JP7284738B2 - 有機物質の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、有機物質の製造方法に関し、特に、微生物発酵によって得られる有機物質含有液を用いる有機物質の製造方法に関する。
近年、石油を原料として製造された油類やアルコール等の大量消費による化石燃料資源枯渇への危惧や大気中の二酸化炭素増加という地球規模での環境問題の観点から、石油以外の原料で各種有機物質を製造する手法、例えばトウモロコシ等の可食原料から糖発酵法によってバイオエタノールを製造する方法が注目されている。しかし、このような可食原料を用いた糖発酵法は、限られた農地面積を食料以外の生産に用いることから、食料価格の高騰を招く等の問題があった。
このような問題点を解決するために、従来、廃棄されていたような非可食原料を用いて、従来石油から製造されていた各種有機物質を製造する方法が各種検討されている。例えば、鉄鋼排ガス、廃棄物のガス化によって得られる合成ガス等から、微生物発酵によってエタノールを製造する方法が知られている。
合成ガスから微生物発酵によりエタノールを製造する方法においては、微生物発酵槽中に微生物発酵により生成したエタノールが含有されるため、そこからエタノールを抽出する必要がある。このようなエタノールの抽出方法として、例えば、蒸留装置を用いる方法が知られている。
ところで、微生物を利用して有機物質を製造する方法において、所望の有機物質を単離、精製する方法が知られている。例えば、特許文献1には、乳酸発酵液中に残存するタンパク質を除去する手法として、タンパク質を熱変性により凝集させて固液分離により凝集物を除去することが提案されている。また、特許文献2には、微生物発酵により得られた有機物質含有液から膜式エバポレーターを用いて有機物質を精製する方法が記載されている。
上記した微生物発酵により得られた有機物質含有液には、所望とする有機物質の他、微生物やその死骸、ならびに微生物由来のタンパク質等も多量に含まれている。そのため、有機物質含有液をそのまま蒸留装置等に導入して有機物質の分離を行うと、有機物質が留去されるにしたがって微生物等の液体ないし固体成分の濃度が増加し、その結果、蒸留装置内の有機物質含有液の粘度が上昇し、蒸留装置内で発泡が生じることで、連続的な運転が妨げられることがある。
上記の問題に対して、有機物質含有液から微生物等の成分を除去しておくことが考えられる。微生物等の除去手段としては、膜分離装置や遠心分離装置が従来から知られているが、膜分離装置ではフィルターの目詰まりが生じるためフィルターの洗浄や交換を定期的に行う必要があり、連続的な除去が困難であった。また、遠心分離装置では、有機物質含有液中に含まれる微生物等の成分が非常に小さいため、十分に分離できないといった問題があった。
したがって、本発明の目的は、膜分離装置や遠心分離装置等の分離手段を使用することなく、微生物発酵により得られた有機物質含有液に含まれる微生物等の成分を除去できる方法を提供することである。
本発明者らは、微生物発酵により得られた有機物質含有液を一定条件下で加熱することで、微生物等の成分を液体ないし固体成分とし、所望の有機物質を気体成分として、これらを分離することで上記課題を解決できることを見出した。即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]微生物発酵により有機物質含有液を得る微生物発酵工程と、
前記有機物質含有液を加熱して、微生物を含む液体ないし固体成分と、有機物質を含む気体成分とに分離する分離工程と、
を備える、有機物質の製造方法。
[2]微生物発酵により沸点が115℃以下の有機物質および沸点が115℃超の有機物質を含む有機物質含有液を得る微生物発酵工程と、
前記有機物質含有液を加熱して、沸点が115℃超の有機物質および微生物を含む液体ないし固体成分と、沸点が115℃以下の有機物質を含む気体成分とに分離する分離工程と、
を備え、
前記加熱の温度が、沸点が115℃以下の有機物質の沸点以上130℃以下である、有機物質の製造方法。
[3]前記分離工程により得られた気体成分を凝縮させて液化する液化工程をさらに含み、
前記液化工程において生じる凝縮熱を熱源として利用する、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]有機物質を加熱蒸留により精製する精製工程をさらに含み、
前記凝縮熱を、前記精製工程の加熱蒸留の熱源として利用する、[3]の記載の製造方法。
[5]前記微生物発酵が、一酸化炭素を含む合成ガスを原料とする、[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[6]前記合成ガスが、廃棄物由来ガスである、[5]に記載の製造方法。
[7]前記有機物質が、炭素数1~6のアルコールを含む、[1]~[6」のいずれか一つに記載の製造方法。
前記有機物質含有液を加熱して、微生物を含む液体ないし固体成分と、有機物質を含む気体成分とに分離する分離工程と、
を備える、有機物質の製造方法。
[2]微生物発酵により沸点が115℃以下の有機物質および沸点が115℃超の有機物質を含む有機物質含有液を得る微生物発酵工程と、
前記有機物質含有液を加熱して、沸点が115℃超の有機物質および微生物を含む液体ないし固体成分と、沸点が115℃以下の有機物質を含む気体成分とに分離する分離工程と、
を備え、
前記加熱の温度が、沸点が115℃以下の有機物質の沸点以上130℃以下である、有機物質の製造方法。
[3]前記分離工程により得られた気体成分を凝縮させて液化する液化工程をさらに含み、
前記液化工程において生じる凝縮熱を熱源として利用する、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]有機物質を加熱蒸留により精製する精製工程をさらに含み、
前記凝縮熱を、前記精製工程の加熱蒸留の熱源として利用する、[3]の記載の製造方法。
[5]前記微生物発酵が、一酸化炭素を含む合成ガスを原料とする、[1]~[4]のいずれか一つに記載の製造方法。
[6]前記合成ガスが、廃棄物由来ガスである、[5]に記載の製造方法。
[7]前記有機物質が、炭素数1~6のアルコールを含む、[1]~[6」のいずれか一つに記載の製造方法。
本発明によれば、膜分離装置や遠心分離装置等の分離手段を使用することなく、微生物発酵により得られた有機物質含有液に含まれる微生物等の成分を除去できる。これによって、連続的に有機物質を製造することができる。
以下、本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。本明細書において、ガス中の各成分の存在割合は、特に断りがない限り、重量ではなく体積を基準とした割合とする。したがって、特に断りがない限り、百分率%は体積%を表し、ppmは体積ppmを表す。
本発明による有機物質の製造方法は、微生物発酵により有機物質含有液を得る微生物発酵工程と、前記有機物質含有液を加熱して、微生物を含む液体ないし固体成分と、有機物質を含む気体成分とに分離する分離工程と、を備える。この際、原料ガス生成工程、原料ガス精製工程、液化工程、精製工程、および排水処理工程等をさらに備えていてもよい。図1は本発明の一例を示す工程フロー図である。図1の工程フロー図は、原料ガス生成工程と、原料ガス精製工程と、微生物発酵工程と、分離工程と、液化工程と、精製工程と、排水処理工程とを含む。以下、各工程について説明する。
<原料ガス生成工程>
原料ガス生成工程は、炭素源をガス化させることによって原料ガスを生成する工程である(図1参照)。なお、例えば、逆シフト反応により、二酸化炭素を還元して生成させることもできる。
原料ガス生成工程は、炭素源をガス化させることによって原料ガスを生成する工程である(図1参照)。なお、例えば、逆シフト反応により、二酸化炭素を還元して生成させることもできる。
原料ガスとしては、特に制限されないが、一酸化炭素を含むことが好ましい。その他、水素、二酸化炭素、酸素、窒素、スス、タール、窒素化合物、硫黄化合物、リン系化合物、芳香族系化合物等の成分をさらに含んでもよい。
原料ガスが一酸化炭素を含む場合、原料ガス中の一酸化炭素の含有率は、特に制限はないが、原料ガスの全体積に対して、好ましくは0.1体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは20体積%以上、特に好ましくは20体積%以上80体積%以下、最も好ましくは20体積%以上60体積%以下含む。
なお、一酸化炭素を含む原料ガスは、通常、炭素源を燃焼(不完全燃焼)させる熱処理(通称:ガス化)を行うことにより、即ち、炭素源を部分酸化させることにより生成させることができる。
前記炭素源としては、特に限定されず、例えば、製鉄所のコークス炉、高炉(高炉ガス)、転炉や石炭火力発電所に用いる石炭;焼却炉(特にガス化炉)に導入される廃棄物(一般廃棄物および産業廃棄物);木材等のバイオマス;各種産業によって副生した二酸化炭素等のリサイクルを目的とした種々の炭素含有材料等が挙げられる。これらのうち、炭素源は廃棄物であることが好ましい。換言すると、原料ガスは廃棄物由来ガスであることが好ましい。
より詳しくは、炭素源には、プラスチック廃棄物、生ゴミ、都市廃棄物(MSW)、廃棄タイヤ、バイオマス廃棄物、布団や紙等の家庭ごみ、建築部材等の廃棄物や、石炭、石油、石油由来化合物、天然ガス、シェールガス等が挙げられ、その中でも各種廃棄物が好ましく、分別コストの観点から、未分別の都市廃棄物がより好ましい。
原料ガスの生成は、ガス化炉を用いて行うことが好ましい。
一酸化炭素を含む原料ガスを生成させる場合、用いられ得るガス化炉は、炭素源を燃焼(不完全燃焼)させる炉である。具体的には、シャフト炉、キルン炉、流動床炉、ガス化改質炉等が挙げられる。ガス化炉は、廃棄物を部分燃焼させることにより、高い炉床負荷、優れた運転操作性が可能となるため、流動床炉式であることが好ましい。廃棄物を低温(約450~600℃)かつ低酸素雰囲気の流動床炉中でガス化することで、ガス(一酸化炭素、二酸化炭素、水素、メタン等)および炭素分を多く含むチャーに分解する。さらに廃棄物に含まれる不燃物が炉底から、衛生的でかつ酸化度の低い状態で分離されるため、不燃物中の鉄やアルミニウム等といった有価物を選択回収することが可能である。従って、このような廃棄物のガス化は、効率の良い資源リサイクルが可能である。
原料ガス生成工程における上記ガス化の温度は、通常100℃以上1500℃以下、好ましくは200℃以上1200℃以下である。
原料ガス生成工程におけるガス化の反応時間は、通常2秒以上、好ましくは5秒以上である。
<原料ガス精製工程>
上記した原料ガスをそのまま合成ガスとして、微生物発酵槽に供給することもできるが、微生物発酵に好適なように原料ガスの精製を行ってもよい。
上記した原料ガスをそのまま合成ガスとして、微生物発酵槽に供給することもできるが、微生物発酵に好適なように原料ガスの精製を行ってもよい。
原料ガスが廃棄物由来である場合には、通常、原料ガスは、一酸化炭素を0.1体積%以上80体積%以下、二酸化炭素を0.1体積%以上40体積%以下、水素を0.1体積%以上80体積%以下含み、さらに窒素化合物を1ppm以上、硫黄化合物を1ppm以上、リン化合物を0.1ppm以上、および/または芳香族系化合物を10ppm以上含む傾向にある。また、その他の環境汚染物質、ばいじん粒子、不純物等の物質が含まれる場合もある。そのため、微生物発酵槽へ合成ガスを供給するにあたっては、原料ガスから、微生物の安定培養に好ましくない物質や、好ましくない量の化合物等を低減ないし除去し、原料ガスに含まれる各成分の含有量が微生物の安定培養に好適な範囲となるようにしておくことが好ましい。
即ち、原料ガス精製工程は、原料ガスから、様々な汚染物質、ばいじん粒子、不純物、好ましくない量の化合物等の特定の物質を除去ないし低減する工程である(図1参照)。前処理工程において、原料ガスから合成ガスを得てもよい。前処理工程は、例えば、ガスチラー(水分分離装置)、低温分離方式(深冷方式)の分離装置、サイクロン、バグフィルターのような微粒子(スス)分離装置、スクラバー(水溶性不純物分離装置)、脱硫装置(硫化物分離装置)、膜分離方式の分離装置、脱酸素装置、圧力スイング吸着方式の分離装置(PSA)、温度スイング吸着方式の分離装置(TSA)、圧力温度スイング吸着方式の分離装置(PTSA)、活性炭を用いた分離装置、銅触媒またはパラジウム触媒を用いた分離装置等のうちの1種または2種以上を用いて処理することができる。
本発明の有機物質の製造方法において使用する原料ガス(以下、原料ガスを精製して得られるガスを「合成ガス」と称することがある)は、一酸化炭素を含むことが好ましい。その他、水素、二酸化炭素、窒素をさらに含んでもよい。
本発明において使用する合成ガスとして、炭素源をガス化させることによって原料ガスを生成し(原料ガス生成工程)、次いで、原料ガスから一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の各成分の濃度調整とともに、上記したような物質や化合物を低減ないし除去する工程を経ることで得られたガスを用いてもよい。
合成ガス中の一酸化炭素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常20体積%以上80体積%以下であり、好ましくは25体積%以上50体積%以下であり、より好ましくは35体積%以上45体積%以下である。
合成ガス中の水素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常10体積%以上80体積%以下であり、好ましくは30体積%以上55体積%以下であり、より好ましくは40体積%以上50体積%以下である。
合成ガス中の二酸化炭素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常0.1体積%以上40体積%以下、好ましくは0.3体積%以上30体積%以下であり、より好ましくは0.5体積%以上10体積%以下、特に好ましくは1体積%以上6体積%以下である。
合成ガス中の窒素濃度は、合成ガス中の一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の合計濃度に対して、通常40体積%以下であり、好ましくは1体積%以上20体積%以下であり、より好ましくは5体積%以上15体積%以下である。
一酸化炭素、二酸化炭素、水素および窒素の濃度は、原料ガス生成工程において炭素源のC-H-N元素組成を変更することや、燃焼温度や燃焼時供給ガスの酸素濃度等の燃焼条件を適宜変更することで、所定の範囲とすることができる。例えば、一酸化炭素や水素濃度を変更したい場合は、廃プラスチック等のC-H比率が高い炭素源に変更し、窒素濃度を低下させたい場合は原料ガス生成工程において酸素濃度の高いガスを供給する方法等がある。
本発明において使用される合成ガスは、上記した成分以外にも、特に制限はないが、硫黄化合物、リン化合物、窒素化合物等を含んでいてもよい。これらの化合物のそれぞれの含有量は、好ましくは0.05ppm以上、より好ましくは0.1ppm以上、さらに好ましくは0.5ppm以上である。また、前記化合物それぞれの含有量は、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは80ppm以下、さらにより好ましくは60ppm以下、特に好ましくは40ppm以下である。硫黄化合物、リン化合物、窒素化合物等を下限値以上の含有量とすることにより、微生物が好適に培養できるという利点があり、また上限値以下の含有量とすることにより、微生物が消費しなかった各種栄養源によって培地が汚染されないという利点がある。
硫黄化合物としては、通常、二酸化硫黄、CS2、COS、H2Sが挙げられ、中でもH2Sと二酸化硫黄が微生物の栄養源として消費しやすい点で好ましい。そのため、合成ガス中にH2Sと二酸化硫黄の和が上記範囲で含まれていることがより好ましい。
リン化合物としては、リン酸が微生物の栄養源として消費しやすい点が好ましい。そのため、合成ガス中にリン酸が上記範囲で含まれていることがより好ましい。
窒素化合物としては、一酸化窒素、二酸化窒素、アクリルニトリル、アセトニトリル、HCN等が挙げられ、HCNが微生物の栄養源として消費しやすい点で好ましい。そのため合成ガス中に、HCNが上記範囲で含まれていることがより好ましい。
また、合成ガスは、芳香族化合物を好ましくは0.01ppm以上、より好ましくは0.03ppm以上、さらに好ましくは0.05ppm以上、特に好ましくは0.1ppm以上である。また、芳香族化合物は、好ましくは90ppm以下、より好ましくは70ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下、特に好ましくは30ppm以下である。芳香族化合物を下限値以上の含有量とすることにより、微生物が好適に培養できる傾向にある。一方、芳香族化合物を上限値以下の含有量とすることにより、微生物が消費しなかった各種栄養源によって培地が汚染されにくい傾向にある。
なお、上述の通り、合成ガスは、原料ガスを精製したものであり、前記原料ガスは、廃棄物由来ガスであることが好ましい。したがって、合成ガスは、廃棄物由来ガスであることが好ましい。
<微生物発酵工程>
微生物発酵工程は、微生物発酵により有機物質含有液を得る工程である(図1参照)。この際、前記微生物発酵は、通常、原料ガス生成工程により得られる原料ガス、または原料ガス精製工程により得られる原料ガス(合成ガス)が用いられ得る。このうち、微生物発酵を好適に行う観点から前記合成ガスを用いることが好ましい。また、前記原料ガス生成工程により得られる原料ガス、原料ガス精製工程により得られるガス(合成ガス)に別の所定のガスを追加した合成ガスを用いてもよい。別の所定ガスとして、例えば二酸化硫黄等の硫黄化合物、リン化合物、および窒素化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。一実施形態において、微生物発酵は一酸化炭素を含む原料ガスまたは一酸化炭素を含む合成ガスを原料とすることが好ましく、一酸化炭素を含む合成ガスを原料とすることがより好ましい。この際、前記原料ガスまたは合成ガスは廃棄物由来ガスであることが好ましい。以下、微生物発酵に用いられる原料ガスまたは合成ガスを併せて「合成ガス等」と称することがある。
微生物発酵工程は、微生物発酵により有機物質含有液を得る工程である(図1参照)。この際、前記微生物発酵は、通常、原料ガス生成工程により得られる原料ガス、または原料ガス精製工程により得られる原料ガス(合成ガス)が用いられ得る。このうち、微生物発酵を好適に行う観点から前記合成ガスを用いることが好ましい。また、前記原料ガス生成工程により得られる原料ガス、原料ガス精製工程により得られるガス(合成ガス)に別の所定のガスを追加した合成ガスを用いてもよい。別の所定ガスとして、例えば二酸化硫黄等の硫黄化合物、リン化合物、および窒素化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。一実施形態において、微生物発酵は一酸化炭素を含む原料ガスまたは一酸化炭素を含む合成ガスを原料とすることが好ましく、一酸化炭素を含む合成ガスを原料とすることがより好ましい。この際、前記原料ガスまたは合成ガスは廃棄物由来ガスであることが好ましい。以下、微生物発酵に用いられる原料ガスまたは合成ガスを併せて「合成ガス等」と称することがある。
前記微生物発酵は、通常、微生物発酵槽で行われる。用いられる微生物発酵槽は、連続発酵装置とすることが好ましい。一般に、微生物発酵槽は任意の形状のものを用いることができ、撹拌型、エアリフト型、気泡塔型、ループ型、オープンボンド型、フォトバイオ型が挙げられる。このうち、主槽部と還流部とを有する公知のループリアクターを好適に用いることができる。前記ループリアクターを用いる場合、液状の培地を、主槽部と還流部の間で循環させる循環工程をさらに備えるのが好ましい。
微生物発酵槽には、合成ガス等と微生物培養液とが連続的に供給されてもよいが、合成ガス等と微生物培養液とを同時に供給する必要はなく、予め微生物培養液を供給した微生物発酵槽に合成ガス等を供給してもよい。ある種の嫌気性微生物は、発酵作用によって、合成ガス等の基質ガスから、エタノール等の有価物である有機物質を生成することが知られており、この種のガス資化性微生物は、液状の培地で培養される。例えば、液状の培地とガス資化性細菌とを供給して収容しておき、この状態で液状の培地を撹拌しつつ、微生物発酵槽内に合成ガス等を供給してもよい。これにより、液状の培地中でガス資化性細菌を培養して、その発酵作用により合成ガス等から有機物質を生成することができる。
微生物発酵槽において、培地等の温度(培養温度)は、任意の温度を採用してよいが、好ましくは30~45℃程度、より好ましくは33~42℃程度、さらに好ましくは36.5~37.5℃程度とすることができる。
また、培養時間は、好ましくは連続培養で12時間以上、より好ましくは7日以上、特に好ましくは30日以上、最も好ましくは60日以上である。なお、培養時間の上限は特に設定されないが設備の定修等の観点から720日以下が好ましく、より好ましくは365日以下である。なお、培養時間とは、種菌を培養槽に添加してから、培養槽内の培養液を全量排出するまでの時間を意味するものとする。
微生物培養液に含まれる微生物(種)は、一酸化炭素を主たる原料として合成ガスを微生物発酵させることによって所望の有機物質を製造できるものであることが好ましい(図2参照)。例えば、微生物(種)は、ガス資化性細菌の発酵作用によって、合成ガス等から有機物質を生成するものであること、特にアセチルCoAの代謝経路を有する微生物であることが好ましい。ガス資化性細菌のなかでも、クロストリジウム(Clostridium)属がより好ましく、クロストリジウム・オートエタノゲナムが特に好ましいが、これに限定されるものではない。以下、さらに例示する。
ガス資化性細菌は、真性細菌および古細菌の双方を含む。真性細菌としては、例えば、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、ムーレラ(Moorella)属細菌、アセトバクテリウム(Acetobacterium)属細菌、カルボキシドセラ(Carboxydocella)属細菌、ロドシュードモナス(Rhodopseudomonas)属細菌、ユーバクテリウム(Eubacterium)属細菌、ブチリバクテリウム(Butyribacterium)属細菌、オリゴトロファ(Oligotropha)属細菌、ブラディリゾビウム(Bradyrhizobium)属細菌、好気性水素酸化細菌であるラルソトニア(Ralsotonia)属細菌等が挙げられる。
一方、古細菌としては、例えば、Methanobacterium属細菌、Methanobrevibacter属細菌、Methanocalculus属、Methanococcus属細菌、Methanosarcina属細菌、Methanosphaera属細菌、Methanothermobacter属細菌、Methanothrix属細菌、Methanoculleus属細菌、Methanofollis属細菌、Methanogenium属細菌、Methanospirillium属細菌、Methanosaeta属細菌、Thermococcus属細菌、Thermofilum属細菌、Arcaheoglobus属細菌等が挙げられる。これらの中でも、古細菌としては、Methanosarcina属細菌、Methanococcus属細菌、Methanothermobacter属細菌、Methanothrix属細菌、Thermococcus属細菌、Thermofilum属細菌、Archaeoglobus属細菌が好ましい。
さらに、一酸化炭素および二酸化炭素の資化性に優れることから、古細菌としては、Methanosarcina属細菌、Methanothermobactor属細菌、またはMethanococcus属細菌が好ましく、Methanosarcina属細菌、またはMethanococcus属細菌が特に好ましい。なお、Methanosarcina属細菌の具体例として、例えば、Methanosarcina barkeri、Methanosarcina mazei、Methanosarcina acetivorans等が挙げられる。
以上のようなガス資化性細菌の中から、目的とする有機物質の生成能の高い細菌を選択して用いることができる。例えば、エタノール生成能の高いガス資化性細菌としては、クロストリジウム・オートエタノゲナム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウム・ユングダリイ(Clostridium ljungdahlii)、クロストリジウム・アセチクム(Clostridium aceticum)、クロストリジウム・カルボキシジボランス(Clostridium carboxidivorans)、ムーレラ・サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、アセトバクテリウム・ウッディイ(Acetobacterium woodii)等が挙げられる。これらのなかでもクロストリジウム・オートエタノゲナムが特に好ましい。
上記した微生物(種)を培養する際に用いる培地は、菌に応じた適切な組成であれば特に限定されないが、主成分の水と、この水に溶解または分散された栄養分(例えば、ビタミン、リン酸等)とを含有する液体である。このような培地の組成は、ガス資化性細菌が良好に成育し得るように調製される。例えば、微生物にクロストリジウム属を用いる場合の培地は、米国特許出願公開第2017/260552号明細書の「0097」~「0099」等を参考にすることができる。
微生物発酵工程により得られた有機物質含有液は、有機物質および他の成分を含む。
前記有機物質としては、炭素数1~6のアルコール、炭素数1~6のジオール、炭素数1~6のカルボン酸、炭素数1~6のヒドロキシカルボン酸、炭素数3~6のケトン、炭素数2~6のアルケン、炭素数2~6のアルカジエンが挙げられる。
前記炭素数1~6のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
前記炭素数1~6のジオールとしては、2,3-ブタンジオール等が挙げられる。
前記炭素数1~6のカルボン酸としては、酢酸等が挙げられる。
前記炭素数1~6のヒドロキシカルボン酸としては、乳酸等が挙げられる。
前記炭素数3~6のケトンとしては、アセトンが挙げられる。
前記炭素数2~6のアルケンとしては、イソプレン等が挙げられる。
前記炭素数2~6のアルカジエンとしては、ブタジエン等が挙げられる。
これらのうち、有機物質は、炭素数1~6のアルコール、炭素数1~6のジオールを含むことが好ましく、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、2,3-ブタンジオールを含むことがより好ましく、エタノールを含むことがさらに好ましい。なお、前記有機物質は単独で含まれていても、2種以上組み合わせて含まれていてもよい。
また、一実施形態において、有機物質は沸点が115℃以下の有機物質であることが好ましく、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、イソプレン、ブタジエンであることが好ましく、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトンであることがより好ましく、エタノール、アセトンであることがさらに好ましく、エタノールであることが特に好ましい。
前記他の成分としては、特に制限されないが、微生物やその死骸、微生物由来のタンパク質、培地由来成分、水等が挙げられる。
通常、有機物質含有液は懸濁液として得られる。この際、懸濁液中のタンパク質濃度は、微生物の種類により異なるが、通常は30~1000mg/Lである。なお、有機物質含有液中のタンパク質濃度は、ケルダール法により測定することができる。
なお、有機物質含有液はプレス機、遠心機、フィルター等の固液分離により、所望の有機物質の一部を事前に分離してもよい。これによって、所望の有機物質を含む精製液と、微生物等を含む有機物質含有液とに分離することができる。その結果、後述する分離工程において分離される有機物質含有液の総量が減少し、分離工程を効率的に行うことができる。この際、所望の有機物質を含む精製液は、後述する精製工程に直接導入され得る。
<分離工程>
分離工程は、有機物質含有液を加熱して、微生物を含む液体ないし固体成分と、有機物質を含む気体成分とに分離する工程である(図1参照)。
分離工程は、有機物質含有液を加熱して、微生物を含む液体ないし固体成分と、有機物質を含む気体成分とに分離する工程である(図1参照)。
従来の方法では、上記の通り、微生物発酵工程により得られた有機物質含有液をそのまま蒸留等の精製工程により有機物質を精製しようとすると、微生物や微生物由来のタンパク質等に起因する蒸留装置内での発泡が生じ、連続的な運転が妨げられる場合があった。
また、膜分離装置や遠心分離装置により、有機物質含有液中の微生物や微生物由来タンパク質を事前に除去しようとしても、前記膜分離装置を用いる場合には目詰まりによるフィルターの洗浄、交換を定期的に行う必要があり、前記遠心分離装置を用いる場合には十分に分離できないといった問題があった。
これに対し、本発明においては、加熱による状態変化を利用する。すなわち、有機物質含有液を加熱することにより、有機物質は気体とし、微生物や微生物由来タンパク質等は液体ないし固体とすることで、所望の有機物質のみを分離することができる。当該加熱による分離工程は、従来の膜分離装置を用いる場合とは異なりフィルターの洗浄、交換のような作業はなく、また、遠心分離装置を用いる場合とは異なり十分に分離することができる。そして、有機物質含有液中の微生物や微生物由来タンパク質等を事前に除去することにより、例えば従来のように後続する蒸留装置において、発泡による連続体な運転の妨げのような事象は生じない。これによって、連続的に有機物質を製造することができる。
前記液体ないし固体成分は、有機物質含有液を加熱後、液状または固体の状態となる成分である。具体的には、微生物、微生物の残渣、微生物由来タンパク質、培地由来成分、水等が挙げられる。
前記気体成分は、有機物質を含む。その他、有機物質含有液を加熱後、気体の状態となる成分をさらに含んでいてもよい。具体的には、有機物質の他、水等が挙げられる。
有機物質含有液の加熱温度は、有機物質の種類等によっても異なるが、30~500℃であることが好ましく、50~200℃であることがより好ましく、80℃~180℃であることがさらに好ましく、100~150℃であることが特に好ましい。
また、前記加熱時の圧力は、0.00001~1MPaであることが好ましく、0.01~0.2MPaであることがより好ましく、0.5~0.15MPaであることがさらに好ましい。有機物質含有液を蒸気により加熱する場合、加熱時の圧力は、前記加熱温度の調整の観点で制御されることがある。
このうち、有機物質含有液の加熱は、経済性の観点から、常圧下(101.3kPa)で、50~200℃で加熱することが好ましく、80~180℃で加熱することがより好ましく、90~150℃で加熱することがさらに好ましく、95~120℃で加熱することが特に好ましい。
分離工程における加熱時間は、加熱条件によっても異なるが、気体成分を得ることができる時間であれば特に制限はない。分離工程における加熱時間は、効率性または経済性の観点から、通常は5秒~2時間、好ましくは5秒~1時間、より好ましくは5秒~30分である。
ここで、微生物発酵により有機物質が複数生成する場合、所望の有機物質のみを分離することが好ましい。
この際、前記所望の有機物質は、沸点が115℃以下の有機物質であることが好ましく、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、イソプレン、ブタジエンであることが好ましく、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトンであることがより好ましく、エタノール、アセトンであることがさらに好ましく、エタノールであることが特に好ましい。
また、所望でない有機物質は、沸点が115℃超の有機物質であることが好ましく、2,3-ブタンジオール、酢酸、乳酸であることが好ましく、2,3-ブタンジオール、酢酸であることがより好ましい。
この場合、液体ないし固体成分は所望でない有機物質、微生物、微生物の残渣、微生物由来タンパク質、培地由来成分、水を含む。この際、場合により所望の有機物質を含むことがある。
また、気体成分は所望の有機物質を含む。その他、水を含んでいてもよい。また、場合により所望でない有機物質を含むことがある。
一実施形態において、所望の有機物質は、沸点が115℃以下の有機物質であり、所望でない有機物質は、沸点が115℃超の有機物質である。この場合、分離工程は、沸点が115℃以下の有機物質および沸点が115℃超の有機物質を含む有機物質含有液を加熱して、微生物および沸点が115℃超の有機物質を含む液体ないし固体成分と、沸点が115℃以下の有機物質を含む気体成分とに分離する工程となる。
この場合、有機物質含有液の加熱温度は、沸点が115℃以下の有機物質の沸点以上130℃以下であることが好ましく、沸点が115℃以下の有機物質の沸点よりも10℃高い温度以上120℃以下であることがより好ましく、沸点が115℃以下の有機物質の沸点よりも20℃高い温度以上110℃以下であることがさらに好ましく、沸点が115℃以下の有機物質の沸点よりも20℃高い温度以上103℃以下であることが特に好ましい。上記温度範囲であると所望の有機物質である沸点が115℃以下の有機物質を気体成分とし、かつ、所望でない有機物質である沸点が115℃超の有機物質を固体ないし液体成分とできることから好ましい。
すなわち、本発明の一実施形態によれば、微生物発酵により沸点が115℃以下の有機物質および沸点が115℃超の有機物質を含む有機物質含有液を得る微生物発酵工程と、前記有機物質含有液を加熱して、沸点が115℃超の有機物質および微生物を含む液体ないし固体成分と、沸点が115℃以下の有機物質を含む気体成分とに分離する分離工程と、を備え、前記加熱が、沸点が115℃以下の有機物質の沸点以上130℃以下で行われる、有機物質の製造方法が提供される。
なお、本発明の一実施形態において、所望の有機物質は、エタノールを含み、所望でない有機物質は、2,3-ブタンジオールおよび酢酸の少なくとも1つを含む。この場合、分離工程は、エタノール並びに2,3-ブタンジオールおよび酢酸の少なくとも1つを含む有機物質含有液を加熱して、微生物並びに2,3-ブタンジオールおよび酢酸の少なくとも1つを含む液体ないし固体成分と、エタノールを含む気体成分とに分離する工程となる。
この場合、有機物質含有液の加熱温度は、78~130℃であることが好ましく、88~120℃であることがより好ましく、98~110℃であることがさらに好ましく、98~103℃であることが特に好ましい。
すなわち、本発明の一実施形態によれば、微生物発酵によりエタノール並びに2,3-ブタンジオールおよび酢酸の少なくとも1つを含む有機物質含有液を得る微生物発酵工程と、前記有機物質含有液を加熱して2,3-ブタンジオールおよび酢酸の少なくとも1つ並びに微生物を含む液体ないし固体成分と、エタノールを含む気体成分とに分離する分離工程と、を備え、前記加熱が、78~130℃で行われる、有機物質の製造方法が提供される。
なお、前記製造方法は、微生物発酵によりエタノール並びに2,3-ブタンジオールおよび酢酸を含む有機物質含有液を得る微生物発酵工程と、前記有機物質含有液を加熱して2,3-ブタンジオールおよび酢酸並びに微生物を含む液体ないし固体成分と、エタノールを含む気体成分とに分離する分離工程と、を備えることがより好ましい。
上記した分離工程に用いられる装置としては、熱エネルギーにより、有機物質含有液を液体ないし固体成分(微生物やその死骸、微生物由来のタンパク質等)と気体成分(有機物質)とに効率的に分離できる装置であれば特に制限なく使用することができる。具体的な装置としては、例えば、回転乾燥機、流動層乾燥機、真空型乾燥機、伝導加熱型乾燥機等の乾燥装置が挙げられる。このうち、特に固体成分濃度が低い有機物質含有液から液体ないし固体成分と気体成分とに分離する際の効率の観点からは伝導加熱型乾燥機を用いることが好ましい。伝導加熱型乾燥機の例としては、ドラム型乾燥機やディスク型乾燥機等が挙げられる。
<液化工程>
液化工程は、上記分離工程で得られた有機物質を含む気体成分を、凝縮により液化する工程である(図1参照)。液化工程で用いられる装置は、特に限定されないが、熱交換器、特にコンデンサー(凝縮器)を用いることが好ましい。凝縮器の例としては、水冷式、空冷式、蒸発式等が挙げられる。それらのなかでも水冷式が好ましい。凝縮器は一段でもよいし、複数段からなるものでもよい。
液化工程は、上記分離工程で得られた有機物質を含む気体成分を、凝縮により液化する工程である(図1参照)。液化工程で用いられる装置は、特に限定されないが、熱交換器、特にコンデンサー(凝縮器)を用いることが好ましい。凝縮器の例としては、水冷式、空冷式、蒸発式等が挙げられる。それらのなかでも水冷式が好ましい。凝縮器は一段でもよいし、複数段からなるものでもよい。
液化工程により得られた液化物には、微生物やその死骸、微生物由来のタンパク質等の有機物質含有液に含まれていた成分が含まれていないことが好ましいといえるが、本発明においては、液化物中にタンパク質が含まれていることを排除するものではない。液化物中にタンパク質が含まれる場合であっても、その濃度は、40mg/L以下であることが好ましく、より好ましくは20mg/L以下、さらに好ましくは15mg/L以下である。
なお、液化工程においては、気体成分の凝縮熱が発生する。この液化工程において生じる凝縮熱は、後述するように、熱源として利用することができる。
<精製工程>
精製工程は、有機物質を精製する工程である(図1参照)。この際、前記精製とは、有機物質含有液を、目的の有機物質の濃度を高めた留出液と、目的の有機物質の濃度を低下させた缶出液とに分離することを意味する。また、精製される有機物質は、微生物発酵工程後に分離された有機物質を含む精製液であってもよいし、分離工程後に得られた気体成分を凝縮させて液化されたものであってもよいし、これらの混合物であってもよい。
精製工程は、有機物質を精製する工程である(図1参照)。この際、前記精製とは、有機物質含有液を、目的の有機物質の濃度を高めた留出液と、目的の有機物質の濃度を低下させた缶出液とに分離することを意味する。また、精製される有機物質は、微生物発酵工程後に分離された有機物質を含む精製液であってもよいし、分離工程後に得られた気体成分を凝縮させて液化されたものであってもよいし、これらの混合物であってもよい。
精製工程に用いられる装置は、例えば、蒸留装置、浸透気化膜を含む処理装置、ゼオライト脱水膜を含む処理装置、有機物質より沸点の低い低沸点物質を除去する処理装置、有機物質より沸点の高い高沸点物質を除去する処理装置、イオン交換膜を含む処理装置等が挙げられる。これらの装置は単独でまたは2種以上を組み合わせてもよい。単位操作としては、加熱蒸留や膜分離を好適に用いてもよい。
このうち、精製工程は加熱蒸留を含むことが好ましい。すなわち、一実施形態において、有機物質を加熱蒸留により精製する精製工程を含むことが好ましい。
加熱蒸留では、蒸留装置を用いて、所望の有機物質を留出液として、高純度で得ることができる。有機物質(特に、エタノール)の蒸留時における蒸留器内の温度は、特に限定されないが、110℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、70~95℃程度であることがさらに好ましい。蒸留器内の温度を前記範囲に設定することにより、必要な有機物質とその他の成分との分離、即ち、有機物質の蒸留をより確実に行うことができる。
有機物質の蒸留時における蒸留装置内の圧力は、常圧であってもよいが、好ましくは常圧未満、より好ましくは60~95kPa(絶対圧)程度である。蒸留装置内の圧力を前記範囲に設定することにより、有機物質の分離効率を向上させること、ひいては有機物質の収率を向上させることができる。所望とする有機物質の種類にもよるが、例えば得られる有機物質がエタノールである場合の収率(蒸留後に留出液に含まれるエタノールの濃度)は、好ましくは90重量%以上であり、より好ましくは95重量%以上である。
膜分離では、公知の分離膜を適宜用いることができ、例えばゼオライト膜を好適に用いることができる。
精製工程において分離された留出液に含まれる有機物質の濃度は、20~99.99質量%であることが好ましく、より好ましくは60~99.9質量%である。
一方、缶出液に含まれる有機物質の濃度は、0.001~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01~5質量%である。
精製工程において分離された缶出液は、窒素化合物を実質的に含まない。なお、本発明において「実質的に含まない」とは、窒素化合物の濃度が0ppmであることを意味するものではなく、精製工程で得られる缶出液が排水処理工程を必要としない程度の窒素化合物濃度であることを意味する。分離工程においては、微生物発酵工程で得られた有機物質含有液から所望とする有機物質を精製するのではなく、上記のように有機物質含有液を微生物を含む液体ないし固体成分と、有機物質を含む気体成分とに分離する。その際に、窒素化合物は、微生物を含む液体ないし固体成分側に残るため、有機物質を含む気体成分中には窒素化合物がほとんど含まれていない。そのため、気体成分を液化した液化物から有機物質を精製する際に得られる缶出液には窒素化合物が実質的に含まれていないと考えられる。缶出液が窒素化合物を含む場合であっても、窒素化合物の濃度は、0.1~200ppm、好ましくは0.1~100ppm、より好ましくは0.1~50ppmである。
また、上記と同様の理由により、精製工程において分離された缶出液はリン化合物を実質的に含まない。なお、「実質的に含まない」とは、リン化合物の濃度が0ppmであることを意味するものではなく、精製工程で得られる缶出液が排水処理工程を必要としない程度のリン化合物濃度であることを意味する。缶出液がリン化合物を含む場合であっても、リン化合物の濃度は、0.1~100ppm、好ましくは0.1~50ppm、より好ましくは0.1~25ppmである。このように、本発明の方法によれば、有機物質の精製工程において排出される缶出液には、窒素化合物やリン化合物が実質的に含まれておらず、他の有機物も殆ど含まれていないと考えられるため、従来必要とされていた排水処理工程を簡素化することができる。
<排水処理工程>
精製工程において分離された缶出液は、排水処理工程に供されてもよい(図1参照)。排水処理工程において、缶出液からさらに窒素化合物やリン化合物等の有機物を除去することができる。本工程では、缶出液を嫌気処理または好気処理することで有機物を除去してもよい。除去された有機物は、精製工程における燃料(熱源)として利用してもよい。
精製工程において分離された缶出液は、排水処理工程に供されてもよい(図1参照)。排水処理工程において、缶出液からさらに窒素化合物やリン化合物等の有機物を除去することができる。本工程では、缶出液を嫌気処理または好気処理することで有機物を除去してもよい。除去された有機物は、精製工程における燃料(熱源)として利用してもよい。
排水処理工程における処理温度は、通常は0~90℃、好ましくは20~40℃、より好ましくは30~40℃である。
分離工程を経て得られた缶出液は、微生物等を含む液体ないし固体成分が除去されているため、微生物発酵工程から直接精製工程に供給されて得られた缶出液よりも、排水処理などの負荷が軽減される。
排水処理工程において、缶出液を処理して得られる処理液中の窒素化合物濃度は、好ましくは0.1~30ppm、より好ましくは0.1~20ppm、さらに好ましくは0.1~10ppmであり、窒素化合物が含まれないことが特に好ましい。また、処理液中のリン化合物濃度は、好ましくは0.1~10ppm、より好ましくは0.1~5ppm、さらに好ましくは0.1~1ppmであり、缶出液中にリン化合物が含まれないことが特に好ましい。
<液化工程において生じる凝縮熱の利用>
上述の通り、液化工程において生じる凝縮熱を熱源として利用することができる。凝縮熱を利用することで、効率的かつ経済的に有機物質を製造することができる。
上述の通り、液化工程において生じる凝縮熱を熱源として利用することができる。凝縮熱を利用することで、効率的かつ経済的に有機物質を製造することができる。
凝縮熱を利用する領域については、特に制限されず、原料ガス生成工程、原料ガス精製工程、微生物発酵工程、分離工程、精製工程、排水処理工程のいずれであってもよい。
前記原料ガス生成工程に凝縮熱を熱源として利用する場合には、例えば、炭素源のガス化に要する熱の熱源として使用することができる。
前記原料ガス精製工程に凝縮熱を熱源として利用する場合には、例えば、温度スイング吸着方式の分離装置(TSA)、圧力温度スイング吸着方式の分離装置(PTSA)の熱源として使用することができる。
前記微生物発酵工程に凝縮熱を熱源として利用する場合には、例えば、培養温度の維持の熱源として使用することができる。
前記分離工程に凝縮熱を熱源として利用する場合には、例えば、機物質含有液の加熱の熱源として使用することができる。
前記精製工程に凝縮熱を熱源として利用する場合には、例えば、加熱蒸留の熱源として使用することができる。
前記排水処理工程に凝縮熱を熱源として利用する場合には、例えば、排水処理温度の熱源として使用することができる。
これらのうち、凝縮熱を、精製工程の加熱蒸留の熱源として利用することが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態において、有機物質の製造方法は、分離工程により得られた気体成分を凝縮させて液化する液化工程と、液化工程により得られた液化物から有機物質を加熱蒸留により精製する精製工程とを含み、液化工程において生じる凝縮熱を精製工程の加熱蒸留の熱源として利用することが好ましい。
液化工程して得られた有機物質は、上記の通り有機物質を加熱蒸留により精製する精製工程に供され得る。この場合、凝縮熱は加熱蒸留を行う近くで発生する。このため、凝縮熱をそのまま近くに存在する加熱蒸留の熱源に利用することで、凝縮熱を効率的に利用することができる。また、凝縮熱発生部と加熱蒸留部が近接していることにより、熱源を輸送するための配管を短くすることができ、コストを低減することができる。なお、前記配管は保温機能および耐久性を備えることが通常であり、装置のコストに影響し得る。
なお、分離工程で得られる気体成分をそのまま加熱蒸留の熱源として使用せず、液化工程により生じる凝縮熱を加熱蒸留の熱源と使用することで、有機物質と熱源とを分離することができ、結果、熱源を効率的に利用することが可能となる。例えば、加熱蒸留をする場合、有機物質は蒸留塔の塔底から導入することが通常である。このため、分離工程で得られる気体成分を塔底から導入すると、加熱という観点では効率が高いとはいえない。これに対して、液化工程により有機物質と熱源(例えば、スチーム)を分離することで、有機物質は塔底から導入し、熱源(例えば、スチーム)は例えば、蒸留塔の側壁下部、中部、上部に導入することができ、効率的な加熱をすることができる。
<有機物質およびその用途>
本発明の製造方法により得られる有機物質の用途は、特に限定されない。製造された有機物質は、例えば、プラスチックや樹脂等の原料として用いることもできるし、各種溶媒、殺菌剤、または燃料として用いることもできる。高濃度のエタノールは、ガソリン等に混合する燃料エタノールとして用いることができる他、例えば、化粧品、飲料、化学物質、燃料(ジェット燃料)等の原材料、食品等の添加物として用いることができ、汎用性が極めて高い。
本発明の製造方法により得られる有機物質の用途は、特に限定されない。製造された有機物質は、例えば、プラスチックや樹脂等の原料として用いることもできるし、各種溶媒、殺菌剤、または燃料として用いることもできる。高濃度のエタノールは、ガソリン等に混合する燃料エタノールとして用いることができる他、例えば、化粧品、飲料、化学物質、燃料(ジェット燃料)等の原材料、食品等の添加物として用いることができ、汎用性が極めて高い。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
主反応器、合成ガス供給孔、培地供給孔、排出孔を備えた連続発酵装置(発酵槽)内に、クロストリジウム・オートエタノゲナム(微生物)の種菌と、菌培養用の液状培地(リン化合物、窒素化合物および各種ミネラル等を適切量含む)とを充填した。
主反応器、合成ガス供給孔、培地供給孔、排出孔を備えた連続発酵装置(発酵槽)内に、クロストリジウム・オートエタノゲナム(微生物)の種菌と、菌培養用の液状培地(リン化合物、窒素化合物および各種ミネラル等を適切量含む)とを充填した。
次に、一酸化炭素30体積%、二酸化炭素10体積%、水素35体積%および窒素25体積%からなる合成ガスを準備し、連続発酵装置に供給し、37℃において培養(微生物発酵)を行った。
培養後、微生物発酵槽から排出された有機物質含有液を採取した。得られた有機物質含有液は、エタノール、2,3-ブタンジオール(2,3-BDO)、酢酸、微生物および死滅した微生物、水等が含まれる懸濁液であり、該有機物質含有液中のタンパク質濃度は170mg/Lであった。なお、タンパク質濃度の測定は、ケルダール法により行った。
伝導加熱型乾燥装置(株式会社西村鐵工所社製CDドライヤー、SCD-500)が備える中空円盤(ディスク)を、常圧下(0.1MPa)、120~125℃で加熱し(ディスク表面温度:100℃)、培養で得られた有機物質含有液を前記加熱されたディスクに接触させて、液体ないし固体成分と、気体成分とに分離した。分離した気体成分をコンデンサーにより凝縮させて液化することにより液化物を得た。得られた液化物中のタンパク質濃度を測定したところ13mg/Lであった。
所望の有機物質をエタノール、所望の有機物質でない有機物質を2,3-BDO、酢酸とした場合、エタノール(沸点:78℃)、2,3-BDO(沸点:177℃)、酢酸(118℃)、および水それぞれの第1の有機物質含有液に対する液化物中の含有量を測定し、回収率を算出した。その結果、エタノールの回収率は93体積%であり、2,3-BDOに回収率は56体積%であり、酢酸の回収率は58体積%であり、水の回収率は100体積%であった。得られた結果を下記表1に示す。
なお、蒸留塔での蒸留工程を想定し、得られた液化物を加熱した状態でバブリングによる発泡試験を行ったところ、発泡は殆ど確認されなかった。
[実施例2]
伝導加熱型乾燥装置の加熱時の圧力を0.15MPaとし、中空円盤(ディスク)の表面温度を115℃に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で液化物を得た。
伝導加熱型乾燥装置の加熱時の圧力を0.15MPaとし、中空円盤(ディスク)の表面温度を115℃に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で液化物を得た。
実施例1と同様の方法で、エタノール、2,3-BDO、酢酸、および水の回収率を測定したところ、それぞれ95体積%、78体積%、74体積%、および100体積%であった。得られた結果を下記表1に示す。
[実施例3]
伝導加熱型乾燥装置の加熱時の圧力を0.12MPaとし、中空円盤(ディスク)の表面温度を105℃に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で液化物を得た。
実施例1と同様の方法で、エタノール、2,3-BDO、酢酸、および水の回収率を測定したところ、それぞれ95体積%、65体積%、67体積%、および100体積%であった。得られた結果を下記表1に示す。
伝導加熱型乾燥装置の加熱時の圧力を0.12MPaとし、中空円盤(ディスク)の表面温度を105℃に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で液化物を得た。
実施例1と同様の方法で、エタノール、2,3-BDO、酢酸、および水の回収率を測定したところ、それぞれ95体積%、65体積%、67体積%、および100体積%であった。得られた結果を下記表1に示す。
[実施例4]
伝導加熱型乾燥装置の加熱時の圧力を0.08MPaとし、中空円盤(ディスク)の表面温度を95℃に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で液化物を得た。
実施例1と同様の方法で、エタノール、2,3-BDO、酢酸、および水の回収率を測定したところ、それぞれ72体積%、55体積%、51体積%、および95体積%であった。得られた結果を下記表1に示す。
伝導加熱型乾燥装置の加熱時の圧力を0.08MPaとし、中空円盤(ディスク)の表面温度を95℃に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で液化物を得た。
実施例1と同様の方法で、エタノール、2,3-BDO、酢酸、および水の回収率を測定したところ、それぞれ72体積%、55体積%、51体積%、および95体積%であった。得られた結果を下記表1に示す。
[実施例5]
伝導加熱型乾燥装置の加熱時の圧力を0.05MPaとし、中空円盤(ディスク)の表面温度を85℃に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で液化物を得た。
伝導加熱型乾燥装置の加熱時の圧力を0.05MPaとし、中空円盤(ディスク)の表面温度を85℃に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で液化物を得た。
実施例1と同様の方法で、エタノール、2,3-BDO、酢酸、および水の回収率を測定したところ、それぞれ65体積%、50体積%、41体積%、および82体積%であった。得られた結果を下記表1に示す。
[比較例1]
実施例1において使用した有機物質含有液についても同様にバブリングによる発泡試験を行ったところ、激しい泡立ちが確認された。
実施例1において使用した有機物質含有液についても同様にバブリングによる発泡試験を行ったところ、激しい泡立ちが確認された。
以上の結果より、微生物を含む有機物質含有液を加熱して、微生物等を含む液体ないし固体成分と、有機物質を含む気体成分とに分離し、気体成分を凝縮して得られた液化物は、その後の精製工程での発泡を抑制できることが明らかとなった。
Claims (7)
- 微生物発酵により有機物質含有液を得る微生物発酵工程と、
伝導加熱型乾燥機を用いて、前記有機物質含有液を加熱して、微生物を含む液体ないし固体成分と、有機物質を含む気体成分とに分離する分離工程と、
を備える、有機物質の製造方法。 - 微生物発酵により沸点が115℃以下の有機物質および沸点が115℃超の有機物質を含む有機物質含有液を得る微生物発酵工程と、
伝導加熱型乾燥機を用いて、前記有機物質含有液を加熱して、沸点が115℃超の有機物質および微生物を含む液体ないし固体成分と、沸点が115℃以下の有機物質を含む気体成分とに分離する分離工程と、
を備え、
前記加熱の温度が、沸点が115℃以下の有機物質の沸点以上130℃以下である、有機物質の製造方法。 - 前記分離工程により得られた気体成分を凝縮させて液化する液化工程をさらに含み、
前記液化工程において生じる凝縮熱を熱源として利用する、請求項1または2に記載の製造方法。 - 有機物質を加熱蒸留により精製する精製工程をさらに含み、
前記凝縮熱を、前記精製工程の加熱蒸留の熱源として利用する、請求項3の記載の製造方法。 - 前記微生物発酵が、一酸化炭素を含む合成ガスを原料とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記合成ガスが、廃棄物由来ガスである、請求項5に記載の製造方法。
- 前記有機物質が、炭素数1~6のアルコールを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
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