実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
<多接合太陽電池の概略構成>
図1は、多接合太陽電池の模式的な構成を示す断面図である。
図1において、多接合太陽電池10は、ソーダライムガラス基板100上に配置された太陽電池素子SB1と、この太陽電池素子SB1上に配置された太陽電池素子SB2と、この太陽電池素子SB2上に配置された太陽電池素子SB3とを有している。
太陽電池素子SB1は、まず、ソーダライムガラス基板100上に形成された裏面電極101を有している。この裏面電極101は、例えば、モリブデン(Mo)膜から構成されている。次に、太陽電池素子SB1は、裏面電極101上に形成された光吸収層102と、光吸収層102上に形成されたバッファ層103と、バッファ層103上に形成された透明電極104とを有している。光吸収層102は、多結晶化合物半導体層から構成される。例えば、光吸収層102は、CuxInyGa1-ySe2(以下、CIGSと呼ぶ)から構成されている。「CIGS」から構成される光吸収層102のバンドギャップは、例えば、1.2eVであり、太陽光のうち、1.2eV以上の光エネルギーを有する光が太陽電池素子SB1で吸収される。続いて、光吸収層102上に形成されているバッファ層103は、例えば、n型CdS(硫化カドミウム)から構成されており、このバッファ層103上に形成されている透明電極104は、例えば、ZnO(酸化亜鉛)から構成されている。透明電極は、少なくとも、太陽光の主成分である可視光に対して透光性を有している。このようにして、太陽電池素子SB1が構成されている。
次に、太陽電池素子SB2は、BSF(Back Surface Field)層として機能するp+型AlGaAs層106と、p+型AlGaAs層106上に形成された光吸収層として機能するp型GaAs層107とを有する。また、太陽電池素子SB2は、p型GaAs層107上に形成された光吸収層として機能するn型GaAs層108と、n型GaAs層108上に形成された窓層として機能するn+型InGaP層109を有している。これにより、太陽電池素子SB2においては、p型GaAs層107とn型GaAs層108との境界にpn接合が形成される。太陽電池素子SB2のバンドギャップは、1.42eVであり、太陽光のうち、1.42eV以上の光エネルギーを有する光が太陽電池素子SB2で吸収される。このようにして、太陽電池素子SB2が構成されている。
続いて、太陽電池素子SB3は、BSF層として機能するp+型InAlP層111と、p+型InAlP層111上に形成された光吸収層として機能するp型GaInP層112と、p型GaInP層112上に形成された光吸収層として機能するn型GaInP層113と、n型GaInP層113上に形成された窓層として機能するn+型InAlP層114を有している。さらに、n+型InAlP層114上には、表面電極115が形成されている。これにより、太陽電池素子SB3においては、p型GaInP層112とn型GaInP層113との境界にpn接合が形成されることになる。太陽電池素子SB3のバンドギャップは、1.89eVであり、太陽光のうち、1.89eV以上の光エネルギーを有する光が太陽電池素子SB3で吸収される。このようにして、太陽電池素子SB3が構成されている。
ここで、太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB3とは、1つの半導体チップに形成されている。すなわち、太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB3は、半導体チップに形成されるトンネル接合110によって接合されるとともに電気的にも直列接続されることになる。例えば、トンネル接合110は、太陽電池素子SB2のn+型InGaP層109と太陽電池素子SB3のp+型InAlP層111とに挟まれる縮退した半導体層から構成される。これにより、太陽電池素子SB2のn+型InGaP層109と太陽電池素子SB3のp+型InAlP層111とは電気的に接続されることになる。
一方、多結晶化合物半導体層を含む太陽電池素子SB1は、太陽電池素子SB2や太陽電池素子SB3と結晶の構造が大幅に異なることから、1つの半導体チップに形成することが困難となる。すなわち、多結晶構造である太陽電池素子SB1と単結晶構造である太陽電池素子SB2や太陽電池素子SB3との間で結晶成長を連続的に行なって接合を形成することが困難となる。なぜなら、単結晶を形成する製法(エピタキシャル成長法)では、下部の結晶構造を引き継いで結晶が成長するため、多結晶構造上には多結晶構造が成長することになり、多結晶構造上に単結晶構造を形成することが困難となるからである。
このことから、太陽電子素子SB1は、太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB3とが形成された第2半導体チップとは別の第1半導体チップに形成される。そして、太陽電池素子SB1が形成された第1半導体チップと、太陽電池素子SB2および太陽電池素子SB3が形成された第2半導体チップとは、図1に示すように、例えば、複数の導電性ナノ粒子によって接合される。これにより、太陽電池素子SB1が形成された第1半導体チップと、太陽電池素子SB2および太陽電池素子SB3が形成された第2半導体チップとは、機械的に接合されるとともに、電気的に接続される。例えば、導電性ナノ粒子としては、パラジウム(Pd)からなるナノ粒子を使用することができる。
導電性ナノ粒子による接合によれば、導電性および透光性に優れた接合構造を得ることができる。例えば、多接合太陽電池10の接合構造に導電性ナノ粒子を使用することによって、光電変換効率を向上することができる。特に、導電性ナノ粒子によれば、透明電極の膜厚を薄くでき、更には透明電極の省略も可能となる。このため、透明電極での光学損失を低減できる。これに加え、導電性ナノ粒子によれば、ナノ構造に由来する光学特性(光閉じ込め効果)によって光電変換効率を向上できる。
<多接合太陽電池の動作>
多接合太陽電池10は、上記のように構成されており、以下では、図1を参照しながら、多接合太陽電池10の動作について説明する。
まず、図1において、太陽電池素子SB3の上方から可視光や赤外光を含む太陽光が照射されると、太陽電池素子SB3の構成要素であるn+型InAlP層114に太陽光が照射される。このとき、n+型InAlP層114は窓層として機能し、少なくとも太陽光の主成分である可視光や赤外光に対して透光性を有する。このことから、太陽光は、n+型InAlP層114を透過する。次に、n+型InAlP層114を透過した太陽光は、n+型InAlP層114の下層に位置する太陽電池素子SB3の内部に入射される。具体的には、太陽光は、n型GaInP層113と、n型GaInP層113とp型GaInP層112との境界領域に形成されているpn接合部と、p型GaInP層112に入射する。このとき、n型GaInP層113とp型GaInP層112は、1.89eVのバンドギャップを有することから、太陽光のうち、1.89eV以上の光エネルギーを有する光は吸収される。具体的には、GaInP層(n型GaInP層113とp型GaInP層112)の価電子帯に存在する電子が、太陽光から供給される光エネルギーを受け取って伝導帯に励起される。これにより、伝導帯に電子が蓄積されるとともに価電子帯に正孔が生成される。このようにして、太陽電池素子SB3に太陽光が照射されることにより、太陽光に含まれる1.89eV以上の光エネルギーを有する光によって、GaInP層の伝導帯に電子が励起されるとともに、GaInP層の価電子帯に正孔が生成される。そして、pn接合部の一方を構成するn型GaInP層113の伝導帯は、pn接合部の他方を構成するp型GaInP層112の伝導帯よりも電子的に見てエネルギーが低い位置にある。このことから、伝導帯に励起された電子は、n型GaInP層113に移動して、n型GaInP層113に電子が蓄積される。一方、価電子帯に存在する正孔は、p型GaInP層112に移動して、p型GaInP層112に正孔が蓄積する。この結果、p型GaInP層112とn型GaInP層113との間に起電力(V3)が生じる。
一方、太陽光のうち、1.89eVよりも小さな光エネルギーを有する光は、GaInP層で吸収されずに、GaInP層を透過する。これにより、図1において、太陽光のうち、1.89eVよりも小さな光エネルギーを有する光は、太陽電池素子SB3の下層に配置されている太陽電池素子SB2に入射する。具体的に、太陽光のうち、1.89eVよりも小さな光エネルギーを有する光は、窓層として機能するn+型InGaP層109を介して、n型GaAs層108と、n型GaAs層108とp型GaAs層107との境界領域に形成されているpn接合部と、p型GaAs層107に入射する。このとき、n型GaAs層108とp型GaAs層107は、1.42eVのバンドギャップを有することから、太陽光のうち、1.89eVよりも小さく、かつ、1.42eV以上の光エネルギーを有する光は吸収される。具体的には、GaAs層(n型GaAs層108とp型GaAs層107)の価電子帯に存在する電子が、太陽光から供給される光エネルギーを受け取って伝導帯に励起される。これにより、伝導帯に電子が蓄積されるとともに価電子帯に正孔が生成される。このようにして、太陽電池素子SB2に太陽光が照射されることにより、1.89eVよりも小さく、かつ、1.42eV以上の光エネルギーを有する光によって、GaAs層の伝導帯に電子が励起されるとともに、GaAs層の価電子帯に正孔が生成される。そして、pn接合部の一方を構成するn型GaAs層108の伝導帯は、pn接合部の他方を構成するp型GaAs層107の伝導帯よりも電子的に見てエネルギーが低い位置にある。このことから、伝導帯に励起された電子は、n型GaAs層108に移動して、n型GaAs層108に電子が蓄積される。一方、価電子帯に存在する正孔は、p型GaAs層107に移動して、p型GaAs層107に正孔が蓄積する。この結果、p型GaAs層107とn型GaAs層108との間に起電力(V2)が生じる。
これに対し、太陽光のうち、1.42eVよりも小さな光エネルギーを有する光は、GaAs層で吸収されずに、GaAs層を透過する。これにより、図1において、太陽光のうち、1.42eVよりも小さな光エネルギーを有する光は、導電性ナノ粒子105を介して太陽電池素子SB2の下層に配置されている太陽電池素子SB1に入射する。具体的に、太陽光のうち、1.42eVよりも小さな光エネルギーを有する光は、透明電極104を介して、バッファ層103と光吸収層102に入射する。このとき、光吸収層102は、1.2eVのバンドギャップを有することから、太陽光のうち、1.42eVよりも小さく、かつ、1.2eV以上の光エネルギーを有する光は吸収される。具体的には、光吸収層102の価電子帯に存在する電子が、太陽光から供給される光エネルギーを受け取って伝導帯に励起される。これにより、伝導帯に電子が蓄積されるとともに価電子帯に正孔が生成される。このようにして、太陽電池素子SB1に太陽光が照射されることにより、1.42eVよりも小さく、かつ、1.2eV以上の光エネルギーを有する光によって、光吸収層102の伝導帯に電子が励起されるとともに、光吸収層102の価電子帯に正孔が生成される。この結果、光吸収層102に電子が蓄積される一方、価電子帯に存在する正孔は、バッファ層103に正孔が蓄積する。この結果、光吸収層102とバッファ層103との間に起電力(V1)が生じる。
なお、「CIGS」からなる光吸収層102の製膜条件によっては、「CIGS」の表面をn型化することが可能であり、この場合、光吸収層102の表面層(n型層)と光吸収層の内部層(p型層)の間に起電力(V1)が生じる。
ここで、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2は、複数の導電性ナノ粒子105で直列接続されているとともに、太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB3は、トンネル接合110によって直列接続されている。つまり、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB3は、直列接続されていることになる。この結果、直列接続されている太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB3からなる多接合太陽電池10には、起電力(V1)と起電力(V2)と起電力(V3)とを合わせた起電力が生じる。そして、例えば、表面電極115と裏面電極101との間に負荷を接続すると、表面電極115から負荷を通って裏面電極101に電子が流れる。言い換えれば、裏面電極101から負荷を通って表面電極115に電流が流れる。このようにして、多接合太陽電池10を動作させることにより、負荷を駆動することができる。
このようにして、多接合太陽電池10によれば、太陽光に含まれる光エネルギーの大きな光とともに光エネルギーの小さな光も吸収して電気エネルギーに変換することができるため、光電変換効率を向上させることができる。つまり、多接合太陽電池10によれば、単一の太陽電池では利用することができない光エネルギーの小さな光も利用することができることから、太陽光の利用効率を向上できる点で優れている。
<多接合太陽電池の製造方法>
続いて、多接合太陽電池10の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図2は、多接合太陽電池10の製造工程の流れを示すフローチャートである。
図2において、太陽電池素子SB1を形成する工程について説明する。まず、表面を洗浄したソーダライムガラス基板100を準備した後、このソーダライムガラス基板100の表面に裏面電極101を形成する(S101)。裏面電極101は、例えば、モリブデン膜(Mo膜)から形成することができ、例えば、スパッタリング法を使用することにより形成することができる。次に、裏面電極101上に光吸収層102を形成する(S102)。光吸収層102は、例えば、「CIGS」からなる多結晶化合物半導体層から形成され、例えば、真空蒸着法を使用して形成することができる。その後、光吸収層102上にバッファ層103を形成する(S103)。バッファ層103は、例えば、n型CdSから構成され、例えば、化学溶液堆積法を使用して形成することができる。
なお、化学溶液堆積法では、例えば、アンモニア(NH3)、硫酸カドミウム(CdSO4)、チオ尿素(CSN2H4)の水溶液をビーカーに入れた後、この溶液中に光吸収層102の表面を浸漬した上で、ビーカーを80度に保持した湯煎器の中に投入し、水溶液を室温から徐々に温めながら合計16分間保持することによって、CdSを形成する。
その後、バッファ層103上に透明電極104を形成する(S104)。透明電極104は、例えば、酸化亜鉛から形成することができる。以上のようにして、太陽電池素子SB1を形成できる。
次に、図2において、太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB3との積層構造を形成する工程について説明する。まず、通常のプロセスを使用することにより、表面を洗浄したGaAs基板上に太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB3との積層構造を形成する(S201)。その後、ELO(Epitaxial lift off)法を使用することにより、太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB3との積層構造をGaAs基板から分離する(S202)。これにより、太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB3との積層構造を形成できる。
続いて、図2において、太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB1との接合工程について説明する。例えば、複数の導電性ナノ粒子105を使用して、太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB1とを接合する(S301)。これにより、太陽電池素子SB2と太陽電池素子SB1とは、機械的に接合されるとともに、電気的に接続されることになる。
以上のようにして、多接合太陽電池10を製造することができる。
<<導電性ナノ粒子による接合工程>>。
以下では、導電性ナノ粒子を使用した接合工程の詳細について説明する。
図3は、導電性ナノ粒子を使用した接合工程の流れを示すフローチャートである。
まず、接合対象の一方である太陽電池素子SB1の表面(透明電極104の表面)にブロック共重合体からなる薄膜を形成する(S401)。具体的には、トルエンやオルトキシレンなどの有機溶媒に溶解させた疎水性部分であるポリスチレンと親水性部分であるポリ-2-ビニルピリジンからなるブロック共重合体をスピンコート法やディップコーティング法を使用して透明電極104の表面に塗布する。これにより、ブロック共重合体の相分離に起因して、透明電極104の表面には、ポリ-2-ビニルピリジンブロックがパターン化される。次に、太陽電池素子SB1をNa2PdCl4に代表される金属イオン塩を溶解させた水溶液に浸す(S402)。これにより、ピリジンとの化学相互作用を介して、金属イオン(Pd2+)をポリ-2-ビニルピリジンブロックからなるパターンの中に取り込むことができる。そして、充分な水洗後、太陽電池素子SB1に対して、ブロック共重合体の除去処理と金属イオンの還元処理を行なう(S403)。この結果、パターンを保持した状態で、有機分子で覆われていない導電性ナノ粒子の配列を形成できる。続いて、接合対象の他方である太陽電池素子SB2を導電性ナノ粒子が配置された太陽電池素子SB1上に重ねた後、適切な加圧処理と加温処理を施すことにより、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2とを接合する(S404)。このようにして、導電性ナノ粒子を使用した太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合が実現される。
導電性ナノ粒子による接合では、下地の平坦性を向上することが重要である。なぜなら、下地に大きな凹凸形状が存在すると、導電性ナノ粒子の配列が乱れる結果、導電性ナノ粒子による密着性が低下するからである。すなわち、導電性ナノ粒子による機械的な接合強度は、下地の凹凸形状に大きく左右されることから、導電性ナノ粒子による機械的な接合強度を向上するためには、下地の平坦性を高めることが重要なのである。さらに、導電性ナノ粒子の密着性が低下するということは、導電性ナノ粒子を介した太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合における電気的特性の低下を招くことも意味する。なぜなら、導電性ナノ粒子の密着性の低下は、接触抵抗の増大を引き起こし、これによって、導電性ナノ粒子を介した太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合における電気的特性が低下することになるからである。したがって、導電性ナノ粒子を介した太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合において、密着性の向上と電気的特性の向上とを図る観点から、下地の平坦性を高めて導電性ナノ粒子の配列を整えることが重要である。
<関連技術の説明>
この点に関し、導電性ナノ粒子を介した太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合を実現する際、下地の平坦性を高めるための関連技術が存在する。このことから、以下では、まず、この関連技術について説明する。
ここで、本明細書でいう「関連技術」は、新規に発明者が見出した課題を有する技術であって、公知である従来技術ではないが、新規な技術的思想の前提技術(未公知技術)を意図して記載された技術である。
関連技術では、導電性ナノ粒子が直接接触している下地の平坦性を向上することが行なわれている。例えば、関連技術では、図1において、太陽電池素子SB1の構成要素である透明電極104の表面を平坦化することが行なわれる。具体的に、図4は、関連技術において、太陽電池素子SB1を製造する工程の流れを示すフローチャートである。図4に示すように、関連技術では、光吸収層102を形成した後(S501)、この光吸収層102上にバッファ層103を形成する(S502)。そして、関連技術では、バッファ層103上に透明電極104を形成し(S503)、その後、透明電極104の表面を平坦化する(S504)。このとき、例えば、化学的機械的研磨法(Chemical Mechanical Polishing:CMP)を使用して、透明電極104の表面が平坦化される。
図5(a)は、関連技術を使用して形成された多接合太陽電池10に対して、導電性ナノ粒子による太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合を実現した構成を模式的に示す図である。図5(a)において、裏面電極101上に光吸収層102が形成されている。この光吸収層102は、例えば、「CIGS」に代表される多結晶化合物半導体層から構成されており、複数のサイズの異なる結晶粒を含んでいる。このことから、図5(a)に示すように、光吸収層102の表面には、凹凸形状が形成されている。そして、関連技術では、この凹凸形状を反映するように、光吸収層102上にバッファ層103が形成される。一方、バッファ層103上には、透明電極104が形成されているが、関連技術では、透明電極104の表面をCMP法で平坦化処理を実施しているため、透明電極104の表面は平坦化されている。したがって、導電性ナノ粒子105の下地となる透明電極104の表面の平坦性が向上していることから、導電性ナノ粒子105と透明電極104との密着性は向上すると考えられる。すなわち、導電性ナノ粒子105と太陽電池素子SB1との密着性は向上すると考えられる。そして、導電性ナノ粒子105を上側から押し付けるように配置されている太陽電池素子SB2は、多結晶ではなく単結晶から構成されているため、導電性ナノ粒子105と直接接触する太陽電池素子SB2のp+型AlGaAs層106の平坦性は高い。このため、導電性ナノ粒子105と太陽電池素子SB2との密着性は問題とならない。以上のことから、関連技術では、導電性ナノ粒子105による太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2の接合特性を向上できると考えられる。
ところが、本発明者が新規に検討したところ、関連技術では、導電性ナノ粒子105による太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合特性を向上する観点から改善の余地が存在することが明らかとなったので、この点について説明する。
<関連技術に存在する改善の余地>
関連技術では、CMP法を使用して、導電性ナノ粒子105と直接接触する透明電極104の表面の平坦性を向上させているが、CMP法では、機械的なダメージによる電気的特性の劣化が懸念される。例えば、光吸収層102は、「CIGS」に代表される多結晶化合物半導体層から形成されている。このため、光吸収層102の表面には、凹凸形状が存在する。そして、この光吸収層102の表面に形成されている凹凸形状を覆うようにバッファ層103が形成されているが、このバッファ層103の表面も、光吸収層の表面形状を反映して凹凸形状が形成されるとともに、バッファ層103を構成する「CdS」の異常成長も加わって、バッファ層103の表面にも大きな凹凸形状が形成される。ただし、光吸収層102の表面に形成されている凹凸形状は、「CdS」の異常成長に起因する凹凸形状に比べて遥かに大きいため、バッファ層103の表面に形成される凹凸形状は、光吸収層102の表面に形成される凹凸形状と同等となる。そして、このバッファ層103上に、例えば、「ZnO」からなる透明電極104が形成される。
このとき、透明電極104を構成する「ZnO」は、柱状結晶構造をしており、バッファ層103の表面に形成された凹凸形状上に複数の柱状結晶が並んで配置されるようにして、バッファ層103上に透明電極104が形成されている。したがって、透明電極104の下層に形成されているバッファ層103の凹凸形状を反映して、バッファ層103上に並んで配置されている複数の柱状結晶の結晶方位もばらつくことになる。つまり、透明電極104を構成する「ZnO」は、C軸が立った結晶構造をしているが、このC軸がランダム傾くことになる。そして、このことが、「ZnO」の機械的強度を不均一にしている主要因となっている。すなわち、この状態の透明電極104の表面に対してCMP処理を施すと、CMP処理の機械的圧力に耐えられる強い機械的強度を有する部分では、複数の柱状結晶の高さを揃えることができる。一方で、CMP処理による機械的圧力に耐えられない弱い機械的強度を有する部分では、CMP処理に起因する機械的なダメージによって、突出している柱状結晶が剥がれてしまうことも生じると考えられている。すなわち、複数の柱状結晶から構成される透明電極104は、全体にわたって均一な機械的強度を有しているわけではなく、機械的強度の強い部分と機械的強度の弱い部分が併存すると考えられ、機械的強度の弱い部分においては、CMP処理に起因する機械的ダメージによって、突出している柱状結晶が剥がれてしまうのである。この場合、互いに並んで配置されている柱状結晶の間に凹み部が形成されることを意味し、この凹み部においては、導電性ナノ粒子105と透明電極104を構成する柱状結晶との間の接触不良が生じることになる。このことは、導電性ナノ粒子105と透明電極104との接触抵抗が大きくなってしまうことを意味し、これによって、多接合太陽電池10の電気的特性が劣化してしまう。
このように、CMP法を使用して、導電性ナノ粒子105と直接接触する透明電極104の表面を平坦化する関連技術では、第一に、多接合太陽電池10の電気的特性の劣化が顕在化するおそれがあることになる。
さらに、関連技術によれば、多接合太陽電池10の光電変換効率の低下も懸念される。以下にこの点について説明する。例えば、多接合太陽電池10の光電変換効率を向上する観点からは、透明電極104の膜厚を薄くすることが望ましい。なぜなら、透明電極104の膜厚が厚くなると、透明電極104における太陽光の吸収が大きくなり、このことは、光学ロスが増加することを意味しているからである。したがって、CMP処理で透明電極104の表面を平坦化する関連技術においても、透明電極104の膜厚をできるだけ薄くすることが望ましい。ところが、CMP処理を使用する関連技術では、透明電極104の膜厚を全体的に適正膜厚まで薄くすることが困難となるのである。
以下に、この理由について説明する。
例えば、上述したように、関連技術においては、光吸収層102の表面およびバッファ層103の表面には、大きな凹凸形状が存在する。そして、大きな凹凸形状が存在するバッファ層103上に透明電極104が形成されている。このとき、光学ロスを低減するために、透明電極104の膜厚を適正膜厚まで薄くすることを考える。この場合、バッファ層103の凸部上に形成される透明電極104の膜厚は必要以上に薄くなることになる。そして、この状態でCMP処理を実施すると、バッファ層103の凸部上に形成されている透明電極104がすべて研磨されてしまうことが起こりうる。このとき、薄いバッファ層103が露出することになるが、さらには、この薄いバッファ層103も削られて、バッファ層103の下層に位置する光吸収層102が露出することも考えられる。
ここで、光吸収層102は、例えば、「CIGS」から構成されているが、光電変換効率を向上させるために、「CIGS」には、アルカリ金属元素が添加されていることが多い。なぜなら、「CIGS」に添加されたアルカリ金属元素は、「CIGS」に存在する結晶欠陥に入り込んで、欠陥を不活性する性質がある結果、欠陥による電子と正孔の再結合を抑制する等により、光電変換効率の低下を抑制することができるからである。
ところが、CMP処理によって、「CIGS」の表面が露出するということは、「CIGS」に含有されているアルカリ金属元素が大気中の水分と触れることを意味する。そして、大気中の水分に触れたアルカリ金属元素は、容易に水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの強アルカリ性物質に変化する。この場合、強アルカリ性物質によって、多接合太陽電池10の腐食が進むことになり、これによって、多接合太陽電池10の信頼性が低下する。
したがって、関連技術では、「CIGS」からなる光吸収層102が露出しないように、ある程度の余裕を持って透明電極104を形成する必要がある。このことは、透明電極104の膜厚が必要以上に厚くなることを意味する。特に、バッファ層103の凸部上で透明電極104の適正な膜厚を確保しようすると、バッファ層103の凹部上に形成される透明電極104の膜厚は、適正膜厚よりもかなり大きくなる。この結果、関連技術では、透明電極104の膜厚増大に起因する光学ロスが大きくなり、これによって、多接合太陽電池10の光電変換効率が低下することになる。
このように、CMP法を使用して、導電性ナノ粒子105と直接接触する透明電極104の表面を平坦化する関連技術では、第二に、多接合太陽電池10の光電変換効率の低下が顕在化するおそれがあることになる。
例えば、図5(b)は、関連技術における多接合太陽電池のSEM写真である。
図5(b)において、「(1)」は、バッファ層の凹部上に形成されている透明電極の膜厚を示し、「(2)」は、バッファ層の凸部上に形成されている透明電極の膜厚を示している。同様に、「(3)」は、バッファ層の凸部上に形成されている透明電極の膜厚を示し、「(4)」は、バッファ層の凹部上に形成されている透明電極の膜厚を示している。
実際に、図5(b)を使用して、「(1)」~「(4)」の膜厚を測定すると、「(1)」の膜厚は、0.8μmであり、「(2)」の膜厚は、0.65μmとなる。一方、「(3)」の膜厚は、0.61μmであり、「(4)」の膜厚は、0.88μmとなる。
したがって、「(1)」~「(4)」の膜厚測定結果に基づくと、関連技術では、透明電極の場所による膜厚差(膜厚分布)は、最大で30%にもなる。すなわち、例えば、バッファ層の凸部上に形成される透明電極の適正膜厚を確保するためには、バッファ層の凹部上に形成される透明電極の膜厚は、適正膜厚よりも約30%も厚くなることになる。このことから、関連技術では、透明電極の膜厚増大に起因する光学ロスが大きくなり、これによって、多接合太陽電池の光電変換効率が低下することになる。
以上のことから、関連技術を使用して、導電性ナノ粒子と直接接触する下地の平坦性を確保しようとすると、多接合太陽電池の電気的特性の劣化と光電変換効率の低下という副作用が顕在化するおそれがあることになる。
そこで、本実施の形態では、関連技術に存在する改善の余地に対する工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想について説明する。
<実施の形態における基本思想>
本実施の形態における基本思想は、例えば、図1において、導電性ナノ粒子105と直接接触する透明電極104の表面を平坦化するのではなく、導電性ナノ粒子105と間接接触する光吸収層102の表面を平坦化する思想である。この基本思想によれば、光吸収層102の表面を平坦化することによって、光吸収層102上に形成されるバッファ層103の表面の平坦性と、このバッファ層103上に形成される透明電極104の表面の平坦性とを確保することができる。すなわち、本実施の形態における基本思想によれば、CMP法を使用して透明電極104の表面を平坦化しなくても、透明電極104の表面の平坦性を確保することができる。なぜなら、本実施の形態における基本思想によれば、大きな凹凸形状を有する光吸収層102の表面上にバッファ層103と透明電極104と形成するのではなく、大きな凹凸形状を有する光吸収層102の表面を予め平坦化した後、平坦化した光吸収層102の表面上にバッファ層103と透明電極104とを形成するからである。つまり、本実施の形態における基本思想は、透明電極104の表面が凹凸形状となる主要因が光吸収層102の表面の凹凸形状であることに着目して、光吸収層102の表面を予め平坦化することにより、透明電極104の膜厚および機械強度の均一性を保ちながら、透明電極104の表面の平坦性を確保しようとする思想である。このような本実施の形態における基本思想によれば、透明電極104の膜厚および機械強度を均一化したまま透明電極104の平坦性を確保できる。この結果、透明電極104の膜厚を適正膜厚まで低減することが可能となる。また、バッファ層103の表面平坦性を確保できるため、透明電極104の結晶方位のバラツキが低減されて、透明電極104の機械強度の均一性も向上する。そのため、CMP処理を施したとしても、ダメージの発生を抑制できる。さらには、本実施の形態においては、CMP法による透明電極104の平坦化処理を実施しなくても、透明電極104の平坦性を確保できるため、導電性ナノ粒子105と透明電極104との密着性を向上することができる。
特に、本実施の形態における基本思想では、透明電極104の膜厚および機械強度を均一化したまま、透明電極104の平坦性を確保できることから、以下に示す利点を得ることができる。
例えば、凹凸面上に形成された機械強度が不均一な透明電極104の表面に対してCMP処理を実施する関連技術では、CMP処理に起因する機械的ダメージによって、柱状結晶から構成される透明電極104の一部分が剥がれてしまうおそれがある。この場合、互いに並んで配置されている柱状結晶の間に凹み部が形成されることになり、この凹み部においては、導電性ナノ粒子105と透明電極104を構成する柱状結晶との間の接触不良が生じることになる。このことは、関連技術では、導電性ナノ粒子105と透明電極104との接触抵抗が大きくなってしまうことを意味し、これによって、多接合太陽電池10の電気的特性が劣化してしまう。
これに対し、本実施の形態における基本思想では、透明電極104の表面に対してCMP処理を実施しないことから、柱状結晶から構成される透明電極104に対してCMP処理に起因する機械的ダメージが加わることがない。さらには、CMP処理を実施したとしても、透明電極104の機械強度が均一であるため、ダメージの発生を抑制できる。このことは、本実施の形態における基本思想によれば、導電性ナノ粒子105と透明電極104を構成する柱状結晶との間の接触不良が抑制されることを意味する。したがって、本実施の形態における基本思想によれば、導電性ナノ粒子105と透明電極104との接触抵抗を低減することができ、これによって、多接合太陽電池10の電気的特性を向上できる。
続いて、関連技術では、透明電極104の下部界面での凹凸が大きいため、透明電極104の機械強度の均一性が悪い。そのため、CMP処理によって光吸収層102が露出することを抑制するために、必要以上に透明電極の膜厚を厚くする必要がある。さらに、関連技術では、光吸収層102の表面に大きな凹凸形状が存在することから、凹凸形状のうちの凸部上での透明電極104の膜厚を確保しようとすると、凹凸形状のうちの凹部上での透明電極104の膜厚が厚くなる。すなわち、関連技術では、光吸収層102の表面に大きな凹凸形状が存在することに起因して、透明電極104の膜厚ばらつきが大きくなる。このように関連技術では、光吸収層102が露出することを抑制するために透明電極104の全体の膜厚が厚くなる点と、大きな凹凸形状を有する光吸収層102を覆うように透明電極104が形成される結果、透明電極104の膜厚ばらつきが大きくなる点との相乗要因が存在する。このため、関連技術では、この相乗要因によって、透明電極104に起因する光学ロスが大きくなる。これにより、関連技術では、多接合太陽電池10の光電変換効率が低下することになる。
これに対し、本実施の形態における基本思想では、透明電極104の膜厚および機械強度を均一化したまま、透明電極104の平坦性を確保できる。このことから、本実施の形態における基本思想では、CMP処理に起因する光吸収層102の露出を防止することを考慮して、透明電極104の膜厚を必要以上に厚くする必要がなくなる。さらに、本実施の形態における基本思想によれば、平坦化した表面を有する光吸収層102を覆うように透明電極104が形成されることから、透明電極104の膜厚ばらつきも小さくなる。この結果、本実施の形態における基本思想によれば、透明電極104の膜厚マージンを確保する必要がなくなる点と、透明電極104の膜厚ばらつきが小さくなる点との相乗要因によって、透明電極104の膜厚を必要最小限にすることができる。このことから、本実施の形態における基本思想によれば、透明電極104に起因する光学ロスを低減することができる結果、多接合太陽電池10の光電変換効率を向上することができる。
以上のことから、本実施の形態における基本思想によれば、透明電極104の表面に対してCMP処理を実施しなくても、導電性ナノ粒子105と直接接触する透明電極104の表面の平坦性を向上できる。さらには、たとえCMP処理を実施したとしてもダメージの発生を抑制できる。このことは、本実施の形態における基本思想によれば、CMP処理のダメージに起因する接触抵抗の増大および光学ロスの増大という副作用を抑制しながら、導電性ナノ粒子105と透明電極104との密着性を向上できることを意味する。したがって、本実施の形態における基本思想は、導電性ナノ粒子105と透明電極104との密着性の向上を図りながらも、関連技術に比べて、多接合太陽電池10の電気的特性の向上と光電変換効率の向上を図ることができる点で優れた技術的思想である。
<光吸収層の表面平坦化技術>
上述したように、本実施の形態における基本思想は、例えば、図1において、導電性ナノ粒子105と間接接触する光吸収層102の表面を平坦化する思想である。以下では、この基本思想を具現化する光吸収層102の表面平坦化技術の一例について説明する。
図6は、本実施の形態において、太陽電池素子SB1を製造する工程の流れを示すフローチャートである。図6に示すように、本実施の形態では、光吸収層102を形成した後(S601)、光吸収層102の表面に対して、Br系水溶液による化学エッチングを施す(S602)。つまり、光吸収層102の表面に対して、Brを含むエッチャントを使用したエッチングを施す。具体的に、Brを含むエッチャントは、HBrとH2O2とH2Oとを含む水溶液である。これにより、光吸収層102の表面が平坦化される。
ここで、Br系水溶液として、HBrとH2O2とH2Oとを含む水溶液を使用する場合、以下に示す利点を得ることができる。すなわち、例えば、「CIGS」から構成される光吸収層102の表面を平坦化するための化学エッチングでは、HBrとH2OとBr2とを含む水溶液を使用することも考えられる。ところが、Br2は揮発性が高く、アンプル等により密閉保存する必要があり、取扱いが難しくなる。これに対し、HBrは、そのまま保管できるため、取扱いが容易となる。
その後、光吸収層102の表面に対して、KCN水溶液(シアン化カリウム水溶液)による化学エッチングを施す(S603)。このKCN水溶液による化学エッチングは、HBrとH2O2とH2Oとを含む水溶液による化学エッチングの際に光吸収層102の表面に残存するセレン(Se)を除去するために行なわれる。つまり、光吸収層102の表面にセレンが残存すると、太陽電池素子SB1の特性劣化が生じるため、KCN水溶液による化学エッチングによって、光吸収層102の表面からセレンを除去している。
次に、光吸収層102上にバッファ層103を形成する(S604)。そして、本実施の形態では、バッファ層103上に透明電極104を形成する(S605)。以上のようにして、例えば、「CIGS」から構成される光吸収層102の表面を平坦化した太陽電池素子SB1を製造することができる。
なお、本実施の形態では、「CIGS」から構成される光吸収層102の表面を平坦化する手法として、Br系水溶液を使用したウェットエッチングを例に挙げて説明したが、光吸収層102の表面を平坦化する手法は、これに限らず、例えば、Brを含むガスによるドライエッチングや、臭素メタノール等のようにBrを含む有機溶媒によるエッチングも使用することができる。
本実施の形態における多接合太陽電池10の製造方法は、多結晶化合物半導体層である光吸収層102を含む太陽電池素子SB1と、半導体層を含む太陽電池素子SB2と、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2とに挟まれ、かつ、光吸収層102と間接接触する複数の導電性ナノ粒子とを備える太陽電池の製造方法である。
ここで、多接合太陽電池10の製造方法は、太陽電池素子SB1を形成する工程と、太陽電池素子SB2を形成する工程と、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2とを複数の導電性ナノ粒子105で接合する工程とを有する。
そして、太陽電池素子SB1を形成する工程は、光吸収層102を形成する工程と、光吸収層102の表面に対して、Brを含むエッチャントを使用したエッチングを施す工程と、この工程を実施した後、光吸収層102の表面に対して、KCN水溶液を使用したエッチングを施す工程とを含む。
<実施の形態における太陽電池素子の構成>
次に、光吸収層102の表面平坦化技術を使用して形成された多接合太陽電池10の構造について説明する。図7(a)は、本実施の形態における平坦化技術を使用して形成された多接合太陽電池10に対して、導電性ナノ粒子による太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2との接合を実現した構成を模式的に示す図である。図7(a)において、裏面電極101上に光吸収層102が形成されている。この光吸収層102は、例えば、「CIGS」に代表される多結晶化合物半導体層から構成されており、複数のサイズの異なる結晶粒を含んでいる。つまり、光吸収層102は、銅とインジウムとガリウムとセレンとを含む化合物から構成されている。そして、この光吸収層102上にバッファ層103が形成されており、このバッファ層103上には、少なくとも太陽光の主成分に対して透光性を有する透明電極104が形成されている。このようにして、本実施の形態における太陽電池素子SB1が構成されている。この太陽電池素子SB1の上方には、例えば、化合物半導体層を含む太陽電池素子SB2が配置されており、太陽電池素子SB1と太陽電池素子SB2とは、複数の導電性ナノ粒子105で接合されている。
ここで、本実施の形態では、光吸収層102の表面に対して、Br系水溶液による化学エッチングが施されている。この結果、光吸収層102の表面は、平坦化されており、その表面粗さは、例えば、50nm以下である。すなわち、本実施の形態における光吸収層102は、導電性ナノ粒子105に近い側に位置する表面と、この表面とは反対側に位置する裏面とを有し、表面の表面粗さは、例えば、50nm以下となっている。さらに言えば、光吸収層102の表面粗さは、30nm以下となっている場合もある。このように、本実施の形態における光吸収層102では、光吸収層102の表面に対して、Br系水溶液による化学エッチングが施されている結果、表面の平坦性が向上することになる。これにより、バッファ層103を介して光吸収層102上に形成されている透明電極104の表面の平坦性も向上することになる。例えば、透明電極104は、複数の導電性ナノ粒子と直接接触する表面を有し、この表面の表面粗さは、50nm以下である。さらに言えば、光吸収層102の表面粗さは、30nm以下となっている場合もある。
このように本実施の形態によれば、光吸収層102の表面を平坦化することによって、光吸収層102上に形成されるバッファ層103の表面の平坦性と、このバッファ層103上に形成される透明電極104の表面の平坦性とを確保することができる。この結果、本実施の形態では、導電性ナノ粒子105と透明電極104との密着性を向上できる。
特に、本実施の形態では、Br系水溶液による化学エッチングによって、光吸収層102を構成する多結晶の結晶粒の平均粒径が3μm以下である場合でも平坦性を向上できる点で有用である。例えば、太陽電池素子SB1の光電変換効率を向上する観点から、光吸収層102にアルカリ金属元素を導入することが行なわれている。ただし、この場合、光吸収層102を構成する多結晶の結晶粒の平均粒径が3μm以下となりやすい。この点に関し、光吸収層102を構成する多結晶の結晶粒の平均粒径が小さくなると平坦性が低下するが、本実施の形態では、光吸収層102を構成する多結晶の結晶粒の平均粒径が小さい場合であっても、Br系水溶液による化学エッチングを実施しているため、光吸収層102の平坦性を確保できる。すなわち、本実施の形態で使用しているBr系水溶液による化学エッチングは、光吸収層102を構成する多結晶の結晶粒の平均粒径が小さい場合であっても、50nm以下の表面粗さを実現できる点で有用である。
さらに言えば、光吸収層102は、例えば、銅とインジウムとガリウムとセレンとを含む化合物から構成されており、この化合物は、CuxInyGa1-ySe2で表される。このとき、光電変換効率を向上する観点からは、x<1であることが望ましい。ただし、x<1とすると、光吸収層102を構成する多結晶の結晶粒の平均粒径が3μm以下となりやすい。この点に関し、光吸収層102を構成する多結晶の結晶粒の平均粒径が小さくなると平坦性が低下するが、本実施の形態では、光吸収層102を構成する多結晶の結晶粒の平均粒径が小さい場合であっても、Br系水溶液による化学エッチングを実施しているため、光吸収層102の平坦性を確保できる。すなわち、本実施の形態で使用しているBr系水溶液による化学エッチングは、光吸収層102を構成する多結晶の結晶粒の平均粒径が小さい場合であっても、50nm以下の表面粗さを実現できる点で有用である。
続いて、本実施の形態では、CMP処理に起因するダメージを防止することを考慮して、透明電極104の膜厚を必要以上に厚くする必要がなくなる。さらに、本実施の形態によれば、平坦化した表面を有する光吸収層102を覆うように透明電極104が形成されることから、透明電極104の膜厚ばらつきも小さくなる。例えば、本実施の形態によれば、透明電極104の膜厚ばらつきは30%以下となる。この結果、本実施の形態によれば、透明電極104の膜厚マージンを確保する必要がなくなる点と、透明電極104の膜厚ばらつきが小さくなる点との相乗要因によって、透明電極104の膜厚を必要最小限にすることができる。具体的に、本実施の形態では、透明電極の膜厚を0.5μm以下、望ましくは0.2μm以下、さらに望ましくは0.1μm以下にすることができる。このことから、本実施の形態によれば、透明電極104に起因する光学ロスを低減することができる結果、多接合太陽電池10の光電変換効率を向上できる。
例えば、図7(b)は、実施の形態における多接合太陽電池のSEM写真である。
図7(b)において、「(1)」~「(4)」は、バッファ層上に形成されている透明電極の膜厚を示している。実際に、図7(b)を使用して、「(1)」~「(4)」の膜厚を測定すると、「(1)」の膜厚は、0.245μmであり、「(2)」の膜厚は、0.223μmとなる。一方、「(3)」の膜厚は、0.227μmであり、「(4)」の膜厚は、0.231μmとなる。したがって、「(1)」~「(4)」の膜厚測定結果に基づくと、本実施の形態では、透明電極の場所による膜厚差(膜厚分布)は、10%以下となる。このことから、本実施の形態によれば、透明電極に起因する光学ロスを低減することができ、これによって、多接合太陽電池の光電変換効率を向上することができる。
<効果の検証>
図8は、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施することによって、光吸収層の表面における平坦性が向上することを裏付ける結果を示す図である。
図8(a)は、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施しない場合において、透明電極の表面形状を原子間力顕微鏡により観察した像である。また、観察した表面形状より算出した二乗平均平方根粗さ「Rq」を図の下部に示している。図8(a)に示すように、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施しない場合において、透明電極の表面における二乗平均平方根粗さ「Rq」が63nm程度となる。
これに対し、図8(b)は、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施した場合において、透明電極の表面形状図である。算出した二乗平均平方根粗さ「Rq」を図の下部に示している。図8(b)に示すように、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施した場合においては、透明電極の表面における二乗平均平方根粗さ「Rq」が28nm程度となる。
このことから、本実施の形態における光吸収層の表面平坦化技術(光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施する技術)を採用すると、バッファ層を介して光吸収層上に形成される透明電極の表面粗さが小さくなることがわかる。つまり、本実施の形態における光吸収層の表面平坦化技術によって、透明電極の表面の平坦性が向上することが裏付けられたことになる。この結果、本実施の形態によれば、透明電極の表面に対してCMP処理を実施しなくても、導電性ナノ粒子と直接接触する透明電極の表面の平坦性を向上できることになる。したがって、本実施の形態によれば、導電性ナノ粒子と透明電極との密着性を向上することができる。
ここで、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングを実施するエッチング時間と光吸収層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)との間には相関関係があるので、以下では、この点について説明する。
図9は、光吸収層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)のエッチング時間依存性を示すグラフである。図9において、縦軸は、光吸収層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)を示している。上横軸は、光吸収層の膜厚を示している一方、下横軸は、エッチング時間を示している。図9に示すように、エッチング時間が「0分」である場合、言い換えれば、エッチング処理を実施ない場合、光吸収層の表面粗さは、100nmを超えている一方、エッチング時間を「1分」程度にすると、光吸収層の表面粗さは、70nm程度となり、光吸収層の表面の平坦性が向上していることがわかる。さらに、エッチング時間を「4分」程度にすると、光吸収層の表面粗さは、20nm程度となり、光吸収層の表面の平坦性がさらに向上していることがわかる。ただし、エッチング時間を「4分」より長くしても、光吸収層の表面粗さは、20nm程度でほぼ一定となる。このことから、光吸収層の表面粗さを20nm程度とするためには、エッチング時間を「4分」程度にすることが望ましい。
続いて、本実施の形態における多接合太陽電池によれば、関連技術における多接合太陽電池よりも、多接合太陽電池の性能向上を図ることができる結果について説明する。
図10は、多接合太陽電池の電流-電圧特性を示すグラフである。
図10において、縦軸は、電流(mA)を示している一方、横軸は電圧(V)を示している。そして、図10において、破線のグラフは、関連技術における多接合太陽電池を示しており、実線のグラフは、本実施の形態における多接合太陽電池を示している。
図10に示すように、本実施の形態における多接合太陽電池の電流-電圧特性は、関連技術における多接合太陽電池の電流-電圧特性よりも優れていることがわかる。つまり、図10から、本実施の形態における多接合太陽電池によれば、導電性ナノ粒子と透明電極との密着性の向上を図りながらも、関連技術における多接合太陽電池に比べて、性能向上(電気的特性の向上と光電変換効率の向上)を図ることができることが裏付けられている。すなわち、図10から、本実施の形態によれば、非常に優れた多接合太陽電池を提供できることが裏付けられていることになる。
<実施の形態における技術的思想の有用性>
本実施の形態における技術的思想は、複数の太陽電池素子を導電性ナノ粒子で接合する多接合太陽電池に関する思想であり、導電性ナノ粒子による接合特性を向上するためには、導電性ナノ粒子の下地における平坦性の向上が重要であるという認識が前提に存在する。
この点に関し、関連技術では、導電性ナノ粒子と直接接触する透明電極の表面に対してCMP処理を実施することにより、導電性ナノ粒子の下地である透明電極の表面における平坦性を向上している。ところが、本発明者は、凹凸面上に形成された機械強度の不均一な透明電極の表面に対してCMP処理を実施すると、機械的ダメージに起因する電気特性の劣化と、透明電極の厚膜化および膜厚ばらつきに起因する光学ロスの増大とが多接合太陽電池の性能低下を招くという新たな知見を獲得した。すなわち、本発明者が新たに見出した知見とは、透明電極が凹凸面上に形成された場合に、透明電極の機械的均一性が悪く、それゆえに導電性ナノ粒子の下地における平坦性の向上を実現するために、導電性ナノ粒子と直接接触する透明電極の表面に対してCMP処理を実施すると、多接合太陽電池の性能向上を妨げる電気特性の劣化と光学ロスの増大が顕在化することである。本発明者は、この知見を獲得することによって、導電性ナノ粒子の下地における平坦性の向上を図る本実施の形態における技術的思想を想到している。つまり、本発明者は、CMP処理において引き起こされる副作用を抑制することが動機づけとなって、本実施の形態における技術的思想を想到している。特に、本発明者は、CMP処理において引き起こされる副作用が、バッファ層を介して透明電極の下層に配置される光吸収層の表面に形成される凹凸形状が主要因であることを突き止めて、導電性ナノ粒子と間接接触する光吸収層の表面を平坦化するという本実施の形態における技術的思想を想到している。この本実施の形態における技術的思想は、CMP処理の際のダメージ発生を抑制すること、さらにはCMP処理を不要にすることを通じて、CMP処理において引き起こされる副作用の主要因を取り除くという点で非常に効果的な対策である。
ここで、光吸収層の表面を平坦化する技術としては、例えば、「背景技術」で挙げた非特許文献2や非特許文献3を挙げることができるが、たとえ、このような技術が存在するからといって、本実施の形態における技術的思想を想到することは困難である。
以下に、この理由について説明する。本実施の形態における技術的思想は、導電性ナノ粒子による接合特性を向上するためには、導電性ナノ粒子の下地における平坦性の向上が重要であるという認識を前提として、導電性ナノ粒子と直接接触する透明電極が凹凸面上に形成されている場合、この表面に対してCMP処理を実施すると、多接合太陽電池の性能向上を妨げる副作用が顕在化することを認識して初めて想到される思想である(知見1)。さらには、本実施の形態における技術的思想を想到するためには、CMP処理に起因する副作用の主要因が光吸収層の表面の平坦性に存在し、かつ、光吸収層の表面における平坦性を向上できればCMP処理の際のダメージが防げ、さらにはCMP処理自体が不要になるという認識が必要不可欠である(知見2)。つまり、本実施の形態における技術的思想は、上述した知見1と知見2とを獲得して初めて想到される土台ができるのである。この点に関し、非特許文献2および非特許文献3に記載された技術には、このような知見1や知見2に関する記載や示唆が存在しない。そもそも、非特許文献2および非特許文献3に記載された技術は、多接合太陽電池に関する技術ではなく、単接合太陽電池に関する技術であり、さらには、光吸収層の平坦性を向上すると反射率が増加してしまうことが示唆されている。このことは、非特許文献2および非特許文献3に記載された技術に触れた当業者であれば、この技術を使用すると光学ロスが大きくなると認識することを意味する。つまり、非特許文献2および非特許文献3に記載された技術では、光閉じ込め効果が小さくなる結果、光電変換効率が低下することを容易に推測できることから、光吸収層の表面を平坦化することは容易に想到することができないのである。
ここで、光吸収層の表面を平坦化するという思想は、導電性ナノ粒子による接合を利用した多接合太陽電池を前提として、CMP処理に起因する副作用の直接原因である透明電極の機械強度の不均一性を解消できるとともに、さらにはCMP処理自体が不要となることが認識されて初めて採用しようとする動機づけが生まれのである。そして、多接合太陽電池では、たとえ、光吸収層の表面を平坦化して、光吸収層による光閉じ込め効果が小さくなっても、導電性ナノ粒子によるナノ構造が光閉じ込め効果を新たに奏するという予測と、光学ロスに大きな影響を与えるのは、CMP処理に起因するダメージを防ぐためのマージンの確保による透明電極の厚膜化であるという根拠に基づいて初めて、光吸収層の表面を平坦化しようとするインセンティブが生まれるのである。したがって、たとえ、当業者といえども、非特許文献2および非特許文献3に記載された技術が存在するからといって、多接合太陽電池において、導電性ナノ粒子と間接接触する光吸収層の表面を平坦化するという本実施の形態における技術的思想を想到することは困難なのである。このように、本実施の形態における技術的思想は、従来技術からは想到できない斬新性を備えるとともに、多接合太陽電池の性能向上を図ることができる点で非常に有用性の高い思想である。
<変形例1>
続いて、実施の形態の変形例1について説明する。
図11は、本変形例1における多接合太陽電池20の模式的な構成を示す断面図である。
図11において、本変形例1における多接合太陽電池20では、バッファ層103上に透明電極が形成されておらず、バッファ層103に複数の導電性ナノ粒子が直接接触している。本変形例1では、バッファ層103上に透明電極が形成されていないため、透明電極に起因する光学ロスを低減できる。この結果、本変形例1によれば、光電変換効率を向上することができ、これによって、多接合太陽電池20の性能を向上できる。
例えば、単接合太陽電池においては、電流収集のための櫛型電極が形成されており、櫛型電極に到達するまでの横方向の電流により生じる抵抗損失を低減するために透明電極が設けられている。すなわち、単接合太陽電池においては、透明電極を設けることによって横方向における導電率を向上させている。この点に関し、例えば、図11に示すように、多接合太陽電池20では、太陽電池素子SB1には、櫛歯電極が設けられておらず、電流の収集は密に配置された金属ナノ粒子によって行われる。そのため、横方向に電流を流すことを考慮する必要がない。このため、横方向の導電率を向上するために透明電極を設ける技術的意義が小さくなる。したがって、透明電極を太陽電池素子SB1の構成要素からなくすことが考えられる。すなわち、バッファ層103と導電性ナノ粒子とのオーミック接触を確実に取れるのであれば、透明電極を省略することもできる。この場合、透明電極に起因する光学ロスを低減することができるため、多接合太陽電池SB1の性能を向上することができる。
<変形例2>
次に、実施の形態の変形例2について説明する。
図12は、本変形例2における多接合太陽電池30の模式的な構成を示す断面図である。
図12において、本変形例2における多接合太陽電池30は、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5とを有する。このとき、太陽電池素子SB4と太陽電池素子SB5は、複数の導電性ナノ粒子105で接合されている。太陽電池素子SB4は、例えば、単結晶シリコンや多結晶シリコンから構成される太陽電池素子である。一方、太陽電池素子SB5は、太陽電池素子SB4よりもエネルギーの大きな光を吸収する太陽電池素子であり、例えば、多結晶化合物半導体層からなる光吸収層を含む太陽電池素子である。具体的に、図12に示すように、太陽電池素子SB5は、複数の導電性ナノ粒子105と直接接触する透明電極104と、透明電極104上のバッファ層103と、バッファ層103上の光吸収層102と、光吸収層102上の透明電極200とを有している。そして、太陽電池素子SB5の構成要素である透明電極200は、例えば、透明基板201に形成されている。そして、本変形例2において、太陽電池素子SB5の構成要素である光吸収層102は、実施の形態のように「CIGS」から構成されているのではなく、例えば、CuGaSe2(「CGS」と呼ぶ)に代表されるワイドギャップカルコゲナイド材料から構成されている。一方、太陽電池素子SB5の構成要素であるバッファ層103は、例えば、CdS、ZnO、ZnS、InS、ZnMgOなどの材料から構成されている。このように構成されている太陽電池素子SB5でも、光吸収層102の面のうち、導電性ナノ粒子に近い側に位置する表面に対して平坦化処理が施されている。
これにより、本変形例2における多接合太陽電池30においても性能を向上できる。
図13は、光吸収層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)のエッチング時間依存性を示すグラフである。図13において、縦軸は、光吸収層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)を示している。横軸は、エッチング時間を示している。また、図13において、実線は、「CIGS」から構成される光吸収層での光吸収層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)のエッチング時間依存性を示している。一方、図13において、黒丸は、「CGS」から構成される光吸収層での光吸収層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)のエッチング時間依存性を示している。図13に示すように、黒丸で示される「CGS」におけるエッチング時間依存性も、実線で示される「CIGS」におけるエッチング時間依存性と同様の傾向を示していることがわかる。すなわち、黒丸で示される「CGS」においても、エッチング時間が長くなるに連れて、光吸収層の表面粗さ(二乗平均平方根粗さ)が小さくなるエッチング時間依存性を示す傾向があることがわかる。以上のことから、「CGS」から構成される光吸収層を含む太陽電池素子SB5においても、Br系水溶液を使用した化学エッチングによって、エッチング時間を調整することによって、50nm以下の表面粗さを実現できることがわかる。この結果、本変形例2においても、太陽電池素子SB5と導電性ナノ粒子105との密着性を向上することができる。
<変形例3>
続いて、実施の形態の変形例3について説明する。
図14は、本変形例3における多接合太陽電池40の模式的な構成を示す断面図である。
図14において、本変形例3における多接合太陽電池40は、太陽電池素子SB6と太陽電池素子SB7とを有する。このとき、太陽電池素子SB6と太陽電池素子SB7は、複数の導電性ナノ粒子105で接合されている。太陽電池素子SB6は、例えば、実施の形態と同様に、光吸収層102を含む太陽電池素子である。本変形例3において、太陽電池素子SB6の構成要素である光吸収層102は、例えば、「CIGS」やCu(Zn、Sn)Se2などのカルコゲナイド材料から構成されている。一方、太陽電池素子SB6の構成要素であるバッファ層103は、例えば、CdS、ZnO、ZnS、InS、ZnMgOなどの材料から構成されている。このように構成されている太陽電池素子SB6でも、光吸収層102の面のうち、導電性ナノ粒子105に近い側に位置する表面に対して平坦化処理が施されている。
一方、太陽電池素子SB7は、太陽電池素子SB6よりもエネルギーの大きな光を吸収する太陽電池素子であり、例えば、多結晶化合物半導体層からなる光吸収層を含む太陽電池素子である。具体的に、図14に示すように、太陽電池素子SB7は、複数の導電性ナノ粒子105と直接接触する透明電極301と、透明電極301上のバッファ層302と、バッファ層302上の光吸収層303と、光吸収層303上の透明電極304とを有している。そして、太陽電池素子SB5の構成要素である透明電極304は、例えば、透明基板305に形成されている。そして、本変形例3において、太陽電池素子SB7の構成要素である光吸収層303は、例えば、CuGaSe2(「CGS」と呼ぶ)に代表されるワイドギャップカルコゲナイド材料から構成されている。一方、太陽電池素子SB5の構成要素であるバッファ層302は、例えば、Cds、ZnO、ZnS、InS、ZnMgOなどの材料から構成されている。このように構成されている太陽電池素子SB7でも、光吸収層303の面のうち、導電性ナノ粒子105に近い側に位置する表面に対して平坦化処理が施されている。
以上のようにして、本変形例3における多接合太陽電池40が構成されている。本変形例3における多接合太陽電池40においては、太陽電池素子SB6と導電性ナノ粒子105との密着性と太陽電池素子SB7と導電性ナノ粒子105との密着性の両方を向上させながら、多接合太陽電池40の性能を向上できる。
<変形例4>
続いて、実施の形態の変形例4について説明する。
この変形例4は、実施の形態の図6に示す透明電極104の形成工程(S605)の後に、透明電極104の表面に対するCMP処理の工程を追加したものである。
図15(a)は、透明電極の表面に対して、さらにCMP処理によって研磨した場合における太陽電池素子の断面SEM写真である。図15(a)に示すように、透明電極下部の平坦性が高いため、透明電極の結晶方位が揃っており、ゆえに機械強度の均一性が高いことがわかる。そのため、CMP処理を施してもダメージが入りにくく、CMP処理によって透明電極を0.1μm以下まで、研磨できている。
図15(a)において、「(1)」~「(4)」は、バッファ層上に形成されている透明電極の膜厚を示している。実際に、図15(a)を使用して、「(1)」~「(4)」の膜厚を測定すると、「(1)」の膜厚は、0.075μmであり、「(2)」の膜厚は、0.087μmとなる。一方、「(3)」の膜厚は、0.087μmであり、「(4)」の膜厚は、0.083μmとなる。したがって、「(1)」~「(4)」の膜厚測定結果に基づくと、本変形例4では、透明電極の場所による膜厚差(膜厚分布)は、15%以下となる。最大膜厚も0.1μm以下である。図15(a)と図7(b)とを比べると、図15(a)に示す太陽電池素子では、図7(b)に示す太陽電池素子よりも更に望ましい透明電極が形成されていることがわかる。これによって、本変形例4によれば、多接合太陽電池の光電変換効率を向上することが期待できる。
さらに、図15(b)は、本変形例4における透明電極の表面形状を原子間力顕微鏡で観察した結果を表す図である。算出した二乗平均平方根粗さを図の下部に示してある。図15(b)において、平坦面上に形成された透明電極の機械強度の均一性が高いため、CMP処理に起因するダメージが抑制されており、二乗平均平方根粗さは0.4nmと小さいことがわかる。つまり、図15(b)に示す結果から、本変形例4における透明電極によれば、原子層レベルでの平坦性が得られていることがわかる。
<変形例5>
続いて、実施の形態の変形例5について説明する。
この変形例5では、実施の形態の図2および図6における「バッファ層103の形成」の条件が異なっている。すなわち、実施の形態では化学溶液堆積法による「CdS」からなるバッファ層を成膜する際の最高溶液温度を80度としていたのに対し、本変形例5では、「CdS」からなるバッファ層を成膜する際の最高溶液温度を70度以下の低温に設定した結果、「CdS」の異常成長が低減されたものである。
図16(a)は、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施しない場合において、透明電極の表面形状を原子間力顕微鏡により観察した像である。また、観察した表面形状より算出した二乗平均平方根粗さ「Rq」を図の下部に示してある。図16(a)に示すように、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施しない場合においては、透明電極の表面における二乗平均平方根粗さ「Rq」が78nm程度となる。異常成長したCdSの粒子のサイズに比べて、「CIGS」の表面凹凸(凹凸形状)が大きいため、「CdS」の異常成長を低減しない図8(a)と比べても、二乗平均平方根粗さに顕著な改善は見られない。
これに対し、図16(b)は、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施した場合において、透明電極の表面形状図である。算出した二乗平均平方根粗さ「Rq」を図の下部に示してある。図16(b)に示すように、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施した場合においては、透明電極の表面における二乗平均平方根粗さ「Rq」が10nm程度となり、図8(b)と比べても、より高い平坦性が得られていることがわかる。つまり、本変形例5において、「CdS」の異常成長を低減することで高い平坦性が得られる。これにより透明電極の平坦性が向上し、多接合太陽電池の光電変換効率が向上させることが期待できる。
すなわち、例えば、図8(b)に示すように、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施すると、光吸収層自体の表面における二乗平均平方根粗さが小さくなる結果、バッファ層を構成する「CdS」の異常成長による表面凹凸の影響が顕在化する。これにより、図8(b)では、透明電極の表面における二乗平均平方根粗さが28nm程度となる。これに対し、本変形例5では、光吸収層の表面に対してBr系水溶液による化学エッチングとKCN水溶液による化学エッチングを実施することによって、光吸収層自体の表面における二乗平均平方根粗さが小さくなるとともに、バッファ層を構成する「CdS」の異常成長も抑制される結果、透明電極の表面における二乗平均平方根粗さ「Rq」が10nm程度となり、図8(b)と比べても、より高い平坦性が得られるのである。
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、「CIGS」としてCuxInyGa1-ySe2を例示したが、Seを硫黄Sとの混晶にした組成(CuxInyGa1-y(Se1-ZSZ)2)も利用できる。もちろん、変形例は、それぞれ要素技術として組合せ可能である。例えば、変形例4と変形例5とを組み合わせると透明電極の表面における平坦性がさらに向上し、さらに望ましい多接合太陽電池用の太陽電池素子を実現することができる。