本発明の積層フィルムは、第1部材と第2部材を接合させるための積層フィルムであり、当該積層フィルムは、第1熱溶着性樹脂層と、中間層と、第2熱溶着性樹脂層とをこの順に備えていることを特徴としている。以下、本発明の積層フィルム、当該積層フィルムを用いた成形体、及びこれらの製造方法について詳述する。
なお、本明細書において、「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。例えば、2~15mmとの表記は、2mm以上15mm以下を意味する。
1.積層フィルム
本発明の積層フィルムは、第1部材と第2部材を接合させるための積層フィルムである。より具体的には、本発明の積層フィルムは、積層フィルムを第1部材と第2部材の間に配置し、積層フィルムを介して第1部材と第2部材を熱溶着することによって、第1部材と第2部材を接合する用途に使用される。なお、第1部材と第2部材に加えて、さらに他の部材を本発明の積層フィルムを用いて接合してもよい。すなわち、本発明の積層フィルムは、少なくとも2つの部材を熱溶着によって接合するための積層フィルムである。また、本発明の積層フィルムは、熱溶着性を備えた積層フィルム(熱溶着性積層フィルム)である。
例えば、図1から図4の模式図に示されるように、本発明の積層フィルム10は、少なくとも、第1熱溶着性樹脂層1と、中間層3と、第2熱溶着性樹脂層2とをこの順に備えた積層フィルムにより構成されている。第1熱溶着性樹脂層1は、積層フィルム10の一方側の表面を構成しており、第2熱溶着性樹脂層2は、積層フィルム10の第1熱溶着性樹脂層1とは反対側の表面を構成している。
本発明の積層フィルム10の積層構成の具体例としては、図1に示されるような第1熱溶着性樹脂層1/中間層3/第2熱溶着性樹脂層2をこの順に備える積層構成;図2に示されるような第1熱溶着性樹脂層1/中間層3/熱可塑性樹脂層4/第2熱溶着性樹脂層2をこの順に備える積層構成;図3に示されるような第1熱溶着性樹脂層1/熱可塑性樹脂層4/中間層3/第2熱溶着性樹脂層2をこの順に備える積層構成;図4に示されるような第1熱溶着性樹脂層1/熱可塑性樹脂層4/中間層3/熱可塑性樹脂層4/第2熱溶着性樹脂層2をこの順に備える積層構成などが挙げられる。なお、後述の通り、第1熱溶着性樹脂層1及び第2熱溶着性樹脂層2は、接合後の成形体において、接合面に平行な剪断応力に対する強度に影響を及ぼさない限り、それぞれ、粘着成分を含んで粘着性を有していてもよい。また、熱可塑性樹脂層4は、第1熱溶着性樹脂層1及び第2熱溶着性樹脂層2と同様、熱溶着性を有していてもよい。本発明の積層フィルムには、これらの層とは異なる他の層がさらに積層されていてもよい。例えば、図示は省略するが、中間層3の片面または両面に、後述の接着促進剤層を設けてもよい。
低コスト、製造工程の簡略化の観点から、積層フィルムを薄くすることが好ましく、本発明の積層フィルムは、図1に示されるような第1熱溶着性樹脂層1/中間層3/第2熱溶着性樹脂層2をこの順に備える3層の積層構成を備えていることが好ましい。また、凹凸形状等への追随性(つまり、凹凸形状における凹部に樹脂を進入させることで当該凹凸形状を均す特性)の観点からは積層フィルムを厚くすることが好ましく、本発明の積層フィルムは、第1熱溶着性樹脂層1/中間層3/第2熱溶着性樹脂層2の各層間に熱可塑性樹脂層を備えていることが好ましい。具体的には、図2に示されるような第1熱溶着性樹脂層1/中間層3/熱可塑性樹脂層4/第2熱溶着性樹脂層2をこの順に備える4層の積層構成;図3に示されるような第1熱溶着性樹脂層1/熱可塑性樹脂層4/中間層3/第2熱溶着性樹脂層2をこの順に備える4層の積層構成;図4に示されるような第1熱溶着性樹脂層1/熱可塑性樹脂層4/中間層3/熱可塑性樹脂層4/第2熱溶着性樹脂層2をこの順に備える5層の積層構成を備えていることが好ましい。また、接合後の成形体において、接合面に平行な剪断応力に対する強度に影響を及ぼさないことを限度として第1熱溶着性樹脂層1に粘着成分が含まれている場合、本発明の積層フィルムは、両面に粘着成分が含まれている5層の積層構成(具体的には、粘着成分を含む第1熱溶着性樹脂層1/熱可塑性樹脂層4/中間層3/熱可塑性樹脂層4/粘着成分を含む第2熱溶着性樹脂層2をこの順に備える積層構成)や、片面に粘着成分が含まれている4層の積層構成(具体的には、粘着成分を含む第1熱溶着性樹脂層1/熱可塑性樹脂層4/中間層3/熱可塑性樹脂層4/粘着成分を含まない第2熱溶着性樹脂層2をこの順に備える積層構成)を備えていてもよい。
低コスト、層間剥離の可能性を抑える観点からは、本発明の積層フィルムの層数は少ない方が好ましく、好ましい下限としては3以上、好ましい上限としては5以下が挙げられる。熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減し、熱溶着後の外観を良好なものとして、2つ以上の部材を好適に熱溶着させる観点からは、本発明の積層フィルムの層数としては、好ましくは3~5程度、より好ましくは3~4程度が挙げられる。
また、本発明の積層フィルムの一方面の面積としては、熱溶着させる部材のサイズに応じて適宜設定することができる。
<引張弾性率>
本発明の積層フィルム10の引張弾性率は、下限としては、1500MPa以上である。これによって、接合後の成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度に優れたものとして得ることができる。接合後の成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度により優れたものとして得る観点から、本発明の積層フィルム10の引張弾性率は、下限として、約1500MPa以上であることが好ましく、約2000MPa以上であることがより好ましく、約3000MPa以上であることがさらに好ましく、約5000MPa以上であることが特に好ましい。なお、当該引張弾性率の好ましい上限は特にないが、通常、約10000MPa以下、好ましくは約8000MPa以下、より好ましくは約7000以下である。すなわち、当該引張弾性率の範囲としては、1500~10000MPa程度、1500~8000MPa程度、1500~7000MPa程度、2000~10000MPa程度、2000~8000MPa程度、2000~7000MPa程度、3000~10000MPa程度、3000~8000MPa程度、3000~7000MPa程度、5000~10000MPa程度、5000~8000MPa程度、5000~7000MPa程度が挙げられる。
引張弾性率は、JIS K7161:2014規定に準拠して測定される値であり、具体的には、フィルムをMDが長辺になるように幅25mm、長さ120mmに切り出した試験片(長方形)を、25℃の温度環境にて、引張圧縮試験機(オリエンテック(株)製テンシロンRTC-1250A)を用い、引張速度200mm/分、チャック間距離100mmの条件で測定して得られた引張応力-ひずみ曲線の初めの直線部分から、次の式に従って算出する。
E=Δρ/Δε
E:引張弾性率
Δρ:直線上の2点間の元平均断面積による応力差
Δε:同じ2点間のひずみ差
なお、本発明において積層フィルム10のMDに相当する方向は、例えば中間層3がフィルムである場合は、積層フィルム10の中間層3のMDと同じ方向とすればよい。本発明において積層フィルム10の中間層3のMDの確認方法は、後述の中間層3の引張弾性率において記載の通りである。また、積層フィルム10の中間層3が繊維である場合は、積層フィルム10のMDに相当する方向は、第1熱溶着性樹脂層1及び第2熱溶着性樹脂層2のMDと同じ方向とすればよい。第1熱溶着性樹脂層1及び第2熱溶着性樹脂層2のMDの確認方法も、中間層3のMDの確認方法と同様である。
<熱収縮率>
熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減し、接合後の成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度により優れたものとして得る観点から、本発明の積層フィルム10について、試験温度200℃、加熱時間10分間の条件で測定される熱収縮率は、上限としては、好ましくは、約10%以下、より好ましくは約3.0%以下、さらに好ましくは約2.8%以下が挙げられ、下限としては、約0%、約0.1%が挙げられる。また、当該熱収縮率の範囲としては、好ましくは、0~10%程度、0~3.0%程度、0~2.8%程度、0~10%程度、0.1~3.0%程度、0.1~2.8%程度が挙げられる。熱収縮率の測定は、JIS K 7133:1999の規定に準拠した方法により行う。
本発明においては、少なくとも、積層フィルム10の一方向(積層フィルム10の平面方向)と、これに直交する方向(積層フィルム10の平面方向)との二方向で上記の熱収縮率を満たすことが好ましい。熱収縮率を測定する一方向及びこれに直交する方向は、具体的には、積層フィルム10の中間層3がフィルムである場合、積層フィルム10の中間層3のMDに相当する方向を前記一方向とする。なお、本発明において積層フィルム10の中間層3のMDの確認方法は、後述の中間層3の引張弾性率において記載の通りである。また、積層フィルム10の中間層3が繊維である場合は、第1熱溶着性樹脂層1及び第2熱溶着性樹脂層2のMDと同じ方向を前記一方向とすればよい。第1熱溶着性樹脂層1及び第2熱溶着性樹脂層2のMDの確認方法も、中間層3のMDの確認方法と同様である。
<剪断強度>
また、本発明の積層フィルムを介して、第1部材と第2部材とを熱溶着させて得られる成形体の剪断強度としては、好ましくは約10MPa以上、より好ましくは約11MPa以上が挙げられる。なお、当該剪断強度の上限は、特にないが、通常約50MPa以下となる。当該剪断強度の好ましい範囲としては、10~50MPa程度、11~50MPa程度が挙げられる。当該剪断強度は、以下の測定方法により測定される値である。第1部材と第2部材を熱溶着させる本発明の積層フィルム10がこれらの部材と熱溶着された際の剪断強度が約10MPa以上であることにより、得られる成形体が、接合面に平行な剪断応力に対する強度に優れているといえる。第1部材及び第2部材の少なくとも一方が1mm以上の厚みを有する成形体は接合面に平行な剪断応力を受け易いが、約10MPa以上の剪断強度を有していることにより、当該剪断応力に対して剪断破壊が起こりにくく、接合状態を良好に維持することができる。反対に、第1部材及び第2部材の少なくとも一方が1mm以上の厚みを有する成形体の剪断強度が約10MPaを下回ると、剪断応力に対して剪断破壊が起こりやすくなり、接合状態を良好に維持しにくくなる。
剪断強度は、ISO19095-2及びISO19095-3の規定に準拠した方法で測定する。試験サンプルの作製における第1部材及び第2部材のサイズは、それぞれ、長さ45mm×幅10mmとし、厚みは、金属部材の場合は1.5mm、セラミックス部材の場合は3mm、樹脂部材の場合は3mm、繊維強化プラスチック部材の場合は3mmとする。また、積層フィルムは、長さ5mm×幅10mmとする。図13に示されるように第1部材70と第2部材80の長さ方向の端部において、第1部材70と第2部材80の間に、積層フィルム10を配置して、温度190℃、面圧1.5MPa、20秒間の条件で、第1部材70と第2部材80とを積層フィルム10を介して熱溶着させて成形体を得る。また、積層フィルム10の両面全体がそれぞれ第1部材70と第2部材80にヒートシールされるように配置する(すなわち、ヒートシール面積は、片面が長さ5mm×幅10mm)。なお、図13には図示していないが、第1部材70と第2部材80とが互いに平行な状態で接合されたものについて測定を行うために、第1部材70及び第2部材80は、それぞれ、補整部材を用いて高さを調整して接合する。第1部材70の高さを調整する補整部材は、第1部材70と同じ材質、形状の部材を用い、第2部材80の高さを調整する補整部材は、第2部材80と同じ材質、形状の部材を用いる。次に、引張試験機を用いて、成形体を長さ方向に引張り(引張り速度は、10mm/分)、最大荷重(N)を測定し、これをヒートシール面積(長さ5mm×幅10mm)で除して、剪断強度(MPa)を算出する。
<シール強度>
本発明の積層フィルム10は、後述の部材(第1部材、第2部材)と熱溶着された際の、積層フィルムと部材との間のシール強度が、約10N/15mm以上であることが好ましく、約15N/15mm以上であることがより好ましく、約20N/15mm以上であることがさらに好ましい。なお、当該シール強度の好ましい上限は特にないが、通常、約100N/15mm以下である。すなわち、当該シール強度の範囲としては、好ましくは10~100N/15mm程度、より好ましくは15~100N/15mm程度、さらに好ましくは20~100N/15mm程度が挙げられる。第1部材と第2部材を熱溶着させる本発明の積層フィルム10において、これらの部材と熱溶着された際のシール強度がこのような値を有していることにより、得られる成形体においては、本発明の積層フィルム10を介して第1部材と第2部材が好適に接合されているといえる。なお、熱溶着によって接合される際の第1部材及び第2部材の形態が溶融樹脂と固体部材である場合、溶融樹脂が冷却固化した樹脂部材に積層フィルム10が熱溶着された際のシール強度を意味する。また、熱溶着によって接合される際の第1部材及び第2部材の少なくともいずれかの形態が未硬化樹脂を含む固体部材である場合、未硬化樹脂が熱硬化された部材に積層フィルム10が熱溶着された際のシール強度を意味する。シール強度の測定方法の具体的な方法としては、以下の通りである。なお、本発明の積層フィルム10と、後述の部材(第1部材、第2部材)とが熱溶着された際のシール強度は、この範囲に限定されない。
シール強度の測定においては、まず、積層フィルムを長さ方向(y方向)50mm×幅方向(x方向)25mmのサイズに切り出す。次に、積層フィルム10の第1熱溶着性樹脂層または第2熱溶着性樹脂層と、各部材50とを、7mmの奥行(y方向)でヒートシール(ヒートシール条件:温度190℃、面圧1MPa、加圧時間5秒)して試験サンプルを得る。図6の模式図において、破線で囲まれた領域Sが、ヒートシールされた領域を示している。なお、ヒートシールする領域以外の部分には、離型シートを挟み、7mmの奥行でヒートシールされるようにする。次に、幅方向(x方向)15mmでのシール強度(N/15mm)が測定できるように、試験サンプルを図6(a)に示されるように15mm幅に裁断する。次に、引張試験機を用いて、図6(b)に示されるように、固定された部材50から、長さ方向(y方向)に積層フィルム10を剥離する。このとき、剥離速度は300mm/分とし、剥離されるまでの最大荷重をシール強度(N/15mm)とする。なお、試験サンプルの作製における部材としては、樹脂部材、繊維強化プラスチック部材及びセラミックス部材については厚さ4mm、金属部材については厚さ0.5mmのものを用いる。各シール強度は、それぞれ、同様にして3つの試験サンプルを作製して測定された平均値(n=3)とする。
<剥離強度>
本発明の積層フィルム10を用いて後述の部材(第1部材、第2部材)と熱溶着された際の、第1部材と第2部材との間の剥離強度は、約10N/25mm以上であることが好ましく、約20N/25mm以上であることがより好ましく、約25N/25mm以上であることがさらに好ましい。なお、当該剥離強度の好ましい上限は特にないが、通常、約100N/25mm以下である。すなわち、当該剥離強度の範囲としては、好ましくは10~100N/25mm程度、より好ましくは20~100N/25mm程度、さらに好ましくは25~100N/25mm程度が挙げられる。剥離強度の測定方法の具体的な方法としては、以下の通りである。なお、本発明の積層フィルム10と、後述の部材(第1部材、第2部材)とが熱溶着された際の剥離強度は、この範囲に限定されない。
剥離強度は、ISO19095-2及びISO19095-3の規定に準拠した方法で測定する。具体的には、まず、積層フィルムを長さ方向160mm×幅方向25mmのサイズに切り出す。また、第1部材70(第2部材80と厚みが異なる場合は、例えば金属など厚みがより薄い方)を長さ方向250mm×幅方向25mmのサイズに、第2部材80を長さ方向200mm×幅方向25mmのサイズに切り出す。次に、図16(i)に示すように、積層フィルム10の第1熱溶着性樹脂層または第2熱溶着性樹脂層と第1部材70及び第2部材80とを長手方向を揃えて重ね、長さ方向160mm×幅方向25mmの領域をヒートシール(ヒートシール条件:温度190℃、面圧1MPa、加圧時間30秒)して試験サンプルを得る。次に、試験サンプルを、第2部材80側で剥離試験治具に固定し、引張試験機を用いて、図16(ii)に示すように、第1部材70を、長さ方向に剥離する。このとき、剥離速度は100mm/分とし、剥離開始場所から剥離長さ25mmまでの箇所を省いた箇所における平均荷重を剥離強度(N/25mm)とする。なお、試験サンプルの作製における部材としては、樹脂部材、繊維強化プラスチック部材及びセラミックス部材については厚さ4mm、金属部材については厚さ0.5mmのものを用いる。各剥離強度は、それぞれ、同様にして3つの試験サンプルを作製して測定された平均値(n=3)とする。
(第1熱溶着性樹脂層1)
本発明において、第1熱溶着性樹脂層1は、本発明の積層フィルムの一方側の表面を構成することができる。すなわち、第1熱溶着性樹脂層1は、本発明の積層フィルム10の一方側の最外層を構成することができる。
第1熱溶着性樹脂層1に含まれる熱溶着性樹脂としては、特に制限されないが、樹脂部材だけでなく、金属やセラミックスなどの無機部材に対しても好適に熱溶着させる観点からは、好ましくは変性ポリオレフィン(すなわち、ポリオレフィン骨格を有している)が挙げられる。第1熱溶着性樹脂層1を構成している樹脂は、ポリオレフィン骨格を含んでいても含んでいなくてもよいが、前記の観点から、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましい。第1熱溶着性樹脂層1を構成している樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。
また、変性ポリオレフィンとしては、樹脂部材だけでなく、金属やセラミックスなどの無機部材に対してもより好適に熱溶着させる観点から、酸変性されたポリオレフィンであることが好ましい。酸変性されたポリオレフィンとしては、具体的には、不飽和カルボン酸またはその無水物で変性されたポリオレフィンが挙げられる。酸変性に使用される不飽和カルボン酸またはその無水物としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
変性ポリオレフィンが酸変性されている場合、樹脂部材だけでなく、金属やセラミックスなどの無機部材に対してもより好適に熱溶着させる観点から、酸変性度は、下限として、例えば約0.005重量%以上が挙げられ、樹脂部材だけでなく、金属やセラミックスなどの無機部材に対してもさらに好適に熱溶着させる観点から、約0.01重量%以上であることが好ましく、約0.04重量%以上であることがより好ましく、約0.08重量%以上であることがさらに好ましい。なお、酸変性度の好ましい上限は特にないが、通常、約0.5重量%以下である。すなわち、酸変性度の範囲としては、例えば0.005~0.5重量%程度、好ましくは0.04~0.5重量%程度、より好ましくは0.05~0.5重量%程度、さらに好ましくは0.08~0.5重量%程度が挙げられる。さらに、本発明の積層フィルムは、接合後の成形体において接合面に平行な剪断応力に対する強度を向上できるため、酸変性度の上限が例えば約0.13重量%以下である場合においても、接合面に平行な剪断応力に対する強度を効果的に向上させることができる。このような観点から、酸変性度の範囲としては、例えば0.005~0.13%程度、好ましくは0.04~0.13重量%程度、より好ましくは0.05~0.13重量%程度、さらに好ましくは0.08~0.13重量%程度が挙げられる。
酸変性度は、酸変性ポリオレフィン中で酸変性基が占める重量比率である。例えばマレイン酸変性ポリオレフィンの場合は、酸変性ポリオレフィン中でマレイン酸変性基が占める重量比率である。酸変性度は、1H-NMRの酸由来ピーク面積から定量される値から求める。具体的には、まず、ODCB-d4/C6D6(体積比4/1)溶媒で酸変性ポリオレフィンの1H-NMRと当該酸変性ポリオレフィンのメチルエステル化物の1H-NMRとを測定する。両1H-NMRの比較で、酸が誘導体化されたメチルエステル化物のピークを特定する。さらに、酸変性ポリオレフィン(メチルエステル化前)の1H-NMRから、メチルエステル化物の1H-NMRにおいてメチルエステル化物のピーク位置で重複している不純物由来ピークの面積を特定する。メチルエステル化物のピーク位置におけるピーク面積から不純物由来ピーク面積を差し引くことで、メチルエステル化物のピーク面積を求め、これに基づいて導出される酸変性基の質量とメチルエステル化前の酸変性ポリオレフィンの質量との比率から酸変性度を算出する。
変性されるポリオレフィンとしては、特に制限されないが、金属やセラミックスなどの無機部材に対しても好適に熱溶着させる観点からは、好ましくは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン;ホモポリプロピレン、ポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー)などの結晶性または非晶性のポリプロピレン;エチレン-ブテン-プロピレンのターポリマーが挙げられる。これらのなかでも、変性されるポリオレフィンとしては、ポリプロピレンが好ましい。
金属やセラミックスなどの無機部材に対しても好適に熱溶着させる観点からは、第1熱溶着性樹脂層1に含まれる熱溶着性樹脂の中でも、特に、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリエチレンなどの変性ポリオレフィンが好ましい。
第1熱溶着性樹脂層1に含まれる熱溶着性樹脂は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
第1熱溶着性樹脂層1に含まれる熱溶着性樹脂の割合としては、特に制限されないが、下限としては、好ましくは約70質量%以上、より好ましくは約80質量%以上が挙げられ、上限としては、好ましくは約100質量%以下が挙げられる。また、熱溶着性樹脂の割合の範囲としては、好ましくは、70~100質量%程度、80~100質量%程度が挙げられる。第1熱溶着性樹脂層1に含まれる熱溶着性樹脂の割合がこのような値を有していることにより、本発明の積層フィルム10は、熱溶着性を好適に発揮することができ、2つ以上の部材をより好適に熱溶着させることができる。
第1熱溶着性樹脂層1は、接合後の成形体において、接合面に平行な剪断応力に対する強度に影響を及ぼさない限り、粘着成分をさらに含有していてもよい。より具体的には、第1熱溶着性樹脂層1は、粘着成分を含有する熱溶着性樹脂組成物により構成されていてもよい。第1熱溶着性樹脂層1が粘着成分を含むことにより、積層フィルムの第1熱溶着性樹脂層を第1部材又は第2部材に好適に仮着させることができ、熱溶着時の位置ずれなどを抑制して、2つ以上の部材をより好適に熱溶着させることが可能となる。なお、本発明において、仮着とは、仮に接着させることを意味し、一旦、仮に接着した後も剥がせる状態である。
粘着成分としては、第1熱溶着性樹脂層1に粘着性を付与できるものであれば、特に制限されず、例えば、ロジン、水添ロジン、重合ロジン、ロジンエステルなどロジンまたはその誘導体;α-ピネン、β-ピネン、リモネンなどのテルペン系樹脂;テルペンフェノール樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂、フェノール系樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂などが挙げられる。また、粘着成分としては、アモルファスポリオレフィンを用いることもできる。アモルファスポリオレフィンとしては、例えば、アモルファスポリプロピレン、またはアモルファスプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体などがあり、具体例としては、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン-1共重合体、プロピレン・ブテン-1・エチレン・3元共重合体、プロピレン・ヘキセン-1・オクテン-1・3元重合体、プロピレン・ヘキセン-1・4-メチルペンテン-1・3元共重合体、プロピレン・ヘキセン-1・4-メチルペンテン-1・3元共重合体、ポリブテン-1などが挙げられる。粘着成分は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
第1熱溶着性樹脂層1に粘着成分が含まれる場合、粘着成分の割合としては、特に制限されないが、下限としては、好ましくは約1質量%以上、より好ましくは約5質量%以上が挙げられ、上限としては、好ましくは約30質量%以下、より好ましくは約25質量%以下が挙げられる。また、粘着成分の割合の範囲としては、好ましくは、1~30質量%程度、1~25質量%程度、5~30質量%程度、5~25質量%程度が挙げられる。第1熱溶着性樹脂層1に含まれる粘着成分の割合がこのような値を有していることにより、本発明の積層フィルムは、優れた粘着性と優れた熱溶着性を好適に発揮することができ、2つ以上の部材をより好適に熱溶着させることができる。特に、少なくとも1つの部材が、固体部材である場合には、積層フィルムの第1熱溶着性樹脂層を固体部材に好適に仮着させることができ、熱溶着時の位置ずれなどを抑制して、2つ以上の部材をより好適に熱溶着させることが可能となる。
第1熱溶着性樹脂層1のメルトマスフローレート(MFR)としては、特に制限されないが、部材の表面への追随性を良好にして2つ以上の部材をより好適に熱溶着させる観点から、下限としては、好ましくは約2g/10分以上、より好ましくは約4g/10分以上が挙げられる。熱溶着時に溶融した樹脂の流出を防止して2つ以上の部材をより好適に熱溶着させる観点からは、第1熱溶着性樹脂層1のメルトマスフローレート(MFR)の好ましい上限としては、好ましくは約20g/10分以下、より好ましくは約15g/10分以下、さらに好ましくは約10g/10分以下が挙げられる。すなわち、当該メルトフローレートの範囲としては、好ましくは2~20g/10分程度、より好ましくは4~20g/10分程度、さらに好ましくは4~15g/10分程度、一層好ましくは4~10g/10分程度が挙げられる。メルトマスフローレート(MFR)は、JIS K7210:2014の規定に準拠した方法により、測定温度230℃、加重2.16kgをかけ、メルトインデクサーを用いて測定した値である。
第1熱溶着性樹脂層1の軟化点としては、特に制限されないが、部材の表面への追随性を良好にして2つ以上の部材をより好適に熱溶着させる観点から、好ましくは約180℃以下、より好ましくは約160℃以下が挙げられる。また、第1熱溶着性樹脂層1の軟化点の下限としては、例えば約80℃以上、好ましくは100℃以上が挙げられる。第1熱溶着性樹脂層1の軟化点の好ましい範囲としては、80~180℃程度、80~160℃程度、100~180℃程度、100~160℃程度が挙げられる。
本発明において、第1熱溶着性樹脂層1の軟化点は、次のプローブの変位量測定において、プローブのディフレクションが最大となった時の温度である。なお、第1熱溶着性樹脂層1の軟化点の測定においては、測定対象とする第1熱溶着性樹脂層1の5つのサンプルについて、プローブのディフレクションが最大となった時の温度を読み取り、5つの温度の最大値と最小値を除いた3つの温度の平均値を、軟化点とする。プローブの変位量測定においては、まず、例えば図14の概念図に示すように、積層フィルムの端部の第1熱溶着性樹脂層1の表面上の位置(例えば、図15の積層フィルム10における熱溶着性樹脂層1であれば、Pの位置)にプローブ90を設置する(図14の測定開始A)。このときの端部は、積層フィルムの中心部を通るように厚さ方向に切断して得られた、第1熱溶着性樹脂層1の断面が露出した部分である。切断は、市販品の回転式ミクロトームなどを用いて行うことができる。加熱機構付きのカンチレバーから構成されたナノサーマル顕微鏡を備える原子間力顕微鏡、例えば、ANASIS INSTRUMENTS社製のafm plusシステムを用い、プローブとしてはANASYS INSTRUMENTS社製を用いることができる。プローブの先端半径は30nm以下、プローブのディフレクション(Deflection)の設定値は-4V、昇温速度5℃/分とする。次に、この状態でプローブを加熱すると、プローブ90からの熱により、図14のBのように第1熱溶着性樹脂層1の表面が膨張して、プローブ90が押し上げられ、プローブ90の位置が初期値(プローブ90の温度が40℃である時の位置)よりも上昇する。さらに加熱温度が上昇すると、第1熱溶着性樹脂層1が軟化し、図14のCのように、プローブ90が第1熱溶着性樹脂層1に突き刺さり、プローブ90の位置が下がる場合がある。なお、加熱機構付きカンチレバーから構成されたナノサーマル顕微鏡を備える原子間力顕微鏡を用いたプローブ90の変位量測定においては、測定対象となる積層フィルムは室温(25℃)環境にあり、40℃に加熱されたプローブ90を積層フィルムの端部の第1熱溶着性樹脂層1の表面に設置して、測定を開始する。
第1熱溶着性樹脂層1の厚さは、特に制限されないが、熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減し、接合後の成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度により優れたものとして得る観点から、下限としては、好ましくは約5μm以上、より好ましくは約10μm以上、さらに好ましくは約20μm以上が挙げられ、上限としては、好ましくは約200μm以下、より好ましくは約100μm以下、さらに好ましくは約50μm以下が挙げられる。また、第1熱溶着性樹脂層1の厚さの範囲としては、好ましくは、5~200μm程度、5~100μm程度、5~50μm程度、10~200μm程度、10~100μm程度、10~50μm程度、20~200μm程度、20~100μm程度、20~50μm程度が挙げられる。
第1熱溶着性樹脂層1及び後述の第2熱溶着性樹脂層2の素材、軟化点、厚さなどは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
(中間層3)
本発明において、中間層3は、第1熱溶着性樹脂層1と第2熱溶着性樹脂層2との間に位置しており、積層フィルム10の優れた高引張弾性率を担保することができる。
中間層3を構成する素材としては、高引張弾性率であれば、特に制限されず、例えば、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリエーテルイミド、及びこれらの混合物や共重合物などが挙げられる。
ポリエステルとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステル、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルなどが挙げられる。また、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、エチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてエチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムスルホイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナトリウムイソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/フェニル-ジカルボキシレート)、ポリエチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)などが挙げられる。また、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体とした共重合ポリエステルとしては、具体的には、ブチレンテレフタレートを繰り返し単位の主体としてブチレンイソフタレートと重合する共重合体ポリエステル(以下、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)にならって略す)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられる。これらのポリエステルは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、ポリエステルとしては、上述の他、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群より選ばれるモノマーを任意の組成比で含む重縮合物である芳香族ポリエステルも挙げられる。芳香族ポリエステルの中でも、主鎖中に脂肪族炭化水素を有しない全芳香族ポリエステルが好ましい。全芳香族ポリエステルの具体例として、p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸の共重合体、p-ヒドロキシ安息香酸とテレフタール酸と4,4’-ジヒドロキシビスフェニルの共重合体等のポリアリレートが挙げられる。
熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減し、積層フィルム10をより高引張弾性率とする観点からは、これらの中でも中間層3の素材としては、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、全芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、及びビニロン(ポリビニルアルコール)が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
中間層3の形態としては、特に制限されず、フィルム、繊維などが挙げられる。繊維の具体的な形態としては、不織布が好ましい。積層フィルム10の引張弾性率をより高いものとして得る観点から、中間層3は、フィルムであることが好ましい。
中間層3がフィルムの場合、中間層3は、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルムにより構成されていることが好ましい。
中間層3が繊維の場合、中間層3は、ポリフェニレンサルファイド繊維、アラミド繊維、ビニロン(ポリビニルアルコール)繊維、または全芳香族ポリエステル繊維により構成されていることが好ましい。
これらの繊維の中でも、全芳香族ポリエステル繊維は、全芳香族ポリエステルが、溶融状態で分子配向(溶融異方性)が見られ、これを紡糸してなる繊維(溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維)がさらに分子配向が進むため、繊維同士が交絡しやすくなり機械的強度の強く低吸湿性であるだけでなく、分割、細分化されてできた隙間に樹脂が浸透しやすく樹脂含浸性に優れる不織布となるため、積層フィルム10の層間強度が極めて高い点で好ましい。したがって、全芳香族ポリエステル繊維の中でも、溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維からなる不織布が最も好適である。
中間層3の引張弾性率は、積層フィルム10を特定の引張弾性率とし、接合後の成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度に優れたものとして得る観点から、下限としては、約1500MPa以上であることが好ましく、約2000MPa以上であることがより好ましく、約2900MPa以上であることがさらに好ましく、約5000MPa以上であることが特に好ましい。なお、当該引張弾性率の好ましい上限は特にないが、通常、約10000MPa以下、好ましくは約8000MPa以下、より好ましくは7000MPa以下である。すなわち、当該引張弾性率の範囲としては、1500~10000MPa程度、1500~8000MPa程度、1500~7000MPa程度、2000~10000MPa程度、2000~8000MPa程度、2000~7000MPa程度、2900~10000MPa程度、2900~8000MPa程度、2900~7000MPa程度、5000~10000MPa程度、5000~8000MPa程度、5000~7000MPa程度が挙げられる。中間層3の引張弾性率は、中間層3を構成する材料を、JIS K7161:2014規定に準拠して測定することで得られる値である。
JIS K7161:2014規定に準拠して測定した具体的な測定方法は、上述の積層フィルム10の引張弾性率において記載したとおりである。なお、引張弾性率の測定に供する試験片の作製において、中間層3のMDの確認方法は、次の通りである。積層フィルム10の長さ方向の断面と、当該長さ方向の断面と平行な方向から10度ずつ角度を変更し、長さ方向の断面と垂直な方向までの各断面(合計10の断面)について、それぞれ、中間層3を透過型電子顕微鏡写真で観察して海島構造を確認する。次に、各断面において、それぞれ、個々の中間層3の島の形状を観察する。個々の島の形状について、積層フィルム10の厚み方向とは垂直方向の最左端と、当該垂直方向の最右端とを結ぶ直線距離を径yとする。各断面において、島の形状の当該径yが大きい順に上位20個の径yの平均を算出する。島の形状の当該径yの平均が最も大きかった断面と平行な方向をMDと判断する。また、積層フィルム10の中間層3が繊維である場合は、中間層3を構成する繊維材料のロール方向に基づいてMDを決定すればよいが、MDを特定することができない場合は、任意の方向が長辺になるように試験片を作製すればよい。
中間層3の、試験温度200℃、加熱時間10分間の条件で測定される熱収縮率は、熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減し、接合後の成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度により優れたものとして得る観点から、上限としては、好ましくは約10%以下、より好ましくは約5%以下、さらに好ましくは約3%以下、特に好ましくは2%以下が挙げられ、下限としては、約0%以上、約0.1%以上が挙げられる。また、当該熱収縮率の範囲としては0~10%程度、0~5%程度、0~3%程度、0~2%程度、0.1~10%程度、0.1~5%程度、0.1~3%程度、0.1~2%程度が挙げられる。熱収縮率の測定は、JIS K 7133:1999の規定に準拠した方法により行うことができる。
本発明においては、少なくとも、中間層3の一方向(中間層3の平面方向)と、これに直交する方向(中間層3の平面方向)との二方向で上記の熱収縮率を満たすことが好ましい。熱収縮率を測定する一方向及びこれに直交する方向は、具体的には、中間層3がフィルムである場合、中間層3のMDを前記一方向とする。なお、本発明において積層フィルム10の中間層3のMDの確認方法は、上述の中間層3の引張弾性率において記載の通りである。また、積層フィルム10の中間層3が繊維である場合においてMDを特定することができない場合は、任意の方向を前記一方向とすればよい。
中間層3の融解ピーク温度としては、特に制限されないが、耐熱性をより一層高める観点から、中間層3の融解ピーク温度としては、好ましくは約200℃以上、より好ましくは約230℃以上、さらに好ましくは約240℃以上が挙げられる。中間層3の融解ピーク温度の上限としては特に限定されないが、例えば約300℃以下が挙げられる。中間層3の融解ピーク温度の好ましい範囲としては、好ましくは200~300℃程度、より好ましくは230~300℃程度、さらに好ましくは240~300℃程度が挙げられる。本発明において、融解ピーク温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した値であり、昇温速度を10℃/分、温度測定範囲を100~350℃とし、サンプルパンとしてアルミニウムパンを使用して測定される。
中間層3の厚さは、特に制限されないが、熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減し、接合後の成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度に優れたものとして得る観点からは、下限としては、好ましくは約5μm以上、より好ましくは約10μm以上が挙げられ、上限としては、好ましくは約200μm以下、より好ましくは約100μm以下、さらに好ましくは約50μm以下が挙げられる。また、中間層3の厚さの範囲としては、好ましくは、5~200μm程度、5~100μm程度、5~50μm程度、10~200μm程度、10~100μm程度、10~15μm程度が挙げられる。さらに、中間層3がフィルムである場合は、中間層3の厚さは、上限として、好ましくは約30μm以下、より好ましくは約20μm以下であってもよい。また、中間層3がフィルムである場合、中間層3の厚さの範囲としては、5~30μm程度、10~30μm程度、5~20μm程度、10~20μm程度が挙げられる。
また、中間層3が不織布により構成されている場合、不織布の目付としては、特に制限されないが、中間層3に隣接する層(例えば、第1熱溶着性樹脂層1、第2熱溶着性樹脂層2、熱可塑性樹脂層4など)を不織布に十分含浸させて、層間の接着強度を安定させる観点からは、目付は小さいことが好ましく、下限としては、好ましくは約5g/m2以上が挙げられる。また、熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減する観点からは、目付は大きいことが好ましく、上限としては30g/m2以下が挙げられる。熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減し、熱溶着後の外観を良好なものとして、2つ以上の部材をより好適に熱溶着させる観点から、当該目付の範囲としては、好ましくは5~30g/m2程度、より好ましくは7~25g/m2程度が挙げられる。
(第2熱溶着性樹脂層2)
本発明において、第2熱溶着性樹脂層2は、中間層3の第1熱溶着性樹脂層1とは反対側に位置する層である。第2熱溶着性樹脂層2は、熱溶着性樹脂組成物により構成されている。
第2熱溶着性樹脂層2に含まれる熱溶着性樹脂としては、特に制限されないが、金属やセラミックスなどの無機部材だけでなく、樹脂部材、特に繊維強化プラスチックに対しても好適に熱溶着させる観点からは、好ましくは変性ポリオレフィン(すなわち、ポリオレフィン骨格を有している)が挙げられる。すなわち、第2熱溶着性樹脂層2を構成している樹脂は、ポリオレフィン骨格を含んでいなくてもよいが、前記の観点から、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましい。第2熱溶着性樹脂層2を構成している樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。
また、変性ポリオレフィンとしては、特に繊維強化プラスチックに対しても好適に熱溶着させる観点からは、酸変性されたポリオレフィンであることが好ましい。酸変性されたポリオレフィンとしては、具体的には、不飽和カルボン酸またはその無水物で変性されたポリオレフィンが挙げられる。酸変性に使用される不飽和カルボン酸またはその無水物としては、例えば、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
変性ポリオレフィンが酸変性されている場合、特に繊維強化プラスチックに対しても好適に熱溶着させる観点から、酸変性度は、下限として、約0.01重量%以上であることが好ましく、約0.06重量%以上であることがより好ましく、約0.08重量%以上であることがさらに好ましい。なお、酸変性度の好ましい上限は特にないが、通常、約0.5重量%以下である。すなわち、酸変性度の範囲としては、好ましくは0.01~0.5重量%程度、より好ましくは0.06~0.5重量%程度、さらに好ましくは0.08~0.5重量%程度が挙げられる。酸変性度は、酸変性ポリオレフィン中で酸変性基が占める重量比率である。例えばマレイン酸変性ポリオレフィンの場合は、酸変性ポリオレフィン中でマレイン酸変性基が占める重量比率である。酸変性度は、1H-NMRの酸由来ピーク面積から定量される。具体的には、まず、ODCB-d4/C6D6(体積比4/1)溶媒で酸変性ポリオレフィンの1H-NMRと当該酸変性ポリオレフィンのメチルエステル化物の1H-NMRとを測定する。両1H-NMRの比較で、酸が誘導体化されたメチルエステル化物のピークを特定する。さらに、酸変性ポリオレフィン(メチルエステル化前)の1H-NMRから、メチルエステル化物の1H-NMRにおいてメチルエステル化物のピーク位置で重複している不純物由来ピークの面積を特定する。メチルエステル化物のピーク位置におけるピーク面積から不純物由来ピーク面積を差し引くことで、メチルエステル化物のピーク面積を求め、これに基づいて導出される酸変性基の質量とメチルエステル化前の酸変性ポリオレフィンの質量との比率から酸変性度を算出する。
変性されるポリオレフィンとしては、特に制限されないが、特に繊維強化プラスチックに対しても好適に熱溶着させる観点からは、好ましくは、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン;ホモポリプロピレン、ポリプロピレンのブロックコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのブロックコポリマー)、ポリプロピレンのランダムコポリマー(例えば、プロピレンとエチレンのランダムコポリマー)などの結晶性または非晶性のポリプロピレン;エチレン-ブテン-プロピレンのターポリマーが挙げられる。これらのなかでも、変性されるポリオレフィンとしては、ポリプロピレンが好ましい。
特に繊維強化プラスチックに対しても好適に熱溶着させる観点からは、第2熱溶着性樹脂層2に含まれる熱溶着性樹脂の中でも、特に、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなどが好ましい。
第2熱溶着性樹脂層2に含まれる熱溶着性樹脂は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
第2熱溶着性樹脂層2に含まれる熱溶着性樹脂の割合としては、特に制限されないが、下限としては、好ましくは約70質量%以上、より好ましくは約80質量%以上が挙げられ、上限としては、好ましくは約100質量%以下が挙げられる。また、熱溶着性樹脂の割合の範囲としては、好ましくは、70~100質量%程度、80~100質量%程度が挙げられる。第2熱溶着性樹脂層2に含まれる熱溶着性樹脂の割合がこのような値を有していることにより、本発明の積層フィルム10は、熱溶着性を好適に発揮することができ、2つ以上の部材をより好適に熱溶着させることができる。
第2熱溶着性樹脂層2には、接合後の成形体において、接合面に平行な剪断応力に対する強度に影響を及ぼさない限り、粘着成分が含まれていてもよい。第2熱溶着性樹脂層2に粘着成分が含まれている場合、第2熱溶着性樹脂層2は、第1熱溶着性樹脂層1と同様、粘着性を発揮することができる。第1熱溶着性樹脂層1と第2熱溶着性樹脂層2に粘着成分が含まれている場合には、積層フィルム10の第1熱溶着性樹脂層1と第2熱溶着性樹脂層2の両面を固体部材に仮着させることが可能となる。このため、2つ以上の固体部材を熱溶着させる際の位置ずれなどが抑制され、2以上の固体部材を好適に熱溶着させることができる。
第2熱溶着性樹脂層2に粘着成分が含まれている場合、粘着成分の種類及び含有割合としては、特に制限されず、第1熱溶着性樹脂層1で例示したものと同じものが例示される。
第2熱溶着性樹脂層2のメルトマスフローレート(MFR)としては、特に制限されないが、部材の表面、特に繊維強化プラスチックの凹凸表面への追随性を良好にして2つ以上の部材をより好適に熱溶着させる観点から、下限としては、好ましくは約2g/10分以上、より好ましくは約4g/10分以上が挙げられる。特に、繊維強化樹脂プラスチックを熱溶着する場合、繊維強化樹脂プラスチックの表面凹凸(表面粗さRa)が増大しても当該表面凹凸への第2熱溶着性樹脂層2の追随を良好にしてアンカー効果を有効に得ることによって第2部材と好適に熱溶着させる観点から、第2熱溶着性樹脂層2のメルトマスフローレート(MFR)としては、好ましくは約4g/10分以上が挙げられる。熱溶着時に溶融した樹脂の流出を防止して2つ以上の部材をより好適に熱溶着させる観点からは、第2熱溶着性樹脂層2のメルトマスフローレート(MFR)の好ましい上限としては、好ましくは約20g/10分以下、より好ましくは約15g/10分以下が挙げられる。すなわち、当該メルトフローレートの範囲としては、好ましくは2~20g/10分程度、より好ましくは4~20g/10分程度、さらに好ましくは4~15g/10分程度が挙げられる。メルトマスフローレート(MFR)は、JIS K7210:2014の規定に準拠した方法により、測定温度230℃、加重2.16kgをかけ、メルトインデクサーを用いて測定した値である。
第2熱溶着性樹脂層2の軟化点としては、特に制限されないが、熱部材の表面への追随性を良好にして2つ以上の部材をより好適に熱溶着させる観点から、好ましくは約180℃以下、より好ましくは約160℃以下が挙げられる。また、第2熱溶着性樹脂層2の軟化点の下限としては、例えば約80℃以上、好ましくは約100℃以上が挙げられる。第2熱溶着性樹脂層2の軟化点の好ましい範囲としては、80~180℃程度、80~160℃程度、100~180℃程度、100~160℃程度が挙げられる。本発明において、第2熱溶着性樹脂層2の軟化点は、前述の第1熱溶着性樹脂層1の軟化点と同様にして測定された値である。
第2熱溶着性樹脂層2の厚さは、特に制限されないが、熱溶着時の高温環境における熱収縮率を低減し、接合後の成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度により優れたものとして得る観点から、下限としては、好ましくは約5μm以上、より好ましくは約10μm以上、さらに好ましくは約20μm以上が挙げられ、上限としては、好ましくは約200μm以下、より好ましくは約100μm以下、さらに好ましくは約50μm以下が挙げられる。また、第2熱溶着性樹脂層2の厚さの範囲としては、好ましくは、5~200μm程度、5~100μm程度、5~50μm程度、10~200μm程度、10~100μm程度、10~50μm程度、20~200μm程度、20~100μm程度、20~50μm程度が挙げられる。
(熱可塑性樹脂層4)
本発明において、熱可塑性樹脂層4は、必要に応じて、積層フィルム10に積層される層である。熱可塑性樹脂層4は、第1熱溶着性樹脂層1と中間層3との間、中間層3と第2熱溶着性樹脂層2との間に積層されていることが好ましい。積層フィルム10には、熱可塑性樹脂層4が1層積層されていてもよいし、2層以上積層されていてもよい。積層フィルム10における熱可塑性樹脂層4の積層数としては、好ましくは0~2程度、より好ましくは0~1程度が挙げられる。第1熱溶着性樹脂層1及び第2熱溶着性樹脂層2の少なくとも一方に粘着成分が含まれている場合、粘着成分を含む層が熱可塑性樹脂層4を介して中間層3に積層されることで、層間の接着強度を安定させることができる。よって、例えば第1熱溶着性樹脂層1及び第2熱溶着性樹脂層2が積層フィルム10の両面を構成しており、第1熱溶着性樹脂層1及び第2熱溶着性樹脂層2に粘着成分が含まれる場合には、図4の積層構成のように、熱可塑性樹脂層4は、第1熱溶着性樹脂層1と中間層3との間、及び、中間層3と第2熱溶着性樹脂層2との間に1層ずつ積層されていることが好ましい。また、例えば第1熱溶着性樹脂層1が積層フィルム10の片面を構成しており、第1熱溶着性樹脂層1に粘着成分が含まれる場合には、図3の積層構成のように、熱可塑性樹脂層4は、第1熱溶着性樹脂層1と中間層3との間に1層積層されていることが好ましい。
熱可塑性樹脂層4を構成する熱可塑性樹脂としては、熱可塑性を備えていれば、特に制限されない。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、熱可塑性樹脂層4は、ポリオレフィンにより構成されていることが好ましく、変性ポリオレフィン(すなわち、ポリオレフィン骨格を有している)により構成されていることがより好ましい。変性ポリオレフィンとしては、第1熱溶着性樹脂層1で例示したものと同じものが好ましく例示される。すなわち、熱可塑性樹脂層4を構成している樹脂は、ポリオレフィン骨格を含んでいても含んでいなくてもよいが、前記の観点から、ポリオレフィン骨格を含んでいることが好ましい。ポリオレフィン骨格を有している熱可塑性樹脂は、耐溶剤性に優れるため、熱可塑性樹脂層4に含まれる熱可塑性樹脂として好ましい。熱可塑性樹脂層4を構成している樹脂がポリオレフィン骨格を含むことは、例えば、赤外分光法、ガスクロマトグラフィー質量分析法などにより分析可能であり、分析方法は特に問わない。例えば、赤外分光法にて無水マレイン酸変性ポリオレフィンを測定すると、波数1760cm-1付近と波数1780cm-1付近に無水マレイン酸由来のピークが検出される。
なお、熱可塑性樹脂層4には、接合後の成形体において、接合面に平行な剪断応力に対する強度に影響を及ぼさない限り、粘着成分が含まれていてもよい。熱可塑性樹脂層4に粘着成分が含まれている場合、熱可塑性樹脂層4は、粘着性を発揮することができる。熱可塑性樹脂層4に粘着成分が含まれている場合、粘着成分の種類としては、特に制限されず、第1熱溶着性樹脂層1で例示したものと同じものが例示される。また、熱可塑性樹脂層4における粘着成分の割合としては、特に制限されず、第1熱溶着性樹脂層1と同様の割合が挙げられる。
(他の層)
本発明の積層フィルム10には、第1熱溶着性樹脂層1、第2熱溶着性樹脂層2、中間層3、及び熱可塑性樹脂層4とは異なる他の層がさらに積層されていてもよい。
(添加剤)
本発明の積層フィルム10は、必要に応じて、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。なお、添加剤としては、積層フィルム10が変色しない種類及び含有量などが当業者によって適宜選択される。
(積層フィルムの製造方法)
本発明の積層フィルム10は、少なくとも、第1熱溶着性樹脂層1と、中間層3と、第2熱溶着性樹脂層2と、必要に応じて設けられる熱可塑性樹脂層4とを積層することにより製造することができる。これらの層の積層方法としては、特に制限されず、例えば、サーマルラミネート法、サンドイッチラミネート法、押出しラミネート法などを用いて行うことができる。
また、本発明の積層フィルム10において、中間層3が樹脂フィルムにより構成されている場合、中間層3の両面に接着促進剤を塗布する(すなわち、接着促進剤層を設ける)ことにより、隣接する層(例えば、第1熱溶着性樹脂層1、第2熱溶着性樹脂層2、熱可塑性樹脂層4など)との密着強度を向上させ積層構造を安定させることができる。また、中間層3の表面には、必要に応じて、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理等の周知の易接着手段を講じることができる。
接着促進剤層を形成する接着促進剤としては、イソシアネート系、ポリエチレンイミン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリブタジエン系等の周知の接着促進剤を用いることができる。また、接着促進剤層は、2液硬化型接着剤や1液硬化型接着剤などの公知の接着剤を用いて形成することもできる。
接着促進剤層は、中間層3の片面または両面に設けることができる。接着促進剤層は、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法で塗布・乾燥することにより形成することができる。
(部材)
積層フィルム10によって接合される第1部材と第2部材の素材としては、特に制限されず、それぞれ、樹脂、繊維強化プラスチック、無機物(例えば、金属、セラミックスなど)が挙げられる。
部材を構成する素材が樹脂である場合、具体例としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂などが挙げられ、これらの中でも、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、エポキシ樹脂、ABS樹脂などが好ましく挙げられる。
部材を構成する素材が繊維強化プラスチックである場合、繊維強化プラスチックは、繊維をマトリックス樹脂に含ませることで強度を向上させた複合材料であればよい。繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の硬化体)及び熱可塑性樹脂が挙げられ、より好ましくは熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の硬化体)が挙げられる。本発明の積層フィルムは、接合後の成形体において接合面に平行な剪断応力に対する強度を向上できるため、繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としては、熱溶着時に共溶融しない熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の硬化体)であっても、効果的に接合面に平行な剪断応力に対する強度を向上できる。
繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂として用いられる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられ、好ましくは、エポキシ樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂として用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、各種熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
繊維強化プラスチックの繊維としては特に限定されず、カーボン繊維及びガラス繊維などの無機繊維、及びアラミド繊維などの有機繊維が挙げられる。これらの中でも、接合後の成形体を、接合面に平行な剪断応力に対する強度により優れたものとして得る観点から、カーボン繊維及びガラス繊維が好ましく挙げられ、カーボン繊維がより好ましく挙げられる。カーボン繊維としては特に限定されず、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系等のいずれを用いてもよく、またそれらが混合されているものを用いてもよい。繊維の織目としては、一方向に引き揃えられた長繊維、二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組み紐などのいずれのものであってもよい。ここでいう長繊維とは、実質的に10mm以上連続な単繊維もしくは繊維束を意味する。
繊維強化プラスチックの表面粗さRaとしては、例えば約1μm以上が挙げられる。本発明の積層フィルム10の熱溶着性樹脂層1が表面凹凸へ追随することによるアンカー効果をより有効に得て、より好適に接合させる観点から、表面粗さRaとしては、約3μm以上であることが好ましく、約8μm以上であることがより好ましい。なお、当該表面粗さRaの上限は特にないが、積層フィルムの熱溶着性樹脂層を表面凹凸へ容易に追随させる観点から、例えば約100μm以下である。すなわち、当該表面粗さRaの範囲としては、例えば1~100μm程度、好ましくは3~100μm程度、より好ましくは8~100μm程度が挙げられる。さらに、本発明の積層フィルムは、接合後の成形体において接合面に平行な剪断応力に対する強度を向上できるため、表面粗さRaの上限が例えば約70μm以下、好ましくは約30μm以下、より好ましくは約10μm以下である場合においても、接合面に平行な剪断応力に対する強度を効果的に向上させることができる。このような観点から、表面粗さRaの範囲としては、好ましくは、1~70μm程度、1~30μm程度、1~10μm程度、3~70μm程度、3~30μm程度、3~10μm程度、8~70μm程度、8~30μm程度、8~10μm程度が挙げられる。表面粗さRaは、JIS B0601:2013に準拠して、接触式粗さ計を用いて測定される算術平均粗さである。接触式粗さ計としては、東京精密社製サーフコムNEXを用いることができる。
繊維強化プラスチックの表面には、繊維が露出していなくてもよいし、繊維が露出していてもよい。同じ表面粗さRaでは、繊維が露出している方が、より好適に接合させる点で好ましいが、本発明の積層フィルムが、接合後の成形体において接合面に平行な剪断応力に対する強度を向上できるため、繊維強化プラスチックの表面において繊維を露出させなくても、接合面に平行な剪断応力に対する強度を効果的に向上させることができる。なお、繊維強化プラスチックの表面粗さRaを調整する目的で、繊維強化プラスチックの表面を露出させることもできる。繊維強化プラスチックの繊維を露出させるには、繊維が露出していない繊維強化プラスチックの表面のマトリックス樹脂を削去する処理を行うことができる。繊維強化プラスチックの表面における繊維の露出度、すなわち、繊維強化プラスチックの表面に対する露出繊維が占める面積の比率としては、例えば0%以上、好ましくは約5%以上、より好ましくは約10%以上が挙げられる。なお、当該露出度の上限は特にないが、本発明の積層フィルムが、接合後の成形体において接合面に平行な剪断応力に対する強度を向上できるため、繊維強化プラスチックの表面における繊維の露出度が約30%以下でも、接合面に平行な剪断応力に対する強度を効果的に向上させることができる。すなわち、繊維強化プラスチックの表面における繊維の露出度の範囲としては、例えば0~30%程度、好ましくは5~30%程度、より好ましくは10~30%程度が挙げられる。
部材を構成する素材が金属である場合、具体例としては、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、銅、亜鉛、銀、金、マグネシウム、チタン、真鍮、ニッケル、またはこれらのうち少なくとも1種を含む合金などが挙げられ、これらの中でも、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、チタン、真鍮、ニッケルなどが好ましく挙げられ、さらに好ましくはアルミニウムが挙げられる。部材を構成する素材がセラミックスである場合、具体例としては、ガラス、アルミナ、ジルコニアなどが挙げられ、これらの中でも、ガラスがより好ましく挙げられる。
樹脂及び無機物の表面粗さRaとしては、例えば約10nm以上、好ましくは約0.5μm以上、より好ましくは約1μm以上であることが好ましい。なお、当該表面粗さRaの上限は特にないが、例えば約20μm以下が挙げられる。本発明の積層フィルムは、接合後の成形体において接合面に平行な剪断応力に対する強度を向上できるため、当該表面粗さRaの上限としては、約10μm以下、好ましくは約5μm以下、より好ましくは約3μm以下である場合においても、接合面に平行な剪断応力に対する強度を効果的に向上させることができる。すなわち、当該表面粗さRaの範囲としては、10nm~20μm程度、10nm~10μm程度、10nm~5μm程度、10nm~3μm程度、0.5~20μm程度、0.5~10μm程度、0.5~5μm程度、0.5~3μm程度、1~20μm程度、1~10μm程度、1~5μm程度、1~3μm程度が挙げられる。表面粗さRaは、JIS B0601:2013に準拠して、接触式粗さ計を用いて測定される算術平均粗さである。接触式粗さ計としては、東京精密社製サーフコムNEXを用いることができる。
第1部材と第2部材を構成する素材は、同種であってもよいし、異種であってもよい。また、熱溶着によって接合される際の第1部材及び第2部材の形態としては、溶融状態であってもよいし、固体であってもよい。溶融状態の部材の具体例としては、溶融樹脂が挙げられる。溶融樹脂が冷却されて固化することにより、樹脂部材となる。また、固体部材としては、樹脂部材、繊維強化プラスチック部材、繊維及びそれに含浸された未硬化樹脂、無機部材(例えば、金属部材、セラミックス部材)などが挙げられる。固体部材が繊維及びそれに含浸された未硬化樹脂である場合、未硬化樹脂が熱溶着時の熱によって熱硬化されることにより、繊維強化プラスチック部材となる。第1部材と第2部材に加えて、さらに他の部材を本発明の積層フィルムを用いて接合してもよい。すなわち、本発明の積層フィルムによって接合される部材は、少なくとも2つである。他の部材を構成する素材についても、第1部材と第2部材と同種であってもよいし、異種であってもよく、また、熱溶着によって接合される際には、溶融状態であってもよいし、固体であってもよく、固体である場合には未硬化樹脂を含んでいてもよい。
本発明の積層フィルムを用いて2つ以上の部材を接合する態様は、積層フィルムを介して2つ以上の部材が接合されるものであれば特に制限されないが、例えば接合される部材が3つの場合であれば、第1部材/積層フィルム/第2部材/積層フィルム/他の部材を順に積層する態様や、積層フィルムの一方の面に第1部材及び他の部材を並べて配置し、この積層フィルムの他方の面に第2部材を配置し、1枚の積層フィルムを介して3つの部材を接合する態様などが挙げられる。また、積層フィルムは、第1部材と第2部材の間の全面に存在してこれらの部材を接合してもよいし、第1部材と第2部材の間の一部に存在してこれらの部材を接合してもよい。
これらの部材は、必要に応じて、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、着色剤(顔料、染料など)などの各種添加剤を含んでいてもよい。
本発明の積層フィルム10によって熱溶着される第1部材と第2部材の好ましい組み合わせとしては、例えば、樹脂部材と金属部材との組み合わせ、樹脂部材と樹脂部材との組み合わせ、樹脂部材とセラミックス部材との組み合わせ、金属部材とセラミックス部材との組み合わせ、金属部材と金属部材との組み合わせ、セラミックス部材とセラミックス部材との組み合わせ、繊維強化プラスチック部材と金属部材との組み合わせ、繊維強化プラスチック部材と樹脂部材との組み合わせ、繊維強化プラスチック部材とセラミックス部材との組み合わせなどが挙げられる。後述の通り、樹脂部材が溶融樹脂を冷却、固化して得られるものである場合、及び繊維強化プラスチック部材が、繊維及び含浸未硬化樹脂を熱硬化して得られるものである場合、成形と熱溶着とを1つの工程で行うことが可能となる。
第1部材及び第2部材の少なくとも一方の部材の厚みは、下限として、約1mm以上である。部材の厚みとは、部材の最大厚みを指す。このような厚みを有する部材は、接合後に相当の厚みを有する成形体を構成するため、成形体は接合面に平行な剪断応力を容易に受ける。本発明の積層フィルム10を用いてこのような厚みを有する部材を接合することによって、当該剪断応力に対する強度に優れた積層体を得ることができる。本発明は、成形体が接合面に平行な剪断応力をより容易に受ける第1部材及び第2部材の両方の厚みが約1mm以上である場合に特に有用である。少なくとも一方、好ましくは両方の部材の厚みは、好ましくは1.3mm以上、より好ましくは1.5mm以上が挙げられる。なお、部材の好ましい上限は特にないが、例えば、約20mm以下である。すなわち、当該厚みの範囲としては、例えば1~20mm程度、好ましくは1.3mm~20mm程度、より好ましくは1.5mm~20mm程度が挙げられる。
部材の形状や大きさとしては、特に制限されず、部材を接合して製造する成形体に応じた形状及び大きさとすればよい。固体部材の形状としては、例えば、板状、画鋲のようなピン型形状、凹状、凸状、凹凸状等の各種形状の部材などが挙げられる。各種形状の部材は、例えば成形された部材が挙げられる。本発明において、部材を接合して製造される成形体は、例えば、自動車の内装部材や外装部材などの用途に好適に使用することができる。よって、部材の素材、形状、大きさなども、これら用途に適したものを選択することができる。
2.積層体及び成形体
本発明の積層体は、第1部材30及び第2部材40又は第2部材40の前駆体が、本発明の積層フィルム10を介して積層されてなることを特徴としている。本発明の積層フィルム10、第1部材30、及び第2部材40の詳細については、前述の通りである。また、第2部材40の前駆体は、後述する図7で第2部材前駆体40aとして説明する通り、第2部材40が繊維強化プラスチックで構成され且つ繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合において、熱硬化性樹脂が硬化する前の状態である繊維強化プラスチックのプリプレグをいう。
本発明の積層体は、積層フィルム10を介して第1部材30と第2部材40又は第2部材40の前駆体が積層された形状を有していればよく、例えば積層される部材が2つの場合であれば、第1部材/積層フィルム/第2部材又は第2部材の前駆体が順に積層された態様であり、積層される部材が3つの場合であれば、第1部材/積層フィルム/第2部材又は第2部材の前駆体/積層フィルム/他の部材が順に積層された態様や、積層フィルムの一方の面に第1部材及び他の部材を並べて配置し、この積層フィルムの他方の面に第2部材又は第2部材の前駆体を配置し、1枚の積層フィルムを介して3つの部材が積層された態様などが挙げられる。また、積層フィルムは、第1部材と第2部材又は第2部材の前駆体の間の全面に存在してこれらの部材が積層さていてもよいし、第1部材と第2部材又は第2部材の前駆体の間の一部に存在してこれらの部材が積層されていてもよい。
本発明の積層体は、積層フィルム10を介して第1部材30と第2部材40又は第2部材40の前駆体が積層されていればよく、第1部材30及び第2部材40又は第2部材40の前駆体は、積層された本発明の積層フィルム10を介して熱溶着により接合されていてもよいし、接合されていなくてもよい。
本発明の成形体20は、例えば図5の模式図に示されるように、第1部材30及び第2部材40が、本発明の積層フィルム10によって熱溶着されてなることを特徴としている。すなわち、本発明の成形体20は、本発明の積層フィルム10を介して接合状態且つ成形状態とされている。本発明の積層フィルム10、第1部材30、及び第2部材40の詳細については、前述の通りである。
本発明の成形体20は任意の形状に成形されている。例えば、図5には、本発明の成形体20が板状である態様を示している。また、図10には、本発明の成形体20が金型によって成形された態様を示している。
本発明の成形体20は、上述の積層体において、第1部材30及び第2部材40又は第2部材40の前駆体を、積層フィルム10を介して熱溶着させることにより製造することができる。この場合、具体的には、第1部材30及び第2部材40又は第2部材40の前駆体の間に積層フィルム10を配置した状態で、加熱・加圧して、積層フィルム10の表面を熱溶融させ、又はさらに第2部材40の前駆体を熱硬化する。その後、積層フィルム10を冷却することにより、熱溶融した表面を固化させ、これにより積層フィルム10を介して第1部材30及び第2部材40が熱溶着(接合)された成形体20が得られる。
例えば、第1部材30が金属で構成され、第2部材40が繊維強化プラスチックで構成される態様を挙げると、当該繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、熱溶着の際の部材の状態としては、熱硬化性樹脂が硬化した後の状態であることが好ましい。この場合、所定の形状に成形された金属の第1部材と、所定の形状に成形された繊維強化プラスチック(硬化後)との間に積層フィルム10を挟み、加圧及び加熱によって熱溶着を行い、第1部材と第2部材とが接合された異種材接合体を得ることができる。
また、前記態様において、第2部材40を構成する繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂である場合、熱溶着の際の部材の状態としては、熱硬化性樹脂が硬化する前の状態、つまり第2部材40の前駆体であってもよい。この場合、金属で構成される第1部材と第2部材40の前駆体である繊維強化プラスチックのプリプレグとを、積層フィルム10を介して積層した積層体を加熱して、熱溶着とプリプレグの熱硬化と成形とを同時に、つまり1つの工程で行うことができ、これによって、第1部材と第2部材とが接合された異種材接合体を得ることができる。より具体的には、例えば図7~図9の一連の模式図に示されるように、金属部材(第1部材30)と繊維強化プラスチックのプリプレグ(第2部材前駆体40a)に、積層フィルム10を介して積層させた積層体とし(図7)、金型60などでプレス又は加熱プレスして積層体を変形させるとともに、積層体を加熱することで繊維強化プラスチックのプリプレグ(第2部材前駆体40a)の熱硬化と積層フィルム10溶融による熱溶着とを行う(図8)。金型60を冷却した後、図9に示されるように、第1部材30と第2部材40(硬化後)とが積層フィルム10で接合された成形体20が得られる。
さらに、前記態様において、第2部材40を構成する繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合、金属で構成される第1部材と繊維強化プラスチックで構成される第2部材とを、積層フィルム10を介して積層した積層体を加熱して、熱溶着と熱成形とを同時に、つまり1つの工程で行い、第1部材と第2部材とが接合された異種材接合体を得ることができる。より具体的には、繊維強化プラスチックのプリプレグ(第2部材前駆体40a)を繊維強化プラスチック40に変更することを除いて図7~図9の一連の模式図に示される工程と同様の工程を行うことができる。つまり、金属部材(第1部材30)と繊維強化プラスチック(第2部材40)に、積層フィルム10を介して積層させた積層体とし、金型などで加熱プレスして積層体を塑性変形させるとともに、積層体を加熱することで積層フィルム10溶融による熱溶着とを行う。金型を冷却した後、第1部材30と第2部材40とが積層フィルム10で接合された成形体20が得られる。
積層フィルム10を介して、第1部材30及び第2部材40(又は第2部材前駆体40a)を熱溶着させる際の温度としては、積層フィルム10の表面が熱溶融する温度であれば特に制限されないが、好ましくは140~280℃程度、より好ましくは160~250℃程度が挙げられる。繊維強化プラスチックを接合する場合は、当該温度において、さらに、繊維強化プラスチックにおけるマトリックス樹脂の硬化温度(熱硬化性樹脂の場合)又は軟化点(熱可塑性樹脂の場合)等が適宜考慮される。また、熱溶着させる際の圧力(面圧)としては、特に制限されないが、好ましくは0.1~5MPa程度、より好ましくは0.2~3MPa程度が挙げられる。なお、熱溶着させる際の加熱・加圧時間としては、通常、1~30秒間程度である。
本発明においては、図7~図9に例示される方法の他、接合される第1部材30及び第2部材40のうち、少なくとも一方を、溶融樹脂を冷却、固化して形成する方法で成形体を得てもよい。この場合、成形と接合とを1つの工程で行うことが可能となる。具体的には、積層フィルム10の一方面を1つの固体部材に接触させた状態で、他方面に溶融樹脂を供給して、金型などで溶融樹脂を成形しながら冷却することにより、溶融樹脂の成形と固体部材の接合とを1つの工程で行うことができる。
溶融樹脂を積層フィルム10の表面に供給する際の溶融樹脂の温度としては、溶融樹脂40bが溶融状態を保つことができる温度であれば特に制限されず、溶融樹脂の種類によっても異なるが、積層フィルム10を介して溶融樹脂40bと固体部材(第1部材30)とを好適に接合させる観点から、好ましくは150~300℃程度、より好ましくは190~250℃程度が挙げられる。
溶融樹脂を構成する樹脂としては、熱溶融する樹脂であれば特に制限されないが、積層フィルム10を介して溶融樹脂40bと固体部材(第1部材30)とを好適に接合させる観点から、好ましくは、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ABS樹脂などの樹脂が挙げられる。樹脂の中でも、特に、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、エポキシ樹脂、ABS樹脂などが好ましい。
また、接合される第1部材30及び第2部材40のうち、一方が固体部材である場合、例えば図10~図12の一連の模式図に示されるように、固体部材(第1部材30)に、積層フィルム10の第1熱溶着性樹脂層1を仮着させた状態(図10)で、積層フィルム10の第2熱溶着性樹脂層2側の表面に溶融樹脂40bを供給して(図11)、溶融樹脂40bと固体部材(第1部材30)とを、積層フィルム10を介して接合させることができる(図12)。この際にも、図12に示されるように、供給した溶融樹脂を金型60などで成形しながら冷却することにより、成形と接合とを1つの工程で行うことができる。また、図12に示されるように、固体部材(第1部材30)が金型60などで成形可能な可撓性を備えている場合には、固体部材(第1部材30)の成形も同時に行うことができる。溶融樹脂40bの冷却後、第1部材30と第2部材40とが積層フィルム10で接合された成形体20(図9参照)が得られる。
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
<積層フィルム(熱溶着性フィルム)の材料及び接合対象部材、並びにそれらの物性の測定>
実施例及び比較例において、材料の酸変性度、メルトマスフローレート(MFR)、融解ピーク温度、軟化点、引張弾性率及び熱収縮率、並びに接合対象となる部材の表面粗さ及び繊維強化プラスチックの繊維露出度は、以下の方法により測定した値である。
(酸変性度の測定)
まず、ODCB-d4/C6D6(体積比4/1)溶媒で、測定対象(酸変性ポリオレフィン)の1H-NMRと当該酸変性ポリオレフィンのメチルエステル化物の1H-NMRとを測定した。得られた両1H-NMRの比較で、酸が誘導体化されたメチルエステル化物のピークを特定した。さらに、酸変性ポリオレフィン(メチルエステル化前)の1H-NMRから、メチルエステル化物の1H-NMRにおいてメチルエステル化物のピーク位置で重複している不純物由来ピークの面積を特定した。メチルエステル化物のピーク位置におけるピーク面積から不純物由来ピーク面積を差し引くことで、メチルエステル化物のピーク面積を求め、これに基づいて導出される酸由来ピーク面積から酸変性度を算出した。なお、酸変性されていないポリオレフィンについては、酸変性度は0重量%とした。
(メルトマスフローレート(MFR)の測定)
JIS K7210:2014の規定に準拠した方法において、メルトインデクサーを用いて熱融着性樹脂層のメルトマスフローレートを測定した。メルトインデクサーとしてはHAAKE社製「MiniLab」を用いた。測定条件としては、測定温度230℃、加重2.16kgとした。
(融解ピーク温度の測定)
示差走査熱量計(DSC)を用いて中間層の融解ピーク温度を測定した。装置としては島津製作所製「DSC-60 Plus」を用いた。測定条件としては、昇温速度を10℃/分、温度測定範囲を100~350℃とし、サンプルパンとしてアルミニウムパンを使用した。なお、ピークが最大のものを融解ピークとした。
(軟化点の測定)
プローブの変位量測定を用いて、軟化点を測定した。まず、図14の概念図に示すように、積層フィルムの端部の熱溶着性樹脂層1,2の表面上の位置(例えば、図15の積層フィルム10における熱溶着性樹脂層1であれば、Pの位置をいう。以下熱溶着性樹脂層1を代表させて説明する。)にプローブ90を設置した(図14の測定開始A)。このときの端部は、積層フィルムの中心部を通るように厚さ方向に切断して得られた、熱溶着性樹脂層1の断面が露出した部分である。切断は、市販品の回転式ミクロトームなどを用いて行った。加熱機構付きのカンチレバーから構成されたナノサーマル顕微鏡を備える原子間力顕微鏡、例えば、ANASIS INSTRUMENTS社製のafm plusシステムを用い、プローブとしてはANASYS INSTRUMENTS社製を使用した。プローブの先端半径は30nm以下、プローブのディフレクション(Deflection)の設定値は-4V、昇温速度5℃/分とした。次に、この状態でプローブを加熱すると、プローブ90からの熱により、図14のBのように熱溶着性樹脂層1の表面が膨張して、プローブ90が押し上げられ、プローブ90の位置が初期値(プローブ90の温度が40℃である時の位置)よりも上昇した。さらに加熱温度が上昇すると、熱溶着性樹脂層1が軟化し、図14のCのように、プローブ90が熱溶着性樹脂層1に突き刺さり、プローブ90の位置が下がった。なお、プローブ90の変位量測定においては、測定対象となる積層フィルムは室温(25℃)環境にあり、40℃に加熱されたプローブ90を熱溶着性樹脂層1の表面に設置して、測定を開始した。熱溶着性樹脂層1の軟化点は、プローブの変位量測定において、プローブ90のディフレクションが最大となった時の温度である。熱溶着性樹脂層1の軟化点の測定においては、測定対象とする熱溶着性樹脂層1の5つのサンプルについて、プローブ90のディフレクションが最大となった時の温度を読み取り、5つの温度の最大値と最小値を除いた3つの温度の平均値を、軟化点とした。
(引張弾性率の測定)
後述の積層フィルム(熱溶着性フィルム)についての引張弾性率の測定と同様にして、中間層の引張弾性率を測定した。
(熱収縮率の測定)
中間層がフィルムである場合、MDとTDとの二方向について、JIS K 7133:1999の規定に準拠し、試験温度200℃、加熱時間10分間の条件で熱収縮率を測定した。中間層が繊維である場合、MD(不織布ロールの長手方向)とTD(不織布ロールの長手方向に直交する方向)との二方向について、JIS K 7133:1999の規定に準拠し、試験温度200℃、加熱時間10分間の条件で熱収縮率を測定した。
(表面粗さの測定)
各部材の表面粗さRaは、接触式粗さ計である東京精密社製サーフコムNEXを用いて、JIS B0601:2013に準拠した算術平均粗さとして測定した。
(繊維露出度の測定)
繊維強化プラスチック部材の繊維露出度は、表面の顕微鏡観察によって、繊維の露出部分が占める面積比率を算出することによって測定した。
<積層フィルム(熱溶着性フィルム)の製造及び各物性の測定>
(実施例1)
中間層としてのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム(引張弾性率6000MPa、融解ピーク温度262℃、熱収縮率TD1.3%,MD1.1%、厚さ12μm)の一方の面に、熱溶着性樹脂として無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(酸変性度0.09重量%、MFR8g/10分、軟化点140℃)を、Tダイ押出機で厚さ44μmに押出し塗布し、第1熱溶着性樹脂層(PPa)を形成した。次に、中間層の他方の面に、同じ無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を、Tダイ押出機で厚さ44μmに押出し塗布し、第2熱溶着性樹脂層(PPa)を形成し、第1熱溶着性樹脂層(PPa、厚さ44μm)/中間層(PEN、厚さ12μm)/第2熱溶着性樹脂層(PPa、厚さ44μm)がこの順に積層された積層フィルムを熱溶着性フィルムとして得た。
(実施例2)
中間層として、溶融異方性全芳香族ポリエステル(ポリアリレート(PAR))不織布(引張弾性率3000MPa、融解ピーク温度250℃、熱収縮率TD0.0%,MD0.0%、目付け9g/m2、厚さ40μm)を用い、熱溶着性樹脂として無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(酸変性度0.09重量%、MFR9g/10分、軟化点140℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、第1熱溶着性樹脂層(PPa、厚さ20μm)/中間層(PAR、厚さ40μm)/第2熱溶着性樹脂層(PPa、厚さ20μm)がこの順に積層された積層フィルムを熱溶着性フィルムとして得た。
(比較例1)
無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂フィルム(PPa、酸変性度0.09重量%、MFR8g/10分、軟化点140℃、引張弾性率1000MPa、熱収縮率TD3.6%,MD79.1%、厚さ100μm)を熱溶着性フィルムとした。
(比較例2)
中間層として、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP、引張弾性率1400MPa、融解ピーク温度290℃、熱収縮率TD3.0%、MD81.0%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、第1熱溶着性樹脂層(PPa、厚さ30μm)/中間層(CPP、厚さ40μm)/第2熱溶着性樹脂層(PPa、厚さ30μm)がこの順に積層された積層フィルムを熱溶着性フィルムとして得た。
(引張弾性率の測定)
JIS K7161:2014規定に準拠した方法において、フィルムをMDが長辺になるように幅25mm、長さ120mmに切り出した試験片(長方形)を、25℃の温度環境にて、引張圧縮試験機(オリエンテック(株)製テンシロンRTC-1250A)を用い、引張速度200mm/分、チャック間距離100mmの条件で測定して得られた引張応力-ひずみ曲線の初めの直線部分から、次の式に従って算出した。
E=Δρ/Δε
E:引張弾性率
Δρ:直線上の2点間の元平均断面積による応力差
Δε:同じ2点間のひずみ差
(熱収縮率の測定)
JIS K 7133:1999の規定に準拠した方法において、試験温度200℃、加熱時間10秒間の条件で、上記で得られた各熱溶着性フィルムの熱収縮率を測定した。結果を表1に示す。
<成形体の各物性の測定>
以下に記載する条件で表1に記載の第1部材及び第2部材を用いた試験サンプル及び成形体を作成し、シール強度、剪断強度、及び剥離強度を測定した。なお、表1において、第1部材のALはアルミニウム(JIS H 4000:2014のA1100)を示し、第2部材の繊維強化プラスチックは、エポキシ樹脂が炭素繊維に含浸された繊維強化プラスチックの硬化後のものを示す。
(シール強度の測定)
上記で得られた各熱溶着性フィルムのそれぞれの面と、表1に記載の第1部材及び第2部材とのシール強度(N/15mm)を測定した。より具体的には、まず、各熱溶着性フィルムを長さ方向(y方向)50mm×幅方向(x方向)25mmのサイズに切り出した。次に、たとえば熱溶着性フィルムとして実施例の熱溶着性フィルムのシール強度を測定する場合、図6に示されるように、実施例の各積層フィルム10(熱溶着性フィルム)の第1熱溶着性樹脂層または第2熱溶着性樹脂層と、各部材50とを、7mmの奥行(y方向)でヒートシール(ヒートシール条件:温度190℃、面圧1MPa、加圧時間5秒)して試験サンプルを得た。図6の模式図において、破線で囲まれた領域Sが、ヒートシールされた領域を示している。なお、ヒートシールする領域以外の部分には、離型シートを挟み、7mmの奥行でヒートシールされるようにした。次に、幅方向(x方向)15mmでのシール強度(N/15mm)が測定できるように、試験サンプルを図6(a)に示されるように15mm幅に裁断した。次に、引張試験機を用いて、図6(b)に示されるように、固定された部材50から、長さ方向(y方向)に積層フィルム10を剥離した。このとき、剥離速度は300mm/分とし、剥離されるまでの最大荷重をシール強度(N/15mm)とした。なお、試験サンプルの作製における部材としては、樹脂部材については厚さ4mm、繊維強化プラスチック部材については厚さ4mm、金属部材については厚さ0.5mmのものを用いた。各シール強度は、それぞれ、同様にして3つの試験サンプルを作製して測定された平均値(n=3)である。結果を表1に示す。
(剥離強度の測定)
表1に記載の第1部材、熱溶着性フィルム、及び第2部材で構成される積層体における、第1部材と第2部材との間との剥離強度(N/25mm)を測定した。より具体的には、まず、各熱溶着性フィルムを長さ方向160mm×幅方向25mmのサイズに切り出した。第1部材70を長さ方向250mm×幅方向25mmのサイズに、第2部材80を長さ方向200mm×幅方向25mmのサイズに切り出した。次に、また、図16(i)に示すように、各積層フィルム10(熱溶着性フィルム)と、第1部材70及び第2部材80とを長手方向を揃えて重ね、長さ方向160mm×幅方向25mmの領域をヒートシール(ヒートシール条件:温度190℃、面圧1MPa、加圧時間30秒)して試験サンプルを得た。次に、試験サンプルを、第2部材80側で剥離試験治具に固定し、引張試験機を用いて、図16(ii)に示すように、第1部材70を剥離した。このとき、剥離速度は100mm/分とし、剥離開始場所から剥離長さ25mmまでの箇所を省いた箇所における平均荷重を剥離強度(N/25mm)とした。なお、試験サンプルの作製における部材としては、樹脂部材については厚さ4mm、繊維強化プラスチック部材については厚さ4mm、金属部材については厚さ0.5mmのものを用いた。各剥離強度は、それぞれ、同様にして3つの試験サンプルを作製して測定された平均値(n=3)である。結果を表1に示す。
(剪断強度の測定)
実施例及び比較例の熱溶着性フィルムを用いて、以下の条件により、第1部材と第2部材とを熱溶着させて得られた成形体の剪断強度(MPa)を測定した。剪断強度の測定は、ISO19095-2及びISO19095-3の規定に準拠した方法で測定した。試験サンプルの作製における第1部材及び第2部材のサイズは、それぞれ、長さ45mm×幅10mmであり、且つ、厚みは、樹脂部材については3mm、繊維強化プラスチック部材については3mm、金属部材については1.5mmとした。また、各熱溶着性フィルムは、長さ5mm×幅10mmとした。たとえば実施例の積層フィルム(熱溶着性フィルム)の剪断強度を測定する場合、図13に示されるように、第1部材70と第2部材80の長さ方向の端部において、第1部材70と第2部材80の間に、積層フィルム10を配置して、温度190℃、面圧1.5MPa、20秒間の条件で、第1部材70と第2部材80とを積層フィルム10を介して熱溶着させて成形体を得た。また、積層フィルム10の両面全体がヒートシールされるように配置した(すなわち、ヒートシール面積は、片面が長さ5mm×幅10mm)。なお、図13には図示していないが、第1部材70と第2部材80とが互いに平行な状態で接合されたものについて測定を行うために、第1部材70及び第2部材80は、それぞれ、補整部材を用いて高さを調整して接合した。第1部材70の高さを調整する補整部材は、第1部材70と同じ材質、形状の部材を用い、第2部材80の高さを調整する補整部材は、第2部材80と同じ材質、形状の部材を用いた。次に、引張試験機を用いて、成形体を長さ方向に引張り(引張り速度は、10mm/分)、成形体の層間剥離または破断が生じるまでの最大荷重(N)を測定し、これをヒートシール面積(長さ5mm×幅10mm)で除して、剪断強度(MPa)を算出した。結果を表1に示す。
(結果1)
表1の結果が示すように、引張弾性率が1500MPaを下回る熱溶着性フィルム(比較例1、2)は、部材の接合後における剪断強度が10MPaを下回っているため、接合面に平行な剪断応力を受けやすい1mm以上の部材を接合して成形体を得る用途には適さないものであった。これに対し、引張弾性率が1500MPa以上である熱溶着用の積層フィルム(実施例1、2)は、部材の接合後において10MPa以上という非常に優れた剪断強度が達成された。したがって、実施例1、2の積層フィルムは、接合面に平行な剪断応力を受けやすい1mm以上の部材を接合して成形体を得る用途に有用であることが示された。
(実施例3)
熱溶着性樹脂として未延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(酸変性度0重量%、MFR3.6g/10分、軟化点155℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、第1熱溶着性樹脂層(CPP、厚さ44μm)/中間層(PEN、厚さ12μm)/第2熱溶着性樹脂層(CPP、厚さ44μm)がこの順に積層された積層フィルムを熱溶着性フィルムとして得た。この積層フィルムの引張弾性率及び熱収縮率を上述と同様に測定した結果、引張弾性率は6300MPa、熱収縮率は、TD:2.1%、MD:2.6%であった。この積層フィルムについて、ポリエチレンテレフタレート(PET)との間のシール強度を上述と同様に測定した結果、シール強度は20N/15mmであった。この積層フィルムを用いて、厚み1.5mmのポリエチレンテレフタレート(PET)板2枚を熱溶着によって接合した。
(比較例3)
100μmの未延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(酸変性度0重量%、MFR3.6g/10分、軟化点155℃)を熱溶着性フィルムとして用意した。この熱溶着性フィルムの引張弾性率及び熱収縮率を上述と同様に測定した結果、引張弾性率は1400MPa、熱収縮率は、TD:3.0%、MD:81.0%であった。この熱溶着性フィルムについて、ポリエチレンテレフタレート(PET)との間のシール強度を上述と同様に測定した結果、シール強度は20N/15mmであった。この熱溶着性フィルムを用いて、厚み1.5mmのポリエチレンテレフタレート(PET)板2枚を熱溶着によって接合した。
(結果2)
実施例3と比較例3とついても、実施例1及び比較例1との関係と同様に、引張弾性率が1500MPaを下回る熱溶着性フィルム(比較例3)に対し、引張弾性率が1500MPa以上である熱溶着用の積層フィルム(実施例3)は、部材接合後の剪断強度に非常に優れていた。