なくとも未硬化物又は半硬化物であることが好ましい。上記のように、絶縁樹脂層12の他方の面12Yには、後工程において、導電層などが積層されるが、絶縁樹脂層12の他方の面12Y側の領域を未硬化物又は半硬化物とし、かつ、導電層を積層した後に絶縁樹脂層12の他方の面12Y側を硬化すると、導電層と絶縁樹脂層12との接着性が高められる。
また、他方の面12Yから一定の厚さの領域の硬化率は、1%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。
なお、絶縁樹脂層12は、絶縁樹脂層12の全厚みに対して、他方の面12Yから一定の厚さの領域の硬化率が上記範囲内であればよいが、具体的には少なくとも10%の厚さの領域の硬化率が上記範囲内であればよく、少なくとも20%の厚さの領域の硬化率が上記範囲内であることが好ましい。
また、一方の面12Xから一定の厚さの領域の硬化率は、100%以下であればよいが、例えば、95%以下であってもよい。
なお、絶縁樹脂層12は、絶縁樹脂層12の全厚みに対して、一方の面12Xから一定の厚さの領域の硬化率が上記範囲内であればよいが、具体的には少なくとも10%の厚さの領域の硬化率が上記範囲内であればよく、少なくとも20%の厚さの硬化率が上記範囲内であることが好ましい。
上記した硬化率は、後述するように、例えば、第1の絶縁層と第2の絶縁層12Bの硬化温度、硬化時間などの硬化条件を適宜設定することで調整できる。また、第1の絶縁層12Aの熱硬化剤の含有量を、第2の絶縁層12Bの熱硬化剤の含有量より多くすることでも調整できる。
したがって、第1の絶縁層12Aの比誘電率は、第2の絶縁層12Bの比誘電率よりも低くなり、第1の絶縁層12Aの比誘電率、及び第2の絶縁層12Bの比誘電率の具体的な値は、上記で述べた一方の面12X側の領域の比誘電率、他方の面12Y側の領域の比誘電率の通りである。
そして、第1の絶縁層12Aの硬化率、第2の絶縁層12Bの硬化率、及びこれら硬化率の差の具体的な値は、上記で述べた一方の面12X側の領域の硬化率、他方の面12Y側の領域の硬化率、及びこれら硬化率の差の通りである。
本発明では、2つの絶縁層12A,12Bを設けることで、絶縁樹脂層12の比誘電率、及び硬化特性を上記した所定の範囲内に容易に調整することが可能になる。
絶縁樹脂層12は、熱伝導性フィラーを含む。絶縁樹脂層12は、熱伝導性フィラーを含有することで、熱伝導性が高くなり、積層体10の放熱性が良好となる。熱伝導性フィラーは、無機フィラーであり、その熱伝導率が10W/m・K以上のものである。熱伝導性フィラーは、1種のみが用いられてもよいが、2種以上が併用されることが好ましい。
積層体10の熱伝導性をより一層高める観点からは、熱伝導性フィラーの熱伝導率は好ましくは15W/m・K以上、より好ましくは20W/m・K以上である。熱伝導性フィラーの熱伝導率の上限は特に限定されないが、熱伝導率が300W/m・K程度である無機フィラーは広く知られており、また熱伝導率が200W/m・K程度である無機フィラーは容易に入手できる。
また、窒化ホウ素は樹脂層などに含有させると、その樹脂層は一般的に脆くなるが、本発明では、溶剤含有量を上記のとおり一定値以上とすることで、絶縁樹脂層12が脆くなりにくく、そのため、積層体10のシート性が良好になる。
なお、窒化ホウ素は、第1の絶縁層12A(一方の面12X側の領域)、及び第2の絶縁層12B(他方の面12Y側の領域)のいずれにも含有させてもよい。その場合には、以下でも詳細に述べるように、一方の面12X側の領域の比誘電率を低くするために、一方の面12X側の領域における窒化ホウ素の含有率が、他方の面12Y側の領域における窒化ホウ素の含有率よりも高いほうが好ましい。
なお、窒化ホウ素及びアルミナの形状などは、より詳細には、後述する第1のフィラー、第2のフィラーで説明するとおりである。
本発明の熱伝導性フィラーは、板状フィラー(「第1のフィラー」ともいう)を含有することが好ましい。板状フィラーを含有することで、熱伝導性が良好となりやすい。第1のフィラーは、その材質を上記したものから適宜選択すればよいが、好ましくは窒化ホウ素である。窒化ホウ素を使用することで、熱伝導性、絶縁性を良好にしやすくなり、比誘電率も低くしやすくなる。また、第1のフィラーは、好ましくは、後述する第2のフィラーよりも比誘電率が低くなるものである。また、第1のフィラーは凝集粒子を構成することが好ましい。
絶縁樹脂層12は、板状フィラーや凝集粒子を含有すると、シート性が低下するおそれがあるが、上記したように、溶剤含有量を一定範囲内とすることで、シート性の低下が抑制される。
本発明において、アスペクト比は、各フィラー(一次粒子)における最大長/最小長を意味する。最小長は、板状フィラーにおいては厚さとなる。本明細書において、アスペクト比は平均アスペクト比であり、具体的には、任意に選択された50個の粒子を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、各粒子の最大長/最小長の平均値を算出することにより求められる。
平均粒子径は、堀場製作所社製「レーザー回折式粒度分布測定装置」を用いて測定することができる。平均粒子径の算出方法については、累積体積が50%であるときの熱伝導性フィラーの粒子径(d50)を平均粒子径として採用する。
本発明の熱伝導性フィラーは、上記した板状フィラー以外の熱伝導性フィラーを含有していてもよい。そのようなフィラーとしては、アスペクト比が2以下である熱伝導性フィラー(以下、「第2のフィラー」ともいう)が挙げられる。
第2のフィラーのアスペクト比は、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.5以下である。このようにアスペクト比が低い熱伝導性フィラーを使用することで、シート性や絶縁性などを低下させることなく、熱伝導性を高めることが可能になる。第2のフィラーのアスペクト比は、1以上であればよい。
第2のフィラーの形状は、特に限定されないが、球形、破砕形状などが挙げられる。また、第2のフィラーの材質は、上記したものから適宜選択すればよいが、第2のフィラーは、好ましくはアルミナである。
さらに、一方の面12X側の領域(すなわち、第1の絶縁層12A)及び他方の面12Y側の領域(すなわち、第2の絶縁層12B)のいずれにも、低誘電率フィラーを含有させ、一方の面12X側の領域における低誘電率フィラーの含有率を、他方の面12Y側の領域における低誘電率フィラーの含有率より高くしてもよい。なお、ここでいう低誘電率フィラーの含有率とは、各フィラーが含有される領域(例えば、各絶縁層)の質量に対する、低誘電率フィラーの含有量の割合を意味する。
なお、低誘電率フィラーは、例えば上記した第1のフィラーであり、例えば窒化ホウ素である。また、高誘電率フィラーは、例えば上記した第2のフィラーであり、低誘電率フィラーよりも比誘電率が高いフィラーであればよいが、例えばアルミナが挙げられる。
第1の絶縁層12A(すなわち、第1の硬化性組成物)において、熱伝導性フィラーの含有量は、40質量%以上94質量%以下が好ましく、55質量%以上90質量%以下がより好ましく、65質量%上87質量%以下がさらに好ましい。これら範囲内とすることで、絶縁性を確保しつつ、第1の絶縁層12Aの熱伝導性を良好にしやすくなる。
第1の絶縁層12Aにおいて、第1のフィラーを単独で使用すると、一方の面12X側の比誘電率を低くしやすくなり、絶縁性を向上しやすくなる。また、第1及び第2のフィラーを併用すると、絶縁性、熱伝導性、及び、熱伝導体11への密着性などをバランスよく向上させやすくなる。
また、比誘電率を低くしつつ、絶縁性、放熱性、及び熱伝導体11への密着性などをバランスよく向上させる観点から、第1の絶縁層12A(すなわち、一方の面12X側の領域)に第2のフィラーが含有させる場合、上記質量比(A2/A1)は、0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.5以上がさらに好ましい。
第2の絶縁層12Bにおいては、第2のフィラーを単独で使用してもよいし、第2のフィラーと、第1のフィラーを併用してもよい。第1のフィラーとしては、上記のとおり、比誘電率が低い窒化ホウ素などを使用するとよい。
これら観点から、第2の絶縁層12B(すなわち、第2の硬化性組成物)に第1のフィラーが含有させる場合、上記第1のフィラーの含有量は、10質量%以上45質量%以下がより好ましく、20質量%上40質量%以下がさらに好ましい。
また、絶縁性、熱伝導性などの観点から、第2の絶縁層12B(すなわち、第2の硬化性組成物)に第1のフィラーが含有させる場合、上記質量比(A1/A2)は、0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましく、0.4以上がさらに好ましい。
絶縁樹脂層12は、硬化性化合物と熱伝導性フィラーが含まれる硬化性組成物から形成されるものである。硬化性化合物は、熱硬化されることで絶縁樹脂層12のマトリックス樹脂を構成するものである。また、硬化性化合物は、熱硬化剤により硬化されることが好ましい。すなわち、硬化性組成物は、硬化性化合物と熱伝導性フィラーに加えて熱硬化剤を含有することが好ましい。
絶縁樹脂層12は、上記のとおり、第1及び第2の硬化性組成物それぞれから形成される第1及び第2の絶縁層12A、12Bを有することが好ましいが、第1及び第2の硬化性組成物は、それぞれ、硬化性化合物と熱伝導性フィラーを含み、好ましくは硬化性化合物と熱伝導性フィラーに加えて熱硬化剤も含有する。
エポキシ樹脂としては、例えば、分子中にエポキシ基を2つ以上含有する化合物が挙げられる。エポキシ樹脂は、重量平均分子量が5000未満となるものである。
エポキシ樹脂としては、具体的には、スチレン骨格含有エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂、トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂、及びトリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
なお、エポキシ当量は、例えば、JIS K 7236に規定された方法に従って測定できる。
フェノキシ樹脂は、例えばエピハロヒドリンと2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、又は2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂である。上記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、アントラセン骨格、ピレン骨格、キサンテン骨格、アダマンタン骨格又はジシクロペンタジエン骨格を有することが好ましい。上記フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型骨格、ビスフェノールF型骨格、ビスフェノールA/F混合型骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格又はビフェニル骨格を有することがより好ましく、ビスフェノールA型骨格を有することがさらに好ましい。
また、フェノキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されないが、例えば2500g/eq以上25000g/eq以下、好ましくは4000g/eq以上18000g/eq以下、さらに好ましくは5000g/eq以上13000g/eq以下である。
また、第2の硬化性組成物において、硬化性化合物の含有量は、3質量%以上55質量%以下が好ましく、4質量%以上35質量%以下がより好ましく、5質量%上25質量%以下がさらに好ましい。これら範囲内とすることで、シート性などの各種性能を確保しやすくなる。
<熱硬化剤>
熱硬化剤としては、上記エポキシ樹脂やフェノキシ樹脂を使用する場合、フェノール化合物(フェノール熱硬化剤)、アミン化合物(アミン熱硬化剤)、イミダゾール化合物、酸無水物などが挙げられる。これらの中では、イミダゾール系化合物が好ましい。
アミン化合物としては、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン及びジアミノジフェニルスルフォン等が挙げられる。
また、硬化性化合物100質量部に対する熱硬化剤の含有量(すなわち、含有割合)は、第1の絶縁層のほうが、第2の絶縁層よりも多いことが好ましい。第1の絶縁層の含有量を多くすることで、第1の絶縁層12A(すなわち、一方の面12X側の領域)の硬化率を高くしやすくなる。
硬化性組成物(すなわち、第1及び第2の硬化性組成物それぞれ)は、分散剤を含有してもよい。分散剤を、熱伝導性フィラーを樹脂成分に分散させやすくなり、積層体の絶縁性、熱伝導性を向上させる。
分散剤としては、例えば、アルコキシシラン類が使用される。アルコキシシラン類としては、反応性基を有するアルコキシシラン、及び反応性基を有しないアルコキシシランが挙げられる。反応性基を有するアルコキシシランにおける反応性基は、例えば、エポキシ基、(メタ)アクリロイル基、アミノ基、ビニル基、ウレイド基、メルカプト基、及びイソシアネート基から選ばれる。アルコキシシラン類は、反応性基を有するアルコキシシランが好ましく、エポキシ基を有するアルコキシシランがより好ましい。
エポキシ基を有するアルコキシシランとしては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
第1及び第2の硬化性組成物それぞれにおいて、分散剤の含有量は、0.01質量%以上2質量以下が好ましく、0.02質量%以上1.5質量以下がより好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。これら下限値以上とすることで、熱伝導性フィラーを各絶縁層に分散させやすくなる。また、これら上限値以下とすることで、配合量に見合った効果を得やすくなる。
また、第1の絶縁層12Aの厚さ(T1)に対する、第2の樹脂層の厚さ(T2)の比(T2/T1)は、例えば1/9以上9以下であり、好ましくは2/8以上8/2以下である。
熱伝導体11は、熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体であれば特に限定されない。例えば、アルミニウム、銅、アルミナ、ベリリア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム及びグラファイトシート等が挙げられる。中でも、熱伝導体11は、銅又はアルミニウムであることが好ましい。銅又はアルミニウムは、熱伝導率が高く放熱性に優れている。なお、熱伝導体11の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法によって測定可能である。
熱伝導体11の厚さは、例えば0.03mm以上3mm以下、好ましくは0.1mm以上2.5mm以下である。
また、絶縁樹脂層12の一方の面12Xから他方の面12Yに向けて、比誘電率が徐々に大きくなるように構成されてもよい。この場合には、絶縁樹脂層12は、例えば、絶縁樹脂層12全体の厚さよりも十分に薄い薄膜絶縁層が4層以上積層されて構成されればよい。この場合、各薄膜絶縁層は、例えば、フィラーの種類、含有量などを調整することで、各々の比誘電率が調整されればよい。
本発明においては、絶縁樹脂層を構成するための硬化性組成物の希釈液を作製して、その硬化性組成物の希釈液により、絶縁樹脂層を形成すればよい。以下、本発明の積層体の製造方法を、絶縁樹脂層が第1及び第2の絶縁層からなる場合について詳細に説明する。
また、第1及び第2の硬化性組成物の希釈液それぞれにおける固形分濃度は、例えば60~96質量%、好ましくは65~95質量%、より好ましく70~94質量%である。固形分濃度が下限値以上であると、効率的に絶縁層を形成することができる。また、固形分濃度を上限値以下とすることで、硬化性組成物の希釈液を適切な粘度に調整しやすくなるので、工程上の不具合が生じにくくなる。
本製造方法では、絶縁樹脂層12における溶剤含有量を一定範囲内とするために、上記第1及び第2の硬化性組成物の希釈液の乾燥における乾燥時間及び乾燥温度は、比較的緩やかな条件で行う必要がある。
具体的には、乾燥温度は、溶剤の種類などのよって適宜設定すればよいが、例えば60℃以上120℃以下、好ましくは75℃以上100℃以下の範囲内で行うとよい。また、乾燥時間については、例えば5分以上60分以下、好ましくは10分以上40分以下である。乾燥は、熱風により行ってもよいし、硬化性組成物の希釈液が塗布された離型シートなどを乾燥炉やオーブン内に入れて乾燥させてもよい。
また、乾燥後の第1及び第2の絶縁層における溶剤含有量(含有率)は、互いに異なっていても良く、例えば、乾燥後の第1の絶縁層における溶剤含有量が、乾燥後の第2の絶縁層における溶剤含有量より多ければよい。上記のように、第1の絶縁層は、例えば窒化ホウ素などの第1のフィラーを含有して脆くなりやすいが、溶剤含有量を相対的に多くすることで脆くなりにくく、シート性が良好となる。
そのような観点から、第1の絶縁層における溶剤含有量は、200ppm以上1500ppm以下がより好ましく、500ppm以上1200ppm以下がさらに好ましい。
また、第2の絶縁層における溶剤含有量は、100ppm以上1000ppm以下がより好ましく、150ppm以上800ppm以下がさらに好ましい。
具体的には、第1の硬化工程における加熱温度は、例えば、100℃以上230℃以下、好ましくは120℃以上210℃以下である。また、これら温度範囲内における加熱時間は、例えば30分以上5時間以下、好ましくは例えば1時間以上3時間以下である。
具体的には、第2の硬化工程における加熱温度は、例えば80℃以上150℃以下、好ましくは90℃以上130℃以下である。また、これら温度範囲内での加熱時間は、例えば1分以上10分以下、好ましくは例えば1分以上5分以下である。第2の硬化工程における加熱温度及び加熱温度を上記範囲内とすることで、第2の絶縁層の硬化率を所望の範囲に調整しやすくなる。
ただし、第2の絶縁層を未硬化とする場合には、第2の硬化工程を省略するとよい。
この場合には、第1の絶縁層及び第2の絶縁層の硬化率は、例えば、各層に含有される熱硬化剤の含有量などにより適宜調整可能である。
積層体10は、例えば、電子部品の一構成要素として使用され、具体的には回路などが取り付けられる基板とし使用され、好ましくはパワー半導体モジュールにおける基板として使用される。すなわち、本発明は、上記した積層体を備える電子部品や、その電子部品を備えるパワー半導体モジュールも提供する。
パワー半導体モジュールは、例えば、インバータ、エレベータ、無停電電源装置(UPS)等の産業用機器において使用され、好ましくはインバータである。
また、積層体10は、導電層を他方の面12Y上に配置した後に、導電層が積層された積層体10をモールド樹脂などに埋め込んでもよい。なお、この場合、モールド樹脂の埋め込みは、絶縁樹脂層12が硬化された後に行ってもよいし、硬化される前に行ってもよい。
[乾燥後の各絶縁層における溶剤量]
各絶縁層の溶剤量はガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC-MS)(日本電子株式会社製「JMS Q-1500」)を用いることにより求める。各絶縁層から1~2gを採取し、GC-MS専用の容器に入れて密閉し、35℃で15分加熱し、検出された溶剤量を各絶縁層の溶剤量とする。
[比誘電率]
各実施例、比較例で作製した第1及び第2の絶縁層を離型PETシートから剥がして、その両面を銅箔(厚み40μm)とアルミニウム板(厚み1.0mm)とでそれぞれ挟み、各実施例、比較例と同様の条件で硬化して、サンプルシートを得た。得られたサンプルシートを40mm×40mmにカットし、φ20mmのパターンをエッチングにて加工した。その後、比誘電率を岩崎通信株式会社製LCR(インピーダンス)解析装置「PSM3750」にて空気中室温で、周波数100mHzから10MHzまでをログスケールで分割して33点、1サイクル測定し、得られる波形を読み取ることで、周波数1MHzの比誘電率を求めた。
硬化率は、絶縁樹脂層の該当する領域を加熱する際の硬化発熱を測定することにより求められる。硬化率を測定する際には、示差走査型熱量分析(DSC)装置(SIIナノテクノロジー社製「DSC7020」)が用いられる。硬化率は、具体的には、以下のようにして測定される。
測定開始温度30℃及び昇温速度8℃/分で、絶縁樹脂層の該当する領域の成分をサンプルとして採取(サンプル重量20~30mg)して、180℃まで昇温し1時間保持する。この昇温でサンプルを硬化させた時に発生する熱量(以下「熱量A」とする)を測定する。また、厚み50μmの離型PET(ポリエチレンテレフタレート)シートに、各領域を形成するための硬化性組成物を厚み80μmとなるように塗工し、23℃及び0.01気圧の常温真空下において1時間乾燥すること以外は該当する領域の絶縁樹脂層と同様にして、非加熱で乾燥された未硬化状態の絶縁樹脂層を用意する。この絶縁樹脂層を用いて、上記の熱量Aの測定と同様にして、昇温硬化させたときに発生する熱量(以下、「熱量B」とする)を測定する。得られた熱量A及び熱量Bから、下記の式により硬化率を求める。
硬化率(%)=[1-(熱量A/熱量B)]×100
積層体の絶縁樹脂層の溶剤量はガスクロマトグラフィー質量分析装置(GC-MS)(日本電子株式会社製「JMS Q-1500」)を用いることにより求める。積層体の絶縁樹脂層の部分を、厚さ方向に均等に1~2g採取し、GC-MS専用の容器に入れて密閉し、35℃で15分加熱し、検出された溶剤量を絶縁層の溶剤量とする。
[絶縁性評価]
得られた積層体の熱伝導体が設けられない他方の面上に直径2cmの円形の銅箔をパターニングして、テストサンプルを得た。耐電圧試験機(ETECH Electronics社製「MODEL7473」)を用いて、テストサンプル間に0.33kV/秒の速度で電圧が上昇するように、25℃にて交流電圧を印加した。テストサンプルに10mAの電流が流れた電圧を絶縁破壊電圧とした。絶縁破壊電圧をサンプル厚みで除算することで規格化し、絶縁破壊強度を算出した。絶縁破壊強度を以下の基準で判定した。
A:60kV/mm以上
B:50kV/mm以上60kV/mm未満
C:50kV/mm未満
各実施例、比較例において、銅板の代わりにPETシートを使用して、PETシート上に、各実施例、比較例と同様の方法で第1及び第2絶縁層を積層して、積層体シートを得た。その積層体シートを20cm×10cmの大きさにカットし、その20cmの両端部を持ち、90°に折り曲げたときのシートの状態を下記の評価基準で評価した。
A:割れなし
B:割れあり
実施例、比較例で得られた積層体を1cm角にカットした後、両面にカーボンブラックをスプレーした測定サンプルに対して、測定装置「ナノフラッシュ」(NETZSCH社、型番:LFA447)を用いて、レーザーフラッシュ法により熱伝導率の測定を行った。熱伝導率より、以下の基準により放熱性を評価した。
A:7W/(m・K)以上
B:7W/(m・K)未満
得られた積層体を50mm×120mmの大きさに切り出して、テストサンプルを得た。得られたテストサンプルの中央幅10mmの銅箔が残るように銅箔をはがし、中央幅10mmの銅箔に対して、JIS C 6481に準拠して、銅箔との密着性を測定した。測定装置としては、オリエンテック社製「テンシロン万能試験機」を用いた。5個のテストサンプルについて、銅箔との密着性を測定した。5個のテストサンプルにおける銅箔との密着性の測定値の平均値を、銅箔との密着性とした。以下の基準により密着性を評価した。
A:6N/cm以上
B:6N/cm未満
エポキシ樹脂:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、新日鉄住金化学株式会社製、商品名「YD-127」、エポキシ当量:180~190eq/g
フェノキシ樹脂:三菱ケミカル株式会社製、商品名「jER1256」、エポキシ当量:7,500~8,500eq/g、重量平均分子量:約5万
熱硬化剤:イミダゾール系化合物、四国化成工業株式会社製、商品名「2P4MZ」
第1のフィラー:窒化ホウ素、板状フィラー、凝集粒子、水島合金属社製「HP-40」、アスペクト比6、一次粒子の平均長径7μm、凝集粒子の平均粒子径40μm
第2のフィラー:アルミナ、アスペククト比1、マイクロン製、商品名「AZ-4」、平均粒子径5μm
分散剤:3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、信越化学社製、商品名「KBM403」
表1の配合に従って、第1及び第2の絶縁層を形成するための第1及び第2の硬化性組成物を調製した。なお、第1及び第2の硬化性組成物は、それぞれ固形分濃度75質量%、90質量%となるように有機溶媒(MEK)で希釈した各組成物の希釈液として調製した。
第1の硬化性組成物の希釈液を離型PETシート(厚み40μm)上に、乾燥後の厚さが200μmになるように塗布した。また、第2の硬化性組成物の希釈液を別の離型PETシート(厚み40μm)上に、乾燥後の厚みが80μmになるように塗布し、これらを表1に記載の乾燥条件に従ってオーブン内で乾燥させ、各離型PETシートの上に、第1及び第2の絶縁層それぞれを形成した。
次に、離型PETシートの上に形成された第2の絶縁層を、離型PETシートを剥がしながら第1の絶縁層の上に積層した。その後、第2の絶縁層を110℃で3分かけて加熱して、第2の絶縁層を半硬化させ、積層体を得た。積層体において、第1の絶縁層の厚さは0.1mm、第2の絶縁層の厚さは0.08mmであった。
第1及び第2の硬化性組成物の配合を表1に示す配合に変更し、かつ絶縁層、銅板の厚みを表に示す厚みに変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
第1及び第2の硬化性組成物の配合を表1に示す配合に変更し、乾燥条件を表1に示すように変更し、かつ絶縁層、銅板の厚みを表に示す厚みに変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
第1及び第2の硬化性組成物の配合を表1に示す配合に変更し、乾燥条件を表1に示すように変更し、かつ絶縁層、銅板の厚みを表に示す厚みに変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
第1及び第2の硬化性組成物の配合を表1に示す配合に変更し、乾燥条件を表1に示すように変更し、かつ絶縁層、銅板の厚みを表に示す厚みに変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
乾燥条件を表1に示すように変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
乾燥条件を表1に示すように変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
11 熱伝導体
12 絶縁樹脂層
12A 第1の絶縁層
12B 第2の絶縁層
12X 一方の面
12Y 他方の面
Claims (13)
- 熱伝導率が10W/m・K以上である熱伝導体と、前記熱伝導体の表面上に設けられ、かつ熱伝導性フィラーを含有する絶縁樹脂層とを備える積層体であって、
前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面側の比誘電率が、前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の比誘電率よりも低く、
前記絶縁樹脂層の溶剤含有量が50ppm以上2000ppm以下であり、
前記熱伝導性フィラーが、窒化ホウ素を含み、
前記窒化ホウ素は、少なくとも前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面側の領域に含有され、かつ前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域には含有されない、積層体。 - 前記絶縁樹脂層は、前記熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域が少なくとも未硬化物又は半硬化物である請求項1に記載の積層体。
- 前記絶縁樹脂層は、前記熱伝導体が設けられる面側の領域が少なくとも半硬化物又は硬化物である請求項2に記載の積層体。
- 前記熱伝導体が設けられる面側の領域の硬化率が50%以上であり、
前記熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域の硬化率が80%未満であり、
前記熱伝導体が設けられる面側の領域の硬化率が、前記熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域の硬化率よりも大きい請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。 - 前記溶剤がn-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、アセトン、及びメチルエチルケトン(MEK)からなる群から選択される少なくとも1種であり、かつ前記絶縁樹脂層の溶剤含有量が100ppm以上2000ppm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
- 前記熱伝導性フィラーが、アルミナを含み、
前記アルミナが、前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域に含有される請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体。 - 前記アルミナのアスペクト比が、2以下である請求項6に記載の積層体。
- 前記アルミナの平均粒子径が、0.1μm以上15μm以下である請求項6又は7に記載の積層体。
- 前記絶縁樹脂層の熱伝導体が設けられる面とは反対の面側の領域における前記アルミナの含有量が、25質量%以上96質量%以下である請求項6~8のいずれか1項に記載の積層体。
- 前記絶縁樹脂層が分散剤を含有する請求項1~9のいずれか1項に記載の積層体。
- 前記熱伝導体の厚さが0.03mm以上3mm以下である請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体。
- 請求項1~11のいずれか1項に記載の積層体を備える電子部品。
- 請求項12に記載の電子部品を備えるインバータ。
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