最初に、本実施例の前提である従来の液冷式気体圧縮機の予熱方式について、図1を用いて説明する。図1は、従来の液冷式気体圧縮機の構成図である。
図1において、圧縮機本体3は、吸込みフィルタ1を経由して吸込み絞り弁2を介して取り込んだ気体を圧縮し、圧縮された気体は、冷却液を蓄えるオイルケース4を経由して、調圧逆止弁5を介してアフタークーラ6で冷却されて吐出される。
ここで、圧縮機本体3が停止し、且つ周囲温度が非常に低温である場合、圧縮機本体3及びオイルケース4内にある冷却液が低温となるため、凍結する恐れがある。冷却液が凍結している状態での運転は、圧縮機本体を駆動するモータへの負荷が過大になるため、故障の要因となり好ましくない。
このような状況を防ぐために、従来の構造ではコードヒータ等の発熱機器10を圧縮機本体3の周りに設置し、冷却液を事前に温める予熱動作を行う。発熱機器10は制御部11によってオンオフ制御しているが、大半の場合は制御部11内にスイッチを設け、圧縮機起動時にスイッチをオンにした後は常時オンにしている。そのため、冷却液を温める必要がない時にも冷却液の予熱動作をし続けており、エネルギーが浪費されてしまうという問題があった。
また、圧縮機が運転した後は、冷却液が圧縮時の熱を回収し高温となるため、オイルクーラ8で冷却液を冷やし、オイルフィルタ9を介して再度圧縮機本体3に冷却液として供給する。ここで、過度に冷却液が低温になるとドレンが発生するため、温調弁7を用いて、冷却液温度がある閾値よりも高温になった後にオイルクーラ8へ流す。ここで、オイルクーラ8に流れる程度に冷却液が高温になった後も、発熱機器10の動作スイッチをオフにしない限り、発熱機器10は冷却液を継続して温め続け、オイルクーラ8で排熱として大気に放出されている。そのため、この場合には発熱機器によるエネルギーが浪費されてしまうという問題があった。
よって、これらの課題を解決するための本実施例について、以下説明する。
図2は、本実施例における液冷式気体圧縮機の構成図である。図2において、図1と同じ機能は同じ符号を付し、その説明は省略する。図2において、図1と異なる点は、発熱機器10の代わりに蓄熱槽12を設け、排熱としてオイルケース4で放出される圧縮時の熱を蓄熱槽12に貯めておき、起動時の予熱として再利用する構成とする点である。ここで、蓄熱槽12内は水などの比熱が高い液体で満たしておき、十分な熱量を蓄えられるようにする。本実施例では、蓄熱槽12に水を採用した場合で説明する。また、蓄熱槽12は真空二層構造のような外部に熱が逃げにくい構造とする。
次に、蓄熱方法について説明する。まず、圧縮機本体3またはオイルケース4の周囲に、水が通るチューブ13を巻く。本実施例では、オイルケース4の周りに設置した場合を示す。チューブ13は、熱回収および熱供給経路を構成し、チューブ13から蓄熱槽12をつなぐ配管からなる経路上に循環用ポンプ14を設置し、循環用ポンプ14を起動させることで、オイルケース4から熱を回収する。
図3は、本実施例における、蓄熱運転の処理フローチャートである。なお、これらの処理は、制御部11にて制御される。図3において、まずステップ101にて圧縮機の運転を開始した後に、ステップ102にてオイルケース4に設置した冷却液温度センサ15で冷却液温度Tcを検知する。ステップ103にて、冷却液温度Tcが予め設定した値T1を下回っている場合には熱を回収できないため、ステップ104へ進み圧縮機の運転を継続し、冷却液温度TcがT1を超えるようにする。冷却液温度TcがT1を超えた場合には、ステップ105へ進み、蓄熱槽12に設置した蓄熱槽温度センサ16により水温Twを検知する。ステップ106にて、蓄熱槽内の水温Twが予熱時に必要な温度T2に達していない場合には、ステップ107へ移行し、循環用ポンプ14を運転させ、オイルケース4の周囲に巻かれたチューブ13からの水を蓄熱槽12に循環させることで、オイルケース4からの熱を蓄熱槽12に回収する。蓄熱槽内の水温TwがT2を超えた後は、ステップ108に進み循環用ポンプ14を停止し、ステップ109にて蓄熱運転を完了する。
次に、予熱方法について説明する。予熱は、循環用ポンプ14を起動することで、蓄熱時とは反対に、蓄熱槽12からチューブ13をつなぐ配管を介して蓄熱槽12から高温な水をオイルケース4に巻いたチューブ13に流し、冷却液を温める。
図4は、本実施例における、予熱運転の処理フローチャートである。なお、これらの処理は、制御部11にて制御される。図4において、効果的に予熱を行うために、圧縮機本体が起動する状態であり予熱が必要な時のみに予熱を行う。まず、ステップ201で圧縮機が運転モードを開始した後、ステップ202にて吐出圧力Pdを吐出圧力センサ17で検知する。ステップ203にて、吐出圧力Pdが圧縮機復帰運転の設定圧Pxよりも高い場合には、圧縮機本体3が起動しないため、ステップ204へ移行し、予熱運転は行わない。吐出圧力Pdが復帰圧Pxよりも低い場合には、圧縮機本体が起動する状態となり、ステップ205へ移行し、冷却液温度Tcを検知する。ステップ206にて、冷却液温度Tcがモータに負荷がかからない設定温度T3よりも高い場合には、予熱が不要なため、ステップ208に進み循環用ポンプ14を停止し、ステップ209で圧縮機本体3を起動させる。
ステップ206にて、冷却液温度Tcが設定温度T3よりも低い場合は、予熱が必要なため、ステップ207で循環用ポンプ14を起動させ、温水をオイルケース4周りのチューブ13に供給する。その後、冷却液温度Tcが設定温度T3を超えた場合、ステップ208へ移行し、循環用ポンプ14を停止させ、ステップ209にて圧縮機本体3を起動させる。
これにより、予熱運転するタイミングを、圧縮機本体が起動する状態であり且つ冷却液が低温でモータに過大な負荷がかかる時のみ予熱運転するように限定し、効果的な予熱を行う。
なお、本実施例では、吐出圧力を、吐出圧力センサ17で検知しているが、別の箇所で計測した圧力値から吐出圧力を予測し、予測した吐出圧力をもとに予熱運転の判断をすることも可能である。
また、図4に示した予熱運転の処理フローチャートは、吐出圧力に基づいて予熱運転の判断をするが、圧縮機起動時間が決まっている場合には、予め予熱運転開始時刻を設定し、予熱することも可能である。
図5は、本実施例における、予熱運転開始時刻を利用した予熱運転の処理フローチャートである。なお、これらの処理は、制御部11にて制御される。図5において、ステップ301にて運転モードを開始後、ステップ302にて予熱運転をする場合は予熱運転予定時刻を設定する。本フローチャートでは予熱開始時刻を設定する例を示すが、圧縮機起動時間を設定し、起動前の何分前から予熱運転を開始するという設定も可能である。また、図4のフローチャートを併用し、吐出圧力Pdが設定値Pxよりも低くなった後、何分後から予熱運転を開始するといった処理も可能である。ステップ303にて、設定した予熱運転開始時刻になった後はステップ304へ移行する。ステップ304以降の処理は、図4と同様であり、冷却液温度Tcによって予熱運転するかを判断する。
このように、本実施例は、運転時に圧縮機本体から出る排熱を蓄熱槽に貯め、起動時の冷却液温度が低い時に予熱できる構造とし、発熱機器を不要とする。また、圧縮気体が必要な時にスムーズに起動ができるように、吐出圧力を検知または予測し、冷却液を適切に予熱する制御を行う。これにより、従来圧縮機ユニットから放出されていた排熱を有効利用でき、さらに、コードヒータ等で消費されていた電力消費が無くなるため、圧縮機の省エネ性能向上が図れる。
実施例1では、アフタークーラ6及びオイルクーラ8が空冷の場合を前提として説明したが、本実施例では水冷とした場合について説明する。
水冷の際には、アフタークーラやオイルクーラに対してユニット外部から低温な水を供給し、水に圧縮時の熱を回収させた後、ユニット外部に排水する。ここで、一般的には、排水された水は高温となるため、温水として暖房等に活用されることもあるが、多くの場合は有効利用されていない。
図6は、本実施例における液冷式気体圧縮機の構成図である。図6において、図2と同じ機能は同じ符号を付し、その説明は省略する。図6において、図2と異なる点は、図2ではオイルケース4から圧縮時の熱を回収し蓄熱したのに対して、本実施例ではオイルクーラ8で水により熱回収し、高温になった排水を蓄熱槽12に貯め蓄熱する。具体的には、蓄熱槽温度センサ16で検知した温度が、設定値T2よりも低い場合には三方電磁弁18を用いて、オイルクーラ8通過後の排水を蓄熱槽12に貯める。温水を貯水するのと同時に、蓄熱槽12から冷水を排水するために蓄熱槽排水電磁弁19を用いる。また、蓄熱槽12内の水量の増減が生じないように、三方電磁弁18と蓄熱槽排水電磁弁19を制御する。なお、これらの制御は、制御部11にて制御される。
予熱方法に関しては、実施例1と同様に、循環用ポンプ14を使用し、蓄熱槽12から高温な水をオイルケース4に巻いたチューブ13に流し、冷却液を温める。なお、予熱運転の処理フローチャートは図4または図5と同様である。
このように、本実施例は、オイルクーラでの排熱を蓄熱槽に貯め、起動時の冷却液温度が低い時に予熱できる構造とし、発熱機器を不要とする。また、圧縮気体が必要な時にスムーズに起動ができるように、吐出圧力を検知または予測し、冷却液を適切に予熱する制御を行う。これにより、従来オイルクーラから放出されていた排熱を有効利用でき、さらに、コードヒータ等で消費されていた電力消費が無くなるため、圧縮機の省エネ性能向上が図れる。
以上実施例について説明したが、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した各実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明が、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を、他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に、他の実施例の構成を加えることも可能となる。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能となる。