JP7274131B2 - マグネシウム合金の塑性加工部材および製造方法 - Google Patents

マグネシウム合金の塑性加工部材および製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、マグネシウムを主成分とするマグネシウム合金を塑性加工した、マグネシウム合金の塑性加工部材および製造方法に関する。
電気製品、自動車や航空機などの輸送機器、精密機器、製造機械など、様々な機器において筐体や構造材などを構成するために種々の金属素材が用いられる。このような様々な機器の筐体などは、鉄やアルミなどの単一金属素材で形成されるだけでなく、様々な合金素材が用いられることが多くなってきている。
例えば、電気製品や輸送機器などにおいては、軽量化を目的として合金素材が用いられることがある。精密機器や製造機械などにおいては、耐久性や強度の向上を目的として合金素材が用いられることがある。このように、従来の単一金属素材が使用されていた機器やその機器の構成部分においても、種々の合金素材が用いられるようになってきている。特に、電気製品の分野では使い勝手の良さが求められること、輸送機器の分野では低燃費が求められることから、軽量でありながら耐久性や強度に優れた合金素材が、これらの機器の様々な部位に使用されるようになっている。
特に、低燃費や低公害を目的として、輸送機器の軽量化が求められている。輸送機器は、多くの金属製の部品を備えており、これら多くの各種部品のそれぞれが、軽量の金属や合金で製造されることが、輸送機器の軽量化の基本となる。
このような状況で、材料として実用可能な金属として、最も低密度のマグネシウムが注目されている。マグネシウムの室温における密度は、1.7g/cmであり、この密度は鉄の密度の約1/4であり、アルミニウムの密度の約2/3である。また、マグネシウムは、比強度、比剛性、切削性、耐くぼみ性、振動吸収等の性質が優れていることも知られている。
これらの特性により、マグネシウムは、これまでノートパソコンや携帯端末の筐体などの小型の電子機器に用いられてきた。更なる展開として、上述のように、大型製品である輸送機器の各種部品に使用されることが望まれている。
特に、車両、電車、船舶、航空機などの様々な輸送機器においては、上述した通り、高燃費や操作性を実現するために、軽量化が必要条件となっている。部品点数の削減や、構造材の構造の見直しなどによって軽量化を進めているが、これらの対応では限界がある。求められる軽量化を実現するためには、部品や構造材などに用いられる金属材料そのものを軽量化する必要がある。この中で、金属材料として、上述のようにマグネシウムが着目されている。
しかしながら、マグネシウムは低温で発火しやすく、高温環境下での強度特性が低い(難燃性が低い)という問題を有している。輸送機器のように熱を発生させやすい機器にマグネシウム金属を適用する場合には、この難燃性が低いことによる問題が、顕著に表れる。
例えば、多くの輸送機器は、エンジン機構によって駆動されることが多い。輸送機器に用いられる各種部品は、このエンジン機構からの熱や駆動機関からの熱を受けやすく、高温環境となりやすい。小型の電子機器と異なり、輸送機器の各部位には、この耐熱性の問題で、マグネシウム金属が適用されにくい状態であった。
もちろん、エンジン機構や駆動機関から離れた場所に使用される構造材であっても、エンジン機構や駆動機関からの熱が伝導する。熱が伝導することによって、これらの構造材であっても、高熱となり得て、マグネシウムが適用されにくい問題があった。
このようなマグネシウム金属の難燃性に対応するために、マグネシウムにカルシウムを添加したマグネシウム合金が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2000-109963号公報
特許文献1は、カルシウム0.1~15重量%を含む難燃性マグネシウム合金を塑性加工処理するか、又はカルシウム0.1~15重量%を含む難燃性マグネシウム合金の既存含有量に加えて、融解時にアルミニウム又は亜鉛をさらに添加し、冷却後塑性加工処理することにより高強度難燃性マグネシウム合金を製造するマグネシウム合金を開示する。
マグネシウム合金の難燃性を向上させるために、特許文献1は、マグネシウムにカルシウムを含有させることを目的としている。特許文献1によれば、マグネシウムにカルシウムを含有させるマグネシウム合金は、発火温度が上昇して難燃性が高まる。
しかしながら、特許文献1のマグネシウム合金は、難燃性を高めているものの、強度が不足する問題を有している。
特許文献1のマグネシウム合金は、マグネシウムにカルシウムとアルミニウムを添加している。この添加によって、製造されるマグネシウム合金には、AlおよびCaを主成分とする金属間化合物(晶出物、代表組成:AlCa)が形成される。この金属間化合物は、その大きさが大きくかつ脆い。このために、マグネシウム合金に強い荷重が付与されると、この金属間化合物を起点として破壊が生じてしまう問題がある。この結果、特許文献1のマグネシウム合金は、強度が不十分であるとの問題を有している。
また、強い荷重が付与されることで金属間化合物を起点として破壊が生じるということは、例えば押し出しや圧延などの塑性加工を行う際に、破損してしまう可能性が高い。このため、塑性加工に必要となる延性も不十分である問題を有している。
上述したような、輸送機器の構造材、あるいは電子機器、精密機器、製造機器などの構造材などにマグネシウム合金を適用する場合には、鋳造などで製造されたマグネシウム合金に押し出しや圧延などの塑性加工を施す必要がある。このような塑性加工を行う際に、上述したように金属間化合物(晶出物)を起点とした破壊が生じてしまう。この破壊が生じてしまうと、塑性加工による構造材の製造が困難となってしまう。
すなわち、特許文献1のマグネシウム合金は、強度および延性の両方で不十分であって、強度と延性のバランスを十分に有していないとの問題を有している。
例えば、輸送機器の軽量化のためにマグネシウム合金が金属材料として使用されることが求められている。難燃性との問題を解決できても、強度および延性(加工性)が不十分であることで、車両のフレームやボディーといった構造部材に使用することができない問題がある。船舶のフレームや航空機の主構造などの構造部材にも、使用できない問題がある。
また、延性が不足することで加工性が不十分となり、複雑な形状を必要とする構造部材には、やはり適用が困難である問題がある。機器の様々な部位に使用するには、押し出しや圧延などの様々な塑性加工を行う必要があるが、延性が不十分であることで、この必要となる塑性加工が行えないからである。
このように、従来技術のマグネシウム合金は、強度および延性が不十分であることで、輸送機器などの構造部材などへの適用が困難である問題を有していた。
本発明は、難燃性を実現しつつ、強度および延性をバランスよく実現できる、マグネシウム合金の塑性加工部材およびその製造方法などを提供することを目的とする。
上記課題に鑑み、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材は、マグネシウム(Mg)を主成分とする母相と、晶出物とを含むマグネシウム合金の塑性加工部材であって、
全体に対して、2質量%~6質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0質量%~3質量%の亜鉛(Zn)と、
全体に対して、0.5質量%~3質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
残部のマグネシウム(Mg)および不可避混合物とを含み、
前記晶出物は、前記Alおよび前記Caの一部を含むとともに、このAlおよびCaを含有する金属間化合物を含み、平均粒子径が0.2μm~1000μmであり、かつ、ビッカース硬度の平均値が350以上であり、
前記母相は、前記Alおよび前記Caの一部を含むとともに、このAlおよびCaを含有する金属間化合物である平均粒子径1nm~100nmの析出物を含むことを特徴としている。
この塑性加工部材では、
前記Alの含有量が、3質量%~4質量%であり、
前記Znの含有量が、0質量%~0.7質量%であり、
前記Caの含有量が、1質量%~2質量%であり、
前記Mnの含有量が、0.2質量%~0.4質量%であることが好ましい。
この塑性加工部材では、前記母相は、さらに、平均粒径が0.1μm以上5μm未満の再結晶粒を含むことがより好ましい。
この塑性加工部材は、室温引張試験での0.2%耐力が270MPa以上であり、破断伸びが12%以上である。
本発明の構造部材は、上記の塑性加工部材を含む構造部材であって、電子機器用、精密機器用、工作機械用および輸送機器用のうちのいずれかであることを特徴としている。
この塑性加工部材では、上記の塑性加工部材の製造方法であって、
全体に対して、2質量%~6質量%のアルミニウム(Al)と、0質量%~3質量%の亜鉛(Zn)と、0.5質量%~3質量%のカルシウム(Ca)と、0質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、残部のマグネシウム(Mg)および不可避混合物とを含む材料を溶融する溶融工程と、
前記溶融工程で得られる溶融金属を固化する冷却工程と、
前記冷却工程で得られる固化金属を450℃以上540℃未満で加熱する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理した金属を塑性加工する塑性加工工程と、を含み、
前記塑性加工は、押し出し加工、圧延加工、鍛造加工および引き抜き加工のいずれかであることを特徴としている。
この塑性加工部材の製造方法では、前記溶体化処理工程の加熱温度は、510℃~525℃であることが好ましい。
この塑性加工部材の製造方法では、前記塑性加工工程において、前記塑性加工は押し出し加工であり、
前記溶体化処理工程後かつ前記押し出し加工前に、前記固化金属および押し出し加工用金型を250℃~350℃に加熱する予備加熱工程
を含むことがより好ましい。
この塑性加工部材の製造方法では、前記予備加熱工程の加熱温度は、280℃~350℃であることがさらに好ましい。
本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材は、難燃性を実現しつつ、高い強度および延性を実現できる。この強度および延性は、輸送機器の構造部材などに使用されているアルミニウム合金に置き換え可能なレベルである。
また、強度および延性のバランスがよく、いずれかのみではないメリットを有している。加えて、高い耐久性を実現できる。
これらが相まって、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材は、輸送機器を始めとした様々な機器において、高い荷重に対する耐久性が必要とされる構造部材などの部位に、適用が可能である。結果として、機器の軽量化を実現できる。
また、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の製造方法では、上述した特徴を有するマグネシウム合金の塑性加工部材を確実に製造することができる。
本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の製造方法の一実施形態として、工程の一部を示すフローチャートである。 本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の製造方法の一実施形態における溶融工程を示す模式図である。 本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の製造方法の一実施形態における溶体化処理を説明する模式図である。 本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の製造方法の一実施形態における押し出し加工を示す模式図である。 本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の製造方法の一実施形態における実施例の光学顕微鏡写真(断面組織写真)である。 本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の製造方法の一実施形態における実施例と比較例の母相であるマグネシウム合金部分の透過型電子顕微鏡(TEM)写真(断面組織写真)である。
従来技術で説明したように、マグネシウムにカルシウムやアルミニウムを混合したマグネシウム合金は、難燃性を発揮できるようになる。例えば、アルミニウムとカルシウムを添加元素に含む難燃性のマグネシウム合金であるAMX602やAZX612などは、難燃性を有する。
しかしながら、このような難燃性を有するこれらのマグネシウム合金は、強度が不十分であり、このマグネシウム合金を塑性加工して得られる加工部材も強度が不十分である。強度が不足することで、様々な機器の部品や構造材など、強度や耐久性が要求される分野への適用が困難である。
本発明者らは、この従来技術の難燃性マグネシウム合金とその塑性加工部材の強度が不足する原因を、次のように推察した。
マグネシウムに元素を加えて得られるマグネシウム合金は、各元素が反応して生じる金属間化合物(晶出物や析出物)を含む。この金属間化合物は、主成分であるマグネシウムの母相を密に結合する。
しかしながら、従来技術の難燃性マグネシウム合金は、凝固中に形成される金属間化合物(晶出物、代表組成:AlCa)の硬度(ビッカース硬度)が低すぎる問題がある。金属間化合物(晶出物)の硬度が低すぎると、脆くなってしまい、マグネシウム合金が、この金属間化合物を起点として破壊されてしまう。すなわち、硬度が低すぎる代表組成:AlCaの金属間化合物(晶出物)が、破壊起点となって、マグネシウム合金の強度が弱くなってしまうのではないかと推察した。
言い換えれば、金属間化合物(晶出物)のビッカース硬度が低すぎることが、マグネシウム合金の強度や耐久性の弱さに繋がっている可能性がある。特に、輸送機器や電子機器などの様々な機器に使用する場合には、押し出しや圧延加工によって、塑性加工する必要がある。この塑性加工の段階で、強度や耐久性が不足する問題が生じうる。
加えて、金属間化合物が微細な析出物として、マグネシウム合金の母相であるマグネシウム母相内に生じていることも必要であると推察した。母相内に析出物として生じていることで、破壊起点が分散して、塑性加工の際あるいはその後において、マグネシウム合金の強度や耐久性が高まるからである。加えて、当然に塑性加工されたマグネシウム合金の引張耐力や破断伸びなどの点も、制御されるべきパラメーターである。これらを適切に制御することで、マグネシウム合金の塑性加工部材の強度や耐久性が向上する。
以上から、本発明者らは、晶出物としての金属間化合物のビッカース硬度が一定以上であることが、様々な機器に適用できるマグネシウム合金の塑性加工部材に必要な条件であることを見出した。これは同時に、塑性加工されたマグネシウム合金の引張耐力や破断伸びであり、これを実現するために、マグネシウム合金の組成比率を制御することが必要であると至った。このために必要となる製造工程も同様である。
本発明者らは、これらの解析に基づき、マグネシウム合金の組成、金属間化合物(晶出物、代表組成:AlCa)の硬度を調整して、難燃性を維持しながら機器の部品や構造部材に使用可能なレベルの強度を有するマグネシウム合金の塑性加工部材を実現した。
以下、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の一実施形態について説明する。
本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材は、マグネシウム(Mg)を主成分とする母相と、晶出物とを含む。ここで、塑性加工部材とは、必要な素材が溶融・撹拌などで得られたインゴットなどに、何らかの塑性加工が施されて得られる加工部材を言う。
具体的には、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材は、
全体に対して、2質量%~6質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0質量%~3質量%の亜鉛(Zn)と、
全体に対して、0.5質量%~3質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
残部のマグネシウム(Mg)および不可避混合物とを含む。より好ましくは、全体に対して、Alの含有量が3質量%~4質量%であり、Znの含有量が0質量%~0.7質量%であり、Caの含有量が1質量%~2質量%であり、Mnの含有量が0.2質量%~0.4質量%である。
なお、上記合金の組成値は、有効数字1桁で示したものである。また、本明細書において、数値範囲等を、「~」を用いて表す場合、「~」の両端の数値等を含む。
不可避混合物は、マグネシウム合金もしくはマグネシウム合金の塑性加工部材の製造工程で、不可避に混合されてしまう成分であり、例えば、鉄、銅、ニッケル、シリコンなどを例示することができる。
また、晶出物は、AlおよびCaの一部を含む。また、晶出物は、AlおよびCaを含有する金属間化合物(代表組成:AlCa)を含む。この晶出物は、平均粒子径が0.2μm~1000μmであり、好ましくは、平均粒子径が0.2μm~10μmである。
さらに、この晶出物は、ビッカース硬度の平均値が350以上であり、実際的には、ビッカース硬度の平均値が350~3000である。なお、晶出物の平均粒子径は、光学顕微鏡によって撮影されたマグネシウム合金の塑性加工部材の断面組織写真に基づいて算出することができ、ビッカース硬度は、例えば公知のビッカース硬度計を用い、以下の測定条件で測定することができる。
(ビッカース硬度の測定条件、JISZ 2244:2009準拠)
装置:マイクロビッカース硬度試験機(例えば:Mitutoyo HM-200)
試験力:0.0005kgf
試験力の保持時間:10秒
測定点:5~10点
測定面:押出し方向に平行な断面
さらに、この晶出物には、例えば、Mg-Al金属間化合物(代表組成:Mg17Al12)などのその他の金属間化合物が含まれていてもよい。
母相は、Mgを主成分として構成されるが、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材は、母相に、AlおよびCaの一部を含むとともに、このAlおよびCaを含有する金属間化合物(代表組成:AlCa)である平均粒子径1nm~100nmの微細な析出物を含む。
さらに、この析出物の平均粒子径は、1nm~30nmの範囲を好ましく例示することができる。析出物の平均粒子径も、例えば透過型電子顕微鏡によって撮影されたマグネシウム合金の塑性加工部材の断面組織写真に基づいて算出することができる。
本発明の塑性加工部材は、上記通りの組成であることで、難燃性および強度に優れている。特に、本発明の塑性加工部材は、Al-Ca金属間化合物を含む晶出物が母相内部に分布し、母相を結合している。そして、この晶出物は、ビッカース硬度の平均値が350以上であるため、その硬度が低すぎることがない。このため、硬度が低すぎる晶出物(代表組成:AlCa)が、破壊起点となることによるマグネシウム合金の強度低下が抑制され、塑性加工部材で高い強度、耐久性が実現されている。
さらに、上述したように、本発明の塑性加工部材は、母相にAl-Ca金属間化合物(代表組成:AlCa)を含む平均粒子径1nm~100nm以下の微細な析出物を含む。このため、この析出物による母相の連結力が高まり、本発明の塑性加工部材の延性を維持しつつ強度がさらに向上している。
このように、本発明の塑性加工部材は、難燃性を有し、強度および延性のバランスに優れている。より具体的には、本発明の塑性加工部材は、室温引張試験での0.2%耐力が270MPa以上であり、破断伸びが12%以上である。本発明の塑性加工部材は、引張強度も破断伸びも非常に高い。これらは、マグネシウム合金との比較とされやすい一般的なアルミニウム合金と比較しても十分な値である。
本発明の塑性加工部材の機械的特性(0.2%耐力と破断伸び)の望ましい測定条件を示す。
(機械的特性の測定条件、JIS Z 2241:2011準拠)
装置:万能試験機(例えば:INSTRON 5565Q6662)
試験片平行部寸法:直径2.5mm、長さ14mm(JIS14A準拠)
クロスヘッド速度:2mm/分(初期歪み速度:2.4×10-3-1
ひずみゲージ使用
本発明の塑性加工部材は、270MPa以上の0.2%耐力を有することで、現在においては、鉄やアルミニウムなど(これらの合金を含む)が使用されている部品や構造部材と同等の強度を実現できる。
特に、輸送機器の構造部材においては、輸送機器が移動する特性上、変形圧力や応力、衝撃が加わるため、構造部材に破断が生じうる可能性がある。この場合には、構造部材には、引張り応力や圧縮応力が加わることになるため、材料の変形能力が一定値以上を有すること(柔軟性を有すること)は、これらの構造部材や部品に使用される場合に重要である。また、様々な構造、形状の構造部材や部品に加工するためには、柔軟性も必要である。これらの応力や加工に対する柔軟性を示す基準の一つが破断伸びであり、本発明の塑性加工部材は、12%以上の破断伸びを有することで、一般的な構造部材や部品に適用する際に十分である。すなわち、従来は、鉄やアルミニウム(合金を含む)が使用されていた構造部材や部品に、本発明の塑性部材を使用できるようになり、軽量化やこれに伴う低コスト化も実現できる。なお、本発明の塑性加工部材の室温引張試験での0.2%耐力の上限値は600MPa以下であり、破断伸びの上限値は40%以下である。
さらに、本発明の塑性加工部材は、母相に平均粒径が0.1μm以上5μm未満の再結晶粒を含むことがより好ましい。ここで、再結晶粒とは、塑性加工中に母相内部に新たに形成される結晶をいう。母相に粒径が小さい微細な再結晶粒を含まれることで、母相が衝撃や応力に対して高い強度を示すことができ、塑性加工部材の強度と延性がより向上し、高い破断伸びを有するようになる。
このように、難燃性と高い延性、強度を有していることで、本発明の塑性加工部材は、軽量化が求められ、荷重や応力の掛かりやすい部位に使用される電子機器や輸送機器などの様々な機器での、部品や構造部材に適用することが可能となる。すなわち、本発明の塑性加工部材を含むことで、難燃性と高い強度、耐久性を有する電子機器用、精密機器用、工作機械用および輸送機器用の構造部材が提供される。
より具体的には、本発明の塑性加工部材は、例えば、自動車などの輸送機器のシャーシやボディー、あるいはフレームなどの構造部材に使用できる。航空機や船舶のシャーシ、ボディー、フレームなどの構造部材に使用できる。
これらの構造部材は、機器の骨格をなすものであるので、強度や耐久性を必要とするが、軽量化されることで、機器全体の軽量化を実現できる。特に、軽量化のステップアップが極めて大きい要素である。これらのようなシャーシ、ボディー、フレームなどの構造部材に使用できることで、機器の軽量化を実現し、機器の運転コストや運転エネルギーを低減できるようになる。
また、引張強度と破断伸びが十分な値を有していることで、本発明の塑性加工部材は、塑性加工が容易となる。例えば、圧延、押し出し、鍛造、引き抜きなどの加工であったり、加工後の成型などであったりする加工容易性が高まる。加工容易性が高いことで、加工精度の向上や加工コストの低減も実現できる。加えて、マグネシウム特有の軽量性に、カルシウムの添加による難燃性も合わせて実現できるので、従来は適用が困難と考えられていた分野への適用も可能である。
次に、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の製造方法の一実施形態について説明する。
以下、図面を参照しながら、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の製造方法の一実施形態について説明する。図1は、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材の製造方法の工程の一部を示すフローチャートであり、図2は、溶融工程を示す模式図である。
全体に対して、2質量%~6質量%のアルミニウム(Al)と、0質量%~3質量%の亜鉛(Zn)と、0.5質量%~3質量%のカルシウム(Ca)と、0質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、残部のマグネシウム(Mg)および不可避混合物とを含む材料を溶融する溶融工程と、
前記溶融工程で得られる溶融金属を固化する冷却工程と、
前記冷却工程で得られる固化金属を450℃以上540℃未満で加熱する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理した金属を塑性加工する塑性加工工程と、
を含む。この製造方法によれば、強度および延性のバランスの良いマグネシウム合金の塑性加工部材を製造できる。
まず、ステップST1にて、マグネシウム合金2に必要となる素材が混合されて溶融される溶融工程が実施される。ここで、図2のように、溶融容器100に、必要となる組成比率となるように原料となる素材が投入される。素材としては、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、カルシウム、マンガンなどである。
溶融容器100に、上述の組成比率となる各素材が投入される。これらが溶融する温度で溶融容器100が加熱されることで、溶融する。溶融容器100の中で、これらの素材は溶融されて撹拌される。この撹拌によって、均一に混合して溶融合金が製造される。
次に、ステップST2にて、溶融容器100で製造された溶融合金が冷却固化される。冷却固化の方法は特に限定されないが、例えば、空冷もしくは水冷による鋳造凝固などを例示することができる。冷却固化によって、上記の組成と組成比率を有するマグネシウム合金2が製造される。この段階でのマグネシウム合金2は、インゴットやその他の形態を有している。
次に、ステップST3にて、マグネシウム合金2に所定の塑性加工が行われる。すなわち、塑性加工工程が実施される。塑性加工工程における塑性加工によって、インゴットなどの形態を有していたマグネシウム合金2から、マグネシウム合金塑性加工部材1が得られる。
塑性加工としては、押し出し加工、圧延加工、鍛造加工および引き抜き加工のいずれかが適用される。マグネシウム合金2を一定の形態に加工するには、これらのいずれかの加工が適当であるからである。また、一定の形態に加工された後で、最終的な成型等の加工がされて得られる構造部材や部品などの特性に合わせて、押し出し加工、圧延加工、鍛造加工および引き抜き加工のいずれかが適用される。
これらいずれかの(場合によっては組み合わされる)塑性加工によって、マグネシウム合金2は、塑性加工部材に加工される。加工された状態となることで、マグネシウム合金2の際には各種の特性が不十分である場合でも、塑性加工部材は、上述した通りの各種特性(引張強度や破断伸びなど)を実現できる。
このようにステップST1~ST3を基本的な製造工程として、マグネシウム合金塑性加工部材1が製造される。
本発明の塑性加工部材の製造方法における特徴は、この基本的な製造工程に加えて、下記の溶体化処理工程を有することである。
(溶体化処理)
図3は、本発明の塑性加工部材の製造方法における溶体化処理工程を説明する模式図である。
ステップST4における溶体化処理工程は、図1のステップST2とステップST3との間において追加的に実施される。この製造工程で得られたマグネシウム合金の塑性加工部材は、Al-Ca金属間化合物の晶出物(代表組成:AlCa)のビッカース硬度の平均値が、350以上である。これらの特性を有することで、この製造工程で製造されたマグネシウム合金塑性加工部材は、加工の容易性、圧力や衝撃に対する強度、延性を発揮できる。
ステップST4において、このマグネシウム合金2は、溶体化処理を受ける。溶体化処理は、マグネシウム合金に対して加熱を行う。このとき、所定温度の加熱による溶体化処理がなされる。
溶体化処理工程における加熱温度は、450℃以上540℃未満である。この所定温度の範囲で加熱される溶体化処理によって、Al-Ca金属間化合物の晶出物(代表組成:AlCa)の硬度が確実に実現される。
そして、溶体化処理によって、金属間化合物(主に晶出物、代表組成:Mg17Al12及びAlCa)が母相に(一部)固溶する。特に、450℃以上540℃未満の加熱温度で溶体化処理されることで、このような作用が確実に実現され、後の塑性加工において微細な析出物として生成しやすくなる。また、450℃以上540℃未満の加熱温度で溶体化処理されることで、金属間化合物(晶出物、代表組成:AlCa)内部の欠陥が拡散により効果的に消滅し、硬度が増加する。
また、溶体化処理における加熱温度は、510℃~525℃であることがより好ましい。この範囲の加熱温度での溶体化処理が行われることで、金属間化合物(主に晶出物、代表組成:Mg17Al12及びAlCa)の固溶、および金属間化合物(晶出物、代表組成:AlCa)の硬度増加などが、更によりよい方向に進むため、塑性加工部材を作製した後も、破壊の起点とはならず、強度と延性のあるマグネシウム合金塑性加工部材を製造できる。
更には、加熱温度を510℃とした溶体化処理が行われることも好適であり、より、塑性加工部材を作製した後も、破壊の起点とはならず、強度と延性のあるマグネシウム合金塑性加工部材を製造できる。
次に、本発明の塑性加工部材の製造方法における好ましい実施形態の例について説明する。
(予備加熱工程)
図4は、塑性加工の1種である押し出し加工を示す模式図である。上述の通り、塑性加工については、押し出し加工、圧延加工、鍛造加工、引き抜き加工などがある。このうち、ステップST4を経て製造されたマグネシウム合金2は、押し出し加工されて押し出し材とされることがある。
図4は、押し出し加工用金型10に、ビレット形態のマグネシウム合金21が押し込まれて押し出し加工される状態を示している。押し出し加工用金型10は、次第に先が細くなる内径を有している。この内径の上部からマグネシウム合金21が押し付けられる。押しつけに際しては、圧力が付与される。
図4の矢印は、この圧力の付与(加圧)を示している。
加圧されることで、マグネシウム合金21は、押し出し加工用金型10の内部空間11に押し込まれる。内部空間11に押し込まれる過程で、マグネシウム合金21は、内部空間11の形状や内径に合わせた形状に加工される。すなわち、押し出し加工用金型10によって、マグネシウム合金の塑性加工材が得られる。
このとき、押し出し加工に用いられるマグネシウム合金21および押し出し加工用金型10のそれぞれは、押し出し加工の前に、250℃~350℃に加熱されることが好適である。すなわち、この実施形態の製造方法では、溶体化処理工程後かつ押し出し加工前に、固化金属(マグネシウム合金21)および押し出し加工用金型を250℃~350℃に加熱する予備加熱工程を含む。図4では、マグネシウム合金21および押し出し加工用金型10のそれぞれに加熱が施されている状態を示している。
押し出し加工前に、押し出し加工対象のマグネシウム合金21と押し出し加工用金型10とが、250℃~350℃の範囲で加熱されることで、押し出し加工されて製造されるマグネシウム合金の塑性加工部材は、微細なAl-Ca金属間化合物の析出物の析出、母相再結晶粒の平均粒径の微細化がより確実に実現できる。これによって、製造される塑性加工部材について、上述した引張強度や破断伸びなど特性をさらに向上させることができる。
また、押し出し加工用金型10は、280℃~350℃の加熱温度で加熱されていることでもよい。この場合には、押し出し加工での容易性がより高まり、得られる塑性加工部材の特性発現が確実になるからである。
以上のような製造方法によって、難燃性を有し、強度および延性のバランスに優れたマグネシウム合金の塑性加工部材を確実に製造することができる。
各方法でマグネシウム合金の塑性加工部材について行った実験結果(実施例1~10、比較例1~5)について説明する。
実施例1~10、比較例1~5のいずれも、それぞれに対応する組成と組成比率によって製造されたマグネシウム合金であって、塑性加工前に、それぞれに対応する温度で溶体化処理を施したものである。更に、塑性加工が押し出し加工であって、押し出し加工に用いられる押し出し加工用金型を、それぞれに対応する所定温度にして押し出し加工がされたものである。
(各例の製造について)
以下、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材とその製造方法について実施例とともに説明するが、本発明のマグネシウム合金の塑性加工部材とその製造方法は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1のマグネシウム合金の塑性加工部材は、4質量%のAl、0.7質量%のZn、2質量%のCa、0.3質量%のMn、残部のマグネシウムおよび不可避混合物を含む材料を溶融し(溶融工程)、この溶融工程で得られる溶融金属を固化し(冷却工程)、冷却工程で得られる固化金属を510℃に加熱し(溶体化処理工程)、溶体化処理した金属を280℃で塑性加工(押し出し加工)して製造した。
(実施例2)
実施例2のマグネシウム合金の塑性加工部材は、4質量%のAlを、3質量%のAlとした以外は実施例1と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(実施例3)
実施例3のマグネシウム合金の塑性加工部材は、押し出し加工での処理温度を280℃から300℃にした以外は実施例2と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(実施例4)
実施例4のマグネシウム合金の塑性加工部材は、押し出し加工での処理温度を280℃から350℃にした以外は実施例2と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(実施例5)
実施例5のマグネシウム合金の塑性加工部材は、2質量%のCaを1質量%のCaとした以外は実施例3と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(実施例6)
実施例6のマグネシウム合金の塑性加工部材は、2質量%のCaを1.5質量%のCaとした以外は実施例3と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(実施例7)
実施例7のマグネシウム合金の塑性加工部材は、2質量%のCaを2.5質量%のCaとした以外は実施例3と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(実施例8)
実施例8のマグネシウム合金の塑性加工部材は、0.7質量%のZnを0.0質量%のZnとした以外は実施例3と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(実施例9)
実施例9のマグネシウム合金の塑性加工部材は、0.7質量%のZnを3質量%のZnとした以外は実施例3と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(実施例10)
実施例10のマグネシウム合金の塑性加工部材は、510℃の溶体化処理での処理温度を525℃とした以外は実施例3と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(比較例1)
比較例1のマグネシウム合金の塑性加工部材は、4質量%のAlを7質量%のAlに、0.3質量%のMnを0.2質量%のMnにした以外は実施例1と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(比較例2)
比較例2のマグネシウム合金の塑性加工部材は、7質量%のAlを9質量%のAlにした以外は比較例1と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(比較例3)
比較例3のマグネシウム合金の塑性加工部材は、溶体化処理を行わないこと以外は比較例2と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(比較例4)
比較例4のマグネシウム合金の塑性加工部材は、溶体化処理での処理温度を510℃から420℃にした以外は比較例2と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(比較例5)
比較例5のマグネシウム合金の塑性加工部材は、溶体化処理での処理温度を510℃から420℃に、押し出し加工での処理温度を280℃から350℃にした以外は比較例2と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
(参考例1)
参考例1のマグネシウム合金の塑性加工部材は、溶体化処理での処理温度を510℃から540℃に、押し出し加工での処理温度を280℃から300℃にした以外は実施例2と同様に製造されたマグネシウム合金の塑性加工部材である。
ここで、押し出し加工は、次の通りの条件で行われた。
上述の各例の組成に応じて製造された合金鋳造材を、
1 溶体化処理なし
2 420℃で48時間の溶体化処理の後、水冷する(溶体化処理が420℃の例)
3 まず420℃で48時間の溶体化処理の後、水冷する。これに次いで、450℃~540℃で48時間の溶体化処理の後、水冷する(溶体化処理が450℃~540℃の例)
4 まず420℃で48時間の溶体化処理の後、水冷する。これに次いで、510℃~525℃で48時間の溶体化処理の後、水冷する(溶体化処理が510℃~525℃の例)
の、いずれかで(溶体化処理の温度によって2~4のいずれかが行われる)溶体化処理がなされる。
この溶体化処理を経て得られる合金は、ビレット材であり、ビレットは、直径(38~39)×高さ(35~41)mmである。
押し出し加工に用いられる押し出し用金型は、直径が40mmである。
押し出し比は、44(直径40mmを直径6mmに絞り込む)である。
押し出し時のラム速度は、5mm/分(素材押し出し速度:222mm/分)である。
押し出し温度は、各例の押し出し加工での処理温度に対応する。
このようにして製造された各例のマグネシウム合金の塑性加工部材のそれぞれについて、次の条件で、AlCaの金属間化合物のビッカース硬度と機械的特性(引張り強度、耐力、破断伸び)を測定した。
(ビッカース硬度の測定条件、JIS Z 2244:2009準拠)
装置:マイクロビッカース硬度試験機(Mitutoyo HM-200)
試験力:0.0005kgf
試験力の保持時間:10秒
測定点:5~10点
測定面:押出し方向に平行な断面
晶出物のビッカース硬度は、サイズ1ミクロン以上の晶出物を対象として測定を実施した。
(機械的特性の測定条件、JIS Z 2241:2011準拠)
装置:インストロン万能試験機(INSTRON 5565Q6662)
試験片平行部寸法:直径2.5mm、長さ14mm(JIS14A準拠)
クロスヘッド速度:2mm/分(初期歪み速度:2.4×10-3-1
ひずみゲージ使用
以上の測定条件に基づいて、実施例1~10、比較例1~5におけるAl-Ca金属間化合物の晶出物のビッカース硬度と、マグネシウム合金塑性加工部材の機械的特性を表1に示す。耐力は、室温引張試験での0.2%耐力のことを示す。
また、塑性加工部材における晶出物(代表組成:AlCa)の粗大粒子について、実施例2のマグネシウム合金の塑性加工部材の光学顕微鏡写真を図5に示す。図5からは、粗大な金属間化合物粒子(Al-Ca金属間化合物:晶出物)が、母相のマグネシウム合金(灰色部分)の中に存在することが確認できる。
Figure 0007274131000001
(実施例1)
ビッカース硬度:373-502(平均:445)
引張強度:353MPa、耐力:305MPa、破断伸び:17.1%
(実施例2)
ビッカース硬度:373-618(平均:492)
引張強度:402MPa、耐力:380MPa、破断伸び:12.5%
(実施例3)
ビッカース硬度:334-508(平均:416)
引張強度:365MPa、耐力:328MPa、破断伸び:14.6%
(実施例4)
ビッカース硬度:397-579(平均:474)
引張強度:315MPa、耐力:282MPa、破断伸び:18.7%
(実施例5)
ビッカース硬度:332-635(平均:440)
引張強度:323MPa、耐力:276MPa、破断伸び:20.6%
(実施例6)
ビッカース硬度:384-659(平均:522)
引張強度:342MPa、耐力:321MPa、破断伸び:17.7%
(実施例7)
ビッカース硬度:383-465(平均:428)
引張強度:369MPa、耐力:358MPa、破断伸び:13.9%
(実施例8)
ビッカース硬度:254-519(平均:385)
引張強度:358MPa、耐力:348MPa、破断伸び:12.5%
(実施例9)
ビッカース硬度:372-573(平均:457)
引張強度:329MPa、耐力:278MPa、破断伸び:13.5%
(実施例10)
ビッカース硬度:487-674(平均:580)
引張強度:377MPa、耐力:348MPa、破断伸び:12.0%
(比較例1)
ビッカース硬度:513-612(平均:573)
引張強度:317MPa、耐力:202MPa、破断伸び:20.7%
(比較例2)
ビッカース硬度:377-566(平均:483)
引張強度:367MPa、耐力:265MPa、破断伸び:16.8%
(比較例3)
ビッカース硬度:186-268(平均:236)
引張強度:373MPa、耐力:284MPa、破断伸び:11.2%
(比較例4)
ビッカース硬度:212-280(平均:243)
引張強度:364MPa、耐力:239MPa、破断伸び:13.6%
(比較例5)
ビッカース硬度:196-270(平均:239)
引張強度:316MPa、耐力:208MPa、破断伸び:12.2%
また、実施例1-10では、晶出物は、平均粒子径が0.2μm~1000μmであり、ビッカース硬度の平均値が350以上であった。また、母相には、Al-Ca金属間化合物である平均粒子径1nm~100nmの析出物が確認された。実施例1-10は、室温引張試験での0.2%耐力が270MPa以上であり、かつ、破断伸びが12%以上であり、強度および延性がバランスよく実現されていることが確認された。
一方、Alの含有量が高い比較例1、2では、室温引張試験での0.2%耐力が不十分であった。さらに、Alの含有量が高く、溶体化処理を行っていない比較例3は、晶出物のビッカース硬度の平均値が350以下であり、破断伸びが不十分であった。Alの含有量が高く、溶体化温度が低い比較例4、5は、晶出物のビッカース硬度の平均値が350以下であり、室温引張試験での0.2%耐力が不十分であった。比較例1~5では、強度と延性の両方をバランスよく確保することは困難であった。
また、参考例1では、溶体化温度が高いことで、部分的な溶解に伴う溶融部分からの酸化物混入と空孔形成が生じたため、破断伸びが不十分であった(破断伸び:5.6%)。塑性加工部材の良好な破断伸びを確保するためには、溶体化温度が540℃未満であることが求められることが確認された。
(TEM写真による確認)
また、実施例と比較例との比較において、強度および延性を両立させるマグネシウム合金の組成加工部材が実現される態様を、TEM写真からも確認した。
図6は、上述した実施例と比較例の母相であるマグネシウム合金部分のTEM写真(断面組織写真)である。図6(a)は、比較例2のマグネシウム合金の塑性加工部材のTEM写真である。図6(b)は、実施例2のマグネシウム合金塑性加工部材のTEM写真である。
比較例2のTEM写真では、Mg-Al金属間化合物の析出が不十分である。これに対して、実施例2のTEM写真では、平均粒子径1nm~100nmの範囲内にあるAl-Ca金属間化合物の析出が十分であり、粒径も小さい。この点で、実験結果から適切な金属間化合物の析出も確認された。
さらに、母相の再結晶粒は、0.1μm以上5μm未満で、微細であることが確認された。
以上詳述したように、本発明は、マグネシウムを主成分とするマグネシウム合金を塑性加工した、マグネシウム合金の塑性加工部材および製造方法に関するものであり、本発明により、難燃性を実現しつつ、強度および延性をバランスよく実現できる、マグネシウム合金の塑性加工部材およびその製造方法などを提供することができる。本発明は、難燃性と軽量性が必要とされる電子機器部材、精密機器部材、工作機械部材や輸送機器部材等への適用が広がることを可能とするものとして有用である。
10 押し出し加工用金型
11 内部空間
21 マグネシウム合金

Claims (8)

  1. マグネシウム(Mg)を主成分とする母相と、晶出物とを含むマグネシウム合金の塑性加工部材であって、
    全体に対して、質量%~質量%のアルミニウム(Al)と、
    全体に対して、0質量%~0.7質量%の亜鉛(Zn)と、
    全体に対して、質量%~質量%のカルシウム(Ca)と、
    全体に対して、0.2質量%~0.4質量%のマンガン(Mn)と、
    を含み、かつ、残部マグネシウム(Mg)および不可避混合物であり、
    前記晶出物は、前記Alおよび前記Caの一部を含むとともに、このAlおよびCaを含有する金属間化合物を含み、平均粒子径が0.2μm~1000μmであり、かつ、ビッカース硬度の平均値が350以上であり、
    前記母相は、前記Alおよび前記Caの一部を含むとともに、このAlおよびCaを含有する金属間化合物である平均粒子径1nm~100nmの析出物を含む
    ことを特徴とする塑性加工部材。
  2. 前記母相は、さらに、平均粒径が0.1μm以上5μm未満の再結晶粒を含むことを特徴とする請求項1の塑性加工部材。
  3. 室温引張試験での0.2%耐力が270MPa以上であり、かつ、破断伸びが12%以上であることを特徴とする請求項1または2のマグネシウム合金の塑性加工部材。
  4. 請求項1からのいずれかの塑性加工部材を含む構造部材であって、電子機器用、精密機器用、工作機械用および輸送機器用のうちのいずれかであることを特徴とする構造部材。
  5. 請求項1の塑性加工部材の製造方法であって、
    全体に対して、質量%~質量%のアルミニウム(Al)と、0質量%~0.7質量%の亜鉛(Zn)と、質量%~質量%のカルシウム(Ca)と、0.2質量%~0.4質量%のマンガン(Mn)とを含み、かつ、残部マグネシウム(Mg)および不可避混合物である材料を溶融する溶融工程と、
    前記溶融工程で得られる溶融金属を固化する冷却工程と、
    前記冷却工程で得られる固化金属を450℃以上540℃未満で加熱する溶体化処理工程と、
    前記溶体化処理した金属を塑性加工する塑性加工工程と、を含み、
    前記塑性加工は、押し出し加工、圧延加工、鍛造加工および引き抜き加工のいずれかであることを特徴とする塑性加工部材の製造方法。
  6. 前記溶体化処理工程の加熱温度は、510℃~525℃であることを特徴とする請求項の塑性加工部材の製造方法。
  7. 前記塑性加工工程において、前記塑性加工は押し出し加工であり、
    前記溶体化処理工程後かつ前記押し出し加工前に、前記固化金属および押し出し加工用
    金型を250℃~350℃に加熱する予備加熱工程
    を含むことを特徴とする請求項またはの塑性加工部材の製造方法。
  8. 前記予備加熱工程の加熱温度は、280℃~350℃であることを特徴とする請求項の塑性加工部材の製造方法。

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