特許法第30条第2項適用 発行日:平成30年3月5日 刊行物:第65回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集,18a-C302-10,公益社団法人応用物理学会 [刊行物等] 開催日:平成30年3月18日 集会名、開催場所:第65回応用物理学会春季学術講演会、早稲田大学・西早稲田キャンパス [刊行物等] ウェブサイトの掲載日:平成30年7月9日 ウェブサイトのアドレス:http://iopscience.iop.org/article/10.7567/JJAP.57.086502/meta
本発明の実施形態による窒化ガリウム(GaN)材料100について説明する。また、GaN材料100に対する陽極酸化を用いたエッチング(光電気化学(PEC)エッチングともいう)について説明する。PECエッチングは、GaN材料100を加工する方法として用いることができ、また、GaN材料100の特性を評価する方法として用いることができる。
<第1実施形態>
まず、第1実施形態について説明する。第1実施形態では、GaN材料100として、GaN基板10(基板10ともいう)を例示する。図1(a)~1(g)は、ボイド形成剥離(VAS)法を用いて基板10を製造する工程を示す概略断面図である。まず、図1(a)に示すように、下地基板1を用意する。下地基板1として、サファイア基板が例示される。
次に、図1(b)に示すように、下地基板1上に下地層2を形成する。下地層2は、例えば、低温成長されたGaNで構成されたバッファ層と、GaNの単結晶層と、の積層で構成される。バッファ層および単結晶層は、例えば有機金属気相成長(MOVPE)により形成される。ガリウム(Ga)原料として例えばトリメチルガリウム(TMG)が用いられ、窒素(N)原料として例えばアンモニア(NH3)が用いられる。バッファ層の厚さ、単結晶層の厚さは、それぞれ、例えば20nm、0.5μmである。
次に、図1(c)に示すように、下地層2上に金属層3を形成する。金属層3は、例えば、チタン(Ti)を厚さ20nm蒸着することで形成される。
次に、図1(d)に示すように、熱処理により、金属層3を窒化してナノマスク3aを形成するとともに、下地層2にボイドを形成してボイド含有層2aを形成する。当該熱処理は、例えば以下のように行われる。下地層2および金属層3が形成された下地基板1を、電気炉内に投入し、ヒータを有するサセプタ上に載置する。そして、下地基板1を、水素ガス(H2ガス)または水素化物ガスを含む雰囲気中で加熱する。具体的には、例えば、窒化剤ガスとして20%のNH3ガスを含有するH2ガス気流中において、所定の温度、例えば850℃以上1,100℃以下の温度で、20分間の熱処理を行う。
当該熱処理により、金属層3が窒化されることで、表面に高密度の微細孔を有するナノマスク3aが形成される。また、ナノマスク3aの微細孔を介して下地層2の一部がエッチングされることで、下地層2中にボイドが生じ、ボイド含有層2aが形成される。このようにして、下地基板1上に形成されたボイド含有層2aおよびナノマスク3aを有するボイド形成基板4が作製される。
当該熱処理は、以下のように行われることが好ましい。当該熱処理は、ボイド含有層2a中に占めるボイドの体積比率である「ボイド化率(体積空隙率)」が、下地基板1上で周方向に均等になるように行われる。具体的には、例えば、下地基板1を載置するサセプタを回転させることで、周方向に均等な熱処理を行う。また例えば、下地基板1の面内でヒータの加熱具合を調節することで、成長基板の温度分布を周方向に均等にする。さらに、当該熱処理は、ボイド含有層2aのボイド化率が、下地基板1の中心側から外周側に向けて径方向に滑らかに増加するように行われる。具体的には、例えば、下地基板1の面内でヒータの加熱具合を調節することで、下地基板1の温度を中心側から外周側に向けて径方向に単調に高くする。
次に、図1(e)に示すように、ボイド形成基板4のナノマスク3a上に、結晶体6を成長させる。結晶体6は、気相法、具体的にはハイドライド気相成長(HVPE)法により成長させる。ここで、HVPE装置200について説明する。図2は、HVPE装置200を例示する概略構成図である。
HVPE装置200は、石英等の耐熱性材料からなり、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、処理対象であるボイド形成基板4を保持するサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、回転自在に構成されている。気密容器203の一端には、成膜室201内へ塩酸(HCl)ガス、NH3ガス、窒素ガス(N2ガス)を供給するガス供給管232a~232cが接続されている。ガス供給管232cには水素(H2)ガスを供給するガス供給管232dが接続されている。ガス供給管232a~232dには、上流側から順に、流量制御器241a~241d、バルブ243a~243dがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成された塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に保持されたボイド形成基板4に向けて供給するノズル249aが接続されている。ガス供給管232b、232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に保持されたボイド形成基板4に向けて供給するノズル249b、249cがそれぞれ接続されている。気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230にはポンプ231が設けられている。気密容器203の外周にはガス生成器233a内やサセプタ208上に保持されたボイド形成基板4を所望の温度に加熱するゾーンヒータ207が、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ209が、それぞれ設けられている。HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
結晶体6の成長処理は、HVPE装置200を用い、例えば以下の処理手順で実施することができる。まず、ガス生成器233a内に原料としてGaを収容する。また、サセプタ208上にボイド形成基板4を保持する。そして、成膜室201内の加熱および排気を実施しながら、成膜室201内へH2ガスとN2ガスとの混合ガスを供給する。そして、成膜室201内が所望の成膜温度、成膜圧力に到達し、また、成膜室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからガス供給を行うことにより、ボイド形成基板4に対し、成膜ガスとしてGaClガスとNH3ガスとを供給する。
結晶体6の成長処理の処理条件としては、以下が例示される。
成長温度Tg:980~1,100℃、好ましくは1,050~1,100℃
成膜室201内の圧力:90~105kPa、好ましくは90~95kPa
GaClガスの分圧:1.5~15kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:4~20
N2ガスの分圧/H2ガスの分圧:1~20
当該成長処理において、ボイド含有層2aを起点として成長を開始したGaN結晶が、ナノマスク3aの微細孔を通って表面に現れることで、ナノマスク3a上に初期核が形成される。初期核が、厚さ方向(縦方向)および面内方向(横方向)に成長し、面内で互いに結合することで、GaN単結晶からなる連続膜の結晶体6が形成される。初期核が形成されなかった領域では、ナノマスク3aと結晶体6との間に、ボイド含有層2aのボイドを起因とする空隙5が形成される。ボイド含有層2aのボイド化率を上述のように制御したことで、空隙5は、周方向に均等に、また、径方向中心側から外側に向けて大きくなるように形成される。
当該成長処理では、ボイド形成基板4上に結晶体6を成長させることで、例えばストライプマスクを用いたELO(Epitaxially Lateral Overgrowth)のような、初期核の発生密度を不均一に分布させることで局所的に転位密度が非常に高い(例えば1×107/cm2以上である)転位集中領域を生じさせる方法と比べて、初期核の発生密度の分布を均一にできる。このため、面内における最大の転位密度を低く(例えば1×107/cm2未満に)抑制できる。
さらに、当該成長処理では、ボイド化率の低い径方向中心側ほど、ボイド含有層2aから成長したGaN結晶が、ナノマスク3aの微細孔を通って表面に現れやすいため、初期核が早い時期に形成されやすい。換言すると、ボイド化率の高い径方向外側ほど、ボイド含有層2aから成長したGaN結晶が、ナノマスク3aの微細孔を通って表面に現われにくいため、初期核が遅い時期に形成されやすい。これに伴い、初期核の成長と結合を、径方向中心側から外側に向かってだんだんと進行させることができるため、各初期核を大きく成長させやすい。また、このような初期核の成長と結合は、周方向に均等に進行させることができる。この結果、結晶体6における面内均一性等の結晶品質を、より高めることができる。
成長させる結晶体6の厚さは、結晶体6から少なくとも1枚の自立した基板10が得られる厚さ、例えば0.2mm以上の厚さであることが好ましい。成長させる結晶体6の厚さの上限は、特に制限されない。
次に、図1(f)に示すように、結晶体6をボイド形成基板4から剥離させる。この剥離は、結晶体6の成長中において、あるいは、結晶体6の成長後に成膜室201内を冷却する過程において、結晶体6がナノマスク3aとの間に形成された空隙5を境にボイド形成基板4から自然に剥離することで行われる。
結晶体6が成長する際に結合した初期核間に、互いに引き合う力が働くことで、結晶体6には引張応力が導入されている。当該引張応力に起因して、剥離した結晶体6は、成長側表面が凹むように反る。これにより、剥離した結晶体6を構成するGaN単結晶のc面は、結晶体6の主面6sの中心の法線方向に垂直な仮想面に対して、凹の球面状に湾曲する。ここで「球面状」とは、球面近似される曲面状のことを意味している。また、ここでいう「球面近似」とは、真円球面または楕円球面に対して所定の誤差の範囲内で近似されることを意味している。
空隙5が、周方向に均等で、径方向中心側から外側に向けて大きくなるように形成されていることにより、結晶体6を、ボイド形成基板4の外周側から中心側に向けて、かつ、周方向に均等に剥離させることができる。これにより、結晶体6の反り形状に合った自然な剥離を行うことができるため、剥離に起因する不要な応力の発生を抑制できる。以上のように、本製造方法では、ボイド化率を上述のように制御しつつVAS法により結晶成長を行うことで、面内均一性等の結晶品質がより高められた結晶体6を得ることができる。
所定厚さの結晶体6を成長させた後、成長処理に用いた各種ガスの供給を停止し、成膜室201内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させる。成膜室201内を搬出作業が可能な温度にまで低下させた後、成膜室201内からボイド形成基板4および結晶体6を搬出する。
次に、図1(g)に示すように、結晶体6に、機械加工(例えばワイヤーソーによる切断)および研磨を適宜施すことで、結晶体6から1枚または複数枚の基板10を得る。図1(g)に例示する基板10の主面10sに対して最も近い低指数の結晶面はc面である。
以上のようにして、基板10が製造される。基板10は、最大の転位密度が1×107/cm2未満に抑制されている(転位密度が1×107/cm2以上の領域を有しない)ことに加え、高い面内均一性を有する。基板10の転位密度が抑制されていることは、具体的には例えば以下のような条件で表される。基板10の主面10s内で、カソードルミネッセンス(CL)法により、3mm角の測定領域中で、1箇所当たり直径500μmの大きさの観察領域を走査して、10箇所程度の測定を行う。このとき、最大の転位密度は、1×107/cm2未満、好ましくは例えば5×106/cm2以下である。平均的な転位密度は、好ましくは例えば3×106/cm2以下である。最小の転位密度は、特に制限されない。最小の転位密度に対する最大の転位密度の比は、最小の転位密度が低いほど大きくなり得るが、目安としては、例えば100倍以下、また例えば10倍以下である。
本願発明者は、第1実施形態によるGaN材料100である基板10は、PECエッチングによって内面の平坦性が高い凹部を形成する加工に好適な材料であるとの知見を得た。PECエッチング、および、形成される凹部の内面の平坦性については、詳細を後に説明する。PECエッチングにより凹部が形成される面(被エッチング面ともいう)として、例えば主面10sが用いられる。
基板10には、不純物が添加されてもよい。不純物が添加される場合、図2に示すHVPE装置200に、当該不純物を含有するガスを供給するためのガス供給管等が追加されてよい。不純物は、例えば、基板10に導電性を付与するための不純物であり、例えばn型不純物である。n型不純物としては、例えば、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)が用いられる。例えばSiが添加される場合、Si原料としては例えばジクロロシラン(SiH2Cl2)が用いられる。不純物は、また例えば、基板10に半絶縁性を付与するための不純物であってよい。
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、併せて第1実験例についても説明する。第2実施形態では、図3に示すように、GaN材料100として、基板10と、基板10上にエピタキシャル成長されたGaN層20(エピ層20ともいう)と、を有する積層体30(エピ基板30ともいう)を例示する。基板10として、第1実施形態で説明した基板10が好ましく用いられる。
第2実施形態は、基板10およびエピ層20に、それぞれ、n型不純物が添加されている場合を例示する。基板10およびエピ層20の構造は、特に制限されないが、例えば以下が例示される。基板10には、n型不純物として、例えば、Siが1×1018/cm3以上1×1019/cm3以下の濃度で添加されている。エピ層20には、例えば、Siが3×1015/cm3以上5×1016/cm3以下の濃度で添加されている。エピ基板30を半導体装置の材料として用いる際、基板10は電極とのコンタクト層、エピ層20はドリフト層としての使用が想定され、エピ層20には、耐圧向上の観点から、基板10よりも低濃度のn型不純物が添加されているとよい。基板10の厚さは、特に制限されないが、例えば400μmである。エピ層20の厚さは、例えば、10μm以上30μm以下である。エピ層20は、n型不純物濃度が異なる複数のGaN層の積層で構成されていてもよい。
エピ層20は、基板10の主面10s上に、例えばMOVPEにより成長される。Ga原料としては例えばTMGが用いられ、N原料としては例えばNH3が用いられ、Si原料としては例えばモノシラン(SiH4)が用いられる。エピ層20は、基板10の結晶性を引き継いで成長するので、基板10と同様に、最大の転位密度が1×107/cm2未満に抑制されていることに加え、高い面内均一性を有する。
本願発明者は、第2実施形態によるGaN材料100であるエピ基板30は、以下の第1実験例で詳細を説明するように、PECエッチングによって内面の平坦性が高い凹部を形成する加工に好適な材料であるとの知見を得た。
ここで、第1実験例に沿って、PECエッチング、および、PECエッチングによって形成される凹部の内面の平坦性について説明する。図4は、PECエッチングに用いられる電気化学セル300を例示する概略構成図である。容器310に、電解液320が収容されている。電解液320としては、例えば、界面活性剤としてSigma Chemical製、Triton (登録商標)X-100が1%添加された0.01Mの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液が用いられる。
カソード電極330として、例えばプラチナ(Pt)コイルが用いられる。カソード電極330は、電解液320中に配置されている。アノード電極340として、GaN材料100が用いられる。容器310は開口311を有しており、シーリングリング312が、開口311を取り囲み容器310とGaN材料100との間に介在するように、配置されている。シーリングリング312の、容器310と反対側の開口313が、GaN材料100により塞がれるように、GaN材料100が配置されている。これにより、GaN材料100は、シーリングリング312の穴内に充填された電解液320と接触する。GaN材料100(アノード電極340)には、電解液320と接触しないように、オーミック接触プローブ341が取り付けられている。
カソード電極330と、アノード電極340に取り付けられたオーミック接触プローブ341との間は、配線350により接続される。配線350の途中に、電圧源360が挿入されている。電圧源360は、カソード電極330とアノード電極340との間に、所定のタイミングで所定のエッチング電圧を印加する。
容器310の外部に光源370が配置されている。光源370は、所定のタイミングで所定の照射強度の紫外(UV)光371を放出する。光源370としては、例えば水銀キセノン(Hg-Xe)ランプ(例えば、浜松ホトニクス(株)製、LIGHTNINGCURE(登録商標) L9566-03)が用いられる。容器310に、UV光371を透過させる窓314が設けられている。光源370から放射されたUV光371が、窓314、電解液320、容器310の開口311、および、シーリングリング312の開口313を介して、GaN材料100(アノード電極340)に照射される。容器310に、ポンプ380が取り付けられている。ポンプ380は、所定のタイミングで、容器310内の電解液320を攪拌する。
アノード電極340にUV光371が照射されることで、アノード電極340およびカソード電極330では、それぞれ以下の反応が進行する。アノード電極340では、UV光371の照射で発生したホールによりGaNがGa
3+とN
2とに分解され(化1)、さらにGa
3+がOH
-基によって酸化されることで(化2)、酸化ガリウム(Ga
2O
3)が生成する。生成されたGa
2O
3が、電解液320であるNaOH水溶液により溶解されることで、アノード電極340が、つまりGaN材料100が、エッチングされる。このようにして、PECエッチングが行われる。
(アノード反応)
(カソード反応)
第1実験例において具体的には、アノード電極340となるGaN材料100として、エピ基板30を用いた。より詳細には、エピ基板30のエピ層20側を電解液320と接触させた状態でエピ層20にUV光371を照射することにより、エピ層20を陽極酸化させてエッチングした。つまり、被エッチング面としてエピ層20の主面20sを用いた。
第1実験例では、基板10として、Si濃度が1~2×1018/cm3のGaN基板を用いた。基板10上に、Si濃度が2×1018/cm3で厚さ2μmのGaN層と、Si濃度が9×1015/cm3で厚さ13μmのGaN層とをMOVPEで成長させることで、エピ層20を形成した。エピ基板30の全体のサイズは、直径2インチ(5.08cm)とし、エピ層20が電解液320と接触してエッチングされる領域のサイズ、つまりシーリングリング312の穴の開口313のサイズは、直径3.5mmとした。
被エッチング面における照射強度は9mW/cm2とした。UV光照射およびエッチング電圧印加を同時に13秒間行った後、UV光照射およびエッチング電圧印加を9秒間停止するように、UV光照射およびエッチング電圧印加を、間欠的に繰り返した。つまり、パルス陽極酸化を行った。エッチング電圧を0V、1V、2Vおよび3Vと変化させることで、PECエッチングによって形成される凹部の底面の平坦性がどのように変化するか調べた。以下、図5~13を参照して、第1実験例の結果について説明する。
なお、各種材料に対してPECエッチングを行う市販の装置においては、エッチング電圧として3V超の高い電圧が設定されることが通常である。本実験例は、3V以下の低いエッチング電圧範囲を対象としている点で、特徴的である。
図5は、PECエッチングのシーケンスを示すタイミングチャートである。上述のように、UV光照射(Lumpと示す)およびエッチング電圧印加(Vetchと示す)を同時に13秒間行った後、UV光照射およびエッチング電圧印加を9秒間停止するように、UV光照射およびエッチング電圧印加を、間欠的に繰り返す。UV光照射およびエッチング電圧印加が停止されている期間に、より詳しくは当該期間の前半の5秒間に、ポンプ380により電解液320を攪拌する(Pumpと示す)。
図5の下部に、エッチング電圧が0V、1V、2Vおよび3Vの場合のエッチング電流を示す。どのエッチング電圧においても、UV光の照射期間には、エッチング電流が流れ、UV光の停止期間には、エッチング電流が流れない。UV光の照射期間において、エッチング電圧が0Vであっても、上述のアノード反応に従ってOH-基がアノード電極340に到達することで、エッチング電流が流れる。エッチング電圧が増加するほど、アノード電極340にOH-基を引き付ける駆動力が増すため、エッチング電流が増加する。
図6は、陽極酸化により消費された単位面積当たりの電荷量と、エッチング深さとの関係を示すグラフである。エッチング電圧が0Vの結果を四角のプロットで示し、エッチング電圧が1Vの結果を三角のプロットで示し、エッチング電圧が2Vの結果を菱形のプロットで示し、エッチング電圧が3Vの結果を円形のプロットで示す。このようなプロットの仕方は、後述の図7でも同様である。
エッチング深さは、段差計(Sloan,Dettak
3 ST)により測定した。エッチング深さは、消費された電荷量に対して線形に変化していることがわかる。エッチング深さW
rは、ファラデーの法則により、
と表される。ここで、MはGaNの分子量、zはGaN1mol当たりの陽極酸化に必要な価数、Fはファラデー定数、ρはGaNの密度、Jはエッチング電流密度である。式(1)より、1molのGaNを陽極酸化するために必要なホールは、z=5.3~6.8molである。Ga
2O
3生成(化1および化2)のみであれば、z=3molとなる。そのため、この結果は、アノード電極340において、Ga
2O
3生成に加え酸素ガス生成も起こり、ホールが消費されていることを示している。
図7は、エッチング深さと、形成された凹部の底面における算術平均線粗さRa(本明細書において、これを単に「線粗さRa」と称することがある)との関係を示すグラフである。線粗さRaは、触針式段差計(Sloan,Dettak3ST)により測定した。触針式段差計による測定において、線粗さRaは、評価長さ500μmのうち、基準長さを100μmとして算出した。つまり、線粗さRaを求めるための測定長さは、100μmとした。図7において、代表的にエッチング電圧1Vの結果が拡大して示されており、エッチング電圧0V、2Vおよび3Vの結果が、エッチング電圧1Vの結果と併せて、右下部に縮小して示されている。
エッチング深さが0μm以上10μm以下の範囲において、いずれの深さにおいても、エッチング電圧1Vの線粗さRaが、顕著に小さいことがわかる。例えば、エッチング深さ10μmにおいて、エッチング電圧2Vの線粗さRaが150nm程度であるのに対し、エッチング電圧1Vの線粗さRaは8nm程度であり、10nm以下と非常に小さい。つまり、エッチング電圧1Vにおいて、形成された凹部の底面の平坦性が顕著に高いことがわかる。なお、凹部が深いほど、底面の平坦性が低下する傾向が観察される。
図8は、エッチング深さ2μmの場合の、エッチング電圧と、線粗さRaとの関係を示すグラフ(図7のエッチング深さ2μmの結果をプロットし直したもの)である。図9は、図8のエッチング電圧1Vの近傍を拡大したグラフである。
線粗さRaは、エッチング電圧0V、1V、2Vおよび3Vにおいて、それぞれ、17nm、3.5nm、40nmおよび70nmである。エッチング電圧1Vでは、線粗さRaが5nm以下の非常に平坦な底面が得られている。この結果から、線粗さRaが例えば15nm以下となるエッチング電圧は、0.16V以上1.30V以下の範囲の電圧と見積もられ、線粗さRaが例えば10nm以下となるエッチング電圧は、0.52V以上1.15V以下の範囲の電圧と見積もられる。
図10(a)~10(c)は、それぞれ、エッチング電圧3V、2Vおよび1Vの場合に形成された凹部の底面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。図10(d)は、エッチングなしの場合の表面のSEM像である。エッチング電圧1Vにおいて、凹部の底面の平坦性が高いことがわかる。
図11(a)~11(d)は、それぞれ、エッチング電圧3V、2V、1Vおよび0Vの場合に形成された凹部の底面の光学顕微鏡像である。各像の左部に示された円形状の領域が、エッチングされた領域すなわち凹部を示す。エッチング電圧1Vにおいて、例えば500μm角以上の、また例えば1mm角以上の広い領域に亘って、凹部の底面の平坦性が高いことがわかる。
図12(a)~12(d)は、それぞれ、エッチング電圧3V、2V、1Vおよび0Vの場合に形成された凹部の底面の原子間力顕微鏡(AFM)像である。エッチング電圧1Vにおいて、凹部の底面の平坦性が高いことがわかる。エッチング電圧1Vにおいて、凹部の底面の5μm角の測定領域(評価領域)に対してAFMにより測定された算術平均面粗さRaは、2.6nmである。なお、エッチング電圧0Vでは、比較的平坦性の高い領域と比較的平坦性の低い領域とが混在するムラが観察される。これは、エッチング電圧が印加されないことで、OH-基の供給されやすさ、つまりGa2O3の生成されやすさが領域によりばらついて、エッチングされやすい領域とエッチングされにくい領域とが生じるためではないかと推測される。
図13は、PECエッチングによりGaN材料のフォトルミネッセンス(PL)特性がどのように変化するかを示すグラフであり、エッチングなしの場合、および、エッチング電圧が0V、1V、2Vおよび3Vの場合の、PL発光スペクトルを示す。PL発光スペクトルのGaNのバンド端(3.4eV程度)におけるピーク強度を、バンド端ピーク強度と呼ぶ。どのエッチング電圧におけるバンド端ピーク強度も、エッチングなしの場合のバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有している。つまり、どのエッチング電圧を用いても、陽極酸化に起因するバンド端ピーク強度の変化率(減少率)は、10%未満である。このように、PECエッチングは、GaN結晶にほとんどダメージを与えずに、GaN材料を加工できる手法であることが示された。
第1実験例の結果は、以下のようにまとめられる。エッチング電圧を0V、1V、2Vおよび3Vと変化させて、PECエッチングによりGaN材料100に凹部を形成する場合、凹部の底面の平坦性は、エッチング電圧1Vで最も高い。エッチング電圧が例えば2Vまたは3Vと過度に高いと、激しいエッチングが生じることで、凹部の底面の平坦性が低くなると推測される。一方、エッチング電圧が0Vと過度に低いと、エッチングされやすい領域とエッチングされにくい領域とが生じることで、凹部の底面の平坦性が低くなると推測される。
エッチング電圧が1V程度であると、適度なエッチングが生じることで、凹部の底面の平坦性が高くなると推測される。具体的には、例えば、形成される凹部の底面の線粗さRaを15nm程度以下とする目安として、エッチング電圧を0.16V以上1.30V以下の範囲の電圧とすることが好ましい。また例えば、形成される凹部の底面の線粗さRaを10nm程度以下とする目安として、エッチング電圧を0.52V以上1.15V以下の範囲の電圧とすることが好ましい。
このように、第1実験例では、1V程度のエッチング電圧で、平坦性の高いPECエッチングを行うことができた。1V程度のエッチング電圧は、PECエッチングに通常用いられる例えば3V超のエッチング電圧と比べて、非常に低い。このような低いエッチング電圧でPECエッチングが行えるためには、まず、被エッチング面内におけるGaN材料100の転位密度が十分に低い(例えば、転位密度が最大でも1×107/cm2未満である、つまり、転位密度が1×107/cm2以上の領域を有しない)ことが好ましいと考えられる。転位密度が過度に高い(例えば1×107/cm2以上である)領域は、UV光照射により発生したホールをトラップすることで、陽極酸化を阻害するからである。さらに、このような低いエッチング電圧で平坦性の高いエッチングを行うためには、陽極酸化のされやすさのばらつきが抑制されるように、被エッチング面内におけるGaN材料100の面内均一性が高いことが好ましい。
このような考察を踏まえると、PECエッチングで形成される凹部の底面の線粗さRaは、GaN材料100の特性(転位密度の低さおよび面内均一性)を評価する指標として用いることができる。第1、第2実施形態によるGaN材料100、つまり基板10およびエピ基板30は、PECエッチングによって内面の平坦性が高い凹部を形成することができるGaN材料として特徴付けられる。具体的には、第1、第2実施形態によるGaN材料100は、UV光を照射しながらエッチング電圧を1Vとして行うPECエッチングにより深さ2μmの凹部を形成すると想定した場合に、当該凹部の底面が、線粗さRaが好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下の平坦な面に形成される程度に、転位密度が低く、面内均一性が高いGaN材料である。
なお、GaN材料100のエッチングなしの表面は、線粗さRaが例えば0.5nmである程度に平坦である。つまり、GaN材料100にPECエッチングにより凹部が形成された部材(GaN部材ともいう)において、凹部の外側の上面であるエッチングなしの表面は、線粗さRaが例えば0.5nmである程度に平坦である。線粗さRaが、上述のように、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下であることは、GaN部材(GaN材料100)の凹部の外側の表面(エッチングなしの表面)での線粗さRaに対して、凹部の底面での線粗さRaが、好ましくは30倍以下、より好ましくは20倍以下、さらに好ましくは10倍以下であることを示す。なお、エッチング深さが2μmよりも浅い凹部の底面は、エッチング深さが2μmの凹部の底面よりも平坦といえる。したがって、このような条件は、エッチング深さ2μmの凹部に限らず、エッチング深さ2μm以下の凹部が形成される場合について、適合する。
なお、上述のようなPECエッチングで形成された凹部の底面は、エッチングに起因するGaN結晶のダメージが少ない。これにより、GaN部材(GaN材料100)について、凹部の底面におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度は、凹部の外側の表面(エッチングなしの表面)におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有する。
ここで述べた評価方法では、「凹部」として、底面のある凹部、つまりGaN材料100を貫通しない構造の形成を想定しているが、PECエッチングで実際の加工を行う際には、「凹部」として、GaN材料100を貫通する構造を形成してもよい。
第1実験例で明らかにされたエッチング電圧の条件は、第1、第2実施形態によるGaN材料100に対するPECエッチングに限らず、GaN材料の転位密度が十分に低い(例えば1×107/cm2未満である)領域に対するPECエッチングにおいて、凹部内面の平坦性を向上させるための目安として有用と考えられる。つまり、GaN材料の転位密度が例えば1×107/cm2未満である領域に、UV光を照射しながらエッチング電圧を印加して行うPECエッチングで凹部を形成する際に、エッチング電圧を0.16V以上1.30V以下の範囲とすることが好ましく、エッチング電圧を0.52V以上1.15V以下の範囲とすることがより好ましい。このような目安は、凹部底面の平坦性が損なわれやすい、例えば深さ1μm以上、また例えば深さ2μm以上の深い凹部を形成する場合に、特に有用である。なお、浅い(例えば深さ1μm未満の)凹部を形成する際にも、このような目安は有用であり、このような目安を用いることで、より平坦性の高い凹部底面を形成することができる。エッチング深さが浅いほど、凹部底面の平坦性は高くなるからである。
平坦性を向上させるために、このようなPECエッチングは、UV光の照射およびエッチング電圧の印加を間欠的に繰り返す態様で行われることが好ましい。また、UV光の照射およびエッチング電圧の印加が停止されている期間に、PECエッチングに用いる電解液を攪拌することがより好ましい。
第1実験例では、PECエッチングで形成された凹部の底面の平坦性を評価したが、底面が平坦に形成されることは、エッチング条件が適度であることを意味し、側面も平坦に形成されることを示す。つまり、上述のような条件でPECエッチングを行うことで、形成される凹部の内面の平坦性を向上させることができる。
平坦性が高いエッチング条件において、PECエッチングのエッチングレートは、例えば24.9nm/minである。エッチングレートと所望のエッチング深さとに基づいて、エッチング時間を見積もることができる。なお、平坦性が特に問題とならない場合であれば、PECエッチングの最大のエッチングレートは、例えば175.5nm/minまで速くすることができる。
第1実験例では、被エッチング面におけるUV光の照射強度を9mW/cm2とした。UV光の照射強度のよく用いられる一般的な値として、例えば、マスクアライナにおける照射強度50mW/cm2が挙げられる。第1実験例は、被エッチング面における照射強度が例えば50mW/cm2以下である実施しやすい条件で行われている。
なお、第1実験例では、電解液として濃度0.01MのNaOH水溶液を用いたが、電解液の濃度は適宜調整されてもよい。例えば、濃度を0.01Mより薄く(例えば0.003M程度に)することで、エッチングレートは低下するものの、エッチングの平坦性のさらなる向上が図られる。また例えば、エッチングの適度な平坦性が損なわれない範囲で、濃度を0.01Mより濃く(例えば0.02M以下に)してもよい。
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態では、図14(a)に示すように、GaN材料100として、GaN基板10とエピ層20とを有するエピ基板30を例示する。エピ層20の構造が、第2実施形態と異なり、第3実施形態のエピ層20は、n型不純物が添加されたGaN層21n(エピ層21nともいう)と、p型不純物が添加されたGaN層21p(エピ層21pともいう)とを有する。基板10として、第1実施形態で説明した基板10が好ましく用いられる。
基板10およびエピ層20(エピ層21nおよび21p)の構造は、特に制限されないが、例えば以下が例示される。基板10およびエピ層21nについては、それぞれ、第2実施形態で説明した基板10およびエピ層20と同様な構造が例示される。p型不純物としては、例えばマグネシウム(Mg)が用いられる。エピ層21pは、例えば、Mgが2×1017/cm3以上5×1018/cm3以下の濃度で添加され厚さが300nm以上600nm以下のGaN層と、Mgが1×1020/cm3以上3×1020/cm3以下の濃度で添加され厚さが10nm以上50nm以下のGaN層と、の積層で構成される。
エピ層20(エピ層21nおよび21p)は、基板10の主面10s上に、例えばMOVPEにより成長される。エピ層21nの成長は、第2実施形態で説明したエピ層20の成長と同様である。エピ層21pは、Ga原料として例えばTMG、N原料として例えばNH3、Mg原料として例えばビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CP2Mg)を用いて、成長される。エピ層21nおよび21pは、基板10の結晶性を引き継いで成長するので、基板10と同様に、最大の転位密度が1×107/cm2未満に抑制されていることに加え、高い面内均一性を有する。第3実施形態によるGaN材料100であるエピ基板30は、第1、第2実施形態によるGaN材料100と同様に、PECエッチングによって内面の平坦性が高い凹部を形成する加工に好適な材料である。
図14(b)は、エピ基板30に対するPECエッチングを示す。被エッチング面として、エピ層20の主面20sが用いられる。主面20s内のエッチングされるべき領域22が電解液320と接触するように、エピ基板30を電気化学セル300にセットする。そして、領域22にUV光371を照射しながらエッチング電圧を印加することにより、PECエッチングを行う。本例では、エピ層21pを貫通させエピ層21nを途中の厚さまで掘ることで、凹部40を形成する。凹部40の側面23に、エピ層21pとエピ層21nとで構成されるpn接合23pnが露出する。エッチング電圧を上述のように1V程度とすることで、平坦性の高い側面23上にpn接合23pnを形成することができる。主面20s内の、領域22の外側に配置されたエッチングを行わない領域は、ハードマスク等のマスク41で覆ってエッチングを防止するとよい。凹部40の側面の不要なエッチング(サイドエッチング)を抑制するため、マスク41を遮光性とし、また、UV光371の直進性を高くするとよい。
第3実施形態のように、エピ層20が、p型不純物が添加されたエピ層21pを有する場合、エピ層21pのp型不純物を活性化させる活性化アニールは、以下の理由により、PECエッチングの後に行うことが好ましい。エピ層21pがp型導電層であると、エピ層21p自体がホールを有するため、UV光371の照射なしでもPECエッチングが進行しやすい。これに起因して、エピ層21nとエピ層21pとでエッチングのされやすさがばらつく。また、エピ層21pのサイドエッチングが生じやすくなるので、凹部40の側面23の平坦性が損なわれやすい。したがって、エピ層21pをp型導電層とする前に、つまり、活性化アニールを行う前に、PECエッチングを行うことが、平坦性向上の観点から好ましい。換言すると、活性化アニールは、PECエッチングの後に行うことが好ましく、PECエッチングの際のエピ層21pには、活性化アニールが施されていないことが好ましい。
図14(c)は、活性化アニールを示す。活性化アニールにより、エピ層21nのn型不純物を活性化してエピ層21nをn型導電層とするとともに、エピ層21pのp型不純物を活性化してエピ層21pをp型導電層とする。活性化アニールは、公知の技術を適宜用いて行うことができる。
<第4実施形態>
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、第2実験例に沿って説明する。第4実施形態では、GaN材料100として、GaN基板10とエピ層20とを有するエピ基板30であって、n型不純物が添加されたエピ層21nおよびp型不純物が添加されたエピ層21pを有するエピ層20を備えるエピ基板30を例示する(図14(a)参照)。基板10として、第1実施形態で説明した基板10が好ましく用いられる。
第1実験例で検討した好適なエッチング条件を適用して、第2実験例では、GaN材料100に円筒状凸部を形成するPECエッチングを行った。つまり、円筒状凸部外側のGaNを除去するPECエッチングを行うことで、円筒状凸部を残した。
基板10上に、Si濃度が2×1018/cm3で厚さ2μmのGaN層と、Si濃度が2×1016/cm3で厚さ10μmのGaN層と、をMOVPEで成長させることで、エピ層21nを形成した。エピ層21n上に、Mg濃度が5×1018/cm3で厚さ500nmのGaN層と、Mg濃度が2×1020/cm3で厚さ20nmのGaN層と、をMOVPEで成長させることで、エピ層21pを形成した。エピ層21p上に、厚さ50nmのTi層により、直径90μmの円形状のマスクを形成した。当該マスクを用い、GaN材料100を深さ20μm以上PECエッチングすることで、円筒状凸部を形成した。
本実験例では、エピ層21pの活性化アニール後にPECエッチングを行った。これは、エピ層21pがサイドエッチングされやすい状況において、どの程度のサイドエッチングが生じるか確認するためである。当該活性化アニールは、N2ガス中において850℃で30分間加熱することにより行った。
図15(a)は、円筒状凸部を俯瞰したSEM像である。図15(b)は、円筒状凸部を側方から見たSEM像である。図16は、マスクおよびpn接合部の近傍を拡大して示すSEM像である。これらのSEM像より、本実施形態のPECエッチングにより、マスクに応じた所望の形状を有する構造体を、精密に作製できることがわかる。
深さ20μm以上のエッチングを行ったにも係らず、厚さ50nmのTiマスクはほぼ減少していない。このことから、エッチング選択比は少なくとも400(=20μm/50nm)以上であると見積もられる。また、Tiマスク直下のエピ層21pにおけるサイドエッチング幅は、516nmと見積もられ、1μm以下に抑えることができている。PECエッチングのマスク材料としては、UV光を遮光する材料として例えば金属材料が好ましく用いられ、より具体的にはTi、クロム(Cr)等が好ましく用いられる。PECエッチングが抑制されるマスク材料を用いることで、マスクの厚さを薄くすることができ、マスクの厚さは、例えば、200nm以下であってよい。
円筒状凸部の側面は、おおよそ、円筒状凸部の上面に対して垂直であり、円筒の側面形状の滑らかな曲面に形成されており、周方向に均質である。また、円筒状凸部の外側の底面、つまりPECエッチングで形成された底面は、非常に平坦である。
なお、詳細にみると、当該側面には、円筒状凸部の厚さ(高さ)方向に沿って、つまり、PECエッチングの進行方向に沿って延びる筋状の細かな凹凸が形成されている。このような筋状の凹凸も、周方向に均質であって、特に異方性は見られない。
なお、当該側面は、GaN結晶のc面とおおよそ直交する面である。本願発明者は、GaN結晶のc面と直交する面を、熱燐酸硫酸でエッチングした場合、a面がエッチングされやすく、m面がエッチングされにくいため、m面が露出しやすいという知見を得ている。図23は、a面と、当該a面に直交するm面とで側面が構成された矩形状のGaN材料を熱燐酸硫酸でエッチングした実験結果を示す光学顕微鏡写真である。図23の右方部がa面のエッチング結果を示し、図23の左方上部がm面のエッチング結果を示す。したがって、円筒状凸部の側面が、仮に、熱燐酸硫酸によるエッチングで形成された面であるとすると、側面のうち、a軸方向と直交する部分は、複数のm面がジグザグ状に連なることで平均的にa軸方向と直交するような面で構成され、m軸方向と直交する部分は、単一のm面で平坦に構成されることとなる。つまり、このような側面は、周方向に沿ってみたとき、a軸方向と直交する部分の構造と、m軸方向と直交する部分の構造とが異なる異方性を示し、また、周方向全体として、m面がジグザグ状に連なった粗い(角張った)面となる。本実験例による円筒状凸部の側面は、熱燐酸硫酸によるエッチングで形成される側面と比べて、周方向における異方性が抑制され、粗さが小さい(滑らかな)面である。なお、このような特徴は、円筒形状以外、例えば角柱形状等の凸部の側面についても同様である。
図16からわかるように、pn接合部では、サイドエッチング幅が小さくなっており、pn接合部が外側に張り出した形状が形成されている。これは、pn接合部において、ホールのライフタイムが短く、PECエッチングが生じにくいことを反映している。なお、本実験例は、エピ層21pの活性化アニール後にPECエッチングを行った場合を例示している。エピ層21pの活性化アニール前にPECエッチングを行うことで、エピ層21pにおけるサイドエッチング幅を減少させることができるため、pn接合部の張り出しを抑制することができる。
<第5実施形態>
次に、第5実施形態について説明する。第5実施形態は、第3実験例に沿って説明する。第5実施形態では、GaN材料100として、GaN基板10と、n型不純物が添加されたエピ層20と、を有するエピ基板30を例示する(図3参照)。基板10として、第1実施形態で説明した基板10が好ましく用いられる。第1実験例で検討した好適なエッチング条件を適用して、第3実験例では、GaN材料100に円筒状凹部を形成するPECエッチングを行った。
基板10上に、Si濃度が2×1018/cm3で厚さ2μmのGaN層と、Si濃度が1.5×1016/cm3で厚さ5.8μmのGaN層とをMOVPEで成長させることで、エピ層20を形成した。エピ層20上に、厚さ50nmのTi層により、直径1μm、5μm、10μmおよび20μmの円形開口を有するマスクを形成した。当該マスクを用い、GaN材料100を深さ7.7μmPECエッチングすることで、円筒状凹部を形成した。
図17は、円筒状凹部を俯瞰したSEM像である。PECエッチングで形成された凹部の側面および底面について、第2実験例で説明した凸部と同様の特徴が観察される。つまり、凹部の側面は、おおよそ、凹部外側の上面に対して垂直であり、円筒の側面形状の滑らかな曲面に形成されており、周方向に均質である。また、凹部の底面は、非常に平坦に形成されている。また、詳細にみると、当該側面には、凹部の厚さ(深さ)方向に沿って延びる筋状の細かな凹凸が、周方向に均質に形成されている。また、当該側面は、熱燐酸硫酸によるエッチングで形成される側面と比べて、周方向における異方性が抑制され、粗さが小さい(滑らかな)面である。
図17のSEM像において、直径20μmの凹部の底面内に、離散的に分布する小さな突起部が観察される。当該突起部同士の間の領域は、当該突起部と比べて平坦な面で構成されている。当該凹部の底面は、おおよそc面に沿った面である。本願発明者は、当該突起部の中心に、SEMのカソードルミネッセンス像により、暗点が観察されることを確認している。このことから、当該突起部は転位に対応し、転位においてホールのライフタイムが短くPECエッチングが生じにくいことで、当該突起部が形成されたものと考えられる。なお、第2実験例のように凸部を形成した場合における、凸部の外側の底面は、PECエッチングで形成された底面であるので、同様な特徴を有してよい。
上述のように、本実施形態のPECエッチングは、GaN結晶にほとんどダメージを与えない加工手法であるため(図13参照)、本実施形態のPECエッチングで形成される側面および底面のダメージは抑制される。このため、SEMのカソードルミネッセンス像において、底面に観察される転位に起因する暗点と比べて、底面の当該転位の外側の領域が明るく観察され、当該暗点と比べて、側面が明るく観察される。
また、本実施形態のPECエッチングで形成される側面および底面におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度は、マスクで保護されエッチングされない表面(凹部が形成される場合は当該凹部の外側の上面、または、凸部が形成される場合は当該凸部の上面)におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有する。
<第6実施形態>
次に、第6実施形態について説明する。第6実施形態は、第4実験例に沿って説明する。第6実施形態では、GaN材料100として、GaN基板10と、n型不純物が添加されたエピ層20と、を有するエピ基板30を例示する(図3参照)。基板10として、第1実施形態で説明した基板10が好ましく用いられる。第1実験例で検討した好適なエッチング条件を適用して、第4実験例では、GaN材料100に溝状凹部(トレンチ)を形成するPECエッチングを行った。
エピ層20の構造は、第3実験例(第5実施形態)と同様である。エピ層20上に、厚さ50nmのTi層により、幅1.4μm、2.8μmおよび5.6μmの直線状開口を有するマスクを形成した。当該マスクを用い、GaN材料100を目標値として深さ7.7μmPECエッチングすることでトレンチを形成する実験と、GaN材料100を目標値として深さ33μmPECエッチングすることでトレンチを形成する実験と、を行った。
図18(a)~18(c)は、目標値が深さ7.7μmのトレンチの長さ方向と直交する断面を示すSEM像である。トレンチの長さ方向、つまりマスク開口の長さ方向は、m軸と平行であり、断面は、m面の劈開面である。図18(a)は、マスク開口幅1.4μmのトレンチのSEM像であり、図18(b)は、マスク開口幅2.8μmのトレンチのSEM像であり、図18(c)は、マスク開口幅5.6μmのトレンチのSEM像である。
マスク開口幅1.4μm、2.8μmおよび5.6μmのトレンチの深さの実測値は、それぞれ、7.55μm、7.85μmおよび7.65μmであり、いずれも、目標値7.7μmとほぼ等しい。この結果より、本実験例では、トレンチの深さの目標値が例えば8μm程度であれば、エッチング中に一定のエッチングレートを維持できており、エッチング深さのエッチング時間による制御が容易であることがわかった。
図19(a)~19(c)は、目標値が深さ33μmのトレンチの長さ方向と直交する断面を示すSEM像である。図18(a)~18(c)と同様に、断面は、m面の劈開面である。図19(a)は、マスク開口幅1.4μmのトレンチのSEM像であり、図19(b)は、マスク開口幅2.8μmのトレンチのSEM像であり、図19(c)は、マスク開口幅5.6μmのトレンチのSEM像である。
マスク開口幅5.6μmのトレンチの深さは、32.9μmであり、目標値33μmとほぼ等しい。これに対し、マスク開口幅2.8μmおよび1.4μmのトレンチの深さは、それぞれ28.6μmおよび24.3μmであり、目標値33μmと比べて浅い。トレンチの深さが目標値と比べて浅くなる傾向は、マスク開口幅が狭くなるほど顕著である。これは、トレンチの深さの目標値が例えば30μm程度に深くなると、マスク開口幅が狭くなることに起因する、トレンチ底部近傍にUV光が到達しにくくなる影響が大きくなって、エッチングレートが減少するからと考えられる。なお、UV光の平行性を高めることで、このようなエッチングレート減少の抑制が可能ではないかと考えられる。
図18(a)等のSEM像からわかるように、マスク直下でトレンチ開口の縁が横方向に後退しており、換言すると、トレンチ開口の縁上にマスクが庇状に張り出しており、サイドエッチングが生じている。
図20は、第4実験例で形成されたトレンチのアスペクト比と、エッチング深さとの関係を示すグラフである。トレンチ等の凹部のアスペクト比は、凹部の上端の幅Wに対するエッチング深さ(凹部の深さ)Wrの比(=Wr/W)で定義される。凹部の上端の幅Wは、マスク開口幅Wmaskと、マスク直下における片側のサイドエッチング幅Wside-etchingを2倍した値と、の和(=Wmask+2Wside-etching)で表される。
なお、図20には、マスク開口幅を同様な値としてPECエッチングで形成した他の凹部の結果も示す。第4実験例のトレンチ(図18(a)~図19(c))の結果を、塗りつぶしたプロットで示し、他の凹部の結果を白抜きのプロットで示す。マスク開口幅が1.4μmの場合のアスペクト比とエッチング深さとの関係を表す実測値を、円形のプロットで示す。マスク開口幅が2.8μmの場合のアスペクト比とエッチング深さとの関係を表す実測値を、四角形のプロットで示す。マスク開口幅が5.6μmの場合のアスペクト比とエッチング深さとの関係を表す実測値を、三角形のプロットで示す。マスク開口幅Wmaskが1.4μm、2.8μmおよび5.6μmであって、片側のサイドエッチング幅Wside-etchingを0.7μmと想定した場合の、アスペクト比とエッチング深さWrとの関係を、それぞれ、実線、破線および点線で示す。
第4実験例の目標値が深さ7.7μmのトレンチについて、マスク開口幅が1.4μmの場合の深さは7.55μmでアスペクト比は3.1であり、マスク開口幅が2.8μmの場合の深さは7.85μmでアスペクト比は2.1であり、マスク開口幅が5.6μmの場合の深さは7.65μmでアスペクト比は1.2である。第4実験例の目標値が深さ33μmのトレンチについて、マスク開口幅が1.4μmの場合の深さは24.3μmでアスペクト比は7.3であり、マスク開口幅が2.8μmの場合の深さは28.6μmでアスペクト比は7.1であり、マスク開口幅が5.6μmの場合の深さは32.9μmでアスペクト比は4.4である。
実測値のプロットは、おおよそ、サイドエッチング幅を0.7μmと想定した場合の線上に分布している。このことから、サイドエッチング幅は、エッチング深さが深くなっても(例えば5μm以上、また例えば10μm以上となっても)0.7μm程度で一定に維持され、1μm以下に抑制できていることがわかる。また、サイドエッチング幅は、マスク開口幅が変わっても、0.7μm程度で一定に維持されることがわかる。
図18(a)~18(c)と図19(a)~19(c)とを比較するとわかるように、エッチング深さが浅いほど、サイドエッチングに起因したトレンチ側面の傾斜が大きくなる傾向が見られる。つまり、対向する側面同士を平行に近づける観点からは、エッチング深さを深くする方がよいといえる。マスク直下のサイドエッチング幅を上述のように0.7μmとし、トレンチ底部の幅をマスク開口幅と等しいとしておおよその見積もりを行うと、以下のようにいえる。サイドエッチング幅に起因する側面の傾きを5°以下とするためにはエッチング深さを8μm以上とすることが好ましく、側面の傾きを4°以下とするためにはエッチング深さを10μm以上とすることが好ましく、側面の傾きを3°以下とするためにはエッチング深さを13.5μm以上とすることが好ましく、側面の傾きを2°以下とするためにはエッチング深さを20μm以上とすることが好ましい。なお、PECエッチング後に側面を水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)などで処理することで、垂直な側面を形成しても良い。
従来技術では、GaNのドライエッチングによるトレンチの形成が試みられている。しかし、従来技術で得られているトレンチは、アスペクト比が最大で3程度であり、深さが最大で3μm程度である。ドライエッチングでは、マスク材料に対するGaNのエッチング選択比を高くすることが困難であるため、深さが例えば5μm以上の深いトレンチを形成することができない。従来技術では、深いトレンチを形成できないため、アスペクト比が例えば5以上である高アスペクト比のトレンチは得られていない。また、ドライエッチングは、エッチングされたGaNの表面に大きなダメージを生じさせるという問題も有する。
本願発明者は、第4実験例において、本実施形態のPECエッチングを用いることにより、GaN材料100に、深さが5μm以上であるトレンチを形成することに成功した。また、アスペクト比が5以上の高アスペクト比のトレンチを形成することに成功した。具体的には、深さが24.3μmでアスペクト比が7.3のトレンチ(マスク開口幅1.4μm、図19(a)参照)と、深さが28.6μmでアスペクト比が7.1のトレンチ(マスク開口幅2.8μm、図19(b)参照)と、を形成することができた。
PECエッチングでは、サイドエッチングが生じる。エッチング深さに応じてサイドエッチング幅が広がっていけば、アスペクト比を高めることは困難である。本願発明者は、第4実験例において、本実施形態のPECエッチングによれば、エッチング深さが深くなっても(例えば5μm以上、また例えば10μm以上となっても)、サイドエッチング幅をほぼ一定に維持できる、という新たな知見を得た。そして、サイドエッチング幅をほぼ一定に維持できるという知見を利用することで、エッチング深さに比例してアスペクト比を高めることができ、アスペクト比が例えば5以上の高アスペクト比のトレンチを形成することが可能である、という新たな知見を得た(図20参照)。なお、当該知見によれば、アスペクト比が例えば10以上のトレンチを形成することも可能となる。
ただし、上述のように、エッチング深さを深くすることはマスク開口幅が狭くなるにつれて難しくなる、という新たな知見も得られている(図19(a)、19(b)参照)。具体的には、例えば、マスク開口幅が5.6μm(図19(c)参照)から2.8μm(図19(b)参照)の間で、エッチング深さを深くしにくくなっている。両側のサイドエッチング幅(1.4μm)を加算した実際のトレンチの幅は、マスク開口幅5.6μmの場合は7μmで、マスク開口幅2.8μmの場合は4.2μmである。このため、トレンチの幅が、例えば6μm以下、また例えば5μm以下であると、深いトレンチを形成しにくく、アスペクト比を高めることが難しいといえる。本実験例によれば、トレンチの幅が、例えば6μm以下、また例えば5μm以下であっても、アスペクト比が例えば5以上のトレンチを形成することが可能である、ということがわかった。
なお、高アスペクト比の凹部形成について、溝状凹部(トレンチ)を例示して説明したが、凹部の上端の平面形状(開口形状)は適宜変更されてもよく、本実施形態のPECエッチングは、溝状凹部(トレンチ)以外の凹部、例えば円筒状凹部、角柱状凹部等の凹部を、例えば5以上、また例えば10以上の高アスペクト比で形成することに用いてもよい。アスペクト比を規定するための凹部の上端の幅としては、例えば最短部の幅を用いてよい。
アスペクト比の上限は特に制限されないが、エッチング深さの上限は、GaN材料100の厚さである。本実施形態のPECエッチングで形成される凹部は、GaN材料100を貫通する(底面を有しない)構造を含んでもよく、GaN材料100を貫通する凹部のエッチング深さは、GaN材料100の厚さとなる。なお、GaN材料100を貫通させる用途としては、例えば貫通孔の形成用途が挙げられ、また例えばGaN材料100を複数に分割(分離)する用途が挙げられる。なお、貫通孔のアスペクト比は、エッチング深さをGaN材料の厚さとして、底面を有する凹部と同様に定義される。
なお、従来技術では、高さが5μm以上の凸部(例えばリッジ等)も形成されておらず、アスペクト比が5以上の高アスペクト比の凸部(例えばリッジ等)も形成されていない。本実施形態のPECエッチングは、高さが5μm以上の凸部の形成に用いることもでき、アスペクト比が例えば5以上、また例えば10以上の凸部の形成に用いることもできる(図22(b)参照)。リッジ等の凸部のアスペクト比は、凸部の上端の幅Wに対するエッチング深さ(凸部の高さ)Wrの比(=Wr/W)で定義される。凸部の上端の幅Wは、マスク幅Wmaskと、マスク直下における片側のサイドエッチング幅Wside-etchingを2倍した値と、の差(=Wmask-2Wside-etching)で表される。凸部の上端の平面形状は適宜選択されてよい。アスペクト比を規定するための凸部の上端の幅としては、例えば最短部の幅を用いてよい。
トレンチ形成に関する上述の考察より、凸部を形成する場合についても、本実施形態のPECエッチングによるマスク直下のサイドエッチング幅は、エッチング深さまたはマスク幅にほぼ依らずに、0.7μm程度で一定に維持され、1μm以下に抑制される。また、サイドエッチング幅に起因する側面の傾きを抑制するための条件は、トレンチ形成に関し考察した条件と同様である。
なお、本実施形態のPECエッチングは、アスペクト比が例えば5未満の凹部または凸部を形成する場合であっても、好適に用いられてよい。上述のように、本実施形態のPECエッチングは、GaN結晶にほとんどダメージを与えない加工手法であるため、アスペクト比によらず、任意の凹部または凸部の形成に好適である。
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変更、改良、組み合わせ等が可能である。
上述のPECエッチングは、GaN材料を用いた半導体装置の製造方法の一部として、好ましく利用することができる。例えば、第2実施形態のGaN材料100(エピ層20がn型不純物の添加されたGaN層で構成されたエピ基板30)を用いてショットキーバリアダイオードを製造する際の構造形成方法として、利用することができる。
また例えば、エピ層20のn型領域内にトレンチを形成し、トレンチ内にp型のエピ層を再成長させる(充填する)ことで、スーパージャンクション(SJ)構造を製造する際の構造形成方法として、利用することができる(図22(a)参照)。なお、導電型を反転させ、p型のエピ層20に形成されたトレンチ内に、n型のエピ層を再成長(充填)させてもよい。
さらに、第3実施形態のGaN材料100(エピ層20がn型不純物の添加されたGaN層とp型不純物が添加されたGaN層とを有するエピ基板30)を用いてpn接合ダイオードまたはトランジスタを製造する際の構造形成方法として、上述のPECエッチングを利用することができる。例えばメサ構造の形成に利用することができ、また例えばレーザダイオードのリッジ構造の形成に利用することができる。
なお、例えば、ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードを製造する場合のように、npの積層構造のうち表層のp型GaN層のみをPECエッチングで除去するような加工を行ってもよい。
エピ層20の構造は、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、導電型不純物の添加されていないGaN層を有していてもよいし、また例えば、npn等の積層構造であってもよい。なお、積層構造を有するエピ層20の特定の層のみにPECエッチングを行ってもよい。GaN基板としては、第1実施形態で説明した基板10に限らず、転位密度が十分に低い(例えば1×107/cm2未満である)領域を有するGaN基板が好ましく用いられる。基板10の導電性は、適宜選択されてよい。
例えば、トレンチゲート構造のMISFETは、以下のように製造される。エピ層20の積層構造をnpn(またはpnp)とし、PECエッチングによりエピ層20に凹部40を形成し、凹部40の側面23上に、トランジスタの動作部となるnpn接合(またはpnp接合)を形成する。凹部40内に絶縁ゲート電極を形成し(図22(a)参照)、さらに、npnの積層構造の各n層(またはpnpの積層構造の各p層)と電気的に接続するソース電極とドレイン電極とを形成する。本製造方法によれば、半導体装置の動作部となるnpn接合(またはpnp接合)が配置されるMIS界面を、PECエッチングにより、少ないダメージで平坦性高く形成できるので、高い動作性能の半導体装置を簡便に製造することができる。
なお、GaN材料100を用いて半導体装置を作製する場合の電極構造は、基板10の導電特性に応じて異なってよい。例えば、基板10の表(おもて)面上に形成されたn型GaN層と電気的に接続される電極の構造は、以下のようなものである。例えば、n型導電性基板10を用いて発光ダイオード(LED)を製造する場合、当該電極は、基板10の裏面上に形成されてよい。これに対し、例えば、半絶縁性基板10を用いてGaN-高電子移動度トランジスタ(HEMT)を製造する場合、当該電極は、n型GaN層上に、つまり基板10の表面側に、形成されることとなる。
上述のPECエッチングは、ダイオード、トランジスタ等の半導体装置に限らず、より一般的に、GaN材料を用いた構造体の製造方法として、好ましく利用されてよい。上述のような利用態様に加えて、さらに、例えば、GaN材料で形成されたウエハのダイシングに用いられてもよく、また例えば、GaNを用いた微小電気機械システム(MEMS)の部品形成に用いられてもよい。GaN材料の主面全面のエッチングに用いられてもよい。
底面を有する凹部、または、凸部を形成する場合のように、エッチング後のGaN材料の表面に、PECエッチングで形成された側面および底面の両方が露出することもある。また、GaN材料を貫通させる場合(貫通孔形成、GaN材料の分割等)のように、エッチング後のGaN材料の表面に、PECエッチングで形成された側面のみが露出することもある。また、全面エッチングの場合のように、エッチング後のGaN材料の表面に、PECエッチングで形成された底面のみが露出することもある。
貫通孔形成、GaN材料の分割等のように、GaN材料を貫通させるエッチングを行った場合、エッチング後のGaN材料は、PECエッチングで形成された側面が全厚さに亘って露出した領域を有する。当該側面は、PECエッチングの痕跡として、第4、第5実施形態で説明したような性状を有することとなる。また、全面エッチングを行った場合、エッチング後のGaN材料は、PECエッチングで形成された底面が全面に亘って露出した領域を有する。当該底面は、PECエッチングの痕跡として、第4、第5実施形態で説明したような性状を有することとなる。
図21は、貫通孔形成、GaN材料の分割等のように、GaN材料100を貫通させるPECエッチングを行う状況を例示する概略図である。このような場合、貫通に伴って電解液が漏れないように、GaN部材100の底面および側面に、必要に応じてシール部材42が設けられてよい。
なお、上述の実施形態では、大面積であって複数の構造を作り込みやすいc面から、深さ方向にPECエッチングする場合を例示したが、この例示は、他の結晶面から深さ方向にPECエッチングする応用を妨げるものではない。
上述のPECエッチングを利用して製造された構造体は、PECエッチングで形成された構造を有するGaN部材と、他の部材と、が組み合わされて構成されたものであってもよい。なお、PECエッチングで形成された構造を有するGaN部材上に、当該PECエッチングに用いられたマスクが形成されている(残っている)状態(図18(a)等参照)は、最終的な構造体を得るための中間構造体として捉えることができる。なお、上述のPECエッチングで形成された凹部の内側に何等かの部材が充填されることで構造体の外面に当該凹部が露出していなくても、構造体は当該凹部を有する。また、上述のPECエッチングで形成された凸部の外側に何等かの部材が充填されることで構造体の外面に当該凸部が露出していなくても、構造体は当該凸部を有する。図22(a)は、PECエッチングで形成された凹部40の内側に充填部材50が充填された状況を例示する概略図である。図22(b)は、PECエッチングで形成された凸部45の外側に充填部材50が充填された状況を例示する概略図である。
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
(付記1)
窒化ガリウムの単結晶からなる部材を有し、
前記部材は、(光電気化学エッチングにより形成され、)アスペクト比が5以上(好ましくは10以上)である凹部を有する、構造体。
(付記2)
前記凹部は、5μm以上の深さを有する、付記1に記載の構造体。
(付記3)
前記凹部は、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは13.5μm以上、さらに好ましくは20μm以上の深さを有する、付記1または2に記載の構造体。
(付記4)
前記凹部の上端の幅は、好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下である、付記1~3のいずれか1つに記載の構造体。
(付記5)
前記凹部の内側に充填された他の部材を有する、付記1~4のいずれか1つに記載の構造体。
(付記6)
前記部材の第1導電型の領域に前記凹部が形成されており、
前記凹部の内側に充填された、前記第1導電型と異なる第2導電型の他の部材を有する、付記1~5のいずれか1つに記載の構造体。
(付記7)
前記凹部は、貫通孔である、付記1~6のいずれか1つに記載の構造体。
(付記8)
窒化ガリウムの単結晶からなる部材を有し、
前記部材は、(光電気化学エッチングにより形成され、)アスペクト比が5以上(好ましくは10以上)である凸部を有する、構造体。
(付記9)
前記凸部は、5μm以上の高さを有する、付記8に記載の構造体。
(付記10)
前記凸部は、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは13.5μm以上、さらに好ましくは20μm以上の高さを有する、付記8または9に記載の構造体。
(付記11)
前記凸部の外側に充填された他の部材を有する、付記8~10のいずれか1つに記載の構造体。
(付記12)
窒化ガリウムの単結晶からなる部材を有し、
前記部材は、(光電気化学エッチングにより形成された)凹部または凸部を有し、
前記凹部の側面、または、前記凸部の側面は、前記部材を熱燐酸硫酸でエッチングすることで形成される側面と比べて、(周方向における異方性が抑制されているとともに、)滑らかな面である、構造体。
(付記13)
前記凹部の側面、または、前記凸部の側面に、厚さ方向に沿って延びる筋状の凹凸が(周方向に均質に)形成されている、付記12に記載の構造体。
(付記14)
前記凹部の底面、または、前記凸部の外側の底面は、転位に起因し離散的に分布する突起部を有し、当該突起部同士の間の領域は、当該突起部と比べて平坦である、付記12または13に記載の構造体。
(付記15)
窒化ガリウムの単結晶からなる部材を有し、
前記部材は、(光電気化学エッチングにより形成された)凹部または凸部を有し、
前記凹部の、走査型電子顕微鏡のカソードルミネッセンス像において、前記凹部の底面に観察される転位に起因する暗点と比べて、当該底面の当該転位の外側の領域が明るく観察され、当該暗点と比べて、前記凹部の側面が明るく観察され、
前記凸部の、走査型電子顕微鏡のカソードルミネッセンス像において、前記凸部の外側の底面に観察される転位に起因する暗点と比べて、当該底面の当該転位の外側の領域が明るく観察され、当該暗点と比べて、前記凸部の側面が明るく観察される、構造体(付記12~14のいずれか1つに記載の構造体)。
(付記16)
窒化ガリウムの単結晶からなる部材を有し、
前記部材は、(光電気化学エッチングにより形成された)凹部または凸部を有し、
前記凹部の側面、および、前記凹部の底面におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度は、前記凹部の外側の上面におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有し、
前記凸部の側面、および、前記凸部の外側の底面におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度は、前記凸部の上面におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有する、構造体(付記12~15のいずれか1つに記載の構造体)。
(付記17)
窒化ガリウムの単結晶からなる部材を有し、
前記部材は、側面にpn接合部が張り出した形状で露出する(光電気化学エッチングにより形成された)凹部または凸部を有する、構造体(付記12~16のいずれか1つに記載の構造体)。
(付記18)
前記凹部の深さが5μm以上であるか、または、前記凸部の高さが5μm以上である、付記12~17のいずれか1つに記載の構造体。
(付記19)
前記凹部または凸部は、前記部材をc面から深さ方向にエッチングすることで形成されている、付記1~18のいずれか1つに記載の構造体。
(付記20)
窒化ガリウムの単結晶からなり光電気化学エッチングにより他の部材から分割(分離)された部材を有し、
前記部材の側面に、前記光電気化学エッチングによる前記他の部材からの分割の痕跡として、前記部材の全厚さに亘って厚さ方向に沿って延びる筋状の凹凸が形成されている、構造体。
(付記21)
窒化ガリウムの単結晶からなる部材を有し、
前記部材は、光電気化学エッチングにより形成された貫通孔を有し、
前記貫通孔の側面に、前記光電気化学エッチングによる前記貫通孔の形成の痕跡として、前記部材の全厚さに亘って厚さ方向に沿って延びる筋状の凹凸が形成されている、構造体。
(付記22)
前記側面におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度は、前記部材の上面におけるPL発光スペクトルのバンド端ピーク強度に対して、90%以上の強度を有する、付記20または21に記載の構造体。
(付記23)
前記部材を構成する窒化ガリウム材料は、転位密度が1×107/cm2以上の領域を有しない、付記1~22のいずれか1つに記載の構造体。
(付記24)
前記部材を構成する窒化ガリウム材料は、当該窒化ガリウム材料にUV光を照射しながら1Vのエッチング電圧でPECエッチングを行って深さ2μm(または2μm以下)の凹部を形成したとき、当該凹部の底面の、測定長さ100μmにおける算術平均線粗さRaが、好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下となる(程度に、転位密度が低く、面内均一性が高い)窒化ガリウム材料である、付記1~23のいずれか1つに記載の構造体。
(付記25)
窒化ガリウムの単結晶からなる部材と、
前記部材上に形成されたマスクと、
を有し、
前記マスクを用いて前記部材が深さ5μm以上(好ましくは10μm以上)(光電気化学エッチングにより)エッチングされており、
前記マスク直下で前記部材が後退してサイドエッチングが生じており、
前記マスク直下におけるサイドエッチング幅が1μm以下である、中間構造体。
(付記26)
前記マスクは、UV光を遮光する材料、好ましくは金属材料で形成され、厚さが200nm以下である、付記25に記載の中間構造体。